説明

ポリイミド樹脂組成物

【課題】 加工性、接着性、耐熱性に優れたポリイミド樹脂組成物の提供。
【解決手段】 酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリイミドと、分子末端に三重結合を有するイソイミドオリゴマーとを含むポリイミド樹脂組成物及びその硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プリント配線板において、信頼性が高く、高密度配線化が可能な層間絶縁材として有用なポリイミド樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いて得られる耐熱性接着剤、ワニス、フィルム、フィルム積層体、金属積層体、プリプレグ及びそれらの硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDAなどの小型電子機器の高機能化、薄型化、軽量化が進み、それらに伴って電子機器に搭載される電子部品や基板においても、高機能化、高性能化、高密度化が求められるようになってきた。具体的には、プリント配線板を積層することによって3次元的な配線の引き回しが可能な多層プリント配線板の開発が盛んに行われおり、例えば、B2 it法(Buried Bump Interconnection Technologyの略)として知られる層間接続技術で配線の高密度化に対応している(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、バンプ付き銅箔と未硬化の絶縁層とを交互に積層し、所定の温度、圧力条件でプレスを行い、絶縁層をバンプにより貫通させることによって、絶縁層を介した下層配線層と上層配線層との電気的な接続を適宜設けたものである。
【0003】
これらの技術では、確実に絶縁層をバンプにより貫通させ、バンプ頭部を該絶縁層から突出させる必要がある。一般にこれらの層間絶縁材は、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルムやエポキシ変性ポリイミドなどが用いられている。しかしながら、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルムなどは、その高いガラス転移温度のため積層温度が高く、一般のプリント配線板には使用しにくい。また、樹脂の「流動(フロー)性」が悪く、バンプが絶縁層を貫通する際にバンプの変形が起こり、バンプの高さやバンプ頭部の突出量のばらつきが起こりやすく、バンプの頭部を突出させることや、バンプ付け根への樹脂の充填も十分ではなく、導通信頼性、絶縁信頼性に不足するものであった。
【0004】
一方、エポキシ変性ポリイミドのように硬化前後でのガラス転移温度の差を設けたものが開発されている。しかしながら、このようなポリイミドにおいては、硬化後であっても熱可塑の性質を持っているため、逐次積層した場合、下層配線層及び絶縁層が湾曲し、絶縁不良、導通不良の可能性があった。
【0005】
他方、芳香族ポリマーとアセチレン末端芳香族物質とを含む組成物が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。具体的には、ポリエーテルイミド(ウルテムD−1000:ジェネラルエレクトロニック社製)に、アセチレン末端ポリイソイミド(サーミッド樹脂:カネボウネヌセスシー社製)を混合し、芳香族ポリマーの溶媒亀裂抵抗性などを改良しうることが報告されている。しかしながら、これらの樹脂組成物は、硬化後のガラス転移温度が200℃以下と、プリント配線板用途としては、耐熱性に欠け、また長時間硬化させないと耐溶剤性の性質が発現しないなどの問題がある。また、同じ主鎖構造単位を持つポリイソイミドと不飽和末端基を持つイミドオリゴマーとの組み合わせから製造される半−相互浸透ポリマー網状構造体が報告されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながらポリイソイミドは、重合度が高くなると高粘度になるため、ポリアミド酸からの閉環反応に用いる脱水剤であるN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)から副生するジシクロヘキシルウレア(DCU)のろ過が困難になるといった製造上の問題点がある。さらに環境問題の観点から、鉛フリーハンダへの対応が必須であり、より耐熱性の高い絶縁材料の開発が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−015920号公報
【特許文献2】特表昭62−501369号公報
【特許文献3】特表平3−502110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、硬化前には優れた加工性と接着性を示し、硬化後には優れた耐熱性、接着性、電気特性を示し、特に多層プリント配線板の層間絶縁材に適したポリイミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、テトラカルボン酸二無水物成分Aモルとジアミン成分Bモルとを、0.95≦A/B<1.10の範囲で反応させて得られる下記一般式(1):
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、nは、21以上の数、Arは、テトラカルボン酸残基、Arは、ジアミン残基である)で表される繰り返し単位を含むポリイミドと、下記一般式(2):
【0011】
【化4】

【0012】
(式中、iは、0〜20の数、Arは、テトラカルボン酸残基、Arは、ジアミン残基、Arは、モノアミン残基、Rは、水素又は炭素数が1〜24の有機基である)で表されるイソイミドオリゴマーとを5/95〜95/5の重量比で含むことを特徴とするポリイミド樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、テトラカルボン酸二無水物成分Aモルとジアミン成分Bモルとを、0.95≦A/B<1.10の範囲で反応させて得られるポリイミドと、分子末端の少なくとも一部に架橋性基(炭素−炭素三重結合を含む基)を含有するイソイミドオリゴマーとを混合し、未硬化のままフィルム状などにしたものである。オリゴマー成分を混合することによって、本発明のポリイミド樹脂組成物の硬化前のガラス転移温度は、オリゴマー成分を混合していないポリイミドのガラス転移温度よりも、大きく低温側にシフトする。その結果、本発明の樹脂組成物は、高フロー状態となり加工、接着しやすい状態となる。つまり、本発明の樹脂組成物は、ガラス転移温度から硬化温度までの温度領域では、バンプ貫通、バンプ付け根への樹脂の充填、接着が容易である。その後、180〜450℃の熱処理(硬化処理)を行い、オリゴマー成分の架橋性基を直線的及び/又は3次元的に架橋させることによって、本発明のポリイミド樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、オリゴマー成分を混合していないポリイミドのガラス転移温度よりも大きく高温側にシフトする。その結果、本発明の樹脂組成物の硬化物は、耐熱性、接着性、電気特性などに優れ、特に多層プリント配線板の層間絶縁材に適したものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のポリイミド樹脂組成物について具体的に説明する。まず、本発明で用いられる、テトラカルボン酸二無水物成分Aモルとジアミン成分Bモルとを、0.95≦A/B<1.10の範囲で反応させて得られる下記一般式(1):
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、nは、21以上の数、Arは、テトラカルボン酸残基、Arは、ジアミン残基である)で表される繰り返し単位を含むポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させ、得られるポリアミド酸のイミド化を経由する公知の方法で製造することができる。
【0017】
ポリイミドの製造では、まずテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させ、対応するポリアミド酸の製造を行う。ポリアミド酸の製造は、テトラカルボン酸二無水物成分Aモルとジアミン成分Bモルとを、0.95≦A/B<1.10の範囲で反応させる以外は特に制限は無く、公知の方法でよく、通常は溶媒中で行われる。ここで、本発明のポリイミド樹脂組成物を製造するにあたり、該ポリイミドとイソイミドオリゴマーとを混合する際に、該ポリイミドの末端に遊離のアミノ基が存在すると、それがイソイミド環と反応し、ポリイミド組成物に望ましくないゲル化が生じることがある。このため、テトラカルボン酸二無水物成分を等モル量以上、特に1.00≦A/B<1.10の範囲で用いるのが好ましい。
【0018】
例えば、ここで用いるテトラカルボン酸二無水物(すなわち、Arのテトラカルボン酸残基を形成するもの)の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’−オキシジフタル酸二無水物、4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,2,7,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。なお、一般式(1)で表されるポリイミドは溶媒可溶性であることが望ましく、したがって、選択される芳香族ジアミンの種類によっても異なるが、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’−オキシジフタル酸二無水物、4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物の使用が望ましい。また、上記酸二無水物を2種類以上混合して用いても良い。
【0019】
芳香族ジアミン(すなわち、Arのジアミン残基を形成するもの)の例としては、芳香族基を1つ有するもの;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−アミノベンジルアミン、m−アミノベンジルアミン、ジアミノトルエン類、ジアミノキシレン類、ジアミノナフタレン類、ジアミノアントラセン類など、芳香族基を2つ有するもの;4,4’−ジアミノビフェニル、3,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノビフェニル、o−トリジン、m−トリジン、o−ジアニシジン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパンなど、芳香族基を3つ有するもの;1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなど、芳香族基を4つ以上有するもの;2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン、1,4−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ビフェニル、4,4’−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ビフェニル、4,4’−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルスルホンなどが挙げられる。なお、一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドは、溶媒可溶性であることが望ましく、したがって、選択される芳香族テトラカルボン酸二無水物の種類によっても異なるが、芳香族基を2つ以上含むジアミンの使用が好ましい。溶媒可溶性に加え、入手のしやすさなどを考慮すれば、具体的に4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンの使用が好ましい。
【0020】
特に、溶媒可溶性の点から好適なテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの組み合わせは、4,4’−オキシジフタル酸二無水物と2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンとの組み合わせ、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物と1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合わせなどである。
【0021】
さらに、下記一般式(3):
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、pは、0〜20の整数の混合値であり、Rは、メチル基、イソプロピル基、フェニル基、ビニル基を示し、Rは、炭素数1〜7の二価の炭化水素基、例えば、トリメチレン、テトラメチレン、フェニレンなどを示す)で表されるシロキサンジアミンを、ジアミン成分として1〜50モル%混合させても良い。
【0024】
ポリアミド酸の反応に用いられる溶媒は、反応に不活性な溶媒なら特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチルウレアなどを単独又は混合形態で使用することが出来る。特に好適なのはN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンである。またこれらの溶媒にベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジグライム、トリグライムなどの溶媒を任意の割合で混合して用いても良い。反応は、通常、5〜80%の溶質濃度で行う。
【0025】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、「可溶性」又は「溶媒可溶性」とは、溶媒100重量部に溶質5重量部以上が溶解することを意味し、例えば「溶媒可溶性ポリイミド」とは、前記段落に挙げられた溶媒から選択される少なくとも1種の溶媒100重量部に、ポリイミド5重量部以上が溶解することを意味する。より好適には、25℃のN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチルウレア及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種の溶媒100重量部に、本発明の式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド5重量部以上が溶解することを意味する。
【0026】
次いでイミド化反応は、上記反応で得られたポリアミド酸を公知の方法で脱水することによって行う。例えば、化学的イミド化法は、上記反応で得られたポリアミド酸溶液に、特に限定されるわけではないが、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、ポリリン酸、五酸化リン、五塩化リン、塩化チオニルなどの脱水剤を単独又は2種類以上を混合して脱水を行う。ピリジンなどの触媒を用いても良い。熱的イミド化法では、上記反応で得られたポリアミド酸溶液に、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジグライム、トリグライムなどの溶媒を任意の割合で混合して、加熱を行い、閉環によって生成した水を系外に流出させながら脱水を行う。またこれらの溶媒は単独又は2種類以上混合して用いても良い。
【0027】
ポリアミド酸からポリイミドへのイミド化反応におけるイミド化率は、成形時の揮発成分の発生、脱水によるボイドの発生を避けるため、及びイソイミドオリゴマーとアミンとの反応を避けるため、80%以上、望ましくは90%以上、さらには95%以上であることが望ましい。
【0028】
ここでイミド化率とは、赤外分光スペクトル(IR)測定にてイミド及びアミドの特性吸収帯(それぞれ、1375cm-1付近及び1540cm-1付近)に検出される各ピーク強度からそれぞれ算出した吸光度を下記式:
(イミドの吸光度)÷[(イミドの吸光度)+(アミド酸の吸光度)]×100
に挿入することにより得られる値である。
【0029】
次に、本発明に係るイソイミドオリゴマーについて説明する。まず、イソイミドオリゴマーにおける「オリゴマー」とは、一般式(2)中のiが、0〜20のものを指す。また「イソイミド」とは、イミドの位置異性体に当たるものであり、下記一般式(4):
【0030】
【化7】

【0031】
に示される構造を分子内に有するものであり、180〜300℃の温度で分子内で転移して、イミドになるものである。
【0032】
次に、本発明に係るイソイミドオリゴマーの製造について説明する。下記一般式(2):
【0033】
【化8】

【0034】
(式中、iは、0〜20の数、より好ましくは0〜10の数、さらに好ましくは0〜5の数、Arは、テトラカルボン酸残基、Arは、ジアミン残基、Arは、モノアミン残基、Rは、水素又は炭素数が1〜24の有機基である)で表されるイソイミドオリゴマーの製造は、ポリイミドの製造と同様に、まず対応するアミド酸オリゴマーの製造を行う。アミド酸オリゴマーの製造は、特に制限は無く、公知の方法でよく、通常は溶媒中で行われる。例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンと分子末端封止材とを極性溶媒中で反応させて製造する。ここで用いるテトラカルボン酸二無水物(すなわち、Arのテトラカルボン酸残基を形成するもの)の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’−オキシジフタル酸二無水物、4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,2,7,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。なお、一般式(2)で表されるイソイミドオリゴマーは溶媒可溶性であることが望ましく、したがって、分子量や、選択される芳香族ジアミンの種類によっても異なるが、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’−オキシジフタル酸二無水物、4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物の使用が望ましい。また、上記酸二無水物を2種類以上混合して用いても良い。
【0035】
芳香族ジアミン(すなわち、Arの、ジアミン残基を形成するもの)の例としては、芳香族基を1つ有するもの;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−アミノベンジルアミン、m−アミノベンジルアミン、ジアミノトルエン類、ジアミノキシレン類、ジアミノナフタレン類、ジアミノアントラセン類など、芳香族基を2つ有するもの;4,4’−ジアミノビフェニル、3,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノビフェニル、o−トリジン、m−トリジン、o−ジアニシジン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパンなど、芳香族基を3つ有するもの;1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなど、芳香族基を4つ以上有するもの;2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン、1,4−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ビフェニル、4,4’−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ビフェニル、4,4’−ビス[4−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[3−(2−、3−若しくは4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルスルホンなどが挙げられる。なお、一般式(2)で表されるイソイミドオリゴマーは溶媒可溶性であることが望ましく、したがって、分子量や、選択される芳香族テトラカルボン酸二無水物によっても異なるが、芳香族基を2つ以上含むジアミンの使用が好ましい。溶媒可溶性に加えて、入手のしやすさなどを考慮すれば、具体的に4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンの使用が好ましい。
【0036】
さらに、下記一般式(3):
【0037】
【化9】

【0038】
(式中、pは、0〜20の整数の混合値であり、Rは、メチル基、イソプロピル基、フェニル基、ビニル基を示し、Rは、炭素数1〜7の二価の炭化水素基、例えば、トリメチレン、テトラメチレン、フェニレンなどを示す)で表されるシロキサンジアミンを、ジアミン成分として1〜50モル%混合させても良い。
【0039】
分子末端封止材の例としては、下記一般式(5):
【0040】
【化10】

【0041】
(式中、Arは、モノアミン残基、Rは、水素又は炭素数が1〜24の有機基)で表されるモノアミン化合物が挙げられる。
【0042】
は、水素及び下記一般式(6):
【0043】
【化11】

【0044】
(式中、Xは、単結合、−O−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−であり、同一でも互いに異なっていても良い)で表される有機基からなる群より選択され、Arは、下記一般式(7):
【0045】
【化12】

【0046】
(式中、Xは、単結合、−O−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−であり、同一でも互いに異なっていても良い)で表される有機基からなる群より選択される。
【0047】
一般式(5)で表される分枝末端封止材は、入手のしやすさなどを考慮すれば、具体的に、o−アミノフェニルアセチレン、m−アミノフェニルアセチレン、p−アミノフェニルアセチレン、2−フェニルエチニルアニリン、3−フェニルエチニルアニリン、4−フェニルエチニルアニリンなどが挙げられ、好ましくは、m−アミノフェニルアセチレン、p−アミノフェニルアセチレン、3−フェニルエチニルアニリン、4−フェニルエチニルアニリンである。なお、m−アミノフェニルアセチレンは、例えば特開平10−36325号公報、p−アミノフェニルアセチレンは、例えば特開平9−143129号公報に記載された方法で製造できる。
【0048】
特に溶媒可溶性の点から好適なテトラカルボン酸二無水物とジアミンと分子末端封止材との組み合わせは、4,4’−オキシジフタル酸二無水物と1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンとm−アミノフェニルアセチレンとの組み合わせ、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンとm−アミノフェニルアセチレンとの組み合わせなどである。
【0049】
アミド酸オリゴマーの反応に用いられる溶媒は、反応に不活性な溶媒なら特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチルウレア、テトラヒドロフランなどを単独又は混合形態で使用することが出来る。特に好適なのはN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフランである。またこれらの溶媒にベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジグライム、トリグライムなどの溶媒を任意の割合で混合して用いても良い。反応は、通常、5〜80%の溶質濃度で行う。
【0050】
分子末端封止材の仕込み量は、目標とするイソイミドオリゴマーの分子量によっても異なるが、通常は酸無水物とジアミンとのモル数の差の1〜数倍のモル数であり、望ましくは1.5〜4倍のモル数である。
【0051】
イソイミド化反応は上記反応で得られたアミド酸オリゴマーを公知の方法で脱水することによって行う。例えば、上記反応で得られたアミド酸オリゴマーに、特に限定されるわけではないが、無水トリフルオロ酢酸、DCCなどの脱水剤を単独又は2種類以上を混合して脱水を行う。
【0052】
無数トリフルオロ酢酸法の場合、反応終了後、副生したトリフルオロ酢酸を除去するため、反応系をイソプロパノールなどに注入してオリゴマーの結晶を析出させ、これをろ過により回収し、洗浄、乾燥してイソイミドオリゴマーを単離する。一方、DCC法の場合、反応終了後、副生したDCUを除去するため、まず反応系のろ過が行われる。次いでろ液をイソプロパノールなどに注入して、オリゴマーの結晶を取り出しても良いが、本発明の場合、ポリイミドとの混合のために、イソイミドオリゴマーを溶液状態で得ることが好ましい。したがってDCC法が採用され、DCUを除去後の溶液をそのまま次の工程に用いることが好適である。
【0053】
アミド酸オリゴマーからイソイミドオリゴマーへのイソイミド化反応では、イソイミド化と共に、イミド化も起こり得る。成形時の揮発成分の発生、脱水によるボイドの発生を避けるため、イミド化率及びイソイミド化率の合計が、80%以上であることが望ましく、90%以上、更には95%以上であることがより望ましい。このときイソイミド化率は、生成したオリゴマーが溶媒可溶性であれば良く、少なくとも1%以上であり、望ましくは40%以上、さらに望ましくは60%以上である。
【0054】
ここで、イミド化率又はイソイミド化率とは、赤外分光スペクトル(IR)測定にてイソイミド、イミド及びアミド酸の特性吸収帯(それぞれ、937cm-1付近、1375cm-1付近及び1540cm-1付近)に検出される各ピーク強度からそれぞれ算出した吸光度を下記式:
【0055】
【数1】

【0056】
に挿入することにより得られる値である。
【0057】
次に、ポリイミド樹脂組成物の製造方法について説明する。上記反応で得られた一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミドと一般式(2)で表されるイソイミドオリゴマーとを含むポリイミド樹脂組成物は、両者を所定の重量比で混合することによって得られる。一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミドと一般式(2)で表されるイソイミドオリゴマーとの混合比(重量)は、5/95〜95/5の範囲であり、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは65/35〜80/20である。
【0058】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、粉末状又はワニス状の一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミドと、粉末状又はワニス状の一般式(2)で表されるイソイミドオリゴマーとを混合することにより得られる。すなわち、ポリイミド粉末とイソイミドオリゴマー粉末、ポリイミド粉末とイソイミドオリゴマーワニス、ポリイミドワニスとイソイミドオリゴマー粉末、ポリイミドワニスとイソイミドオリゴマーワニスとを混合させ、粉末状、ワニス状、又はフィルム状で得ることができる。
【0059】
本発明のワニスは、本発明のポリイミド樹脂組成物から調製することができる。ワニスの調製に使用される溶媒は、各成分に対し可溶性であれば特に限定されず、好適には各成分の調製に用いられる反応溶媒であってよい。溶媒は、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチルウレア、テトラヒドロフランなどを単独又は混合形態で使用することが出来る。特に好適なのはN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフランである。またこれらの溶媒にベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジグライム、トリグライムなどの溶媒を任意の割合で混合して用いても良い。また、各成分の反応終了後、適切な後処理を行うことにより得られた溶液を混合し、ワニスを調製してもよい。ワニスに含まれる本発明のポリイミド樹脂組成物の濃度は、特に制限なく、各成分の溶解度や、ワニスの使用態様などに応じて適宜選択されるが、例えば5〜80%の溶質濃度である。
【0060】
本発明の耐熱性接着剤は、本発明のポリイミド樹脂組成物又は前記ワニスから調製することができる。耐熱性接着剤の調製に使用される溶媒は、各成分に対し化学的反応性がなく、かつ可溶性であれば特に限定されず、前記ワニスの調製に用いられる溶媒、あるいは低級アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなど)、低級アルカン類(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)ハロゲン系炭化水素類(ジクロロメタン、四塩化炭素、フルオロベンゼンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)又はエステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)などから適宜選択される溶媒を単独で若しくは混合形態で用いてもよい。耐熱性接着剤に含まれる本発明のポリイミド樹脂組成物の濃度は、特に制限なく、各成分の溶解度や、耐熱性接着剤の使用態様などに応じて適宜選択されるが、例えば5〜80%の溶質濃度であることが好ましい。また本発明の目的を損なわない範囲で、各種充填剤若しくは添加剤を混合してもよい。
【0061】
本発明のポリイミド樹脂組成物、通常は、本発明のポリイミド樹脂組成物を含むワニスを、ガラス、アルミ、銅、ステンレス、PETフィルム、ポリイミドフィルムなどの基材に塗布し、溶媒を乾燥させることにより、所望の厚さ、好ましくは1μm〜200μm、より好ましくは1〜100μm厚のフィルムとして得ることが出来る。得られたフィルムは、所望により、180〜450℃での硬化処理が適宜行われ、その硬化物を得ることができる。
【0062】
本発明のポリイミド樹脂組成物を含むワニスを、カプトンなどの耐熱性フィルム、又は銅、ステンレス若しくはアルミなどの金属に直接塗布し、乾燥させ、積層フィルム又は金属積層体を得ることができる。あるいは、本発明のポリイミド樹脂組成物より得られるフィルムを、カプトンなどの耐熱性フィルム、又は銅、ステンレス若しくはアルミなどの金属箔の少なくとも片面に積層させ、加熱圧着させることによって、積層フィルム又は金属積層体を得てもよい。得られた積層フィルム又は金属積層体は、所望により、180〜450℃での硬化処理が適宜行われ、積層フィルム又は金属積層体の硬化物を得ることができる。
【0063】
さらに、本発明のポリイミド樹脂組成物を含むワニスを、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維(全芳香族ポリエステル繊維)若しくはボロン繊維など、あるいはそれらを用いた織布又は不織布などに含浸させ、プリプレグを形成させることもできる。得られたプリプレグは、所望により、180〜450℃での硬化処理が適宜行われ、その硬化物を得ることができる。
【0064】
このようにして得られた積層フィルム、金属積層体若しくはプリプレグ又はそれらの硬化物は、電気電子分野はもちろん、自動車、航空宇宙産業、建築材料などとして使用することができる。
【0065】
本発明のポリイミド樹脂組成物を用いた多層プリント配線板の製造は、まず、バンプ付き銅箔と本発明のフィルムとを積層し、所望の圧力、温度条件でプレスを行う。本発明のポリイミド樹脂組成物は、イソイミドオリゴマー成分を混合していないポリイミドよりもガラス転移温度が低く、好適には硬化前のガラス転移温度が200℃以下である。すなわちガラス転移温度から硬化開始温度までの温度領域では、樹脂組成物の流動性が高いため、その温度領域でプレスを行うことによって、バンプの突き抜け性、バンプの付け根への樹脂組成物の充填性などの加工性に優れたものとなることから、多層プリント配線板の層間接着性や電気特性を損なわない。
【0066】
次いで、180〜450℃で硬化処理を行い、絶縁層を硬化させ、回路加工を行う。硬化処理を行うことによって、イソイミドオリゴマーの分子末端三重結合は、架橋構造を形成するため、熱硬化後のガラス転移温度が高く、好適には熱硬化後のガラス転移温度が201℃以上であり、かつ硬化前のガラス転移温度に比べて、40℃以上、望ましくは60℃以上、さらに望ましくは80℃以上高温側にシフトしたものとなる。このため、硬化後の樹脂組成物は、機械特性、電気特性、耐熱性、耐溶剤性に優れたものとなる。
【0067】
さらに、逐次導体層と絶縁層とを積層し、バンプの突き抜け性、バンプの付け根への樹脂組成物の充填、接着などを行うために、再びガラス転移温度から硬化開始温度までの温度領域でプレスを行うが、この時、下層配線板の絶縁層は既に硬化処理されているため、そのガラス転移温度は、上記段落にも記載しているように上層配線板の絶縁層のガラス転移温度よりも40℃以上、望ましくは60℃以上、さらに望ましくは80℃以上高温である。したがって下層配線板の絶縁層は、その温度領域では変形しない。このため、本発明の樹脂組成物を用いることにより、積層、熱プレス、硬化、回路加工などの工程を繰り返し行う多層プリント配線板の製造において、電気特性などの信頼性に優れた製品を提供することが可能となった。
【0068】
本発明のポリイミド樹脂組成物の硬化前後での熱膨張係数の比(α1/α2)は、3以上であり、高温領域における優れた耐熱性を示すものである。ここで、α1は、硬化前の本発明のポリイミド樹脂組成物のガラス転移温度からガラス転移温度+50℃の温度領域における熱膨張係数であり、α2は、硬化後の本発明のポリイミド樹脂組成物のガラス転移温度からガラス転移温度+50℃の温度領域における熱膨張係数である。
【実施例】
【0069】
以下に本発明の態様を明らかにするために、実施例と比較例とを示すが、本発明はここに示す実施例のみに限定される訳ではない。
【0070】
実施例1
ポリイミドの合成;四つ口フラスコに4,4’−オキシジフタル酸二無水物24.8172g(0.08mol)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン32.8406g(0.08mol)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)327.4g及びキシレン33.0gを仕込み、窒素気流中、室温で2時間攪拌を行い、ポリアミド酸を合成した。続いて、フラスコを200℃に加熱し、イミド化による水をキシレンと共に系外に流出させながら、8時間還流を行った。冷却を行い、溶質濃度15%、粘度(B型粘度計:東京計器製)80000mPa・sのポリイミド溶液を得た。
【0071】
イソイミドオリゴマーの合成;四つ口フラスコに4,4’−オキシジフタル酸二無水物24.8172g(0.08mol)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル14.7371(0.04mol)、m−アミノフェニルアセチレン9.3717g(0.08mol)及びNMP215.9gを仕込み、窒素気流中、室温で3時間攪拌した。フラスコを5℃まで冷却しながら、滴下ロートよりDCC33.0g(0.16mol)をNMP61.3gに溶かした溶液を1時間かけて滴下した。その後、室温に戻し、2時間攪拌した後、反応で副生したDCUをろ別し、溶質濃度15%のイソイミドオリゴマー溶液を得た。
【0072】
上記のようにして得られたポリイミドとイソイミドオリゴマーとを溶質の重量比で、サンプルA;20:80、サンプルB;70:30、サンプルC;60:40、サンプルD;50:50、サンプルE;40:60の割合で混合し、3時間攪拌した。ガラス板上にキャスティングし、70〜220℃で乾燥を行い、厚さ25μmのフィルムを得た。次いで得られたフィルムを、熱処理(300℃、30分間)に付し、硬化させた。
【0073】
得られた熱処理前後のフィルムから、5×17mmの試験片を作製し、ガラス転移温度及び熱膨張係数を以下の通り測定した:
ガラス転移温度:熱機械分析(TMA)装置(島津製作所製,TMA−60)を用いて、試験片に対し、チャック間距離15mmで荷重4gの荷重一定モードで、5℃/分の昇温速度にて40から400℃まで昇温した際、試験片が軟化して変形する温度を、解析ソフトによりTMAの外挿点からガラス転移温度を算出した。
熱膨張係数:上記のようにして求めたガラス転移温度からガラス転移温度より50℃高温側までの温度領域でのTMA曲線の傾きにより熱膨張係数を算出した。
【0074】
表1に、得られた各試験片のガラス転移温度を示す。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例2(接着性試験)
実施例1で得られた熱処理前のフィルム(ポリイミド/オリゴマー混合比50/50)を電解銅箔(18μ厚)の間に挟み、250℃、5MPaで30分間加熱圧着した。銅箔に対する90°剥離接着強度をIPC−TM−650法2.4.9に従って測定したところ、0.8kN/mであった。さらに300℃、5MPaで30分間加熱圧着した。銅箔に対する90°剥離接着強度は、1.0kN/mであった。
【0077】
実施例3(ハンダ耐熱性試験)
実施例2で得られた電解銅箔で挟み、300℃、5MPaで30分間加熱圧着したフィルムサンプルを約2cm角に切り取り、290℃のハンダ浴に10秒間浸漬したところ、発泡、ふくれなどは全く見られなかった。
【0078】
実施例4(耐溶剤性試験)
実施例1で得られた熱処理前後のフィルムサンプルを、NMP、クロロホルム、THFの各溶媒に25℃、24時間浸漬して、耐溶剤性を目視観察した。熱処理前のフィルムでは各種溶媒に溶解するのに対して、熱処理後のフィルムでは全く溶媒に対して溶解することは無かった。
【0079】
実施例5
実施例1と同様に、各種成分を変更してポリイミド樹脂組成物を作成した。その組成と結果を表2に示す。ただし、ポリイミドとイソイミドオリゴマーとの混合比は50/50である。
【0080】
【表2】

【0081】
表中の略号は、以下を示す。
4−ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
APB:1,3-ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン
m−APA:m−アミノフェノキシアセチレン
BTDA:ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物。
【0082】
比較例1
実施例1で得られたポリイミド溶液を、ガラス板上にキャスティングし、70〜220℃で乾燥を行い、厚さ25μmのオリゴマー成分が全く入っていないフィルムを得た。熱分析を行うと、熱処理の前後でガラス転移温度はほとんど変化が無かった。また、実施例2と同様な方法で接着性試験を行ったが、接着強度は0.2kN/mしかなかった。さらに実施例3と同様な方法でハンダ耐熱性試験を行うと、ふくれがみられ、熱処理後のフィルムであってもNMPには溶解性を示した。
【0083】
比較例2
イソイミドオリゴマーの合成において、m−アミノフェニルアセチレンの代わりにアニリン7.4501g(0.08mol)を使用した以外は実施例5と同様な方法で、厚み25μmの末端に三重結合が存在しないイソイミドオリゴマー含有量50%のフィルムを作成した。熱分析を行った結果、熱処理前後でで得られたポリイミド溶液を、ガラス板上にキャスティングし、70〜220℃で乾燥を行い、厚さ25μmのオリゴマー成分が全く入っていないフィルムを得た。熱分析を行うと、熱処理の前後でガラス転移温度はほとんど変化が無かった。また、実施例2と同様な方法で接着性試験を行ったが、接着強度は0.3kN/mしかなかった。さらに実施例3と同様な方法でハンダ耐熱性試験を行うと、ふくれがみられ、熱処理後のフィルムであってもNMPに溶解性を示した。
【0084】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、比較的低温での溶融性、流動性に優れており、低温での加工性が良い。またこれを熱処理することによって、架橋、硬化させて得られた硬化物は、接着性、ハンダ耐熱性、電気特性に優れるものであり、特に多層プリント配線板の層間絶縁材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物成分Aモルとジアミン成分Bモルとを、0.95≦A/B<1.10の範囲で反応させて得られる下記一般式(1):
【化1】


(式中、nは、21以上の数、Arは、テトラカルボン酸残基、Arは、ジアミン残基である)で表される繰り返し単位を含むポリイミドと、下記一般式(2):
【化2】


(式中、iは、0〜20の数、Arは、テトラカルボン酸残基、Arは、ジアミン残基、Arは、モノアミン残基、Rは、水素又は炭素数が1〜24の有機基である)で表されるイソイミドオリゴマーとを5/95〜95/5の重量比で含むことを特徴とするポリイミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリイミドとイソイミドオリゴマーとを、65/35〜20/80の重量比で含む、請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミドが、溶媒可溶性ポリイミドである、請求項1又は2記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリイミド樹脂組成物の硬化前後でのガラス転移温度の差が40℃以上あることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリイミド樹脂組成物を含むワニス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリイミド樹脂組成物を含む耐熱性接着剤。
【請求項7】
請求項5記載のワニスを基材に塗布し、乾燥することにより得られるフィルム。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリイミド樹脂組成物を、耐熱性フィルムの少なくとも片面に積層させてなる積層フィルム。
【請求項9】
請求項8記載の積層フィルムを熱硬化させてなる硬化物。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリイミド樹脂組成物を、金属箔の少なくとも片面に積層させてなる金属積層体。
【請求項11】
請求項10記載の金属積層体を熱硬化させてなる金属積層体硬化物。
【請求項12】
請求項5記載のワニスを、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維若しくはボロン繊維、あるいはそれらを用いた織布又は不織布に含浸させたプリプレグ。
【請求項13】
請求項12記載のプリプレグを熱硬化させてなる硬化物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項記載のポリイミド樹脂組成物、耐熱性接着剤、ワニス、フィルム、積層フィルム、金属積層体若しくはプリプレグ又はそれらの硬化物を用いてなる多層プリント配線板。

【公開番号】特開2006−193576(P2006−193576A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5016(P2005−5016)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(501058180)株式会社エー・エム・ティー・研究所 (6)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】