説明

化合物半導体素子及びその製造方法

【課題】 簡便な手法で成長中断なしにクラック防止層を形成し、素子生産効率及び素子特性向上を実現する化合物半導体素子を提供することである。
【解決手段】 窒化物半導体レーザ素子(化合物半導体素子)10は、GaN基板11上に、n型AlGaNクラッド層12、n型AlGaN高欠陥層13、n型AlGaNクラッド層14、MQW活性層15、InGaN光ガイド層16、AlGaNキャップ層17、p型AlGaNクラッド層18、p型GaNコンタクト層19が順に積層され、p型GaNコンタクト層19上にはp型電極20が形成され、p型AlGaNクラッド層18上であって、p型GaNコンタクト層19及びp型電極20の周囲には絶縁膜21が形成され、p型電極20及び絶縁膜21上にはパッド電極22が形成され、n型AlGaNクラッド層12側とは反対のGaN基板11面にはn型電極23が形成されて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、格子歪のある化合物半導体を基板上に形成した化合物半導体素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に格子歪のある状態で化合物半導体層を形成してなる化合物半導体素子がある。この化合物半導体層中にクラックが入るのを防止するために、クラック防止層を形成することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、窒化物半導体素子のAlを含む窒化物半導体層中にクラックが入るのを防止するために、InGaNクラック防止層を形成することが提案されている。この窒化物半導体素子の作成工程は、まず成長温度1050℃でn型GaNコンタクト層を成長させる。次に、温度を800℃まで降下させ、InGaNクラック防止層を成長させる。そして、再度温度を1050℃まで上昇させ、AlGaN/GaNよりなるn型超格子クラッド層を成長させる。
【特許文献1】特許第3292083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の工程によると、InGaNクラック防止層を導入するために成長を中断させ、降温、昇温工程を設ける必要があるので、素子全体の成長時間が長時間化するとともに、ガスの切り替え操作が複雑になる問題があった。更に、成長中断時に成長表面が水素ガス雰囲気に晒されるので、成長層界面の結晶品質が低下するという問題もあった。
【0005】
本発明は、簡便な手法で成長中断なしにクラック防止層を形成し、素子生産効率及び素子特性向上を実現する化合物半導体素子を提供することを目的とする。また、その製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、格子歪のある化合物半導体を基板上に形成した化合物半導体素子において、前記基板と異なる組成の化合物半導体層中に、相対的に結晶欠陥密度が高い高欠陥層と結晶欠陥密度が低い低欠陥層とを有することを特徴とする。
【0007】
この構成により、製造工程を簡単にすることができるとともに、素子中のクラックを防止できる。
【0008】
また、前記化合物半導体は窒化物半導体とすることができる。更に、前記基板は窒化ガリウム基板とすることができる。これにより、青紫色レーザ素子や青色発光ダイオードを作成できる。
【0009】
また、前記高欠陥層の結晶欠陥密度が前記低欠陥層の結晶欠陥密度の5倍以上10倍以下であることが素子特性維持の観点から望ましい。
【0010】
また本発明は、格子歪のある化合物半導体を基板上に形成した化合物半導体素子の製造方法において、前記基板と異なる組成の化合物半導体層を成長させる際に、成長速度を増加させる期間を成長途中に設けることを特徴とする。
【0011】
この構成により、結晶欠陥密度が高い高欠陥層と結晶欠陥密度が低い低欠陥層とを成長中断なしに連続して成長させることができる。
【0012】
なお、前記成長速度は、ガス流量又は成長温度により制御され得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガス流量又は成長温度を変化させるだけで低欠陥層間にクラック防止層となる高欠陥層を導入することにより、簡便な手法で素子生産効率及び素子特性向上を実現している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、窒化物半導体レーザ素子の模式断面図である。窒化物半導体レーザ素子10は、GaN基板11上に、n型AlGaNクラッド層12、n型AlGaN高欠陥層13、n型AlGaNクラッド層14、MQW(Multi Quantum Well)活性層15、InGaN光ガイド層16、AlGaNキャップ層17、p型AlGaNクラッド層18、p型GaNコンタクト層19が順に積層され、p型GaNコンタクト層19上にはp型電極20が形成され、p型AlGaNクラッド層18上であって、p型GaNコンタクト層19及びp型電極20の周囲には絶縁膜21が形成され、p型電極20及び絶縁膜21上にはパッド電極22が形成され、n型AlGaNクラッド層12側とは反対のGaN基板11面にはn型電極23が形成されて構成される。
【0015】
高欠陥層(n型AlGaN高欠陥層13)とは、同組成の層中において、該層の他の部分(n型AlGaNクラッド層12、14)よりも結晶欠陥密度が高い部分を指す。これに対して、結晶欠陥密度が低い部分(n型AlGaNクラッド層12、14)を低欠陥層と呼ぶ。
【0016】
なお、GaN基板11に替えてサファイア基板を用いることもできる。この場合、サファイア基板と窒化物半導体との格子定数が大きく異なるため、低温バッファ層を導入することが望ましい。
【0017】
以下に、この窒化物半導体レーザ素子10の製造方法について説明する。まず、MOCVD法により、GaN基板11上にn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層12を1.0μm成長させる。原料にはNH、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、GeHを用いる。このとき、成長温度は1100℃、成長速度は5Å/secとする。
【0018】
次に、n型Al0.07Ga0.93N高欠陥層13を0.1μm成長させる。この工程は、上記n型AlGaNクラッド層12の成長条件を変えることで行える。具体的には、成長速度を速く(例えば、10Å/sec)する。成長速度を速くするには、例えば、トリメチルガリウム及びトリメチルアルミニウムの流量を同流量比で上昇させたり、成長温度を降下させたりすればよい。
【0019】
次に、n型Al0.07Ga0.93Nクラッド層14を0.5μm成長させる。n型Al0.07Ga0.93Nクラッド層14はn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層12と同組成であり、結晶欠陥密度も同じである。そのため、成長速度を遅くする。従ってこの工程は、上記n型Al0.07Ga0.93Nクラッド層12の成長条件と同様に行えばよい。
【0020】
このように、n型Al0.07Ga0.93Nクラッド層12、14、n型Al0.07Ga0.93N高欠陥層13の成長工程の切り替えは、ガス流量のみを変化させたり、成長温度のみを変化させたりするだけなので、簡単に制御できる。従って、従来のように、成長中断がないので素子全体の成長時間が長時間化することがなく、ガスの切り替え操作が複雑になることもない。更に、成長中断時に成長表面が水素ガス雰囲気に晒されることもないので、成長層界面の結晶品質が低下するという問題もない。
【0021】
次に、In0.15Ga0.85N井戸層とGaN障壁層とからなる3周期構造のMQW活性層15を成長させる。なお、周期構造は3周期以上又は以下であっても構わない。また、井戸層と障壁層とが交互に積層されれば順番は関係ない。In0.15Ga0.85N井戸層は0.003μmとし、原料にはNH、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムを用いる。このときの成長温度は800℃である。一方、GaN障壁層は0.02μmとし、原料にはNH、トリメチルガリウムを用いる。このときの成長温度も800℃である。そして、所望の周期が得られるまでこの2工程を繰り返す。
【0022】
次に、In0.02Ga0.98N光ガイド層16を0.1μm成長させる。原料にはNH、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムを用いる。このときの成長温度は800℃である。
【0023】
次に、Al0.25Ga0.75Nキャップ層17を0.02μm成長させる。原料にはNH、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウムを用いる。このときの成長温度は800℃である。
【0024】
次に、p型Al0.07Ga0.93Nクラッド層18を0.5μm成長させる。原料にはNH、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、シクロペンタジエニルマグネシウムを用いる。このとき、成長温度は1100℃、成長速度は5Å/secとする。
【0025】
次に、p型GaNコンタクト層19を0.2μm成長させる。原料にはNH、トリメチルガリウムを用いる。このときの成長温度は1100℃である。
【0026】
次に、p型GaNコンタクト層19上にPt/Pdからなるp型電極20を形成する。そして、ドライエッチングによりp型電極20及びp型GaNコンタクト層19の一部を取り除き、電流狭窄部分となるストライプ状のリッジを形成する。
【0027】
次に、CVD装置を用いてリッジの両側にSiOからなる絶縁膜21を形成する。そして、p型電極20及び絶縁膜21上にTi/Pd/Auからなるパッド電極22を形成する。
【0028】
次に、n型Al0.07Ga0.93Nクラッド層12側とは反対のGaN基板11面を研磨し、ウエハを150μm程度の厚さにする。そして、研磨した面にAl/Pt/Auからなるn型電極23を形成して、ウエハを完成させる。その後、スクライブ工程でウエハを分割して窒化物半導体レーザ素子10とする。
【0029】
図2は、n型AlGaN高欠陥層13の結晶欠陥密度と素子特性の関係を示すグラフである。横軸は結晶欠陥密度を示し、縦軸は素子のクラック密度(本/cm)又は素子の駆動電圧(V、0.1A駆動時)を示す。図より、n型AlGaN高欠陥層13の結晶欠陥密度が高くなるに従って、素子クラック密度は低くなり、素子駆動電圧は高くなることがわかる。素子特性の観点からは、素子クラック密度と素子駆動電圧は低い方がよい。図中、n型AlGaN高欠陥層13の結晶欠陥密度がn型AlGaNクラッド層12、14の結晶欠陥密度の5倍となる点を矢印Aで示し、10倍となる点を矢印Bで示す。この矢印Aの点を境に、n型AlGaN高欠陥層13の結晶欠陥密度が高くなるに従って急激に素子クラック密度が低くなっている。また、矢印Bの点を境に、n型AlGaN高欠陥層13の結晶欠陥密度が高くなるに従って急激に素子駆動電圧が高くなっている。これらの結果より、素子特性を良好に保つためには、n型AlGaN高欠陥層13の結晶欠陥密度がn型AlGaNクラッド層12、14の結晶欠陥密度の5倍以上、10倍以下であることが望ましい。
【0030】
なお、上記の方法で作成した窒化物半導体レーザ素子10のクラック密度は10本/cmであった。また、比較例として窒化物半導体レーザ素子10からn型AlGaN高欠陥層13を抜いた素子を作成したところ、そのクラック密度は100本/cmであった。このことから、n型AlGaN高欠陥層13がクラックを低減しているといえる。
【0031】
上記では窒化物半導体レーザ素子10を例に説明したが、本発明は格子歪のある化合物半導体を基板上に形成した化合物半導体素子であれば適用することができる。格子歪とは、素子を構成する半導体結晶層の原子間隔(格子定数)が、隣接する他の半導体結晶層の原子間隔と異なるため、互いに圧縮、引っ張り方向に外力を受け、両方の結晶格子が歪んだ状態になることである。そして、高欠陥層は基板と異なる組成と格子定数を有する化合物半導体層中に形成できる。以下に、他の化合物半導体素子の例を示す。
【0032】
図3は、発光ダイオード素子の模式断面図である。発光ダイオード素子30は、n型電極23上に、n型GaN基板11、n型AlGaNクラッド層12、n型AlGaN高欠陥層13、n型AlGaNクラッド層14、InGaN発光層31、p型AlGaNクラッド層18、p型GaNコンタクト層19、p型電極20が順に積層されて構成される。なお、n型GaN基板に替えてn型SiC基板を用いてもよい。
【0033】
図4は、電界効果トランジスタ素子の模式断面図である。電界効果トランジスタ素子40は、絶縁性のSiC基板41上に、n型GaN層42、n型GaN高欠陥層43、n型GaN層44が積層され、n型GaN層44に間隔を空けてソース電極45、ゲート電極46、ドレイン電極47が形成されて構成される。
【0034】
これら発光ダイオード素子30、電界効果トランジスタ素子40においても、n型AlGaNクラッド層12、14、n型AlGaN高欠陥層13の成長工程やn型GaN層42、44、n型GaN高欠陥層43の成長工程の切り替えは、ガス流量のみを変化させたり、成長温度のみを変化させたりするだけで簡単に制御できる。また、n型AlGaN高欠陥層13やn型GaN高欠陥層43を導入することでクラックが減少する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の化合物半導体素子は、半導体レーザ素子をはじめ、発光ダイオード素子、電界効果トランジスタ素子等に広く利用することができ、特に窒化物半導体素子に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の窒化物半導体レーザ素子の模式断面図である。
【図2】本発明のn型AlGaN高欠陥層の結晶欠陥密度と素子特性の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の発光ダイオード素子の模式断面図である。
【図4】本発明の電界効果トランジスタ素子の模式断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10 窒化物半導体レーザ素子
11 GaN基板
12、14 n型AlGaNクラッド層(低欠陥層)
13 n型AlGaN高欠陥層(高欠陥層)
30 発光ダイオード素子
40 電界効果トランジスタ素子
42、44 n型GaN層(低欠陥層)
43 n型GaN高欠陥層(高欠陥層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子歪のある化合物半導体を基板上に形成した化合物半導体素子において、
前記基板と異なる組成の化合物半導体層中に、相対的に結晶欠陥密度が高い高欠陥層と結晶欠陥密度が低い低欠陥層とを有することを特徴とする化合物半導体素子。
【請求項2】
前記化合物半導体が窒化物半導体であることを特徴とする請求項1記載の化合物半導体素子。
【請求項3】
前記基板が窒化ガリウム基板であることを特徴とする請求項1又は2記載の化合物半導体素子。
【請求項4】
前記高欠陥層の結晶欠陥密度が前記低欠陥層の結晶欠陥密度の5倍以上10倍以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の化合物半導体素子。
【請求項5】
格子歪のある化合物半導体を基板上に形成した化合物半導体素子の製造方法において、
前記基板と異なる組成の化合物半導体層を成長させる際に、成長速度を増加させる期間を成長途中に設けることを特徴とする化合物半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記成長速度は、ガス流量又は成長温度により制御されることを特徴とする請求項5記載の化合物半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−19587(P2006−19587A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197089(P2004−197089)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)鳥取三洋電機株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】