説明

スピン蓄積磁化反転型のメモリ素子及びスピンRAM

【課題】 耐久性に優れたスピンメモリの実現。
【解決手段】 強磁性ワード線と、強磁性ワード線と交差する非磁性ビット線と、強磁性ワード線と対向する配線と、強磁性ワード線及び非磁性ビット線の交差部分と配線との間に設けられた磁気抵抗効果素子201とを備える。書き込み動作時には、強磁性ワード線と前記非磁性ビット線との間に電流を流し、強磁性ワード線から非磁性ビット線にスピンを蓄積させることで磁気抵抗効果素子の自由層の磁化方向を反転させる。読み出し動作時には、非磁性ビット線と配線との間に電流を流し、磁気抵抗効果素子の膜厚方向に電流を流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン蓄積技術を用い、磁気抵抗効果素子を備えた磁気記録・再生メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)に代表されるメモリの分野では高速、高集積、低消費電力という3つの要求を満たす、新しいメモリの研究開発が世界中で行われている。これらの条件を満たし、さらに不揮発性を有するメモリの候補として、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は非常に期待されている。
【0003】
このMRAMは、トンネル磁気抵抗(TMR)効果素子をアレイ状に並べた構造になっている。TMR素子は二つの強磁性層で、トンネル障壁として用いられる絶縁層を挟んだ構造が基本となっている。TMR効果は、この二つの強磁性体の磁化の向きが、平行・反平行の場合でTMR素子の抵抗が大きく変わるというものである。1990年代は絶縁層に酸化アルミニウムを用いたTMR素子が研究されてきたが、近年になって注目されつつある酸化マグネシウムを絶縁層に用いた場合では300%を超えるものも報告されている。これらは非特許文献1などに記載されている。
【0004】
【非特許文献1】Jun Hayakawa, Shoji Ikeda, Young Min Lee, Ryutaro Sasaki, Toshiyasu Meguto, Fumihiro Matsukura, Hiromasa Takahashi and Hideo Ohno, “Current-Driven Magnetization Switching in CoFeB/MgO/CoFeB Magnetic Tunnel Junctions”, Jpn. J. Appl. Phys. 44, L1267 (2005).
【非特許文献2】F. J. Jedema, H. B. Heersche, A. T. Filip, J. J. A. Baselmans and B. J. van Wees, “Electrical detection of spin precession a metallic mesoscopic spin valve”, Nature 416, 713 (2002).
【非特許文献3】T. Kimura, Y. Otani and J. Hamrle, “Switching Magnetization of a Nanoscale Ferromagnetic Particle Using Nonlocal Spin Injection”, Phys. Rev. Lett. 96, 037201 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
TMR効果を用いたMRAMでは、絶縁層を介した2つの強磁性体の磁化が、平行または反平行に配置されたときの抵抗の差によって読み出しを行っている。
【0006】
書き込みは、2つの強磁性体の保磁力に差をつけ、外部磁界によって一方の磁化を反転させることで実現されている。外部磁界はビット線/ワード線に流れる電流が作る合成磁界を用いるのが一般的である。
【0007】
ここで、磁化が反転する強磁性層を自由層、反転しない強磁性層を固定層とする。しかし、この外部磁界による書き込み方式では、集積度を上げるためにトンネル磁気抵抗素子(TMR素子)を小さくすると、自由層の保磁力の増大によって外部磁界による自由層の磁化反転が困難になる。
【0008】
また磁界印加のために電流を流す配線を微細化すると、電流密度が上がってしまい配線が切れてしまう。さらに、この配線に電流を流すと配線近傍のTMR素子にも磁界がかかるため、書き込みたいTMR素子以外の素子も書き換わってしまうディスターバンスの問題がある。
【0009】
このため、書き込み技術としてスピントルクを用いたスピン注入磁化反転技術が注目されているが、読み出し電流経路と書き込み電流経路が同じ経路になるため、読み出し電流と書き込み電流の十分な差がないと、読み出し電流によって書き込みが行われてしまう可能性がある。
【0010】
さらに書き込み時に大きな電流密度を必要とするため、TMR素子の絶縁破壊が起こりやすく、また大電流に対応したトランジスタが必要になるという欠点が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明に係るスピン蓄積磁化反転型のメモリ素子及び磁気メモリは、強磁性ワード線と、強磁性ワード線と交差する非磁性ビット線と、強磁性ワード線と対向する配線と、強磁性ワード線及び非磁性ビット線の交差部分と配線との間に設けられた磁気抵抗効果素子とを備え、磁気抵抗効果素子は、配線側に設けられた第1の強磁性層と、強磁性ワード線側に設けられた第2の強磁性層と、第1の強磁性層と第2の強磁性層との間に設けられた非磁性層とを有する。
【0012】
書き込み動作時には、強磁性ワード線と前記非磁性ビット線との間に電流を流し、強磁性ワード線から非磁性ビット線にスピンを蓄積させることで第2の強磁性層の磁化方向を反転させる。
【0013】
このように、アップスピンが蓄積されることにより、第2の強磁性層の磁化方向は、強磁性ワード線1の磁化方向と平行になり、ダウンスピンが蓄積されることにより、第2の強磁性層の磁化方向は、強磁性の第1ワード線の磁化方向と反平行になる。
【0014】
また、読み出し動作時には、非磁性ビット線と配線との間に電流を流し、磁気抵抗効果素子の膜厚方向に電流を流す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、書き込み動作時と読み出し動作時とで電流経路が異なり、読み出し時に誤書き込みが起こる危険が少なくなる。また、書き込み動作時には、大きな書き込み電流が磁気抵抗効果素子に直接流れず、読み出し動作時にのみ、読み出し電流が磁気抵抗効果素子に流れるので、書き込み時に記憶保持部分である磁気抵抗効果素子に印加する電流量を小さくすることが可能である。従って、磁気抵抗効果素子にかかる電圧は小さく、耐久性に優れたスピンメモリを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用したスピン蓄積磁化反転型のメモリ素子及び磁気メモリについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
<実施例1>
図1に、本発明を適用した磁気メモリを示す。この磁気メモリ100は、格子状に並べられた複数の強磁性書き込みワード線101と複数の非磁性ビット線102とを有する。強磁性書き込みワード線101と非磁性ビット線102とが交差する部分には、メモリ素子103が配置されている。メモリ素子103は金属配線層104を介してトランジスタ105のソース電極に接続されている。
【0018】
また、複数の非磁性読み出しワード線106は、メモリ素子103を介して強磁性書き込みワード線101と平行に配置されており、トランジスタ105のゲート電極に電気的に接続されている。複数のソース線107は、非磁性ビット線102と平行に配置され、トランジスタ105のドレイン電極に電気的に接続されている。ソース線107としては、例えば非磁性体を用いる。
【0019】
メモリ素子103は、図2に示すように、強磁性書き込みワード線101と非磁性ビットが交差する位置に、強磁性書き込みワード線101と金属配線層104の間に磁気抵抗効果素子201が形成されたものである。
【0020】
磁気抵抗効果素子201は、金属配線層104側から第1の強磁性層(固定層)202、第1の非磁性層203、第2の強磁性層(自由層)204が積層されている。このとき、第1の強磁性層の磁化207と第2の強磁性層の磁化の向き206が平行に配置されているか、反平行に配置されているかで磁気抵抗効果素子201の抵抗値が決定される。
【0021】
従って、第1の強磁性層の磁化は、反強磁性結合などを用いて強磁性書き込みビット線の方向に固定されていることが望ましい。ここで、第2の強磁性層は非磁性ビット線102に電気的に接続されている。また、非磁性ビット線102は、強磁性書き込みワード線101に電気的に接続されている。
【0022】
さて、本発明では、磁気抵抗効果素子の自由層への磁化方向の書き込みに、スピン蓄積技術を用いる。この技術は、強磁性層に非磁性層を接続し、強磁性層からスピン分極した電子を非磁性層に注入することで実現される。
【0023】
例えば非特許文献2にあるように、非磁性層中に注入されたスピン分極電子は、非磁性層のスピン拡散長の範囲に渡って、非磁性層中にスピンの不均衡を生じさせる。さらに非磁性体の他端に強磁性層を接続させ、二つの強磁性層で非磁性層を挟んだ構造を考える。
【0024】
この場合、非特許文献3にあるように、一方の強磁性層から非磁性層にスピン分極した電子を注入して非磁性層中にスピンを蓄積させると、他方の強磁性層はそのスピンを吸収することができる。また、スピン注入側の強磁性層と、非磁性層の状態密度を考えると、電流の向きによって非磁性層中に蓄積されるスピンの向きを変えることができる。
【0025】
このため、スピン吸収側の強磁性層は、非磁性層の磁化の向きに対応して磁化の向きを変えることになる。即ち、電流の向きによって磁化の向きの書き換えが可能になる。
【0026】
このようなスピン蓄積方式を、磁気抵抗効果素子の自由層の磁化の向きの書き換えに用いる。実施例1の磁気抵抗効果素子201は、第1の強磁性層202(固定層)と、第2の強磁性層204(自由層)は、絶縁層203(中間層)を介して電気的に接続されており、前記第2の強磁性層204の磁化方向によって、磁気抵抗効果を示す構造になっている。
【0027】
前記第2の強磁性層204は、非磁性ビット線102に電気的に接続されている。また、前記非磁性ビット線102と交差するように、強磁性体の書き込みワード線101が接続されている。
【0028】
ここで、強磁性書き込みワード線101の方向と、第1の強磁性層202と第2の強磁性層204の磁化容易軸方向が一致するよう構成する。第1の強磁性体202は、金属配線層104及びトランジスタ105を介してソース線107に電気的に接続されている。トランジスタ105のゲート電極は、読み出しワード線106に電気的に接続されている。
【0029】
なお、スイッチング素子の一つとしてトランジスタを用いているが、本発明はこれに限定されない。
【0030】
書き込み動作であるが、強磁性書き込みワード線101と非磁性ビット線102との間に書き込み電流205を流し、第2の強磁性層の磁化方向206を電流の向きに応じた方向に書き換える。非磁性ビット線102を流れる電流の向きは、図2(a)の右向きでも左向きでも構わない。
【0031】
具体的には磁気メモリにおいて1つの強磁性書き込みワード線101と1つの非磁性ビット線102を選択すると、その交点にあるメモリ素子103近傍の非磁性ビット線102に強磁性書き込みワード線101からスピンが注入される。注入されたスピンは非磁性ビット線102中に蓄積する。
【0032】
書き込みワード線101は強磁性体で構成されているので、書き込みワード線101から非磁性ビット線102に電子を注入すると、強磁性書き込みワード線101のスピンと同じ向きのスピンが、非磁性ビット線102中に蓄積する。
【0033】
非磁性ビット線102に蓄積されたスピンはビット線中を拡散し、第2の強磁性層204に吸収される。このため、第2の強磁性層の磁化は、書き込み電流がある閾値を超えると、強磁性書き込みワード線101の磁化方向208と同じ向きになる。
【0034】
一方、非磁性ビット線102から強磁性書き込みワード線101に電子を注入すると、強磁性書き込みワード線101のスピンと同じ向きのスピンを持つ電子が、書き込みワード線101を通過しやすいので、書き込みワード線101のスピンと逆向きのスピンが、非磁性ビット線102中に蓄積される。
【0035】
このスピンが非磁性ビット線102中を拡散し、第2の強磁性体204に吸収されるので、第2の強磁性層204の磁化は、書き込み電流がある閾値を超えると、強磁性書き込みワード線101の磁化方向208と逆向きになる。
【0036】
つまり、電流の向きによって、第2の強磁性層の磁化方向を、書き換えることができる。以下、図面3に基づいて詳細に書き込み動作を説明する。
【0037】
まず、強磁性書き込みワード線101と第2の強磁性層の磁化を平行にさせるしくみについて説明する。この場合、図3(a)にあるように、非磁性ビット線102から強磁性書き込みワード線101に向かって電流を流す。電子は強磁性書き込みワード線101から非磁性ビット線102に伝導するから、強磁性書き込みワード線101の状態密度301の差からアップスピンが非磁性ビット線102中に蓄積する。このため第2の強磁性層の磁化は、強磁性書き込みワード線101の磁化と平行になる。
【0038】
次に、強磁性書き込みワード線101と第2の強磁性層の磁化を反平行にさせるしくみについて説明する。この場合、図3(b)にあるように、強磁性書き込みワード線101から非磁性ビット線102に向かって電流を流す。電子は非磁性ビット線102から強磁性書き込みワード線101に伝導するから、強磁性書き込みワード線101の状態密度303の差からアップスピンが強磁性書き込みワード線101に伝導しやすく、結果的に非磁性ビット線102にはダウンスピンが蓄積する。蓄積されたスピンは第2の強磁性層に吸収されるので、第2の強磁性層の磁化の向きが反転する。このため第2の強磁性層の磁化は、強磁性書き込みワード線101の磁化と反平行になる。
【0039】
次に読み出し動作を説明する。図2の磁気抵抗効果素子201部分の抵抗値によって読み出す情報が決まる。従って、磁気抵抗効果素子201に電流を流すことが必要である。電流経路は図2(a)の読み出し電流209に示す通りである。ここで、非磁性ビット線102とソース線107を流れる電流の向きは、図2(a)の右向きでも左向きでも構わない。
【0040】
非磁性読み出しワード線106に電位を与えると、トランジスタ105が活性な状態となる。このため、非磁性ビット線102から磁気抵抗効果素子201、金属配線層104、トランジスタ105を介してソース線107に読み出し電流209を流すことが可能になる。従って、磁気抵抗効果素子201の抵抗を読み出すことが可能である。
【0041】
また、積層構造であることから、書き込み時に強磁性書き込みワード線101から注入された電子は非磁性ビット線102中を膜厚方向に拡散し、第2の強磁性層に吸収される。ビット線は数ナノメートル程度に薄く作製することが可能であり、素子を面内方向に作製した場合に比べて書き換えに必要な電流を減少することができる。
【0042】
ここで、ビット線中におけるスピン蓄積の効果の大きさは、下記数1に比例する。ここで、Pは強磁性書き込みワード線101から非磁性ビット線102に注入された電子スピンの分極率、Sはビット線のスピン拡散長、Iは電流、Gはビット線のコンダクタンス、AはTMR素子の断面積、Lはビット線の膜厚である。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、Aに反比例して蓄積の効果は大きくなることがわかる。つまり、微細化すればするほど蓄積の効果は大きくなるため、書き込みに必要な電流も小さくなる。さらに、Lのビット線膜厚を小さくすると同様に蓄積の効果は大きくなる。
【0045】
図4はLを減少させたときのスピン蓄積の大きさを見積もった結果である。TMR素子の断面積が50×180nmのとき、膜厚を400nmから50nmまで減少させると、書き込みの電流値は0.5mAまで低減できた。膜厚はさらに減少させることが可能であり、この発明が書き込み電流の低減に非常に有効であることがわかる。
【0046】
強磁性書き込みワード線101の材料は、あらゆる強磁性体が候補として挙げられる。例えば、Co、Fe、Ni、CoFe、CoFeB、NiFe、NiFeBなどがある。さらに書き込み電流を小さくするには、ハーフメタルなどのPが高い材料を選ぶほうがよい。ハーフメタルの場合は、Pはほぼ1であるため書き込み電流を下げることができる。
【0047】
非磁性ビット線102の材料については、あらゆる非磁性体が材料になる。例えば、Al、Cuなどが挙げられる。しかし書き込み電流を小さくするためには、Sが大きく、且つ、Gが小さい物質が望ましい。従って、半導体や超伝導体を用いると効果が高い。半導体を用いた場合、Sを下げることなくGを小さくすることができる。また超伝導体を用いた場合、強磁性書き込みワード線101から注入された電子が超伝導ビット線の準粒子状態に注入されるため、実効的なGを小さくすることができる。
【0048】
次に、磁気抵抗効果素子201は記録保持部分であることから、抵抗の変化が大きいほうが良い。従って、CPP-GMR構造を使用しても良いが、より抵抗変化が大きいトンネル磁気抵抗素子(TMR素子)用いるほうが望ましい。
【0049】
材料としては、CPP-GMRの場合はあらゆる非磁性体が材料になる。TMR素子の場合、第1の非磁性層に絶縁層を用いる。絶縁層の材料は酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどが挙げられるが、抵抗変化がより大きくなる酸化マグネシウムが望ましい。第1の強磁性層、第2の強磁性層については、あらゆる強磁性体が候補として挙げられる。例えば、Co、Fe、Ni、CoFe、CoFeB、NiFe、NiFeBなどがある。さらに抵抗変化を大きくするためには、Pの大きいハーフメタルなどを使うことが望ましい。
【0050】
以上、本発明を適用した磁気メモリでは、上記構成によりメモリ素子103の読み出し電流と書き込み電流の電流経路をわけることが可能である。即ち、書き込みの電流経路と読み出しの電流経路が異なっているので、書き込み時において記録部分となる磁気抵抗効果素子201に電流が流れない。
【0051】
書き込み時の電流は読み出し時に比べて大きいので、書き込み電流を磁気抵抗効果素子201に直接流さない構成にすることにより、磁気抵抗効果素子201の破壊を軽減できる。また、読み出し時に誤書き込みが起こる危険が少なくなる。
【0052】
特にTMR素子を用いる場合、TMRの素子破壊はおよそ1Vで起こる。しかし、本発明でTMR素子に電流が流れるのは読み出し時のみである。TMR素子の抵抗値を読み出す際、0.2Vの電圧差があれば読み出せる。このため読み出し電流値の設計にもよるが、素子破壊は軽減することが出来る。
【0053】
<実施例2>
図5に示すように、非磁性ビット線102と強磁性書き込みワード線101とは、第2の絶縁層501を介して、電気的に接続されても良い。ここで、第2の絶縁層は、トンネルバリアとしての機能を持つ。
【0054】
この構成にすると、書き込みワード線から注入されるスピンは書き込みワード線とビット線の界面で散乱を受けず、Pは強磁性体で構成される書き込みワード線と同等の高い値を示す。従って、書き込み電流を低減することが出来る。
【0055】
<実施例3>
図6に示すように、第2の強磁性層と非磁性ビット線102とは、第3の絶縁層601を介して、電気的に接続されても良い。ここで、第3の絶縁層は、トンネルバリアとしての機能を持つ。第3の絶縁層を用いない場合、第2の強磁性層はスピン分極した電子のシンクとして作用する。一方、第3の絶縁層を用いた場合、電子は界面での散乱を受けないので高い分極率を保持したまま第2の強磁性層に伝導する。
【0056】
<実施例4>
スピン蓄積磁化反転型磁気記録素子を備えた磁気メモリにおいて、多値の構造を作製する場合の実施例を述べる。
【0057】
図7に示すように、強磁性書き込みワード線101と非磁性読み出しビット線とが交差する部分に、磁気記録素子を積み重ねることで多値化が可能である。この場合、図1の磁気メモリにおいて、強磁性書き込みワード線101と非磁性読み出しビット線102とが交差する部分に、金属配線層701介して、第3の強磁性層702、第2の非磁性層703、第4の強磁性層704が電気的に接続されている。第4の強磁性層は第2の非磁性ビット線705を介して、第2の強磁性書き込みワード線706に電気的に接続されている。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明を適用した実施例1の磁気メモリの模式図。
【図2】本発明を適用した実施例1のスピン蓄積磁化反転型磁気記録素子の断面図。
【図3】図2に示すスピン蓄積磁化反転型磁気記録素子の動作原理の模式図。
【図4】本発明のスピン蓄積効果に対する非磁性ビット線の膜厚依存性を示した図。
【図5】本発明を適用した実施例2のスピン蓄積磁化反転型磁気記録素子の断面図。
【図6】本発明を適用した実施例3のスピン蓄積磁化反転型磁気記録素子の断面図。
【図7】本発明を適用した実施例4の磁気メモリの模式図。
【符号の説明】
【0059】
100 磁気メモリ、101 強磁性書き込みワード線、102 複数の非磁性ビット線、103 メモリ素子、104 金属配線層、105 トランジスタ、106 非磁性読み出しワード線、107 ソース線、201 磁気抵抗効果素子、202 第1の強磁性層、203 第1の非磁性層、204 第2の強磁性層、207 第1の強磁性層の磁化、206 第2の強磁性層の磁化、205 強磁性書き込みワード線と非磁性ビット線との間に書き込み電流、301 平行化書き込み時の強磁性書き込みワード線の状態密度、302 平行化書き込み時の読み出しビット線の状態密度、303 反平行化書き込み時の強磁性書き込みワード線の状態密度、304 反平行化書き込み時の読み出しビット線の状態密度、501 第2の絶縁層、601 第3の絶縁層、701 金属配線層、702 第3の強磁性層、703 第2の非磁性層、704 第4の強磁性層、705 第2の非磁性ビット線、706 第2の強磁性書き込みワード線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性ワード線と、
前記強磁性ワード線と交差する非磁性ビット線と、
前記強磁性ワード線と対向する配線と、
前記強磁性ワード線及び前記非磁性ビット線の交差部分と前記配線との間に設けられた磁気抵抗効果素子とを備え、
前記磁気抵抗効果素子は、前記配線側に設けられた第1の強磁性層と、前記強磁性ワード線側に設けられた第2の強磁性層と、前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層との間に設けられた非磁性層とを有し、
書き込み動作時には、前記強磁性ワード線と前記非磁性ビット線との間に電流を流し、前記強磁性ワード線から前記非磁性ビット線にスピンを蓄積させることで前記第2の強磁性層の磁化方向を反転させ、
読み出し動作時には、前記磁気抵抗効果素子の膜厚方向に電流を流すことを特徴とするメモリ素子。
【請求項2】
前記書き込み動作時において、
前記非磁性ビット線から前記強磁性ワード線に向かって電流を流すことにより、前記強磁性ワード線から前記非磁性ビット線にアップスピンを蓄積させ、
前記強磁性ワード線から非磁性ビット線に向かって電流を流すことにより、前記強磁性ワード線から非磁性ビット線にダウンスピンを蓄積させることを特徴とする請求項1記載のメモリ素子。
【請求項3】
前記アップスピンが蓄積されることにより、前記第2の強磁性層の磁化方向は、前記強磁性ワードの磁化方向と平行になり、
前記ダウンスピンが蓄積されることにより、前記第2の強磁性層の磁化方向は、前記強磁性ワード線の磁化方向と反平行になることを特徴とする請求項2記載のメモリ素子。
【請求項4】
前記読み出し動作時において、前記非磁性ビット線と前記配線との間に電流を流すことを特徴とする請求項1記載のメモリ素子。
【請求項5】
前記磁気抵抗効果素子は、スイッチング素子を介してソース線に電気的に接続されることを特徴とする請求項4記載のメモリ素子。
【請求項6】
前記スイッチング素子はトランジスタであり、
前記トランジスタのゲート電極に電気的に接続される読み出しワード線と、
前記トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される前記ソース線と、
前記トランジスタのソース電極に電気的に接続される前記配線とを備えることを特徴とする請求項5記載のメモリ素子。
【請求項7】
更に、前記非磁性ビット線と前記強磁性ワード線との間に設けられた絶縁層を有することを特徴とする請求項1記載のメモリ素子。
【請求項8】
更に、前記第2の強磁性層と非磁性ビット線との間に設けられた絶縁層を有することを特徴とする請求項1記載のメモリ素子。
【請求項9】
前記磁気抵抗効果素子は、CPP-GMR又はTMRであることを特徴とする請求項1記載のメモリ素子。
【請求項10】
第1の強磁性ワード線と、
前記第1の強磁性ワード線と交差する第1の非磁性ビット線と、
前記第1の強磁性ワード線と対向する第1の配線と、
前記第1の強磁性ワード線及び前記第1の非磁性ビット線の交差部分と前記第1の配線との間に設けられた第1の磁気抵抗効果素子と、
前記第1の強磁性ワード線の前記第1非磁性ビット線と交差する面とは反対側に設けられた第2の配線と、
第2の強磁性ワード線と、
前記第2の強磁性ワード線と交差する第2の非磁性ビット線と、
前記第2の強磁性ワード線及び前記第2の非磁性ビット線の交差部分と前記第2の配線との間に設けられた第2の磁気抵抗効果素子とを備え、
前記第1の磁気抵抗効果素子は、前記第1の配線側に設けられた第1の強磁性層と、前記第1の強磁性ワード線側に設けられた第2の強磁性層と、前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層との間に設けられた第1の非磁性層とを有し、
前記第2の磁気抵抗効果素子は、前記第2の配線側に設けられた第3の強磁性層と、前記第2の強磁性ワード線側に設けられた第4の強磁性層と、前記第3の強磁性層と第4の強磁性層との間に設けられた第2の非磁性層とを有し、
書き込み動作時には、前記第1の強磁性ワード線と第1の非磁性ビット線との間に電流を流し、前記第1の強磁性ワード線から前記第1の非磁性ビット線にスピンを蓄積させることで前記第2の強磁性層の磁化方向を反転させ、
前記第2の強磁性ワード線と第2の非磁性ビット線との間に電流を流し、前記第2の強磁性ワード線から前記第2の非磁性ビット線にスピンを蓄積させることで第4の強磁性層の磁化方向を反転させ、
読み出し動作時には、前記第1の磁気抵抗効果素子及び第2の磁気抵抗効果素子の膜厚方向に電流を流すことを特徴とするスピンRAM。
【請求項11】
前記第1の磁気抵抗効果素子及び第2の磁気抵抗効果素子は、スイッチング素子を介して、ソース線に電気的に接続されることを特徴とする請求項10記載のスピンRAM。
【請求項12】
前記スイッチング素子はトランジスタであり、
前記トランジスタのゲート電極に電気的に接続される読み出しワード線と、
前記トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される前記ソース線と、
前記トランジスタのソース電極に電気的に接続される前記第1の配線とを備えることを特徴とする請求項11記載のスピンRAM。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−311321(P2008−311321A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155854(P2007−155854)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】