説明

半導体発光素子

【課題】キャリア密度に疎密を設けて全体として発光効率を向上させた半導体発光素子を提供する。
【解決手段】半導体発光素子10では、半導体発光層15は第1導電型の第1半導体層12と第2導電型の第2半導体層14の間に設けられている。網目状の第1電極16は、半導体発光層15と反対側の第1半導体層12上に設けられている。ドット状の第2電極18aは、半導体発光層15と反対側の第2半導体層14上に、第2半導体層14の表面に対して平行な平面視で第1電極16の網目の中心と重なるように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化物半導体発光素子には、P型窒化物半導体層上に網目状の開口部を有するP側透光性薄膜電極を形成し、N型窒化物半導体層の全面にN側電極を形成し、窒化物半導体層に流れる電流の分布を均一化するとともに、電極による遮蔽を少なくして光を取り出せるように構成されているものがある。
【0003】
この窒化物半導体発光素子では、P側透光性薄膜電極から注入されたキャリアがP側透光性薄膜電極で広げられ、N側電極から注入されたキャリアと発光層で再結合する。これにより、広い発光領域で、均一な発光が得られている。
【0004】
然しながら、電流を均一に拡げるほどキャリア密度が低下するので、非発光再結合の割合が大きくなり、発光効率自体は低下する問題がある。通電電流を増やせばキャリア密度を増加させることができるが、電圧降下による発熱などに起因して、発光効率は必ずしも向上しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−55646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、キャリア密度に疎密を設けて全体として発光効率を向上させた半導体発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの実施形態によれば、半導体発光素子では、半導体発光層は第1導電型の第1半導体層と第2導電型の第2半導体層の間に設けられている。網目状の第1電極は、前記半導体発光層と反対側の前記第1半導体層上に設けられている。ドット状の第2電極は、前記半導体発光層と反対側の前記第2半導体層上に、前記第2半導体層の表面に対して平行な平面視で前記第1電極の前記網目の中心と重なるように設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1に係る半導体発光素子を示す図。
【図2】実施例1に係る比較例の半導体発光素子を示す断面図。
【図3】実施例1に係る半導体発光素子の電流フローを比較例と対比して示す図。
【図4】実施例1に係る半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図5】実施例1に係る半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図6】実施例1に係る半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図7】実施例1に係る別の半導体発光素子を示す平面図。
【図8】実施例2に係る半導体発光素子を示す断面図。
【図9】実施例2に係る半導体発光素子の電流フローを示す図。
【図10】実施例2に係る別の半導体発光素子の要部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
本実施例に係る半導体発光素子について、図1を用いて説明する。図1は本実施例の半導体発光素子を示す図で、図1(a)はその平面図、図1(b)は図1(a)のA−A線に沿って切断し矢印方向に眺めた断面図である。本実施例の半導体発光素子は、窒化物半導体による青色LED(Light Emitting Diode)である。
【0011】
図1に示すように、本実施例の半導体発光素子10では、半導体積層体11は、第1導電型の第1半導体層であるN型GaNクラッド層12と、第2導電型の第2半導体層であるP型GaNクラッド層13およびP型GaNコンタクト層14と、N型GaNクラッド層12とP型GaNクラッド層13の間に設けられた半導体発光層15とを有する窒化物半導体積層体である。
【0012】
半導体発光層15と反対側のN型GaNクラッド層12上に、細線が周辺部まで網目状に張り巡らされてなる網目状の第1電極16が設けられている。N型GaNクラッド層12の中央部にはワイヤをボンディングするためのパッド電極16aが設けられている。
【0013】
第1電極16は、例えばN型GaN層とオーミックコンタクトが可能なチタン(Ti)/白金(Pt)/金(Au)の積層膜である。パッド電極16aは、例えば金膜である。
【0014】
本実施例では、網目は正六角形である。正六角形は、平面を隙間なく敷き詰めることができる図形である(平面充填)。
【0015】
半導体発光層15と反対側のP型GaNコンタクト層14上に、P型GaNコンタクト層14の表面に対して平行な平面視で第1電極16の各網目の中心と重なるようにドット状の第2電極18aが設けられている。ドット状の第2電極18aは各網目に対応して複数設けられている。ドット状の第2電極18aは、例えばP型GaNとオーミックコンタクトが可能な金(Au)膜である。
【0016】
ドットは原理的には点であるが、ドット状の第2電極18aとP型GaNコンタクト層14とのコンタクト抵抗などで決まる適当なサイズが存在する。ドットの形状は網目内の電流の面内分布が対称になるように、網目と相似な形状とするとよい。
【0017】
半導体発光層15と反対側のP型GaNコンタクト層14上であって、ドット状の第2電極18aを除く領域に絶縁膜17が設けられている。絶縁膜17はドット状の第2電極18aを囲むように設けられている。絶縁膜17は、電流ブロック層として機能する。
【0018】
絶縁膜17上に、複数のドット状の第2電極18aが共通接続された引き出し電極18bが設けられている。ドット状の第2電極18aと引き出し電極18bを総称して、第2電極18と称する。
【0019】
絶縁膜17は、例えばシリコン酸化膜である。絶縁膜17は半導体発光層15から放射される光に対して透光性有していることが望ましい。引き出し電極18bを光反射膜として利用することができる。
【0020】
半導体積層体11は、引き出し電極18bおよび接合層19(金属層)を介して導電性の支持基板20に接合されている。接合層19と反対側の支持基板20には基板電極21(第3電極)が形成されている。
【0021】
接合層19は、例えば金錫(AuSn)合金膜である。支持基板20は、例えばシリコン基板である。基板電極21は、例えば金またはアルミニウム(Al)膜である。
【0022】
パッド電極16aと基板電極21の間に電圧を印加することにより、半導体発光素子10に電流が流れ、半導体発光層15に注入されたキャリアが発光再結合し、例えばピーク波長が約450nmの光が放出される。
【0023】
なお、半導体積層体11については周知であるが、以下簡単に説明する。N型GaNクラッド層12は、半導体発光層15、P型GaNクラッド層13、P型GaNコンタクト層14をエピタキシャル成長させるための下地単結晶層を兼ねており、例えば約2乃至5μmと厚く形成されている。
【0024】
半導体発光層15は、例えばInGaN障壁層とInGaN井戸層とが交互に積層された多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)である。
【0025】
InGaN障壁層は、例えば厚さが10nm、In組成比が0.05である。InGaN井戸層は、例えば厚さが2.5nm、In組成比が0.2である。InGaN障壁層とInGaN井戸層は、例えば8組形成されている。
【0026】
上述した半導体発光素子10は、半導体活性層15においてドット状の第2電極18aに対向する領域の電流密度を周りより高くすることにより、半導体活性層15内に局所的にキャリア密度の高い領域を作り出すように構成されている。
【0027】
半導体発光素子の発光効率は、電子と正孔のペアが発光に係る発光再結合寿命と、欠陥に捕まって熱となるのに係る非発光再結合寿命のバランスで決定される。
【0028】
非発光再結合にはキャリア密度の3乗に比例するオージェ再結合とキャリア密度に比例するショックレー・リード・ホール(SRH)再結合がある。キャリア密度の小さい低電流の場合、およびオージェ再結合が起こりにくい半導体では、SRH再結合の影響が大きくなる。
【0029】
その場合、半導体発光素子の発光効率は、主にキャリア密度の自乗に比例する発光再結合確率と、SRH非発光再結合確率に支配されることになる。
【0030】
半導体発光層15内にキャリア密度の疎密を設けることにより、キャリア密度が高い領域は発光再結合確率がSRH非発光再結合確率より十分大きくなり、発光効率が相対的に大きくなる。
【0031】
一方、キャリア密度が低い領域は発光再結合確率とSRH非発光再結合確率の差が縮まり発光効率は相対的に小さくなる。
【0032】
従って、キャリア密度が高い領域とキャリア密度が低い領域の割合およびその面内分布を最適化することにより、全体として発光効率を向上させることが可能である。
【0033】
半導体発光層15に流れる電流分布を単に均一化する場合より、高い発光効率を得ることが可能である。
【0034】
電流は、パッド電極16bから網目状の第1電極16に沿って半導体発光素子10の周辺まで略均一に広がる。第1電極16の網目の各辺からN型GaN層12に流入する電流22は、網目の中心に重なるように設けられたドット状の第2電極18aに向かって流れる。
【0035】
P型GaNクラッド層13およびP型GaNコンタクト層14は、N型GaN層12より十分薄く且つ抵抗が高いので、P型GaNクラッド層13、P型GaNコンタクト層14などのP型層に沿っての電流の広がりは無視することができる。
【0036】
その結果、半導体発光層15においてドット状の第2電極18aに対向する領域に電流が集中し、電流集中領域23が生じる。電流集中領域23のキャリア密度は周りより高くなり、光強度の高い発光領域24が得られる。
【0037】
正六角形の網目の大きさは、隣接する発光領域24同士が干渉しないように数十μm乃至100μm程度が好ましい。これにより、六角格子の中心に光を集中した点を高密度に配置することができる。また、第1電極16の細線による光の遮蔽も少ないため、発光効率も向上し、大出力化が可能になる。
【0038】
図2は比較例の半導体発光素子を示す断面図である。比較例の半導体発光素子とは、P型GaNコンタクト層と第2電極が全面で接触している半導体発光素子のことである。
【0039】
図2に示すように、比較例の半導体発光素子30は、P型GaNコンタクト層14上に第2電極31が設けられている。P型GaNコンタクト層14と第2電極31は全面で接触している。電流32は、第1電極16の各辺から第2電極31に向かって略垂直に流れる。
【0040】
図3は半導体発光素子10の電流フローを半導体発光素子30の電流フローと対比して示す図である。図3(a)−1、図3(a)−2は半導体発光素子10の電流フローを示す図で、図3(a)−1はその平面図、図3(a)−2はその断面図である。図3(b)−1、図3(b)−2は半導体発光素子30の電流フローを示す図で、図3(b)−1はその平面図、図3(b)−2はその断面図である。
【0041】
図3に示すように、比較例の半導体発光素子30では、電流フローは以下のようになる。電流32は第1電極16の真下が一番強く、第1電極16から離れるに従って弱くなる。第1電極16の中心には、電流はほとんど流れない。
【0042】
その結果、第1電極16の真下の発光強度が高くなるが、第1電極16に遮蔽されるので、光を効率的に取り出すことができない。
【0043】
一方、本実施例の半導体発光素子10では、電流フローは以下のようになる。上述したように電流22は第1電極16の各辺からドット状の第2電極18bに向けて集中する。電流密度は六角形の面積とドット状の第2電極18aの面積の比に応じて増加する。また、第1電極16の直下には、電流はほとんど流れない。
【0044】
その結果、第1電極16の中心部の発光強度が高くなり、光は第1電極16に遮蔽されることもなく、効率的に取り出される。
【0045】
次に、半導体発光素子10の製造方法について説明する。図4乃至図6は半導体発光素子10の製造工程を順に示す断面図である。
【0046】
図4(a)に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、エピタキシャル成長用の基板51にN型GaNクラッド層12、半導体発光層15、P型GaNクラッド層13およびP型GaNコンタクト層14を順にエピタキシャル成長させて半導体積層体11を形成する。
【0047】
半導体積層体11の製造プロセスについては周知であるが、以下簡単に説明する。基板51としてC面サファイア基板を用い、前処理として、例えば有機洗浄、酸洗浄を施した後、MOCVD装置の反応室内に収納する。
【0048】
次に、例えば窒素(N)ガスと水素(H)ガスの常圧混合ガス雰囲気中で、高周波加熱により、基板51の温度を、例えば1100℃まで昇温する。これにより、基板51の表面が気相エッチングされ、表面に形成されている自然酸化膜が除去される。
【0049】
次に、NガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばアンモニア(NH)ガスと、トリメチルガリウム(TMG:Tri-Methyl Gallium)ガスを供給し、N型ドーパントとして、例えばシラン(SiH)ガスを供給し、厚さ4μmのN型GaNクラッド層12を形成する。
【0050】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガスおよびSiHガスの供給を停止し、基板51の温度を1100℃より低い温度、例えば800℃まで降温し、800℃で保持する。
【0051】
次に、Nガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばNHガス、TMGガスおよびトリメチルインジウム(TMI:Tri-Methyl Indium)ガスを供給し、厚さ10nm、In組成比が0.05のInGaN障壁層を形成し、TMIガスの供給を増やすことにより、厚さ2.5nm、In組成比が0.2のInGaN井戸層を形成する。
【0052】
次に、TMIガスの供給を増減することにより、InGaN障壁層とInGaN井戸層の形成を、例えば8回繰返す。これにより、半導体発光層15が得られる。
【0053】
次に、TMGガス、NHガスは供給し続けながらTMIガスの供給を停止し、アンドープで厚さ5nmのGaNキャップ層(図示せず)を形成する。
【0054】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガスの供給を停止し、Nガス雰囲気中で、基板51の温度を800℃より高い温度、例えば1030℃まで昇温し、1030℃で保持する。
【0055】
次に、NガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとしてNHガス、TMGガス、P型ドーパントとしてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を供給し、厚さが40nm、Mg濃度が1E20cm−3程度のP型GaNクラッド層13を形成する。
【0056】
次に、Cp2Mgの供給を増やして、厚さ10nm、Mg濃度が1E21cm−3程度のP型GaNコンタクト層14を形成する。
【0057】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガスの供給を停止し、キャリアガスのみ引き続き供給し、基板51を自然降温する。NHガスの供給は、基板51の温度が500℃に達するまで継続する。これにより、基板51に半導体積層体11が形成され、P型GaNコンタクト層14が表面になる。
【0058】
次に、図4(b)に示すように、P型GaNコンタクト層14上に絶縁膜17として、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により厚さが約100nmのシリコン酸化膜を形成する。フォトリソグラフィ法により絶縁膜17に図1に示す第1電極16の中心に対応する開口17a形成する。
【0059】
次に、図4(c)に示すように、絶縁膜17上に第2電極18として、例えばスパッタリング法により開口17aを埋めるように厚さが約1μmの金膜を形成し、熱処理を施す。
【0060】
これにより、P型GaNコンタクト層14と接触する金膜が合金化し、ドット状の第2電極18bになる。絶縁膜17上に形成された金膜はそのまま残置され、引き出し電極18bになる。
【0061】
次に、図5(a)に示すように、導電性の支持基板20の一方の面に接合層19として、例えば蒸着法により厚さが約2μmの金錫合金(AuSn)膜を形成する。支持基板20の他方の面に基板電極21として、例えばスパッタリング法により厚さ約1μmの金膜を形成する。
【0062】
次に、図5(b)に示すように、基板51を反転して第2電極18と接合層19を対向させ、基板51と支持基板20を重ね合わせる。
【0063】
次に、図6(a)に示すように、基板51と支持基板20を加圧、加熱して金錫合金膜を溶融させ、基板51と支持基板20を接合する。AuSnは300℃程度に加熱されると溶融状態になるので、引き出し電極18bと接合層19が融着する。
【0064】
次に、図6(b)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、基板51を除去する。レーザリフトオフ法とは、高出力のレーザ光を照射することにより物質内部を部分的に加熱分解し、分解した部分を境に分離する手法である。
【0065】
具体的には、基板51を通過しN型GaNクラッド層12で吸収されるレーザを照射し、N型GaNクラッド層12を解離させて、基板51とN型GaNクラッド層12を分離する。
【0066】
例えばNd−YAGレーザの第4高調波(266nm)を基板51側から照射する。この光に対してサファイアは透明なので、照射された光は基板51を透過してN型GaNクラッド層12で有効に吸収される。
【0067】
基板51との界面近傍のN型GaNクラッド層12には多くの結晶欠陥が存在するために、吸収された光はほとんど全てが熱に変換され、2GaN=2Ga+N(g)↑なる反応が生じ、GaNはGaとNガスに解離する。
【0068】
基板51とN型GaNクラッド層12の間には解離したGa層52が残置され、解離したNガスはGa層52中を拡散して外部に放出される。
【0069】
レーザは基板51との界面近傍のN型GaNクラッド層12に焦点を合わせることが適当である。レーザは、連続光(CW)でも、パルス光(PW)でもよいが、尖頭出力の高いパルス光であることが望ましい。
【0070】
尖頭出力の高いパルスレーザとしては、ピコ秒からフェムト秒オーダの超短パルス光が出力可能なQスイッチレーザ、モードロックレーザなどが適している。
【0071】
第1レーザ35のパルス幅、ピークエネルギー、繰り返し周波数、移動速度などを適宜選択することにより、N型GaNクラッド層12の熱分解は、発生した熱が拡散する間もない極めて短い時間でおこなうことができる。
【0072】
次に、ホットプレート上で支持基板20を40℃程度に加熱する。Gaは40℃程度に加熱されると溶融状態になるので、半導体積層体11と基板51を分離することができる。Ga(融点〜30℃)が溶融状態になる温度は、AuSnの融点(〜280℃)より十分低い。
【0073】
次に、N型GaNクラッド層12上に残置されたGa層52を温水、もしくは塩酸に浸漬して除去する。塩素(Cl)系ガスを用いたドライエッチング法によりN型GaNクラッド層12をエッチバックし、レーザの照射によるダメージを除去する。
【0074】
その後、例えばリフトオフ法によりN型GaNクラッド層12上に網目状の第1電極16を形成する。
【0075】
具体的には、N型GaNクラッド層12上に、フォトリソグラフィ法により先に形成したドット状の第2電極18aと位置合わせして網目状の第1電極16に対応する開口パターンを有するレジスト膜を形成する。レジスト膜の厚さは、第1電極16の厚さより厚くしておく。
【0076】
レジスト膜が形成されたN型GaNクラッド層12上に金膜を形成し、溶剤を用いてレジスト膜を除去する。レジスト膜上の金膜は除去され、残置された金膜が網目状の第1電極16になる。これにより、図1に示す半導体発光素子10が得られる。
【0077】
以上説明したように、本実施例の半導体発光素子10では、N型GaNクラッド層12上に網目状の第1電極16が設けられ、P型GaNコンタクト層14上に第1電極16の網目の中心に重なるようにドット状の第2電極18aが設けられている。
【0078】
その結果、電流を周辺部まで広げて、ドット状の第2電極18aに集中させることにより、半導体発光層15内に局所的に高キャリア密度領域が作り出される。高キャリア密度領域では周りより発光効率が大きくなる。
【0079】
従って、キャリア密度に疎密を設けて全体として発光効率を向上させた半導体発光素子が得られる。半導体発光層15内に局所的にキャリア密度の高い領域を形成する位置およびキャリア密度の最適化が容易である。
【0080】
ここでは、網目が正六角形である場合について説明したが、平面充填可能な他の形状、例えば正方形、正三角形でも実施することは可能である。但し、網目の中心から各辺の中央までの距離と、網目の中心から各辺の端部までの距離の差が大きくなるで、電流密度の面内均一性が低下する恐れがある。特に支障がない限り、網目は正六角形が適している。
【0081】
金膜である引き出し電極18bを光反射膜として利用する場合について説明したが、光反射膜として金より光反射率の高い銀(Ag)を用いることにより、更に光出力を増加させることができる。
【0082】
その場合、ドット状の第2電極18aと引き出し電極18bを銀と金の積層膜とするとよい。初めに、例えばスパッタリング法により厚さ約300nmの銀膜を形成し、続いて厚さ約700nmの金膜を形成する。次に、熱処理を施す。
【0083】
これにより、P型GaNコンタクト層14と接触する銀膜が合金化し、金でオーバーコートされた2層のドット状の第2電極18bになる。絶縁膜17上に形成された銀膜はそのまま残置され、金でオーバーコートされた2層の引き出し電極18bになる。
【0084】
金でオーバーコートすることにより、製造プロセス中での銀の変質(酸化、硫化)、マイグレーションなどによるトラブルが未然に防止される。また、銀は金よりも比抵抗が低く、熱伝導率も高いので、電気特性、熱特性など向上が期待される。
【0085】
半導体積層体に、P型AlGaNオーバフロー防止層および超格子バッファ層を設けることも可能である。図7は半導体積層体にP型AlGaNオーバフロー防止層および超格子バッファ層が設けられた半導体発光素子を示す図である。
【0086】
図7に示すように、半導体発光素子60の半導体積層体61では、半導体発光層15とP型GaNクラッド層13の間にP型AlGaNオーバフロー防止層62が設けられている。
【0087】
P型AlGaNオーバフロー防止層62は、例えば厚さが10nm、Al組成比が0.15である。P型AlGaNオーバフロー防止層62のバンドギャッブは、P型GaNクラッド層13のバンドギャッブより大きい。
【0088】
周知のように、P型AlGaNオーバフロー防止層62は、半導体発光層15に注入された電子が半導体発光層15を突き抜けるのを抑制するので、半導体発光層15内のキャリア密度が増加する。その結果、発光効率が向上する利点がある。
【0089】
半導体発光層15とN型GaNクラッド層12との間に超格子バッファ層63が設けられている。超格子バッファ層63は、組成が異なる第1のInGaAlN層と第2のInGaAlN層が交互に積層されている。
【0090】
周知のように、超格子バッファ層63は、N型GaNクラッド層12から転位などの結晶欠陥が半導体発光層15に伝播するのを抑制するので、半導体発光層15の結晶性が向上する。その結果、発光効率が向上する利点がある。
【0091】
支持基板20がシリコン基板である場合について説明したが、導電性を有するその他の基板、例えば金属基板、導電性セラミックス基板などを用いることも可能である。
【実施例2】
【0092】
本実施例に係る半導体発光素子について図8を用いて説明する。図8は本実施例の半導体発光素子を示す断面図である。本実施例において、上記実施例1と同一の構成部分には同一符号を付してその部分の説明は省略し、異なる部分について説明する。
【0093】
本実施例が実施例1と異なる点は、N型GaNクラッド層上に透明導電膜を設けたことにある。
【0094】
即ち、図8に示すように、本実施例の半導体発光素子70は、N型GaNクラッド層12上に半導体発光層15から放出される光に対して透光性を有する透明導電膜71が設けられている。
【0095】
透明導電膜71は、例えば厚さ0.1乃至0.2μmのITO(Indium Tin Oxide)膜である。網目状の第1電極16は、透明導電膜71上に設けられている。透明導電膜71により、半導体発光素子70の周辺まで電流を広げるのが容易になる。
【0096】
電流を広げるためにはITO膜を厚くした方が良い。一方、ITO膜はわずかであるが光を吸収してしまうため、光を取り出すためには薄い方が好ましい。以後、透明導電膜をITO膜とも記す。
【0097】
透明導電膜71は、半導体積層体11の側面に沿って流れる表面電流を抑制するために、N型GaNクラッド層12のエッジより距離L1、例えば10μmだけ内側に形成されている。距離L1は、半導体発光層15に注入される少数キャリアの拡散長(μmオーダ)の10倍以上が好ましい。
【0098】
N型GaNクラッド層12は、例えば不純物濃度が2E18cm−3、移動度が300乃至400cm/V・s程度なので、抵抗率は8E−3乃至1E−2Ωcmである。N型GaNクラッド層12の厚さが4μmのとき、N型GaNクラッド層12のシート抵抗ρs1は、20乃至25Ω/□となる。
【0099】
透明導電膜71の抵抗率は、製法や条件により異なるが、2E−4Ωcmとすることは可能である。透明導電膜71のシート抵抗ρs2は、十分な透過率、例えば80%以上が得られる厚さである0.2μm以下でも、12Ω/□以下となる。
【0100】
図9は半導体発光素子70の電流フローを図1に示す半導体発光素子10の電流フローと対比して示す図で、図9(a)はその平面図、図9(b)はその断面図である。
【0101】
図9に示すように、半導体発光素子70では、電流フローは以下のようになる。電流72は、網目状の第1電極16の各辺から透明導電膜71中に流れ込み、透明導電膜71に沿って網目の中心に向かって流れる。
【0102】
電流72は、網目の中心付近で透明導電膜71からN型GaNコンタクト層12中に流れ込み、N型GaNコンタクト層12の厚さ方向に沿ってドット状の第2電極18aに向かって流れる。
【0103】
その結果、半導体発光層15中にドット状の第2電極18aの大きさと略等しい大きさを有する電流集中領域73が生じる。電流集中領域73は図3に示す電流集中領域23より小さいので、キャリア密度がより高くなり、発光効率を向上させることが可能である。
【0104】
次に、半導体発光素子70の製造方法について説明する。ITO膜は、例えばスパッタリング法により形成する。一般に、スパッタリング等でITO膜を形成すると、成膜時の基板温度、プラズマ密度、酸素分圧等に依存して、アモルファスITOと結晶質ITOが混在したITO膜が得られることが知られている。
【0105】
例えば、基板温度で言えば、ITOの結晶化温度は150℃乃至200℃付近にある。基板温度が結晶化温度付近にあると、アモルファスITOと結晶質ITOが混在したITO膜が得られる。
【0106】
ITO膜に、アモルファスITOに囲まれるように結晶質ITOが分散してピラー状に存在していることは、断面TEM(Transmission Electron Microscope)観察および電子線回折パターン等から確かめられている。
【0107】
次に、ITO膜上にレジスト膜を形成し、レジスト膜をマスクとしてITO膜をエッチングする。IOT膜のエッチングは、例えば塩酸と硝酸の混酸によりおこなう。エッチングは、結晶質ITOおよびアモルファスITOがともに除去されるまでおこなう。
【0108】
このとき、レジスト膜下のITO膜がサイドエッチングされる。アンダーカット幅が距離L1になるようにエッチング条件を調整する。
【0109】
結晶質ITOのエッチング速度は、アモルファスITOのエッチング速度より遅くなる。結晶質ITOのエッチング速度は、例えば50乃至100nm/min程度である。アモルファスITOエッチング速度は、例えば100乃至500nm/min程度である。
【0110】
なお、結晶質ITOは、残渣として残留し易いため、超音波を印加してエッチングするか、またはエッチング後に超音波洗浄を施して物理的に除去することが望ましい。
【0111】
次に、ITO膜とN型GaNクラッド層12のオーミックコンタクトをとるために、熱処理を施す。熱処理は、例えば窒素中、もしくは窒素と酸素の混合雰囲気中で、温度400乃至750℃程度、時間1乃至20分程度が適当である。熱処理は、ITO膜の結晶化を促進し、ITO膜の導電率を高める効果もある。
【0112】
以上説明したように、本実施例の半導体発光素子70では、N型GaNクラッド層12上に透明導電膜71を設け、透明導電膜71上に網目状の第1電極16を設けている。その結果、網目の中心まで電流が広がるので、半導体発光層15中にドット状の第2電極18aの大きさと略同じ大きさの電流集中領域73が生じる。
【0113】
電流集中領域73は図3に示す電流集中領域23より小さいので、キャリア密度がより高くなり、発光効率を向上させることができる利点がある。
【0114】
ここでは、透明導電膜71がITO膜である場合について説明したが、その他の透明導電膜、例えばZnO膜、SnO膜などでも同様に実施することができる。
【0115】
透明導電膜71が平坦な膜である場合について説明したが、表面に凹凸が設けられた透明導電膜とすることも可能である。図10は透明導電膜の表面に凹凸が設けられた半導体発光素子の要部を示す断面図である。
【0116】
図10に示すように、N型GaNクラッド層12の表面に凸部81aと凹部81bで構成される凹凸を有する透明導電膜81が設けられている。凸部81aは主に結晶質ITOからなり、凹部81bは主にアモルファスITOからなっている。
【0117】
N型GaNクラッド層12側から透明導電膜81の表面に入射する光の入射角度は、透明導電膜81の表面に設けられた凹凸に応じて種々変化する。その結果、透明導電膜81と大気の界面で全反射される光の割合が減少するので、光取り出し効率が向上する利点がある。
【0118】
表面に凹凸が設けられた透明導電膜81は、結晶質ITOとアモルファスITOのエッチング速度の差を利用して形成することができる。上述したように、結晶質ITOとアモルファスITOの選択比は、2乃至5程度と見込まれる。
【0119】
透明導電膜81を塩酸と硝酸の混酸でエッチングする際に、エッチング速度の速いアモルファスITOを全て除去せず、一部が残置されるようにエッチング条件を調整する。これにより、表面に凹凸が設けられた透明導電膜81が得られる。
【0120】
なお、透明導電膜81は、凹凸を形成するエッチングによる目減り分を見込んで予め厚目に形成しておくとよい。
【0121】
なお、凹凸の形成は、ウエットエッチングだけでなく、ドライエッチング、例えはCDE(Chemical Dry Etching)、RIE(Reactive Ion Etching)でも形成することは可能である。
【0122】
また、N型GaNクラッド層12の表面に凹凸を設け、表面に凹凸が設けられたN型GaNクラッド層12に透明導電膜81を設けることも可能である。N型GaNクラッド層12の表面に凹凸を設けるのは、例えば次のように行う。
【0123】
N型GaNクラッド層12の表面をKOH水溶液によりエッチングする。GaNはKOH水溶液に対するエッチングレードが小さいので、エッチングむらに起因してN型GaNクラッド層12の表面に凹凸を設けることが可能である。KOH水溶液は、例えば濃度20%〜40%程度、温度60℃〜70℃程度が適当である。
【0124】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0125】
本発明は、以下の付記に記載されているような構成が考えられる。
(付記1) 前記網目が、正方形または正三角形である請求項1または請求項2に記載半導体発光素子。
【0126】
(付記2) 前記第1半導体層はN型GaNクラッド層、前記第2半導体層はP型GaNクラッド層およびP型GaNコンタクト層である請求項1または請求項2に記載半導体発光素子。
【0127】
(付記3) 前記透明導電膜が、ITO膜、ZnO膜またはSnO膜である請求項5に記載の半導体発光素子。
【0128】
(付記4) 前記半導体発光層は、Inx1Gay1Al(1−x1−y1)N井戸層(0<x1<1、0<y1≦1)と、Inx2Gay2Al(1−x2−y2)N障壁層(0≦x2<x1<1、0<y1<y2≦1)が交互に積層された多重量子井戸である請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【0129】
(付記5) 前記第2半導体層と前記半導体発光層との間に、前記第2半導体層よりバンドギャップエネルギーの大きい第2導電型の第3半導体層を具備する請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【0130】
(付記6) 前記第3半導体層は、P型AlGaNオーバフロー防止層である付記5に記載の半導体発光素子。
【0131】
(付記7) 前記第1半導体層と前記半導体発光層との間に、組成の異なる第1のInGaAlN層と第2のInGaAlN層が交互に積層された超格子バッファ層を具備する請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【0132】
(付記8) 前記透明導電膜は前記第1半導体層のエッジより内側に設けられ、前記透明導電膜のエッジと前記第1半導体層のエッジの間の距離が、前記半導体発光層に注入される少数キャリアの拡散長の10倍以上である請求項5に記載の半導体発光素子。
【0133】
(付記9)
前記ドットが、前記網目と相似形である請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【符号の説明】
【0134】
10、30、60、70 半導体発光素子
11、61 半導体積層体
12 N型GaNクラッド層
13 P型GaNクラッド層
14 P型GaNコンタクト層
15 半導体発光層
16 第1電極
16a パッド電極
17 絶縁膜
17a 開口
18、31 第2電極
19 接合層
20 支持基板
21 基板電極
22、32、72 電流
23、73 電流集中領域
24 発光領域
51 基板
52 Ga層
62 P型AlGaNオーバフロー防止層
63 超格子バッファ層
71、81 透明導電膜
81a 凸部
81b 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体層と、
第2導電型の第2半導体層と、
前記第1半導体層と前記第2半導体層の間に設けられた半導体発光層と、
前記半導体発光層と反対側の前記第1半導体層上に設けられた網目状の第1電極と、
前記半導体発光層と反対側の前記第2半導体層上に、前記第2半導体層の表面に対して平行な平面視で前記第1電極の前記網目の中心と重なるように設けられたドット状の第2電極と、
を具備することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
第1導電型の第1半導体層と、
第2導電型の第2半導体層と、
前記第1半導体層と前記第2半導体層の間に設けられた半導体発光層と、
前記半導体発光層と反対側の前記第1半導体層上に設けられた網目状の第1電極と、
前記半導体発光層と反対側の前記第2半導体層上に、前記第2半導体層の表面に対して平行な平面視で前記第1電極の前記網目の中心と重なるように設けられたドット状の第2電極と、
前記半導体発光層と反対側の前記第2半導体層上であって、前記ドット状の第2電極を除く領域に設けられた絶縁膜と、
前記ドット状の第2電極上および前記絶縁膜上に設けられた金属層と、
前記金属層上に設けられた支持基板と、
前記支持基板に設けられた第3電極と、
を具備することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項3】
前記網目が、正六角形であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第2半導体層は、前記第1半導体層より薄いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1半導体層上に設けられ、前記半導体発光層から放出される光に対して透光性を有する透明導電膜を具備し、
前記第1電極は前記透明導電膜上に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記透明導電膜の表面に凹凸が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−93399(P2013−93399A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233610(P2011−233610)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】