説明

内燃機関の排気浄化システム

【課題】NOx浄化性能を悪化させたり還元剤を無駄に消費したりすることなく選択還元触媒からの還元剤のスリップを抑制できる内燃機関の排気浄化システムを提供すること。
【解決手段】
排気浄化システムは、NHの存在下で排気中のNOxを浄化しかつこのNHを吸着する第1選択還元触媒及び第2選択還元触媒と、排気管のうち第1選択還元触媒より上流側に尿素水を噴射するユリア噴射装置と、を備える。この排気浄化システムでは、第1選択還元触媒が温度上昇状態であるか否かを判定し、温度上昇状態であると判定された場合には、ユリア噴射装置からの尿素水の噴射量を0より大きな制限供給量(GUREA_ORD−ΔST,GUREA_ORD×0.5,GUREA_ORD×0.3)まで低減させ、EGR弁の開度を通常制御時の開度よりも閉じ側の開度(VO_CLO)に補正することでエンジンのNOx排出量を通常制御時より増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化システムに関する。より詳しくは、アンモニア(NH)のような還元剤の存在下で排気中のNOxを還元する選択還元触媒を備えた排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中のNOxを浄化する排気浄化システムの1つとして、アンモニア等の還元剤により排気中のNOxを選択的に還元する選択還元触媒を排気通路に設けたものが提案されている。例えば、尿素添加式の排気浄化システムでは、選択還元触媒の上流側からアンモニアの前駆体である尿素水を供給し、この尿素水から排気の熱で熱分解又は加水分解することでアンモニアを生成し、このアンモニアにより排気中のNOxを選択的に還元する。このような尿素添加式のシステムの他、例えば、アンモニアカーバイトのようなアンモニアの化合物を加熱することでアンモニアを生成し、このアンモニアを直接添加するシステムも提案されている。以下では、尿素添加式のシステムについて説明する。
【0003】
このような選択還元触媒には、排気中のNOxの還元に供されなかったアンモニアを吸着する能力がある。すなわち、選択還元触媒に流入するNOx量に対し尿素水の供給量が多い場合、NOxの還元に供されずに余剰となったアンモニアは選択還元触媒に吸着され、逆に選択還元触媒に流入するNOx量に対し尿素水の供給量が少ない場合、選択還元触媒に吸着されていたアンモニアがNOxの還元に供される。したがって、尿素水の供給量を増減することにより、選択還元触媒におけるアンモニアの吸着量を制御することができる。
【0004】
NOx浄化の観点からは、選択還元触媒にできるだけ多くのアンモニアが吸着されていることが好ましいものの、選択還元触媒で吸着できるアンモニアの量には限界がある。選択還元触媒にこの限界量を超えるアンモニアが供給されると、吸着しきれなかったアンモニアは下流側へ排出されてしまうこととなる。
【0005】
特許文献1には、このような選択還元触媒におけるアンモニアスリップを抑制するためのスリップ抑制制御の手順が示されている。具体的には、推定された選択還元触媒の温度変化率が大きい場合には、選択還元触媒におけるアンモニアの吸着能力の低下を見込んで新たな尿素水の供給を中止するとともに、吸着されているアンモニアは近いうちに放出されることを見込んで内燃機関からのNOx排出量を増大させる。なお、特許文献1では、選択還元触媒の下流側に、スリップしたアンモニアを酸化させるための酸化触媒を設けた場合を想定している。そして、このような酸化触媒を設けた場合には、選択還元触媒からスリップしたアンモニアは酸化触媒で酸化されることを想定して、上記温度変化率が大きくなった場合におけるNOx排出量の増加分を少なくすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4542455号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、特許文献1のスリップ抑制制御では、尿素水の供給を中止することに合わせて、さらにNOx排出量を増やすことにより、選択還元触媒におけるアンモニアスリップを極力抑制することができるものの、スリップ抑制制御からの復帰後における選択還元触媒のアンモニアの吸着量は過剰に低下してしまうため、選択還元触媒のNOx浄化性能も大きく低下してしまうと考えられる。
【0008】
また、最下流の酸化触媒でアンモニアを酸化させてしまうと、供給した尿素水はNOxの浄化に寄与することなく無駄になってしまうばかりか、アンモニアの酸化に伴ってNOxが生成されるため、NOx浄化性能の悪化を招くこととなってしまう。以上のように、特許文献1のスリップ抑制制御は、アンモニアスリップを抑制する点では優れているといえるものの、NOx浄化性能や還元剤の燃費などの点については、十分な検討がなされていない。
【0009】
本発明は、選択還元触媒を備えた排気浄化システムにおいて、NOx浄化性能を悪化させたり還元剤を無駄に消費したりすることなく選択還元触媒からの還元剤のスリップを抑制できる内燃機関の排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン1)の排気通路(例えば、後述の排気管11)に設けられ、還元剤(例えば、後述のNH)の存在下で排気中のNOxを浄化しかつこの還元剤を吸着する第1選択還元触媒(例えば、後述の第1選択還元触媒231)と、前記排気通路のうち前記第1選択還元触媒より下流側に設けられた第2選択還元触媒(例えば、後述の第2選択還元触媒232)と、前記排気通路のうち前記第1選択還元触媒より上流側に還元剤又はその前駆体(例えば、後述の尿素水)を供給する還元剤供給手段(例えば、後述のユリア噴射装置25)と、を備えた内燃機関の排気浄化システム(例えば、後述の排気浄化システム2)を提供する。前記排気浄化システムは、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第1選択還元触媒が温度上昇状態であるか否かを判定する温度上昇判定手段(例えば、後述のECU3、及び図14のS21の実行に係る手段)と、当該温度上昇判定手段により温度上昇状態であると判定された場合には、前記還元剤供給手段からの還元剤又は前駆体の供給量を0より大きな制限供給量(GUREA_ORD−ΔST,GUREA_ORD×0.5,GUREA_ORD×0.3)まで低減させる還元剤制限制御(例えば、後述の図16のS43,S46,S47に示す制御)、及び前記内燃機関のNOx排出量を通常制御時より増加させるNOx排出量増加制御(例えば、後述の図16のS49に示す制御)を実行するスリップ抑制制御手段(例えば、後述のECU3、及び図16に示すフローチャートの実行に係る手段)と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、温度上昇判定手段により温度上昇状態であると判定された場合には、還元剤又は前駆体の供給量を所定の制限供給量まで低減させる還元剤制限制御を実行する。これにより、新たに供給した還元剤が第1、第2選択還元触媒に吸着されないまま排出されるのを防止することができる。また、このような還元剤制限制御と併せて、内燃機関のNOx排出量を通常制御時より増加させるNOx排出量増加制御を実行する。これにより、第1、第2選択還元触媒に吸着されていた還元剤が、NOxの還元に消費されないまま排出されるのを防止することができる。
また、本発明では、第1選択還元触媒の下流側には第2選択還元触媒を設けたので、第1選択還元触媒から排出された還元剤を吸着し、さらに吸着した還元剤で排気中のNOxを還元することができる。したがって、第1選択還元触媒の下流側に酸化触媒を設けた場合と比較して、排気浄化システム全体としてのNOx浄化性能を高く維持し、かつ還元剤又は前駆体の無駄な消費を抑制することもできる。
このように、本発明では第1選択還元触媒の下流側に第2選択還元触媒を設けることで、供給した還元剤を無駄に消費することが無いシステムを構築した上で、上記還元剤制限制御では供給量を0にすることなく還元剤又は前駆体を供給し続ける。これにより、還元剤制限制御及びNOx排出量増加制御の実行した後、通常制御に復帰した際における第1、第2選択還元触媒に吸着されている還元剤の量を、ある程度確保することができる。これにより、上記復帰時におけるNOx浄化性能の大幅な低下を抑制することができる。
【0012】
この場合、前記排気浄化システムは、前記第1選択還元触媒に流入したNOx量を検出又は推定する流入NOx量取得手段(例えば、後述のNOxセンサ28及び単位変換部654)と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記第1選択還元触媒におけるNOx浄化率を推定する第1浄化率推定手段(例えば、後述のNOx浄化率算出部651b)と、前記第1選択還元触媒に流入したNOxを浄化するために当該第1選択還元触媒において消費された還元剤の量に相当する還元剤消費量を、前記推定されたNOx浄化率(η1st)と前記検出又は推定されたNOx量(QNOx)とに基づいて推定する還元剤消費量推定手段(例えば、後述の消費速度算出部65)と、前記第1選択還元触媒の温度を検出又は推定する温度取得手段(例えば、後述の排気温度センサ27及びECU3)と、前記検出又は推定された温度(TSCR)に基づいて、前記第1選択還元触媒における還元剤の吸着許容量(ST1st_max)を推定する第1吸着許容量推定手段(例えば、後述の触媒温度ベース算出部642)と、前記推定された第1選択還元触媒の吸着許容量に基づいて、前記第1選択還元触媒からの還元剤スリップ量を推定するスリップ量推定手段(例えば、後述のスリップ速度算出部64)と、をさらに備え、前記スリップ抑制制御手段は、前記推定された還元剤スリップ量(V_SLIP)が前記推定された還元剤消費量(V_RED)より多い場合(V_SLIP>V_RED)には前記NOx排出量増加制御を実行し、前記推定された還元剤スリップ量が前記推定された還元剤消費量より少ない場合には前記NOx排出量増加制御を実行しないことが好ましい。
【0013】
本発明では、推定された第1選択還元触媒からの還元剤スリップ量が、推定された第1選択還元触媒における還元剤消費量より多い場合には、第2選択還元触媒へスリップしてしまう還元剤を消費させるべくNOx排出量増加制御を実行する。そして、上記還元剤スリップ量が上記還元剤消費量より少ない場合には、NOx排出量を増加させずとも還元剤のスリップを抑制できると判断し、NOx排出量増加制御を実行しない。このように、推定された還元剤スリップ量と還元剤消費量とに基づいてNOx排出量増加制御の実行を判断することにより、必要以上にNOx排出量を増加させてしまい、還元剤が無駄に消費されるのを抑制することができる。
【0014】
この場合、前記排気浄化システムは、前記第1選択還元触媒に流入したNOx量を検出又は推定する流入NOx量取得手段(例えば、後述のNOxセンサ28及び単位変換部654)と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記第1選択還元触媒におけるNOx浄化率を推定する第1浄化率推定手段(例えば、後述のNOx浄化率算出部651b)と、前記第1選択還元触媒に流入したNOxを浄化するために当該第1選択還元触媒において消費された還元剤の量に相当する還元剤消費量を、前記推定されたNOx浄化率(η1st)と前記検出又は推定されたNOx量(QNOx)とに基づいて推定する還元剤消費量推定手段(例えば、後述の消費速度算出部65)と、前記第1選択還元触媒と前記第2選択還元触媒との間の排気の還元剤濃度を検出する還元剤検出手段(例えば、後述のNH3センサ26)と、前記検出された還元剤濃度(VNH3)に基づいて、前記第1選択還元触媒からの還元剤スリップ量を推定するスリップ量推定手段(例えば、後述のNHセンサベース算出部641、スリップ速度算出部64)と、をさらに備え、前記スリップ抑制制御手段は、前記推定された還元剤スリップ量(V_SLIP)が前記推定された還元剤消費量(V_RED)より多い場合(V_SLIP>V_RED)には前記NOx排出量増加制御を実行し、前記推定された還元剤スリップ量が前記推定された還元剤消費量より少ない場合には前記NOx排出量増加制御を実行しないことが好ましい。
【0015】
本発明では、推定された還元剤スリップ量と還元剤消費量とに基づいてNOx排出量増加制御の実行を判断することにより、上述のように必要以上にNOx排出量を増加させてしまい、還元剤が無駄に消費されるのを抑制することができる。特に、本発明では、第1選択還元触媒と第2選択還元触媒との間の排気の還元剤濃度を検出する還元剤検出手段を用いることにより、第1選択還元触媒からの還元剤スリップ量をより高い精度で推定できる。
【0016】
この場合、前記排気浄化システムは、前記排気通路を流通する排気の一部を、EGRガスとして前記内燃機関の吸気通路(例えば、後述の吸気管12)に還流するEGR通路(例えば、後述のEGR管18)と、前記EGR通路に設けられEGRガスの量を制御するEGR弁(例えば、後述のEGR弁19)と、をさらに備え、前記NOx排出量増加制御では、前記EGR弁の開度を通常制御時における開度(VO_ORD)より閉じ側に補正することでNOx排出量を増加させ、前記スリップ抑制制御手段は、前記推定された還元剤スリップ量(V_SLIP)と前記推定された還元剤消費量(V_RED)との偏差に基づいて、前記EGR弁の開度の通常制御時における開度からの補正量を決定することが好ましい。
【0017】
本発明では、EGR弁の開度を閉じ側に補正することでNOx排出量を増加させる。EGR弁は応答性が良く、またドライバビリティを大きく損なうことなくかつ速やかにNOx排出量を増加させることができる。また、推定された還元剤スリップ量と還元剤消費量との偏差に基づいて、EGR弁の開度の通常制御時からの補正量を決定することにより、スリップする分に合わせた適切な量のNOxを増加させることができるので、還元剤のスリップを抑制しながらかつ還元剤の無駄な消費を抑制することができる。
【0018】
この場合、前記排気浄化システムは、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記第2選択還元触媒における還元剤のストレージ量を推定する第2ストレージ量推定手段(例えば、後述のECU3、及びNHセンサ26)と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記第2選択還元触媒のストレージ量の推定値に対する目標値を設定する目標値設定手段(例えば、後述のECU3)と、をさらに備え、前記スリップ抑制制御手段は、前記第2選択還元触媒のストレージ量の推定値が前記目標値以下である場合(ST2nd≦ST2nd_TRGT)には前記NOx排出量増加制御を実行せず、前記第2選択還元触媒のストレージ量の推定値が前記目標値より大きい場合(ST2nd>ST2nd_TRGT)には前記NOx排出量増加制御を実行することが好ましい。
【0019】
本発明では、第2選択還元触媒のストレージ量の推定値がその目標値以下である場合には、第2選択還元触媒には還元剤を吸着できる余裕があると判断し、NOx排出量増加制御を実行しない。また、第2選択還元触媒のストレージ量の推定値がその目標値より大きい場合には、第2選択還元触媒には還元剤を吸着できる余裕がないと判断し、したがって第1選択還元触媒からスリップする還元剤を増量したNOxで消費させるべくNOx排出量増加制御を実行する。これにより、必要以上に内燃機関からのNOxの排出量を増加させてしまい、還元剤が無駄に消費されるのを抑制できる。また、これにより、第2選択還元触媒のストレージ量をその目標に近づけることができるので、そのNOx浄化性能を高く維持することもできる。
【0020】
この場合、前記排気浄化システムは、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第2選択還元触媒における還元剤のストレージ量を推定する第2ストレージ量推定手段(例えば、後述のECU3、及びNHセンサ26)と、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第2選択還元触媒における還元剤の吸着許容量を推定する第2吸着許容量推定手段(例えば、後述のECU3、及びNHセンサ26)と、をさらに備え、前記スリップ抑制制御手段は、前記第2選択還元触媒のストレージ量の推定値が前記吸着許容量の推定値より小さい場合(ST2nd<ST2nd_max)には、当該ストレージ量の推定値が当該吸着許容量の推定値以上(ST2nd≧ST2nd_max)である場合よりも、前記制限供給量を多くすることが好ましい。
【0021】
本発明では、第2選択還元触媒のストレージ量の推定値が吸着許容量の推定値より小さい場合には、第2選択還元触媒では還元剤を吸着できる余裕があると判断し、制限供給量、すなわち還元剤制限制御の実行時における還元剤又は前駆体の供給量を、ストレージ量の推定値が吸着許容量の推定値以上である場合よりも多くする。これにより、還元剤制限制御の実行から復帰したときにおける第1、第2選択還元触媒のストレージ量を十分に確保できるので、それぞれのNOx浄化性能の低下を抑制することができる。
【0022】
この場合、前記排気浄化システムは、前記内燃機関が加速運転状態に移行したことを判定する加速判定手段(例えば、後述の図15のS31の実行に係る手段)をさらに備え、前記スリップ抑制制御手段は、前記加速判定手段により加速運転状態に移行したと判定された場合には、前記還元剤制限制御及び前記NOx排出量増加制御の実行開始を遅延させることが好ましい。
【0023】
内燃機関が加速運転状態に移行すると、先ず内燃機関からのNOx排出量が増加し、追って第1、第2選択還元触媒の温度が上昇する。本発明では、第1、第2選択還元触媒の温度の上昇に合わせて還元剤制限制御及びNOx排出量増加制御の実行を開始させるべく、加速運転状態に移行してから所定の時間、これら還元剤制限制御及びNOx排出量増加制御の実行開始を遅延させる。これにより、第1、第2選択還元触媒からの還元剤のスリップを抑制しながら、各々のNOx浄化性能の低下を抑制することができる。
また例えば、排気中のNOxを検出するNOxセンサの検出値に基づいて還元剤又は前駆体の供給量を制御する場合、特に加速運転状態に移行した直後は、NOxセンサの遅れによって還元剤又は前駆体の供給量が不足し、選択還元触媒のNOx浄化性能が一時的に低下する傾向がある。本発明では、内燃機関が加速運転状態に移行したことに伴い、還元剤制限制御及びNOx排出量増加制御の実行開始を遅延させることにより、NOx浄化性能がさらに低下してしまうのを抑制することができる。
【0024】
この場合、前記排気浄化システムは、前記第1選択還元触媒と前記第2選択還元触媒の間の排気の還元剤濃度を検出する還元剤濃度検出手段(例えば、後述のNHセンサ26)をさらに備え、前記スリップ抑制制御手段は、前記還元剤濃度検出手段の出力値が所定値より小さい場合(VNH3≧VNH3_th)には、前記還元剤制限制御を実行しかつ前記NOx排出量増加制御を実行しないことが好ましい。
【0025】
本発明では、還元剤濃度検出手段の出力値が所定値より小さい場合には、第1選択還元触媒から第2選択還元触媒にスリップする還元剤の量は少なく、NOx排出量増加制御を実行せずとも第2選択還元触媒から還元剤がスリップするのを抑制できると判断し、還元剤制限制御のみを実行する。これにより、必要以上にNOx排出量を増加させてしまい、還元剤が無駄に消費されるのを抑制することができる。また、これにより、還元剤制限制御の実行から復帰したときにおける第1、第2選択還元触媒のストレージ量を十分に確保できるので、それぞれのNOx浄化性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジン及びその排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図2】上記実施形態に係る触媒温度予測部の構成を示すブロック図である。
【図3】エンジントルクの値を予測する手順を示すフローチャートである。
【図4】エンジントルクの値を予測する手順を説明するためのタイムチャートである。
【図5】エンジントルクの値を予測する手順を説明するためのタイムチャートである。
【図6】上記実施形態に係るユリア噴射装置によるユリア噴射量の決定に係るブロック図である。
【図7】上記実施形態に係る通常噴射量算出部の構成を示すブロック図である。
【図8】上記実施形態に係るスリップ抑制補正量算出部の構成を示すブロック図である。
【図9】スリップ抑制補正量算出部において算出される予測ストレージ容量差を模式的に示す図である。
【図10】エンジンの新気量を所定の目標新気量に制御するためのEGR弁開度の決定に係るブロック図である。
【図11】上記実施形態に係るスリップ速度算出部の構成を示すブロック図である。
【図12】上記実施形態に係る消費速度算出部の構成を示すブロック図である。
【図13】上記実施形態に係るユリア噴射制御及び吸気制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
【図14】上記実施形態に係るスリップ抑制フラグを更新する手順を示すフローチャートである。
【図15】上記実施形態に係る加速時遅延フラグを更新する手順を示すフローチャートである。
【図16】上記実施形態に係るスリップ抑制制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関(以下「エンジン」という)1及びその排気浄化システム2の構成を示す模式図である。エンジン1は、リーンバーン運転方式のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。
【0028】
排気浄化システム2は、エンジン1の排気管11に設けられた酸化触媒21と、排気管11に設けられ、排気中のPMを捕集するフィルタとしてのDPF22と、排気管11に設けられ、この排気管11を流通する排気中の窒素酸化物(NOx)を還元剤としてのアンモニア(NH)の存在下で浄化するユリア選択還元触媒23と、排気管11のうちユリア選択還元触媒23の上流側に、アンモニアの前駆体である尿素水を供給するユリア噴射装置25と、排気管11を流通する排気の一部をEGRガスとして吸気管12内へ還流するEGR装置17と、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)3とを含んで構成される。
【0029】
EGR装置17は、排気管11のうち酸化触媒21の上流側と吸気管12とを連通するEGR管18と、このEGR管18に設けられEGRガスの量を制御するEGR弁19とを含んで構成される。EGR弁19は、ECU3に接続されており、ECU3からの制御信号により動作し、この制御信号に応じてEGR管18を介して吸気管12内へ還流される排気の流量、ひいてはエンジン1の新気量を制御する。
【0030】
ユリア噴射装置25は、ユリアタンク251と、ユリア噴射弁253とを備える。
ユリアタンク251は、尿素水を貯蔵するものであり、ユリア供給路254及び図示しないユリアポンプを介して、ユリア噴射弁253に接続されている。このユリアタンク251には、ユリアレベルセンサ255が設けられている。このユリアレベルセンサ255は、ユリアタンク251内の尿素水の水位を検出し、この水位に略比例する検出信号をECU3に出力する。ユリア噴射弁253は、ECU3に接続されており、ECU3からの制御信号により動作し、この制御信号に応じて尿素水を排気管11内に噴射する。
【0031】
酸化触媒21は、排気管11のうちDPF22よりも上流側に設けられ、排気中のNOを酸化してNOに変換し、これにより、ユリア選択還元触媒23におけるNOxの還元を促進する。
DPF22は、排気管11のうち酸化触媒21よりも下流側に設けられ、排気がフィルタ壁の微細な孔を通過する際、排気中の炭素を主成分とするPMを、フィルタ壁の表面及びフィルタ壁中の孔に堆積させることによって捕集する。
【0032】
ユリア選択還元触媒23は、第1選択還元触媒231と、排気管11のうち第1選択還元触媒231よりも下流側に設けられた第2選択還元触媒232とを含んで構成される。これら選択還元触媒231,232は、それぞれ、NH等の還元剤が存在する雰囲気下で、排気中のNOxを選択的に還元する。具体的には、ユリア噴射装置25により尿素水を噴射すると、この尿素水は、排気の熱により熱分解又は加水分解されて還元剤としてのNHが生成される。生成されたNHは、選択還元触媒231,232に供給され、これらNHにより、排気中のNOxが選択的に還元される。
【0033】
ところで、これら選択還元触媒231,232は、尿素水から生成したNHで排気中のNOxを還元する機能を有するとともに、生成したNHを所定の量だけ吸着する機能も有する。本実施形態では、選択還元触媒231,232において吸着されたNH量をストレージ量といい、このストレージ量の限界を最大ストレージ容量という。このようにして吸着されたNHは、排気中のNOxの還元にも適宜消費される。このため、ストレージ量が大きくなるに従い、選択還元触媒におけるNOx浄化率は高くなる。また、エンジンから排出されたNOxの量に対し尿素水の供給量が少ない場合等には、吸着されたNHが、この尿素水の不足分を補うようにしてNOxの還元に消費される。ここで、選択還元触媒231,232において、最大ストレージ容量を超えてNHが生成された場合、生成されたNHは、選択還元触媒231,232の下流側へ排出される。
【0034】
ECU3には、NHセンサ26、排気温度センサ27、NOxセンサ28、エアフローメータ29、クランク角度位置センサ14、及びアクセル開度センサ15等が接続されている。
【0035】
NHセンサ26は、排気管11のうち第1選択還元触媒231と第2選択還元触媒232との間における排気のNH濃度を検出し、検出値に略比例した検出信号VNH3をECU3に供給する。排気温度センサ27は、第2選択還元触媒232の下流側の排気の温度を検出し、検出値に略比例した検出信号TGASをECU3に供給する。NOxセンサ28は、第1選択還元触媒231に流入する排気のNOx濃度を検出し、検出値に略比例した検出信号VNOxをECU3に供給する。エアフローメータ29は、図示しない吸気通路を流通する吸入空気量を検出し、検出値に略比例した検出信号をECU3に供給する。
【0036】
クランク角度位置センサ14は、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するとともに、所定のクランク角ごとにパルスを発生し、そのパルス信号をECU3に供給する。エンジン1の回転数NEは、このパルス信号に基づいてECU3により算出される。アクセル開度センサ15は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下、「アクセル開度」という)を検出し、検出値に略比例した検出信号APをECU3に供給する。ECU3では、このアクセル開度AP及びエンジン回転数NEに応じて、ドライバ要求トルクTRQが算出される。
【0037】
酸化触媒21の温度TDOCや第1選択還元触媒の温度TSCRなど、排気管11内の各部分の現在の温度は、例えば排気温度TGAS、エンジン回転数NE、及び吸入空気量QAなどの入力に基づいて、ECU3にて図示しない処理により推定される。また、排気流量Gexは、吸入空気量に略比例したエアフローメータ29の出力やエンジン回転数NEなどに基づいて、ECU3にて図示しない処理により推定される。
【0038】
ECU3は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)とを備える。この他、ECU3は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路と、エンジン1、ユリア噴射弁253、EGR弁19等に制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0039】
以下、このECU3に構成された、排気系の温度予測に係る触媒温度予測部4と、尿素水の噴射制御に係るユリア噴射制御部5と、吸気系の制御に係る吸気制御部6との構成について、順に説明する。
【0040】
[触媒温度予測部4]
図2〜図5を参照して、触媒温度予測部4の構成について説明する。
図2は、触媒温度予測部4の構成を示すブロック図である。
触媒温度予測部4は、第1選択還元触媒231の将来の温度、より具体的には現在から所定の予測時間T_PRE後における選択還元触媒231の温度の値である触媒予測温度TSCR_PREを推定する。
【0041】
触媒温度予測部4は、運転パターン予測部41と、熱伝導モデル演算部42と、を備える。
運転パターン予測部41は、エンジン回転数、車速、及びドライバ要求トルクなど、車両の運転状態に関わるパラメータ(以下、これらパラメータを総称して「運転状態パラメータ」という)の現在の値に基づいて、エンジンのポート部の排気温度と直接的に相関のある内燃機関パラメータとしてのエンジンの発生トルク(以下、「エンジントルク」という)について、現在から予測時間T_PRE後までの値を推定する。
【0042】
図3は、エンジントルクの値を予測する手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、運転パターン予測部41(図2参照)により実行される。
図4及び図5は、エンジントルクの値を予測する手順を説明するためのタイムチャートである。なおこれら図4及び図5に示す例では、現在の時刻をTとし、時刻T−1,T−2,T−3を現在よりも過去の時刻とし、時刻T,T,T,…,TN−1,Tを、将来の時刻とする。したがって、時刻T以前の実線で示す値は実値であり、時刻T以降の破線で示す値は運転パターン予測部による予測値である。
また、本実施形態では、図4及び図5において白丸で示すように、現在から予測時間T_PRE後までの時間をN分割し、各時刻における値を推定する。すなわち、エンジントルクの現在値をTRQ_PRE_0とし、現在より後の時刻Tにおけるエンジントルクの予測値をTRQ_PRE_iとする。
【0043】
先ず、S1では、現在の運転状態パラメータの値に基づいて、エンジントルクの現在値TRQ_PRE_0を推定し、S2に移る。
【0044】
S2では、現在のエンジンが高負荷運転状態にあるか否か、より具体的にはS1で推定したエンジントルクの現在値TRQ_PRE_0がエンジントルク値に対する所定の閾値TRQ_THより大きいか否かを判定する。この判定がNOである場合にはS3に移り、この判定がYESである場合にはS4に移る。なお、このエンジンが高負荷運転状態であるか否かを判定するための閾値TRQ_THは、運転状態パラメータの値に応じて図示しない処理により逐次設定される。
【0045】
S3では、S2において現在のエンジンが高負荷運転状態にないと判定されたことに応じて、エンジントルク値は予測時間T_PRE後まで、現在値TRQ_PRE_0から変化しないと推定する。すなわち、下記式に示すように、エンジントルクの予測値TRQ_PRE_1,…,TRQ_PRE_Nは、全て現在値TRQ_PRE_0と等しいと推定する(図4参照)。
TRQ_PRE_i=TRQ_PRE_0 (i=1,…,N)
【0046】
一方、S4以降では、S2において現在のエンジンが高負荷運転状態にあると判定されたことに応じて、現在から予測時間T_PRE後へ向けて、現在値TRQ_PRE_0から減少するように、エンジントルク値を推定する(図5参照)。これは、長時間にわたりエンジントルク値を高い値に維持したり増加させ続けたりするように運転されることが一般的には稀であることから、現在のエンジンが高負荷運転状態にある場合には、その後エンジントルク値は、継続して運転できるような現在値よりも小さな値へ収束するように減少に転じる可能性が高いと判断できるからである。
【0047】
より具体的には、先ずS4では、エンジントルク値が収束すると予測される値であるトルク収束値TRQ_CNVを推定し、S5に移る。このトルク収束値TRQ_CNVは、例えば、運転状態パラメータの現在値に基づいて、図示しないマップを検索することにより算出される。
S5では、現在から、エンジントルク値が上記トルク収束値TRQ_CNVに収束するまでの時間である収束時間T_CNVを推定し、S6に移る。この収束時間T_CNVは、例えば、運転状態パラメータの現在値に基づいて、図示しないマップを検索することにより算出される。
【0048】
S6では、エンジントルクの現在値TRQ_PRE_0と上記収束時間T_CNV後における値であるトルク収束値TRQ_CNVとを、図4中破線で示すように所定の減少態様で補間することにより、現在から予測時間T_PRE後の間におけるエンジントルク予測値TRQ_PRE_1,…,TRQ_PRE_Nを推定する。この際、上記エンジントルクの現在値TRQ_PRE_0とトルク収束値TRQ_CNVとを補間する減少態様は、例えば、運転状態パラメータの現在値に基づいて設定される。
【0049】
図2に戻って、熱伝導モデル演算部42は、エンジン1及びその排気を熱源と見立てた排気系の所定の熱伝導モデルに基づいて、現在から予測時間T_PRE後における第1選択還元触媒231の温度である触媒予測温度TSCR_PREを推定する。より具体的には、運転パターン予測部41により推定されたエンジントルクの現在から予測時間T_PRE後までの値TRQ_PRE_0,…,TRQ_PRE_Nに基づいてエンジン1のポート部の排気温度を予測し、この現在から予測時間T_PRE後までの間の排気温度の予測値を入力として、熱伝導モデルにより現在から予測時間T_PRE後における触媒予測温度TSCR_PREを推定する。なお、この熱伝導モデルとしては、例えば、本願出願人による特開2006−250945号公報や特許第4373909号などに記載されているような、ニュートンの冷却則に従って定式化された排気系のモデルなど、従来既知のものが用いられる。
【0050】
[ユリア噴射制御部5]
図6〜図8を参照して、ユリア噴射制御部5の構成について説明する。
図6は、ユリア噴射装置によるユリア噴射量GUREAの決定に係るブロック図である。ユリア噴射制御部5は、通常噴射量GUREA_ORDを算出する通常噴射量算出部51と、スリップ抑制補正量ΔSTを算出するスリップ抑制補正量算出部55と、スリップ抑制補正量ΔST分だけ通常噴射量GUREA_ORDを補正するスリップ抑制補正部58と、制限噴射量GUREA_LIMを算出する制限噴射量算出部56と、ユリア噴射量GUREAを決定する噴射量セレクタ57と、を含んで構成される。図6に示すように、本実施形態のユリア噴射制御部5では、大きく分けて通常噴射量GUREA_ORDと、スリップ抑制補正量ΔST分だけ補正された通常噴射量GUREA_ORDと、制限噴射量GUREA_LIMとのうちの何れかを最終的なユリア噴射量GUREAとして決定する。以下、通常噴射量算出部51、スリップ抑制補正量算出部55、スリップ抑制補正部58、制限噴射量算出部56、及び噴射量セレクタ57の構成について、順に説明する。
【0051】
図7は、通常噴射量算出部51の構成を示すブロック図である。
通常噴射量算出部51は、フィードバックコントローラ52と、ベース噴射量算出部53と、ストレージ補正入力算出部54とを含んで構成される。
この通常噴射量算出部51では、下記式(1)に示すように、ベース噴射量算出部53により算出されたベース噴射量GUREA_BSと、フィードバックコントローラ52により算出されたフィードバック噴射量GUREA_FBと、ストレージ補正入力算出部54により算出された補正噴射量GUREA_STとを加算することにより、通常噴射量GUREA_ORDを決定する。
【数1】

【0052】
ここで、記号(k)は、離散化した時間を示す記号であり、所定の制御周期ごとに検出又は算出されたデータであることを示す。すなわち、記号(k)が今回の制御タイミングにおいて検出又は算出されたデータであるとした場合、記号(k−1)は前回の制御タイミングにおいて検出又は算出されたデータであることを示す。なお、以下の説明においては、記号(k)を適宜、省略する。
【0053】
フィードバックコントローラ52は、目標アンモニア濃度設定部521と、スライディングモードコントローラ522とを備える。
目標アンモニア濃度設定部521は、NHセンサの検出値VNH3の目標値VNH3_TRGTを設定する。より具体的には、この目標値VNH3_TRGTは、“0”より僅かに大きな値に設定される。
スライディングモードコントローラ522は、NHセンサの検出値VNH3が、設定された目標値VNH3_TRGTに収束するようにFB噴射量GUREA_FBを算出する。
【0054】
ベース噴射量算出部53は、エンジンから排出されるNOxを第1、第2選択還元触媒で浄化するように、エンジン回転数NE及びドライバ要求トルクTRQに基づいてベース噴射量GUREA_BSを算出する。すなわち、このベース噴射量GUREA_BSは、当量比αが“1”になるように算出された尿素水の噴射量に相当する。
【0055】
ここで、尿素水の当量比αとは、対象とする選択還元触媒について、単位時間当りの尿素水の流入量(NHとして流入する分も含む)と、単位時間当りのNOxの流入量との比(尿素水流入量/NOx流入量)であり、流入するNOxに対し、このNOxを過不足なく還元できる量の尿素水が流入した場合、この当量比αは“1”となる。すなわち、対象とする選択還元触媒に流入するNOxに対し、流入するNOxを還元するために必要な量の尿素水が供給されなかった場合、当量比αは“1”より小さな値となり、流入するNOxを還元するために必要な量より多くの尿素水が供給された場合、当量比αは“1”より大きな値となる。
【0056】
ストレージ補正入力算出部54は、第1選択還元触媒のストレージ量を推定し、この推定した第1ストレージ量が所定の目標ストレージ量に収束するように補正噴射量GUREA_STを算出する。また、このストレージ補正入力算出部54は、その温度に応じて変化する第1選択還元触媒の最大ストレージ容量を推定し、上記目標ストレージ量を推定した最大ストレージ容量と同じかそれよりもやや小さな値に設定する。
【0057】
したがって、以上のようにして決定された通常噴射量の尿素水を噴射することにより、第1選択還元触媒では、その最大ストレージ容量又はそれに近い量のNHを吸着させた状態を維持することができるので、第1選択還元触媒におけるNOx浄化率を高く維持することができる。また、NHセンサの検出値の目標値VNH3_TRGTを“0”より僅かに大きな値に設定することにより、第2選択還元触媒に流入するNHの量を少なくすることができるので、第2選択還元触媒のストレージ量を適度な大きさに維持することができる。したがって、高負荷運転などにより第1選択還元触媒の温度が急激に上昇し、第1選択還元触媒に吸着されていたNHがスリップした場合であっても、これを第2選択還元触媒で吸着できるので、テールパイプからの過剰なNHスリップを抑制することができる。
【0058】
なお、以上のような通常噴射量GUREA_ORDを算出する具体的な手法、すなわちこれらフィードバックコントローラ52、ベース噴射量算出部53、及びストレージ補正入力算出部54の具体的な構成、並びに第1、第2選択還元触媒のそれぞれのストレージ量の推定値ST1st,ST2ndや最大ストレージ容量の推定値ST1st_max,ST2nd_maxをNHセンサ26の出力に基づいて算出する具体的な手法などについては、本願出願人による国際公開第2008/57628に詳しく記載されているので、ここではこれ以上詳細な説明を省略する。
【0059】
図8は、スリップ抑制補正量算出部55の構成を示すブロック図である。
スリップ抑制補正量算出部55は、予測スリップ量算出部551と、補正量算出部552と、を含んで構成される。
【0060】
予測スリップ量算出部551は、第1選択還元触媒の温度とその最大ストレージ容量とを関係付けるマップについて、推定された現在の第1選択還元触媒の温度TSCRに基づいて算出した最大ストレージ容量と、触媒温度予測部4にて算出された触媒予測温度TSCR_PREに基づいて算出した最大ストレージ容量との差を算出し、これを予測ストレージ容量差ΔST1stとする(図9参照)。上述のように、本実施形態では、第1選択還元触媒には最大ストレージ容量に近いストレージ量を維持するような制御が行われる。したがって上記予測ストレージ容量差ΔST1stは、現在から予測時間TPRE後までの間に、第1選択還元触媒から第2選択還元触媒へ向けて排出されるNH量の推定値に相当する。
【0061】
補正量算出部552は、予測ストレージ容量差ΔST1stを尿素水の質量に換算することにより、スリップ抑制補正量ΔSTを算出する。より具体的には、ユリア噴射装置から噴射した所定の濃度の尿素水(CO(NH+HO)は、排気管内及び第1、第2選択還元触媒の内部において熱分解又は加水分解され、最終的には下記式に示すように、NH及び二酸化炭素(CO)が生成されると仮定することにより、上記予測ストレージ容量差ΔST1stから、スリップ抑制補正量ΔSTを算出する。以上のように算出されたΔSTを、図6に示すように通常噴射量GUREA_ORDから減算することにより、今後第1選択還元触媒から第2選択還元触媒へ向けてスリップする分を余分に供給しないようにすることができる。
CO(NH+HO→2NH+CO
【0062】
図6に戻って、スリップ抑制補正部58は、以下の条件を満たす場合には、通常噴射量GUREA_ORDからスリップ抑制補正量ΔSTを減算することで、通常噴射量GUREA_ORDを減量側に補正し、これ以外の場合には通常噴射量GUREA_ORDを補正しない。
1.後述の加速時遅延フラグが“0”である(FDEL=0)
2.後述のスリップ抑制フラグが“1”である(FSLIP=1)
【0063】
制限噴射量算出部56は、通常噴射量算出部51のベース噴射量算出部53にて算出されたベース噴射量GUREA_BSに、“1”以下の補正係数を乗算したものを制限噴射量GUREA_LIMとする。ここで、ベース噴射量GUREA_BSに乗算する補正係数としては、例えば、“0.5”又は“0.3”の何れかが用いられる。上述のようにベース噴射量GUREA_BSは等量比αが“1”の尿素水の噴射量に相当することから、以上のように算出された制限噴射量GUREA_LIMは、等量比αが“0.5”又は“0.3”の尿素水の噴射量に相当する。
【0064】
制限噴射量算出部56は、第2選択還元触媒のNHストレージ量の推定値が第2選択還元触媒の最大NHストレージ容量の推定値より小さい場合(ST2nd<ST2nd_max)には、第2選択還元触媒にはNHを吸着できる余裕があると判断し補正係数を“0.5”とする。さらに、制限噴射量算出部56は、NHストレージ量の推定値が最大ストレージ容量の推定値以上である場合(ST2nd≧ST2nd_max)には、第2選択還元触媒にはNHを吸着できる余裕がないと判断し補正係数を“0.3”にし、尿素水の供給量をさらに制限する。
【0065】
噴射量セレクタ57は、以下の条件を満たす場合には、制限噴射量GUREA_LIMを最終的なユリア噴射量GUREAとして決定し、これ以外の場合には通常噴射量算出部51側の出力(GUREA_ORD又はGUREA_ORD−ΔST)をユリア噴射量GUREAとして決定する。
1.後述の加速時遅延フラグが“0”である(FDEL=0)
2.後述のスリップ抑制フラグが“1”である(FSLIP=1)
3.NH3センサの検出値が所定の閾値以上である(VNH3≧VNH3_th)
4.NHストレージの推定値がNHストレージ量の目標値以上である(ST2nd≧ST2nd_TRGT)
【0066】
[吸気制御部6]
図10〜図13を参照して、吸気制御部6のうちエンジン1の新気量制御に係るブロックについて説明する。
図10は、エンジンの新気量を所定の目標新気量QNEWに制御するためのEGR弁開度VOの決定に係るブロック図である。
【0067】
図10に示すように、バルブ開度VOは、通常開度算出部61により算出された通常開度VO_ORDと、閉側補正開度算出部62により算出された閉側補正開度VO_CLOと、のうちの何れかを開度セレクタ63により選択することで決定される。
【0068】
通常開度算出部61は、エンジンの新気量の目標値である目標新気量QNEWを入力とし、この目標新気量QNEWに応じた適切なEGR弁開度を算出し、これを通常開度VO_ORDとして出力する。この目標新気量QNEWは、車両の運転状態に応じて図示しない処理により決定される。
【0069】
閉側補正開度算出部62は、NHスリップ速度V_SLIPと、NH消費速度V_REDと、目標新気量QNEWとに基づいて、上記通常開度VO_ORDよりも閉じ側に補正された閉側補正開度VO_CLOを算出する。
ここで、NHスリップ速度V_SLIPとは、第1選択還元触媒の温度が上昇する過程において、第1選択還元触媒から下流側の第2選択還元触媒へ排出されるNHの単位時間当りの量に相当し、スリップ速度算出部64により算出される(後述の図11参照)。
また、NH消費速度V_REDとは、温度が上昇する状況にある第1選択還元触媒において、流入するNOxを還元することで消費され得るNHの単位時間当りの量に相当し、消費速度算出部65により算出される(後述の図12参照)。
【0070】
閉側補正開度算出部62は、余剰NH量算出部621と、反応モデル演算部622と、追加新気量算出部623と、目標新気量補正部624と、開度算出部625とを含んで構成される。
余剰NH量算出部621は、下記式(2)に示すように、NHスリップ速度V_SLIPからNH消費速度V_REDを減算することにより、余剰NH量ΔNHを算出する。ここで算出された余剰NH量ΔNH3は、第1選択還元触媒に現在流入するNOxのみでは消費しきれずに、その下流側へ排出され得るNHの単位時間当りの量に相当する。換言すれば、余剰NH量ΔNH3は、第1選択還元触媒の温度が上昇する過程において、吸着されていたNHが排出されないようにするために、余分に消費する必要のあるNHの単位時間当りの量に相当する。
【数2】

【0071】
反応モデル演算部622は、下記式(3−1)〜(3−3)に示すような反応の下で、NHによりNO及びNOが還元されると仮定することにより、上記余剰NH量ΔNH3のNHを消費するために必要なNOx量を算出し、これを追加NOx量ΔNOXとする。
【数3】

【0072】
追加新気量算出部623は、第1選択還元触媒に供給されるNOxを、上記追加NOx量ΔNOXに相当する分だけ追加するために必要な、新気量の追加量を算出し、これを追加新気量ΔQNEWとする。
【0073】
目標新気量補正部624は、下記式(4)に示すように、目標新気量QNEWに追加新気量ΔQNEWを合算することにより、目標新気量の補正値に相当する補正新気量QNEW_CORを算出する。
【数4】

【0074】
開度算出部625は、補正新気量QNEW_CORを入力とし、この補正新気量QNEW_CORに応じた適切なEGR弁開度を算出し、これを閉側補正開度VO_CLOとして出力する。例えば加速運転状態に移行し、これに伴い第1選択還元触媒の温度が上昇すると、それまでに第1選択還元触媒に吸着されていたNHが排出されることで、上記余剰NH量ΔNH3が正の値となり、結果として追加新気量ΔQNEWが正の値となる場合がある。このとき、補正新気量QNEW_CORは、補正される前の目標新気量QNEWよりも大きな値となるため、これにより閉側補正開度VO_CLOは、補正される前の目標新気量QNEWに応じて算出された通常開度VO_ORDよりも閉じ側に補正される。
【0075】
開度セレクタ63は、スリップ抑制フラグFSLIPと、加速時遅延フラグFDELと、NHセンサの検出値VNH3、第2選択還元触媒のNHストレージ量の推定値ST2nd及び目標値ST2nd_TRGTと、NHスリップ速度V_SLIPと、NH消費速度V_REDとに応じて、通常開度算出部61により算出された通常開度VO_ORD及び閉側補正開度算出部62により算出された閉側補正開度VO_CLOの何れかを選択し、これをEGR弁開度VOとして決定する。より具体的には、開度セレクタ63は、以下の条件を満たす場合に、エンジンからのNOx排出量を増加させるべく閉側補正開度VO_COLをEGR弁開度VOとして決定し、これ以外の場合には通常開度VO_ORDをEGR弁開度VOとして決定する。
1.スリップ抑制フラグが“1”である(FSLIP=1)
2.加速時遅延フラグが“0”である(FDEL=0)
3.NHセンサの検出値が閾値以上である(VNH3≧VNH3_th)
4.第2選択還元触媒のNHストレージ量の推定値が目標値より大きい(ST2nd≧ST2nd_TRGT)
5.NHスリップ速度がNH消費速度より速い(V_SLIP>V_RED)
【0076】
図11はスリップ速度算出部64の構成を示すブロック図である。
スリップ速度算出部64は、NHセンサの検出値に基づいてスリップ速度を算出するNHセンサベース算出部641と、第1選択還元触媒の温度に基づいてスリップ速度を算出する触媒温度ベース算出部642と、NHセンサベース算出部641の出力と触媒温度ベース算出部642の出力とを比較し、大きい方を出力する比較器643と、を含んで構成される。
【0077】
NHセンサベース算出部641は、排気中のNH濃度に略比例したNHセンサ検出値VNH3を排気流量Gexに基づいて単位変換し、単位時間当りに第1選択還元触媒から排出されるNH量QNH3を算出する。さらにNHセンサベース算出部641は、下記式(5)に示すように、このNH量QNH3の微分値を算出し、これをNHセンサベーススリップ速度dQNH3とする。ところでNHセンサは、第1選択還元触媒と第2選択還元触媒の間のNH濃度を検出するものであるため、上記NHセンサベーススリップ速度dQNH3は、第1選択還元触媒から第2選択還元触媒へ向けて、単位時間当りに排出されたNH量の推定値に相当する。
【数5】

【0078】
触媒温度ベース算出部642は、第1選択還元触媒の温度TSCRに基づいて所定のマップを検索することにより第1選択還元触媒の最大ストレージ容量の推定値ST1st_maxを算出するとともに、下記式(6)に示すように、この最大ストレージ容量の推定値ST1st_maxの微分値を算出し、これを触媒温度ベーススリップ速度dST1st_maxとする。上述のように、本実施形態のユリア噴射制御部5によれば、第1選択還元触媒には最大ストレージ容量又はそれに近いストレージ量を維持するようなユリア噴射制御が行われる。したがって、上記触媒温度ベーススリップ速度dST1st_maxは、第1選択還元触媒から第2選択還元触媒へ向けて、単位時間当りに排出されるNH量の推定値に相当する。
【数6】

【0079】
比較器643は、上記NHセンサベーススリップ速度dQNH3と触媒温度ベーススリップ速度dST1st_maxとを比較し、大きい方を最終的なNHスリップ速度V_SLIPとして出力する。このように、複数の異なる手法でスリップ速度を推定し、そのうちの大きい方を用いることにより、より確実に過剰なNHスリップを抑制することができる。
【0080】
図12は消費速度算出部65の構成を示すブロック図である。
消費速度算出部65は、単位変換部654と、NOx量算出部651と、反応モデル演算部652とを備え、これらによりNH消費速度V_REDを算出する。
【0081】
単位変換部654は、第1選択還元触媒に流入する排気中のNOx濃度に略比例したNOxセンサの検出値VNOxを排気流量Gexに基づいて単位変換し、単位時間当りに第1選択還元触媒に流入するNOx量QNOxを算出する。
【0082】
NOx量算出部651は、NO/NO量算出部651aと、昇温時NOx浄化率算出部651bとを備え、これらにより、第1選択還元触媒に流入したNOxのうち第1選択還元触媒により還元可能なNO量に相当するNO還元可能量QNO_RED及び還元可能なNO量に相当するNO還元可能量QNO2_REDを算出する。
【0083】
NO/NO量算出部651aは、第1選択還元触媒に流入するNOx量QNOxと酸化触媒の温度TDOCに基づいて所定のマップを検索することにより、第1選択還元触媒に流入するNO量に相当するNO流入量QNO_INと、第1選択還元触媒に流入するNO量に相当するNO流入量QNO2_INとを算出する。
NOx浄化率算出部651bは、第1選択還元触媒の温度TSCR及び空間速度SVなどのエンジンの運転状態に応じて変化するパラメータに基づいて所定のマップを検索することにより、第1選択還元触媒におけるNOx浄化率の推定値η1stを算出する。ここで、第1選択還元触媒における排気の空間速度SVとしては、例えば排気流量Gex及び第1選択還元触媒の容積に基づいて算出されたものが用いられる。
上述のNO還元可能量QNO_RED及びNO還元可能量QNO2_REDは、下記式(7−1)、(7−2)に示すように、NO流入量QNOINと及びNO流入量QNO2INに、NOx浄化率η1stを乗算することで算出される。
【数7】

【0084】
反応モデル演算部652は、上記式(3−1)〜(3−3)に示すような反応の下で、NHによりNO及びNOが還元されると仮定することにより、上記NO還元可能量QNO_REDのNO、及びNO還元可能量QNO2_REDのNOを浄化するために第1選択還元触媒において消費されたNH量を推定し、これをNH消費速度V_REDとする。
【0085】
図13は、排気浄化システムにおけるユリア噴射制御及び吸気制御の具体的な手順を示すフローチャートである。図13に示す処理は、ECUにより所定の制御周期ごとに実行される。また、図13に示す処理において、スリップ抑制フラグFSLIP及び加速時遅延フラグFDELは、S7に示すスリップ抑制制御を実行するのに適した時期を判別するためのフラグであり、それぞれ、初期値を“0”として後述の図14及び図15に示すフローチャートにより制御周期ごとに更新される。
【0086】
S1では、ユリア噴射制御に係る装置が正常であるか否かを判別する。より具体的には、例えば、ユリア噴射装置が正常であるか否か、第1、第2選択還元触媒が劣化及び故障していないか否か、ユリアタンク内の尿素水の残量が規定値以上であるか否か、エンジン始動後の暖機が完了しているか否か、NHセンサ、NOxセンサ、排気温度センサなど各種センサが故障していないか否か、及びこれらセンサが活性に達しているか否か、第1、第2選択還元触媒の温度が規定温度以上であるか否か、などが判別される。
【0087】
S1の判別がNOであり、ユリア噴射装置が正常でないと判別された場合にはS2に移り、ユリア噴射制御を停止するべくユリア噴射量を“0”にし(GUREA←0)、S3に移る。S3では、EGR弁の開度を通常開度(VO←VO_ORD)に設定し、この処理を終了する。
【0088】
S1の判別がYESであり装置が正常であると判別された場合にはS4に移る。S4では、スリップ抑制フラグFSLIPが“1”であるか否かを判別し、さらにS5では加速時遅延フラグFDELが“0”であるか否かを判別する。ここで、S4及びS5における判別の何れかがNOである場合には、さしあたって第2選択還元触媒からNHがスリップするおそれがないと判断し、S6に移る。S6では、通常ユリア噴射制御を実行するべくユリア噴射量を通常噴射量に設定し(GUREA←GUREA_ORD)、さらに上記S3に移り、EGR弁の開度を通常開度に設定する。また、S4及びS5における判別が何れもYESである場合には、第2選択還元触媒からNHがスリップするおそれがあると判断し、このNHスリップを抑制するべくS7に移り、図16を参照して後に説明するスリップ抑制制御を実行する。
【0089】
図14は、S4のスリップ抑制フラグFSLIPを更新する手順を示すフローチャートである。図14に示す処理は、ECUにより所定の制御周期ごとに、図13に示す処理とは別に実行される。この処理で更新されるスリップ抑制フラグFSLIPは、第2選択還元触媒からNHがスリップするおそれがあると判断され、したがって後述のスリップ抑制制御の実行が求められている状態であることを示すフラグである。
【0090】
S21では、第1選択還元触媒が温度上昇状態であるか否かを判別し、この判別がYESである場合にはスリップ抑制フラグFSLIPを“1”にセットし(S22)、この判別がNOである場合にはスリップ抑制フラグFSLIPを“0”にリセットする(S23)。ここで、温度上昇状態とは、第1選択還元触媒の温度が現に上昇している状態だけでなく、現在は上昇していないが近いうちに上昇すると考えられる状態も含む。そこで、S21では、第1選択還元触媒の現在の温度TSCRの微分値が所定の正の閾値以上である場合、予測温度TSCR_PREと現在の温度TSCRとの差が所定の正の閾値以上である場合、又はエンジンが加速運転中である場合には、第1選択還元触媒が温度上昇状態であると判別する。
【0091】
図15は、S5の加速時遅延フラグFDELを更新する手順を示すフローチャートである。図15に示す処理は、ECUにより所定の制御周期ごとに、図13に示す処理とは別に実行される。エンジンが加速運転状態に移行すると、第1選択還元触媒の温度は、移行時には上昇していなくても、その後追って上昇すると考えられる。また、加速運転状態に移行した直後は、NOxセンサの遅れからユリア噴射量は不足する傾向がある。そこで、図15に示す処理では、スリップ抑制フラグFSLIPが“1”となり、スリップ抑制制御を実行するのに適した時期であると判断されている場合であっても、エンジンが加速運転状態に移行してから所定時間スリップ抑制制御の実行開始を遅延させるべく、この加速時遅延フラグFDELを更新する。すなわち、この加速時遅延フラグFDELは、スリップ抑制制御の実行開始の遅延が要求されている状態であることを示すフラグであり、このフラグFDELが“1”にセットされている間は、図13に示すようにスリップ抑制制御の実行開始は遅延される。
【0092】
S31では、エンジンが加速運転状態に移行したか否かを判別する。S31の判別がYESである場合には、加速時遅延フラグFDELを“1”にセットし(S32)、遅延タイマの値を所定の初期値にセットし(S33)、S36に移る。S31の判別がNOの場合には、S34に移り、加速時遅延フラグFDELが“1”であるか否かを判別する。S34の判別がNOである場合にはS36に移り、YESである場合にはS33でセットした遅延タイマの値を減算し(S35)、S36に移る。
【0093】
S36では、遅延タイマの値が“0”であるか否かを判別する。S36の判別がNOである場合にはこの処理を終了する。S36の判別がYESである場合には、S37に移り、加速時遅延フラグFDELを“0”にリセットした後、この処理を終了する。
【0094】
図16は、図13のS7に示すスリップ抑制制御(図13のS7)の具体的な手順を示すフローチャートである。図16に示す処理では、スリップ抑制制御からの復帰時におけるNOx浄化性能の低下及び不要な尿素水の消費を抑制するように、第2選択還元触媒の状態に応じてユリア噴射量及びEGR弁の開度を適度に制御する。
【0095】
S41では、NHセンサの検出値が閾値以上でありかつ第2選択還元触媒のストレージ量の推定値がその目標値より大きいか否かを判別する(VNH3≧VNH3_thかつST2nd>ST2nd_TRGT)。ここで、第2選択還元触媒のストレージ量に対する目標値ST2nd_TRGTは、第2選択還元触媒からのNHのスリップを確実に抑制できるように、例えば、第2選択還元触媒の最大ストレージ容量の推定値ST2nd_maxよりも十分に小さな値に設定される。
【0096】
S41の判別がNOである場合、すなわち第2選択還元触媒には、第1選択還元触媒からスリップしたNHをある程度吸着する余裕があると判断できる場合には、ユリア噴射量を通常制御時(GUREA_ORD)から僅かに制限するのみで第2選択還元触媒からのNHスリップを抑制できると判断し、S42に移る。S42では、スリップ抑制補正量ΔSTを算出し、S43では、ユリア噴射量を通常噴射量からスリップ抑制補正量だけ制限し(GUREA←GUREA_ORD−ΔST)、図13のS3に移り、EGR弁の開度を通常開度に設定する(VO←VO_ORD)。
【0097】
S41の判別がNOである場合、すなわち第2選択還元触媒には、第1選択還元触媒からスリップしたNHを吸着する余裕があまり無いと判断できる場合には、ユリア噴射量を上記スリップ抑制補正量ΔSTよりもさらに多く制限するべく、S45に移る。S45では、第2選択還元触媒のストレージ容量の推定値がその最大ストレージ容量の推定値より小さいか否かを判別する(ST2nd<ST2nd_max)。S45の判別がYESの場合には、S46に移り当量比α=0.5に相当する量までユリア噴射量を制限し(GUREA←GUREA_BS×0.5)、S45の判別がNOの場合には、さらに噴射量を制限するべくS47に移り、当量比α=0.3に相当する量までユリア噴射量を制限する(GUREA←GUREA_BS×0.3)。
【0098】
S48では、NHスリップ速度がNH消費速度より速いか否か(V_SLIP>V_RED)を判別する。S48の判別がNOである場合には、エンジンのNOx排出量を増加させずとも第2選択還元触媒からのNHスリップを抑制できると判断し、図13のS3に移り、EGR弁の開度を通常開度に設定する。S48の判別がYESである場合には、第2選択還元触媒からのNHスリップを抑制するためには、ユリア噴射量の制限に加え、さらにエンジンからのNOx排出量を増加させる必要があると判断し、S49に移る。S49では、EGR弁の開度を、通常開度よりも閉じ側に補正し(VO←VO_CLO)、この処理を終了する。
【0099】
上記実施形態では、アンモニアを還元剤とし、かつこの前駆体として尿素水を供給する尿素添加式の排気浄化システムに、本発明を適用した例を示したが、これに限るものではない。
例えば、尿素水を供給しこの尿素水からアンモニアを生成せずに、直接アンモニアを供給してもよい。また、アンモニアの前駆体としては、尿素水に限らず他の添加剤を用いてもよい。また、NOxを還元するための還元剤はアンモニアに限るものではない。本発明は、NOxを還元するための還元剤として、アンモニアの代わりに、例えば炭化水素を用いた排気浄化システムに適用することもできる。
【符号の説明】
【0100】
1…エンジン(内燃機関)
11…排気管(排気通路)
12…吸気管(吸気通路)
18…EGR管(EGR通路)
19…EGR弁
2…排気浄化システム
231…第1選択還元触媒
232…第2選択還元触媒
25…ユリア噴射装置(還元剤供給手段)
26…NHセンサ(還元剤検出手段、第2ストレージ量推定手段、第2吸着許容量推定手段)
27…排気温度センサ(温度取得手段)
26…NOxセンサ(流入NOx量取得手段)
3…ECU(温度取得手段、温度上昇判定手段、スリップ抑制制御手段、第2ストレージ量推定手段、目標値設定手段、第2吸着許容量推定手段)
64…スリップ速度算出部(スリップ量推定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、還元剤の存在下で排気中のNOxを浄化しかつこの還元剤を吸着する第1選択還元触媒と、
前記排気通路のうち前記第1選択還元触媒より下流側に設けられた第2選択還元触媒と、
前記排気通路のうち前記第1選択還元触媒より上流側に還元剤又はその前駆体を供給する還元剤供給手段と、を備えた内燃機関の排気浄化システムであって、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第1選択還元触媒が温度上昇状態であるか否かを判定する温度上昇判定手段と、
当該温度上昇判定手段により温度上昇状態であると判定された場合には、前記還元剤供給手段からの還元剤又は前駆体の供給量を0より大きな制限供給量まで低減させる還元剤制限制御、及び前記内燃機関のNOx排出量を通常制御時より増加させるNOx排出量増加制御を実行するスリップ抑制制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
前記第1選択還元触媒に流入したNOx量を検出又は推定する流入NOx量取得手段と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記第1選択還元触媒におけるNOx浄化率を推定する第1浄化率推定手段と、
前記第1選択還元触媒に流入したNOxを浄化するために当該第1選択還元触媒において消費された還元剤の量に相当する還元剤消費量を、前記推定されたNOx浄化率と前記検出又は推定されたNOx量とに基づいて推定する還元剤消費量推定手段と、
前記第1選択還元触媒の温度を検出又は推定する温度取得手段と、
前記検出又は推定された温度に基づいて、前記第1選択還元触媒における還元剤の吸着許容量を推定する第1吸着許容量推定手段と、
前記推定された第1選択還元触媒の吸着許容量に基づいて、前記第1選択還元触媒からの還元剤スリップ量を推定するスリップ量推定手段と、をさらに備え、
前記スリップ抑制制御手段は、前記推定された還元剤スリップ量が前記推定された還元剤消費量より多い場合には前記NOx排出量増加制御を実行し、前記推定された還元剤スリップ量が前記推定された還元剤消費量より少ない場合には前記NOx排出量増加制御を実行しないことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
前記第1選択還元触媒に流入したNOx量を検出又は推定する流入NOx量取得手段と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記第1選択還元触媒におけるNOx浄化率を推定する第1浄化率推定手段と、
前記第1選択還元触媒に流入したNOxを浄化するために当該第1選択還元触媒において消費された還元剤の量に相当する還元剤消費量を、前記推定されたNOx浄化率と前記検出又は推定されたNOx量とに基づいて推定する還元剤消費量推定手段と、
前記第1選択還元触媒と前記第2選択還元触媒との間の排気の還元剤濃度を検出する還元剤検出手段と、
前記検出された還元剤濃度に基づいて、前記第1選択還元触媒からの還元剤スリップ量を推定するスリップ量推定手段と、をさらに備え、
前記スリップ抑制制御手段は、前記推定された還元剤スリップ量が前記推定された還元剤消費量より多い場合には前記NOx排出量増加制御を実行し、前記推定された還元剤スリップ量が前記推定された還元剤消費量より少ない場合には前記NOx排出量増加制御を実行しないことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
前記排気通路を流通する排気の一部を、EGRガスとして前記内燃機関の吸気通路に還流するEGR通路と、
前記EGR通路に設けられEGRガスの量を制御するEGR弁と、をさらに備え、
前記NOx排出量増加制御では、前記EGR弁の開度を通常制御時における開度より閉じ側に補正することでNOx排出量を増加させ、
前記スリップ抑制制御手段は、前記推定された還元剤スリップ量と前記推定された還元剤消費量との偏差に基づいて、前記EGR弁の開度の通常制御時における開度からの補正量を決定することを特徴とする請求項2又は3に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記第2選択還元触媒における還元剤のストレージ量を推定する第2ストレージ量推定手段と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記第2選択還元触媒のストレージ量の推定値に対する目標値を設定する目標値設定手段と、をさらに備え、
前記スリップ抑制制御手段は、前記第2選択還元触媒のストレージ量の推定値が前記目標値以下である場合には前記NOx排出量増加制御を実行せず、前記第2選択還元触媒のストレージ量の推定値が前記目標値より大きい場合には前記NOx排出量増加制御を実行することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項6】
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第2選択還元触媒における還元剤のストレージ量を推定する第2ストレージ量推定手段と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第2選択還元触媒における還元剤の吸着許容量を推定する第2吸着許容量推定手段と、をさらに備え、
前記スリップ抑制制御手段は、前記第2選択還元触媒のストレージ量の推定値が前記吸着許容量の推定値より小さい場合には、当該ストレージ量の推定値が当該吸着許容量の推定値以上である場合よりも、前記制限供給量を多くすることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項7】
前記内燃機関が加速運転状態に移行したことを判定する加速判定手段をさらに備え、
前記スリップ抑制制御手段は、前記加速判定手段により加速運転状態に移行したと判定された場合には、前記還元剤制限制御及び前記NOx排出量増加制御の実行開始を遅延させることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項8】
前記第1選択還元触媒と前記第2選択還元触媒の間の排気の還元剤濃度を検出する還元剤濃度検出手段をさらに備え、
前記スリップ抑制制御手段は、前記還元剤濃度検出手段の出力値が所定値より小さい場合には、前記還元剤制限制御を実行しかつ前記NOx排出量増加制御を実行しないことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−215154(P2012−215154A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81977(P2011−81977)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】