説明

タイヤ位置可変車両

【課題】 走行中のタイヤ位置の変更によりホイールベースやトレッドベースが変更された場合であっても、要求された運動状態を実現できるタイヤ位置可変車両を提供する。
【解決手段】 駆動力制御部430は、車両の走行中にタイヤユニット300の位置が移動した場合、要求外力と移動タイヤユニット位置情報とに基づいて、駆動力変更後の各タイヤの駆動力の2乗の和が最小となるように、各タイヤの駆動力を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤを懸架するタイヤユニットを車体に対して相対移動させるタイヤユニット移動機構を有するタイヤ位置可変車両の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タイヤユニット移動機構として、ホイールベースを変更可能な伸縮機構を備え、ホイールベースを短くして建物内などでの低速走行を行う収縮状態と、ホイールベースを長くして高速走行を行う伸長状態とを切り替えたとき、これに連動して駆動力特性を低速走行に適した特性と高速走行に適した特性とで切り替える技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−112300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、伸長状態から収縮状態かを判断し、駆動トルクまたはタイヤ回転数マップを切り替えることで駆動力特性を変更しているが、走行中にホイールベースが変化することに伴う車両の定常的な運動特性の変化については何ら考慮されていない。よって、伸長状態と収縮状態との切り替えに伴い車両の運動特性が変化し、運転者の所望する運動状態、すなわち要求された運動状態を実現できないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、走行中のタイヤ位置の変更によりホイールベースやトレッドベースが変更された場合であっても、要求された運動状態を実現できるタイヤ位置可変車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明のタイヤ位置可変車両では、車両の走行中にタイヤ移動指令を受けてタイヤユニットの位置が移動した場合、要求外力と移動タイヤユニット位置情報とに基づいて、各タイヤの駆動力を変更する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、要求外力と移動タイヤユニット位置情報とに基づいて各タイヤの駆動力を変更するため、走行中のタイヤ位置の変更によりホイールベースやトレッドベースが変更された場合であっても、要求された運動状態を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1〜4に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
[全体構成]
図1は、実施例1のタイヤ位置可変車両の外観図であり、車体100の下部には4つのタイヤユニット300が配置されている。
【0009】
図2は、実施例1のタイヤ位置可変車両のシステム構成を示す平面図であり、実施例1のタイヤ位置可変車両は、車体100と、操舵角センサ110と、加速度&ヨーレートセンサ120と、ピッチ&ロール角センサ130と、アクセルペダルストロークセンサ140と、ブレーキペダルストロークセンサ150と、4つのタイヤユニット300とを備えている。
【0010】
操舵角センサ110は、ハンドル101の操作量(操舵角)を検出する。加速度&ヨーレートセンサ120は、車両の加速度とヨーレートをそれぞれ検出する。ピッチ&ロール角センサ130は、車体のピッチ角とロール角をそれぞれ検出する。アクセルペダルストロークセンサ140は、アクセルペダル102のストローク量を検出する。ブレーキペダルストロークセンサ150は、ブレーキペダル103のストローク量を検出する。
操舵角センサ110、アクセルペダルストロークセンサ140およびブレーキペダルストロークセンサ150により、運転者が車両を運転するための運転操作手段が構成される。
【0011】
各タイヤユニット300は、タイヤユニット位置センサ(移動タイヤ位置情報検出手段)310、転舵角センサ320、駆動アクチュエータ330、転舵アクチュエータ340、タイヤユニット移動アクチュエータ(タイヤユニット移動機構)350、車輪速センサ360、タイヤ横力センサ(タイヤ横力検出手段)370およびタイヤ390を備えている。
【0012】
タイヤユニット位置センサ310は、車体100に対するタイヤ390(タイヤユニット300)の位置を検出する。転舵角センサ320は、タイヤ390の転舵角(車両前後方向に対してタイヤが成す角度)を検出する。
【0013】
駆動アクチュエータ330は、タイヤ390に駆動トルクを付与する。駆動アクチュエータ330としては、例えば、インホイールモータを用いることができる。転舵アクチュエータ340は、タイヤ390の転舵角を可変する。転舵アクチュエータ340としては、例えば、電動モータを用いることができる。駆動アクチュエータ330および転舵アクチュエータ340は、コントローラ400(図3参照)により制御される。
【0014】
タイヤユニット移動アクチュエータ350は、各タイヤユニット300をタイヤユニット移動軌道200上に沿って移動させる。このタイヤユニット移動アクチュエータ350は、コントローラ400により制御される。ここで、タイヤユニット移動軌道200は、車体重心を中心とする水平な円形に設定されており、各タイヤ390は、車体重心を中心とする1つの環状軌道上を移動することとなる。
【0015】
車輪速センサ360は、タイヤ390の回転速度(車輪速)を検出する。タイヤ横力センサ(タイヤ横力検出手段)370は、タイヤ390のホイール(不図示)に装着され、タイヤ390に入力されたタイヤ横力を検出する。
【0016】
図3は、実施例1のタイヤ位置可変車両の制御ブロック図であり、コントローラ400は、要求車両運動状態量算出部(要求車両運動状態量算出手段)410と、要求外力算出部(要求外力算出手段)420と、駆動力制御部(駆動力制御手段)430と、タイヤユニット移動指示部(タイヤユニット移動指示手段)440とを備えている。
【0017】
要求車両運動状態量算出部410は、操舵角センサ110、アクセルペダルストロークセンサ140およびブレーキペダルストロークセンサ150からの検出信号に基づいて、運転者の要求する車両の運動状態量である要求車両運動状態量(車両の前後・左右速度、車両の前後・左右加速度、ヨーレート、ヨー加速度等)を算出する。
【0018】
要求外力算出部420は、要求車両運動状態量算出部410で算出された要求車両運動状態量を実現するために必要となる、車両に作用させる外力である要求外力を算出する。なお、要求外力の算出方法については後述する。
駆動力制御部430は、要求外力算出部420で算出された要求外力に基づいて、各タイヤ390の駆動力を算出し、各駆動アクチュエータ330に駆動指令を出力することで、各タイヤ390の駆動力を制御する。なお、駆動力の算出方法については後述する。
【0019】
タイヤユニット移動指示部440は、加速度&ヨーレートセンサ120およびピッチ&ロール角センサ130からの検出信号に基づいて、各タイヤ390に作用する上下方向の荷重である輪荷重を推定し、各輪荷重が均等となるように各タイヤユニット移動アクチュエータ350に対し、タイヤ位置を変更するためのタイヤ移動指令を出力することで、車体100に対する各タイヤ390の相対位置を変化させる。
【0020】
実施例1では、走行中にタイヤユニット移動指示部440からタイヤユニット移動アクチュエータ350に対してタイヤ移動指令が出力され、タイヤユニット300の位置が移動した場合、駆動力制御部430は、要求外力とタイヤユニット位置センサ310、転舵角センサ320、車輪速センサ360およびタイヤ横力センサ370からの検出信号に基づき、タイヤユニット300移動後の各タイヤ390の駆動力の2乗の和が最小となるように、各タイヤ390の駆動力を変更する。なお、駆動力の変更方法については後述する。
【0021】
[タイヤ取り付け構造]
図4は、実施例1のタイヤ位置可変車両におけるタイヤ取り付け構造を示す側面図である。
タイヤ390は、サスペンションフレーム600を介して車体100に連結されている。サスペンションフレーム600は、車体100の底面(または他のサスペンションフレームの底面)に設けられたベアリング610と、車体100の側面中央部に沿って環状に設けられたリニアモータ・スライダ615により、車体100に対し相対回転可能に支持されている。実施例1のリニアモータ・スライダ615は、図2に示したタイヤユニット移動アクチュエータ350に相当し、リニアモータの水平方向の推力によりタイヤ390を車体100に対して相対的に移動させる。
【0022】
タイヤ390の転舵軸を支持するロッド620は、中央部がベアリング630を介してサスペンションフレーム600に支持され、上端部がボールジョイント640を介してサスペンションアーム650に支持されている。このサスペンションアーム650は、サスペンションフレーム600に対し上下方向回動可能に設けられている。
【0023】
ロッド620には、ステアリングギア660が連結されており、サスペンションフレーム600に固定された転舵アクチュエータ340を駆動することで、タイヤ390が転舵される。
【0024】
[要求外力算出]
次に、要求外力算出部420における要求外力の算出方法について説明する。
運転操作手段(ハンドル101、アクセルペダル102、ブレーキペダル103)への操作入力(操舵角、アクセルペダルストローク量、ブレーキペダルストローク量)から算出される要求車両運動状態量のうち、ヨーレートをγtar、ヨーレートの微分値をγ'tar、車両前後速度をutar、車両前後速度の微分値をu'tar、車両左右速度をvtar、車両左右速度の微分値をv'tarとする。
【0025】
ここで、それぞれの要求車両運動状態量は、任意に与えても、コントローラ内部に規範の車両モデルを持たせ、運転者の操作量に応じた規範車両モデルの運動状態を要求車両運動状態量としてもよい。
【0026】
車両の重量をm、重心ヨー方向周りの慣性モーメントをIとすると、車両に必要な前後力Gdem、左右力Fdem、重心周りのヨーモーメントをMdemは、以下の式(1)〜(3)であらわすことができる。実施例1では、前後力Gdem、左右力FdemおよびヨーモーメントMdemを、要求外力としている。
Gdem=m(u' tartarvtar) …(1)
Fdem=m(v' tartarutar) …(2)
Mdem=Iγ'tar …(3)
【0027】
[駆動力算出]
次に、駆動力制御部430における駆動力の算出方法について説明する。
図5に示すように、各タイヤ390に発生しているタイヤ横力をそれぞれFij、タイヤ390の転舵角をδij、タイヤユニット300の重心からの左右方向距離をTij、前後方向距離をLijとすると、タイヤ駆動力Gijは車両に必要な外力(前後力Gdem、左右力Fdem、ヨーモーメントMdem)を発生させるために、以下の式(4)〜(6)に示す関係式を満足する必要がある。以下、添え字のiがfとなっているものは前タイヤを示し、rとなっているものは後タイヤを示す。また、添え字のjがrとなっているものは右タイヤを示し、lとなっているものは左タイヤを示す。
Gfrcosδfr+ Gflcosδfl+Grrcosδrr+Grlcosδrl
= Gdem+(Ffrsinδfr+Fflsinδfl+Frrsinδrr+Frlsinδrl) …(4)
Gfrsinδfr+Gflsinδfl+Grrsinδrr+Grlsinδrl
= Fdem-(Ffrcosδfr+Fflcosδfl+Frrcosδrr+Frlcosδrl) …(5)
GfrcosδfrTfr-GflcosδflTfl+GrrcosδrrTrr-GrlcosδrlTrl
+GfrsinδfrLfr+GflsinδflLfl- GrrsinδrrLrr-GrlsinδrlLrl
= Mdem+FfrsinδfrTfr-FflsinδflTfl+FrrsinδrrTrr
-FrlsinδrlTrl-FfrcosδfrLfr-FflcosδflLfl+FrrcosδrrLrr+FrlcosδrlLrl …(6)
【0028】
ここで、タイヤ390の横力Fijは直接横力検知装置により計測しても良いし、各タイヤ390のスリップ角とコーナリングパワーから算出しても良い。各タイヤ390のスリップ角は車両速度、ヨーレート、重心からのタイヤユニットの距離から算出できる。
【0029】
式(4)において、cosδfr=A1,cosδfl=A2,cosδrr=A3,cosδrl=A4, Gdem+(Ffrsinδfr+Fflsinδfl+Frrsinδrr+Frlsinδrl)= G'demとおくと、下記の式(4)'となる。
GfrA1+ GflA2+GrrA3+GrlA4 = G'dem …(4)'
【0030】
また、式(5)において、sinδfr=B1, sinδfl=B2, sinδrr=B3, sinδrl=B4, Fdem-(Ffrcosδfr+Fflcosδfl+Frrcosδrr+Frlcosδrl)= F'demとおくと、下記の式(5)'となる。
GfrB1+GflB2+GrrB3+GrlB4 = F'dem …(5)'
【0031】
式(4)'×B3−式(5)'×A3より、
(A1B3-A3B1)Gfr+(A2B3-A3B2)Gfl+(A4B3-A3B4)Grl = B3G'dem-A3F'dem …(7)
となり、式(7)において、A1B3-A3B1=C1,A2B3-A3B2=C2,A4B3-A3B4=C3,B3G'dem-A3F'dem=C4とおくと、下記の式(7)'となる。
Grl = C4/C3-C1Gfr/C3-C2Gfl/C3 …(7)'
【0032】
続いて、式(4)'×B4−式(5)'×A4より、
(A1B4-A4B1)Gfr+(A2B4-A4B2)Gfl+(A3B4-A4B3)Grr = B4G'dem-A4F'dem …(8)
となり、式(8)において、A1B4-A4B1=D1,A2B4-A4B2=D2,A3B4-A4B3=D3,B4G'dem-A4F'dem=D4とおくと、下記の式(8)'となる。
Grr = D4/D3-D1Gfr/D3-D2Gfl/D3 …(8)'
【0033】
次に、式(6)の左辺は下記のように変形することができる。
Gfr(cosδfrTfr+sinδfrLfr)-Gfl(cosδflTfl-sinδflLfl)
+Grr(cosδrrTrr-sinδrrLrr)-Grl(cosδrlTrl+sinδrlLrl)
【0034】
そこで、式(6)において、cosδfrTfr+sinδfrLfr=E1,-(cosδflTfl-sinδflLfl)=E2,cosδrrTrr-sinδrrLrr=E3,-(cosδrlTrl+sinδrlLrl)=E4,
Mdem+FfrsinδfrTfr-FflsinδflTfl+FrrsinδrrTrr
-FrlsinδrlTrl-FfrcosδfrLfr-FflcosδflLfl+FrrcosδrrLrr+FrlcosδrlLrl=E5
とおき、(7)'および(8)'を代入すると、下記の式(6)'となる。
E1Gfr+E2Gfl+E3(D4/D3-D1Gfr/D3-D2Gfl/D3)+E4(C4/C3-C1Gfr/C3-C2Gfl/C3) = E5 …(6)'
【0035】
式(9)の左辺をGfr,Gflでまとめると
(E1-E3D1/D3-E4C1/C3)Gfr+(E2-E3D2/D3-E4C2/C3)Gfl = E5-E3D4/D3-E4C4/C3
となり、E1-E3D1/D3-E4C1/C3=F1,E2-E3D2/D3-E4C2/C3=F2,E5-E3D4/D3-E4C4/C3=F3とおくと、下記の式(9)となる。
Gfl = -F1Gfr/F2 + F3/F2 …(9)
【0036】
ここで、-F1/F2=g1,F3/F2=g2とおくと、左前タイヤの駆動力Gflは、右前タイヤの駆動力Gfrを基準としたとき、Gfrとg1,g2とを用いた下記の関係式(10)であらわすことができる。
Gfl=g1Gfr+g2 …(10)
【0037】
次に、左後タイヤの駆動力Grlは、式(7)'に式(10)を代入し、
Grl = C4/C3-C1Gfr/C3-C2(g1Gfr+g2)/C3
= (-C1/C3-C2g1/C3)Gfr+C4/C3-g2C2/C3
となり、-C1/C3-C2g1/C3=h1, C4/C3-g2C2/C3=h2とおくことで、下記の式(11)であらわすことができる。
Grl=h1Gfr+h2 …(11)
【0038】
残りの右後タイヤの駆動力Grrについても、式(8)'に式(10)を代入し、
Grr = D4/D3-D1Gfr/D3-D2(g1Gfr+g2)/D3
= (-D1/D3-D2g1/D3)Gfr+D4/D3-g2D2/D3
となり、-D1/D3-D2g1/D3=i1, D4/D3-g2D2/D3=i2とおくことで、下記の式(12)であらわすことができる。
Grr=i1Gfr+i2 …(12)
【0039】
以上のように、1つのタイヤ390の駆動力(右前タイヤの駆動力Gfr)を基準タイヤ駆動力とおくことで、他のタイヤの駆動力Gfl,Grl,Grrは、3つの要求外力(前後力Gdem,左右力Fdem,ヨーモーメントMdem)、タイヤ横力Fij、転舵角δij、タイヤユニット300の重心からの左右方向距離Lijおよび前後方向距離Lijからなるg1,g2,h1,h2,i1,i2を用いて求めることができる。
【0040】
[駆動力変更]
実施例1では、走行中にタイヤユニット移動指示部440からタイヤユニット移動アクチュエータ350に対してタイヤ移動指令が出力され、タイヤユニット300の位置が移動した場合、タイヤ移動後の各タイヤ390の駆動力の2乗の和が最小となるように、各タイヤ390の駆動力を変更する。
【0041】
図6に横軸を右前タイヤの駆動力とし、縦軸に各駆動力の2乗の和としたグラフを示す。各タイヤ390の駆動力の2乗和が最小となる点は、式(10)〜(12)を用いて、下記の式(13)のように求めることができる。
Gfr2+Gfl2+Grr2+Grl2 = Gfr2+(g1Gfr+g2)2+(h1Gfr+h2)2+(i1Gfr+i2)2
= (1+g12+i12+h12)Gfr2+2(g1g2+h1h2+i1i2)Gfr+g22+h22+i22 …(13)
【0042】
ここで、1+g12+i12+h12=J1,2(g1g2+h1h2+i1i2)=J2,g22+h22+i22=J3とおくと下記の式(13)'となる。
Gfr2+Gfl2+Grr2+Grl2 = J1Gfr2+J2Gfr+J3 …(13)'
【0043】
よって、各タイヤ390の駆動力の2乗和が最小となるのは、式(13)'に示す曲線の変曲点、すなわち、
Gfr = -J2/2J1 …(14)
である。
そして、式(14)を式(10)〜(12)に代入することで、他のタイヤの駆動力Gfl,Grr,Grlを決定することができる。
Gfl = -g1J2/2J1+g2 …(16)
Grl = -h1J2/2J1+h2 …(17)
Grr = -i1J2/2J1+i2 …(18)
【0044】
次に、作用を説明する。
駆動力制御部430は、車両の走行中、要求車両運動状態量(ヨーレートγtar,ヨージャークγ'tar,車両前後速度utar,車両前後加速度u'tar,車両左右速度vtar)を実現するための要求外力(前後力Gdem,左右力Fdem,ヨーモーメントMdem)に基づいて各タイヤ390の駆動力を算出する。
【0045】
そして、走行中にタイヤユニット移動指示部440からタイヤユニット移動アクチュエータ350へタイヤ移動指令が出力され、タイヤユニット300の位置が移動した場合には、要求外力に加えて移動タイヤユニット位置情報(タイヤユニット300の重心からの左右方向距離Lijおよび前後方向距離Lij)を参照し、タイヤ位置の変化に対して要求車両運動状態量に対する車両の実際の運動状態量が変動しないように、各タイヤ390の駆動力を変更する。
【0046】
これにより、図7に示すように、タイヤ移動後に駆動力の変更を実行しない制御なし時の車両のヨーレートが、運転操作に応じた要求ヨーレートに対して乖離しているのに対し、実施例1では、実際のヨーレートを要求ヨーレートに追従させることができる。すなわち、走行中のタイヤ位置の変更によりホイールベースやトレッドベースが変更された場合であっても、要求車両運動状態量を実現することができる。
【0047】
このとき、駆動力制御部430では、各タイヤ390の駆動力の2乗の和Gfr2+Gfl2+Grr2+Grl2が最小となるように各タイヤ390の駆動力を変更するため、要求車両運動状態量を実現するために必要となる駆動エネルギーを小さくすることができる。
また、移動タイヤ位置情報を、タイヤ位置検出装置であるタイヤユニット位置センサ310により直接測定しているため、各タイヤ390の駆動力を精度良く決定することができる。
【0048】
実施例1では、タイヤユニット移動指示部440は、車両の走行中、各タイヤ390に作用する輪荷重が均等となるように各タイヤユニット300の位置を変更するため、走行時における車両の限界余裕が高まり、輪荷重の変動を伴う加減速時や旋回時における走行性能を向上させることができる。また、輪荷重の変動によるコーナリングパワーの変動を抑制でき、旋回性能の向上を図ることができる。
【0049】
次に、効果を説明する。
実施例1のタイヤ位置可変車両にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
【0050】
(1) 駆動力制御部430は、車両の走行中にタイヤユニット300の位置が移動した場合、要求外力と移動タイヤユニット位置情報とに基づいて、各タイヤ390の駆動力を変更する。これにより、走行中のタイヤ位置の変更によりホイールベースやトレッドベースが変更された場合であっても、要求車両運動状態量を実現することができる。
【0051】
(2) 駆動力制御部430は、駆動力変更後の各タイヤ390の駆動力の2乗の和が最小となるように、各タイヤ390の駆動力を変更するため、要求車両運動状態量を実現するために必要となる駆動エネルギーを小さくすることができる。
【0052】
(3) タイヤユニット移動指示部440は、各タイヤ390に作用する上下方向の荷重が均等になるような位置に各タイヤユニット300を移動させるため、加減速時や旋回時における走行性能を向上させることができる。
【0053】
(4) タイヤユニット300の車体100に対する相対位置を測定するタイヤユニット位置センサ310を設けたため、各タイヤ390の駆動力を精度良く決定することができる。
【0054】
(5) タイヤホイールに装着されタイヤ横力を測定するタイヤ横力センサ370を設けたため、各タイヤ390の駆動力を精度良く決定することができる。
【実施例2】
【0055】
実施例2は、駆動力変更後の各タイヤの駆動力の組み合わせのうち、駆動力が最も大きくなるタイヤの駆動力が最小となる組み合わせを選択する例である。なお、構成については、実施例1と同様であるため、図示ならびに説明を省略する。
【0056】
[駆動力変更]
図8は、基準となるタイヤを右前タイヤとし、基準タイヤとその他のタイヤの駆動力の関係式(10)〜(12)から、横軸に基準タイヤの駆動力Gfr、縦軸に各タイヤ390の駆動力Gfl,Grr,Grlを示したものである。
【0057】
図8において、各タイヤ390のうち駆動力が最大となるタイヤの駆動力が最小となるのは、4つの直線の交点A,B,C,Dのいずれかになるため、駆動力制御部430は、それぞれの交点における基準タイヤの駆動力を基に各タイヤ390の駆動力を算出する。続いて、交点毎に計算した各タイヤ390の駆動力のなかで最も大きな駆動力の点a,b,c,dを抽出し、各点a,b,c,dを比較する。図8の例では、c<b<d<aであるため、値が最も小さな点cの基準タイヤの駆動力を基準タイヤ駆動力の決定値とし、その値を基に式(10)〜(12)を用いて各タイヤ390の駆動力を決定する。
【0058】
次に、作用を説明すると、実施例2では、各タイヤ390のうち駆動力が最大となるタイヤの駆動力が最小となるように駆動力を変更するため、各タイヤ390のうち最大の駆動力を発生させる駆動アクチュエータ330の駆動力が小さく抑えられる。これにより、駆動アクチュエータ330の出力が小さく抑えられ、アクチュエータの小型化を図ることができる。そして、アクチュエータにインホイールモータでは、モータの小型化によりばね下荷重をより小さくすることができるため、乗り心地の向上と、路面追従性の向上によるタイヤのグリップ安定性を高めることができる。
【0059】
次に、効果を説明する。
実施例2のタイヤ位置可変車両にあっては、実施例1の効果(1),(3)〜(5)に加え、以下の効果を奏する。
【0060】
(6) 駆動力制御部430は、駆動力変更後の各タイヤ390の駆動力の組み合わせのうち、駆動力が最も大きくなるタイヤの駆動力が最小となる組み合わせを選択するため、駆動アクチュエータ330の小型化を図ることができる。
【実施例3】
【0061】
実施例3は、駆動力変更後の各タイヤの駆動力の組み合わせのうち、タイヤ横力を含むタイヤ発生力が最も大きくなるタイヤのタイヤ発生力が最小となる組み合わせを選択する例である。なお、構成については、実施例1と同様であるため、図示ならびに説明を省略する。
【0062】
[駆動力変更]
図9は基準となるタイヤを右前タイヤとし、基準タイヤとその他のタイヤの駆動力の関係式から、横軸に基準タイヤの駆動力Gfr、縦軸に各タイヤ390のタイヤ発生力(=sqrt(Fij2+Gij2),sqrtは平方根) を示したものであり、図10は図8のX部を拡大したものである。
【0063】
図10において、各タイヤ390のうちタイヤ発生力が最大となるタイヤのタイヤ発生力が最小となるのは、4つの交点E,F,G,Hのいずれかになるため、駆動力制御部430は、交点毎に計算した各タイヤ390のタイヤ発生力を算出する。続いて、各タイヤ390のタイヤ発生力のなかで最も大きなタイヤ発生力の点e,f,g,hを抽出し、各点e,f,g,hを比較する。図10の例では、f<e<g<hであるため、値が最も小さな点fの基準タイヤの駆動力を基準タイヤ駆動力の決定値とし、その値を基に式(10)〜(12)を用いて各タイヤ390の駆動力を決定する。
【0064】
次に、作用を説明すると、実施例3では、各タイヤ390のうちタイヤ発生力(タイヤ横力Fij+タイヤ前後力(駆動力)Gij)が最大となるタイヤの発生力が最小となるように駆動力を変更するため、各タイヤ390のうち最大のタイヤ発生力を必要とするタイヤの負担が小さく抑えられ、タイヤの耐久性向上を図ることができる。
【0065】
次に、効果を説明する。
実施例3のタイヤ位置可変車両にあっては、実施例1の効果(1),(3)〜(5)に加え、以下の効果を奏する。
【0066】
(7) 駆動力制御部430は、駆動力変更後の各タイヤ390の駆動力の組み合わせのうち、タイヤ横力を含むタイヤ発生力が最も大きくなるタイヤのタイヤ発生力が最小となる組み合わせを選択するため、各タイヤ390のうち最大のタイヤ発生力を必要とするタイヤの負担が小さく抑えられ、タイヤの耐久性向上を図ることができる。
【実施例4】
【0067】
実施例4では、タイヤ横力をタイヤすべり角およびタイヤのコーナリングパワーから求め、移動したタイヤユニットの位置情報をタイヤユニット移動指令から算出する例である。なお、構成については、実施例1の構成からタイヤ横力センサ370およびタイヤユニット位置センサ310を省いた以外は実施例1と同様であるため、図示ならびに説明を省略する。
【0068】
実施例4では、各タイヤユニット300の重心からの左右方向距離Tijと前後方向距離Lijを、各タイヤユニット300の初期位置(例えば、車両発進時の位置を初期位置とする。)と、タイヤユニット移動指示部440から各タイヤユニット移動アクチュエータ350へ出力されたタイヤ移動指令とに基づいて算出する。
【0069】
また、実施例4では、タイヤスリップ角とコーナリングパワーからタイヤの横力Fijを算出する。ここで、タイヤのスリップ角は、例えば、車輪速センサ360により検出された車輪速と、加速度&ヨーレートセンサ120により検出されたヨーレートと、重心からのタイヤユニット300の距離とに基づき、公知の方法を用いて算出可能であるため、説明は省略する。
【0070】
次に、作用を説明すると、実施例4では、タイヤユニット位置センサ310を廃止し、タイヤ移動指令に基づいて各タイヤユニット300の重心からの左右方向距離Tijと前後方向距離Lijを算出するため、4つのタイヤユニット位置センサ310の廃止により部品点数の削減を図ることができる。また、タイヤユニット300がタイヤ移動指令に応じて実際に移動する前の段階でタイヤユニット300の移動位置を予測できるため、駆動力変更制御の応答性を高めることができる。
【0071】
実施例4では、タイヤ横力センサ370を廃止し、タイヤスリップ角とコーナリングパワーからタイヤの横力Fijを算出するため、4つのタイヤ横力センサ370の廃止により部品点数の削減を図ることができる。
【0072】
ここで、実施例4のタイヤユニット移動指示部440では、実施例1と同様に、各タイヤ390の輪荷重が均等となるように各タイヤユニット300の位置を移動させている。このため、荷重の変動によるコーナリングパワーの変動が抑制でき、タイヤ横力を精度良く算出することができる。
【0073】
次に、効果を説明する。
実施例4のタイヤ位置可変車両にあっては、実施例1の効果(1)〜(3)に加え、以下に列挙する効果を奏する。
【0074】
(8) 駆動力制御部430は、各タイヤ390に発生しているタイヤすべり角およびタイヤのコーナリングパワーに基づいて、タイヤ横力Fijを算出するため、直接横力を検出するセンサを不要とし、部品点数の削減を図ることができる。
【0075】
(9) 駆動力制御部430は、タイヤ移動指令に基づいて移動タイヤユニット位置情報を算出するため、タイヤ390の位置情報の入手タイミングが早く、かつ、タイヤ位置を直接計測するセンサを不要として部品点数の削減を図ることができる。
【0076】
(10) タイヤユニット移動指示部440は、各タイヤ390に作用する上下方向の荷重が均等になるような位置に各タイヤユニット300を移動させるため、荷重の変動によるコーナリングパワーの変動が抑制でき、タイヤ横力を精度良く算出することができる。
【0077】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づく実施例1〜4により説明したが、本発明の具体的な構成は、各実施例に示したものに限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない程度の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0078】
例えば、実施例4のタイヤ横力センサ370およびタイヤユニット位置センサ310を省略し、タイヤ横力をタイヤすべり角およびタイヤのコーナリングパワーから求め、移動したタイヤユニットの位置情報をタイヤユニット移動指令から算出する構成は、実施例2,3にも適用することができる。
【0079】
また、実施例1〜4では、タイヤ位置可変車両として、各タイヤ390が1つの環状軌道上を移動する車両について説明したが、ホイールベースとトレッドベースの少なくとも一方を変更可能なタイヤの軌道を有する車両であれば、本発明を適用することで、各実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1のタイヤ位置可変車両の外観図である。
【図2】実施例1のタイヤ位置可変車両のシステム構成を示す平面図である。
【図3】実施例1のタイヤ位置可変車両の制御ブロック図である。
【図4】実施例1のタイヤ位置可変車両におけるタイヤ取り付け構造を示す側面図である。
【図5】タイヤに作用する力を示す説明図である。
【図6】実施例1の基準タイヤ駆動力の算出方法を示す基準タイヤ駆動力−各タイヤの駆動力の2乗和のグラフである。
【図7】実施例1の駆動力変更作用を示す要求ヨーレートと実ヨーレートのタイムチャートである。
【図8】実施例2の基準タイヤ駆動力の算出方法を示す基準タイヤ駆動力−各タイヤの駆動力のグラフである。
【図9】実施例3の基準タイヤ駆動力の算出方法を示す基準タイヤ駆動力−各タイヤのタイヤ発生力のグラフである。
【図10】図9のX部拡大図である。
【符号の説明】
【0081】
100 車体
101 ハンドル(運転操作手段)
102 アクセルペダル(運転操作手段)
103 ブレーキペダル(運転操作手段)
110 操舵角センサ
120 加速度&ヨーレートセンサ
130 ピッチ&ロール角センサ
140 アクセルペダルストロークセンサ
150 ブレーキペダルストロークセンサ
200 タイヤユニット移動軌道
300 タイヤユニット
310 タイヤユニット位置センサ(移動タイヤ位置情報検出手段)
320 転舵角センサ
330 駆動アクチュエータ
340 転舵アクチュエータ
350 タイヤユニット移動アクチュエータ(タイヤユニット移動機構)
360 車輪速センサ
370 タイヤ横力センサ(タイヤ横力検出手段)
390 タイヤ
400 コントローラ
410 要求車両運動状態量算出部(要求車両運動状態量算出手段)
420 要求外力算出部(要求外力算出手段)
430 駆動力制御部(駆動力制御手段)
440 タイヤユニット移動指示部(タイヤユニット移動指示手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを懸架するタイヤユニットを車体に対して相対移動させるタイヤユニット移動機構を有するタイヤ位置可変車両において、
前記タイヤユニット移動機構に対しタイヤ移動指令を出力するタイヤユニット移動指示手段と、
前記タイヤユニット移動指令を受けて移動したタイヤユニットの前記車体に対する相対位置情報である移動タイヤユニット位置情報を検出する移動タイヤ位置情報検出手段と、
運転者が車両を運転するための運転操作手段と、
前記運転操作手段への操作入力に基づいて運転者の要求する車両の運動状態量である要求車両運動状態量を算出する要求車両運動状態量算出手段と、
タイヤに発生する横力を検出するタイヤ横力検出手段と、
タイヤの操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記要求車両運動状態量を実現するために必要となる、車両に作用させる外力である要求外力を要求車両運動状態量及びタイヤ横力、操舵角から算出する要求外力算出手段と、
前記要求外力に基づいて各タイヤの駆動力を制御する駆動力制御手段と、
を備え、
前記駆動力制御手段は、車両の走行中に前記タイヤ移動指令を受けてタイヤユニットの位置が移動した場合、前記要求外力と前記移動タイヤユニット位置情報とに基づいて、各タイヤの駆動力を変更することを特徴とするタイヤ位置可変車両。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤ位置可変車両において、
前記駆動力制御手段は、駆動力変更後の各タイヤの駆動力の2乗の和が最小となるように、各タイヤの駆動力を変更することを特徴とするタイヤ位置可変車両。
【請求項3】
請求項1に記載のタイヤ位置可変車両において、
前記駆動力制御手段は、駆動力変更後の各タイヤの駆動力の組み合わせのうち、駆動力が最も大きくなるタイヤの駆動力が最小となる組み合わせを選択することを特徴とするタイヤ位置可変車両。
【請求項4】
請求項1に記載のタイヤ位置可変車両において、
前記駆動力制御手段は、駆動力変更後の各タイヤの駆動力の組み合わせのうち、タイヤ横力を含むタイヤ発生力が最も大きくなるタイヤのタイヤ発生力が最小となる組み合わせを選択することを特徴とするタイヤ位置可変車両。
【請求項5】
請求項4に記載のタイヤ位置可変車両において、
前記タイヤ横力検出手段は、各タイヤに発生しているタイヤすべり角およびタイヤのコーナリングパワーに基づいて、タイヤ横力を算出することを特徴とするタイヤ位置可変車両。
【請求項6】
請求項4に記載のタイヤ位置可変車両において、
前記タイヤ横力検出手段は、タイヤホイールに装着されタイヤ横力を測定するタイヤ横力検出装置であることを特徴とするタイヤ位置可変車両。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のタイヤ位置可変車両において、
前記タイヤユニット移動指示手段は、各タイヤに作用する上下方向の荷重が均等になるような位置に各タイヤユニットを移動させることを特徴とするタイヤ位置可変車両。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のタイヤ位置可変車両において、
前記移動タイヤ位置情報検出手段は、前記タイヤ移動指令に基づいて前記移動タイヤユニット位置情報を算出することを特徴とするタイヤ位置可変車両。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のタイヤ位置可変車両において、
前記移動タイヤ位置情報検出手段は、前記タイヤユニットの前記車体に対する相対位置を測定するタイヤ位置検出装置であることを特徴とするタイヤ位置可変車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−107458(P2009−107458A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281436(P2007−281436)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】