説明

スパッタリング方法およびスパッタリング装置

【課題】粉末ターゲットを用いて、酸素の含有率の少ない高品質なシリコン薄膜を高速で成膜することができるスパッタリング方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】スパッタ成膜を行う前段階に、ターゲット材料8近傍に設置した高融点金属フィラメント14を加熱することで、真空チャンバ1内に導入したガスを分解し活性種を生成する。この活性種を用いて、ターゲット材料8表面の酸化膜の還元や真空チャンバ壁及び部材についた堆積膜の除去を行うことで、スパッタ成膜中の酸素量を低減させ、高品質なシリコン薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン系材料の薄膜形成に係り、とくに、半導体装置や太陽電池などに用いられる半導体基板上やガラス基板上に電子素子を形成するための薄膜形成方法、液晶パネルや太陽電池などに用いられる基板に半導体薄膜を形成するためのスパッタリング方法およびスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系薄膜は、液晶表示装置や有機EL表示装置などの画素回路を構成するスイッチング素子、或いは液晶駆動用ドライバの回路素子などの薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)や太陽電池などに広く利用されている。
【0003】
その中で薄膜シリコン太陽電池は、結晶系シリコン太陽電池に比べ、圧倒的に材料使用量が少ないことから、将来の大規模発電用低コスト太陽電池として期待されている。現在、薄膜シリコン太陽電池の中で実用化されているのは、アモルファスシリコン太陽電池である。アモルファスシリコンは、低波長感度が高く、発電層の厚みは、300nm程度で十分であるという利点を有するが、発電効率が悪いという問題があった。そのため、更なる発電効率の向上ため、より長波長感度の高いマイクロクリスタルシリコン(微結晶シリコン)と組み合わせたタンデム型太陽電池(アモルファスシリコン/マイクロクリスタルシリコンの積層構造)が開発されている。しかしながら、マイクロクリスタルシリコンの発電層は、2〜3μm程度の膜厚が必要となり、生産タクト、生産コスト低減の面からもシリコンの高速成膜が強く望まれている。
【0004】
これらに薄膜シリコン太陽電池に用いられるシリコン系薄膜を形成する方法としては、一般的には、プラズマ化学気層堆積(Chemical Vapor Deposition:CVD)法が用いられる。真空チャンバの内に、SIH4、Si26やSiF4等の原料ガスおよびH2やArなどの希釈ガスを導入し、電極に高周波電力を印加することで、プラズマを発生させ、原料ガスを分解し、所望の基板に水素化アモルファスシリコン膜、微結晶シリコン膜やポリシリコン膜などを形成する方法である。成膜中にドーピングガスを混ぜることで、p型やn型シリコン膜が容易に得られることやシリコン膜中に水素を多く含むことで膜欠陥の少ない高品質なシリコン薄膜が得られることから使用されている。
【0005】
その他のシリコン系薄膜の形成方法として、近年、有害で危険なSiH4,Si26やSiF4などの原料ガスを使用せず、また、高額な除害装置や設備を必要とせず、さらに、プラスチック基板等への低温で大面積に成膜することが可能なスパッタリング法も見直されている。(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
スパッタリングの成膜速度および生産性の向上においては、ターゲットとして粉末材料を使用するスパッタリング方法および装置が知られている。(特許文献1参照)。
【0007】
図6は、上記特許文献1に記載された従来例のスパッタ装置の概略構成を示している。
【0008】
同図において、真空チャンバ1の内に、カソード部2およびカソード部2と対向して基板3を保持する基板載置台4を設置されている。カソード部2は、底部の水冷ジャケット上に、断熱プレート5、さらにその上に加熱手段であるヒータ6が設置されている。ヒータ6には温度制御用の熱電対7が設けられている。ヒータ6の上部に、粉末状のターゲット材料8を載置できるトレー9が配置されている。ターゲット材料8として酸化マグネシウム( M g O ) の粉末(2 0 0 n m 〜 7 0 μ m)を使用した。ターゲット材料8の周囲にアースシールド10が設置され、ターゲット材料8の裏面側にはマグネトロン放電用磁石11が設置されている。
【0009】
このような構成において、真空チャンバ1内にArガスを導入し、真空チャンバ1内を一定の圧力に調圧し、高周波電源12からマッチングボックス13を介して高周波電力をターゲット材料8に印加することでプラズマを生成する。プラズマが生成すると、ターゲット材料8の表面温度は、急激に上昇し、ターゲット材料8の表面温度が安定したところでトレー9上にあるシャッタ(図示せず)を開け、成膜を開始した。このように粉末ターゲットを用いた場合、焼結ターゲットを用いたスパッタリング法に比べ約4〜5倍の成膜速度が得られている。
【0010】
他に、スパッタ成膜中にHラジカル(活性種)を真空チャンバ内に導入し、ポリシリコン薄膜を形成するスパッタリング法が提案されている。(例えば、非特許文献2参照)。
【0011】
図7は、上記非特許文献2に記載された従来例のスパッタ装置の概略構成を示している。真空チャンバ1内にシリコンターゲット78と対向して基板73を設置している。真空チャンバ1内には、Ar及びH2ガスを導入し、高周波電源12からマッチングボックス13を介して高周波電力をシリコンターゲット78に印加することでスパッタを行う。基板3の側面方向には、新たに誘導結合型プラズマ(ICP)発生装置20を付帯し、スパッタ成膜中にそのプラズマからHラジカル(活性種)を供給する。
【0012】
これにより、結晶性の高いシリコン薄膜を得ることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−29859号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】芹川 正,“スパッタリング法によるSi膜と高性能多結晶Si薄膜トランジスタ”,電子情報通信学会技術報告.SDM,シリコン材料・デバイス 110(15),23−28,2010
【非特許文献2】K.Fukaya et al.,“Enhancement of Crystal Growth in Si Thin−Film Deposition by H−Radical−Assisted Magnetron Sputtering”,Japanese Journal of Applied Physics 49(2010)015501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記特許文献1に記載のスパッタリング方法では、粉末のターゲット材料を用いるため、ターゲット材料の表面積が大きく、自然酸化膜などの表面についた酸化膜の割合が高いため、スパッタリング成膜中に酸素が混入するという問題があった。また、スパッタリングの前段階として長時間のプリスパッタ(酸化膜除去)工程が必要となり、材料使用効率が極端に悪くなるという問題があった。
【0016】
つまり、酸素を含有する酸化物(例えば、酸化マグネシウム)のスパッタリング方法としては問題なかったが、太陽電池や薄膜TFTに使用される酸素の含有率が少ない高品質なシリコン薄膜形成用のスパッタリング方法としては不向きであった。
【0017】
また、上記非特許文献2に記載のスパッタリング方法においては、高額な誘導結合型プラズマの装置を付帯することや、Hラジカル(活性種)の生成が一箇所であるため大面積に均一な処理は難しく、大型基板を用いたスパッタ装置への応用は困難であった。
【0018】
本発明は、上述のような課題に鑑みなされたもので、粉末ターゲットを用いて、酸素の含有率の少ない高品質なシリコン薄膜を高速で成膜することができるスパッタ装置及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明のスパッタリング方法は、スパッタ成膜を行う前段階として、加熱手段によりガスを分解させることで活性種を生成し、活性種による化学的エッチングによって、ターゲット材料の表面についた不純物の除去および前記ターゲット材料表面の酸化膜の還元を行う工程を有すること特徴とする。
【0020】
このような構成により、ターゲット材料の表面にある不純物の除去やターゲット材料表面の酸化膜が還元され、酸素の含有率の少ない膜を成膜することができる。また、ガスを分解させるための加熱手段による輻射熱によりターゲット材料も加熱され、ターゲット材料表面の還元が効率よくできる。また、プリスパッタ工程とは異なり酸化膜をスパッタすることがないので、真空チャンバ壁や真空部材に酸素の含有した膜が堆積されることがなく、スパッタ成膜中に堆積膜から酸素が放出されないため、酸素の少ない状態でスパッタ膜を形成することができる。さらに、ターゲット材料をスパッタしないので、材料使用効率を上げることができる。
【0021】
また、好適には、前記ターゲット材料には、シリコンなどの酸素を含有しない材料であることが望ましい。
【0022】
このような構成により、半導体装置、太陽電池、液晶パネルなどで用いられるシリコン薄膜を形成することができる。
【0023】
また、好適には、前記ターゲット材料には、シリコンの粉末や小片、チップやウェハなど用いることが望ましい。
【0024】
このような構成により、高速でスパッタリングすることができるため、生産性向上が期待できる。
【0025】
また、好適には、前記ガスは、水素を含むガスであることが望ましい。
【0026】
このような構成により、シリコン薄膜の品質向上を図ることができる。
【0027】
本願発明のスパッタリング方法は、スパッタ成膜を行う前段階として、加熱手段によりガスを分解させることで活性種を生成し、活性種による化学的エッチングによって、真空チャンバ壁の表面についた堆積膜の除去および堆積膜表面の酸化膜の還元を行う工程を有すること特徴とする。
【0028】
このような構成により、真空チャンバ壁や他の部材に堆積した膜の除去およびその表面についた酸化膜の還元できるので、スパッタ成膜中に堆積膜から酸素が放出されないため、酸素の少ない状態でスパッタ膜を形成することができる。また、ガスを分解させるための加熱による輻射熱により真空チャンバ壁や他の部材も加熱され、堆積膜の除去や堆積膜表面の酸化膜の還元が効率よくできる。
【0029】
また、好適には、前記ガスは、水素を含むガスであることが望ましい。
【0030】
このような構成により、シリコン薄膜の品質向上を図ることができる。
【0031】
本願発明のスパッタリング方法は、スパッタ成膜中において、加熱手段によりガスを分解し活性種を生成させ、化学的エッチング効果によって、前記ターゲットのスパッタ速度を向上させ、スパッタで形成した膜中に活性種を取込ませること特徴とする。
【0032】
このような構成により、活性種による化学的エッチング効果により高速でスパッタリングでき、高品質な膜を形成することができる。また、ガスを分解させるための加熱による輻射熱によりターゲット材料も加熱され、より高速な成膜が可能になる。
【0033】
また、好適には、前記ターゲット材料には、シリコンなどの酸素を含有しない材料であることが望ましい。
【0034】
このような構成により、半導体装置、太陽電池、液晶パネルなどで用いられるシリコン薄膜を形成することができる。
【0035】
また、好適には、前記ターゲット材料には、シリコンの粉末や小片、チップやウェハなど用いることが望ましい。
【0036】
このような構成により、高速でスパッタリングすることができるため、生産性向上が期待できる。
【0037】
また、好適には、前記ガスは、水素を含むガスであることが望ましい。
【0038】
このような構成により、シリコン薄膜の品質向上を図ることができる。
【0039】
本願発明のスパッタ装置は、真空チャンバと、前記チャンバ内にガスを供給するガス導入口と、ターゲットと、かつ前記ターゲットと対向して設置する基板を保持する基板載置台と、を有し、前記基材に前記ターゲット材料の薄膜を形成するスパッタ装置であって、
前記スパッタ用ターゲット近傍に高融点金属フィラメントを備え、
前記高融点金属フィラメントを加熱できる機構を有することを特徴とする。
【0040】
このような構成により、スパッタ成膜前段階に高融点金属フィラメントの加熱を行うことで、ターゲット材料の表面にある不純物の除去やターゲット材料表面の酸化膜が還元され、酸素の含有率の少ない膜を成膜することができる。また、真空チャンバ壁や他の部材に堆積した膜及びその表面についた酸化膜の除去ができるので、スパッタ成膜中に堆積膜から酸素が放出されないため、酸素の少ない状態でスパッタ膜を形成することができる。さらに、スパッタ成膜中に高融点金属フィラメントに加熱を行うことで、高速でスパッタリングでき、高品質な膜を形成することができる。
【0041】
また、好適には、前記高融点金属フィラメントは、前記ターゲットと前記チャンバ壁の間で、前記ターゲットを取り囲むように設置することが望ましい。
【0042】
このような構成により、真空チャンバ壁や他の部材に堆積した膜及びその表面についた酸化膜の除去ができるので、スパッタ成膜中に堆積膜から酸素が放出されないため、酸素の少ない状態でスパッタ膜を形成することができる。
【0043】
また、好適には、前記高融点金属フィラメントは、前記ターゲットと前記基板載置台の間に設置しても良い。
【0044】
このような構成により、より効果的にターゲット材料の不純物及びターゲット材料表面の酸化膜を除去することができる。
【0045】
また、好適には、前記スパッタ用ターゲットと前記基板載置台の間に設置し、前記スパッタ用ターゲットと前記基板載置台の間以外に移動可能とする移動機構を有しても良い。
【0046】
このような構成により、スパッタ成膜中に高融点金属フィラメントからでるコンタミを軽減することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、粉末ターゲットを用いて、酸素の含有率の少ない高品質なシリコン薄膜を高速で成膜することができるスパッタリング方法およびスパッタリング装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1におけるスパッタ装置の構成を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるスパッタ装置の構成を示す上面図
【図3】本発明の実施の形態2におけるスパッタ装置の構成を示す断面図
【図4】本発明の実施の形態3におけるスパッタ装置の構成を示す断面図
【図5】本発明の実施の形態3におけるスパッタ装置の構成を示す上面図
【図6】特許文献1におけるスパッタリング装置の構成を示す断面図
【図7】非特許文献2におけるスパッタリング装置の構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施の形態におけるスパッタ装置について図面を用いて説明する。
【0050】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について、図1および図2を参照して説明する。
【0051】
図1および図2は本発明の実施の形態1におけるスパッタ装置の構成を示すもので、図1は断面の概略図、図2は上面からみた概略図を示す。
【0052】
図1において、真空チャンバ1の内に、カソード部2およびカソード部2と対向して基板3を保持する基板載置台4を設置した。カソード部2は、底部の水冷ジャケット上に、断熱プレート5、さらにその上にターゲット材料8を加熱するヒータ6が設置する。ヒータ6には温度制御用の熱電対7が設けられている。ヒータ6の上部に、粉末状のターゲット材料8を載置できるトレー9が配置されている。ターゲット材料8としてシリコンの粉末(約1 μ m)を使用した。
【0053】
今回は、シリコン粉末材料を使用したが、シリコンの焼結ターゲット、シリコンウェハ、シリコンのチップやシリコンの小片などシリコン材料を用いてもよい。そのシリコン材料は、ボロン(B)、アルミニウム(Al)やリン(P)、砒素(As)などの不純物が微量にドーピングされたシリコン材料、不純物がドーピングされていないシリコン材料でも良い。これにより、太陽電池等に使用するp型、n型シリコンやi層シリコン薄膜などを形成することができる。
【0054】
ターゲット材料8の周囲にアースシールド10が設置され、ターゲット材料8の裏面側にはマグネトロン放電用磁石11が設置されている。ターゲット材料8の近傍にターゲット材料8を取り囲むように高融点金属フィラメント14(タングステン)を設置した。
【0055】
今回は、高融点金属フィラメント14にはタングステン(W)を使用したが、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)やその合金を使用しても良い。
【0056】
高融点金属フィラメント14には、直流電源15が取付けられており、その直流電源15の電流によって高融点金属フィラメント14の温度を1500〜2200℃程度を調整することができる。
【0057】
ArおよびH2ガスをマスフローメータを介し真空チャンバ1内に導入し(各0〜200sccm)、チャンバ内を一定の圧力に調圧(0.1〜100Pa)した。その後、高融点金属フィラメント14を2000℃程度に加熱し、H2ガスが加熱された高融点金属フィラメント14に衝突することで分解されHラジカル(活性種)を生成される。このHラジカルを用いて、ターゲット材料8表面にある不純物の除去やターゲット材料8表面の酸化膜の還元をすることができる。また、高融点金属フィラメント14を2000℃程度まで加熱させるので、その輻射熱によりターゲット材料8も加熱され、ターゲット材料8表面の効率よく還元することできる。また、真空チャンバ壁や他の部材に堆積した膜の除去およびその表面についた酸化膜の還元が効率よくできる。
【0058】
ターゲット材料8の表面温度の上昇や四重極質量分析器(QMS)による真空チャンバ1内の酸素原子ならびに酸素分子に寄与する信号強度の低下が安定してきたら、13.56MHzの高周波電力を高周波電源12からマッチングボックス13を介してターゲット材料8に印加することで、基板3にシリコン薄膜膜のスパッタ成膜を開始する。これにより、ターゲット材料8の表面の酸化膜や真空チャンバ壁や他の部材に堆積した膜及びその表面についた酸化膜の除去ができるので、スパッタ成膜中に堆積膜から酸素が放出されないため、酸素の少ない状態でスパッタ膜を形成することができる。
【0059】
スパッタ成膜中においても、高融点金属フィラメント14を加熱することで真空チャンバ1内のH2ガスが分解され、Hラジカル(活性種)が多く生成し、基板3上に成膜したシリコン膜の品質を向上させたり、シリコン膜の結晶性を向上させたりすることができる。また、高融点金属フィラメント14からの輻射熱によりターゲット材料8が加熱され、より高速成膜が可能となる。
【0060】
特許文献1では、粉末ターゲット材料の表面酸化膜によって、酸素の含有率が少ない高品質なシリコン薄膜形成には不向きであったが、本実施の形態においては、高融点金属フィラメント14の熱によりH2ガスが分解しHラジカルを多く生成するため、ターゲット材料の表面にある不純物の除去やターゲット材料表面の酸化膜が還元され、酸素の含有率の少ない膜を成膜することができる。また、高融点金属フィラメント14の加熱することによる輻射熱によりターゲット材料も加熱され、ターゲット材料表面の還元が効率よくできる。
【0061】
さらに、真空チャンバ壁や他の部材に堆積した膜及びその表面についた酸化膜の除去ができるので、スパッタ成膜中に堆積膜から酸素が放出されないため、酸素の少ない状態でスパッタ膜を形成することができる。
【0062】
非特許文献2では、高額な誘導結合型プラズマの装置を付帯することや、Hラジカル(活性種)の生成が一箇所であるため大面積に均一な処理は困難であったが、本実施の形態においては、高額な装置を必要とせず、高融点金属フィラメント14の形状によって大面積、均一にHラジカル(活性種)を形成させることは容易である。
【0063】
一般的なプリスパッタ工程とは異なり酸化膜をスパッタすることがないので、真空チャンバ壁や真空部材に酸素の含有した膜が堆積されることがなく、堆積膜の除去も行うのでスパッタ成膜中に堆積膜から酸素が放出されないため、酸素の少ない状態でスパッタ膜を形成することができる。さらに、ターゲット材料をスパッタしないので、材料使用効率を上げることができる。
【0064】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について、図3を参照して説明する。
【0065】
図3は本発明の実施の形態2におけるスパッタ装置の断面図である。
【0066】
本発明の実施の形態2においては、実施の形態1との違いは、高融点金属フィラメント14の設置位置の違いであるので、それ以外の説明は省略する。
【0067】
高融点金属フィラメント14は、ターゲット材料8の上方でターゲット材料8と基板3の間に設置する。これにより、Hラジカル(活性種)が生成される場所が、ターゲット材料と近くなるため、より効果的にターゲット材料の表面にある不純物の除去やターゲット材料表面の酸化膜が還元することができる。また、高融点金属フィラメント14とターゲット材料8の距離が近くに設置できるため、高融点金属フィラメント14からの輻射熱も大きくなり、ターゲット材料の表面にある不純物の除去やターゲット材料表面の酸化膜の還元が効果的に行うことができる。
【0068】
スパッタ成膜中には、高融点金属フィラメント14をターゲット材料8と基板3の間以外の場所に動かしてもよい。これにより、スパッタ成膜中に高融点金属フィラメント14の材料によるコンタミを低減することができるため、さらに高品質なシリコン薄膜を形成することができる。
【0069】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3について、図4および図5を参照して説明する。
【0070】
図4および図5は本発明の実施の形態3におけるスパッタ装置の構成を示すもので、図4は断面の概略図、図5は上面からみた概略図を示す。
【0071】
本発明の実施の形態3においては、実施の形態1との違いは、太陽電池や液晶パネルなどに使用される大型基板を用いたときの大型装置であるため、それ以外の説明は省略する。
【0072】
図4および図5に示したように大型真空チャンバ内の大型の基板3は、図の左側から右側に移動していく間に、カソード部2の上面を通過する際にシリコン薄膜が成膜される。これにより、高額な装置を必要とせず、高速で大面積に均一にシリコン薄膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように本発明は、シリコン系材料の薄膜形成に係り、とくに、半導体装置や太陽電池などに用いられる半導体基板上やガラス基板上に電子素子を形成するための薄膜形成方法、液晶パネルや太陽電池などに用いられる基板に半導体薄膜を形成するためのスパッタ成膜装置及びその方法として有用な発明である。
【符号の説明】
【0074】
1 真空チャンバ
2 カソード部
3,73 基板
4 基板載置台
5 断熱プレート
6 ヒータ
7 熱電対
8 ターゲット材料
9 トレー
10 アースシールド
11 マグネトロン放電用磁石
12 高周波電源
13 マッチングボックス
14 高融点金属フィラメント
15 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ成膜を行う前段階として、加熱手段によりガスを分解させることで活性種を生成し、活性種による化学的エッチングによって、ターゲット材料の表面についた不純物の除去および前記ターゲット材料表面の酸化膜の還元を行う工程を有すること、
特徴とするスパッタリング方法。
【請求項2】
前記ターゲット材料は、酸素を含有しない材料である、請求項1記載のスパッタリング方法。
【請求項3】
前記ターゲット材料は、シリコンの粉末や小片、チップやウェハの何れかからなる、請求項1記載のスパッタリング方法。
【請求項4】
前記ガスは、水素を含むガスである、請求項1〜3の何れか一項に記載のスパッタリング方法。
【請求項5】
スパッタ成膜を行う前段階として、加熱手段によりガスを分解させることで活性種を生成し、活性種による化学的エッチングによって、真空チャンバ壁の表面についた堆積膜の除去および堆積膜表面の酸化膜の還元を行う工程を有すること、
特徴とするスパッタリング方法。
【請求項6】
前記ガスは、水素を含むガスである、請求項5記載のスパッタリング方法。
【請求項7】
スパッタ成膜中において、加熱手段によりガスを分解し活性種を生成させ、化学的エッチング効果によって、前記ターゲットのスパッタ速度を向上させ、スパッタで形成した膜中に活性種を取込ませること、
特徴とするスパッタリング方法。
【請求項8】
前記ターゲット材料は、酸素を含有しない材料である、請求項7記載のスパッタリング方法。
【請求項9】
前記ターゲット材料は、シリコンの粉末や小片、チップやウェハの何れかからなる、請求項7記載のスパッタリング方法。
【請求項10】
前記ガスは、水素を含むガスである、請求項5〜9の何れか一項に記載のスパッタリング方法。
【請求項11】
真空チャンバと、前記真空チャンバ内にガスを供給するガス導入口と、ターゲットと、かつ前記ターゲットと対向して設置する基板を保持する基板載置台と、を有し、前記基板に前記ターゲット材料の薄膜を形成するスパッタ装置であって、
前記ターゲットの近傍に高融点金属フィラメントを備え、
前記高融点金属フィラメントを加熱できる機構を有すること
を特徴とするスパッタリング装置。
【請求項12】
前記高融点金属フィラメントは、
前記ターゲットと前記チャンバ壁の間で、前記ターゲットを取り囲んで設置される、請求項11記載のスパッタリング装置。
【請求項13】
前記高融点金属フィラメントは、
前記ターゲットと前記基板載置台の間に設置される、請求項11又は2に記載のスパッタリング装置。
【請求項14】
前記高融点金属フィラメントは、
前記ターゲットと前記基板載置台の間に設置され、
前記ターゲットと前記基板載置台の間以外に移動可能とする移動機構を有する、請求項11記載のスパッタリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−238637(P2012−238637A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104982(P2011−104982)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】