説明

光散乱膜,及びそれを用いる光デバイス

【課題】 電気信号を所望の位置に導くための機能と,光を散乱させる機能との両方を,表面の凹凸が少ない(理想的にはその表面が平坦な)一つの構造体で提供するための技術を提供する。
【解決手段】 本発明による光散乱膜は,透明な導電体で形成された媒質6と,媒質6に埋め込まれた光散乱体7とを含んで構成される。このような光散乱膜6は,媒質によって導電性が,光散乱体7によって光を散乱する機能が与えられる;光を散乱するために表面に凹凸を積極的に設ける必要はない。かかる光散乱膜は,電気信号を所望の位置に導くための機能と光を散乱させる機能との両方を,表面の凹凸が少ない一つの構造体で提供することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,光散乱膜,及びそれを用いる光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現代生活を支えるデバイスの一つが,電気と光との相互作用を用いて所望の機能を実現する光デバイスである。光電変換装置(例えば,太陽電池),発光デバイス(例えば,発光ダイオード,OLED(organic light emitting diode)を含むエレクロトルミネッセンス素子),及び液晶素子(例えば,液晶表示パネル)は,典型的な光デバイスである。このような光デバイスなしには,現代的な日常生活は成り立たない。
【0003】
光デバイスには,電気信号(例えば,電流や電圧)を所望の位置に導くための導電性の構造体と,光を散乱させるための構造体とが設けられる。例えば,特許文献1は,金属反射膜と,その上に形成された絶縁性の光散乱膜と,該光散乱膜を被覆する透明電極とを備えた液晶表示装置用背面電極板を開示している。更に,特許文献2は,透明樹脂に光散乱体を混合した光散乱膜を備える反射型液晶表示装置を開示している(特許文献2の図1参照)。当該反射型液晶表示装置では,電気信号が印加される透明電極と光散乱膜とは別々に用意されている。この公報は,更に,透明樹脂と同程度の屈折率のスペーサー粒子を混合することにより,光の散乱材である透明粒子間に距離を持たせることで,光散乱膜の光散乱効果を向上させ得ることを開示している(例えば,段落〔0011〕)。加えて,特許文献3は,散乱体の不均一や散乱体の位置のずれに強くエネルギー幅の大きい等方的フォトニックギャップを持ち任意の形状の光導波路やキャビティが作成できる,散乱体がランダムに分布した光学材料を開示している。
【0004】
光デバイスの構造の簡単化のためには,一の構造体によって電気信号を所望の位置に導くための機能と,光を散乱させる機能との両方が実現されることが好ましい。このような構造の一つが,特許文献3乃至5に開示されているように,テクスチャ状に(即ち,凹凸をつけながら)形成された透明電極である。特許文献3乃至5では,テクスチャ状に形成された透明電極が光電変換装置の基板側の電極として使用されている。テクスチャ状に形成された透明電極を基板側の電極として使用することは,光電変換装置の変換効率を向上させるための有力な技術の一つである。テクスチャ状に形成された透明電極は,光電変換装置への入射光を散乱させ,光吸収量,即ち,変換効率を有効に向上させる。
【0005】
テクスチャ状の透明電極を形成する方法としては,以下の3つの方法が知られている。第1の方法は,特許文献1に開示されているように,熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって透明電極を形成する方法である。成長条件を最適化することにより、熱CVD法によってテクスチャ状の透明電極を形成することができる。第2の方法は,特許文献3に開示されているように,ガラス基板の表面を研磨し,研磨された表面に透明電極を形成する方法である。第3の方法は,特許文献2に開示されているように,絶縁性微粒子及びバインダーからなる薄膜を基板上に形成し,その薄膜の上に透明電極を形成する方法である。
【0006】
しかしながら,光を散乱させるために導電体に凹凸を設けることは,好ましくない作用も発生させ得る。例えば,光電変換装置では,テクスチャ状に形成された透明電極を基板側の電極として使用すると,その上に形成された半導体薄膜に欠陥を誘起してしまう。これは,テクスチャ状に形成された透明電極を基板側の電極として使用する技術には,光電変換装置の変換効率の向上に限界があることを意味している(非特許文献1参照)。透明電極の凹凸を増大させれば,半導体層の光吸収を増大させることができる。しかし,透明電極の凹凸の増大は,半導体薄膜に誘起された欠陥を増大させ,出力電圧を低下させる。したがって,透明電極に凹凸を形成することによる変換効率の向上には限界がある。
【0007】
このような背景から,電気信号を所望の位置に導くための機能と,光を散乱させる機能との両方を,表面の凹凸が少ない(理想的にはその表面が平坦な)一つの構造体で提供するための技術の提供が求められている。かかる技術が提供されれば,例えば,光電変換装置の変換効率を向上するためにも有効であろう。
【特許文献1】特開平6−313890号公報
【特許文献2】特開平11−323196号公報
【特許文献3】特開2004−271600号公報
【特許文献4】特許第2862174号公報
【特許文献5】特開2003−243676号公報
【特許文献6】特開2002−222975号公報
【非特許文献1】Yoshiyuki Nasuno et al., "Effects of Substrate Surface Morphology on Microcrystalline Silicon Solar Cells", Jpn. J. Appl. Phys., The Japan Society of Applied Physics, 1 April 2001, vol 40, pp. L303-L305.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって,本発明の目的は,電気信号を所望の位置に導くための機能と,光を散乱させる機能との両方を,表面の凹凸が少ない(理想的にはその表面が平坦な)一つの構造体で提供するための技術を提供することにある。
本発明の他の目的は,光電変換装置の変換効率を向上するための新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために,本発明は,以下に述べられる手段を採用する。その手段を特定するため技術的事項の記述には,[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために,[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号が付加されている。但し,付加された番号・符号は,[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0010】
本発明による光散乱膜(2)(2C)は,透明な導電体で形成された媒質(6)と,媒質(6)に埋め込まれた光散乱体(7)とを含んで構成される。このような光散乱膜(6)は,媒質によって導電性が,光散乱体(7)によって光を散乱する機能が与えられる;光を散乱するために表面に凹凸を積極的に設ける必要はない。かかる光散乱膜は,電気信号を所望の位置に導くための機能と光を散乱させる機能との両方を,表面の凹凸が少ない一つの構造体で提供することを可能にする。
【0011】
当該光散乱膜は,実質的に平坦に形成され得る。ここで,「実質的に平坦」とは,当該光散乱膜(2)(2C)が形成される基板(1)の主面(1a)と平行な方向における長さが300nm〜1200nmである任意の断面における,光散乱膜(2)(2C)の表面(2a)と,基板(1)の主面(1a)とがなす角の平均値が,5°以下であるような状態をいう。光散乱膜が実質的に平坦に形成されることは,特に,その表面に膜が成長される場合(特に,半導体層が形成される場合)に有用である。
【0012】
媒質(6)の比屈折率と光散乱体(7)の比屈折率との差の絶対値は,2.0以内であることが好ましい。
【0013】
また,光散乱体(7)は,絶縁体で形成されていることが好ましく,特に,酸化チタン,ダイヤモンド,酸化シリコン,フッ化マグネシウム(MgF),酸化マグネシウム(MgO),酸化亜鉛(ZnO),及びタンタル酸リチウム(LiTaO)のうちから選択された一の材料であることが好ましい。
【0014】
光散乱体(7)は,第1光散乱体(7a)と,第1光散乱体(7a)を構成する材料と比屈折率が異なる材料で形成されている第2光散乱体(7b)とを備えることが好ましい。
【0015】
光散乱体(7)は,中心回転軸を有する回転楕円体で近似できるような形状に形成され得る。この場合には,光散乱体(7)の外径を光散乱体(7)の中心回転軸(7a)から表面までの平均距離の2倍として定義して,該光散乱体(7)の外径の平均が,60nm以上,2000nm以下であることが好ましい。光散乱体(7)の外径の平均が1200nm以下であることは,一層に好ましく,また,光散乱体(7)の外径の平均が300nm以上であることも,一層に好ましい。
【0016】
また,光散乱体(7)は,球や正多面体のように,中心を有するような構造体で形成され得る。この場合,光散乱体(7)の直径を光散乱体(7)の中心から表面までの平均距離の2倍として定義して,光散乱体(7)の直径の平均は,60nm以上2000nm以下であることが好ましい。光散乱体(7)の直径の平均が1200nm以下であることは一層に好ましく,また,光散乱体(7)の直径の平均が300nm以上であることも一層に好ましい。この場合,光散乱体(7)の直径の最大値と最小値との差は,120nm以下であることが好ましい。
【0017】
また,隣接する2つの光散乱体(7)の中心の距離で定義される,光散乱体(7)のピッチの平均は,4000nm以下,一層好ましくは2400nm以下であることが好ましい。この場合,光散乱体(7)のピッチの最大値と最小値との差は,120nm以下
であることが好ましい。
【0018】
加えて,光散乱体(7)のピッチを隣接する2つの光散乱体(7)の中心の距離で定義し,且つ,光散乱体(7)の直径を前記前記光散乱体の中心から表面までの平均距離の2倍として定義した場合に,光散乱体(7)の前記ピッチの平均である平均ピッチδAVEの光散乱体(7)の直径の平均である平均直径dAVEに対する比δAVE/dAVEが,20以下であることが好ましい。比δAVE/dAVEは,4以下であることが更に好ましい。
【0019】
光散乱膜(2)の表面(2a)から光散乱体(7)への距離は,50nm以下であることが好ましく,30nm以下であることが一層に好ましい。最も好適な実施形態では,光散乱体(7)は,光散乱膜(2)の表面(2a)に接するように配置される。
【0020】
上述されている光散乱膜(2)は,光デバイスに適用されることが好適である。より具体的には,光電変換装置,発光デバイス,及び液晶素子に適用されることが好適である。
【0021】
他の観点において,本発明による光電変換装置は,基板(1)と,基板(1)を被覆するように形成された下部電極層(2)(2C)と,下部電極層(2)(2C)の上に形成された第1半導体層(3)(4C)とを具備している。下部電極層(2)(2C)は,透明な導電体で形成された第1媒質(6)(19)と,第1媒質(6)に埋め込まれた光散乱体(7)(20)とを含む。第1媒質(6)(19)と光散乱体(7)(20)とから構成されている下部電極層(2)(2C)の構造は,入射光を有効に散乱させて第1半導体層(3)(4C)の内部における光路長を増大させる。これは,光電変換装置の変換効率の向上に有効である。
【0022】
当該光電変換装置は,入射光を散乱させて光吸収を促進させるために下部電極層(2)(2C)に凹凸を積極的に形成する必要がない点,言い換えれば,当該光電変換装置は,下部電極層(2)(2C)の,第1半導体層(3)(4C)と接触する接触面(2a)を,実質的に平坦にすることができる点でも有利である。接触面(2a)が実質的に平坦であることは,半導体薄膜の欠陥の発生を抑制しながら変換効率を向上することを可能にする。ここで「実質的に平坦」とは,基板(1)の主面(1a)と平行な方向における長さが300nm〜1200nmである任意の断面における,下部電極層(2)(2C)の表面(2a)と,基板(1)の主面(1a)とがなす角の平均値が,5°以下であるような状態をいう。
【0023】
光閉じ込め効果を高め,もって変換効率を向上するためには,下部電極層(2)の第1半導体層(3)との接触面(2a)から光散乱体(7)への距離は,50nm以下であることが好ましく,30nm以下であることが一層に好ましい。最も好適な実施形態では,光散乱体(7)は,下部電極層(2)の第1半導体層(3)との接触面(2a)に接するように配置される。
【0024】
当該光電変換装置が,第1半導体層(3)と第2半導体層(4)の間に形成されている中間層(8)を備えている場合,中間層(8)は,導電体で形成された第2媒質(11)と,第2媒質(11)に埋め込まれた光散乱体(12)とを含むことが好ましい。このような構造は,入射光を散乱させて光吸収を促進させるために中間層(8)に凹凸を形成する必要がない;即ち,中間層(8)の,第2半導体層(4)と接触する接触面(8a)を,実質的に平坦にすることができる。
【0025】
一層に変換効率を向上するためには,当該光電変換装置の上部電極層(13)は,導電体で形成された第3媒質(14)と,第3媒質(14)に埋め込まれた光散乱体(15)とを含むことが好適である。
【0026】
更に他の観点において,本発明による光電変換装置は,基板(1)と,基板(1)の上面側に形成された第1半導体層(3)と,第1半導体層(3)の上面側に形成された中間層(8)と,中間層(8)の上に形成された第2半導体層(4)とを具備している。中間層(8)は,導電体で形成された媒質(11)と,媒質(11)に埋め込まれた光散乱体(12)とを含む。このような構造は,入射光を散乱させて光吸収を促進させるために中間層(8)に凹凸を形成する必要がない;即ち,中間層(8)の,第2半導体層(4)と接触する接触面(8a)を,実質的に平坦にすることができる。これは,半導体薄膜の欠陥の発生を抑制しながら変換効率を向上することを可能にする。
【0027】
更に他の観点において,本発明による光電変換装置用基板は,基板(1)と,基板(1)の主面(1a)の上に形成された下部電極層(2)とを具備する。下部電極層(2)は,導電体で形成された媒質(6)と,媒質(6)に埋め込まれた光散乱体(7)とを含む。このような光電変換装置用基板は,上述の光電変換装置を製造するために好適な構造を有している。
【0028】
更に他の観点において,本発明による光電変換装置用基板の製造方法は,基板(1)の上に,導電体で形成された第1層(6a)を形成する工程と,第1層(6a)の上に,導電体で形成された媒質(6)の前駆体と光散乱体(7)とを含む溶液を塗布する工程と,前記溶液を焼結することによって媒質(6)に光散乱体(7)が埋め込まれた第2層(6b)を,第1層(6a)の上に形成する工程とを具備する。このような製造方法は,光散乱体(7)が下部電極層(2)の表面(2a)の近傍に位置する光電変換装置用基板を製造することを可能にする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば,電気信号を所望の位置に導くための機能と,光を散乱させる機能との両方を,表面の凹凸が少ない(理想的にはその表面が平坦な)一つの構造体で提供するための技術を提供することができる。
更に,本発明を光電変換装置に適用することにより,光電変換装置の変換効率を一層に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施の一形態の光散乱膜は,図1に示されているように,透明かつ導電性の媒質6と,この媒質6に埋め込まれた光散乱体7とで構成されている。媒質6としては,透明電極として広く使用される一般的な材料,例えば,酸化錫,酸化亜鉛,酸化インジウム,ITO(Indium Tin Oxide)が使用され得る。光散乱体7としては,媒質6と異なる比屈折率を有する材料が使用される。具体的には,媒質6として酸化錫,酸化亜鉛,酸化インジウム,ITOが使用される場合には,光散乱体7としては,酸化チタン(比屈折率:2.2〜2.3),ダイヤモンド(比屈折率:2.1〜2.2),SiO(ガラス)(比屈折率1.53),MgF(比屈折率1.29),MgO(比屈折率1.73),ZnO(比屈折率1.88),LiTaO(比屈折率2.18)等が好適に使用される。
【0031】
このような光散乱膜には,導電性である媒質6によって導電性が与えられ,更に,光散乱体7によって光を散乱する機能が与えられる。当該光散乱膜では,光を散乱するためにその表面に凹凸を設ける必要がない。このように,図1の光散乱膜は,電気信号を所望の位置に導くための機能と,光を散乱させる機能との両方を,表面の凹凸が少ない(理想的にはその表面が平坦な)一つの構造体で実現することを可能にする。
【0032】
光を一層に効率よく散乱させるためには,光散乱体7が,異なる比屈折率を有する2種以上の材料で形成されることが好適である。例えば,図2に示されているように,光散乱体7が,酸化チタンで形成された光散乱体7aと,SiO(ガラス)で形成された光散乱体7bとで構成されていることが好適である。異なる材料で形成された光散乱体7を使用することにより,同一の屈折率を有する光散乱体7が直接に接する確率が低くなり,入射光を一層に効率よく散乱させることができる。
【0033】
以下では,本発明による光散乱膜の好適な構造,及び当該光散乱膜が光デバイスに具体的に適用される実施例が説明される。
【実施例1】
【0034】
実施例1では,本発明による光散乱膜が,光電変換装置の透明電極として使用される。本実施例では,図3に示されているように,タンデム型薄膜太陽電池10が,ガラス基板1と,ガラス基板1の主面1aの上に順次に形成された,下部電極層2,トップセル3,ボトムセル4,及び上部電極層5とを備えて構成されている。トップセル3は,下部電極層2の上に順次に形成された,p型アモルファスシリコン層3aと,i型アモルファスシリコン層3bと,n型アモルファスシリコン層3cから構成されている。ボトムセル4は,トップセル3の上に順次に形成された,p型微結晶シリコン層4aと,i型微結晶シリコン層4bと,n型微結晶シリコン層4cから構成されている。上部電極層5は,ボトムセル4の上に形成されたZnO層5aと,ZnO層5aの上に形成されたAg層5bから構成されている。ZnO層5aには,Gaがドープされている。
【0035】
本実施例のタンデム型薄膜太陽電池10では,下部電極層2として,本発明による光散乱膜が使用される。言い換えれば,下部電極層2が,透明な導電体で形成された媒質6と媒質6に埋め込まれた光散乱体7とで構成される。光散乱体7は,ガラス基板1を介して入射される入射光を散乱させ,トップセル3及びボトムセル4の光吸収を促進する。言い換えれば、本実施の形態のタンデム型薄膜太陽電池10は、光散乱体7が媒質6に埋め込まれた下部電極層2を使用しているため、下部電極層2に入射光を散乱させるための凹凸を設ける必要がない。これは、トップセル3、及びボトムセル4を構成する半導体膜の欠陥の発生を抑制しながら,変換効率を向上することを可能にする。
【0036】
背景技術に開示された光電変換装置とは異なり,本実施の形態の下部電極層2には,変換効率を向上するための凹凸は積極的には設けられない。下部電極層2の,トップセル3に接する表面2aは,実質的に平坦である。「実質的に平坦」とは,ガラス基板1の主面と平行な方向における長さが300nm〜1200nmである任意の断面における,下部電極層2の表面2aと,ガラス基板1の主面1aとがなす角の平均値θが,5°以下であるような状態をいう。この程度の平坦度であれば,シリコン層の欠陥に起因する開放電圧の低下を招かない。図4は,このことを裏付けるグラフであり,平均値θと,開放電圧の関係を示している。図4から理解されるように,平均値θが5°以下である場合には,開放電圧は低下しない。
【0037】
以下では、下部電極層2を構成する媒質6及び光散乱体7の、好適な物理的性質及び構造が詳細に説明される。
【0038】
下部電極層2の媒質6としては,透明電極として広く使用される一般的な材料,例えば,酸化錫,酸化亜鉛,酸化インジウム,ITO(Indium Tin Oxide)が使用され得る。
【0039】
光散乱体7としては,媒質6と異なる比屈折率を有する材料が使用される。光散乱体7を構成する材料は,その比屈折率と媒質6の比屈折率との差の絶対値が,2以下となるような材料から選択される。具体的には,媒質6として酸化錫,酸化亜鉛,酸化インジウム,ITOが使用される場合には,光散乱体7としては,酸化チタン(比屈折率:2.2〜2.3),ダイヤモンド(比屈折率:2.1〜2.2),SiO(ガラス)(比屈折率1.53),MgF(比屈折率1.29),MgO(比屈折率1.73),ZnO(比屈折率1.88),LiTaO(比屈折率2.18)等が好適に使用される。
【0040】
光散乱体7としては導電体は使用される必要はない;光散乱体7による光吸収を抑制するためには,むしろ,光散乱体7としては絶縁体が使用されることが好適である。自由電子が少ない絶縁体を光散乱体7として使用することは、光散乱体7による光吸収を抑制するために有効である。一方で、トップセル3,ボトムセル4によって発生される光電電流は媒質6を介して流れるから,光散乱体7として絶縁体が使用されることは,光電電流が流れることを阻害しない。
【0041】
光散乱体7の大きさは,入射光の散乱の程度を決定する重要なパラメータの一つである。図5に示されているように,光散乱体7の形状を回転楕円体で近似した場合には,光散乱体7の外径の平均は,60nm以上2000nm以下であることが好ましく,60nm以上,1200nm以下であることが一層に好ましい;ここで,光散乱体7の外径とは,光散乱体7の中心回転軸7cから表面までの距離Lの平均LAVEの2倍として定義されるパラメータである。
【0042】
光散乱体7として,球,又は正多面体のように中心を持つ形状の構造体が使用される場合には,光散乱体7の平均直径は,10nm〜2000nmであることが好適であり,60nm〜1200nmであることは,一層に好適である;ここで,ある光散乱体7の直径とは,当該光散乱体7の中心から表面の距離の平均の2倍で定義され,平均直径とは,上記のように定義された光散乱体7の直径の平均をいう。光散乱体7の平均直径をこの範囲にすることにより,タンデム型薄膜太陽電池10が電力を発生するために使用する光波長域の光をより効果的に散乱し,タンデム型薄膜太陽電池10の効率を向上させることができる。
【0043】
加えて,光散乱体7の平均ピッチは,4000nm以下であることが好ましく,タンデム型薄膜太陽電池10が電力を発生するために使用する光波長域の高値である1200nmの2倍以下,即ち,2400nm以下であることが一層に好ましい;ここで,隣接する光散乱体7のピッチとは,当該光散乱体7の中心の距離をいい,平均ピッチとは光散乱体7のピッチの平均をいう。光散乱体7の平均ピッチをこの範囲にすることにより,タンデム型薄膜太陽電池10が電力を発生するために使用する光波長域の光をより効果的に散乱し,タンデム型薄膜太陽電池10の効率を向上させることができる。
【0044】
また,光散乱体7の平均ピッチδAVEの平均直径dAVEに対する比δAVE/dAVEは,20以下であることが好ましく,4以下であることが一層に好ましい。比δAVE/dAVEをこの範囲にすることにより,タンデム型薄膜太陽電池10が電力を発生するために使用する光波長域の光をより効果的に散乱し,タンデム型薄膜太陽電池10の効率を向上させることができる。
【0045】
下部電極層2のトップセル3の側の表面2aと,光散乱体7の距離は,50nm未満であることが好ましく,30nm未満であることが一層に好ましく,光散乱体7が表面2aに接していることが最も好適である;図3には,光散乱体7が表面2aに接している構造が図示されている。光散乱体7の表面2aからの距離を小さくすることにより,トップセル3及びボトムセル4に入射された光をトップセル3及びボトムセル4に閉じ込め,変換効率を向上することができる。
【0046】
光散乱体7は,可能な限り規則的に設けられていることが好ましい。より具体的には,下部電極層2のトップセル3の側の表面2aから光散乱体7への距離(即ち,光散乱体7が埋め込まれる深さ)の最大値と最小値との差は,タンデム型薄膜太陽電池10が電力を発生するために使用する光波長域の低値である300nmの10分の1以下である30nm以下であることが好ましい。
【0047】
また,図5に示されているように光散乱体7を回転楕円体で近似した場合には,光散乱体7の外径の最大値と最長値との差は,タンデム型薄膜太陽電池10が電力を発生するために使用する光波長域の高値である1200nmの10分の1以下である120nm以下であることが好ましい。同様に,光散乱体7が中心を有する構造体である場合には,光散乱体7の直径の最大値と最小値との差は,120nm以下であることが好ましい。光散乱体7の大きさのばらつきが変換効率に与える影響は,光散乱体7が埋め込まれる深さが変換効率に与える影響よりも小さいため,光散乱体7の直径は,光散乱体7が埋め込まれる深さと比較して大きなばらつきが許容される。同様に,光散乱体7のピッチの最大値と最小値との差は,120nm以下であることが好ましい。
【0048】
光散乱体7が媒質6に埋め込まれた下部電極層2は,前段階でCVD法,スパッタリング法,イオンプレーティング法,ゾル・ゲル法を用いて,後段階でゾル・ゲル法を用いて形成されることが好適である。後段階でゾル・ゲル法が使用される場合,媒質6の前駆体溶液に光散乱体7を混合しておけば,光散乱体7を媒質6に容易に分散させることができる。
【0049】
図6A,図6Bは,好適な下部電極層2の形成工程を示す断面図である。まず,図6Aに示されているように,ガラス基板1の主面1aの上に,媒質6と同一材料の第1層6aがCVD法,スパッタリング法,イオンプレーティング法,ゾル・ゲル法を用いて形成される。より具体的には,CVD法,スパッタリング法,イオンプレーティング法の場合,直接媒質6の薄膜を形成する。またゾル・ゲル法の場合,媒質6の前駆体を含む溶液がガラス基板1に塗布された後,当該前駆体溶液を焼結することによって第1層6aが形成される。経験上,CVD法,スパッタリング法,イオンプレーティング法による媒質6の性能は,ゾル・ゲル法よりも高いため,第1層6aの形成は,CVD法,スパッタリング法,イオンプレーティング法によることが望ましい。続いて,図6Bに示されているように,ゾル・ゲル法により,第2層6bが形成される。詳細には,媒質6の前駆体と光散乱体7とが混合された溶液がガラス基板1に塗布された後,当該溶液を焼結することによって第2層6bが形成される。このような形成工程により,光散乱体7が下部電極層2の表面2aの近傍に位置するような構造を有する下部電極層2を形成することができる。第2層6bの形成に使用される前駆体溶液の粘度を調節して第2層6bの厚さを光散乱体7の直径に一致させれば,理想的には,光散乱体7を下部電極層2の表面2aに接するように位置させることができる。
【0050】
(好適な変形例)
下部電極層2がゾル・ゲル法を用いて形成される場合に入射光を一層に効率よく散乱させるためには,図2を参照して上述されているように,一の材料で形成された光散乱体7と,当該一の材料と異なる比屈折率を有する材料で形成された光散乱体7とが下部電極層2に含まれることが好適である。例えば,図7に示されているように,光散乱体7が,酸化チタンで形成された光散乱体7aと,SiO(ガラス)で形成された光散乱体7bとで構成されていることが好適である。異なる材料で形成された光散乱体7を使用することにより,同一の屈折率を有する光散乱体7が直接に接する確率が低くなり,入射光を一層に効率よく散乱させることができる。
【0051】
トップセル3とボトムセル4との間に中間層が設けられる場合には,当該中間層としても本発明による光散乱膜が使用されることが好適である。図8は,このようなタンデム型薄膜太陽電池10Aの構造を示す断面図である。タンデム型薄膜太陽電池10Aは,トップセル3とボトムセル4との間に設けられた中間層8を備えている。中間層8のボトムセル4の側の面8aは,「実質的に平坦」に形成され,且つ,中間層8が導電体で形成された媒質11と,媒質11に埋め込まれた光散乱体12から構成される。中間層8に光散乱体12が埋め込まれることにより,中間層8からボトムセル4に向かう透過光が充分に散乱され,ボトムセル4内部の透過光光路長が充分に増加し結果としてボトムセル4の吸収光量が増加する。加えて,光散乱体12を媒質11に埋め込むことは,変換効率の向上のために中間層8に凹凸を設ける必要を無くし,中間層8のボトムセル4の側の面8aを「実質的に平坦」に形成することを可能にする;ここでいう「実質的に平坦」とは,上述の定義と同一の意味である。中間層8の面8aが「実質的に平坦」に形成されることは,ボトムセル4の変換効率を向上させるために重要である。中間層8の面8aが実質的に平坦に形成されることにより,面8aの上に順次に形成されるp型微結晶シリコン層4aとi型微結晶シリコン層4bとn型微結晶シリコン層4cの欠陥の発生が抑制され,ボトムセル4の変換効率が有効に向上される。
【0052】
中間層8の媒質11及び光散乱体12の好適な物理的な性質は,下部電極層2の媒質6及び光散乱体7と同様である。媒質11としては,透明電極として広く使用される一般的な材料,例えば,酸化錫,酸化亜鉛,酸化インジウム,ITO(Indium Tin Oxide)が使用され得る。光散乱体12としては,媒質11と異なる比屈折率を有する材料,具体的には,酸化チタン,ダイヤモンド,SiO(ガラス),MgF,MgO,ZnO,LiTaO等が好適に使用される。光散乱体12としては,導電体は使用される必要はない。
【0053】
上部電極層として,上述の光散乱膜が使用されることも好適である。図9は,このようなタンデム型薄膜太陽電池10Bの構造を示す断面図である。タンデム型薄膜太陽電池10Bは,図3の上部電極層5の代わりに,ボトムセル4の上に形成された透明電極層13と,透明電極層13の上に形成されたAg層14とを備えている;透明電極層13とAg層14とは,タンデム型薄膜太陽電池10Bの上部電極として機能する。透明電極層13は,媒質15と,媒質15に埋め込まれた光散乱体16から構成されている。
【0054】
透明電極層13の媒質15及び光散乱体16の好適な物理的な性質は,下部電極層2の媒質6及び光散乱体7と同様である。媒質15としては,透明電極として広く使用される一般的な材料,例えば,酸化錫,酸化亜鉛,酸化インジウム,ITO(Indium Tin Oxide)が使用され得る。光散乱体16としては,媒質15と異なる比屈折率を有する材料,具体的には,酸化チタン,ダイヤモンド,SiO(ガラス),MgF,MgO,ZnO,LiTaO等が好適に使用される。光散乱体16としては,導電体は使用される必要はない。
【0055】
本発明は,太陽光が上部電極の側から入射される構造の薄膜太陽電池にも適用可能である。図10は,かかる構造を有するタンデム型薄膜太陽電池10Cの構成を示す断面図である。タンデム型薄膜太陽電池10Cは,ガラス基板1と,下部電極層2Cと,ボトムセル4Cと,トップセル3Cと,上部電極層5Cとを備えている。ボトムセル4Cは,下部電極層2Cの上に順次に形成された,p型微結晶シリコン層4aと,i型微結晶シリコン層4bと,n型微結晶シリコン層4cから構成されている。トップセル3Cは,ボトムセル4Cの上に順次に形成された,p型アモルファスシリコン層3aと,i型アモルファスシリコン層3bと,n型アモルファスシリコン層3cから構成されている。上部電極層5Cは,透明電極として広く使用される一般的な材料,例えば,酸化錫,酸化亜鉛,酸化インジウム,ITO(Indium Tin Oxide)で形成される。
【0056】
タンデム型薄膜太陽電池10Cの下部電極層2Cは,金属電極層17と,その上に形成された透明電極層18とで構成される。図3のタンデム型薄膜太陽電池10と同様に,透明電極層18には積極的に凹凸は設けられない。その代りに,透明電極層18は,透明な導電体で形成された媒質19と,媒質19に埋め込まれた光散乱体20とで構成される。光散乱体20は,上部電極層5Cを介して入射される入射光を散乱させ,トップセル3及びボトムセル4の光吸収を促進する。このような構成でも,トップセル3C、及びボトムセル4Cを構成する半導体膜の欠陥の発生を抑制しながら,変換効率を向上することが可能である。
【0057】
図10のタンデム型薄膜太陽電池10Cにも中間層が設けられ得る。この場合,図8のタンデム型薄膜太陽電池10Aと同様に,当該中間層が媒質と光散乱体とで構成されることが好適である。更に,上部電極層5Cが媒質と光散乱体とで構成されることも好適である。
【0058】
本発明は,上述の構造以外の様々な構造の薄膜太陽電池にも適用可能である。例えば,媒質6と光散乱体7とからなる下部電極層2の構造,及び媒質15と光散乱体16とからなる透明電極層13を含む上部電極層の構造は,光電変換セルが積層されていない(即ち,タンデム型薄膜太陽電池ではない)薄膜太陽電池に適用されることが可能である。
【0059】
また,薄膜太陽電池を構成する材料としては,シリコン以外の材料,例えば,SiC,SiGeが使用可能である。
【実施例2】
【0060】
実施例2では,図11に示されているように,本発明による光散乱膜が反射型液晶表示装置の電極として使用される。反射型液晶表示装置では,該装置に入射する外光を反射し,更に,散乱することが要求される。本発明による光散乱膜は,液晶に所望の電圧を印加するための電極として使用されるとともに,光を散乱する光散乱手段として使用される。
【0061】
具体的には,実施例2に係る反射型液晶表示装置は,透明基板31と,対向基板32と,透明電極33と,対向電極34と,偏光フィルム35とを備えている。透明基板31と対向基板32とは,スペーサー39によって対向するように支持されており,透明基板31と対向基板32の間には,液晶36が充填される。透明電極33と対向電極34とは,液晶36に画素の階調に対応する電圧を印加するためのものである。透明電極33は,透明基板31に接合され,対向電極34は,対向基板32に接合されている。偏光フィルム35は,透明基板31の,透明電極33が接合されている面と反対側の面に接合され,直線偏光のみを選択的に透過させる。
【0062】
当該反射型液晶表示装置に入射される入射光を,反射し,散乱するために,対向電極34は,金属薄膜37と,導電性光散乱膜38とで形成される。金属薄膜37は,対向基板32に接合されており,導電性光散乱膜38は,金属薄膜37の上に形成されている。導電性光散乱膜38としては,図1に示されているような本発明の光散乱膜が使用される;導電性光散乱膜38は,透明かつ導電性の媒質と,当該媒質に埋め込まれた光散乱体で構成される。このような構成の対向電極34は,液晶36に画素の階調に対応する電圧を印加する役割をすると共に,金属薄膜37によって入射光を反射し,更に,導電性光散乱膜38によって反射された光を散乱する役割を果たす。このような構造の対向電極34は,当該反射型液晶表示装置の構造を簡単化するために有効である。
【0063】
実施例2の反射型液晶表示装置では,光を散乱させるために,対向電極34に不所望な凹凸を設ける必要がないことに留意されたい。対向電極34に凹凸があることは,液晶36の配向に悪影響を及ぼし得るため好適でない。本発明による光散乱膜が対向電極34に組み込まれることにより,対向電極34に不所望な凹凸を設けることなく,光を散乱させることが可能である。
【0064】
後述のシミュレーションで実証されるように,導電性光散乱膜38は,それに含まれる光散乱体の大きさを調節することにより,その反射率を増大させることも可能である。この場合には,金属薄膜37が使用されないことも可能である。
【実施例3】
【0065】
実施例3では,図12に示されているように,本発明による光散乱膜が,有機EL(electroluminescence)素子の電極として使用される。有機EL素子では,それによって発生された光が散乱されることが有用である場合がある。例えば,有機EL素子が表示装置に使用される場合,発生した光を散乱することは該表示装置の視認性を向上するために有用である。本実施例では,本発明による光散乱膜が,発光層に電流を供給し,更に,光を散乱するために使用される。
【0066】
具体的には,実施例3に係る有機EL素子は,透明基板41と,陽極42と,正孔輸送層43と,発光層44と,電子輸送層45と,陰極46とを備えている。当該有機EL素子では,正孔が陽極42から正孔輸送層43を介して発光層44に注入され,電子が陰極46から電子輸送層45を介して発光層44に注入される。発光層44における正孔と電子の再結合により,光が発生する。
【0067】
陽極42としては,図1に示されているような,本発明による光散乱膜が使用される;即ち,陽極42は,透明かつ導電性の媒質と,当該媒質に埋め込まれた光散乱体で構成される。このような陽極42の構造は,正孔を発光層44に供給する機能と光を散乱する機能との両方を,簡単な構造によって実現することを可能にする。
【0068】
なお,有機EL素子の構造は,適宜に変更され得ることは当業者には自明的である。例えば,本発明による光散乱膜が陰極46として使用されることも可能である。また,発光層44は,正孔輸送層43を介さずに陽極42に直接に接続されることも可能であり,電子輸送層45を介さずに陰極46に直接に接続されることも可能である。
【0069】
以下では,本発明による光散乱膜の有用性がシミュレーション結果を用いて説明される。
【0070】
[シミュレーション結果1]
本発明による光散乱膜の有用性を検証するために,図13に示されている構造体についてシミュレーションが行われた。当該構造体は,光散乱膜51の上に,多結晶シリコン膜52,ガリウムドープ酸化亜鉛膜(ZnO:Ga膜)53,及びAg膜54が順次に形成されている。光散乱膜51の媒質6としてはフッ素がドープされた酸化錫が使用され,光散乱体7としてはTiOで形成された球体が使用されている。光散乱膜51の厚さは,0.7μm,又は,1.2μmから選択され,光散乱体7の直径は,60〜1200nmの範囲から選択されている。多結晶シリコン膜52の厚さは,1〜3μmの範囲内の固定した1点であり,ZnO:Ga膜53の厚さは,20〜200nmの範囲内の固定した1点であり,Ag膜54の厚さは,0.1〜10μmの範囲内の固定した1点である。シミュレーションでは,図13に図示されている構造が,面内方向に無限に繰り返されていると仮定されている。
【0071】
シミュレーションは,マクスウェルの電磁方程式を,時間領域有限差分解析(FDTD)を用いて,そのままに解くことによって行なわれた。そのFDTD解析の計算条件の詳細は,下記のとおりである:
入射光は,光散乱膜51の表面に平行である平面波である。吸収境界のアルゴリズムは,BerengerのPerfect Matching Layer法(J. P. Berenger, J. Computational Physics, 114, 185(1994) 参照)が適用された。反射波の振幅と,各セル内の電磁波の振幅の時間変化が全計算時間で記録され,フーリエ変換により300nm〜1200nm(空気中又は真空中の波長)の振幅が5nm間隔で刻まれた。シリコンの吸収率の計算の収束は,吸収率と反射率の和が100%になることにより確認された。この計算により,多結晶シリコン膜52の量子効率スペクトルが決定された。さらに300nm〜1200nm(空気中の又は真空中の波長)の波長範囲において,基準太陽光(JIS C8911等に記載)の光子数密度と各セルの量子効率スペクトルの積を波長について積分し,吸収した総光子数密度から短絡電流密度JSCが,下記式によって算出された:
【数1】

ここで,∫dλは,300nm〜1200nmの波長範囲における積分を表しており,G(λ)は,基準太陽光(JIS8911Cに記載)のスペクトルであり,η(λ)は量子効率であり,Qは,電子の電荷である。式(1)で求められる短絡電流密度JSCは,吸収された光から発生される正孔,電子の対による電流の電流密度であり,光吸収の程度と等価である。したがって,以下では,等価電流密度JSCと呼ばれることがある。
【0072】
更に,等価電流密度JSCから,等価膜厚dが算出された。等価膜厚とは,光散乱膜51が光を散乱することによって得られる光吸収の増大を表す指標である;光散乱膜51による光の散乱により,光路長が増大して光吸収が増大する。これは,多結晶シリコン膜52の膜厚の増大と等価である。すなわち,等価膜厚は,光散乱による光路長の増大を多結晶シリコン膜52の等価的な膜厚で表している。
【0073】
等価膜厚dは,下記の式(2)で表される関係を用いて算出された:
【数2】

ここで,α(λ)は,単結晶Siの吸収係数である。式(2)は,式(1)と,下記の関係式(3):
【数3】

とから得られていることに留意されたい。式(2)から得られる等価電流密度JSCと等価膜厚dとの関係は,図14に示されているとおりである。
【0074】
等価膜厚dは,多結晶シリコン膜52の本来の膜厚(即ち,[0070]に記載の多結晶シリコン膜52の膜厚である1〜3μmの範囲内の固定した1点)によって規格化され,等価膜厚比として算出された。この等価膜厚比が,光散乱膜51による散乱の程度の指標として採用された。等価膜厚比が100%を超えているということは,多結晶シリコン膜52への光散乱性の存在を意味している。
【0075】
図15Aは,光散乱体7の直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチと等価膜厚比との関係を示すグラフであり,図15Bは,光散乱体7の直径が300nm〜1200nmの範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチと等価膜厚比の関係を示すグラフである。光散乱膜51の厚さは,図15Aの場合には,0.7μmであり,図15Bの場合には1.2μmと仮定されている。ただし,図15A,図15Bのいずれのグラフについても,ピッチが”0nm”である等価膜厚比の値は,光散乱体7の代わりに,媒質6と多結晶シリコン膜52の間に光散乱体7の直径と等しい膜厚の連続的なTiO層が設けられている構造の等価膜厚比の値であること,及び光散乱体7は光散乱体51と多結晶シリコン膜52の界面に接していることに留意されたい。
【0076】
図15A,図15Bから理解されるように,光散乱体7の直径を60nm〜1200nmにし,更に,光散乱体7のピッチを発電に使用される光波長域の高値である1200nmの2倍以下,即ち,2400nm以下にすることにより,100%を超える等価膜厚比を得ることができる。これは,光散乱体7の直径及びピッチを上述の範囲に定めることが,太陽光の散乱効率を高めるために有利であることを意味している。
【0077】
光散乱体7がダイヤモンドで形成されている場合も同様である。図16は,下部電極層2の膜厚が0.7μmと仮定され,且つ,光散乱体7としてダイヤモンドが使用されている場合における,光散乱体7のピッチ,直径,及び等価膜厚比の関係を示すグラフである。詳細には,図16は,光散乱体7が光散乱体51と多結晶シリコン膜52の界面に接しており,光散乱体7の直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチと等価膜厚比の関係を示すグラフである。図16から理解されるように,光散乱体7がダイヤモンドで形成されているときの等価膜厚比の挙動は,光散乱体7がTiOで形成されているときの等価膜厚比の挙動とほぼ同様である。これは,光散乱体7の材料としてダイヤモンドを採用可能であることを意味している。
【0078】
図17は,光散乱膜51の,多結晶シリコン膜52の側の表面から光散乱体7への距離(即ち,光散乱体7の深さ)と,等価膜厚比の関係を示している。光散乱体7の直径は,120nm,240nm,360nm,600nmのうちから選択され,ピッチは,各直径について等価膜厚比を最大にするように選択されている。
【0079】
図17から理解されるように,光散乱体7の深さが浅いほど,高い等価膜厚比が得られる。具体的には,光散乱体7の深さを30nm以下にすることにより,100%を超える等価膜厚比を得ることができる。図17は,光散乱体7の深さを30nm以下にすること,好ましくは,30nm以下にすることの有用性を示している。
【0080】
[シミュレーション結果2]
更に,光散乱膜による光の反射についてのシミュレーションが行われた。当該シミュレーションでは,光散乱膜による光の反射が積分反射ヘイズ率Hを用いて評価された;積分反射ヘイズ率Hとは,光散乱膜によって反射される光のうち,垂直方向以外の方向に反射される光の割合を示す値であり,全方向についての反射率スペクトルrtotal(λ)と,垂直方向についての反射率スペクトルrnormal(λ)とを用いて,下記式(4)のように定義される:
【数4】

【0081】
上記のように定義される積分反射ヘイズ率Hzは,一般に広く使用されている透過ヘイズ率と対比して考えることができることに留意されたい。透過ヘイズ率Hz(λ)は,全方向の透過率ttotal(λ)と,垂直方向以外の透過率tslant(λ)とを用いて,下記式(5):
Hz(λ)=tslant(λ)/ttotal(λ), ・・・(5)
で定義される値である。上記の積分反射ヘイズ率Hは,反射について同様の概念を適用することによって定義される指標である。
【0082】
図18は,光散乱体7のピッチ,直径,及び反射ヘイズ率の関係を示すグラフである。光散乱体7は,TiOで形成された球体であると仮定されている。光散乱体のピッチが”0nm”である透過ヘイズ率の値は,光散乱体7の代わりに,媒質6と多結晶シリコン膜52の間に光散乱体7の直径と等しい膜厚の連続的なTiO層が設けられている構造の等価膜厚比の値であることに留意されたい。
【0083】
図18に示されているように,光散乱体7の直径,ピッチの増加に伴い,積分反射ヘイズ率は大きく増加する。この結果は,本発明による光散乱膜が,反射光の散乱について任意の制御が可能であることを示している。光散乱膜の反射が制御可能であることは,図11の反射型液晶表示装置のように,光散乱膜に光を反射する機能が与えられる場合に特に重要である。
【0084】
[シミュレーション結果3]
図2を参照して説明されているように,光散乱体7は,2種類以上の比屈折率が異なる材料で形成された光散乱体で構成されていることが好適である。2種類以上の比屈折率が異なる材料で光散乱体7を形成することの有用性が,シミュレーションによって検証された。このシミュレーションでは,図13に示されている光散乱膜51の代わりに,光散乱体7として,TiO球とガラス球とが交互に配置されている光散乱膜が使用されていると仮定された。光散乱体7のピッチは0.3μmである。光散乱膜を構成する媒質6は,フッ素がドープされた酸化錫で形成されていると仮定された。光散乱膜の厚さは,0.7μmであると仮定された。
【0085】
図19は,TiO球とガラス球とが交互に配置されている光散乱膜についての,等価膜厚比と光散乱体7の直径との関係を示すグラフである。図19から理解されるように,TiO球とガラス球とが交互に配置されることにより,大きな等価膜厚比が得られる。これは,2種類以上の比屈折率が異なる材料で光散乱体7を形成することの有効性を示している。
【0086】
[シミュレーション結果4]
続いて,本発明による光散乱膜が図3の構造のタンデム型薄膜太陽電池10に採用されることの有利性が,シミュレーションによって検証された。タンデム型薄膜太陽電池10のシミュレーションの手順は,その対象となる構造が異なる点以外,上述のシミュレーションと概略的には同一である。より具体的には,タンデム型薄膜太陽電池10のシミュレーションの手順は,以下のとおりである。
【0087】
タンデム型薄膜太陽電池10のシミュレーションは,マクスウェルの電磁方程式を,時間領域有限差分解析(FDTD)を用いて,そのままに解くことによって行なわれた。そのFDTD解析の計算条件の詳細は,下記のとおりである:
入射光は,基板面に平行である平面波である;即ち,基板は,太陽に対して真っ直ぐに向けられると仮定された。吸収境界のアルゴリズムは,BerengerのPerfect Matching Layer法(J. P. Berenger, J. Computational Physics, 114, 185(1994)参照)が適用された。反射波の振幅と,各セル内の電磁波の振幅の時間変化を全計算時間で記録され,フーリエ変換により,300nm〜1200nm(空気中又は真空中の波長)の振幅は5nm間隔で刻まれる。シリコンの吸収率の計算の収束は,吸収率と反射率の和が100%になることにより確認された。この計算により,トップセル3,ボトムセル4の量子効率スペクトルを得る。さらに300nm〜1200nm(空気中の又は真空中の波長)の波長範囲において,基準太陽光(JIS C8911等に記載)の光子数密度と各セルの量子効率スペクトルの積が波長について積分され,吸収した総光子数密度をもって短絡電流密度とされた。光電変換層内部の欠陥が少ない実用的な太陽電池であれば,この仮定は妥当である。
【0088】
図20は,シミュレーションの対象にされた断面構造を示す図である。シミュレーションでは,光散乱体7は,その直径が同一の球体であると仮定され,従って,光散乱体7の平均直径は,個々の光散乱体7の直径と一致する。加えて,図7の構造がガラス基板1の面内方向に無限に繰り返されていると仮定されている。言い換えれば,光散乱体7の平均ピッチは,任意の隣接する2つの光散乱体7のピッチと一致する。下部電極層2の媒質6としては,フッ素がドープされたSnOが使用されていると仮定されている。更に,光散乱体7は,下部電極層2の表面2aに接するように位置していると仮定されている。(ここでトップセル3の膜厚は0.1〜0.5μmの範囲内の1点,ボトムセル4の膜厚は1〜5μmの範囲内の1点,ZnO層5aの膜厚は,20〜200nmの範囲内の1点,Ag層5bは,0.1〜10μmの範囲内の1点に固定した。)
【0089】
加えて,タンデム型薄膜太陽電池10の短絡電流は,平坦なTCO(transparent conductive oxide)基板の上に形成されたタンデム型薄膜太陽電池のトップセル3,ボトムセル4の短絡電流によって規格化され,それぞれ短絡電流比(%)として表現されている。短絡電流比が100%を超えているということは,光電変換層への光散乱性の存在を意味している。同じ指標(短絡電流)による議論は,テクスチャ上に形成された透明電極(旭硝子社製のテクスチャTCO基板であるAsahi−U)においても非特許文献1で展開されており,短絡電流は光散乱性能の指標として妥当である。
【0090】
図21A,図21B,図22A,図22Bは,光散乱体7としてTiOが使用されているタンデム型薄膜太陽電池10の光散乱体7のピッチ,直径,及び短絡電流比の関係を示すグラフである。詳細には,図21Aは,光散乱体7の直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチとトップセル3の短絡電流比の関係を示すグラフであり,図21Bは,光散乱体7の直径が同範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチとボトムセル4の短絡電流比の関係を示すグラフである。図21A,図21Bのグラフでは,下部電極層2の膜厚は0.7μmと仮定されている。一方,図22Aは,光散乱体7の直径が300nm〜1200nmの範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチとトップセル3の短絡電流比の関係を示すグラフであり,図9Bは,光散乱体7の直径が同範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチとボトムセル4の短絡電流比の関係を示すグラフである。図22A,図22Bのグラフでは,下部電極層2の膜厚は1.2μmと仮定されている。ただし,図21A,図21B,図22A,図22Bのいずれのグラフについても,ピッチが”0nm”である短絡電流比の値は,下部電極層2のトップセル3の側に,連続的なTiO層が設けられている構造の短絡電流比の値であることに留意されたい。
【0091】
図21A,図21B,図22A,図22Bから理解されるように,トップセル3及びボトムセル4のいずれについても,光散乱体7の直径を60nm〜1200nmにし,更に,光散乱体7のピッチを発電に使用される光波長域の高値である1200nmの2倍以下,即ち,2400nm以下にすることにより,100%を超える短絡電流比を得ることができる。これは,光散乱体7の直径及びピッチを上述の範囲に定めることが,変換効率の向上のために有利であることを意味している。
【0092】
光散乱体7がダイヤモンドで形成されている場合も同様である。図23A,図23Bは,下部電極層2の膜厚が0.7μmと仮定され,且つ,光散乱体7としてダイヤモンドが使用されているタンデム型薄膜太陽電池10における,光散乱体7のピッチ,直径,及び短絡電流比の関係を示すグラフである。詳細には,図23Aは,光散乱体7の直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチとトップセル3の短絡電流比の関係を示すグラフであり,図23Bは,光散乱体7の直径が同範囲にあるときにおける,光散乱体7のピッチとボトムセル4の短絡電流比の関係を示すグラフである。
【0093】
図23A,図23Bから理解されるように,光散乱体7がダイヤモンドで形成されているときのトップセル3,ボトムセル4の短絡電流比の挙動は,光散乱体7がTiOで形成されているときのトップセル3,ボトムセル4の短絡電流比の挙動とほぼ同様である。これは,光散乱体7の材料としてダイヤモンドを採用可能であることを意味している。
【0094】
図21A,図21B,図22A,図22B,図23A,図23Bについてなされた議論は,光散乱体7が回転楕円体で近似される場合にも適用可能であることに留意されたい。光散乱体7が回転楕円体で近似される場合,(特にその長軸が2000nm以上の長さを有する場合),光散乱体7の光散乱性能は,その短軸方向における大きさで決定される。したがって,図21A,図21B,図22A,図22B,図23A,図23Bのデータは,光散乱体7の外径を,60nm以上1200nm以下にすることの有利性を示している。ここで光散乱体7の外径とは,上述されるように,光散乱体7の中心回転軸7aから表面までの平均距離dの2倍として定義されるパラメータであることに留意されたい。
【0095】
図24A,図24Bは,光散乱体7のピッチδの直径dに対する比δ/dと,短絡電流比の関係を示すグラフである。詳細には,図24Aは,比δ/dと,トップセル3の短絡電流比の関係を示しており,図24Bは,比δ/dと,ボトムセル4の短絡電流比の関係を示している。光散乱体7の直径は,60nm〜600nmの範囲にあると仮定されている。トップセル3及びボトムセル4のいずれについても,光散乱体7の直径が60nmを超えている限りにおいては,光散乱体7のピッチδの直径dに対する比δ/dを20以下にすることによって100%を超える短絡電流比を得ることができる。
【0096】
図25A,図25Bは,下部電極層2のトップセル3の側の表面2aと光散乱体7との距離(即ち,光散乱体7の深さ)と,短絡電流比の関係を示している。詳細には,図25Aは,光散乱体7の深さとトップセル3の短絡電流比の関係を示しており,図25Bは,光散乱体7の深さとボトムセル4の短絡電流比の関係を示している。光散乱体7の直径は,120nm,240nm,360nm,600nmのうちから選択され,ピッチは,各直径について短絡電流を最大にするように選択されている。
【0097】
図25A,図25Bから理解されるように,光散乱体7の深さが浅いほど,高い短絡電流比が得られる。トップセル3については,図25Aから理解されるように,光散乱体7の深さを30nm以下にすることにより,100%を超える短絡電流比を得ることができる。一方,ボトムセル4については,図25Bから理解されるように,光散乱体7の深さを50nm以下にすることにより,100%を超える短絡電流比を得ることができる。図25A,図25Bは,光散乱体7の深さを50nm以下にすること,好ましくは,30nm以下にすることの有用性を示している。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は,本発明による光散乱膜の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】図2は,本発明による光散乱膜の実施の他の形態を示す断面図である。
【図3】図3は,本発明による光電変換装置の実施の一形態に係るタンデム型薄膜太陽電池の構造を示す断面図である。
【図4】図4は,タンデム型薄膜太陽電池の下部電極層の平坦性と,開放電圧の関係を示すグラフである。
【図5】図5は,回転楕円体の外径の定義を説明する図である。
【図6A】図6Aは,タンデム型薄膜太陽電池の下部電極層の好適な製造工程を示す断面図である。
【図6B】図6Bは,タンデム型薄膜太陽電池の下部電極層の好適な製造工程を示す断面図である。
【図7】図7は,本発明による光電変換装置の実施の他の形態に係るタンデム型薄膜太陽電池の構造を示す断面図である。
【図8】図8は,本発明による光電変換装置の実施の更に他の形態に係るタンデム型薄膜太陽電池の構造を示す断面図である
【図9】図9は,本発明による光電変換装置の実施の更に他の形態に係るタンデム型薄膜太陽電池の構造を示す断面図である
【図10】図10は,本発明による光電変換装置の実施の更に他の形態に係るタンデム型薄膜太陽電池の構造を示す断面図である
【図11】図11は,本発明による液晶表示装置の実施の一形態の構造を示す断面図である。
【図12】図12は,本発明による発光デバイスの実施の一形態の構造を示す断面図である。
【図13】図13は,シミュレーションの対象の構造を示す断面図である。
【図14】図14は,等価電流密度と等価膜厚の関係を示すグラフである。
【図15A】図15Aは,光散乱体がTiOで形成され,且つ,その直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチと等価膜厚比の関係を示すグラフである
【図15B】図15Bは,光散乱体がTiOで形成され,且つ,その直径が300nm〜1200nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチと等価膜厚比の関係を示すグラフである
【図16】図16は,光散乱体がダイヤモンドで形成され,且つ,その直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチと等価膜厚比の関係を示すグラフである。
【図17】図17は,光散乱体の深さと等価膜厚比との関係を示すグラフである。
【図18】図18は,光散乱体の直径及びピッチと,積分反射ヘイズ率との関係を示すグラフである。
【図19】図19は,光散乱体としてTiO球とガラス球とが交互に並べられた光散乱膜についての,光散乱体の直径と等価膜厚比との関係を示すグラフである。
【図20】図20は,タンデム型薄膜太陽電池の特性のシミュレーションの対象の構造を示す断面図である。
【図21A】図21Aは,光散乱体がTiOで形成され,且つ,その直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチとトップセルの短絡電流比の関係を示すグラフである
【図21B】図21Bは,光散乱体がTiOで形成され,且つ,その直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチとボトムセルの短絡電流比の関係を示すグラフである。
【図22A】図22Aは,光散乱体がTiOで形成され,且つ,その直径が300nm〜1200nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチとトップセルの短絡電流比の関係を示すグラフである。
【図22B】図22Bは,光散乱体がTiOで形成され,且つ,その直径が300nm〜1200nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチとボトムセルの短絡電流比の関係を示すグラフである。
【図23A】図23Aは,光散乱体がダイヤモンドで形成され,且つ,その直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチとトップセルの短絡電流比の関係を示すグラフである。
【図23B】図23Bは,光散乱体がダイヤモンドで形成され,且つ,その直径が60nm〜600nmの範囲にあるときにおける,光散乱体のピッチとボトムセルの短絡電流比の関係を示すグラフである。
【図24A】図24Aは,光散乱体7のピッチδの直径dに対する比δ/dと,トップセルの短絡電流比の関係を示すグラフである。
【図24B】図24Bは,光散乱体7のピッチδの直径dに対する比δ/dと,ボトムセルの短絡電流比の関係を示すグラフである。
【図25A】図25Aは,光散乱体の深さとトップセルの短絡電流比の関係を示すグラフである。
【図25B】図25Bは,光散乱体の深さとボトムセルの短絡電流比の関係を示している。
【符号の説明】
【0099】
10,10A,10B,10C:タンデム型薄膜太陽電池
1:ガラス基板
1a:主面
2,2C:下部電極層
2a:表面
3,3C:トップセル
3a:p型アモルファスシリコン層
3b:i型アモルファスシリコン層
3c:n型アモルファスシリコン層
4,4C:ボトムセル
4a:p型微結晶シリコン層
4b:i型微結晶シリコン層
4c:n型微結晶シリコン層
5,5C:上部電極層
5a:ZnO層
5b:Ag層
6:媒質
6a:第1層
6b:第2層
7,7a,7b:光散乱体
7c:中心回転軸
8:中間層
8a:面
11:媒質
12:光散乱体
13:透明電極層
14:Ag層
15:媒質
16:光散乱体
17:金属電極層
18:透明電極層
19:媒質
20:光散乱体
31:透明基板
32:対向基板
33:透明電極
34:対向電極
35:偏光フィルム
36:液晶
37:金属薄膜
38:導電性光散乱膜
41:透明基板
42:陽極
43:正孔輸送層
44:発光層
45:電子輸送層
46:陰極
51:光散乱膜
52:多結晶シリコン膜
54:Ag膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な導電体で形成された媒質と,
前記媒質に埋め込まれた光散乱体
とを含む
光散乱膜。
【請求項2】
請求項1に記載の光散乱膜であって,
前記媒質の表面は,実質的に平坦である
光散乱膜。
【請求項3】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記媒質の比屈折率と前記光散乱体の比屈折率との差の絶対値は,2.0以内である
光散乱膜。
【請求項4】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体は,絶縁体で形成されている
光散乱膜。
【請求項5】
請求項4に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体は,酸化チタン,ダイヤモンド,酸化シリコン,フッ化マグネシウム,酸化マグネシウム,酸化亜鉛,及びタンタル酸リチウムのうちから選択された一の材料である
光散乱膜。
【請求項6】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体は,
第1光散乱体と,
前記第1光散乱体を構成する材料と比屈折率が異なる材料で形成されている第2光散乱体
とを備える
光散乱膜。
【請求項7】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体を中心回転軸を有する回転楕円体で近似し,且つ,前記光散乱体の外径を,前記光散乱体の前記中心回転軸から表面までの平均距離の2倍として定義した場合に,前記光散乱体の前記外径の平均が,60nm以上,2000nm以下である
光散乱膜。
【請求項8】
請求項7に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体の前記外径の平均が,1200nm以下である
光散乱膜。
【請求項9】
請求項7に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体の前記外径の平均が,300nm以上である
光散乱膜。
【請求項10】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体の直径を前記光散乱体の中心から表面までの平均距離の2倍として定義した場合に,前記光散乱体の前記直径の平均が,60nm以上,2000nm以下である
光散乱膜。
【請求項11】
請求項10に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体の前記直径の平均が,1200nm以下である
光散乱膜。
【請求項12】
請求項10に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体の前記直径の平均が,300nm以上である
光散乱膜。
【請求項13】
請求項10に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体の前記直径の最大値と最小値との差は,120nm以下である
光散乱膜。
【請求項14】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体のピッチを,隣接する2つの前記光散乱体の中心の距離で定義した場合に,前記光散乱体の前記ピッチの平均が,4000nm以下である
光散乱膜。
【請求項15】
請求項14に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体の前記ピッチの平均が,2400nm以下である
光散乱膜。
【請求項16】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体のピッチを隣接する2つの前記光散乱体の中心の距離で定義し,且つ,前記光散乱体の直径を前記前記光散乱体の中心から表面までの平均距離の2倍として定義した場合に,前記光散乱体の前記ピッチの平均である平均ピッチδAVEの前記光散乱体の前記直径の平均である平均直径dAVEに対する比δAVE/dAVEが,20以下である
光散乱膜。
【請求項17】
請求項16に記載の光散乱膜であって,
前記比δAVE/dAVEが,4以下である
光散乱膜。
【請求項18】
請求項14に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体の前記ピッチの最大値と最小値との差は,120nm以下である
光散乱膜。
【請求項19】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記媒質の前記表面からの前記光散乱体の距離は,50nm以下である
光散乱膜。
【請求項20】
請求項19に記載の光散乱膜であって,
前記距離は,30nm以下である
光散乱膜。
【請求項21】
請求項2に記載の光散乱膜であって,
前記光散乱体は,前記媒質の前記表面に接している
光散乱膜。
【請求項22】
導電体で形成された第1層を形成する工程と,
前記第1層の上に,導電体で形成された媒質の前駆体と光散乱体とを含む溶液を塗布する工程と,
前記溶液を焼結することによって前記媒質に前記光散乱体が埋め込まれた第2層を,前記第1層の上に形成する工程
とを具備する
光散乱膜の製造方法。
【請求項23】
請求項1乃至21のいずれか一項に記載の光散乱膜を備える光デバイス。
【請求項24】
請求項1乃至21のいずれか一項に記載の光散乱膜を備える光電変換装置。
【請求項25】
請求項1乃至21のいずれか一項に記載の光散乱膜を備える発光デバイス。
【請求項26】
請求項1乃至21のいずれか一項に記載の光散乱膜を備える液晶表示装置。
【請求項27】
基板と,
前記基板を被覆するように形成された下部電極層と,
前記下部電極層の上に形成された第1半導体層
とを具備し,
前記下部電極層は,
透明な導電体で形成された第1媒質と,
前記第1媒質に埋め込まれた光散乱体
とを含む
光電変換装置。
【請求項28】
請求項27に記載の光電変換装置であって,
前記下部電極層の,前記第1半導体層と接触する接触面は,実質的に平坦である
光電変換装置。
【請求項29】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記第1媒質の比屈折率と前記光散乱体の比屈折率との差の絶対値は,2.0以内である
光電変換装置。
【請求項30】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体は,絶縁体で形成されている
光電変換装置。
【請求項31】
請求項30に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体は,酸化チタン,ダイヤモンド,酸化シリコン,フッ化マグネシウム,酸化マグネシウム,酸化亜鉛,及びタンタル酸リチウムのうちから選択された一の材料である
光電変換装置。
【請求項32】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体は,
第1光散乱体と,
前記第1光散乱体を構成する材料と比屈折率が異なる材料で形成されている第2光散乱体
とを備える
光電変換装置。
【請求項33】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体を中心回転軸を有する回転楕円体で近似し,且つ,前記光散乱体の外径を,前記光散乱体の前記中心回転軸から表面までの平均距離の2倍として定義した場合に,前記光散乱体の前記外径の平均が,60nm以上,2000nm以下である
光電変換装置。
【請求項34】
請求項33に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記外径の平均が,1200nm以下である
光電変換装置。
【請求項35】
請求項33に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記外径の平均が,300nm以上である
光電変換装置。
【請求項36】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の直径を前記光散乱体の中心から表面までの平均距離の2倍として定義した場合に,前記光散乱体の前記直径の平均が,60nm以上,2000nm以下である
光電変換装置。
【請求項37】
請求項36に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記直径の平均が,1200nm以下である
光電変換装置。
【請求項38】
請求項36に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記直径の平均が,300nm以上である
光電変換装置。
【請求項39】
請求項36に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記直径の最大値と最小値との差は,120nm以下である
光電変換装置。
【請求項40】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体のピッチを,隣接する2つの前記光散乱体の中心の距離で定義した場合に,前記光散乱体の前記ピッチの平均が,4000nm以下である
光電変換装置。
【請求項41】
請求項40に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記ピッチの平均が,2400nm以下である
光電変換装置。
【請求項42】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体のピッチを隣接する2つの前記光散乱体の中心の距離で定義し,且つ,前記光散乱体の直径を前記前記光散乱体の中心から表面までの平均距離の2倍として定義した場合に,前記光散乱体の前記ピッチの平均である平均ピッチδAVEの前記光散乱体の前記直径の平均である平均直径dAVEに対する比δAVE/dAVEが,20以下である
光電変換装置。
【請求項43】
請求項42に記載の光電変換装置であって,
前記比δAVE/dAVEが,4以下である
光電変換装置。
【請求項44】
請求項40に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記ピッチの最大値と最小値との差は,120nm以下である
光電変換装置。
【請求項45】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記接触面からの距離は,50nm以下である
光電変換装置。
【請求項46】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体の前記接触面からの距離は,30nm以下である
光電変換装置。
【請求項47】
請求項28に記載の光電変換装置であって,
前記光散乱体は,前記接触面に接している
光電変換装置。
【請求項48】
請求項27に記載の光電変換装置であって,
更に,
前記第1半導体層の上に形成されている中間層と,
前記中間層の上に形成されている第2半導体層
とを具備し,
前記中間層は,
導電体で形成された第2媒質と,
前記第2媒質に埋め込まれた光散乱体
とを含む
光電変換装置。
【請求項49】
請求項48に記載の光電変換装置であって,
前記中間層の,前記第2半導体層と接触する接触面は,実質的に平坦である
光電変換装置。
【請求項50】
請求項27に記載の光電変換装置であって,
更に,
前記第1半導体層の上面側に形成されている上部電極層
を具備し,
前記上部電極層は,
導電体で形成された第3媒質と,
前記第3媒質に埋め込まれた光散乱体
とを含む
光電変換装置。
【請求項51】
請求項27に記載の光電変換装置であって,
前記第1半導体層は,シリコン,SiC,SiGeのうちから選択された少なくとも一の材料で形成された
光電変換装置。
【請求項52】
基板と,
前記基板の上面側に形成された第1半導体層
前記第1半導体層の上面側に形成された中間層と,
前記中間層の上に形成された第2半導体層
とを具備し,
前記中間層は,
導電体で形成された媒質と,
前記媒質に埋め込まれた光散乱体
とを含む
光電変換装置。
【請求項53】
基板と,
前記基板を被覆するように形成された下部電極層
とを具備し,
前記下部電極層は,
導電体で形成された媒質と,
前記媒質に埋め込まれた光散乱体
とを含む
光電変換装置用基板。
【請求項54】
基板を被覆するように,導電体で形成された第1層を形成する工程と,
前記第1層の上に,導電体で形成された媒質の前駆体と光散乱体とを含む溶液を塗布する工程と,
前記溶液を焼結することによって前記媒質に前記光散乱体が埋め込まれた第2層を,前記第1層の上に形成する工程
とを具備する
光電変換装置用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25A】
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【図25B】
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【公開番号】特開2006−171026(P2006−171026A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359114(P2004−359114)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】