説明

内燃機関の制御装置

【課題】エンジン10の運転状態が過渡状態となる場合において、燃焼室28に供給される外部EGR量が、エンジン10の燃焼制御のための各種アクチュエータの制御量の適合時の量からずれることで、スモーク排出量やNOx排出量が規制値を上回るおそれがあること。
【解決手段】吸気O2濃度や、排気O2濃度等に基づき、NOx排出量及びスモーク排出量のそれぞれの推定値を算出する。そして、NOx排出量の推定値をその目標値で除算することでNOx増大率を算出し、スモーク排出量の推定値をその目標値で除算することでスモーク増大率を算出する。そして、NOx増大率に対するスモーク増大率の比率をその目標値とするためのEGRアクチュエータ48aの操作量を算出し、この操作量に基づきEGRアクチュエータ48aを通電操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排気通路に排出される排気の一部を排気還流通路を介して該内燃機関の吸気通路に還流させるべく操作される外部EGR手段を備える内燃機関の燃焼制御システムに適用される内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、内燃機関の運転状態が加速運転状態に移行した直後において、内燃機関の燃焼室に供給される新気量の不足に起因する内燃機関のスモーク排出量を低減する技術が知られている。詳しくは、この技術は、排気還流通路を介した吸気通路への排気還流量(外部EGR量)を減少させるように、排気還流通路上に設けられるEGRバルブの開度(EGR開度)を調節するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3767211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、EGR開度の目標値は通常、内燃機関の燃焼制御のための各種アクチュエータの制御量が固定されて十分な時間が経過した状態(定常状態)において、エミッション量(スモーク排出量、NOx排出量等)を規制値以下とするための外部EGR量を供給可能な値として、機関運転状態毎に適合されている。このため、機関運転状態が変化する過渡状態においては、実際の外部EGR量が、適合時に想定された量からずれることで、燃焼状態が悪化し、スモーク排出量やNOx排出量が規制値を上回るおそれがある。
【0005】
このような事態を回避すべく、過渡状態においてEGRバルブを操作することで、外部EGR量を調節することも考えられる。ここで外部EGR量を増大させると、吸気中の酸素濃度が減少することでNOx排出量が減少するものの、スモーク排出量が増大する。一方、外部EGR量を減少させると、吸気中の酸素濃度が増大することでスモーク排出量が減少するものの、NOx排出量が増大する。外部EGR量の変化に対するスモーク排出量及びNOx排出量のこうした変化に鑑みると、過渡状態において外部EGR量を適切に調節することができない場合、スモーク排出量及びNOx排出量のうち一方の増大度合いが顕著となることで、例えばこれら排出量のうちいずれかがその規制値を上回る等、内燃機関の排気特性を適切なものとすることができなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、機関運転状態が過渡状態となる状況下における内燃機関の排気特性を適切なものとすることのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、内燃機関から排気通路に排出される排気の一部を排気還流通路を介して該内燃機関の吸気通路に還流させるべく操作される外部EGR手段を備える内燃機関の燃焼制御システムに適用され、前記内燃機関に供給される吸気中の酸素濃度と、前記内燃機関から排出される排気中の酸素濃度とを推定又は検出する処理によってこれら酸素濃度を取得する酸素濃度取得手段と、該酸素濃度取得手段によって取得される排気中の酸素濃度に基づき、前記内燃機関のスモーク排出量について、その基準値からの現在値の増大度合いを示すスモーク増大度合いを算出する処理を行うスモーク増大度合い算出手段と、前記酸素濃度取得手段によって取得される吸気中の酸素濃度に基づき、前記内燃機関のNOx排出量について、その基準値からの現在値の増大度合いを示すNOx増大度合いを算出する処理を行うNOx増大度合い算出手段と、前記算出されたスモーク増大度合いと、前記算出されたNOx増大度合いとの双方を制御すべく、これら増大度合いを入力として前記外部EGR手段を操作することで前記吸気通路への排気還流量を調節する処理を行う還流処理手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記発明では、上記スモーク増大度合い及びNOx増大度合いの双方を制御すべく、これら増大度合いを入力として排気還流量(外部EGR量)を調節する処理を行う。このため、スモーク増大度合い及びNOx増大度合いの双方を反映して外部EGR量を調節することができ、ひいてはスモーク排出量及びNOx排出量のうち一方が顕著に増大することを抑制することができる。これにより、内燃機関の排気特性を適切なものとすることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記還流処理手段は、前記調節する処理として、前記スモーク増大度合い算出手段によって算出されたスモーク増大度合いと、前記NOx増大度合い算出手段によって算出されたNOx増大度合いとの比率をその目標値とすべく、前記排気還流量を調節する処理を行うことを特徴とする。
【0011】
上記発明では、外部EGR量を調節するために上記比率を用いることで、単一の制御パラメータによってスモーク排出量及びNOx排出量を適切なものとすることができる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記内燃機関の運転状態に基づき、前記スモーク排出量及び前記NOx排出量のそれぞれの基準値として、該スモーク排出量の目標値及び該NOx排出量の目標値のそれぞれを設定する目標値設定手段を更に備えることを特徴とする。
【0013】
上記発明では、スモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれについて、機関運転状態毎に目標値を定めている。これにより、スモーク増大度合い及びNOx増大度合いを、機関運転状態毎に適切に把握することができる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記スモーク増大度合い算出手段は、前記算出する処理として、前記設定されたスモーク排出量の目標値に対する前記算出されたスモーク排出量の比率を前記スモーク増大度合いとして算出する処理を行うものであり、前記NOx増大度合い算出手段は、前記算出する処理として、前記設定されたNOx排出量の目標値に対する前記算出されたNOx排出量の比率を前記NOx増大度合いとして算出する処理を行うことを特徴とする。
【0015】
上記発明では、スモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれについての上記比率を用いることで、スモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれの増大度合いをより適切に把握することができる。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記目標値設定手段は、前記スモーク排出量の目標値及び前記NOx排出量の目標値のそれぞれをその規制値以下の値に設定するものであり、前記還流処理手段は、前記算出されたスモーク排出量及び前記算出されたNOx排出量のそれぞれを前記規制値以下とするように、前記排気還流量を調節する処理を行うことを特徴とする。
【0017】
上記発明では、エミッションに関する法規制等の要求を満たすべく、上記態様にてスモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれの目標値を定めている。そして上記発明では、上記態様にて外部EGR量の調節処理を行うことで、スモーク排出量及びNOx排出量のうち一方が顕著に増大する事態の発生を好適に回避することができる。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項3〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記スモーク排出量及び前記NOx排出量のそれぞれの都度の目標値の積算値を算出する手段と、前記スモーク排出量の都度の値の積算値と、前記算出されたスモーク排出量の都度の目標値の積算値との比率であるスモーク積算比率を算出する手段と、前記NOx排出量の都度の値の積算値と、前記算出されたNOx排出量の都度の目標値の積算値との比率であるNOx積算比率を算出する手段とを更に備え、前記還流処理手段は、前記スモーク増大度合いと前記NOx増大度合いとの比率の目標値を、前記スモーク積算比率及び前記NOx積算比率に基づき可変設定することを特徴とする。
【0019】
上記スモーク積算比率及びNOx積算比率によれば、現在までのスモーク増大度合い及びNOx増大度合いの推移の傾向を把握することができる。この点に鑑み、上記発明では、スモーク増大度合いとNOx増大度合いとの比率の目標値を、これら積算比率に基づき可変設定する。このため、スモーク増大度合いとNOx増大度合いとの比率と、その目標値とのずれを適切に補償可能なように排気還流量を調節することができる。これにより、スモーク排出量及びNOx排出量のうち一方が顕著に増大する事態の発生を適切に抑制することができる。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記吸気通路と前記排気通路との間には、前記内燃機関に供給される吸気を過給する過給機が備えられ、前記外部EGR手段は、前記排気通路のうち前記過給機の排気タービンの上流側と前記吸気通路とを接続する前記排気還流通路としての高圧EGR通路に設けられる絞り弁、前記排気通路の下流側であって且つ前記排気タービンの下流側と前記吸気通路とを接続する前記排気還流通路としての低圧EGR通路との接続部よりも下流側に設けられる絞り弁、及び前記吸気通路のうち該吸気通路と前記高圧EGR通路との接続部の上流側に設けられる絞り弁のうち少なくとも1つであることを特徴とする。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記内燃機関は、圧縮点火式内燃機関であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】一実施形態にかかる過渡状態におけるスモーク及びNOxの増大態様の概要を示す図。
【図3】一実施形態にかかる増大率バランス制御の概要を示す図。
【図4】一実施形態にかかる増大率バランス制御処理を示す機能ブロック図。
【図5】一実施形態にかかる増大率バランス制御処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる制御装置を、過給機(ターボチャージャ)付き内燃機関を備える車両(自動車)に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0025】
図示されるエンジン10は、圧縮点火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である。エンジン10の吸気通路12には、上流側から順に、吸入される空気量(新気量)を検出するエアフローメータ14、後述するターボチャージャ16によって過給された吸気を冷却するインタークーラ18、更にはDCモータ等のアクチュエータ(吸気側アクチュエータ20a)によって開度が調節される吸気絞り弁20が設けられている。なお、吸気側アクチュエータ20aは、吸気絞り弁20の開度を検出する機能を有している。
【0026】
吸気絞り弁20の下流側には、サージタンク22が設けられ、このサージタンク22には、吸気通路12を流れる吸気の圧力(過給圧)を検出する吸気圧センサ24と、吸気通路12を流れる吸気の温度を検出する吸気温センサ26とが設けられている。サージタンク22の下流側は、エンジン10の各気筒の燃焼室28と接続されている。
【0027】
エンジン10の各気筒の燃焼室28には、燃焼室28に突出して電磁駆動式の燃料噴射弁30が設けられている。燃料噴射弁30には、図示しない蓄圧容器(コモンレール)から高圧の燃料(軽油)が供給され、燃料噴射弁30から燃焼室28に高圧の燃料が噴射供給される。
【0028】
エンジン10の各気筒の吸気ポート及び排気ポートのそれぞれは、吸気バルブ32及び排気バルブ34のそれぞれにより開閉される。ここでは、吸気バルブ32の開弁によってインタークーラ18で冷却された吸気が燃焼室28に導入され、導入された吸気と、燃料噴射弁30から噴射供給された燃料とが燃焼に供される。なお、燃焼に供された吸気及び燃料は、排気バルブ34の開弁によって排気として排気通路36に排出される。また、エンジン10の出力軸(クランク軸38)付近には、クランク軸38の回転角度を検出するクランク角度センサ40が設けられている。
【0029】
吸気通路12と排気通路36との間には、ターボチャージャ16が設けられている。ターボチャージャ16は、吸気通路12に設けられた吸気コンプレッサ16aと、排気通路36に設けられた排気タービン16bと、これらを連結する回転軸16cとを備えて構成されている。詳しくは、排気通路36を流れる排気のエネルギによって排気タービン16bが回転し、その回転エネルギが回転軸16cを介して吸気コンプレッサ16aに伝達され、吸気コンプレッサ16aによって吸気が圧縮される。すなわち、ターボチャージャ16によって吸気が過給される。なお本実施形態では、ターボチャージャ16として、吸気の過給圧を調節可能なものを想定しており、具体的には例えば、ターボチャージャ16の有する図示しない可変ベーンの開度の調節によって過給圧が調節可能なものを想定している。
【0030】
上記排気通路36のうち、ターボチャージャ16の下流側には、上流側から順に、排気を浄化する浄化装置42及び排気中の酸素濃度を検出するA/Fセンサ44が設けられている。本実施形態では、浄化装置42として、排気中のPM(スモーク)を捕集するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)、排気中のNOxを浄化するNOx触媒、及び排気中のHCやCOを浄化する酸化触媒等を想定している。
【0031】
排気通路36に排出される排気の一部は、排気還流通路としての高圧EGR通路45や、低圧EGR通路46を介して吸気通路12に還流される。詳しくは、排気通路36のうち、排気タービン16bの上流側は、高圧EGR通路45を介して吸気通路12の吸気絞り弁20の下流側(サージタンク22)に接続されている。高圧EGR通路45には、同通路の流路面積を調節するEGRバルブ48が設けられている。EGRバルブ48は、DCモータ等のアクチュエータ(EGRアクチュエータ48a)によってその開度(EGR開度)が調節される電子制御式の弁体である。EGRバルブ48の開度に応じて、排気通路36に排出された排気の一部が、EGRクーラ50によって冷却された後に、外部EGRとして吸気通路12に供給される。なお、EGRアクチュエータ48aは、EGR開度を検出する機能を有している。
【0032】
一方、排気通路36のうち、排気タービン16bの下流側は、低圧EGR通路46を介して、吸気通路12のうち吸気コンプレッサ16aの上流に接続されている。また、排気通路36のうち、この通路と低圧EGR通路46との接続部の下流側には、排気通路36の流路面積を調節する排気絞り弁52が設けられている。排気絞り弁52は、DCモータ等のアクチュエータ(排気側アクチュエータ52a)によってその開度が調節される電子制御式の弁体である。排気絞り弁52の開度に応じて、排気通路36に排出された排気の一部が、図示しない低圧側のEGRクーラによって冷却された後に、低圧EGR通路46の流路面積を調節する図示しない低圧側EGRバルブを通過し、外部EGRとして吸気通路12に供給される。なお、排気側アクチュエータ52aは、排気絞り弁52の開度を検出する機能を有している。
【0033】
エンジンシステムを操作対象とする電子制御装置(ECU54)は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU54には、ドライバのアクセル操作量(踏み込み量)を検出するアクセルセンサ56や、エアフローメータ14、吸気圧センサ24、吸気温センサ26、クランク角度センサ40、A/Fセンサ44、吸気側アクチュエータ20a、EGRアクチュエータ48a、更には排気側アクチュエータ52aの出力信号等が逐次入力される。ECU54は、上記各センサからの入力信号に基づき、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁30による燃料噴射制御や、EGRアクチュエータ48a等による排気還流制御(外部EGR制御)、ターボチャージャ16による過給圧制御等、エンジン10の燃焼制御を行う。
【0034】
上記燃料噴射制御について説明すると、まず、クランク角度センサ40の出力値に基づくエンジン回転速度と、アクセルセンサ56の出力値に基づくアクセル操作量とから、エンジン10の要求トルクを算出する。そして、算出されたエンジン要求トルクに基づき燃料噴射弁30の指令値を算出し、この指令値に基づき燃料噴射弁30を通電操作する。これにより、上記指令値に相当する量の燃料が燃料噴射弁30から噴射される。
【0035】
また、上記過給圧制御は、吸気圧センサ24の出力値に基づく過給圧をその目標値に制御すべく、ターボチャージャ16を通電操作するものとなる。
【0036】
更に、上記外部EGR制御は、EGRアクチュエータ48aの出力値に基づくEGR開度をその目標値(目標EGR開度)に制御すべく、EGRアクチュエータ48aを通電操作するものとなる。
【0037】
ここで、上記目標EGR開度は、燃焼制御のための各種アクチュエータの制御量が固定されて十分な時間が経過した状態(定常状態)において、エンジン10のスモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれを規制値以下とする外部EGR量を供給可能な値として予め実験等により適合されるものである。詳しくは、まず、エンジン10の運転状態を示すパラメータであるエンジン回転速度及びエンジン要求トルク(又は燃料噴射弁30からの燃料噴射量)の離散的な値のそれぞれに対して、スモーク排出量の規制値(スモーク規制値)以下に設定されるスモーク排出量の目標値(スモーク目標値)と、NOx排出量の規制値(NOx規制値)以下に設定されるNOx排出量の目標値(NOx目標値)とが定められる。そして、エンジン回転速度及び要求トルクの離散的な値のそれぞれに対して、実際のスモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれを、スモーク目標値及びNOx目標値のそれぞれにすることが可能なEGR開度が目標EGR開度として適合される。
【0038】
ちなみに、スモーク規制値及びNOx規制値は、例えば燃料消費率やエミッション等を計測するための所定の走行モード(例えばNEDCモード、LA#4モード等)において要求される排気特性を満たすように定めればよい。具体的には例えば、上記所定の走行モード全体に渡るスモーク排出量の合計値及びNOx排出量の合計値のそれぞれを要求される値(エミッションに関する法規制を満たすような値)以下とすべく、エンジン10の運転状態毎にスモーク規制値及びNOx規制値を定めればよい。また本実施形態では、スモーク規制値及びNOx規制値のそれぞれを、排気通路36のうち浄化装置42の上流側について定めている。
【0039】
こうして定められる目標EGR開度に実際のEGR開度を制御することで、基本的には、実際の外部EGR量を、適合時に想定された外部EGR量とすることが可能となる。しかしながら、実際のEGR開度を目標EGR開度へと制御を開始してから十分な時間が経過するまでの過渡状態においては、実際の外部EGR量が、適合時に想定された外部EGR量からずれることがある。実際の外部EGR量がずれると、エンジン10に供給される吸気量や、吸排気中の酸素濃度等が燃焼状態を良好なものとする値からずれるため、スモーク排出量がスモーク規制値よりも多くなったり、NOx排出量がNOx規制値よりも多くなったりするおそれがある。
【0040】
このような状況としては、例えばEGR開度が変更されることに起因して、外部EGR量が変化する状況がある。つまり、EGR開度が増大すると、外部EGR量が増大することで吸気中の酸素濃度が減少し、NOx排出量が減少するものの、スモーク排出量が増大する。一方、EGR開度が減少すると、外部EGR量が減少することで吸気中の酸素濃度が増大し、スモーク排出量が減少するものの、NOx排出量が増大する。すなわち、EGR開度の変化に対するスモーク排出量及びNOx排出量の軌跡が、図2にAにて示す曲線(トレードオフライン)となるため、スモーク排出量等がその規制値よりも多くなり得る。
【0041】
また例えば、燃料噴射弁30からの燃料噴射量が変更されることに起因して、排気中の酸素濃度が変化する状況がある。つまり、燃料噴射量が変更されてから、酸素濃度が変化した排気の一部が外部EGRとして燃焼室28に供給されるまでにある程度時間(還流遅れ時間)を要することに起因して、スモーク排出量等がその規制値よりも多くなり得る。なお、吸気絞り弁20の開度が変更されることによって吸気量が変化する状況もある。
【0042】
特に、車両の加速時は、スモーク排出量等がその規制値よりも顕著に多くなる状況となり得る。つまり、車両の加速時においては、エンジン要求トルクの増大に応じて燃料噴射量が増量されるものの、ターボチャージャ16によって過給された吸気が燃焼室28に供給されるまでに遅れ(過給遅れ)を伴うことで供給すべき吸気量に対して実際の吸気量が不足し、同図にBにて示すように、スモーク排出量やNOx排出量(図中「▲」にて表記)がその規制値を大きく上回る懸念がある。
【0043】
こうした問題を解決すべく、本実施形態では、スモーク目標値に対するスモーク排出量の比率であるスモーク増大率と、NOx目標値に対するNOx排出量の比率であるNOx増大率とを入力として、EGR開度を調節する増大率バランス制御を行うことで、図3に「■」にて示すように、過渡状態においてスモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれがその目標値を上回ることを許容しつつ、スモーク排出量及びNOx排出量のうち一方が顕著に増大することを回避する。これにより、スモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれがその規制値を上回ることを回避する。以下、増大率バランス制御について、図4を用いて詳述する。
【0044】
図4は、本実施形態にかかる増大率バランス制御処理を示す機能ブロック図である。
【0045】
吸排気O2濃度推定部B1は、過給圧P、吸気温センサ26の出力値に基づく吸気温Tmp、エアフローメータ14の出力値に基づく新気量Air及び燃料噴射弁30からの燃料噴射量Q(又はエンジン要求トルクTrq)を入力として、燃焼室28に供給される吸気中の酸素濃度(吸気O2濃度)及び燃焼室28から排出される排気中の酸素濃度(排気O2濃度)を推定する。本実施形態では、O2濃度を推定するための所定のモデルによって、吸気O2濃度及び排気O2濃度を都度推定する。
【0046】
具体的には、吸気O2濃度及び排気O2濃度は、過給圧P及び吸気温Tmpを入力として燃焼室28に充填される吸気量を推定する処理、推定された吸気量及び新気量Airに基づき、高圧EGR通路45や、低圧EGR通路46から吸気通路12に流入する外部EGR量を算出する処理、及び燃焼室28に供給される新気量Airと、外部EGR量と、燃料噴射弁30からの燃料噴射量Q(又はエンジン要求トルクTrq)とに基づき、排気O2濃度を推定する処理等によって推定する。これにより、燃焼室28から排出された排気が高圧EGR通路45や低圧EGR通路46を介して吸気通路12に戻される影響を取り入れつつ、吸気O2濃度及び排気O2濃度を都度推定することが可能となる。
【0047】
なお、推定されたO2濃度と、実際のO2濃度とのずれ(モデル誤差)を低減すべく、A/Fセンサ44の出力値に基づく実際の排気O2濃度からモデル誤差の学習処理を行ってもよい。ここでこの学習処理は、排気が浄化装置42を通過する前後における排気O2濃度の変化量が小さい状況において行われるのが望ましい。
【0048】
NOx排出量推定部B2は、吸気O2濃度、エンジン回転速度NE及びエンジン要求トルクTrq(又は燃料噴射弁30からの燃料噴射量Q)に基づき、NOx排出量の推定値(NOx推定値)を算出する。ここで吸気O2濃度をパラメータとしているのは、吸気O2濃度が高くなるほどNOx排出量が多くなることに鑑みたものである。また、エンジン回転速度NE及びエンジン要求トルクTrqをパラメータとしているのは、NOx排出量が、エンジン10の運転状態毎の燃焼温度に影響を及ぼされること、及び上記運転状態を示すパラメータであるエンジン回転速度NE及びエンジン要求トルクTrqと燃焼温度とを関連付けることが可能であることに鑑みたものである。ここでNOx推定値は、具体的には例えば、吸気O2濃度、エンジン回転速度NE及びエンジン要求トルクTrqと関係付けられたNOx推定値が規定されるマップや数式を用いて算出すればよい。
【0049】
スモーク排出量推定部B3は、排気O2濃度、エンジン回転速度NE及びエンジン要求トルクTrq(又は燃料噴射弁30からの燃料噴射量Q)に基づき、スモーク排出量の推定値(スモーク推定値)を算出する。ここで排気O2濃度をパラメータとしているのは、排気O2濃度が低くなるほどスモーク排出量が多くなることに鑑みたものである。また、エンジン回転速度NE及びエンジン要求トルクTrqをパラメータとしているのは、上記NOx排出量推定部B2の処理と同様に、スモーク排出量が、エンジン10の運転状態毎の燃焼温度に影響を及ぼされること等に鑑みたものである。ここでスモーク推定値は、具体的には例えば、排気O2濃度、エンジン回転速度NE及び要求トルクTrqと関係付けられたスモーク推定値が規定されるマップや数式を用いて算出すればよい。
【0050】
目標値算出部B4は、エンジン回転速度NE及びエンジン要求トルクTrqに基づき、NOx目標値及びスモーク目標値を設定する。
【0051】
NOx増大率算出部B5は、都度のNOx推定値を都度のNOx目標値で除算することで、NOx増大率ΔNOx(瞬時値)を算出する。また、NOx増大率積算部B6は、都度のNOx推定値の積算値を、都度のNOx目標値の積算値で除算した値であるNOx積算増大率Xiを算出する。
【0052】
スモーク増大率算出部B7は、都度のスモーク推定値を都度のスモーク目標値で除算することで、スモーク増大率ΔPM(瞬時値)を算出する。また、スモーク増大率積算部B8は、都度のスモーク推定値の積算値を、都度のスモーク目標値の積算値で除算した値であるスモーク積算増大率Yiを算出する。
【0053】
制御パラメータ算出部B9は、上記増大率バランス制御の制御量(制御パラメータδ)を算出する。本実施形態では、係数α0,β0(α0,β0>0、α0+β0=1)を用いてスモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの目標比率を「α0/β0」として表し、スモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの比率を目標比率「α0/β0」とすべく、制御用係数α,β(α,β>0)を用いて制御パラメータδを下式(c1)のように算出する。
δ=β×(ΔNOx)―α×(ΔPM)…(c1)
α=(α0^2×βi)/(α0^2×βi+β0^2×αi) …(c2)
β=(β0^2×αi)/(α0^2×βi+β0^2×αi) …(c3)
ただし、αi=Xi/(Xi+Yi)
βi=Yi/(Xi+Yi)
以下、上式(c1)を用いた制御手法の技術的意義について説明する。
【0054】
ここで、係数αi,βiは、NOx増大率ΔNOx及びスモーク増大率ΔPMの履歴を反映したNOx積算増大率Xi及びスモーク積算増大率Yiを用いて定義されている。
【0055】
上式(c2)及び(c3)によれば、スモーク積算増大率Yiに対するNOx積算増大率Xiの比率が目標比率「α0/β0」となる場合、係数αi,βiが係数α0,β0となることで、制御用係数α,βは、係数α0,β0となる。
【0056】
ここで、係数α0,β0に代えて、制御用係数α,βを用いるのは、大きなタイムスケール(例えば、瞬時値が演算されるような微視的なタイムスケールではなく、スモーク積算増大率Yi等の積分演算に要求される時間等、上記微視的なタイムスケールよりも十分に長いタイムスケール)で見た場合におけるスモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの比率が目標比率「α0/β0」から大きくずれる事態の発生を抑制するためである。
【0057】
すなわち、上式(c1)において「α=α0、β=β0」とし、そして上記制御パラメータδを0にフィードバック制御することで、スモーク排出量及びNOx排出量のうち一方が顕著に増大する事態の発生を抑制することができる。ただし、上記フィードバック制御によって微視的なタイムスケールにおいてスモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの比率が目標比率「α0/β0」に制御されたとしても、大きなタイムスケールで見た場合には、スモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの比率が目標比率「α0/β0」から大きくずれる事態が生じ得る。これは、ドライバの車両操作性向や、燃焼制御のための各種アクチュエータの作動遅れ等に起因して、いずれか一方の増大率が大きくなる傾向が生じうるためである。
【0058】
これに対し、制御用係数α,βを上式(c2)及び(c3)のように設定することで、換言すれば都度の制御用の目標比率「α/β」をスモーク積算増大率Yi及びNOx積算増大率Xiに基づき可変設定することで、大きなタイムスケールで見た場合におけるスモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの比率を目標比率「α0/β0」に制御することが可能となる。
【0059】
例えば、大きなタイムスケールにおいて、スモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの比率が目標比率「α0/β0」よりも小さくなる傾向が生じると、係数βiに対する係数αiの比率が目標比率「α0/β0」よりも小さくなり、制御用係数αが係数α0よりも大きくなるとともに、制御用係数βが係数β0よりも小さくなる。このため、NOx増大率ΔNOxの増大が許容されるとともに、スモーク増大率ΔPMの増大が制限される。
【0060】
また例えば、大きなタイムスケールにおいて、スモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの比率が目標比率「α0/β0」よりも大きくなる傾向が生じると、係数βiに対する係数αiの比率が目標比率「α0/β0」よりも大きくなり、制御用係数αが係数α0よりも小さくなるとともに、制御用係数βが係数β0よりも大きくなる。このため、スモーク増大率ΔPMの増大が許容されるとともに、NOx増大率ΔNOxの増大が制限される。
【0061】
ちなみに、上式(c2)及び(c3)は、制御用係数α,βの算出時に、制御用係数α及びβの和が規定値「1」になるように規格化されたものとなっている。これは、後述するフィードバック制御部B10において比例ゲインKp及び積分ゲインKiを、NOx増大率ΔNOx等に応じて都度変更することを回避するためである。つまり、NOx増大率ΔNOxとスモーク増大率ΔPMとの比率が同じ場合であっても、これら増大率の絶対値が異なると、NOx増大率ΔNOxとスモーク増大率ΔPMとの比率を目標比率「α0/β0」とするために要求される制御パラメータδの値が異なる。この場合、NOx増大率ΔNOx及びスモーク増大率ΔPMに応じた比例ゲインKp及び積分ゲインKiの適合が要求されることとなる。本実施形態では、比例ゲインKp等の適合作業の簡素化等を図る観点から、制御用係数α,βについて都度の規格化を行うことで、NOx増大率ΔNOx等に応じて比例ゲインKp等を都度変更することを回避する。
【0062】
フィードバック制御部B10は、制御パラメータδに基づくEGRアクチュエータ48aのフィードバック操作量を算出する。本実施形態では、制御パラメータδに基づく比例積分制御によってフィードバック操作量を算出する。具体的には、制御パラメータδに比例ゲインKpを乗算することで算出される比例項と、制御パラメータδに積分ゲインKiを乗算したものの累積値である積分項との加算値としてフィードバック操作量を算出する。
【0063】
フィードフォワード制御部B11は、エンジン回転速度NEと、エンジン要求トルクTrqとに基づき、EGRアクチュエータ48aのフィードフォワード操作量(上記目標EGR開度)を算出する。
【0064】
加算部B12は、上記フィードバック操作量と、フィードフォワード操作量との加算値として最終的な操作量を算出する。
【0065】
なお、この最終的な操作量に基づきEGRアクチュエータ48aが通電操作されることで、実際のEGR開度が、スモーク増大率ΔPMに対するNOx増大率ΔNOxの比率を目標比率とするための開度に収束することとなる。
【0066】
図5に、本実施形態にかかる増大率バランス制御処理の手順を示す。この処理は、ECU54によって、例えば所定周期で実行される。
【0067】
この一連の処理では、ステップS10において、吸気O2濃度及び排気O2濃度を推定する処理を行う。
【0068】
続くステップS12では、NOx推定値及びスモーク推定値を算出する処理を行う。そしてステップS14では、NOx目標値及びスモーク目標値を設定する処理を行う。
【0069】
続くステップS16では、NOx増大率ΔNOx、NOx積算増大率Xi、スモーク増大率ΔPM及びスモーク積算増大率Yiを算出する処理を行う。なお、スモーク積算増大率Yi及びNOx積算増大率Xiを、規定期間毎に初期化する処理を行ってもよい。
【0070】
続くステップS18では、NOx増大率ΔNOx及びスモーク増大率ΔPM等に基づき、制御パラメータδを算出する処理を行う。そしてステップS20では、フィードバック操作量及びフィードフォワード操作量の加算値に基づき、EGRアクチュエータ48aの通電操作処理を行う。
【0071】
なお、ステップS20の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0072】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0073】
(1)制御パラメータδを用いて算出されたフィードバック操作量と、フィードフォワード操作量との加算値に基づくEGRアクチュエータ48aの通電操作処理を行った。これにより、エンジン10の運転状態が過渡状態になる場合であっても、スモーク排出量及びNOx排出量のうち一方が顕著に増大することを回避することができ、ひいてはスモーク排出量がスモーク規制値を上回ったり、NOx排出量がNOx規制値を上回ったりする事態の発生を好適に回避することができる。
【0074】
また、単一の制御パラメータδを用いて外部EGR制御を行うため、スモーク排出量やNOx排出量の顕著な増大を回避するための外部EGR制御を簡易且つ適切に行うこともできる。
【0075】
(2)スモーク積算増大率Yiに対するNOx積算増大率Xiの比率が目標比率「α0/β0」となるように、これら積算増大率を用いて、制御パラメータδを算出するために用いる制御用係数α,βを算出した。これにより、ドライバの車両操作性向等を反映して外部EGR制御を行うことができ、エンジン10の排気特性を、エミッションに関する法規制等の要求を満たす適切なものとすることができる。
【0076】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0077】
・NOx増大度合いやスモーク増大度合いの定量化手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、NOx増大度合いを、NOx推定値からNOx目標値を減算した値として算出し、スモーク増大度合いを、スモーク推定値からスモーク目標値を減算した値として算出してもよい。この場合、NOx増大度合い及びスモーク増大度合いのそれぞれについて、その現在値が所定の閾値以下となるように外部EGR量を調節すればよい。
【0078】
なお、NOx増大度合いやスモーク増大度合いを定量化する際の基準値としては、上記目標値(NOx目標値、スモーク目標値)に限らない。具体的には例えば、上記基準値を0とする場合、NOx増大度合い及びスモーク増大度合いのそれぞれがスモーク推定値及びNOx推定値のそれぞれとなるため、NOx推定値をスモーク推定値で除算した値をその目標値に制御すべく、外部EGR量を調節すればよい。
【0079】
更に、NOx増大度合い等の定量化手法としては例えば、スモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれを規制値以下とすることが可能な排気O2濃度の目標値及び吸気O2濃度の目標値を機関運転状態毎に設定し、スモーク増大度合いを、排気O2濃度の推定値とその目標値との偏差として算出し、NOx増大度合いを、吸気O2濃度の推定値とその目標値との偏差として算出してもよい。ここでこれら増大度合いを入力とした外部EGR量の調節手法について説明すると、具体的には例えば、まず、吸気O2濃度の推定値からその目標値を減算した値としてNOx増大度合いを算出し、排気O2濃度の推定値からその目標値を減算した値としてスモーク増大度合いを算出する。そして、これら増大度合いの比率がその目標値となるように外部EGR量を調節すればよい。
【0080】
・上記実施形態では、スモーク排出量及びNOx排出量の現在値を、スモーク排出量推定部B3及びNOx排出量推定部B2のそれぞれによって推定したがこれに限らない。例えば、排気通路36のうち、エンジン10と浄化装置42との間に、スモーク排出量及びNOx排出量を検出するためのセンサを備え、これらセンサによってスモーク排出量及びNOx排出量を検出してもよい。
【0081】
・上記実施形態では、吸気O2濃度及び排気O2濃度のそれぞれを推定したがこれに限らない。例えば、これらO2濃度を検出するセンサ(A/Fセンサ)を備え、同センサによって吸気O2濃度及び排気O2濃度を検出してもよい。
【0082】
・上記実施形態では、EGR開度を調節することで外部EGR量を調節したがこれに限らない。例えば、吸気側アクチュエータ20aの通電操作によって吸気絞り弁20の開度を調節することで外部EGR量を調節してもよい。この場合、吸気絞り弁20の開度が小さくなるほど、サージタンク22の圧力が低下するため、高圧EGR通路45を介して吸気通路12に供給される外部EGR量が多くなる。また例えば、排気側アクチュエータ52aの通電操作によって排気絞り弁52の開度を調節することで外部EGR量を調節してもよい。この場合、排気絞り弁52の開度が小さくなるほど、排気通路36のうち、排気絞り弁52の上流側の圧力が上昇するため、低圧EGR通路46を介して吸気通路12に供給される外部EGR量が多くなる。
【0083】
・規制値の設定手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、浄化装置42の下流側におけるスモーク排出量及びNOx排出量のそれぞれの規制値を定める場合、浄化装置42によるスモークやNOxの浄化度合いが大きいほど規制値を低く設定してもよい。
【0084】
・制御パラメータδの算出手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、スモーク積算増大率Yiに対するNOx積算増大率Xiの比率を目標比率「α0/β0」とすべく、制御パラメータδを下式(c4)のように算出すればよい。
δ=β0×Xi―α0×Yi …(c4)
・内燃機関としては、圧縮点火式内燃機関に限らず、例えば筒内直噴式ガソリンエンジン等の火花点火式内燃機関であってもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…エンジン、12…吸気通路、16…ターボチャージャ、20…吸気絞り弁、36…排気通路、44…A/Fセンサ、45…高圧EGR通路、46…低圧EGR通路、48…EGRバルブ、54…ECU(内燃機関の制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排気通路に排出される排気の一部を排気還流通路を介して該内燃機関の吸気通路に還流させるべく操作される外部EGR手段を備える内燃機関の燃焼制御システムに適用され、
前記内燃機関に供給される吸気中の酸素濃度と、前記内燃機関から排出される排気中の酸素濃度とを推定又は検出する処理によってこれら酸素濃度を取得する酸素濃度取得手段と、
該酸素濃度取得手段によって取得される排気中の酸素濃度に基づき、前記内燃機関のスモーク排出量について、その基準値からの現在値の増大度合いを示すスモーク増大度合いを算出する処理を行うスモーク増大度合い算出手段と、
前記酸素濃度取得手段によって取得される吸気中の酸素濃度に基づき、前記内燃機関のNOx排出量について、その基準値からの現在値の増大度合いを示すNOx増大度合いを算出する処理を行うNOx増大度合い算出手段と、
前記算出されたスモーク増大度合いと、前記算出されたNOx増大度合いとの双方を制御すべく、これら増大度合いを入力として前記外部EGR手段を操作することで前記吸気通路への排気還流量を調節する処理を行う還流処理手段とを備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記還流処理手段は、前記調節する処理として、前記スモーク増大度合い算出手段によって算出されたスモーク増大度合いと、前記NOx増大度合い算出手段によって算出されたNOx増大度合いとの比率をその目標値とすべく、前記排気還流量を調節する処理を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の運転状態に基づき、前記スモーク排出量及び前記NOx排出量のそれぞれの基準値として、該スモーク排出量の目標値及び該NOx排出量の目標値のそれぞれを設定する目標値設定手段を更に備えることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記スモーク増大度合い算出手段は、前記算出する処理として、前記設定されたスモーク排出量の目標値に対する前記算出されたスモーク排出量の比率を前記スモーク増大度合いとして算出する処理を行うものであり、
前記NOx増大度合い算出手段は、前記算出する処理として、前記設定されたNOx排出量の目標値に対する前記算出されたNOx排出量の比率を前記NOx増大度合いとして算出する処理を行うことを特徴とする請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記目標値設定手段は、前記スモーク排出量の目標値及び前記NOx排出量の目標値のそれぞれをその規制値以下の値に設定するものであり、
前記還流処理手段は、前記算出されたスモーク排出量及び前記算出されたNOx排出量のそれぞれを前記規制値以下とするように、前記排気還流量を調節する処理を行うことを特徴とする請求項3又は4記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記スモーク排出量及び前記NOx排出量のそれぞれの都度の目標値の積算値を算出する手段と、
前記スモーク排出量の都度の値の積算値と、前記算出されたスモーク排出量の都度の目標値の積算値との比率であるスモーク積算比率を算出する手段と、
前記NOx排出量の都度の値の積算値と、前記算出されたNOx排出量の都度の目標値の積算値との比率であるNOx積算比率を算出する手段とを更に備え、
前記還流処理手段は、前記スモーク増大度合いと前記NOx増大度合いとの比率の目標値を、前記スモーク積算比率及び前記NOx積算比率に基づき可変設定することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記吸気通路と前記排気通路との間には、前記内燃機関に供給される吸気を過給する過給機が備えられ、
前記外部EGR手段は、前記排気通路のうち前記過給機の排気タービンの上流側と前記吸気通路とを接続する前記排気還流通路としての高圧EGR通路に設けられる絞り弁、前記排気通路の下流側であって且つ前記排気タービンの下流側と前記吸気通路とを接続する前記排気還流通路としての低圧EGR通路との接続部よりも下流側に設けられる絞り弁、及び前記吸気通路のうち該吸気通路と前記高圧EGR通路との接続部の上流側に設けられる絞り弁のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記内燃機関は、圧縮点火式内燃機関であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136993(P2012−136993A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289165(P2010−289165)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】