説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】ツインクラッチで吸収されるエネルギーを少なくして、ツインクラッチの耐摩耗性や耐熱性を向上できるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】噛み合い式クラッチS1〜S4によるプリシフトを実施する際に、最外駆動軸15の回転数を上昇させるために必要なエネルギーを、切り替えられる第1クラッチCL1の容量制御によってエンジン側から得ると共に、それによって発生した駆動力損失分をスタータジェネレータSGを駆動することでプリシフトトルクとして補填するハイブリッド車両の制御装置であって、プリシフト完了後にイナーシャ相に移行して、前記第2クラッチCL2のクラッチ容量を減少させつつエンジンEによりスタータジェネレータSGで発電を行い、またはバッテリ7によりスタータジェネレータSGを駆動してエンジンEを駆動補助することでエンジン回転数を次段目標回転数に近づける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ツインクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータジェネレータとを組み合わせて搭載したハイブリッド車両の中には、出力軸と2つの入力軸との間に選択的に作動可能な多数のギヤ列を有する変速機を備え、第1入力軸は第1クラッチを介してエンジンに接続可能に設けられ、第2入力軸はモータジェネレータに接続可能で、かつエンジンもしくは第1入力軸に第2クラッチを介して接続可能に設けられたツインクラッチ式変速機を備えたものがある。このツインクラッチ式変速機は、変速前に次のシフトポジションの噛み合い式クラッチを締結するプリシフトを行うことで、変速時の動作を第1クラッチと第2クラッチの切り替え動作のみとすることができ、変速時の駆動力抜けに起因する違和感の低減と、変速時間の短縮を図っている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3952005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、プリシフトする際のエネルギー供給源をエンジンとすると共に、それによって不足した車両駆動に必要なエネルギーをモータにて補充することによりプリシフト時の運転者の意図しない駆動力変化を抑えることで違和感を無くしているが、クラッチトゥクラッチのみならずプリシフトの際にもクラッチスリップが伴うので、一般的なツインクラッチ式変速機よりクラッチで吸収されるエネルギーが増加してしまい、ツインクラッチの耐摩耗性や耐熱性の対策が必要となっている。
【0005】
そこで、この発明は、ツインクラッチで吸収されるエネルギーを少なくして、ツインクラッチの耐摩耗性や耐熱性を向上できるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、エンジン(例えば、実施形態におけるエンジンE)とモータジェネレータ(例えば、実施形態におけるモータジェネレータM)を車両の駆動源として備え、第1クラッチ(例えば、実施形態における第1クラッチCL1)と第2クラッチ(例えば、実施形態における第2クラッチCL2)とを切り替えることで第1ギヤ列(例えば、実施形態における2速ギヤ2G、4速ギヤ4G、6速ギヤ6G)と第2ギヤ列(例えば、実施形態における1速ギヤ1G、3速ギヤ3G、5速ギヤ5G)を切り替えて変速するツインクラッチ式変速機を備え、前記ツインクラッチ式変速機の第2クラッチの下流側に第2駆動軸(例えば、実施形態における外駆動軸13)を介してモータジェネレータを接続すると共に、第2ギヤ列を介して駆動輪(例えば、実施形態における駆動輪5)が接続され、第1クラッチの下流側に第1駆動軸(例えば、実施形態における最外駆動軸15)及び第1ギヤ列を介して駆動輪が接続され、第2クラッチから第1クラッチに切り替えるシフトチェンジをするための準備として、噛み合い式クラッチ(例えば、実施形態における噛み合い式クラッチS1〜S4)によるプリシフトを実施する際に、前記第1駆動軸の回転数を上昇させるために必要なエネルギーを、切り替えられる第1クラッチの容量制御によって前記エンジン側から得ると共に、それによって発生した駆動力損失分を前記スタータジェネレータと前記モータジェネレータの少なくともいずれか一方を駆動することでプリシフトトルクとして補填するハイブリッド車両の制御装置であって、前記プリシフトが完了した場合に、イナーシャ相に移行して、前記第2クラッチのクラッチ容量を減少させつつ前記エンジンにより前記スタータジェネレータで発電を行い、またはバッテリ(例えば、実施形態におけるバッテリ7)により前記スタータジェネレータを駆動して前記エンジンを駆動補助することでエンジン回転数を次段目標回転数に近づけることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記シフトチェンジがシフトアップであって、前記プリシフトが完了した場合に、イナーシャ相に移行して、前記エンジンにより前記スタータジェネレータで発電を行いエンジン回転数を低下させ次段目標回転数に近づけることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載した発明は、前記噛み合い式クラッチがシンクロ機能を備えていないドグクラッチを含む切り替え機構であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載した発明は、前記スタータジェネレータを用いてプリシフトトルクを補填することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載した発明は、前記イナーシャ相においてエンジン回転数が次段目標回転数エンジン回転数となるまで、前記第2クラッチのクラッチ容量を減少させつつ前記エンジンにより前記スタータジェネレータで発電を行い、またはバッテリにより前記スタータジェネレータを駆動して前記エンジンを駆動補助して、第2クラッチを解放すると共に第1クラッチを締結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載した発明によれば、プリシフト時におけるトルク変動を抑えることができ運転者に違和感を与えることがなくなる。また、イナーシャ相における第1クラッチのトルク容量を最小限に抑えつつ、応答性の良いスタータジェネレータにより速やかにエンジン回転数を次段目標回転数に近づけることにより、例えば、第1クラッチで発生する滑りによる損失を低減することができ燃費を向上できると共に、第1クラッチで吸収されるエネルギーを少なくして、耐摩耗性、耐熱性を向上することができる。
請求項2に記載した発明によれば、上記効果に加え、エンジン回転数を速やかに次段目標エンジン回転数に低下させることができ応答性が向上すると共に、スタータジェネレータにより取り込める発電電力によって燃費を向上できる。
請求項3に記載した発明によれば、シンクロ機能を備えてない切り替え機構であるため安価な装置を用いることができる。
請求項4に記載した発明によれば、エンジン出力を最も効率の良い正味燃料消費率(BSFC)としたままで、その後にエンジン出力を下げエンジン出力の変動を抑制して燃費を向上できる。
請求項5に記載した発明によれば、応答性の速いスタータジェネレータでエンジン回転数を目標とする回転数に速やかに移行することができ応答性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施形態のハイブリッド車両の全体構成図である。
【図2】シフト位置が3速である場合の図1に相当する全体構成図である。
【図3】4速にプリシフトする際の図1に相当する全体構成図である。
【図4】シフト位置が4速である場合の図1に相当する全体構成図である。
【図5】マネージメントECUによる処理を示すフローチャート図である。
【図6】タイムチャート図である。
【図7】図5の要部詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1はこの発明の第1実施形態のツインクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両を模式的に示している。このハイブリッド車両1はエンジンEとモータジェネレータMがクランクシャフトの長手方向の一方に配置され、他方に一対のクラッチからなるツインクラッチが配置されている。また、エンジンEのクランク軸にはベルト伝達装置Vを介してスタータジェネレータSGが連係されている。
【0014】
ハイブリッド車両1は、駆動源としてのエンジンEと、一対のクラッチである第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を備えたツインクラッチ式の変速機2と、ディファレンシャルギヤ4、出力軸3を介して回転駆動する駆動輪5と、変速機2に連係され駆動源及び発電機として機能するモータジェネレータMと、このモータジェネレータMに接続されるインバータ6と、インバータ6に接続され駆動源として機能するモータジェネレータMを駆動すると共に発電機として機能するモータジェネレータMの発電電力を充電するバッテリ7と、これらインバータ6とバッテリ7を含む様々な機器類を制御する制御装置としてのマネージメント(MG)ECU8を備えている。
【0015】
また、エンジンEにベルト伝達装置Vを介してスタータジェネレータSGが接続されている。スタータジェネレータSGはエンジンEを始動すると共に、シフトチェンジするに先だって噛み合い式クラッチS1〜S4によるプリシフト時、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2の切り換え後に変化するエンジン回転数に対応してエンジンEのエンジン回転数を低くしたり、高くしたりするために発電、駆動する。スタータジェネレータSGにはインバータ16が接続され、インバータ16はバッテリ7とマネージメントECU8に接続されている。ここで、噛み合い式クラッチS1〜S4としてはシンクロ機能を持たないドグクラッチを使用している。尚、ドグクラッチ以外のシンクロ機構を備えていない切り替え機構を用いてもよい。勿論、シンクロ機能を備えたクラッチを用いる事ができるのはいうまでもない。
したがって、このスタータジェネレータSGもモータジェネレータMと同様にバッテリ7の電力によりインバータ16を介してエンジンEを駆動補助すると共にエンジンEにより駆動する発電機として機能し、発電電力をインバータ16を介してバッテリ7に充電する。
【0016】
ここで、マネージメントECU8は、エンジンEを制御するエンジンECUやモータジェネレータM、スタータジェネレータSGを制御するモータECU等の複数のECU(図示せず)を統合するECUであるが、これらエンジンECUやモータECU等複数のECUの機能をマネージメントECU8自体が備えているものとして以下の説明を行う。
【0017】
変速機2はフライホイール10に接続されたエンジンEのクランクシャフトに一体の駆動軸9に第2クラッチCL2のクラッチハウジング11が接続されている。第2クラッチCL2は第1クラッチCL1とクラッチハウジング11を共用するツインクラッチである。第2クラッチCL2のクラッチ本体12は駆動軸9を回転可能に内包する外駆動軸13に接続され、外駆動軸13にはモータジェネレータMのロータMRが一体に接続されている。モータジェネレータMのステータMSにはレゾルバRが設けられている。レゾルバRからの信号はマネージメントECU8に送られる。
第1クラッチCL1のクラッチ本体14は外駆動軸13の外側に回転可能に配置された最外駆動軸15に一体に接続されている。
【0018】
第2クラッチCL2はポンプP2に作動油を供給することによりクラッチ本体12をクラッチハウジング11に接続することで、エンジンEに接続された駆動軸9の駆動力をモータジェネレータMに接続された外駆動軸13に伝達し、第1クラッチCL1はポンプP1に作動油を供給することによりエンジンEに接続された駆動軸9の駆動力を最外駆動軸15に伝達する。これらポンプP1,P2はマネージメントECU8からの指令値により駆動制御される。尚、マネージメントECU8にはアクセルペダルAPからのアクセルペダル開度信号、ステアリングハンドルに設けられたパドルシフトPSの操作信号、自動変速と手動変速の切り替えスイッチSWの信号が入力される。また、エンジン回転数計N(クランク角センサ)、駆動輪5の出力軸3に設けた回転数計5Nの回転数の信号もマネージメントECU8に送られる。
【0019】
外駆動軸13は1速ドライブギヤ20、3,5速ドライブギヤ21、7速ドライブギヤ22を同軸で一体に備えている。
第1クラッチCL1に接続された最外駆動軸15は、2速ドライブギヤ23と4,6速ドライブギヤ24を同軸で一体に備えている。
駆動軸9、外駆動軸13、最外駆動軸15と平行に、これら駆動軸9、外駆動軸13、最外駆動軸15に振り分けられように配置された2つのカウンタ軸である第1カウンタ軸31と第2カウンタ軸32が設けられている。エンジンEの駆動力及びモータジェネレータMの駆動力を第1カウンタ軸31と第2カウンタ軸32に振り分けて出力軸3に伝達する。
【0020】
第1カウンタ軸31には1速ギヤ1Gと3速ギヤ3Gとが噛み合い式クラッチS1を介して選択されて動力が伝達可能に常時噛み合うように設けられ、4速ギヤ4GとR(リバース)ギヤRGとが噛み合い式クラッチS2を介して選択され動力が伝達可能に常時噛み合うように設けられている。
第2カウンタ軸32には5速ギヤ5Gと7速ギヤ7Gとが噛み合い式クラッチS3を介して選択され動力が伝達可能に常時噛み合うように設けられ、2速ギヤ2Gと6速ギヤ6Gとが噛み合い式クラッチS4を介して選択され動力が伝達可能に常時噛み合うように設けられている。
【0021】
1速ギヤ1Gは1速ドライブギヤ20に噛合し、3速ギヤ3G、5速ギヤ5Gは3,5速ドライブギヤ21に噛合している。2速ギヤ2Gは2速ドライブギヤ23に噛合し、4速ギヤ4G、6速ギヤ6Gは4,6速ドライブギヤ24に噛合している。RギヤRGは図示しないギヤ及びディファレンシャルギヤ4を介して出力軸3に連係している。
第1カウンタ軸31は第1カウンタギヤ25を第2カウンタ軸32は第2カウンタギヤ26を各々同軸で備え、これら第1カウンタギヤ25、第2カウンタギヤ26がディファレンシャルギヤ4を介して出力軸3に連係している。
【0022】
次に、図2〜図4に基づいて、車両がスイッチSWにより自動変速に設定されている場合に、図2に示す3速走行から図3に示すようにプリシフトを行った後に図4に示す4速走行にシフトアップする状況を説明する。尚、図中太線で描いているのは、駆動力が伝達されている要素、及び空転している要素を示す。
【0023】
図2に示す3速走行状態では、噛み合い式クラッチS1は3速側にあり、第1クラッチCL1は解放状態、第2クラッチCL2は締結状態にあるため、エンジンEとモータジェネレータMは直結状態となり、エンジンEの駆動力とモータジェネレータMの駆動力の総和は3,5速ドライブギヤ21から3速ギヤ3G、第1カウンタ軸31、第1カウンタギヤ25、ディファレンシャルギヤ4を経て出力軸3から駆動輪5に伝達される。ここで、第2カウンタ軸32は出力軸3からの回転に伴って第2カウンタギヤ26を介して回転しているだけである。尚、1速ドライブギヤ20を介して1速ギヤ1Gが、3,5速ドライブギヤ21を介して5速ギヤ5Gが、7速ドライブギヤ22を介して7速ギヤ7Gが空転している。
【0024】
図2に示す状態から、4速走行への変速を行うのに先だってプリシフトが行われる。つまり、図3に示すように、先ず第1クラッチCL1が低い締結力で接続され、その後噛み合い式クラッチS1が3速側にある状態のままで、噛み合い式クラッチS2を4速側に切り替えてプリシフトを完了する。ここで、第1クラッチCL1を締結する際に第1クラッチCL1、つまり最外駆動軸15の回転数を上昇させるために必要なエネルギーは第1クラッチCL1の容量制御によってエンジンEから得るが、これによって発生した駆動力損失分をスタータジェネレータSG(またはモータジェネレータM、あるいはスタータジェネレータSGとモータジェネレータMの双方でもよい)を駆動することにより補填する。噛み合い式クラッチS2を4速に噛み合わせる際にもこれが負荷となるため、この分もスタータジェネレータSGやモータジェネレータMにより補填する。
【0025】
また、噛み合い式クラッチS2を噛み合わせる位置は、第2クラッチCL2に接続されたモータジェネレータMのレゾルバRによって回転位置を見ながら噛み合わせる。
したがって、噛み合い式クラッチS2が4速側に切り替わると4速ギヤ4Gが第1カウンタ軸31と共に回転を開始し、4,6速ドライブギヤ24を介して最外駆動軸15が回転する。
【0026】
次に、締結状態にある第2クラッチCL2のクラッチ容量を減少させ、第1クラッチCL1のクラッチ容量を一定に維持する。ここで、エンジン回転数をシフトアップ後の4速走行における目標値に低下させる必要があるが、エンジンEによりスタータジェネレータSGで発電を行い、発電電力をバッテリ7に蓄電したりモータジェネレータMの駆動に使用することによりエンジン回転数を徐々に低下させる。
【0027】
次に、図4に示すように、第2クラッチCL2、噛み合い式クラッチS1が既に解放され、第1クラッチCL1が締結状態に切り替わることで速への変速が終了する。
この4速走行状態では、噛み合い式クラッチS2は4速側にあり、第1クラッチCL1は締結状態、第2クラッチCL2は解放状態にあるため、モータジェネレータMからの駆動力は遮断され、エンジンE及びスタータジェネレータSGからの駆動力のみが最外駆動軸15に伝達され、4,6速ドライブギヤ24から2速ギヤ4G、第1カウンタ軸31、第1カウンタギヤ25、ディファレンシャルギヤ4、出力軸3を経て駆動輪5に伝達される。
ここで、4速ギヤ4Gと共に4,6速ドライブギヤ24に噛合する6速ギヤ6G、2速ドライブギヤ23及び2速ギヤ2Gが回転しており、6速ギヤ6G、2速ギヤ2Gは第2カウンタ軸32上で空転している。
【0028】
図5は3速走行から4速走行にシフトアップする場合のマネージメントECU8によって行われる処理を示すフローチャート図である。
ステップS1において、4速にプリシフトするに際して、第1クラッチCL1をプリシフト開始と同時に低い締結力で接とするため、この第1クラッチCL1、つまり最外駆動軸15の回転数を上昇させるために必要なエネルギーがエンジンEの駆動力から奪われる。そのため何ら対策をしないと運転者に違和感を感じさせるので、奪われる分のエネルギーを補填する必要がある。この駆動力補填のためのエネルギーを算出してステップS2に進む。
【0029】
ステップS2において、ステップS1で算出したエネルギーに対応してスタータジェネレータSGをバッテリ7により駆動すると共に第1クラッチCL1をプリシフト開始と同時に低締結力で接続する。スタータジェネレータSGを駆動することによりエンジンEへの駆動力の補填を行ってステップS3に進む。ここで、スタータジェネレータSGによりエンジンの駆動力の補填(プリシフトトルクの補填)を行う場合には、エンジンEが最も効率の良い正味燃料消費率(BSFC)で運転したままスタータジェネレータSGを駆動することでスタータジェネレータSGによってプリシフトトルクを発生させる。尚、スタータジェネレータSGに換えてモータジェネレータMによりあるいはスタータジェネレータSGとモータジェネレータMによりエンジンへの駆動力補填を行うことも可能である。
【0030】
ステップS3では噛み合い式クラッチS2を4速側に切り換える。噛み合い式クラッチS2の切り替えはモータジェネレータMのロータの位置をレゾルバRで検出しながら行う。ステップS4で噛み合い式クラッチS2の締結(プリシフト)が完了したか否かを判定する。ステップS4でプリシフトが完了していない場合には、ステップS3に戻る。ステップS4においてプリシフトが完了したと判定されたら、ステップS5に進む。
【0031】
ステップS5においてはエンジンEによりスタータジェネレータSGを駆動して発電を行いエンジン回転数を減少させる。これと同時に第2クラッチCL2は解放側へ、第1クラッチCL1はステップS2の低締結力を維持する。スタータジェネレータSGの発電により得られた電力はインバータ16を介してバッテリ7に充電されるか、あるいはモータジェネレータM駆動用の電力として使用される。つまり、スタータジェネレータSGにより発電することにより、スタータジェネレータSGによって減少する分だけエンジンEから第1クラッチCL1にかかるトルクを減少させることができ、エンジントルクがそのまま第1クラッチCL1にかかっていた場合のように第1クラッチCL1が滑りを生ずるのを防止できる。
【0032】
次に、ステップS6においてエンジン回転数が4速の目標回転数に一致したか(あるいは所定範囲内になった)か否かを判定する。ステップS5において、モータジェネレータSGで発電を行うことで、エンジンEの駆動力が持ち出される分だけ、エンジン回転数が低下してゆき、4速における目標回転数に一致(あるいは所定範囲内になった)したタイミングで第1クラッチCL1を締結するためである。ステップS6において、エンジン回転数が4速の目標回転数まで低下していない場合にはステップS5に進む。
【0033】
ステップS6においてエンジン回転数が4速の目標回転数に一致した(所定範囲内になった)と判定された場合には、ステップS7において第1クラッチCL1のクラッチ容量を一定量増加し、ステップS8において最終的に第1クラッチCL1を締結力上限値で締結する。尚、3速の噛み合い式クラッチS1を解放するタイミングはステップS5からステップS7の間とする。
【0034】
図6は3速走行から4速走行へとシフトアップする際のタイムチャートを示している。
時刻t0において、アクセルペダルを踏み込んでいるためエンジンの回転数は徐々に高くなり4速へのシフトアップに備えている。また、3速走行では第2クラッチCL2が締結力上限値で締結、第1クラッチCL1は解放となっているため、エンジンEと直結しているモータジェネレータMの回転数もエンジン回転数と同様となっている。4速側の噛み合い式クラッチS2は解放されている。
【0035】
この状態で、時刻t1でプリシフトが開始されると、第1クラッチCL1が低い締結力で接となる。この第1クラッチCL1の動作で、今まで回転数がゼロであった最外駆動軸15の回転数が立ち上がるため、これに必要なエネルギーがエンジンEの駆動力から奪われる。よって、その奪われる分だけ、エンジンEの駆動力を補填する必要からスタータジェネレータSGをバッテリ7により駆動している。そのため、スタータジェネレータSGがプラストルクを示している。このスタータジェネレータSGの駆動はイナーシャ相の開始タイミングである時刻t2まで続く。また、時刻t2の手前で噛み合い式クラッチS2が動作をはじめ、時刻t2において締結される。車両駆動軸トルクは時刻t1でスタータジェネレータSGにより補正を行っている分だけやや下がる。
【0036】
時刻t2〜時刻t3はイナーシャ相、時刻t3〜時刻t4はトルク相を示している。ここで、イナーシャ相とは、プリシフト完了後に第1クラッチCL1が接状態となっているが、未だエンジンEの出力が駆動輪6に伝達されていない状況を示し、トルク相とはエンジンEの出力が駆動輪5に伝わっている状況を示す。
【0037】
時刻t2〜時刻t3のイナーシャ相では第2クラッチCL2の締結力を徐々に下げて時刻t3で第2クラッチCL2を解放する。第1クラッチCL1では、プリシフト開始と共に設定した低い締結力を維持する。エンジン回転数は徐々に下がり後に最外駆動軸15の回転数に一致する。一方、第1クラッチCL1の回転数、つまり最外駆動軸15の回転数は徐々に上がる。エンジントルクは低下する。そのため、エンジントルクが低下した分だけショックを無くすためにモータジェネレータMのトルクを上げている。
車両駆動軸トルクは時刻t2においては第2クラッチCL2の締結力が下がるため、やや低下する。
【0038】
ここで、エンジン回転数は3速よりも4速の方が低いため、4速の目標エンジン回転数に合わせて低下させなければならないため、エンジンEでスタータジェネレータSGにより発電を行う。この発電電力はバッテリ7に蓄電するか、そのまま、モータジェネレータMの駆動に用いられる。ここで、エンジン回転数を低下させるために必要な次段の第1クラッチCL1のクラッチトルクを決定する際に、スタータジェネレータSGにて発電可能なトルクを考慮し、その分の第1クラッチCL1のトルクを減少させることができる。
【0039】
トルク相では、エンジン回転数は最外駆動軸15の回転と一致して再び上昇し、これに伴いエンジンEのトルクは上昇する。一方、モータジェネレータMのトルクは減している。このとき、第1クラッチCL1の締結力は階段状に高くなり時刻t4で締結力上限値に到達する。この時刻t4でモータジェネレータMのトルクは当初の値に低下する。
車両駆動軸トルクは時刻t2〜t3でスタータジェネレータSGにより補正を行っている分だけやや下がり、t3〜t4で定常状態になり最終的に4速走行へのシフトアップ後の時刻t4以降では時刻t0の際の駆動軸トルクよりも低いトルクとなる。
【0040】
上記実施形態によれば、3速から4速にシフトアップするためにプリシフトする場合には、先ず第1クラッチCL1を低い締結力で締結する。この第1クラッチCL1、つまり最外駆動軸15の回転数を上昇させるために必要なエネルギーは第1クラッチCL1の容量制御によってエンジンEから得るが、これによって発生したエンジンの駆動力損失分をスタータジェネレータSGを駆動することにより補填するため、トルク変動を抑えることができ運転者に違和感を与えることがなくなる。また、噛み合い式クラッチS2を4速側に切り換える際のトルク変動もなくすことができる。
【0041】
また、プリシフト終了後にイナーシャ相に移行した際には、図7に示すように、エンジン回転数NEが4速の目標回転数に低下する必要があるが、エンジンEにより応答性の良いスタータジェネレータSGで発電を行うことでエンジン回転数を速やかに低下させることができる。よって、ハッチングで示す部分(上縁を鎖線で示す)の第1クラッチCL1のトルクをその分だけ少なくすることができ、クラッチトルクを減少させることができる分だけ第1クラッチCL1の滑りを抑制し、滑りによる損失を低減して燃費を向上できる。尚、図7中第1クラッチCL1のクラッチトルクは実線で示し、第2クラッチCL2のクラッチトルクは破線で示す。
【0042】
ここで、エンジン回転数NEを低下させるために必要な第1クラッチCL1のクラッチトルクを決定する際には、スタータジェネレータSGにて発電可能なトルクを考慮し、その分の第1クラッチCL1のトルクを減少させればよい。
また、滑りによる損失を少なくできるので、第1クラッチの耐摩耗性、耐熱性を高めることができる。
【0043】
したがって、イナーシャ相においてエンジントルクが変動しても、スタータジェネレータSGによって発電を行うことで、エンジン出力を最も効率の良い正味燃料消費率(BSFC)として燃費を向上できる。また、スタータジェネレータSGによって発電電力を得られるため燃費向上を図ることができる。
【0044】
そして、モータジェネレータMのレゾルバRを用いて噛み合い位置を設定できるため、噛み合い式クラッチS1〜S4としてシンクロ機能を備えていないドグクラッチを用いることができるので、安価な装置とすることができる。
そして、プリシフト時においてスタータジェネレータSGによってプリシフトトルクを付与するため、エンジン出力を最も効率の良い正味燃料消費率(BSFC)とした状態を維持でき、燃費を向上することができる。
【0045】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、3速から4速にシフトアップする場合を例にして説明したが、他の奇数段から偶数段にシフトアップする他の場合に同様に適用できる。また、奇数段から偶数段にシフトダウンする場合、例えば3速から2速にシフトダウンを行う場合にも適用できる。この場合には、バッテリ7の電力を用いてスタータジェネレータSGを用いてエンジンEを駆動補助することにより、2速になった場合の目標回転数にエンジン回転数を合わせることができるため、この点でもエンジンEを最も効率の良い正味燃料消費率(BSFC)で運転しつつ、不足分をスタータジェネレータSGにより補填してエンジン回転数を上げることができる。
【符号の説明】
【0046】
E エンジン
M モータジェネレータ
CL1 第1クラッチ
CL2 第2クラッチ
2G,4G,6G 第1ギヤ列
1G,3G,5G 第2ギヤ列
13 外駆動軸(第2駆動軸)
5 駆動輪
15 最外駆動軸(第1駆動軸)
S1〜S4 噛み合い式クラッチ
7 バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータジェネレータを車両の駆動源として備え、第1クラッチと第2クラッチとを切り替えることで第1ギヤ列と第2ギヤ列を切り替えて変速するツインクラッチ式変速機を備え、前記ツインクラッチ式変速機の第2クラッチの下流側に第2駆動軸を介してモータジェネレータを接続すると共に、第2ギヤ列を介して駆動輪が接続され、第1クラッチの下流側に第1駆動軸及び第1ギヤ列を介して駆動輪が接続され、第2クラッチから第1クラッチに切り替えるシフトチェンジをするための準備として、噛み合い式クラッチによるプリシフトを実施する際に、前記第1駆動軸の回転数を上昇させるために必要なエネルギーを、切り替えられる第1クラッチの容量制御によって前記エンジン側から得ると共に、それによって発生した駆動力損失分を前記スタータジェネレータと前記モータジェネレータの少なくともいずれか一方を駆動することでプリシフトトルクとして補填するハイブリッド車両の制御装置であって、前記プリシフトが完了した場合に、イナーシャ相に移行して、前記第2クラッチのクラッチ容量を減少させつつ前記エンジンにより前記スタータジェネレータで発電を行い、またはバッテリにより前記スタータジェネレータを駆動して前記エンジンを駆動補助することでエンジン回転数を次段目標回転数に近づけることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記シフトチェンジがシフトアップであって、前記プリシフトが完了した場合に、イナーシャ相に移行して、前記エンジンにより前記スタータジェネレータで発電を行いエンジン回転数を低下させ次段目標回転数に近づけることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記噛み合い式クラッチがシンクロ機能を備えていないドグクラッチを含む切り換え機構であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記スタータジェネレータを用いてプリシフトトルクを補填することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記イナーシャ相においてエンジン回転数が次段目標回転数エンジン回転数となるまで、前記第2クラッチのクラッチ容量を減少させつつ前記エンジンにより前記スタータジェネレータで発電を行い、またはバッテリにより前記スタータジェネレータを駆動して前記エンジンを駆動補助して、第2クラッチを解放すると共に第1クラッチを締結することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−207254(P2011−207254A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74285(P2010−74285)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】