説明

ロッカアーム装置

【課題】ロッカアームへの潤滑油を必要最小限の油量で適切な箇所へ供給する。
【解決手段】プライマリロッカアーム13aに、低速カム15aと当接するローラ53を受容する凹部54と、揺動に応じてロッカアーム軸17aの潤滑油供給路21cと凹部とを選択的に連通する円弧溝55a及び連通路56aと、凹部内の潤滑油を吸気弁11との当接部に供給する第2潤滑油路56bとを設け、高速ロッカアームに、高速カムと当接するローラを受容する凹部と、揺動に応じて潤滑油をローラとの当接部に供給するために潤滑油供給路と選択的に連通する円弧溝及び吐出路とを設ける。凹部により貯留された潤滑油をローラに付着させてカムとの当接部への潤滑油の供給を行い、凹部の底部から弁との当接部に向かう第2潤滑油路を設けて弁との当接部への潤滑油の供給を行うようにして、必要な部位への潤滑油の供給を効率良く行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム軸と弁との間に配設されたロッカアームにおける潤滑構造を有するロッカアーム装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの動弁機構においてカム軸とバルブとの間にロッカアームを配設して弁駆動するものがあり、そのロッカアームの潤滑として、ロッカアーム軸とロッカアームとに潤滑油を通す油路を設け、ロッカアームのカムと当接するローラ(カムフォロワ)と、バルブステムエンドと当接するアジャストスクリューとに潤滑油を供給する手段をロッカアームに設けたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭52−37129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、エンジンの運転状況に応じてバルブの開閉タイミングを変える可変バルブタイミング機構を設けたエンジンがあり、その場合には複数のロッカアームを並設し、各ロッカアーム間を連結ピンで選択的に結合または解除するようにしたものがある。そのように複数のロッカアームを設けた機構では潤滑油の供給量が増大するばかりでなく、潤滑油を上記連結ピンの作動油としても利用する場合にはオイルポンプが大型化するという問題が生じる。オイルポンプの大型化を抑制するためには、潤滑油を必要最小限の油量で適切な箇所へ供給することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決して、潤滑油を必要最小限の油量で適切な箇所へ供給するために、本発明に於いては、一端部がロッカアーム軸(17a)により揺動自在に軸支されると共に他端部が弁(11)に当接しかつ中間部がカム軸(16a)の第1カム(15a)に当接する第1ロッカアーム(13a)と、一端部がロッカアーム軸により揺動自在に軸支されると共に他端部がロストモーションスプリング(58)に当接しかつ中間部が前記カム軸の第2カム(15c)に当接する第2ロッカアーム(13c)と、前記第1ロッカアームと前記第2ロッカアームとを選択的に連結または非連結状態にする切換機構(10)とを有するロッカアーム装置であって、前記第1ロッカアーム及び第2ロッカアームのそれぞれの前記中間部には、前記カムに向けて開口する凹部(54・57)と、前記凹部に受容されかつ前記カムに当接するローラ(53)とが設けられ、前記ロッカアーム軸に潤滑油を供給するための潤滑油供給路(21c)が設けられ、前記第1ロッカアームは、前記潤滑油供給路と前記凹部の前記第1カムとは相反する側の底部とを連通する第1潤滑油路(55a・56a)と、前記凹部の底部と連通しかつ前記弁との当接部に向けて開口する第2潤滑油路(56b)とを有し、前記第2ロッカアームは、前記潤滑油供給路と連通しかつ前記ローラと前記第2カムとの当接部に向けて開口する第3潤滑油路(56c)を有するものとした。
【0006】
これによれば、弁を駆動する第1ロッカアームに、ローラを受容する凹部の底部に連通する第1潤滑油路を設けたことから、凹部の底部に潤滑油が貯留され、その潤滑油がローラに付着してローラが回転することによりカムとの当接部が潤滑されると共に、凹部の底部と連通して弁との当接部に向けて開口する第2潤滑油路を設けたことから、凹部の底部に貯留されている潤滑油が弁との当接部に供給されるため弁との当設部が潤滑される。また、第1ロッカアームと選択的に連結または非連結状態になる第2ロッカアームには弁との当接部は無いことから、ローラとカムとの当接部のみに潤滑油を供給すれば良く、その当接部に向けて第3潤滑油路を開口させることにより、効率良く潤滑油を供給することができる。
【0007】
特に、前記第1潤滑油路(55a・56a)は、前記第1ロッカアームが前記第1カムのベース円と当接している状態では前記潤滑油供給路と遮断され、前記第1ロッカアームが前記第1カムにより駆動された揺動状態において前記潤滑油供給路と連通するように、前記ロッカアーム軸を外囲する内周面に所定の角度範囲に亘って設けられた円弧溝(55a)を有し、また、前記第3潤滑油路(56c・55b)は、前記第2ロッカアームが前記第2カムのベース円と当接している状態では前記潤滑油供給路と遮断され、前記第2ロッカアームが前記第2カムにより駆動された揺動状態において前記潤滑油供給路と連通するように、前記ロッカアーム軸を外囲する内周面に所定の角度範囲に亘って設けられた円弧溝を有すると良い。これによれば、常時潤滑油を供給するのではなく、ロッカアームの揺動運動に応じて間欠的に潤滑油を供給することができるため、オイルポンプの能力が過大になることを抑制し得る。
【発明の効果】
【0008】
このように本発明によれば、各ロッカアームに潤滑が必要な部位に対応した潤滑油路の構造として、特に弁とカムとの当接部の2箇所に潤滑油を供給する必要がある第1ロッカアームでは、潤滑油を貯留できる凹部を設け、凹部によりローラを受容することにより貯留された潤滑油をローラに付着させてカムとの当接部への潤滑油の供給を行い、凹部の底部から弁との当接部に向かう第2潤滑油路を設けて弁との当接部への潤滑油の供給を行うようにして、必要な部位への潤滑油の供給を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が適用されたエンジンの要部概略全体側面図である。
【図2】図1の矢印II線から見た要部正面図である。
【図3】ロッカアームを示す要部拡大図である。
【図4】可変バルブタイミング機構の低速域における説明図である。
【図5】可変バルブタイミング機構の中速域における説明図である。
【図6】可変バルブタイミング機構の高速域における説明図である。
【図7】(a)は弁駆動ロッカアームのカムベース円当接状態を示す要部側断面図であり、(b)はカム駆動された揺動状態を示す(a)に対応する図である。
【図8】(a)は補助ロッカアームのカムベース円当接状態を示す要部側断面図であり、(b)はカム駆動された揺動状態を示す(a)に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明が適用されたエンジンの要部概略全体側面図であり、図2は図1の矢印II線から見た要部正面図である。図示例のエンジン1は直列4気筒エンジンであるが、適用対象のエンジンの気筒列や気筒数は任意であって良い。なお、以下の説明における上下左右は、便宜上図1・図2に示された方向に基づくものとする。
【0011】
図示例のエンジン1では、シリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に積層状態に組み付けられたシリンダヘッド3と、シリンダブロック2の下面に積層状態に組み付けられたロアブロック4とによりエンジン本体が構成されている。また、シリンダヘッド3の上面にはヘッドカバー5が取り付けられ、ロアブロック4の下面にはオイルパン6が取り付けられている。
【0012】
エンジン本体(シリンダブロック2・シリンダヘッド3・ロアブロック4)のクランク軸7の軸線方向の一端側には、図2に示されるように、タイミングトレーン機構として本図示例におけるタイミングチェーン8が設けられている。タイミングチェーン8は、クランク軸7の軸線方向端部(エンジン本体から突出した部分)に固着されたプーリ7aと、ヘッドカバー5内に受容されている図示されないカム軸に固着されたプーリとに亘って巻き掛けられている。なお、タイミングチェーン8をガイドするチェーンガイド9aと、タイミングチェーン8に所定の張力を付与するテンショナ9bとがエンジン本体に設けられている。
【0013】
本発明が適用された図示例のエンジンは、複数の並設されたロッカアームを選択的に連結または非連結状態にする切換機構としての可変バルブタイミング機構10を有するものであり、その構造の概略について図3〜図6を参照して説明する。図3に示されるように、シリンダヘッド3には一対の吸気弁11と一対の排気弁12とが互いに対向して配設されており、それぞれ対応する各ロッカアーム13・14を介してカム駆動されて開閉弁する。
【0014】
本図示例では、吸気弁11を3ステージ(低・中・高速)に分けてリフト量及び開弁タイミングを制御するものであり、互いに異なるカムプロフィールからなる低速カム15a・15bと高速カム15cと休止カム15dとが1本の吸気カム軸16aに一体的に設けられている。なお、排気弁12に対しては1種類のカムプロフィールからなる排気カム17が排気カム軸16bに一体的に設けられている。
【0015】
吸気弁用のロッカアーム13は、ロッカアーム軸17aに枢支されており、図4〜図6に示されるように、一方の低速カム15aによりカム駆動されかつ一方の吸気弁11の軸線方向端に当接するプライマリロッカアーム13aと、他方の低速カム15bに当接してカム駆動されるセカンダリ補助ロッカアーム13bと、高速カム15cに当接してカム駆動される高速ロッカアーム13cと、休止カム15dに当接してカム駆動されかつ他方の吸気弁11の軸線方向端に当接するセカンダリロッカアーム13dとにより構成されている。
【0016】
また、両端のロッカアーム13a・13bには互いに対向する向きに開口しかつ同一孔径の各有底筒孔18a・18bが設けられており、それらの間に配置されている2つのロッカアーム13c・13dには各有底筒孔18a・18bと同一径の各貫通孔18c・18dが設けられている。それら有底筒孔18a・18bと貫通孔18c・18dとは各ロッカアーム13a〜13dの所定の揺動角度で互いに同軸に整合し得る。
【0017】
両端のロッカアーム13a・13bの各有底筒孔18a・18bと高速ロッカアーム13cの貫通孔18cとには、それぞれの孔の軸線方向長さと同一長さの各連結ピン19a・19b・19cが軸線方向に摺動自在に設けられている。一方、セカンダリロッカアーム13dの貫通孔18dには、直列の一対の短軸ピン19dが軸線方向に摺動自在に設けられている。両短軸ピン19d間には互いに離反する向きに付勢する圧縮コイルばね20が介装されている。これら各ピン19a〜19dはそれぞれ同一径に形成されている。
【0018】
また、ロッカアーム軸17aには、図3に併せて示されるように、軸線方向に延在しかつ互いに並列な3本の油路21a・21b・21cが設けられている。1つの油路21aがプライマリロッカアーム13aの有底筒孔18aの底部側と連通し、他の1つの油路21bがセカンダリ補助ロッカアーム13bの有底筒孔18bの底部側と連通している。残りの1つが潤滑油路21cとして用いられる。
【0019】
両油路21a・21bからの油圧が対応する各ロッカアーム13a・13bに供給されない状態では、一対の短軸ピン19dが圧縮コイルばね20により互いに離反する向きにばね付勢され、両端の各連結ピン19a・19bがそれぞれの有底筒孔18a・18bの各底面に当接する。この状態では、図4に示されるように、各ピン19a〜19dがそれぞれ対応する各孔18a〜18dに埋没状態になり、各ロッカアーム13a〜13dはそれぞれ独立に揺動し得る。それに対して、各油路21a・21bを介して油圧が各有底筒孔18a・18bの底部側に選択的に供給されることにより、各連結ピン19a・19bの油圧が供給された方が押し出される向きに変位する。
【0020】
これらの各状態により上記した3つのステージが実現される。その油圧回路の概略について以下に説明する。
【0021】
油圧源としてのオイルポンプ23の吐出口に2方向弁24の第1ポートPa1が接続されている。第1ポートPa1は、2方向弁24の非通電状態で第2ポートPa2と連通する。その第2ポートPa2には3方向弁25の第1ポートPb1が接続されている。2方向弁24の第3ポートPa3はドレン接続されており、2方向弁24の非通電状態で第3ポートPa3と連通する第4ポートPa4は、油路22aを介してロッカアーム軸17aの油路21aと接続されている。
【0022】
3方向弁25の第2ポートPb2は油路22bを介してロッカアーム軸17aの油路21bと接続されおり、3方向弁25の第3ポートPb3はドレン接続されている。非通電状態では第2ポートPb2と第3ポートPb3とが連通する。また、3方向弁25はパイロット弁であり、非通電状態ではパイロット圧がかからない状態となり、図4に示されるようになる。
【0023】
図4に示される状態では、各ロッカアーム13a〜13dがそれぞれ独立して揺動可能であり、一方の吸気弁11がプライマリロッカアーム13aを介して対応する低速カム15aにより駆動されるが、他方の吸気弁11はセカンダリロッカアーム13dを介して対応する休止カム15dにより駆動される。したがって1バルブ休止状態となり、このバルブ休止ステージとしてはエンジンの低速域での運転状態であって良い。
【0024】
次に、非通電状態の2方向弁24の第2ポートPa2に生じる油圧がパイロット圧として加わり、かつ3方向弁25が通電状態の場合には、図5に示されるように、3方向弁25の第1ポートPb1と第2ポートPb2とが連通状態になり、オイルポンプ23から吐出される作動油が油路21b・22bを介して有底筒孔18bに入り、連結ピン19bがセカンダリロッカアーム13d内に押し出される。このとき、反対側の連結ピン19aは有底筒孔18aの底面に当接状態であり、その連結ピン19aに連結ピン19cが当接し、その連結ピン19cに一対の短軸ピン19dの隣接する方が当接している。そして、一対の短軸ピン19dの他方(連結ピン19bに隣接している方)が圧縮コイルばね20のばね付勢力に抗して連結ピン19cに当接状態の方に当接するまで変位し、その変位量分だけ連結ピン19bがセカンダリロッカアーム13dの貫通孔18dに没入する。
【0025】
これにより、セカンダリ補助ロッカアーム13bとセカンダリロッカアーム13dとが結合状態になり、セカンダリ補助ロッカアーム13bに摺接している低速カム15bのカムプロフィールが休止カム15dよりも大きいため、上記休止状態だった吸気弁11が一体化された両ロッカアーム13b・13dを介して低速カム15bにより駆動される。一方の吸気弁11は、上記と同じくプライマリロッカアーム13aを介して低速カム15aにより駆動されるため、両吸気弁11が低速カム13a・13bにより駆動される。このステージとしてはエンジンの中速域での運転状態であって良い。
【0026】
2方向弁24の通電状態では、第1ポートPa1と第4ポートPa4とが連通し、第2ポートPa2と第3ポートPa3とが連通する。したがって、2方向弁24の通電状態では、図6に示されるように、第4ポートPa4に油圧が生じ、その油圧は油路21a・22a介して有底筒孔18aに入り、連結ピン19aが高速ロッカアーム13c内に押し出される。
【0027】
このとき、反対側の連結ピン19bは有底筒孔18bの底面に当接状態であり、その連結ピン19bに一対の短軸ピン19dの隣接する方が当接している。そして、一対の短軸ピン19dの他方(連結ピン19cに隣接している方)が、圧縮コイルばね20のばね付勢力に抗して、一対の短軸ピン19dの連結ピン19bに当接している方に当接するまで変位し、その変位量分だけ連結ピン19aが高速ロッカアーム13cの貫通孔18cに没入すると共に連結ピン19cもセカンダリロッカアーム13dの貫通孔18dに没入する。
【0028】
これにより、プライマリロッカアーム13aとセカンダリロッカアーム13dとが高速ロッカアーム13cと結合状態になり、高速ロッカアーム13cに摺接している高速カム15cのカムプロフィールが両ロッカアーム13a・13dよりも大きいため、両吸気弁11が一体化された両ロッカアーム13a・13dを介して高速カム15cにより駆動される。このステージとしてはエンジンの高速域での運転状態であって良い。このようにして、低・中・高の各速度域で吸気弁11のリフト量及び開弁タイミングを制御することができる。
【0029】
本図示例では上記したように、一方の吸気弁11に当接するプライマリロッカアーム13aと、他方の吸気弁11に当接するセカンダリロッカアーム13dとが第1ロッカアームに対応し、低速カム15bに当接するセカンダリ補助ロッカアーム13bと、高速カム15cに当接する高速ロッカアーム13cとが第2ロッカアームに対応する。
【0030】
次に、本発明に基づく各ロッカアームの形状について図7及び図8を参照して説明するが、それぞれの中では同様の形状であって良いため、プライマリロッカアーム13aを第1ロッカアームの例として示し、高速ロッカアーム13cを第2のロッカアームの例として示す。
【0031】
図7に示されるように、ロッカアーム軸17aの中心部は上記した3本の油路21a・21b・21cにより周方向に3分割されており、ロッカアーム軸17aの各油路21a〜21cを外囲する周壁には、その外周面のプライマリロッカアーム13aに対応する部分と潤滑油路21cとを連通する半径方向油路51aが設けられている。
【0032】
第1ロッカアームとしてのプライマリロッカアーム13aは、ロッカアーム軸17aにより軸支された部分から吸気弁11の軸線方向端に対向し得る位置まで延出されており、その延出端部には、吸気弁11の軸線方向端に当接するアジャストスクリュー52が設けられている。プライマリロッカアーム13aの中間部には、カムフォロワとなるローラ53の低速カム15aと当接する部分を除いたほぼ全体を受容する凹部54が設けられている。ローラ53は、凹部54に受容された状態で回転自在に軸支されている。
【0033】
プライマリロッカアーム13aのロッカアーム軸17aにより軸支される内周面には、所定の角度範囲に亘る円弧溝55aが設けられている。円弧溝55aの周方向一端部は、図7(a)の低速カム15aのベース円当接状態では半径方向油路51aと非連通状態に位置するようにされている。また、プライマリロッカアーム13aには、凹部54の低速カム15aとは相反する側となる底部と円弧溝55aの周方向他端部とを連通する連通路56aが設けられている。これら円弧溝55aと連通路56aとにより第1潤滑油路が構成されている。この連通路56aは凹部54の底部に連通するため、凹部54内に溜まるコンタミネーション等を流し出す効果を有する。さらに、プライマリロッカアーム13aには、凹部54の底部と連通し、アジャストスクリュー52と吸気弁11の軸線方向端との当接部に向けて開口する第2潤滑油路56bが設けられている。
【0034】
このように形成されたプライマリロッカアーム13aによれば、図7(a)の矢印Aに示されるように低速カム15aが回転して図7(b)に示される低速カム15aのカム山により押されて揺動した状態で、半径方向油路51aと円弧溝55aの周方向一端部とが連通し、潤滑油路21cから円弧溝55aに図の矢印に示されるように潤滑油が送り出される。これにより、円弧溝55a内の潤滑油が図の二点鎖線に示される油面となるまで凹部54に貯留され得ると共に、凹部54に受容されているローラ53がその貯留された潤滑油に浸される。そして、ローラ53の外周面に付着した潤滑油が、低速カム15aの矢印A方向の回転によりローラ53が矢印B方向に回転すると、低速カム15aとの当接部に至り、ローラ53と低速カム15aとの当接部に対する潤滑油の供給が良好に行われる。
【0035】
また、凹部54に貯留された潤滑油は第2潤滑油路56bを介してアジャストスクリュー52と吸気弁11の軸線方向端との当接部に供給される。特に、図に示されるように、プライマリロッカアーム13aの低速カム15aのベース円当接状態で、凹設部54に対して吸気弁11との当接部が低位置に位置し、その吸気弁11との当接部に向けて自然に流れ落ちるように第2潤滑油路56bが傾斜するように設けられている。
【0036】
このように、プライマリロッカアーム13aの揺動運動時に潤滑油が凹部54に送出されて凹部54に潤滑油が貯留され、低速カム15aのベース円状態では潤滑油の送出が行われないようにしたことから、オイルポンプ23の能力を上げて強制的に潤滑油を供給する必要が無く、オイルポンプの大型化を抑制でき、潤滑油供給構造をコンパクト化し得る。
【0037】
第2のロッカアームとしての高速ロッカアーム13cにおいても、ロッカアーム軸17aの各油路21a〜21cを外囲する周壁には、その外周面の高速ロッカアーム13cに対応する部分と潤滑油路21cとを連通する半径方向油路51bが設けられている。
【0038】
高速ロッカアーム13cは、ロッカアーム軸17aにより軸支された一端部から高速カム15cに対応する位置まで延出されている。その高速ロッカアーム13cの延出部61には上記と同様にローラ53を受容する凹部57が設けられ、その延出部61から分岐された他端部としての分岐部62が設けられており、その分岐部62がロストモーションスプリング58に当接するようにされている。なお、ロストモーションスプリング58は、吸気弁11による戻し方向のばね付勢力が作用しない第2ロッカアームとしての高速ロッカアーム13cのばたつきを抑制するためのものである。
【0039】
また、高速ロッカアーム13cのロッカアーム軸17aにより軸支される内周面には、所定の角度範囲に亘る円弧溝55bが設けられている。円弧溝55bの周方向一端部は、図8(a)の高速カム15cのベース円当接状態では半径方向油路51bと非連通状態に位置するようにされており、円弧溝55bの周方向他端部は、ローラ53と高速カム15cとの当接部に向けて開口する吐出路56cと連通している。これら円弧溝55bと吐出路56cとにより第3潤滑油路が構成されている。
【0040】
このように形成された高速ロッカアーム13cによれば、図8(a)の矢印Aに示されるように高速カム15cが回転して図8(b)に示される高速カム15cのカム山により押されて揺動した状態で、半径方向油路51bと円弧溝55bの周方向一端部とが連通し、潤滑油路21cから円弧溝55bに図の矢印に示されるように潤滑油が送り出される。これにより、円弧溝55b内の潤滑油が吐出路56cから図の矢印Cに示されるようにローラ53と高速カム15cとの当接部に向けて送り出され、ローラ53と高速カム15cとの当接部に対する潤滑油の供給が良好に行われる。なお、ロストモーションスプリング58との当接部には、ローラ53の外周面に付着して高速カム15cとの当接部に供給された潤滑油が矢印Dに示されるように分岐部62を伝わり落ちて供給される。
【0041】
また、上記したプライマリロッカアーム13aでは、吸気弁11との当接部に吸気弁11から大きな荷重が加わるため、アジャストスクリュー52と弁11の軸線方向端との当接部に対して潤滑油を主として供給すると良く、上記構造により、凹部54に貯留された潤滑油を第2潤滑油路56bを介して積極的に供給することができる。一方、高速ロッカアーム13cでは、高速カム15cが各カムの中で大きなカム(変位大)であることから、高速カム15cとの当接部に高速カム15cから大きな荷重が加わるため、ローラ53と高速カム15cとの当接部に対して潤滑油を主として供給すると良く、上記構造により、円弧溝55bに送り出された潤滑油を吐出路56cを介して積極的に供給することができる。
【0042】
なお、エンジン停止時、ローラ53のコンタミネーションや切り粉がロッカアーム軸17a側に戻る可能性があるが、ロッカアーム軸17aの半径方向油路51a(51b)の開口が円弧溝55a(55b)の最低部よりも高い位置に位置するようにされているため、ロッカアーム軸17aの潤滑油供給路21cに戻ることが防止され、何等問題が生じない。また、ローラ53の回転方向は実施例で例示したのと逆回転であっても良く、ローラ53の回転が逆の場合にはその回転によって凹部54内にコンタミネーション等が溜まってもオイルとともに排出できる。また、上記実施形態では吸気弁11側のロッカアーム構造について示したが、排気弁12側も同様に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明にかかるロッカアーム装置は、種々のエンジンに適用可能であり、例えばクランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 可変バルブタイミング機構(切換機構)
11 吸気弁
13a プライマリロッカアーム(第1ロッカアーム)
13c 高速ロッカアーム(第2ロッカアーム)
15a 低速カム(第1カム)
15c 高速カム(第2カム)
16a カム軸
17a ロッカアーム軸
21c 潤滑油供給路
53 ローラ
54 凹部
55a 円弧溝(第1潤滑油路)
55b 円弧溝(第3潤滑油路)
56a 連通路(第1潤滑油路)
56b 第2潤滑油路
56c 吐出路(第3潤滑油路)
57 凹部
58 ロストモーションスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部がロッカアーム軸により揺動自在に軸支されると共に他端部が弁に当接しかつ中間部がカム軸の第1カムに当接する第1ロッカアームと、一端部がロッカアーム軸により揺動自在に軸支されると共に他端部がロストモーションスプリングに当接しかつ中間部が前記カム軸の第2カムに当接する第2ロッカアームと、前記第1ロッカアームと前記第2ロッカアームとを選択的に連結または非連結状態にする切換機構とを有するロッカアーム装置であって、
前記第1ロッカアーム及び第2ロッカアームのそれぞれの前記中間部には、前記カムに向けて開口する凹部と、前記凹部に受容されかつ前記カムに当接するローラとが設けられ、
前記ロッカアーム軸に潤滑油を供給するための潤滑油供給路が設けられ、
前記第1ロッカアームは、前記潤滑油供給路と前記凹部の前記第1カムとは相反する側の底部とを連通する第1潤滑油路と、前記凹部の底部と連通しかつ前記弁との当接部に向けて開口する第2潤滑油路とを有し、
前記第2ロッカアームは、前記潤滑油供給路と連通しかつ前記ローラと前記第2カムとの当接部に向けて開口する第3潤滑油路を有することを特徴とするロッカアーム装置。
【請求項2】
前記第1潤滑油路は、前記第1ロッカアームが前記第1カムのベース円と当接している状態では前記潤滑油供給路と遮断され、前記第1ロッカアームが前記第1カムにより駆動された揺動状態において前記潤滑油供給路と連通するように、前記ロッカアーム軸を外囲する内周面に所定の角度範囲に亘って設けられた円弧溝を有することを特徴とする請求項1に記載のロッカアーム装置。
【請求項3】
前記第3潤滑油路は、前記第2ロッカアームが前記第2カムのベース円と当接している状態では前記潤滑油供給路と遮断され、前記第2ロッカアームが前記第2カムにより駆動された揺動状態において前記潤滑油供給路と連通するように、前記ロッカアーム軸を外囲する内周面に所定の角度範囲に亘って設けられた円弧溝を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のロッカアーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−47113(P2012−47113A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190491(P2010−190491)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】