説明

動力伝達装置

【課題】体格が小さく、長期に亘り初期性能を維持可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】クラッチ50は、軸方向の少なくとも一部が収容空間35に位置する筒部511を有しエンジン11の出力軸112に接続されるドラム51、筒部511の内壁および第2筒部333の外壁に接続するよう設けられる摩擦係合要素52、および、摩擦係合要素52に押し付けられることで摩擦係合要素52を係合させることが可能な環状の押付部材53を有している。押付部材53は、筒部511の内壁との間に環状の第1隙間531を形成している。押付部材53の摩擦係合要素52とは反対側には、油圧空間56が形成されている。油圧空間56に作動油が供給されることで押付部53材が摩擦係合要素52に押し付けられることにより摩擦係合要素52が係合し、エンジン11の出力軸112とロータシャフト33とが連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの動力を変速機に伝達する動力伝達装置に関し、特にモータジェネレータおよびクラッチを備えた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータジェネレータおよびクラッチを備え、クラッチを作動させることによりエンジンの動力またはモータジェネレータの動力を変速機に伝達する、ハイブリッド車両用の動力伝達装置が知られている。特許文献1に記載された動力伝達装置では、モータジェネレータのロータの径方向内側のロータシャフトに形成した収容空間にクラッチを配置することにより、動力伝達装置の軸方向の体格の小型化を図っている。ここで、クラッチは、複数の摩擦板、および、当該摩擦板に押し付けられることにより摩擦板同士を係合させる押付部材を有している。前記収容空間には押付部材との間に油圧空間を形成するドラムが設けられている。そして、油圧空間に作動油を供給することにより押付部材を摩擦板に押し付けることでクラッチを作動させている。また、前記収容空間に形成される油圧空間に作動油を供給することにより、摩擦板の潤滑および冷却を図っている。
【0003】
特許文献1の動力伝達装置では、ドラムは、前記収容空間を形成するロータシャフトに固定され、クラッチの作動中および非作動中にかかわらず押付部材とは密に接する状態が維持されている。このような構成では、前記収容空間の摩擦板の周囲で作動油が滞留することが懸念される。作動油が滞留すると、クラッチ作動時の摩擦板同士の摩擦により生じる摩擦熱で高温となった摩擦板を作動油によって十分に冷却できず、摩擦板が異常高温の状態になるおそれがある。その結果、摩擦板の寿命が短くなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−15997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、体格が小さく、長期に亘り初期性能を維持可能な動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、エンジンの駆動力を変速機に伝達するための動力伝達装置であって、ハウジングとモータジェネレータとクラッチとを備える。モータジェネレータは、ステータ、ロータおよびロータシャフトを有している。ステータは、筒状に形成され、ハウジングに収容および固定されている。また、ステータには巻線が巻回されている。ロータは、筒状に形成され、ステータの内側に回転可能に設けられている。ロータシャフトは、ロータの内壁に嵌合するとともにハウジングに回転可能に支持され、変速機の入力軸に接続される。クラッチは、エンジンの出力軸とロータシャフトとの間に設けられる。クラッチは、エンジンの出力軸とロータシャフトとを連結可能である。これにより、エンジンの出力軸から出力される駆動力を、ロータシャフトを経由して変速機に伝達することができる。
【0007】
本発明では、ロータシャフトは、エンジン側の端部に形成される軸部、外壁がロータの内壁に嵌合するよう設けられる第1筒部、軸部の径方向外側に設けられる第2筒部、および、第1筒部の内壁と第2筒部の外壁とを接続する環状部を有している。第1筒部と第2筒部との間には、環状部のエンジン側に筒状の収容空間が形成されている。クラッチは、軸方向の少なくとも一部が前記収容空間に位置する筒部を有しエンジンの出力軸に接続されるドラム、筒部の内壁および第2筒部の外壁に接続するよう設けられる摩擦係合要素、および、筒部と第2筒部との間に設けられ、摩擦係合要素に押し付けられることで摩擦係合要素を係合させることが可能な環状の押付部材を有している。押付部材は、筒部の内壁との間に環状の第1隙間、もしくは、外縁部に径方向内側へ凹む単数または複数の凹部を形成している。押付部材の摩擦係合要素とは反対側には、油圧空間が形成されている。そして、油圧空間に作動油が供給されることで押付部材が摩擦係合要素に押し付けられることにより摩擦係合要素が係合し、エンジンの出力軸とロータシャフトとが連結する。
【0008】
上記構成により、油圧空間に供給された作動油は、前記第1隙間または前記凹部を経由して摩擦係合要素側へ容易に流れる。これにより、摩擦係合要素の周囲で作動油を循環させることができ、作動油によって摩擦係合要素を効果的に冷却および潤滑することができる。したがって、クラッチ作動時の摩擦係合要素の異常発熱を抑制することができる。よって、摩擦係合要素の寿命を延ばすことができ、クラッチの初期性能を長期に亘り維持することができる。
【0009】
また、本発明では、上述のように、ドラムの筒部の軸方向の少なくとも一部、すなわちクラッチの少なくとも一部は、前記収容空間に収容されている。つまり、クラッチとロータとは、ロータの軸方向において一部オーバーラップして配置されている。これにより、動力伝達装置の体格を小さくすることができる。
【0010】
さらに、本発明では、摩擦係合要素は、ドラムの筒部の内側、すなわち前記収容空間に収容されている。そのため、摩擦係合要素を大きくしても動力伝達装置の軸方向の大型化を招くことがない。よって、摩擦係合要素を例えば複数の摩擦板で構成する場合、摩擦板の枚数を増やすことにより、各摩擦板からの摩擦による発熱量を低減することができる。これにより、動力伝達装置の大型化を招くことなく、クラッチの異常発熱を防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、押付部材は、第2筒部の外壁との間に環状の第2隙間を形成している。これにより、油圧空間に供給された作動油は、前記第1隙間または前記凹部のみならず、第2隙間を経由して摩擦係合要素側へ容易に流れる。そのため、作動油によって摩擦係合要素をより効果的に冷却および潤滑することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、クラッチは、押付部材を油圧空間側へ付勢する付勢部材を有している。これにより、油圧空間の圧力が小さいとき、押付部材による摩擦係合要素の係合を、付勢部材によって素早く解除することができる。本発明では、付勢部材は、摩擦係合要素の径方向外側に設けられている。そのため、付勢部材によって、押付部材を油圧空間側へより安定して付勢することができる。また、摩擦係合要素の有効径を小さくすることができるため、摩擦係合要素の摩擦による発熱量をより低減することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、エンジンの駆動力を変速機に伝達するための動力伝達装置であって、ハウジングとモータジェネレータとクラッチとを備える。モータジェネレータは、ステータ、ロータおよびロータシャフトを有している。ステータは、筒状に形成され、ハウジングに収容および固定されている。また、ステータには巻線が巻回されている。ロータは、筒状に形成され、ステータの内側に回転可能に設けられている。ロータシャフトは、ロータの内壁に嵌合するとともにハウジングに回転可能に支持され、変速機の入力軸に接続される。クラッチは、エンジンの出力軸とロータシャフトとの間に設けられる。クラッチは、エンジンの出力軸とロータシャフトとを連結可能である。これにより、エンジンの出力軸から出力される駆動力を、ロータシャフトを経由して変速機に伝達することができる。
【0014】
本発明では、ロータシャフトは、エンジン側の端部に形成される軸部、外壁がロータの内壁に嵌合するよう設けられる第1筒部、軸部の径方向外側に設けられる第2筒部、および、第1筒部の内壁と第2筒部の外壁とを接続する環状部を有している。第1筒部と第2筒部との間には、環状部のエンジン側に筒状の収容空間が形成されている。クラッチは、軸方向の少なくとも一部が前記収容空間に位置する筒部を有しエンジンの出力軸に接続されるドラム、筒部の外壁および第1筒部の内壁に接続するよう設けられる摩擦係合要素、および、筒部と第1筒部との間に設けられ、摩擦係合要素に押し付けられることで摩擦係合要素を係合させることが可能な環状の押付部材を有している。押付部材は、第1筒部の内壁との間に環状の第1隙間、もしくは、外縁部に径方向内側へ凹む単数または複数の凹部を形成している。押付部材の摩擦係合要素とは反対側には、油圧空間が形成されている。そして、油圧空間に作動油が供給されることで押付部材が摩擦係合要素に押し付けられることにより摩擦係合要素が係合し、エンジンの出力軸とロータシャフトとが連結する。
【0015】
上記構成により、油圧空間に供給された作動油は、前記第1隙間または前記凹部を経由して摩擦係合要素側へ容易に流れる。これにより、摩擦係合要素の周囲で作動油を循環させることができ、作動油によって摩擦係合要素を効果的に冷却および潤滑することができる。したがって、クラッチ作動時の摩擦係合要素の異常発熱を抑制することができる。よって、摩擦係合要素の寿命を延ばすことができ、クラッチの初期性能を長期に亘り維持することができる。
【0016】
また、本発明では、上述のように、ドラムの筒部の軸方向の少なくとも一部、すなわちクラッチの少なくとも一部は、前記収容空間に収容されている。つまり、クラッチとロータとは、ロータの軸方向において一部オーバーラップして配置されている。これにより、動力伝達装置の体格を小さくすることができる。
【0017】
さらに、本発明では、摩擦係合要素は、ドラムの筒部の外側、すなわち前記収容空間に収容されている。そのため、摩擦係合要素を大きくしても動力伝達装置の軸方向の大型化を招くことがない。よって、摩擦係合要素を例えば複数の摩擦板で構成する場合、摩擦板の枚数を増やすことにより、各摩擦板からの摩擦による発熱量を低減することができる。これにより、動力伝達装置の大型化を招くことなく、クラッチの異常発熱を防止することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、押付部材は、筒部の外壁との間に環状の第2隙間を形成している。これにより、油圧空間に供給された作動油は、前記第1隙間または前記凹部のみならず、第2隙間を経由して摩擦係合要素側へ容易に流れる。そのため、作動油によって摩擦係合要素をより効果的に冷却および潤滑することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明では、クラッチは、押付部材を油圧空間側へ付勢する付勢部材を有している。これにより、油圧空間の圧力が小さいとき、押付部材による摩擦係合要素の係合を、付勢部材によって素早く解除することができる。本発明では、付勢部材は、摩擦係合要素の径方向内側に設けられている。
【0020】
請求項7に記載の発明では、第1隙間は、第2隙間よりも大きく形成されている。第1隙間および第2隙間のうち、径方向外側に位置する隙間(第1隙間)をより大きく形成することにより、油圧空間に供給された作動油は、第1隙間を経由して摩擦係合要素側へより流れ易くなる。したがって、作動油によって摩擦係合要素を冷却および潤滑する効果をより高めることができる。
【0021】
請求項8および9に記載の発明では、ロータシャフトには、油圧空間に連通し作動油が流れる油路が形成されている。そのため、作動油を変速機側から油路に容易に導入することができる。これにより、変速機を作動させるために変速機に供給される作動油を、クラッチの作動油として流用することが容易になる。よって、クラッチを作動させるための新たな油圧回路を形成する必要がなく、コストを低減することができる。
【0022】
また、請求項8に記載の発明では、油圧空間は、摩擦係合要素のエンジン側に形成されている。
また、請求項9に記載の発明では、油圧空間は、摩擦係合要素の変速機側に形成されている。そのため、油路を摩擦係合要素よりも変速機側に形成することができる。これにより、ロータシャフトのうち摩擦係合要素の内側の部分を中空にすることができる。その結果、ロータシャフトの慣性マスを小さくすることができる。
なお、上記において「筒状」とは、例えば「中空円筒状」を意味し、概ね円筒状(略円筒状)であることも含むものとする。また、「環状」とは、例えば「円環状」を意味し、概ね円環状(略円環状)であることも含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態による動力伝達装置を車両に設置した状態を示す模式図。
【図2】本発明の第1実施形態による動力伝達装置を示す断面図。
【図3】本発明の第1実施形態による動力伝達装置のダンパの配置を説明するための図であってフライホイール、ダンパ、および、クラッチのドラムを軸方向の変速機側から見た図。
【図4】本発明の第2実施形態による動力伝達装置を示す断面図。
【図5】本発明の第3実施形態による動力伝達装置を示す断面図。
【図6】本発明の他の実施形態による動力伝達装置のクラッチの押付部材を軸方向から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の複数の実施形態による動力伝達装置を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による動力伝達装置を図1および2に示す。
動力伝達装置1は、例えばエンジンおよびモータを駆動源とするハイブリッド車両に搭載される。本実施形態では、動力伝達装置1は、駆動源としてのモータ(モータジェネレータ)を含む。
【0026】
図1に示すように、動力伝達装置1は、車両のエンジン11と変速機12との間に設置される。動力伝達装置1は、第1の駆動源としてのエンジン11から出力される駆動力を変速機12に伝達する。変速機12に伝達された駆動力は、変速機12の変速機構により減速または増速され、差動装置としてのデフ13を経由して車軸14に伝達される。これにより、車輪15が回転し、車両が走行する。なお、本実施形態では、変速機12は、無段階変速機(CVT)である。変速機12の変速機構は、ポンプ16から供給される作動油によって作動する。
【0027】
また、動力伝達装置1は、第2の駆動源としてのモータジェネレータ30を備えている。モータジェネレータ30の駆動力を変速機12に伝達することにより、モータジェネレータ30の駆動力による車両の走行が可能である。また、エンジン11の駆動力により車両を走行させているとき、モータジェネレータ30の駆動力を走行のための補助力として用いることもできる。
【0028】
さらに、本実施形態では、車輪15の回転力を、車軸14、デフ13および変速機12を経由してモータジェネレータ30に伝達することで、モータジェネレータ30による発電が可能である。すなわち、モータジェネレータ30は、所謂回生ブレーキ制御により発電する。モータジェネレータ30の発電による電力は、バッテリ17に蓄積され、モータジェネレータ30の駆動、ならびに、その他装置および機器類の作動のために利用される。モータジェネレータ30は、図示しない電子制御ユニット(ECU)により制御される。ECUは、車両に取り付けられたセンサ類からの情報等に基づき、車両に搭載された装置および機器類を制御する。モータジェネレータ30の詳細な構成等については、後に詳述する。
【0029】
図2に示すように、動力伝達装置1は、ハウジング20、モータジェネレータ30、フライホイール40、クラッチ50およびダンパ60等を備えている。
ハウジング20は、例えば金属により筒状に形成されている。ハウジング20は、一方の端部がエンジン11のエンジンハウジング111に接続され、他方の端部が変速機12の変速機ハウジング121に接続される。ハウジング20は、中空円筒状の筒部21、および、当該筒部21の内壁から径方向内側へ延びる円板状の支持部22を有している。支持部22の中央には、挿通穴221が形成されている。支持部22には、挿通穴221の縁からエンジン11側へ中空円筒状に延びるハウジング筒部222が形成されている。
【0030】
モータジェネレータ30は、筒部21の内側に位置するようハウジング20に収容されている。モータジェネレータ30は、ステータ31、ロータ32およびロータシャフト33を有している。ステータ31は、例えば珪素鋼板を積層することにより中空円筒状に形成されている。ステータ31は、外壁が筒部21の内壁に対向するよう嵌合することで、ハウジング20に収容および固定されている。また、ステータ31には複数の巻線311が巻回されている。当該巻線311は、ステータ31の径方向内側へ突出する複数の突極に巻回されている。
【0031】
ロータ32は、ステータ31と同様、例えば珪素鋼板を積層することにより中空円筒状に形成されている。ロータ32は、外壁がステータ31の内壁と対向するよう、ステータ31の内側に回転可能に設けられている。ロータ32の外壁とステータ31の内壁との間には、所定のギャップが形成されている。
【0032】
ロータシャフト33は、金属により略円柱状に形成されている。ロータシャフト33は、軸部331、第1筒部332、第2筒部333、環状部334および接続部335を有している。軸部331は、ロータシャフト33のエンジン11側の端部に形成される。第1筒部332は、外壁がロータ32の内壁に嵌合するよう設けられる。第2筒部333は、軸部331の外壁との間に略円筒状の空間34を形成している。環状部334は、第1筒部332の内壁と第2筒部333の外壁とを接続している。接続部335は、第2筒部333の内壁と軸部331の外壁とを接続している。また、第1筒部332と第2筒部333との間には、環状部334のエンジン11側に略円筒状の収容空間35が形成されている。
【0033】
上述のハウジング筒部222は、空間34をエンジン11側に向かって中空円筒状に延び、内側に軸部331が挿通されている。軸部331の外壁とハウジング筒部222の内壁との間には、軸受部としてのベアリング23が設けられている。ベアリング23は、円環状に形成され、軸部331の軸方向に並ぶようにして2つ設けられている。
【0034】
このように、ロータシャフト33の軸部331は、ベアリング23を介してハウジング20のハウジング筒部222に回転可能に支持されている。これにより、ロータ32は、ロータシャフト33およびベアリング23を介してハウジング20に回転可能に支持されている。このように、ロータシャフト33は、ロータ32の内壁に嵌合するとともにハウジング20に回転可能に支持されている。また、ロータシャフト33の軸部331とは反対側の端部は、変速機12の入力軸122に接続される。
【0035】
フライホイール40は、例えば金属により略円板状に形成され、ボルト18によってエンジン11の出力軸112に接続される。
クラッチ50は、エンジン11の出力軸112とロータシャフト33との間、より具体的にはフライホイール40とロータシャフト33との間に設けられている。クラッチ50は、ドラム51、摩擦係合要素52、押付部材53および付勢部材54を有している。ドラム51は、軸方向の少なくとも一部が収容空間35に位置する略円筒状の筒部511を有している。
摩擦係合要素52は、複数の摩擦板521および複数の摩擦板522からなる。複数の摩擦板521は、円環状に形成され、外縁部が筒部511の内壁に接続するよう、所定の間隔を空けて設けられている。複数の摩擦板522は、摩擦板521より径の小さい円環状に形成され、内縁部がロータシャフト33の第2筒部333の外壁に接続するよう、複数の摩擦板521の間に設けられている。
【0036】
押付部材53は、略円環状に形成され、摩擦係合要素52のエンジン11側に設けられている。ここで、押付部材53は、複数の摩擦板521のうち最もエンジン11側に位置する摩擦板521に当接可能である。また、押付部材53は、ドラム51の筒部511の内壁との間に円環状の第1隙間531を形成している。さらに、押付部材53は、第2筒部333の外壁との間に円環状の第2隙間532を形成している。ここで、本実施形態では、第1隙間531は、第2隙間よりも大きく形成されている。
【0037】
付勢部材54は、一方の端部が、ドラム51の筒部511のエンジン11側に形成された収容溝513に収容されている。付勢部材54の他方の端部は、押付部材53に接している。付勢部材54は、本実施形態ではコイルスプリングであり、軸方向に伸びる力を有している。これにより、付勢部材54は、押付部材53をエンジン11側に付勢している。なお、付勢部材54は、図2に示すように、摩擦係合要素52の径方向外側に設けられている。
【0038】
ロータシャフト33のエンジン11側の端面には、略円板状の板部材55が取り付けられている。板部材55は、筒部511のエンジン11側開口を塞いでいる。これにより、板部材55と押付部材53との間に略円環状の油圧空間56が形成されている。つまり、油圧空間56は、押付部材53の摩擦係合要素52とは反対側に形成されている。
【0039】
本実施形態では、ロータシャフト33には、ロータシャフト33の軸方向に延びる第1油路336、および、当該第1油路336からロータシャフト33の径方向外側に延びて油圧空間56に連通する第2油路337が形成されている。ポンプ16から吐出される作動油は、変速機12の変速機構に供給されるとともに、図示しない制御バルブにより制御され第1油路336および第2油路337を経由して油圧空間56に供給される。油圧空間56に作動油が供給されると、油圧空間56の圧力が高まる。すると、押付部材53は、付勢部材54の付勢力に抗して変速機12側へ移動し、最もエンジン11側に位置する摩擦板521に押し付けられる。これにより、ドラム51の筒部511に接続している複数の摩擦板521は、筒部511とともに変速機12側へ押されて移動し、ロータシャフト33の第2筒部333に接続している複数の摩擦板522と係合する。その結果、フライホイール40(出力軸112)とロータシャフト33とは、クラッチ50を介して連結する。なお、本実施形態では、油圧空間56に供給された作動油は、第1隙間531および第2隙間532を経由して摩擦係合要素52側へ流れる。
【0040】
このように、クラッチ50は、摩擦係合要素52を有し、当該摩擦係合要素52を係合させることにより出力軸112とロータシャフト33とを連結可能である。これにより、エンジン11の出力軸112から出力される駆動力を、ロータシャフト33を経由して変速機12に伝達することができる。
【0041】
ダンパ60は、本実施形態ではコイルスプリングであり、軸方向に弾性変形可能である。ダンパ60は、フライホイール40とクラッチ50とを接続している。より具体的には、ダンパ60は、図3に示すように、フライホイール40とクラッチ50のドラム51との間に、フライホイール40の周方向に沿って5つ設けられている。フライホイール40とドラム51とは相対回転可能である。フライホイール40とドラム51とが相対回転するとき、ダンパ60は弾性変形する。
【0042】
本実施形態では、ロータシャフト33の第2筒部333の外壁とドラム51の筒部511の内壁との間に、所定の大きさのクリアランス101が形成されている。これにより、油圧空間56から第1隙間531および第2隙間532を経由して摩擦係合要素52側へ流れた作動油は、クリアランス101を経由して、筒部511の外部へ流れ出ることができる。クリアランス101を経由して流れ出た作動油は、筒部511と第1筒部332との間、および、ロータ32とステータ31との間を経由しベアリング23に到達することで、ベアリング23を潤滑可能である。
【0043】
次に、本実施形態による動力伝達装置1の作動の一例について、図1および2に基づき説明する。
エンジン11が駆動すると出力軸112が回転する。これにより、出力軸112に接続されているフライホイール40、および、フライホイール40とダンパ60により接続されているクラッチ50が回転する。このとき、出力軸112とロータシャフト33とは連結されていないため、エンジン11の駆動力は、ロータシャフト33に伝達されない。
【0044】
ポンプ16から制御バルブ、第1油路336および第2油路337を経由して作動油が油圧空間56に供給されると油圧空間56の圧力が高まり、押付部材53が摩擦係合要素52に押し付けられ、摩擦係合要素52の複数の摩擦板521と複数の摩擦板522とが互いに係合する。これにより、フライホイール40(出力軸112)とロータシャフト33とが連結された状態となる。その結果、エンジン11の駆動力は、ロータシャフト33を経由して変速機12の入力軸122に伝達される。入力軸122に伝達されたエンジン11の駆動力は、デフ13および車軸14を経由して車輪15に伝達される。これにより、車両が走行する。
【0045】
なお、このとき、油圧空間56から第1隙間531および第2隙間532を経由して摩擦係合要素52側へ流れた作動油により、摩擦係合要素52は、冷却および潤滑される。当該摩擦係合要素52を冷却および潤滑した作動油は、第2筒部333の外壁とドラム51の筒部511の内壁との間のクリアランス101を経由して、筒部511の外部へ流れ出る。このように、本実施形態では、クラッチ50の作動時、摩擦係合要素52の周囲を作動油が循環する。
【0046】
クラッチ50が出力軸112とロータシャフト33とを連結した状態でモータジェネレータ30を駆動させると、モータジェネレータ30の駆動力は、ロータシャフト33を経由して、エンジン11の駆動力とともに変速機12の入力軸122に伝達される。このように、エンジン11の駆動力により車両を走行させているとき、モータジェネレータ30の駆動力を走行のための補助力として用いることができる。
【0047】
ポンプ16から油圧空間56への作動油の供給を停止すると、油圧空間56の圧力が低下する。そのため、押付部材53は、付勢部材54の付勢力によりエンジン11側へ移動する。これにより、複数の摩擦板521と複数の摩擦板522との係合が解除され、出力軸112とロータシャフト33との連結が解除される。この状態、すなわち出力軸112とロータシャフト33とが非連結の状態でモータジェネレータ30を駆動させた場合、モータジェネレータ30の駆動力のみが、ロータシャフト33を経由して、変速機12の入力軸122に伝達される。このように、本実施形態では、モータジェネレータ30の駆動力のみで車両を走行させることも可能である。
また、車両の搭乗者がブレーキ操作を行った場合、ECUにより回生ブレーキ制御がなされる。これにより、モータジェネレータ30が発電し、当該発電による電力がバッテリ17に蓄積される。
【0048】
以上説明したように、本実施形態では、ロータシャフト33は、エンジン11側の端部に形成される軸部331、外壁がロータ32の内壁に嵌合するよう設けられる第1筒部332、軸部331の径方向外側に設けられる第2筒部333、および、第1筒部332の内壁と第2筒部333の外壁とを接続する環状部334を有している。第1筒部332と第2筒部333との間には、環状部334のエンジン11側に略円筒状の収容空間35が形成されている。クラッチ50は、軸方向の少なくとも一部が収容空間35に位置する筒部511を有しエンジン11の出力軸112に接続されるドラム51、筒部511の内壁および第2筒部333の外壁に接続するよう設けられる摩擦係合要素52、および、筒部511と第2筒部333との間に設けられ、摩擦係合要素52に押し付けられることで摩擦係合要素52を係合させることが可能な円環状の押付部材53を有している。押付部材53は、筒部511の内壁との間に円環状の第1隙間531を形成している。押付部材53の摩擦係合要素52とは反対側には、油圧空間56が形成されている。そして、油圧空間56に作動油が供給されることで押付部53材が摩擦係合要素52に押し付けられることにより摩擦係合要素52が係合し、エンジン11の出力軸112とロータシャフト33とが連結する。
【0049】
上記構成により、油圧空間56に供給された作動油は、第1隙間531を経由して摩擦係合要素52側へ容易に流れる。これにより、摩擦係合要素52の周囲で作動油を循環させることができ、作動油によって摩擦係合要素52を効果的に冷却および潤滑することができる。したがって、クラッチ50作動時の摩擦係合要素52の異常発熱を抑制することができる。よって、摩擦係合要素52の寿命を延ばすことができ、クラッチ50の初期性能を長期に亘り維持することができる。
【0050】
また、本実施形態では、上述のように、ドラム51の筒部511の軸方向の少なくとも一部、すなわちクラッチ50の少なくとも一部(筒部511および摩擦係合要素52等)は、収容空間35に収容されている。つまり、クラッチ50とロータ32とは、ロータ32の軸方向において一部オーバーラップして配置されている。これにより、動力伝達装置1の体格を小さくすることができる。
【0051】
また、本実施形態では、摩擦係合要素52は、ドラム51の筒部511の内側、すなわち収容空間35に収容されている。そのため、摩擦係合要素52を大きくしても動力伝達装置1の軸方向の大型化を招くことがない。よって、摩擦係合要素52の摩擦板521および摩擦板522の枚数を増やすことにより、各摩擦板521および各摩擦板522からの摩擦による発熱量を低減することができる。これにより、動力伝達装置1の大型化を招くことなく、クラッチ50の異常発熱を防止することができる。
【0052】
また、本実施形態では、押付部材53は、第2筒部333の外壁との間に円環状の第2隙間532を形成している。これにより、油圧空間56に供給された作動油は、第1隙間531のみならず、第2隙間532を経由して摩擦係合要素52側へ容易に流れる。そのため、作動油によって摩擦係合要素52をより効果的に冷却および潤滑することができる。
【0053】
また、本実施形態では、クラッチ50は、押付部材53を油圧空間56側へ付勢する付勢部材54を有している。これにより、油圧空間56の圧力が小さいとき、押付部材53による摩擦係合要素52の係合を、付勢部材54によって素早く解除することができる。本実施形態では、付勢部材54は、摩擦係合要素52の径方向外側に設けられている。そのため、付勢部材54によって、押付部材53を油圧空間56側へより安定して付勢することができる。また、摩擦係合要素52の有効径を小さくすることができるため、摩擦係合要素52の摩擦による発熱量をより低減することができる。
【0054】
また、本実施形態では、第1隙間531は、第2隙間532よりも大きく形成されている。第1隙間531および第2隙間532のうち、径方向外側に位置する隙間(第1隙間531)をより大きく形成することにより、油圧空間56に供給された作動油は、第1隙間531を経由して摩擦係合要素52側へより流れ易くなる。したがって、作動油によって摩擦係合要素52を冷却および潤滑する効果をより高めることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、ロータシャフト33には、油圧空間56に連通し作動油が流れる第1油路336および第2油路337が形成されている。そのため、作動油を変速機12側から第1油路336および第2油路337に容易に導入することができる。これにより、変速機12を作動させるために変速機12に供給される作動油を、クラッチ50の作動油として流用することが容易になる。よって、クラッチ50を作動させるための新たな油圧回路を形成する必要がなく、コストを低減することができる。
【0056】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による動力伝達装置を図4に示す。第2実施形態は、摩擦係合要素に対する押付部材および油圧空間の配置等が第1実施形態と異なる。
【0057】
第2実施形態では、押付部材53は、第1実施形態と異なり、摩擦係合要素52の変速機12側に設けられている。これに伴い、油圧空間56も摩擦係合要素52に対し変速機12側に形成されている。また、付勢部材54は、ドラム51の筒部611の変速機12側に形成された収容溝613に収容され、押付部材53を変速機12側へ付勢するよう設けられている。また、ロータシャフト33の環状部334は、第1実施形態と比べ、板厚が大きくなるよう形成されている。
【0058】
また、第2実施形態では、第1実施形態が有する板部材55は設けられていない。また、本実施形態では、ドラム51の筒部611のエンジン11側端部と第2筒部333のエンジン11側端部との間に、所定の大きさのクリアランス103が形成されている。これにより、油圧空間56から第1隙間531および第2隙間532を経由して摩擦係合要素52側へ流れた作動油は、クリアランス103を経由して、収容空間35の外部へ流れ出ることができる。
【0059】
また、本実施形態では、筒部611の変速機12側端部と環状部334との間に、所定の大きさのクリアランス104が形成されている。これにより、油圧空間56内の作動油は、クリアランス104を経由して、油圧空間56の外部へ流れ出ることができる。クリアランス104を経由して流れ出た作動油は、筒部611と第1筒部332との間、および、ロータ32とステータ31との間を経由しベアリング23に到達することで、ベアリング23を潤滑可能である。
【0060】
また、本実施形態では、第2油路337は、摩擦係合要素52よりも変速機12側に形成されている。また、ロータシャフト33は、摩擦係合要素52の内側の部分が中空となるよう形成されている。すなわち、本実施形態では、軸部331および接続部335の軸方向の長さが第1実施形態と比べて短い。
【0061】
本実施形態では、油圧空間56に作動油が供給されると、押付部材53が、複数の摩擦板521のうち最も変速機12側に位置する摩擦板521に当接し押し付けられることにより、ドラム51の筒部611がエンジン11側へ移動する。これにより、摩擦係合要素52が係合し、エンジン11の出力軸112とロータシャフト33とが連結される。
【0062】
また、本実施形態では、クラッチ50の作動時、油圧空間56から第1隙間531および第2隙間532を経由して摩擦係合要素52側へ流れた作動油により、摩擦係合要素52は、冷却および潤滑される。当該摩擦係合要素52を冷却および潤滑した作動油は、筒部611と第2筒部333との間のクリアランス103を経由して、収容空間35の外部へ流れ出る。このように、本実施形態では、第1実施形態と同様、クラッチ50の作動時、摩擦係合要素52の周囲を作動油が循環する。
第2実施形態の上述した構成以外の点は、第1実施形態と同様である。
【0063】
以上説明したように、本実施形態では、第1実施形態と同様、油圧空間56に供給された作動油は、第1隙間531および第2隙間532を経由して摩擦係合要素52側へ容易に流れる。これにより、摩擦係合要素52の周囲で作動油を循環させることができ、作動油によって摩擦係合要素52を効果的に冷却および潤滑することができる。したがって、クラッチ50作動時の摩擦係合要素52の異常発熱を抑制することができる。よって、摩擦係合要素52の寿命を延ばすことができ、クラッチ50の初期性能を長期に亘り維持することができる。
【0064】
また、本実施形態では、摩擦係合要素52の変速機12側に油圧空間56が形成されている。そのため、第2油路337を摩擦係合要素52よりも変速機12側に形成することができる。これにより、ロータシャフト33のうち摩擦係合要素52の内側の部分を中空にすることができる。その結果、ロータシャフト33の慣性マスを小さくすることができる。
【0065】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による動力伝達装置を図5に示す。第3実施形態は、ドラムの筒部に対する摩擦係合要素および押付部材の配置等が第2実施形態と異なる。
【0066】
第3実施形態では、摩擦係合要素52および押付部材63は、第2実施形態と異なり、ドラム51の筒部711と第1筒部332との間に設けられている。摩擦係合要素52の複数の摩擦板521は、内縁部が筒部711の外壁に接続するよう、所定の間隔を空けて設けられている。複数の摩擦板522は、摩擦板521より径の大きい円環状に形成され、外縁部が第1筒部332の内壁に接続するよう、複数の摩擦板521の間に設けられている。
【0067】
押付部材63は、略円環状に形成され、摩擦係合要素52の変速機12側に設けられている。ここで、押付部材63は、複数の摩擦板521のうち最も変速機12側に位置する摩擦板521に当接可能である。また、押付部材63は、第1筒部332の内壁との間に円環状の第1隙間631を形成している。さらに、押付部材63は、筒部711の外壁との間に円環状の第2隙間632を形成している。ここで、本実施形態では、第1隙間631は、第2隙間632よりも大きく形成されている。
【0068】
付勢部材54は、一方の端部が、筒部711の変速機12側に形成された収容溝713に収容されている。付勢部材54の他方の端部は、押付部材63に接している。付勢部材54は、押付部材63を変速機12側に付勢している。なお、付勢部材54は、図5に示すように、摩擦係合要素52の径方向内側に設けられている。
【0069】
本実施形態では、筒部711のエンジン11側端部に、外壁と内壁とを接続する通孔714が形成されている。また、ロータシャフト33の第1筒部332のエンジン11側端部とドラム51との間に、所定の大きさのクリアランス105が形成されている。これにより、油圧空間56から第1隙間631および第2隙間632を経由して摩擦係合要素52側へ流れた作動油は、通孔714およびクリアランス105を経由して、収容空間53の外部へ流れ出ることができる。クリアランス105を経由して流れ出た作動油は、ロータ32とステータ31との間を経由しベアリング23に到達することで、ベアリング23を潤滑可能である。
【0070】
本実施形態では、油圧空間56に作動油が供給されると、押付部材63が、複数の摩擦板521のうち最も変速機12側に位置する摩擦板521に当接し押し付けられることにより、ドラム51の筒部711がエンジン11側へ移動する。これにより、摩擦係合要素52が係合し、エンジン11の出力軸112とロータシャフト33とが連結される。
【0071】
また、本実施形態では、クラッチ50の作動時、油圧空間56から第1隙間631および第2隙間632を経由して摩擦係合要素52側へ流れた作動油により、摩擦係合要素52は、冷却および潤滑される。当該摩擦係合要素52を冷却および潤滑した作動油は、通孔714およびクリアランス105を経由して、収容空間35の外部へ流れ出る。このように、本実施形態では、第2実施形態と同様、クラッチ50の作動時、摩擦係合要素52の周囲を作動油が循環する。
第3実施形態の上述した構成以外の点は、第2実施形態と同様である。
【0072】
以上説明したように、本実施形態では、第2実施形態と同様、油圧空間56に供給された作動油は、第1隙間631および第2隙間632を経由して摩擦係合要素52側へ容易に流れる。これにより、摩擦係合要素52の周囲で作動油を循環させることができ、作動油によって摩擦係合要素52を効果的に冷却および潤滑することができる。したがって、クラッチ50作動時の摩擦係合要素52の異常発熱を抑制することができる。よって、摩擦係合要素52の寿命を延ばすことができ、クラッチ50の初期性能を長期に亘り維持することができる。
【0073】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、押付部材とドラムの筒部の内壁との間、または、押付部材とロータシャフトの第1筒部の内壁との間に、環状の第1隙間を形成する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、環状の第1隙間を形成することなく、例えば図6に示すように、押付部材53の外縁部に、径方向内側へ凹む凹部533を形成する構成としてもよい。当該凹部533は、複数形成されていてもよいし、単数形成されていてもよい。このような凹部533を形成することにより、凹部533を経由して油圧空間の作動油を摩擦係合要素側へ流すことができる。
【0074】
また、上述の実施形態では、押付部材とロータシャフトの第2筒部の外壁、または、押付部材とドラムの筒部の外壁との間に、環状の第2隙間を形成する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、第2隙間を形成することなく、押付部材の外縁部に第1隙間または凹部のみ形成することとしてもよい。
【0075】
また、上述の実施形態では、第1隙間が第2隙間よりも大きく形成されている例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、第1隙間は、第2隙間以下の大きさであってもよい。
【0076】
上述の実施形態では、摩擦係合要素が複数の摩擦板により構成される例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、摩擦係合要素は単数の摩擦板により構成されてもよい。
また、本発明の他の実施形態では、クラッチは、変速機用の作動油を供給するポンプ以外のポンプから作動油を供給されることにより作動することとしてもよい。
本発明による動力伝達装置は、CVT以外の変速機(例えばAT等)を搭載する車両に適用することもできる。
【0077】
このように、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 ・・・・・動力伝達装置
11 ・・・・エンジン
112 ・・・出力軸
12 ・・・・変速機
122 ・・・入力軸
20 ・・・・ハウジング
30 ・・・・モータジェネレータ
31 ・・・・ステータ
311 ・・・巻線
32 ・・・・ロータ
33 ・・・・ロータシャフト
331 ・・・軸部
332 ・・・第1筒部
333 ・・・第2筒部
334 ・・・環状部
35 ・・・・収容空間
50 ・・・・クラッチ
51 ・・・・ドラム
511、611、711 ・・・筒部
52 ・・・・摩擦係合要素
53、63 ・・・・・押付部材
531、631 ・・・第1隙間
533 ・・・凹部
56 ・・・・油圧空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力を変速機に伝達するための動力伝達装置であって、
ハウジングと、
前記ハウジングに収容および固定され巻線が巻回された筒状のステータ、当該ステータの内側に回転可能に設けられる筒状のロータ、ならびに、当該ロータの内壁に嵌合するとともに前記ハウジングに回転可能に支持され前記変速機の入力軸に接続されるロータシャフトを有するモータジェネレータと、
前記エンジンの出力軸と前記ロータシャフトとの間に設けられ、前記出力軸と前記ロータシャフトとを連結可能なクラッチと、を備え、
前記ロータシャフトは、
前記エンジン側の端部に形成される軸部、
外壁が前記ロータの内壁に嵌合するよう設けられる第1筒部、
前記軸部の径方向外側に設けられる第2筒部、および、
前記第1筒部の内壁と前記第2筒部の外壁とを接続する環状部を有し、
前記第1筒部と前記第2筒部との間には、前記環状部の前記エンジン側に筒状の収容空間が形成され、
前記クラッチは、
軸方向の少なくとも一部が前記収容空間に位置する筒部を有し前記出力軸に接続されるドラム、
前記筒部の内壁および前記第2筒部の外壁に接続するよう設けられる摩擦係合要素、および、
前記筒部と前記第2筒部との間に設けられ、前記摩擦係合要素に押し付けられることで前記摩擦係合要素を係合させることが可能な環状の押付部材を有し、
前記押付部材は、前記筒部の内壁との間に環状の第1隙間、もしくは、外縁部に径方向内側へ凹む単数または複数の凹部を形成し、
前記押付部材の前記摩擦係合要素とは反対側には、油圧空間が形成され、
前記油圧空間に作動油が供給されることで前記押付部材が前記摩擦係合要素に押し付けられることにより前記摩擦係合要素が係合し、前記出力軸と前記ロータシャフトとが連結することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記押付部材は、前記第2筒部の外壁との間に環状の第2隙間を形成していることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記クラッチは、前記押付部材を前記油圧空間側へ付勢する付勢部材を有し、
前記付勢部材は、前記摩擦係合要素の径方向外側に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
エンジンの駆動力を変速機に伝達するための動力伝達装置であって、
ハウジングと、
前記ハウジングに収容および固定され巻線が巻回された筒状のステータ、当該ステータの内側に回転可能に設けられる筒状のロータ、ならびに、当該ロータの内壁に嵌合するとともに前記ハウジングに回転可能に支持され前記変速機の入力軸に接続されるロータシャフトを有するモータジェネレータと、
前記エンジンの出力軸と前記ロータシャフトとの間に設けられ、前記出力軸と前記ロータシャフトとを連結可能なクラッチと、を備え、
前記ロータシャフトは、
前記エンジン側の端部に形成される軸部、
外壁が前記ロータの内壁に嵌合するよう設けられる第1筒部、
前記軸部の径方向外側に設けられる第2筒部、および、
前記第1筒部の内壁と前記第2筒部の外壁とを接続する環状部を有し、
前記第1筒部と前記第2筒部との間には、前記環状部の前記エンジン側に筒状の収容空間が形成され、
前記クラッチは、
軸方向の少なくとも一部が前記収容空間に位置する筒部を有し前記出力軸に接続されるドラム、
前記筒部の外壁および前記第1筒部の内壁に接続するよう設けられる摩擦係合要素、および、
前記筒部と前記第1筒部との間に設けられ、前記摩擦係合要素に押し付けられることで前記摩擦係合要素を係合させることが可能な環状の押付部材を有し、
前記押付部材は、前記第1筒部の内壁との間に環状の第1隙間、もしくは、外縁部に径方向内側へ凹む単数または複数の凹部を形成し、
前記押付部材の前記摩擦係合要素とは反対側には、油圧空間が形成され、
前記油圧空間に作動油が供給されることで前記押付部材が前記摩擦係合要素に押し付けられることにより前記摩擦係合要素が係合し、前記出力軸と前記ロータシャフトとが連結することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
前記押付部材は、前記筒部の外壁との間に環状の第2隙間を形成していることを特徴とする請求項4に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記クラッチは、前記押付部材を前記油圧空間側へ付勢する付勢部材を有し、
前記付勢部材は、前記摩擦係合要素の径方向内側に設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記第1隙間は、前記第2隙間よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項2、3、5、6のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記ロータシャフトには、前記油圧空間に連通し前記作動油が流れる油路が形成され、
前記油圧空間は、前記摩擦係合要素の前記エンジン側に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記ロータシャフトには、前記油圧空間に連通し前記作動油が流れる油路が形成され、
前記油圧空間は、前記摩擦係合要素の前記変速機側に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−162223(P2012−162223A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25984(P2011−25984)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】