説明

内燃機関の制御装置

【課題】本発明は、内燃機関の制御装置に関し、燃料改質触媒における燃料の酸化反応を確実に防止し、燃料改質触媒の劣化等を確実に抑制することを目的とする。
【解決手段】内燃機関10のEGR通路32,36の途中には、燃料改質触媒26が設けられている。EGRガス中には、改質用燃料噴射装置34により改質用燃料が噴射される。燃料改質触媒26は、EGRガスと改質用燃料とを改質反応させることにより、可燃成分を含む改質ガスを生成する。改質運転の実行中は、内燃機関10の各気筒の空燃比が何れも理論空燃比以下のリッチ空燃比となるように制御される。改質運転の開始前には、リッチ空燃比での改質無しEGR運転を実行することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンやバイオ燃料等の燃料と、EGRガスとを改質反応させる燃料改質触媒を備えた内燃機関が知られている。この内燃機関では、排気ガスの熱等によって加熱した燃料改質触媒において燃料とEGRガスとを反応させることにより、それらを改質ガスに転換させる。改質ガス中には、改質反応により水素ガスおよび一酸化炭素ガスが生成している。この改質ガスは、吸気通路に還流される。そして、改質ガス中の水素および一酸化炭素は、筒内または吸気通路内に噴射された燃料と共に、内燃機関の燃焼室で燃焼する。
【0003】
上記のような燃料改質を実行する改質運転中に、内燃機関が理論空燃比よりもリーンな空燃比で運転されると、EGRガス中に酸素が残存するので、燃料改質触媒に酸素が流入することとなる。そうすると、EGRガス中に添加された燃料が燃料改質触媒において酸化反応(つまり燃焼)し、燃料改質触媒の温度が過上昇して、触媒シンタリング(触媒粒の粗大化)等の触媒劣化や触媒担体の溶損等の触媒故障を生じ易い。
【0004】
特開2006−37817号公報には、リーン燃焼を行う3つの気筒と、リッチ燃焼を行う1つの気筒とを有する4気筒エンジンにおいて、リッチ燃焼気筒の排気枝管にEGR通路を接続することにより、酸素を含まないリッチ空燃比のEGRガスを燃料改質触媒に流入させるようにする技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−37817号公報
【特許文献2】特開2006−37816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、排気マニホールド内においては、各気筒の排気脈動の影響により、ある気筒の排気ガスが他の気筒の排気枝管に回り込む場合がある。このため、上記従来のシステムでは、リーン燃焼気筒から排出された酸素を含む排気ガスがEGR通路を通って燃料改質触媒に流入する可能性を払拭できない。また、上記従来のシステムでは、EGR通路が一つの気筒の排気枝管に接続されているので、EGRガスを大量に取り出すことが困難である。このため、改質ガス流量が制限されるので、燃料改質によるメリットを十分に享受しにくいという問題もある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、燃料改質触媒における燃料の酸化反応を確実に防止し、燃料改質触媒の劣化等を確実に抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
多気筒型の内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路と、
前記EGR通路を流れるEGRガス中に燃料を噴射する改質用燃料噴射手段と、
前記EGR通路の途中であって前記改質用燃料噴射手段の下流側に配置され、前記EGRガスと前記改質用燃料とを改質反応させることにより、それらを、改質反応生成物である可燃成分を含む改質ガスに転換させる燃料改質触媒と、
前記改質反応に要する熱を前記燃料改質触媒に供給する熱供給手段と、
前記改質用燃料噴射手段により燃料を供給しつつ前記改質ガスを前記吸気通路に還流させる改質運転と、前記改質用燃料噴射手段から燃料を噴射しない非改質運転とを切り換える運転切換手段と、
前記改質運転の実行中に、前記内燃機関の各気筒の空燃比を何れも理論空燃比以下のリッチ空燃比に維持する改質運転時空燃比制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記非改質運転には、EGRガスを前記吸気通路に還流させるEGRを実行する改質無しEGR運転と、前記EGRを実行しない非EGR運転とが含まれ、
前記運転切換手段は、前記非改質運転から前記改質運転に切り換える場合に、前記改質無しEGR運転を実行する期間を経てから前記改質運転を開始することを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記改質運転を開始する前の前記改質無しEGR運転の実行中に、前記燃料改質触媒に流入するEGRガスの空燃比を理論空燃比以下のリッチ空燃比とする改質運転前空燃比制御手段を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記熱供給手段は、前記内燃機関の排気ガスの熱を前記燃料改質触媒に伝熱させる熱交換器で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、改質運転の実行中に、内燃機関の各気筒の空燃比を何れも理論空燃比以下のリッチ空燃比に維持することができる。これにより、改質運転の実行中、何れの気筒から排出される排気ガスの中にも酸素が残存しなくなるので、排気脈動等の影響にかかわらず、EGR通路に酸素が流入することを確実に防止することができる。このため、燃料改質触媒で改質用燃料の酸化反応が生ずることを確実に阻止することができ、燃料改質触媒の過昇温を確実に防止することができるので、燃料改質触媒の劣化や故障を確実に回避することができる。
【0013】
第2の発明によれば、非改質運転から改質運転に切り換える場合に、改質無しEGR運転を実行する期間を経てから改質運転を開始することができる。これにより、改質運転の開始前に、EGRガスの熱によって燃料改質触媒を十分に予熱することができる。このため、改質運転の開始後、改質反応を安定して生起させることができ、改質効率を十分に高めることができる。また、EGR流量の制御を開始し、EGR流量が目標値に安定的に制御されるようになった後に、改質反応量の制御を開始することができる。このため、改質運転に切り換えた後、燃焼室への可燃成分流入量の制御誤差を抑制することができ、空燃比やトルクなどを精度良く制御することができる。
【0014】
第3の発明によれば、改質運転を開始する前の改質無しEGR運転の実行中に、燃料改質触媒に流入するEGRガスの空燃比を理論空燃比以下のリッチ空燃比とすることにより、燃料改質触媒に吸着された酸素を事前に除去することができる。このため、当該酸素による改質効率の低下や改質反応の不安定化を確実に回避することができる。
【0015】
第4の発明によれば、内燃機関の排気ガスの熱を燃料改質触媒に伝熱させ、燃料改質反応に吸熱させることができる。このため、内燃機関の廃熱を回収することができ、熱効率を十分に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図を示している。本実施形態のシステムは、多気筒型(図示の構成では4気筒)の内燃機関10を備えている。本システムで使用される燃料は、特に限定されず、ガソリン等の炭化水素燃料のほかに、アルコール(例えばエタノール)等のバイオマス由来成分を含むバイオ燃料などを用いることもできる。
【0017】
内燃機関10の吸気通路12は、吸気マニホールド14を介して各気筒の吸気ポートに接続されている。吸気通路12の途中には、吸入空気量を調整する電動式のスロットル弁16が設置されている。各気筒の吸気ポートには、燃料を噴射するための電磁弁等からなる主燃料噴射装置18がそれぞれ設けられている。なお、主燃料噴射装置18は、吸気ポート内でなく、筒内に燃料を直接に噴射するように設けられていてもよい。
【0018】
内燃機関10の排気通路20は、排気マニホールド22を介して各気筒の排気ポートに接続されている。排気通路20の途中には、燃料改質器24が設けられている。燃料改質器24の内部には、燃料改質触媒26と排気通路28とが設けられている。燃料改質触媒26内には、後述する改質反応を触媒する作用を有する金属(例えばRh、Pt、Co、Ni等)が担体に担持されて設置されている。
【0019】
燃料改質触媒26と排気通路28とは、隔壁で隔てられ、遮断されている。燃料改質触媒26は、排気通路28を通る排気ガスの熱を受熱することができる。燃料改質触媒26は、その受熱した熱を反応熱とすることにより、後述する改質反応を生じさせることができる。すなわち、燃料改質器24は、排気通路28を通る排気ガスの熱を燃料改質触媒26に伝熱させる熱交換器としての機能を有している。図示の構成では、排気通路28は、並行する複数の通路で構成されている。そして、排気通路28の入口は排気通路20に接続され、排気通路28の出口は排気通路30に接続されている。
【0020】
排気マニホールド22の集合部より下流側であって、燃料改質器24の上流側の排気通路20からは、EGR通路32が分岐している。このEGR通路32によれば、排気通路20を通る排気ガスの一部をEGRガスとして取り出すことができる。EGR通路32は、燃料改質触媒26に接続されている。EGR通路32の途中には、改質反応に供するための燃料(以下、改質用燃料とも言う)をEGRガス中に噴射する改質用燃料噴射装置34が設けられている。改質用燃料噴射装置34から噴射された燃料は、EGRガスと共に燃料改質触媒26に流入し、燃料改質触媒26の作用によって改質反応を起こす。
【0021】
燃料改質触媒26には、EGR通路36の一端が更に接続されている。このEGR通路36の他端は、吸気通路12に接続されている。このEGR通路36を通して、後述する改質ガス、あるいは単なるEGRガスを、吸気通路12内に還流させ、吸入空気と混合させることができる。EGR通路36の途中には、EGR通路36を通るガスを冷却するEGRクーラ38と、EGR通路36を開閉可能な電磁弁等で構成されるEGR弁40とが設けられている。
【0022】
排気通路20を流れる排気ガスのうち、EGR通路32に流入しなかった残りの排気ガスは、排気通路28,30を順次通過して、大気中に放出される。燃料改質器24の下流側の排気通路30の途中には、有害成分を浄化する三元触媒等を担持した排気浄化触媒42や、図示しないマフラーが配置されている。また、排気通路28に、有害成分を浄化する触媒が担持されていてもよい。排気通路28に排気浄化触媒を担持させることにより、浄化反応の反応熱を排気通路28で発生させることができるので、燃料改質触媒26の受熱量(熱回収量)を更に増大させることができ、改質効率を更に向上することができる。
【0023】
内燃機関10が使用する燃料は、燃料タンク44に貯留されている。燃料タンク44には、タンク内の燃料を加圧した状態で外部に送出するための燃料ポンプ(図示せず)が付設されている。この燃料ポンプの吐出側には、ポンプから吐出された燃料を主燃料噴射装置18及び改質用燃料噴射装置34にそれぞれ供給する燃料配管46が接続されている。
【0024】
更に、本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50は、ROM、RAM等の記憶回路を備えたマイクロコンピュータによって構成されている。ECU50の入力側には、触媒温度センサ54、空燃比センサ56、水素濃度センサ58等を含むセンサ系統が接続されている。
【0025】
触媒温度センサ54は、燃料改質触媒26に設けられており、燃料改質触媒26の温度を検出する。空燃比センサ56は、排気通路20に設けられており、排気ガスの空燃比に応じた検出信号を出力する。水素濃度センサ58は、EGR通路36の途中に設けられており、EGR通路36を通る改質ガス中の水素濃度(H2濃度)に応じた検出信号を出力する。
【0026】
また、センサ系統には、例えば機関回転数を検出する回転センサ、吸入空気量を検出するエアフローメータ、冷却水温度を検出する水温センサ、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ、スロットル弁16の開度を検出するスロットル開度センサ等のように、内燃機関10の運転制御に用いられる一般的なセンサが含まれている。
【0027】
一方、ECU50の出力側には、前述したスロットル弁16、主燃料噴射装置18、改質用燃料噴射装置34、EGR弁40、燃料ポンプ等を含む各種のアクチュエータが接続されている。そして、ECU50は、内燃機関10の運転状態をセンサ系統によって検出しつつ、各アクチュエータを駆動することによって運転制御を行う。
【0028】
(空燃比フィードバック制御)
ECU50は、エアフローメータで検出される吸入空気量等に基づいて、主燃料噴射装置18から噴射すべき燃料量を算出する。また、ECU50は、空燃比センサ56の検出信号に基づいて主燃料噴射装置18の燃料噴射量を補正する空燃比フィードバック制御を行うことにより、内燃機関10の空燃比(排気通路20を流れる排気ガスの空燃比)が目標空燃比となるように制御することができる。
【0029】
(改質運転)
内燃機関10は、排気ガス(EGRガス)と改質用燃料との改質反応によって生成された改質ガスを吸気通路12内に還流させる改質運転を実行可能になっている。改質運転時には、EGR通路32内を流れるEGRガスに対して改質用燃料噴射装置34から改質用燃料を噴射することにより、改質用燃料を燃料改質触媒26に供給する。このとき、ECU50は、例えば内燃機関10の運転状態、EGR流量、燃料改質触媒26の温度等に応じて、改質用燃料の適切な噴射量(供給量)を決定する。
【0030】
燃料改質触媒26内では、触媒作用を有する前述したような種類の金属の作用により、改質用燃料と、EGRガス中の成分とが改質反応(水蒸気改質反応)を起こす。燃料改質触媒26で生ずる主な改質反応の化学反応式は、改質用燃料が例えばガソリンである場合には下記式(1)で、改質用燃料が例えばエタノールである場合には下記式(2)で、それぞれ表すことができる。
【0031】
1.56(7.6CO2+6.8H2O+40.8N2)+3C7.6H13.6+Q1
→31H2+34.7CO+63.6N2 ・・・(1)
C2H5OH+0.4CO2+0.6H2O+2.3N2+Q2→3.6H2+2.4CO+2.3N2 ・・・(2)
【0032】
上記式に示すように、改質反応によれば、EGRガスおよび改質用燃料を、水素(H2)および一酸化炭素(CO)を含む改質ガスに転換させることができる。以下の説明では、水素および一酸化炭素を総称して「可燃成分」とも言う。
【0033】
上記(1)式中の熱量Q1、及び(2)式中の熱量Q2は、改質反応によって吸収される反応熱である。即ち、これらの改質反応は吸熱反応であるから、上記(1),(2)式中の右辺の可燃成分の有する熱量は、当該各式の左辺に記載された反応前の物質が有する熱量よりも大きくなる。
【0034】
このため、燃料改質器24によれば、燃料改質触媒26が排気通路28から受熱した熱を、上記改質反応に吸収させることができる。つまり、本実施の形態のシステムでは、排気ガスの熱を回収、利用して、改質用燃料を、より熱量の大きい可燃成分に転換することができる。
【0035】
上記の改質反応により生成した可燃成分を含む改質ガスは、EGR通路36を通って吸気通路12内に流入し、吸入空気と混合された上で、内燃機関10の燃焼室に流入する。そして、改質ガス中の可燃成分は、主燃料噴射装置18から噴射された燃料と共に燃焼室で燃焼する。ECU50には、改質運転時に内燃機関10の燃焼室に流入させるべき要求可燃成分量を運転条件等に基づいて決定するためのマップが記憶されている。ECU50は、燃焼室に流入する可燃成分量がその要求可燃成分量となるように、改質ガス流量をEGR弁40によって制御するとともに、空燃比を目標空燃比とする上で必要な総燃料量から、流入した可燃成分量を差し引いた残りの分の燃料を、主燃料噴射手段18に噴射させる。
【0036】
改質ガスは、前述したように、燃料改質器24によって排気ガスの熱を回収した分だけ、元の燃料よりも熱量が増えている。よって、改質運転時には、改質ガスを吸気系に還流させて燃料の一部として内燃機関10で燃焼させることにより、システム全体としての熱効率が向上するので、内燃機関10の燃費性能を改善することができる。
【0037】
また、改質ガスを吸気系に還流させることは、EGR(Exhaust Gas Recirculation)の一種でもある。よって、改質運転によれば、EGRの一般的な効果、すなわちポンプ損失低減による燃費改善効果や燃焼温度低下によるNOx生成量低減効果などを得ることもできる。このことに関連して、改質運転には更に次のような利点がある。通常のEGR運転の場合には、EGR率を高くしていくと、燃焼が不安定になるので、EGR率には限界がある。これに対し、改質運転の場合には、高い燃焼性を有する(燃焼速度の速い)水素が改質ガスに含まれており、この水素が燃料と共に燃焼室で燃焼する。このため、EGR率を高くしても燃焼が不安定になりにくく、EGR率の限界を高くすることができる。よって、改質運転時には、大量EGRが可能となるので、ポンプ損失低減による燃費改善効果や燃焼温度低下によるNOx生成量低減効果などをより大きく発揮させることができる。
【0038】
前述したように、本実施形態では、排気マニホールド22の集合部より下流側の排気通路20からEGRガスを取り出すようにしている。このため、内燃機関10の全気筒の排気ガスをEGR通路32に取り込むことができる。よって、各気筒の排気脈動等の影響にかかわらず、大量のEGRガスを燃料改質触媒26に流入させることができる。その結果、大量の改質ガスを内燃機関10に供給することができるので、改質運転による上記効果を十二分に発揮させることができる。
【0039】
ところで、改質運転時に、燃料改質触媒26に酸素が流入したとすると、改質用燃料が燃料改質触媒26において酸化反応(燃焼)する。このため、その燃焼熱によって燃料改質触媒26の温度が過度に上昇し、触媒シンタリング(触媒粒の粗大化)等の触媒劣化や、触媒担体の溶損等の触媒故障を生じ易い。
【0040】
そこで、本実施形態では、改質運転の実行中は、燃料改質触媒26への酸素の流入を確実に防止するため、内燃機関10の各気筒(全気筒)の空燃比が、何れも理論空燃比以下のリッチ空燃比となるように制御することとした。これにより、何れの気筒から排出される排気ガスの中にも酸素が残存しなくなるので、EGR通路32に酸素が流入することを確実に防止することができる。このため、燃料改質触媒26での改質用燃料の酸化反応を確実に阻止することができ、燃料改質触媒26の劣化や故障を確実に回避することができる。
【0041】
なお、改質運転時の内燃機関10の各気筒の空燃比は、理論空燃比であってもよいが、燃料改質触媒26への酸素の流入をより確実に防止する観点からは、理論空燃比より僅かに小さい弱リッチ空燃比であることが好ましい。
【0042】
(非改質運転)
本実施形態の内燃機関10は、上述したような燃料改質を利用せず、主燃料噴射装置18から噴射する燃料のみを燃焼させて運転することも可能となっている。このような運転を以下「非改質運転」と称する。非改質運転には、EGR通路32,36を介してEGRガスを吸気通路12に還流させる通常の外部EGRを行う運転(以下「改質無しEGR運転」と称する)と、EGR弁40を閉じることによりEGR通路32,36にEGRガスを流さないようにする運転(以下「非EGR運転」と称する)とが含まれる。
【0043】
非改質運転時には、内燃機関10の各気筒の空燃比を理論空燃比より大きいリーン空燃比となるように制御してもよい。
【0044】
ECU50は、機関回転数や機関負荷等の運転状態に基づいて、非改質運転と改質運転とを切り換える。本実施形態では、非改質運転から改質運転に切り換える際に、改質運転の準備としての改質無しEGR運転を実行する期間を経てから、改質運転を開始することとした。すなわち、外部EGRを行わない非EGR運転から直接に改質運転に切り換えるのではなく、まず改質用燃料を噴射しない改質無しEGR運転を行い、その後、改質用燃料の噴射を開始して改質運転に切り換えることとした。このような制御により、次のような利点がある。
【0045】
(1)改質運転の開始前に燃料改質触媒26を十分な温度に予熱することができる。燃料改質触媒26は非EGR運転時にも排気通路28側から排気ガスの熱によって加熱されているが、EGR通路32,36にEGRガスを流すことにより、排気ガスとEGRガスとの両方の熱で燃料改質触媒26を加熱することができる。このため、改質運転の準備としての改質無しEGR運転を実行することにより、燃料改質触媒26の温度を更に上昇させることができ、改質用燃料の噴射開始直後から改質効率を十分に高めることができる。
(2)改質運転時に燃焼室に流入する可燃成分量は、燃料改質触媒26における可燃成分生成量(すなわち改質反応量)と、改質ガス流量(すなわちEGR流量)とに依存して決まる。よって、改質運転時には、EGR流量と改質反応量との双方を制御する必要がある。このため、非EGR運転から直接に改質運転に切り換える場合には、EGR流量の制御と改質反応量の制御との双方を同時に開始することとなる。しかしながら、EGR流量や改質反応量は、何れも、それらの値をセンサで直接に検出することは困難であるため、制御開始後、しばらくの間は、制御誤差が大きくなり易い。このため、非EGR運転から直接に改質運転に切り換えた場合には、EGR流量の制御誤差と改質反応量の制御誤差とが相乗してしまい、燃焼室に流入する可燃成分量の制御誤差が大きくなり易い。これに対し、本実施形態のように、改質運転の準備として改質無しEGR運転を実行する場合には、まずEGR流量の制御のみが開始され、EGR流量が目標値に安定的に制御されるようになった後に、改質反応量の制御を開始することができる。このため、非改質運転から改質運転に切り換えた後、燃焼室への可燃成分流入量の制御誤差を抑制することができ、空燃比やトルクなどを精度良く制御することができる。
【0046】
上述したような改質運転の準備としての改質無しEGR運転の実行時には、燃料改質触媒26に流入するEGRガスの空燃比が、好ましくは理論空燃比以下、より好ましくは理論空燃比より小さなリッチ空燃比となるように制御される。通常の改質無しEGR運転の実行中は、内燃機関10が理論空燃比より大きなリーン空燃比で運転されることが多い。このため、EGRガス中に残存する酸素が燃料改質触媒26に吸着された状態となっている。この状態からいきなり改質運転を開始すると、燃料改質触媒26に吸着されている酸素が改質反応を阻害し、改質効率が低下したり改質反応が不安定になったりする場合がある。そこで、改質運転開始前の改質無しEGR運転時に、EGRガスの空燃比をリッチ空燃比とすることにより、EGRガス中に残存する未燃燃料と、燃料改質触媒26に吸着された酸素とを反応させ、当該酸素を除去することができる。よって、改質効率の低下や改質反応の不安定化を確実に回避することができる。
【0047】
[実施の形態1における具体的処理]
図2は、上記の機能を実現するために本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。図2に示すルーチンによれば、まず、EGR実行条件の成否が判断される(ステップ100)。このステップ100においては、内燃機関10の動作点が所定のEGR領域内にあるか否かなどの所定のEGR実行条件が、各センサの検出信号等に基づいて判断される。その判断の結果、EGR実行条件が成立していると判断された場合には、EGRが実行される(ステップ102)。すなわち、EGR弁40を開くことによってEGRガスをEGR通路32,36を介して吸気通路12に還流させる改質無しEGR運転が実行される。
【0048】
改質無しEGR運転が実行された場合には、次に、改質運転条件の成否が判断される(ステップ104)。このステップ104においては、内燃機関10の動作点が所定の改質領域内にあるか否かや、燃料改質触媒26の温度が所定温度以上であるか否かなどの所定の改質運転実行条件が、各センサの検出信号等に基づいて判断される。
【0049】
上記ステップ104で改質運転条件が成立していると判断された場合には、改質運転条件の準備としての改質無しEGR運転を行うため、各気筒の空燃比がリッチ空燃比となるように制御される(ステップ106)。このステップ106において空燃比が目標空燃比となるように制御する際には、吸入空気量等に基づいて主燃料噴射装置18からの燃料噴射量をフィードフォワード的に制御してもよく、あるいは、空燃比センサ56の検出信号をフィードバックして主燃料噴射装置18からの燃料噴射量を補正してもよい。
【0050】
上記ステップ106の制御によって各気筒の空燃比がリッチ空燃比に制御されたら、所定時間待機する処理が実行される(ステップ108)。これにより、リッチ空燃比での改質無しEGR運転が所定時間継続される。この間に、排気通路28を流れる排気ガスと、燃料改質触媒26を流れるEGRガスとの双方によって、燃料改質触媒26の温度を十分に上昇させることができるとともに、燃料改質触媒26に吸着された酸素をEGRガス中の未燃燃料と反応させて除去することができる。また、EGR流量を目標値に一致させるのに十分な時間を与えることができる。
【0051】
上記ステップ108による待機時間が経過した後、改質用燃料噴射装置34からの燃料噴射が実行され、改質運転が開始される(ステップ110)。この際、燃料改質触媒26が十分に予熱されているとともに吸着酸素が事前に除去されているので、改質反応の安定化が図れ、高い改質効率が得られる。
【0052】
改質運転の実行中、各気筒の空燃比は、空燃比センサ56の検出信号に基づく空燃比フィードバックにより、引き続きリッチ空燃比に維持される(ステップ112)。可燃成分を含む改質ガスが燃焼室に流入し始めると、空燃比フィードバック制御の作用により、その分だけ主燃料の噴射量が減少方向に補正されるので、主燃料噴射装置18からの燃料噴射量が減量される(ステップ114)。
【0053】
以上説明した図2に示すルーチンの処理によれば、改質運転の実行中、各気筒の空燃比をリッチ空燃比に維持することができるので、燃料改質触媒26への酸素の流入を確実に阻止することができる。このため、改質用燃料の酸化反応(燃焼)による燃料改質触媒26の過昇温を確実に防止することができ、燃料改質触媒26の劣化や故障を確実に回避することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、燃料改質器24において、内燃機関10の排気ガスの熱を燃料改質触媒26に伝熱させ、改質反応に吸熱させるようにしているが、本発明は、燃料改質触媒26に加える熱を排気ガスの熱で賄う構成に限定されるものではない。すなわち、本発明では、燃料改質触媒26をヒータや燃焼器などで加熱する構成としてもよい。
【0055】
また、上述した実施の形態1においては、改質用燃料噴射装置34が前記第1の発明における「改質用燃料噴射手段」に、燃料改質器24が前記第1の発明における「熱供給手段」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、図2に示すルーチンの処理を実行することにより前記第1および第2の発明における「運転切換手段」が、上記ステップ112の処理を実行することにより前記第1の発明における「改質運転時空燃比制御手段」が、上記ステップ106の処理を実行することにより前記第3の発明における「改質運転前空燃比制御手段」が、それぞれ実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
10 内燃機関
12 吸気通路
14 吸気マニホールド
16 スロットル弁
18 主燃料噴射装置
20,28,30 排気通路
24 燃料改質器
26 燃料改質触媒
32,36 EGR通路
34 改質用燃料噴射装置
38 EGRクーラ
40 EGR弁
42 排気浄化触媒
44 燃料タンク
46 燃料配管
50 ECU
54 触媒温度センサ
56 空燃比センサ
58 水素濃度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒型の内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路と、
前記EGR通路を流れるEGRガス中に燃料を噴射する改質用燃料噴射手段と、
前記EGR通路の途中であって前記改質用燃料噴射手段の下流側に配置され、前記EGRガスと前記改質用燃料とを改質反応させることにより、それらを、改質反応生成物である可燃成分を含む改質ガスに転換させる燃料改質触媒と、
前記改質反応に要する熱を前記燃料改質触媒に供給する熱供給手段と、
前記改質用燃料噴射手段により燃料を供給しつつ前記改質ガスを前記吸気通路に還流させる改質運転と、前記改質用燃料噴射手段から燃料を噴射しない非改質運転とを切り換える運転切換手段と、
前記改質運転の実行中に、前記内燃機関の各気筒の空燃比を何れも理論空燃比以下のリッチ空燃比に維持する改質運転時空燃比制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記非改質運転には、EGRガスを前記吸気通路に還流させるEGRを実行する改質無しEGR運転と、前記EGRを実行しない非EGR運転とが含まれ、
前記運転切換手段は、前記非改質運転から前記改質運転に切り換える場合に、前記改質無しEGR運転を実行する期間を経てから前記改質運転を開始することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記改質運転を開始する前の前記改質無しEGR運転の実行中に、前記燃料改質触媒に流入するEGRガスの空燃比を理論空燃比以下のリッチ空燃比とする改質運転前空燃比制御手段を備えることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記熱供給手段は、前記内燃機関の排気ガスの熱を前記燃料改質触媒に伝熱させる熱交換器で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−138531(P2009−138531A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312565(P2007−312565)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】