説明

ステージ装置、露光装置およびデバイス製造方法

【課題】案内面の損傷を低減させるステージ装置を提供する。
【解決手段】
本発明のステージ装置は、ステージ部4と、ステージ部4の移動を案内する案内面を含む静圧軸受ガイド5と、ステージ部4に保持され且つ案内面に向けて気体を噴出するエアパッド2と、ステージ部4に保持され且つ案内面に対向した永久磁石3とを有するステージ装置であって、 静圧軸受ガイド5は、磁性体を含み且つ永久磁石3に対向した突出部を含む金属部7と、金属部7の硬度より高い硬度を有し、金属部7を被覆し、且つ案内面を有するセラミック部6とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置、露光装置およびデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子や半導体素子などのデバイスは、フォトリソグラフィの手法により製造されうる。このフォトリソグラフィ工程で使用される露光装置は、基板を載置して2次元移動する基板ステージ部と、パターンを有するマスクを載置して2次元移動するマスクステージ部とを含みうる。そのような露光装置は、マスクステージ部及び基板ステージ部を走査移動させながら、投影光学系を介してマスクのパターンを投影して基板を露光する。
【0003】
また、露光装置は、静圧軸受ガイドを含む駆動機構を有するステージ装置を備える(特許文献1)。このようなステージ装置は、案内面を有する静圧軸受ガイドや、静圧軸受ガイドの案内面に非接触で支持されるステージ部、ステージ部を案内面に沿って移動させる駆動手段、ステージ部を案内面に向かって付勢する予圧(付勢)手段から構成される。
【0004】
図5は、従来における基板ステージ部(ステージ装置)の要部拡大図である。図5に示されるように、従来のステージ装置は、静圧軸受ガイド500、静圧軸受ガイド500の案内面に気体を噴出するエアパッド200、予圧手段を構成する永久磁石300、ステージ部400を含んで構成される。このステージ装置では、予圧手段に永久磁石が用いられ、案内面を有する静圧軸受ガイド500は、磁性体で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−223690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、基板ステージ部やマスクステージ部の駆動機構に上述のような静圧軸受ガイドを用いる場合、エアパッドや静圧軸受ガイドの案内面が損傷することがある。このような損傷は、ステージ部と静圧軸受ガイドとのギャップに入り込んだ異物により引き起こされうる。エアパッド又は静圧軸受ガイドの案内面に損傷が発生すると、エアパッド又は静圧軸受ガイドを交換する必要が生じうる。特に、静圧軸受ガイドは、損傷して案内面に凹凸が形成されると、ステージ部の高精度な駆動に支障が生じうるものであり、また、交換も容易ではない。
【0007】
本発明は、例えば、案内面の損傷を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としてのステージ装置は、ステージ部と、前記ステージ部の移動を案内する案内面を含む案内部材と、前記ステージ部に保持され且つ前記案内面に向けて気体を噴出する噴出部材と、前記ステージ部に保持され且つ前記案内面に対向した磁石と、を有するステージ装置であって、前記案内部材は、磁性体を含み且つ前記磁石に対向した突出部を含む磁性部材と、前記磁性部材の硬度より高い硬度を有し、前記磁性部材を被覆し、且つ前記案内面を有する被覆部材とを含む。
【0009】
本発明の他の側面としての露光装置は、基板を露光する露光装置であって、前記ステージ部として、マスクを搭載して移動するマスクステージ部または前記基板を搭載して移動する基板ステージ部を含む、前記ステージ装置を有する。
【0010】
本発明の他の側面としてのデバイス製造方法は、前記露光装置を用いて基板を露光する工程と、前記工程で露光された基板を現像する工程とを有する。
【0011】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、案内面の損傷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例における走査型投影露光装置の全体構成図である。
【図2】本実施例における基板ステージ部の概略構成図である。
【図3】本実施例における基板ステージ部(静圧軸受ガイド)の要部拡大図である。
【図4】本実施例における静圧軸受ガイドの製造手順である。
【図5】従来の基板ステージ部(静圧軸受ガイド)の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
本実施例は、露光装置(ステージ装置)に係り、特に、液晶表示素子、半導体素子、薄膜磁気ヘッド等のデバイスを製造するためのリソグラフィ工程に用いられる露光装置に関するものである。
【0016】
まず、図1を参照して、本実施例のステージ装置が搭載される露光装置の一例について説明する。図1は、本実施例における走査型投影露光装置の全体構成を示す概略図である。
【0017】
走査型投影露光装置100は、投影光学系10、マスクステージ部20、及び、基板ステージ部30を有する。マスクステージ部20及び基板ステージ部30は、Z方向において投影光学系10を挟むように配置されている。すなわち、マスクステージ部20は、投影光学系10の図中の上側(Z方向)に配置され、一方、基板ステージ部30は投影光学系10の図中の下側(−Z方向)に配置されている。マスクステージ部20及び基板ステージ部30は、それぞれ個別に移動可能であり、これらのステージの位置は、共に、レーザ干渉測長器50により計測制御が可能である。
【0018】
基板ステージ部30は、後述のステージ装置を備え、基板36を搭載して移動するように構成されている。基板ステージ部30は、本体ベース31上に配置されたYステージ32およびXステージ33を有する。Xステージ33およびYステージ32により構成されるXYステージの上に、θZステージ34が搭載されている。なお、図1に示されるように、X方向、Y方向、及びZ方向は互いに直交する方向である。θZステージ34の上には、基板チャック35が配置されている。基板チャック35は、露光対象である基板36を支持する。このように、基板36は、基板ステージ部30によりX、YおよびZ方向に移動可能であると共に、XY面内でも回転可能に支持されることになる。θZステージ34は、露光時、基板36の表面を投影光学系10の基板側焦点面に一致させるために用いられる。
【0019】
マスクステージ部20は、マスクステージ基盤21と、その上に配置されたXYθステージ基盤22とを備える。XYθステージ基盤22の上には、投影対象となるパタ−ンを有するマスク23が配置される。このように、マスクステージ部20は、マスク23を搭載して移動するように構成されており、マスク23は、X方向およびY方向に移動可能であると共に、XY面内で回転可能に支持される。
【0020】
マスクステージ部20の上方には、マスク23と基板36の像を投影光学系10を介して観察可能な観察光学系40が配置されている。さらに、観察光学系40の上方には、照明光学系41が配置されている。照明光学系41は、光源からの光を用いてマスク23のパターンを照明する。また、投影光学系10は、マスク23のパターンを基板36に投影する。
【0021】
マスクステージ部20および基板ステージ部30は、共に、レーザ干渉測長器50により位置の計測制御が行われる。レーザ干渉測長器50は、レーザヘッド51、干渉ミラー52、53およびθZステージ34に取り付けられた第1の反射ミラー54と、マスクステージ基盤21に取り付けられた第2の反射ミラー55とを有する。
【0022】
レーザ干渉測長器50のレーザビーム位置は、マスクステージ部20については、上下方向(投影光学系10の光軸方向、Z方向)ではほぼ投影光学系10のマスク側焦点面に設定され、水平面内(XY面内)ではほぼ投影光学系10の光軸位置に設定されている。一方、基板ステージ部30については、水平面内(XY面内)ではほぼ投影光学系10の光軸位置に設定されているが、上下方向(Z方向)では投影光学系10の基板側焦点面から下側に距離Lだけ変位した位置を通るように設定されている。
【0023】
次に、本実施例における基板ステージ部30の構成について、図2および図3を参照して説明する。図2は、本実施例における基板ステージ部30の概略構成図である。また、図3は、本実施例における基板ステージ部30の要部拡大図であり、図3(a)は斜視図であり、図3(b)は図3(a)中のB−Bで切断した断面図である。
【0024】
なお本実施例では、基板ステージ部30における静圧軸受ガイド(静圧軸受部)の構成について説明するが、これに限定されるものではない。本実施例の静圧軸受ガイドは、マスクステージ部20などの他のステージ装置にも適用可能である。すなわち、後述のステージ部4としては、マスクステージ部20や基板ステージ部30などの任意のステージ部が含まれる。
【0025】
図5に示されるように、従来の静圧軸受ガイド500(案内部材)は、金属材(火炎焼入鋼:[Hv]550、Hv:ビッカース硬さ)のみで構成されていた。一方、本実施例では、図3(a)、(b)に示されるように、静圧軸受ガイド5(案内部材)は、金属部7(例えば、フレームハード鋼 HPM7:[Hv]300)と、金属部7をコーティング(被覆)するセラミック部6(被覆部材)から構成される。セラミック部6を形成するセラミックとしては、金属部7の金属よりも硬度の高いセラミック(例えば、グレイアルミナセラミック:[Hv]1000)が用いられる。これにより、従来の約2倍の硬度を持った静圧軸受ガイド5を得ることが可能となる。
【0026】
本実施例のステージ装置は、ステージ部4、静圧軸受ガイド5、エアパッド2、および、永久磁石3(磁石)から構成される。本実施例のステージ部4は、Yステージ32、Xステージ33、θZステージ34、および、基板チャック35を含む。図3(a)に示されるように、基板36はステージ部4の上に搭載され、図中の矢印方向(Y軸方向)に駆動される。
【0027】
ステージ部4は、ステージ駆動部(不図示)により駆動され、基板36を支持しながら静圧軸受ガイド5(案内部材)のセラミック部6の案内面(表面)に沿って移動する。静圧軸受ガイド5は、ステージ部4の移動を案内する案内面を含む。また静圧軸受ガイド5は、磁性体を含み且つ永久磁石3に対向した突出部を含む磁性部材と、磁性部材の硬度より高い硬度を有し、磁性部材を被覆し、且つ案内面を有する被覆部材と、を含む。本実施例において、磁性部材として金属部7、また、被覆部材としてセラミック部6がそれぞれ用いられているが、これらに限定されるものではなく、他の材料を用いて構成してもよい。
【0028】
エアパッド2は、ステージ部4に保持されている。ステージ部4が移動するとき、ステージ部4に設けられたエアパッド2は、案内面であるセラミック部6に向けて気体を噴出する。このように、エアパッド2は、ステージ部4に保持され、且つ、被覆部材の案内面に向けて気体を噴出する噴出部材である。エアパッド2からの気体の噴出力により、ステージ部4はセラミック部6の表面(案内面)より数μm程度浮上する。
【0029】
また、ステージ部4には、両端のエアパッド2に挟まれるように永久磁石3(磁石)が設けられている。永久磁石3は、ステージ部4に保持され且つセラミック部6の案内面(表面)に対向するように配置されている。永久磁石3は、ステージ部4と静圧軸受ガイド5との間に予圧を与える予圧手段であり、ステージ部4を静圧軸受ガイド5に向かう方向へ付勢する。永久磁石3により予圧が与えられることにより、ステージ部4の剛性を高めることができる。
【0030】
本実施例の静圧軸受ガイド5では、磁性体としての金属部7の上に、セラミック部6がコーティングされている。このため、セラミック部6がコーティングされていない従来の静圧軸受ガイド500と比較して、永久磁石3により与えられる予圧が弱まってしまう。一方、セラミック部6が所定値以上の厚さを有しないと、静圧軸受ガイド5に対する損傷防止効果を十分に得ることができない場合がある。
【0031】
そこで、本実施例のステージ装置においては、静圧軸受ガイド5の母材(支持体)である金属部7が凹部7a(窪み部)および凸部7b(突出部)を有することにより、金属部7の上面に凹凸の段差が形成されている。図3(b)に示されるように、凹部7aは、気体を噴出するエアパッド2の下部に形成され、凸部7bは、永久磁石3の下部に形成されている。すなわち、金属部7の上面は、エアパッド2の下部において深く加工され、また、永久磁石3の下部において浅く加工されている。このような凹凸形状を有する金属部7の上に、セラミック部6がコーティングされている。
【0032】
このように、本実施例のセラミック部6の厚さについて、永久磁石3の下部におけるセラミック部6は、エアパッド2の下部におけるセラミック部6より薄い。換言すれば、永久磁石3の下面と金属部7の上面との間の距離は、エアパッド2の下面と金属部7の上面との間の距離より小さい。
【0033】
案内面として用いられるセラミック部6には、エアパッド2の下部において極めて高精度の平面度が要求される。一方、エアパッド2の下部のみにセラミック部6を形成しようとすると、金属部7の上面にコーティングされるセラミック部6が複数に分割されてしまう。セラミック部6が分割されると、セラミック部6における複数の表面の平坦加工が必要となり、セラミック部6の表面全体の平坦度を向上させることが困難である。
【0034】
このため、本実施例では、セラミック部6の表面を分割することなく一つの面で金属部7の上にコーティングする。このような構成により、セラミック部6の表面を高精度に加工でき、表面全体の平坦度を向上させることが可能になる。
【0035】
このように、本実施例では、金属部7に凹凸の段差を設け、金属部7の上面全体にコーティングしたセラミック部6を静圧軸受ガイド5の案内面としている。このような構成により、永久磁石3は静圧軸受ガイド5に対して十分な予圧を付与することができる。同時に、平坦性が良好で損傷に強い静圧軸受ガイド5を構成することが可能となる。
【0036】
次に、本実施例における静圧軸受ガイド5の製造手順について説明する。図4は、本実施例における静圧軸受ガイド5の製造手順の一例を示すフローである。
【0037】
まず、ステップS101において、静圧軸受ガイド5の母材となる金属部7の加工を行う。すなわち、金属部7の表面に凹部7aおよび凸部7bを形成する。凹部7aはエアパッド2の下部に位置する部分に形成され、凸部7bは永久磁石3の下部に位置する部分に形成される。凹部7aの上面と凸部7bの上面との差は、0.2〜0.25mm程度であることが好ましい。このように、金属部7の上面には凹凸形状が形成される。
【0038】
次に、ステップS102において、セラミック部6の材料となるセラミックを加熱および溶解し、金属部7の凹部7a(エアパッド2の下部に位置する部分)に吹き付ける(溶射する)。このとき、例えば0.2〜0.3mm程度の厚さのセラミックが溶射される。
【0039】
次に、ステップS103において、金属部7(静圧軸受ガイド5)の全面(凹部7aおよび凸部7b)に、セラミック部6の材料となるセラミックを溶射する。このとき、例えば0.1〜0.15mmの厚さのセラミックが溶射される。
【0040】
最後に、ステップS104において、セラミック部6(静圧軸受ガイド5)上面を平坦にするため、セラミック部6の研削および研磨を行う。このような研削および研磨により、セラミック部6(静圧軸受ガイド5)の上面の平坦度を高めることができる。
【0041】
本実施例によれば、静圧軸受ガイド(案内面)やエアパッドの損傷を低減させるステージ装置を提供することができる。また、ステージ装置を設置する際に、静圧軸受ガイドとエアパッドの接触を防ぐための静圧軸受ガイドの調整時間や、静圧軸受ガイドやエアパッドが損傷した場合の交換作業が無くなり、設置時間の短縮が可能となる。
【0042】
次に、本実施例におけるデバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイス等)の製造方法について例示する。
【0043】
半導体デバイスは、ウエハ(半導体基板)に集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程とを経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、ウエハを現像する工程とを含みうる。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)とを含みうる。また、液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を使用して、感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、ガラス基板を現像する工程とを含みうる。
【0044】
本実施例のデバイス製造方法は、デバイスの生産性および品質の少なくとも一方において従来よりも有利である。
【0045】
以上、本発明の実施例について具体的に説明した。ただし、本発明は上記実施例として記載された事項に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
2:エアパッド
3:永久磁石
4:ステージ部
5:静圧軸受ガイド
6:セラミック部
7:金属部
20:マスクステージ部
30:基板ステージ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ部と、
前記ステージ部の移動を案内する案内面を含む案内部材と、
前記ステージ部に保持され且つ前記案内面に向けて気体を噴出する噴出部材と、
前記ステージ部に保持され且つ前記案内面に対向した磁石と、
を有するステージ装置であって、
前記案内部材は、
磁性体を含み且つ前記磁石に対向した突出部を含む磁性部材と、
前記磁性部材の硬度より高い硬度を有し、前記磁性部材を被覆し、且つ前記案内面を有する被覆部材と、
を含むことを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
前記被覆部材は、セラミックで形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
基板を露光する露光装置であって、
前記ステージ部として、マスクを搭載して移動するマスクステージ部または前記基板を搭載して移動する基板ステージ部を含む、請求項1又は2に記載のステージ装置、
を有することを特徴とする露光装置。
【請求項4】
請求項3に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記工程で露光された基板を現像する工程と、
を有することを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−278042(P2010−278042A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126030(P2009−126030)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】