ハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置
【課題】車両の運転状況やバッテリの残存容量に応じて適切に充放電を制御し、バッテリの内部発熱による温度上昇を促進してバッテリ容量を早期に回復させる。
【解決手段】セル温度が規定温度未満の場合、バッテリの充放電パワー量と走行パワー量とからジェネレータの発電量を算出し(S7)、パルス充放電における充電モード或いは放電モードを決定してエンジンを介してジェネレータを制御する。このとき、走行パワー量に加算される分がバッテリを充電する充電モードになり、走行パワー量から減算される分がバッテリから放電する放電モードとなる。これにより、車両としての駆動要求に対する走行パワー量を満足しながら、バッテリの充放電による暖機を行うことができ、車両の走行性を損なうことなく、バッテリ本来の容量を迅速に回復させることができる。
【解決手段】セル温度が規定温度未満の場合、バッテリの充放電パワー量と走行パワー量とからジェネレータの発電量を算出し(S7)、パルス充放電における充電モード或いは放電モードを決定してエンジンを介してジェネレータを制御する。このとき、走行パワー量に加算される分がバッテリを充電する充電モードになり、走行パワー量から減算される分がバッテリから放電する放電モードとなる。これにより、車両としての駆動要求に対する走行パワー量を満足しながら、バッテリの充放電による暖機を行うことができ、車両の走行性を損なうことなく、バッテリ本来の容量を迅速に回復させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータとを併用するハイブリッド車に搭載されるバッテリの充放電を制御して該バッテリの内部発熱による暖機を行なうハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、バッテリは、温度が低下すると容量が低下するため、電気自動車やハイブリッド自動車等の走行用電力源として用いられた場合、始動不良や制御性の悪化を招く可能性がある。このため、従来から、ヒータやバッテリの内部抵抗を利用した発熱により、低温時にバッテリを暖機する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、バッテリの温度が所定温度未満である場合、バッテリの充電又は放電の少なくとも一方を行ない、また、放電時には、バッテリの側部に配置された抵抗器により放電電力を供給して外部からバッテリを暖める技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、バッテリの温度と電圧と電流とから充電可能電力あるいは放電可能電力を演算し、その演算結果と予め定められた充電電力あるいは放電電力のそれぞれの所望値により、バッテリの暖機運転の可否を決定する技術が開示されている。
【0005】
更に、特許文献3には、バッテリの温度が所定値以下の場合、バッテリの充電状態が予め設定された閾値以上のときには、閾値以上の所定領域内で充放電を繰り返し、充電状態が閾値未満のときには、閾値未満の所定領域内で充放電を繰り返す技術が開示されている。
【特許文献1】特開2000−40536号公報
【特許文献2】特開2003−23704号公報
【特許文献3】特開2003−272712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、低温時に充放電の目安として残存容量(充電状態;SOC)100%付近を基準としているため、バッテリ保護の観点から望ましくないばかりでなく、電圧・電流の細かい制御が困難である。また、低温でバッテリの内部抵抗が大きい場合には、最初からフル容量での充電は困難であると推測される。更には、バッテリの外部にヒータを使用した場合、バッテリ本体に霜付きが発生する虞がある。
【0007】
特許文献2に開示の技術は、電気車のモータ単体での充放電制御であり、ハイブリッド車へ適用する場合には、装置及び制御が複雑化し、適用が困難である。更に、特許文献3に開示の技術は、バッテリの温度上昇のスピードが車両の運転状況によって大きく左右されるため、短時間で或る程度の急激な発熱が継続的に必要な低温時は(例えば、0°C以下)、すぐに熱が奪われてしまい、効率が低下する虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車両の運転状況やバッテリの残存容量に応じて適切に充放電を制御し、バッテリの内部発熱による温度上昇を促進してバッテリ容量を早期に回復させることのできるハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によるハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置は、走行駆動力を発生するモータに電力を供給すると共に、エンジンによって駆動される発電機からの発電電力によって充電されるバッテリの充放電を制御して該バッテリの内部発熱による暖機を行なうハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置において、上記バッテリを暖機するための充放電電圧の目標電圧を、上記バッテリの残存容量を含むバッテリ状態に基づく上下限範囲内で設定する目標充放電電圧設定手段と、上記目標電圧に対応する充放電電力と上記モータの要求トルクに基づく走行用電力とに基づいて上記発電機の発電量を算出する発電量算出手段と、上記バッテリの温度が規定温度未満のとき、上記バッテリの端子電圧が上記目標電圧に収束するよう上記発電機の発電量を制御するエンジン制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
その際、発電機の発電量は、バッテリの端子電圧と上記目標電圧との差、バッテリの開放電圧、及びバッテリの内部抵抗より充放電電力を算出し、算出した充放電電力の走行用電力に対する減算或いは加算分として算出することが望ましい。また、エンジンを介した発電機による充電モードと放電モードとの切換えは、バッテリの端子電圧と目標電圧との差が基準値以内にない場合、充電モードと放電モードとの切換えを禁止する一方、充放電電流の電流変化量或いは充放電電力が既定値に達したときには、充電モードと放電モードとの切換えを強制的に行うことが望ましく、エンジンの回転数或いはトルクの指示値が予め設定した上下限範囲を逸脱した場合には、エンジンを停止させ、新たな目標電圧と新たな発電量とに基づいて発電機の制御を再開することが望ましい。
【0011】
バッテリ暖機の目標電圧を設定する際に用いるバッテリ残存容量は、バッテリの充放電電流の積算値に基づく第1の残存容量とバッテリの開放電圧に基づく第2の残存容量とをバッテリの使用状況に応じて設定したウェイトを用いて重み付け合成することで、高精度に演算することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置は、車両の運転状況やバッテリの残存容量に応じて適切に充放電を制御することができ、バッテリの内部発熱による温度上昇を促進してバッテリ容量を早期に回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図11は本発明の実施の一形態に係わり、図1はハイブリッド車のシステム構成図、図2は残存容量の推定アルゴリズムを示すブロック図、図3は電流容量テーブルの説明図、図4は等価回路モデルを示す回路図、図5はインピーダンステーブルの説明図、図6は残存容量テーブルの説明図、図7はウェイトテーブルの説明図、図8はパワー量の演算アルゴリズムを示すブロック図、図9及び図10はバッテリのウォームアップ制御処理を示すフローチャート、図11はパルス充放電の制御状態を示す説明図である。
【0014】
図1は、ハイブリッド(HEV)車のシステム構成を示し、本形態においては、走行駆動用の駆動モータ(交流モータ)1と、この駆動モータ1と別体で配置されたジェネレータ(発電機)2と、ジェネレータ2を駆動するエンジン3とを備えたシリーズハイブリッド車である。駆動モータ1は、電源ユニット4からの直流電力を交流電力に変換する駆動用インバータ5によって駆動され、出力軸に連結される図示しないギヤ等を介して駆動輪に走行駆動力を伝達する。
【0015】
電源ユニット4は、例えば複数のセルを封止した電池パックを複数個直列に接続して構成されるバッテリ6と、このバッテリ6のエネルギーマネージメントを行う演算ユニット(演算ECU)7とを1つの筐体内にパッケージしたものである。この電源ユニット4のバッテリ6は、駆動用インバータ5を介して駆動モータ1に電力を供給し、ジェネレータ2で発電した交流電力を直流電力に変換する発電用インバータ8によって充電される。
【0016】
また、電源ユニット4の演算ECU7は、マイクロコンピュータ等から構成され、バッテリ6の充電状態(State of charge;SOC)で示される残存容量SOCやバッテリ6における入出力可能な最大電力で示される入出力可能パワー量Pの演算、バッテリ6の冷却や充電の制御、異常検出及び異常検出時の保護動作等のエネルギーマネージメントを行うと共に、低温時にバッテリ6を暖機(ウォームアップ)し、温度低下によって低下したバッテリ容量を早期に回復させ、始動不良や制御性の悪化を防止するウォームアップ制御を行うようにしている。
【0017】
このバッテリ6のウォームアップ制御は、電源ユニット4の演算ECU7と、アクセル開度やブレーキ信号等の運転者の操作による信号に基づいて駆動モータ1及びエンジン3(ジェネレータ2)を含むHEV制御系を統合的に制御するHEV制御用電子制御ユニット(HEV制御用ECU)20との連携によって実行される。このため、演算ECU7は、ウォームアップ制御の各パラメータ(後述する目標充放電電圧V’やバッテリ内部抵抗R等のパラメータ)を算出し、これらのパラメータを、例えばCAN(Controller Area Network)通信等を介してHEV制御用ECU20に送信する。
【0018】
HEV制御用ECU20は、同様に、マイクロコンピュータ等を中心として構成され、図1においては、エンジン3(ジェネレータ2、発電用インバータ8)、駆動モータ1(駆動用インバータ5)を制御するコントローラ機能を含むものとして図示しているが、それぞれ個別の装置として構成しても良い。
【0019】
本形態におけるバッテリ6のウォームアップ制御は、ジェネレータ2の出力によるバッテリ6の充電と放電とを繰返して内部抵抗による発熱を生じさせ、セル温度を上昇させる方式を採用しており、車両としての走行性を損なうことなくジェネレータ2の発電量を効率良く制御し、バッテリ本来の容量を迅速に回復させることを可能としている。
【0020】
この場合、バッテリのウォームアップを効率的に行うためには、残存容量SOCや入出力可能パワー量Pを高精度に把握する必要があり、本形態においては、残存容量SOC及び入出力可能パワー量Pを、特有のアルゴリズムに従って高精度に演算している。先ず、本形態における残存容量SOC、入出力可能パワー量Pの演算処理について説明する。
【0021】
演算ECU7における残存容量SOCの演算は、電圧センサ10で測定したバッテリ6の端子電圧V、電流センサ11で測定したバッテリ6の充放電電流I、温度センサ12で測定したバッテリ6の温度(セル温度)Tに基いて、図2に示す推定アルゴリズムに従って実行される。
【0022】
このSOC推定アルゴリズムでは、バッテリ6で測定可能なパラメータ、すなわち、端子電圧V、電流I、温度Tを用い、電流積算に基づく第1の残存容量としての残存容量SOCcと、バッテリ開放電圧Voの推定値に基づく第2の残存容量としての残存容量SOCvとを並行して演算し、それぞれを重み付けして合成した残存容量SOCを、バッテリ6の残存容量として出力する。
【0023】
電流Iの積算による残存容量SOCcと、開放電圧Voの推定による残存容量SOCvとは、それぞれに一長一短があり、電流積算による残存容量SOCcは、誤差が累積し易く、特に高負荷継続時の誤差が大きい反面、突入電流等の負荷変動に強い。一方、開放電圧推定による残存容量SOCvは、通常の使用時において、略正確な値を求めることが可能であるが、負荷が短時間で大きく変動したときに値が振動する可能性がある。
【0024】
従って、本SOC推定アルゴリズムでは、電流Iを積算して求めた残存容量SOCc(t)と、バッテリ開放電圧Voの推定値から求めた残存容量SOCv(t)とを、バッテリ6の使用状況に応じて随時変化させる第1のウェイト(重み係数)としてのウェイトwにより重み付けして合成することにより、残存容量SOCc,SOCv双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出すようにしている。ウェイトwは、w=0〜1の間で変化させ、合成後の最終的な残存容量SOC(t)は、以下の(1)式で与えられる。
SOC(t)=w・SOCc(t)+(1−w)・SOCv(t)…(1)
【0025】
ウェイトwは、現在のバッテリの使用状況を的確に表すことのできるパラメータを用いて決定する必要があり、そのパラメータとしては、単位時間当たりの電流の変化率や残存容量SOCc,SOCvの間の偏差等を用いることが可能である。単位時間当たりの電流変化率は、バッテリの負荷変動を直接的に反映しているが、単なる電流変化率では、スパイク的に発生する電流の急激な変化の影響を受けてしまう。
【0026】
従って、本形態においては、瞬間的に発生する電流の変化の影響を防止するため、所定のサンプリング数の単純平均、移動平均、加重平均等の処理を施した電流変化率を用いるようにしており、特に、電流の遅れを考慮した場合、バッテリの充放電状態の変化に対して、過去の履歴を過剰となることなく適切に反映することのできる移動平均を用いてウェイトwを決定するようにしている。
【0027】
この電流Iの移動平均値に基づいてウェイトwを決定することにより、電流Iの移動平均値が大きいときには、電流積算のウェイトを高くして開放電圧推定のウェイトを下げ、負荷変動の影響を電流積算によって正確に反映すると共に、開放電圧推定時の振動を防止することができる。逆に、電流Iの移動平均値が小さいときには、電流積算のウェイトを下げ、開放電圧推定のウェイトを高くすることにより、電流積算時の誤差の累積による影響を回避し、開放電圧の推定により正確な残存容量を算出することができる。
【0028】
すなわち、電流Iの移動平均は、電流の高周波成分に対するローパスフィルタとなり、この移動平均のフィルタリングにより、走行中の負荷変動で発生する電流のスパイク成分を、遅れ成分を助長することなく除去することができる。これにより、バッテリ状態をより的確に把握することができ、残存容量SOCc,SOCv双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出し、残存容量の推定精度を大幅に向上することができる。
【0029】
更に、本SOC推定アルゴリズムの特徴として、電池理論に基づいてバッテリ内部状況を電気化学的に把握し、バッテリ開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの演算精度の向上を図っている。次に、SOC推定アルゴリズムによる残存容量SOCc,SOCvの演算について詳述する。
【0030】
先ず、電流積算による残存容量SOCcは、以下の(2)式に示すように、ウェイトwを用いて合成した残存容量SOCをベース値として、所定時間毎に電流Iを積算して求められる。
SOCc(t)=SOC(t-1)−∫[(100ηI/Ah)+SD]dt/3600…(2)
但し、η :電流効率
Ah:電流容量(温度による変数)
SD :自己放電率
【0031】
(2)式における電流効率η及び自己放電率SDは、それぞれ定数と見なすことができるが(例えば、η=1、SD=0)、電流容量Ahは、温度に依存して変化する。従って、この電流積算による残存容量SOCcの算出に際しては、温度によるセル容量の変動を関数化して算出した電流容量Ahを用いる。
【0032】
図3は、温度Tをパラメータとして、所定の基準とする定格容量(例えば、所定セル数を基準単位とした場合の定格電流容量)に対する容量比Ah’を格納した電流容量テーブルの例を示すものであり、常温(25°C)における容量比Ah’(=1.00)に対し、低温になる程、電流容量が減少するため、容量比Ah’の値が大きくなる。この電流容量テーブルから参照した容量比Ah’を用い、計測対象毎の温度Tにおける電流容量Ahを算出することができる。
【0033】
また、(2)式による残存容量SOCc(t)の演算は、具体的には演算ECU7における離散時間処理によって実行され、1演算周期前の合成残存容量SOC(t-1)を、電流積算のベース値として入力している(図2のブロック図における遅延演算子Z-1)。従って、誤差が累積したり、発散することがなく、万一、初期値が真値と大きく異なっていても、所定の時間経過後(例えば、数分後)には、真値に収束させることができる。
【0034】
一方、開放電圧Voの推定に基づく残存容量SOCvを求めるには、先ず、図4に示す等価回路モデルを用いてバッテリの内部インピーダンスZを求める。この等価回路は、抵抗分R1〜R3、容量分C1,CPE1,CPE2(但し、CPE1,CPE2は二重層容量分)の各パラメータを、直列及び並列に組合わせた等価回路モデルであり、交流インピーダンス法における周知のCole-Coleプロットをカーブフィッティングすることにより、各パラメータを決定する。
【0035】
これらのパラメータから求められるインピーダンスZは、バッテリの温度や電気化学的な反応速度、充放電電流の周波数成分によって大きく変化する。従って、インピーダンスZを決定するパラメータとして、前述の単位時間当たりの電流Iの移動平均値を周波数成分の置き換えとして採用し、電流Iの移動平均値と温度Tとを条件とするインピーダンス測定を行ってデータを蓄積した後、温度Tと単位時間当たりの電流Iの移動平均値とに基づいてインピーダンスZのテーブルを作成する。そして、このテーブルを利用してインピーダンスZを求め、このインピーダンスZと、実測した端子電圧Vと電流Iとから、以下の(3)式を用いて開放電圧Voの推定値を求める。
V=Vo−I・Z…(3)
【0036】
尚、電流Iの移動平均値は、例えば、電流Iのサンプリングを0.1sec毎、電流積算の演算周期を0.5sec毎とした場合、5個のデータを移動平均して求められる。前述したように、電流Iの移動平均値は、ウェイトwを決定するパラメータとしても用いられ、ウェイトw、インピーダンスZの演算を容易としているが、詳細には、低温になる程、バッテリの内部インピーダンスが増加して電流変化率が小さくなるため、後述するように、ウェイトw、インピーダンスZは、直接的には、電流Iの移動平均値を温度補正した補正後電流変化率KΔI/Δtを用いて決定する。
【0037】
図5は、電流変化率ΔI/Δt(単位時間当たりの電流Iの移動平均値)を温度補正した補正後電流変化率KΔI/Δtと温度Tとをパラメータとして、等価回路のインピーダンスZを格納したインピーダンステーブルの例を示すものであり、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが同じ場合には、温度Tが低くなる程、インピーダンスZが増加し、同じ温度では、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程、インピーダンスZが増加する傾向を有している。
【0038】
尚、図5及び後述する図6に示すテーブルにおいては、通常の条件下で使用される範囲のデータを示し、他の範囲のデータは記載を省略してある。
【0039】
開放電圧Voの推定後は、バッテリ内の電気化学的な関係に基づいて残存容量SOCvを演算する。具体的には、平衡状態での電極電位とイオンの活量との関係を記述した周知のネルンストの式を適用し、開放電圧Voと残存容量SOCvとの関係を表すと、以下の(4)式を得ることができる。
Vo=E+[(Rg・T/Ne・F)×lnSOCv/(100−SOCv)]+Y…(4)
但し、E :標準電極電位(本形態のリチウムイオン電池では、E=3.745)
Rg:気体定数(8.314J/mol−K)
T :温度(絶対温度K)
Ne:イオン価数(本形態のリチウムイオン電池では、Ne=1)
F :ファラデー定数(96485C/mol)
【0040】
尚、(4)式におけるYは補正項であり、常温における電圧−SOC特性をSOCの関数で表現したものである。SOCv=Xとすると、以下の(5)式に示すように、SOCの三次関数で表すことができる。
Y=−10-6X3+9・10-5X2+0.013X−0.7311…(5)
【0041】
以上の(4)式により、残存容量SOCvには、開放電圧Voのみならず温度Tとの間にも強い相関性があることがわかる。この場合、開放電圧Voと温度Tとをパラメータとして、直接、(4)式を用いて残存容量SOCvを算出することも可能であるが、実際には、使用する電池特有の充放電特性や使用条件等に対する考慮が必要となる。
【0042】
従って、以上の(4)式の関係から実際の電池の状態を把握する場合には、常温でのSOC−Vo特性を基準として、各温度域での充放電試験或いはシミュレーションを行い、実測データを蓄積する。そして、蓄積した実測データから開放電圧Voと温度Tとをパラメータする残存容量SOCvのテーブルを作成しておき、このテーブルを利用して残存容量SOCvを求める。図6は、残存容量テーブルの例を示すものであり、概略的には、温度T及び開放電圧Voが低くなる程、残存容量SOCvが小さくなり、温度T及び開放電圧Voが高くなる程、残存容量SOCvが大きくなる傾向を有している。
【0043】
そして、残存容量SOCc,SOCvを算出した後は、前述の(1)式に示したように、残存容量SOCc,SOCvを、テーブル参照等によって決定したウェイトwを用いて重み付け合成し、残存容量SOCを算出する。図7は、ウェイトwを決定するためのウェイトテーブルの例を示し、補正後電流変化率KΔI/Δtをパラメータとする一次元テーブルである。このウェイトテーブルは、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程、すなわち、バッテリ負荷変動が小さい程、ウェイトwの値を小さくして電流積算による残存容量SOCcの重みを小さくする傾向を有している。
【0044】
一方、入出力可能パワー量Pの演算は、SOC推定アルゴリズムと同様の図8に示す演算アルゴリズムに従って実行される。この演算アルゴリズムでは、バッテリ6で測定可能なパラメータ、すなわち、端子電圧V、電流I、温度Tを用い、バッテリ6の開放電圧Voに基づくパワー量PVと、バッテリ6の電流Iに基づくパワー量PCとを並行して演算し、それぞれを重み付けして合成した値をバッテリ6のパワー量Pとして出力する。
【0045】
すなわち、バッテリ6の開放電圧Voに基づくパワー量PVは、通常の使用時において、略正確な値を求めることが可能であるが、負荷が短時間で大きく変動したときに値が振動する可能性がある。一方、バッテリ6の電流Iに基づくパワー量PCは、誤差が累積し易く、特に高負荷継続時の誤差が大きい反面、突入電流等の負荷変動に強い。従って、本パワー量演算アルゴリズムでは、開放電圧Voに基づいて求めたパワー量PVと電流Iに基づいて求めたパワー量PCとを、バッテリ6の使用状況に応じて随時変化させる第2のウェイトとしてのウェイトwpにより重み付けして合成し、双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出すようにしている。
【0046】
ウェイトwpは、残存容量SOCの合成に用いるウェイトwと同様、電流Iの移動平均に基づいて決定されるものであり(wp=0〜1)、合成後の最終的なパワー量Pは、以下の(6)式で与えられる。
P=wp・PC+(1−wp)・PV…(6)
【0047】
電流Iの移動平均値に基づいてウェイトwpを決定することにより、電流Iの移動平均値が大きいときには、電流Iに基づくパワー量PCのウェイトを高くして開放電圧Voに基づくパワー量PVのウェイトを下げ、負荷変動の影響を電流によって正確に反映すると共に振動を防止することができる。逆に、電流Iの移動平均値が小さいときには、電流Iに基づくパワー量PCのウェイトを下げ、開放電圧Voに基づくパワー量PVのウェイトを高くすることにより、電流の誤差の累積による影響を回避し、開放電圧に基づく正確なパワー量を算出することができる。
【0048】
(6)式に示すパワー量Pは、詳細には、バッテリ6に入力(充電)可能な最大電力量で示される入力可能パワー量Pchargeと、バッテリ6から出力(放電)可能な最大電力量で示される出力可能パワー量Pdischargeとを総称するものであり、それぞれ、(6)式を基本とする以下の(7),(8)式により個別に演算される。
【0049】
すなわち、入力可能パワー量Pchargeは、以下の(7)式により、開放電圧Voに基づく第1の入力可能パワー量としてのパワー量PVchargeと、電流Iの移動平均に基づく第2の入力可能パワー量としてのパワー量PCchargeとを重み付け合成した値として求められる。また、出力可能パワー量Pdischargeは、以下の(8)式により、開放電圧Voに基づく第1の出力可能パワー量としてのパワー量PVdischargeと、電流Iの移動平均に基づく第2の出力可能パワー量としてのパワー量PCdischargeとを重み付け合成した値として求められる。
Pcharge=wp・PCcharge+(1−wp)・PVcharge…(7)
Pdischarge=wp・PCdischarge+(1−wp)・PVdischarge…(8)
【0050】
各パワー量PVcharge,PVdischarge,PCcharge,PCdischargeは、具体的には、バッテリ6の内部インピーダンスZ、開放電圧Vo、予め定められたバッテリの特性を保証する上下限のバッテリ電圧である上限電圧Vmax及び下限電圧Vmin、電流Iの移動平均値、1演算周期前の入力可能パワー量Pcharge(t)、1演算期前の出力可能パワー量Pdischarge(t)を用いて演算される。
【0051】
上限電圧Vmax、下限電圧Vminは、それぞれ、残存容量SOCの上限(100%)を与える電圧、下限(0%)を与える電圧として定義することができ、温度に依存して変化することから、温度Tをパラメータとするテーブルを参照して求める。上限電圧Vmax及び下限電圧Vminのテーブルは、温度Tをパラメータとして上限電圧Vmax及び下限電圧Vminを格納した専用のテーブルを作成しておき、この専用のテーブルを参照して求めても良いが、残存容量SOCの演算で用いる残存容量テーブル(図6参照)を利用し、所定の温度Tにおける開放電圧Voの上下限を参照することにより、その温度Tでの上限電圧Vmax,下限電圧Vminを知ることができる。
【0052】
そして、入力可能パワー量PVchargeは、以下の(9)式に示すように、上限電圧Vmaxと開放電圧Voとの差をインピーダンスZで除算して得られる電流値に、上限電圧Vmaxを乗算した電力量として求められる。また、出力可能パワー量PVdischargeは、以下の(10)式に示すように、開放電圧Voと下限電圧Vminとの差をインピーダンスZで除算して得られる電流値に、下限電圧Vminを乗算した電力量として求められる。
PVcharge=[(Vmax−Vo)/Z]・Vmax…(9)
PVdischarge=[(Vo−Vmin)/Z]・Vmin…(10)
【0053】
一方、電流Iの移動平均に基づくパワー量PCcharge,PCdischargeは、離散時間処理における1演算周期前の合成パワー量P(t-1)をベース値として用いており(図8のブロック図における遅延演算子Z-1)、誤差が累積したり、発散することがなく、万一、初期値が真値と大きく異なっていても、所定の時間経過後(例えば、数分後)には、真値に収束させることができる。
【0054】
すなわち、電流Iの移動平均値をI’とすると、以下の(11)式に示すように、1演算周期前の合成入力可能パワー量Pcharge(t-1)と、移動平均値I’にインピーダンスZをを乗算した入力電力量I'2Zとにより、現時点での入力可能パワー量PCchargeを求める。また、以下の(12)式に示すように、1演算周期前の合成出力可能パワー量PCdischargeと、移動平均値I’にインピーダンスZを乗算した出力電力量I'2Zとにより、現時点での出力可能パワー量PCdischargeを求める。
PCcharge=Pcharge(t-1)−I'2Z…(11)
PCdischarge=Pdischarge(t-1)−I'2Z…(12)
【0055】
そして、前述の(7)式に示したように、(9)式により算出した入力可能パワー量PVchargeと、(11)式により算出した入力可能パワー量PCchargeとをウェイトwpを用いて重み付けして合成し、入力可能パワー量Pchargeを算出する。また、前述の(8)式に示したように、(10)式により算出した出力可能パワー量PVdischargeと、(12)式により算出した出力可能パワー量PCdischargeとをウェイトwpを用いて重み付けして合成し、出力可能パワー量Pdischargeを算出する。
【0056】
以上の残存容量SOCや入出力可能パワー量Pからは、演算ECU7の目標充放電電圧設定手段としての機能により、バッテリ6のウォームアップ制御における充放電パターンの電圧上限値Vmax’及び電圧下限値Vmin’の範囲内で充放電電圧の目標値が設定される。この充放電パターンは、充電と放電とを交互にパルス状に繰返すパターンであり、本形態においては、効率の良い発熱を促すため、CV(Constant Voltage)充放電を採用している。CV充放電を採用する理由は、バッテリの内部抵抗(内部インピーダンス)は、同じ温度では電流変化率が小さくなる程、つまり交流よりも直流を流したほうが大きくなることと、充放電の立ち上がり時に大電流が流れるが、時間と共に0に収束するためである。
【0057】
電圧上限値Vmax’及び電圧下限値Vmin’は、それぞれ、パルス充放電における最大電圧、最小電圧を規制してバッテリを保護するための制御リミッタであり、温度に依存して変化する上限電圧Vmax及び下限電圧Vminからバッテリの劣化度を考慮して設定される。そして、この電圧上限値Vmax’と電圧下限値Vmin’との範囲内で、パルス充放電制御における目標電圧としての目標充放電電圧V’が決定され、バッテリ6の端子電圧Vが目標充放電電圧V’に収束するよう、エンジン3を介してジェネレータ2の発電量Pwを制御する。
【0058】
エンジン3を介したジェネレータ2の制御は、HEV制御用ECU20の発電量算出手段及びエンジン制御手段としての機能により、駆動モータ1による走行に必要なパワー量(走行パワー量)PDRに対して目標充放電電圧V’に収束させるためのパワー量(充放電パワー量)ΔPを加算或いは減算してジェネレータ2の発電量Pwを求め、ジェネレータ2の出力が発電量Pwとなるようにエンジン3を制御する。
【0059】
走行パワー量PDRは、現在の車速及びモータ要求トルクから算出することができ、充放電パワー量ΔPは、以下の(13),(13’)式に示すように、放電の場合と充電の場合とに対し、現在のバッテリ6の開放電圧Voと目標充放電電圧V’との差、及びバッテリ6の内部抵抗R(内部インピーダンスZ)を用いて算出することができる。
放電の場合
ΔP=(V’−Vo)2/R…(13)
但し、ΔP≦Pd(出力可能パワー量Pdischargeに基づく放電可能パワー量)
充電の場合
ΔP=−(V’−Vo)2/R…(13’)
但し、ΔP≧Pc(入力可能パワー量Pchargeに基づく充電可能パワー量)
【0060】
そして、走行パワー量PDRと充放電パワー量ΔPとを用い、以下の(14)式に示すように、ジェネレータ2の発電量Pwを算出することができる。すなわち、充電の場合には、発電量Pwは、走行パワー量PDRに充放電パワー量ΔPを加算して上乗せした値となり、放電の場合には、発電量Pwは、駆動モータ1の走行パワー量PDRから充放電パワー量ΔPを減算した値となる。
Pw=PDR−ΔP…(14)
【0061】
(14)式による発電量Pwは、エンジン3の回転数制御を主とするジェネレータ2の制御により、バッテリ6の端子電圧Vが目標充放電電圧V’に収束するよう制御される。このときのエンジントルクEq、エンジン回転数N、発電量Pwの関係は、以下の(15)式に示す関係となる。
Eq=60×Pw/2πN…(15)
【0062】
次に、以上のバッテリウォームアップ制御処理について、図9及び図10に示すフローチャートを用いて説明する。尚、図9及び図10のフローチャートは、電源ユニット4の演算ECU7及びHEV制御用ECU20によるシステム全体の動作の流れを示すものであり、低温時に所定時間毎に実行され、バッテリ温度が回復して本来の容量を発揮できるようになった時点で終了される。
【0063】
この処理がスタートすると、先ず、ステップS1において、バッテリ6の端子電圧V、電流I、温度T、残存容量SOC(t-1)、入出力可能パワー量Pのデータ入力の有無を調べる。尚、端子電圧Vは複数の電池パックの平均値、電流Iは複数の電池パックの電流の総和を取り、それぞれ、例えば0.1sec毎にデータを取得するものとする。また、温度Tは、例えば10sec毎に取得するものとする。
【0064】
その結果、ステップS1において新たなデータ入力がない場合には、そのまま本処理を抜け、新たなデータ入力がある場合、ステップS1からステップS2へ進んで、セル温度Tが規定温度以下か否かを調べる。この規定温度は、それ未満の温度ではバッテリ容量の低下により制御上の支障が生じる虞のある温度であり、例えば、図3の電流容量テーブルで示される特性から、予め規定温度が10°Cに設定されている。
【0065】
そして、セル温度Tが規定温度を越えており、ウォームアップを要しない場合には、ステップS2から処理を抜ける。また、規定温度以下の場合には、ステップS3へ進んで、セル温度Tが規定温度に到達しているか否かを調べ、規定温度に到達している場合には、同様に処理を抜け、規定温度に到達していない場合、ステップS4へ進む。
【0066】
ステップS4では、CV充放電における制御リミッタとしての電圧上限値Vmax’及び電圧下限値Vmin’を、バッテリ温度T、上限電圧Vmax、下限電圧Vmin、劣化度等を考慮して決定し、ステップS5で、CV充放電における目標充放電電圧V’を、パルス充放電における充電モード及び放電モードに対してそれぞれ決定する。
【0067】
次に、ステップS6へ進み、バッテリ6の端子電圧V、目標充放電電圧V’、内部抵抗Rを用い、前述の(13)式に従って充放電パワー量ΔPを演算する。そして、ステップS7で、前述の(14)式に従って、現在の車速及びモータ要求トルクから算出される走行パワー量PDRから充放電パワー量ΔPを減算して発電量Pwを算出する。
【0068】
続くステップS8では、発電量Pwから前述の(15)式に基づいて算出したエンジン回転数N及びエンジントルクEqが、エンジン3を予め設定した制御可能な上限及び下限の範囲内にあり、エンジン3に対する制御指示が可能か否かを判定する。その結果、ステップS7で算出した発電量Pwの値が小さく、エンジントルクEqやエンジン回転数Nが設定範囲を逸脱して制御不能と判断される場合には、ステップS8から処理を抜けて一旦エンジン3を停止させ、次の処理周期で目標充放電電圧V’を再設定する。
【0069】
また、ステップS7で算出した発電量Pwから算出されるエンジントルクEqやエンジン回転数Nが設定範囲内にあり、エンジン3の制御可能範囲内にある場合には、ステップS8からステップS9へ進み、エンジン回転数Nの指示値を出力する。そして、ステップS10でパルス充放電における充電モード或いは放電モードを決定し、エンジン3を介してジェネレータ2の発電量Pwを制御する。
【0070】
このエンジン3を介したジェネレータ2の発電量Pwの制御(パルス充放電)は、例えば、エンジン3のスロットル開度をエンジン回転数Nの指示値に基づいて調整する等して行われ、バッテリ6の端子電圧Vが目標充放電電圧V’に一致するよう、比例及び積分フィードバック制御等により行われる。但し、積分フィードバックを実施する場合には、充放電の切換時に積分器をリセットする。
【0071】
このとき、図11に示すように、エンジン3(ジェネレータ2)が停止状態から始動したとき最初の充放電のスタートは、電池セルへの負担を軽減するため、そのときの残存容量SOCを基準として振幅値を小さく周期を短くするように初期設定する。その後、セル温度T,残存容量SOC,入出力可能パワー量P,電流値I,電圧V等のパラメータを監視しながら、ジェネレータ2の発電量Pwが電圧上限値Vmax’及び電圧下限値Vmin’の範囲内でパルス状に増減され、バッテリ電圧及びバッテリ電流の振幅が大きく且つ周期が長くされる。
【0072】
この発電量Pwに対する指示は、図11に破線で示す走行パワー量PDRに加算される分がバッテリ6を充電する充電モードになり、走行パワー量PDRから減算される分がバッテリ6から放電する放電モードとなる。これにより、車両としての駆動要求に対する走行パワー量PDRを満足しながら、バッテリ6の充放電による暖機を行うことができ、車両の走行性を損なうことなく、バッテリ本来の容量を迅速に回復させることができる。
【0073】
その後、ステップS10からステップS11へ進み、負荷の変動等により発電量Pwに基準以上の変動があるか否かを調べる。その結果、発電量Pwの変動がない場合には、ステップS11からステップS12へ進み、目標充放電電圧V’とバッテリ端子電圧Vとの差が基準値以内か否かを調べる。
【0074】
そして、ステップS12において、目標充放電電圧V’とバッテリ端子電圧Vとの差が基準値以内にない場合には、ステップS12からステップS11へ戻って現在の充電或いは放電状態を維持する。すなわち、ジェネレータ2の発電制御によりバッテリ端子電圧Vが目標充放電電圧V’に近づいても、互いの差が基準値以内に達するまでは、充放電の切換えを禁止する。
【0075】
また、ステップS12において、目標充放電電圧V’とバッテリ端子電圧Vとの差が基準値以内となったときには、ステップS12からステップS13へ進み、充放電を切換える条件が成立する状態となったか否かを調べる。充放電の切換条件は、例えば、充放電パワー量が予め規定した充放電量(充電可能パワー量Pc、或いは放電可能パワー量Pd)に達したとき、或いは充放電電流の変化量が規定電流変化量に達したときであり、この充放電切換条件が成立しない場合には、ステップS11へ戻り、充放電切換条件が成立したとき、ステップS13から一旦処理を抜け、次の処理周期で、発電量Pwを新たに算出して充電と放電とを切換える。この充放電の切換えは、通常の状態では、制御リミッタである電圧上限値Vmax’や電圧下限値Vmin’に徐々に近づく方向に可変され、これにより、パルス充放電の電圧パルス幅が徐々に長くなる(周期が徐々に長くなる)。
【0076】
一方、ステップS11において、発電量Pwが変動したときには、ステップS14へ分岐して、再度、ステップS8と同様の判定、すなわち、発電量Pwにより算出したエンジン回転数N及びエンジントルクEqが、エンジン3を制御可能な上限及び下限の範囲内にあり、エンジン3に対する制御指示が可能か否かを判定する。そして、ステップS14において、エンジントルクEqやエンジン回転数Nが規定範囲内で制御不能と判断される場合には、ステップS14から処理を抜けて一旦エンジン3を停止させ、次の処理周期で目標充放電電圧V’を再設定する。
【0077】
また、エンジントルクEqやエンジン回転数Nが規定範囲内にあり、エンジン3の制御可能範囲内にある場合には、ステップS14からステップS15へ進み、エンジン回転数Nの指示値を変更、又は対応するエンジントルクEqの指示値を出力し、ステップS10へ戻り、充放電のモードを決定してパルス充放電を継続する。このような充放電を、セル温度T、入出力可能パワー量P、残存容量SOC等の監視結果に応じてパルス充放電の電圧振幅や周期を可変しながら続行し、セル温度が上昇して規定温度に到達したときには、ステップS2或いはステップS3から処理を抜けて実質的にウォームアップを終了する。
【0078】
尚、以上の実施の形態では、シリーズハイブリッド車について説明したが、本発明は、シリーズハイブリッド車に限定されることなく、シリーズ・パラレルハイブリッド車にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】ハイブリッド車のシステム構成図
【図2】残存容量の推定アルゴリズムを示すブロック図
【図3】電流容量テーブルの説明図
【図4】等価回路モデルを示す回路図
【図5】インピーダンステーブルの説明図
【図6】残存容量テーブルの説明図
【図7】ウェイトテーブルの説明図
【図8】パワー量の演算アルゴリズムを示すブロック図
【図9】バッテリのウォームアップ制御処理を示すフローチャート
【図10】バッテリのウォームアップ制御処理を示すフローチャート(続き)
【図11】パルス充放電の制御状態を示す説明図
【符号の説明】
【0080】
1 駆動モータ
2 ジェネレータ(発電機)
3 エンジン
6 バッテリ
7 演算ユニット(目標充放電電圧設定手段)
20 ハイブリッド制御用電子制御ユニット(発電量算出手段、エンジン制御手段)
V’ 目標充放電電圧(目標電圧)
ΔP 充放電パワー量(充放電電力)
PDR 走行パワー量
Pw 発電量
V 端子電圧
Vo 開放電圧
R 内部抵抗
SOC 残存容量(合成後の残存容量)
SOCc 残存容量(第1の残存容量)
SOCv 残存容量(第2の残存容量)
w ウェイト
代理人 弁理士 伊 藤 進
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータとを併用するハイブリッド車に搭載されるバッテリの充放電を制御して該バッテリの内部発熱による暖機を行なうハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、バッテリは、温度が低下すると容量が低下するため、電気自動車やハイブリッド自動車等の走行用電力源として用いられた場合、始動不良や制御性の悪化を招く可能性がある。このため、従来から、ヒータやバッテリの内部抵抗を利用した発熱により、低温時にバッテリを暖機する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、バッテリの温度が所定温度未満である場合、バッテリの充電又は放電の少なくとも一方を行ない、また、放電時には、バッテリの側部に配置された抵抗器により放電電力を供給して外部からバッテリを暖める技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、バッテリの温度と電圧と電流とから充電可能電力あるいは放電可能電力を演算し、その演算結果と予め定められた充電電力あるいは放電電力のそれぞれの所望値により、バッテリの暖機運転の可否を決定する技術が開示されている。
【0005】
更に、特許文献3には、バッテリの温度が所定値以下の場合、バッテリの充電状態が予め設定された閾値以上のときには、閾値以上の所定領域内で充放電を繰り返し、充電状態が閾値未満のときには、閾値未満の所定領域内で充放電を繰り返す技術が開示されている。
【特許文献1】特開2000−40536号公報
【特許文献2】特開2003−23704号公報
【特許文献3】特開2003−272712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、低温時に充放電の目安として残存容量(充電状態;SOC)100%付近を基準としているため、バッテリ保護の観点から望ましくないばかりでなく、電圧・電流の細かい制御が困難である。また、低温でバッテリの内部抵抗が大きい場合には、最初からフル容量での充電は困難であると推測される。更には、バッテリの外部にヒータを使用した場合、バッテリ本体に霜付きが発生する虞がある。
【0007】
特許文献2に開示の技術は、電気車のモータ単体での充放電制御であり、ハイブリッド車へ適用する場合には、装置及び制御が複雑化し、適用が困難である。更に、特許文献3に開示の技術は、バッテリの温度上昇のスピードが車両の運転状況によって大きく左右されるため、短時間で或る程度の急激な発熱が継続的に必要な低温時は(例えば、0°C以下)、すぐに熱が奪われてしまい、効率が低下する虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車両の運転状況やバッテリの残存容量に応じて適切に充放電を制御し、バッテリの内部発熱による温度上昇を促進してバッテリ容量を早期に回復させることのできるハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によるハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置は、走行駆動力を発生するモータに電力を供給すると共に、エンジンによって駆動される発電機からの発電電力によって充電されるバッテリの充放電を制御して該バッテリの内部発熱による暖機を行なうハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置において、上記バッテリを暖機するための充放電電圧の目標電圧を、上記バッテリの残存容量を含むバッテリ状態に基づく上下限範囲内で設定する目標充放電電圧設定手段と、上記目標電圧に対応する充放電電力と上記モータの要求トルクに基づく走行用電力とに基づいて上記発電機の発電量を算出する発電量算出手段と、上記バッテリの温度が規定温度未満のとき、上記バッテリの端子電圧が上記目標電圧に収束するよう上記発電機の発電量を制御するエンジン制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
その際、発電機の発電量は、バッテリの端子電圧と上記目標電圧との差、バッテリの開放電圧、及びバッテリの内部抵抗より充放電電力を算出し、算出した充放電電力の走行用電力に対する減算或いは加算分として算出することが望ましい。また、エンジンを介した発電機による充電モードと放電モードとの切換えは、バッテリの端子電圧と目標電圧との差が基準値以内にない場合、充電モードと放電モードとの切換えを禁止する一方、充放電電流の電流変化量或いは充放電電力が既定値に達したときには、充電モードと放電モードとの切換えを強制的に行うことが望ましく、エンジンの回転数或いはトルクの指示値が予め設定した上下限範囲を逸脱した場合には、エンジンを停止させ、新たな目標電圧と新たな発電量とに基づいて発電機の制御を再開することが望ましい。
【0011】
バッテリ暖機の目標電圧を設定する際に用いるバッテリ残存容量は、バッテリの充放電電流の積算値に基づく第1の残存容量とバッテリの開放電圧に基づく第2の残存容量とをバッテリの使用状況に応じて設定したウェイトを用いて重み付け合成することで、高精度に演算することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置は、車両の運転状況やバッテリの残存容量に応じて適切に充放電を制御することができ、バッテリの内部発熱による温度上昇を促進してバッテリ容量を早期に回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図11は本発明の実施の一形態に係わり、図1はハイブリッド車のシステム構成図、図2は残存容量の推定アルゴリズムを示すブロック図、図3は電流容量テーブルの説明図、図4は等価回路モデルを示す回路図、図5はインピーダンステーブルの説明図、図6は残存容量テーブルの説明図、図7はウェイトテーブルの説明図、図8はパワー量の演算アルゴリズムを示すブロック図、図9及び図10はバッテリのウォームアップ制御処理を示すフローチャート、図11はパルス充放電の制御状態を示す説明図である。
【0014】
図1は、ハイブリッド(HEV)車のシステム構成を示し、本形態においては、走行駆動用の駆動モータ(交流モータ)1と、この駆動モータ1と別体で配置されたジェネレータ(発電機)2と、ジェネレータ2を駆動するエンジン3とを備えたシリーズハイブリッド車である。駆動モータ1は、電源ユニット4からの直流電力を交流電力に変換する駆動用インバータ5によって駆動され、出力軸に連結される図示しないギヤ等を介して駆動輪に走行駆動力を伝達する。
【0015】
電源ユニット4は、例えば複数のセルを封止した電池パックを複数個直列に接続して構成されるバッテリ6と、このバッテリ6のエネルギーマネージメントを行う演算ユニット(演算ECU)7とを1つの筐体内にパッケージしたものである。この電源ユニット4のバッテリ6は、駆動用インバータ5を介して駆動モータ1に電力を供給し、ジェネレータ2で発電した交流電力を直流電力に変換する発電用インバータ8によって充電される。
【0016】
また、電源ユニット4の演算ECU7は、マイクロコンピュータ等から構成され、バッテリ6の充電状態(State of charge;SOC)で示される残存容量SOCやバッテリ6における入出力可能な最大電力で示される入出力可能パワー量Pの演算、バッテリ6の冷却や充電の制御、異常検出及び異常検出時の保護動作等のエネルギーマネージメントを行うと共に、低温時にバッテリ6を暖機(ウォームアップ)し、温度低下によって低下したバッテリ容量を早期に回復させ、始動不良や制御性の悪化を防止するウォームアップ制御を行うようにしている。
【0017】
このバッテリ6のウォームアップ制御は、電源ユニット4の演算ECU7と、アクセル開度やブレーキ信号等の運転者の操作による信号に基づいて駆動モータ1及びエンジン3(ジェネレータ2)を含むHEV制御系を統合的に制御するHEV制御用電子制御ユニット(HEV制御用ECU)20との連携によって実行される。このため、演算ECU7は、ウォームアップ制御の各パラメータ(後述する目標充放電電圧V’やバッテリ内部抵抗R等のパラメータ)を算出し、これらのパラメータを、例えばCAN(Controller Area Network)通信等を介してHEV制御用ECU20に送信する。
【0018】
HEV制御用ECU20は、同様に、マイクロコンピュータ等を中心として構成され、図1においては、エンジン3(ジェネレータ2、発電用インバータ8)、駆動モータ1(駆動用インバータ5)を制御するコントローラ機能を含むものとして図示しているが、それぞれ個別の装置として構成しても良い。
【0019】
本形態におけるバッテリ6のウォームアップ制御は、ジェネレータ2の出力によるバッテリ6の充電と放電とを繰返して内部抵抗による発熱を生じさせ、セル温度を上昇させる方式を採用しており、車両としての走行性を損なうことなくジェネレータ2の発電量を効率良く制御し、バッテリ本来の容量を迅速に回復させることを可能としている。
【0020】
この場合、バッテリのウォームアップを効率的に行うためには、残存容量SOCや入出力可能パワー量Pを高精度に把握する必要があり、本形態においては、残存容量SOC及び入出力可能パワー量Pを、特有のアルゴリズムに従って高精度に演算している。先ず、本形態における残存容量SOC、入出力可能パワー量Pの演算処理について説明する。
【0021】
演算ECU7における残存容量SOCの演算は、電圧センサ10で測定したバッテリ6の端子電圧V、電流センサ11で測定したバッテリ6の充放電電流I、温度センサ12で測定したバッテリ6の温度(セル温度)Tに基いて、図2に示す推定アルゴリズムに従って実行される。
【0022】
このSOC推定アルゴリズムでは、バッテリ6で測定可能なパラメータ、すなわち、端子電圧V、電流I、温度Tを用い、電流積算に基づく第1の残存容量としての残存容量SOCcと、バッテリ開放電圧Voの推定値に基づく第2の残存容量としての残存容量SOCvとを並行して演算し、それぞれを重み付けして合成した残存容量SOCを、バッテリ6の残存容量として出力する。
【0023】
電流Iの積算による残存容量SOCcと、開放電圧Voの推定による残存容量SOCvとは、それぞれに一長一短があり、電流積算による残存容量SOCcは、誤差が累積し易く、特に高負荷継続時の誤差が大きい反面、突入電流等の負荷変動に強い。一方、開放電圧推定による残存容量SOCvは、通常の使用時において、略正確な値を求めることが可能であるが、負荷が短時間で大きく変動したときに値が振動する可能性がある。
【0024】
従って、本SOC推定アルゴリズムでは、電流Iを積算して求めた残存容量SOCc(t)と、バッテリ開放電圧Voの推定値から求めた残存容量SOCv(t)とを、バッテリ6の使用状況に応じて随時変化させる第1のウェイト(重み係数)としてのウェイトwにより重み付けして合成することにより、残存容量SOCc,SOCv双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出すようにしている。ウェイトwは、w=0〜1の間で変化させ、合成後の最終的な残存容量SOC(t)は、以下の(1)式で与えられる。
SOC(t)=w・SOCc(t)+(1−w)・SOCv(t)…(1)
【0025】
ウェイトwは、現在のバッテリの使用状況を的確に表すことのできるパラメータを用いて決定する必要があり、そのパラメータとしては、単位時間当たりの電流の変化率や残存容量SOCc,SOCvの間の偏差等を用いることが可能である。単位時間当たりの電流変化率は、バッテリの負荷変動を直接的に反映しているが、単なる電流変化率では、スパイク的に発生する電流の急激な変化の影響を受けてしまう。
【0026】
従って、本形態においては、瞬間的に発生する電流の変化の影響を防止するため、所定のサンプリング数の単純平均、移動平均、加重平均等の処理を施した電流変化率を用いるようにしており、特に、電流の遅れを考慮した場合、バッテリの充放電状態の変化に対して、過去の履歴を過剰となることなく適切に反映することのできる移動平均を用いてウェイトwを決定するようにしている。
【0027】
この電流Iの移動平均値に基づいてウェイトwを決定することにより、電流Iの移動平均値が大きいときには、電流積算のウェイトを高くして開放電圧推定のウェイトを下げ、負荷変動の影響を電流積算によって正確に反映すると共に、開放電圧推定時の振動を防止することができる。逆に、電流Iの移動平均値が小さいときには、電流積算のウェイトを下げ、開放電圧推定のウェイトを高くすることにより、電流積算時の誤差の累積による影響を回避し、開放電圧の推定により正確な残存容量を算出することができる。
【0028】
すなわち、電流Iの移動平均は、電流の高周波成分に対するローパスフィルタとなり、この移動平均のフィルタリングにより、走行中の負荷変動で発生する電流のスパイク成分を、遅れ成分を助長することなく除去することができる。これにより、バッテリ状態をより的確に把握することができ、残存容量SOCc,SOCv双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出し、残存容量の推定精度を大幅に向上することができる。
【0029】
更に、本SOC推定アルゴリズムの特徴として、電池理論に基づいてバッテリ内部状況を電気化学的に把握し、バッテリ開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの演算精度の向上を図っている。次に、SOC推定アルゴリズムによる残存容量SOCc,SOCvの演算について詳述する。
【0030】
先ず、電流積算による残存容量SOCcは、以下の(2)式に示すように、ウェイトwを用いて合成した残存容量SOCをベース値として、所定時間毎に電流Iを積算して求められる。
SOCc(t)=SOC(t-1)−∫[(100ηI/Ah)+SD]dt/3600…(2)
但し、η :電流効率
Ah:電流容量(温度による変数)
SD :自己放電率
【0031】
(2)式における電流効率η及び自己放電率SDは、それぞれ定数と見なすことができるが(例えば、η=1、SD=0)、電流容量Ahは、温度に依存して変化する。従って、この電流積算による残存容量SOCcの算出に際しては、温度によるセル容量の変動を関数化して算出した電流容量Ahを用いる。
【0032】
図3は、温度Tをパラメータとして、所定の基準とする定格容量(例えば、所定セル数を基準単位とした場合の定格電流容量)に対する容量比Ah’を格納した電流容量テーブルの例を示すものであり、常温(25°C)における容量比Ah’(=1.00)に対し、低温になる程、電流容量が減少するため、容量比Ah’の値が大きくなる。この電流容量テーブルから参照した容量比Ah’を用い、計測対象毎の温度Tにおける電流容量Ahを算出することができる。
【0033】
また、(2)式による残存容量SOCc(t)の演算は、具体的には演算ECU7における離散時間処理によって実行され、1演算周期前の合成残存容量SOC(t-1)を、電流積算のベース値として入力している(図2のブロック図における遅延演算子Z-1)。従って、誤差が累積したり、発散することがなく、万一、初期値が真値と大きく異なっていても、所定の時間経過後(例えば、数分後)には、真値に収束させることができる。
【0034】
一方、開放電圧Voの推定に基づく残存容量SOCvを求めるには、先ず、図4に示す等価回路モデルを用いてバッテリの内部インピーダンスZを求める。この等価回路は、抵抗分R1〜R3、容量分C1,CPE1,CPE2(但し、CPE1,CPE2は二重層容量分)の各パラメータを、直列及び並列に組合わせた等価回路モデルであり、交流インピーダンス法における周知のCole-Coleプロットをカーブフィッティングすることにより、各パラメータを決定する。
【0035】
これらのパラメータから求められるインピーダンスZは、バッテリの温度や電気化学的な反応速度、充放電電流の周波数成分によって大きく変化する。従って、インピーダンスZを決定するパラメータとして、前述の単位時間当たりの電流Iの移動平均値を周波数成分の置き換えとして採用し、電流Iの移動平均値と温度Tとを条件とするインピーダンス測定を行ってデータを蓄積した後、温度Tと単位時間当たりの電流Iの移動平均値とに基づいてインピーダンスZのテーブルを作成する。そして、このテーブルを利用してインピーダンスZを求め、このインピーダンスZと、実測した端子電圧Vと電流Iとから、以下の(3)式を用いて開放電圧Voの推定値を求める。
V=Vo−I・Z…(3)
【0036】
尚、電流Iの移動平均値は、例えば、電流Iのサンプリングを0.1sec毎、電流積算の演算周期を0.5sec毎とした場合、5個のデータを移動平均して求められる。前述したように、電流Iの移動平均値は、ウェイトwを決定するパラメータとしても用いられ、ウェイトw、インピーダンスZの演算を容易としているが、詳細には、低温になる程、バッテリの内部インピーダンスが増加して電流変化率が小さくなるため、後述するように、ウェイトw、インピーダンスZは、直接的には、電流Iの移動平均値を温度補正した補正後電流変化率KΔI/Δtを用いて決定する。
【0037】
図5は、電流変化率ΔI/Δt(単位時間当たりの電流Iの移動平均値)を温度補正した補正後電流変化率KΔI/Δtと温度Tとをパラメータとして、等価回路のインピーダンスZを格納したインピーダンステーブルの例を示すものであり、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが同じ場合には、温度Tが低くなる程、インピーダンスZが増加し、同じ温度では、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程、インピーダンスZが増加する傾向を有している。
【0038】
尚、図5及び後述する図6に示すテーブルにおいては、通常の条件下で使用される範囲のデータを示し、他の範囲のデータは記載を省略してある。
【0039】
開放電圧Voの推定後は、バッテリ内の電気化学的な関係に基づいて残存容量SOCvを演算する。具体的には、平衡状態での電極電位とイオンの活量との関係を記述した周知のネルンストの式を適用し、開放電圧Voと残存容量SOCvとの関係を表すと、以下の(4)式を得ることができる。
Vo=E+[(Rg・T/Ne・F)×lnSOCv/(100−SOCv)]+Y…(4)
但し、E :標準電極電位(本形態のリチウムイオン電池では、E=3.745)
Rg:気体定数(8.314J/mol−K)
T :温度(絶対温度K)
Ne:イオン価数(本形態のリチウムイオン電池では、Ne=1)
F :ファラデー定数(96485C/mol)
【0040】
尚、(4)式におけるYは補正項であり、常温における電圧−SOC特性をSOCの関数で表現したものである。SOCv=Xとすると、以下の(5)式に示すように、SOCの三次関数で表すことができる。
Y=−10-6X3+9・10-5X2+0.013X−0.7311…(5)
【0041】
以上の(4)式により、残存容量SOCvには、開放電圧Voのみならず温度Tとの間にも強い相関性があることがわかる。この場合、開放電圧Voと温度Tとをパラメータとして、直接、(4)式を用いて残存容量SOCvを算出することも可能であるが、実際には、使用する電池特有の充放電特性や使用条件等に対する考慮が必要となる。
【0042】
従って、以上の(4)式の関係から実際の電池の状態を把握する場合には、常温でのSOC−Vo特性を基準として、各温度域での充放電試験或いはシミュレーションを行い、実測データを蓄積する。そして、蓄積した実測データから開放電圧Voと温度Tとをパラメータする残存容量SOCvのテーブルを作成しておき、このテーブルを利用して残存容量SOCvを求める。図6は、残存容量テーブルの例を示すものであり、概略的には、温度T及び開放電圧Voが低くなる程、残存容量SOCvが小さくなり、温度T及び開放電圧Voが高くなる程、残存容量SOCvが大きくなる傾向を有している。
【0043】
そして、残存容量SOCc,SOCvを算出した後は、前述の(1)式に示したように、残存容量SOCc,SOCvを、テーブル参照等によって決定したウェイトwを用いて重み付け合成し、残存容量SOCを算出する。図7は、ウェイトwを決定するためのウェイトテーブルの例を示し、補正後電流変化率KΔI/Δtをパラメータとする一次元テーブルである。このウェイトテーブルは、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程、すなわち、バッテリ負荷変動が小さい程、ウェイトwの値を小さくして電流積算による残存容量SOCcの重みを小さくする傾向を有している。
【0044】
一方、入出力可能パワー量Pの演算は、SOC推定アルゴリズムと同様の図8に示す演算アルゴリズムに従って実行される。この演算アルゴリズムでは、バッテリ6で測定可能なパラメータ、すなわち、端子電圧V、電流I、温度Tを用い、バッテリ6の開放電圧Voに基づくパワー量PVと、バッテリ6の電流Iに基づくパワー量PCとを並行して演算し、それぞれを重み付けして合成した値をバッテリ6のパワー量Pとして出力する。
【0045】
すなわち、バッテリ6の開放電圧Voに基づくパワー量PVは、通常の使用時において、略正確な値を求めることが可能であるが、負荷が短時間で大きく変動したときに値が振動する可能性がある。一方、バッテリ6の電流Iに基づくパワー量PCは、誤差が累積し易く、特に高負荷継続時の誤差が大きい反面、突入電流等の負荷変動に強い。従って、本パワー量演算アルゴリズムでは、開放電圧Voに基づいて求めたパワー量PVと電流Iに基づいて求めたパワー量PCとを、バッテリ6の使用状況に応じて随時変化させる第2のウェイトとしてのウェイトwpにより重み付けして合成し、双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出すようにしている。
【0046】
ウェイトwpは、残存容量SOCの合成に用いるウェイトwと同様、電流Iの移動平均に基づいて決定されるものであり(wp=0〜1)、合成後の最終的なパワー量Pは、以下の(6)式で与えられる。
P=wp・PC+(1−wp)・PV…(6)
【0047】
電流Iの移動平均値に基づいてウェイトwpを決定することにより、電流Iの移動平均値が大きいときには、電流Iに基づくパワー量PCのウェイトを高くして開放電圧Voに基づくパワー量PVのウェイトを下げ、負荷変動の影響を電流によって正確に反映すると共に振動を防止することができる。逆に、電流Iの移動平均値が小さいときには、電流Iに基づくパワー量PCのウェイトを下げ、開放電圧Voに基づくパワー量PVのウェイトを高くすることにより、電流の誤差の累積による影響を回避し、開放電圧に基づく正確なパワー量を算出することができる。
【0048】
(6)式に示すパワー量Pは、詳細には、バッテリ6に入力(充電)可能な最大電力量で示される入力可能パワー量Pchargeと、バッテリ6から出力(放電)可能な最大電力量で示される出力可能パワー量Pdischargeとを総称するものであり、それぞれ、(6)式を基本とする以下の(7),(8)式により個別に演算される。
【0049】
すなわち、入力可能パワー量Pchargeは、以下の(7)式により、開放電圧Voに基づく第1の入力可能パワー量としてのパワー量PVchargeと、電流Iの移動平均に基づく第2の入力可能パワー量としてのパワー量PCchargeとを重み付け合成した値として求められる。また、出力可能パワー量Pdischargeは、以下の(8)式により、開放電圧Voに基づく第1の出力可能パワー量としてのパワー量PVdischargeと、電流Iの移動平均に基づく第2の出力可能パワー量としてのパワー量PCdischargeとを重み付け合成した値として求められる。
Pcharge=wp・PCcharge+(1−wp)・PVcharge…(7)
Pdischarge=wp・PCdischarge+(1−wp)・PVdischarge…(8)
【0050】
各パワー量PVcharge,PVdischarge,PCcharge,PCdischargeは、具体的には、バッテリ6の内部インピーダンスZ、開放電圧Vo、予め定められたバッテリの特性を保証する上下限のバッテリ電圧である上限電圧Vmax及び下限電圧Vmin、電流Iの移動平均値、1演算周期前の入力可能パワー量Pcharge(t)、1演算期前の出力可能パワー量Pdischarge(t)を用いて演算される。
【0051】
上限電圧Vmax、下限電圧Vminは、それぞれ、残存容量SOCの上限(100%)を与える電圧、下限(0%)を与える電圧として定義することができ、温度に依存して変化することから、温度Tをパラメータとするテーブルを参照して求める。上限電圧Vmax及び下限電圧Vminのテーブルは、温度Tをパラメータとして上限電圧Vmax及び下限電圧Vminを格納した専用のテーブルを作成しておき、この専用のテーブルを参照して求めても良いが、残存容量SOCの演算で用いる残存容量テーブル(図6参照)を利用し、所定の温度Tにおける開放電圧Voの上下限を参照することにより、その温度Tでの上限電圧Vmax,下限電圧Vminを知ることができる。
【0052】
そして、入力可能パワー量PVchargeは、以下の(9)式に示すように、上限電圧Vmaxと開放電圧Voとの差をインピーダンスZで除算して得られる電流値に、上限電圧Vmaxを乗算した電力量として求められる。また、出力可能パワー量PVdischargeは、以下の(10)式に示すように、開放電圧Voと下限電圧Vminとの差をインピーダンスZで除算して得られる電流値に、下限電圧Vminを乗算した電力量として求められる。
PVcharge=[(Vmax−Vo)/Z]・Vmax…(9)
PVdischarge=[(Vo−Vmin)/Z]・Vmin…(10)
【0053】
一方、電流Iの移動平均に基づくパワー量PCcharge,PCdischargeは、離散時間処理における1演算周期前の合成パワー量P(t-1)をベース値として用いており(図8のブロック図における遅延演算子Z-1)、誤差が累積したり、発散することがなく、万一、初期値が真値と大きく異なっていても、所定の時間経過後(例えば、数分後)には、真値に収束させることができる。
【0054】
すなわち、電流Iの移動平均値をI’とすると、以下の(11)式に示すように、1演算周期前の合成入力可能パワー量Pcharge(t-1)と、移動平均値I’にインピーダンスZをを乗算した入力電力量I'2Zとにより、現時点での入力可能パワー量PCchargeを求める。また、以下の(12)式に示すように、1演算周期前の合成出力可能パワー量PCdischargeと、移動平均値I’にインピーダンスZを乗算した出力電力量I'2Zとにより、現時点での出力可能パワー量PCdischargeを求める。
PCcharge=Pcharge(t-1)−I'2Z…(11)
PCdischarge=Pdischarge(t-1)−I'2Z…(12)
【0055】
そして、前述の(7)式に示したように、(9)式により算出した入力可能パワー量PVchargeと、(11)式により算出した入力可能パワー量PCchargeとをウェイトwpを用いて重み付けして合成し、入力可能パワー量Pchargeを算出する。また、前述の(8)式に示したように、(10)式により算出した出力可能パワー量PVdischargeと、(12)式により算出した出力可能パワー量PCdischargeとをウェイトwpを用いて重み付けして合成し、出力可能パワー量Pdischargeを算出する。
【0056】
以上の残存容量SOCや入出力可能パワー量Pからは、演算ECU7の目標充放電電圧設定手段としての機能により、バッテリ6のウォームアップ制御における充放電パターンの電圧上限値Vmax’及び電圧下限値Vmin’の範囲内で充放電電圧の目標値が設定される。この充放電パターンは、充電と放電とを交互にパルス状に繰返すパターンであり、本形態においては、効率の良い発熱を促すため、CV(Constant Voltage)充放電を採用している。CV充放電を採用する理由は、バッテリの内部抵抗(内部インピーダンス)は、同じ温度では電流変化率が小さくなる程、つまり交流よりも直流を流したほうが大きくなることと、充放電の立ち上がり時に大電流が流れるが、時間と共に0に収束するためである。
【0057】
電圧上限値Vmax’及び電圧下限値Vmin’は、それぞれ、パルス充放電における最大電圧、最小電圧を規制してバッテリを保護するための制御リミッタであり、温度に依存して変化する上限電圧Vmax及び下限電圧Vminからバッテリの劣化度を考慮して設定される。そして、この電圧上限値Vmax’と電圧下限値Vmin’との範囲内で、パルス充放電制御における目標電圧としての目標充放電電圧V’が決定され、バッテリ6の端子電圧Vが目標充放電電圧V’に収束するよう、エンジン3を介してジェネレータ2の発電量Pwを制御する。
【0058】
エンジン3を介したジェネレータ2の制御は、HEV制御用ECU20の発電量算出手段及びエンジン制御手段としての機能により、駆動モータ1による走行に必要なパワー量(走行パワー量)PDRに対して目標充放電電圧V’に収束させるためのパワー量(充放電パワー量)ΔPを加算或いは減算してジェネレータ2の発電量Pwを求め、ジェネレータ2の出力が発電量Pwとなるようにエンジン3を制御する。
【0059】
走行パワー量PDRは、現在の車速及びモータ要求トルクから算出することができ、充放電パワー量ΔPは、以下の(13),(13’)式に示すように、放電の場合と充電の場合とに対し、現在のバッテリ6の開放電圧Voと目標充放電電圧V’との差、及びバッテリ6の内部抵抗R(内部インピーダンスZ)を用いて算出することができる。
放電の場合
ΔP=(V’−Vo)2/R…(13)
但し、ΔP≦Pd(出力可能パワー量Pdischargeに基づく放電可能パワー量)
充電の場合
ΔP=−(V’−Vo)2/R…(13’)
但し、ΔP≧Pc(入力可能パワー量Pchargeに基づく充電可能パワー量)
【0060】
そして、走行パワー量PDRと充放電パワー量ΔPとを用い、以下の(14)式に示すように、ジェネレータ2の発電量Pwを算出することができる。すなわち、充電の場合には、発電量Pwは、走行パワー量PDRに充放電パワー量ΔPを加算して上乗せした値となり、放電の場合には、発電量Pwは、駆動モータ1の走行パワー量PDRから充放電パワー量ΔPを減算した値となる。
Pw=PDR−ΔP…(14)
【0061】
(14)式による発電量Pwは、エンジン3の回転数制御を主とするジェネレータ2の制御により、バッテリ6の端子電圧Vが目標充放電電圧V’に収束するよう制御される。このときのエンジントルクEq、エンジン回転数N、発電量Pwの関係は、以下の(15)式に示す関係となる。
Eq=60×Pw/2πN…(15)
【0062】
次に、以上のバッテリウォームアップ制御処理について、図9及び図10に示すフローチャートを用いて説明する。尚、図9及び図10のフローチャートは、電源ユニット4の演算ECU7及びHEV制御用ECU20によるシステム全体の動作の流れを示すものであり、低温時に所定時間毎に実行され、バッテリ温度が回復して本来の容量を発揮できるようになった時点で終了される。
【0063】
この処理がスタートすると、先ず、ステップS1において、バッテリ6の端子電圧V、電流I、温度T、残存容量SOC(t-1)、入出力可能パワー量Pのデータ入力の有無を調べる。尚、端子電圧Vは複数の電池パックの平均値、電流Iは複数の電池パックの電流の総和を取り、それぞれ、例えば0.1sec毎にデータを取得するものとする。また、温度Tは、例えば10sec毎に取得するものとする。
【0064】
その結果、ステップS1において新たなデータ入力がない場合には、そのまま本処理を抜け、新たなデータ入力がある場合、ステップS1からステップS2へ進んで、セル温度Tが規定温度以下か否かを調べる。この規定温度は、それ未満の温度ではバッテリ容量の低下により制御上の支障が生じる虞のある温度であり、例えば、図3の電流容量テーブルで示される特性から、予め規定温度が10°Cに設定されている。
【0065】
そして、セル温度Tが規定温度を越えており、ウォームアップを要しない場合には、ステップS2から処理を抜ける。また、規定温度以下の場合には、ステップS3へ進んで、セル温度Tが規定温度に到達しているか否かを調べ、規定温度に到達している場合には、同様に処理を抜け、規定温度に到達していない場合、ステップS4へ進む。
【0066】
ステップS4では、CV充放電における制御リミッタとしての電圧上限値Vmax’及び電圧下限値Vmin’を、バッテリ温度T、上限電圧Vmax、下限電圧Vmin、劣化度等を考慮して決定し、ステップS5で、CV充放電における目標充放電電圧V’を、パルス充放電における充電モード及び放電モードに対してそれぞれ決定する。
【0067】
次に、ステップS6へ進み、バッテリ6の端子電圧V、目標充放電電圧V’、内部抵抗Rを用い、前述の(13)式に従って充放電パワー量ΔPを演算する。そして、ステップS7で、前述の(14)式に従って、現在の車速及びモータ要求トルクから算出される走行パワー量PDRから充放電パワー量ΔPを減算して発電量Pwを算出する。
【0068】
続くステップS8では、発電量Pwから前述の(15)式に基づいて算出したエンジン回転数N及びエンジントルクEqが、エンジン3を予め設定した制御可能な上限及び下限の範囲内にあり、エンジン3に対する制御指示が可能か否かを判定する。その結果、ステップS7で算出した発電量Pwの値が小さく、エンジントルクEqやエンジン回転数Nが設定範囲を逸脱して制御不能と判断される場合には、ステップS8から処理を抜けて一旦エンジン3を停止させ、次の処理周期で目標充放電電圧V’を再設定する。
【0069】
また、ステップS7で算出した発電量Pwから算出されるエンジントルクEqやエンジン回転数Nが設定範囲内にあり、エンジン3の制御可能範囲内にある場合には、ステップS8からステップS9へ進み、エンジン回転数Nの指示値を出力する。そして、ステップS10でパルス充放電における充電モード或いは放電モードを決定し、エンジン3を介してジェネレータ2の発電量Pwを制御する。
【0070】
このエンジン3を介したジェネレータ2の発電量Pwの制御(パルス充放電)は、例えば、エンジン3のスロットル開度をエンジン回転数Nの指示値に基づいて調整する等して行われ、バッテリ6の端子電圧Vが目標充放電電圧V’に一致するよう、比例及び積分フィードバック制御等により行われる。但し、積分フィードバックを実施する場合には、充放電の切換時に積分器をリセットする。
【0071】
このとき、図11に示すように、エンジン3(ジェネレータ2)が停止状態から始動したとき最初の充放電のスタートは、電池セルへの負担を軽減するため、そのときの残存容量SOCを基準として振幅値を小さく周期を短くするように初期設定する。その後、セル温度T,残存容量SOC,入出力可能パワー量P,電流値I,電圧V等のパラメータを監視しながら、ジェネレータ2の発電量Pwが電圧上限値Vmax’及び電圧下限値Vmin’の範囲内でパルス状に増減され、バッテリ電圧及びバッテリ電流の振幅が大きく且つ周期が長くされる。
【0072】
この発電量Pwに対する指示は、図11に破線で示す走行パワー量PDRに加算される分がバッテリ6を充電する充電モードになり、走行パワー量PDRから減算される分がバッテリ6から放電する放電モードとなる。これにより、車両としての駆動要求に対する走行パワー量PDRを満足しながら、バッテリ6の充放電による暖機を行うことができ、車両の走行性を損なうことなく、バッテリ本来の容量を迅速に回復させることができる。
【0073】
その後、ステップS10からステップS11へ進み、負荷の変動等により発電量Pwに基準以上の変動があるか否かを調べる。その結果、発電量Pwの変動がない場合には、ステップS11からステップS12へ進み、目標充放電電圧V’とバッテリ端子電圧Vとの差が基準値以内か否かを調べる。
【0074】
そして、ステップS12において、目標充放電電圧V’とバッテリ端子電圧Vとの差が基準値以内にない場合には、ステップS12からステップS11へ戻って現在の充電或いは放電状態を維持する。すなわち、ジェネレータ2の発電制御によりバッテリ端子電圧Vが目標充放電電圧V’に近づいても、互いの差が基準値以内に達するまでは、充放電の切換えを禁止する。
【0075】
また、ステップS12において、目標充放電電圧V’とバッテリ端子電圧Vとの差が基準値以内となったときには、ステップS12からステップS13へ進み、充放電を切換える条件が成立する状態となったか否かを調べる。充放電の切換条件は、例えば、充放電パワー量が予め規定した充放電量(充電可能パワー量Pc、或いは放電可能パワー量Pd)に達したとき、或いは充放電電流の変化量が規定電流変化量に達したときであり、この充放電切換条件が成立しない場合には、ステップS11へ戻り、充放電切換条件が成立したとき、ステップS13から一旦処理を抜け、次の処理周期で、発電量Pwを新たに算出して充電と放電とを切換える。この充放電の切換えは、通常の状態では、制御リミッタである電圧上限値Vmax’や電圧下限値Vmin’に徐々に近づく方向に可変され、これにより、パルス充放電の電圧パルス幅が徐々に長くなる(周期が徐々に長くなる)。
【0076】
一方、ステップS11において、発電量Pwが変動したときには、ステップS14へ分岐して、再度、ステップS8と同様の判定、すなわち、発電量Pwにより算出したエンジン回転数N及びエンジントルクEqが、エンジン3を制御可能な上限及び下限の範囲内にあり、エンジン3に対する制御指示が可能か否かを判定する。そして、ステップS14において、エンジントルクEqやエンジン回転数Nが規定範囲内で制御不能と判断される場合には、ステップS14から処理を抜けて一旦エンジン3を停止させ、次の処理周期で目標充放電電圧V’を再設定する。
【0077】
また、エンジントルクEqやエンジン回転数Nが規定範囲内にあり、エンジン3の制御可能範囲内にある場合には、ステップS14からステップS15へ進み、エンジン回転数Nの指示値を変更、又は対応するエンジントルクEqの指示値を出力し、ステップS10へ戻り、充放電のモードを決定してパルス充放電を継続する。このような充放電を、セル温度T、入出力可能パワー量P、残存容量SOC等の監視結果に応じてパルス充放電の電圧振幅や周期を可変しながら続行し、セル温度が上昇して規定温度に到達したときには、ステップS2或いはステップS3から処理を抜けて実質的にウォームアップを終了する。
【0078】
尚、以上の実施の形態では、シリーズハイブリッド車について説明したが、本発明は、シリーズハイブリッド車に限定されることなく、シリーズ・パラレルハイブリッド車にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】ハイブリッド車のシステム構成図
【図2】残存容量の推定アルゴリズムを示すブロック図
【図3】電流容量テーブルの説明図
【図4】等価回路モデルを示す回路図
【図5】インピーダンステーブルの説明図
【図6】残存容量テーブルの説明図
【図7】ウェイトテーブルの説明図
【図8】パワー量の演算アルゴリズムを示すブロック図
【図9】バッテリのウォームアップ制御処理を示すフローチャート
【図10】バッテリのウォームアップ制御処理を示すフローチャート(続き)
【図11】パルス充放電の制御状態を示す説明図
【符号の説明】
【0080】
1 駆動モータ
2 ジェネレータ(発電機)
3 エンジン
6 バッテリ
7 演算ユニット(目標充放電電圧設定手段)
20 ハイブリッド制御用電子制御ユニット(発電量算出手段、エンジン制御手段)
V’ 目標充放電電圧(目標電圧)
ΔP 充放電パワー量(充放電電力)
PDR 走行パワー量
Pw 発電量
V 端子電圧
Vo 開放電圧
R 内部抵抗
SOC 残存容量(合成後の残存容量)
SOCc 残存容量(第1の残存容量)
SOCv 残存容量(第2の残存容量)
w ウェイト
代理人 弁理士 伊 藤 進
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動力を発生するモータに電力を供給すると共に、エンジンによって駆動される発電機からの発電電力によって充電されるバッテリの充放電を制御して該バッテリの内部発熱による暖機を行なうハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置において、
上記バッテリを暖機するための充放電電圧の目標電圧を、上記バッテリの残存容量を含むバッテリ状態に基づく上下限範囲内で設定する目標充放電電圧設定手段と、
上記目標電圧に対応する充放電電力と上記モータの要求トルクに基づく走行用電力とに基づいて上記発電機の発電量を算出する発電量算出手段と、
上記バッテリの温度が規定温度未満のとき、上記バッテリの端子電圧が上記目標電圧に収束するよう上記発電機の発電量を制御するエンジン制御手段とを備えたことを特徴とするハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項2】
上記発電量算出手段は、
上記バッテリの端子電圧と上記目標電圧との差、上記バッテリの開放電圧、及び上記バッテリの内部抵抗より上記充放電電力を算出し、算出した充放電電力の上記走行用電力に対する減算或いは加算分として上記発電量を算出することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項3】
上記エンジン制御手段は、
上記バッテリの端子電圧と上記目標電圧との差が基準値以内にない場合、上記発電機による充電モードと放電モードとの切換えを禁止する一方、充放電電流の電流変化量或いは充放電電力が既定値に達したときには、上記発電機による充電モードと放電モードとの切換えを強制的に行うことを特徴とする請求項1又は2記載のハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項4】
上記エンジン制御手段は、
上記エンジンの回転数或いはトルクの指示値が、予め設定した上下限範囲を逸脱した場合、上記エンジンを停止させ、上記目標充放電電圧設定手段による新たな目標電圧と、上記発電量算出手段による新たな発電量とに基づいて上記発電機の制御を再開することを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載のハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項5】
上記目標充放電電圧設定手段は、
上記バッテリの充放電電流の積算値に基づく第1の残存容量と上記バッテリの開放電圧に基づく第2の残存容量とを上記バッテリの使用状況に応じて設定したウェイトを用いて重み付け合成し、上記バッテリの残存容量を算出することを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載のハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項1】
走行駆動力を発生するモータに電力を供給すると共に、エンジンによって駆動される発電機からの発電電力によって充電されるバッテリの充放電を制御して該バッテリの内部発熱による暖機を行なうハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置において、
上記バッテリを暖機するための充放電電圧の目標電圧を、上記バッテリの残存容量を含むバッテリ状態に基づく上下限範囲内で設定する目標充放電電圧設定手段と、
上記目標電圧に対応する充放電電力と上記モータの要求トルクに基づく走行用電力とに基づいて上記発電機の発電量を算出する発電量算出手段と、
上記バッテリの温度が規定温度未満のとき、上記バッテリの端子電圧が上記目標電圧に収束するよう上記発電機の発電量を制御するエンジン制御手段とを備えたことを特徴とするハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項2】
上記発電量算出手段は、
上記バッテリの端子電圧と上記目標電圧との差、上記バッテリの開放電圧、及び上記バッテリの内部抵抗より上記充放電電力を算出し、算出した充放電電力の上記走行用電力に対する減算或いは加算分として上記発電量を算出することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項3】
上記エンジン制御手段は、
上記バッテリの端子電圧と上記目標電圧との差が基準値以内にない場合、上記発電機による充電モードと放電モードとの切換えを禁止する一方、充放電電流の電流変化量或いは充放電電力が既定値に達したときには、上記発電機による充電モードと放電モードとの切換えを強制的に行うことを特徴とする請求項1又は2記載のハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項4】
上記エンジン制御手段は、
上記エンジンの回転数或いはトルクの指示値が、予め設定した上下限範囲を逸脱した場合、上記エンジンを停止させ、上記目標充放電電圧設定手段による新たな目標電圧と、上記発電量算出手段による新たな発電量とに基づいて上記発電機の制御を再開することを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載のハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【請求項5】
上記目標充放電電圧設定手段は、
上記バッテリの充放電電流の積算値に基づく第1の残存容量と上記バッテリの開放電圧に基づく第2の残存容量とを上記バッテリの使用状況に応じて設定したウェイトを用いて重み付け合成し、上記バッテリの残存容量を算出することを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載のハイブリッド車のバッテリウォームアップ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−174596(P2006−174596A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363355(P2004−363355)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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