説明

モータ制御装置

【課題】永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】相電圧設定手段は、モータ及びインバータの少なくとも何れか一方の器差を有するパラメータに基づいた電流位相誤差範囲を含む実電流位相領域を規定し、センサレス制御にてロータ位置を検出可能な安定運転電流位相領域を規定し、実電流位相領域が安定運転電流位相領域内となるように、電流ベクトル制御により設定された電流に、回転数検出手段で検出された回転数に応じた所定の位相差を加えたものを目標電流として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関し、詳しくは、永久磁石同期モータをセンサレス制御により可変速制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期モータ(Permanent Magnetic Synchronous Motor:PMSM)、特にロータ(回転子)に永久磁石を埋め込んだ埋込型永久磁石同期モータ(Interior Permanent Magnetic Synchronous Motor:IPMSM)は、高効率で可変速範囲の広いモータとして、車両用空調装置の圧縮機駆動用モータや電気自動車駆動用モータなどの用途にその応用範囲を拡大し、その需要が見込まれている。
【0003】
この種のモータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータ、インバータ、直流電源、マイクロコンピュータを内蔵したコントローラから構成されている。
前記モータの運転では、一般にモータのステータ(電機子)に巻回されたコイルに流れる電流をコントローラにおいて検出し、この電流が目標電流位相に追従するように電流フィードバック制御が行われる。この電流フィードバック制御では、目標電流位相を磁界と平行なd軸成分であるd軸電流Idと、これに直交するq軸成分であるq軸電流Iqとに分解し、d−q軸座標上でd軸電流Id及びq軸電流Iqから合成された電流ベクトルを目標電流位相として設定して制御することで、モータを最適なトルクで高効率に運転することができる。
【0004】
具体的には、検出された電流に対しモータの発生トルクが最大になる電流位相を目標電流位相として設定する最大トルク/電流制御と称する電流ベクトル制御法が知られている。例えば特許文献1には、この最大トルク/電流制御を行うときの以下のd、q軸電流の関係を表す一般式が開示されている。
【数1】

【0005】
前記式では、id:d軸電流、iq:q軸電流、Φa:永久磁石磁束、Lq:q軸インダクタンス、Ld:d軸インダクタンスであり、この場合にはロータの、即ちモータの回転数(角速度)ωによらないで、検出された電流に対してモータの発生トルクを最大にするべく目標電流位相が設定される。
一方、前記モータでは、コントローラにて検出される電流及び電圧の情報などからモータの誘起電圧を検出し、ひいてはロータ位置を検出し、物理的なセンサを用いずにモータを制御する、いわゆるセンサレス制御が一般に行われている。センサレス制御時には実際のd、q軸が直接には不明であるため、コントローラでは本来のd、q軸に対してそれぞれ仮想軸を置き、この仮想軸上で前記電流ベクトル制御が実行される。
【0006】
しかし、仮想軸はあくまでもコントローラ内で仮定した軸であるから、実際のd、q軸との間にはΔθrの角度誤差が存在する。モータを効率的に安定運転するためには、このΔθrの値をできるだけ小さくする必要がある。
例えば特許文献2には以下の軸位置推定式が開示されている。
【0007】
【数2】

前記式では、Δθ:軸位置推定誤差(ロータ位置誤差、電流位相誤差)、Vdc:印加電圧のd軸成分、Vqc:印加電圧のq軸成分、Idc:d軸電流、Iqc:q軸電流、Lq:q軸インダクタンス、Ld:d軸インダクタンス、r:コイルの巻線抵抗、ω1:印加電圧の周波数である。前記したVdc、Vqc、Idc、Iqcは何れも仮想軸を前提にしたコントローラ内での仮定値であり、前記したLq、Ld、rは何れもモータの機器定数であり、ω1は測定値である。そして、センサレス制御時には前記Δθを零に収束させるべくコントローラにて制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−220169号公報
【特許文献2】特許第3411878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、数2の軸位置誤差推定式のVdc、Vqc、Idc、Iqcは何れも仮想軸を前提にしたコントローラ内での仮定値であって、仮定されたd−q軸座標上の数式モデルに基づく誤差や、インバータの器差を含むパラメータである。
一方、数1のd、q軸電流関係式のΦa、及び数2の軸位置誤差推定式のLq、Ld、rは何れもモータの機器定数であり、製造される各モータの器差を含むパラメータである。従って、最大トルク/電流制御を行う際のセンサレス制御時には、前述したようなインバータ及びモータの器差に基づく各パラメータ誤差が軸位置推定精度に大きく影響する。
【0010】
具体的には、前記各パラメータ誤差の大きさによっては前記軸位置誤差推定式における分母項が零かマイナスになるおそれがあり、この場合には軸位置が推定できず、ロータ位置も推定できないため、モータがセンサレス制御にて安定的に運転可能な安定運転限界を逸脱して運転され、脱調を生じるおそれがある。
【0011】
また、前述したように、最大トルク/電流制御はモータの回転数によらないで行われるため、モータの回転数が定格速度以下の低回転数域で運転される場合であっても、モータはそのトルクが最大となる電流位相で運転される。しかし、前記軸位置誤差推定式には、その分子項及び分母項の両方にω1が存在するため、モータの回転数が小さいと相対的にΔθに対する前記各パラメータ誤差の影響が特に大きくなり、センサレス制御時における軸位置推定精度が大幅に悪化する。即ち、前記各パラメータ誤差が比較的大きく、且つモータが低回転数域で運転される場合には、モータがセンサレス制御時の安定運転限界を逸脱して運転され、脱調を生じる危険性が更に高まる。
【0012】
図9には、従来においてモータを最大トルク/電流制御で運転するとき、その回転数ωが低回転数域ωl(例えば500rpm)となる場合の目標電流位相線L1、実電流位相線L2、L3、安定運転限界電流位相線L4、実電流位相領域A1、安定運転電流位相領域A2がそれぞれd−q軸座標上に示されている。
目標電流位相線L1は、モータ運転中の機器に誤差がないときに理想的な電流位相となる目標電流をd−q軸座標上にプロットして実線で示した電流ベクトルの軌跡であり、また、安定運転限界電流位相線L4は、数式2の分母項が零となり、この限界を超えるとモータ1を安定的に運転できなくなる安定限界電流位相をd−q軸座標上にプロットして実線で示した電流ベクトルの軌跡である。
【0013】
また、実電流位相線L2、L3は、数2の軸位置誤差推定式のVdc、Vqc、Idc、Iqcがインバータ2の器差を含むパラメータであり、また、数1のd、q軸電流関係式のΦa、及び数2の軸位置誤差推定式のLq、Ld、rがモータ1の機器定数であり、モータの器差を含むパラメータであることを考慮して規定された仮想線であって、モータ及びインバータのパラメータ誤差を考慮した実電流位相をd−q軸座標にプロットして破線で示した電流ベクトルの軌跡である。
【0014】
実電流位相領域A1は2本の実電流位相線L2、L3間に電流位相誤差を含む範囲として規定された領域であり、安定運転電流位相領域A2はセンサレス制御にてロータ位置を検出可能であってモータを安定的に運転可能な安定運転限界を超えない範囲として規定された領域である。
【0015】
図9から明らかなように、最大トルク/電流制御を行うに際し、前記各パラメータ誤差が特に大きい場合には、モータは実電流位相領域A1の一部が安定運転電流位相領域A2を超え、図9中でハッチングされた領域で運転されるおそれがあり、この場合にはモータのセンサレス制御は不能となって脱調を生じる。このようなセンサレス制御不能状態の発生は、モータが低回転数域で運転され、前記各パラメータ誤差が特に大きい場合に顕著となるものの、前記各従来技術ではこの点について格別な配慮がなされておらず、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性向上について依然として課題が残されている。
【0016】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するため、本発明のモータ制御装置は、永久磁石同期モータのロータ位置をセンサレス制御により検出するモータ制御装置であって、モータのコイルに流れる電流をインバータを介して検出する電流検出手段と、モータのコイルに印加される電圧をインバータを介して検出する印加電圧検出手段と、電流検出手段で検出された電流と印加電圧検出手段で検出された電圧とに基づいてロータ位置を検出するロータ位置検出手段と、ロータ位置検出手段で検出されたロータ位置に基づいてモータの回転数を検出する回転数検出手段と、ロータ位置検出手段で検出されたロータ位置に基づく電流ベクトル制御により目標電流を設定し、目標電流と回転数検出手段で検出された回転数とに基づいて目標電圧を設定する相電圧設定手段とを備え、相電圧設定手段は、モータ及びインバータの少なくとも何れか一方の器差を有するパラメータに基づいた電流位相誤差範囲を含む実電流位相領域を規定し、センサレス制御にてロータ位置を検出可能な安定運転電流位相領域を規定し、実電流位相領域が安定運転電流位相領域内となるように、ロータ位置検出手段で検出された電流位相に基づく電流ベクトル制御により設定された電流に、回転数検出手段で検出された回転数に応じた所定の位相差を加えたものを目標電流として設定することを特徴としている(請求項1)。
【0018】
より具体的には、相電圧設定手段は、回転数検出手段で検出された回転数をパラメータとして目標電流を選定可能なデータテーブルを備える(請求項2)。
また、相電圧設定手段で用いられるデータテーブルは、回転数検出手段で検出された回転数が所定の低回転数域以下のときに適用される第1テーブルと、回転数検出手段で検出された回転数が所定の定常回転数域以上のときに適用される第2テーブルとからなる(請求項3)。
更に、相電圧設定手段は、回転数検出手段で検出された回転数が所定の低回転数域未満であり且つ所定の定常回転数域より小のときには、第1及び第2テーブルの各データに基づいた補間処理により目標電流を演算して設定する(請求項4)。
【0019】
具体的には、モータ及びインバータの少なくとも何れか一方の器差を有するパラメータは、電流検出手段で検出された電流と、印加電圧検出手段で検出された電圧と、モータの永久磁石磁束、インダクタンス及びコイルの巻線抵抗とのうちの少なくとも何れか1つを含む(請求項5)。
また、電流ベクトル制御は、電流検出手段で検出された電流に対しモータの発生トルクが最大になる電流を目標電流として設定する最大トルク/電流制御である(請求項6)。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載のモータ制御装置によれば、相電圧設定手段は、実電流位相領域と安定運転電流位相領域とを規定し、実電流位相領域が安定運転電流位相領域内となるように、電流ベクトル制御により設定された電流に、回転数検出手段で検出された回転数に応じた所定の位相差を加えたものを目標電流として設定することにより、モータの回転数に応じて目標電流を設定することができ、モータ回転数変化に伴うセンサレス制御不能状態を確実に回避することができ、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を確実に向上することができる。
【0021】
請求項2記載の発明によれば、相電圧設定手段は、回転数検出手段で検出された回転数をパラメータとして目標電流を選定可能なデータテーブルを備えることにより、モータ制御装置において目標電流を低処理負荷で検出することができて好適である。
請求項3記載の発明によれば、相電圧設定手段で用いられるデータテーブルをモータ回転数に応じた第1テーブルと第2テーブルとから構成することにより、モータ回転数に応じて、電流ベクトル制御により設定された電流に位相差を加えたものを目標電流として設定する領域と、位相差を零として電流ベクトル制御により設定された目標電流をそのまま最終目標電流として設定する領域とに分けてデータテーブルを作成することが可能であり、データを必要な領域でのみ補正することによりデータテーブルの作成コストを低減できて好適である。
【0022】
請求項4記載の発明によれば、相電圧設定手段が第1及び第2テーブルの各データに基づいた補間処理により目標電流を演算して設定することにより、モータ回転数が2つのデータテーブル間の領域にある場合であっても目標電流を精度良く検出することができて好適である。
請求項5記載の発明によれば、具体的には、モータ及びインバータの少なくとも何れか一方の器差を有するパラメータは、電流検出手段で検出された電流と、印加電圧検出手段で検出された電圧と、モータの永久磁石磁束、インダクタンス及びコイルの巻線抵抗とのうちの少なくとも何れか1つを含むものであり、これらのパラメータはインバータ制御する上での主要な誤差要因なので、この誤差を考慮しておけば、モータの制御安定性は向上する。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、電流ベクトル制御は、電流検出手段で検出された電流に対しモータの発生トルクが最大になる電流を目標電流として設定する最大トルク/電流制御であることにより、モータ回転数変化に伴うセンサレス制御不能状態を回避し、モータのセンサレス制御の安定性を向上しつつ、モータを高効率で運転することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。
【図2】図1のコントローラで行われるモータのロータ位置のセンサレス制御について示した制御ブロック図である。
【図3】図2のモータのU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの相電流波形図である。
【図4】図2のモータのU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの誘起電圧波形図である。
【図5】図2のモータのロータが回転しているときのモータベクトル図である。
【図6】低回転数域ωlでモータが運転されたときの目標電流位相線L1、実電流位相線L2、L3、安定運転限界電流位相線L4、実電流位相領域A1、安定運転電流位相領域A2をd−q軸座標上に示した図である。
【図7】定常回転数域ωnでモータが運転されたときの目標電流位相線L1、実電流位相線L2、L3、安定運転限界電流位相線L4、実電流位相領域A1、安定運転電流位相領域A2をd−q軸座標上に示した図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る目標電流位相の設定方法を示したフローチャートである。
【図9】従来において、低回転数域ωlでモータが運転されたときの目標電流位相線L1、実電流位相線L2、L3、安定運転限界電流位相線L4、実電流位相領域A1、安定運転電流位相領域A2をd−q軸座標上に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。モータ制御装置は、モータ1、インバータ2、直流電源4、マイクロコンピュータを内蔵したコントローラ6から構成されている。
図2はコントローラ6で行われるモータ1のセンサレス制御について示した制御ブロック図である。コントローラ6は、PWM信号作成部8、ロータ位置検出部(ロータ位置検出手段)10、回転数検出部(回転数検出手段)12、目標電流位相設定部14、加算器16、電圧波高値検出部18、電圧位相検出部20、相電圧設定部(相電圧設定手段)22を備えている。
【0026】
モータ1は、3相ブラシレスDCモータであり、3相のコイル(U相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWc)を含む図示しないステータと、永久磁石を含む図示しないロータとを有し、U相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcは、図1に示すように中性点Nを中心としてスター状に結線されるか、或いは、デルタ状に結線されている。
【0027】
インバータ2は、3相バイポーラ駆動方式インバータであり、モータ1の3相のコイルに対応した3相のスイッチング素子、具体的にはIGBT等から成る6個のスイッチング素子(上相スイッチング素子Us,Vs及びWsと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZs)と、シャント抵抗器R1,R2及びR3とを有している。
上相スイッチング素子Us、下相スイッチング素子Xs、シャント抵抗器R1と、上相スイッチング素子Vs、下相スイッチング素子Ys、シャント抵抗器R2と、上相スイッチング素子Ws、下相スイッチング素子Zs、シャント抵抗器R3とは、それぞれ直列に接続され、これら各直列接続線の両端には、高圧電圧Vhを発生する直流電源4の出力端子が並列接続されている。
【0028】
また、上相スイッチング素子Usのエミッタ側はモータ1のU相コイルUcに接続され、上相スイッチング素子Vsのエミッタ側はモータ1のV相コイルVcに接続され、上相スイッチング素子Wsのエミッタ側はモータ1のV相コイルWcに接続されている。
更に、上相スイッチング素子Us,Vs及びWsのゲートと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsのゲートと直流電源4の2次側出力端子とは、それぞれPWM信号作成部8に接続されている。更に、シャント抵抗器R1の下相スイッチング素子Xs側とシャント抵抗器R2の下相スイッチング素子Ys側とシャント抵抗器R3の下相スイッチング素子Zs側とは、それぞれロータ位置検出部10に接続されている。
【0029】
インバータ2は、シャント抵抗器R1,R2及びR3それぞれで検出された電圧を利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに流れる電流(U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iw)を検出し(電流検出手段)、これらをロータ位置検出部10に送出する。
PWM信号作成部8は、直流電源4の高圧電圧Vhを検出し、高圧電圧Vhと相電圧設定部22で設定された相電圧とに基づいて、インバータ2の上相スイッチング素子Us,Vs及びWsのゲートと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsのゲートに各スイッチング素子をオンオフするためのPWM信号を作成し、インバータ2に送出する。
【0030】
インバータ2の上相スイッチング素子Us,Vs及びWsと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsは、PWM信号作成部8からのPWM信号によって所定パターンでオンオフされ、このオンオフパターンに基づく正弦波通電(180度通電)をモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに対し行う。
また、PWM信号作成部8は、ロータ位置検出部10に接続されており、PWM信号作成部8で検出された直流電源4の高圧電圧Vhを利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに印加されている電圧(U相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vw)を検出し(印加電圧検出手段)、ロータ位置検出部10に送出する。
【0031】
ロータ位置検出部10は、インバータ2から送出されるU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、PWM信号作成部8から送出されるU相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwとを利用して、誘起電圧波高値Ep(誘起電圧位相)、誘起電圧電気角θe(誘起電圧位相)、相電流波高値Ip(電流位相)、相電流電気角θi(電流位相)を検出する。
詳しくは、図3のモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの相電流波形図を参照すると、正弦波形を成すU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwにはそれぞれ120°の位相差がある。
【0032】
この相電流波形図からすれば、U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、相電流波高値Ipと、相電流電気角θiには、
・Iu=Ip×cos(θi)
・Iv=Ip×cos(θi−2/3π)
・Iw=Ip×cos(θi+2/3π)
の式が成り立つ。
【0033】
ロータ位置検出部10における相電流波高値Ipと相電流電気角θiとの検出は前記式が成り立つことを前提として行われ、インバータ2から送出されたU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwを利用して、前記式による計算によって相電流波高値Ipと相電流電気角θiとが求められる。
一方、図4のモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの誘起電圧波形図を参照すると、正弦波形を成すU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewにはそれぞれ120°の位相差がある。
【0034】
この誘起電圧波形図からすれば、U相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewと、誘起電圧波高値Epと、誘起電圧電気角θeには、
・Eu=Ep×cos(θe)
・Ev=Ep×cos(θe−2/3π)
・Ew=Ep×cos(θe+2/3π)
の式が成り立つ。
【0035】
また、U相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwと、U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、U相コイル抵抗Ru,V相コイル抵抗Rv及びW相コイル抵抗Rwと、U相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewとには、
・Vu−Iu×Ru=Eu
・Vv−Iv×Rv=Ev
・Vw−Iw×Rw=Ew
の式が成り立つ。
【0036】
ロータ位置検出部10における誘起電圧波高値Epと誘起電圧電気角θeの検出は前記式が成り立つことを前提として行われ、インバータ2から送出されたU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、PWM信号作成部8から送出されたU相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwとを利用して、前記式(後者の式)からU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewが求められ、そして、求めたU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewを利用して、前記式(前者の式)から誘起電圧波高値Epと誘起電圧電気角θeとが求められる。
【0037】
ロータ位置検出部10は、ここで検出された相電流電気角θiと予め用意された後述するデータテーブルから選定した電流位相βとを利用して、
・θm=θi−β−90°
の式からロータ位置θmを検出し、ロータ位置検出部10では物理的なセンサによらないセンサレス制御が行われる。なお、前述したように、センサレス制御により検出されたロータ位置θmは前記数2の軸位置誤差推定式から算出される軸位置の角度誤差Δθが存在する。
ここで用いられるデータテーブルは[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして電流位相βを規定したものであって、所期の電流位相βを[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして選定することができる。なお、[相電流波高値Ip]にはロータ位置検出部10で検出された相電流波高値Ipが該当し、また、[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]にはロータ位置検出部10で検出された誘起電圧電気角θeから相電流電気角θiを減算した値が該当する。
【0038】
図5はモータ1のロータが回転しているときのモータベクトル図であり、電圧V,電流I及び誘起電圧E(=ωΨ)の関係をd−q軸座標にベクトルで表してある。図中のVdは電圧Vのd軸成分、Vqは電圧Vのq軸成分、Idは電流Iのd軸成分(d軸電流)、Iqは電流Iのq軸成分(q軸電流)、Edは誘起電圧Eのd軸成分、Eqは誘起電圧Eのq軸成分、αはq軸を基準とした電圧位相、βはq軸を基準とした電流位相、γはq軸を基準とした誘起電圧位相である。また、図中のΨaはロータの永久磁石の磁束、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Rはステータの巻線抵抗、Ψはロータの総合鎖交磁束である。
【0039】
このモータベクトル図からすれば、ロータの回転数をωとすると、
【数3】

の式が成り立ち、また、同式の右辺からωに関する値を左辺に移すと、
【数4】

の式が成り立つ。
【0040】
ロータ位置検出部10でロータ位置θmを検出する際に用いられるデータテーブルの作成は、前記モータベクトル図下で前記式が成り立つことを前提として行われ、前記モータベクトル図に示した電流位相βと電流Iをそれぞれ所定範囲内で段階的に増加させながら〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕が所定値のときの電流位相βを保存し、〔電流I〕に相当する[相電流波高値Ip]と〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕に相当する[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]とをパラメータとした電流位相βのデータテーブルを作成する。そして、この作成されたデータテーブルを利用してロータ位置検出部10で検出されたロータ位置θmは回転数検出部12に送出され、同じくロータ位置検出部10で検出された相電流波高値Ipは目標電流位相設定部14に送出される。
【0041】
回転数検出部12は、ロータ位置検出部10で検出されたロータ位置θmを利用して、ロータ位置θmから演算周期が1周期前のロータ位置θm−1を減じることにより、ロータ位置変化量Δθmを求め、このロータ位置変化量Δθmを時間微分した値に所定のフィルタを掛けてモータ1の回転数ωを検出し、これを加算器16と目標電流位相設定部14とに送出する。そして、コントローラ6に対し指示されたモータ1の目標回転数ωtに回転数検出部12で求められた回転数ωを加算器16を通じてフィードバックさせ、P制御やPI制御等の処理により回転数差Δωを演算し、これを電圧波高値検出部18に送出する。
【0042】
電圧波高値検出部18は、求められた回転数差Δωを利用してP制御やPI制御等の処理によりモータ1に印加する電圧の印加電圧波高値Vp(目標電圧)を検出し、これを相電圧設定部22に送出する。
目標電流位相設定部14は、前記数1に示すd、q軸電流の関係式に従い、前述した最大トルク/電流制御によって相電流に対するモータ1の発生トルクが最大になるように目標電流が設定される。具体的には、ロータ位置検出部10で検出された相電流波高値Ipと、回転数検出部12で検出された回転数ωと、予め用意された後述するデータテーブルとを利用して目標d軸電流Idtを設定し、これを電圧位相検出部20に送出する。
【0043】
ここで用いられるデータテーブルは[相電流波高値Ip]をパラメータとして目標d軸電流Idtを目標電流として規定したものであって、所期の目標d軸電流Idtを[相電流波高値Ip]をパラメータとして選定することができる。
なお、[相電流波高値Ip]にはロータ位置検出部10で検出された相電流波高値Ipが該当する。
【0044】
目標電流位相設定部14で目標d軸電流Idtを設定する際に用いられるデータテーブルの作成は、前記モータベクトル図下の前記式が成り立ち、更に原則は最大トルク/電流制御下で前記数1が成り立つことを前提として行われ、前記モータベクトル図に示した電流位相βと電流Iとをそれぞれ所定範囲内で段階的に増加させながら電流位相βと電流Iとからなる電流ベクトルの軌跡を保存し、〔電流I〕に相当する[相電流波高値Ip]と〔回転数ω〕とをパラメータとした目標d軸電流Idtのデータテーブルを作成する。
【0045】
具体的には、目標d軸電流Idtは、相電流波高値Ipと、回転数ωと、係数aをパラメータとした
・Idt=a×f(Ip、ω)
の式で計算され、この結果をデータとしたデータテーブルが目標電流位相設定部14に予め用意される。
【0046】
そして、この作成されたデータテーブルを利用して目標電流位相設定部14で設定された目標d軸電流Idtは、ロータ位置検出部10で検出された実際のd軸電流に対する目標値として電圧位相検出部20に送出されてd軸電流のフィードバック制御が行われる。
電圧位相検出部20は、目標電流位相設定部14で設定された目標d軸電流Idtを利用して、モータ1に印加する電圧の印加電圧位相θv(目標電圧位相)を検出し、これを相電圧設定部22に送出する。
【0047】
相電圧設定部22は、電圧波高値検出部18で検出された印加電圧波高値Vp及び電圧位相検出部20にて検出された印加電圧位相θvを利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcにこれから印加する印加設定電圧(U相印加設定電圧Vut,V相印加設定電圧Vvt及びW相印加設定電圧Vwt)を設定し、これをPWM信号作成部8に送出する。
【0048】
PWM信号作成部8は、インバータ2を介してモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに対し相電圧設定部22で設定された印加設定電圧をPWM信号のオンオフパターンに基づいて正弦波通電(180度通電)し、これよりモータ1が所望の回転数で運転される。
以下、図6〜8を参照して、目標電流位相設定部14にて予め用意されるデータテーブルの作成方法について更に詳しく説明する。
【0049】
図6、7には、目標電流位相線L1、実電流位相線L2、L3、安定運転限界電流位相線L4、実電流位相領域A1、安定運転電流位相領域A2がそれぞれd−q軸座標上に示されている。
【0050】
目標電流位相線L1は、前記式で得られた目標d軸電流Idtに基づく目標電流位相をd−q軸座標上にプロットして実線で示した電流ベクトルの軌跡であり、安定運転限界電流位相線L4は、センサレス制御にてロータ位置を推定可能であり、モータ1を安定的に運転可能な限界値となる安定限界電流位相をd−q軸座標上にプロットして実線で示した電流ベクトルの軌跡である。
【0051】
また、実電流位相線L2、L3は、前記数2に示される軸位置誤差推定式のVdc、Vqc、Idc、Iqcがインバータ2の器差を含むパラメータであり、また、前記数1に示されるd、q軸電流関係式のΦa、及び前記軸位置誤差推定式のLq、Ld、rがモータ1の機器定数であり、モータ1の器差を含むパラメータであることを考慮して規定された仮想線であって、モータ1及びインバータ2のパラメータ誤差を考慮した実電流位相値をd−q軸座標上にプロットして破線で示した電流ベクトルの軌跡である。
【0052】
実電流位相領域A1は2本の実電流位相線L2、L3間に電流位相誤差を含む範囲として規定された領域であり、安定運転電流位相領域A2はセンサレス制御にてロータ位置を検出可能であってモータを安定的に運転可能な安定運転限界を超えない範囲として安定運転限界電流位相線L4よりも右側に規定された領域である。
図6は、回転数ωが例えば500rpmとなる低回転数域ωlでモータ1が運転されたときを示している。この場合には、図9を用いて既に説明したように、軸位置推定誤差Δθ、即ちロータ位置変化量Δθに対するモータ1及びインバータ2の器差の影響が相対的に大きくなり、d−q軸座標上における電流位相誤差範囲が広くなり、実電流位相領域A1も広くなる。従って、目標d軸電流Idtのデータテーブルの回転数ωがω≦ωlの関係式を満たす領域には、通常の最大トルク/電流制御を行う場合の目標d軸電流Idtのデータテーブルのデータにq軸電流が大きくなるにつれてd軸電流が小さくなるような位相差を加えたデータが格納され、目標電流位相線L1も図6中に示される矢印方向に変形される。
【0053】
一方、図7は、回転数ωが例えば2500rpmとなる定常回転数域ωnでモータ1が運転されたときを示している。この場合には、図6の場合に比して回転数ωが大きく、ロータ位置変化量Δθに対するモータ及びインバータの器差の影響が相対的に小さいことから、d−q軸座標上における電流位相誤差範囲が図6の場合に比して狭くなり、実電流位相領域A1も狭くなる。従って、通常の最大トルク/電流制御を行う場合の目標d軸電流Idtのデータテーブルのデータをそのまま使用しても実電流位相領域A1が安定運転電流位相領域A2を逸脱することはないため、目標d軸電流Idtのデータテーブルの回転数ωがωn≦ωの関係式を満たす領域には、加える位相差を零として最大トルク/電流制御を通常に行う場合のデータがそのまま格納される。
【0054】
更に、目標d軸電流Idtのデータテーブルの回転数ωがωl<ω<ωnの関係式を満たす領域には、最大トルク/電流制御に基づく最適な目標d軸電流Idt、ひいては最適な目標電流位相を選定可能なデータが予め設定されている。
以上のように、本実施形態では、目標電流位相設定部14において、モータ1の回転数に応じた目標d軸電流Idt、即ち目標電流位相を設定することができるため、モータ1の回転数変化に伴うセンサレス制御不能状態を回避することが可能となり、モータ1のセンサレス制御の安定性を向上することができる。
【0055】
具体的には、目標電流位相設定部14では、実電流位相領域A1と安定運転電流位相領域A2とを規定し、実電流位相領域A1が安定運転電流位相領域A2内となるように目標電流位相が設定されるため、モータが低回転域で運転され、モータの機器定数がばらついて安定運転電流位相領域A2内で目標電流位相で運転できないと予測されるときであっても、モータ1の回転数変化に伴うセンサレス制御不能状態を確実に回避することができ、モータ1のセンサレス制御の安定性を確実に向上することができる。
【0056】
また、目標電流位相設定部14は、ロータ位置検出部10で検出された電流位相である[相電流波高値Ip]と回転数検出部12で検出された[回転数ω]とをパラメータとして目標電流位相を選定可能なデータテーブルを備えることにより、モータ制御装置において目標電流位相を低処理負荷で検出することができて好適である。
更に、原則として最大トルク/電流制御の電流ベクトル制御を行うことにより、モータ1の回転数変化に伴うセンサレス制御不能状態を回避し、モータ1のセンサレス制御の安定性を向上しつつ、モータ1を高効率で運転することが可能となる。
【0057】
次に、本発明の第2実施形態に係る目標d軸電流Idtの設定方法について図8のフローチャートを参照して説明する。なお、モータ制御装置の基本構成やモータ1の基本的な制御方法などは第1実施形態の場合と同様であるため、説明は省略する。
図8に示されるように、先ず、目標d軸電流Idtの設定が開始されると、ステップS1では回転数ωが低回転数域ωl(例えば500rpm)以下か否かを判定し、判定結果が真(Yes)で回転数ωが低回転数域ωl以下の場合にはステップS2に移行し、判定結果が偽(No)で回転数ωが低回転数域ωlより大きい場合にはステップS3に移行する。
【0058】
ステップS2では、図6に示されるような目標電流位相線L1を形成する目標電流位相の電流ベクトル軌跡に対応した目標d軸電流Idtのデータが格納された第1テーブルを適用して目標d軸電流Idtを選定し、目標d軸電流Idt、ひいては目標電流位相の設定を終了する。
ステップS3では、回転数ωが定常回転数域ωn(例えば2500rpm)以上か否かを判定し、判定結果が真(Yes)で回転数ωが定常回転数域ωn以上の場合にはステップS4に移行し、判定結果が偽(No)で回転数ωが定常回転数域ωnより小さい場合にはステップS5に移行する。
【0059】
ステップS4では、図7に示されるような目標電流位相線L1を形成する目標電流位相の電流ベクトル軌跡に対応した目標d軸電流Idtのデータが格納された第2テーブルを適用して目標d軸電流Idtを選定し、目標d軸電流Idt、ひいては目標電流位相の設定を終了する。
ステップS5では、第1及び第2テーブルに格納されたデータ間の補間処理を行うことにより目標d軸電流Idtを演算する。
【0060】
具体的には、
・Idt=[第1テーブルのデータ]×(ωn−ω)/(ωn−ωl)+[第2テーブルのデータ]×(ω−ωl)/(ωn−ωl)
の一般的な補間処理式による演算を行い、その演算結果を目標d軸電流Idtとして設定し、目標d軸電流Idt、ひいては目標電流位相の設定を終了する。
【0061】
以上のように、本実施形態では、データテーブルをモータ1の回転数に応じた第1テーブルと第2テーブルとから構成することにより、モータ1の回転数に応じて、最大トルク/電流制御により設定された電流位相に位相差を加えたものを目標電流位相として設定する領域と、位相差を零として最大トルク/電流制御により設定された電流位相をそのまま目標電流位相として設定する領域とに分けてデータテーブルを作成することが可能であり、データを必要な領域でのみ補正することによりデータテーブルの作成コストを低減できて好適である。
【0062】
また、第1及び第2テーブルの各データに基づいた補間処理により目標d軸電流Idt、ひいては目標電流位相を演算して設定することにより、モータ1の回転数が2つのデータテーブル間の領域にある場合であっても目標電流位相を精度良く検出することができて好適である。
以上で本発明の実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
【0063】
例えば、上記実施形態では、前記数2の軸位置誤差推定式のVdc、Vqc、Idc、Iqcがインバータ2の器差を含むパラメータであり、また、前記数1のd、q軸電流関係式のΦa、及び前記軸位置誤差推定式のLq、Ld、rがモータ1の機器定数であり、モータ1の器差を含むパラメータであることを考慮して実電流位相線L2、L3を規定しているが、これに限らず、これらのパラメータのうちの少なくとも何れか1つによって実電流位相線L2、L3を規定し、目標電流位相設定部14で用いられるデータテーブルを作成しても前記同様の作用,効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 永久磁石同期モータ
2 インバータ
10 ロータ位置検出部(ロータ位置検出手段)
12 回転数検出部(回転数検出手段)
22 相電圧設定部(相電圧設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期モータのロータ位置をセンサレス制御により検出するモータ制御装置であって、
前記モータのコイルに流れる電流をインバータを介して検出する電流検出手段と、
前記モータの前記コイルに印加される電圧を前記インバータを介して検出する印加電圧検出手段と、
前記電流検出手段で検出された前記電流と前記印加電圧検出手段で検出された前記電圧とに基づいて前記ロータ位置を検出するロータ位置検出手段と、
前記ロータ位置検出手段で検出された前記ロータ位置に基づいて前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記ロータ位置検出手段で検出された前記ロータ位置に基づく電流ベクトル制御により目標電流を設定し、前記目標電流と前記回転数検出手段で検出された前記回転数とに基づいて目標電圧を設定する相電圧設定手段とを備え、
前記相電圧設定手段は、前記モータ及び前記インバータの少なくとも何れか一方の器差を有するパラメータに基づいた電流位相誤差範囲を含む実電流位相領域を規定し、前記センサレス制御にて前記ロータ位置を検出可能な安定運転電流位相領域を規定し、前記実電流位相領域が前記安定運転電流位相領域内となるように、前記電流ベクトル制御により設定された電流に、前記回転数検出手段で検出された前記回転数に応じた所定の位相差を加えたものを前記目標電流として設定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記相電圧設定手段は、前記回転数検出手段で検出された前記回転数をパラメータとして前記目標電流を選定可能なデータテーブルを備えることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記相電圧設定手段で用いられる前記データテーブルは、前記回転数検出手段で検出された前記回転数が所定の低回転数域以下のときに適用される第1テーブルと、前記回転数検出手段で検出された前記回転数が所定の定常回転数域以上のときに適用される第2テーブルとからなることを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記相電圧設定手段は、前記回転数検出手段で検出された前記回転数が前記所定の低回転数域未満であり且つ前記所定の定常回転数域より小のときには、前記第1及び前記第2テーブルの各データに基づいた補間処理により前記目標電流位相を演算して設定することを特徴とする請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータ及び前記インバータの少なくとも何れか一方の前記器差を有する前記パラメータは、前記電流検出手段で検出された前記電流と、前記印加電圧検出手段で検出された前記電圧と、前記モータの永久磁石磁束、インダクタンス及び前記コイルの巻線抵抗とのうちの少なくとも何れか1つを含むことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記電流ベクトル制御は、前記電流検出手段で検出された前記電流に対し前記モータの発生トルクが最大になる電流を前記目標電流として設定する最大トルク/電流制御であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−170249(P2012−170249A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29813(P2011−29813)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】