説明

刷版の洗浄装置及び洗浄方法

【課題】凸版印刷などの印刷装置に用いられる刷版を作業性よく簡単に洗浄することができる刷版の洗浄装置及び洗浄方法を提供すること。
【解決手段】容器2の上方に刷版5を吊り下げるための吊り下げ保持部3を設け、刷版5の側部に設けられた被係止部6を吊り下げ保持部3の空間T内に挿入して吊り下げる。そして昇降手段によって刷版5を吊り下げ保持部3とともに下降させ、洗浄液Wに浸漬させることによって刷版5に付着したインキを溶出して除去する。その後、昇降手段により洗浄液Wから刷版5を取り出したならば、第2のモータM2を駆動して、フレーム41をナット43及びスライダ44を介して水平方向に往復移動させる。このとき、ノズル42から洗浄水を刷版5の印刷表面に向かって噴射させながらフレーム41を往復移動させる。これにより、刷版5に残存するインキを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸版印刷などの印刷装置に用いられる刷版の洗浄装置及び洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
用紙やダンボール等の印刷物の印刷方法として、従来より刷版による印刷方法が多用されている。これは、版胴に刷版を巻回装着して、版胴を回転させてアニロックスロールにより刷版にインキを供給しながら、版胴に沿って印刷対象物を相対的に送行することにより、刷版に形成された文字等を印刷対象物に印刷するものである(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−212187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一日の作業終了時等においては、刷版に付着したインキを洗浄して除去する必要がある。しかしながら従来、この洗浄作業は作業者の手洗い等によって行われていたため、多大な手間と労力を要するという問題点があった。
【0005】
そこで本発明は、作業者の労力を軽減し、刷版を作業性よく簡単に洗浄することができる刷版の洗浄装置及び洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の刷版の洗浄装置は、刷版を洗浄する洗浄液を貯留する容器と、前記容器の上方に設けられ、前記刷版の側部に設けられた被係止部を保持して前記刷版を吊り下げる吊り下げ保持部と、吊り下げ保持部を前記容器に対して昇降させる昇降手段と、前記吊り下げ保持部により吊り下げた刷版に向かって洗浄水を噴射するノズルユニットとを備えた。
【0007】
請求項2記載の本発明の刷版の洗浄装置は、請求項1記載の発明において、前記吊り下げ保持部は、2枚の刷版の裏面を互いに対向させて保持する。
【0008】
請求項3記載の本発明の刷版の洗浄装置は、請求項1又は2記載の発明において、前記容器に、前記昇降手段により下降する刷版を水平方向に屈曲させるガイド部材を設けた。
【0009】
請求項4記載の本発明の刷版の洗浄方法は、洗浄液を貯留する容器の上方に設けられた吊り下げ保持部に刷版を吊り下げる工程と、吊り下げた前記刷版を昇降手段により前記容器に対して下降させて前記洗浄液に浸漬させる工程と、前記刷版を前記昇降手段によって上昇させて前記洗浄液から取り出す工程と、ノズルユニットにより洗浄水を噴射して前記洗浄液から取り出された前記刷版を洗浄する工程とを含む。
【0010】
請求項5記載の本発明の刷版の洗浄方法は、洗浄液を貯留する容器の上方に設けられた吊り下げ保持部に刷版を吊り下げる工程と、吊り下げた前記刷版を昇降手段により前記容器に対して下降させて前記刷版の下端部を前記容器内に設けられたガイド部材に当接させることにより、前記刷版を水平方向に屈曲させて前記洗浄液に浸漬させる工程と、浸漬した前記刷版を前記昇降手段によって上昇させて前記洗浄液から取り出す工程と、ノズルユニットにより洗浄水を噴射して前記洗浄液から取り出された前記刷版を洗浄する工程とを含む。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の本発明によれば、吊り下げ保持部に吊り下げた刷版を昇降手段によって容器内の洗浄液に浸漬させることにより、刷版に付着したインキを溶出させて除去する。次いで、洗浄液に浸漬させた刷版を昇降手段によって上昇させて容器から取り出し、ノズルユニットを用いて刷版を洗浄水によって洗浄するので、多大な手間と労力を費やすことなく刷版を作業性よく簡単に洗浄できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態における刷版の洗浄装置の正面図
【図2】(a)(b)本発明の実施の形態における刷版の洗浄装置に用いられる吊り下げ保持部の断面図
【図3】本発明の実施の形態における刷版の洗浄装置の側面図
【図4】(a)(b)本発明の実施の形態における刷版の洗浄装置の吊り下げ保持部の両側端部の説明図
【図5】本発明の実施の形態における刷版の洗浄装置に用いられる刷版の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、図1〜5を参照しながら説明する。図1において、刷版の洗浄装置1は容器2、容器2の上方に設けられた左右一対の吊り下げ保持部3、吊り下げ保持部3の昇降手段(後述)、ノズルユニット4から成っている。図1において、容器2内に貯溜された洗浄液Wに刷版5を浸漬させることにより、刷版5に付着したインキを溶出させて除去する。なお、インキの除去効率を高めるために、洗浄液Wを温水にすることが望ましい。
【0014】
図1において、容器2にはガイド部材8(81,82)が設けられている。ガイド部材8(81,82)はその側部に屈曲して立上る立上り部81a,82aを有しており、吊り下げ保持部3に吊り下げた刷版5が昇降手段(後述)を駆動して下降する際、刷版5の下端部がこの立上り部81a,82aに当接するように設けられている。刷版5の下端部をこの立上り部81a,82aに当接させることにより、刷版5は水平方向に屈曲し(矢印a,b)、洗浄液Wに浸漬する。
【0015】
上記のようなガイド部材8(81,82)を図1に示すように上下に複数段(本実施例では2段)に設けることにより、容器2内において多数枚(複数枚)の刷版5を略水平に積層して浸漬することができ、容器2を浅くして装置全体のコンパクト化が可能となっている。
【0016】
図5において、刷版5はその表面に印刷すべき文様(本実施の形態では文字「A」)を形成した可撓性のシートから成っており、その側部には被係止部6が設けられている。被係止部6は、刷版5を版胴に巻回装着して固定するためのものである。
【0017】
次に、刷版5の吊り下げ保持部について説明する。図1及び図3において、容器2の上方の左右には刷版5を吊り下げるための吊り下げ保持部3が設けられている。この吊り下げ保持部3について、図2を参照して説明する。図2(a)において、吊り下げ保持部3は、上面部3aと、上面部3aの両側部からそれぞれ下方へ下垂する側面部3bと、上面部3aの略中心部からそれぞれ側面部3bの下端部方向へ延びる屈曲部3cとから成っている。この上面部3a、側面部3b、屈曲部3cにより囲まれた空間Tは、被係止部6を挿入して刷版5を吊り下げるための被係止部6を保持する空間となっている。また、側面部3bの先端部3b1と屈曲部3cの先端部3c1との間には、刷版5を挿入する隙間Lが確保されている。
【0018】
次に、図3に示す吊り下げ保持部3の両側端部(左端部A,右端部B)について、図4を用いて説明する。図4(a)に示すように、吊り下げ保持部3において、作業者P側とは反対側の右端部Bには、板状のストッパ31が設けられている(図2も参照)。このストッパ31は、刷版5の洗浄中に刷版5が右端部Bからずれ落ちるのを防止する。
【0019】
刷版5をこの吊り下げ保持部3に吊り下げるには、図3に示すように、作業者Pが左端部Aから被係止部6を空間T内に挿入する。次に、図3及び図4(b)に示すように、刷版5を吊り下げ保持部3に吊り下げた状態において、吊り下げ保持部3の左端部Aに着脱自在な蓋部材32を装着する(鎖線で示す蓋部材32を参照)。この蓋部材32により、刷版5の洗浄中に刷版5が左端部Aからずれ落ちるのを防止する。また、吊り下げ保持部3は2つの空間Tを有するため、2枚の刷版5を同時に吊り下げることができる。
【0020】
次に、吊り下げ保持部3の昇降手段について説明する。図1及び図3において、容器2の上方には水平な回転軸9が設けられている。また回転軸9にはプーリ10が装着されており、プーリ10にはワイヤ11が調帯されている。図3において、枠部20上には第1のモータM1が装着されている。第1のモータM1の出力軸と回転軸9には、ベルト13が調帯されている。したがって第1のモータM1を駆動することにより回転軸9はその軸心を中心に回転する。
【0021】
ワイヤ11の先端部は吊り下げ保持部3の上部に固着されている。したがって第1のモータM1を正逆駆動して回転軸9を回転させることにより、ワイヤ11はプーリ10に巻き取り巻き戻しされ、これにより吊り下げ保持部3はワイヤ11を介して洗浄液Wが貯溜された容器2に対して昇降する(図1,図3の矢印c)。すなわち、回転軸9、プーリ10、ワイヤ11、ベルト13、第1のモータM1は、吊り下げ保持部3に吊り下げた刷版5を容器2に対して昇降させる昇降手段となっている。
【0022】
次に、ノズルユニット4について図1及び図3を参照しながら説明する。図1及び図3において、吊り下げ保持部3に吊り下げた刷版5の印刷表面に対向する位置には、縦長形状のフレーム41が水平方向に複数設けられている。図1において、フレーム41の刷版5に対向する面には、複数のノズル42が縦方向にピッチをおいて備えられており、給水管(図示せず)を介してノズル42から洗浄水が噴射するようになっている。
【0023】
図1において、フレーム41の背面側にはナット43と、スライダ44が装着されている。ナット43は水平な送りねじ45に螺合しており、スライダ44はガイドレール46に沿って水平方向にスライド自在に嵌合している。図3に示すように、送りねじ45は枠部20の側部に設けられた第2のモータM2を駆動することによりその軸心を中心に回転する(矢印d)。第2のモータM2を駆動し送りねじ45が回転することにより、フレーム41はナット43及びスライダ44を介して水平方向に移動する(図3の矢印e)。
【0024】
刷版5を洗浄するときは、ノズル42から洗浄水を噴射させながら第2のモータM2を駆動し、フレーム41を水平方向に往復移動させることにより、刷版5の表面全体を均一に洗浄することができる。すなわち、フレーム41、ノズル42は、吊り下げ保持部3に吊り下げた刷版5の印刷表面に向かって洗浄水を噴射するノズルユニット4を構成する。またナット43、スライダ44、送りねじ45、ガイドレール46、第2のモータM2は、ノズルユニット4を水平方向に移動させる移動手段となっている。本実施の形態においては、複数枚(4枚)の刷版5を吊り下げて洗浄することが可能であるので、各々の刷版5の印刷表面に併せてノズルユニット4が複数個(本実施の形態では4個)設けられている。
【0025】
なお、ノズルユニットにエアー噴射手段を設け、洗浄水機能とエアー送風機能を具備させてもよい。かかる場合、洗浄水を噴射した後の刷版5の印刷表面に向かってエアーを噴射させることにより、刷版5に付着した水滴を吹き飛ばしてより短時間で乾燥させることが可能となる。
【0026】
本実施の形態は上記のように構成されており、次に動作について図1及び図3を参照しながら説明する。まず、図3に示すように作業者Pは刷版5の被係止部6を吊り下げ保持部3の空間Tに挿入して刷版5を吊り下げ保持部3に吊り下げる。刷版5を吊り下げ保持部3に吊り下げたならば、吊り下げ保持部3の左端部A(図4(b)参照)に蓋部材32を装着する。
【0027】
次に、第1のモータM1を駆動することにより、回転軸9は回転してワイヤ11はプーリ10から巻き戻され、刷版5は吊り下げ保持部3とともに下降する(図1の矢印c)。このようにして、吊り下げ保持部3に保持された刷版5は洗浄液Wに浸漬するが、図1に示すように、吊り下げた刷版5の下方にはガイド部材81,82の立上り部81a,82aが位置しており、下降する刷版5の下端部をこの立上り部81a,82aに当接させることにより、刷版5を垂直方向から水平方向に屈曲させて刷版5を略水平な姿勢で洗浄液Wに浸漬させる(図1の矢印a,b)。洗浄液Wに浸漬した刷版5に付着したインキのかなりの部分が刷版5から溶出する。
【0028】
この浸漬工程においては、容器2の両側部の上方にそれぞれ設けられた吊り下げ保持部3に吊り下げられた刷版5を同時に浸漬させることができる。即ち、容器2の両側部の上方にそれぞれ設けられた吊り下げ保持部3に複数の刷版5を吊り下げ、吊り下げた複数の刷版5を容器2の両側部の上方からそれぞれ容器2に対して下降させ、下降する複数の刷版5の下端部を容器2内に設けられたガイド部材81,82の立上り部81a,82aに当接させることにより、複数の刷版5を水平方向に屈曲させて洗浄液Wに浸漬させることができる。これにより、複数の刷版5はそれぞれ容器2の両側部の上方から下降して洗浄液Wに浸漬するが、各吊り下げ保持部3によって吊り下げた刷版5の浸漬ルートはガイド部材81,82によって区分けされるため、刷版5同士が互いに衝突することはなく、整然と洗浄液W中に浸漬させて複数の刷版5を同時に洗浄することができる。
【0029】
洗浄液Wに刷版5を所定時間浸漬させたならば、第1のモータM1を駆動して刷版5を上昇させ、刷版5を洗浄液Wから取り出す。洗浄液Wから刷版5を取り出したならば、第2のモータM2を駆動して水平方向に往復移動させる(図3の矢印e)。このとき、ノズル42から洗浄水を刷版5の印刷表面に向かって噴射させながらフレーム41を往復移動させる。これにより、刷版5に残存するインキを除去する。また、エアー噴射手段を備えたノズル42を用いる場合には、洗浄水による洗浄作業が終了したならば、ノズル42からエアーを噴射させながらフレーム41を往復移動させる。これにより、刷版5に付着した水滴をより短時間で除去して乾燥させることができる。刷版5の洗浄作業を終えたならば、作業者Pは蓋部材32を吊り下げ保持部3から取り外し、刷版5を吊り下げ保持部3から抜き出して、洗浄済みの刷版5を所定の場所へ移送する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、吊り下げ保持部に吊り下げた刷版を昇降手段によって洗浄液に浸漬させることにより刷版に付着したインキを除去し、洗浄液に浸漬させた刷版を昇降手段によって取り出した後にノズルユニットを用いて刷版の印刷表面を洗浄水によって洗浄するので、刷版を軽作業で簡単に洗浄でき、凸版印刷に関する分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 刷版の洗浄装置
2 容器
3 吊り下げ保持部
4 ノズルユニット
5 刷版
6 被係止部
8(81,82) ガイド部材
81a,82a 立上り部
9 回転軸
10 プーリ
11 ワイヤ
31 ストッパ
32 蓋部材
41 フレーム
42 ノズル
43 ナット
44 スライダ
45 送りねじ
46 ガイドレール
W 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刷版を洗浄する洗浄液を貯留する容器と、前記容器の上方に設けられ、前記刷版の側部に設けられた被係止部を保持して前記刷版を吊り下げる吊り下げ保持部と、吊り下げ保持部を前記容器に対して昇降させる昇降手段と、前記吊り下げ保持部により吊り下げた刷版に向かって洗浄水を噴射するノズルユニットとを備えたことを特徴とする刷版の洗浄装置。
【請求項2】
前記吊り下げ保持部は、2枚の刷版の裏面を互いに対向させて保持することを特徴とする請求項1記載の刷版の洗浄装置。
【請求項3】
前記容器に、前記昇降手段により下降する刷版を水平方向に屈曲させるガイド部材を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の刷版の洗浄装置。
【請求項4】
洗浄液を貯留する容器の上方に設けられた吊り下げ保持部に刷版を吊り下げる工程と、吊り下げた前記刷版を昇降手段により前記容器に対して下降させて前記洗浄液に浸漬させる工程と、前記刷版を前記昇降手段によって上昇させて前記洗浄液から取り出す工程と、ノズルユニットにより洗浄水を噴射して前記洗浄液から取り出された前記刷版を洗浄する工程とを含むことを特徴とする刷版の洗浄方法。
【請求項5】
洗浄液を貯留する容器の上方に設けられた吊り下げ保持部に刷版を吊り下げる工程と、吊り下げた前記刷版を昇降手段により前記容器に対して下降させて前記刷版の下端部を前記容器内に設けられたガイド部材に当接させることにより、前記刷版を水平方向に屈曲させて前記洗浄液に浸漬させる工程と、浸漬した前記刷版を前記昇降手段によって上昇させて前記洗浄液から取り出す工程と、ノズルユニットにより洗浄水を噴射して前記洗浄液から取り出された前記刷版を洗浄する工程とを含むことを特徴とする刷版の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−161684(P2011−161684A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24692(P2010−24692)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(599146897)株式会社 寳章堂 (4)
【Fターム(参考)】