説明

トンネル磁気抵抗素子、磁気メモリ装置及びその製造方法

【課題】MR比が高いトップピン型のトンネル磁気抵抗素子を提供する。
【解決手段】基板と、前記基板上に設けられ、結晶性を有し磁化方向が変化可能な第1自由磁化層と、前記第1自由磁化層上に設けられ、磁化方向が変化可能であるとともに前記第1自由磁化層と強磁性交換結合する第2自由磁化層と、前記第2自由磁化層上に設けられ、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有するトンネルバリア層と、前記第1自由磁化層と前記第2自由磁化層との間に設けられ、前記第1自由磁化層が前記トンネルバリア層の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する緩和層と、前記トンネルバリア層上に設けられ、磁化方向が固定可能な固定磁化層とを備えることを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル磁気抵抗素子、磁気メモリ装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現行のDRAM、あるいはFLASHに代わる次世代の大容量不揮発性メモリとして、磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetic Random Access Memory:MRAM)が挙げられる。現在開発されているMRAMにおいて、トンネルバリア層を2層の強磁性体で挟んだ、いわゆるトンネル磁気抵抗(Tunnel Magneto−Resistance:TMR)素子が用いられている。一方の強磁性層は、隣接する反強磁性層により磁化の方向が固定された固定磁化層である。他方の強磁性層は、磁化の方向を変更できる自由磁化層とする。2層の強磁性層の磁化の向きが平行のとき、トンネル電流に対する抵抗値は低く、反平行のときトンネル電流に対する抵抗は高い。例えば書込ワード線に電流を流して発生する磁界により、自由磁化層の磁化方向を制御して、自由磁化層に磁気情報を書き込む。
【0003】
2層の強磁性層の磁化の向きが平行のときと反平行のときとで電圧出力変化量は、差動アンプで判定できる程度に大きい必要がある。電圧出力変化が50mV以上となるような高い磁気抵抗変化率(MR比)が要求される。MR比の大きいTMR素子として、トンネルバリア層にMgOが用いられたTMR素子が知られている。MgO層の両側には、例えばCoFeやCoFeBなどの強磁性材料からなる層が設けられる。
【0004】
TMR素子のMR比を向上させる手段として、例えば特許文献1に開示された手段がある。特許文献1のTMR素子は、トンネル絶縁層の上にホウ素原子(B)などの添加物を含有する第1自由磁化層と、第1自由磁化層と強磁性的に交換結合した第2自由磁化層とが設けられている。第1自由磁化層と第2自由磁化層との間に、第1自由磁化層から第2自由磁化層へ添加物が拡散するのを防止する拡散防止層が設けられている。このようなボトムピン型のTMR(基板上に、固定磁化層、トンネルバリア層、自由磁化層を順に積層した素子)素子は、MR比の向上の点において一定の効果が認められる。
【0005】
また、更なる記憶容量の大容量化のため、自由磁化層を線状とし、その細線に電流を流すことにより自由磁化層の磁壁(磁区)を移動させて、多数のデータを記録できる磁壁移動型ストレージ・メモリが提案されている(例えば特許文献2、3を参照)。磁壁移動型ストレージ・メモリは、製造プロセスの簡便性の点から、ボトムピン型のTMR素子よりもトップピン型のTMR素子(基板上に、自由磁化層、トンネルバリア層、固定磁化層を順に積層した素子)を備えることが好ましい。
【0006】
しかし、NiFe層の上にトンネルバリア層、固定磁化層を設けたトップピン型のTMR素子は、高いMR比を得ることができないという問題があった。MR比が低いTMR素子を備えるMRAMにおいて、読出し動作の信頼性は劣る。
【特許文献1】特開2006−319259号公報
【特許文献2】特開2006−237183号公報
【特許文献3】特開2007−273495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、MR比が高いトップピン型のトンネル磁気抵抗素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、
基板と、
前記基板上に設けられ、結晶性を有し磁化方向が変化可能な第1自由磁化層と、
前記第1自由磁化層上に設けられ、磁化方向が変化可能であるとともに前記第1自由磁化層と強磁性交換結合する第2自由磁化層と、
前記第2自由磁化層上に設けられ、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有するトンネルバリア層と、
前記第1自由磁化層と前記第2自由磁化層との間に設けられ、前記第1自由磁化層が前記トンネルバリア層の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する緩和層と、
前記トンネルバリア層上に設けられ、磁化方向が固定可能な固定磁化層と
を備える
ことを特徴とするトンネル磁気抵抗素子が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトンネル磁気抵抗素子は、トップピン型の構造を備えながらMR比が高い。このトンネル磁気抵抗素子を備える磁気メモリ装置は、読出し動作の信頼性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〜トンネル磁気抵抗素子〜
本発明の一実施形態によるトンネル磁気抵抗(TMR)素子について、図1を用いて説明する。
【0011】
図1は本実施形態によるトンネル磁気抵抗素子の構造を示す概略断面図である。本実施形態のTMR素子1は、任意の基板10上に、第1自由磁化層11、緩和層12、第2自由磁化層13、トンネルバリア層14、第1固定磁化層15、非磁性金属層16、第2固定磁化層17、及び反強磁性層18が順に形成されている。このTMR素子は、基板上に、自由磁化層、トンネルバリア層、固定磁化層を順に積層した、いわゆるトップピン型のTMR素子である。
【0012】
一般に、TMR素子はトンネルバリア層の両側を強磁性体で挟んだ構造を備える。一方の強磁性層は、隣接する反強磁性層により磁化の方向が固定された固定磁化層である。本実施形態において、この固定磁化層は、第1固定磁化層15、非磁性金属層16、第2固定磁化層17が積層された固定磁化積層体22に相当する。他方の強磁性層は、磁化の方向を変更できる自由磁化層とする。第1自由磁化層11と第2自由磁化層13が強磁性交換結合している本実施形態において、この自由磁化層は、第1自由磁化層11、緩和層12、第2自由磁化層13が積層された自由磁化積層体21に相当する。固定磁化層と自由磁化層の強磁性層の磁化の向きが平行のとき、トンネル電流に対する抵抗値は低く、反平行のときトンネル電流に対する抵抗は高い。
【0013】
自由磁化層と固定磁化層の強磁性層の磁化の向きが平行のときと反平行のときとで電圧出力変化量は、例えば差動アンプで判定できる程度に大きい(例えば50mV以上)必要がある。すなわち、高い磁気抵抗変化率(MR比)が要求される。MR比とは、磁気抵抗効果素子の固定磁化層及び自由磁化層の磁化方向が平行の場合と反平行の場合との間における電気抵抗の変化率を示すものである。MR比が大きいほど読出しマージンが大きくS/N比が向上していることを表す。
【0014】
第1自由磁化層11は、例えば外部磁場などの影響を受けて容易に磁化の方向が変化しうる材料が適している。このような強磁性材料として、例えばfcc結晶構造を有するNiFeや、bcc結晶構造のCoFe、Fe、Co等のアモルファスではなく何らかの結晶性を有する強磁性材料が適している。但し、製造方法によって結晶配向性、格子乗数は大きくことなり、磁気特性、上層膜の結晶性を左右する原因となる。
また、第1自由磁化層11に用いられる材料は、NiFe、CoFe、Co、Feに対して、B、C、Al、Si、及びZrからなる群より選択された少なくとも1つの元素が添加された材料で形成してもよい。
【0015】
第1自由磁化層11は、通常、第2自由磁化層13よりも保磁力の小さな材料で形成される。第1自由磁化層11と、それよりも保磁力の小さな第2自由磁化層13とが強磁性的に交換結合することにより、外部磁場の変化に対するTMR素子感度(第1自由磁化層11及び第2自由磁化層13の磁化方向の変化のしやすさ)を向上させることができる。一般に、強磁性膜は、その保磁力が小さいほど、外部磁場の方向の変化に反応しやすくなる。第1自由磁化層11の保磁力が第2自由磁化層13の保磁力よりも小さいため、外部磁場の方向が変化すると、第2自由磁化層13の磁化方向の変化よりも先に、第1自由磁化層11の磁化方向が変化する。第2自由磁化層13の磁化方向は、第1自由磁化層11磁化方向の変化に追随して変化しやすくなる。この保磁力の点から、第1自由磁化層に用いられる材料はNi及びFeを含む強磁性材料が好ましく、特にNiFeが好ましい。
【0016】
第1自由磁化層11の厚さは、例えば10nm以上である。本実施形態のTMR素子を後述する磁気メモリ装置に設けたときに、10nm以上の自由磁化層11は、磁気情報を記録する記録部としても機能する。磁気メモリ装置の詳細は後述する。
【0017】
上述のように本構造のトップピンTMRでは、第1自由磁化層11は、アモルファスではなく何らかの結晶性を有する強磁性材料が適している。結晶性を有する下地層は、上層の結晶性に影響を与えることは一般的であり、第1自由磁化層11と、この上層にある第2自由磁化層13、トンネルバリア層14を独立に結晶性制御するためには、第1自由磁化層11の結晶性の影響を何らかの方法で抑制する必要がある。
【0018】
緩和層12は第1自由磁化層11の上に設けられる。緩和層12は、第1自由磁化層11がトンネルバリア層14の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する働きを有する。緩和層12に用いられる材料は、例えばタンタル(Ta)から構成される。Taからなる緩和層12の厚さは例えば0.1nm〜0.5nmである。Taからなる緩和層の厚さを上記範囲内とすることにより、第1自由磁化層11の結晶構造が、トンネルバリア層14の結晶配向性に及ぼす影響を抑制できる。緩和層12は、第1自由磁化層11と第2自由磁化層12とが強磁性交換結合することができる厚さを有する。Ta層からなる緩和層12の厚さが2.0nmを超えると、第1自由磁化層11と第2自由磁化層13とが交換結合しなくなり、第2自由磁化層13の磁化が反転せず、TMR素子のMR比が低下するおそれがある。一方、Ta層からなる緩和層12の厚さが0.1nm未満では、トンネルバリア層14の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する働きが不十分なおそれがある。
【0019】
なお、本実施形態において緩和層12に用いられる材料はTaであるが、本発明における緩和層に使用可能な材料はこれに限定されず、例えば、W、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hfなどの導電性の非晶質材料を用いることができる。これらの材料により形成される緩和層は、第1自由磁化層11がトンネルバリア層14の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する働きを有する。
【0020】
第2自由磁化層13は、例えば外部磁場などの影響を受けて磁化の方向が変化しうる。第2自由磁化層13は第1自由磁化層11と強磁性的に交換結合している。第2自由磁化層13は、例えば、Co、Feを含む強磁性材料で形成される。第2自由磁化層13は非晶質であることが、絶縁層の結晶性に悪影響を及ぼしにくいため、得られる素子のMR比が大きい点において好ましい。第2自由磁化層13は、強磁性材料であるCoFeに加えて更にBを含むことにより非晶質となりうる。第2自由磁化層13は、Co、Fe、Bの他に、更にC、Al、Si、及びZrからなる群より選択された少なくとも1つの元素が添加されていてもよい。
【0021】
トンネルバリア層14はMgOで形成されており、その厚さは、例えば1.0nmである。第2自由磁化層13及び第1固定磁化層15に挟まれたトンネルバリア層14は、その層の主面に略垂直な方向に、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有する絶縁層である。トンネルバリア層14を形成するMgOは結晶質であることが好ましく、特に、(001)配向したMgOが好ましい。このようなトンネルバリア層を備えるTMR素子はMR比が高い。また、トンネルバリア層14の厚さは、その膜質が良好な点から、0.7nm〜2.0nmの範囲内とすることが好ましい。なお、トンネルバリア層14を、MgO以外に、AlO、HfO、TiO、TaOZrO、AlN、TiN、ZrN等で形成してもよい。
【0022】
第1固定磁化層15、非磁性金属層16、第2固定磁化層17がトンネルバリア層14の上に順に積層されてなる固定磁化積層体22は、第1固定磁化層15と第2固定磁化層17とが、非磁性金属層16を介して反強磁性的に交換結合する、いわゆる積層フェリピン構造を有する。
【0023】
第1固定磁化層15は、例えば、Co、Feを含む強磁性材料で形成される。第2自由磁化層13は非晶質であることが、絶縁層の結晶性に悪影響を及ぼしにくいため、得られる素子のMR比が大きい点において好ましい。第2自由磁化層13は、強磁性材料であるCoFeに加えてBを含むことにより非晶質となりうる。なお、第2自由磁化層13は、CoFeBの他に、更にC、Al、Si、及びZrからなる群より選択された少なくとも1つの元素が添加されていてもよい。第1固定磁化層15の厚さは、例えば2.3nmである。
【0024】
非磁性金属層16は、例えばRuで形成されており、その厚さは、例えば0.8nmである。非磁性金属層16の厚さは、第1固定磁化層15と第2固定磁化層17とが反強磁性的に交換結合する範囲に設定される。その範囲は、0.4nm〜1.5nmであり、好ましくは0.4nm〜0.9nmである。非磁性金属層16は、Ru以外に、Rh、Ir、Cu、Al、Au、Ru系合金、Rh系合金、Ir系合金等の非磁性材料で形成してもよい。Ru系合金の例として、例えば、Co、Cr、Fe、Ni、及びMnからなる群より選択された少なくとも1つの元素とRuとの合金が挙げられる。
【0025】
第2固定磁化層17は、例えば、Co、Fe、Niを含む強磁性材料で形成され、例えば、CoFeが好ましく用いられる。第2固定磁化層17の厚さは例えば1.7nmである。第2固定磁化層17の磁化方向は、反強磁性層18との交換相互作用により、所定の方向に固定される。すなわち、第2固定磁化層17は、外部磁場が印加されても、その磁場強度が交換相互作用よりも弱い範囲であれば磁化方向が変化せず、このとき、第1固定磁化層15の磁化方向も変化しない。
【0026】
反強磁性層18は、固定磁化積層体22の上に設けられる。反強磁性層18は、IrMnで形成されており、その厚さは例えば7nmである。なお、反強磁性層18は、IrMn以外の反強磁性材料、例えばPt、Pd、Ni、Ir、及びRhからなる群より選択された少なくとも1つの元素とMnとの合金で形成してもよい。反強磁性層18は、TMR素子を構成する各層を成膜し終えた後に、磁場中で熱処理(アニール)を行うことにより、規則合金化して反強磁性が出現する。
【0027】
反強磁性層18の上には、図示されない上部電極膜が設けられていてもよい。上部電極膜に用いる材料は、導電性を有する材料であればよく、例えばCuである。また、反強磁性層18と上部電極膜の間には、更に、図示されない接続電極膜が設けられていてもよい。接続電極膜に用いられる材料としては、例えばTa、Ruが挙げられる。
【0028】
基板10と第1自由磁化層11との間には、図示されない下部電極膜が設けられていてもよい。下部電極に用いる材料は、導電性を有する材料であればよく、例えばCuである。
【0029】
本実施形態のように、第1自由磁化層と第2自由磁化層との間に緩和層が設けられたトップピン型のTMR素子は、緩和層が設けられていないものに比べてMR比が高い。このTMR素子を磁気メモリ装置に用いると、読出し動作の信頼性が向上する。
【0030】
本実施形態のTMR素子のMR比が向上する理由は以下のように推測される。緩和層の存在により、成膜工程及び反強磁性層の反強磁性を出現させるための磁場中における熱処理工程等において、第1自由磁化層の上に設けられた第2自由磁化層及びトンネルバリア層の結晶構造は第1自由磁化層の結晶構造の影響を受けにくい。

例えば、NiFe/CoFeB/MgO/CoFeBからなるTMR素子において、第1自由磁化層がfcc(111)NiFeで緩和層を設けない場合、磁場中で熱処理(アニール)時に、アモルファスCoFeBは、fcc(111)に結晶配向し、MgOも下地に依存して、(111)配向や(220)配向し、MRが低下する。
【0031】
一方、本件の緩和層は、この下層膜の結晶性の影響を上層に伝達しない効果があり、MgOは、高いMR比を得られることが知られている(001)配向していると考えられる。
【0032】
このように本件の緩和層を挿入した構造であれば、第1自由磁化層11と、この上層にある第1自由磁化層13、トンネルバリア層14を独立に結晶性制御することが可能となり、材料選択の幅、製造方法の幅が広がる特徴も有る。
【0033】
本実施形態のトップピン型のTMR素子は、例えば、多数の磁気情報を記録できる記録用の磁性細線を第1自由磁化層として含むTMR素子を設けた磁気メモリ装置、いわゆる磁壁移動型ストレージ・メモリに好ましく用いることができる。トップピン型のTMR素子を備える磁気メモリを作成する際、磁性細線の形状精度を高め配線の接触不良を防ぐための特別なプロセスを必要としない。このため、TMR素子のうち磁性細線とそれ以外の部分とを連続して成膜することができる。得られるTMR素子は、不純物の混入や大気暴露による表面酸化などの問題が生じないため、MR比が向上する。また、このような磁気メモリ装置は、その製造工程が簡略であるため、低コスト化を実現可能である。なお、ボトムピン型のTMR素子を備える磁気メモリ装置の製造方法において、磁性細線の形状精度を高め配線の接触不良を防ぐために、通常、TMR素子を製造する途中で、例えばSiOやSiNなどの平坦化膜が上面に設けられ、その上面を平坦化し、その平坦化された上面に磁性細線が設けられる。この平坦化の際に不純物の混入や大気暴露による表面酸化などの問題が生じうる。
【0034】
磁気メモリ装置に備えられるTMR素子において、記録用の磁性細線の厚さは、例えば、10〜40nm程度である。この第1自由磁化層がfcc(111)NiFeの下地層が厚くなるほど、その上に設けられる膜の結晶性は下地層の影響を受けやすい。比較的大きな膜厚を有し且つfcc構造を有する磁性細線が下地として設けられたTMR素子は、磁性細線とトンネルバリア層との間に緩和層が設けられることによって、トンネルバリア層への下地層の影響を効果的に抑制することができる。
【0035】
上記実施形態のTMR素子の製造方法は特に限定されるものではない。上記実施形態のTMR素子は、集積回路の製造に用いられるスパッタリングなどの成膜技術、フォトリソグラフィ法やエッチング法等を利用したパタニング技術、及び機械加工や研磨加工などの研磨技術を含む既存の薄膜製造プロセスを用いて作成できる。
【0036】
〜磁気メモリ装置〜
本発明の一実施形態による磁気メモリ装置について、図2を用いて説明する
図2は、本実施形態による磁気メモリ装置の基本構造を示す概略図である。本実施形態の磁気メモリ装置は、任意の基板10上に設けられた磁性細線(第1自由磁化層)11と、その上に設けられた読出し素子32とからなるTMR素子を備える、いわゆる磁壁移動型ストレージ・メモリである。読出し素子32には、読み出し用のパルス電流発生装置36と比較回路35が接続されている。磁性細線11の読出し素子が設けられていない部分の周辺には読出し素子31が設けられている。読出し素子31は、書込み用のパルス電流発生器34に接続されている。磁性細線11には、磁性細線内の磁区を移動させるためのパルス電流Iを発生させる磁壁移動装置33が接続されている。
【0037】
図3は、本実施形態の磁気メモリ装置の要部を示す斜視図である。磁性細線(第1自由磁化層)11は図示されない基板上に設けられ、複数の磁気情報を記録可能な記録部として機能する。磁性細線11はその層厚方向に垂直な一方向に伸びた、いわゆる線状の形状を有する。磁性細線11は、上記実施形態のTMR素子の説明における第1自由磁化層11と同様、例えば外部磁場などの影響を受けて磁化方向が変化しうる。磁性細線11に用いられる材料は、上記実施形態のTMR素子の説明における第1自由磁化層11と同様、Ni及びFeを含んでなる強磁性材料であり、例えばfcc構造を有するNiFeやCoFeNiである。
【0038】
磁性細線11の内部には、静電磁エネルギーが最小になるように磁区が形成され、磁区の境界に磁壁(Domein Wall)が形成される。磁性細線11の線幅は例えば10〜300nm程度である。磁性細線11の膜厚は例えば10〜40nm程度である。このような線幅及び膜厚を有する細線内には、長手方向に並んだ複数の微小磁区が形成される。磁性細線11の長手方向が磁化容易方向(磁気モーメントが向きやすい方向)であり、長手方向に垂直な方向は磁化困難方向(磁気モーメントが向き難い方向)である。磁壁移動装置33により磁性細線11に電流パルスを印加すると、伝導電子eが磁壁を横切る際、伝導電子のスピンはS−d相互作用によって磁気モーメントに沿って回転する。この際、角運動量保存によって伝道電子のスピン角運動量は磁気モーメントへ吸収される。この現象をスピントルク・トランスファー効果という。その結果、磁気モーメントは回転して磁壁移動が生じる。このように磁性細線11に電流を流すことによって長手方向に並んだ複数の微小磁区を移動させることができる。
【0039】
読出し素子32は、磁性細線11に記録された磁気情報を読み出すための素子である。
読出し素子32は、磁性細線11上の任意の場所に設けられる。読出し素子32は、磁性細線11に近いほうから、緩和層12、第2自由磁化層13、トンネルバリア層14、第1固定磁化層15、非磁性金属層16、第2固定磁化層17、及び反強磁性層18が順に形成されてなる。これらの説明は、上記実施形態のTMR素子についての説明と同様であるため省略する。反強磁性層18の上には更に上部電極膜46が設けられる。
【0040】
書込み素子31は、磁性細線11内の磁化の方向を反転させる素子である。書込み素子31は、例えば、電流を流すことができる導線である。パルス電流発生器34を用いて導線に電流を流すことによりその周囲に生じる磁場を利用して、磁性細線11に磁気情報を記録する。また、書込み素子31は、例えば、読出し素子32と同様な構成を有するTMR素子であってもよい。このとき、書込み用のTMR素子は、読出し素子32と同様、磁性細線11上に設けられる。TMR素子を構成する各層の積層方向に流すパルス電流の向きによって、磁性細線11の磁化の向きは反転する。この書込み方式は、スピン注入磁化反転方式と呼ばれる。この書込み方式の詳細は、例えば、「スピン注入磁化反転の研究動向」(屋上公二郎,鈴木義茂,日本応用磁気学会Vol.28、No.9、2004)に開示されている。
【0041】
磁壁移動装置33は、磁性細線内の磁区を移動させるためのパルス電流Iを発生させるためのパルス電流発生器である。磁壁移動装置33は、読出したい又は書き込みたい相対的な位置の磁区が読出し素子32と接するように、磁性細線11にパルス電流Iを流すことができる。
【0042】
比較回路35は、読出し素子32に接続されている。パルス電流発生器36を用いて読出し素子32の膜厚方向に電流を流すことにより発生する読出し素子32の膜厚方向の電位差Vspと、基準電圧値(リファレンス値)Vrefとを比較する回路である。基準電圧値Vrefは、例えば同じタイプの複数のTMR素子について、膜厚方向の電位差を実測することにより求めた値である。具体的には、固定磁化層と自由磁化層の磁化方向が同じであるときの電位差と、固定磁化層と自由磁化層の磁化方向が異なるときの電位差とを測定し、その両者の中間の値を基準電圧値とすることができる。例えば、電位差Vspが基準電圧値Vref以上のときをデジタル信号“0”に対応させ、電位差Vspが基準電圧値Vrefよりも小さいときをデジタル信号“1”に対応する。
【0043】
上記実施形態の磁気メモリ装置は、fcc構造を有する磁性細線(第1自由磁化層)と第2自由磁化層との間に緩和層が設けられたトップピン型のTMR素子を備える。このようなTMR素子は、緩和層が設けられていないものに比べてMR比が高い。
【0044】
TMR素子のMR比が向上する理由は、既に述べたとおり、緩和層の存在により、第2自由磁化層及びトンネルバリア層の結晶構造が第1自由磁化層の結晶構造の影響を受けにくく、トンネルバリア層が高いMR比を得られることが知られている結晶構造を有するためであると推測される。磁性細線の厚さが10〜40nm程度の膜厚を有する磁性細線の上に緩和層を設けると、緩和層が設けられていないものに比べてMR比が著しく高くなる。このTMR素子を備える磁気メモリは、磁性細線に多数のデータを記録でき、その読出し動作の信頼性が高い。
【0045】
なお、上記実施形態の磁気メモリ装置において、緩和層12及び第2自由磁化層13はその上に設けられたトンネルバリア層14の幅及び奥行きに対応する形状を有しているが、緩和層12は磁性細線11の幅及び奥行きの形状に対応していてもよく、また、緩和層12及び第2自由磁化層14の両方が磁性細線11の幅及び奥行きの形状に対応していてもよい。
【0046】
〜磁気メモリ装置の製造方法〜
本発明の一実施形態による磁気メモリ装置の製造方法について、図4を用いて説明する。
【0047】
図4は、本実施形態の磁気メモリ装置の製造方法を示す断面図である。
【0048】
まず、シリコン基板10上に層間絶縁膜として厚さ200nmのシリコン酸化膜42をCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成する。次いで、シリコン酸化膜42上にレジストパタンを形成し、更にドライエッチングによりレジストパタンが設けられていない部分に溝を形成し、その溝の内部にCuからなる厚さ400nmの下部電極膜42をスパッタリング法により形成する。その後、CMP法により上面を平坦化し、図4(a)に示す積層体を得る。
【0049】
次に、第1自由磁化層11として厚さ40nmのNiFe層、及び緩和層12として厚さ0.4nmのTa層を順に成膜する。続けて、第2自由磁化層13として厚さ2nmのCoFeB層、トンネルバリア膜14として厚さ1.0nmのMgO層、第1固定磁化層15として厚さ2.3nmのCoFeB層、非磁性金属膜16として厚さ0.8nmのRu層、第2固定磁化層17として厚さ1.7nmのCoFe層、反強磁性層18として厚さ7nmのIrMn層を順に成膜する。図4は、一連の成膜により得られる積層体の断面図である。第1自由磁化層11及び緩和層12は、最終的に線状の積層膜51を構成する。また、第2自由磁化層13、トンネルバリア膜14、第1固定磁化層15、非磁性金属膜16、第2固定磁化層17、反強磁性層18は、線状の積層膜51の上に形成される積層膜52を構成する。積層膜52の上に、更に、接続電極膜43として厚さ50nmのTa層を成膜する。これらの層は、例えば、スパッタリング法によって成膜することができる。
【0050】
次に、レジストパターニング及びドライエッチングにより、図4(b)に示されるように、第1自由磁化層11、緩和層12、第2自由磁化層13、トンネルバリア膜14、第1固定磁化層15、非磁性金属膜16、第2固定磁化層17、反強磁性層18、及び接続電極膜43を、ライン/スペース=50nm/50nmのパターンに加工する。更に、同様の方法により、図4(d)に示されるように、第2自由磁化層13、トンネルバリア膜14、第1固定磁化層15、非磁性金属膜16、第2固定磁化層17、反強磁性層18、及び接続電極膜43からなる積層膜52が、幅30nm×奥行き90nmの寸法をそれぞれ有する読出し素子32、書込み素子31、基準電圧素子63を備えるように加工する。加工後、読出し素子32と書込み素子31とは第1自由磁化層11及び緩和層12からなる線状の積層膜51で接続されている。一方、読出し素子32及び書込み素子31が備える積層膜51と、基準電圧素子63が備える積層膜51とは、離れている。
【0051】
積層膜52を加工する工程において、ドライエッチングは、緩和層12が露出するまで行う。ドライエッチングとしては、例えば反応性イオンエッチング(RIE)やイオンミリング法などが挙げられる。緩和層12として例えばTaが用いられるとき、Taはエッチング速度が小さい。よって、緩和層12は積層膜52のドライエッチングにおいてストッパとして機能する。第1自由磁化層の上にこの緩和層12が設けられていることにより、第1自由磁化層11へ加工ダメージが及ばず、得られる磁気メモリ装置の信頼性が高まる。緩和層12が露出したことを確認するため、例えば、SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)信号を検出可能なドライエッチング装置を用いることができる。Ta元素由来の信号を検出したところで加工を終了することにより、磁気情報を記録する記録部として機能する第1自由磁化層11へのオーバーエッチングが防止され、磁気メモリ装置の高信頼性に寄与する。図5は、積層膜52をイオンミリングにより加工する間に検出したMn、Ni、Co、Ta、RuのSIMS信号を示すグラフである。図5において、横軸は時間であり、縦軸は信号強度を示す。Taの信号を検出した後、すぐに加工を停止することにより、第1自由磁化層11の損傷を防ぐことができる。なお、本実施形態において、緩和層12に用いられる材料はTaであるが、本発明における緩和層に使用可能な材料はこれに限定されず、例えば、W、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hfなどの導電性の非晶質材料を用いることができる。これらの材料により形成される緩和層は、積層膜52のドライエッチングよる加工の際、ストッパとして機能する。緩和層12を設けていない
次いで、積層膜51及び52を覆うように、厚さ200nmのシリコン酸化膜44をCVD法等により形成する。その後、接続電極膜43が露出するようにCMP法等により研磨し、更にエッチバックを行い接続電極膜43が露出した表面を平坦化し、図4(e)に示される積層体を得る。
【0052】
次いで、積層膜51と電気的に接続するコンタクトプラグを形成するためのコンタクトホールを、レジストパターニング及びドライエッチングにより形成する。その後、例えばCVD法により、導電性であり且つバリアメタルとして設けられる窒化チタン膜(図示せず)、及び導電性のタングステン膜(図示せず)を堆積する。その後、これら導電膜をエッチバック或いはポリッシュバックし、下部電極41及び線状の積層膜51と電気的に接続されたコンタクトプラグ45を形成し、図4(f)に示される積層体を得る。
【0053】
次いで、接続電極膜43の上に、厚さ200nmの銅層をスパッタリング法により成膜し、更にレジストパターニング、及びエッチングを行うことで、上部電極46を形成する。その後、保護膜47として、厚さ400nmのシリコン酸化膜をCVD法等により形成し、図4(g)に示される積層体を得る。
【0054】
その後、基板を真空中に配置し、磁場を印加した状態で熱処理を行い、本実施形態の磁気メモリ装置を得る。この熱処理によって、第1固定磁化層15及び第2固定磁化層17の磁化方向が固定され、また、トンネルバリア層14を構成するMgO(001)面の配向性が向上する。熱処理温度は、例えば270℃であり、熱処理時間は例えば4時間である。
【0055】
本実施形態における磁気メモリは、線状の積層膜51とその上に設けられた積層膜52とを含むTMR素子が、読出し素子32のほかに、書込み素子31、及び基準電圧素子63にも設けられている。書き込み素子部62は、それを構成する各層の積層方向に流すパルス電流の向きによって、線状の第1自由磁化層11の内部の磁化の向きを反転させることができる。また、基準抵抗素子部63は、読出し素子61の膜厚方向の電位差Vspと比較する、基準電圧値Vrefを生成するために設けられている。
【0056】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
実施例1のTMR素子を以下の手順で作成する。まず、シリコン基板上に層間絶縁膜として厚さ200nmのシリコン酸化膜をCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成した。次いで、シリコン基板に近い方から第1自由磁化層としてNiFe(40nm)、緩和層としてTa(0.1nm)、第2自由磁化層としてCoFeB(2.0nm)、トンネルバリア膜としてMgO(1.3nm)、第1固定磁化層としてCoFeB(2.0nm)、非磁性金属層としてRu(0.9nm)、第2固定磁化層としてCoFe(2.0nm)、反強磁性層としてIrMn(7nm)、接続電極膜としてTa(5nm)及びRu(10nm)を、スパッタリング法により順に積層形成した。次いで、磁場中、270℃環境下において、4時間真空熱処理を行い、実施例1のTMR素子を得た。なお、上記の括弧内の数値は膜厚を表し、以下の実施例、比較例、および分析のための積層体において同様である。
【0058】
(実施例2)
緩和層としてTa(0.1nm)の代わりにTa(0.2nm)を形成したことを除き、実施例1と同様の手順で実施例2の強磁性TMR素子を形成した。
【0059】
(実施例3)
緩和層としてTa(0.1nm)の代わりにTa(0.3nm)を形成したことを除き、実施例1と同様の手順で実施例3の強磁性TMR素子を形成した。
【0060】
(実施例4)
緩和層としてTa(0.1nm)の代わりにTa(0.4nm)を形成したことを除き、実施例1と同様の手順で実施例4の強磁性TMR素子を形成した。
【0061】
(実施例5)
緩和層としてTa(0.1nm)の代わりにTa(0.5nm)を形成したことを除き、実施例1と同様の手順で実施例5の強磁性TMR素子を形成した。
【0062】
(実施例6)
緩和層としてTa(0.1nm)の代わりにTa(0.4nm)を、トンネルバリア膜としてMgO(1.3nm)の代わりにMgO(1.8nm)を形成したことを除き、実施例1と同様の手順で実施例6の強磁性TMR素子を形成した。
【0063】
(実施例7)
第1自由磁化層としてNiFe(40nm)の代わりにNiFe(4nm)を、緩和層として(0.1nm)の代わりにTa(0.4nm)を、トンネルバリア膜としてMgO(1.3nm)の代わりにMgO(2.0nm)を形成したことを除き、実施例1と同様の手順で実施例7の強磁性TMR素子を形成した。
【0064】
(実施例8)
第1自由磁化層としてNiFe(40nm)の代わりにNiFe(10nm)を、緩和層として(0.1nm)の代わりにTa(0.4nm)を、トンネルバリア膜としてMgO(1.3nm)の代わりにMgO(2.0nm)を形成したことを除き、実施例1と同様の手順で実施例7の強磁性TMR素子を形成した。
【0065】
(比較例1)
緩和層としてTa(0.1nm)を形成する代わりに、第1自由磁化層の上に緩和層を設けることなく第2自由磁化層を形成したことを除き、実施例1同様の手順で比較例1の強磁性TMR素子を形成した。
【0066】
(測定方法)
上記実施例1〜5、7、8、及び比較例1のTMR素子について、RA(Resistance Area Product)及び磁気抵抗変化率(MR比)を下記測定方法1により測定した。また、上記実施例6のRA及びMR比を下記測定方法2により測定した。
【0067】
<測定方法1>
RA及びMR比の測定にはCIPT法(Current−in−place tunneling method)を用いた。CIPT法の詳細については、Applied Physics Letter, vol. 83, No. 1,p84−86 (2003年)に記載されている。磁気抵抗変化率の値は、走査型伝導度顕微鏡(Capres製、商品名「SPM−CIPTech」)を使用して6点測定した値の平均値である。)
<測定方法2>
RA及びMR比の測定はR−H測定法により行った。具体的には、まず、上記TMR素子を1.4um×0.4umの寸法に微細加工し、上部電極、下部電極を形成した評価素子を作成した。次いで、外部磁界Hxを−200から+200Oeまで連続印加しながら、上部電極と下部電極に一定のバイアス電流Is=0.05mAを印加し、この端子間の電圧Vsを測定することでTMR素子の変化抵抗(R=Vs/Is)を測定した。本測定において、定電流源は、ADVANTEST社、商品名「R−6142」、電圧計は、Keithley社、商品名「2182A」を使用した。
【0068】
(測定結果)
図6は、実施例1〜5及び比較例1のTMR素子について、MR比を測定した結果を示すグラフである。図6は、MR比に対する緩和層の膜厚の依存性を示すグラフである。Ta緩和層を備える実施例1〜5のTMR素子のMR比は、Ta緩和層が存在しない比較例1のTMR素子のそれと比較して大きくなった。Ta緩和層の膜厚が0.2nm以上のとき、特にMR特性が大きく向上した。なお、実施例1〜5及び比較例1のRAは30Ω・μmだった。
【0069】
実施例6〜8の測定結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例6のTMR素子を3素子測定した結果のMR比は72〜82%、RAは996〜1065Ω・μmだった。
【0072】
実施例6のTMR素子の、自由磁化層の磁化方向による電圧変化量は、印加電流Is=0.05mAにおいて61mVだった。これは、差動アンプ等で判定可能な電圧変化量である。
【0073】
実施例7、8のTMR素子のMR比はそれぞれ161%、155%であり、高い値だった。実施例7、8のTMR素子のRAはそれぞれ5837Ω・μm、4053Ω・μm
だった。
【0074】
ここで、本発明の詳細な特徴を改めて説明する。
(付記1)
基板と、
前記基板上に設けられ、結晶性を有し磁化方向が変化可能な第1自由磁化層と、
前記第1自由磁化層上に設けられ、磁化方向が変化可能であるとともに前記第1自由磁化層と強磁性交換結合する第2自由磁化層と、
前記第2自由磁化層上に設けられ、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有するトンネルバリア層と、
前記第1自由磁化層と前記第2自由磁化層との間に設けられ、前記第1自由磁化層が前記トンネルバリア層の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する緩和層と、
前記トンネルバリア層上に設けられ、磁化方向が固定可能な固定磁化層と
を備える
ことを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
(付記2)
前記緩和層が導電性の非晶質材料を含んでなることを特徴とする付記1に記載のトンネル磁気抵抗素子。
(付記3)
前記導電性の非晶質材料がTaであることを特徴とする付記2に記載のトンネル磁気抵抗素子。
(付記4)
前記緩和層の厚さが0.1〜2nmであることを特徴とする付記3に記載のトンネル磁気抵抗素子。
(付記5)
前記第1自由磁化層がNi及びFeを含む結晶化合物からなることを特徴とする付記1に記載のトンネル磁気抵抗素子。
(付記6)
前記トンネルバリア層がMgOからなることを特徴とする付記1に記載のトンネル磁気抵抗素子。
(付記7)
前記NiFe層の厚さが10nm以上であることを特徴とする付記1に記載のトンネル磁気抵抗素子。
(付記8)
前記導電性の非晶質材料が、W、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hfからなる群の中から選ばれた少なくとも一つの元素を含むことを特徴とする付記2に記載のトンネル磁気抵抗素子。
(付記9)
基板と、
前記基板上に設けられ、結晶性を有し磁化方向が変化可能な第1自由磁化層と、
前記第1自由磁化層上に設けられ、磁化方向が変化可能であるとともに前記第1自由磁化層と強磁性交換結合する第2自由磁化層と、
前記第2自由磁化層上に設けられ、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有するトンネルバリア層と、
前記第1自由磁化層と前記第2自由磁化層との間に設けられ、前記第1自由磁化層が前記トンネルバリア層の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する緩和層と、
前記トンネルバリア層上に設けられ、磁化方向が固定可能な固定磁化層と
を備えることを特徴とする磁気メモリ装置。
(付記10)
前記第1自由磁化層は層厚方向に垂直な一方向に伸び、更に、前記第1自由磁化層の一端から他端へ電流を流す手段を有する付記9に記載の磁気メモリ装置。
(付記11)
更に、前記第1自由磁化層、前記緩和層、前記トンネルバリア層、及び前記固定磁化層を通る読出し電流を流すための読出し電流印加手段を有することを特徴とする付記9に記載の磁気メモリ装置。
(付記12)
更に、前記第1自由磁化層の磁化方向を制御する書込み素子を備える付記9に記載の磁気メモリ装置。
(付記13)
基板を準備する工程と、
前記基板上に、結晶性を有し磁化方向が変化可能な第1自由磁化層を設ける工程と、
前記第1自由磁化層上に緩和層を設ける工程と、
前記NiFe層上に外部磁場の影響を受けて磁化方向が変化可能であるとともに前記第1自由磁化層と強磁性交換結合する第2自由磁化層を設ける工程と、
前記第2自由磁化層上に、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有するトンネルバリア層を設ける工程と、
前記トンネルバリア層上に磁化方向が固定可能な固定磁化層を設ける工程と
を有し、
前記緩和層は、前記第1自由磁化層が前記トンネルバリア層の結晶配向性に及ぼす影響を抑制することを特徴とする磁気メモリ装置の製造方法。
(付記14)
更に、前記固定磁化層、前記トンネルバリア層、前記第2自由磁化層を、前記緩和層が露出するまでドライエッチングする工程を有することを特徴とする付記13に記載の磁気メモリ装置の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本実施形態によるトンネル磁気抵抗素子の構造を示す概略断面図である。
【図2】本実施形態による磁気メモリ装置の基本構造を示す概略図である。
【図3】図2の磁気メモリ装置の要部を示す斜視図である。
【図4】本実施形態の磁気メモリ装置の製造方法を示す断面図である。
【図5】TMR素子をイオンミリングにより加工する際に検出したSIMS信号を示すグラフである。
【図6】TMR素子のMR比に対する緩和層の膜厚の依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1 トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)
10 基板
11 第1自由磁化層(磁性細線)
12 緩和層
13 第2自由磁化層
14 トンネルバリア層
15 第1固定磁化層
16 非磁性金属層
17 第2固定磁化層
18 反強磁性層
21 自由磁化積層体
22 固定磁化積層体
31 読出し素子
32 書込み素子
33 磁壁移動装置
34 パルス電流発生器
35 比較回路
36 パルス電流発生器
43 接続電極膜
44 シリコン酸化膜
45 コンタクトプラグ
46 上部電極膜
47 保護膜
51 積層膜
52 積層膜
63 基準電圧素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、結晶性を有し磁化方向が変化可能な第1自由磁化層と、
前記第1自由磁化層上に設けられ、磁化方向が変化可能であるとともに前記第1自由磁化層と強磁性交換結合する第2自由磁化層と、
前記第2自由磁化層上に設けられ、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有するトンネルバリア層と、
前記第1自由磁化層と前記第2自由磁化層との間に設けられ、前記第1自由磁化層が前記トンネルバリア層の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する緩和層と、
前記トンネルバリア層上に設けられ、磁化方向が固定可能な固定磁化層と
を備える
ことを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記緩和層が導電性の非晶質材料を含んでなることを特徴とする請求項1に記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記導電性の非晶質材料がTaであることを特徴とする請求項2に記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記緩和層の厚さが0.1〜0.5nmであることを特徴とする請求項3に記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記第1自由磁化層がNi及びFeを含む結晶化合物からなることを特徴とする請求項1に記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記トンネルバリア層がMgOからなることを特徴とする請求項1に記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項7】
基板と、
前記基板上に設けられ、結晶性を有し磁化方向が変化可能な第1自由磁化層と、
前記第1自由磁化層上に設けられ、磁化方向が変化可能であるとともに前記第1自由磁化層と強磁性交換結合する第2自由磁化層と、
前記第2自由磁化層上に設けられ、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有するトンネルバリア層と、
前記第1自由磁化層と前記第2自由磁化層との間に設けられ、前記第1自由磁化層が前記トンネルバリア層の結晶配向性に及ぼす影響を抑制する緩和層と、
前記トンネルバリア層上に設けられ、磁化方向が固定可能な固定磁化層と
を備える
ことを特徴とする磁気メモリ装置。
【請求項8】
前記第1自由磁化層はその層厚方向に垂直な一方向に伸び、更に、前記第1自由磁化層の一端から他端へ電流を流す手段を有することを特徴とする請求項7に記載の磁気メモリ装置。
【請求項9】
基板を準備する工程と、
前記基板上に、結晶性を有し磁化方向が変化可能な第1自由磁化層を設ける工程と、
前記第1自由磁化層上に緩和層を設ける工程と、
前記NiFe層上に外部磁場の影響を受けて磁化方向が変化可能であるとともに前記第1自由磁化層と強磁性交換結合する第2自由磁化層を設ける工程と、
前記第2自由磁化層上に、トンネル現象により電子が透過可能なエネルギー障壁を有するトンネルバリア層を設ける工程と、
前記トンネルバリア層上に磁化方向が固定可能な固定磁化層を設ける工程と
を有し、
前記緩和層は、前記第1自由磁化層が前記トンネルバリア層の結晶配向性に及ぼす影響を抑制することを特徴とする磁気メモリ装置の製造方法。
【請求項10】
更に、前記固定磁化層の上方から、前記固定磁化層、前記トンネルバリア層、及び前記第2自由磁化層を、前記緩和層が露出するまでドライエッチングする工程を有することを特徴とする請求項9に記載の磁気メモリ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−80496(P2010−80496A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244104(P2008−244104)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】