説明

ラジアルころ軸受及びラジアルころ軸受装置

【課題】外輪の軌道形状を良好にして針状ころの回転むらをなくし、異音が発生しないラジアルころ軸受を提供する。
【解決手段】鋼板を曲げて円筒状に形成された1つ割りの外輪6と、外輪6の内側に転動可能に配置され、周方向に所定間隔で並ぶ複数の針状ころ7と、これら針状ころ7を保持する保持器8とを有し、外輪6の加工時に発生する内側に突出する凸部の外輪周方向の巾を、隣り合う少なくとも2つの針状ころ7が載るような大きさにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車等のステアリング装置に用いるステアリングコラム用軸受装置等におけるラジアルころ軸受及びラジアルころ軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ステアリングホイールとユニバーサルジョイントとの間にステアリングシャフトが連結された自動車のステアリング装置においては、運転者が操作するステアリングホイールの動きをステアリング機構に伝達させるため、車体側に支持されるステアリングコラムと、このステアリングコラムの内側に挿通されたステアリングシャフトと、ステアリングシャフトをステアリングコラムに支持するステアリングコラム用軸受装置とを備える。
【0003】
このステアリングコラム用軸受装置は、ステアリングコラムの内周面に嵌合される環状ケースと、この環状ケースに収納されてステアリングコラムにステアリングシャフトを支持するころ軸受とを備える。
このころ軸受は、外輪と、複数のころと、これらのころを保持する保持器とを備えている。
環状ケースはゴム等の弾性材からなり、外輪の周囲に設けられる円筒状本体部と、この円筒状本体部の両端から径内方に形成された円筒状フランジ部とからなり、内周面に開口する環状の軸受用の環状凹部が形成されている。
そして、環状ケースは、環状凹部内にころ軸受を収納した状態で、ステラリングコラムの内周面に圧入されている。
ゴム等の弾性材から構成された環状ケースの圧縮弾性予圧作用で、外輪を介して針状ころがステアリングシャフトに対して常に押し付けられ、ステアリングシャフトのステアリングコラム内での径方向のがたつきを防止して、ステアリングホイールの操作性を向上させている。(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−111082号公報(第3頁、第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のステアリングコラム用軸受装置の場合、ゴム等の弾性材から構成された環状ケースの圧縮弾性予圧作用で、針状ころはステアリングシャフトと外輪に対して常に押し付けられているので、外輪の軌道形状が悪いと針状ころの回転調子が悪くなり、それがステアリングホイールの操舵感としてダイレクトに伝わり操舵フィーリングを悪化させるという問題が生じていた。
そこで、本発明はかかる点に着目して、外輪の軌道形状を良好にして針状ころの回転むらをなくし、異音が発生しないラジアルころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るラジアルころ軸受は、鋼板を曲げて円筒状に形成された1つ割りの外輪と、外輪の内側に転動可能に配置され、周方向に所定間隔で並ぶ複数のころと、これらころを保持する保持器を有するラジアルころ軸受において、前記外輪の加工時に発生する内側に突出する凸部の外輪周方向の巾を、隣り合う少なくとも2つの前記ころが載るような大きさにしたものである。
また、本発明に係るラジアルころ軸受装置は、前記記載のラジアル軸受の外輪の外周に、弾性材で構成された環状の軸受収納ケースを外嵌して構成したものである。
さらに、ラジアルころ軸受装置は、前記記載のラジアル軸受の前記保持器の外径寸法を前記外輪と前記保持器の外径面との間に隙間が形成されるように設定したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るラジアルころ軸受においては、円筒状に形成された1つ割りの外輪の加工時に発生する内側に突出する凸部の外輪周方向の巾を、隣り合う少なくとも2つの前記ころが載るような大きさにしたので、一つのころが凸部を乗り越え終わる前に隣り合う次のころが当該凸部を上り始める場合には、ころが凸部を乗り上げる高さが実質的に減り、ころの凸部に対する乗り越え感が減少し、ころの回転むらが少なくなり、異音の発生も減るという効果がある。
また、本発明に係るラジアルころ軸受装置においては、前記記載のラジアル軸受の外輪の外周に、弾性材で構成された環状の軸受収納ケースを外嵌して構成したので、ラジアルころ軸受を収納した状態で軸受収納ケースをステアリングコラムの内周面に圧入し、ラジアルころ軸受装置を例えばステアリングコラム用軸受装置として使用した場合に、弾性材で構成された軸受収納ケースの圧縮弾性予圧作用で、外輪を介してころが軸であるステアリングシャフトに対して常に押し付けられ、ころの回転むらも少ないため、良好な操舵フィーリングが得られる。
さらに、ラジアルころ軸受装置は、前記記載のラジアル軸受の前記保持器の外径寸法を外輪と保持器の外径面との間に隙間が形成されるように設定したので、外輪の内周面に対する保持器の外径面の摺動抵抗がなく、ころのころ公転と共に保持器がスムーズに回転し、円周方向のがた感の発生を抑制する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1のステアリングコラム用軸受装置を示す断面図、図2は同ステアリングコラム用軸受装置の外輪の正面図、図3は同ステアリングコラム用軸受装置の外輪の製作過程を示す説明図、図4は同ステアリングコラム用軸受装置の外輪ところとの関係を示す断面図である。
図において、ステアリング装置は円筒状のステアリングコラムである軸箱1と、この軸箱1の内側に挿通されたステアリングシャフトである軸2と、軸2を軸箱1に支持するステアリングコラム用軸受装置3とを備える。
【0008】
このステアリングコラム用軸受装置3は、軸箱1の内周面に嵌合された環状の軸受収納ケース4と、この軸受収納ケース4に収納されて軸2を支持するラジアル軸受としてのラジアル針状ころ軸受5とを備える。
環状の軸受収納ケース4は、圧肉円筒状の例えばゴムや樹脂等の弾性材で構成され、外輪6の周囲に設けられる軸方向に円筒状で且つ半径方向の肉厚が軸方向に沿って均等に形成された円筒状本体部4aと、この円筒状本体部4aの軸方向両端から径内方に延出する円環状フランジ部4bとからなり、内周面に開口する環状の軸受収納用の環状凹部4cが形成されている。
ラジアル針状ころ軸受5は、鋼板から薄肉円筒状に形成された1つ割りの外輪6と、外輪6の内周面側に組み込まれ、軸受鋼からなる複数のころとしての針状ころ7を保持する鋼板や樹脂等からなる保持器8とを備えて構成されている。6aは外輪6の割り部のスリットである。このスリット6aは図2に示す如く、割部に段差が生じたときに径方向のがたを針状ころ7に与えるという悪影響を少なくするために、外輪6の幅方向に対して斜行して形成されている。
なお、ステアリングコラム用軸受では通常ころ直径は1.8〜3.5mm程度、ころ本数は10〜40本程度である。
そして、軸箱1にラジアル針状ころ軸受5を収納した弾性材で構成された軸受収納ケース4を圧入した後は、軸受収納ケース4のゴムの圧縮弾性予圧作用により、外輪6を介して針状ころ7は常に軸1に押し付けられ、針状ころ7と軸1との隙間が0(以下、「ラジアル隙間が0」という)となることによって、針状ころ7の径方向のがたが抑えられる。
【0009】
次に、本実施の形態1に使用されるラジアル針状ころ軸受5の外輪6の製作方法について説明する。
先ず、1枚の鋼板10を例えば4つの外輪6が得られるように、図3に示す如く、帯状鋼板11を間隔を置いて並べ、中央部に連結部12を残存させた形状にプレス機により打ち抜く。ステアリングコラム用軸受では、通常板厚は0.4〜1.0mm程度である。
次に、成形機で各帯状鋼板11を割り部の合わせ面が互いに合わさるように円筒形に曲げ加工する。
最後に、前記連結部12を切除して、円筒形に曲げ加工された各帯状鋼板11を相互に切り離して外輪6を形成し、その外輪6に硬化熱処理を加えて製作が完了する。
【0010】
上記のように、外輪6を製作する場合、各帯状鋼板11を割り部の合わせ面が互いに合わさるように円筒形に曲げ加工する際に、各帯状鋼板11の中央部分は連結部12で連結されているため、各帯状鋼板11の連結部12の両側近傍が拘束されて変形するから、図3に示すように、各帯状鋼板11の中央部分で連結部12の両側に位置する箇所13にそれぞれ内側に向けて突出する凸部が形成され、即ち図4に示すように、外輪6の内径面に中心に向けて突出する凸部14が形成されることとなる。その外輪6の内径面に形成される凸部14の高さは、外輪内径が20〜60mm程度のステアリングコラム用軸受では、通常数十μmである。なお、前記凸部14は連結部12の両側近傍に2つ形成され易いが、板厚や板材質、外輪径、連結部形状などの条件により、個数や大きさが異なる場合がある。
従って、ラジアル針状ころ軸受5に内径面に凸部14を有する外輪6を使用した場合、このうちの一つの凸部14に注目すると、針状ころ7が外輪6の凸部14に乗り上げるため、針状ころ7の回転調子が悪くなる。
なお、凸部14の外輪周方向巾とは、外輪6の内径が真円とした場合の仮想円より内径側に突出する凸部14の周方向一端から他端までを意味する。
【0011】
このように外輪6の内径面に形成される凸部14に1つの針状ころ7が凸部14の一側から他側へと乗り上げると、針状ころ7の凸部14に対する乗り越え感が発生する。
しかし、針状ころ7が凸部14を乗り越え終わる前に隣り合う次の針状ころ7が凸部14を上り始める場合には2つの針状ころ7が凸部14を乗り上げる高さが実質的に減り、ころ乗り上げ時の抵抗が減少するから、針状ころ7の凸部14に対する乗り越え感が減少することになる。
この場合、凸部14の高さを一定とし、凸部14の外輪周方向の巾を一定とすれば、2つの針状ころ7のころピッチ(ころ中心間の距離)を変えることにより、針状ころ7が凸部14を乗り越え終わる前に隣り合う次の針状ころ7が凸部14を上り始めるように設定することができる。
このような軸受は外輪6の連結部12の形状や、切断方法、外輪6の板厚や材料により凸部14の形状を調整、或いはころピッチを変更すれば実現できる。
しかし、外輪6の所定の大きさに対して適用できるころ本数が限られるため、ころピッチを任意に変えることはできない場合は、凸部14の巾を変えることにより対処することになる。
【0012】
本実施の形態1では、ころピッチと凸部14の外輪周方向の巾の大小を比べるために、ころピッチをころピッチ角α(外輪6の中心に対して2つの針状ころ7の中心を結んだ線分がなす角度をいう)とし、凸部14の外輪周方向の巾を凸部許容角度β(外輪6の中心に対して凸部14の両側を結んだ線分がなす角度をいう)とすると、例えばころ本数が図4に示すように8本とすると、ころピッチ角αは360°/8で45°であり、凸部14の凸部許容角度β1を45°以上の50°とすることにより、針状ころ7が凸部14を乗り越え終わる前に隣り合う次の針状ころ7が凸部14を上り始める場合には2つの針状ころ7が凸部14を乗り上げる高さが実質的に減り、針状ころ7の凸部14に対する乗り越え感が減少し、針状ころ7の回転むら少なくなり、異音の発生も減ることとなる。
なお、凸部14の凸部許容角度β2を30°とすれば、1つの針状ころ7が凸部14の一側から他側への乗り上げが終了するまで、隣り合う次の針状ころ7が乗り上げないため、針状ころ7の凸部14に対する乗り越え感が発生する。
さらに、ころピッチ角αを45°とすると、凸部許容角度βを90°に設定すれば、2つの針状ころ7が凸部14を乗り上げる高さが実質的に半分となり、針状ころ7の凸部14に対する乗り越え感が半減し、針状ころ7の回転むら少なくなり、異音の発生も減り、ラジアル針状ころ軸受5をステアリングコラム用軸受装置として使用した場合には、良好な操舵フィーリングが得られる。
【0013】
上記の説明は図4に示すように、ころ本数が図4に示すように8本の場合であるが、実際の量産型ころ本数は13本、23本、21本等他種類であり、この場合、各ころピッチ角αがそれぞれ27.7°、15°、17°であり、いずれも外輪6の凸部許容角度βを30°に設定することにより、針状ころ7が凸部14を乗り越え終わる前に隣り合う次の針状ころ7が凸部14を上り始め、この場合には2つの針状ころ7が凸部14を乗り上げる高さが実質的に大きく減り、針状ころ7の凸部14に対する乗り越え感が大幅に減少し、針状ころ7の回転むら少なくなり、異音の発生も減る。
すなわち、外輪6に形成される複数の凸部14の全てについて、1つの針状ころ7が一側から他側へ乗り上げが終了する前に隣り合う次の針状ころ7が乗り上げるようにすればよい。
【0014】
実施の形態2.
図5は本発明の実施の形態2のステアリングコラム用軸受装置を示す横断面図である。
上記実施の形態1では 軸箱1にラジアル針状ころ軸受5を収納した弾性材で構成された軸受収納ケース4を圧入した後は、軸受収納ケース4の弾性材の圧縮弾性予圧作用により、外輪6を介して針状ころ7は常に軸1に押し付けられ、ラジアル隙間が0となることによって、針状ころ7の径方向のがたが抑えられる。
そして、外輪6は弾性材である鋼板を曲げ加工した一つ割り形状をしており、軸受収納ケース4のゴムの圧縮弾性予圧作用によって常に保持器8の外径面に貼り付こうとするので、保持器8の外径寸法を適切に設定しないと、外輪6の内径面との案内隙間がなくなり、摺動抵抗が発生し、回転調子への影響がでる。
【0015】
また、摺動抵抗が発生した場合、軸回転時に針状ころ7は保持器8の窓の範囲内はスムーズに公転するが、保持器8の窓に衝突した瞬間トルクが上がるため、この感覚が円周方向がたとなって現れ、この点でも回転調子に影響がを与える。
そこで、この実施の形態2では、軸受収納ケース4の弾性体の圧縮弾性予圧作用によってラジアル隙間は常に0に保たれるので、外輪6の内径A=(軸径B+ころ径×2)となり、外輪6の内径Aと保持器8の外径Cの案内隙間=(軸径B+ころ径×2)−保持器8の外径Cと考えることができ、この値の適正化によって回転調子が損なわれなくなる。
即ち、保持器8の外径案内隙間=(軸径B+ころ径×2)−保持器8の外径寸法A>0と設定することにより、外輪6の内径面に対する保持器8の外径面の摺動抵抗がなく、針状ころ7のころ公転と共に保持器8がスムーズに回転し、円周方向のがた感の発生を抑制する。
【0016】
上記実施の形態1、2においては、ラジアル針状ころ軸受を例示したが、通常のラジアルころ軸受についても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1のステアリングコラム用軸受装置を示す断面図。
【図2】同ステアリングコラム用軸受装置の外輪の正面図。
【図3】同ステアリングコラム用軸受装置の外輪の製作過程を示す説明図。
【図4】同ステアリングコラム用軸受装置の外輪ところとの関係を示す断面図。
【図5】本発明の実施の形態2のステアリングコラム用軸受装置を示す横断面図。
【符号の説明】
【0018】
1 軸箱、2 軸、3 ステアリングコラム用軸受装置、4 軸受収納ケース、5 ラジアル針状ころ軸受、6 外輪、7 ラジアル針状ころ、8 保持器、14 凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を曲げて円筒状に形成された1つ割りの外輪と、外輪の内側に転動可能に配置され、周方向に所定間隔で並ぶ複数のころと、これらころを保持する保持器を有するラジアルころ軸受において、
前記外輪の加工時に発生する内側に突出する凸部の外輪周方向の巾を、隣り合う少なくとも2つの前記ころが載るような大きさにしたことを特徴とするラジアルころ軸受。
【請求項2】
請求項1のラジアル軸受の前記外輪の外周に、弾性材で構成された環状の軸受収納ケースを外嵌したことを特徴とするラジアルころ軸受装置。
【請求項3】
前記保持器の外径寸法を前記外輪と前記保持器の外径面との間に隙間が形成されるように設定したことを特徴とする請求項2記載のラジアルころ軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−185988(P2009−185988A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29334(P2008−29334)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】