説明

ステアバイワイヤ式操舵装置およびそれを備えた車両

【課題】 各輪の操舵を独立させた独立操舵系で、広角転舵を実現でき、かつコンパクトな構成とできるステアバイワイヤ式操舵装置、および車両を提供する。
【解決手段】 転舵軸13と同軸上に固定ギア16を固定し、それにかみ合うよう外周面にギヤを形成したナット17を配置する。ナット17と軸18の対向面の螺旋溝にボールを介在させたボールナット機構20を設ける。転舵アクチュエータ10による回転運動を、ナット17の直線運動に変換し、固定ギア16と共に転舵軸13を回転させる。固定ギア16、ナット17、軸18を覆うギアケース1が、ナックルまたはナックルに固定された転舵輪連結部材に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイール等の転舵入力装置から機械的に分離された転舵装置により転舵させるステアバイワイヤ式操舵装置、およびその操舵装置を備えた自動車等の車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアバイワイヤ式転舵装置を、ボールねじ機構およびリンク機構により実現したものが提案されている(例えば、特許文献1)。ボールねじ機構によると、摩擦抵抗が小さいため、減速比を大きくすることで、高速低トルクモータを使用し、駆動モータを小さくすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−326459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転舵機構に、ねじ軸が進退するボールねじ機構を適用する場合、ねじ軸が可動するスペースが必要なため、車軸方向のスペース確保が必要となる。そのため、転舵機構を車両のホイールハウス内に納まるコンパクトな構成とすることが難しい。種々の要望から、転舵機構を車両のホイールハウス内に納めることが望まれている。特に、電気自動車においては、ガソリン車のエンジンルームに相当する部分にはバッテリやインバータ等を搭載し、車内スペースを少しでも広く確保することが必要である。そのため、転舵機構はホイールハウス内に収まる構造にする必要がある。
また、上記従来のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵機構にリンク機構を用いているため、コンパクト化について不利となるうえ、広角転舵が難しい。しかも、フルストローク時にロックが発生する可能性がある。
【0005】
この発明の目的は、各輪の操舵を独立させた独立操舵系で、広角転舵を実現でき、かつコンパクトな構成とできるステアバイワイヤ式操舵装置、および車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵入力装置と、この転舵入力装置から機械的に分離された転舵装置と、前記転舵入力装置からの入力信号に基づき前記転舵装置を制御するステアリング制御装置とによって構成されたステアバイワイヤ式操舵装置において、
前記転舵装置が転舵輪のナックルまたはこれと固定された部材からなる転舵輪連結部材に固定された転舵アクチュエータと、サスペンションのアッパーアームに固定された転舵軸と、この転舵軸を中心軸としてこの転舵軸に固定された固定ギヤと、前記固定ギヤに噛み合って固定ギヤの外周を移動可能であり内径面に螺旋凹条の螺旋溝を設けたナットと、前記螺旋凹条と同一ピッチで螺旋凹条の螺旋溝を設けた軸と、前記ナットと前記軸の間に介在されている複数のボールとを備え、
前記固定ギア、前記ナット、前記ボール及び前記軸はギアケースに収納されており、前記転舵アクチュエータの駆動軸が前記軸に連結され、前記固定ギヤは前記ギヤケースに対して軸受を介して支持されるとともに前記軸は前記ギヤケースに軸受を介して支持され、かつ前記ギヤケースが前記転舵輪連結部材に固定されることを特徴とする。

【0007】
この構成によると、転舵軸と同軸上に固定ギアを固定し、それにかみ合うよう外周面にギヤを形成したナットを配置し、ナットは内径面の螺旋凹条に複数のボールを循環させ、ナットがボールを介して回転可能な状態で軸を配置している。その軸が転舵アクチュエータによる回転運動をナットの直線運動に変換する。そのギア、ナット及び軸を覆うギアケースが、ナックルまたはナックルに固定された転舵輪連結部材に固定されている。このため、転舵アクチュエータの駆動により転舵輪が転舵する。
このように、ナットが進退するボールナット機構を用いたため、ねじ軸を進退させるボールねじ機構に比べて、軸方向にコンパクト化される。また、ねじ軸を進退させるボールねじ機構と同様に摩擦抵抗が小さく、ボールナットの減速比を大きくすることで、高速低トルクモータ等を用いて、転舵アクチュエータを小さくすることが可能である。
また、転舵軸と同軸上に固定ギアを固定し、それにかみ合うように、前記ボールナット機構のナットの設け、ギヤによる転舵形式としたため、リンク機構による転舵装置に比べて、コンパクトに構成でき、かつ広角転舵が可能となる。転舵装置がリンク機構では、フルストローク時にロックが発生する可能性があるが、ギヤでの転舵のため、ロックが発生しない。
上記固定ギヤとボールナット機構とを組み合わせた構成であるため、コンパクト化に優れ、各輪の操舵を独立させた独立操舵系とすることも可能である。
このように、各輪の操舵を独立させた独立操舵系で、広角転舵を実現でき、かつコンパクトな構成とできる。
【0008】
この発明において、前記転舵軸線上に位置し、アッパーアームと固定ギアの間に自在継手を介在させても良い。アッパーアームと固定ギアの間に自在継手を介在させると、車体の傾きを許容可能とし、かつトルク伝達を可能とすることができる。自在継手としては、その等速性から、等速ジョイントを用いることが好ましい。等速ジョイントは、内部の遊びが出来るだけ小さいものが良い。
【0009】
前記転舵アクチュエータは、制御性やエネルギ供給の面から、電動式のモータであるのが良い。このモータは、角度センサー付DCブラシレスモータであるのが良い。
【0010】
前記固定ギヤは、平歯車、はすば歯車のいずれかであるのが良い。また、前記ナットの外周面も、平歯車、はすば歯車のいずれかであるのが良い。回転の伝達性や、汎用品が使用可能であることから、平歯車や、はすば歯車が好ましい。
【0011】
この発明において、前記軸と前記転舵アクチュエータの駆動軸を平行に配置し、回転伝達機構を介して前記駆動軸の駆動を前記軸に伝達するようにしても良い。前記回転伝達機構は、ギア列であっても、またベルトまたはチェーン等の巻き掛け伝達機構であっても良い。前記軸と前記転舵アクチュエータの駆動軸を平行に配置すると、転舵装置のレイアウトの自由度が高められる。また、軸方向にコンパクトに構成できる。
【0012】
この発明において、前記転舵輪連結部材に、前記ナックルに固定されたインホイールモータ装置のハウジングが含まれていても良い。
このステアバイワイヤ式操舵装置による広角度転舵が可能な構成と、インホイールモータ装置とを組み合わせることで、例えば車両を前進方向に向けたままで、横方向へ走行させる横走りを可能としたり、回転半径を小さくしてその場回転を可能とすることができる。これにより、限られたスペースへの駐車等が容易に行える。
【0013】
この発明において、前記ナット内径面及び軸外径面の螺旋凹条表面が、表面改質された部材であるのが良い。表面改質部分として、例えば、無電解Ni(ニッケル)にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の摺動材を分散させたものや、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜等を用いることができる。この表面改質により、摩擦の抵抗の低下による円滑化や、硬質化による摩耗の低下、耐久性の向上が得られる。
【0014】
この発明において、前記転舵軸の下部自由端が、前記転舵輪連結部材に設けられた凹部に軸受部材を介して挿入され、前記転舵輪連結部材が前記転舵輪とともに前記転舵軸に対して回転自在に当接しているのが良い。これにより、摩擦、摩耗が抑制され、転舵軸の回転を妨げることなく、転舵軸の下部自由端を支持することができる。
【0015】
前記転舵軸の下部自由端の当接部に配置する軸受部材は、スラスト軸受であっても、またボールジョイントや、スラスト球面ブッシュ、表面改質された摺動部材であっても良い。スラスト軸受の場合、回転の抵抗が小さく、ボールジョイントやスラスト球面ブッシュの場合は、転舵軸の傾きを自由に許容して支持でき、表面改質された摺動部材の場合は、簡単な構成で回転抵抗の小さい支持が行える。
【0016】
この発明において、前記転舵アクチュエータの駆動軸と前記軸の間に逆入力遮断手段が介在されてもよい。この前記逆入力遮断手段は、例えば逆入力遮断クラッチとする。
前記ナットとボール等で構成されるボールナット機構は、比較的効率が良いため、路面からの逆入力により転舵用モータが回されてしまう。そのため、操縦安定性を保つためには位置補正を要し、その間モータの電力を消費することになる。その消費電力を抑えるため、ボールナット機構に、クラッチ等の逆入力防止機構を設けることが好ましい。
【0017】
この発明において、前記転舵アクチュエータの駆動力が前記軸に対し減速手段を介して伝達されるのが良い。減速手段を介することで、より高速低トルクタイプの転舵アクチュエータを用いることができ、転舵アクチュエータが小型化される。
前記減速手段が、ハーモニックドライブ減速機、サイクロイド減速機、またはその他の低バックラッシュ減速機であるのが良い。ハーモニックドライブ減速機やサイクロイド減速機によると、大減速比を得ることができ、バックラッシュも低く、方向切換時の遊びを少なくできる。他の低バックラッシュ減速機によっても、方向切換時の遊びを少なくできる。
【0018】
この発明の車両は、この発明の上記いずれかの構成のステアバイワイヤ式操舵装置を備えることを特徴とする。この車両は、前記サスペンションの形式が、ダブルウィッシュボーン形式であっても良い。
【発明の効果】
【0019】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵入力装置と、この転舵入力装置から機械的に分離された転舵装置と、前記転舵入力装置からの入力信号に基づき前記転舵装置を制御するステアリング制御装置とによって構成されたステアバイワイヤ式操舵装置において、前記転舵装置が転舵輪のナックルまたはこれと固定された部材からなる転舵輪連結部材に固定された転舵アクチュエータと、サスペンションのアッパーアームに固定された転舵軸と、この転舵軸を中心軸としてこの転舵軸に固定された固定ギヤと、前記固定ギヤに噛み合って固定ギヤの外周を移動可能であり内径面に螺旋凹条の螺旋溝を設けたナットと、前記螺旋凹条と同一ピッチで螺旋凹条の螺旋溝を設けた軸と、前記ナットと前記軸の間に介在されている複数のボールとを備え、前記固定ギア、前記ナット、前記ボール及び前記軸はギアケースに収納されており、前記転舵アクチュエータの駆動軸が前記軸に連結され、前記固定ギヤは前記ギヤケースに対して軸受を介して支持されているとともに前記軸は前記ギヤケースに軸受を介して支持され、かつ前記ギヤケースが前記転舵輪連結部材に固定されるため、各輪の操舵を独立させた独立操舵系で、広角転舵を実現でき、かつコンパクトな構成とできる。
この発明の車両は、この発明のステアバイワイヤ式操舵装置を備えるため、各輪の操舵を独立させた独立操舵系で、広角転舵を実現でき、かつコンパクトな構成とできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態に係るステアバイワイヤ式操舵装置の概略構成とその制御系の概念構成とを示す説明図である。
【図2】同操舵装置のインホイールモータとギヤケース周辺部分とを示す正面図である。
【図3】同操舵装置の変形例におけるナックルとギヤケース周辺部分とを示す正面図である。
【図4】同操舵装置のギヤケース内と転舵軸とを示す破断正面図である。
【図5】同操舵装置のギヤケース内と転舵軸とを示す破断平面図である。
【図6】同操舵装置の変形例におけるギヤケース内と転舵軸とを示す破断平面図である。
【図7】同操舵装置におけるナットの周辺部を示す拡大破断平面図である。
【図8】同操舵装置の転舵軸下端の支持構造を示す拡大破断正面図である。
【図9】同操舵装置の転舵軸下端の支持構造の変形例を示す拡大破断正面図である。
【図10】同操舵装置の転舵軸下端の支持構造の他の変形例を示す拡大破断正面図である。
【図11】同操舵装置の転舵軸下端の支持構造のさらに他の変形例を示す拡大破断正面図である。
【図12】同操舵装置のナットと軸の螺旋溝における表面改質部分を示す部分拡大断面図である。
【図13】同操舵装置の逆入力防止機構の配置を示す説明図である。
【図14】同操舵装置を装備した車両の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。図1に示すように、このステアバイワイヤ式操舵装置は、ステアリングホイール等の転舵入力装置1と、この転舵入力装置1から機械的に分離された転舵装置2と、前記転舵入力装置1からの入力信号に基づき前記転舵装置2を制御するステアリング制御装置3とによって構成される。転舵装置2は、車幅方向両側の転舵輪4毎に設けられて独立操舵系を構成している。各転舵輪4はサスペンション5を介して車台6に支持されている。
【0022】
ステアリングホイールからなる転舵入力装置1に対して、操舵角センサ7および操舵トルクセンサ8が設けられ、操舵反力モータ9が接続されている。操舵角センサ7は、転舵入力装置1の操舵角を検出するセンサ、操舵トルクセンサ8は転舵入力装置1に作用するトルクを検出するセンサである。操舵反力モータ9は、転舵入力装置1に反力トルクを付与するモータであり、トルク制御手段(図示せず)を介して操舵トルクセンサ8の入力を監視し、定められた反力トルクを与える。
【0023】
ステアリング制御装置3は、操舵角センサ7の検出角度に応じて、定められた規則に従い、各転舵装置2の転舵アクチュエータ10に駆動指令を与える手段である。転舵アクチュエータ10は、電動式のモータ、例えば角度センサー付DCブラシレスモータである。ステアリング制御装置3は、車両の全体を制御するECU(電気制御ユニット)11の一部として設けられている。ECU11は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および各種電子回路によって構成されている。
【0024】
前記サスペンション5は、アッパーアーム5Uおよびロアアーム5Lによって転舵輪4を支持する機構であり、例えば、ダブルウイッシュボーン形式またはマルチリンク式とされる。ダブルウイッシュボーン形式は、上下2本のV字型のアッパーアーム5Uおよびロアアーム5Lにより支える形式であり、アッパーアーム5Uとロアアーム5Lとの間にコイルスプリングとショックアブソーバ(いずれも図示せず)が設けられるものが多い。
【0025】
図2に拡大して示すように、転舵装置2は、転舵輪連結部材12に固定された転舵アクチュエータ10と、サスペンション5のアッパーアーム5Uに固定された転舵軸13とを備える。転舵軸13には、自在継手15が介在させてある。転舵輪連結部材12は、転舵輪4のナックル12aまたはこれと固定された部材からなる。ここで言う「固定された」とは、一体の部材である場合を含む意味である。図2の実施形態は、インホイールモータ装置14で操舵輪4を駆動する形式であり、転舵輪連結部材12には、上記ナックル12aとインホイールモータ装置14のハウジング14aを含む。インホイールモータ装置14は、この例では、モータと減速機と車輪用軸受を互いに共通のハウジング14aに組付けたアセンブル部品であり、車輪用軸受の他に、モータと減速機の一部または全体が操舵輪4内に配置される。
【0026】
図3は、転舵輪4を従動輪とした例であり、転舵輪連結部材12は、転舵輪4を支持するナックル12aからなる。転舵輪連結部材12は、図2と図3のいずれの構成であっても良く、特に説明が必要な場合を除き、図2と図3の例を区別せずに、以下の説明をする。
【0027】
図4に破断正面図を、図5に破断平面図をそれぞれ示すように、転舵装置2は、転舵軸13を中心軸としてこの転舵軸13に固定された固定ギヤ16と、この固定ギヤ16に外周面のギヤ17bで噛み合って固定ギヤ16の外周を接線方向に移動可能なナット17と、このナット17に挿通されたボールねじ軸である軸18とを有する。図7に拡大して示すように、これらナット17の内周面と軸18の外周面とに、互いに同一ピッチの螺旋凹条の螺旋溝17a,18aが設けられ、これら螺旋溝17a,18a 間に複数のボール19が介在する。これらナット17と軸18と複数のボール19とで、ボールナット機構20が構成される。前記固定ギヤ16およびナット17の外周のギヤ17bは、平歯車、はすば歯車のいずれかであるのが良い。
【0028】
図5において、固定ギア16、ナット17、前記ボール及び軸18は、ギアケース21に収納されており、転舵アクチュエータ10の駆動軸10aが前記軸18に連結されている。この駆動軸10aは、転舵アクチュエータ10がモータ10Aとそのモータ出力を減速する減速機10Bとで構成される減速機付きモータの場合、その減速機付きモータの出力軸となる軸である。前記軸18は、両端で転がり形式の軸受22を介してギアケース21に回転のみ自在に支持され、転舵アクチュエータ10は、ギアケース21に固定されている。転舵アクチュエータ10の駆動軸10aと前記軸18との連結は、ブッシュ等の軸継手(図示せず)により行われている。固定ギヤ16は、ギヤケース21に対して、軸受を介して支持してあり、回転や軸方向の移動が自在であるが、固定ギヤ16を固定した転舵軸13が、軸受29を介してギヤケース21に回転自在に支持されている。ギヤケース21は、図2,図3のように、前記ナックル等の転舵輪連結部材12に固定される。
【0029】
なお、図6に示すように、転舵アクチュエータ10は、その駆動軸10aと前記軸18とが平行になるように配置し、回転伝達機構24を介して駆動軸10aの回転を軸18に伝達するようにしても良い。回転伝達機構24は、ギア列であっても、またベルトまたはチェーン等の巻き掛け伝達機構であっても良い。この例のように、軸18と転舵アクチュエータ10の駆動軸10aを平行に配置すると、転舵装置2のレイアウトの自由度が高められる。また、軸方向長さをコンパクトにできる。
【0030】
図2,図3において、転舵軸13の軸線O上に位置し、アッパーアーム5Uと図4の固定ギア16の間に自在継手15を介在させてある。具体的には、図4に示すように、転舵軸13を、上側転舵軸13Aと下側転舵軸13Bとに分割し、両軸を自在継手15で連結している。自在継手15は、ボールジョイント形式の等速自在継手であり、下側転舵軸13Bの一端にカップ条部分を設けた外側継手部材15aと、上側転舵軸13Aの下端外周に固定した内側継手材15bと、これら外側継手部材15aと内側継手部材15bの対向周面にそれぞれ設けた軸方向溝間に介在したトルク伝達ボール15cとを備える。前記軸方向溝は円周方向の複数箇所に設けられ、各溝内のトルク伝達ボール15cは、保持器15dによって保持されている。また、外側継手部材15aのカップ部の口部と上側転舵軸13Aの外周との間には、蛇腹条のカバー15eが設けられている。
【0031】
図14は、4輪の自動車であって、各輪に図1,図2の実施形態のステアバイワイヤ式操舵装置を設置した車両40を示す。
【0032】
次に、この実施形態のステアバイワイヤ式操舵装置の作用と、構成の細部につき説明する。この構成のステアバイワイヤ式操舵装置によると、図5のように転舵軸13と同軸上に固定ギア16を固定し、それにかみ合うよう外周面にギヤ17bを形成したナット17を配置し、ナット17は内径面の螺旋溝17bに複数のボール19を循環させ、ナット17がボール19を介して回転可能な状態で軸18を配置している。その軸18が、転舵アクチュエータ10による回転運動をナットの直線運動に変換する。その固定ギア16、ナット17及び軸18を覆うギアケース21が、ナックル12a等の転舵輪連結部材12に固定されている。このため転舵アクチュエータ10の駆動により転舵輪4が転舵する。
【0033】
このように、ナット17が進退するボールナット機構20を用いたため、ねじ軸を進退させるボールねじ機構に比べて、軸方向にコンパクト化される。また、ねじ軸を進退させるボールねじ機構と同様に摩擦抵抗が小さく、ボールナット機構20の減速比を大きくすることで、転舵アクチュエータ10として高速低トルクモータ等を用い、転舵アクチュエータ10を小さくすることが可能である。
また、転舵軸13と同軸上に固定ギア16を固定し、それにかみ合うように、前記ボールナット機構20のナット17を設け、ギヤ16,17bによる転舵形式としたため、従来のリンク機構による転舵装置に比べて、コンパクトに構成でき、かつ広角転舵が可能となる。例えば、90°の舵角が可能となる。転舵装置がリンク機構では、フルストローク時にロックが発生する可能性があるが、ギヤ16,17bでの転舵のため、ロックが発生しない。
上記固定ギヤ16とボールナット機構20とを組み合わせた構成であるため、コンパクト化に優れ、各操舵輪4の操舵を独立させた独立操舵系とすることが可能である。
このように、各輪の操舵を独立させた独立操舵系で、広角転舵を実現でき、かつコンパクトな構成とできる。
【0034】
また、前記転舵軸線O上に位置し、アッパーアーム5Uと固定ギア16の間に自在継手15を介在させたため、車体の傾きを許容可能とし、かつトルク伝達を可能とすることができる。
【0035】
図2の実施形態では、転舵輪5にインホイールモータ装置14を用い、転舵輪連結部材12にインホイールモータ装置14のハウジング14aが含まれていている。同図の実施形態では、このステアバイワイヤ式操舵装置による90°の広角度転舵が可能な構成と、インホイールモータ装置14とを組み合わせたため、例えば図14に示すように、車両40を前進方向Aに向けたままで、その直交方向となる横方向Bへ走行させる横走りが可能となる。また、回転半径を小さくしてその場回転を可能とすることができる。これらにより、限られたスペースへの駐車等が容易に行える。
【0036】
これら図1ないし図7に示した実施形態において、図12に示すように、前記ナット17の内径面、及び軸18の外径面の螺旋溝17a,18a(図7)の表面部17aa,18aa(図12)は、表面改質された部材であるのが良い。なお、図示の例では、螺旋溝17a,18aの内面だけでなく、螺旋溝17a,18aの隣合う周回部分の間の表面部も表面改質部分としている。表面改質部分として、例えば、無電解NiにPTFE等の摺動材を分散させたものや、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜等を用いることができる。この表面改質により、摩擦、摩耗の対策となり、摺動抵抗の低下による円滑化や、硬質化による摩耗の低下、耐久性の向上が得られる。
【0037】
また、図8に示すように、転舵軸13の下部自由端13aは、転舵輪連結部材12に設けられた凹部23に軸受部材24を介して挿入され、転舵輪連結部材12が転舵輪4とともに転舵軸13に対して回転自在に当接しているのが良い。これにより、転舵軸13の回転を妨げることなく、転舵軸13の下部自由端13aを支持することができる。
【0038】
転舵軸13の下部自由端13aの当接部に配置する軸受部材24は、図8に示すようなスラスト軸受であっても良い。同図のスラスト軸受は、円周方向に並ぶ複数のころ25を保持器26で保持した保持器つきころからなる。軸受部材24が転がり形式のスラスト軸受からなる場合、回転の抵抗が小さい。
【0039】
転舵軸13の下部自由端13aに配置する軸受部材24は、この他に、図9に示すようにボールジョイント24Aとしても、図10に示すようにスラスト球面ブッシュ24Bとしても、また図11に示すように表面改質された円板条の摺動部材24Cであっても良い。この場合も表面改質は、例えば、無電解NiにPTFE等の摺動材を分散させたものや、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜等を用いることができる。
軸受部材24を、これらボールジョイントやスラスト球面ブッシュとした場合は、転舵軸13の傾きを自由に許容して支持できる。軸受部材24が表面改質された摺動部材の場合は、簡単な構成で回転抵抗の小さい支持が行える。
【0040】
上記図1ないし図11に示す各実施形態において、例えば図13に示すように、モータ等の転舵アクチュエータ10の駆動軸10aと前記軸18の間に逆入力遮断手段30が介在されてもよい。この前記逆入力遮断手段30は、例えば一方向クラッチ等の逆入力遮断クラッチとしても良い。
前記ナット17とボール19等(図7)で構成されるボールナット機構20は、比較的効率が良いため、路面からの逆入力により転舵アクチュエータ10が回されてしまう。そのため、操縦安定性を保つためには位置補正を要し、その間、モータからなる転舵アクチュエータ10の電力を消費することになる。ボールナット機構20に、前記クラッチ等の逆入力防止機構30を設けることで、路面からの逆入力による回転が防止され、逆入力に対処するための電力消費を抑えることができる。
【0041】
図1ないし図13に示す各実施形態において、転舵アクチュエータ10の駆動力は、前記軸18に対し図5に示すように、減速手段である減速機10Bを介して伝達されるのが良い。減速機10Bを介することで、より高速低トルクタイプの転舵アクチュエータを用いることができ、転舵アクチュエータ10が小型化される。減速機10Bとしては、ハーモニックドライブ減速機、サイクロイド減速機、またはその他の低バックラッシュ減速機であるのが良い。ハーモニックドライブ減速機やサイクロイド減速機によると、大減速比を得ることができ、バックラッシュも低く、方向切換時の遊びを少なくできる。他の低バックラッシュ減速機によっても、方向切換時の遊びを少なくできる。
【0042】
この実施形態の車両40(図1,図14)は、上記いずれかの実施形態に係る構成のステアバイワイヤ式操舵装置を備えたものである。この車両40は、前記サスペンション5の形式が、前述のようにダブルウィッシュボーン形式であっても良い。
この構成の車両40によると、転舵装置2につき、各輪の操舵を独立させた独立操舵系で、広角転舵を実現でき、かつコンパクトな構成とできる。
【符号の説明】
【0043】
1…転舵入力装置
2…転舵装置
3…ステアリング制御装置
4…転舵輪
5…サスペンション
5U…アッパーアーム
5L…ロアアーム
6…車台
10…転舵アクチュエータ
10a…駆動軸
10A…減速機(減速手段)
12…転舵輪連結部材
12a…ナックル
13…転舵軸
13a…下部自由端
14…インホイールモータ装置
14a…ハウジング
15…自在継手
16…固定ギヤ
17…ナット
17a…螺旋溝
17b…ギヤ
18…軸
18a…螺旋溝
17aa,18aa…表面部
19…ボール
20…ボールナット機構
21…ギアケース
23…凹部
24…軸受部材
28…回転伝達機構
29…軸受
31…減速機(減速手段)
40…車両


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵入力装置と、この転舵入力装置から機械的に分離された転舵装置と、前記転舵入力装置からの入力信号に基づき前記転舵装置を制御するステアリング制御装置とによって構成されたステアバイワイヤ式操舵装置において、
前記転舵装置が転舵輪のナックルまたはこれと固定された部材からなる転舵輪連結部材に固定された転舵アクチュエータと、サスペンションのアッパーアームに固定された転舵軸と、この転舵軸を中心軸としてこの転舵軸に固定された固定ギヤと、前記固定ギヤに噛み合って固定ギヤの外周を移動可能であり内径面に螺旋凹条の螺旋溝を設けたナットと、前記螺旋凹条と同一ピッチで螺旋凹条の螺旋溝を設けた軸と、前記ナットと前記軸の間に介在されている複数のボールとを備え、
前記固定ギア、前記ナット、前記ボール及び前記軸はギアケースに収納されており、前記転舵アクチュエータの駆動軸が前記軸に連結され、前記固定ギヤは前記ギヤケースに対して軸受を介して支持されているとともに前記軸は前記ギヤケースに軸受を介して支持され、かつ前記ギヤケースが前記転舵輪連結部材に固定されることを特徴とするステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、前記転舵軸線上に位置し、アッパーアームと固定ギアの間に自在継手を介在したステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項3】
請求項2において、前記軸継手が等速自在継手であるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記転舵アクチュエータがモータであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項5】
請求項4において、前記モータが角度センサー付DCブラシレスモータであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記固定ギヤが、平歯車、はすば歯車のいずれかであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記ナットの外周面が、平歯車、はすば歯車のいずれかであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記軸と前記転舵アクチュエータの駆動軸を平行に配置し、回転伝達機構を介して前記駆動軸の駆動を前記軸に伝達するステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記転舵輪連結部材に、前記ナックルに固定されたインホイールモータ装置のハウジングが含まれるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記ナット内径面及び軸外径面の螺旋凹条表面が、表面改質された部材であるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記転舵軸の下部自由端が、前記転舵輪連結部材に設けられた凹部に軸受部材を介して挿入され、前記転舵輪連結部材が前記転舵輪とともに前記転舵軸に対して回転自在に当接しているステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項12】
請求項11において、前記軸受部材が、スラスト軸受であるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項13】
請求項11において、前記軸受部材が、ボールジョイントであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項14】
請求項11において、前記軸受部材が、スラスト球面ブッシュであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項15】
請求項11において、前記軸受部材が、表面改質された摺動部材であるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15のいずれか1項において、前記転舵アクチュエータの駆動軸と前記軸の間に逆入力遮断手段が介在されたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項17】
請求項16において、前記逆入力遮断手段が、逆入力遮断クラッチであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項18】
請求項1ないし請求項15のいずれか1項において、前記転舵アクチュエータの駆動力が前記軸に対し減速手段を介して伝達されるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項19】
請求項18において、前記減速手段が、ハーモニックドライブ減速機、サイクロイド減速機、またはその他の低バックラッシュ減速機であるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項20】
請求項1ないし請求項19のいずれか1項に記載のステアバイワイヤ式操舵装置を備えたことを特徴とする車両。
【請求項21】
請求項21において、前記サスペンションの形式が、ダブルウィッシュボーン形式である車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−111463(P2012−111463A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264645(P2010−264645)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】