説明

勾配情報演算装置、車両走行制御装置、ナビゲーションシステム

【課題】道路の勾配値を高密度に取得可能な勾配情報演算装置、ナビゲーションシステム、及び、車両走行制御装置を提供すること。
【解決手段】自律航法により3次元上の位置情報を検出し、所定時間に、移動した移動距離と、移動距離を水平面に投影した平面距離とに基づき、第1の勾配値Bを演算する第1の演算手段14と、道路を、位置情報の知られたノードと、ノードを連結したリンクとにより表現する道路地図情報を記憶する道路地図情報記憶手段17と、予め計測されている標高データからノードの標高を推定し、ノード間の標高差及びリンク長から第2の勾配値Aを演算する第2の演算手段16と、第1の勾配値と第2の勾配値を比較して、その偏差に応じて、第1又は第2の勾配値のいずれを該リンクの勾配値に採用するかを決定する勾配データ選択手段と、を有することを特徴とする勾配情報演算装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の勾配情報を取得可能な勾配情報演算装置、車両走行制御装置及びナビゲーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車など回生電力を発生させることができる車両では、例えば下り坂でエンジン出力を低減し発電したり、登り坂ではエンジン走行を基本に電気モータによる補助駆動するなど、道路の勾配に応じた駆動制御を実行することで効率的な走行が可能となる。このような考え方を、予め勾配の記憶された道路に適用して車両制御することで、さらに燃費の向上が期待できることが知られている(エネルギー消費事前計画)。
【0003】
しかしながら、ナビゲーションシステムが記憶している地図DB(Data Base)には高速道路の進入路など一部の道路にのみ勾配情報を有するため、エネルギー消費事前計画を立てるには十分でない。仮に、全てのリンクの勾配情報を測量などにより地図DBに記憶するように計画とすると、多大な費用がかかることが予想されるため現実的でない。
【0004】
ところで、ナビゲーションシステムではGPS(Global Positioning System)を利用して車両の位置情報を算出しているが、GPSによれば3次元上の位置を検出できるので車両の標高を検出することができる。しかし、民間で利用できるGPS電波は意図的に精度が低下させられているため、標高を検出するには不向きとされている。また、標高を検出するには原理上4個以上のGPS衛星を捕捉しなければならないため、市街地を走行する際には標高を検出できない場合も少なくない。
【0005】
そこで、国土地理院によって公開されている50m(メートル)メッシュのメッシュ標高データを利用してリンクの勾配情報を算出する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、メッシュ標高データは、道路の有無に関わらず、地図を経線と緯線で縦横に格子状に分割し、該格子状に分割された地図毎の標高を示すデータであるので、すべての道路でメッシュ標高データをそのまま利用することが困難である。特許文献1には、橋やトンネル等、実際の道路の標高、勾配等のデータが判明している箇所(特定点データ)と、メッシュ標高データから、道路の勾配を推測するナビゲーションシステムが記載されている。
【特許文献1】特許第3985622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のナビゲーションシステムは、地図データに記憶された特定点データとメッシュ標高データを利用するものであるため、特定点データの付近でしか正確な標高であることを保証できず、正確な勾配を推測できる道路が限られるという問題がある。すなわち、特定点データから離れた位置の道路では正確な勾配情報を取得することは困難である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、道路の勾配値を高密度に取得可能な勾配情報演算装置、ナビゲーションシステム、及び、車両走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、自律航法により3次元上の位置情報を検出し、所定時間に、移動した移動距離と、移動距離を水平面に投影した平面距離とに基づき、第1の勾配値(例えば、勾配データB)を演算する第1の演算手段(例えば、道路勾配学習部14)と、道路を、位置情報の知られたノードと、ノードを連結したリンクとにより表現する道路地図情報を記憶する道路地図情報記憶手段と、予め計測されている標高データからノードの標高を推定し、ノード間の標高差及びリンク長から第2の勾配値を演算する第2の演算手段(例えば、固定データ処理部16)と、第1の勾配値と第2の勾配値を比較して、その偏差に応じて、第1又は第2の勾配値のいずれを該リンクの勾配値に採用するかを決定する勾配データ選択手段と、を有することを特徴とする勾配情報演算装置を提供する。
【0009】
本発明によれば、自律航法により実測した第1の勾配値を、予め計測されている標高データから求めた第2の勾配値で検証することで、信頼性を保ちながら第1の勾配値を高密度に取得できる。
【発明の効果】
【0010】
道路の勾配値を高密度に取得可能な勾配情報演算装置、ナビゲーションシステム、及び、車両走行制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態のナビゲーションシステム50を備えた車両走行制御装置60のブロック図の一例を示す。ナビゲーションシステム(以下、ナビシステムという)50は、3つの勾配データ(勾配データA〜C)から勾配値を取得する。
【0012】
勾配データAは、次の3つの方法のいずれかを用いて決定される固定的な勾配値である。すなわち、勾配データAは固定的な値であるので必ず入手可能であり、データとしての値そのものは信頼してよいが、道路毎に入手可能であるとは限らない。
A1)国土地理院が公開しているメッシュ標高データから算出される勾配
A2)標高が知られている人工地物を利用して検出された勾配
A3)法令で定められている道路勾配ガイドラインの勾配
これに対し、勾配データBは実際に道路を走行して検出された勾配値である。また、勾配データCは、プローブカーとしての各車両がサーバ70に蓄積した勾配データBを、例えばその道路をまだ走行していない車両に配信された勾配値である。したがって、勾配データBと勾配データCとは同じ方法で算出されたものである。
【0013】
このように本実施形態のナビシステム50は勾配データA〜Cを検出するが、車両走行制御装置60が車両を制御する際は、勾配データB又は勾配データCと、勾配データAを比較して、より信頼性の高い方に基づきエネルギー消費事前計画を立てる。勾配データB又はCは算出された値であるので、車両の振動等によりセンサ類11の検出値が含む誤差が累積して勾配データB又はCが実際の勾配と異なる場合があると考えられる。これに対し、勾配データAは信頼性の高い固定的な値である。したがって、「信頼性が高い」とは、勾配データB又はCが勾配データAとよりも極端に大きくないことをいう。具体的には、例えば、勾配データB又はCを勾配データAの勾配値以下に限定してもよいし、例えば勾配データB又はCが勾配データAより50%以上大きい場合に、極端に大きいとしてもよい。
【0014】
したがって、本実施形態のナビシステム50は、車両の実測データから勾配値を検出するので高密度に実測した勾配データBを取得でき、勾配データBの信頼性によっては固定的な勾配データAにより補間するので、勾配値の信頼性を保つことができる。なお、以下では、勾配データA〜Cを構成する値を勾配値というが、勾配データA〜Cと勾配値は厳密に区別しなくてもよく、両者は一部重複した概念である。
【0015】
〔ナビシステム50〕
センサ類11は、GPS(Global Positioning System)受信装置、車速センサ、ヨーレートセンサ、ジャイロセンサ等であって、車両の現在地情報12及び経路情報13を検出するために用いられる。ナビシステム50はこれらのセンサの検出値から後述する方法で車両の現在地を検出する。過去の現在地情報12の履歴と最新の現在地情報12から経路情報13を検出することができる。経路情報13から走行する道路を予測でき、また、目的地を設定している場合は目的地までの経路情報13がナビシステム50に登録されている。経路情報13が既知となれば各道路の勾配値からエネルギー消費事前計画を立てることができる。
【0016】
なお、ナビシステム50は現在地情報12又は経路情報13を含む道路地図を表示する表示部を有し、現在地情報12に応じて地図DB17に記憶された道路地図情報を読み出し、車両のアイコンと共に表示部に表示する。
【0017】
〔勾配データB〕
勾配データBの算出について説明する。ナビシステム50は、CPU、RAM、ROM、不揮発メモリ、ECU間通信部及び入出力インターフェイスが内部バスを介して接続されたコンピュータであって、CPUがプログラムを実行することで道路勾配学習部14が実現される。道路勾配学習部14は、走行した道路の勾配を検出し、地図DB17のリンクに対応づけて勾配データBを記憶していく。
【0018】
図2は、道路勾配学習部14の機能ブロック図の一例を示す図である。なお、図2において図1と同一構成部には同一の符号を付した。GPS受信装置は、複数のGPS衛星から送信される電波の到達時間から車両の位置情報を検出する。車速センサは、自車両の各輪に備えられたロータの円周上に定間隔で設置された凸部が通過する際の磁束の変化を検出して、所定距離走行する毎にパルスを出力する。
【0019】
ヨーレートセンサ又はジャイロセンサ(図ではジャイロセンサ)は、例えばマイクロマシニングで形成された震動片型ジャイロセンサであり、自車両の旋回速度に応じて生じるコリオリ力を電極間の変化による電圧信号として取り出す。この旋回速度を時間に対し積分すると旋回角度が得られるので、ヨーレートセンサ又はジャイロセンサの出力を時間積分することで進行方向情報を検出することができる。車両の進行方向は、水平方向及び仰角方向に分けられ、ヨーレートセンサ又はジャイロセンサは少なくとも2軸又は3軸の旋回速度を検出し、方位(水平方向)及び仰角(ピッチング角方向)の進行方向をそれぞれ検出できるようになっている。本実施形態では、特に仰角を用いて勾配データBを算出する。
【0020】
地図DB17は、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の不揮発メモリにより構成され、緯度や経度などの位置情報に対応づけて道路地図情報を記憶している。道路地図情報は、道路を構成するリンクのリンク情報と、リンクとリンクを接続するノード(交差点やリンク上の所定間隔毎の点)のノード情報とを対応づけたテーブル状のデータベースである。リンク情報にはリンク長、幅員、接続ノード、接続方向等が含まれるため、道路地図情報により実際の道路網が再現される。また、地図DB17は、リンク毎に、山間部のトンネル、橋梁、踏切等の道路属性、高速道路や一般道などの道路種別、が登録されている。本実施形態では、リンクの例えば1メートル〜数メートル間隔毎に勾配値(勾配データB)を記憶していく。
【0021】
走行距離演算部141は、車速センサが検出する車速を時間で積分するか、又は、車速センサが検出するパルスを累積して車両の走行距離mを検出する。また、自車位置演算部142は、GPS受信装置が検出した位置情報を起点に、ジャイロセンサ等が検出する方位に、走行距離演算部141が検出する走行距離mを累積することで現在地情報12を検出している。また、自車位置演算部142は、車両が道路上を走行するという前提の元、現在地情報12や経路情報13に基づき確からしい地図DB17の位置(リンク)に車両の位置をマッピングするマップマッチングにより車両の位置を決定している。
【0022】
自車位置演算部142は、所定サイクル時間(例えば100ミリ秒〜数秒)毎に、方位及び仰角から3次元空間上の現在地情報12を検出しているので、ある所定位置を基準にした車両の座標情報(X、Y、Z)を取得する。この座標情報から勾配値が算出される。
【0023】
図3は、勾配値の算出を模式的に示す図である。車両がサイクル時間にP点(X1、Y1、Z1)からQ点(X2、Y2、Z2)まで移動したとすると、その時の走行距離mは走行距離演算部141により算出されている。勾配値θbは、XY平面(水平面)と線分PQのなす角である。したがって、線分PQをXY平面に投影した場合の平面距離L1と走行距離mから勾配値θbを算出できる。
【0024】
まず、平面距離演算部143は、平面距離L1を次式から算出する。
平面距離L1 = √{(X2−X1)+(Y2−Y1)
そして、勾配演算部144は、次式から勾配値θbを算出する。
勾配値θb=arccos(L1/m) …(1)
サイクル時間を十分に短く取れば、線分PQの長さと走行距離mの違いは無視してよい。本実施形態では走行距離mを好ましくは1〔m〕程度の短い距離にすることで、走行距離mを線分PQに近似することを可能とする。
【0025】
出力部145は、自車位置演算部142が検出した座標情報(X1,Y1)に勾配値θbを対応づけて記録部146に出力する。記録部146は、座標情報(X1,Y1)に特定されるリンクの例えば1〔m〕毎に勾配値θbを記憶する。したがって、道路勾配学習DB21には高密度に勾配値θbが記憶されることになる。なお、地図DB17に直接、勾配値θbを記憶してもよい。
【0026】
図4は、道路勾配学習DB21に記憶される勾配値θbの一例を示す。(X1、Y1)〜(X6、Y6)はリンク001上の所定位置である。なお、所定位置の標高の絶対値が明らかであれば、(X1、Y1)〜(X6、Y6)の標高を求めることができるので、勾配値θbと共に標高情報を記憶してもよい。所定位置の標高の絶対値は、例えばGPS受信装置で求めることができる。またはθbの累積から求めてもよい。
【0027】
〔勾配データA〕
勾配データAについて説明する。勾配データAは下記の3つの勾配値θa1〜θa3から選択的に決定される。図1の勾配上限決定部18は、3つの勾配値θa1〜θa3から最も適切な勾配値を勾配データAに採用する。
A1)国土地理院が公開しているメッシュ標高データから算出される勾配
図5は、メッシュ標高データから算出される勾配値を模式的に示す図である。図2の国土地理院数値地図15には、図5に示すように地図を経線と緯線で縦横に50m(メートル)毎に格子上に分割し、該格子状に分割されたメッシュ毎に標高を示すメッシュ標高データを記憶している。したがって、勾配データBに比べ粗いデータといえるが、勾配データAは勾配データBの代わりに補完的に用いられるので粗さによる影響は少ない。なお国土地理院数値地図15は予め車両に記憶しておいてもよいし、サーバからダウンロードして使用してもよい。
【0028】
図1のメッシュ標高演算部161は、現在地情報12に基づき地図DB17を参照し、現在値情報12に最も近いノード(以下、注目ノードという)Dを順番に検出する。注目ノードDの周囲には、それを取り囲むメッシュがあり各メッシュのメッシュ標高データが計測されている。図5では注目ノードDを取り囲むメッシュのメッシュ標高データをZ1〜Z9で示した。
【0029】
メッシュ標高演算部161は、周辺のメッシュのメッシュ標高データZ1〜Z9を注目ノードDからの距離に応じて平均処理して、注目ノードDの推定標高K1を算出する。推定標高K1は、例えば次式により算出できる。ただし、Nは演算に使用するメッシュ標高データZ1〜Z9の数、Liは注目ノードDからメッシュ標高データZ1〜Z9が測定された位置までの距離である。
【0030】
【数1】

式(2)は、注目ノードDからメッシュ標高データZ1〜Z9が測定された位置まで距離により、メッシュ標高データZ1〜Z9に重み付けして、注目ノードDの推定標高K1を算出している。なお、図5では9点のメッシュ標高データZ1〜Z9を用いているが、例えば注目ノードDから最も近い2点のメッシュ標高データを用いてもよいし、10以上のメッシュ標高データを用いてもよい。メッシュ標高データの数が多いほど計算量が増すが、例えば9個程度のメッシュ標高データを用いることで隣接した注目ノードD毎の推定標高K1が急激に変化した値となることを回避できる。メッシュ標高演算部161は、地図DB17に記憶されたノードを通過する度に式(2)により推定標高K1を算出し、ノードに対応づけて記憶していく。したがって、ノード間の標高差とリンク長(ノード間の長さ)から勾配値θa1が求められる。なお、ノード毎の勾配値θa1は、そのノードを通過しなくても演算可能なので、予め地図DB17に勾配値θa1を記憶しておいてもよい。
【0031】
A2)標高が知られている人工地物を利用して検出された勾配
国土地理院数値地図15に記憶されたメッシュ標高データは、地形図を表すための測定値なので、人工地物の標高とは一致しない。例えば、メッシュ標高データは、山、谷や河等の標高を示すのに対し、橋梁は谷や河に架橋されるのでリンクの標高はメッシュ標高データよりも高く、また、山を掘削して形成されたトンネルの標高はメッシュ標高データよりも低くなる。したがって、A1)で求めた勾配値θa1は場所によっては大きな誤差を含む場合がある。
【0032】
そこで、本実施形態では、地図DB17に標高の知られた人工地物が記憶されている場合、勾配値θa1に優先して人工地物から算出した勾配値θa2を用いる。
図6は、人工地物に基づく勾配値θa2の算出を模式的に示す図である。図6では、P地点とQ地点の間に橋梁80が架橋されている。
【0033】
多くの場合、橋梁80のような人工地物の標高は地図DB17に記憶されており、人工地物の端点(P,Q)はノードに一致することが多い。また、地図DB17にはリンク毎に橋梁80,トンネル等の道路属性が登録され、リンク長が記憶されているので、標高が記憶された人工地物に対しては勾配値θa2を算出することができる。
【0034】
人工地物標高演算部162は、P地点の標高P(Z)、Q地点の標高Q(Z)、リンク長O、から次式により、勾配値θa2を算出する。
【0035】
θa2= arctan{(Q(Z)−P(Z))/リンク長O} …(3)
なお、ノードと人工地物の端点(P,Q)が一致しない場合があるが、その場合、人工地物の端点(P,Q)に最も近い標高が知られているノードの標高を用いて式(3)から勾配値θa2を算出する。
【0036】
人工地物標高演算部162は、走行中の現在地情報12に基づき地図DB17を参照し人工地物を検出すると、式(3)により勾配値θa2を算出し、人工地物のノードに対応づけて勾配値θa2を記憶する。勾配値θa2は、その人工地物を走行しなくても演算可能なので、予め地図DB17に勾配値θa2を記憶しておいてもよい。
【0037】
人工地物により検出した勾配値θa2は、メッシュ標高データから求めた勾配値θa1よりも信頼性が高いとしてよいので、勾配上限決定部18は、勾配値θa2が求められているリンクでは、勾配値θa1よりも勾配値θa2を優先して勾配データAに採用する。
【0038】
A3)法令で定められている道路勾配ガイドラインにより検出される勾配
道路を建設する際は、急峻な勾配とならないように勾配の上限が道路勾配ガイドラインにより定められていることが多い。例えば、日本では、「国土交通省 道路構造例 第20条」に「車道の縦断勾配は、当該道路の設計速度に応じ、次の表の右側に掲げる値以下とするものとする。ただし、地形の状況その他の特別の理由によりやむを得ない場合においては、同欄に掲げる値に第1種、第2種または第3種の道路にあっては3%、第4種の道路にあっては2%を加えた値以下とすることができる。」と定められている。
【0039】
図7(a)は、道路の区分に応じて法令で定められた縦断勾配の一例を、図7(b)は道路の区分の一例を、それぞれ示す図である。第1種〜第4種が道路の区分である。以下、法令に推奨される勾配の上限値を勾配値θa3という。図7(a)の勾配値θa3はガイドライン情報26に記憶されている。
【0040】
多くの道路では法令に従って勾配が決定され、仮に法令が定める勾配値θa3を超過することがあっても大きく超過することは少ないと考えられる。したがって、勾配上限決定部18は、勾配値θa1が勾配値θa3よりも大きければ、勾配値θa3を勾配データAに採用し、勾配値θa1が勾配値θa3以下であれば、勾配値θa1を勾配データAに採用する。また、勾配値θa2が算出されたリンクでは、勾配値θa1に優先して勾配値θa2を採用するので、勾配上限決定部18は、勾配値θa2が勾配値θa3よりも大きければ、勾配値θa3を勾配データAに採用し、勾配値θa2が勾配値θa3以下であれば、勾配値θa2を勾配データAに採用する。
【0041】
このように、固定的な勾配データAのうち、勾配値θa1又はθa2を算出し、これを法令に基づき定められた勾配値θa3により検証するので、固定的に求められる勾配値θa1〜θa3のうち最も適切な勾配値を勾配データAに採用することができる。
【0042】
〔勾配データAと勾配データBの選択〕
図1の勾配データ選択部19は、以上のようにして決定された勾配データAと勾配データBから信頼性の高い値を抽出し、車両制御ECU(electronic control unit)22に送出する。本実施形態のナビシステム50は、実際に走行して得られる勾配データBを用いることで、高密度に得られた勾配値θbを用いて車両制御が可能となる。しかしながら、例えば、走行していくうちに仰角の誤差が累積し、勾配値θbの信頼性が低下する場合があり得ると考えられる。この場合の補正の方法としては、後述するようにサーバ70側で複数の車両が送信した勾配値θbを用いて確からしい勾配値θbを決定してもよいが、他の車両でも同様に勾配値θbを算出するため、同じように信頼性が低下した勾配値θbとなってしまう場合がある。
【0043】
そこで、本実施形態では、原則的に勾配データBを採用して車両制御するが、勾配データBが勾配データAと大きく異なっている場合には、勾配データAを採用することで、勾配データAと大きく異なる勾配データBを用いて車両制御することを防止する。
【0044】
したがって、勾配データ選択部19は、原則的に勾配データBを採用するが、勾配データBと勾配データAと比較し、勾配データBが勾配データAよりも、例えば50%以上大きい場合、勾配データAを採用する。
【0045】
このように本実施形態のナビシステム50は、走行時の仰角により算出した勾配データBを、メッシュ標高データのような固定的な勾配データAで検証するので、高密度にリンクの勾配値θbを取得し、かつ、勾配データBの算出時に誤差が含まれてもその影響を一定以下に保つ(勾配データAを採用する)ことができる。
【0046】
〔サーバ70(勾配データC)〕
ナビシステム50は、プローブ送受信部23を有し、サーバ70にプローブ情報
を送信し、また、サーバ70からプローブ情報を受信する。図8は、サーバ70と車両の関係を概略的に示す図の一例である。
【0047】
プローブ送受信部23は、携帯電話や無線LAN等の通信網から携帯電話等の事業者サーバを介してネットワークに接続し、TCP/IP等のプロトコルに基づきプローブ情報をサーバ70に送信する。プローブ情報は、例えば、位置情報、車速情報、及び、勾配値θbである。
【0048】
サーバ70は、CPU等を備えたコンピュータで、ハードディスクドライブなどの不揮発メモリに道路勾配収集DB25を記憶している。サーバ70のセンタ送受信部24は、例えばNIC(Network Interface Card)であって、パケットに分解されて送信されるデータにプロトコル処理を施しプローブ情報を受信する。なお、サーバ70には各車両の通信識別番号(例えば、電話番号)が登録されているので、サーバ70のセンタ送受信部24はプローブ情報を車両に送信することができる。
【0049】
プローブ送受信部23は、道路勾配学習DB21に記憶された勾配値θbをリンク番号等の位置情報に対応づけてサーバ70に送信する。送信するタイミングは、例えば定期的(数分〜数時間等)であったり、通信が混雑していない時である。
【0050】
したがって、サーバ70には全国の道路の勾配値θbが送信される。センタ送受信部24は、全国の車両から受信した勾配値θbを道路勾配収集DB25に記憶する。ところで、同じリンクの勾配値θbが複数の車両から送信されると考えられるが、車両間でほぼ同程度(分散が小さい)勾配値θbが送信される場合には、単にそれらの勾配値θbの平均値を道路勾配収集DB25に記憶すればよい。
【0051】
しかし、同一視できない程度に異なる場合、平均を取っても正確とは限らない場合がある。そこで、異なる勾配値θbが送信された場合、よりエネルギー消費効率に適切な勾配値θbを採用することが考えらえる。この場合、サーバ70は送信された値の異なる複数の勾配値θbをそのまま記憶しておき、複数の車両に配信する。そして複数の車両から、勾配値θbが算出されたリンクを走行する毎に燃費情報(そのリンクのガソリン消費量、使用電力、回生電力)を受信し、最も燃費向上に優れた勾配値θbをそのリンクの勾配値に決定する。これにより、異なる勾配値θbが送信された場合に、エネルギー消費事前計画に適切な勾配値θbを採用することができる。
【0052】
プローブ送受信部23は、道路勾配学習DB21に勾配値θbが記憶されていない道路にさしかかると、サーバ70に勾配値θbの送信を要求する。このように、勾配値θbが必要な場合にのみサーバ70から勾配値θbを受信するので、通信網の混雑を抑制できる。
【0053】
〔動作手順〕
ナビシステム50が勾配データA〜Cを決定する手順を図9のフローチャート図に基づき説明する。図9のフローチャート図は、厳密な手順を示すものではなく、例えば、勾配データBは走行中、常に演算されているし、勾配データAは予め演算され記憶されている場合には演算しなくてもよい。
【0054】
道路勾配学習部14は走行中、例えば所定のサイクル時間毎に勾配値θbを算出する(S5)。メッシュ標高演算部161は勾配値θa1を、人工地物標高演算部162は勾配値θa2をそれぞれ算出し、また、勾配上限決定部18は勾配値θa3をガイドライン情報26から読み出す(S10)。
【0055】
ついで、勾配上限決定部18は、車両の経路に人工地物があるか否かを判定する(S20)。人工地物がある場合(S20のYes)、上記のように勾配値θa1よりも勾配値θa2の方が信頼性が高いので、勾配上限決定部18は勾配値θa2が勾配値θa3よりも大きいか否かを判定する(S30)。同様に、人工地物がない場合(S20のNo)、勾配上限決定部18は勾配値θa1が勾配値θa3よりも大きいか否かを判定する(S40)。
【0056】
勾配値θa2が勾配値θa3よりも大きくない場合(S30のNo)、勾配値θa2を採用してよいと考えられるので、勾配値θa2を勾配データAに決定する(S50)。勾配値θa2が勾配値θa3よりも大きい場合(S30のYes)、勾配値θa3を勾配データAに決定する(S60)。
【0057】
勾配値θa1が勾配値θa3よりも大きくない場合(S40のNo)、勾配値θa1を採用してよいと考えられるので、勾配値θa1を勾配データAに決定する(S70)。勾配値θa1が勾配値θa3よりも大きい場合(S40のYes)、勾配値θa1を勾配データAに決定する(S80)。
【0058】
ついで、勾配データ選択部19は、経路上の勾配データBを記憶しているか否かを判定する(S90)。記憶していない場合(S90のNo)、勾配データ選択部19はサーバ70に勾配データCの送信を要求する(S100)。
【0059】
勾配データ選択部19は、サーバ70が勾配データCを記憶しており、かつ、通信エラー等がなく勾配データCを受信できたか否かを判定し(S110)、受信できた場合には(S110のYes)、勾配データ選択部19は勾配データBではなく勾配データCと勾配データAとを比較する(S120)。
【0060】
なお、勾配データCを受信できない場合(S110のNo)、勾配データ選択部19は勾配データAを採用し、車両制御ECU22に送出する(S130)。
【0061】
勾配データ選択部19は、勾配データB(C)が勾配データAよりも、所定以上大きいか否かを判定する(S120)。所定以上大きい場合(S120のYes)、勾配データBの信頼性が低いとして勾配データ選択部19は勾配データAを使用する(S130)。
【0062】
所定以上大きくない場合(S120のNo)、勾配データBの信頼性が十分であるとして勾配データ選択部19は勾配データBを使用する(S140)。
【0063】
以上のように、本実施形態のナビシステム50は、実測した高密度な勾配データBを採用して車両制御ECU22に出力することができる。
【0064】
なお、図9では、勾配値θa1〜θa3から選択された値と勾配データAとして勾配データBと比較したが、勾配値θa1〜θa3を選別することなく、直接、勾配値θa1と勾配データB、勾配値θa2と勾配データB、又は、勾配値θa3と勾配データB、のいずれかの比較を実行して採用する勾配値を決定してもよい。
【0065】
〔エネルギー消費事前計画に基づく車両制御〕
ハイブリッド車又は電気自動車では、下り勾配では回生エネルギーを充電するが、勾配データA〜Cが得られていれば、より効率的な燃費効率が図れる。例えば、前方の道路に登り勾配に次いで下り勾配が予測される場合、登り勾配では電気モータの駆動力を大きめに制御し下り勾配で充電すれば、登り勾配のガソリン消費が低減できるので燃費が向上する。また、連続した登り勾配が予想される場合は、バッテリが過放電とならないようにモータ走行の比率を低減しておくことができる。
【0066】
また、下り勾配が予想される場合、予めシフトアップを禁止してエンジンブレーキの制動を大きくすることで回生電力の発電量を増加させることができる。
【0067】
また、先行車両に追従走行したり一定車速で走行するACC(Adaptive Cruise Control)において燃費を向上させることができる。ACC走行時、先行車両が検出されなければ一定車速で走行するがそこに登り勾配があると、いったん車速が低下した後、元の一定車速になるように加速するという制御を行う。また、先行車両に追従走行している場合、先行車両が登り勾配にさしかかり車間距離が短くなると自車両も減速し、先行車両が下り勾配にさしかかると車間距離が長くなるので自車両が加速する。このため、ACCでは自車両の車速又は車間制御のために燃費が低下するおそれがある。この点、勾配データA〜Cが事前に記憶されていれば、一定車速で走行中に登り勾配があると、勾配データA〜Cに応じて登り勾配にさしかかる前に車速を上げておくことで、登り勾配にさしかかることで元の一定車速に近い車速とすることができ、登り勾配を走行時に加速する必要がなく燃料消費を大きく低減できる。また、追従走行時に登り勾配と下り勾配が連続して予測される場合、車間距離を一定に保つための減速度や加速度を小さくすることで、下り勾配にさしかかる前の加速を小さくでき燃料消費を低減できる。
【0068】
また、PCS(Pre-Crush Safety System)では、障害物に対するTTC(Time To
Collision)により、例えば衝突のおそれがある場合は警告し、衝突する可能性が高まると減速するなど、運転者の運転を支援する。この場合、TTCは制動距離により変化すると考えられる。例えば、先行車両が下り勾配から登り勾配にさしかかり始めている場合、先行車両が減速するのでTTCが短くなることが予測できる。したがって、PCSにおいて勾配データA〜Cが得られていれば、登り勾配が予想される場合には早めに警告を出力し又は制動することや、下り勾配が予測される場合には警告を遅らせて不要警報を低減するなど、より適切な制御が可能となる。
【0069】
また、サスペンションの特性を車速や操舵、積載重量等に応じて可変に制御するアクティブサスペンションが知られている。勾配データA〜Cから、予め登り勾配が予想される場合には前輪のサスペンションを柔らかくすることで、後傾姿勢となることを防止しやすくなり、予め下り勾配が予想される場合には前輪のサスペンションを硬くすることで、前傾姿勢となることを防止しやすくなる。このように、勾配データA〜Cにより下りと登りでサスペンションの前後のバランスを制御でき、乗員の乗り心地を改善できる。
【0070】
したがって、図1の車両制御ECU22は、例えば、ハイブリッド自動車の駆動源を制御するハイブリッドECU、シフトポジションを制御するトランスミッションECU、各車輪のホイルシリンダ圧を独立に制御するブレーキECU、アクティブサスペンションを制御するサスペンションECU、等であって、これらのECUがCAN(Controller Area Network)等を介して勾配データA〜Cを受信して、上記の制御を実現する。
【0071】
以上説明したように、本実施形態のナビシステム50は、実走行により入手の困難なリンク毎の勾配値を高密度に算出することができ、かつ、勾配データBの算出時に誤差が含まれてもメッシュ標高データのような固定的な勾配データAで検証するので、勾配値の精度を保つことができる。また、車両走行制御装置60は、勾配データA〜Cから下り勾配又は登り勾配を予測し、エネルギー消費事前計画をたて燃費を向上させることができ、また、適切なタイミングの運転支援や車両の姿勢制御を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】ナビゲーションシステムを備えた車両走行制御装置のブロック図の一例である。
【図2】道路勾配学習部の機能ブロック図の一例である。
【図3】勾配値の算出を模式的に示す図である。
【図4】道路勾配学習DBに記憶される勾配値θbの一例を示す図である。
【図5】メッシュ標高データから算出される勾配値を模式的に示す図である。
【図6】人工地物に基づく勾配値θa2の算出を模式的に示す図である。
【図7】道路の区分に応じて法令で定められた縦断勾配の一例を示す図である。
【図8】サーバと車両の関係を概略的に示す図の一例である。
【図9】ナビシステムが勾配データA〜Cを決定する手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0073】
11 センサ類
14 道路勾配学習部
15 国土地理院数値地図
16 固定データ処理部
18 勾配上限決定部
19 勾配データ選択部
21 道路勾配学習DB
22 車両制御ECU
26 ガイドライン情報
50 ナビゲーションシステム
60 車両走行制御装置
70 サーバ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律航法により3次元上の位置情報を検出し、所定時間に移動した移動距離と、前記移動距離を水平面に投影した平面距離とに基づき、道路上の所定地点の第1の勾配値を演算する第1の演算手段と、
道路を、位置情報の知られたノードと、ノードを連結したリンクとにより表現する道路地図情報を記憶する道路地図情報記憶手段と、
予め計測されている標高データからノードの標高を推定し、ノード間の標高差及びリンク長からリンクの第2の勾配値を演算する第2の演算手段と、
第1の勾配値と第2の勾配値を比較して、その偏差に応じて、第1又は第2の勾配値のいずれを前記所定地点又はリンクの勾配値に採用するかを決定する勾配データ選択手段と、
を有することを特徴とする勾配情報演算装置。
【請求項2】
第2の演算手段は、
緯度及び経度を所定間隔に区分したメッシュ毎に計測された前記標高データのうち、ノードから所定距離内の前記標高データに、前記標高データの計測位置とノードとの距離に応じて重み付けして、重み付けされた前記標高データの平均をノードの標高と推定する、
ことを特徴とする請求項1記載の勾配情報演算装置。
【請求項3】
前記道路地図情報のリンクが、標高情報が登録された人工地物の場合、
第2の演算手段は、人工地物の端点の標高情報及びリンク長から演算した第3の勾配値を、第2の勾配値に優先して人工地物の勾配値に採用する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の勾配情報演算装置。
【請求項4】
道路区分毎に勾配の勾配上限を定めたガイドライン情報を記憶するガイドライン情報記憶手段と、
道路区分に基づき勾配上限を読み出し、演算により得た第2の勾配値又は第3の勾配値が勾配上限よりも大きい場合、勾配上限を前記所定地点又はリンクの勾配値に採用する勾配上限決定手段と、
ことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の勾配情報演算装置。
【請求項5】
第1の演算手段が演算した第1の勾配値を、サーバに送信する送信手段と、
前記サーバから、他の車両が演算した第1の勾配値を受信する受信手段と、
を有することを特徴とする請求項1記載の勾配情報演算装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の勾配情報演算装置と、
前記勾配データ選択手段が決定した第1又は第2の勾配値を用いて、車両制御する車両制御手段と、
を有することを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項記載の勾配情報演算装置と、
GPS受信装置と自律航法により検出された位置を含む道路地図を表示する表示部と、
を有することを特徴とするナビゲーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−236714(P2009−236714A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83795(P2008−83795)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】