説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の排気経路に設けられる触媒の劣化を効果的に抑制する。
【解決手段】内燃機関の制御装置は、ガス燃料を供給するガス燃料供給手段(310,320,330)及び液体燃料を供給する液体燃料供給手段(410,420,430)を有する内燃機関(200)の制御装置であって、内燃機関の排気経路に設けられた触媒(123)の温度を検出する触媒温度検出手段(124)と、触媒温度検出手段において検出された触媒の温度、若しくは触媒の昇温速度、又は触媒の温度及び触媒の昇温速度の両方に基づいて、ガス燃料供給手段によって供給するガス燃料及び液体燃料供給手段によって供給する液体燃料の供給割合を夫々決定する燃料割合決定手段(100)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される内燃機関であって、ガス燃料及び液体燃料を選択的に用いることが可能な内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関の制御装置として、例えばCNG(Compressed Natural Gas:天然ガス)等のガス燃料と、ガソリン等の液体燃料を併用する内燃機関(所謂、バイフューエルエンジン)の動作を制御するものがある。バイフューエルエンジンでは、車両の走行状況やエンジンにおける各部位の状態等に基づいて、ガス燃料及び液体燃料の供給割合が適宜変更される。
【0003】
例えば特許文献1では、エンジン始動直後の軽負荷時には着火しやすい液体燃料を供給し、中負荷時や高負荷時には着火し難いガス燃料を供給するという技術が提案されている。
【0004】
また特許文献2では、スロットル開度が大きい高負荷時には軽油着火方式ガスエンジンとして運転し、微量軽油での着火が困難な低負荷時には軽油のみを燃料とするディーゼルエンジンとして運転するように、エンジンを停止することなく自動的に切替えるという技術が提案されている。
【0005】
更に特許文献3では、ガス燃料が貯留された燃料タンク内の圧力に基づいて、液体燃料による運転とガス燃料による運転とを切替えるという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−158980号公報
【特許文献2】特開2004−108153号公報
【特許文献3】特開2004−052560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したガス燃料による運転は、液体燃料による運転と比べると、内燃機関の排気経路に設けられる触媒の劣化を抑制することができる。具体的には、ガス燃料による運転では、触媒浄化反応熱が発生し難いため、触媒温度の上昇を抑制できる。しかしながら、ガス燃料は、酸素リッチ雰囲気下での燃焼安定性が悪い。このため、仮に上述した技術を単純に適用して触媒の劣化を抑制しようとすると、燃焼悪化を招き、結果として失火に至るおそれがある。即ち、上述した技術には、触媒の劣化を好適に抑制することができないという技術的問題点がある。
【0008】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、触媒の劣化を効果的に抑制することが可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の内燃機関の制御装置は上記課題を解決するために、ガス燃料を供給するガス燃料供給手段及び液体燃料を供給する液体燃料供給手段を有する内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の排気経路に設けられた触媒の温度を検出する触媒温度検出手段と、前記触媒温度検出手段において検出された触媒の温度、若しくは触媒の昇温速度、又は前記触媒の温度及び前記触媒の昇温速度の両方に基づいて、前記ガス燃料供給手段によって供給する前記ガス燃料及び前記液体燃料供給手段によって供給する前記液体燃料の供給割合を夫々決定する燃料割合決定手段とを備える。
【0010】
本発明の内燃機関の制御装置は、例えば自動車等の車両に搭載され、天然ガス等のガス燃料及びガソリン等の液体燃料を選択的に用いて運転する内燃機関の動作を制御する。ガス燃料は、ガス燃料供給手段によって内燃機関に供給される。一方、液体燃料は、液体燃料供給手段によって内燃機関に供給される。ガス燃料及び液体燃料の夫々の供給量は、例えばガス燃料供給手段及び液体燃料供給手段に設けられた調整バルブ等によって調整される。これにより、内燃機関において、ガス燃料による運転、液体燃料による運転、更にはガス燃料及び液体燃料の両方による運転を実現できる。
【0011】
本発明の内燃機関の制御装置によれば、内燃機関の運転時において、内燃機関の排気経路に設けられた触媒の温度が触媒温度検出手段によって検出される。触媒温度検出手段は、例えば温度センサのように直接温度を検出するものであってもよいし、他のパラメータから温度を算出又は推定するようなものであってもよい。また触媒温度検出手段は、検出した温度を用いて、触媒の昇温速度を検出可能に構成されてもよい。
【0012】
触媒の温度が検出されると、触媒の温度、若しくは触媒の昇温速度、又は触媒の温度及び触媒の昇温速度の両方に基づいて、ガス燃料供給手段によって供給されるガス燃料及び液体燃料供給手段によって供給される液体燃料の供給割合が夫々決定される。即ち、内燃機関において、ガス燃料のみでの運転を行うか、液体燃料のみでの運転を行うか、或いはガス燃料及び液体燃料の両方による運転を行うか、その場合ガス燃料及び液体燃料の供給割合をどうするかが決定される。
【0013】
ここで、ガス燃料による運転は、液体燃料による運転と比べて触媒浄化反応熱が発生し難いため、触媒温度の上昇を抑制できるという特性がある。しかしながら、ガス燃料は、酸素リッチ雰囲気下での燃焼安定性が悪いため、例えば酸素を15%以上増量した場合には失火に至るおそれがある。
【0014】
しかるに本発明では特に、上述したように、ガス燃料及び液体燃料の供給割合が触媒の温度に基づいて好適に決定される。具体的には、例えば触媒の温度が劣化を招くまでに高いと判断された場合には、ガス燃料による運転が行われる。これにより、触媒の温度上昇が抑制され、触媒の劣化を効果的に抑制できる。また、ガス燃料による運転では失火に至ると判断された場合には、液体燃料による運転或いはガス燃料及び液体燃料の両方による運転が行われる。これにより、触媒の劣化を効果的に抑制しつつ、エミッションの悪化を防止することも可能である。
【0015】
尚、どのような状況でガス燃料及び液体燃料の供給割合をどのような値に決定するかは、予め理論的、実験的或いは経験的に決定され、燃料割合決定手段が有する記憶媒体等に記憶されている。或いは、触媒の温度やその他のパラメータ等を用いて、リアルタイムで算出するように構成してもよい。
【0016】
以上説明したように、本発明の内燃機関の制御装置によれば、触媒の劣化を効果的に抑制することが可能である。
【0017】
本発明の内燃機関の制御装置の一態様では、前記燃料割合決定手段は、前記触媒の温度が第1閾値以上になった場合に、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を止めて、前記ガス燃料供給手段による前記ガス燃料の供給のみを行うようにする。
【0018】
この態様によれば、触媒の温度が第1閾値以上になった場合に、内燃機関がガス燃料のみでの運転に変更される。尚、ここでの「第1閾値」は、触媒の温度が劣化を抑制すべき程に高くなっているか否かを判定するための閾値であり、予め理論的、実験的或いは経験的にもとめられ設定されている。
【0019】
上述したように、ガス燃料による運転は、液体燃料による運転と比べて触媒温度の上昇を抑制できる。しかしながら、触媒の劣化が殆ど生じないような状況でガス燃料のみの運転が行われるようにしたのでは、かえって効率が悪くなってしまう。これに対し、触媒の温度が第1閾値以上になった場合に、ガス燃料による運転になるように制御すれば、好適に触媒の劣化を抑制することが可能である。
【0020】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記燃料割合決定手段は、前記触媒の温度が第2閾値以上になり、且つ前記触媒の昇温速度が第3閾値以上になった場合に、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を止めて、前記ガス燃料供給手段による前記ガス燃料の供給のみを行うようにする。
【0021】
この態様によれば、触媒の温度が第2閾値以上になり、且つ触媒の昇温速度が第3閾値以上になった場合に、内燃機関がガス燃料のみでの運転に変更される。尚、ここでの「第2閾値」は、触媒の温度が劣化を抑制すべき程に高くなっているか否かを判定するための閾値であり、予め理論的、実験的或いは経験的にもとめられ設定されている。また、「第3閾値」は、触媒の温度が劣化を抑制すべき程に急速に高くなっているか否かを判定するための閾値であり、予め理論的、実験的或いは経験的にもとめられ設定されている。
【0022】
上述したように、ガス燃料による運転は、液体燃料による運転と比べて触媒温度の上昇を抑制できる。しかしながら、触媒の劣化が殆ど生じないような状況でガス燃料のみの運転が行われるようにしたのでは、かえって効率が悪くなってしまう。これに対し、触媒の温度が第2閾値以上になり、且つ触媒の昇温速度が第3閾値以上になった場合に、ガス燃料による運転になるように制御すれば、好適に触媒の劣化を抑制することが可能である。
【0023】
尚、本態様と上述した第1閾値を用いる態様とを組み合わせて利用する場合、第2閾値は、第1閾値より低い値として設定される。このようにすれば、触媒の温度が第3閾値以上とならない昇温速度で高くなる場合には、触媒の温度が第2閾値以上となった時点ではガス燃料による運転には切替えられず、触媒の温度が第1閾値以上となった時点でガス燃料による運転とされる。一方、触媒の温度が第3閾値以上となる昇温速度で高くなる場合には、触媒の温度が第2閾値以上となった時点で(即ち、第1閾値以上となる前に)ガス燃料による運転に切替えられる。
【0024】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記触媒温度検出手段は、前記内燃機関の負荷、前記内燃機関の回転数、前記内燃機関に供給された積算空気量のうち少なくとも1つに基づいて、前記触媒の温度を検出する。
【0025】
この態様によれば、触媒温度検出手段は、内燃機関の負荷を検出する負荷検出手段、内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段、又は内燃機関に供給された積算空気量を検出する空気量検出手段等を有するように構成され、検出された内燃機関の負荷、内燃機関の回転数、積算空気量の少なくとも1つに基づいて、触媒の温度が検出される。
【0026】
本態様では、上述したパラメータを用いて触媒の温度が間接的に検出されるため、直接触媒の温度を検出せずに済む。即ち、触媒の温度を直接検出するような温度センサ等を設けることが求められないため、装置構成を簡単化することが可能である。
【0027】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記燃料割合決定手段は、前記触媒の温度が第4閾値以上になった場合に、前記触媒の温度と前記第4閾値との差に基づいて、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給割合を決定する。
【0028】
この態様によれば、触媒の温度が第4閾値以上になった場合に、触媒の温度が第4閾値をどの程度上回っているかによって、液体燃料の供給割合が決定される。尚、ここでの「第4閾値」は、触媒の温度がガス燃料による運転を行うだけで劣化を抑制できる状態にあるか否かを判定するための閾値であり、予め理論的、実験的或いは経験的にもとめられ設定されている。本態様では、例えば触媒の温度が第4閾値を超えた値に対応した分、液体燃料の供給割合が増加させられる。
【0029】
上述したように、触媒の温度が劣化してしまう程度に高くなった場合には、触媒の昇温を抑制できるガス燃料による運転が行われることが好ましい。しかしながら、触媒の温度が極めて高くなってしまった場合には、ガス燃料による運転とするだけでは、触媒の劣化を抑制するのが困難となってしまうおそれがある。このような場合に、適宜液体燃料が供給されるようにすれば、液体燃料の気化潜熱による燃焼ガスの温度低下及び酸欠による触媒反応の低下によって、触媒温度を下げることができる。よって、触媒の劣化をより好適に抑制することが可能となる。
【0030】
尚、第4閾値は、典型的には、上述した第1閾値及び第2閾値よりも高い値に設定されており、触媒温度が第1閾値又は第2閾値から第4閾値になるまでの間には、ガス燃料のみでの運転が行われる。
【0031】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記内燃機関が搭載された車両の減速を検出する減速検出手段を更に備え、前記燃料割合決定手段は、前記減速検出手段において前記車両の減速が検出された場合に、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を止めて、前記ガス燃料供給手段による前記ガス燃料の供給のみを行うようにすると共に、前記ガス燃料供給手段による前記ガス燃料の供給を停止するフューエルカットを行わないようにする。
【0032】
この態様によれば、内燃機関が搭載された車両の減速が検出された場合、内燃機関の運転はガス燃料による運転に切替えられる。また、ガス燃料の供給を停止するフューエルカットが禁止された状態となる。尚、車両の減速は、例えばスロットル開度を検出するセンサ等で構成された減速検出手段によって検出される。また、上述した減速が検出された場合の制御は、減速が検出されたら必ず行う訳ではなく、減速の程度に応じて行うようにしてもよい。即ち、減速度が所定の値以上となった場合に行うようにしてもよい。
【0033】
本態様では特に、触媒の酸素吸蔵及び貴金属の酸化を防止することができる。よって、より効果的に触媒の劣化を抑制することが可能である。また本態様では更に、液体燃料と比べて体積効率の低いガス燃料を使用することで内燃機関のトルクを最小限にし、エンジンブレーキを利きやすくすることができる。即ち、制動力の低下を抑制することが可能である。
【0034】
上述した車両の減速に基づいて燃料の供給割合を決定する態様では、前記燃料割合決定手段は、前記触媒の温度、若しくは前記触媒の昇温速度、又は前記触媒の温度及び前記触媒の昇温速度の両方が所定の閾値以下である場合に、前記車両の減速が検出されていても前記フューエルカットを行うようにするように構成してもよい。
【0035】
このように構成すれば、車両の減速が検出されフューエルカットが禁止されるような状況にあっても、触媒の温度、若しくは触媒の昇温速度、又は触媒の温度及び前記触媒の昇温速度の両方が所定の閾値以下であるという条件を満たした場合には、フュールカットが禁止されない。即ち、車両が減速されていても、触媒の状態次第では通常通りフューエルカットを行うように制御される。
【0036】
本態様では、触媒の劣化を抑制すべき状況と燃料消費を抑制すべき状況とを判断して、状況に応じた適切な制御を行うことができる。具体的には、触媒の温度等から触媒の劣化を抑制すべき状況であると判断した場合には、フューエルカットを禁止して、触媒の劣化を抑制する効果を高める。一方で、燃料消費を抑制すべき状況であると判断した場合には、フューエルカットを行うようにして、燃料消費を抑制する。即ち、本発明の「所定の閾値」は、触媒の劣化を抑制すべき状況であるか、或いは燃料消費を抑制すべき状況であるかを判断するための閾値である。
【0037】
上述した制御によれば、触媒の劣化がさほど問題とならない場合には、燃料消費を抑制することが優先されるため、触媒の劣化の抑制及び燃料消費の抑制を好適に実現できる。
【0038】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】エンジンシステムの全体構成を示す概略図である。
【図2】内燃機関の制御装置による燃料切替え制御の各工程を示すフローチャートである。
【図3】内燃機関の制御装置によるフューエルカット制御の各工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0041】
先ず、本実施形態に係る内燃機関の制御装置が適用されるエンジンシステム全体の構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、エンジンシステムの全体構成を示す概略図である。尚、図1では、説明の便宜上、エンジンシステムを構成する各要素のうち本実施形態と関わりの深いもののみを選択的に図示しており、その他の要素については適宜図示を省略してある。
【0042】
図1において、本実施形態に係るエンジンシステムは、ECU(Engine Control Unit)100と、コンプレッサ110と、タービン120と、エンジン200とを備えている。
【0043】
ECU100は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジンシステムの動作全体を制御する。尚、本実施形態に係る内燃機関の制御装置の主要な部分は、このECU100として構成されている。
【0044】
コンプレッサ110は、流入された空気を圧縮し、圧縮空気として下流に供給する。タービン120は、エンジン200から供給された排気を動力として回転する。タービン120は、シャフトを介してコンプレッサ110に連結されており、相互に一体に回転することが可能に構成されている。即ち、タービン120とコンプレッサ110とによって、ターボチャージャが構成される。
【0045】
エンジン200は、例えば自動車等の車両の動力源たるバイフューエルエンジンであり、ここではシリンダブロック内にシリンダ201が4本直列に配置されてなる直列4気筒エンジンを例に挙げている。エンジン200には、ガス燃料タンク310からガス燃料供給管320を介して、例えば天然ガス等のガス燃料が供給される。またエンジン200には、液体燃料タンク410から液体燃料供給管420を介して、例えばガソリンやアルコール燃料等の液体燃料が供給される。
【0046】
ガス燃料供給管320及び液体燃料供給管420には夫々、調整バルブ330及び430が設けられており、開度を変化させることで燃料の供給量を調整可能である。調整バルブ330及び430の開度は、ECU100によって制御される。ECU100は、通常運転時において、例えば燃料消費効率が最適となるようにガス燃料及び液体燃料の供給割合を決定しているが、本実施形態に係る内燃機関の制御装置では特に、触媒の劣化を抑制するために、所定の条件下において通常とは異なる燃料供給制御を行う。具体的な制御方法については、後に詳述する。
【0047】
エンジン200におけるシリンダ201内の燃焼室には、吸気管を介して供給される空気と、吸気管に連通する吸気ポートにおいてインジェクタ等から噴射供給される燃料とが混合されてなる混合気が吸入される。尚、ここでの詳細な図示は省略しているが、エンジン200は、各シリンダ201内部において空気と燃料との混合気が燃焼するに際して生じるピストンの往復運動を、コネクティングロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換することが可能に構成されている。エンジン200の回転数は、エンジン回転数センサ205によって検出可能とされている。
【0048】
コンプレッサ110より上流側には、エアフローメータ102、エアクリーナ103、吸気圧センサ105が設けられている。
【0049】
エアフローメータ102は、通過する空気(言い換えれば、外部から吸い込まれた空気)の量を検出することが可能に構成されている。
【0050】
エアクリーナ103は、エアフローメータ102の下流に設けられており、外部から吸入した空気を浄化し、コンプレッサ110へと供給する。
【0051】
吸気センサ105は、コンプレッサ110の入口付近の吸気圧を検出可能に構成されている。
【0052】
コンプレッサ110より下流側には、インタークーラ113、スロットルバルブ114、スロットル開度センサ115が設けられている。
【0053】
インタークーラ113は、吸入空気を冷却して空気の過給効率を上昇させることが可能に構成されている。
【0054】
スロットルバルブ114は、電子制御式のバルブであり、その開閉動作が不図示のスロットルバルブモータによって制御されるように構成されている。
【0055】
スロットル開度センサ115は、スロットルバルブ114の開度を検出可能に構成されている。
【0056】
吸気側からシリンダ201内部に導かれた混合気は、不図示の点火装置による点火動作によって点火せしめられ、シリンダ201内で爆発工程が行われる。爆発工程が行われると、燃焼済みの混合気(一部未燃状態の混合気を含む)は、爆発工程に続く排気工程において、排気管に導かれる。
【0057】
タービン120より下流側には、三元触媒123及び触媒温度センサ124が設けられている。
【0058】
三元触媒123は、本発明の「触媒」の一例であり、タービン120を通過した排気中に含まれるHC(炭化水素)、CO(二酸化炭素)及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化する。尚、三元触媒123は、排気管上に複数設けられていてもよい。
【0059】
触媒温度センサ124は、本発明の「触媒温度検出手段」の一例であり、三元触媒123の温度を検出可能に構成されている。ここで検出された三元触媒123の温度はECU100に出力される。
【0060】
次に、本実施形態に係る内燃機関の制御装置による燃料切替え制御について、図1に加え、図2を参照して説明する。ここに図2は、内燃機関の制御装置による燃料切替え制御の各工程を示すフローチャートである。
【0061】
図2において、本実施形態に係る内燃機関の制御装置は、エンジン200の通常運転が開始されると(ステップS01)、三元触媒123の温度を触媒温度センサ124によって検出し、検出された温度が閾値Aを超えているか否かをECU100において判定する(ステップS02)。尚、閾値Aは、本発明の「第1閾値」の一例であり、触媒の温度が劣化を抑制すべき程に高くなっているか否かを判定するために設定されている。
【0062】
ちなみに、三元触媒123の温度は、触媒温度センサ124とは別の方法で検出されてもよい。具体的には、エアフローメータ102及び吸気圧センサ105等を用いて検出されたエンジン200の負荷、エンジン回転数センサ205を用いて検出されたエンジン200の回転数、並びにエアフローメータ102を用いて検出された積算空気量を用いて間接的に求めることが可能である。
【0063】
三元触媒123の温度が閾値Aを超えている場合(ステップS02:YES)、エンジン200の運転が、通常運転からCNG運転(即ち、ガス燃料による運転)に切替えられる(ステップS04)。具体的には、液体燃料供給管420に設けられた調整バルブ430が閉じられることで液体燃料の供給が停止され、ガス燃料供給管320を介してのガス燃料の供給のみが行われるような状態となる。
【0064】
一方、三元触媒123の温度が閾値Aを超えていない場合(ステップS02:NO)、検出された温度が閾値Bを超えており、且つ、昇温速度が閾値Cを超えているか否かがECU100において判定される(ステップS03)。尚、閾値Bは、本発明の「第2閾値」の一例であり、触媒の温度が閾値Aまでに高くなっていなくとも、昇温速度次第では劣化を抑制すべきか否かを判定するために設定されている。また、閾値Cは、本発明の「第3閾値」の一例であり、触媒の温度が劣化を抑制すべき程に急速に高くなっているか否かを判定するために設定されている。
【0065】
三元触媒123の温度が閾値Bを超えており、且つ、昇温速度が閾値Cを超えている場合(ステップS03:YES)、エンジン200の運転が、通常運転からCNG運転に切替えられる(ステップS04)。即ち、三元触媒123の温度が閾値Aを超えている場合と同様の処理が行われる。
【0066】
一方、三元触媒123の温度が閾値Bを超えていない、或いは昇温速度が閾値Cを超えていない場合(ステップS03:NO)には、以降の処理は省略され、エンジン200の運転が切替えられないまま本実施形態に係る内燃機関の燃料切替え制御は終了する。
【0067】
上述した燃料切替え制御によれば、三元触媒123の温度が劣化を招くまでに高いと判断された場合には、CNG運転が行われる。CNG運転は、液体燃料による運転と比べて触媒浄化反応熱が発生し難いため、三元触媒123の温度の上昇を抑制できる。よって、三元触媒123の劣化を効果的に抑制できる。
【0068】
更に、ガス燃料は、酸素リッチ雰囲気下での燃焼安定性が悪いため、例えば酸素を15%以上増量した場合には失火に至るおそれがある。これに対し上述した制御によれば、CNG運転では失火に至ると判断された場合には、液体燃料による運転或いはガス燃料及び液体燃料の両方による運転が行われる。これにより、三元触媒123の劣化を効果的に抑制しつつ、エミッションの悪化を防止することが可能となる。
【0069】
エンジン200の運転がCNG運転とされた後には、三元触媒123の温度が閾値Dを超えているか否かがECU100において判定される(ステップS05)。尚、閾値Dは、本発明の「第4閾値」の一例であり、三元触媒123の温度がCNG運転を行うだけで劣化を抑制できる状態にあるか否かを判定するために設定されている。
【0070】
三元触媒123の温度が閾値Dを超えていない場合(ステップS05:NO)、ステップS6からステップS08の処理は省略される。
【0071】
一方、三元触媒123の温度が閾値Dを超えている場合(ステップS05:YES)には、検出された三元触媒123の温度と閾値Dとの差が計算され、その差に基づいて増量すべき液体燃料が求められる。ここで求められる液体燃料の量は、CNG運転によって抑制できる三原触媒123の温度を超えた値に対応するものであり、ECU100は、調整バルブ430の開度を調整することで、増量分の液体燃料を追加噴射する(ステップS06)。
【0072】
上述したように液体燃料を追加噴射すれば、液体燃料の気化潜熱による燃焼ガスの温度低下及び酸欠による触媒反応の低下によって、三元触媒123の温度を低下させることができる。よって、CNG運転だけでは対応しきれない部分を液体燃料によって補い、三元触媒123の劣化をより好適に抑制することが可能となる。
【0073】
液体燃料の追加噴射後には、三元触媒123の温度が閾値Eを下回っているか否かがECU100において判定される(ステップS07)。尚、閾値Eは、三元触媒123の温度がCNG運転を行うだけで劣化を抑制できる状態にまで低下したか否かを判定するために設定されている。三元触媒123の温度が閾値Eを下回っている場合(ステップS07:YES)、液体燃料の噴射が中止される(ステップS08)。即ち、CNG運転が再開される。
【0074】
CNG運転が再開されると、三元触媒123の温度が閾値Fを下回っているか否かがECU100において判定される(ステップS09)。尚、閾値Fは、三元触媒123の温度が劣化を抑制できる状態にまで低下したか否かを判定するために設定されている。ちなみに、ここまでに登場した各閾値の関係は、例えば閾値D>閾値E>閾値A>閾値B>閾値Fとなるように設定される。
【0075】
三元触媒123の温度が閾値Fを下回っていない場合(ステップS09:NO)、ステップS02以降の処理が再び繰り返して行われる。三元触媒123の温度が閾値Fを下回っている場合(ステップS09:YES)、エンジン200の運転は通常運転に切替えられ(ステップS10)本実施形態に係る内燃機関の制御装置による燃料切替え制御は終了する。
【0076】
次に、本実施形態に係る内燃機関の制御装置によるフューエルカット制御について、図3を参照して説明する。ここに図3は、内燃機関の制御装置によるフューエルカット制御の各工程を示すフローチャートである。
【0077】
本実施形態に係る内燃機関の制御装置は、上述したエンジン200の燃料切替え制御と並行して、車両減速時のフューエルカット制御も行うことが可能である。
【0078】
図3において、本実施形態に係る内燃機関の制御装置は、車両の減速時において、先ずスロットルバルブ114が全開とされているか否かをスロットル開度センサ115によって検出する(ステップS21)。
【0079】
スロットルバルブ114が全開となっている場合(ステップS21:YES)、三元触媒123の温度が触媒温度センサ124によって検出され、検出された温度が閾値Gを超えているか否かがECU100において判定される(ステップS22)。尚、閾値Gは、触媒の温度が劣化を抑制すべき程に高くなっているか否かを判定するために設定されている。
【0080】
三元触媒123の温度が閾値Gを超えていない場合(ステップS22:NO)、以降のステップS23からステップS25の処理は省略され、フューエルカットが実行される(ステップS26)。フューエルカットを行うことで燃料消費効率を高めることができる。
【0081】
一方、三元触媒123の温度が閾値Gを超えている場合(ステップS22:YES)、エンジン200の運転が、通常運転からCNG運転に切替えられる(ステップS23)。CNG運転では、液体燃料と比べて体積効率の低いガス燃料が使用されるため、エンジン200のトルクを最小限にし、エンジンブレーキを利きやすくすることができる。即ち、制動力の低下を抑制することが可能である。
【0082】
エンジン200の運転がCNG運転とされた後には、ブレーキペダルのトルクが閾値Hを超えているか否かがECU100において判定される(ステップS24)。尚、閾値Hは、フューエルカットを行うべき状態であるか否かを判定するために設定されている。
【0083】
ブレーキペダルのトルクが閾値Hを超えている場合(ステップS24:YES)、フューエルカットが実行される(ステップS26)。一方で、ブレーキペダルのトルクが閾値Hを超えていない場合(ステップS24:NO)、三元触媒123の温度が閾値Iを下回っているか否かがECU100において判定される(ステップS25)。尚、閾値Iは、上述した閾値Gよりも小さい値であり、三元触媒123の温度が、フューエルカットを実行できるまでに低下しているか否かを判定するために設定されている。
【0084】
三元触媒123の温度が閾値Iを下回っている場合(ステップS25:YES)、フューエルカットが実行される(ステップS26)。一方で、三元触媒123の温度が閾値Iを下回っていない場合(ステップS25:NO)、ステップS24の処理が再び行われることとなり、フューエルカットは行われない。
【0085】
上述したようにある特定の条件下でフューエルカットを行わないようにすれば、三元触媒123の酸素吸蔵及び貴金属の酸化を防止することができる。よって、より効果的に三元触媒123の劣化を抑制することが可能である。
【0086】
以上説明したように、本実施形態に係る内燃機関の制御装置によれば、エンジンに供給される燃料の切替え制御及びフューエルカット制御を行うことで触媒の劣化を効果的に抑制することが可能である。
【0087】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
100…ECU、102…エアフローメータ、103…エアクリーナ、105…吸気圧センサ、110…タービン、113…インタークーラ、114…スロットルバルブ、115…スロットル開度センサ、120…タービン、123…三元触媒、124…触媒温度センサ、200…エンジン、201…シリンダ、205…エンジン回転数センサ、310…ガス燃料タンク、320…ガス燃料供給管、330…調整バルブ、410…液体燃料タンク、420…液体燃料供給管、430…調整バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス燃料を供給するガス燃料供給手段及び液体燃料を供給する液体燃料供給手段を有する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の排気経路に設けられた触媒の温度を検出する触媒温度検出手段と、
前記触媒温度検出手段において検出された触媒の温度、若しくは触媒の昇温速度、又は前記触媒の温度及び前記触媒の昇温速度の両方に基づいて、前記ガス燃料供給手段によって供給する前記ガス燃料及び前記液体燃料供給手段によって供給する前記液体燃料の供給割合を夫々決定する燃料割合決定手段と
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料割合決定手段は、前記触媒の温度が第1閾値以上になった場合に、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を止めて、前記ガス燃料供給手段による前記ガス燃料の供給のみを行うようにすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料割合決定手段は、前記触媒の温度が第2閾値以上になり、且つ前記触媒の昇温速度が第3閾値以上になった場合に、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を止めて、前記ガス燃料供給手段による前記ガス燃料の供給のみを行うようにすることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記触媒温度検出手段は、前記内燃機関の負荷、前記内燃機関の回転数、前記内燃機関に供給された積算空気量のうち少なくとも1つに基づいて、前記触媒の温度を検出することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記燃料割合決定手段は、前記触媒の温度が第4閾値以上になった場合に、前記触媒の温度と前記第4閾値との差に基づいて、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給割合を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関が搭載された車両の減速を検出する減速検出手段を更に備え、
前記燃料割合決定手段は、前記減速検出手段において前記車両の減速が検出された場合に、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を止めて、前記ガス燃料供給手段による前記ガス燃料の供給のみを行うようにすると共に、前記ガス燃料供給手段による前記ガス燃料の供給を停止するフューエルカットを行わないようにする
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記燃料割合決定手段は、前記触媒の温度、若しくは前記触媒の昇温速度、又は前記触媒の温度及び前記触媒の昇温速度の両方が所定の閾値以下である場合に、前記車両の減速が検出されていても前記フューエルカットを行うようにすることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−163178(P2011−163178A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25356(P2010−25356)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】