説明

バリア性積層体、バリア性フィルム基板、デバイス、およびバリア性積層体の製造方法

【課題】バリア性能が向上したバリア性積層体を提供する。
【解決手段】少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層は、重合性化合物と、1分子中に2以上の重合開始能を有する部位を有する光重合開始剤を含む組成物を光照射して硬化させてなることを特徴とするバリア性積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性積層体、および、これを用いたバリア性フィルム基板、有機EL素子、電子ペーパー等のデバイスおよび光学部材、ならびに、バリア性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材フィルム上に、有機層と無機層を積層した、いわゆる、有機無機積層型バリア性フィルム基板を製造するに当たり、有機層に欠陥が無いことが、その層上に無機層等を積層してバリア性能をより良好に発揮するためには非常に重要であることが知られている。ここで、無機層は真空蒸着することが多いが、この場合、有機層中の揮発成分が、真空雰囲気下で抜け出し、さらに、抜ける時に膜表面に欠陥を作ってしまうため、無機層の製膜が均一に行われないといった問題点があった。
【0003】
ところで、特許文献1には、基材の表面に光硬化性物質とオリゴマー型光重合開始剤を含有する硬化性組成物を塗布し、光照射して硬化させたハードコート層を有することを特徴とするハードコートフィルムが開示されている。また、特許文献2には、特許文献1のような構成において、加熱処理した基材フィルムを用いることが記載されている。
さらに、特許文献3には、分子中に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する放射線硬化型多官能(メタ)アクリレ−ト、末端に共重合可能な不飽和二重結合を有する化合物および/または共重合可能な不飽和二重結合を有しない化合物、ならびに、分子量が250以上の光重合開始剤を含有することを特徴とする放射線硬化型樹脂組成物の硬化皮膜層を有するフィルムが開示されている。
しかしながら、これらの技術を、有機無機積層型バリア性積層体に応用することについては全く検討されていなかった。
【0004】
また、特許文献4には、活性光線の照射によりラジカルを発生する官能基および付加重合性官能基を分子内に持つビニル系化合物単位と、該ビニル系化合物と共重合可能な単量体単位を有する共重合体からなる高分子量光重合開始剤が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−256092号公報
【特許文献2】特開2003−292652号公報
【特許文献3】特開2000−167999号公報
【特許文献4】特開2002−187906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した有機層と無機層を有するバリア性積層体の製造における問題点を解消することを目的としたものであって、バリア性能が向上したバリア性積層体、特に、基材フィルム上にバリア性積層体を設けたバリア性フィルム基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、発明者が鋭意検討を行った結果、下記手段により、上記課題を解決しうることを見出した。
(1)少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層は、重合性化合物と、1分子中に2以上の重合開始能を有する部位を有する光重合開始剤を含む組成物を光照射して硬化させてなることを特徴とするバリア性積層体。
(2)前記光重合開始剤が、下記式(A)で表される構造単位を含む化合物である、(1)に記載のバリア性積層体。
式(A)
【化1】

(式(A)中、Xは直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、R1およびR2はそれぞれ直鎖アルキル基または分岐アルキル基であり、R3は置換基であり、mは0〜4の整数であり、nは2〜50の整数である。)
(3)nは2〜20の整数である、(2)に記載のバリア性積層体。
(4)前記光重合開始剤の非ラジカル成分の分子量が、70未満または600以上である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(5)前記重合性化合物が、アクリレート系化合物である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(6)前記無機層が、金属酸化物、金属窒化物、金属酸化窒化物および金属炭化物から選ばれる少なくとも1種を含む、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(7)前記有機層と、前記無機層が少なくとも2層以上が交互に積層している、(1)〜(6)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(8)基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた(1)〜(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体とを有するバリア性フィルム基板。
(9)基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた少なくとも1層の有機層および少なくとも1層の無機層を有するバリア性積層体とを有するバリア性フィルム基板であって、前記バリア性積層体の表面における1μm以上の長さを有する欠陥の数が1平方センチメートルあたり30個以下であることを特徴とするバリア性フィルム基板。
(10)前記バリア性積層体が、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体である、(9)に記載のバリア性フィルム基板。
(11)(8)〜(10)のいずれか1項に記載のバリア性フィルム基板を基板に用いたデバイス。
(12)(8)〜(10)のいずれか1項に記載のバリア性フィルム基板を用いて封止したデバイス。
(13)(1)〜(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いて封止したデバイス。
(14)前記デバイスが、電子デバイスである、(11)〜(13)のいずれか1項に記載のデバイス。
(15)前記デバイスが、有機EL素子である、(11)〜(13)のいずれか1項に記載のデバイス。
(16)支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを設ける工程を含み、かつ、前記有機層は、重合性化合物と、1分子中に複数の重合開始能を有する光重合開始剤とを含む組成物を光照射して硬化させて設けることを特徴とする、バリア性積層体の製造方法。
(17)前記バリア性積層体が、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体である、(16)に記載のバリア性積層体の製造方法。
(18)無機層を真空蒸着によって設ける、(16)または(17)に記載のバリア性積層体の製造方法。
(19)(10)に記載のバリア性フィルム基板を基板に用いた光学部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、バリア能が著しく向上したバリア性積層体を提供することが可能になった。その結果、有機EL素子等のデバイスの寿命を大幅に向上させることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本発明における有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。さらに、本明細書における(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタアクリレートの両方を意味する。
【0010】
<バリア性積層体>
本発明のバリア性積層体は、大気中の酸素、水分を遮断する機能を有するバリア層を有する積層体であって、具体的には、基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有するバリア性積層体であり、有機層は、重合性化合物と、1分子中に2以上の重合開始能を有する部位を有する光重合開始剤を含む組成物を光照射して硬化させてなるものである。
本発明におけるバリア層は、少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を有し、好ましくは、少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機層とが交互に積層した構造である。
バリア性積層体を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。なお、バリア層は基材の片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。
【0011】
(有機層)
本発明における有機層は、重合性化合物と、1分子中に2以上の重合開始能を有する部位を有する光重合開始剤(以下、本発明の光重合開始剤と称する)を含む組成物を光照射して硬化させてなるものである。
【0012】
(1)光重合開始剤
本発明の光重合開始剤は1分子中に2以上の重合開始能を有する部位を有することを特徴とする。従来、有機層の形成に光重合開始剤を用いる場合、重合開始能を有する部位を1つだけ有する光重合開始剤が用いられていたため、光開裂で複数構造のラジカル化合物を発生し、反応にバラツキが生じ、均一な有機層を得ることが難しかった。これに対し、本発明では1分子中に2以上の重合開始部位を有する光重合開始剤を用いることにより、均一な有機層が形成される。また、膜厚を厚くしたり、積層数を多くしたりした場合もヘイズが少なくすることができ、膜強度も向上する等の性能向上にも寄与する。加えて、以下に述べるように有機層からの揮発成分を低減することができ、その上に積層する無機層等も均一なものとすることができ、バリア性フィルム基板およびそれを用いた製品の歩留まりを向上させることができる。さらにまた、硬化後の臭気も抑制される等ハンドリング性にも優れている。
本発明の光重合開始剤によりバリア能が向上する作用機構は次の通りである。一般の光重合開始剤は紫外線または可視光線の照射によって、特定の結合が開裂し、開裂によって発生したラジカルが重合反応を開始する。ここで、発生するラジカルは、すべてが重合開始に寄与するとは限らず、一部は系内に存在する水素原子を引き抜くなどして、非ラジカル成分に変化する。この非ラジカル成分の分子量が非常に小さい場合(例えば分子量70未満)は常圧でも膜中に留まらないため問題とならない。一方、前記非ラジカル成分の分子量が100〜300の場合、減圧条件下で揮発し、有機層または無機層に欠陥を発生させ、バリア性フィルム基板の歩留まりを低下させる。本発明の光重合開始剤を用いると、分子量が100〜300の揮発成分の生成を少なくできるため、上記欠陥の発生をより抑制することができる。前記非ラジカル成分の分子量がすべて70未満もしくは600以上である場合、上記欠陥の発生が顕著に抑制されるので特に好ましい結果を与える。
上記の欠陥は走査型電子顕微鏡を用いて拡大倍率1000倍で無機層表面を観測すると、1μm以上の凸部もしくは凹部として検出することができる。欠陥の形としては直線状のキズや円形のもの、その他不定形のもの等が挙げられるが、ここで言う1μm以上の長さを有する欠陥とは、欠陥が直線状である場合はその長さ、円形の場合は直径、不定形の場合はその中に存在し得る最も長い直線の長さが1μm以上であることを意味する。
本発明のバリア性積層体においては、その表面における1μm以上の長さを有する欠陥の数を1平方センチメートルあたり30個以下とすることができ、さらには、20個以下とすることができる。
【0013】
本発明で用いる光重合開始剤としては、ヒドロキシアセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系、ベンジルアセタール系等が好ましい例として挙げられ、下記式(A)で表される構造単位を含むヒドロキシアセトフェノン系化合物がより好ましい。
なお、本発明に用いられるヒドロキシアセトフェノン系の重合開始剤のヒドロキシケトンオリゴマー型開始剤はEsacure KIPシリーズ(商品名) として知られており、本発明の光重合開始剤はそれらの製造方法に準じて合成することができる。
【0014】
式(A)
【化2】

(式(A)中、Xは直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、R1およびR2はそれぞれ直鎖アルキル基または分岐アルキル基であり、R3は置換基であり、mは0〜4の整数であり、nは2〜50の整数である。)
Xの直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基の炭素数は、特に制限ないが、1〜10が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3が特に好ましい。Xの具体例としては、>CH−CH2−、>C(CH3)−CH2−、>C(C25)−CH2−、>C(n−C37)−CH2−、>C(i−C37)−CH2−、>C(i−C49)−CH2−、>C(i−C817)−CH2−、>C(tert−C817)−CH2−が挙げられる。ここで、「>」とは結合子を2つ有することを意味する。
1およびR2の直鎖アルキル基または分岐アルキル基の炭素数は、特に制限ないが、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、1が特に好ましい。この理由は、既に述べたとおり、重合開始剤ラジカルが重合反応に関与せずに失活して非ラジカル成分となった場合に分子量が小さく膜中に留まりにくいことによる。R1およびR2の具体例としては、それぞれ、−CH3、−C25、−CH(CH32、−(n−C37)、−(i−C37)、−(i−C49)、−(i−C817)、−(tert−C817)が挙げられる。
3の置換基としては、−CH3、−C25、−CH(CH32、−(n−C37)、−(i−C37)が挙げられる。
mは0であることが好ましい。nは、5〜20が好ましく、5〜10がより好ましい。nを20以下とすることにより、有機層形成用の塗布液の粘度が高くなりすぎず、取り扱いが容易になるという利点がある。
【0015】
また、式(A)で表される構造単位を含む化合物の末端は、通常、水素原子または置換基が結合されている。ここで、置換基としては、炭化水素基が挙げられ、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの低級アルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基およびこれらのアルキル基置換体などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、およびそのアルキル基置換体等が挙げられる。
本発明で用いる光重合開始剤の分子量としては、700〜3000が好ましく、700〜1500がより好ましい。
【0016】
本発明で用いる光重合開始剤の具体例としては、ポリ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−ビニル−フェニル〕プロパノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−エチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−エチル−1−〔4−ビニル−フェニル〕プロパノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕ブタノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−ビニル−フェニル〕ブタノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−エチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕ブタノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−エチル−1−〔4−ビニル−フェニル〕ブタノン]等が挙げられる。光重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0017】
(2)重合性化合物
本発明で用いる重合性化合物は、光を照射することにより硬化するものを広く採用することができ、不飽和モノマー、オリゴマー、樹脂等のいずれであってもよい。例えば、アクリレート系化合物、スチレン系化合物等が好ましい例として挙げられる。
【0018】
アクリレート系化合物としては、アクリレート、ウレタンアクリレートやポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート等の2官能基以上を有する多官能の放射線硬化型のアクリル系化合物が挙げられ、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、トリアリル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート等が好ましい。
スチレン系化合物としては、2官能基以上を有する多官能の放射線硬化型スチレン系化合物として、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン等が好ましい。
重合性化合物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0019】
以下に、アクリレート系化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
(3)光重合開始剤と重合性化合物の混合比
本発明の有機層の組成において、光重合開始前の重合性化合物と光重合開始剤の重量比は、100:1〜30であることが好ましく、100:3〜10であることがより好ましい。
【0026】
(4)有機層の形成方法
有機層の形成方法としては、特に定めるものではないが、例えば、溶液塗布法や真空成膜法により形成することができる。溶液塗布法としては、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法により塗布することができる。真空成膜法としては、特に制限はないが、蒸着、プラズマCVD等の成膜方法が好ましい。本発明においてはポリマーを溶液塗布しても良いし、特開2000−323273号公報、特開2004−25732号公報に開示されているような無機物を含有するハイブリッドコーティング法を用いてもよい。
【0027】
本発明では、重合性化合物と、光重合開始剤を含む組成物を、光照射して硬化させるが、照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.5J/cm2以上が好ましく、2J/cm2以上がより好ましい。重合性化合物として、(メタ)アクリレート系化合物を用いる場合、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0028】
本発明における有機層は、平滑で、膜硬度が高いことが好ましい。有機層の平滑性は10μm角の平均粗さ(Ra値)として10nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。モノマーの重合率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。
【0029】
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは50nm〜2000nmが好ましく、200nm〜1500nmがより好ましい。
また、有機層は先に記載したとおり平滑であることが好ましい。有機層の平滑性は10μm角の平均粗さ(Ra値)として2nm以下が好ましく、1nm以下であることがより好ましい。有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
有機層の硬度は高いほうが好ましい。有機層の硬度が高いと、無機層が平滑に成膜されその結果としてバリア能が向上することがわかっている。有機層の硬度はナノインデンテーション法に基づく微小硬度として表すことができる。有機層の微小硬度は150N/mm以上であることが好ましく、180N/mm以上であることがより好ましく、200N/mm以上であることが特に好ましい。
有機層は2層以上積層することが好ましい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、各々の有機層が上記の好ましい範囲内にあるように設計することが好ましい。また、上述したとおり、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように無機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であってもよい。
【0030】
(無機層)
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法がある。この中では、無機層形成時の基材フィルムへの熱の影響を回避することができ、生産速度が速く、均一な薄膜層を得やすい点で、物理的気相成長法(PVD)や化学的気相成長法(CVD)を用いることが好ましい。無機層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物などを用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
本発明により形成される無機層の平滑性は、10μm角の平均粗さ(Ra値)として2nm未満であることが好ましく、1nm以下がより好ましい。このため、無機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0031】
無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層に付き、通常、5〜500nmの範囲内である。本発明の積層体とバリア性フィルム基板は無機層が薄くても高いバリア性を示すものであることから、生産性を上げてコストを下げるために無機層はできるだけ薄くすることが好ましい。無機層の厚みは、好ましくは20〜200nmである。
無機層は2層以上積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、各々の無機層が上記の好ましい範囲内にあるように設計することが望ましい。また、上述したとおり、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように有機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であっても良い。
【0032】
(有機層と無機層の積層)
有機層と無機層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機層を順次繰り返し製膜することにより行うことができる。無機層を、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などの真空製膜法で形成する場合、有機層も前記フラッシュ蒸着法のような真空製膜法で形成することが好ましい。バリア層を製膜する間、途中で大気圧に戻すことなく、常に1000Pa以下の真空中で有機層と無機層を積層することが特に好ましい。圧力は100Pa以下であることがより好ましく、50Pa以下であることがさらに好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。
【0033】
(機能層)
本発明のデバイスにおいては、バリア性積層体上、もしくはその他の位置に、機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0034】
バリア性積層体の用途
本発明のバリア性積層体は、通常、支持体の上に設けるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体としては、基材フィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明のバリア性積層体はバリア性フィルム基板のバリア層として用いることができる。また、本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は、ガスバリア性を要求するデバイスの封止に用いることができる。本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0035】
<バリア性フィルム基板>
バリア性フィルム基板は、基材フィルムと、該基材フィルム上に形成されたバリア性積層体とを有する。バリア性フィルム基板において、本発明のバリア性積層体は、基材フィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。本発明のバリア性積層体は、基材フィルム側から無機層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機層の順に積層していてもよい。本発明の積層体の最上層は無機層でも有機層でもよい。
また、本発明におけるバリア性フィルム基板は大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等を遮断する機能を有するバリア層を有するフィルム基板である。
バリア性フィルム基板を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
バリア性フィルム基板はバリア性積層体、基材フィルム以外の構成成分(例えば、易接着層等の機能性層)を有しても良い。機能性層はバリア性積層体の上、バリア性積層体と基材フィルムの間、基材フィルム上のバリア性積層体が設置されていない側(裏面)のいずれに設置してもよい。
【0036】
(プラスチックフィルム)
本発明におけるバリア性フィルム基板は、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機層等の積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、金属支持体(アルミニウム、銅、ステンレス等)ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0037】
本発明のバリア性フィルム基板を後述する有機EL素子等のデバイスの基板として使用する場合は、プラスチックフィルムは耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0038】
本発明のバリア性フィルム基板は有機EL素子等のデバイスとして利用されることから、プラスチックフィルムは透明であること、すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
本発明のバリア性フィルム基板をディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えばポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明のバリア性フィルム基板に用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0039】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ有機EL素子に好ましく用いられる。
【0040】
本発明のバリア性積層体は、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のバリア性積層体を設ける方法である。バリア性積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0041】
本発明のバリア性フィルム基板は、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、バリア性フィルム基板を重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0042】
(有機EL素子)
バリア性フィルム基板用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0043】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるバリア性フィルム基板は、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Vertically Alignment)型、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
【0044】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5-127822号公報、特開2002-48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特願平7−160334号公報に記載の太陽電池等が挙げられる。
【0045】
<光学部材>
本発明のバリア性フィルム基板を用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるバリア性フィルム基板を基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0047】
実施例A 基材フィルム/有機層/無機層からなるバリア性フィルム基板の作製
基材フィルム(東レ社製、ルミラーT60、厚さ:100μm)上に、下記表1に示す組成からなる塗布液を、メチルエチルケトンを用いて調整し、乾燥膜厚が1000nmとなるように塗布し、窒素200ppm雰囲気下で紫外線照射量0.5J/cm2で照射して硬化させた。得られた有機層表面にスパッタ法で酸化アルミニウムを成膜して、実施例1〜13および比較例1〜3のバリア性フィルム基板を作製した。カソードのターゲットとしてアルミニウムを、放電ガスとしてアルゴンを、反応ガスとして酸素を用いた。成膜圧力は0.1Pa、到達膜厚は60nmであった。
得られたバリア性フィルム基板について、水蒸気透過率(MOCON法およびCa法)および欠陥数を下記評価方法に従って評価した。これらの評価結果は表2に示した。
【0048】
[水蒸気透過率(g/m2/day)]
(1)MOCON法
MOCON社製、「PERMATRAN−W3/31」(40℃、相対湿度90%)を用いて測定した。表2中、「<0.01」は、水蒸気透過率が、0.01g/m2・day未満であることを示している。
(2)Ca法
MOCON法の測定限界以下となった試料について、下記の参考文献に記載の方法を用いて、40℃−相対湿度90%における水蒸気透過率を測定した。
<参考文献>
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEER et al. SID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-1438頁
【0049】
<欠陥数のカウント>
上記で作製した各バリア性フィルム基板をHITACHI S−4100型走査型電子顕微鏡を用いて加速電圧5KV、拡大倍率500倍にて1mm角の領域を無作為に100箇所抽出した。選んだ領域内の欠陥数をカウントし、平均値を求めた。このときカウントできた欠陥は、最大長が1μm以上の長さを有する欠陥である。前記平均値を1cm2あたりに換算し、欠陥数とした。
【0050】
【表1】

【0051】
上記表1中、式(B)で表される化合物、式(C)で表される化合物の混合物、式(D)で表される化合物の混合物はそれぞれ下記のとおりである。
式(B)
【化9】

式(B)中、Rは、エチル基を表す。nは、表1に示した数値をそれぞれ示す。実施例1〜6は合成した。n=2〜5の化合物は、Esacure KIP150(商品名:Lamberti社製、Sartomer社より販売)として入手できる。
【0052】
式(C)
【化10】

式(C)中、Rは、エチル基を表す。nは、2〜5の整数である。Esacure KIP100F(商品名:Lamberti社製、Sartomer社より販売)として入手できる。
【0053】
式(D)
【化11】

式(D)中、Rは、エチル基を表す。nは、2〜5の整数である。Esacure KTO46(商品名:Lamberti社製、Sartomer社より販売)として入手できる。
【0054】
【表2】

【0055】
表2より、本発明の光重合開始剤を用いたバリア性フィルム基板は比較例のバリア性フィルム基板と比べて、走査型電子顕微鏡で観測される単位面積あたりの欠陥数が少なく、バリア能が高い(水蒸気透過率が低い)ことが認められた。中でも、実施例2〜6のバリア性フィルム基板の欠陥数が際立って少ない。これらの実施例では、発生するラジカルの一方はプロポキシラジカル(水素付加体の分子量は60)であって、他方は分子量700以上のオリゴマーである。このことは有機層形成後に揮発成分が残存しないことによる。
一方、実施例1はオリゴマー側が2量体(n=2、分子量334)であるため、揮発性の抑制効果がやや低く、欠陥数が比較的多くなっている。実施例7〜10も2量体を含むために揮発性抑制効果がやや低いものとなった。実施例11、12は低分子の重合開始剤を併用しているため、揮発性抑制効果がやや低いものとなった。
【0056】
実施例B
実施例6と比較例3において、有機層を塗布に代えて、フラッシュ蒸着法にて製膜したところ、それぞれ、実施例Aと同様の効果が得られた。
【0057】
実施例C
下記表3に記載の層構成を有するバリア性フィルム基板を作製した。ここで、基材フィルムは、実施例Aと同様ものもを採用し、無機層は実施例Aと同様に作製した。また、有機層は、実施例14、15、16では、実施例11における有機層と同様に作製し、比較例4、5、6では、比較例1における有機層と同様に作製した。
【表3】

【0058】
有機EL素子の作製
上記で得られたバリア性フィルム基板を用いて有機EL素子を作製した。具体的には、まず、ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン:膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン:膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム:膜厚60nm
(電子注入層)
フッ化リチウム:膜厚1nm
そして、金属アルミニウムを100nm蒸着して陰極とし、その上に厚さ3μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作製した。
次に、熱硬化型接着剤(エポテック310、ダイゾーニチモリ(株))を用いて、作製した有機EL素子上と、実施例11、14〜16と比較例1、4〜6のバリア性フィルム基板を、有機層および無機層を積層した側(両面に積層した場合は、任意の側)が有機EL素子の側となるように貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を各20素子ずつ作製した。
作製直後の有機EL素子をソースメジャーユニット(SMU2400型、Keithley社製)を用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察したところ、いずれの素子もダークスポットの無い均一な発光を与えることが確認された。
最後に、各素子を60℃・相対湿度90%の暗い室内に24時間静置した後、発光面状を観察した。直径300μmよりも大きいダークスポットが観察された素子の比率を故障率と定義し、各素子の故障率を算出した。その結果を表4に示した。
【0059】
【表4】

【0060】
上記結果から明らかなとおり、本発明のバリア性フィルム基板は、素子の故障率を低減できることがわかった。さらに、本発明のバリア性フィルム基板は、積層数を減らしても、故障率が低いため、積層数を減らすことができ、生産性も向上することが分かった。また、実施例に用いた重合開始剤は比較例で用いた重合開始剤と比べて、重合反応時における揮発成分の臭気が大幅に低減されていることも確認された。
【0061】
実施例D
実施例16と比較例6のバリア性フィルム基板を用いた有機EL発光素子を、TV等に必要な500cd/m2で連続点灯させて、輝度を測定した。300cd/□になるまで、実施例16は2000時間、比較例4は1600時間必要だった。すなわち、比較例6のバリア性フィルム基板を用いた有機EL素子の故障率は低いが、輝度が300cd/□になるまでに必要な時間は、実施例16のバリア性フィルム基板に比べて80%と低く、早く劣化した。
【0062】
また、実施例16と比較例6のバリア性フィルム基板を、40mm×80mmに切断し、25℃・相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定したところ、実施例16は0.8%、比較例6は1.1%であり、本発明は透明性も向上していた。
【0063】
実施例E
実施例Cにおいて、有機EL素子の側に、実施例11、14〜16と比較例1、4〜6のバリア性フィルム基板を貼り合せる代わりに、直接に、実施例11、14〜16と比較例1、4〜6と同様の層構成を有するバリア性積層体を設け、他は同様に行い、有機EL素子を封止した。本発明のバリア性積層体で封止した場合、素子の故障率を低減できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は、バリア性に優れ、また、有機EL素子等のデバイスに用いた場合の素子の劣化や故障を著しく減少させることができる。加えて、本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は、有機層の形成が多官能の重合開始剤により形成するため、有機層形成時の臭気を減少させることができる。また、透明性にも優れる。そのため、従来のバリア性フィルム基板よりも、さらに広範囲な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層は、重合性化合物と、1分子中に2以上の重合開始能を有する部位を有する光重合開始剤を含む組成物を光照射して硬化させてなることを特徴とするバリア性積層体。
【請求項2】
前記光重合開始剤が、下記式(A)で表される構造単位を含む化合物である、請求項1に記載のバリア性積層体。
式(A)
【化1】

(式(A)中、Xは直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、R1およびR2はそれぞれ直鎖アルキル基または分岐アルキル基であり、R3は置換基であり、mは0〜4の整数であり、nは2〜50の整数である。)
【請求項3】
nは2〜20の整数である、請求項2に記載のバリア性積層体。
【請求項4】
前記光重合開始剤の非ラジカル成分の分子量が、70未満または600以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項5】
前記重合性化合物が、アクリレート系化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項6】
前記無機層が、金属酸化物、金属窒化物、金属酸化窒化物および金属炭化物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項7】
前記有機層と、前記無機層が少なくとも2層以上が交互に積層している、請求項1〜6のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項8】
基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体とを有するバリア性フィルム基板。
【請求項9】
基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた少なくとも1層の有機層および少なくとも1層の無機層を有するバリア性積層体とを有するバリア性フィルム基板であって、前記バリア性積層体の表面における1μm以上の長さを有する欠陥の数が1平方センチメートルあたり30個以下であることを特徴とするバリア性フィルム基板。
【請求項10】
前記バリア性積層体が、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体である、請求項9に記載のバリア性フィルム基板。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載のバリア性フィルム基板を基板に用いたデバイス。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれか1項に記載のバリア性フィルム基板を用いて封止したデバイス。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いて封止したデバイス。
【請求項14】
前記デバイスが、電子デバイスである、請求項11〜13のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記デバイスが、有機EL素子である、請求項11〜13のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項16】
支持体上に、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを設ける工程を含み、かつ、前記有機層は、重合性化合物と、1分子中に複数の重合開始能を有する光重合開始剤とを含む組成物を光照射して硬化させて設けることを特徴とする、バリア性積層体の製造方法。
【請求項17】
前記バリア性積層体が、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体である、請求項16に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項18】
無機層を真空蒸着によって設ける、請求項16または17に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項19】
請求項10に記載のバリア性フィルム基板を基板に用いた光学部材。

【公開番号】特開2009−172988(P2009−172988A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24054(P2008−24054)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】