シール部材の製造方法及び成形装置
【課題】シリンダとピストンとの間のシール性を維持しつつポンプの耐久性の向上を図ることができるシール部材の製造方法を提供する。
【解決手段】平面部50aとシール部50bとを有するシール部材の製造方法であって、第1の円筒部111と第1の底面部112とを有する第1の治具110に、第1の円筒部111の内径よりも大きい外径を有する円形の樹脂シート50Sを装着し、第1の円筒部111の内径よりも小さい外径を有する第2の円筒部121と、第2の底面部122とを有する第2の治具120を第1の治具110に装着し、第1の底面部112と第2の底面部122とによりシート部材50Sを所定圧力で挟圧し所定温度に加熱することで、第1の底面部112と第2の底面部122との間に平面部50aを形成し、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間にシール部50bを形成する。
【解決手段】平面部50aとシール部50bとを有するシール部材の製造方法であって、第1の円筒部111と第1の底面部112とを有する第1の治具110に、第1の円筒部111の内径よりも大きい外径を有する円形の樹脂シート50Sを装着し、第1の円筒部111の内径よりも小さい外径を有する第2の円筒部121と、第2の底面部122とを有する第2の治具120を第1の治具110に装着し、第1の底面部112と第2の底面部122とによりシート部材50Sを所定圧力で挟圧し所定温度に加熱することで、第1の底面部112と第2の底面部122との間に平面部50aを形成し、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間にシール部50bを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ内でのピストンの往復運動により気体を輸送するピストン真空ポンプ(往復動ポンプ)に用いられるシール部材に関し、更に詳しくは、シリンダ内を摺動するピストンに装着されるシール部材の製造方法及びこれに適した成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストン真空ポンプは、シリンダと、シリンダの内部を移動可能なピストンとを有し、シリンダ内におけるピストンの往復動により吸気と排気とを交互に行う容積移送式のドライ真空ポンプである。
【0003】
この種の真空ポンプは、シリンダの内面とピストンの周面との間のシール性が求められている。例えば下記特許文献1には、シリンダとピストンとによって形成される吸排気室に対して遠ざかる方向に延びる補助シール部を有するカップパッキンを備えた真空ポンプが記載されている。上記補助シール部は、カップパッキンの縁部にフランジ状に一体形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−328937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ピストン真空ポンプには、シリンダとピストンとの間のシール性の向上と、真空ポンプの耐久性の向上とが求められている。しかしながら、シリンダ内面を摺動するピストンのシール部は、ポンプの運転時間に応じて経時的に磨耗し、磨耗量が多くなるほどシール性が低下する傾向がある。その結果、排気性能が低下し、ポンプの寿命が短くなる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、シリンダとピストンとの間のシール性を維持しつつポンプの耐久性の向上を図ることができるシール部材の製造方法及び成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るシール部材の製造方法は、シリンダ内を往復動するピストンに取り付けられ、円形の平面部と、上記平面部の周縁に形成された環状のシール部とを有するシール部材の製造方法であって、第1の内径を有する第1の円筒部と、上記第1の円筒部の一端に形成された第1の底面部とを有する第1の治具に、上記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートを装着することを含む。
上記第1の内径よりも小さい第2の外径を有する第2の円筒部と、上記第2の円筒部の一端に形成された第2の底面部とを有する第2の治具は、上記第1の治具に装着される。
上記第1の底面部と上記第2の底面部とにより上記シート部材を所定圧力で挟圧し、上記第1の治具と上記第2の治具とを所定温度に加熱することで、上記第1の底面部と上記第2の底面部との間に上記平面部が形成され、上記第1の円筒部と上記第2の円筒部との間に上記シール部が形成される。
【0008】
本発明の一形態に係る成形装置は、金属製の第1の治具と、金属製の第2の治具と、締め付け機構とを具備する。
上記第1の治具は、第1の端部を有し第1の内径で形成された第1の円筒部と、上記第1の端部に形成された第1の底面部とを含み、前記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートが装着される。
上記第2の治具は、第2の端部を有し上記第1の内径よりも小さい第2の外径で形成された第2の円筒部と、上記第2の端部に形成された第2の底面部とを含む。上記第2の治具は、上記第1の底面部と上記第2の底面部とで上記樹脂シートを挟持し、上記第1の円筒部と上記第2の円筒部とで上記樹脂シートの周縁を挟持する。
上記締め付け機構は、上記第1の底面部と上記第2の底面部とが近接する方向に上記第1の治具と上記第2の治具とを締め付ける。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るシール部材が装着されたピストンを備えた真空ポンプの構成を示す概略断面図である。
【図2】上記ピストン及びその周辺構造を示す拡大図である。
【図3】上記ピストンの動作を説明する模式図である。
【図4】上記シール部材を成形する成形装置の分解斜視図である。
【図5】上記成形装置の概略断面図である。
【図6】上記成形装置からシール部材を取り出す工程を説明する概略断面図である。
【図7】成形条件を異ならせて作製した複数のシール部材を用いて真空ポンプを構成したときの各シール部材の磨耗量を示す一実験結果である。
【図8】成形条件を異ならせて作製した複数のシール部材を用いて真空ポンプを構成したときの当該真空ポンプの消費電力を示す一実験結果である。
【図9】上記シール部材の成形温度と磨耗量との関係を示す一実験結果である。
【図10】上記シール部材の成形温度と真空ポンプの消費電力との関係を示す一実験結果である。
【図11】上記シール部材の成形温度と真空ポンプの温度上昇量との関係を示す一実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係るシール部材の製造方法は、シリンダ内を往復動するピストンに取り付けられ、円形の平面部と、上記平面部の周縁に形成された環状のシール部とを有するシール部材の製造方法であって、第1の内径を有する第1の円筒部と、上記第1の円筒部の一端に形成された第1の底面部とを有する第1の治具に、上記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートを装着することを含む。
上記第1の内径よりも小さい第2の外径を有する第2の円筒部と、上記第2の円筒部の一端に形成された第2の底面部とを有する第2の治具は、上記第1の治具に装着される。
上記第1の底面部と上記第2の底面部とにより上記シート部材を所定圧力で挟圧し、上記第1の治具と上記第2の治具とを所定温度に加熱することで、上記第1の底面部と上記第2の底面部との間に上記平面部が形成され、上記第1の円筒部と上記第2の円筒部との間に上記シール部が形成される。
【0011】
上記樹脂シートは、第1の治具と第2の治具とにより所定圧力で挟圧され、さらに所定温度に加熱されることで、平面部と、その周縁に形成された環状のシール部とを有するシール部材が形成される。上記製造方法によれば、シール部材を加熱しながら成形するようにしているため、シール部の径外方へ向かう弾性力を調整することができる。すなわちシール部材を加熱成形することで、非加熱で成形する場合と比較して、シール部の径外方へ向かう弾性力を低下させることができる。
【0012】
したがって当該シール部材をドライ真空ポンプのピストンに装着して使用する際、シリンダの内面に対してシール部材のシール部を適度な弾性力で圧接させることができるようになり、シール部の不必要な磨耗が抑制される。これにより、シリンダとピストンとの間のシール性を維持しつつポンプの耐久性の向上を図ることができる。またシール部の良好なシール性を維持できるため、ポンプの消費電力の低減を図ることができる。
【0013】
上記所定温度は特に限定されず、シール部材の大きさ、要求されるシール特性および耐久性に応じて適宜設定される。加熱温度が低温であるほどシール部の径外方に向かう弾性力は大きくなる傾向にあり、加熱温度が高温であるほど上記弾性力は低下する傾向にある。一実施形態において上記所定温度は、例えば160℃以上250℃以下である。
【0014】
上記樹脂シートの構成材料も特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレンシートで構成される。
【0015】
本発明の一実施形態に係る成形装置は、円形の樹脂シートを成形する成形装置であって、金属製の第1の治具と、金属製の第2の治具と、締め付け機構とを具備する。
上記第1の治具は、第1の端部を有し第1の内径で形成された第1の円筒部と、上記第1の端部に形成された第1の底面部とを含み、前記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートが装着される。
上記第2の治具は、第2の端部を有し上記第1の内径よりも小さい第2の外径で形成された第2の円筒部と、上記第2の端部に形成された第2の底面部とを含む。上記第2の治具は、上記第1の底面部と上記第2の底面部とで上記樹脂シートを挟持し、上記第1の円筒部と上記第2の円筒部とで上記樹脂シートの周縁を挟持する。
上記締め付け機構は、上記第1の底面部と上記第2の底面部とが近接する方向に上記第1の治具と上記第2の治具とを締め付ける。
【0016】
上記樹脂シートは、上記第1の内径よりも大きい外径を有する。第1の治具及び第2の治具は、上記樹脂シートを所定圧力で挟圧する。また第1の治具及び第2の治具はいずれも金属製であるため、外部から供給される熱を樹脂シートへ効率よく伝達する。したがって上記成形装置によれば、樹脂シートを所定の形状にプレスした状態で樹脂シートの加熱処理が可能となるため、径外方へ向かう弾性力が適度に調整されたシール部を有するシール部材を成形することができる。
【0017】
上記成形装置は、上記第1の治具と上記第2の治具とを加熱する加熱機構をさらに具備してもよい。上記加熱機構は、第1の治具及び第2の治具の少なくとも一方に備えられてもよいし、これら治具とは別に構成されてもよい。
【0018】
上記第1の治具は、上記第1の円筒部の中心に設けられ上記樹脂シートの中心孔に嵌合可能な第1の嵌合部をさらに有してもよい。一方、上記第2の治具は、上記第2の円筒部の中心に設けられ上記第1の嵌合部に嵌合可能な第2の嵌合部をさらに有してもよい。
これにより、樹脂シートの周縁部にシール部を均一に形成することができる。また第1の治具に対して、樹脂シート及び第2の治具を精度よく位置決めすることができる。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るシール部材が適用される真空ポンプの一例を示す断面図である。本実施形態では、真空ポンプとして揺動ピストン型ドライ真空ポンプを例に挙げて説明する。
【0021】
[真空ポンプの概略構成]
同図に示すように真空ポンプ1は、モータ2、シャフト3、コネクティングロッド4、ピストン5、シリンダ6、吸気室7及び排気室8を有する。コネクティングロッド4、ピストン5、シリンダ6、吸気室7及び排気室8は「気筒」を構成しており、当該真空ポンプ1は2基の気筒を有する。図2は、気筒を拡大して示す図である。なお、気筒の数はそれぞれ2基に限られず、1基あるいは3基以上であってもよい。
【0022】
真空ポンプ1では、モータ2に接続されたシャフト3に、コネクティングロッド4が接続され、コネクティングロッド4にピストン5が接続されている。ピストン5は、シリンダ6に収容されている。シリンダ6には、吸気室7及び排気室8が隣接して設けられている。上記構成のうちシャフト3、コネクティングロッド4、ピストン5、シリンダ6は筐体9に収容されている。
【0023】
モータ2は、回転動力を発生させ、シャフト3を軸回りに回転させる。モータ2は、一般的なモータ、例えばDCブラシレスモータで構成される。
【0024】
シャフト3は、モータ2から筐体9の内部に直線状に延伸され、筐体9にベアリング10を介して回転可能に支持されている。
【0025】
コネクティングロッド4は、一端が偏芯軸12とベアリング11とによってシャフト3に接続され、他端はピストン5に接続されている。コネクティングロッド4と偏心軸12はシャフト3の回転運動を往復(揺動)運動に変換する。
【0026】
ピストン5はコネクティングロッド4によってシリンダ6内を往復運動し、吸気及び排気を行う。真空ポンプ1は、ピストン5とシリンダ6との間をシールするシール部材50を備える。シール部材50は、ピストン5に装着される。ピストン5は、ピストン本体51と、固定具52とを有する。
【0027】
ピストン本体51は、コネクティングロッド4の先端部に一体的に形成される。固定具52は、ピストン本体51に取り付けられ、シール部材50を固定する。シール部材50は、ピストン本体51と固定具52との間に挟持される。シール部材50は円形の樹脂シートであり、本実施形態ではポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂で構成される。
【0028】
シール部材50は、ピストン本体51と固定具52との間で挟持される平面部50aと、平面部50aの周縁に形成されたシール部50bとを有するカップパッキンを構成する。シール部50bは、平面部50aの周面部からコネクティングロッド4側へ延びており、シリンダ6の内面とピストン5の周面との間に介在する。そしてシール部50bは、シリンダ6内におけるピストン5の往復動に際して、ピストン5とシリンダ6との間をシールする機能を果たす。
【0029】
シリンダ6はピストン5の外径に近い内径を有する筒状の室であり、ピストン5の嵌挿が可能に構成されている。シリンダ6には、吸気バルブ13及び排気バルブ14が設けられ、これらのバルブはピストン5の往復運動に応じて開閉する。
【0030】
吸気室7は、吸気バルブ13を介してシリンダ6と連通し、吸気室7には吸気管15が接続されている。吸気管15はチャンバ等の排気対象物に接続されている。
【0031】
排気室8は、排気バルブ14を介してシリンダ6と連通し、排気室8には排気管16が接続されている。排気管16は大気又は排気設備等に接続されている。
【0032】
なお、図2は、シャフト3に平行な方向から気筒をみた図であるが、吸気室7及び排気室8の向きは説明の便宜上、図1とは異なって示されている。
【0033】
[真空ポンプの動作]
次に、真空ポンプ1の動作について説明する。なお、ここでは、真空ポンプ1の一基の気筒について説明するが、他の気筒についても動作は同様である。図3はピストン5の揺動運動を示す模式図である。図3(a)、図3(b)、図3(c)、図3(d)の順にピストン5が駆動され、再び図3(a)に示す状態に戻る。
【0034】
図3(a)においてピストン5は上死点にある。この状態では、ピストン5がシリンダ6の底部に近接している。シャフト3が回転すると、図3(b)に示すように偏芯軸12とベアリング11とを介してコネクティングロッド4が傾きながら下降し、ピストン5がシリンダ6から離れる。この際、シリンダ6とピストン5の間の容積が拡大するため、吸気室7及び連通する吸気管15から吸気バルブ13を介して排気対象気体がシリンダ6内に流入する。
【0035】
シャフト3がさらに回転すると、図3(c)に示すようにピストン5が下死点に到達する。このとき、シリンダ6内には排気対象気体が存在している。さらにシャフト3が回転すると、図3(d)に示すように、偏芯軸12とベアリング11とを介してコネクティングロッド4が傾きながら上昇する。この際、シリンダ6とピストン5の間の容積が減少するため、シリンダ内の排気対象気体が排気バルブ14を解して排気室8及び連通する排気管16から排出される。このように、シャフト3の回転によってピストン5の傾きを伴う上昇と下降(揺動運動)が繰り返され、図示しないチャンバ内の気体が排気される。
【0036】
ここで、図3に示すように、ピストン5の揺動運動において、シール部材50のシール部50bは常にシリンダ6の内壁に当接し、シリンダ6とピストン5の間をシールしている。このため、長期的使用においてはシール部50bの磨耗が問題となる。
【0037】
一般にシール部の弾性力が大きいほど高いシール性が得られるが、シール部の弾性力が過度に大きいと、シリンダに対して相対移動するシール部の磨耗量が不必要に増加するため、シール部の耐久性が低下する。またシール性が低下することで到達真空度が低下し、さらにポンプの消費電力が上昇する。したがってシール性の低下は、シール部材の交換を余儀なくし、結果的にポンプの耐久性を低下させる。
【0038】
本実施形態は、シール部の弾性力を目的とするシール性が得られる適度な大きさに調整することで、シール性を維持しつつ、ポンプの耐久性を向上させる。以下、シール部材50の製造方法について説明する。
【0039】
[シール部材の成形装置]
図4は、シール部材50の製造に用いられる成形装置の構成を示す分解斜視図である。図5は、当該成形装置の組立て状態における断面図である。まず、成形装置100について説明する。
【0040】
成形装置100は、第1の治具110と、第2の治具120と、締め付け具130とを有する。成形装置100は、第1の治具110と第2の治具120との間に樹脂シート50Sを収容し、締め付け具130によって両治具110,120を相互に締め付け、樹脂シート50Sを加熱することで、樹脂シート50Sを成形する。
【0041】
第1の治具110は、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の金属製の円筒部材で構成されている。第1の治具110は、第1の円筒部111と、第1の円筒部111の下端に形成された第1の底面部112とを有する。
【0042】
第1の円筒部111は、樹脂シート50Sの外径(第1の外径)よりも小さい内径(第1の内径)で形成され、その内径の大きさは、シール部材50の平面部50aの大きさ(直径)に設定される。したがって樹脂シート50Sが第1の治具110に装着されるとき、樹脂シート50Sの周縁部は図5に示すようにほぼ90度折り曲げられた状態で第1の円筒部111の内部に収容されることになる。
【0043】
第1の治具110は、第1の嵌合部113をさらに有する。第1の嵌合部113は第1の底面部112の中心に形成され、第1の円筒部111と同心的な円柱形状を有する。第1の嵌合部113は、樹脂シート50Sの中心に形成された中心孔50cと嵌合することが可能であり、その外径は中心孔50cの内径とほぼ同じ大きさに設定されている。これにより第1の治具110に対して樹脂シート50Sを精度よく組み付けることができる。
【0044】
第2の治具120は、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の金属製の円筒部材で構成されている。第2の治具120は、第2の円筒部121と、第2の円筒部121の下端に形成された第2の底面部122と、第2の底面部122の中心に形成された第2の嵌合部123とを有する。図5に示すように第2の治具120は、第2の底面部122が第1の底面部112に対向するようにして第1の治具110に組み付けられる。
【0045】
第2の円筒部121は、第1の円筒部111の内径よりも小さい外径(第2の外径)で形成され、その外径の大きさは、シール部材50のシール部50bの内径以下の大きさに設定されている。したがって樹脂シート50Sが装着された第1の治具110に第2の治具120が装着されるとき、樹脂シート50Sの周縁部は図5に示すように第1の円筒部111と第2の円筒部121との間に収容されることになる。
【0046】
第2の嵌合部123は、第2の底面部122の中心部に設けられ、第1の嵌合部113と嵌合可能な凹所で構成されている。すなわち第2の嵌合部123は、第1の治具110と第2の治具120との組み付け時、第1の嵌合部113と相互に嵌合する。これにより、第1の治具110に対して第2の治具120を精度よく組み付けることができる。また、第1の治具110に対して第2の治具120を精度よく位置決めされるため、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間に一定の大きさの環状空間を形成することができる。
【0047】
締め付け具130は、ボルトやネジ等の部品で構成されており、第1の治具110及び第2の治具120の中心部にそれぞれ取り付けられる。ここで、第1の治具110には第1の嵌合部113の中心部に締め付け具130の軸部131と螺合する取付孔114が形成され、第2の治具120には第2の嵌合部123の中心部に軸部131が挿通される挿通孔124が形成されている。これにより第1及び第2の治具110,120は、締め付け具130により相互に固定されるとともに、第1の底面部112と第2の底面部122とが相互に近接する方向に締め付けられる。締め付け具130、取付孔114及び挿通孔124は、第1及び第2の治具110,120を相互に締め付ける締め付け機構を構成する。
【0048】
第1及び第2の底面部112,122は、相互に平行に形成されており、締め付け具130による第1及び第2の治具110,120の締め付け時に樹脂シート50Sを挟持する。第1及び第2の底面部112,122による樹脂シート50Sの挟圧力は、締め付け具130による締め付けトルクで調整される。
【0049】
[シール部材の成形方法]
続いて、上述のようにして構成される成形装置100を用いたシール部材50の製造方法を説明する。
【0050】
まず、シール部材50の原型となる樹脂シート50Sを準備する。樹脂シート50Sは、典型的には、図4に示すように円環状に打ち抜き形成される。樹脂シート50Sの大きさ(外径)は、適用されるピストンの大きさに応じて適宜設定され、例えば直径93mmである。樹脂シート50Sの厚みも特に限定されず、例えば1.0mmである。中心孔50cの孔径も特に限定されず、ピストン5の構成によって定められる。
【0051】
続いて図4及び図5に示すように、第1の治具110及び第2の治具120によって樹脂シート50Sを挟み込み、樹脂シート50Sを所定温度に挟圧しつつ加熱することで、シール部材50を作製する。
【0052】
手順としては先ず、樹脂シート50Sが第1の治具110に装着される。このとき樹脂シート50Sの中心孔50cと第1の嵌合部113との嵌合作用により、第1の治具110に対する樹脂シート50Sの位置決め精度が確保される。したがって、第1の嵌合部113の外径と樹脂シート50Sの中心孔50cの孔径との差が小さいほど、高い位置決め精度が得られる。
【0053】
また、第1の円筒部111の内径は樹脂シート50Sの外径よりも小さいため、樹脂シート50Sの周縁部は、第1の円筒部111の内面に当接する。
【0054】
樹脂シート50Sが第1の治具110に装着された後、第2の治具120が第1の治具110に組み付けられる。このとき第1の嵌合部113と第2の嵌合部123との嵌合作用により、第1の治具110に対する第2の治具120の位置決め精度が確保される。この場合も、第1の嵌合部113の外径と第2の嵌合部123の内径との差が小さいほど、高い位置決め精度が得られる。
【0055】
第1の治具110に第2の治具120が組み付けられた後、両治具110,120は締め付け具130によって締め付けられる。このとき図5に示すように、樹脂シート50Sの周縁部以外の領域は第1の底面部112と第2の底面部122との間に挟持されることで、所定の平面度が確保される。
【0056】
一方、樹脂シート50Sの周縁部は、図5に示すように、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間の環状の隙間に入り込むとともに、第2の底面部122の押圧作用により第1の底面部112に対して垂直な方向に折り返される。
【0057】
ここで、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間の隙間の幅は、樹脂シート50Sの周縁部の厚みよりも大きな値に設定される。これにより、樹脂シート50Sの周縁部をその全域にわたって円滑かつ均等に折り返すことができる。また、上記隙間の幅が大きくなるほど、作製されたシール部材50のシール部50bの径外方に向かう弾性力が高くなる傾向にある。
【0058】
第1の治具110に対する第2の治具120の締め付け力は、少なくとも樹脂シート50Sが第1の底面部112に密着する程度の圧力が必要とされる。これにより樹脂シート50Sの周縁部を適正に垂直方向へ折り返すことができる。この場合、樹脂シート50Sは第1の底面部112と第2の底面部122との間に所定の圧縮力を発生させてもよい。これにより樹脂シート50Sの周縁部を円滑に垂直方向へ折り返すことができる。上記所定の圧縮力は特に限定されず、例えば1MPaであり、締め付け具130の締め付けトルクに換算すると、本実施形態では13N・mである。
【0059】
締め付け具130によって相互に締め付けられた成形装置100は、所定温度に加熱される。これにより樹脂シート50Sは、平面部50aとシール部50bとを有するシール部材50に成形される(図5)。
【0060】
成形装置100は、例えば所定温度に設定されたオーブンの内部で加熱される。これ以外にも、第1の治具110及び第2の治具120の少なくとも一方に、ヒータ等の加熱源が内蔵されてもよい。第1及び第2の治具110,120はそれぞれ金属製であるため、樹脂シート50Sへ効率よく熱を伝達することができる。
【0061】
上記所定温度は特に限定されず、樹脂シート50Sの材料、大きさ、厚み、例えば160℃以上250℃以下である。上記所定温度の保持時間も特に限定されず、例えば40分である。
【0062】
シール部材50の平面部50aは、締め付け具130による圧縮作用と上記加熱作用とを受けることで、第1の底面部112と第2の底面部122との間に形成される。一方、シール部50bは、上記圧縮作用及び加熱作用を受けることで、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間に形成される。特に加熱処理によりシール部材50の内部応力が緩和され、平面部50aに対して屈曲したシール部50bを安定に形成することができる。
【0063】
樹脂シート50Sの加熱処理を所定時間保持した後、成形装置100は冷却される。冷却方法は特に限定されず、自然冷却でもよいし、強制冷却でもよい。冷却後、成形装置100は第1の治具110と第2の治具120とに分離され、第1の治具110からシール部材50(樹脂シート50S)が取り出される。
【0064】
図6は、第1の治具110からのシール部材50の取り出し方法を説明する断面図である。本実施形態では、図6に示すような取り出し治具200が用いられる。取り出し治具200は、本体201と、本体201の一方の面に設けられた複数本のピン202とを有する。第1の底面部112には、各ピン202が挿通される複数の孔があらかじめ形成されており、これらの各孔に各ピン202がそれぞれ挿通されることで第1の治具110に本体201が取り付けられる。第1の底面部112上のシール部材50は、ピン202により図6において上方に押し出され、第1の治具110から取り出される。
【0065】
以上のようにして、平面部50aの周縁部にシール部50bが環状に形成されたシール部材50が作製される。本実施形態によれば、シール部材50を加熱しながら成形するようにしているため、シール部50bに径外方へ向かう弾性力を調整することが可能となる。
【0066】
すなわちシール部材50を加熱成形することで、非加熱で成形する場合と比較して、シール部の径外方へ向かう弾性力を低下させることができる。したがってシール部材50を真空ポンプ1のピストン5に装着して使用する際、シリンダ6の内面に対してシール部材50のシール部50bを適度な弾性力で圧接させることができるようになり、シール部50bの不必要な磨耗が抑制される。これにより、シリンダ6とピストン5との間のシール性を維持しつつポンプの耐久性の向上を図ることができる。
【0067】
成形温度は特に限定されず、シール部材50の材質、大きさ、厚さ等の材料的・形状的要素のほか、要求されるシール特性、耐久性等の製品のスペック的要素に応じて適宜設定される。成形温度が低温であるほどシール部50bの径外方に向かう弾性力は大きくなる傾向にあり、成形温度が高温であるほど上記弾性力は低下する傾向にある。
【0068】
本発明者は、第1の円筒部111の内径、第2の円筒部121の外径、成形温度を異ならせて複数のシール部材50のサンプルを作製し、それらを実際にピストン5に装着してポンプを駆動させ、サンプルごとにポンプの消費電力を測定した。またポンプを1時間駆動させた後、サンプルごとにシール部50bの磨耗量を測定した。
【0069】
シール部材50の原型となる樹脂シート50Sには、直径93mm、厚み1.0mmのポリテトラフルオロエチレンシートを用いた。成形温度での保持時間は40分とし、その後20分以上かけて冷却した。真空ポンプには、アルバック機工社製揺動ピストン型ドライ真空ポンプを使用した。
【0070】
各サンプルの作製に用いた第1の円筒部111の内径、第2の円筒部121の外径、成形温度の条件を表1に示す。また、各サンプルの磨耗量及びポンプの消費電力の測定値を図7及び図8にそれぞれ示す。
【0071】
【表1】
【0072】
サンプル5に関しては、シール部50bの磨耗量が各サンプルの中で最大であり、到達圧力も高かった。その理由は、成形温度が130℃と比較的低かったため、シール部50bの弾性復帰力が高く維持され、シリンダ6に対する弾性力が各サンプル中最も高かったためであると考えられる。
【0073】
サンプル1〜4,6,7に関しては、磨耗量にバラツキがあるものの、到達真空度、消費電力等の主だったポンプ性能は、ほぼ同等であった。これらサンプルの評価結果から、成形温度が高いサンプルほどシール部50bの磨耗量は少ないことが確認された。またシール部の良好なシール性を維持することができるため、ポンプの消費電力の低減を図ることができる。
【0074】
ここで、例えばサンプル1,3,6及び7のように、第1の円筒部111の内径と第2の円筒部121の外径とがサンプル間で異なる場合でも、同様のポンプ特性が得られることが確認された。このことからシール部材のシール性は成形温度に強い依存性をもち、成形用治具の径には強く依存しないと考えられる。
【0075】
次に、サンプル7の作製に用いた各治具を用いて、160℃〜250℃の成形温度範囲で複数のシール部材50を作製した。そしてサンプルごとに到達圧力、大気開放時(無負荷時)の吐出流量、消費電力、ポンプ筐体の温度上昇量、シール部の磨耗量を含むポンプ特性を評価した。その結果を表2に示す。また、成形温度とシール部の磨耗量、ポンプの消費電力及び温度上昇量との関係を図9、図10及び図11にそれぞれ示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2、図9〜図11に示すように、成形温度が高くなるほどシール部の磨耗量、ポンプの消費電力及び温度上昇量はいずれも低下する傾向が認められる。これは、成形温度が高いほどシール部材50の内部応力を緩和し、平面部50aに対して屈曲したシール部50bを安定に形成することができるためと考えられる。すなわち成形温度が高いほど、シール部50bの形状維持性が高まり、ピストン装着後のシール部の外径が減少する。これによりシール部の弾性力が低下し、シール部に作用する摺動摩擦力が低下することで、磨耗を抑制することが可能となる。シール性に関しても、成形温度の高温化に伴い消費電力が低下していることから、シリンダ6とピストン5との間の安定したシール性が確保されているものと認められる。
【0078】
以上のように、シール部材の成形温度を160℃以上250℃以下とすることで、安定したシール性を維持しつつシール部の磨耗を抑制できるとともに、ポンプの消費電力の低減を図ることが可能となる。
また成形温度の上限を250℃としたが、シール部材を構成する材料の熱的安定性や、目的とするシール性等に応じて適宜設定することが可能である。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変更が可能である。
【0080】
例えば以上の実施形態では、揺動ピストン型ドライ真空ポンプ用のピストンに適用されるシール部材の製造方法及びその成形装置を例に挙げて説明したが、これに限らず、他の容積移送型の真空ポンプに適用されるシール部材の製造にも本発明は適用可能である。
【0081】
また以上の実施形態では、第1及び第2の治具110,120の嵌合部113,123をいずれも円筒あるいは円柱形状に形成されたが、これに代えて、相互に嵌合関係を有する他の幾何学的形状、例えば多角柱形状に形成されてもよい。また、これら嵌合部は必要に応じて省略されてもよい。
【0082】
さらに第1及び第2の治具110,120を締め付ける締め付け機構として締め付け具130が用いられたが、これに代えて、クランプ等の他の部材が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1…真空ポンプ
5…ピストン
50…シール部材
50a…平面部
50b…シール部
50S…樹脂シート
100…成形装置
110…第1の治具
111…第1の円筒部
112…第1の底面部
113…第1の嵌合部
120…第2の治具
121…第2の円筒部
122…第2の底面部
123…第2の嵌合部
130…締め付け具
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ内でのピストンの往復運動により気体を輸送するピストン真空ポンプ(往復動ポンプ)に用いられるシール部材に関し、更に詳しくは、シリンダ内を摺動するピストンに装着されるシール部材の製造方法及びこれに適した成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストン真空ポンプは、シリンダと、シリンダの内部を移動可能なピストンとを有し、シリンダ内におけるピストンの往復動により吸気と排気とを交互に行う容積移送式のドライ真空ポンプである。
【0003】
この種の真空ポンプは、シリンダの内面とピストンの周面との間のシール性が求められている。例えば下記特許文献1には、シリンダとピストンとによって形成される吸排気室に対して遠ざかる方向に延びる補助シール部を有するカップパッキンを備えた真空ポンプが記載されている。上記補助シール部は、カップパッキンの縁部にフランジ状に一体形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−328937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ピストン真空ポンプには、シリンダとピストンとの間のシール性の向上と、真空ポンプの耐久性の向上とが求められている。しかしながら、シリンダ内面を摺動するピストンのシール部は、ポンプの運転時間に応じて経時的に磨耗し、磨耗量が多くなるほどシール性が低下する傾向がある。その結果、排気性能が低下し、ポンプの寿命が短くなる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、シリンダとピストンとの間のシール性を維持しつつポンプの耐久性の向上を図ることができるシール部材の製造方法及び成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るシール部材の製造方法は、シリンダ内を往復動するピストンに取り付けられ、円形の平面部と、上記平面部の周縁に形成された環状のシール部とを有するシール部材の製造方法であって、第1の内径を有する第1の円筒部と、上記第1の円筒部の一端に形成された第1の底面部とを有する第1の治具に、上記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートを装着することを含む。
上記第1の内径よりも小さい第2の外径を有する第2の円筒部と、上記第2の円筒部の一端に形成された第2の底面部とを有する第2の治具は、上記第1の治具に装着される。
上記第1の底面部と上記第2の底面部とにより上記シート部材を所定圧力で挟圧し、上記第1の治具と上記第2の治具とを所定温度に加熱することで、上記第1の底面部と上記第2の底面部との間に上記平面部が形成され、上記第1の円筒部と上記第2の円筒部との間に上記シール部が形成される。
【0008】
本発明の一形態に係る成形装置は、金属製の第1の治具と、金属製の第2の治具と、締め付け機構とを具備する。
上記第1の治具は、第1の端部を有し第1の内径で形成された第1の円筒部と、上記第1の端部に形成された第1の底面部とを含み、前記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートが装着される。
上記第2の治具は、第2の端部を有し上記第1の内径よりも小さい第2の外径で形成された第2の円筒部と、上記第2の端部に形成された第2の底面部とを含む。上記第2の治具は、上記第1の底面部と上記第2の底面部とで上記樹脂シートを挟持し、上記第1の円筒部と上記第2の円筒部とで上記樹脂シートの周縁を挟持する。
上記締め付け機構は、上記第1の底面部と上記第2の底面部とが近接する方向に上記第1の治具と上記第2の治具とを締め付ける。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るシール部材が装着されたピストンを備えた真空ポンプの構成を示す概略断面図である。
【図2】上記ピストン及びその周辺構造を示す拡大図である。
【図3】上記ピストンの動作を説明する模式図である。
【図4】上記シール部材を成形する成形装置の分解斜視図である。
【図5】上記成形装置の概略断面図である。
【図6】上記成形装置からシール部材を取り出す工程を説明する概略断面図である。
【図7】成形条件を異ならせて作製した複数のシール部材を用いて真空ポンプを構成したときの各シール部材の磨耗量を示す一実験結果である。
【図8】成形条件を異ならせて作製した複数のシール部材を用いて真空ポンプを構成したときの当該真空ポンプの消費電力を示す一実験結果である。
【図9】上記シール部材の成形温度と磨耗量との関係を示す一実験結果である。
【図10】上記シール部材の成形温度と真空ポンプの消費電力との関係を示す一実験結果である。
【図11】上記シール部材の成形温度と真空ポンプの温度上昇量との関係を示す一実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係るシール部材の製造方法は、シリンダ内を往復動するピストンに取り付けられ、円形の平面部と、上記平面部の周縁に形成された環状のシール部とを有するシール部材の製造方法であって、第1の内径を有する第1の円筒部と、上記第1の円筒部の一端に形成された第1の底面部とを有する第1の治具に、上記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートを装着することを含む。
上記第1の内径よりも小さい第2の外径を有する第2の円筒部と、上記第2の円筒部の一端に形成された第2の底面部とを有する第2の治具は、上記第1の治具に装着される。
上記第1の底面部と上記第2の底面部とにより上記シート部材を所定圧力で挟圧し、上記第1の治具と上記第2の治具とを所定温度に加熱することで、上記第1の底面部と上記第2の底面部との間に上記平面部が形成され、上記第1の円筒部と上記第2の円筒部との間に上記シール部が形成される。
【0011】
上記樹脂シートは、第1の治具と第2の治具とにより所定圧力で挟圧され、さらに所定温度に加熱されることで、平面部と、その周縁に形成された環状のシール部とを有するシール部材が形成される。上記製造方法によれば、シール部材を加熱しながら成形するようにしているため、シール部の径外方へ向かう弾性力を調整することができる。すなわちシール部材を加熱成形することで、非加熱で成形する場合と比較して、シール部の径外方へ向かう弾性力を低下させることができる。
【0012】
したがって当該シール部材をドライ真空ポンプのピストンに装着して使用する際、シリンダの内面に対してシール部材のシール部を適度な弾性力で圧接させることができるようになり、シール部の不必要な磨耗が抑制される。これにより、シリンダとピストンとの間のシール性を維持しつつポンプの耐久性の向上を図ることができる。またシール部の良好なシール性を維持できるため、ポンプの消費電力の低減を図ることができる。
【0013】
上記所定温度は特に限定されず、シール部材の大きさ、要求されるシール特性および耐久性に応じて適宜設定される。加熱温度が低温であるほどシール部の径外方に向かう弾性力は大きくなる傾向にあり、加熱温度が高温であるほど上記弾性力は低下する傾向にある。一実施形態において上記所定温度は、例えば160℃以上250℃以下である。
【0014】
上記樹脂シートの構成材料も特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレンシートで構成される。
【0015】
本発明の一実施形態に係る成形装置は、円形の樹脂シートを成形する成形装置であって、金属製の第1の治具と、金属製の第2の治具と、締め付け機構とを具備する。
上記第1の治具は、第1の端部を有し第1の内径で形成された第1の円筒部と、上記第1の端部に形成された第1の底面部とを含み、前記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートが装着される。
上記第2の治具は、第2の端部を有し上記第1の内径よりも小さい第2の外径で形成された第2の円筒部と、上記第2の端部に形成された第2の底面部とを含む。上記第2の治具は、上記第1の底面部と上記第2の底面部とで上記樹脂シートを挟持し、上記第1の円筒部と上記第2の円筒部とで上記樹脂シートの周縁を挟持する。
上記締め付け機構は、上記第1の底面部と上記第2の底面部とが近接する方向に上記第1の治具と上記第2の治具とを締め付ける。
【0016】
上記樹脂シートは、上記第1の内径よりも大きい外径を有する。第1の治具及び第2の治具は、上記樹脂シートを所定圧力で挟圧する。また第1の治具及び第2の治具はいずれも金属製であるため、外部から供給される熱を樹脂シートへ効率よく伝達する。したがって上記成形装置によれば、樹脂シートを所定の形状にプレスした状態で樹脂シートの加熱処理が可能となるため、径外方へ向かう弾性力が適度に調整されたシール部を有するシール部材を成形することができる。
【0017】
上記成形装置は、上記第1の治具と上記第2の治具とを加熱する加熱機構をさらに具備してもよい。上記加熱機構は、第1の治具及び第2の治具の少なくとも一方に備えられてもよいし、これら治具とは別に構成されてもよい。
【0018】
上記第1の治具は、上記第1の円筒部の中心に設けられ上記樹脂シートの中心孔に嵌合可能な第1の嵌合部をさらに有してもよい。一方、上記第2の治具は、上記第2の円筒部の中心に設けられ上記第1の嵌合部に嵌合可能な第2の嵌合部をさらに有してもよい。
これにより、樹脂シートの周縁部にシール部を均一に形成することができる。また第1の治具に対して、樹脂シート及び第2の治具を精度よく位置決めすることができる。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るシール部材が適用される真空ポンプの一例を示す断面図である。本実施形態では、真空ポンプとして揺動ピストン型ドライ真空ポンプを例に挙げて説明する。
【0021】
[真空ポンプの概略構成]
同図に示すように真空ポンプ1は、モータ2、シャフト3、コネクティングロッド4、ピストン5、シリンダ6、吸気室7及び排気室8を有する。コネクティングロッド4、ピストン5、シリンダ6、吸気室7及び排気室8は「気筒」を構成しており、当該真空ポンプ1は2基の気筒を有する。図2は、気筒を拡大して示す図である。なお、気筒の数はそれぞれ2基に限られず、1基あるいは3基以上であってもよい。
【0022】
真空ポンプ1では、モータ2に接続されたシャフト3に、コネクティングロッド4が接続され、コネクティングロッド4にピストン5が接続されている。ピストン5は、シリンダ6に収容されている。シリンダ6には、吸気室7及び排気室8が隣接して設けられている。上記構成のうちシャフト3、コネクティングロッド4、ピストン5、シリンダ6は筐体9に収容されている。
【0023】
モータ2は、回転動力を発生させ、シャフト3を軸回りに回転させる。モータ2は、一般的なモータ、例えばDCブラシレスモータで構成される。
【0024】
シャフト3は、モータ2から筐体9の内部に直線状に延伸され、筐体9にベアリング10を介して回転可能に支持されている。
【0025】
コネクティングロッド4は、一端が偏芯軸12とベアリング11とによってシャフト3に接続され、他端はピストン5に接続されている。コネクティングロッド4と偏心軸12はシャフト3の回転運動を往復(揺動)運動に変換する。
【0026】
ピストン5はコネクティングロッド4によってシリンダ6内を往復運動し、吸気及び排気を行う。真空ポンプ1は、ピストン5とシリンダ6との間をシールするシール部材50を備える。シール部材50は、ピストン5に装着される。ピストン5は、ピストン本体51と、固定具52とを有する。
【0027】
ピストン本体51は、コネクティングロッド4の先端部に一体的に形成される。固定具52は、ピストン本体51に取り付けられ、シール部材50を固定する。シール部材50は、ピストン本体51と固定具52との間に挟持される。シール部材50は円形の樹脂シートであり、本実施形態ではポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂で構成される。
【0028】
シール部材50は、ピストン本体51と固定具52との間で挟持される平面部50aと、平面部50aの周縁に形成されたシール部50bとを有するカップパッキンを構成する。シール部50bは、平面部50aの周面部からコネクティングロッド4側へ延びており、シリンダ6の内面とピストン5の周面との間に介在する。そしてシール部50bは、シリンダ6内におけるピストン5の往復動に際して、ピストン5とシリンダ6との間をシールする機能を果たす。
【0029】
シリンダ6はピストン5の外径に近い内径を有する筒状の室であり、ピストン5の嵌挿が可能に構成されている。シリンダ6には、吸気バルブ13及び排気バルブ14が設けられ、これらのバルブはピストン5の往復運動に応じて開閉する。
【0030】
吸気室7は、吸気バルブ13を介してシリンダ6と連通し、吸気室7には吸気管15が接続されている。吸気管15はチャンバ等の排気対象物に接続されている。
【0031】
排気室8は、排気バルブ14を介してシリンダ6と連通し、排気室8には排気管16が接続されている。排気管16は大気又は排気設備等に接続されている。
【0032】
なお、図2は、シャフト3に平行な方向から気筒をみた図であるが、吸気室7及び排気室8の向きは説明の便宜上、図1とは異なって示されている。
【0033】
[真空ポンプの動作]
次に、真空ポンプ1の動作について説明する。なお、ここでは、真空ポンプ1の一基の気筒について説明するが、他の気筒についても動作は同様である。図3はピストン5の揺動運動を示す模式図である。図3(a)、図3(b)、図3(c)、図3(d)の順にピストン5が駆動され、再び図3(a)に示す状態に戻る。
【0034】
図3(a)においてピストン5は上死点にある。この状態では、ピストン5がシリンダ6の底部に近接している。シャフト3が回転すると、図3(b)に示すように偏芯軸12とベアリング11とを介してコネクティングロッド4が傾きながら下降し、ピストン5がシリンダ6から離れる。この際、シリンダ6とピストン5の間の容積が拡大するため、吸気室7及び連通する吸気管15から吸気バルブ13を介して排気対象気体がシリンダ6内に流入する。
【0035】
シャフト3がさらに回転すると、図3(c)に示すようにピストン5が下死点に到達する。このとき、シリンダ6内には排気対象気体が存在している。さらにシャフト3が回転すると、図3(d)に示すように、偏芯軸12とベアリング11とを介してコネクティングロッド4が傾きながら上昇する。この際、シリンダ6とピストン5の間の容積が減少するため、シリンダ内の排気対象気体が排気バルブ14を解して排気室8及び連通する排気管16から排出される。このように、シャフト3の回転によってピストン5の傾きを伴う上昇と下降(揺動運動)が繰り返され、図示しないチャンバ内の気体が排気される。
【0036】
ここで、図3に示すように、ピストン5の揺動運動において、シール部材50のシール部50bは常にシリンダ6の内壁に当接し、シリンダ6とピストン5の間をシールしている。このため、長期的使用においてはシール部50bの磨耗が問題となる。
【0037】
一般にシール部の弾性力が大きいほど高いシール性が得られるが、シール部の弾性力が過度に大きいと、シリンダに対して相対移動するシール部の磨耗量が不必要に増加するため、シール部の耐久性が低下する。またシール性が低下することで到達真空度が低下し、さらにポンプの消費電力が上昇する。したがってシール性の低下は、シール部材の交換を余儀なくし、結果的にポンプの耐久性を低下させる。
【0038】
本実施形態は、シール部の弾性力を目的とするシール性が得られる適度な大きさに調整することで、シール性を維持しつつ、ポンプの耐久性を向上させる。以下、シール部材50の製造方法について説明する。
【0039】
[シール部材の成形装置]
図4は、シール部材50の製造に用いられる成形装置の構成を示す分解斜視図である。図5は、当該成形装置の組立て状態における断面図である。まず、成形装置100について説明する。
【0040】
成形装置100は、第1の治具110と、第2の治具120と、締め付け具130とを有する。成形装置100は、第1の治具110と第2の治具120との間に樹脂シート50Sを収容し、締め付け具130によって両治具110,120を相互に締め付け、樹脂シート50Sを加熱することで、樹脂シート50Sを成形する。
【0041】
第1の治具110は、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の金属製の円筒部材で構成されている。第1の治具110は、第1の円筒部111と、第1の円筒部111の下端に形成された第1の底面部112とを有する。
【0042】
第1の円筒部111は、樹脂シート50Sの外径(第1の外径)よりも小さい内径(第1の内径)で形成され、その内径の大きさは、シール部材50の平面部50aの大きさ(直径)に設定される。したがって樹脂シート50Sが第1の治具110に装着されるとき、樹脂シート50Sの周縁部は図5に示すようにほぼ90度折り曲げられた状態で第1の円筒部111の内部に収容されることになる。
【0043】
第1の治具110は、第1の嵌合部113をさらに有する。第1の嵌合部113は第1の底面部112の中心に形成され、第1の円筒部111と同心的な円柱形状を有する。第1の嵌合部113は、樹脂シート50Sの中心に形成された中心孔50cと嵌合することが可能であり、その外径は中心孔50cの内径とほぼ同じ大きさに設定されている。これにより第1の治具110に対して樹脂シート50Sを精度よく組み付けることができる。
【0044】
第2の治具120は、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の金属製の円筒部材で構成されている。第2の治具120は、第2の円筒部121と、第2の円筒部121の下端に形成された第2の底面部122と、第2の底面部122の中心に形成された第2の嵌合部123とを有する。図5に示すように第2の治具120は、第2の底面部122が第1の底面部112に対向するようにして第1の治具110に組み付けられる。
【0045】
第2の円筒部121は、第1の円筒部111の内径よりも小さい外径(第2の外径)で形成され、その外径の大きさは、シール部材50のシール部50bの内径以下の大きさに設定されている。したがって樹脂シート50Sが装着された第1の治具110に第2の治具120が装着されるとき、樹脂シート50Sの周縁部は図5に示すように第1の円筒部111と第2の円筒部121との間に収容されることになる。
【0046】
第2の嵌合部123は、第2の底面部122の中心部に設けられ、第1の嵌合部113と嵌合可能な凹所で構成されている。すなわち第2の嵌合部123は、第1の治具110と第2の治具120との組み付け時、第1の嵌合部113と相互に嵌合する。これにより、第1の治具110に対して第2の治具120を精度よく組み付けることができる。また、第1の治具110に対して第2の治具120を精度よく位置決めされるため、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間に一定の大きさの環状空間を形成することができる。
【0047】
締め付け具130は、ボルトやネジ等の部品で構成されており、第1の治具110及び第2の治具120の中心部にそれぞれ取り付けられる。ここで、第1の治具110には第1の嵌合部113の中心部に締め付け具130の軸部131と螺合する取付孔114が形成され、第2の治具120には第2の嵌合部123の中心部に軸部131が挿通される挿通孔124が形成されている。これにより第1及び第2の治具110,120は、締め付け具130により相互に固定されるとともに、第1の底面部112と第2の底面部122とが相互に近接する方向に締め付けられる。締め付け具130、取付孔114及び挿通孔124は、第1及び第2の治具110,120を相互に締め付ける締め付け機構を構成する。
【0048】
第1及び第2の底面部112,122は、相互に平行に形成されており、締め付け具130による第1及び第2の治具110,120の締め付け時に樹脂シート50Sを挟持する。第1及び第2の底面部112,122による樹脂シート50Sの挟圧力は、締め付け具130による締め付けトルクで調整される。
【0049】
[シール部材の成形方法]
続いて、上述のようにして構成される成形装置100を用いたシール部材50の製造方法を説明する。
【0050】
まず、シール部材50の原型となる樹脂シート50Sを準備する。樹脂シート50Sは、典型的には、図4に示すように円環状に打ち抜き形成される。樹脂シート50Sの大きさ(外径)は、適用されるピストンの大きさに応じて適宜設定され、例えば直径93mmである。樹脂シート50Sの厚みも特に限定されず、例えば1.0mmである。中心孔50cの孔径も特に限定されず、ピストン5の構成によって定められる。
【0051】
続いて図4及び図5に示すように、第1の治具110及び第2の治具120によって樹脂シート50Sを挟み込み、樹脂シート50Sを所定温度に挟圧しつつ加熱することで、シール部材50を作製する。
【0052】
手順としては先ず、樹脂シート50Sが第1の治具110に装着される。このとき樹脂シート50Sの中心孔50cと第1の嵌合部113との嵌合作用により、第1の治具110に対する樹脂シート50Sの位置決め精度が確保される。したがって、第1の嵌合部113の外径と樹脂シート50Sの中心孔50cの孔径との差が小さいほど、高い位置決め精度が得られる。
【0053】
また、第1の円筒部111の内径は樹脂シート50Sの外径よりも小さいため、樹脂シート50Sの周縁部は、第1の円筒部111の内面に当接する。
【0054】
樹脂シート50Sが第1の治具110に装着された後、第2の治具120が第1の治具110に組み付けられる。このとき第1の嵌合部113と第2の嵌合部123との嵌合作用により、第1の治具110に対する第2の治具120の位置決め精度が確保される。この場合も、第1の嵌合部113の外径と第2の嵌合部123の内径との差が小さいほど、高い位置決め精度が得られる。
【0055】
第1の治具110に第2の治具120が組み付けられた後、両治具110,120は締め付け具130によって締め付けられる。このとき図5に示すように、樹脂シート50Sの周縁部以外の領域は第1の底面部112と第2の底面部122との間に挟持されることで、所定の平面度が確保される。
【0056】
一方、樹脂シート50Sの周縁部は、図5に示すように、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間の環状の隙間に入り込むとともに、第2の底面部122の押圧作用により第1の底面部112に対して垂直な方向に折り返される。
【0057】
ここで、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間の隙間の幅は、樹脂シート50Sの周縁部の厚みよりも大きな値に設定される。これにより、樹脂シート50Sの周縁部をその全域にわたって円滑かつ均等に折り返すことができる。また、上記隙間の幅が大きくなるほど、作製されたシール部材50のシール部50bの径外方に向かう弾性力が高くなる傾向にある。
【0058】
第1の治具110に対する第2の治具120の締め付け力は、少なくとも樹脂シート50Sが第1の底面部112に密着する程度の圧力が必要とされる。これにより樹脂シート50Sの周縁部を適正に垂直方向へ折り返すことができる。この場合、樹脂シート50Sは第1の底面部112と第2の底面部122との間に所定の圧縮力を発生させてもよい。これにより樹脂シート50Sの周縁部を円滑に垂直方向へ折り返すことができる。上記所定の圧縮力は特に限定されず、例えば1MPaであり、締め付け具130の締め付けトルクに換算すると、本実施形態では13N・mである。
【0059】
締め付け具130によって相互に締め付けられた成形装置100は、所定温度に加熱される。これにより樹脂シート50Sは、平面部50aとシール部50bとを有するシール部材50に成形される(図5)。
【0060】
成形装置100は、例えば所定温度に設定されたオーブンの内部で加熱される。これ以外にも、第1の治具110及び第2の治具120の少なくとも一方に、ヒータ等の加熱源が内蔵されてもよい。第1及び第2の治具110,120はそれぞれ金属製であるため、樹脂シート50Sへ効率よく熱を伝達することができる。
【0061】
上記所定温度は特に限定されず、樹脂シート50Sの材料、大きさ、厚み、例えば160℃以上250℃以下である。上記所定温度の保持時間も特に限定されず、例えば40分である。
【0062】
シール部材50の平面部50aは、締め付け具130による圧縮作用と上記加熱作用とを受けることで、第1の底面部112と第2の底面部122との間に形成される。一方、シール部50bは、上記圧縮作用及び加熱作用を受けることで、第1の円筒部111と第2の円筒部121との間に形成される。特に加熱処理によりシール部材50の内部応力が緩和され、平面部50aに対して屈曲したシール部50bを安定に形成することができる。
【0063】
樹脂シート50Sの加熱処理を所定時間保持した後、成形装置100は冷却される。冷却方法は特に限定されず、自然冷却でもよいし、強制冷却でもよい。冷却後、成形装置100は第1の治具110と第2の治具120とに分離され、第1の治具110からシール部材50(樹脂シート50S)が取り出される。
【0064】
図6は、第1の治具110からのシール部材50の取り出し方法を説明する断面図である。本実施形態では、図6に示すような取り出し治具200が用いられる。取り出し治具200は、本体201と、本体201の一方の面に設けられた複数本のピン202とを有する。第1の底面部112には、各ピン202が挿通される複数の孔があらかじめ形成されており、これらの各孔に各ピン202がそれぞれ挿通されることで第1の治具110に本体201が取り付けられる。第1の底面部112上のシール部材50は、ピン202により図6において上方に押し出され、第1の治具110から取り出される。
【0065】
以上のようにして、平面部50aの周縁部にシール部50bが環状に形成されたシール部材50が作製される。本実施形態によれば、シール部材50を加熱しながら成形するようにしているため、シール部50bに径外方へ向かう弾性力を調整することが可能となる。
【0066】
すなわちシール部材50を加熱成形することで、非加熱で成形する場合と比較して、シール部の径外方へ向かう弾性力を低下させることができる。したがってシール部材50を真空ポンプ1のピストン5に装着して使用する際、シリンダ6の内面に対してシール部材50のシール部50bを適度な弾性力で圧接させることができるようになり、シール部50bの不必要な磨耗が抑制される。これにより、シリンダ6とピストン5との間のシール性を維持しつつポンプの耐久性の向上を図ることができる。
【0067】
成形温度は特に限定されず、シール部材50の材質、大きさ、厚さ等の材料的・形状的要素のほか、要求されるシール特性、耐久性等の製品のスペック的要素に応じて適宜設定される。成形温度が低温であるほどシール部50bの径外方に向かう弾性力は大きくなる傾向にあり、成形温度が高温であるほど上記弾性力は低下する傾向にある。
【0068】
本発明者は、第1の円筒部111の内径、第2の円筒部121の外径、成形温度を異ならせて複数のシール部材50のサンプルを作製し、それらを実際にピストン5に装着してポンプを駆動させ、サンプルごとにポンプの消費電力を測定した。またポンプを1時間駆動させた後、サンプルごとにシール部50bの磨耗量を測定した。
【0069】
シール部材50の原型となる樹脂シート50Sには、直径93mm、厚み1.0mmのポリテトラフルオロエチレンシートを用いた。成形温度での保持時間は40分とし、その後20分以上かけて冷却した。真空ポンプには、アルバック機工社製揺動ピストン型ドライ真空ポンプを使用した。
【0070】
各サンプルの作製に用いた第1の円筒部111の内径、第2の円筒部121の外径、成形温度の条件を表1に示す。また、各サンプルの磨耗量及びポンプの消費電力の測定値を図7及び図8にそれぞれ示す。
【0071】
【表1】
【0072】
サンプル5に関しては、シール部50bの磨耗量が各サンプルの中で最大であり、到達圧力も高かった。その理由は、成形温度が130℃と比較的低かったため、シール部50bの弾性復帰力が高く維持され、シリンダ6に対する弾性力が各サンプル中最も高かったためであると考えられる。
【0073】
サンプル1〜4,6,7に関しては、磨耗量にバラツキがあるものの、到達真空度、消費電力等の主だったポンプ性能は、ほぼ同等であった。これらサンプルの評価結果から、成形温度が高いサンプルほどシール部50bの磨耗量は少ないことが確認された。またシール部の良好なシール性を維持することができるため、ポンプの消費電力の低減を図ることができる。
【0074】
ここで、例えばサンプル1,3,6及び7のように、第1の円筒部111の内径と第2の円筒部121の外径とがサンプル間で異なる場合でも、同様のポンプ特性が得られることが確認された。このことからシール部材のシール性は成形温度に強い依存性をもち、成形用治具の径には強く依存しないと考えられる。
【0075】
次に、サンプル7の作製に用いた各治具を用いて、160℃〜250℃の成形温度範囲で複数のシール部材50を作製した。そしてサンプルごとに到達圧力、大気開放時(無負荷時)の吐出流量、消費電力、ポンプ筐体の温度上昇量、シール部の磨耗量を含むポンプ特性を評価した。その結果を表2に示す。また、成形温度とシール部の磨耗量、ポンプの消費電力及び温度上昇量との関係を図9、図10及び図11にそれぞれ示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2、図9〜図11に示すように、成形温度が高くなるほどシール部の磨耗量、ポンプの消費電力及び温度上昇量はいずれも低下する傾向が認められる。これは、成形温度が高いほどシール部材50の内部応力を緩和し、平面部50aに対して屈曲したシール部50bを安定に形成することができるためと考えられる。すなわち成形温度が高いほど、シール部50bの形状維持性が高まり、ピストン装着後のシール部の外径が減少する。これによりシール部の弾性力が低下し、シール部に作用する摺動摩擦力が低下することで、磨耗を抑制することが可能となる。シール性に関しても、成形温度の高温化に伴い消費電力が低下していることから、シリンダ6とピストン5との間の安定したシール性が確保されているものと認められる。
【0078】
以上のように、シール部材の成形温度を160℃以上250℃以下とすることで、安定したシール性を維持しつつシール部の磨耗を抑制できるとともに、ポンプの消費電力の低減を図ることが可能となる。
また成形温度の上限を250℃としたが、シール部材を構成する材料の熱的安定性や、目的とするシール性等に応じて適宜設定することが可能である。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変更が可能である。
【0080】
例えば以上の実施形態では、揺動ピストン型ドライ真空ポンプ用のピストンに適用されるシール部材の製造方法及びその成形装置を例に挙げて説明したが、これに限らず、他の容積移送型の真空ポンプに適用されるシール部材の製造にも本発明は適用可能である。
【0081】
また以上の実施形態では、第1及び第2の治具110,120の嵌合部113,123をいずれも円筒あるいは円柱形状に形成されたが、これに代えて、相互に嵌合関係を有する他の幾何学的形状、例えば多角柱形状に形成されてもよい。また、これら嵌合部は必要に応じて省略されてもよい。
【0082】
さらに第1及び第2の治具110,120を締め付ける締め付け機構として締め付け具130が用いられたが、これに代えて、クランプ等の他の部材が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1…真空ポンプ
5…ピストン
50…シール部材
50a…平面部
50b…シール部
50S…樹脂シート
100…成形装置
110…第1の治具
111…第1の円筒部
112…第1の底面部
113…第1の嵌合部
120…第2の治具
121…第2の円筒部
122…第2の底面部
123…第2の嵌合部
130…締め付け具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンに取り付けられ、円形の平面部と、前記平面部の周縁に形成された環状のシール部とを有するシール部材の製造方法であって、
第1の内径を有する第1の円筒部と、前記第1の円筒部の一端に形成された第1の底面部とを有する第1の治具に、前記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートを装着し、
前記第1の内径よりも小さい第2の外径を有する第2の円筒部と、前記第2の円筒部の一端に形成された第2の底面部とを有する第2の治具を前記第1の治具に装着し、
前記第1の底面部と前記第2の底面部とにより前記シート部材を所定圧力で挟圧し、前記第1の治具と前記第2の治具とを所定温度に加熱することで、前記第1の底面部と前記第2の底面部との間に前記平面部を形成し、前記第1の円筒部と前記第2の円筒部との間に前記シール部を形成する
シール部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシール部材の製造方法であって、
前記所定温度は、160℃以上250℃以下である
シール部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のシール部材の製造方法であって、
前記樹脂シートは、ポリテトラフルオロエチレンシートである
シール部材の製造方法。
【請求項4】
第1の端部を有し第1の内径で形成された第1の円筒部と、前記第1の端部に形成された第1の底面部とを含み、前記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートが装着される金属製の第1の治具と、
第2の端部を有し前記第1の内径よりも小さい第2の外径で形成された第2の円筒部と、前記第2の端部に形成された第2の底面部とを含み、前記第1の底面部と前記第2の底面部とで前記樹脂シートを挟持し、前記第1の円筒部と前記第2の円筒部とで前記樹脂シートの周縁を挟持する金属製の第2の治具と、
前記第1の底面部と前記第2の底面部とが近接する方向に前記第1の治具と前記第2の治具とを締め付ける締め付け機構と
を具備する成形装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成形装置であって、
前記第1の治具と前記第2の治具とを加熱する加熱機構をさらに具備する
成形装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の成形装置であって、
前記第1の治具は、前記第1の円筒部の中心に設けられ前記樹脂シートの中心孔に嵌合可能な第1の嵌合部をさらに有し、
前記第2の治具は、前記第2の円筒部の中心に設けられ前記第1の嵌合部に嵌合可能な第2の嵌合部をさらに有する
成形装置。
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンに取り付けられ、円形の平面部と、前記平面部の周縁に形成された環状のシール部とを有するシール部材の製造方法であって、
第1の内径を有する第1の円筒部と、前記第1の円筒部の一端に形成された第1の底面部とを有する第1の治具に、前記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートを装着し、
前記第1の内径よりも小さい第2の外径を有する第2の円筒部と、前記第2の円筒部の一端に形成された第2の底面部とを有する第2の治具を前記第1の治具に装着し、
前記第1の底面部と前記第2の底面部とにより前記シート部材を所定圧力で挟圧し、前記第1の治具と前記第2の治具とを所定温度に加熱することで、前記第1の底面部と前記第2の底面部との間に前記平面部を形成し、前記第1の円筒部と前記第2の円筒部との間に前記シール部を形成する
シール部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシール部材の製造方法であって、
前記所定温度は、160℃以上250℃以下である
シール部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のシール部材の製造方法であって、
前記樹脂シートは、ポリテトラフルオロエチレンシートである
シール部材の製造方法。
【請求項4】
第1の端部を有し第1の内径で形成された第1の円筒部と、前記第1の端部に形成された第1の底面部とを含み、前記第1の内径よりも大きい第1の外径を有する円形の樹脂シートが装着される金属製の第1の治具と、
第2の端部を有し前記第1の内径よりも小さい第2の外径で形成された第2の円筒部と、前記第2の端部に形成された第2の底面部とを含み、前記第1の底面部と前記第2の底面部とで前記樹脂シートを挟持し、前記第1の円筒部と前記第2の円筒部とで前記樹脂シートの周縁を挟持する金属製の第2の治具と、
前記第1の底面部と前記第2の底面部とが近接する方向に前記第1の治具と前記第2の治具とを締め付ける締め付け機構と
を具備する成形装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成形装置であって、
前記第1の治具と前記第2の治具とを加熱する加熱機構をさらに具備する
成形装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の成形装置であって、
前記第1の治具は、前記第1の円筒部の中心に設けられ前記樹脂シートの中心孔に嵌合可能な第1の嵌合部をさらに有し、
前記第2の治具は、前記第2の円筒部の中心に設けられ前記第1の嵌合部に嵌合可能な第2の嵌合部をさらに有する
成形装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−159041(P2012−159041A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19570(P2011−19570)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(591268623)アルバック機工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(591268623)アルバック機工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
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