ハイブリッド車両の制御装置
【課題】 コースト走行時に安定した減速を達成可能なハイブリッド車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】 エンジンとモータジェネレータとからなる動力源と、動力源と駆動輪との間に介装され、複数の変速段を達成すると共に、1速をワンウェイクラッチの係合により達成する自動変速機と、自動変速機を変速する変速手段と、コースト走行中の減速の時は、動力源により負トルクである目標コーストトルクを発生させ、変速手段により1速へのダウンシフトが終了する前に、目標コーストトルクを0または正トルクとするコーストトルク制御手段と、を備えた。
【解決手段】 エンジンとモータジェネレータとからなる動力源と、動力源と駆動輪との間に介装され、複数の変速段を達成すると共に、1速をワンウェイクラッチの係合により達成する自動変速機と、自動変速機を変速する変速手段と、コースト走行中の減速の時は、動力源により負トルクである目標コーストトルクを発生させ、変速手段により1速へのダウンシフトが終了する前に、目標コーストトルクを0または正トルクとするコーストトルク制御手段と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としてエンジン及び電動機を備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の制御装置として、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報には、コースト走行時に車速等に応じて設定された目標コーストトルクをエンジン及びモータジェネレータにより発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−35188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、モータジェネレータを動力源とした有段式の自動変速機において、一般に1速を達成する摩擦締結要素の1つとしてワンウェイクラッチを用いている。仮にコースト走行状態で1速にダウンシフトすると、ワンウェイクラッチを係合することができず、動力源側に駆動輪からのトルクを伝達することができないため、エンジン回転数が低下し、エンストするおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、コースト走行時に安定した減速を達成可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の制御装置では、エンジンとモータジェネレータとからなる動力源と、動力源と駆動輪との間に介装され、複数の変速段を達成すると共に、1速をワンウェイクラッチの係合により達成する自動変速機と、自動変速機を変速する変速手段と、コースト走行中の減速の時は、動力源により負トルクである目標コーストトルクを発生させ、変速手段により1速へのダウンシフトが終了する前に、目標コーストトルクを0又は正トルクとするコーストトルク制御手段と、を備えた。
【発明の効果】
【0007】
よって、1速へのダウンシフトが終了する前に自動変速機の動力源を0又は正トルクとすることで、ワンウェイクラッチが係合しない場合でもエンストを回避することができ、安定した減速を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の後輪駆動のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラにおける演算処理プログラムを示す制御ブロック図である。
【図3】図2の目標駆動力演算部にて目標駆動力演算に用いられる目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図4】図2のモード選択部にてモードマップと推定勾配との関係を表す図である。
【図5】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられる通常モードマップを示す図である。
【図6】実施例1の通常時変速マップである。
【図7】実施例1のMレンジ時変速マップである。
【図8】実施例1のDレンジ選択時における目標コーストトルクマップである。
【図9】実施例1のMレンジ選択時における目標コーストトルクマップである。
【図10】実施例1のMレンジ用の各ギヤ段係数を表す図である。
【図11】実施例1のコースト回生制動力制御処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0011】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0014】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。この自動変速機ATは、運転者が操作するシフトレバーの操作により、Dレンジ、ニュートラルレンジ、Rレンジ等を選択可能であり、更にDレンジに加えて、運転者が選択する変速段のみを達成するMレンジ(マニュアルレンジ)が選択可能に構成されている。Dレンジが選択されているときは、車速とアクセルペダル開度に応じて最適な変速段を選択し、自動的に変速する。Mレンジが選択されているときは、運転者のシフトレバー操作に応じた変速段となるように変速する。
【0015】
自動変速機ATは、前進1速を達成するにあたり、Dレンジを選択しているときにはワンウェイクラッチを係合要素の1つとして達成し、Mモードが選択されているときにはワンウェイクラッチに代えて摩擦締結要素を係合要素の1つとして達成する。すなわち、Dレンジが選択されている場合、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGから駆動輪に向けてトルクが伝達されるとき(すなわち、ドライブ状態)にはワンウェイクラッチが係合して前進1速を達成し、駆動輪からエンジンE及び/又はモータジェネレータMGに向けてトルクが伝達されるとき(すなわち、コースト状態)にはワンウェイクラッチが解放されるため、コーストトルクが作用しない構成とされている。一方、Mレンジが選択されている場合、ドライブ状態及びコースト状態のいずれであっても摩擦締結要素が解放されないため、常時、コーストトルクが作用する構成とされている。そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルギヤDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0016】
ブレーキユニット900は、液圧ポンプと、複数の電磁弁を備え、要求制動トルクに相当する液圧をポンプ増圧により確保し、各輪の電磁弁の開閉制御によりホイルシリンダ圧を制御する所謂ブレーキバイワイヤ制御を可能に構成されている。各輪FR,FL,RR,RLには、ブレーキロータ901とキャリパ902が備えられ、ブレーキユニット900から供給されるブレーキ液圧により摩擦制動トルクを発生させる。尚、液圧源としてアキュムレータ等を備えたタイプでもよいし、液圧ブレーキに代えて電動キャリパを備えた構成でもよい。
【0017】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0018】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
【0019】
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0020】
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0021】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0022】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。更に詳細なエンジン制御内容については後述する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0024】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0025】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0026】
また、ATコントローラ7内には、Dレンジが選択されている場合、アクセル開度と車速に応じて変速段を決定するノーマル変速線を有する通常時変速マップと、Mレンジが選択されている場合、エンジン等の保護の観点から強制的に変速するMレンジ変速線を有するMレンジ時変速マップとを有する。図6は実施例1の通常時変速マップである。図6中、実線で示すラインがアップシフト変速線であり、各変速段の間に設定されている。また、図6中、点線で示すラインがノーマル用のダウンシフト変速線であり、各変速段の間に設定されている。また、ノーマル用のダウンシフト変速線には、一点鎖線で示すコールド変速線が設定されている。コールド変速線とは、減速度に応じて変速線を高車速側にオフセットしたものである。
【0027】
すなわち、変速指令が出力されても、実際の変速動作はある程度の時間を要する。特に、コースト減速時には、変速動作が遅れると、エンジン回転数が過度に低下してしまい、エンジンストール等の原因となりやすい。そこで、コースト走行状態における減速度が大きいときには、減速度が小さいときよりも高車速側にてダウンシフト指令を出力することで、エンジン回転数の過度の低下を抑制する。尚、エンジン停止が許可されている場合には、エンジン回転数の低下を回避する必要はないことから、この場合には、通常のダウンシフト変速線に従ってダウンシフト指令を出力する。
【0028】
図7は実施例1のMレンジ時変速マップである。図7中、実線で示すラインが強制的にアップシフトを行う強制アップシフト線、図7中、点線で示すラインが強制的にダウンシフトを行う強制ダウンシフト線である。基本的に、Mレンジのときは、運転者の選択した変速段を優先するが、エンジン過回転の防止や、低回転・低トルクによるエンジンストールを回避する観点から強制的に変速を行うものである。
【0029】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められるドライバ要求制動トルクを満足する制動力を回生制動力及び摩擦制動力により達成するように協調回生制御する。尚、ドライバ要求制動トルクに応じたブレーキ液圧に限らず、他の制御要求により任意にブレーキ液圧を発生可能なのは言うまでもない。
【0030】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0031】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0032】
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0033】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)を演算する。また、目標駆動力演算部100内には、アクセルペダル開度APOがゼロ(すなわち、運転者に加速意図が無い)のときにブレーキペダル操作(運転者の制動要求)に関わらずエンジンブレーキ力に相当する目標コーストトルクを演算し、回生制動力を含めて制動力を駆動輪に付与するコースト回生制御部101を有する。
【0034】
ここで、コースト回生制御部101は、駆動輪に伝達される制動トルクが通常のエンジン車両において発生するエンジンフリクション相当を目標コーストトルクとして演算するものであり、第1クラッチCL1が締結しているときには、実際のエンジンフリクションを考慮した値に設定され、第1クラッチCL1が解放しているときには、エンジンフリクション分を模擬する形でモータジェネレータMGにより達成する。
【0035】
図8は実施例1のDレンジ選択時における目標コーストトルクマップである。エンジン作動の停止が許可されている状況では、エンジン回転数の低下を回避する必要がないため、この場合には、ノーマル用のダウンシフト線に沿ってダウンシフト指令が出力される。よって、少なくとも2速時には所定の目標コーストトルクを設定し、ノーマル用ダウンシフト線の2−1ダウンシフト線が設定されたノーマル変速21ダウン車速よりも高めのコーストトルク減少開始車速から徐々に目標コーストトルクを小さくしていき、ノーマル変速21ダウン車速に到達するときにコーストトルクが0となるように設定されている。その後は、1速に変速が成されたとしても、目標コーストトルクが正の値、すなわちクリープトルクが設定される。
【0036】
また、エンジン作動の停止が許可されていない状況では、エンジン回転数の低下を回避する必要があるため、この場合には、コールド変速線に沿ってダウンシフト指令が出力される。よって、少なくとも2速時には所定の目標コーストトルクを設定し、コールド変速線の2−1ダウンシフト線が設定されたコールド変速21ダウン車速よりも高めのコーストトルク減少開始車速から徐々に目標コーストトルクを小さくしていき、コールド変速21ダウン車速に到達するときにコーストトルクが0となるように設定されている。言い換えると、ノーマル変速21ダウン車速よりも所定車速だけ高いコールド変速21ダウン車速に到達するまでにコーストトルクが0となるように設定される。それ以後は、目標コーストトルクが正の値として出力(クリープトルクが出力)されるため、ワンウェイクラッチを係合することができ、エンジン回転数の過度な低下を抑制することができる。
【0037】
図9は実施例1のMレンジ選択時における目標コーストトルクマップである。この場合には、エンジン作動の停止の許可等にかかわらず、図9に示すように各変速段に応じて設定された目標コーストトルクが設定される。この目標コーストトルクは、Mレンジ時変速マップにおいて設定された強制21ダウン変速車速よりも高い所定車速において目標コーストトルクが0となるように設定されており、コーストトルク減少開始車速から所定の勾配でコーストトルクを減少するように設定されている。そして、強制的に2−1ダウン変速が行われた以後は、クリープトルクを出力するように設定されている。他の変速段においては、この5速の目標コーストトルクを基準とした目標コーストトルクが設定されている。図10は実施例1のMレンジ用の各ギヤ段係数を表す図である。5速において設定される目標コーストトルクをベーストルクとして1に規格化し、各変速段には、5速における目標コーストトルクにギヤ比に応じた係数を掛けた値を目標コーストトルクとして設定する。
【0038】
尚、目標コーストトルクが現時点で生じる実際のエンジンフリクションよりも小さい場合には、モータジェネレータMGに回生トルクではなく駆動トルクを出力し、これにより目標コーストトルクを達成するようにすればよい。これにより、目標コーストトルクを精度良く実現することができる。
【0039】
モード選択部200は、モードマップを有する。図4は実施例1のモードマップである。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0040】
図4のモードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。尚、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように構成されている。
【0041】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が図4に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
【0042】
目標充放電演算部300では、図5に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線(MWSCON線)がSOC=50%に設定され、EVOFF線(MWSCOFF線)がSOC=35%に設定されている。
【0043】
SOC≧50%のときは、図4のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。尚、EV走行モード領域を、バッテリSOCが高いときは広く設定し、バッテリSOCが低いときは狭く設定するようにしてもよい。この場合、バッテリSOCが低いときは、車速が高まるほどEV走行モード領域が狭くなるように設定し、バッテリに過度の負担をかけないようにすることが好ましい。
【0044】
SOC<35%のときは、図4のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0045】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)と、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。
【0046】
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。
【0047】
(コースト回生制動力制御処理)
次に、実施例1のコースト回生制動力制御処理について説明する。図11は実施例1のコースト回生制動力制御処理を表すフローチャートである。この処理は、コースト回生制御部101において行われるものである。
ステップS1では、Mレンジが選択されているか否かを判断し、Mレンジが選択されているときはステップS2に進み、Dレンジが選択されているときはステップS4に進む。
ステップS2では、Mレンジ用変速線が設定されたMレンジ時変速マップを選択する。
ステップS3では、Mレンジ用目標コーストトルクを選択する。
【0048】
ステップS4では、エンジン停止禁止条件が成立しているか否かを判断し、条件成立、すなわちエンジン停止が禁止されているときはステップS5に進み、条件不成立、すなわちエンジン停止が禁止されていない(許可されている)ときはステップS7に進む。尚、エンジン停止禁止条件とは、通常のモードマップにおいてEV走行モードが設定されている領域にあるときにはエンジンを停止しても差し支えない。一方、バッテリSOCが低い場合や、エンジン水温が低くエンジン再始動時に適正な始動を行うことが困難な場合には、EV走行モードが許可されず、エンジン停止が禁止されているモード、すなわちHEV走行モードもしくはWSC走行モードが選択されることを意味する。
【0049】
ステップS5では、通常時変速マップのうちコールド変速線に基づいた変速線を選択する。
ステップS6では、コールド用目標コーストトルクを選択する。
ステップS7では、通常時変速マップのうちノーマル変速線に基づいた変速線を選択する。
ステップS8では、ノーマル用目標コーストトルクを選択する。
【0050】
次に、上記制御フローに基づく作用について説明する。尚、以下の作用はいずれもコースト状態により減速している走行状態であり、最終的に1速へのダウンシフトが行われる。
1)Dレンジ選択時における作用
(EV走行モードへの遷移禁止時における作用)
エンジン水温が低い場合や、バッテリSOCが低下している場合には、EV走行モードへの遷移が禁止されるため、エンジンEを停止することができず、HEV走行モードもしくはWSC走行モードが選択される。このとき、エンストを回避する観点からコールド用の目標コーストトルク(図8の点線参照)が選択され、早めにコーストトルクが小さくされる。そして、2速から1速へのダウンシフトが終了するときには、確実に正トルク(すなわち、クリープトルク)を出力しているため、エンストを回避することができる。
【0051】
(EV走行モードへの遷移禁止時における作用)
エンジン水温が適正であり、バッテリSOCについても問題ない場合には、EV走行モードへの遷移が許可されるため、エンジンEを停止することができる。この場合には、極力モータジェネレータMGによる回生トルクを発生させることが燃費の観点からも望ましい。そこで、この場合には、ノーマル用の目標コーストトルク(図8の実線参照)が選択され、変速開始ギリギリまでコーストトルクを発生させる。これにより、燃費を改善することができる。
【0052】
2)Mレンジ選択時における作用
Mレンジを選択しているときは、運転者が選択した変速段に応じた目標コーストトルクが選択される(図9参照)。このとき、Mレンジを選択しているときの1速は、ワンウェイクラッチの作用がなく、大きな減速度を発生するおそれがある。そこで、目標コーストトルクを設定するにあたり、Mレンジ用21ダウン車速よりも高いコーストトルク減少開始車速から、所定車速に向けてコーストトルクを徐々に小さくするように設定される。これにより、どの変速段から強制的に1速へのダウンシフトが行われたとしても、急激に減速度が変化することがなく、変速ショックを抑制することができる。
【0053】
以上説明したように、実施例1のハイブリッド車両にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
【0054】
(1)エンジンEとモータジェネレータMGとからなる動力源と、この動力源と駆動輪との間に介装され、複数の変速段を達成すると共に、1速をワンウェイクラッチの係合により達成する自動変速機ATと、自動変速機ATを変速するATコントローラ7(変速手段)と、コースト走行中の減速のときは、動力源により負トルクである目標コーストトルクを発生させ、ATコントローラ7により1速へのダウンシフトが終了する前であるノーマル変速21ダウン車速もしくはコールド変速21ダウン変速(第1車速)のときに、目標コーストトルクを0または正トルクとするコースト回生制御部101(コーストトルク制御手段)と、を備えた。
【0055】
よって、1速へのダウンシフトが終了する前に自動変速機の動力源を正トルクとすることで、ワンウェイクラッチが係合しない場合でもエンストを回避することができ、安定した減速を達成することができる。
【0056】
(2)エンジンEとモータジェネレータMGとの間を断接する第1クラッチCL1と、エンジンEとモータジェネレータMGを動力源として走行するHEV走行モードもしくはWSC走行モード(エンジン使用走行モード)と、第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMGを動力源として走行するEV走行モード(モータ走行モード)と、を有し、コースト回生制御部101は、コールド変速21ダウン車速(エンジン使用走行モードにおける第1車速)よりも、ノーマル変速21ダウン車速(モータ走行モードによる第1車速)を低く設定する。
【0057】
よって、EV走行モードが選択可能とされておりエンジンを停止する場合には、エンストを回避する必要がなく、この場合には積極的に回生トルクを発生させることで燃費を改善することができる。
【0058】
(3)ATコントローラ7は、運転者のシフトレバー操作により選択された変速段に変速すると共に強制21ダウン変速車速(所定車速)に到達したときは強制的に1速に変速するマニュアルレンジを有し、コースト回生制御部101は、運転者のシフトレバー操作により選択された変速段に応じた目標コーストトルクを発生させると共に、強制21ダウン変速車速よりも高車速側所定車速に到達するまでに目標コーストトルクがゼロとなるように制御する。
【0059】
よって、1速に変速する前に確実に目標コーストトルクを負トルクから回避することができ、2速から1速へのダウンシフト時における変速ショックを回避することができる。また、実際の変速指令と変速完了までのタイムラグが問題となる場合であっても、事前に目標コーストトルクを小さくすることができ、安定したダウンシフトを達成できる。また、マニュアルレンジでは、一般に大きなコーストトルクが設定されるため、ある程度の勾配を設定してコーストトルクを小さくする必要がある。そこで、変速段に応じて目標コーストトルクを設定し、適切な減速度勾配を設定することで、減速度の抜け感を抑制でき、運転性の向上を図ることができる。
【0060】
(4)変速段に応じた目標コーストトルクは、任意の高速段の目標コーストトルクを基準として変速段毎に設定した係数を負トルクにのみ掛けた値である。よって、変速段に応じたコーストトルクを発生させることができ、運転者の意図に応じた運転状態を達成することができる。
【0061】
以上、本発明を実施例1に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であってもよい。例えば、実施例1では、ハイブリッド車両に適用したが、駆動源としてモータを備えた車両であれば、電気自動車であっても同様に適用可能である。
【0062】
また、実施例1では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
【符号の説明】
【0063】
E エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 ATコントローラ
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
24 ブレーキ油圧センサ
100 目標駆動力演算部
200 モード選択部
300 目標充放電演算部
400 動作点指令部
500 変速制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としてエンジン及び電動機を備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の制御装置として、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報には、コースト走行時に車速等に応じて設定された目標コーストトルクをエンジン及びモータジェネレータにより発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−35188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、モータジェネレータを動力源とした有段式の自動変速機において、一般に1速を達成する摩擦締結要素の1つとしてワンウェイクラッチを用いている。仮にコースト走行状態で1速にダウンシフトすると、ワンウェイクラッチを係合することができず、動力源側に駆動輪からのトルクを伝達することができないため、エンジン回転数が低下し、エンストするおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、コースト走行時に安定した減速を達成可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の制御装置では、エンジンとモータジェネレータとからなる動力源と、動力源と駆動輪との間に介装され、複数の変速段を達成すると共に、1速をワンウェイクラッチの係合により達成する自動変速機と、自動変速機を変速する変速手段と、コースト走行中の減速の時は、動力源により負トルクである目標コーストトルクを発生させ、変速手段により1速へのダウンシフトが終了する前に、目標コーストトルクを0又は正トルクとするコーストトルク制御手段と、を備えた。
【発明の効果】
【0007】
よって、1速へのダウンシフトが終了する前に自動変速機の動力源を0又は正トルクとすることで、ワンウェイクラッチが係合しない場合でもエンストを回避することができ、安定した減速を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の後輪駆動のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラにおける演算処理プログラムを示す制御ブロック図である。
【図3】図2の目標駆動力演算部にて目標駆動力演算に用いられる目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図4】図2のモード選択部にてモードマップと推定勾配との関係を表す図である。
【図5】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられる通常モードマップを示す図である。
【図6】実施例1の通常時変速マップである。
【図7】実施例1のMレンジ時変速マップである。
【図8】実施例1のDレンジ選択時における目標コーストトルクマップである。
【図9】実施例1のMレンジ選択時における目標コーストトルクマップである。
【図10】実施例1のMレンジ用の各ギヤ段係数を表す図である。
【図11】実施例1のコースト回生制動力制御処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0011】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0014】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。この自動変速機ATは、運転者が操作するシフトレバーの操作により、Dレンジ、ニュートラルレンジ、Rレンジ等を選択可能であり、更にDレンジに加えて、運転者が選択する変速段のみを達成するMレンジ(マニュアルレンジ)が選択可能に構成されている。Dレンジが選択されているときは、車速とアクセルペダル開度に応じて最適な変速段を選択し、自動的に変速する。Mレンジが選択されているときは、運転者のシフトレバー操作に応じた変速段となるように変速する。
【0015】
自動変速機ATは、前進1速を達成するにあたり、Dレンジを選択しているときにはワンウェイクラッチを係合要素の1つとして達成し、Mモードが選択されているときにはワンウェイクラッチに代えて摩擦締結要素を係合要素の1つとして達成する。すなわち、Dレンジが選択されている場合、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGから駆動輪に向けてトルクが伝達されるとき(すなわち、ドライブ状態)にはワンウェイクラッチが係合して前進1速を達成し、駆動輪からエンジンE及び/又はモータジェネレータMGに向けてトルクが伝達されるとき(すなわち、コースト状態)にはワンウェイクラッチが解放されるため、コーストトルクが作用しない構成とされている。一方、Mレンジが選択されている場合、ドライブ状態及びコースト状態のいずれであっても摩擦締結要素が解放されないため、常時、コーストトルクが作用する構成とされている。そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルギヤDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0016】
ブレーキユニット900は、液圧ポンプと、複数の電磁弁を備え、要求制動トルクに相当する液圧をポンプ増圧により確保し、各輪の電磁弁の開閉制御によりホイルシリンダ圧を制御する所謂ブレーキバイワイヤ制御を可能に構成されている。各輪FR,FL,RR,RLには、ブレーキロータ901とキャリパ902が備えられ、ブレーキユニット900から供給されるブレーキ液圧により摩擦制動トルクを発生させる。尚、液圧源としてアキュムレータ等を備えたタイプでもよいし、液圧ブレーキに代えて電動キャリパを備えた構成でもよい。
【0017】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0018】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
【0019】
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0020】
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0021】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0022】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。更に詳細なエンジン制御内容については後述する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0024】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0025】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0026】
また、ATコントローラ7内には、Dレンジが選択されている場合、アクセル開度と車速に応じて変速段を決定するノーマル変速線を有する通常時変速マップと、Mレンジが選択されている場合、エンジン等の保護の観点から強制的に変速するMレンジ変速線を有するMレンジ時変速マップとを有する。図6は実施例1の通常時変速マップである。図6中、実線で示すラインがアップシフト変速線であり、各変速段の間に設定されている。また、図6中、点線で示すラインがノーマル用のダウンシフト変速線であり、各変速段の間に設定されている。また、ノーマル用のダウンシフト変速線には、一点鎖線で示すコールド変速線が設定されている。コールド変速線とは、減速度に応じて変速線を高車速側にオフセットしたものである。
【0027】
すなわち、変速指令が出力されても、実際の変速動作はある程度の時間を要する。特に、コースト減速時には、変速動作が遅れると、エンジン回転数が過度に低下してしまい、エンジンストール等の原因となりやすい。そこで、コースト走行状態における減速度が大きいときには、減速度が小さいときよりも高車速側にてダウンシフト指令を出力することで、エンジン回転数の過度の低下を抑制する。尚、エンジン停止が許可されている場合には、エンジン回転数の低下を回避する必要はないことから、この場合には、通常のダウンシフト変速線に従ってダウンシフト指令を出力する。
【0028】
図7は実施例1のMレンジ時変速マップである。図7中、実線で示すラインが強制的にアップシフトを行う強制アップシフト線、図7中、点線で示すラインが強制的にダウンシフトを行う強制ダウンシフト線である。基本的に、Mレンジのときは、運転者の選択した変速段を優先するが、エンジン過回転の防止や、低回転・低トルクによるエンジンストールを回避する観点から強制的に変速を行うものである。
【0029】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められるドライバ要求制動トルクを満足する制動力を回生制動力及び摩擦制動力により達成するように協調回生制御する。尚、ドライバ要求制動トルクに応じたブレーキ液圧に限らず、他の制御要求により任意にブレーキ液圧を発生可能なのは言うまでもない。
【0030】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0031】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0032】
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0033】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)を演算する。また、目標駆動力演算部100内には、アクセルペダル開度APOがゼロ(すなわち、運転者に加速意図が無い)のときにブレーキペダル操作(運転者の制動要求)に関わらずエンジンブレーキ力に相当する目標コーストトルクを演算し、回生制動力を含めて制動力を駆動輪に付与するコースト回生制御部101を有する。
【0034】
ここで、コースト回生制御部101は、駆動輪に伝達される制動トルクが通常のエンジン車両において発生するエンジンフリクション相当を目標コーストトルクとして演算するものであり、第1クラッチCL1が締結しているときには、実際のエンジンフリクションを考慮した値に設定され、第1クラッチCL1が解放しているときには、エンジンフリクション分を模擬する形でモータジェネレータMGにより達成する。
【0035】
図8は実施例1のDレンジ選択時における目標コーストトルクマップである。エンジン作動の停止が許可されている状況では、エンジン回転数の低下を回避する必要がないため、この場合には、ノーマル用のダウンシフト線に沿ってダウンシフト指令が出力される。よって、少なくとも2速時には所定の目標コーストトルクを設定し、ノーマル用ダウンシフト線の2−1ダウンシフト線が設定されたノーマル変速21ダウン車速よりも高めのコーストトルク減少開始車速から徐々に目標コーストトルクを小さくしていき、ノーマル変速21ダウン車速に到達するときにコーストトルクが0となるように設定されている。その後は、1速に変速が成されたとしても、目標コーストトルクが正の値、すなわちクリープトルクが設定される。
【0036】
また、エンジン作動の停止が許可されていない状況では、エンジン回転数の低下を回避する必要があるため、この場合には、コールド変速線に沿ってダウンシフト指令が出力される。よって、少なくとも2速時には所定の目標コーストトルクを設定し、コールド変速線の2−1ダウンシフト線が設定されたコールド変速21ダウン車速よりも高めのコーストトルク減少開始車速から徐々に目標コーストトルクを小さくしていき、コールド変速21ダウン車速に到達するときにコーストトルクが0となるように設定されている。言い換えると、ノーマル変速21ダウン車速よりも所定車速だけ高いコールド変速21ダウン車速に到達するまでにコーストトルクが0となるように設定される。それ以後は、目標コーストトルクが正の値として出力(クリープトルクが出力)されるため、ワンウェイクラッチを係合することができ、エンジン回転数の過度な低下を抑制することができる。
【0037】
図9は実施例1のMレンジ選択時における目標コーストトルクマップである。この場合には、エンジン作動の停止の許可等にかかわらず、図9に示すように各変速段に応じて設定された目標コーストトルクが設定される。この目標コーストトルクは、Mレンジ時変速マップにおいて設定された強制21ダウン変速車速よりも高い所定車速において目標コーストトルクが0となるように設定されており、コーストトルク減少開始車速から所定の勾配でコーストトルクを減少するように設定されている。そして、強制的に2−1ダウン変速が行われた以後は、クリープトルクを出力するように設定されている。他の変速段においては、この5速の目標コーストトルクを基準とした目標コーストトルクが設定されている。図10は実施例1のMレンジ用の各ギヤ段係数を表す図である。5速において設定される目標コーストトルクをベーストルクとして1に規格化し、各変速段には、5速における目標コーストトルクにギヤ比に応じた係数を掛けた値を目標コーストトルクとして設定する。
【0038】
尚、目標コーストトルクが現時点で生じる実際のエンジンフリクションよりも小さい場合には、モータジェネレータMGに回生トルクではなく駆動トルクを出力し、これにより目標コーストトルクを達成するようにすればよい。これにより、目標コーストトルクを精度良く実現することができる。
【0039】
モード選択部200は、モードマップを有する。図4は実施例1のモードマップである。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0040】
図4のモードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。尚、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように構成されている。
【0041】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が図4に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
【0042】
目標充放電演算部300では、図5に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線(MWSCON線)がSOC=50%に設定され、EVOFF線(MWSCOFF線)がSOC=35%に設定されている。
【0043】
SOC≧50%のときは、図4のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。尚、EV走行モード領域を、バッテリSOCが高いときは広く設定し、バッテリSOCが低いときは狭く設定するようにしてもよい。この場合、バッテリSOCが低いときは、車速が高まるほどEV走行モード領域が狭くなるように設定し、バッテリに過度の負担をかけないようにすることが好ましい。
【0044】
SOC<35%のときは、図4のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0045】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)と、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。
【0046】
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。
【0047】
(コースト回生制動力制御処理)
次に、実施例1のコースト回生制動力制御処理について説明する。図11は実施例1のコースト回生制動力制御処理を表すフローチャートである。この処理は、コースト回生制御部101において行われるものである。
ステップS1では、Mレンジが選択されているか否かを判断し、Mレンジが選択されているときはステップS2に進み、Dレンジが選択されているときはステップS4に進む。
ステップS2では、Mレンジ用変速線が設定されたMレンジ時変速マップを選択する。
ステップS3では、Mレンジ用目標コーストトルクを選択する。
【0048】
ステップS4では、エンジン停止禁止条件が成立しているか否かを判断し、条件成立、すなわちエンジン停止が禁止されているときはステップS5に進み、条件不成立、すなわちエンジン停止が禁止されていない(許可されている)ときはステップS7に進む。尚、エンジン停止禁止条件とは、通常のモードマップにおいてEV走行モードが設定されている領域にあるときにはエンジンを停止しても差し支えない。一方、バッテリSOCが低い場合や、エンジン水温が低くエンジン再始動時に適正な始動を行うことが困難な場合には、EV走行モードが許可されず、エンジン停止が禁止されているモード、すなわちHEV走行モードもしくはWSC走行モードが選択されることを意味する。
【0049】
ステップS5では、通常時変速マップのうちコールド変速線に基づいた変速線を選択する。
ステップS6では、コールド用目標コーストトルクを選択する。
ステップS7では、通常時変速マップのうちノーマル変速線に基づいた変速線を選択する。
ステップS8では、ノーマル用目標コーストトルクを選択する。
【0050】
次に、上記制御フローに基づく作用について説明する。尚、以下の作用はいずれもコースト状態により減速している走行状態であり、最終的に1速へのダウンシフトが行われる。
1)Dレンジ選択時における作用
(EV走行モードへの遷移禁止時における作用)
エンジン水温が低い場合や、バッテリSOCが低下している場合には、EV走行モードへの遷移が禁止されるため、エンジンEを停止することができず、HEV走行モードもしくはWSC走行モードが選択される。このとき、エンストを回避する観点からコールド用の目標コーストトルク(図8の点線参照)が選択され、早めにコーストトルクが小さくされる。そして、2速から1速へのダウンシフトが終了するときには、確実に正トルク(すなわち、クリープトルク)を出力しているため、エンストを回避することができる。
【0051】
(EV走行モードへの遷移禁止時における作用)
エンジン水温が適正であり、バッテリSOCについても問題ない場合には、EV走行モードへの遷移が許可されるため、エンジンEを停止することができる。この場合には、極力モータジェネレータMGによる回生トルクを発生させることが燃費の観点からも望ましい。そこで、この場合には、ノーマル用の目標コーストトルク(図8の実線参照)が選択され、変速開始ギリギリまでコーストトルクを発生させる。これにより、燃費を改善することができる。
【0052】
2)Mレンジ選択時における作用
Mレンジを選択しているときは、運転者が選択した変速段に応じた目標コーストトルクが選択される(図9参照)。このとき、Mレンジを選択しているときの1速は、ワンウェイクラッチの作用がなく、大きな減速度を発生するおそれがある。そこで、目標コーストトルクを設定するにあたり、Mレンジ用21ダウン車速よりも高いコーストトルク減少開始車速から、所定車速に向けてコーストトルクを徐々に小さくするように設定される。これにより、どの変速段から強制的に1速へのダウンシフトが行われたとしても、急激に減速度が変化することがなく、変速ショックを抑制することができる。
【0053】
以上説明したように、実施例1のハイブリッド車両にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
【0054】
(1)エンジンEとモータジェネレータMGとからなる動力源と、この動力源と駆動輪との間に介装され、複数の変速段を達成すると共に、1速をワンウェイクラッチの係合により達成する自動変速機ATと、自動変速機ATを変速するATコントローラ7(変速手段)と、コースト走行中の減速のときは、動力源により負トルクである目標コーストトルクを発生させ、ATコントローラ7により1速へのダウンシフトが終了する前であるノーマル変速21ダウン車速もしくはコールド変速21ダウン変速(第1車速)のときに、目標コーストトルクを0または正トルクとするコースト回生制御部101(コーストトルク制御手段)と、を備えた。
【0055】
よって、1速へのダウンシフトが終了する前に自動変速機の動力源を正トルクとすることで、ワンウェイクラッチが係合しない場合でもエンストを回避することができ、安定した減速を達成することができる。
【0056】
(2)エンジンEとモータジェネレータMGとの間を断接する第1クラッチCL1と、エンジンEとモータジェネレータMGを動力源として走行するHEV走行モードもしくはWSC走行モード(エンジン使用走行モード)と、第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMGを動力源として走行するEV走行モード(モータ走行モード)と、を有し、コースト回生制御部101は、コールド変速21ダウン車速(エンジン使用走行モードにおける第1車速)よりも、ノーマル変速21ダウン車速(モータ走行モードによる第1車速)を低く設定する。
【0057】
よって、EV走行モードが選択可能とされておりエンジンを停止する場合には、エンストを回避する必要がなく、この場合には積極的に回生トルクを発生させることで燃費を改善することができる。
【0058】
(3)ATコントローラ7は、運転者のシフトレバー操作により選択された変速段に変速すると共に強制21ダウン変速車速(所定車速)に到達したときは強制的に1速に変速するマニュアルレンジを有し、コースト回生制御部101は、運転者のシフトレバー操作により選択された変速段に応じた目標コーストトルクを発生させると共に、強制21ダウン変速車速よりも高車速側所定車速に到達するまでに目標コーストトルクがゼロとなるように制御する。
【0059】
よって、1速に変速する前に確実に目標コーストトルクを負トルクから回避することができ、2速から1速へのダウンシフト時における変速ショックを回避することができる。また、実際の変速指令と変速完了までのタイムラグが問題となる場合であっても、事前に目標コーストトルクを小さくすることができ、安定したダウンシフトを達成できる。また、マニュアルレンジでは、一般に大きなコーストトルクが設定されるため、ある程度の勾配を設定してコーストトルクを小さくする必要がある。そこで、変速段に応じて目標コーストトルクを設定し、適切な減速度勾配を設定することで、減速度の抜け感を抑制でき、運転性の向上を図ることができる。
【0060】
(4)変速段に応じた目標コーストトルクは、任意の高速段の目標コーストトルクを基準として変速段毎に設定した係数を負トルクにのみ掛けた値である。よって、変速段に応じたコーストトルクを発生させることができ、運転者の意図に応じた運転状態を達成することができる。
【0061】
以上、本発明を実施例1に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であってもよい。例えば、実施例1では、ハイブリッド車両に適用したが、駆動源としてモータを備えた車両であれば、電気自動車であっても同様に適用可能である。
【0062】
また、実施例1では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
【符号の説明】
【0063】
E エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 ATコントローラ
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
24 ブレーキ油圧センサ
100 目標駆動力演算部
200 モード選択部
300 目標充放電演算部
400 動作点指令部
500 変速制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータジェネレータとからなる動力源と、
前記動力源と前記駆動輪との間に介装され、複数の変速段を達成すると共に、1速をワンウェイクラッチの係合により達成する自動変速機と、
前記自動変速機を変速する変速手段と、
コースト走行中の減速のときは、前記動力源により負トルクである目標コーストトルクを発生させ、前記変速手段により1速へのダウンシフトが終了する前である第1車速のときに、前記目標コーストトルクを0又は正トルクとするコーストトルク制御手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジンと前記モータジェネレータとの間を断接する第1クラッチと、
前記エンジンとモータジェネレータを動力源として走行するエンジン使用走行モードと、
前記第1クラッチを解放し、前記モータジェネレータを動力源として走行するモータ走行モードと、
を有し、
前記コーストトルク制御手段は、前記エンジン使用走行モードにおける前記第1車速よりも、前記モータ走行モードによる前記第1車速を低く設定することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速手段は、運転者のシフトレバー操作により選択された変速段に変速すると共に所定車速に到達したときは強制的に1速に変速するマニュアルレンジを有し、
前記コーストトルク制御手段は、運転者のシフトレバー操作により選択された変速段に応じた目標コーストトルクを発生させると共に、前記所定車速よりも高車速側所定車速に到達するまでに前記目標コーストトルクがゼロとなるように制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速段に応じた目標コーストトルクは、任意の高速段の目標コーストトルクを基準として変速段毎に設定した係数を負トルクにのみ掛けた値であることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項1】
エンジンとモータジェネレータとからなる動力源と、
前記動力源と前記駆動輪との間に介装され、複数の変速段を達成すると共に、1速をワンウェイクラッチの係合により達成する自動変速機と、
前記自動変速機を変速する変速手段と、
コースト走行中の減速のときは、前記動力源により負トルクである目標コーストトルクを発生させ、前記変速手段により1速へのダウンシフトが終了する前である第1車速のときに、前記目標コーストトルクを0又は正トルクとするコーストトルク制御手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジンと前記モータジェネレータとの間を断接する第1クラッチと、
前記エンジンとモータジェネレータを動力源として走行するエンジン使用走行モードと、
前記第1クラッチを解放し、前記モータジェネレータを動力源として走行するモータ走行モードと、
を有し、
前記コーストトルク制御手段は、前記エンジン使用走行モードにおける前記第1車速よりも、前記モータ走行モードによる前記第1車速を低く設定することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速手段は、運転者のシフトレバー操作により選択された変速段に変速すると共に所定車速に到達したときは強制的に1速に変速するマニュアルレンジを有し、
前記コーストトルク制御手段は、運転者のシフトレバー操作により選択された変速段に応じた目標コーストトルクを発生させると共に、前記所定車速よりも高車速側所定車速に到達するまでに前記目標コーストトルクがゼロとなるように制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速段に応じた目標コーストトルクは、任意の高速段の目標コーストトルクを基準として変速段毎に設定した係数を負トルクにのみ掛けた値であることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−153319(P2012−153319A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16192(P2011−16192)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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