説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】ハイブリッド車両において、回転電機の温度上昇を効率的に抑制する。
【解決手段】ハイブリッド車両(10)は、内燃機関(200)及び回転電機(MG1)を含む動力要素と、動力要素を連結する複数の回転要素が相互に差動回転可能である差動機構(300)と、複数の回転要素のうち回転電機に連結される回転要素(304)をロック状態及び非ロック状態の間で切り替え可能なロック機構(400)とを備える。この制御装置(100)は、非ロック状態からロック状態への切り替えの際に、回転電機の回転速度が、値0を含む所定値以下に向けて遷移を開始する時点から値0を含む所定値以下になるまで、設定された遷移時間をかけて遷移するように、回転電機を制御する制御手段と、予め決められた変更条件が成立した場合に、設定された遷移時間を変更する変更手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として内燃機関及び電動発電機を備えるハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、発電機を備えた発電駆動部の温度が、設定温度より高い場合に、発電機ブレーキの係合により発電機の回転を停止し且つ保護処理手段により発電機のシャットダウンを行うことで、発電駆動部の温度を低下させるものが提案されている。例えば、特許文献1によれば、該発電駆動部の温度低下により発電駆動部の過熱に起因する故障を防止すると共に、発電機ブレーキの係合にてエンジントルクの反力トルクを受け持ち、発電機トルクの低下に伴うエンジンの過回転を防止することが可能である。
【0003】
また、上述の、発電機の回転を停止する装置に関連して、電動機の回転数が値0を含む所定回転数以下である回転停止状態が、電動機の温度が所定温度を超えると予測される超過予測時間に亘って継続した時、電動機の回転を駆動輪に伝達する接続(即ち、クラッチ)を解除することで、電動機の加熱を抑制するものが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−271911号公報
【特許文献2】特開2008−167633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、本願発明者によれば典型的に、発電機ブレーキ等のロック手段の係合の際に、電動発電機の回転速度が値0に向けて変化する時点から実際に値0に収束するまでの過程に、内燃機関トルクの低下に応じた電動発電機トルクの変化に伴い、電動発電機の温度が低下するとされる。一方で、電動発電機の回転速度が値0である場合、コイルを流れる電流が一相に集中し電動発電機の温度が上昇するとされる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示された装置によれば、こうした、電動発電機の温度に作用する要因(即ち、電動発電機の回転状態)が一切考慮されておらず、電動発電機の温度上昇を効率的に抑制し得ないといった技術的問題がある。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、電動発電機の温度上昇を効率的に抑制し得るハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、内燃機関及び回転電機を含む動力要素と、前記動力要素を連結する複数の回転要素からなり、前記複数の回転要素が相互に差動回転可能である差動機構と、前記複数の回転要素のうち、前記回転電機に連結される回転要素を、回転不能なロック状態及び回転可能な非ロック状態の間で切り替え可能なロック機構とを備えたハイブリッド車両を制御するハイブリッド車両の制御装置であって、前記非ロック状態から前記ロック状態への切り替えの際に、前記回転電機の回転速度が、値0を含む所定値以下に向けて遷移を開始する時点から前記値0を含む前記所定値以下になるまで、設定された遷移時間をかけて遷移するように、前記回転電機を制御する制御手段と、前記設定された遷移時間を変更すべき場合であることを示す条件として予め決められた変更条件が成立した場合に、前記設定された遷移時間を変更する変更手段とを備える。
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、駆動軸に対し動力供給可能な動力要素として、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等、その物理的、機械的又は電気的構成を問わない各種の態様を採り得る、燃料の燃焼により動力を生成可能な機関としての内燃機関と、例えばモータジェネレータ等の電動発電機として構成され得る回転電機(言い換えれば、トルク付与手段)とを少なくとも備えた車両である。
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、このようなハイブリッド車両を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0011】
本発明に係るハイブリッド車両は、差動機構として動力伝達機構(例えば、トルク付与手段に含まれる)を備える。動力伝達機構は、例えば、(1)回転電機に直接的又は間接的に連結され、回転電機による回転速度の調整が可能な一の回転要素、(2)駆動軸に連結される二の回転要素及び(3)内燃機関に連結される三の回転要素を含む、相互に差動作用をなし得る複数の回転要素を備えており、係る差動作用により各回転要素の状態(端的には、回転可能であるか否か及び他の回転要素又は固定要素と連結された状態にあるか否か等を含む)に応じて、上記動力要素と駆動軸との間の動力伝達(端的にはトルクの伝達である)を行う機構である。
【0012】
動力伝達機構に備わる複数の回転要素のうち、一から三の回転要素は、常時或いは選択的に、これらのうち二回転要素の回転速度が定まれば自ずと残余の一回転要素の回転速度が定まる回転二自由度の差動機構(尚、この差動機構に含まれる回転要素は必ずしもこれら三要素に限定されない)を構築する。従って、回転電機は、内燃機関に対し内燃機関のトルクに対応する反力トルクを与える反力要素として機能し得るものであり、内燃機関の回転速度制御機構としても機能し得るものである。
【0013】
本発明に係るハイブリッド車両は、例えば湿式多板ブレーキ装置若しくはクラッチ装置、ドグクラッチ装置又は電磁カムロック式クラッチ装置等の各種態様を採り得るロック機構を備える。ロック機構は、回転電機に連結される回転要素の状態を、例えば物理的、機械的、電気的又は磁気的な各種係合力により所定の固定要素に回転不能に固定されたロック状態と、少なくともこのロック状態に係る係合力の影響を受けない状態としての回転可能な非ロック状態との間で切り替える機構である。特に、ロック機構は、ロック状態において、回転電機に代わり、内燃機関に対し反力トルクを与える反力要素として機能し得るものである。
【0014】
ここで、非ロック状態からロック状態への遷移過程において、ロック機構の係合によるショックを防止するべく回転電機の回転速度を値0に収束させる必要がある。この収束の際には、例えば最適燃費で動作する内燃機関の機関トルクの低下に伴い、回転電機で出力するべき反力トルクも減少するため、回転電機の温度が低下する又は低下し易い。一方で、回転電機の回転速度を値0に制御する場合には、コイルを流れる電流が一相に集中し、回転電機の温度が上昇する又は上昇し易い。
【0015】
上述の、回転電機の回転速度の収束時の作用を利用する、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、非ロック状態からロック状態への切り替えが行われる際に、先ず、ECU等の変更手段により、予め決められた変更条件が成立した場合に、設定された遷移時間が変更される。他方、変更条件が成立しない場合には、設定された遷移時間は変更されない。ここに「変更条件」とは、具体的には例えば、回転電機の過熱による故障を防止するべく、回転電機の温度が予め設定される温度閾値を超えること、ドライバビリティを向上するべく、所定モード(言い換えれば、所定モードを実行するための制御パラメータ)が設定される状態等を示す。尚、このような変更条件の成否は、例えば、後述の如き「判定手段」によって判定される。
【0016】
続いて、このような変化条件の成否に応じて適宜に変更設定された遷移時間で、回転電機の回転速度が値0又は所定値以下まで遷移するように(即ち、値0又は所定値以下に収束するように)、ECU等の制御手段によって、回転電機が制御される。ここに回転電機の回転速度に係る「所定値」とは、値0、又は値0に近似する正の値或いは値0に若干の有余を加えた値を示す。また「遷移時間」とは、回転電機の回転速度が、値0又は所定値以下に向けて遷移を開始する時点から値0又は所定値以下に遷移するまでの時間を示す。このような遷移時間を「変更する」とは、単に遷移時間を変更することに限定されず、該遷移時間に対応する、例えば遷移速度或いは遷移加速度等の遷移変化率若しくは変化特性を変更することを含む。即ち、設定された遷移変化率若しくは変化特性で回転速度が遷移することで、結果として、遷移時間が変更されればよい趣旨である。
【0017】
上述したように、変更条件の成否に応じて遷移時間を変更することで、回転電機の温度が低下する時間を調整し、回転電機の過剰な温度上昇を抑制することが可能である。例えば回転電機の温度が上昇する状態(即ち、回転電機の回転速度が値0である状態)を比較的長く継続した場合、回転電機の回転を一定時間以上停止させた状態でロック機構の係合を行うことができ、該係合によるショックを確実に軽減することが可能である。更には、回転電機の温度が比較的大きく低下するように、遷移時間が予め調整されている場合、変更条件によっては、一の回転要素が非ロック状態にある時間を長期化することが可能である。
【0018】
従って、ハイブリッド車両における、非ロック状態からロック状態への切り替えの際に、遷移時間を変更することで、回転電機の温度上昇を効率的に抑制することが可能である。
【0019】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一の態様では、前記変更手段は、前記変更条件として、前記設定された遷移時間を延長すべき場合であることを示す条件として予め決められた延長条件が成立した場合に、前記設定された遷移時間を延長する。
【0020】
この態様によれば、変更手段により、延長条件が成立した場合に、設定された遷移時間が延長される。他方、延長条件が成立しない場合には、設定された遷移時間は延長されない。ここに、遷移時間を「延長する」とは、単に遷移時間を延長することに限定されず、上述した遷移変化率若しくは変化特性をなだらかにする(具体的には、回転速度の時間的推移を示す傾斜を緩める)ことを含む。
【0021】
上述したように、延長条件の成否に応じて遷移時間を延長することで、遷移時間を延長しない場合より長く、回転電機の温度が低下する低下状態が継続される。即ち、延長した遷移時間が経過した時点では、延長しない遷移時間が経過した時点より、回転電機の温度が低くなる。言い換えれば、遷移時間を延長する場合、回転電機の温度が上昇する上昇状態(即ち、回転電機の回転速度が値0である状態)が始まる時点の回転電機の温度が、遷移時間を延長しない場合と比較して、大きく低下する。これにより、該上昇状態を比較的長く継続することが可能である。
【0022】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記変更手段は、前記変更条件が成立するか否かを判定する判定手段を有し、前記判定手段により前記変更条件が成立したと判定された場合に、前記設定された遷移時間を変更する。
【0023】
この態様では、前記回転電機の温度又は前記回転電機に電力を供給するインバータの温度を特定する温度特定手段を更に備え、前記判定手段は、前記特定された温度に基づいて、前記変更条件が成立するか否かを判定してもよい。
【0024】
このように構成すれば、例えばECU等により非ロック状態からロック状態への切り替えが要求された場合に、温度センサ等の温度特定手段により、回転電機(即ち、回転電機を駆動する駆動手段を含む)又は回転電機に電力を供給するインバータの温度が特定される。すると、判定手段により、特定された温度に基づいて変更条件が成立するか否かの判定が行われる。
【0025】
この判定では、例えば、特定された温度が予め決められた所定温度を超えるか否かが判別される。ここに「所定温度」は、非ロック状態からロック状態への遷移過程において、回転電機の温度が上昇する上昇状態前に回転電機の温度が低下する低下状態(即ち、回転速度値0を含む所定値以下に向けての遷移)を開始するか否かを判別するための回転電機の温度閾値である。より具体的には例えば、低下状態が始まる時点の回転電機の温度が、上昇状態の継続による回転電機の過剰な温度上昇を引き起こす或いは引き起こし兼ねない温度か否かを判別するための回転電機の温度閾値である。このような所定温度を、特定された温度が超えた場合に、遷移時間の変更が必要であるとして、変更条件が成立すると判定される。他方、該所定温度を、特定された温度が超えない場合には、遷移時間の変更は不要であるとして、変更条件が成立しないと判定される。
【0026】
上述した判定によれば、特定された温度の比較対象となる所定温度が高い程、回転電機の温度が低下する低温状態(即ち、回転速度値0を含む所定値以下に向けての遷移)の開始が遅れ、一の回転要素が非ロック状態にある時間が長期化する。即ち、所定温度は、回転電機の過剰な温度上昇を懸念しながら、ドライバビリティを向上するべく一の回転要素が非ロック状態にある時間の長期化を担保可能か否かを判別するための温度閾値でもある。
【0027】
上述したように、変更条件が成立するか否かの判定に、回転電機又は回転電機におけるインバータの温度を用いる。これにより、回転速度値0を含む所定以下に向けての遷移を開始する時点の回転電機の温度を、回転速度値0時の過剰な温度上昇を抑制し得る程に、高くなる方向に拡大すれば、一の回転要素における非ロック状態を長期化することが可能である。
【0028】
前記変更手段が前記判定手段を有する態様では、前記判定手段は、前記内燃機関における燃費を優先するように定められた燃費優先モードの設定状態に応じて、前記変更条件が成立するか否かを判定してもよい。
【0029】
ここに「燃費優先モード」とは、例えば、一の回転要素が非ロック状態にある場合に設定可能であり、燃料消費率が理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で最小となる、或いはハイブリッド車両のシステム効率(例えば、動力伝達機構の伝達効率と内燃機関の熱効率等に基づいて算出される総合的な効率である)が理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で最大となるように、内燃機関の動作点(例えば、機関回転速度とトルクとにより規定される内燃機関の一運転条件を規定する点)を制御する走行モード等であり、公知非公知を問わず各種の態様を採り得る。このような燃費優先モードでの実際の走行時には、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量が制御され、内燃機関の回転速度が制限されるために、ドライバ或いは同乗者がロック機構の係合に伴うショックを体感し易い状態となる。
【0030】
上述したように、変更条件が成立するか否かの判定に、燃費優先モードの設定状態を用いる。この場合、遷移時間の変更により、回転電機の温度を比較的大きく下げることで、回転電機の回転速度が値0である状態を一定時間以上継続し、ロック機構の係合によるショックを確実に軽減することが可能である。
【0031】
この態様によれば、前記燃費優先モードのオンオフを切り替え可能な切替手段を更に備えてもよい。
【0032】
ここに「切替手段」は、エコスイッチ等と称され、ドライバ或いは同乗者の手動操作により、燃費優先モードのオンオフの切り替えが可能であるスイッチ等である。このように構成すれば、ドライバ或いは同乗者の意思で燃費優先モードを設定する観点から、ドライバビリティを向上させることも可能である。
【0033】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記動力要素は、前記内燃機関及び第一の前記回転電機の他、車軸に繋がる駆動軸に連結される第二の回転電機を含んでおり、前記複数の回転要素は、前記第一の回転電機に連結される第一の回転要素の他、前記駆動軸に連結される第二の回転要素及び前記内燃機関に連結される第三の回転要素を含む。
【0034】
この態様によれば、第二の回転電機は、上述の回転電機(即ち、第一の回転電機)と同様にして、例えばモータジェネレータ等の電動発電機として、駆動軸に対し動力供給可能に構成される。また、第二の回転電機は、駆動軸を介して第二の回転要素に連結される。本発明に係るハイブリッド車両は、こうした第二の回転電機及び内燃機関(実際には、反力要素である第一の回転電機)を相互に協調的に制御して動力源とすることで、上記構成を実現することが可能であり、ロック機構の係合によるショックを回避する観点、第一の回転要素における非ロック状態を長期化する観点、及びドライバの意思で燃費優先モードを設定する観点から、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0035】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表すブロック図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表す構成図である。
【図3】図2のハイブリッド駆動装置の各部の動作状態を説明する動作共線図である。
【図4】本発明の実施形態に係るMG1ロック制御処理を示すフローチャートである。
【図5】図4のMG1ロック制御処理において遷移速度の違いによる、インバータ温度等の時間的推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両10の構成を概念的に表すブロック図である。
【0038】
図1において、ハイブリッド車両10は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、車速センサ13、アクセル開度センサ14、MG1回転速度センサ15、MG1温度センサ16及びエコスイッチ17、並びにハイブリッド駆動装置1000を備えた、本発明に係る「ハイブリッド車両」の一例である。
【0039】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両10の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するMG1ロック制御処理を実行可能に構成されている。
【0040】
尚、ECU100は、本発明に係る「制御手段」、「変更手段」及び「判定手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等の各種コンピュータシステムとして構成されていてもよい。
【0041】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能に構成されたインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0042】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能することが可能に構成された充電可能な「蓄電手段」の一例である。
【0043】
車速センサ13は、ハイブリッド車両10の車速Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0044】
アクセル開度センサ14は、ハイブリッド車両10の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0045】
MG1回転速度センサ15は、モータジェネレータMG1の回転速度を検出することが可能に構成されたセンサである。MG1回転速度センサ15は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたモータジェネレータMG1の回転速度は、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0046】
MG1温度センサ16は、モータジェネレータMG1におけるインバータ素子の温度を検出可能に構成された、本発明に係る「温度特定手段」の一例たるセンサである。MG1温度センサ16は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたインバータ素子の温度は、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0047】
エコスイッチ17は、ドライバの手動操作により、エンジン200の燃費を優先するエコモード(即ち、本発明に係る「燃費優先モード」の一例)のオンオフを切り替えることが可能に構成された、本発明に係る「切替手段」の一例たるスイッチである。尚、本実施形態では、エコモードは、後述する二種類の走行モード(無段変速モード及び固定変速モード)に対し下位の走行モードであり、無段変速モードの選択時にのみ有効とする。
【0048】
ハイブリッド駆動装置1000は、ハイブリッド車両10のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置1000の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置1000の構成を概念的に表す構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0049】
図2において、ハイブリッド駆動装置1000は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1、モータジェネレータMG2、ブレーキ機構400及び減速機構500を備える。
【0050】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒ガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能するように構成されている。尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、各種の態様を有してよい。
【0051】
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「回転電機」及び「第一の回転電機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第二の回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有していてもよいし、他の構成を有していてもよい。
【0052】
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「第一の回転要素」の一例たるサンギア303と、サンギア303の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「第二の回転要素」の一例たるリングギア301と、サンギア303とリングギア301との間に配置されてサンギア303の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア305と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する、本発明に係る「第三の回転要素」の一例たるプラネタリキャリア306とを備えた、本発明に係る「差動機構」の一例たる動力伝達装置である。
【0053】
ここで、サンギア303は、サンギア軸304を介してモータジェネレータMG1のロータ(符合は省略)に結合されており、その回転速度はモータジェネレータMG1の回転速度(以下、適宜「MG1回転速度」と称する)と等価である。また、リングギア301は、駆動軸302及び減速機構500を介してモータジェネレータMG2のロータに結合されており、その回転速度はモータジェネレータMG2の回転速度(以下、適宜「MG2回転速度」と称する)と等価である。更に、プラネタリキャリア306は、エンジン200のクランクシャフト205に結合されており、その回転速度はエンジン200の機関回転速度Neと等価である。
【0054】
一方、駆動軸302は、ハイブリッド車両の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFLと、デファレンシャル等の各種減速ギアを含む減速装置としての減速機構500を介して連結される。モータジェネレータMG2から駆動軸302に出力されるモータトルクは、減速機構500を介して各ドライブシャフトへと伝達され、同様に各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、減速機構500及び駆動軸302を介してモータジェネレータMG2に入力される。即ち、モータジェネレータMG2の回転速度は、ハイブリッド車両10の車速Vと一義的な関係にある。
【0055】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200が発する動力を、プラネタリキャリア306とピニオンギア305とによってサンギア303及びリングギア301に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0056】
ブレーキ機構400は、一方のブレーキ板がサンギア軸304に連結され、他方のブレーキ板が物理的に固定された構成を有する、本発明に係る「ロック機構」の一例たるブレーキ装置である。ブレーキ機構400は、油圧駆動装置と接続されており、当該油圧駆動装置からの油圧の供給によりサンギア軸304側のブレーキ板が固定側のブレーキ板に押圧され、サンギア303の状態(一義的に、モータジェネレータMG1の状態)を、回転不能のロック状態と回転可能な非ロック状態との間で選択的に切り替え可能に構成されている。ブレーキ機構400の油圧駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその動作が上位に制御される構成となっている。
【0057】
尚、本発明に係る「差動機構」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構300のものに限定されない。例えば、本発明に係る差動機構は、複数の遊星歯車機構を備え、一の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素が、他の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素の各々と適宜連結され、一体の差動機構を構成していてもよい。また、ロック機構に係る実施形態上の構成も、差動機構の構成に応じて適宜変化し得るものである。
【0058】
減速機構500は、予め設定された減速比に従って駆動軸302の回転速度を減速可能なギア機構を含み、またドライブシャフトSFL及びSFR相互間の回転速度差を吸収するデファレンシャル等の最終減速機を含むギア装置である。尚、減速機構500は、予め設定された減速比に従って駆動軸302の回転速度を減速するに過ぎないが、ハイブリッド車両10は、この種の減速装置とは別に、例えば、複数のクラッチ機構やブレーキ機構を構成要素とする複数の変速段を備えた有段変速装置を備えていてもよい。
【0059】
<実施形態の動作>
本実施形態に係るハイブリッド車両10では、サンギア303の状態(一義的に、モータジェネレータMG1の状態)に応じて無段変速モード及び固定変速モードの二種類の走行モードを選択することが可能である。ここで、図3を参照し、ハイブリッド車両10の走行モードについて説明する。ここに、図3は、ハイブリッド駆動装置1000の各部の動作状態を説明する動作共線図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0060】
図3(a)において、縦軸は回転速度を表しており、横軸には、左から順にモータジェネレータMG1、エンジン200及びモータジェネレータMG2が表されている。ここで、動力分割機構300は遊星歯車機構により構成されており、サンギア303(即ち、実質的にモータジェネレータMG1)、プラネタリキャリア306(即ち、実質的にエンジン200)及びリングギア301(即ち、実質的にモータジェネレータMG2)のうち二要素の回転速度が定まれば、残余の一要素の回転速度が必然的に決定される。即ち、共線図上において各要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置1000の一動作状態について、一の直線(動作共線)によって表すことができる。
【0061】
例えば、図3(a)において、モータジェネレータMG2の動作点を図示白丸m1とし、エンジン200の反力トルクを負担するモータジェネレータMG1の動作点が図示白丸m3であるとすれば、エンジン200の動作点は必然的に図示白丸m2となる。ここで、車速V(即ち、モータジェネレータMG2の回転速度と一義的である)を一定とすれば、モータジェネレータMG1の回転速度を制御して、モータジェネレータMG1の動作点を図示白丸m4或いは白丸m5に変化させた場合、エンジン200の動作点は、夫々図示白丸m6或いは白丸m7に変化する。このように、モータジェネレータMG1が非ロック状態にあれば、モータジェネレータMG1を回転速度制御装置として利用し、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能となる。エンジン200の機関回転速度Neをある程度の範囲で自由に選択可能であれば、機関回転速度Neと駆動軸302との比たる変速比を、少なくともある程度の範囲で自由に設定することが可能となり、動力分割機構300を一種のCVT(Continuously Variable Transmission:無段変速装置)として機能させることができる。このように変速比を自由に選択可能な走行モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点は、基本的に、エンジン要求出力(ハイブリッド車両10の要求出力とは異なり得る)毎にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点に制御される。
【0062】
ここで、無段変速モードが選択されている場合、モータジェネレータMG2の回転速度が高いものの機関回転速度Neが低くて済むような運転条件においては、モータジェネレータMG1の動作点を、例えば図示白丸m5の如き負回転側に設定する必要が生じ得る。この場合、モータジェネレータMG1は、エンジン200の反力トルクとして負トルクを出力しており、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータジェネレータMG1の出力トルクは、ハイブリッド車両10の駆動トルクとして駆動軸302に伝達される。一方、このようにモータジェネレータMG1のトルクが駆動トルクとして伝達されてしまうと、駆動軸302のトルクは、各ドライブシャフトに供給すべき要求駆動力に対応する要求トルクに対し過剰となる。このため、モータジェネレータMG2は、駆動軸302に出力される余剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータジェネレータMG2は、正回転負トルクの状態となって発電状態となる。
【0063】
このような状態においては、モータジェネレータMG2で発電した電力により、モータジェネレータMG1を力行駆動し、余剰なトルクをモータジェネレータMG2で再び回生する、といった、所謂動力循環と称される無駄な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置1000における動力の伝達効率ηtが低下してハイブリッド駆動装置1000のシステム効率ηsys(例えば、エンジン200の熱効率ηe×伝達効率ηt等として定義される)が低下し、エンジン200における燃料消費量が増加してしまう。
【0064】
そこで、このような動力循環が生じ得る運転領域においては、ブレーキ機構400によりサンギア303が先に述べたロック状態に制御される。その様子が図3(b)に示される。サンギア303がロック状態となると、必然的にモータジェネレータMG1もまたロック状態となり、モータジェネレータMG1の回転速度は0となる(図示白丸m8参照)。このため、エンジン200の機関回転速度は、車速Vと一義的なモータジェネレータMG2の回転速度とこのモータジェネレータMG1の回転速度とにより一義的に決定され(即ち、変速比が一定となる)、動作点は図示白丸m9となる。このようにモータジェネレータMG1がロック状態にある場合に対応する走行モードが、固定変速モードである。
【0065】
固定変速モードでは、本来モータジェネレータMG1が負担すべきエンジン200の反力トルクをブレーキ機構400の物理的な制動力により代替させることができる。即ち、モータジェネレータMG1を発電状態にも力行状態にも制御する必要はなくなり、モータジェネレータMG1は停止させられる。従って、基本的にモータジェネレータMG2も停止(電気的に停止)状態に制御され、空転状態となる。結局、固定変速モードでは、ハイブリッド駆動装置1000の出力トルク(駆動軸302に供給されるトルク)は、エンジントルクのうち、動力分割機構300により駆動軸302側に分割された、直達トルクのみとなる。このように、固定変速モードでは、エンジン200からの直達トルクのみがハイブリッド車両10の駆動トルク(尚、駆動トルクは、各ドライブシャフトに加わる駆動力と一義的である)となり、ハイブリッド駆動装置1000は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、伝達効率ηtが上昇する。
【0066】
ハイブリッド車両10において、走行モードは、ECU100により、基本的に車速V及び要求駆動力Ftに基づいて切り替えられる。要求駆動力Ftは、各ドライブシャフトに供給すべき駆動力の要求値であり、車速センサ14により検出される車速Vとアクセル開度センサ13により検出されるアクセル開度Taとをパラメータとする要求駆動力マップより取得される。ECU100は、この要求駆動力マップより取得された要求駆動力Ftと、車速Vとに基づいて、予めこれらと選択すべき走行モードとが対応付けられてなる走行モード選択マップを参照し、選択すべき走行モードを決定する。
【0067】
走行モード選択マップは、縦軸及び横軸に夫々要求駆動力Ft及び車速Vが表されてなる二次元マップである。走行モード選択マップ上では、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、モータジェネレータMG1を非ロック状態とし上述した無段変速モードを選択すべき領域がCVT(Continuously Variable Transmission)領域として、またモータジェネレータMG1をロック状態とし上述した固定変速モードを選択すべき領域がMG1ロック領域として夫々規定されている。即ち、車速V及び要求駆動力Ftは、走行モードを決定するための、ハイブリッド車両10の運転条件である。
【0068】
CVT領域は、エンジン200の直達トルクにモータジェネレータMG2のモータトルクTmを加えても、駆動軸302に対しハイブリッド車両10の要求出力を満たす駆動トルクを供給し得ない領域として規定されている領域である。車速V及び要求駆動力Ftにより規定されるハイブリッド車両の一運転条件がCVT領域に該当する場合、ECU100は、走行モードとして無条件に無段変速モードを選択する。
【0069】
他方、MG1ロック領域は、エンジン200の直達トルクのみでハイブリッド車両10の要求出力を満たし得る領域であり、且つ伝達効率ηtの低下を防止することにより、無段変速モードよりもシステム効率ηsysを向上させ得る領域として定められている。本実施形態では、車速V及び要求駆動力Ftにより規定されるハイブリッド車両の一運転条件がMG1ロック領域に該当する場合、ECU100は、走行モードとして固定変速モードを選択可能であるMG1ロック制御処理を実行する。
【0070】
ECU100は、MG1ロック制御処理の実行により、ブレーキ機構400によりモータジェネレータMG1(言い換えれば、サンギア303)が非ロック状態からロック状態に切り替わる際に、MG1回転速度が0回転数/秒(即ち、単位「rpm/s」として示される)に向けて遷移(即ち、収束)する遷移速度(即ち、本発明に係る「遷移時間」の一例)を変更可能である。これにより、MG1回転速度の遷移過程におけるモータジェネレータMG1のインバータ温度(実際には、インバータ素子の温度)を下げることが可能であり、MG1回転速度が0rpm/sである場合のインバータ温度の上昇を抑制することを可能にしている。尚、後述の如くMG1ロック制御処理では、ECU100は、遷移速度を変更するための条件として、モータジェネレータMG1のインバータ温度、及びエコモードの切り替え状態を用いることとする。
【0071】
<MG1ロック制御処理>
ここで、図4を参照し、MG1ロック制御処理の詳細について説明する。ここに、図4は、MG1ロック制御処理のフローチャートである。
【0072】
図4において、ECU100は、車速センサ13により検出される車速Vと、アクセル開度センサ14により検出されるアクセル開度Taに基づいて取得された要求駆動力Ftとにより規定されるハイブリッド車両10の一運転条件が、走行モード選択マップ上における、MG1ロック領域に該当するか否か(即ち、モータジェネレータMG1についてロック状態(以下、適宜「MG1ロック」と称する)を要求する有無)を判別する(ステップS51)。この判別の結果、運転条件がMG1ロック領域に該当しない(即ち、MG1ロックの要求がない)と判別された場合(ステップS51:NO)、ECU100は、再度ステップS51の処理を実行する。
【0073】
一方、ステップS51の判別の結果、運転条件がMG1ロック領域に該当する(MG1ロックの要求がある)と判別された場合(ステップS51:YES)、言い換えれば、非ロック状態からロック状態への切り替えの際に、ECU100は、MG1ロック時の機関回転速度Ne0を推定し、推定される機関回転速度Ne0が現在の機関回転速度Nexより大きいか否かを判断する(ステップS52)。この判別の結果、機関回転速度Ne0が機関回転速度Nexより小さいと判別された場合(ステップS52:NO)、ECU10は、MG1回転速度Nmg1を0rpm/sに向けて収束する際の遷移速度を、基準速度bとする(ステップS60)。ここに「基準速度」は、予め設定される遷移速度の基準値である。具体的には、この基準速度でMG1回転速度Nmg1が0rpm/sまで収束した場合に、モータジェネレータMG1におけるインバータの過剰な温度上昇を抑制する程の、インバータ温度の低下が見込めない遷移速度である。遷移速度が決まると、ECU100は、後述するステップS55の処理を実行する。
【0074】
一方、ステップS52の判別の結果、機関回転速度Ne0が機関回転速度Nexより大きいと判別された場合(ステップS52:YES)、ECU100は、インバータ温度が温度閾値αより大きいか否かを判別する(ステップS53)。ここに「温度閾値α」は、例えば、モータジェネレータMG1が取り得る適正温度の上限値に達しないものの、該上限値に迫る温度を示す。この判別の結果、インバータ温度が温度閾値αより高いと判別された場合(ステップS53:YES)、ECU10は、遷移速度を基準速度bよりも小さい遅延速度aとする(ステップS54)。ここに「遅延速度」は、遷移速度が基準速度bである場合より、MG1回転速度Nmg1が0rpm/sまで減速するのに要する時間を引き延ばすように、基準速度bより遅くした速度である。具体的には、この遅延速度でMG1回転速度Nmg1が0rpm/sまで収束した場合に、MG1回転速度Nmg1が0rpm/sである場合のインバータの過剰な温度上昇を抑制し得る、インバータ温度の低下が見込まれる遷移速度である。
【0075】
続いて、ステップS54又はS60により遷移速度が決まると、ECU100は、PCU11を制御し、決められた遷移速度でMG1回転速度Nmg1を0rpm/sに向けて収束する。すると、ECU100は、MG1回転速度Nmg1の絶対値が0rpm/sまで若干の有余を残した低回転速度値βより小さいか否かを判別する(ステップS55)。この判別の結果、MG1回転速度Nmg1の絶対値が低回転速度値βより大きいと判別された場合(ステップS55:NO)、ECU100は、未だ0rpm/sに向けての収束が完了していないとして、再びステップS53の処理を実行する。
【0076】
一方、ステップS55の判別の結果、MG1回転速度Nmg1の絶対値が低回転速度値βより小さいと判別された場合(ステップS55:YES)、ECU100は、0rpm/sに向けての収束が完了したとして、ロック機構400を制御し、サンギア303をロック状態に切り替える(即ち、ブレーキ板を係合する)と共に(ステップS56)、PCU11を制御し、モータジェネレータMG1のトルクTmg1を0ニュートン・メートル(即ち、単位「N・m」として示される)まで変化させる(ステップS57)。続いて、ECU100は、固定変速モードへの切り替え(即ち、変速)が完了したことを判別し(ステップS58)、一連のMG1ロック制御処理を終了する。
【0077】
ここで、上述したステップS53の処理に戻り、該ステップS53の判別の結果、インバータ素子の温度が温度閾値αより小さいと判別された場合(ステップS53:NO)、エコモードがオンに切り替えられているか否かを判別する(ステップS59)。ここに「エコモードがオン」とは好適には、エンジン200の燃費を優先する走行を実現するべく、アクセル開度Taが制御され、比較的緩やかな変速を行う走行状態を示す。この走行状態では、ドライバはブレーキ機構400によるロック状態への切り替えに伴うショックを体感し易く、該ショックに係るドライバビリティを損ない兼ねない。
そこで、該ステップS59の判別の結果、エコモードがオンに切り替えられていると判別された場合(ステップS59:YES)、ECU100は、上述したステップS54の処理を実行し、遷移速度を遅延速度aとする。これにより、MG1回転速度Nmg1が0rpm/sまで減速するのに要する時間を長引かせ、インバータ素子の過剰な温度上昇を抑制する分、MG1回転速度Nmg1が0rpm/sである時間を長期化し、ブレーキ機構400によるロック状態への切り替えをショックなく行うことが可能である。
【0078】
一方、ステップS59の判別の結果、エコモードがオフに切り替えられていると判別された場合(ステップS59:NO)、ECU10は、上述したステップS60の処理を実行し、遷移速度を基準速度bとする。この後、上述したステップS55からS58の処理を実行し、一連のMG1ロック制御処理を終了する。
【0079】
ここで、図5を参照し、MG1ロック制御処理において、遷移速度を変更した場合の効果について説明する。図5は、MG1ロック制御処理における、モータジェネレータMG1及びエンジン200夫々における回転速度及びトルク、並びにインバータ温度について、時間的推移を表す二次元グラフである。
【0080】
図5に示される5つの二次元グラフは、縦軸に上から順番に、モータジェネレータMG1におけるMG1回転速度Nmg1及びMG1トルクTmg1、エンジン200における機関回転速度Ne及び機関トルクTe、並びにモータジェネレータMG1におけるインバータ素子の温度を、横軸に各二次元グラフに共通する時刻tを表す。このような二次元グラフには、実線にて、遷移速度が遅延速度aである場合の推移を、点線にて、遷移速度が基準速度bである場合の推移を表す。
【0081】
横軸には時系列に、時刻t0、tb及びtaが表されている。時刻t0は、ステップS55にて、遅延速度a又は基準速度bでMG1回転速度Nmg1の減速を開始する時刻である。時刻tbは、基準速度bでMG1回転速度Nmg1が0rpm/sに収束した後にモータジェネレータMG1のロック状態への切り替えが終了した時刻である。時刻taは、遅延速度aでMG1回転速度Nmg1が0rpm/sに収束した後にモータジェネレータMG1のロック状態への切り替えが終了した時刻である。
【0082】
縦軸にインバータ温度を表す二次元グラフには、温度Ina、Inbが表されている。温度Inaは、遅延速度aでMG1回転速度Nmg1が収束した場合における、インバータの最低温度を示す。温度Inbは、基準速度bでMG1回転速度Nmg1が収束した場合における、インバータ素子の最低温度を示す。これら最低温度Ina及びInbが、MG1回転速度Nmg1が0rpm/sになった時点のインバータ温度となる。即ち、遷移速度が基準速度bから遅延速度aに変更された場合、MG1回転速度Nmg1の収束に要する時間が引き延ばされ、インバータの最低温度を温度InbからInaに低下させることができる。これにより、MG1回転速度Nmg1が0rpm/sとなった時点から、ブレーキ板の係合に必要とされる一定時間少なくとも温度上昇するインバータの最高温度を下げることが可能となる。言い換えれば、MG1回転速度Nmg1の収束時にインバータ温度を低下させた分、ブレーキ板の係合に要する時間を長く確保することが可能となる。
【0083】
本実施形態に係るMG1ロック制御処理によれば、遷移速度を基準速度bから遅延速度aに変更することで、インバータ温度が低下する時間を調整し、インバータの過剰な温度上昇を抑制することが可能である。他方、遅延速度aでインバータ温度が比較的大きく下げられた上で、インバータ温度が上昇する時間(即ち、MG1回転速度を0rpm/sに制御する時間)を調整することが可能である。即ち、インバータ温度が上昇する時間を比較的長く確保すれば、モータジェネレータMG1を安定させた状態でブレーキ機構400のロック状態への切り替えを行い、該切り替えによるショックを確実に回避することが可能である。更には、インバータ温度が比較的大きく下がるように遷移速度が遅延速度aに設定されている上で、温度閾値α、エコモードの切り替え状態を調整した場合には、モータジェネレータMG1が非ロック状態にある時間を長期化することが可能である。
【0084】
従って、ハイブリッド車両10における非ロック状態からロック状態への切り替えの際に、遷移速度或いは遷移時間を変更することで、インバータの温度上昇を効率的に抑制することが可能である。
【0085】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
10…ハイブリッド車両、11…PCU、12…バッテリ、13…車速センサ、14…アクセル開度センサ、15…MG1回転速度センサ、16…MG1温度センサ、17…エコスイッチ、100…ECU、200…エンジン、300…動力分割機構、400…ブレーキ機構、1000…ハイブリッド駆動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関及び回転電機を含む動力要素と、
前記動力要素を連結する複数の回転要素からなり、前記複数の回転要素が相互に差動回転可能である差動機構と、
前記複数の回転要素のうち、前記回転電機に連結される回転要素を、回転不能なロック状態及び回転可能な非ロック状態の間で切り替え可能なロック機構と
を備えたハイブリッド車両を制御するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記非ロック状態から前記ロック状態への切り替えの際に、前記回転電機の回転速度が、値0を含む所定値以下に向けて遷移を開始する時点から前記値0を含む前記所定値以下になるまで、設定された遷移時間をかけて遷移するように、前記回転電機を制御する制御手段と、
前記設定された遷移時間を変更すべき場合であることを示す条件として予め決められた変更条件が成立した場合に、前記設定された遷移時間を変更する変更手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記変更条件として、前記設定された遷移時間を延長すべき場合であることを示す条件として予め決められた延長条件が成立した場合に、前記設定された遷移時間を延長することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記変更手段は、
前記変更条件が成立するか否かを判定する判定手段を有し、
前記判定手段により前記変更条件が成立したと判定された場合に、前記設定された遷移時間を変更する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機の温度又は前記回転電機に電力を供給するインバータの温度を特定する温度特定手段を更に備え、
前記判定手段は、前記特定された温度に基づいて、前記変更条件が成立するか否かを判定する
ことを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記内燃機関における燃費を優先するように定められた燃費優先モードの設定状態に応じて、前記変更条件が成立するか否かを判定する
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記燃費優先モードのオンオフを切り替え可能な切替手段を更に備えることを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記動力要素は、前記内燃機関及び第一の前記回転電機の他、車軸に繋がる駆動軸に連結される第二の回転電機を含んでおり、
前記複数の回転要素は、前記第一の回転電機に連結される第一の回転要素の他、前記駆動軸に連結される第二の回転要素及び前記内燃機関に連結される第三の回転要素を含む
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−102053(P2011−102053A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256967(P2009−256967)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】