説明

モータ用位相同期回路及びそれを用いたスピンドルモータ

【課題】入力信号の周波数が変化するようなモータの駆動制御において、ステップ入力などのように入力信号の位相が急激に変化した場合でも、オーバーシュートやスリップによる振動などの過渡的な振動の発生を抑制することができる多重PLL回路の構成を得る。
【解決手段】第2PLL21の第2位相比較回路24によって検出される位相差が所定範囲外である場合には、ループ加算器26を介さずに、第1PLL11を用いて第2PLL21のモータ部22を制御する一方、上記位相差が所定範囲内である場合には、上記ループ加算器26を介して上記第1PLL11と上記第2PLL21とを接続して多重PLL回路を構成するように、信号経路切換部33によって、該第1及び第2PLL11,12の信号経路を切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振部及び位相比較部を有する複数のフィードバックループが互いに接続されてなる位相同期回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、入力に応じて発振信号を出力する発振部と、該発振信号と入力信号との位相差を検出して該位相差に対応する信号を発振部へ出力する位相比較部と、を有するフィードバックループを備えた位相同期回路が知られている。このような位相同期回路は、例えば特許文献1や図16に示すように、回路101への入力信号と発振部102が出力する発振信号(図の例では分周器105からの出力信号)とを、位相比較部103で比較して、その比較結果に応じた出力を該発振部102へ入力するように構成されている。これにより、入力信号に対して上記発振部102から出力される信号の位相を合わせることができる、いわゆるPLL(Phase Locked Loop)を構成することができる。なお、上記図16において、符号104はループフィルタを示す。
【0003】
ところで、このような構成のPLL回路では、入力信号の周波数が一定の場合には、入力信号の位相と発振部102から出力される信号の位相とのずれをなくすことができるが、入力信号の周波数が変化する場合には、入力信号の位相と発振部102から出力される信号の位相とのずれをゼロにすることができない。また、上記PLL回路は、同期が外れている状態から入力周波数に出力周波数が引き込まれていく過程で、位相比較部における入力位相が追いついたり離れたりする挙動による衝撃、いわゆる引き込み振動が生じる。
【0004】
そのため、例えば上記特許文献1に示すように、入力信号の位相が変化しているとき(例えばモータの加速領域)には、フィードバック制御を用いた速度制御を行い、入力信号の位相が変化していないとき(一定速度領域)にはPLLによって制御を行うことが考えられている。
【0005】
一方、上述のような入力信号の周波数変化や引き込み振動にも対応できるように、上記PLL回路を2つ組み合わせた、いわゆる2重PLL回路も考えられている。この2重PLL回路は、例えば特許文献2や図17に示すように、一方のPLLが他方のPLLのフィードフォワード要素となっているため、高速追従を達成することができ、引き込み振動の発生期間を短縮することができる。さらに、入力信号の周波数と出力信号の周波数との同期が保たれている状態で、入力信号の周波数が加減しても位相差がゼロ近くに保たれるので、位相比較器の比較範囲から外れにくく、引き込み振動も生じにくくなる。
【0006】
すなわち、上記図17に示す2重PLL回路110の例では、図の上側のPLL111(以下、第1PLLという)の位相比較部112から出力された信号を、図の下側のPLL121(以下、第2PLLという)の位相比較部122から出力された信号をループフィルタ125で平滑化した信号に加算器126で加算し、その値を第2PLL121の発振部123に入力するように構成されている。こうすることで、上記第1PLL111の位相比較部112で検出された位相差を、上記第2PLL121の発振部123の入力側に反映させることができ、周波数変化に対しても応答性良く且つ精度良く位相差をゼロに近づけることができる。なお、上記図17において、符号113は第1PLL111の発振部を、符号114は第1PLL111の分周器を、符号124は第2PLL121の分周器を、それぞれ示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−12878号公報
【特許文献2】特開2008−147788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1に開示される構成のように、入力信号の位相が変化している場合(加速領域)にフィードバック制御による速度制御を行い、入力信号の位相が一定の場合(一定速度領域)にPLLによる制御を行う構成では、モータの回転速度を目標速度まで素早く引き込むことは可能だが、その際に、速度制御の制御系が3次であることに起因するオーバーシュートや位相を同期させる際のスリップによる振動などが発生してしまう。また、上記特許文献1に開示される構成では、1つのPLLしか有していないため、位相同期までに時間がかかるのに加えて、既述のとおり、位相同期した状態で入力信号の位相が変化すると、入力信号の位相変化に対して追従することができず、位相同期が外れて引き込み振動を生じる。
【0009】
一方、上記特許文献2に開示されるような2重PLL回路の構成は、いずれも、人工衛星等の高速移動体との通信装置や放送受信装置などのドップラシフト(周波数偏移)に対して定常偏差を無くす目的で用いられるものであるが、このような通信関係の装置だけでなく、加減速を生じるモータなどの駆動制御にも、上記2重PLL回路の構成を適用することが考えられる。このように、2重PLL回路をモータの駆動制御に用いることで、高速追従が可能になって迅速に位相同期を実現できるとともに、位相が同期した状態で入力信号の周波数が変化しても位相差がゼロ近くに保たれるため、引き込み振動は生じにくくなる。
【0010】
ところが、上述のような2重PLL回路をモータの駆動制御に用いた場合でも、第2PLL121が3次の制御系であるため、例えばステップ入力などのように入力信号の周波数が急激に変化すると、オーバーシュートや位相を同期させる際のスリップによる振動などが生じることになる。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、入力信号の周波数が変化するようなモータの駆動制御において、ステップ入力などのように入力信号の位相が急激に変化した場合でも、オーバーシュートやスリップによる振動などの過渡的な信号の発生を抑制することができる多重PLL回路の構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るモータ用位相同期回路では、入力信号の周波数の変化によって入出力信号の位相差が所定範囲外である場合には、第1フィードバックループを用いてモータ部の制御を行う一方、入力信号の位相差が所定範囲内の場合には、2重PLL回路を構成するようにした。
【0013】
具体的には、第1の発明では、入力に応じて発振信号を出力する発振部と、該発振信号と入力信号との位相差を検出して対応する信号を該発振部へ出力する第1位相比較部と、上記発振部の入力側に位置して該第1位相比較部の出力を平滑化する第1平滑部と、を有する少なくとも一つの第1フィードバックループと、入力に応じて回転制御され且つ回転子の回転位置を信号出力するモータ部と、該モータ部からの出力信号と入力信号との位相差を検出して対応する信号を該モータ部へ出力する第2位相比較部と、上記モータ部への入力を平滑化する第2平滑部と、を有する第2フィードバックループと、を備えているものとする。
【0014】
さらに、上記第2位相比較部によって検出される位相差が所定範囲外かどうかを判定する位相差判定部と、上記第1フィードバックループの第1位相比較部の出力と上記第2フィードバックループの第2位相比較部の出力とを加算する加算部と、上記位相差判定部によって位相差が所定範囲外であると判定された場合には、上記加算部を介さずに、上記第1フィードバックループを用いて上記第2フィードバックループのモータ部を制御する一方、上記位相差判定部によって位相差が所定範囲内であると判定された場合には、上記加算部を介して上記第1フィードバックループと上記第2フィードバックループとを接続して多重PLL回路を構成するように、該第1及び第2フィードバックループの信号経路を切り換える信号経路切換部と、を備えているものとする。
【0015】
以上の構成により、入力信号の周波数が変化して、第2フィードバックループの第2位相比較部で検出されるモータ部からの出力信号と入力信号との位相差が所定範囲外であると位相差判定部によって判定された場合には、第1フィードバックループを用いて第2フィードバックループのモータ部を制御することができる。このように、2次の制御系である第1フィードバックループを用いて第2フィードバックループ内のモータ部を駆動制御することで、該第2フィードバックループのような3次の制御系に起因する、オーバーシュートや位相を同期させる際のスリップなどの振動の発生を防止することが可能となる。
【0016】
一方、上述のように、上記位相差判定部によって、第2位相比較部で検出される位相差が所定範囲内であると判定された場合に、上記第1フィードバックループの第1位相比較部の出力を上記第2フィードバックループの第2位相比較部の出力に加算して多重PLL回路を構成することで、多重PLL回路による位相同期を迅速に実現することができる。
【0017】
したがって、上述の構成により、モータの駆動制御において、例えばステップ入力などのように入出力信号の位相差が所定範囲外となる加減速時には、オーバーシュートやスリップによる振動の発生を抑えて滑らかに加減速し、位相差が所定範囲内になったら、多重PLL回路によって入力信号の位相とモータ部の出力信号の位相とを迅速且つスムーズに同期させることが可能となる。
【0018】
ここで、上述のように、上記第1フィードバックループ及び第2フィードバックループにそれぞれ平滑部を設けることにより、モータ用の多重PLL回路を構成することができる。すなわち、アナログ回路の場合には、モータ部に負の値が入力されるとモータが逆方向に回転して破損する可能性があるが、上述のように第2平滑部をモータ部の入力側に設けることで、該モータ部に負の値が直接、入力されるのを防止することができ、モータの駆動制御が可能になる。しかも、上記第1平滑部を発振部の入力側に設けることで、該発振部及び上記モータ部の両方に平滑化された値を入力することができ、第1フィードバックループ及び第2フィードバックループを同様の構成にすることができる。よって、上記信号経路切換部による第1フィードバックループ及び第2フィードバックループの上述のような信号経路の切り換えが可能になる。
【0019】
上述の構成において、上記第1平滑部は、上記第1位相比較部によって検出された位相差に応じてゲインを変更する第1積分器を有していて、上記第2平滑部は、上記第1位相比較部及び第2位相比較部によって検出された位相差に応じてゲインを変更する第2積分器を有していて、上記信号経路切換部は、上記位相差判定部によって位相差が所定範囲外であると判定された場合に、上記第1位相比較部及び第2位相比較部から上記第2積分器への信号出力を停止するとともに、上記第1積分器の出力を上記第2フィードバックループに対して上記第2積分器の出力として信号入力するように上記信号経路を切り換えるものとする(第2の発明)。
【0020】
これにより、位相差判定部によって位相差が所定範囲外であると判定された場合には、第2フィードバックループでの第2平滑部の第2積分器への入力が停止されて、第1フィードバックループの第1平滑部の第1積分器から第2フィードバックループへ信号入力されるため、該第1フィードバックループを用いてモータ部を制御することが可能となる。すなわち、上述のような構成により、第2フィードバックループはフィードバックループとしては機能せずに、上記第1フィードバックループの出力が第2平滑部を介してモータ部へ入力される開ループが形成される。これにより、2次の制御系となるため、第2フィードバックループのような3次の制御系に起因するオーバーシュートやスリップ振動などの発生を防止できる。
【0021】
また、上記第1フィードバックループ及び第2フィードバックループにそれぞれ平滑部を設けることで、上述のように、第1フィードバックループの第1平滑部の第1積分器の出力を、そのまま、第2フィードバックループの第2平滑部の第2積分器の出力として流用できるため、上記第1フィードバックループを用いた上述のようなモータ制御が可能になる。
【0022】
また、上記第2平滑部の第2積分器は、入力される信号を記憶可能な記憶部を有していて、該記憶部は、上記信号経路切換部によって上記第1平滑部の第1積分器の出力が第2フィードバックループに信号入力されるように信号経路が切り換えられている場合に、該信号を記憶可能に構成されているのが好ましい(第3の発明)。
【0023】
こうすることで、第1フィードバックループの第1平滑部内の第1積分器から出力された信号を、第2フィードバックループにおける第2平滑部内の第2積分器の記憶部で記憶することができるため、信号経路切換部によって第1フィードバックループによる制御系から多重PLL回路に切り換えられる際に、スムーズに制御の切り換えを行うことができる。すなわち、上記第1フィードバックループによる制御の信号は、上記記憶部に記憶されているため、多重PLL回路に切り換わった場合でも該記憶部に記憶されている信号に基づいて第2フィードバックループ内でスムーズに位相同期制御を行うことができる。
【0024】
また、上記加算部は、上記第1位相比較部の出力と上記第2位相比較部の出力とを該各位相比較部における位相の進み遅れを考慮して加算することにより、該両位相比較部の位相差の総和を求めるように構成されているのが好ましい(第4の発明)。
【0025】
このように、加算部において第1位相比較部の出力と第2位相比較部の出力とを加算して位相差の総和を求めることで、該加算部から出力信号の位相が入力信号の位相に対してどれだけ遅れているかという信号を出力することができ、該加算部の出力信号に基づいて位相を同期させるようにモータ部を駆動制御することができる。これにより、精度良く位相同期を行う多重PLL回路を実現できる。
【0026】
さらに、上述の構成において、上記第1フィードバックループを1つ有する2重PLL回路であるのが好ましい(第5の発明)。こうすることで、構成部品の数が最も少なく且つ簡単な構成により、入力信号の周波数変化に対して、モータを位相差がほとんどゼロの状態で駆動制御することができる。したがって、上述の構成により、コンパクトなモータ駆動制御回路を実現することができる。
【0027】
第6の発明は、回転体を回転させるスピンドルモータに関する。具体的には、スピンドルモータは、上記モータ部の一部を構成するとともに、請求項1から5のいずれか一つに記載のモータ用位相同期回路を用いて駆動制御されることにより回転体を回転させるものとする。
【0028】
以上の構成により、モータによって回転体を回転させる際に、加速によってオーバーシュートやスリップなどの3次の制御系に起因する振動を生じることなく、且つ、目標速度に達すると多重PLL回路によって迅速に位相同期を行ってモータを回転させることができる。すなわち、上記第1から第5の発明のような構成をスピンドルモータの駆動制御に用いることにより、モータへの入力信号の周波数が急激に変化した場合でも、オーバーシュートやスリップによる振動等を生じることなく迅速且つ精度良く位相を同期させることができるため、高速且つ高精度なモータ制御を実現できる。
【0029】
上述の構成において、上記スピンドルモータは、上記回転体としての被検査体を回転させて該被検査体の検査を行う回転検査装置に用いられるのが好ましい(第7の発明)。このように、被検査体を回転させて該被検査体の振れや汚れなどを検出するための回転検査装置に上記スピンドルモータを用いることにより、モータの加速時におけるオーバーシュートの発生を抑えて迅速に一定速度に到達することができるため、検査時間の縮減が可能になる。
【0030】
また、人間が行うマスター側の操作に対してスレーブ側を連動させるマスタースレーブ方式のロボットの駆動部として用いられ、上記モータ用位相同期回路を用いて駆動制御されることにより、上記回転体としてのロボットの一部を回転動作させるように構成されているのが好ましい(第8の発明)。
【0031】
このように、マスタースレーブ方式のロボットの駆動を制御する場合に、上記モータ用位相同期回路を用いることで、位相の同期が外れるようなマスター側の急な動作に対しても、第1フィードバックループによるモータ制御によってスレーブ側を高速且つ正確に追従させることができる。しかも、マスター側の動作が、PLL回路での位相の同期が外れないようなゆるやかな加減速の場合には、2重PLL回路によって位相差がほぼゼロになって、位相スリップによる振動などの発生が防止される。
【0032】
したがって、マスタースレーブ方式のロボットの駆動制御に上記モータ用位相同期回路を用いることにより、マスター側の動きに対してスレーブ側を高速且つ高精度に追従させることができる。
【0033】
さらに、往復動により内燃機関の燃焼室内への気体の流出入を制御するように構成された弁体の駆動部として用いられ、上記モータ用位相同期回路を用いて駆動制御されることにより、上記回転体の回転を往復動に変換する変換機構を介して上記弁体を往復動させるように構成されているのが好ましい(第9の発明)。
【0034】
これにより、エンジンなどの内燃機関において、燃焼室内への気体の流出入を制御する弁体を可変速で動作させることが可能になる。しかも、該弁体を駆動するモータに上記スピンドルモータを用いることで、指令信号に対して弁体の動きを高速に且つ精度良く追従させることができる。すなわち、上述の構成により、指令信号が大きく変化してもそれに弁体の動きが高速に且つ精度良く追従できる可変バルブタイミングシステムを構成することができる。
【0035】
また、上述の構成により、弁体をスピンドルモータによって直接、駆動させることができるため、従来のようなクランクシャフトから弁体への伝動構造が不要になる。これにより、エンジン周りの構成を簡略化できるとともに、今までは配置できなかった狭い場所にエンジンを配置できるなどレイアウトの自由度の向上を図れる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、第2フィードバックループでの入出力信号の位相差が所定範囲外の場合に、第1フィードバックループを用いてモータ部を制御するようにしたため、3次の制御系に起因するオーバーシュートやスリップによる振動などの発生を防止できる。そして、上記位相差が所定範囲内の場合には、多重PLL回路に切り換えることで、迅速且つ高精度に位相同期を行うことができる。以上の構成により、モータの加減速による振動の発生を抑制して、高速且つ高精度にモータの駆動制御を行うことができる。
【0037】
また、第2の発明によれば、上記位相差が所定範囲外の場合に、第1フィードバックループの第1平滑部の第1積分器から第2フィードバックループに対して第2積分器の出力として信号出力するため、上記第1の発明のような第1フィードバックループを用いたモータ部の制御を実現できる。
【0038】
また、第3の発明によれば、上記第2積分器の記憶部において、第1積分器の出力が第2フィードバックループに入力されるように信号経路切換部によって信号経路が切り換えられている場合に信号が記憶されるため、スムーズに制御の切り換えを行うことができる。
【0039】
また、第4の発明によれば、第1位相比較部の出力と第2位相比較部の出力とを各位相比較部における位相の進み遅れを考慮して加算することにより、両位相比較部の位相差の総和を求めるような加算部を有しているため、精度良く位相同期を行う多重PLL回路を実現できる。
【0040】
また、第5の発明によれば、第1フィードバックループを1つ有する2重PLL回路とすることで、モータの駆動制御に用いる位相同期回路を簡単且つコンパクトな構成とすることができる。
【0041】
また、第6の発明によれば、上記第1から第5の発明の構成を有する位相同期回路を、回転体を回転させるスピンドルモータの駆動制御に用いることで、モータの回転を入力信号に対して精度良く追従させることのできるモータ駆動制御を実現できる。
【0042】
また、第7の発明によれば、上記スピンドルモータを、被検査体を回転させる回転検査装置に用いることで、該被検査体の検査を効率良く行うことができる。
【0043】
また、第8の発明によれば、上記スピンドルモータをマスタースレーブ方式のロボットの駆動制御に用いることで、マスター側の動作に対してスレーブ側を高速且つ高精度に追従させることができる。
【0044】
さらに、第9の発明によれば、上記スピンドルモータをエンジンの弁体の駆動制御に用いることで、指令信号に対して弁体の動きを高速に且つ精度良く追従させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る回転検査装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態1に係る位相同期回路の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、5状態PFDにおいて、(A)lag信号及びlead信号を出力する場合のタイムチャートの一例を、(B)5状態を判別する際に先に立ち上がりが検出される信号と各状態との相関図を、それぞれ示す図である。
【図4】図4は、ループ加算器において、(A)PFDからの信号入力の様子を示すブロック図を、(B)信号同士を加算する場合の計算例を、それぞれ示す図である。
【図5】図5は、2重PLL回路として動作する場合のブロック図である。
【図6】図6は、それぞれ、(A)所定の初期状態、(B)入力信号の周波数が高くなった場合(モータ加速中)、(C)入力信号の周波数が低くなった場合(モータ減速中)における、入力信号INに対する第1PLLの出力信号I及びエンコーダ出力信号IIの波形を模式的に示す図である。
【図7】図7は、それぞれ、(A)第1PLLのみの場合、(B)第2PLLのみの場合、(C)位相同期回路の場合において、入力信号に対する出力信号の位相をMATLABを用いて計算した結果を示す図である。
【図8】図8は、第1PLLを用いてフィードフォワード制御を行う場合のブロック図である。
【図9】図9は、それぞれ、(A)1重PLL回路の場合、(B)2重PLL回路の場合、(C)上記図2の回路の場合における速度ステップ応答を示す図である。
【図10】図10は、それぞれ、(A)1重PLL回路の場合、(B)2重PLL回路の場合、(C)上記図2の回路の場合における加速度過渡応答を示す図である。
【図11】図11は、従来の回転検査装置の動作を時間とモータ回転数との関係で表した図である。
【図12】図12は、本発明の実施形態1に係る回転検査装置の動作を示す図11相当図である。
【図13】図13は、本発明の実施形態2において、モータの回転速度が大きく変化する様子を示す図である。
【図14】図14は、本発明の実施形態3に係るマスタースレーブ方式のマニピュレータの概略構成を示す図である。
【図15】図15は、本発明の実施形態4に係るエンジンの概略構成を示す図である。
【図16】図16は、従来のPLLの回路例を示すブロック図である。
【図17】図17は、従来の2重PLLの回路例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0047】
《実施形態1》
−回転検査装置の構成−
本発明の実施形態1に係る位相同期回路10(モータ用位相同期回路)が用いられるモータ2を備えた回転検査装置1の全体構成を、図1に基づいて説明する。この回転検査装置1は、モータ2によって被検査体3(本実施形態では円盤状のディスク、以下、単にディスクともいう)を回転させて、該被検査体3の表面の傷や汚れ、回転時の振れなどを検出機構4によって検出するように構成されている。
【0048】
上記モータ2は、モータハウジング2a内に回転自在に支持された回転軸2bと、該回転軸2bを回転させる駆動部2cとを備えた、いわゆるスピンドルモータである。このモータ2は、特に図示しないが、上記回転軸2bに設けられたロータと上記モータハウジング2a内に設けられたステータとを有する上記駆動部2cで回転磁界を発生させて、該ロータを回転させることにより、上記回転軸2bに回転駆動力を与えるように構成されている。
【0049】
なお、上記モータ2の回転軸2bは、モータハウジング2aに設けられた軸受(図示省略)によって回転自在に支持されていて、その一方の端部は上記モータハウジング2aから外部へ突出している。この回転軸2bの突出端とは反対側には、該回転軸2bの回転を検出するためのロータリエンコーダ2dが、上記モータハウジング2a内に一部が埋め込まれるように配置されている。また、上記回転軸2bの突出端部には、上記被検査体3を固定するための略円盤状のチャックテーブル5が、該回転軸2bと同心で回転可能に接続されている。
【0050】
上記モータ2は、駆動制御装置6によって回転軸2bの回転制御が行われている。この駆動制御装置6は、モータ2の回転軸2bの回転を上記ロータリエンコーダ2dによって検出し、その検出結果に応じて上記モータ2の回転軸2bを回転駆動させるように構成されている。なお、詳しくは後述するように、上記駆動制御装置6は、指令信号としての入力信号の位相とモータ2の回転を検出するロータリエンコーダ2dの出力信号の位相とを同期させるための位相同期回路10を備えている。
【0051】
上記被検査体3は、例えばハードディスクの磁気ディスクなどに用いられる円盤状のディスクであって、平面視で中心に、上記チャックテーブル5の突起部5aに係合可能な大きさの穴部3aが形成されている。なお、上記被検査体3は、上述のような磁気ディスクに限らず、回転させて検査を行うものであれば、どのようなものであってもよい。
【0052】
上記検出機構4は、上記被検査体3の表面の傷や汚れ、回転時の振れなどを検出するためのものであり、例えば光源4aからレーザービームを出力して上記被検査体3で反射した光を受光器4bで受光するように構成されている。このように、受光器4bによって反射光を検出することにより、上記被検査体3上の傷や汚れ、回転時の振れなどを検出することができる。なお、上記検出機構4は、レーザービームを用いて被検査体3の表面状態を検出しているが、この限りではなく、回転している被検査体3の表面状態を検出できるような構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0053】
ここで、上記図1において、矢印はモータ2の回転軸2b及び被検査体3の回転方向を示している。
【0054】
−位相同期回路の構成−
次に、上記駆動制御装置6内の位相同期回路10の構成について、図2から図5及び図8に基づいて説明する。
【0055】
上記位相同期回路10は、デジタル信号に基づいて動作するデジタル回路であり、第1PLL11(第1フィードバックループ)及び第2PLL21(第2フィードバックループ)が入力信号(周波数fin)の入力側に対して並列に接続されてなる2重PLL回路(図5)と、上記第1PLL11のみが機能してモータ2をフィードフォワード制御(本発明における制御に対応)する開ループ制御系の回路(図8)と、に切り換え可能に構成されている。この位相同期回路10は、2重PLL回路の場合には、図5に示すように、第1PLL11及び第2PLL21で入力信号(位相θin)と出力信号(位相θ1’,θm’)との位相差φ1mを検出し、それらの位相差φ1mに基づいて上記第2PLL21で位相差φmがゼロになるようにモータ2を駆動制御する。一方、上記位相同期回路10が開ループ制御系の回路になる場合には、図8に示すように、上記第1PLL11で検出される位相差φ1に基づいてモータ2をフィードフォワード制御する。
【0056】
具体的には、上記第1PLL11は、図2、図5及び図8に示すように、入力される信号uf1に応じて所定の発振周波数(位相θ1)の信号を出力する発振器12(発振部)と、該発振器12の出力信号の周波数を入力信号の周波数のN倍にするための分周器13と、該分周器13の出力信号の位相θ1’と入力信号の位相θinとを比較して所定の信号を出力する第1位相比較回路14(第1位相比較部)と、該第1位相比較回路14から出力される信号を平滑化して上記発振器12へ出力するループフィルタ15(第1平滑部)と、を備えている。すなわち、上記第1PLL11は、第1位相比較回路14で検出される位相差φ1を、発振器12へフィードバックするように構成されている。
【0057】
上記発振器12は、入力信号に応じて出力信号の発振周波数が調整される、いわゆる数値制御発振器(NCO)である。このNCOは、後述する第2PLL21のモータ部22のゲインと略一致するようなゲインを有するように設定されている。
【0058】
上記分周器13は、該分周器13から出力する信号の周波数を該分周器13に入力される信号の周波数の1/Nにするように構成されている。これにより、上記第1PLL11において、位相比較回路14で位相差φ1がなくなるように上記発振器12がフィードバック制御されると、該発振器12の出力として入力信号のN倍の周波数の信号が得られることになる。
【0059】
上記第1位相比較回路14は、図5及び図8に示すように、入力信号の位相θinから出力信号の位相θ1’を減算する減算器14aと、該減算器14aから出力される信号に基づいて出力信号の位相の進み遅れに関する信号に変換する変換部14bとを備えている。すなわち、この第1位相比較回路14では、入力信号と出力信号との位相差φ1に基づいて、出力信号の位相が入力信号に対して進んでいるのか遅れているのかを判定し、その結果を信号出力するように構成されている。具体的には、上記第1位相比較回路14は、図2に示すように、出力信号の位相が入力信号に対して遅れている場合にはlag信号を、出力信号の位相が入力信号に対して進んでいる場合にはlead信号を、それぞれ出力するように構成されている。
【0060】
上記ループフィルタ15は、図2に示すように、比例器15a及び積分器15b(第1積分器)を有するPI型のフィルタによって構成されている。したがって、上記第1位相比較回路14から出力された信号は、ループフィルタ15の比例器15a及び積分器15bにそれぞれ入力されて信号処理された後、該ループフィルタ15内の加算器15cによって加算されて出力される。
【0061】
上記比例器15aは、いわゆるマルチプレクサを有していて、出力信号の位相が入力信号に対して遅れている場合(lag信号が出力されている場合)には、比例ゲインKpを増加させる一方、出力信号の位相が入力信号に対して進んでいる場合(lead信号が出力されている場合)には、比例ゲインKpを減少させるように構成されている。なお、上記比例器15aは、出力信号の位相と入力信号の位相とが一致している場合には機能しない。
【0062】
上記積分器15bは、いわゆるアップダウンカウンタからなり、出力信号の位相が入力信号に対して遅れている場合にはアップカウントする一方、出力信号の位相が入力信号に対して進んでいる場合にはダウンカウントするように構成されている。
【0063】
上記第2PLL21は、図2及び図5に示すように、入力される信号に応じて所定の回転数で回転するモータ2及びその回転数を検出するロータリエンコーダ2dを有するモータ部22と、該モータ部22の出力信号の周波数を入力信号の周波数のN倍にするための分周器23と、該分周器23の出力信号の位相θm’と入力信号の位相θinとを比較して所定の信号を出力する第2位相比較回路24(第2位相比較部)と、該第2位相比較回路24から出力される信号と上記第1PLL11の第1位相比較回路14から出力される信号とを加算するループ加算器26(加算部)と、該ループ加算器26から出力される信号を平滑化して上記モータ部22へ出力するループフィルタ25(第2平滑部)と、を備えている。すなわち、上記第2PLL21も、第2位相比較回路24で検出される位相差φmを、モータ部22へフィードバックするように構成されている。
【0064】
上記第2位相比較回路24は、図5に示すように、減算器24a及び変換部24bを備えていて、該減算器24aで出力信号と入力信号との位相差を求めて、その位相差に基づいて変換部24bで各信号を出力するように構成されている。また、この第2位相比較回路24は、入力信号と出力信号との位相差に基づいて5つの状態を検出し、そのうちの4つの状態で信号を出力する、いわゆる5状態PFD(Phase Frequency Detector)によって構成されている。具体的には、上記第2位相比較回路24は、図3に示すように、入力信号u1に対して出力信号u2の位相が遅れている場合には、その程度に応じてlagi信号またはlago信号を出力し、入力信号u1に対して出力信号u2の位相が進んでいる場合には、その程度に応じてleadi信号またはleado信号を出力するように構成されている。また、上記第2位相比較回路24は、入力信号u1に対して出力信号u2の位相が一致している場合(図3(B)のlock状態)には、信号出力しない。これにより、第2位相比較回路24によって、入力信号と出力信号との位相差を5つの状態として出力することができる。
【0065】
詳しくは、上記図3に示すように、上記第2位相比較回路24は、入力信号u1の基準となる立ち上がり部分(図中の”0”の部分)に対して出力信号u2の立ち上がりが遅い場合(図3(A)における(i)の場合)にはlagi信号またはlago信号を出力し、入力信号u1に対して出力信号u2の立ち上がりが早い場合(図3における(ii)の場合)にはleadi信号またはleado信号を、それぞれ出力する。また、上記第2位相比較回路24は、入力信号u1の基準となる立ち上がり部分から遅れ方向及び進み方向にそれぞれ1周期(位相で2π)以内のずれであれば、lagi信号またはleadi信号を出力し(図3(A)の(i)、(ii)における実線部分)、それ以上の位相のずれがあれば、lago信号またはleado信号を出力する(図3(A)の(i)、(ii)における破線部分)。
【0066】
例えば、上記第2位相比較回路24は、入力信号u1の立ち上がりが出力信号u2の立ち上がりよりも早ければ、lagi信号を出力し、出力信号u2の立ち上がりが検出されることなく次の入力信号u1の立ち上がりが検出された場合には、出力信号u2の位相が入力信号u1に対して2π以上、遅れているため、lago信号を出力する(図3(B)において右へ順に移動することになる)。
【0067】
逆に、出力信号u2の立ち上がりが入力信号u1の立ち上がりよりも早ければleadi信号を出力し、入力信号u1の立ち上がりが検出されることなく次の出力信号u2の立ち上がりが検出された場合には、出力信号u2の位相が入力信号u1に対して2π以上、進んでいるため、leado信号を出力する(図3(B)において左へ順に移動することになる)。
【0068】
ここで、入力信号u1に対して出力信号u2の位相差が1周期以内であれば、すなわち、上記第2位相比較回路24からlagi信号またはleadi信号が出力される場合は、ロックレンジ内(同期中、所定範囲内)の位相差であり、入力信号u1に対する出力信号u2の位相差がそれよりも大きければ、すなわち、上記第2位相比較回路24からlago信号またはleado信号が出力される場合は、ロックアウト(同期外れ、所定範囲外)状態となる位相差であるものとする。このような出力信号の位相差に基づく同期の判定は、後述するループフィルタ25内での信号経路の切り換えに利用される。
【0069】
なお、本実施形態では、上記第2位相比較回路24をいわゆる5状態PFDによって構成しているが、これに限らず、上記第2位相比較回路24をさらに細かく状態判別を行えるような構成にしてもよい。
【0070】
上記ループ加算器26は、図2に示すように、上記第1位相比較回路14及び第2位相比較回路24からそれぞれ出力されるlag信号及びlead信号を加算して3ビットの信号を出力するように構成されている。詳しくは、上記ループ加算器26では、図4(A)に示すように、上記位相比較回路14,24から出力されるlag信号(図4におけるlag1、lag2)を+1、lead信号(図4におけるlead1、lead2)を−1として、加算する。この結果、上記位相比較回路14,24から、lag信号及びlead信号として、図4(B)に示すような信号が出力されると、それらの加算結果は、左端のような値となる。これらの値を、最初の一桁が符号を表す符号付き二進法(一桁目が0であれが正、1であれば負)で表す場合には、最低3桁必要となるため、上述のように、ループ加算器26から3ビットの信号を出力する必要がある。なお、本実施形態では、上記ループ加算器26を3ビットの信号出力が可能な構成としているが、この限りではなく、4ビット以上の信号が出力できるような構成としてもよい。
【0071】
上記ループ加算器26を設けることによって、上記第1PLL11の第1位相比較回路14の出力と第2PLL21の第2位相比較回路24の出力とが加算される。これにより、該第1PLL11で検出した位相差φ1を、第2PLL21で考慮して、この位相差φ1もなくすように上記モータ部22を駆動制御することができる。
【0072】
なお、上記第2位相比較回路24からループ加算器26に入力される信号は、上述のように位相が進んでいるか遅れているかを表示するlag信号やlead信号であればよいため、上記図2に示すように、上記第2位相比較回路24の出力側には、lagi信号またはlago信号が出力された場合にlag信号を出力し、leadi信号またはleado信号が出力された場合にlead信号を出力するORゲート27,27が設けられている。
【0073】
上記ループフィルタ25は、上記第1PLL11のループフィルタ15と同様、比例器25aと積分器25b(第2積分器)とを備えたPI型のフィルタからなり、これらの比例器25a及び積分器25bから出力された信号は加算器25cによって加算されて出力されるように構成されている。
【0074】
上記積分器25bは、入力された信号を記憶する記憶部31と、該記憶部31内に上記ループ加算器26の出力を累積させるための加算器32と、該加算器32の出力と上記第1PLL11のループフィルタ15内の積分器15bの出力とを選択的に上記記憶部31へ入力する信号経路切換部33と、を備えている。上記積分器25bは、このような記憶部31及び加算器32を有していることから、累積器として機能する。
【0075】
上記信号経路切換部33は、出力信号の位相が入力信号に対してロックアウトの状態である場合に、上記第1PLL11のループフィルタ15内の積分器15bの出力を上記記憶部31へ入力させる(図2の状態)一方、出力信号の位相が入力信号に対してロックレンジ内である場合に、上記加算器32の出力を上記記憶部31へ入力させるように、信号経路を切り換える。すなわち、上記信号経路切換部33は、上記第2位相比較回路24からロックアウトに対応するlago信号及びleado信号の少なくとも一方が出力されると、信号経路を図2の状態に切り換えるように構成されている。そのため、上記第2PLL21は、上記第2位相比較回路24からlago信号及びleado信号の少なくとも一方が出力されたときに上記信号経路切換部33に対して信号入力されるように、ORゲート28を備えている。つまり、このORゲート28から出力される信号によって、出力信号の位相が入力信号に対してロックアウトの状態であるかどうかが分かる。したがって、上記ORゲート28によって本発明の位相差判定部が構成される。
【0076】
これにより、出力信号の位相が入力信号に対してロックアウトの状態であるときには、上記第1PLL11のループフィルタ15の積分器15bの出力が上記第2PLL21のループフィルタ25を介してモータ部22へ入力されるため、該第1PLL11によってモータ2をフィードフォワード制御することができる。一方、出力信号の位相が入力信号に対してロックレンジ内であるときには、上記加算器32の出力が第2PLL21のループフィルタ25の積分器25bへ入力されるため、位相同期回路10は2重PLL回路として動作する。
【0077】
上記記憶部31は、入力された信号を記憶するように構成されていて、2重PLL回路の場合には上記加算器32とともに累積器として機能とする一方、上記第1PLL11によるフィードフォワード制御の場合には該第1PLL11のループフィルタ15の積分器15bの出力信号を記憶する。このように、第1PLL11によってモータ2をフィードフォワード制御する場合に、上記記憶部31内にループフィルタ15の積分器15bの出力を記憶しておくことで、2重PLL回路に切り替わった場合に、該記憶部31内の信号を用いて第2PLL21でフィードバック制御することができる。したがって、上述の構成により、スムーズに制御を切り換えることが可能となる。
【0078】
なお、上記比例器25aは、上記第1PLL11のループフィルタ15の比例器15aと同様の構成なので、詳しい説明は省略する。また、上記モータ2及びロータリエンコーダ2dの構成については上述のとおりであり、上記分周器23の構成は、上記第1PLLL11の分周器13と同様なので、説明を省略する。
【0079】
さらに、上記図2において、符号29は、上記第2PLL21のループフィルタ25から出力された信号を用いてPWM信号を生成するためのコンパレータであり、符号30は、該コンパレータ29で比較される基準信号を出力するためのアップカウンタである。
【0080】
−位相同期回路の動作−
次に、上述のような構成を有する位相同期回路10の動作について図5から図10に基づいて説明する。
【0081】
上記位相同期回路10は、第2PLL21のループフィルタ25内の信号経路切換部33が信号経路を切り換えることによって、動作が大きく変化する。すなわち、上記位相同期回路10は、出力信号の位相が入力信号に対してロックレンジ内であれば(第2位相比較回路からlagi信号やleadi信号が出力されている場合、若しくは何も信号出力されていないlock状態)、図5に示すような2重PLL回路となる。一方、上記位相同期回路10は、出力信号の位相が入力信号に対してロックアウトの状態であれば(第2位相比較回路からlago信号やleado信号が出力されている場合)、図8に示すような開ループ制御系となる。
【0082】
(2重PLL回路)
まず、上記図5に示す2重PLL回路の動作について説明する。この2重PLL回路では、第1PLL11内で検出された発振器12の出力信号と入力信号との位相差φ1が第2PLL21に入力されて、該第2PLL21の第2位相比較回路24で検出された位相差φmとともに、モータ部22の駆動制御において考慮される。すなわち、上記第1PLL11の第1位相比較回路14から出力された信号ud1は、上記第2PLL21の第2位相比較回路24から出力された信号udmとループ加算器26で加算されて、ud1+udmの信号がループフィルタ25を介してモータ部22へ入力される。
【0083】
これにより、上記位相同期回路10において、上記第1PLL11で検出された位相差φ1を、上記第2フィードバックループ21に一種のフィードフォワードとして入力することができるため、モータ2の回転を入力信号に対して高速で且つ応答性良く同期させることができる。
【0084】
また、上記位相同期回路10には、上記第1PLL11の発振器12の入力側及び第2PLL21のモータ部22と加算器26との間(モータ部22の入力側)に、それぞれ、信号を平滑化するためのループフィルタ15,25(第1平滑部、第2平滑部)を設けることにより、加速度入力(sの次数3)に対して、上記位相同期回路10でのsの次数も3になるため、内部モデル原理に基づいて位相差をゼロにすることが可能となる。すなわち、上記ループフィルタ15,25によって、上記位相同期回路10の入力信号の位相θinが変化した場合(例えば、モータの加減速時など)でも、該入力信号との間で位相のずれをほとんど生じることなく、上記モータ部22のモータ2を駆動させることが可能となる。
【0085】
ここで、上述のような構成を有する位相同期回路10において、入力信号の周波数の変化に対して位相差をゼロにできる理由は、下式(1)、(2)によっても論理的に説明することができる。具体的には、上記位相同期回路10において、入力位相θinが(1)式で表されるとすると、定常位相偏差は(2)式によって表される。
【0086】
【数1】

【0087】
【数2】

【0088】
ここで、Rは周波数ランプすなわち加速を、Δωは周波数ステップを、Δθは位相ステップを、Kφは位相比較器14のゲインを、Koは発振器12のゲインを、Kmはモータゲインを、Nは周波数逓倍率を、τは位相進み時定数を、それぞれ示している。
【0089】
上記(2)式において、KoとKmとが等しい場合、すなわち、発振器12のゲインとモータ部22のゲインとが等しい場合には、定常位相偏差をゼロにすることができる。
【0090】
上記2重PLL回路の動作結果を図6及び図7に示す。すなわち、図6は、FPGA(Field Progammable Gate Array)で上記図5に示す2重PLL回路を実現し、入力信号INの周波数を変化させた場合における、第1PLL11の発振器12の出力信号I及び第2PLL21のモータ部22のエンコーダ出力信号IIの各信号波形の変化を示したものである。図7は、(A)第1PLL11のみ、(B)第2PLL21のみ、(C)上記図5に示す2重PLL回路の各構成において、位相指数(周波数ランプ)入力(モータの加減速を想定)に対する出力信号の過渡応答をMATLAB(Version 5.2.1.29215a(R11.1) September 2)によって計算した結果である。
【0091】
上記図6に示すように、所定の初期状態(図6(A)の場合)に対して、入力信号INの周波数を高くした場合(モータ加速中、図6(B)の場合)や、該入力信号INの周波数を低くした場合(モータ減速中、図6(C)の場合)には、第1PLL11の発振器12の出力信号は、入力信号に対して位相がずれるのに対し、第2PLL21のモータ部22のエンコーダ出力信号は、入力信号と位相がほぼ一致している。したがって、上記図2に示す位相同期回路10を備えた構成では、上記図6に示すように、入力信号の周波数が変化しても、上記位相同期回路10の2重PLL回路によってモータ部22の回転を高速で且つ精度良く入力信号に同期させることができる。
【0092】
このように、上記位相同期回路10によって出力信号の位相を入力信号の位相と同期させることができるのは、上記図7の計算結果からも明らかである。すなわち、この図7に示すように、第1PLL11のみや第2PLL21のみの場合(図7(A)、(B))には、位相が変化する入力信号(図中の実線)に対して追従することができず、出力信号(図中の破線)は入力信号に対して一致しないが、上記図5に示す2重PLL回路の場合(図7(C))には、位相が変化する入力信号(図中の実線)に対して出力信号(図中の破線)がかなりの割合で一致している。したがって、これらの計算結果からも、上記位相同期回路10の2重PLL回路によって出力信号の位相を入力信号の位相と高速に且つ精度良く同期させることが可能であることが分かる。
【0093】
(開ループ制御系)
次に、上記図8に示す開ループ制御系の動作について説明する。
【0094】
図8に示す開ループ制御系では、第1PLL11のループフィルタ15の積分器15bから第2PLL21のループフィルタ25の積分器25bへ信号を出力する(図2参照)。これらの第1PLL11及び第2PLL21には、それぞれ、ループフィルタ15,25が設けられているため、このように第1PLL11のループフィルタ15の積分器15bから出力された信号を第2PLL21のループフィルタ25の積分器25bへ入力することで、両PLL11,21のループフィルタ15,25の積分ゲインを同じゲインにすることができる。上述のとおり、上記第1PLL11では発振器12の出力信号と入力信号との位相差φ1が検出されるため、該第1PLL11の第1ループフィルタ15の積分器15bから第2PLL21の第2ループフィルタ25の積分器25bへ出力された信号によって、モータ部22は上記位相差φ1をなくすように駆動制御される。すなわち、上記開ループ制御系では、上記第1PLL11を用いてモータ部22をフィードフォワード制御するように動作する。
【0095】
これにより、出力信号の位相が入力信号に対してロックアウトの状態になって上記図8に示す開ループ制御系になった場合には、入力信号の位相変化に対して出力信号の位相を高速で追従させることが可能になる。しかも、上述の2重PLL回路における第2PLL21が3次の制御系であるのに対して、上記開ループ制御系は2次の制御系になるため、3次の制御系に起因する、オーバーシュートや出力信号の位相を入力信号に同期させる際に生じるスリップなどの振動が発生しないようにすることができる。
【0096】
このような効果は、図9及び図10に示すFPGAによる実験結果からも明らかである。ここで、図9及び図10では、FPGAを用いて、(A)1重PLL回路、(B)上記図5に示すような2重PLL回路(信号経路が切り替わらないもの)、(C)上記図2に示すような第1PLL11によるフィードフォワード制御と2重PLL回路とに切り換え可能な回路、をそれぞれ再現し、図9では速度ステップ入力に対する出力信号の応答を、図10では速度ランプ入力に対する出力信号の過渡応答を、それぞれ示している。
【0097】
すなわち、図9に示すように、速度ステップを入力すると、1重PLL回路ではオーバーシュートが大きく且つハンチングを生じていて(図9(A))、2重PLL回路でもオーバーシュート及びスリップによる振動が発生していることが分かる(図9(B))。これに対し、上述のように、出力信号の位相が入力信号に対してロックアウトの状態の場合には図8に示す開ループ制御系とする一方、出力信号の位相が入力信号に対してロックレンジ内であれば、上記図5に示すような2重PLL回路にすることで、図9(C)に示すように、オーバーシュートやスリップによる振動の発生もなく、第2PLL21の応答が第1PLL11の応答とほぼ一致している。
【0098】
この傾向は、上記図10に示す速度ランプの実験結果からも明らかである。1重PLL回路では振動が大きく且つ位相差が生じている(図10(A))一方、2重PLL回路の場合には位相差がないもののオーバーシュートや振動が発生している。これに対し、上述のように、出力信号の位相が入力信号に対してロックアウトの状態の場合には図8に示す開ループ制御系とする一方、出力信号の位相が入力信号に対してロックレンジ内であれば、上記図5に示すような2重PLL回路にすることで、図10(C)に示すように、オーバーシュートやスリップによる振動の発生もなく、第2PLL21の応答が第1PLL11の応答とほぼ一致している。
【0099】
すなわち、出力信号の位相が入力信号に対してロックアウトしている場合には、第1PLL11を用いたフィードフォワード制御によって入力信号に対して高速且つ高精度で追従しつつ、出力信号の位相が入力信号に対してロックレンジ内であれば、2重PLL回路によって迅速に位相同期を行うことができる。これにより、位相が急激に変化するステップ入力に対しても、高速且つ高精度にモータ2を追従させることが可能となる。
【0100】
−回転検査装置の動作−
上述のような構成を有する回転検査装置1の動作について、図11及び図12に基づいて以下で説明する。
【0101】
上記回転検査装置1は、上述のとおり、検査対象であるディスク3などをモータ2によって回転させて、該ディスク3の傷や汚れ、回転時の振れなどを検出機構4によって検出するものである。そのため、上記回転検査装置1では、検出機構4によってディスク3の表面状態の検出を行う際に、該ディスク3が、入力信号と位相同期した状態で一定回転数で回転することが求められる。
【0102】
したがって、従来のPLL回路を用いた駆動制御装置では、図11に示すように、モータの加減速時には、一般的な速度制御(フィードバック制御)を用いてモータの制御を行い、モータが所定の一定速度に到達したときに、PLL回路を用いてモータの回転速度制御を行うようにしていた。
【0103】
そのため、従来の回転検査装置では、検査の効率の向上を図るために、モータの加減速時の時間短縮などの対策を行っているが、この場合には、モータのトルクアップや供給する電力を増大させる必要があり、モータサイズの増大や発熱量の増加など、多くのデメリットが生じることになる。
【0104】
これに対して、上述のような構成を有する回転検査装置1では、モータ2の加減速時、すなわち入力信号の周波数が変化する場合でも該入力信号の位相と出力信号の位相とを同期させることができるとともに、入力信号に対して高速追従可能な位相同期回路10を有しているため、図12に示すように、停止領域以外はPLL制御を用いてモータ2を駆動させることができる。これにより、モータ2が一定速度に到達する際に生じるオーバーシュートを抑えることができ、その分、該モータ2が一定回転数に到達する時間を短縮することが可能となる(図12中の破線は、図11の場合のモータ回転数の変化)。
【0105】
しかも、上記位相同期回路10を用いることで、モータ2を急激に加速した場合、すなわち、入力信号の周波数を位相同期が外れるような変化をさせた場合でも、第1PLL11によるフィードフォワード制御によって追従することができ、その後、2重PLL回路に切り換えることでスムーズに位相同期できるため、モータ2をより加速させて迅速に一定速度に到達させることが可能になる。
【0106】
したがって、従来に比べて検査時間を大幅に縮減することができ、効率良く検査を行うことができる。
【0107】
−実施形態1の効果−
以上より、本実施形態によれば、位相同期回路10を、入力信号に対する出力信号の位相差がロックレンジ内であれば、2重PLL回路として動作させる一方、出力信号の位相差がロックアウトの状態であれば、第1PLL11を用いてモータ2をフィードフォワード制御するように構成したため、2重PLL回路を用いても位相の同期が外れるような急激な入力信号の位相変化に対しても、第1PLLのフィードフォワード制御によって高速且つ高精度に出力信号の位相を入力信号に追従させることが可能となる。そして、入力信号に対する出力信号の位相差がロックレンジ内になると、2重PLL回路によって迅速に位相同期を行うことができる。
【0108】
これにより、ステップ入力などの急激な入力信号の位相変化に対して、高速且つ精度良く出力信号の位相を追従させることができるとともに、このときの制御系が2次の制御系であることから、3次の制御系の場合に生じる、オーバーシュートや位相を同期させる際のスリップによる振動の発生を抑制することが可能になる。
【0109】
したがって、上記位相同期回路10を用いることで、どのような入力信号に対しても出力信号の周波数を入力信号に対して高速且つ高精度に追従させることができ、モータ2を精度良く駆動制御することができる。
【0110】
また、上記位相同期回路10において、第2PLL21のループフィルタ25の積分器25cに記憶部31を設けて、第1PLL11によるモータ2のフィードフォワード制御の際の信号を該記憶部31に記憶することで、2重PLL回路へ切り換える際に、スムーズに制御を切り換えることができる。
【0111】
さらに、上記位相同期回路10をデジタル回路とすることで、入力信号に対する出力信号の位相差に応じて制御を切り換え可能な位相同期回路10を容易に構成することができる。
【0112】
さらにまた、上述のような構成を有する位相比較回路10を、ディスク3を検査するための回転検査装置1に適用することで、加減速時でも殆ど振動なく入力信号に対して出力信号の位相を精度良く追従させることができるため、迅速に一定速度にすることができる。したがって、従来に比べて検査時間を大幅に短縮することが可能となり、効率良く検査を行うことができる。
【0113】
《実施形態2》
この実施形態2は、上記実施形態1のような回転検査装置以外の装置に組み込まれたスピンドルモータを駆動するための駆動制御装置に、上記位相同期回路10を適用する点が、該実施形態1とは異なる。以下の説明において、上記実施形態1と同一の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ説明する。
【0114】
具体的には、加工機や糸等の巻取り装置など、スピンドルモータを周速一定制御に用いる場合に上記位相同期回路10を適用する。なお、以下では、巻取り装置に該位相同期回路10を適用する場合について説明するが、この巻取り装置の構成は一般的に知られている巻取り装置の構成と同じであるため、構成の説明については省略する。
【0115】
ここで、例えば、従来の巻取り装置では、回転体の加減速時と該回転体が所定の回転速度に到達した後とで速度制御を切り換えるとともに、該所定の回転速度到達後の場合には巻取り部分の径に応じて回転速度を変化させる線速度一定制御を行うようにしている(例えば特開昭63−101279号公報)。
【0116】
しかしながら、このような制御の切り換えは、制御装置の構成や制御が複雑になるため、あまり好ましくない。しかも、上述の線速度一定制御では、巻取り部分の径の変化に対して回転速度の変動がPLL制御に比べて大きくなるため、回転速度の精度があまり良くない。また、上記巻取り装置に一重PLL制御を適用することも考えられるが、既述のとおり、一重PLLの構成制御では、入力信号の周波数が変化する場合の回転体の速度の追従性があまり良くない。
【0117】
これに対し、巻取り装置に上記位相同期回路10を適用することにより、巻取り部分の径の変化に対して回転体の速度を精度良く追従させることができる。すなわち、巻取り部分の径の変化が急で且つ大きいときや回転体の加減速時など、モータに対して入力信号の周波数が大きく変化する場合でも、上記位相同期回路10によるPLL制御によって入力信号の周波数変化に回転体の速度を精度良く追従させることができる。したがって、巻取り装置において、巻き崩れることなく回転体上に糸などを短時間で精度良く巻き取ることができる。しかも、回転体の加減速時と所定の回転速度到達後とで制御を切り換える必要もなくなるため、モータの制御装置の構成や制御を単純化することができる。
【0118】
なお、上述のような作用効果は、巻取り装置の場合だけでなく、加工機や回転検査装置以外の検査装置に組み込まれるスピンドルモータなどに上記位相同期回路10を適用した場合にも同様に得られる。すなわち、図13に示すように、入力信号の周波数が位相同期が外れるくらい大きく変化する場合にも、上記位相同期回路10を用いることで、入力信号に対してモータを精度良く追従させることができる。したがって、入力信号に対して高速且つ高精度に追従するようなモータの駆動制御を実現することができる。
【0119】
−実施形態2の効果−
以上より、本実施形態によれば、上記位相同期回路10を巻取り装置のスピンドルモータの駆動制御に適用することで、巻取り部分の径の変化に対して回転体の速度を精度良く追従させることができるため、巻き崩れることなく該回転体上に糸などを精度良く巻き取ることができる。
【0120】
また、上記位相同期回路10を巻取り装置以外の装置のスピンドルモータの駆動制御に適用した場合でも、該スピンドルモータの回転を入力信号に対して高速且つ高精度に追従させることができる。
【0121】
《実施形態3》
この実施形態3は、上記位相同期回路10を、人間によるマスター側の操作に応じてスレーブ側を連動させるマスタースレーブ方式のロボットの駆動部としてのスピンドルモータに適用する点で、上記実施形態1とは異なる。以下の説明において、上記実施形態1と同一の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ説明する。
【0122】
図14に、マスタースレーブ方式のロボットの一例としてマニピュレータ40を示す。このマニピュレータ40は、マスター側のアーム43の動きに応じて駆動制御されるスレーブ側のアーム41を備えている。すなわち、上記マニピュレータ40では、上記マスター側のアーム43とスレーブ側のアーム41との間で信号を送受信していて、該マスター側のアーム43によってスレーブ側のアーム41を遠隔操作可能なように構成されている。そして、このスレーブ側のアーム41の肩及び肘の関節における回転駆動装置として用いられるスピンドルモータ42の駆動制御に上記位相同期回路10を適用する。
【0123】
こうすることで、出力信号の位相が入力信号に対してずれるような、すなわちPLL回路による位相のロックが外れるようなマスター側アーム43の急な動作に対しても、既述のとおり、第1PLL11によってスレーブ側アーム41のモータ42がフィードフォワード制御されるため、マスター側アーム43の動きにスレーブ側アーム41を高速且つ高精度に追従させることができる。
【0124】
−実施形態3の効果−
以上より、本実施形態によれば、マスタースレーブ方式のロボットの駆動制御に上記位相同期回路10を用いることにより、マスター側アーム43のどのような動作に対してもスレーブ側アーム41を高速且つ正確に追従させることができる。
【0125】
《実施形態4》
この実施形態4は、上記位相同期回路10を、エンジンなどの内燃機関の燃焼室内に気体を流出入させるためのバルブを駆動するスピンドルモータに適用する点で、上記実施形態1とは異なる。以下の説明において、上記実施形態1と同一の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ説明する。
【0126】
図15に、エンジン50の吸気バルブ51及び排気バルブ52(弁体)を駆動するスピンドルモータの制御に上記位相同期回路10を用いた場合の一例を示す。この図15の例では、エンジン50の燃焼室50aに気体を流出入させるための吸気バルブ51及び排気バルブ52に対し、モータ53,54(スピンドルモータ)が、クランク機構55,56を介して駆動連結されている。すなわち、上記エンジン50では、モータ53,54が回転すると、その回転運動を、該エンジン50のシリンダーブロックに対して移動可能なスライダ55a,56aを有するクランク機構55,56が往復動に変換して、吸気バルブ51及び排気バルブ52を開閉させる。特に図示しないが、上記モータ53,54には、該モータ53,54の回転を検出するためのエンコーダが設けられている。また、上記図15において、符号50bはピストン、50cはクランクシャフトを、それぞれ示している。
【0127】
ここで、上記モータ53,54が、本発明の駆動部を構成していて、該モータ53,54の回転軸に連結されて該回転軸とともに回転するクランク機構55,56の一部が、本発明の回転体を構成している。
【0128】
なお、上記モータ53,54を用いて吸気バルブ51及び排気バルブ52を駆動させる構成としては、上述のようなクランク機構55,56を用いた構成に限らず、モータ53,54の回転を吸気バルブ51及び排気バルブ52の往復動に変換可能な構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0129】
上記モータ53,54の駆動制御は、上記位相同期回路10を用いて行われる。具体的には、上記図15の左上に示すように破線から実線へ吸気バルブ51の開閉タイミング(開閉時期及び弁リフト量)を変化させる場合、その変化を信号変換部61で指令信号に変換して、上記位相同期回路10を含む位相同期制御部62に入力する。この位相同期制御部62には、上記吸気バルブ51を駆動させるモータ53のエンコーダから出力される出力信号も入力される。そして、上記位相同期制御部62において、指令信号の周波数が変化してもモータ53の出力信号をそれに精度良く追従させることができるような駆動信号が、モータドライバ63を介してモータ53へ入力される。上記排気バルブ52を駆動させるモータ54についても、上記モータ53と同様に駆動制御される。
【0130】
−実施形態4の効果−
以上より、この実施形態によれば、エンジン50の吸気バルブ51及び排気バルブ52をモータ53,54によって駆動し、該モータ53,54の制御に上記位相同期回路10を用いることで、指令信号に対してモータ53,54の回転を高速且つ正確に追従させることができる。したがって、要求されるバルブ開閉時期及びバルブリフトに応じて、吸気バルブ51及び排気バルブ52を精度良く駆動させることができる。
【0131】
また、上述の構成により、吸気バルブ51及び排気バルブ52は、それぞれ、モータ53,54によって直接、駆動されるため、クランクシャフトの回転によって各バルブ51,52を駆動させる従来のバルブ開閉機構で必要だった部材が不要になる。具体的には、従来の構成では、クランクシャフトの回転をチェーンを介してカムに伝達し、該カムの回転によって吸気バルブ及び排気バルブを押し下げていたが、該クランクシャフトから各バルブ51,52までの各伝動部材(チェーンやカムなど)が不要になるとともに、該各バルブを押し上げるためのバルブスプリングも不要になる。
【0132】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0133】
上記実施形態では、位相同期回路10を、2つのPLL11,21を組み合わせた2重PLL回路としているが、この限りではなく、複数のPLLの構成が組み合わされた多重PLL回路であってもよい。なお、この場合には、上記実施形態において、第2PLL21に並列に接続される第1PLLの数を増やすようにすればよい。こうすることで、各第1PLLでの計算負荷を減少させることができる。また、上記の場合には、入出力信号の位相差がロックアウトの状態のときには、複数の第1PLL11のうち一つの第1PLL11を用いてフィードフォワード制御を行うようにすればよい。
【0134】
上記実施形態では、発振器12及びモータ部22の出力側に、分周器13,23を設けているが、この限りではなく、分周器13,23を設けなくてもよい。
【0135】
また、上記実施形態では、信号を平滑化するためにループフィルタ15,25を用いているが、この限りではなく、信号を平滑化できる手段であればどのようなものであってもよい。
【0136】
また、上記実施形態では、上記位相同期回路10は、デジタル回路として構成されているが、この限りではなく、アナログ回路として構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0137】
以上説明したように、本発明は、モータを駆動制御する際に用いられる位相同期回路に特に有用である。
【符号の説明】
【0138】
1 回転検査装置
2 モータ(スピンドルモータ)
3 被検査体
4 検出機構
6 駆動制御装置
10 位相同期回路(モータ用位相同期回路)
11 第1PLL(第1フィードバックループ)
12 発振器(発振部)
13、23 分周器
14 第1位相比較回路(第1位相比較部)
15 ループフィルタ(第1平滑部)
15a 比例器
15b 積分器(第1積分器)
15c 加算器
21 第2PLL(第2フィードバックループ)
22 モータ部
24 第2位相比較回路(第2位相比較部)
25 ループフィルタ(第2平滑部)
25a 比例器
25b 積分器(第2積分器)
25c 加算器
26 ループ加算器(加算部)
27 ORゲート
28 ORゲート(位相差判定部)
31 記憶部
33 信号経路切換部
40 マニピュレータ
41 スレーブ側アーム(スレーブ側)
42 スピンドルモータ
43 マスター側アーム(マスター側)
50 エンジン(内燃機関)
50a 燃焼室
51 吸気バルブ(弁体)
52 排気バルブ(弁体)
53、54 モータ(スピンドルモータ)
55、56 クランク機構(変換機構)
101、110 位相同期回路
102、113、123 発振部
103、112、122 位相比較部
104、125 ループフィルタ
105、114、124 分周器
111 第1PLL
121 第2PLL
126 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力に応じて発振信号を出力する発振部と、該発振信号と入力信号との位相差を検出して対応する信号を該発振部へ出力する第1位相比較部と、上記発振部の入力側に位置して該第1位相比較部の出力を平滑化する第1平滑部と、を有する少なくとも一つの第1フィードバックループと、
入力に応じて回転制御され且つ回転子の回転位置を信号出力するモータ部と、該モータ部からの出力信号と入力信号との位相差を検出して対応する信号を該モータ部へ出力する第2位相比較部と、上記モータ部への入力を平滑化する第2平滑部と、を有する第2フィードバックループと、
上記第2位相比較部によって検出される位相差が所定範囲外かどうかを判定する位相差判定部と、
上記第1フィードバックループの第1位相比較部の出力と上記第2フィードバックループの第2位相比較部の出力とを加算する加算部と、
上記位相差判定部によって位相差が所定範囲外であると判定された場合には、上記加算部を介さずに、上記第1フィードバックループを用いて上記第2フィードバックループのモータ部を制御する一方、上記位相差判定部によって位相差が所定範囲内であると判定された場合には、上記加算部を介して上記第1フィードバックループと上記第2フィードバックループとを接続して多重PLL回路を構成するように、該第1及び第2フィードバックループの信号経路を切り換える信号経路切換部と、を備えていることを特徴とするモータ用位相同期回路。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ用位相同期回路において、
上記第1平滑部は、上記第1位相比較部によって検出された位相差に応じてゲインを変更する第1積分器を有していて、
上記第2平滑部は、上記第1位相比較部及び第2位相比較部によって検出された位相差に応じてゲインを変更する第2積分器を有していて、
上記信号経路切換部は、上記位相差判定部によって位相差が所定範囲外であると判定された場合に、上記第1位相比較部及び第2位相比較部から上記第2積分器への信号出力を停止するとともに、上記第1積分器の出力を上記第2フィードバックループに対して上記第2積分器の出力として信号入力するように上記信号経路を切り換えることを特徴とするモータ用位相同期回路。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ用位相同期回路において、
上記第2平滑部の第2積分器は、入力される信号を記憶可能な記憶部を有していて、
上記記憶部は、上記信号経路切換部によって上記第1平滑部の第1積分器の出力が第2フィードバックループに信号入力されるように信号経路が切り換えられている場合に、該信号を記憶可能に構成されていることを特徴とするモータ用位相同期回路。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のモータ用位相同期回路において、
上記加算部は、上記第1位相比較部の出力と上記第2位相比較部の出力とを該各位相比較部における位相の進み遅れを考慮して加算することにより、該両位相比較部の位相差の総和を求めるように構成されていることを特徴とするモータ用位相同期回路。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のモータ用位相同期回路において、
上記第1フィードバックループを1つ有する2重PLL回路であることを特徴とするモータ用位相同期回路。
【請求項6】
上記モータ部の一部を構成するとともに、請求項1から5のいずれか一つに記載のモータ用位相同期回路を用いて駆動制御されることにより回転体を回転させることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項7】
請求項6に記載のスピンドルモータにおいて、
上記モータ用位相同期回路を用いて駆動制御されることにより上記回転体としての被検査体を回転させて該被検査体の検査を行う回転検査装置に用いられることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項8】
請求項6に記載のスピンドルモータにおいて、
人間が行うマスター側の操作に対してスレーブ側を連動させるマスタースレーブ方式のロボットの駆動部として用いられ、
上記モータ用位相同期回路を用いて駆動制御されることにより、上記回転体としてのロボットの一部を回転動作させるように構成されていることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項9】
請求項6に記載のスピンドルモータにおいて、
往復動により内燃機関の燃焼室内への気体の流出入を制御するように構成された弁体の駆動部として用いられ、
上記モータ用位相同期回路を用いて駆動制御されることにより、上記回転体の回転を往復動に変換する変換機構を介して上記弁体を往復動させるように構成されていることを特徴とするスピンドルモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2011−66994(P2011−66994A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214567(P2009−214567)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】