説明

作業車両の走行変速装置

【課題】シフトショックを防止するとともに、クラッチ係合の遅れをなくして変速時間を短縮する。
【解決手段】この作業車両用走行変速装置は、歯車変速の完了に伴って、油圧クラッチを電磁比例減圧弁によって昇圧制御して入作動させるもので、減圧弁を昇圧制御する制御部は、クラッチの入り作動開始時の所定時間にわたって、減圧弁に最大電流値を供給して、クラッチを昇圧保持する第1工程Aと、第1工程Aに続いて減圧弁に最小電流値から緩やかに増加する電流値を供給して、クラッチを初期圧から次第に昇圧する第2工程Bと、第2工程B中において、クラッチ出力側回転数が減速側から増速側に転じた際に、減圧弁に、第2工程Bの最後に供給した電流値から引き続いて、比較的急激に増加する電流値を供給して、クラッチを比較的急激に昇圧する第3工程Cとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達経路に油圧クラッチ及び複数の変速歯車が介在されたトラクタやコンバイン等の作業車両の走行変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタ等の作業車両の走行変速装置として、油圧クラッチの切作動と共に、アクチュエータにより変速歯車の噛合を変更し、かつこの歯車変速が完了したことに伴って、油圧クラッチを電磁比例減圧弁によって昇圧制御して入作動させるものがある。
【0003】
従来、油圧クラッチの昇圧制御としては、例えば図10に示すものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この油圧クラッチの昇圧制御は、まず、歯車変速が完了したことに伴って、所定時間t1にわたり電磁比例減圧弁に最大電流値を供給して油圧クラッチを急激に昇圧し、これにより、油圧クラッチのガタ詰め(多板クラッチが接触してトルク容量が得られる直前の状態)を行う。次に、電磁比例減圧弁に最小電流値を供給して油圧クラッチを初期圧に戻した後、油圧クラッチへの油の充填完了を待ち、次いで、電磁比例減圧弁に適当なカーブの電流値を所定時間t3にわたり供給して油圧クラッチを昇圧し、該油圧クラッチを接続する。
【0005】
この油圧クラッチの昇圧制御においては、油圧クラッチのガタ詰め後に、油圧クラッチのクラッチ圧を一旦初期圧まで戻し、油の充填完了を待ってから油圧クラッチを再度昇圧しているので、ガタ詰め直後に油圧クラッチを昇圧させる場合(例えば特許文献2参照)に比べてシフトショックの発生を抑制することができる。
【0006】
しかし、油圧クラッチへの油の充填が完了するまでの時間(t1+t2)を経験的に得られた時間を基に定めていたため、実際の油の充填完了よりも早く油圧クラッチの昇圧を開始すると、油圧クラッチが急に接続されて、シフトショックが発生することになる。また、油の充填完了後、時間をおいて油圧クラッチを昇圧すると、クラッチ係合に遅れが生じて変速時間が大となり、加速性に劣ることになる。
【0007】
一方、電磁比例減圧弁のスプールの動きに基づいて油圧クラッチへの油の充填完了を検出して、該検出後、即座に油圧クラッチを昇圧する技術が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開昭60−271055号公報
【特許文献2】特開2004−190698号公報
【特許文献3】特開平1−279148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献3においては、電磁比例減圧弁のスプールの動きに基づいて油圧クラッチへの油の充填完了を検出しているため、油の充填完了後、時間をおいて油圧クラッチを昇圧する場合に比べてクラッチ係合の遅れは緩和されるものの、油の充填完了を検出するための検出装置が複雑、高価となる。また、油の充填完了検出後、即座に油圧クラッチを昇圧するため、即座にクラッチ圧が高くなってシフトショックが発生しやすい。
【0010】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、シフトショックを防止することができるとともに、クラッチ係合の遅れをなくして変速時間を短縮することができる作業車両の走行変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る本発明は、動力伝達経路に油圧クラッチ(1)及び複数の変速歯車(3,6)を介在し、前記油圧クラッチ(1)の切作動と共に、アクチュエータ(37,38,39)により前記変速歯車(3,6)の噛合を変更し、かつこの歯車変速が完了したことに伴って、前記油圧クラッチ(1)を電磁比例減圧弁(54)によって昇圧制御して入作動させる作業車両の走行変速装置(2)にあって、
前記電磁比例減圧弁(54)を昇圧制御する制御部(50)は、
前記油圧クラッチ(1)の入り作動開始時の所定時間にわたって、前記電磁比例減圧弁(54)に最大電流値、又はそれに近似する電流値を供給して、前記油圧クラッチ(1)を昇圧して保持する第1の工程(A)(S11,S12)と、
この第1の工程に続いて前記電磁比例減圧弁(54)に最小電流値、又は最小電流値から緩やかに増加する電流値を供給して、前記油圧クラッチ(1)に初期圧を供給する、又は初期圧から次第に昇圧する第2の工程(B)(S13〜S16)と、
この第2の工程中において、前記油圧クラッチ(1)の出力側回転数が減速側から増速側に転じた際に、前記電磁比例減圧弁(54)に、前記第2の工程の最後に供給した電流値から引き続いて、比較的急激に増加する電流値を供給して、前記油圧クラッチ(1)を比較的に急激に昇圧する第3の工程(C)(S17〜S19)と、を備えてなる、
ことを特徴とする作業車両の走行変速装置(2)にある。
【0012】
請求項2に係る本発明は、前記第2の工程(B)は、少なくとも所定時間にわたって連続する(S14;No)、
請求項1記載の作業車両の走行変速装置(2)にある。
【0013】
請求項3に係る本発明は、前記第2の工程(B)において、その開始から所定時間以上にわたって前記油圧クラッチ(1)の出力側回転数が増速側に転じない場合には、前記所定時間経過後前記第3の工程(C)に移行してなる(S16;Yes)、
請求項1又は2記載の作業車両の走行変速装置(2)にある。
【0014】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る本発明によると、第1の工程により油圧クラッチがガタ詰め(多板クラッチが接触してトルク容量が得られる直前の状態)されて、油圧クラッチの素早い操作を可能とするものでありながら、第2の工程により油圧クラッチを初期圧にして又は初期圧から緩昇圧して、急激な油圧クラッチの接続によるシフトショックを防止することができ、更に油圧クラッチの出力側回転数が増加(加速度がプラス側に変更)に転じたことに基づき第3の工程に移行し、油圧クラッチを急激に昇圧して、係合遅れを生じることなく油圧クラッチを接続して変速を完了することができる。
【0016】
請求項2に係る本発明によると、第2の工程を所定時間連続するので、第1の工程に引き続いて油圧クラッチを急激に昇圧することをなくして、シフトショックの発生を確実に防止することができる。
【0017】
請求項3に係る本発明によると、第2の工程において、所定時間油圧クラッチの出力側回転数が増加に転じない場合、強制的に第3の工程に移行するので、変速時間が過度に長くなることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態の一例を図を参照して説明する。
【0019】
本発明の実施の形態の一例である作業車両の走行変速装置2は、図1に示すように、主変速装置3、油圧クラッチ1、前後進切換装置4及び副変速装置6を備えている。
【0020】
主変速装置3は、エンジン7から主クラッチ8及びギヤ列9を介して駆動力が入力される入力軸11と、該入力軸11に平行配置された出力軸12とを備えている。入力軸11には、第1の駆動ギヤ13、第2の駆動ギヤ14、第3の駆動ギヤ16及び第の4駆動ギヤ17が固定されている。出力軸12には、第1の駆動ギヤ13に噛合する第1の従動ギヤ18、第2の駆動ギヤ14に噛合する第2の従動ギヤ19、第3の駆動ギヤ16に噛合する第3の従動ギヤ21、及び第4の駆動ギヤ17に噛合する第4の従動ギヤ22がそれぞれ回転自在に取り付けられている。
【0021】
第1の従動ギヤ18と第2の従動ギヤ19との間の出力軸12には、シンクロメッシュ式の第1のシフト部材23が取り付けられている。第1のシフト部材23は、出力軸12に第1の従動ギヤ18の駆動力を伝達する1速位置と、出力軸12に第2の従動ギヤ19の駆動力を伝達する2速位置と、出力軸12に第1の従動ギヤ18及び第2の従動ギヤ19のいずれの駆動力も伝達しないニュートラル位置とに切り換え可能とされている。
【0022】
第3の従動ギヤ21と第4の従動ギヤ22との間の出力軸12には、シンクロメッシュ式の第2のシフト部材24が取り付けられている。第2のシフト部材24は、出力軸12に第3の従動ギヤ21の駆動力を伝達する3速位置と、出力軸12に第4の従動ギヤ22の駆動力を伝達する4速位置と、出力軸12に第3の従動ギヤ21及び第4の従動ギヤ22のいずれの駆動力も伝達しないニュートラル位置とに切り換え可能とされている。
【0023】
そして、第2のシフト部材24がニュートラル位置に切り換えられた状態で、第1のシフト部材23が1速位置に切り換えられると、入力軸11の動力が第1の駆動ギヤ13及び第1の従動ギヤ18を介して出力軸12に伝達(1速)され、第1のシフト部材23が2速位置に切り換えられると、入力軸11の動力が第2の駆動ギヤ14及び第2の従動ギヤ19を介して出力軸12に伝達(2速)される。一方、第1のシフト部材23がニュートラル位置に切り換えられた状態で、第2のシフト部材24が3速位置に切り換えられると、入力軸11の動力が第3の駆動ギヤ16及び第3の従動ギヤ21を介して出力軸12に伝達(3速)され、第2のシフト部材24が4速位置に切り換えられると、入力軸11の動力が第4の駆動ギヤ17及び第4の従動ギヤ22を介して出力軸12に伝達(4速)され、該出力軸12の駆動力は、油圧クラッチ1を介して入力軸26に伝達される。
【0024】
油圧クラッチ1は、油が供給されることによって出力軸12の駆動力を入力軸26に伝達する入り作動状態に切り換えられ、油のドレインによって出力軸12の駆動力を入力軸26に伝動しない切り作動状態に切り換えられる。
【0025】
油圧クラッチ1を介して入力軸26に伝達された駆動力は、前後進切換装置4によって前進方向又は後進方向の駆動力に変換された後、伝動軸27に伝達され、伝動軸27に伝達された駆動力は、副変速装置6によって低速側又は高速側の2段に変速されて出力軸28に伝達される。
【0026】
伝動軸27には、副変速装置6の低速ギヤ29と高速ギヤ31とが回転自在に取り付けられており、また、伝動軸27の低速ギヤ29と高速ギヤ31との間には、シンクロメッシュ式のシフト部材32が装着されている。このシフト部材32は、伝動軸27の駆動力を低速ギヤ29に伝達するL位置と、伝動軸27の駆動力を高速ギヤ31に伝達するH位置とに切り換え可能とされている。
【0027】
出力軸28には、低速ギヤ29に噛合する低速従動ギヤ33と、高速ギヤ31に噛合する高速従動ギヤ34とが固定されている。そして、シフト部材32がL位置に切り換えられると副変速装置6が低速(L)状態に、シフト部材32がH位置に切り換えられると副変速装置6が高速(H)状態に切り換えられ、出力軸28に高速駆動力又は低速駆動力が出力される。これにより、出力軸28から作業車両の後輪側あるいは前輪側に駆動力が出力される。なお、図1において、符号81は超低速変速装置、82は4輪駆動用クラッチ、83はPTO変速装置である。
【0028】
上述した主変速装置3の第1のシフト部材23,第2のシフト部材24、副変速装置6のシフト部材32及び油圧クラッチ1は、図2に示すコントロ−ルユニット36を介して図3に示す制御装置50によって作動が制御される。
【0029】
まず、説明の便宜上、コントロールユニット36から説明すると、該コントロールユニット36は、図2に示すように、主変速装置3の第1シフト部材23を操作するアクチュエータである第1の油圧シリンダ37と、主変速装置3の第2シフト部材24を操作するアクチュエータである第2の油圧シリンダ38と、副変速装置6のシフト部材32を操作するアクチュエータである副変速油圧シリンダ39と、これらのシリンダ37,38,39を作動させる変速バルブアッシィ47とを備えている。
【0030】
変速バルブアッシィ47は、副変速油圧シリンダ39の作動制御用の副変速ソレノイドバルブ41と、第1の油圧シリンダ37を作動させて主変速装置3を1速状態に切り換える1速ソレノイドバルブ42と、第1の油圧シリンダ37を作動させて主変速装置3を2速状態に切り換える2速ソレノイドバルブ43と、第2の油圧シリンダ38を作動させて主変速装置3を3速状態に切り換える3速ソレノイドバルブ44と、第2の油圧シリンダ38を作動させて主変連装置3を4速状態に切り換える4速ソレノイドバルブ46とを備えている。なお、図2においては、各ソレノイドバルブ41,42,43,44,46はOFF状態とされている。
【0031】
また、コントロールユニット36には、油温センサ48,油圧センサ49,副変速油圧シリンダ39の作動により操作される副変速チェックバルブ51,第1の油圧シリンダ37の作動により操作される第1のチェックバルブ52,第2の油圧シリンダ38の作動により操作される第2のチェックバルブ53,油圧クラッチ1の入り切り作動用の比例圧力制御ソレノイドバルブ54,シャトル弁56,中継チェックバルブ55,フィルタ63〜66が取り付けられている。
【0032】
そして、油圧ポンプから送出される油は、逆止弁62及びフィルタ63を介して変速バルブアッシィ47の入力ラインIに供給されるとともに、フィルタ65を介して圧力チェックラインLPに供給される。圧力チェックラインLPには、該ラインLPの油圧を検出する油圧センサ49が取り付けられている。フィルタ63から出力される油は、油温センサ48によって温度管理されている。
【0033】
なお、圧力チェックラインLPの油圧は、各油圧シリンダ37,38,39に対応して配置されたカム67,68,69によるパイロット操作により、主変速装置3又は副変速装置6の変速作動中は各チェックバルブ51,52,53のいずれかが開いて下降し、変速作動完了時には各チェックバルブ51,52,53のいずれかが閉じて上昇する。
【0034】
また、油圧ポンプから送出される油は、フィルタ64を介して比例圧力制御ソレノイドバルブ54の入力ポートP7にも供給される。比例圧力制御ソレノイドバルブ54の切換ポートはオイル溜めに接続されており、図2においては、比例圧力制御ソレノイドバルブ54はOFFの状態で出力ポートA7と切換ポートとが接続されている。比例圧力制御ソレノイドバルブ54の出力ポートA7は、油圧クラッチ1への油の供給経路であるクラッチコントロールラインLCに接続されている。クラッチコントロールラインLCには、フィルタ66及びシャトル弁56を介して油圧クラッチ1が接続されている。
【0035】
次に、図3〜図8を参照して、制御装置50について説明する。
【0036】
制御装置50は、図3に示すように、出力側に、1速ソレノイドバルブ42、2速ソレノイドバルブ43、3速ソレノイドバルブ44、4速ソレノイドバルブ46、副変速ソレノイドバルブ41及び比例圧力制御ソレノイドバルブ54が接続されている。制御装置50の入力側には、シフトアップスイッチ57、シフトダウンスイッチ58、エンジン回転センサ59、車軸回転センサ60、油圧センサ49、油温センサ48、前後進センサ70、主クラッチセンサ71が接続されている。
【0037】
そして、制御装置50は、シフトアップスイッチ57、シフトダウンスイッチ58、エンジン回転センサ59、車軸回転センサ60、油圧センサ49、油温センサ48、前後進センサ70、主クラッチセンサ71からの出力データに基づいて、1速ソレノイドバルブ42、2速ソレノイドバルブ43、3速ソレノイドバルブ44、4速ソレノイドバルブ46、副変速ソレノイドバルブ41及び比例圧力制御ソレノイドバルブ54の作動を制御する。これにより、主変速装置3の第1のシフト部材23,第2のシフト部材24、副変速装置6のシフト部材32及び油圧クラッチ1の切り換え操作が行われ、主変速装置3、副変速装置3の変速作動及び油圧クラッチ1の入り切り作動が行われる。
【0038】
シフトアップスイッチ57又はシフトダウンスイッチ58は、変速操作時に制御装置50に変速指令を出力し、車軸回転センサ60は、油圧クラッチ1の出力側である所定の軸(例えば入力軸26又は車軸80等)の回転状態を検出して、該検出結果を制御装置50に出力する。
【0039】
また、油圧センサ49は、圧力チェックラインLPの油圧の高低を検出して、該検出結果を例えばON−OFF信号等により制御装置50に出力する。このON−OFF信号に基づいて、制御装置50は、主変速装置3又は主変速装置6が変速作動中であるか、変速作動が完了したかを判断する。
【0040】
なお、主変速装置3又は副変速装置6の変速作動中は、油圧クラッチ1を切り作動状態とする必要がある。このため、制御装置50は、シフトアップスイッチ57又はシフトダウンスイッチ58から変速指令が出力(図8のステップS1)されると、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対する電流の供給を停止して、該比例圧力制御ソレノイドバルブ54をOFF状態に切り換え操作する。
【0041】
これにより、比例圧力制御ソレノイドバルブ54の出力ポートA7と切換ポートとが接続されて、クラッチコントロールラインLCの油がオイル溜まりにドレインされ、フィルタ66及びシャトル弁56を介しての油圧クラッチ1への油の供給が停止される。これにより、油圧クラッチ1の油がシャトル弁56及びフィルタ66を介してオイル溜まりにドレインされ、油圧クラッチ1が切り作動状態に切り換えられる(図8のステップS2)。
【0042】
また、制御装置50は、圧力チェックラインLPの油圧上昇により油圧センサ49からON信号が出力されて、主変速装置3又は副変速装置6の変速作動が完了したと判断すると(図8のステップS3及びステップS4)、油圧クラッチ1を入り作動状態に切り換える昇圧制御を行うべく、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対して必要な電流を供給して、該比例圧力制御ソレノイドバルブ54をON状態に切り換える(図8のステップS5)。
【0043】
比例圧力制御ソレノイドバルブ54は、制御装置50から供給される電流値に応じて入力ポートP7から出力ポートA7に出力する油の油圧を調整可能になっている。従って、制御装置50から比例圧力制御ソレノイドバルブ54に電流が供給されて入力ポートP7と出力ポートA7とが接続されると、電流値に応じて油圧が調整された油がクラッチコントロールラインLCへ供給され、該ラインLCに供給された油はフィルタ66及びシャトル弁56を介して油圧クラッチ1に導入される。
【0044】
ここで、制御装置50は、油圧クラッチ1の昇圧制御を行うに際して、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に供給する電流値を次の第1の工程A〜第4の工程Dに分けて制御している。
【0045】
以下、図4〜図7を参照して、工程別に説明する。なお、ここでは、主変速装置3が2速から3速にシフトアップする場合を例に採る。
【0046】
(第1の工程A)
図4を参照して、油圧クラッチ1の入り作動開始時(油圧センサ49からの出力ON信号に基づく主変速装置3の3速の変速作動完了判断時)から所定時間t1(例えば200ms)にわたって、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に最大電流値(例えば1100mA)を供給し、油圧クラッチ1を昇圧して保持する。これにより、油圧クラッチ1がガタ詰め(多板クラッチが接触してトルク容量が得られる直前の状態)されて、油圧クラッチ1の素早い操作を可能とする。なお、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に最大電流値に代えて、該最大電流値に近似する電流値を供給して、油圧クラッチ1を昇圧して保持するようにしてもよい。
【0047】
(第2の工程B)
図4を参照して、第1の工程Aの前記所定時間t1の経過時に続いて比例圧力制御ソレノイドバルブ54に最小電流値(例えば375mA)から緩やかに増加する電流値をあらかじめ定められた所定時間にわたって連続して供給して、油圧クラッチ1を初期圧から次第に昇圧させる。なお、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に最小電流値から緩やかに増加する電流値に代えて、該最小電流値を供給して、油圧クラッチ1に初期圧を供給するようにしてもよい。
【0048】
(第3の工程C)
図4を参照して、前記第2の工程Bにおいて、油圧クラッチ1の出力側回転数が増加(加速度がプラス側に変更:図5参照)に転じたこと(図4の点Q参照)に加え、出力側回転の加速度があらかじめ定められた閾値以下で、かつ加速度の変化率があらかじめ定められた所定の値以下の場合に、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に、第2の工程Bの最後に供給した電流値から引き続いて、最大電流値(又は最大電流値に近似する電流値)との差分に基く電流値を供給して、一定時間で油圧クラッチ1の昇圧が完了するように(図4の破線部及び図7参照)、該油圧クラッチ1を比較的に急激に昇圧する。なお、油圧クラッチ1の出力側回転数は、車軸回転センサ60から出力された検出データを基に算出され、この算出回転数(速度)を基に加速度(速度の時間微分値)及び加速度の変化率(加速度の時間微分値)が算出される。
【0049】
また、前記第2の工程Bにおいて、その開始(最小電流値の供給開始時)から所定時間t以上にわたって油圧クラッチ1の出力側回転数が増加に転じない場合には、前記所定時間t経過後第3の工程Cに移行し、加速度があらかじめ定められた閾値以下で、かつ加速度の変化率があらかじめ定められた所定の値以下のときに、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に、前記第2の工程Bの最後に供給した電流値から引き続いて、前記同様の電流値を供給して、油圧クラッチ1を比較的に急激に昇圧する。
【0050】
更に、第3の工程Cにおいて、加速度があらかじめ定められた閾値を超え、又は加速度の変化率があらかじめ定められた所定の値を超えた場合には、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対する電流値供給を停止して維持(図6の時間t5参照)した後、第4の工程Dに移行する。
【0051】
(第4の工程D)
前記第3の工程Cにおいて、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に前記第2の工程Bの最後に供給した電流値から引き続いて比較的急激に増加する電流値を供給した後の電流値、又は比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対する電流値供給を停止維持した後の電流値が、最大電流値(100%)であるか否かを判断する。
【0052】
最大電流値であると判断した場合は、良好なクラッチ係合が行われたものとして昇圧制御を終了する。一方、最大電流値に達してないと判断した場合は、油圧クラッチ1の出力側回転数Jと歯車変速完了時の回転数である理論回転数Rとが一致(又は略一致)するか否かを判断する。理論回転数R(=KE)は、エンジン回転センサ59からの出力検出データを基に算出したエンジン回転数Eに変速段に応じた係数Kを乗じて算出することができる。
【0053】
そして、出力側回転数Jと理論回転数Rとが一致(又は略一致)すると判断した場合は、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に、第3の工程Cの最後に供給した電流値から引き続いて、最大電流値(又は最大電流値に近似する電流値)との差分に基く電流値を、一定時間t4(図1及び図7参照)で昇圧が完了するように供給して、油圧クラッチ1を急激に昇圧し、油圧クラッチ1を完全接続させる。一方、出力側回転数Jと理論回転数Rとが一致しないと判断した場合は、第3の工程Cの処理を再度実行する。
【0054】
図7に、第2の工程B、第3の工程C及び第4の工程Dにおける比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対する電流値の供給例を示す。第3及び第4の工程C,Dではいずれも、供給開始電流値(前工程の最後の電流供給値)の高低に関わらず、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対して、前工程の最後に供給した電流値から引き続いて、最大電流値(又は最大電流値に近似する電流値)との差分に基く電流値を、一定時間で昇圧が完了するように供給している。
【0055】
次に、図9を参照して、上述した比例圧力制御ソレノイドバルブ54の昇圧制御を行う際の制御装置50の作動を説明する。ここで、ステップS11及びステップS12は第1の工程A、ステップS13〜ステップS16は第2の工程B、ステップS17〜ステップS20は第3の工程C、ステップS21〜ステップS25は第4の工程Dにそれぞれ対応する。
【0056】
(第1の工程A)
まず、ステップS11では、油圧クラッチ1の入り作動開始時(油圧センサ49からの出力ON信号に基づく主変速装置3の3速の変速作動完了判断時)から所定時間t1にわたって、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に最大電流値を供給し、ステップS12で前記所定時間t1がタイムアップすると、ステップS13に移行する。
【0057】
(第2の工程B)
ステップS13では、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に最小電流値から緩やかに増加する電流値をあらかじめ定められた所定時間にわたって連続して供給し、ステップS14で前記所定時間が経過すると、ステップS15に移行する。
【0058】
ステップS15では、油圧クラッチ1の出力側回転数が増加に転じたか否かを判断し、増加に転じたと判断した場合は、ステップS17に移行し、増加に転じないと判断した場合は、ステップS16に移行する。
【0059】
ステップS16では、油圧クラッチ1の出力側回転数が増加に転じない時間が、ステップS12の最小電流値の供給時点から所定時間t以上に達したか否かが判断され、達したと判断した場合はステップS17に移行し、達しないと判断した場合はステップS13に移行する。
【0060】
(第3の工程C)
ステップS17では、加速度があらかじめ定められた閾値を超えたか否かが判断され、超えたと判断した場合は、ステップS20に移行して、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対する電流値供給を停止して維持(図6の時間t5参照)して、ステップS21に移行し、超えないと判断した場合は、ステップS18に移行する。
【0061】
ステップS18では、加速度の変化率があらかじめ定められた所定の値を超えたか否かが判断され、超えたと判断した場合はステップS20に移行し、超えないと判断した場合はステップS19に移行して、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に、ステップS13の最後に供給した電流値から引き続いて、最大電流値(又は最大電流値に近似する電流値)との差分に基く電流値を一定時間で昇圧が完了するように供給して、油圧クラッチ1を比較的に急激に昇圧し、ステップS21に移行する。
【0062】
(第4の工程D)
ステップS21では、ステップS19又はステップS20での電流値が最大電流値(100%)であるか否かを判断し、最大電流値であると判断した場合は、昇圧制御を終了する。一方、最大電流値に達してないと判断した場合は、ステップS22に移行して、理論回転数Rを算出し、ステップS23で、出力側回転数Jと理論回転数Rとが一致するか否かを判断する。
【0063】
ステップS23で、出力側回転数Jと理論回転数Rとが一致すると判断した場合は、ステップS24に移行し、一致しないと判断した場合は、ステップS17に移行する。
【0064】
ステップS24では、ステップS19の最後に供給した電流値から引き続いて、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対して,最大電流値(又は最大電流値に近似する電流値)との差分に基く電流値を一定時間t4で昇圧が完了するように供給し、ステップS25で、電流値が最大電流値に達した時点で、昇圧制御を終了する。
【0065】
上記の説明から明らかなように、この実施の形態では、第1の工程Aにより油圧クラッチ1がガタ詰め(多板クラッチが接触してトルク容量が得られる直前の状態)されて、油圧クラッチ1の素早い操作を可能とするものでありながら、第2の工程Bにより所定時間連続して油圧クラッチ1を初期圧から緩昇圧し、油圧クラッチ1の出力側回転数が増加(加速度がプラス側に変更)に転じたことに基づき第3の工程Cに移行して、油圧クラッチ1を急激に昇圧しているので、急激な油圧クラッチ1の接続によるシフトショックを防止することができ、また、クラッチ係合の遅れがなくなるため、変速時間を短縮することができる。
【0066】
更に、第2の工程Bを所定時間連続するので、第1の工程Aに引き続いて油圧クラッチ1を急激に昇圧することをなくして、シフトショックの発生を確実に防止することができる。
【0067】
更に、第2の工程Bにおいて、所定時間油圧クラッチ1の出力側回転数が増加に転じない場合には、強制的に第3の工程Cに移行するので、変速時間が過度に長くなることを防止することができる。
【0068】
更に、第2の工程Bの後に油圧クラッチ1を比較的急激に昇圧する第3の工程Cが、第2の工程Bの最後に供給した電流値から引き続いて、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に、最大電流値(又は該最大電流値に近似する電流値)との差分に基く電流値を、一定時間で油圧クラッチ1の昇圧が完了するように供給するため、第3の工程Cでの供給開始電流値の高低に関わらず、略均一な時間で第3の工程Cでの油圧クラッチ1の昇圧を完了することが可能となる(S21;Yes)。これにより、油圧クラッチ1を滑らかに接続して、シフトショックを防止することができるとともに、変速時間を短縮して、加速性の向上を図ることができる。
【0069】
更に、第3の工程C中において、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対する供給電流値が最大電流値に達していない状態で、油圧クラッチ1の出力側回転数が理論回転数(又は該理論回転数の近似回転数)になった際に(S23;Yes)、第4の工程Dで、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に、第3の工程Cの最後に供給した電流値から引き続いて、最大電流値(又は該最大電流値に近似する電流値)との差分に基く電流値を、一定時間t4で油圧クラッチ1の昇圧が完了するように供給して、油圧クラッチ1を完全接続させるため、クラッチ接続の不安定状態を短くしてクラッチ発熱量の増大を回避することができ、また、変速時間を短縮することができる。
【0070】
更に、第3の工程Cにおいて、油圧クラッチ1の出力側回転の加速度、及び加速度の変化率の値があらかじめ定めた値を超える場合に、比例圧力制御ソレノイドバルブ54に対する電流値の増加を停止して維持するため、急激な電流値増加によるシフトショックを防止することができる。
【0071】
なお、本発明の油圧クラッチ、変速歯車、アクチュエータ、電磁比例減圧弁、制御部等の構成は上記実施の形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0072】
例えば、上記実施の形態では、シフトアップの場合に本発明を適用したが、シフトダウンの場合に本発明を適用してもよい。この場合、油圧クラッチ1の出力側回転数を、一旦低速段(例えば3速→2速変速時の2速)より更に低速に落とし、それから第3の工程に移行する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態の一例である作業車両の走行変速装置における動力伝達経路の伝動線図である。
【図2】コントロールユニットの油圧回路を示す図である。
【図3】制御装置のブロック図である。
【図4】電磁比例減圧弁に対する供給電流値及び油圧クラッチの出力側回転数のタイムチャート図である。
【図5】電磁比例減圧弁に対する供給電流値及び油圧クラッチの出力側回転の加速度のタイムチャート図である。
【図6】電磁比例減圧弁に対する供給電流値及び油圧クラッチの出力側回転数のタイムチャート図である。
【図7】電磁比例減圧弁に対する供給電流値及び油圧クラッチの出力側回転数のタイムチャート図である。
【図8】制御装置の変速制御の作動を説明するためのフローチャート図である。
【図9】制御装置の昇圧制御の作動を説明するためのフローチャート図である。
【図10】従来の電磁比例減圧弁に対する供給電流値及び油圧クラッチの出力側回転数のタイムチャート図である。
【符号の説明】
【0074】
1 油圧クラッチ
2 走行変速装置
3 主変速装置(変速歯車)
6 副変速装置(変速歯車)
37 アクチュエータ(第1の油圧シリンダ)
38 アクチュエータ(第2の油圧シリンダ)
39 アクチュエータ(副変速油圧シリンダ)
50 制御装置(制御部)
54 電磁比例減圧弁(比例圧力制御ソレノイドバルブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達経路に油圧クラッチ及び複数の変速歯車を介在し、前記油圧クラッチの切作動と共に、アクチュエータにより前記変速歯車の噛合を変更し、かつこの歯車変速が完了したことに伴って、前記油圧クラッチを電磁比例減圧弁によって昇圧制御して入作動させる作業車両の走行変速装置にあって、
前記電磁比例減圧弁を昇圧制御する制御部は、
前記油圧クラッチの入り作動開始時の所定時間にわたって、前記電磁比例減圧弁に最大電流値、又はそれに近似する電流値を供給して、前記油圧クラッチを昇圧して保持する第1の工程と、
この第1の工程に続いて前記電磁比例減圧弁に最小電流値、又は最小電流値から緩やかに増加する電流値を供給して、前記油圧クラッチに初期圧を供給する、又は初期圧から次第に昇圧する第2の工程と、
この第2の工程中において、前記油圧クラッチの出力側回転数が減速側から増速側に転じた際に、前記電磁比例減圧弁に、前記第2の工程の最後に供給した電流値から引き続いて、比較的急激に増加する電流値を供給して、前記油圧クラッチを比較的に急激に昇圧する第3の工程と、を備えてなる、
ことを特徴とする作業車両の走行変速装置。
【請求項2】
前記第2の工程は、少なくとも所定時間にわたって連続する、
請求項1記載の作業車両の走行変速装置。
【請求項3】
前記第2の工程において、その開始から所定時間以上にわたって前記油圧クラッチの出力側回転数が増速側に転じない場合には、前記所定時間経過後前記第3の工程に移行してなる、
請求項1又は2記載の作業車両の走行変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−170530(P2007−170530A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368418(P2005−368418)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】