説明

ハイブリッド車のアイドリング学習装置

【課題】機械的機構の歯打ちなどによる異音の発生を抑制するために電動機からトルクを出力しているときでも、より適正な内燃機関のアイドリング運転時の制御量を学習する。
【解決手段】アイドリング学習条件が成立してアイドリング制御量を学習する際には、モータMG2から押し当てトルクTadを出力しているときには、押し当てトルクTadが大きいほど大きくなる傾向に補正空気量Qadを設定し(S130)、この補正空気量Qadをアイドリング運転時における吸入空気量Qaに加算することによる補正を施してアイドリング空気量Qidlを計算し(S150)、アイドリング空気量Qidlを含むアイドリング制御量を学習する(S160)。これにより、プラネタリギヤの歯打ちなどによる異音の発生を抑制するための押し当てトルクTadをモータMG2から出力しているときでも、より適正なアイドリング制御量を学習することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車のアイドリング学習装置に関し、詳しくは、車軸に機械的機構を介して接続された内燃機関と、機械的機構より車軸側に接続されて走行用の動力を入出力する電動機と、を備えるハイブリッド車に搭載され、所定のアイドリング学習条件の成立に伴って内燃機関をアイドリング運転しているときのアイドリング運転状態を学習するアイドリング学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車のアイドリング学習装置としては、エンジンと、発電機と、車軸に連結された駆動軸に接続された変速機と、変速機の入力軸としての動力軸とエンジンのクランクシャフトと発電機の回転軸とにリングギヤとキャリアとサンギヤとが接続されたプラネタリギヤと、動力軸に動力を入出力する電動機と、を備えるハイブリッド車において、変速機により駆動軸と動力軸との接続が解除されているときに、プラネタリギヤを介して発電機からの動力がエンジンのクランクシャフトに出力されていないときにはエンジンのアイドリング学習の実行を許可し、プラネタリギヤを介して発電機からの動力がエンジンのクランクシャフトに出力されているときにはエンジンのアイドリング学習の実行を禁止するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド車のアイドリング学習装置では、変速機により駆動軸と動力軸との接続が解除されているときに、プラネタリギヤを介して発電機からの動力がエンジンのクランクシャフトに出力されているときにはエンジンのアイドリング学習の実行を禁止することにより、アイドリング運転時の制御量に発電機から出力している動力が影響しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−195279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のハイブリッド車のアイドリング学習装置では、電動機からトルクを出力しているときには、エンジンのアイドリング運転時の制御量に電動機から出力しているトルクが影響し、アイドリング運転時の制御量を適正に学習することができない場合が生じる。エンジンをアイドリング運転すると、エンジンの脈動するトルクによってプラネタリギヤから歯打ちによる異音が発生する場合がある。このプラネタリギヤからの異音の発生を抑制するために、電動機から異音抑制用のトルクを出力することも行なわれるが、この電動機からの異音抑制用のトルクの出力によってアイドリング運転時の制御量を適正に学習することができなくなってしまう。
【0005】
本発明のハイブリッド車のアイドリング学習装置は、プラネタリギヤなどの機械的機構の歯打ちなどによる異音の発生を抑制するために電動機からトルクを出力しているときでも、より適正な内燃機関のアイドリング運転時の制御量を学習することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車のアイドリング学習装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド車のアイドリング学習装置は、
車軸側に機械的機構を介して接続された内燃機関と、前記機械的機構より車軸側に接続されて走行用の動力を入出力する電動機と、を備えるハイブリッド車に搭載され、所定のアイドリング学習条件の成立に伴って前記内燃機関をアイドリング運転しているときの制御量をアイドリング制御量として学習するアイドリング学習装置において、
学習する際に前記機械的機構からの異音の発生を抑制するために前記電動機が取り付けられた回転軸に対して一方向に作用する押し当てトルクが前記電動機から出力されているときには、前記押し当てトルクに応じた補正値を用いて前記アイドリング制御量を補正する、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド車のアイドリング学習装置では、学習する際に車軸側と内燃機関とに接続された機械的機構から歯打ちなどの異音の発生を抑制するために、機械的機構より車軸側に接続された電動機から一方向に作用する押し当てトルクを出力しているときには、押し当てトルクに応じた補正値を用いて内燃機関をアイドリング運転しているときの制御量としてのアイドリング制御量を補正することにより、より適正なアイドリング制御量を学習することができる。
【0009】
こうした本発明のハイブリッド車のアイドリング学習装置において、前記アイドリング制御量は、前記内燃機関をアイドリング運転しているときの吸入空気量としてのアイドリング空気量を含み、前記押し当てトルクに応じた補正空気量を前記補正値として設定し、前記アイドリング空気量を前記補正空気量により補正する、ものとすることもできる。こうすれば、より適正なアイドリング空気量を含むアイドリング制御量を学習することができる。この場合、前記押し当てトルクが大きいほど大きくなる傾向に前記補正空気量を設定するものとすることもできる。これは、押し当てトルクが大きいほど、押し当てトルクによるアイドリング空気量への影響が大きくなると考えられることに基づく。
【0010】
アイドリング空気量を補正空気量により補正する態様の本発明のハイブリッド車のアイドリング学習装置において、前記内燃機関をアイドリング運転しているときの吸入空気量を前記補正空気量によって補正したものを前記アイドリング空気量として学習する、ものとすることもできる。即ち、内燃機関をアイドリング運転しているときの吸入空気量を補正空気量で補正したものを学習するものとするのである。また、前記アイドリング制御量の学習を終了した後に前記アイドリング空気量を前記補正空気量により補正する、ものとすることもできる。即ち、学習が終了した後にアイドリング制御量に含まれるアイドリング空気量を補正空気量により補正するものとするのである。この場合、「学習を終了した後」は、「補正空気量による補正を行なわない通常の学習を終了した後」の意味であり、本発明における実質的な「学習の終了」を意味しているのではない。本発明における実質的な「学習の終了」は、アイドリング空気量を補正空気量で補正した後である。
【0011】
また、本発明のハイブリッド車のアイドリング学習装置において、前記機械的機構は、前記内燃機関の出力軸と前記車軸側とに三つの回転要素のうちの二つの回転要素が接続された遊星歯車機構であり、前記ハイブリッド車は、前記遊星歯車機構の三つの回転要素のうちの残余の回転要素に動力を入出力する発電機を備える車両である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【図3】エンジンECU24により実行されるアイドリング制御量学習処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】補正空気量設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】変形例のアイドリング制御量学習処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド車のアイドリング学習装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという。)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、モータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという。)40と、インバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという。)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという。)70と、を備える。
【0015】
エンジン22は、図2に示すように、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入すると共に燃料噴射弁126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃料室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化触媒(三元触媒)を有する浄化装置134を介して外気へ排出される。エンジンECU24は、CPU24aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU24aの他に処理プログラムを記憶するROM24bと、データを一時的に記憶するRAM24cと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温,燃焼室内に取り付けられた圧力センサ143からの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128や排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジション,スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットルポジション,吸気管に取り付けられたエアフローメータ148からの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温,空燃比センサ135aからの空燃比AF,酸素センサ135bからの酸素信号などが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。また、エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのクランクポジションに基づいてエンジン22の回転数Neも計算している。
【0016】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチングするためのスイッチング制御信号が出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を演算している。
【0017】
バッテリECU52は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からのバッテリ温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量の割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。
【0018】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0019】
なお、実施例のハイブリッド車のアイドリング学習装置としては、エンジンECU24が該当する。
【0020】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動力36に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0021】
エンジン運転モードでは、HVECU70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に駆動軸36の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrvを計算すると共に計算した走行用パワーPdrvからバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定する。そして、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行い、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0022】
モータ運転モードでは、HVECU70は、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸36に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0023】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にエンジン22のアイドリング運転時における制御量としてのアイドリング制御量を学習する際の動作について説明する。図3は、エンジンECU24により実行されるアイドリング制御量学習処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、予め定められたアイドリング学習条件が成立したときに実行される。アイドリング学習条件としては、エンジン22や浄化装置134の触媒の暖機が完了している条件やエンジン22がアイドリング運転している条件,前回のアイドリング制御量の学習から所定時間経過している条件などの複数の条件が含まれる。
【0024】
アイドリング制御量学習処理ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、まず、モータMG2から出力される押し当てトルクTadを入力すると共に(ステップS100)、押し当てトルクTadが値0であるか否かを判定する(ステップS110)。モータMG2から出力するトルクは、HVECU70により、エンジン22をアイドリング運転しているときには、モータMG1からトルクの出力が行なわれていないため、要求トルクTr*を駆動軸36に出力するための走行用のトルクとエンジン22がアイドリング運転されていることによってプラネタリギヤ30から歯打ちなどの異音が発生するのを抑制するためにリングギヤの回転方向に対して一方向に作用する押し当てトルクTadとの和のトルクとして計算される。このとき、走行用のトルクの大きさによって押し当てトルクTadの大きさが調整され、走行用のトルクによっては押し当てトルクTadが出力されないとき、即ち値0の押し当てトルクTadが出力されるときも生じる。したがって、ステップS100の処理は、モータMG2のトルク指令Tm2*を計算するときに用いる押し当てトルクTadをHVECU70から通信により入力する処理となる。
【0025】
押し当てトルクTadが値0のとき、即ち、モータMG2から押し当てトルクTadが出力されていないときには、アイドリング制御量の学習を実行して(ステップS120)、本ルーチンを終了する。ここで、アイドリング制御量としては、エンジン22のアイドリング運転時における吸入空気量としてのアイドリング空気量Qidlや吸気温,スロットルポジション,燃料噴射量,点火時期,カムポジションなどのエンジン22をアイドリング運転しているときに検出される種々の検出値や制御値を制御量としてそのすべて或いはその一部が含まれる。
【0026】
押し当てトルクTadが値0ではないとき、即ち、モータMG2から押し当てトルクTadを出力しているときには、押し当てトルクTadに基づいて補正空気量Qadを設定すると共に(ステップS130)、エンジン22のアイドリング運転時における吸入空気量Qaをエアフローメータ148から入力し(ステップS140)、入力した吸入空気量Qaに補正空気量Qadを加えてアイドリング空気量Qidlとして計算し(ステップS150)、計算したアイドリング空気量Qidlを含むアイドリング制御量の学習を実行して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。ここで、補正空気量Qadは、実施例では、予め押し当てトルクTadと補正空気量Qadとの関係を実験などにより求めて補正空気量設定用マップとしてROM24bに記憶しておき、押し当てトルクTadが与えられるとマップから対応する補正空気量Qadを導出することにより設定するものとした。補正空気量設定用マップの一例を図4に示す。補正空気量Qadは、図示するように、押し当てトルクTadが大きいほど大きくなる傾向に設定される。これは、押し当てトルクTadが大きくなるほど、押し当てトルクTadによるアイドリング空気量Qidlへの影響が大きくなると考えられることに基づく。
【0027】
以上説明した実施例のハイブリッド車のアイドリング学習装置によれば、アイドリング学習条件が成立してアイドリング制御量を学習する際に、モータMG2から押し当てトルクTadを出力しているときには、押し当てトルクTadが大きいほど大きくなる傾向に補正空気量Qadを設定し、この補正空気量Qadをエンジン22のアイドリング運転時における吸入空気量Qaに加算することによる補正を施してアイドリング空気量Qidlを計算し、アイドリング空気量Qidlを含むアイドリング制御量を学習することにより、プラネタリギヤ30の歯打ちなどによる異音の発生を抑制するための押し当てトルクTadをモータMG2から出力しているときでも、より適正なアイドリング制御量を学習することができる。
【0028】
実施例のハイブリッド車のアイドリング学習装置では、アイドリング学習条件が成立してアイドリング制御量を学習する際に、モータMG2から押し当てトルクTadを出力しているときには、押し当てトルクTadに基づく補正空気量Qadによってエンジン22のアイドリング運転時における吸入空気量Qaを補正してアイドリング空気量Qidlとし、このアイドリング空気量Qidlを含むアイドリング制御量を学習するものとしたが、通常のアイドリング制御量の学習を実行し、学習したアイドリング制御量に含まれるアイドリング空気量Qidlを押し当てトルクTadに基づく補正空気量Qadにより補正するものとしてもよい。この場合、図3のアイドリング制御量学習処理ルーチンに代えて図5のアイドリング制御量学習処理ルーチンを実行すればよい。図5のアイドリング制御量学習処理ルーチンでは、ステップS110で押し当てトルクTadが値0ではないと判定されたとき、即ち、モータMG2から押し当てトルクTadを出力しているときには、押し当てトルクTadを図4の補正空気量設定用マップに適用して補正空気量Qadを設定し(ステップS130)、押し当てトルクTadが値0のとき(モータMG2から押し当てトルクTadが出力されていないとき)と同様にアイドリング制御量の学習を実行し(ステップS170)、学習したアイドリング制御量のうちのアイドリング空気量Qidlに補正空気量Qadを加えることによりアイドリング空気量Qidlを補正して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。こうした処理としても、図3のアイドリング制御量学習処理ルーチンを実行する実施例と同様に、プラネタリギヤ30の歯打ちなどによる異音の発生を抑制するための押し当てトルクTadをモータMG2から出力しているときでも、より適正なアイドリング制御量を学習することができる。
【0029】
実施例のハイブリッド車のアイドリング学習装置を搭載するハイブリッド自動車20は、エンジン22と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、を備えるものとしたが、エンジン22が実施例のプラネタリギヤ30とはタイプの異なる遊星歯車機構やその他のギヤ機構などの機械的機構を介して駆動軸36に接続されると共にモータMG2が駆動軸36に接続されている構成であれば、如何なる構成のハイブリッド車としても構わない。
【0030】
また、実施例では、ハイブリッド車のアイドリング制御量を学習するアイドリング学習装置として説明したが、ハイブリッド車のアイドリング制御量の学習方法の形態としてもよい。
【0031】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、プラネタリギヤ30が「機械的機構」に相当し、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、アイドリング学習条件が成立したときに図3のアイドリング制御量学習処理ルーチンを実行するエンジンECU24が「アイドリング学習装置」に相当する。
【0032】
ここで、「機械的機構」としては、プラネタリギヤ30に限定されるものではなく、ダブルピニオン式の遊星歯車機構や複数の遊星歯車機構を組み合わせたもの、作動装置などの種々のギヤ機構などとしても構わない。「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関として構成されたエンジン22に限定されるものではなく、水素エンジンなど如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG2に限定されるものではなく、誘導発電電動機など、如何なるタイプの電動機であっても構わない。「アイドリング学習装置」としては、図3のアイドリング制御量学習処理ルーチンを実行するエンジンECU24に限定されるものではなく、図5のアイドリング制御量学習処理ルーチンを実行するエンジンECU24としてもよいし、押し当てトルクTadに基づいて補正係数を設定すると共に吸入空気量Qaに補正係数を乗じてアイドリング空気量Qidlとするものなど、学習する際に前記機械的機構からの異音の発生を抑制するために前記電動機が取り付けられた回転軸に対して一方向に作用する押し当てトルクが前記電動機から出力されているときには、前記押し当てトルクに応じた補正値を用いて前記アイドリング制御量を補正するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0033】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0034】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、ハイブリッド車のアイドリング学習装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、24a CPU、24b ROM、24c RAM、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、126 燃料噴射弁、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、135a 空燃比センサ、135b 酸素センサ、136 スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、143 圧力センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 可変バルブタイミング機構、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸側に機械的機構を介して接続された内燃機関と、前記機械的機構より車軸側に接続されて走行用の動力を入出力する電動機と、を備えるハイブリッド車に搭載され、所定のアイドリング学習条件の成立に伴って前記内燃機関をアイドリング運転しているときの制御量をアイドリング制御量として学習するアイドリング学習装置において、
学習する際に前記機械的機構からの異音の発生を抑制するために前記電動機が取り付けられた回転軸に対して一方向に作用する押し当てトルクが前記電動機から出力されているときには、前記押し当てトルクに応じた補正値を用いて前記アイドリング制御量を補正する、
ことを特徴とするアイドリング学習装置。
【請求項2】
請求項1記載のアイドリング学習装置であって、
前記アイドリング制御量は、前記内燃機関をアイドリング運転しているときの吸入空気量としてのアイドリング空気量を含み、
前記押し当てトルクに応じた補正空気量を前記補正値として設定し、前記アイドリング空気量を前記補正空気量により補正する、
ことを特徴とするアイドリング学習装置。
【請求項3】
請求項2記載のアイドリング学習装置であって、
前記押し当てトルクが大きいほど大きくなる傾向に前記補正空気量を設定する、
ことを特徴とするアイドリング学習装置。
【請求項4】
請求項2または3記載のアイドリング学習装置であって、
前記内燃機関をアイドリング運転しているときの吸入空気量を前記補正空気量によって補正したものを前記アイドリング空気量として学習する、
ことを特徴とするアイドリング学習装置。
【請求項5】
請求項2または3記載のアイドリング学習装置であって、
前記アイドリング制御量の学習を終了した後に前記アイドリング空気量を前記補正空気量により補正する、
ことを特徴とするアイドリング学習装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれか一つの請求項に記載のアイドリング学習装置であって、
前記機械的機構は、前記内燃機関の出力軸と前記車軸側とに三つの回転要素のうちの二つの回転要素が接続された遊星歯車機構であり、
前記ハイブリッド車は、前記遊星歯車機構の三つの回転要素のうちの残余の回転要素に動力を入出力する発電機を備える車両である、
アイドリング学習装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71581(P2013−71581A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211678(P2011−211678)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】