説明

半導体装置の製造方法および電気光学装置

【課題】非晶質シリコン層を改質して得られたポリシリコン層には突起部分が発生する。ゲート絶縁層中に突起があると、この突起部分に電界が集中し、絶縁破壊が生じる。電解還元水は、酸化シリコン層をエッチングせず、ポリシリコン層をエッチングする性質がある。そこで酸化シリコン層を除去した後、電解還元水をスラリーとして用いてCMP法を用いる技術があるが、この場合、ポリシリコン層全面がCMP法により薄層化されてしまうという課題がある。
【解決手段】自然酸化シリコン層304を残した状態で電解還元水をスラリー107として用いてCMP工程を行う。機械的効果によりポリシリコン層303の突起上にある自然酸化シリコン層304は除去され、突起領域のみ電解還元水でエッチングが進みポリシリコン層303は平坦化される。そして、平坦部は自然酸化シリコン層304により保護され、薄層化は抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法および電気光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶装置や有機EL(エレクトロルミネセンス)装置は、トランジスタを含む集積回路を用いて画素のスイッチング動作等を行っている。トランジスタの構造としては、非晶質シリコン層を用いてチャネル領域を形成したものが知られている。非晶質シリコン層を用いる場合、シリコン層を300℃程度で形成することが可能となる。そのため、石英基板等の耐熱基板を用いる必要がなくなり、加工が容易で一辺が2mを超えるような大型の基板を用いることが可能となる。
【0003】
また、ポリシリコン層を用いてチャネル領域等を形成したトランジスタも実用化されている。ポリシリコン層を用いることにより、非晶質シリコン層を用いた場合に比較して移動度等の電気的特性を向上させることが可能となる。
【0004】
光学的に透明なガラス基板に配置されるポリシリコン層製造方法としては、一旦非晶質シリコン層を形成して後、この非晶質シリコン層を再結晶化させてポリシリコン層に改質するプロセスが知られている。ここで、ガラス基板の温度上昇を抑え、石英よりも軟化点が低いガラス上の非晶質シリコン層をポリシリコン層に改質できれば、一辺が2mを超える大型ガラス基板にポリシリコン層を形成することが可能となる。
【0005】
ガラス基板の温度上昇を抑えて非晶質シリコンをポリシリコンに改質する工程の一つの手法として、紫外線レーザを非晶質シリコン層に照射し、非晶質シリコン層の温度だけを上昇させ、ポリシリコン層を形成する技術が知られている。このポリシリコン層にゲート絶縁層を形成し、ゲート電極を配置することでトランジスタは構成される。
【0006】
この場合、ポリシリコン層を形成する各単結晶粒子の間には、再結晶を行う場合に両単結晶同士がぶつかることに起因する突起部分が発生する。この状態でゲート絶縁層を形成すると、ゲート絶縁層内にこの突起部分が配置される。
【0007】
この突起部分を含む領域上に位置するゲート絶縁層中では、この突起部分に電界が集中し、ここからゲート絶縁層の絶縁破壊が生じる。これはゲート絶縁層の薄層化(トランジスタの能力を向上させる)を阻害する要因となっている。
【0008】
この課題に対して、例えば特許文献1に示すように、ポリシリコン層表面に生じた酸化シリコン層を除去した後、CMP(化学機械研磨)工程を用いて、通常のスラリーに代えて電解還元水を用いてポリシリコン層全体を研磨し、平坦化させたポリシリコン層を提供する技術が知られている。
【0009】
【特許文献1】特開2007−160496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では、酸化シリコンを除去せずにCMP工程を行う場合には、研磨粒子を導入し、研磨粒子により酸化シリコンを除去しCMP工程を行う技術が例示されているのみであり、電解還元水を用いて研磨粒子抜きで平坦化を行う工程については実現可能性を示していない。また、酸化シリコン層を除去してポリシリコンのCMP工程を用いる場合、ポリシリコン層全面に対してエッチングが進行し、ポリシリコン層の厚みが減少する。トランジスタの性能はチャネル領域が配置されるポリシリコン層が厚くなることで低下するためトランジスタの性能とポリシリコンの残り層厚とを最適制御する必要があるが、CMP工程で薄く層を残すよう制御し、突起部分のみを選択的に除去することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0012】
[適用例1]本適用例にかかる半導体装置の製造方法は、基板表面に位置するシリコン層の表面に、酸化シリコン層を形成する工程と、前記酸化シリコン層を形成した前記基板を、研磨液(スラリー)として電解還元水を用いて化学機械研磨法を用いて研磨する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
これによれば、化学機械研磨法を用いて研磨することで、酸化シリコン層の凸部に他の領域と比べ高い機械的圧力が印加される。高い機械的圧力が印加されることで酸化シリコン層は摩滅し、シリコン層が露出する。電解還元水は酸化シリコン層をエッチングすることなくシリコン層をエッチングする機能を有している。ここで、酸化シリコン層における凸部の位置は、シリコン層における凸部の位置と対応している。即ち、シリコン層の凸部が選択的にエッチングされるため、シリコン層の平坦性を向上させることが可能となる。
【0014】
[適用例2]上記適用例にかかる半導体装置の製造方法であって、前記電解還元水に代えて水を用いることを特徴とする。
【0015】
上記した製造方法によれば、水を用いても電解還元水を用いた場合と同様な効果を得ることができる。そのため、電解還元水を供給しなくともシリコン層の平坦性を向上させることが可能となる。なお、「水」は純水や超純水を含んでいる。
【0016】
[適用例3]上記適用例にかかる半導体装置の製造方法であって、前記シリコン層における平坦性の向上により化学機械研磨法における機械的圧力の集中を抑制し、前記酸化シリコン層のエッチング速度を低下させることで、前記シリコン層における残り層厚の減少を抑制することを特徴とする。
【0017】
上記した製造方法によれば、シリコン層の平坦化に伴い、シリコン層のエッチング速度を低下させることができる。そのため、シリコン層の厚さを保持した状態で平坦化を進めることが可能となり、平坦化処理によるシリコン層の消失、過度の薄層化を抑制することが可能となる。
【0018】
[適用例4]本適用例にかかる半導体装置の製造方法は、(1)基板表面に位置するシリコン層を、研磨液として電解還元水を用いて化学機械研磨法を用いて研磨する工程と、(2)前記シリコン層を酸化雰囲気に晒す工程と、(3)再び前記(1)を行う工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
これによれば、化学機械研磨法を用いて研磨することで、酸化シリコン層の凸部に他の領域と比べ高い機械的圧力が印加される。高い機械的圧力が印加されることで酸化シリコン層は摩滅し、シリコン層が露出する。この状態で酸化雰囲気に晒し、酸化シリコン層を形成することで、シリコン層が露出した部分、即ち機械的圧力が集中する凸部が酸化雰囲気に依存する一定の層厚を有するよう酸化される。この状態で再度(1)の工程を行うため、酸化に伴い、シリコン層が露出した部分が減少する。このため、工程を一巡させる場合でのシリコン層の凸部における除去量を一定量に制御することが可能となり、シリコン層が露出した部分に対してエッチングを進める工程と比べ、高い再現性を有する平坦化を行うことが可能となる。
【0020】
[適用例5]上記適用例にかかる半導体装置の製造方法であって、前記電解還元水に代えて水を用いることを特徴とする。
【0021】
上記した製造方法によれば、水を用いても電解還元水を用いた場合と同様な効果を得ることができる。そのため、電解還元水を供給しなくともシリコン層の平坦性を向上させることが可能となる。なお、「水」は純水や超純水を含んでいる。
【0022】
[適用例6]上記適用例にかかる半導体装置の製造方法であって、前記シリコン層はポリシリコン層であることを特徴とする。
【0023】
上記した製造方法によれば、結晶粒界で突起形状を有する酸化シリコン層で覆われたポリシリコン層の突起部を良好に平坦化することが可能となる。当該突起部では、化学機械研磨法を用いる場合に、機械的圧力が集中して印加されることで酸化シリコン層が除かれ、ポリシリコン層の突起部が露出し、選択的に除去される。そのため、突起形状を選択的に平坦化しうる製造方法を提供することが可能となる。
【0024】
[適用例7]本適用例にかかる電気光学装置は、上記した半導体装置の製造方法を用いて形成される半導体装置を含むことを特徴とする。
【0025】
これによれば、本適用例にかかる電気光学装置は、上記した半導体装置の製造方法を用いて形成された半導体装置を用いるため、従来技術と比べ高精細な表示品位を有する電気光学装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。
(CMP装置)
以下、本実施形態にかかるCMP工程を行うCMP装置について、図面を参照して説明する。図1は、CMP装置の構成を説明するための模式断面図である。CMP装置1は、ターンテーブル101、研磨パッド102、リテーナリング103、スラリー供給部104、エアシリンダ105、エアバッグ106を含む。
【0027】
ターンテーブル101は公転運動を行わせるべく矢印に示す向きに回転させる公転機構を有している。
研磨パッド102は、ウェハWと直接接触してウェハWに機械的応力を与える機能を有している。
リテーナリング103は、ウェハWを覆うように配置され、ウェハWの外縁部の断面形状が丸くなる(ウェハエッジロールオフ)現象を抑制する機能を有している。
スラリー供給部104は、スラリー107を研磨パッド102に供給する機能を有している。エアバッグ106は、ウェハWを研磨パッド102に押し付けるための圧力を供給する機能を有している。
エアシリンダ105は、エアバッグ106とリテーナリング103に圧力を掛けて押さえつける機能を有している。また、同時に矢印に示す向きに回転させる自転機構を有している。
CMP装置1を用いることで、ウェハWの凸部に選択的に圧力を掛けてエッチングを進めることが可能となり、ウェハWを平坦化することが可能となる。
【0028】
(電解還元水供給装置)
次に、本実施形態で用いられる電解還元水の供給装置を、図面を用いて説明する。図2は、電解還元水供給装置が果たす機能を説明する模式断面図である。電解還元水供給装置200は、電解質容器201、電解酸化水容器202、電解還元水容器203、イオン交換膜204,205、陽極206、陰極207、電源208を含む。
【0029】
そして、電解質容器201は炭酸アンモニウムの飽和水溶液が、電解酸化水容器202中では電解酸化水が、電解還元水容器203は電解還元水が、それぞれ配置されている。以下、電解還元水の発生機構について説明する。
【0030】
初期状態では、電解酸化水容器202、電解還元水容器203中には超純水が配置され、電解質容器201内には炭酸アンモニウムの飽和水溶液が配置されている。なお、始動時に予め作成してある電解酸化水を電解酸化水容器202に入れ、電解還元水を電解還元水容器203に入れておくことで、超純水の比抵抗を下げた状態にしておくことが好ましい。
【0031】
電源208から陰極207に電子を供給し、陽極206から電子を吸い上げるよう電流を供給すると、陽極206側では水の電気分解により以下の反応が生じる。
2H2O→O2+4H++4e-
また、炭酸イオンがイオン交換膜204を介して侵入するため、以下の反応も生じる。
2(CO3-2→2CO2+O2+4e-
上記した反応により、電解酸化水容器202中の水は酸性を有し、さらに高い酸化性を備えた電解酸化水となる。電解酸化水のpHは例えば2〜3程度であり、酸化還元電位(ORP)は例えば900(mVvs.Ag/AgCl)程度の値を有している。
【0032】
そして、陰極207側では同様に水の電気分解により、以下の反応が生じる。
2H2O+2e-→2OH-+H2
また、アンモニウムイオンがイオン交換膜205を介して侵入するため、以下の反応も生じる。
2(NH4++2e-→2NH3+H2
上記した反応により、電解還元水容器203中の水はアルカリ性を有し、さらに高い還元性を備えた電解還元水となる。電解還元水のpHは例えば10程度であり、酸化還元電位(ORP)は例えば−700(mVvs.Ag/AgCl)程度の値を有している。
このように電解還元水を供給することで、アルカリ金属、アルカリ土類金属を使わずに電解還元水を供給することが可能となる。
【0033】
(CMP工程を用いたポリシリコン層の平坦化工程−1)
次に、上記したCMP工程を用いてポリシリコン層を平坦化する工程について説明する。図3(a)〜(c)、図4(a),(b)はポリシリコン層303を含むウェハWの断面形状を示す模式工程断面図である。まず、ガラス等を用いた基板301上に酸化シリコン等を用いたバッファ層302を堆積する。そして、ポリシリコン層前駆体303aとしての非晶質シリコン層を堆積する。層厚としては例えば30〜100nm程度の値が好適である。ここまでの工程を終えた状態を図3(a)に示す。
【0034】
次に、ポリシリコン層前駆体303aにエキシマレーザ等をスキャンしながら照射することでポリシリコン層303に改質する。この工程途中の状態を図3(b)に示す。
【0035】
次に、必要な領域をポリシリコン層303に改質させた後、大気雰囲気に晒し、自然酸化シリコン層304を形成する。自然酸化シリコン層304の厚さは、例えば1.5nm程度である。ここまでの工程を終えた状態を図3(c)に示す。
【0036】
次に、ウェハWを上記したCMP装置1(図1参照)に装着し、平坦化処理を行う。図4(a)は、平坦化処理工程途中でのウェハWの断面図である。自然酸化シリコン層304はCMP工程により研磨パッド102で研磨されることで凸部が除去され、除去された領域からポリシリコン層303のエッチングが進んでいる。ここでは、リテーナリング103(図1参照)等の部品は図示を省略している。なお、図4(a),(b)は、図3(a)〜(c)に対して上下向きを代えて記載している。そして平坦化を終了し、自然酸化シリコン層304を除去した状態のウェハWの断面形状を図4(b)に示す。
【0037】
ここでは、スラリー供給部104から供給されるスラリー107として上記した電解還元水を用いている。電解還元水のpHは10.44、酸化還元電位(ORP)は−691(mVvs.Ag/AgCl)の値を有するものを用いている。研磨条件は、公転は行わず自転のみを用いて行っている。自転速度は300rpmに設定している。そして、研磨パッド102に200〜300μm程度押し込んだ状態で研磨を行っている。研磨パッド102としては、ここでは株式会社富士見インコープレイテッド製サーフィン000(Siウェハ仕上研磨用)を用いている。図5は、この条件でCMP工程を行った場合の研磨時間と平坦性変化について示したグラフである。横軸は研磨時間(分)、縦軸は自乗表面粗さの変化率(CMP工程前の状態に規格化したもの)である。平坦性の変化評価にはAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)を用いて測定している。図5に示すように、スラリー107として電解還元水を用いてCMP工程を行うことで、表面粗さが小さくなることが分かる。
【0038】
ここで、平坦化工程は以下に示す機構で進むものと推測している。電解還元水はシリコンをエッチングする機能を有しているが、酸化シリコンをエッチングする機能は有していない。そのため、自然酸化シリコン層304(図3(c)参照)がある場合には、全くエッチングが進行しない。図6は、電解還元水中にウェハWを浸した状態での、自然酸化シリコン層304が形成されたポリシリコン層303における厚みの経時変化を調べたグラフである。
【0039】
図6に示されるようにこの状態では全くポリシリコン層303の厚みが変わらないことで確認することができる。この状態でCMP工程を行うと、ポリシリコン層303の凸部に機械的応力がかかり、自然酸化シリコン層304が除去される。自然酸化シリコン層304が除去され、ポリシリコン層303が露出すると電解還元水によりポリシリコン層303はエッチングされる。即ち、凸部のみが選択的に除去されることとなり、平坦化が進む。
【0040】
次に、平坦化に伴うポリシリコン層303の層厚変化量について説明する。ポリシリコン層303の層が薄くなると、ポリシリコン層303に形成されるデバイスの特性に影響するため、凸部以外のエッチング量は少ないことが望ましい。
【0041】
図7は、研磨時間に対するポリシリコン層303の層厚変化率を示すグラフである。この図を見ると、10分程度経過した後は、ポリシリコン層303が余り削れていないことが分かる。即ち、平坦性が確保できた後は、ポリシリコン層303にかかる圧力が分散するため、自然酸化シリコン層304の機械的除去が止まり、CMP工程による過剰な除去が抑制されることが分かる。
【0042】
そのため、CMP処理時間が多少変動しても安定した平坦性と残り厚を保って平坦化を行うことが可能となることが分かる。図8(a)は、CMP工程前のウェハWにおける表面粗さを示すAFM測定結果であり、(b)はCMP工程後のウェハWにおける表面粗さを示すAFM測定結果である。両図を比較することで、CMP工程を用いたウェハWの表面粗さが小さくなっていることが分かる。
【0043】
(CMP工程を用いたポリシリコン層の平坦化工程−2)
次に、電解還元水に代えて、水(超純水)をスラリーとして用いてCMP工程を行う例について説明する。電解還元水に代えて超純水を用いたこと以外は、(CMP工程を用いたポリシリコン層の平坦化工程−1)と同じ条件を用いている。
【0044】
この条件でCMP工程を行った場合の研磨時間と平坦性変化について説明する。図9は、研磨時間と平坦性変化との関係を示すグラフである。横軸は研磨時間(分)、縦軸は自乗表面粗さの変化率(CMP工程前の状態に規格化したもの)である。この場合においてもCMP工程を用いることで平坦性を向上させることができることが示されている。図10は、研磨時間に対するポリシリコン層303の層厚変化率を示すグラフである。この場合、CMP処理時間が延びると、ポリシリコン層303の厚みが減っていく傾向が見られている。従って、電解還元水を用いる場合と比べCMP条件を精密に設定する必要が生じるが、電解還元水を発生する装置を用いる必要が無くなるという利点がある。図11は、純水で行ったCMP工程後のウェハWにおける表面粗さを示すAFM測定結果である(CMP工程前の状態は図8(a)と同じ)。図8(a)と図11とを比較することで、CMP工程を用いたウェハWの表面粗さが小さくなっていることが示されている。
【0045】
(変形例−1)
上記した平坦化工程では、自然酸化により自然酸化シリコン層304(図3(c)参照)を形成したが、これは積極的に酸化を行っても良い。例えば純水:過酸化水素:塩酸=6:1:1のものに浸漬する方法を用いることができる。この工程により、酸化シリコン層305は3nm程度の厚さを有するよう酸化を受ける。ここで、酸化シリコン層305の製造方法としては、大気中での放置による自然酸化法を用いても良い。また、温度108℃程度に加熱した濃度40w%の硝酸に浸漬した後、68w%の濃度を持つ共沸硝酸に浸漬する2段酸化法を用いても良い。また、酸素や笑気ガスを用いてプラズマ酸化を行っても良い。また、酸化以外の方法として、例えばALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積法)を用いて酸化シリコン層を形成しても良い。
【0046】
また、電解還元水を製造する場合に、炭酸アンモニウムの飽和水溶液を用いているが、これは飽和水溶液でなくとも良く、希釈された炭酸アンモニウムの水溶液を用いても良い。また、塩化アンモニウム等の塩を用いても良い。また、後工程での洗浄に注意を払うことで、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の水溶液を用いても良い。また、電解還元水を製造する場合に、3室型の電解還元水供給装置200(図2参照)を用いた例について説明したが、これは2室型の供給装置を用いても良く、特に炭酸アンモニウムを用いる場合には、アルカリ金属の侵入が生じないためより平易な構造を持ち、整備を容易なものとすることができる。
【0047】
(CMP工程を用いたポリシリコン層の平坦化工程−3)
次に、CMP工程を続けて行い、平坦化する工程に代えて、CMP工程と酸化工程を繰り返すことで平坦化を行う実施形態について説明する。CMP工程としては上記したどちらの技術を用いても良いが、便宜上(CMP工程を用いたポリシリコン層の平坦化工程−1)で用いた方法に準拠する場合について説明する。この方法では、以下の手順を踏んで平坦化が進められている。図12(a)は、ステップ1終了後のウェハWの断面図、(b)は、ステップ2終了後のウェハWの断面図である。ステップ1を終了した状態では、ポリシリコン層303の全面が酸化されている。そしてステップ2を終了した状態では、CMP工程によりポリシリコン層303における突起状の凸部が選択的に除去される。以下、この工程について詳細に説明する。
【0048】
まず、ステップ1として、ポリシリコン層303上に酸化シリコン層305を形成する。酸化シリコン層305の形成には、例えば純水:過酸化水素:塩酸=6:1:1程度の比率を有する酸化剤に浸漬する方法を用いることができる。この工程により、酸化シリコン層305は3nm程度の厚さを有するよう酸化を受ける。ここで、酸化シリコン層305の製造方法としては、大気中での放置による自然酸化法を用いても良い。また、温度108℃程度に加熱した濃度40w%の硝酸に浸漬した後、68w%の濃度を持つ共沸硝酸に浸漬する2段酸化法を用いても良い。また、ドライプロセスを用いて、酸素や笑気ガス等によりプラズマ酸化を行っても良い。
【0049】
この酸化工程は、ポリシリコン層303が露出している領域では酸化種が直接ポリシリコン層303に到達するため、酸化速度は大きくなる。一方、酸化シリコン層305で覆われている領域では、酸化速度は低くなり、酸化が実質的に止まる。そのため、ステップ1を行うことで、ポリシリコン層303の凸部を常に一定量酸化させることができる。換言すれば、ステップ1は、ポリシリコン層303が露出した部分(凸部)を酸化により減らすステップである。
【0050】
次に、ステップ2として、電解還元水を用いてCMP工程を行う。この手順によりポリシリコン層303の凸部に位置する酸化シリコン層305が応力を受け、選択的に除去される。換言すれば、ステップ2は、ポリシリコン層303に形成された酸化シリコン層305の凸部をCMP工程により除去するステップである。そして、再びステップ1を実行する。
【0051】
そして、後工程で必要な平坦性が得られた時点で上記工程を終了する。この製造工程を用いることで、ポリシリコン層303の凸部を一定量ずつ除去することが可能となり、極めて再現性の高い平坦化工程を提供することが可能となる。
【0052】
(変形例−2)
上記した製造方法では、非晶質シリコンを改質して得られたポリシリコン層303(図3(c)参照)に適用した例について説明したが、これはCVD法等、他の方法で形成されたポリシリコン層に対しても同様に対処することが可能である。また、ポリシリコン層に限らず、層厚に敏感なSOI(Silicon−On−Insulator:絶縁層上のシリコン)に対しても好適に応用可能である。特に貼り合わせ法等、表面平坦性と層厚との制御に精密な制御が必要な工程での応用が好適である。また、SIMOX(Sepsration−by−IMplanted−OXygen:酸素注入による分離)を行ったデバイスについても対応可能である。その他、平坦なシリコン層が要求される用途に応用可能であり、そのなかでも、特に層厚制御が望まれる用途に対して特に好適に用いることができる。また、単結晶シリコン基板に対しても同様に平坦化を行うことが可能である。
【0053】
(電気光学装置)
次に、上記した工程で処理されたポリシリコン層303(図4(b)参照)を含む電気光学装置について説明する。図13(a)は、ポリシリコン層303を備えたモバイル型のパーソナルコンピュータにおける概略図である。パーソナルコンピュータ2000は、ポリシリコン層303を備えた有機ELパネル400と本体部2010を備える。本体部2010には、電源スイッチ2001及びキーボード2002が設けられている。
【0054】
図13(b)は、ポリシリコン層303を含む有機ELパネル400を備えた携帯電話機における概略図である。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001及びスクロールボタン3002、並びに表示ユニットとしての有機ELパネル400を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、有機ELパネル400に表示される画面がスクロールされる。
【0055】
図13(c)は、ポリシリコン層303を備えた有機ELパネル400を適用した情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistants)における概略図である。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001及び電源スイッチ4002、並びに表示ユニットとしての有機ELパネル400を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が有機ELパネル400に表示される。
【0056】
なお、ポリシリコン層303は有機ELパネル400以外の搭載例として、液晶パネルや、データ処理回路等についても用いることができる。また、光学的な用途に限定されることなく、論理回路や演算回路として用いることができる。特に、ポリシリコン層303の平坦性が高いことから、ポリシリコン層303をチャネルとしてトランジスタを形成する場合、ゲート絶縁層の凸部に生じる電界集中が緩和され、ゲート絶縁層を薄層化することが可能となる。そのため、高い相互コンダクタンスを有する高性能なトランジスタを提供することが可能となる。この性質は上記した論理回路や演算回路への適用に対して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】CMP装置の構成を説明するための模式断面図。
【図2】電解還元水の供給装置が果たす機能を説明する模式断面図。
【図3】(a)〜(c)は、ポリシリコン層を含むウェハの断面形状を示す模式工程断面図。
【図4】(a),(b)は、ポリシリコン層を含むウェハの断面形状を示す模式工程断面図。
【図5】CMP工程を行った場合の研磨時間と平坦性変化について示したグラフ。
【図6】電解還元水中にウェハを浸した状態での、自然酸化シリコン層が形成されたポリシリコン層における厚みの経時変化を調べたグラフ。
【図7】研磨時間に対するポリシリコン層の層厚変化率を示すグラフ。
【図8】(a)は、CMP工程前のウェハにおける表面粗さを示すAFM測定結果であり、(b)はCMP工程後のウェハにおける表面粗さを示すAFM測定結果。
【図9】研磨時間と平坦性変化との関係を示すグラフ。
【図10】研磨時間に対するポリシリコン層の層厚変化率を示すグラフ。
【図11】純水で行ったCMP工程後のウェハにおける表面粗さを示すAFM測定結果。
【図12】(a)は、ステップ1終了後のウェハの断面図、(b)は、ステップ2終了後のウェハの断面図。
【図13】(a)は、ポリシリコン層を備えたモバイル型のパーソナルコンピュータの概略図、(b)は、ポリシリコン層を含む有機ELパネルを備えた携帯電話機の概略図、(c)は、ポリシリコン層を備えた有機ELパネルを適用した情報携帯端末の概略図。
【符号の説明】
【0058】
1…CMP装置、102…研磨パッド、103…リテーナリング、104…スラリー供給部、105…エアシリンダ、106…エアバッグ、107…スラリー、200…電解還元水供給装置、201…電解質容器、202…電解酸化水容器、203…電解還元水容器、204…イオン交換膜、205…イオン交換膜、206…陽極、207…陰極、208…電源、301…基板、302…バッファ層、303…ポリシリコン層、303a…ポリシリコン層前駆体、304…自然酸化シリコン層、305…酸化シリコン層、400…有機ELパネル、2000…パーソナルコンピュータ、2001…電源スイッチ、2002…キーボード、2010…本体部、3000…携帯電話機、3001…操作ボタン、3002…スクロールボタン、4000…情報携帯端末、4001…操作ボタン、4002…電源スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に位置するシリコン層の表面に、酸化シリコン層を形成する工程と、
前記酸化シリコン層を形成した前記基板を、研磨液(スラリー)として電解還元水を用いて化学機械研磨法を用いて研磨する工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法であって、前記電解還元水に代えて水を用いることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法であって、前記シリコン層における平坦性の向上により化学機械研磨法における機械的圧力の集中を抑制し、前記酸化シリコン層のエッチング速度を低下させることで、前記シリコン層における残り層厚の減少を抑制することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
(1)基板表面に位置するシリコン層を、研磨液として電解還元水を用いて化学機械研磨法を用いて研磨する工程と、
(2)前記シリコン層を酸化雰囲気に晒す工程と、
(3)再び前記(1)を行う工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置の製造方法であって、前記電解還元水に代えて水を用いることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法であって、前記シリコン層はポリシリコン層であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法を用いて形成される半導体装置を含むことを特徴とする電気光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−267198(P2009−267198A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116760(P2008−116760)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】