説明

プラズマ処理装置

【課題】円筒状の基材の外周面を容易に且つ精度良く処理することができるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】本発明のプラズマ処理装置は、真空容器5内に立設された円柱状のカソード電極7とこの外周面と内周面とが対向するように配置された円筒状の防着部材14とを有している。電極7の外周部には処理対象物である円筒状の基材11が配置される。基材11の内径寸法は電極7の外径寸法と略同じに設定されており、基材11の内周面と電極7の外周面とはほぼ密着する。真空容器5内にエッチングガスを導入し、電極7に高周波電力を供給すると電極7と防着部材14との間にプラズマが形成される。これにより、マスクパターンに覆われていない基材11の表面が垂直にエッチングされて基材11自身の表面全体に凹凸パターンが均一に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマエッチング装置、プラズマCVD装置、プラズマクリーニング処理装置等のプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板や光メモリ、ホログラム、フォトニッククリスタル等の基材に対して微細なパターンを形成する技術としてナノインプリント技術が注目されている。ナノインプリントは、基材上に形成したいパターンと同じパターンの凹凸を有するモールドを、基材表面に形成されたレジスト薄膜に対して型押しすることで前記基材に所定のパターンを転写する技術である。従来のナノインプリントでは、シリコンや石英等の平板状の基板表面にエッチングによって凹凸パターンが形成されたモールドを用いて基材に対して所定のパターンを転写していた。
これに対して、パターンの転写処理の高効率化を図るために、円筒状のモールド(ローラ型モールド)を回転させることにより基材に対してパターンを転写する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1及び2が開示するモールドはいずれも、パターンを有する平板状の基板を湾曲させ、円筒状部材の外周面に貼り付けることにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-73902号公報
【特許文献1】特開2005-5284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、円筒状部材に基板を貼り付けるものでは、基板を湾曲させたときに破損するおそれがある。また、湾曲時の破損を防止するためには、材料や厚み、曲げ方向などを考慮して基板にパターンを形成する必要がある。さらに、円筒状部材に貼り付けた基板の継ぎ目が凸状になると、転写時に継ぎ目によるパターン不良が発生する。
本発明が解決しようとする課題は、円筒状の基材の外周面を容易に且つ精度良く処理することができるプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために成された本発明に係るプラズマ処理装置は、微細な凹凸パターンが形成される被処理面を外周に有する円筒状基材をプラズマ処理する装置であって、
a)真空容器と、
b)前記真空容器内に立設され、外周部に前記円筒状基材が配置される円柱状のカソード電極と、
c)前記カソード電極に高周波電力を供給する高周波電源と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のプラズマ処理装置では、円柱状のカソード電極に高周波電力が供給されるとカソード電極の周囲にプラズマが形成され、前記カソード電極の外周面にシースが形成される。従って、カソード電極の外周部に円筒状基材を配置することにより、当該円筒状基材の外周面の全体を直接、且つ同時にプラズマ処理することができる。このため、円筒状基材の外周面における周方向或いは軸方向の加工精度のバラツキを無くすことができる。特に、円筒状基材の外周面にプラズマエッチング処理により微細な凹凸パターンを形成する装置にあっては、板状の基材を湾曲させて円筒状部材に貼り付けたものと異なり、継ぎ目によるパターン不良が発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマエッチング処理装置の概略的な全体構成図。
【図2】電極の外観を示す斜視図。
【図3】電極の下面を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をプラズマエッチング装置に適用した一実施形態について図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係るプラズマエッチング処理装置の全体構成図である。このプラズマエッチング装置1は、蓋体3及び基体4からなる真空容器5を有している。蓋体3は上下方向に回動可能であり、蓋体3によって基体4の上部開口が塞がれたとき真空容器5内はほぼ密閉状態となる。
【0009】
真空容器5内の下部には円板状の電極保持部6が配置されており、この電極保持部6に円柱状の電極(カソード電極)7が着脱可能に保持されている。前記電極7はマッチングボックス8、出力調整器9を介して高周波電源10に接続されている。出力調整器9により高周波電力を調整することにより電極7の表面に生じるシースの厚み(高さ寸法)が調整される。
【0010】
図2は電極保持部6に保持された状態の電極7を示す斜視図であり、図3は電極7の下部を下方から見た斜視図である。電極7は、アルミニウム等の金属製の中実な部材から成り、その下面にねじ穴7aが形成されている。電極保持部6の上面には取付ねじ(図示せず)が設けられており、この取付ねじに前記ねじ穴7aをねじ込むことにより電極7は電極保持部6に着脱可能に固定される。
電極保持部6に固定された電極7の外周部には、処理対象物である円筒状の基材11が配置されるようになっている。電極7の外周部下部にはリング状部材12が配置されており、円筒状の基材11はリング状部材12の上に載置された状態で電極7の外周部に配置される。電極7の外径寸法は基材11の内径寸法とほぼ同じに設定されており、電極7の外周部に配置された基材11は、その内周面の全体が電極7の外周面とほぼ接するようになっている。ここで、「ほぼ接する」とは、基材11の内周面と電極7の外周面との間に僅かな空隙(厚さ1mm程度の空隙)が存在する状態も含むことを意味する。また、電極7は、該電極7の外周部に設置された基材11の上端部が電極7の上端部よりもやや下方に位置するような高さ寸法を有している。これにより、基材11は電極7の外周面のうち下端部及び上端部を除く中間部分に配置される。
【0011】
また、真空容器5の内部であって電極7の外周部には、円筒状の防着部材14が電極7と同心円状に配置されている。防着部材14は真空容器5と電気的に接続されており、接地電位である。前記防着部材14はアノード電極としても機能する。
【0012】
一方、前記基体4には真空ポンプ(図示せず)に接続された排気管18が設けられており、この真空ポンプの動作によって真空容器5の内部は真空排気される。また、基体4には真空容器5内にエッチングガスを導入するためのガス導入口20が設けられている。ガス導入口20には図示しないガス供給源からの配管22が接続されている。配管22には、ガスを真空容器5内の防着部材14の上端部のマニホールド24まで導く導入チューブ26が接続されている。マニホールド24まで導かれたガスは防着部材14の上端から防着部材14の内部空間に分散供給される。この後、防着部材14の下端から防着部材14と基体4との間の空間に流入し、排気管18から排出される。従って、防着部材14は真空容器5内に供給されたガスの整流板としても機能する。
【0013】
次に、円筒状の基材11にプラズマエッチングする場合の動作について説明する。
まず、電極7の外周にリング状部材12を介して基材11を配置した後、真空容器5内を例えば0.005〜1Paに減圧する。真空容器5内の圧力がこの範囲よりも高いと基材11に対してエッチャントが垂直方向に侵入せず、パターン不良が生じる傾向があり、上記範囲よりも低いと、プラズマを維持しにくい傾向がある。真空容器5内の圧力を上記範囲に設定することにより、基材11に対して垂直方向に精密にエッチングすることができ、数十nm程度の微細なサイズの凹凸パターンであっても良好に形成することができる。
【0014】
続いて、真空容器5内にエッチングガスを導入すると共に電極7に高周波電圧を印加する。これにより、電極7と防着部材14との間の空間にプラズマが形成される。この場合、基材11の内周面と電極7の外周面との間に1mmよりも大きい空隙が存在する場合は、プラズマ形状にムラが生じる可能性があるが、本実施例では、基材11の内周面と電極7の外周面とがほぼ接しているため、均一なプラズマが形成される。エッチングガスは基材11の種類に応じた適宜のガスが選択される。例えば基材11が石英であるときはCHF3などのフッ素系のガスや、水素とフッ素の混合ガス等を用いることができる。なお、ナノインプリントでは凹凸パターンが非常に微細であるので、プラズマ発生時に固体(樹脂)を生じる傾向のあるガスは、形成された凹凸パターンを埋めてしまうことがある。従って、プラズマ発生時に固体(樹脂)を生じない、水素とフッ素の混合ガスのようなガス種を用いることが好ましい。
【0015】
プラズマが形成されると電極7の表面にはシース領域が形成される。シース領域では、イオン密度が電子密度よりも大きく、プラズマ中のプラスイオンは加速されて基材11表面に垂直に(法線方向から)到達して基材11と反応する。これによって、マスクパターンに覆われていない基材11の表面が垂直にエッチングされて基材11自身の表面全体に凹凸パターンが均一に形成される。このとき、電極7の外周部のうち安定したシース領域が形成される中間部分に基材11を配置したため、基材11に形成される凹凸パターンを良好なものにすることができる。
なお、シース領域の厚さ(高さ)はプラズマ発生条件(印加電圧、ガス圧、電極間距離など)に依存する。本実施の形態では、シース領域の厚みが基材11の厚さよりも大きくなるようにプラズマ発生条件を調整する。
次に、具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1では、サムコ株式会社製のプラズマ処理装置(RIE−10N)を用いた。このプラズマ処理装置の処理室5内にはアルミニウム製の円柱形状の電極7(直径20cm、高さ20cm)が垂直に設置されている。電極7にはマッチングボックス8を介して13.56MHzの高周波電源10、および、高周波出力を調節するための調整器9が接続されている。真空容器5内にガスを導入するためのガス導入口20は基体4の側面に設けられている。ガスとしてCHF3(流量10sccm)を用いた。円筒形状の基材11としては石英製の基材(外径21cm、内径20.1cm、高さ20cm)を用いた。円筒形状の基材11表面にはフォトレジスト製のマスクパターンが長軸に沿ってスリット状に多数形成されている(マスクパターンの厚さ0.15μm、スリットの幅20nm)。
【0017】
上記基材11を電極7の外周部に配置し、真空容器5内の圧力を0.3Paに減圧して、ガスを導入し、電極7に高周波電力(13.56MHz)を印加してプラズマを発生させた。このときシースは基材11の周囲を取り囲むように基材11表面から17mmの範囲で均一に発生した。
プラズマ処理が終了した後、真空容器5内から基材11を取り出し、基材11表面に残ったマスクパターンを洗浄して取除いた。そして、基材11表面に形成されたスリット状の凹凸の形状を測定したところ、深さが1.2μm、幅が20nmの凹凸が基材11外周面全体に均一に形成されていた。
【実施例2】
【0018】
次に、凹凸パターンを形成した後の円筒形状の基材(以下、「モールド」という)を用いて、アクリル系の光硬化性樹脂に凹凸パターンを転写しつつ、筒状のモールドの内部から光(紫外光)を照射して固化する実験を行った。この結果、モールドの凹凸パターンを精度よく転写することができた。
つぎに、モールドの凹凸パターンに微量の樹脂残渣が残ったので、実施例1で示したプラズマ処理装置を用いて樹脂残渣を除去する実験を行った。転写実験後のモールドを電極7の外周部に配置し、真空容器5内の圧力を0.3Paに減圧した後、クリーニングガスとしてアルゴンと酸素の混合ガスを導入した。その後、電極7に高周波電力(13.56MHz)を印加してプラズマを発生させたところ、凹凸パターンに残存する樹脂残渣を全て除去することができた。
【0019】
尚、本発明は上記した実施の形態、実施例に限定されるものではなく例えば次のような変更が可能である。
上記した実施の形態では、電極の上下端部を除く中間部分の外周に円筒状の基材を配置することで、基材の表面のプラズマを均一に形成させるようにしたが、例えば、電極と基材を一緒に、もしくは、基材のみを長軸方向に回転させることにより、プラズマを均一にするようにしても良い。
【0020】
また、ナノインプリント用のモールドは凹凸パターンが微細なため、樹脂等の被転写材に凹凸パターンを転写した後、モールドの凹凸パターンに樹脂の残渣が付着することがある。本発明のプラズマ処理装置は、このようなモールドから樹脂の残渣を除去するためのクリーニング処理装置として用いることもできる。すなわち、パターン転写後後のモールドを円筒状の電極の外周に配置し、酸素、或は、酸素とアルゴンなどの不活性ガスの混合ガス、或は、酸素と窒素などの希釈ガス、もしくは、酸素ガスとフロンなどF元素を含むガスとの混合ガスを真空容器内に導入する。そして、高周波電力を電極に印加することにより、基材に対してプラズマ処理が行われ樹脂の残渣が除去される。
【符号の説明】
【0021】
1…プラズマエッチング装置
5…真空容器
7…電極(カソード電極)
10…高周波電源
11…基材
14…防着部材(アノード電極)
16…上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な凹凸パターンが形成される被処理面を外周に有する円筒状基材をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、
a)真空容器と、
b)前記真空容器内に立設され、外周部に前記円筒状基材が配置される円柱状のカソード電極と、
c)前記カソード電極に高周波電力を供給する高周波電源と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記カソード電極の外周面に対向して配置された、前記カソード電極と同心円状の円筒状のアノード電極を備えることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記アノード電極は防着部材を兼用することを特徴とする請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記基材はナノインプリント用のモールドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
円筒状基材の外周面にプラズマエッチング処理により微細な凹凸パターンを形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−219276(P2010−219276A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64142(P2009−64142)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(392022570)サムコ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】