説明

光触媒膜坦持部材

【課題】所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を得る。
【解決手段】 部材の表面に、蒸着法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現されそれによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、部材の表面粗さを各種材料に適した方法によって、また所望する光触媒性能やコスト増等を勘案して、部材の表面粗さを本願所定の範囲内(算術平均表面粗さRaで0.78μm以下)で微妙に調整することによって、所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒性等を付与することが従来試みられていない各種部材製品(金属部材製品、樹脂部材製品)であって、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現されそれによる効果が発現されるとは言えない部材について、光触媒性を十分に付与する方法、及び、光触媒性を十分に付与された部材の提供等、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒膜の研究は、非常に盛んに行われており(例えば本願出願人による特許文献1や、特許文献2)、出願件数も多く、各出願における認識もまちまちである状況にあるので、玉石混合状態にある。また、光触媒の出願の多くは、広い記載を意図する傾向にあるため、条件等によっては当業界の常識とは言えない範囲まで発明範囲として開示するものが多く[例えば実験結果として得られた数値範囲等は条件等によって大きく異なるので、条件等が異なる場合まで一般化できない(作用効果が得られない)場合が多く]、ある程度妥当性のある類似出願同士(例えば数値範囲同士等)を比較しても矛盾する箇所も多い。
【特許文献1】特開2000−53449号公報
【特許文献2】特開2004−2104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
野外等で使用されるカメラレンズ(又はフードガラス)は、その表面に水滴や汚れが付着すると視界が悪くなるので好ましくない。特に、野外等で、監視カメラ等として、高所等のメンテナンスがしづらい場所に設置されるカメラレンズ等は、その表面に水滴や汚れが付着すると視界が悪くなり、メンテナンスも容易でないので好ましくない。そこで、近年、カメラレンズ等の表面に親水性膜や親水性と光触媒性を兼備した親水性膜兼光触媒膜を設けることが試みられている。そして、本願出願人は、カメラレンズ等の表面に親水性膜等をつけた場合に、カメラレンズ等の外周に配設されるカメラレンズ等の保持部材(リテーナーと呼ばれる外周材)とカメラレンズ等との境界部に水滴が溜まり視野が狭くなる問題(図5参照)を解消すべく、前記保持部材の表面に親水性膜を形成する技術を案出し、既に出願を行っている(特願2004−274741)。ここで、前記保持部材の表面に親水性膜を形成した場合、かなりの効果は期待できるものの、汚れ等の付着が原因で長期的な親水性の維持の観点からは更に改良の余地があるため、前記保持部材の表面に、蒸着法等によって、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成したもの(保持部材/光触媒膜/親水性膜)を試作した。
しかしながら、予想に反し、期待した効果は得られなかった。詳しくは、ブラックアルマイト処理されたアルミ製のリテーナー現行流通品の表面に、単に光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜しても、予想に反し、期待した効果は得られなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
その原因については、まず光触媒膜/親水性膜がリテーナー表面に適切に付着していないのではないかと考えられたが、調査によれば、膜の付着状態に特に問題はなかった。そこで、次にブラックアルマイト処理が原因ではないかと考え、ブラックアルマイト処理の条件を種々変更して(具体的には、アルミナ、酸化セリウム等の研磨剤条件の変更、若しくはバフ研磨条件もしくは電解研磨条件などを種々変更して)リテーナーを作製し、このリテーナー表面に、光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜したところ、期待した効果が得られる場合があることがわかった。そして、更に原因を追及した結果、意外にも、リテーナーの表面の微妙な表面粗さの相違によって、光触媒性が十分に発現されたり、光触媒性が十分に発現されなかったりすることを解明した。具体的には、ブラックアルマイト処理されたリテーナー現行流通品の表面(約Ra0.8μm)に、単に光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜しても、期待した光触媒性は発現されず(実質的に光触媒性による作用が発現されているとは言えず)、ブラックアルマイト処理の条件を変更して作製されたリテーナーの表面(例えばRa0.6μm)に、光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜すると、期待した光触媒性が十分に発現されることがわかった。更にブラックアルマイト処理の条件を微妙に(種々)変更して、リテーナーの表面の表面粗さを微妙に(種々)変化させたリテーナーを作製したところ、図1に示す関係が解明された。即ち、図1に示すように、リテーナーの表面の微妙な表面粗さの相違によって、光触媒性の性能に大きな違いが生ずることを解明した。
上記試験からは、ブラックアルマイト処理されたリテーナー現行流通品の表面粗さ(約Ra0.8μm)に対し、ブラックアルマイト処理の条件を変更してリテーナーの表面粗さ(Ra)を0.60μm程度(0.60μm±0.05μm=0.55μm〜0.65μm)としたリテーナーを作製した上で、その表面上に光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜することによって、期待した光触媒性が十分に発現され、この結果実用上十分とされるレベルの親水性(後述する実施例1記載の所定の試験(以下本明細書中で所定の試験という)で15°)を長期間に亘り維持できることがわかった。更に、ブラックアルマイト処理の条件を変更してリテーナーの表面粗さ(Ra)を0.25μm程度(0.25μm±0.05μm=0.20μm〜0.30μm)としたリテーナーを作製した上で、その表面上に光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜することによって、光触媒性が顕著に発現され(所定の試験で5°)、この結果実用上顕著とされるレベルの親水性を長期間に亘り維持できることがわかった。更に、ブラックアルマイト処理の条件を変更してリテーナーの表面粗さ(Ra)を0.10μm程度(0.10μm±0.05μm=0.095μm〜0.15μm)としたリテーナーを作製した上で、その表面上に光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜することによって、光触媒性が更に顕著に発現され、この結果実用上ほば完全とされるレベルの親水性(所定の試験で1°)を長期間に亘り維持できることがわかった。また、ブラックアルマイト処理の条件を変更してリテーナーの表面粗さ(Ra)を0.10μm程度(0.10μm±0.05μm=0.095μm〜0.15μm)としたリテーナーを作製するためには、労力面・コスト面、量産面・品質管理面で課題があることがわかった。即ち、労力面・コスト面では、表面粗さの追求は労力、コストがかかりすぎ現実的でないという課題があり、また、量産面・品質管理面では、歩留まりが悪く量産性が悪く、品質管理面でも労力、コストがかかりすぎ現実的でないという課題があることがわかった。また、ブラックアルマイト処理されたリテーナーの算術平均表面粗さRaが0.10μm以下であると、光沢が発生し、リテーナーで反射した光がレンズに入射して生じるハレーションを生じるので好ましくないことがわかった。これに対し、ブラックアルマイト処理されたリテーナーの算術平均表面粗さRaが0.10μm超であると、光沢が無く、ハレーションを回避できるので好ましいことがわかった。以上のことを考慮すると、ブラックアルマイト処理されたリテーナーの算術平均表面粗さRaは、0.10μm超とすることが好ましく、光触媒性能と労力面・コスト面、量産面・品質管理面とを考慮するとRaは0.15μm以上、更には0.20μm以上とすることが好ましく、光触媒性が十分に発現され期待した効果を得るためには、Raは0.65μm以下とすることが好ましく、光触媒性が顕著に発現されるためには、Raは0.30μm以下とすることが好ましいことがわかる。
【0005】
自動車等の車間距離等を測定し速度制御を行う目的等で使用されるレーザーレーダーは、自動車等のより安全な運行を意図して一部高級車両で実用化されている。このような車両等に搭載されるレーザーレーダーのカバーに水滴や汚れが付着するとレーザーが散乱され感度が低下するので、このレーザーレーダーの感度低下の問題を解消する観点からは更に改良の余地がある。
そこで、本願発明者は、上記と時を同じくして、自動車の車間距離等を測定し速度制御を行う目的等で使用されるレーザーレーダーのカバーの表面に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成したもの(カバー部材/光触媒膜/親水性膜)を試作した。
具体的には、まず、ガラス製のレーザーレーダーのカバーの表面に、湿式法(塗布、焼成等)又は蒸着法等によって、前記光触媒膜/親水性膜を形成したものを試作したが、光触媒性の十分な発現に関し期待した効果は得られるものの、ガラス製であると走行中に跳ね返った石等がカバーの表面に当たって割れる可能性が高いことがわかった。次いで、樹脂製のレーザーレーダーのカバーとして一般的なアクリル樹脂(基板)の表面に、湿式法(塗布、焼成等)によって、前記光触媒膜/親水性膜を形成したものを試作したが、この場合膜の密着性等に問題があることがわかった。そこで、レーザーレーダーのカバーとして一般的なアクリル樹脂(基板)の表面に、蒸着法によって、前記光触媒膜/親水性膜を形成したものを試作したが、蒸着法によって十分な光触媒性を得るための成膜温度に対するアクリル樹脂の耐熱性に問題があることがわかった。そこで、ポリイミド樹脂(基板)の表面に、蒸着法によって、前記光触媒膜/親水性膜を形成したものを試作したところ、上記と同様に、ポリイミド樹脂基板の表面の微妙な表面粗さの相違によって、光触媒性の性能に大きな違いが生ずることが判明した。また、このことは蒸着法に限らずスパッタ法、CVD法においても同様であった。具体的には、図2に示すように、ポリイミド樹脂基板の表面(Ra0.20μm)に、光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜しても、レーザーレーダーのカバーとして要求される光触媒性は十分に発現されず(所定の試験で水滴接触角が4°)更なるレーザーレーダーの感度を確保する観点からは不十分であり、金型の表面粗さを微妙に調整した金型を作製しこの金型を用いることによって成形されたポリイミド樹脂基板の表面(Ra0.10μm)に、光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜すると、レーザーレーダーのカバーとして期待される光触媒性が顕著に発現され(所定の試験で水滴接触角が1°)更なるレーザーレーダーの感度を確保する観点からは十分であり、更に、金型の表面粗さを微妙に調整した金型を作製しこの金型を用いることによって成形されたポリイミド樹脂基板の表面(Ra0.09μm)に、光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜すると、レーザーレーダーのカバーとして要求される光触媒性が更に十分に発現され(所定の試験で水滴接触角が0°)更なるレーザーレーダーの感度を確保する観点からは更に十分であることがわかった。
また、ポリイミド樹脂製のレーザーレーダーのカバーは、上記知見に基づき金型の表面粗さを微妙に調整した金型を作製しこの金型を用いることによって金型の表面粗さに対応した成型品が得られ、具体的には光触媒性が顕著に発現されるRa60−100nmの表面粗さを有する成型品を高歩留まりで安定的に量産でき、膜の密着性にも極めて優れ、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって十分な光触媒性能を得るための成膜温度に対する耐熱性も十分にあることがわかった。なお、自動車の車間距離等を測定し速度制御を行う目的等で使用されるレーザーレーダーのカバーでは、顕著な親水性(防曇性)及び顕著な光触媒性(防汚性)による長期間に亘る親水性(防曇性)維持性能を付与することが最も好ましいので、Ra60〜100nmの表面粗さとすることが好ましく、Ra60〜90nmの表面粗さとすることが更に好ましいことを解明した。
【0006】
自転車のギヤ、ディスクブレーキローター、ハブやハブ付近のスポーク等の油汚れが付着しやすい部品に汚れが付着した場合、汚れの拭き取りに労を要していた。ディスクブレーキローター(特にリア部分は油汚れが付着しやすい)に油汚れが付着するとその性能の低下が懸念されるが、ハブやハブ付近のスポーク、ニップル部分(特にこれらのリア部分)は汚れの拭き取りが困難である。
そこで、本願発明者は、上記と時を同じくして、自転車のギヤの表面に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の親水性膜兼光触媒膜を形成したもの(ギヤ部材/光触媒膜/親水性膜)を試作した。
具体的には、まず、ステンレス(SUS304)製の自転車のギヤの表面に、湿式法(塗布、焼成等)によって、前記光触媒膜/親水性膜を形成したものを試作したが、この場合膜の密着性に問題があることがわかった。そこで、ステンレス(SUS304)製の自転車のギヤの表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、前記光触媒膜/親水性膜を形成したものを試作したところ、上記と同様に、自転車のギヤの表面の微妙な表面粗さの相違によって、光触媒性の性能に大きな違いが生ずることを解明した。具体的には、2種類の現行流通品の自転車のギヤの表面(Ra1.0μm)に、単に上記光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜しても、光触媒性はほとんど発現されず、バフ研磨処理して作製された自転車のギヤの表面(例えばRa0.60μm)に、光触媒膜/親水性膜を蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって成膜すると、光触媒性が十分に発現されることがわかった。
なお、自転車のギヤ等の部品は複雑な表面形状(歯車曲線・曲面等)をしており、ギヤ部材表面全体の表面粗さの均一性を追求することはコストがかかりすぎ現状では現実的でない。例えば、表面処理によってギヤ部材表面全体の表面粗さ(Ra)を0.10μm以下の範囲としたギヤ部材を作製するためには、労力面・コスト面、量産面・品質管理面で現実的でなく、大きな課題があることがわかった。以上のことを考慮すると、例えば、ギヤ部材表面全体をアルマイト処理等によって均一に一回処理することによって、ギヤ部材表面全体の表面粗さ(Ra)の範囲を0.65μm以下〜0.30μm超の範囲としたギヤ部材を作製することが労力面・コスト面、量産面・品質管理面(Ra0.65μm〜0.30μm超の範囲の表面粗さを有するギヤ部材を高歩留まりで安定的に量産でき品質管理面でも楽になる)を重視した場合に好ましく、また、例えば、ギヤ部材表面全体をバフ研磨処理等によって均一に二回処理することによって、ギヤ部材表面全体の表面粗さ(Ra)範囲を0.30μm〜0.10μm超の範囲としたギヤ部材を作製することが、光触媒性能面を重視する場合に好ましい。
【0007】
本発明者は、上記一連の試作を通じて得られたデータを1つの図面にプロットしてみたところ、驚くべきことに、素材によらない回帰式が得られ、しかも回帰式の信頼性が極めて高く、実用上の有用性が極めて高いこと見出した(図4参照)。しかもこの回帰式を得るには、μmオーダーとスケールが大きく、測定エリアも100μm×100μmと大きくできるレーザー顕微鏡で表面粗さを測定する必要があることを見出した。これは、表面粗さは測定方法(測定装置)及び測定するエリアの大きさによって数値が大きく変わることを解明したことに基づくものである。具体的には、自動車アウターミラー等の光触媒膜の分野では原子間力顕微鏡で表面粗さを測定するのが一般的であるが、上記回帰式を得るには、部材自体の要求特性として100nm以下更には50nm以下の表面粗さが追求されない部材に関しては、nmオーダーとスケールが小さく測定エリアも小さい原子間力顕微鏡で表面粗さを測定したのでは上記回帰式を得ることは難しく、レーザー顕微鏡で表面粗さを測定した場合であっても、測定エリアが10μm×10μmと小さい場合は、上記回帰式を得ることは難しいことを見出したことに基づくものである。そして、部材自体の要求特性として100nm以下更には50nm以下の表面粗さが追求されない部材に関して、上記回帰式を得るには、レーザー顕微鏡を用い、測定エリアを100μm×100μmとし、算術平均表面粗さRaを測定する必要があることを見出したことに基づくものである。即ち、レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaの測定値と光触媒性能との間に、材料によらず、信頼性が極めて高い相関関係があることを見出した。なお、測定エリアが小さい場合に上記回帰式を得ることが難しい理由は、部材自体の要求特性として100nm以下更には50nm以下の表面粗さが追求されない部材に関しては、測定エリアが10μm×10μm以下と小さい場合は、測定エリアが100μm×100μm以下と大きい場合場合に比べ、測定値が1桁大きいオーダーとなってしまい、しかも測定値と光触媒性能との間に相関関係が認められないことによる。
上記本発明の知見の有用性・特許性は、材料(金属部材、樹脂部材、セラミック部材など)によらず、各種材料の表面粗さを各種材料の材質に応じた方法によって、また所望する光触媒性能やコスト増等を勘案して、各種材料の表面粗さを本願所定の範囲内とすることによって、所望する光触媒性能が的確に具現される(成膜前に光触媒性能の発現及びそのレベルが的確に予見できること)ことである。
上記知見がない場合は、単に成膜しても十分な効果が得られないことが多く、上述したように微妙な表面粗さの相違によって光触媒性の性能に大きな違いが生じ易い。従って、製造ばらつきや品質のばらつきによって十分な光触媒作用が得られたり得られなかったりする。特に、部材自体の要求特性として表面粗さが追求されない部材については、単に成膜しても効果が得られず、仮に何らかの理由でたまたま得られたとしても、部材自体の要求特性として表面粗さが追求されない部材は厳密に表面粗さを管理することは通常ないから、製造ばらつきや品質のばらつきによって得られたり得られなかったりする(所望の効果が得られる場合と、十分な効果が得られない場合とが混在する)。
また、上記知見がない場合は、試行錯誤を要する。仮に、試行錯誤で得られたとしても無駄な表面粗さの追求(例えば算術平均表面粗さRaを数nmオーダー(10nm以下)に規定することなど)に陥る恐れが高く、無駄なコスト増の原因となる。特に、部材自体の要求特性として表面粗さが追求されない部材については、無駄な表面粗さの追求(例えば算術平均表面粗さRaを数nmオーダー(10nm以下)に規定することなど)は、相当なコスト増の原因となり、コスト面で実施が困難となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、部材の表面粗さを各種材料に適した方法によって、また所望する光触媒性能やコスト増等を勘案して、部材の表面粗さを本願所定の範囲内で微妙に調整することによって、所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)部材の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、
前記部材と同一の形状及び用途を有する部材であって、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された部材表面上に、
蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成した構造を有することを特徴とする部材。
このように構成すれば、部材の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現されそれによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、部材の表面粗さを各種材料に適した方法によって、また所望する光触媒性能やコスト増等を勘案して、部材の表面粗さを本願所定の範囲内で微妙に調整することによって、所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を得ることができる。
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaの下限は、レーザー顕微鏡の高さ方向の最小分解能である0.01μmであるが、高い光触媒性能を必要とする場合にあっては0.09μm、高い光触媒性能及びその安定性を必要とする場合にあっては状況に応じ0.08μm、0.07μm、0.06μm、0.05μmのいずれか、高い光触媒性能と共に及びコスト増回避を必要とする場合にあっては状況に応じ0.11μm、0.12μm、0.15μm、0.20μmのいずれか、とすることができる。
上記構成1において、「前記部材と同一の形状及び用途を有する部材」の材料は、低いコストで基材表面の全面をほぼ均一な表面粗さとなるように処理できるのであれば、部材の表面に、蒸着法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現されそれによる効果が発現されるとは言えない部材と同じ材料であっても良いが、そうでない場合にあっては、低いコストで基材表面の全面をほぼ均一な表面粗さとなるように処理できる材料を使用することが好ましい。
【0010】
(構成2)外部環境に露出する面を有するカメラレンズ又はフードガラスと、前記カメラレンズ又はフードガラスの外周に配設される前記カメラレンズ又はフードガラスの保持部材とを有するカメラであって、
外部環境に露出する面を有するカメラレンズ又はフードガラスの表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成すると共に、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された前記保持部材表面であって少なくとも前記カメラレンズ又はフードガラスと接する部分の面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成した構造を有することを特徴とするカメラ。
このように構成すれば、カメラレンズ又はフードガラスの保持部材の表面粗さを各種材料に適した方法によって、また所望する光触媒性能やコスト増等を勘案して、部材の表面粗さを本願所定の範囲内で微妙に調整することによって、所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を得ることができる。
上記構成2においては、保持部材に実用上十分又は顕著なレベルの光触媒性能を的確に具現させ付与できることによって、特に双方に形成された同じ性能を長期的に維持する膜(同等の条件で成膜した同等の性能を有する膜)の相互作用によって、保持部材とカメラレンズ等との境界部に水滴が溜まり視野が狭くなる問題を長期的に解消できる。
なお、カメラレンズ又はフードガラスの表面をレーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaは0.05μm以下であった。
上記構成2においては、前記カメラレンズ又はフードガラスの保持部材表面のうち外部環境に露出する面の全面(例えば図5におけるリテーナー2のレンズ1保持面2a及び側面2b)にも、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成することができる。これにより、保持部材の側面3bに溜まった水滴が、流れ降りてレンズに達し一時的に視界が悪くなる事態の発生を回避できる。同様に、本発明では、外部環境に露出する面を有するカメラのケース部材表面(例えば図5におけるカメラ10のケース3の側面3a及び背面3b)にも、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成することができる。これにより、ケース部材表面に溜まった水滴が、流れ降りてレンズに達し一時的に視界が悪くなる事態の発生を回避できる。
【0011】
(構成3)自転車部品の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されるとは言えない自転車部品に関し、
前記自転車部品と同一の形状及び用途を有する自転車部品であって、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された前記自転車部品部表面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成した構造を有することを特徴とする自転車部品。
このように構成すれば、自転車部品の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現されそれによる効果が発現されるとは言えない自転車部品に関し、この自転車部品の表面粗さを各種材料に適した方法によって、また所望する光触媒性能やコスト増等を勘案して、自転車部品の表面粗さを本願所定の範囲内で微妙に調整することによって、所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に具現され自転車部品を得ることができる。
上記構成3に係る発明は、油汚れが付着しやすい自転車部品のギア、ディスクブレーキローター、ハブやハブ付近のスポーク、ニップル等に好適に使用することができる。
上記構成3に係る発明は、自転車部品に限らず、油汚れ等が付着する自動車用タイヤのアルミホイール等に好適に使用することができる。
【0012】
(構成4)レーザーレーダーユニット及び外部環境に露出する面を有するレーザーレーダーカバー部材とを有するレーザーレーダー装置であって、
前記レーザーレーダーカバー部材が、ポリイミド樹脂成型品であって、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された前記レーザーレーダーカバー部材の表面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成したレーザーレーダーカバー部材を有することを特徴とするレーザーレーダー装置。
このように構成すれば、レーザーレーダーカバー部材の表面粗さを各種材料に適した方法によって、また所望する光触媒性能やコスト増等を勘案して、レーザーレーダーカバー部材の表面粗さを本願所定の範囲内で微妙に調整することによって、所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に具現されたレーザーレーダーカバー部材を得ることができる。
上記構成4に係る発明においては、レーザーレーダーカバー部材と接するか又は近接する部材表面にも、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成することができる。これにより、これらの部材表面に溜まった水滴が、流れ降りてレーザーレーダーカバー部材に達し一時的に感度が悪くなる事態の発生を回避できる。
車両等に搭載されるレーザーレーダーのカバーとしては、平滑性・耐熱性等の観点からはポリイミド樹脂が最も好ましい、次いでアクリル樹脂が好ましい。
上記構成4に係る発明は、列車や各種移動体に搭載されるレーザーレーダーのカバー部材についても適用可能である。
【0013】
(構成5)部材の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、前記部材と同一の形状及び用途を有する部材について実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されると言える部材を作製する方法であって、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製した部材を準備し、
この部材表面上に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって形成することを特徴とする部材の製造方法。
上記構成5に係る発明によれば、部材の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現されそれによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、部材の表面粗さを各種材料に適した方法によって、また所望する光触媒性能やコスト増等を勘案して、部材の表面粗さを本願所定の範囲内で微妙に調整することによって、所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を得ることができる。また、部材の表面粗さを本願所定の範囲内で微妙に調整された部材を予め作製することによって、所望するレベルの光触媒性能の発揮が的確に予見できる。
【0014】
(構成6)部材の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、前記部材と同一の形状及び用途を有する部材について実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されると言える部材を作製する方法であって、
表面の粗さを変化(例えば2μm程度以下の範囲で変化させる)させた同一又は異なる材料からなる種々の基材の100μm×100μmの範囲について算術平均表面粗さRaをレーザー顕微鏡にて測定した後、前記種々の基材の表面に蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法(基材の加熱温度は蒸着法又はCVD法では300℃以上450℃以下、スパッタ法では150℃以上450℃以下)によって光触媒膜、親水性膜(TiO、多孔質状SiO)を順次成膜して試料を作製し、
その後、前記で作製した各試料にエンジンオイルを塗布し、20℃、相対湿度50%雰囲気中に1時間放置後、水滴接触角が60から70°程度となるようオイルをコットンにて拭きとって調整し、
その後、強度1.0mW/cmのブラックライトを24時間照射し、水滴接触角を測定し、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した各基材自体の算術平均表面粗さRaと、強度1.0mW/cmのブラックライトを24時間照射後の各試料の水滴接触角の測定値と、の関係に基づいて、回帰直線及び/又は回帰式(この回帰式の決定係数R2は0.9900よりも1.0000に近いことが好ましい)の両方又はいずれか一方を求め、
前記回帰直線及び回帰式の両方又はいずれか一方に基づいて、前記部材の表面粗さ範囲を決定し、
前記部材の表面粗さを前記部材の材質に応じて、上記で決定した表面粗さ範囲(本願所定の範囲内)とした部材を作製し、
この部材表面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成することによって、
所望する光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を製造する部材の製造方法。
上記構成6に係る発明によれば、所望する光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を製造する部材の製造方法を提供できる。
【0015】
(構成7)前記回帰直線及び回帰式の両方又はいずれか一方に基づいて、所望する光触媒性能やコスト増を勘案して、決定された前記部材の表面粗さ範囲が、算術平均表面粗さRaで0.78μm以下であることを特徴とする上記構成6記載の部材の製造方法。
上記構成7に係る発明によれば、本願所定の範囲内とすることにより、実質的に光触媒作用が十分又は顕著に発現されると言える部材を的確に作製することができる。
【0016】
(構成8)成膜前の前記部材の全数又は一部について成膜前の前記部材の表面粗さをレーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定し、所望する光触媒性能やコスト増を勘案して予め決定した表面粗さ範囲(本願所定の範囲内)にある部材についてだけ(本願所定の範囲外の部材は除外して)、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜の成膜を行うことを特徴とする上記構成6又は7記載の部材の製造方法。
上記構成8に係る発明によれば、成膜前の前記部材の全数について予め検査を行い、予め決定した表面粗さ範囲(本願所定の範囲内)にある部材についてだけ(本願所定の範囲外の部材は除外して)成膜を行うので、所望する光触媒性能が全数について的確に具現され、量産性に優れ高歩留まりである。
また、成膜前の前記部材の一部検査(抜き取り検査)を行う場合においてもも、予め全数所定範囲内に収まるようにするような手法(処理方法)(この場合抜き取り検査で十分)や全数の内の量産性を確保しうる数量(この場合成膜後全数検査が好ましい)が所定範囲内に収まるようにするような手法(処理方法)を予め見出しておくことによって、所望する光触媒性能についての保証や、製造工程の異常発見に役立つとともに、量産性・高歩留まりの面でも役立つ。
【0017】
なお、上記各発明において適用するレーザー顕微鏡で測定する手法は、成膜前の部材を非破壊・非接触で検査可能であり、ライン製品の全数又は抜き取り検査可能であり、極めて有用である。これに対し、原子間力顕微鏡では、測定用の切り出しサンプル作製が必要であり、針を接触させて測定するため、測定が煩雑であり、測定に用いた試料は破壊・接触検査であるため製品として使用することができず、当然全数検査は不可能であり、ライン製品の管理が容易でない。
【0018】
上記各発明において、レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した成膜前の部材の算術平均粗さRaは、前記部材の全面又は光触媒性能を必要とする部分の全面において、上記所定の表面粗さにすることが好ましい。
また、上記各発明において、レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した成膜前の部材の算術平均粗さRaは、前記部材の表面の少なくとも3箇所、好ましくは表面の5箇所、更に好ましくは表面の10箇所、表面の全面20箇所、において、上記所定の表面粗さにすることが好ましい。前記部材の表面の10箇所以上で、上記所定の表面粗さである場合、前記部材の全面又は光触媒性能を必要とする部分の全面で所望の光触媒性能が発現されることが期待できるためである。
【0019】
本発明は部材の形状が、非平板状、曲面形状を有する部材(特に均一な表面粗さを得るための処理が難しい曲面形状を有する部材)、複雑な形状を有する部材など、均一な表面粗さが得られにくい部材に特に有用である。
本発明は表面粗さの追求が難しい部材に特に有用である。このような部材においては、表面粗さの追求は歩留まり低下を招き生産性の阻害要因となると共に品質管理面でも煩雑となるからである。このような部材においては、コスト面から上限値付近での実施に意義がある。
本発明は部材自体の要求特性として表面粗さの追求が要求されず、技術面から表面粗さの厳しい追求が容易でない部材に特に有用である。このような部材においては、コスト面から表面粗さの追求の制約があり、コスト面から表面粗さの下限値0.09μm付近での実施に意義がある。コスト面から表面粗さの追求の制約がある場合において、コスト面をより重視する場合においては、成膜前の部材表面の表面粗さの下限値0.10μm付近での実施に意義があり、更には下限値0.15μm付近での実施に意義があり、更には下限値0.20μm付近での実施に意義がある。
【0020】
上記各発明において、前記親水性膜がSiO膜からなり、前記光触媒膜がTiO膜からなることが好ましい。この理由としては、SiO膜は酸化膜であり、親水基であるOH基を形成し易いので、良好な親水性が得られること、更に、SiO膜の屈折率は一般にガラス基板よりも屈折率が低く、水や空気に近いため、表面反射が低くて2重像が生じ難いこと、このため雨滴が付着しても乱反射が少なく、視認性が良好であること、そしてSiO膜は無機質材料であるため、耐擦傷性、耐熱性が高く、耐久性、耐候性が良いこと、が挙げられる。なお、前記親水性膜は、SiO膜に替えて、Al膜、TiO膜等の酸化膜とすることができる。
上記各発明においては、光触媒膜、親水性膜は、それぞれ、蒸着法、スパッタ法、CVD法のうちの同じ方法を用いて成膜しても、前記方法のうちの異なる方法を用いて成膜しても、いずれでもよい。
【0021】
上記各発明において、前記親水性膜の表面が多孔質状に構成されてなることが好ましい。この理由は、SiO膜からなる親水性膜の表面が多孔質状であると、毛管現象による濡れ性が良好になり、親水性がより高められて、水滴除去効果が高められるからであり、更に、SiO膜の多孔質状部分(隙間)を介して下層の光触媒層による汚れ等の分解作用が高められるからである。
【0022】
上記各発明において、TiOの干渉色を抑制する為、TiOと基材の中間的な屈折率を持つ材料、例えば、 ITO、SnO、Ta、ZiO、WO、Al等をTiOと基材の間に設け、さらにSiOを順次積層させた構造の膜(基材/TiO/中間的な屈折率を持つ材料層/SiO)とすることが、干渉色の抑制が必要とされる部材においては、好ましい。このような部材としては、例えば、カメラレンズ等の外周に配設されるカメラレンズ等の保持部材(リテーナーと呼ばれる外周材)や、レーザーレーダーのカバー部材、などが挙げられる。
【0023】
上記各発明において、部材の材料としては、
(1)ステンレス鋼、冷延鋼板、アルミ、アルマイト、鉄、ニッケル、チタン、真鍮等の金属、
(2)ポリイミド、ABS(ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、P.P(ポリプロピレン)、P.E (ポリエチレン)、P.S(ポリスチレン)、PMMA(アクリル)、P.E.T(ポリエチレンテレフタレート)、P.P.E(ポリフェニレンエーテル)、P.A(ナイロン/ポリアミド)、P.C (ポリカーボネイト〉、P.O.M (ポリアセタール)、P.B.T (ポリブチレンテレフタレート),P.P.S(ポリフェニレンサルファイド)、P.E.E.K(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、エラストマー等の樹脂、
(3)ガラス、セラミックス、ゼオネックス(商標名)(日本ゼオン社製)、
などが挙げられる。
【0024】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0025】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0026】
図3に示すように表面の粗さを変化させた種々の試料の100μm×100μmの範囲について算術平均表面粗さRaをレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK−8510)にて測定した後、その表面に蒸着法によってTiOを200nm、SiOを20nm順次成膜した。基材の加熱は300℃以上450℃以下とした。
その後、試料の光触媒性および親水性(防曇性)を判断する為、作製した試料にエンジンオイルを塗布し、20℃、相対湿度50%雰囲気中に1時間放置後、水滴接触角が60から70°程度となるようオイルをコットンにて拭きとって調整した。その後、強度1.0mW/cmのブラックライトを24時間照射(1日の平均的な紫外線照射量に相当する)し、水滴接触角を測定した。尚、紫外線強度は株式会社トプコン製の紫外線強度計により測定し、水滴接触角は協和界面科学株式会社製の接触角測定装置にて行った。ブラックライトは松下電器産業株式会社製ブラックライトFL20S・BL−Bを使用した。
【0027】
図3及び図4に、成膜前の基材の算術平均表面粗さRaと、紫外線1.0mW/cm を24時間照射後の水滴接触角の関係を示す。これらの関係について回帰直線と回帰式を求めた。この回帰式の決定係数Rは0.9988(1.0000に極めて近い)となっており、信頼性は高いと言える。
図4より求めた回帰式y=27.773x−1.7543から親水性とほぼ認められる水滴接触角が20°になる算術平均表面粗さRaを求めると約0.78μmとなり、Raを0.78μm以下とすれば、優れた光触媒性と親水性(防曇性)を得ることができる。
なお、上記実施例1において、蒸着法に替え、スパッタ法、CVD法(基材の加熱温度はCVD法では300℃以上450℃以下、スパッタ法では150℃以上450℃以下)について同様の試験を行い、同様の結果を得た。
また、上記回帰直線及び回帰式から得られた知見に基づき、レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された、リテーナー(カメラレンズの保持部材)、樹脂製レーザーレーダーカバー部材、自転車のギヤ部材、の各面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって光触媒膜、親水性膜をこの順で積層し、上記実施例1と同様の試験を行ったところ、水滴接触角が20°以下になり、優れた光触媒性と親水性(防曇性)が発揮されることを確認した。
【実施例2】
【0028】
密着性の確認
実施例1 で作製した試料の密着性を確認するため、テープ剥離検査を行った。
テープはニチバン(株)社製工業用セロテープ(登録商標)No.405を用い、基材に貼りつけ、テープの端を試験片に対し、直角に持ち、引っ張って膜が剥離するか否かを判定することにより、密着性を確認した。
結果として全ての試料で膜の剥離は認められず、密着性は良好であった。
【実施例3】
【0029】
本願発明は、基材表面の算術平均表面粗さRaが0.78μm以下であり、その基材表面上に防曇膜を設けた防曇素子等の部材においても効果的であることを確認した。
この場合、前記防曇膜は、TiO2単層、TiOとSiOを順次積層させたもの、TiOとSiOを混合させたもの、また、TiOの干渉色を抑制する為、TiOと基材の中間的な屈折率を持つ材料、例えば、 ITO、SnO、Ta、ZiO、WO、Al等をTiOと基材の間に設け、さらにSiOを順次積層させたもの、のそれぞれについて、基材表面の算術平均表面粗さRaが0.78μm超である場合に比べ、実用レベルの防曇効果の点で、優れることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、特に、野外等で、監視カメラ等として、高所等のメンテナンスがしづらい場所に設置されるカメラにおけるカメラレンズ又はフードガラスの保持部材に特に好適に使用することができる。
また、本発明は、油汚れが付着しやすい自転車部品のギア、ディスクブレーキローターに特に好適に使用することができる。
また、本発明は、自動車の車間距離等を測定し速度制御を行う目的等で使用されるレーザーレーダーのカバー部材に特に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】成膜前のリテーナーの算術平均表面粗さRaと、成膜後且つエンジンオイルを塗布後に紫外線1.0mW/cm を24時間照射後の水滴接触角との関係を示す図である。
【図2】成膜前のレーザーレーダーカバー部材(ポリイミド基板)の算術平均表面粗さRaと、成膜後且つエンジンオイルを塗布後に紫外線1.0mW/cm を24時間照射後の水滴接触角との関係を示す図である。
【図3】成膜前の各種基材の算術平均表面粗さRaと、成膜後且つエンジンオイルを塗布後に紫外線1.0mW/cm を24時間照射後の水滴接触角との関係を示す図である。
【図4】成膜前の各種基材の算術平均表面粗さRaと、成膜後且つエンジンオイルを塗布後に紫外線1.0mW/cm を24時間照射後の水滴接触角との関係を、プロットして得られる図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るカメラを示す模式図である。
【符号の説明】
【0032】
1 レンズ
2 リテーナー
3 ケース
10 カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、
前記部材と同一の形状及び用途を有する部材であって、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された部材表面上に、
蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成した構造を有することを特徴とする部材。
【請求項2】
外部環境に露出する面を有するカメラレンズ又はフードガラスと、前記カメラレンズ又はフードガラスの外周に配設される前記カメラレンズ又はフードガラスの保持部材とを有するカメラであって、
外部環境に露出する面を有するカメラレンズ又はフードガラスの表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成すると共に、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された前記保持部材表面であって少なくとも前記カメラレンズ又はフードガラスと接する部分の面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成した構造を有することを特徴とするカメラ。
【請求項3】
自転車部品の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されるとは言えない自転車部品に関し、
前記自転車部品と同一の形状及び用途を有する自転車部品であって、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された前記自転車部品部表面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成した構造を有することを特徴とする自転車部品。
【請求項4】
レーザーレーダーユニット及び外部環境に露出する面を有するレーザーレーダーカバー部材とを有するレーザーレーダー装置であって、
前記レーザーレーダーカバー部材が、ポリイミド樹脂成型品であって、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製された前記レーザーレーダーカバー部材の表面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によってそれぞれ形成された、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成したレーザーレーダーカバー部材を有することを特徴とするレーザーレーダー装置。
【請求項5】
部材の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現されそれによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、前記部材と同一の形状及び用途を有する部材について実質的に光触媒作用が発現されそれによる効果が発現されると言える部材を作製する方法であって、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した算術平均表面粗さRaが0.78μm以下となるように作製した部材を準備し、
この部材表面上に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって形成することを特徴とする部材の製造方法。
【請求項6】
部材の表面に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、単に、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成しても、実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されるとは言えない部材に関し、前記部材と同一の形状及び用途を有する部材について実質的に光触媒作用が発現され、それによる効果が発現されると言える部材を作製する方法であって、
表面の粗さを変化させた同一又は異なる材料からなる種々の基材の100μm×100μmの範囲について算術平均表面粗さRaをレーザー顕微鏡にて測定した後、前記種々の基材の表面に蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法(基材の加熱温度は蒸着法又はCVD法では300℃以上450℃以下、スパッタ法では150℃以上450℃以下)によって光触媒膜、親水性膜を順次成膜して試料を作製し、
その後、前記で作製した各試料にエンジンオイルを塗布し、20℃、相対湿度50%雰囲気中に1時間放置後、水滴接触角が60°から70°程度となるようオイルをコットンにて拭きとって調整し、
その後、強度1.0mW/cmのブラックライトを24時間照射し、水滴接触角を測定し、
レーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定した各基材自体の算術平均表面粗さRaと、強度1.0mW/cmのブラックライトを24時間照射後の各試料の水滴接触角の測定値と、の関係に基づいて、回帰直線及び/又は回帰式の両方又はいずれか一方を求め、
前記回帰直線及び回帰式の両方又はいずれか一方に基づいて、前記部材の表面粗さ範囲を決定し、
前記部材の表面粗さを前記部材の材質に応じて、上記で決定した表面粗さ範囲とした部材を作製し、
この部材表面上に、蒸着法又はスパッタ法、もしくはCVD法によって、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜を形成することによって、
所望する光触媒性能の発揮が的確に具現された部材を製造する部材の製造方法。
【請求項7】
前記回帰直線及び回帰式の両方又はいずれか一方に基づいて、所望する光触媒性能やコスト増を勘案して、決定された前記部材の表面粗さ範囲が、算術平均表面粗さRaで0.78μm以下であることを特徴とする請求項6記載の部材の製造方法。
【請求項8】
成膜前の前記部材の全数又は一部について成膜前の前記部材の表面粗さをレーザー顕微鏡で100μm×100μmの範囲について測定し、所望する光触媒性能やコスト増を勘案して予め決定した表面粗さ範囲にある部材についてのみ、光触媒膜、親水性膜をこの順で積層した構造の膜の成膜を行うことを特徴とする請求項6又は7記載の部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−142206(P2006−142206A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335697(P2004−335697)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000148689)株式会社村上開明堂 (185)
【Fターム(参考)】