説明

ハイブリッド車両およびその制御方法

【課題】発熱量が低減されたハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両100は、エンジン24の動力を受けて発電するジェネレータMG1と、車輪を駆動させるモータMG2と、エンジン24、ジェネレータMG1、モータMG2の各軸に結合された動力分割機構と、モータMG2を駆動するインバータ36を冷却する冷却装置49と、ブレーキシステム46とを備える。制御装置は、車両が停車中にエンジン24を用いてジェネレータMG1によって発電を行なう場合には、エンジン24がジェネレータMG1を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、ブレーキシステム46を使用して車輪を固定する第1の処理と、モータMG2を使用してキャンセルトルクを発生する第2の処理とを、温度センサ55で検出される冷却媒体の温度に応じて切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車両およびその制御方法に関し、特にハイブリッド車における停車時の充電制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から内燃機関の出力で推進される車両が広く使用されてきた。しかし近年では、モータの出力によって推進される電気自動車およびモータと内燃機関とを併用するハイブリッド自動車に注目が集まっている。
【0003】
電気自動車は、大出力のモータを駆動するために大容量で大型の蓄電装置を搭載しなければならないため、蓄電装置の価格が高い現状ではなかなか普及するに至っていない。
【0004】
ハイブリッド自動車、特にシリーズハイブリッド方式またはパラレルシリーズハイブリッド方式のハイブリッド自動車は、蓄電装置の残存容量(SOC:State Of Charge)が低下した場合、内燃機関によって発電機を作動させ蓄電装置を充電することができる。
【0005】
特開平9−46821号公報(特許文献1)には、このようなハイブリッド車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−46821号公報
【特許文献2】特開2004−343934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開平9−46821号公報では、停車中にもバッテリを充電可能な構成が開示されている。この車両では、動力分割機構とモータとの間に順に静止機構およびクラッチが設けられている。車両停車中にバッテリを充電したい場合にはクラッチにて動力分配機構とモータとの連結を解除することにより、エンジンによって発電機を駆動した場合の振動等が車輪に伝わるのが防止される。
【0008】
しかしながら、このような構成では、車両停車中の充電時(以下「Pチャージ」ともいう)のために車両にクラッチ機構を設ける必要があり部品点数が増加し車両のコストが増加してしまう。
【0009】
一方、クラッチを設けない構成では、車両停車時にプラネタリギヤを介して駆動軸に直接伝達されるエンジンからの動力を駆動軸に接続されたモータによりキャンセルするものが提案されている。これにより、駆動軸に運転者が予期しないトルクが出力されるのが防止される。
【0010】
しかしながら、車両停車中の充電時においては冷却用ラジエータに走行風が当らないため、ハイブリッドシステムを冷却するという点において最も過酷な状況である。このような状況では、ハイブリッドシステムの冷却水温が最も高くなる。したがってハイブリッドシステムの熱損失をなるべく低減させることが好ましい。
【0011】
車両停車中の充電時は、充電に必要な発電用回転電機系からの損失だけでなく、エンジンからのトルクをキャンセルする反力トルクを発生するために駆動用回転電機系からも損失を出している。充電中の反力トルク(キャンセルトルク)発生による冷却水温への影響は大きく、冷却水の水温上昇により冷却用補機(電動ファン、ウォータポンプなど)が最大出力で駆動し、さらに電力を消費するため燃費が悪化する。加えて、酷暑地域では、冷却水温が上昇すると、ハイブリッドシステムがオーバーヒートするおそれがある。
【0012】
この発明の目的は、発熱量が低減されたハイブリッド車両およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、要約すると、ハイブリッド車両であって、内燃機関と、内燃機関の動力を受けて発電する発電機と、車輪を駆動させるための駆動軸を駆動するための電動機と、内燃機関、発電機、電動機の各軸に結合された動力分割機構と、電動機を駆動するインバータと、インバータを冷却媒体によって冷却する冷却装置と、車輪を固定するためのブレーキ装置と、発電機、電動機およびブレーキ装置を制御する制御装置とを備える。制御装置は、車両が停車中に内燃機関を用いて発電機によって発電を行なう場合には、内燃機関が発電機を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、ブレーキ装置を使用して車輪を固定する第1の処理と、電動機を使用してキャンセルトルクを発生する第2の処理とを、冷却媒体の温度に応じて切り替える。
【0014】
好ましくは、冷却装置は、冷却媒体をインバータに循環させる循環部と、冷却媒体を冷却する冷却ファンとを含む。制御装置は、循環部または冷却ファンが作動開始する温度以下である温度しきい値と冷却媒体の温度とを比較し、冷却媒体の温度が温度しきい値よりも低いときには第2の処理を実行し、冷却媒体の温度が温度しきい値よりも高いときには第1の処理を実行する。
【0015】
より好ましくは、冷却媒体の温度が上昇する際に循環部または冷却ファンの作動を開始させる設定温度をT1とし、冷却媒体の温度が下降する際に循環部または冷却ファンの作動を停止させる設定温度をT2とし、冷却媒体の温度が上昇する際に第2の処理から第1の処理に切り替える設定温度をT3とし、冷却媒体の温度が下降する際に第1の処理から第2の処理に切り替える設定温度をT4とすると、T1>T2≧T3>T4の関係が成立するように設定温度T1〜T4が定められる。
【0016】
好ましくは、ブレーキ装置は、踏力によって油圧を発生させるブレーキペダルと、油圧を発生させるポンプと、ブレーキペダルまたはポンプで発生された油圧に応じて作動する車輪制動部とを含む。制御装置は、第1の処理を実行する際にはブレーキペダルが踏まれていなくてもポンプによって油圧を発生させることにより車輪制動部を作動させる。
【0017】
この発明は、他の局面では、ハイブリッド車両の制御方法である。ハイブリッド車両は、内燃機関と、内燃機関の動力を受けて発電する発電機と、車輪を駆動させるための駆動軸を駆動するための電動機と、内燃機関、発電機、電動機の各軸に結合された動力分割機構と、電動機を駆動するインバータと、インバータを冷却媒体によって冷却する冷却装置と、車輪を固定するためのブレーキ装置とを備える。制御方法は、車両が停車中に内燃機関を用いて発電機によって発電を行なう場合であるか否かを判断するステップと、内燃機関が発電機を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、ブレーキ装置を使用して車輪を固定する第1の処理を行なうステップと、内燃機関が発電機を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、電動機を使用してキャンセルトルクを発生する第2の処理を行なうステップと、冷却媒体の温度に応じて第1および第2の処理のいずれを実行するか切り替えるステップとを備える。
【0018】
好ましくは、冷却装置は、冷却媒体をインバータに循環させる循環部と、冷却媒体を冷却する冷却ファンとを含む。切り替えるステップは、循環部または冷却ファンが作動開始する温度以下である温度しきい値と冷却媒体の温度とを比較し、冷却媒体の温度が温度しきい値よりも低いときには第2の処理を実行させ、冷却媒体の温度が温度しきい値よりも高いときには第1の処理を実行させる。
【0019】
より好ましくは、冷却媒体の温度が上昇する際に循環部または冷却ファンの作動を開始させる設定温度をT1とし、冷却媒体の温度が下降する際に循環部または冷却ファンの作動を停止させる設定温度をT2とし、冷却媒体の温度が上昇する際に第2の処理から第1の処理に切り替える設定温度をT3とし、冷却媒体の温度が下降する際に第1の処理から第2の処理に切り替える設定温度をT4とすると、T1>T2≧T3>T4の関係が成立するように設定温度T1〜T4が定められる。
【0020】
好ましくは、ブレーキ装置は、踏力によって油圧を発生させるブレーキペダルと、油圧を発生させるポンプと、ブレーキペダルまたはポンプで発生された油圧に応じて作動する車輪制動部とを含む。第1の処理を行なうステップは、ブレーキペダルが踏まれていなくてもポンプによって油圧を発生させることにより車輪制動部を作動させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車両停車中の充電時における発熱量が低減するとともに、酷暑地域でのオーバーヒートや燃費の悪化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態のハイブリッド自動車100の全体ブロック図である。
【図2】図1におけるブレーキシステム46の概略構成を示した図である。
【図3】車両停車中の充電時における冷却水温の状況を説明するための図である。
【図4】車両停車中の充電時(以下Pチャージ)において消費電力が増大することを説明するための図である。
【図5】Pチャージ中の損失の内訳を示した図である。
【図6】駆動モータ系からの損失について説明するための図である。
【図7】図1に示した冷却システム49の動作について説明するためのフローチャートである。
【図8】ブレーキシステム46の制御を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8のステップS14〜S16の制御を行なったときの状態を説明するための図である。
【図10】水温の設定値T1〜T4の大小関係について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明について以下図面を参照して詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付してその説明は繰返さない。
【0024】
図1は、本実施の形態のハイブリッド自動車100の全体ブロック図である。
図1を参照して、ハイブリッド自動車100は、エンジン24と、モータMG2と、ジェネレータMG1と、プラネタリギヤ18と、減速ギヤ22と、動力取出ギヤ20と、動力伝達ギヤ12とディファレンシャルギヤ14と、駆動軸15L,15Rと、駆動輪16L,16Rとを含む。
【0025】
プラネタリギヤ18は、エンジンのクランクシャフトと同軸のキャリア軸に軸中心を貫通された中空のサンギヤ軸に結合されたサンギヤと、キャリア軸と同軸上に配置されたリングギヤ軸に結合されたリングギヤと、サンギヤ軸とリングギヤとの間に配置されサンギヤの外周を自転しながら公転する複数のプラネタリピニオンギヤと、キャリア軸の端部に結合され各プラネタリピニオンギヤの回転軸を支持するプラネタリキャリアとを含んで構成される。プラネタリギヤのリングギヤは動力取出ギヤ20に結合されている。
【0026】
減速ギヤ22は、プラネタリキャリアがギヤケースに固定されたプラネタリギヤであり、サンギヤがモータMG2に結合されリングギヤが動力取出ギヤ20に結合されている。
【0027】
ハイブリッド自動車100は、さらに、ジェネレータMG1を駆動するためのインバータ34と、モータMG2を駆動するためのインバータ36と、インバータ34,36を制御するMGECU42と、ブレーキシステム46と、ブレーキシステム46を制御するECBECU44と、冷却装置49と、冷却装置49から水温情報などを受けて、MGECU42およびECBECU44に指令を送るHVECU40とを含む。なお、HVECU40、MGECU42、ECBECU44は、1つのECUにまとめられていても良く、3つでない数に分割された構成であっても良い。
【0028】
冷却装置49は、ハイブリッド冷却水用ラジエータ48と、ラジエータ48に送風を行なうための電動ファン50,52と、ラジエータ48からの冷却水を受けてインバータを冷却するインバータ冷却器54と、インバータ冷却器54に設けられた水温センサ55と、冷却水を保持するリザーブタンク56と、冷却水を循環させるウォータポンプ58と、ウォータジャケットまたはオイルクーラー60とを含む。水温情報が温度センサ55からHVECU40に送信される。
【0029】
図2は、図1におけるブレーキシステム46の概略構成を示した図である。
図2を参照して、ブレーキシステム46は、ブレーキペダル102と、リザーバタンク104と、電動ポンプ108と、アキュムレータ106と、油圧センサ110,112,126と、リニアソレノイドバルブ114,122と、切換バルブ116,118,120,124と、油圧保持バルブ128,132,136,140と、減圧バルブ130,134,138,142と、車輪制動部RL,RR,FL,FRとを含む。各々の車輪制動部は、ホイールディスクとキャリパとホイールシリンダとを含む。
【0030】
ブレーキペダル102は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダに接続されている。マスタシリンダには、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク104が接続されている。ブレーキペダル102には、踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサが設けられている。ストロークセンサは2系統のセンサすなわち出力系統が並列に設けられている。ストロークセンサのこれら2つの出力系統は、踏み込みストロークSTK1,STK2をそれぞれ独立かつ並列的に計測して出力する。
【0031】
マスタシリンダの一方の出力ポートには、運転者によるブレーキペダル102の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータが接続されている。マスタシリンダとストロークシミュレータとを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁120が設けられている。
【0032】
アキュムレータ106は、電動ポンプ108によって昇圧されたブレーキフルードを蓄える。圧力センサ110は、アキュムレータ106におけるブレーキフルードの圧力を検出する。リニアソレノイドバルブ114,122は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0033】
油圧保持バルブ128,132,136,140と、減圧バルブ130,134,138,142も、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。油圧保持バルブ128,132,136,140が開くと、ホイールシリンダに圧力が供給される。減圧バルブ130,134,138,142が開くと、ホイールシリンダの圧力が減圧される。油圧保持バルブ128,132,136,140および減圧バルブ130,134,138,142を共に閉じた状態とすると、そのときの圧力が保持される。
【0034】
図3は、車両停車中の充電時における冷却水温の状況を説明するための図である。
図3を参照して、ハイブリッド自動車では、車両停車中の充電時においてハイブリッドシステムを冷却する冷却水温が最も高くなる。このような状態では、許容温度に対して余裕が少ない状態である。
【0035】
図4は、車両停車中の充電時(以下Pチャージ)において消費電力が増大することを説明するための図である。
【0036】
図4を参照して、Pチャージ中であり、ハイブリッド冷却水の水温が高温となっている場合には、ラジエータファンの高速駆動要求およびハイブリッド冷却水用のウォータポンプの高速駆動要求が発生し、補機による消費電力の増大を招いてしまう。
【0037】
Pチャージ中のハイブリッドシステムの損失を分析すると、充電に必要は発電用モータ系からの損失だけではなく、駆動系モータからも損失を出していることがわかった。
【0038】
図5は、Pチャージ中の損失の内訳を示した図である。
図5を参照して、ジェネレータMG1で45%、モータMG2で10.5%、MG1用インバータ(INV1)で27%、MG2用インバータ(INV2)で17.5%の損失の内訳となっている。
【0039】
図6は、駆動モータ系からの損失について説明するための図である。
図6を参照して、エンジン24が回転しジェネレータMG1を回転させることにより発電を行なう。このとき、エンジン24からプラネタリギヤ18を介して動力取出ギヤ20を回転させる直達トルクTr1が車輪を駆動しようとする。そこでモータMG2によって反力トルクTr2を発生させ、エンジン直達トルクTr1をキャンセルさせる。この反力トルクTr2を発生させるために駆動用モータ系からも損失が生じる。
【0040】
本発明においては、冷却水が高温のときには、モータMG2による反力トルクの発生をやめて車輪に図1のブレーキシステム46によってブレーキをかけることにより車両を動かないように固定する。このブレーキは、車両のシフトレンジがパーキングに設定されていればドライバがブレーキペダルを踏み込まなくても作動させる。これにより、冷却水が高温となりがちな過酷な条件における冷却水温の上昇を抑えることと、冷却機器の消費電力を抑えることが実現できる。
【0041】
図7は、図1に示した冷却システム49の動作について説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、所定のメインルーチンから一定時間ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼び出されて実行される。
【0042】
図1、図7を参照して、まず処理が開始されるとステップS1において冷却水温が温度T1より大きいか否かが判断される。ステップS1において冷却水温が温度T1よりも高い場合にはステップS2に処理が進み、電動ファン50,52(またはウォータポンプ58)がオン状態に制御される。
【0043】
一方、ステップS1において冷却水温が温度T1よりも高くなかった場合にはステップS3に処理が進む。ステップS3では、冷却水温が温度T2よりも低いか否かが判断される。なお温度T2は、温度T1よりも低い温度であり、電動ファン50,52(またはウォータポンプ58)のオン/オフが繰り返されることを防ぐためにヒステリシスが設けられている。
【0044】
ステップS3において冷却水温が温度T2よりも低かった場合にはステップS4に処理が進み電動ファン50,52(またはウォータポンプ58)がオフ状態に制御される。一方ステップS3において冷却水温が温度T2よりも低くなかった場合にはステップS5に処理が進む。
【0045】
ステップS5では、電動ファン50,52(またはウォータポンプ58)のオン/オフ状態が現状維持される。ステップS2,S4,S5のいずれかの処理が終了すると、ステップS6に処理が進みメインルーチンに処理が戻される。
【0046】
図8は、ブレーキシステム46の制御を説明するためのフローチャートである。
図8を参照して、まず処理が開始されると、ステップS11において充電要求が発生しているか否かが判断される。充電要求は、図1のバッテリ10の残存容量(SOC)が低下したことなどに応じて生じる。ステップS11において充電要求が生じていない場合にはステップS25に処理が進む。一方ステップS11において充電要求が生じている場合にはステップS12に処理が進む。
【0047】
ステップS12では、シフトレンジがPレンジであるか否かが判断される。なお、Pレンジとはパーキングレンジのことである。シフトレンジは、図1のシフトレバー11からの信号に基づいて定められるが、HV−ECU40内部で定められたレンジ情報が保持されている。このレンジ情報に基づいてHV−ECU40はステップS12の判断を行なう。
【0048】
ステップS12においてシフトレンジがPレンジであった場合には、ステップS13に処理が進む。ステップS13では、ハイブリッドシステムの冷却水温Tが設定値T3以上であるか否かが判断される。ステップS13において冷却水温が設定値T3以上であった場合には、ステップS14に処理が進む。なお設定値T3は図7の設定値T2以下の温度である。
【0049】
ステップS14では、ホイール油圧センサ(図2の油圧センサ126)にて所定の油圧が検知されたか否かが判断される。
【0050】
ステップS14において油圧センサ126に油圧が検出されていない場合にはステップS15に処理が進み減圧バルブ130,134,138,142を閉状態とし、油圧保持バルブ128,132,136,140をバルブ開状態とする。そしてステップS16においてECB用電動ポンプ108を作動させホイールシリンダの油圧を上昇させる。そして再びS14に処理が戻りホイール油圧センサにおいて油圧が検知されたか否かが判断される。
【0051】
ステップS14〜16の処理を繰り返すことにより、ホイールシリンダの油圧が上昇し、油圧ブレーキによって車輪が固定され、モータMG2からの反力トルクを発生させないでもパーキング時の充電時に車両が動かなくなる。
【0052】
図9は、図8のステップS14〜S16の制御を行なったときの状態を説明するための図である。
【0053】
図9を参照して、電動ポンプが駆動され油圧保持バルブが開状態で減圧バルブが閉状態である場合には、図中の矢印に示すように電動ポンプで上昇させた油圧がホイールシリンダに伝達される。
【0054】
再び図8を参照して、ステップS14において、ホイール油圧センサにおいて所定値の油圧が検知された場合にはステップS17に処理が進む。ステップS17においては、ECBECU44が油圧保持バルブ128,132,136,140を閉じた状態に制御し、かつ減圧バルブ130,134,138,142も閉じた状態に制御する。これによりホイールシリンダの油圧は所定圧に維持される。
【0055】
その後ステップS18においてECBECU44がECB用電動ポンプ108の作動を停止させ、そしてステップS19においてMGECU42がモータMG2を用いて実行される反力発生制御を停止させる。そしてステップS26に処理が移り制御はメインルーチンに戻される。
【0056】
以上ステップS14〜19で説明したように制御を行なえば、Pチャージ実行時に図1のモータMG2およびインバータ36において消費されていた電力が低減できる。このため冷却水の温度上昇も少なくなるので、電動ファン50,52の消費電力やウォータポンプ58の消費電力を低減させることができる場合もある。
【0057】
一方、ステップS13においてハイブリッドシステムの冷却水温Tが設定値T3以上でなかった場合にはステップS20に処理が進む。ステップS20では、冷却水温Tが設定値T4より小さいか否かが判断される。ステップS20において冷却水温T<T4が成立しなかった場合にはステップS25に処理が進む。
【0058】
ステップS12でシフトレンジがPレンジでなかった場合およびステップS20においてT<T4が成立した場合には、ステップS21に処理が進む。ステップS21では、ホイール油圧センサ126にて油圧が検知されているか否かが判断される。ステップS21においてホイール油圧センサ126に油圧が検知されている場合、すなわちECBによるブレーキが作動している場合にはステップS22に処理が進む。
【0059】
ステップS22ではレギュレータ油圧センサ112において油圧が検知されているか否かが判断される。レギュレータ油圧センサ112において油圧が検知されていない場合、すなわちブレーキペダルが踏まれていない場合には、ステップS23において、減圧バルブ130,134,138,142を開いた状態に制御し、油圧保持バルブ128,132,136,140を閉じた状態に制御する。これにより、ECBによるブレーキを非作動状態とする。
【0060】
ステップS21においてホイール油圧センサ126に油圧が検知されていない場合およびステップS22においてレギュレータ油圧センサ112において油圧が検出されている場合ならびにステップS23の処理が終了した場合には、ステップS24に処理が進む。ステップS24では、MG−ECU42での反力発生制御が実行される。
【0061】
一方、ステップS11において充電要求が無い場合またはステップS20においてT<T4が成立しなかった場合には、ステップS25に処理が進み、MG−ECU42での反力発生制御の実行/停止については現状が維持される。
【0062】
ステップS24またはステップS25の次は、ステップS26において制御はメインルーチンに戻される。
【0063】
図10は、水温の設定値T1〜T4の大小関係について説明するための図である。
図10において、温度T1は温度上昇時において電動ファンをオフ状態からオン状態に変化させるときの温度しきい値である。温度T2は、温度下降時において電動ファンをオン状態からオフ状態に変化させる場合の温度しきい値である。
【0064】
なお、温度T1は温度上昇時において電動ファンを低回転状態から高回転状態に変化させるときの温度しきい値とし、温度T2は、温度下降時において電動ファンを高回転状態から低回転状態に変化させる場合の温度しきい値としてもよい。
【0065】
温度T3は、温度上昇時において、エンジンからの直達トルクをキャンセルするための処理をMG2の反力トルク発生からECBによるブレーキに切り替えるときの温度しきい値である。温度T4は、温度下降時において、エンジンからの直達トルクをキャンセルするための処理をECBによるブレーキからMG2の反力トルク発生に切り替えるときの温度しきい値である。
【0066】
温度T1〜T4は、いずれも冷却水温の上限値TMAXよりも小さい値である。そしてこれらの温度にはT1>T2≧T3>T4の関係が設定されている。T1>T2とする設定により、ファンのオン/オフが頻繁に切り替えられることが防止され、またT3>T4とする設定によりエンジンからの直達トルクをキャンセルする処理の切り替えが頻繁に発生することが防止される。また、T2≧T3とすることにより、MG2による反力キャンセル動作を実行して消費電力が増え熱を多く発生させつつ、これをファンによって冷やし、ファンの消費電力も増加してしまうという悪循環を避けることができる。
【0067】
以上説明してきたように、本発明の実施の形態では、車両停車中の充電時(Pチャージ時)において、ハイブリッドシステムの冷却水が高温であるときに、モータMG2による反力トルク発生の制御を停止し、その代わりECBによる油圧ブレーキ制御を行なう。モータMG2による反力トルクの発生を中止することにより、特にPチャージ中のインバータ損失を低減し、冷却水温を2〜3℃低減できる。これにより、反力トルク発生によるロスを低減するだけでなく、冷却水温を低下させることが可能となるため、電動ファンやウォータポンプの消費電力を抑えることもできる。
【0068】
さらに、冷却水温が高温であるということを条件としてECBにより油圧ブレーキ制御を行なうので、ドライバによる特別な動作(たとえばブレーキペダル操作)を必要とせずに、冷却水の温度上昇の防止や消費電力の抑制が実現できる。
【0069】
最後に、本実施の形態について再び図面を参照して総括する。図1を参照して、ハイブリッド車両100は、エンジン24と、エンジン24の動力を受けて発電するジェネレータMG1と、車輪を駆動させるための駆動軸を駆動するためのモータMG2と、エンジン24、ジェネレータMG1、モータMG2の各軸に結合されたプラネタリギヤ18および減速ギヤ22を含む動力分割機構と、モータMG2を駆動するインバータ36と、インバータ36を冷却媒体によって冷却する冷却装置49と、車輪を固定するためのブレーキシステム46と、ジェネレータMG1、モータMG2およびブレーキシステム46を制御する制御装置(HVECU40、MGECU42,ECBECU44)とを備える。制御装置は、車両が停車中にエンジン24を用いてジェネレータMG1によって発電を行なう場合には、エンジン24がジェネレータMG1を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、ブレーキシステム46を使用して車輪を固定する第1の処理と、モータMG2を使用してキャンセルトルクを発生する第2の処理とを、温度センサ55で検出される冷却媒体の温度に応じて切り替える。
【0070】
好ましくは、冷却装置49は、冷却媒体をインバータに循環させるウォータポンプ58と、冷却媒体を冷却する冷却ファン50,52とを含む。制御装置は、ウォータポンプ58または冷却ファン50,52が作動開始する温度以下である温度しきい値と冷却媒体の温度とを比較し、冷却媒体の温度が温度しきい値よりも低いときには第2の処理を実行し、冷却媒体の温度が温度しきい値よりも高いときには第1の処理を実行する。
【0071】
より好ましくは、図10に示すように、冷却媒体の温度が上昇する際にウォータポンプ58または冷却ファン50,52の作動を開始させる設定温度をT1とし、冷却媒体の温度が下降する際にウォータポンプ58または冷却ファン50,52の作動を停止させる設定温度をT2とし、冷却媒体の温度が上昇する際に第2の処理から第1の処理に切り替える設定温度をT3とし、冷却媒体の温度が下降する際に第1の処理から第2の処理に切り替える設定温度をT4とすると、T1>T2≧T3>T4の関係が成立するように設定温度T1〜T4が定められる。
【0072】
好ましくは、図2に示すように、ブレーキシステム46は、踏力によって油圧を発生させるブレーキペダル102と、油圧を発生させる電動ポンプ108と、ブレーキペダル102または電動ポンプ108で発生された油圧に応じて作動する車輪制動部RL,RR,FL,FRとを含む。制御装置は、第1の処理を実行する際にはブレーキペダル102が踏まれていなくても電動ポンプ108によって油圧を発生させることにより車輪制動部RL,RR,FL,FRを作動させる。
【0073】
この発明は、他の局面では、ハイブリッド車両の制御方法である。ハイブリッド車両は、エンジン24と、エンジン24の動力を受けて発電するジェネレータMG1と、車輪を駆動させるための駆動軸を駆動するためのモータMG2と、エンジン24、ジェネレータMG1、モータMG2の各軸に結合された動力分割機構と、モータMG2を駆動するインバータと、インバータを冷却媒体によって冷却する冷却装置49と、車輪を固定するためのブレーキシステム46とを備える。図8に示すように、制御方法は、車両が停車中にエンジン24を用いてジェネレータMG1によって発電を行なう場合であるか否かを判断するステップS11,S12と、エンジン24がジェネレータMG1を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、ブレーキシステム46を使用して車輪を固定する第1の処理を行なうステップS14〜S18と、エンジン24がジェネレータMG1を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、モータMG2を使用してキャンセルトルクを発生する第2の処理を行なうステップS24と、冷却媒体の温度に応じて第1および第2の処理のいずれを実行するか切り替えるステップS13,S14とを備える。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
10 バッテリ、11 シフトレバー、12 動力伝達ギヤ、14 ディファレンシャルギヤ、15L,15R 駆動軸、16L,16R 駆動輪、18 プラネタリギヤ、20 動力取出ギヤ、22 減速ギヤ、24 エンジン、34,36 インバータ、46 ブレーキシステム、48 ハイブリッド冷却水用ラジエータ、49 冷却システム、50,52 電動ファン、54 インバータ冷却器、55 温度センサ、56 リザーブタンク、58 ウォータポンプ、60 オイルクーラー、100 ハイブリッド自動車、102 ブレーキペダル、104 リザーバ、106 アキュムレータ、108 電動ポンプ、110,112,126 油圧センサ、114,116,118,122,124 切換バルブ、128,132,136,140 油圧保持バルブ、130,134,138,142 減圧バルブ、MG1 ジェネレータ、MG2 モータ、RL,RR,FL,FR 車輪制動部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の動力を受けて発電する発電機と、
車輪を駆動させるための駆動軸を駆動するための電動機と、
前記内燃機関、前記発電機、前記電動機の各軸に結合された動力分割機構と、
前記電動機を駆動するインバータと、
前記インバータを冷却媒体によって冷却する冷却装置と、
車輪を固定するためのブレーキ装置と、
前記発電機、前記電動機および前記ブレーキ装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、車両が停車中に前記内燃機関を用いて前記発電機によって発電を行なう場合には、前記内燃機関が前記発電機を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、前記ブレーキ装置を使用して車輪を固定する第1の処理と、前記電動機を使用してキャンセルトルクを発生する第2の処理とを、前記冷却媒体の温度に応じて切り替える、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記冷却装置は、
前記冷却媒体を前記インバータに循環させる循環部と、
前記冷却媒体を冷却する冷却ファンとを含み、
前記制御装置は、前記循環部または前記冷却ファンが作動開始する温度以下である温度しきい値と前記冷却媒体の温度とを比較し、前記冷却媒体の温度が前記温度しきい値よりも低いときには前記第2の処理を実行し、前記冷却媒体の温度が前記温度しきい値よりも高いときには前記第1の処理を実行する、請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記冷却媒体の温度が上昇する際に前記循環部または前記冷却ファンの作動を開始させる設定温度をT1とし、前記冷却媒体の温度が下降する際に前記循環部または前記冷却ファンの作動を停止させる設定温度をT2とし、前記冷却媒体の温度が上昇する際に前記第2の処理から前記第1の処理に切り替える設定温度をT3とし、前記冷却媒体の温度が下降する際に前記第1の処理から前記第2の処理に切り替える設定温度をT4とすると、T1>T2≧T3>T4の関係が成立するように設定温度T1〜T4が定められる、請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記ブレーキ装置は、
踏力によって油圧を発生させるブレーキペダルと、
油圧を発生させるポンプと、
前記ブレーキペダルまたは前記ポンプで発生された油圧に応じて作動する車輪制動部とを含み、
前記制御装置は、前記第1の処理を実行する際には前記ブレーキペダルが踏まれていなくても前記ポンプによって油圧を発生させることにより前記車輪制動部を作動させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
ハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、
内燃機関と、
前記内燃機関の動力を受けて発電する発電機と、
車輪を駆動させるための駆動軸を駆動するための電動機と、
前記内燃機関、前記発電機、前記電動機の各軸に結合された動力分割機構と、
前記電動機を駆動するインバータと、
前記インバータを冷却媒体によって冷却する冷却装置と、
車輪を固定するためのブレーキ装置とを備え、
前記制御方法は、
車両が停車中に前記内燃機関を用いて前記発電機によって発電を行なう場合であるか否かを判断するステップと、
前記内燃機関が前記発電機を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、前記ブレーキ装置を使用して車輪を固定する第1の処理を行なうステップと、
前記内燃機関が前記発電機を回転させる際に車輪に伝達されるトルクに対抗するために、前記電動機を使用してキャンセルトルクを発生する第2の処理を行なうステップと、
前記冷却媒体の温度に応じて前記第1および第2の処理のいずれを実行するか切り替えるステップとを備える、ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記冷却装置は、
前記冷却媒体を前記インバータに循環させる循環部と、
前記冷却媒体を冷却する冷却ファンとを含み、
前記切り替えるステップは、前記循環部または前記冷却ファンが作動開始する温度以下である温度しきい値と前記冷却媒体の温度とを比較し、前記冷却媒体の温度が前記温度しきい値よりも低いときには前記第2の処理を実行させ、前記冷却媒体の温度が前記温度しきい値よりも高いときには前記第1の処理を実行させる、請求項5に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
前記冷却媒体の温度が上昇する際に前記循環部または前記冷却ファンの作動を開始させる設定温度をT1とし、前記冷却媒体の温度が下降する際に前記循環部または前記冷却ファンの作動を停止させる設定温度をT2とし、前記冷却媒体の温度が上昇する際に前記第2の処理から前記第1の処理に切り替える設定温度をT3とし、前記冷却媒体の温度が下降する際に前記第1の処理から前記第2の処理に切り替える設定温度をT4とすると、T1>T2≧T3>T4の関係が成立するように設定温度T1〜T4が定められる、請求項6に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項8】
前記ブレーキ装置は、
踏力によって油圧を発生させるブレーキペダルと、
油圧を発生させるポンプと、
前記ブレーキペダルまたは前記ポンプで発生された油圧に応じて作動する車輪制動部とを含み、
前記第1の処理を行なうステップは、前記ブレーキペダルが踏まれていなくても前記ポンプによって油圧を発生させることにより前記車輪制動部を作動させる、請求項5〜7のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−111313(P2012−111313A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261004(P2010−261004)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】