説明

半導体装置及び半導体装置の作製方法

【課題】酸化物半導体を用いたトランジスタにおいて、ソースドレイン間のリーク電流を低減する。
【解決手段】ゲート絶縁膜112に接する第1のゲート膜114として、インジウムと窒素を有し、バンドギャップが2.8電子ボルト未満の化合物導電体を用いる。この化合物導電体は、仕事関数が5電子ボルト以上、好ましくは5.5電子ボルト以上であるので、酸化物半導体膜106の電子濃度を極めて低く維持でき、その結果、ソースドレイン間のリーク電流が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体装置及び半導体装置の作製方法に関する。
【0002】
なお、本明細書中において半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能し得る装置全般をいい、電気光学装置、半導体回路及び電子機器は全て半導体装置である。
【背景技術】
【0003】
絶縁表面を有する基板上に形成された半導体薄膜を用いてトランジスタを構成する技術が注目されている。該トランジスタは集積回路(IC)や画像表示装置(表示装置)のような電子デバイスに広く応用されている。トランジスタに適用可能な半導体薄膜としてシリコン系半導体材料が広く知られているが、その他の材料として酸化物半導体が注目されている。
【0004】
例えば、トランジスタの活性層として、電子キャリア濃度が1018/cm未満であるインジウム(In)、ガリウム(Ga)、及び亜鉛(Zn)を含む非晶質酸化物を用いたトランジスタが開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
酸化物半導体を用いたトランジスタは、アモルファスシリコンを用いたトランジスタよりも動作が速く、多結晶シリコンを用いたトランジスタよりも製造が容易であるものの、ゲート電位がソース電位と同じ状態(すなわちゲート電圧が0ボルトである状態)においても、ソースドレイン間に電流(リーク電流)が流れるという現象(いわゆるノーマリーオン)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−165528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一は、ゲート電圧が0ボルトであっても、ソースドレイン間に流れる単位チャネルあたりの電流が1×10−13A/□以下、好ましくは、1×10−14A/□以下であるトランジスタあるいはそれに類する特性を有する半導体装置およびその作製方法を提供する。なお、単位チャネルあたりの電流とは、電流値にトランジスタのチャネル長とチャネル幅の比(チャネル長/チャネル幅)を乗じたもので、チャネル長、チャネル幅がさまざまなトランジスタ間の特性を比較する上で便利である。
【0008】
また、本発明の一は、新規な構造の半導体装置あるいはその作製方法を提供することを課題とする。特に消費電力を低減できる、あるいは信頼性が高い半導体装置あるいは半導体装置の作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、インジウムを有する酸化物半導体膜と、インジウムと窒素を有し、バンドギャップが2.8電子ボルト未満、好ましくは、2.3電子ボルト未満である化合物導電体の膜と、その間に設けられた絶縁膜を有する半導体装置である。
【0010】
また、本発明の一態様は、インジウムと窒素を有し、バンドギャップが2.8電子ボルト未満、好ましくは、2.3電子ボルト未満である化合物導電体の膜に接して絶縁膜を設ける工程と、絶縁膜上にインジウムを有する酸化物半導体膜を設ける工程を有する半導体装置の作製方法である。
【0011】
また、本発明の一態様は、インジウムを有する酸化物半導体膜上に絶縁膜を設ける工程と、絶縁膜に接してインジウムと窒素を有し、バンドギャップが2.8電子ボルト未満、好ましくは、2.3電子ボルト未満である化合物導電体の膜を設ける工程を有する半導体装置の作製方法である。
【0012】
上記において、化合物導電体の仕事関数は5電子ボルト以上、好ましくは5.5電子ボルト以上であるとよい。また、上記において化合物導電体の膜は、窒素を含む雰囲気でスパッタリング法により形成されてもよい。また、上記において、化合物導電体の膜は、酸素濃度が5%以下の雰囲気でスパッタリング法により形成されてもよい。上記において、化合物導電体のイオン化ポテンシャルは7電子ボルト以上、好ましくは7.5電子ボルト以上であるとよい。
【0013】
また、上記において化合物導電体は全構成元素において窒素の比率が10原子%以上50原子%以下、インジウムの比率が10原子%以上50原子%以下であってもよい。また、その他に、ガリウムや亜鉛や酸素を有してもよい。これらの構成元素の含有比率は、その合計が100原子%を超えない値をとる。
【0014】
なお上記の濃度範囲は、ラザフォード後方散乱法や、水素前方散乱法あるいは二次イオン質量分析法を用いて測定した場合のものである。
【0015】
また、上記において、酸化物半導体膜のドナーあるいはアクセプタの濃度は1×1012cm−3以下とするとよい。ここで、ドナーあるいはアクセプタとは、電子やホールを放出してイオン化した原子のことであり、同じ元素であってもイオン化していない原子は含めない。例えば、電子やホールを放出できる原子の半導体膜中の濃度が1×1018cm−3であり、そのうちの0.01%がイオン化して、電子を放出している場合、ドナー濃度は1×1018cm−3の0.01%の1×1014cm−3である。
【発明の効果】
【0016】
酸化物半導体は、シリコン半導体とは異なり、ドーピングによりN型半導体とP型半導体を作り分けることが困難であるため、シリコン半導体のようなPN接合を形成することができない。したがって、酸化物半導体を用いたトランジスタは半導体膜に金属等の導電性材料を接合した導体半導体接合(金属半導体接合とも言う)を用いる。特に、ソース電極やドレイン電極では、オーミック接合となるような導体半導体接合を用いる。
【0017】
PN接合であれば、逆方向には大きな抵抗となるが、オーミック接合となるような導体半導体接合では抵抗は大きくなく、半導体膜のキャリア濃度が高いとゲート電圧が0ボルトであってもソースドレイン間に大きな電流が流れてしまう。そこで、半導体膜のドナーあるいはアクセプタの濃度を極めて低くすることにより、リーク電流を低減することが考えられる。
【0018】
バンドギャップが3.2電子ボルトの酸化物半導体では、室温での熱励起によるキャリア濃度は1×10−7cm−3であり、シリコン半導体(バンドギャップ1.1電子ボルト)の1×1011cm−3よりも小さい。
【0019】
しかしながら、半導体膜中のドナーやアクセプタの濃度は十分に低くとも、ソース電極やドレイン電極を上述のような導体半導体接合により形成すると、導体から半導体への電子の注入により、半導体膜に相応の電子が存在し、ソースとドレイン間の絶縁性を損なう要因となる。このような電子を排除するには、トランジスタのゲートに仕事関数の大きな材料を用いる必要がある。特に、上記の課題を達成するためには仕事関数が5電子ボルト以上、好ましくは5.5電子ボルト以上の材料を用いる必要がある。
【0020】
より厳密には、半導体膜の電子親和力より0.7電子ボルト以上大きな仕事関数の材料を用いることが好ましい。トランジスタのしきい値は、ゲート絶縁膜が無限に薄い条件では、ゲートの仕事関数及び半導体膜の電子親和力から算出される。例えば、半導体膜の電子親和力が4.6電子ボルト、ゲートの仕事関数が5.5電子ボルトであれば、トランジスタのしきい値は+0.9ボルトであるが、ゲートの仕事関数が4.3電子ボルトであれば、トランジスタのしきい値は−0.3ボルトとなる。
【0021】
もちろん、ゲート絶縁膜の厚さが有限の値を有する場合にはトランジスタのしきい値は、ゲート絶縁膜の影響を受け、ゲート絶縁膜が酸化シリコン換算で100nm以上であるトランジスタでは、しきい値の決定におけるゲートの仕事関数の寄与は小さくなる。一方、チャネル長が100nm以下のトランジスタでは、ゲート絶縁膜の実効的な厚さを極めて小さく(酸化シリコン換算で10nm以下)することが求められるので、上記の計算が妥当となる。
【0022】
すなわち、チャネル長が十分に大きく、ゲート絶縁膜が酸化シリコン換算で100nm以上であるトランジスタでは、ゲートの仕事関数はさほど重要ではないが、上記のようなチャネル長が100nm以下で、ゲート絶縁膜の実効的な厚さが酸化シリコン換算で10nm以下のトランジスタでは、ゲートの仕事関数はトランジスタ特性を決定する上で重要なファクタとなる。
【0023】
なお、ゲート電圧0ボルトで単位チャネルあたりのソースドレイン間の電流が1×10−13A/□以下であるためには、しきい値は+0.7ボルト以上であることが好ましい。同様に、ゲート電圧0ボルトで単位チャネルあたりのドレイン電流が1×10−14A/□以下であるためには、しきい値は+0.8ボルト以上であることが好ましい。
【0024】
しかしながら、このような仕事関数の大きな材料は、白金系貴金属のように高価であり、また、埋蔵量も限られており、工業的に用いるには障害が大きい。本発明者は白金系貴金属に代わる仕事関数の大きな材料を探索したところ、上記の様態記載の化合物導電体の少なくとも一は図8(A)に示すようなバンド構造を有し、5電子ボルト以上、好ましくは5.5電子ボルト以上の仕事関数を有することを見出した。
【0025】
すなわち、これらの材料は紫外線光電子分光法によりイオン化ポテンシャル(Ip、価電子帯Ecと真空準位Evacとのエネルギー差)が7電子ボルト以上、典型的には7.8電子ボルト程度であることが認められた。また、透過率測定によって得られたバンドギャップ(Eg)は2.8電子ボルト未満であった。また、キャリアがn型の半導体であり、キャリア濃度が1×1018cm−3以上であるため、フェルミレベルは伝導帯(Ec)の辺りにある。
【0026】
このため、仕事関数(W)は電子親和力(χ)と同じとみなしてよい。したがって、仕事関数は、図8(A)に示すように、イオン化ポテンシャル(I)−バンドギャップ(Eg)により算出され、5電子ボルト以上であることがわかる。
【0027】
また、バンドギャップは化合物導電体の膜中の窒素の比率が高くなるほど低下し、一方で、イオン化ポテンシャルはほとんど変動しない。したがって、仕事関数は窒素の比率が高くなるにしたがって大きくなる。
【0028】
図8(B)は、スパッタリング法により化合物導電体の膜を作製する際の雰囲気と得られる膜のバンドギャップの関係を示したものであるが、図8(B)の実線および白丸は、雰囲気をアルゴンと窒素とした場合のものであるが、成膜時の窒素の流量が大きいほどバンドギャップは低下する傾向が示されている。
【0029】
一方、図8(B)の点線および三角形は、雰囲気を酸素と窒素としたものである。雰囲気の酸素濃度を25%とした場合には、バンドギャップは3電子ボルト以上、典型的には3.3電子ボルト程度となる。そのため、仕事関数は4.5電子ボルト程度に低下する。
【0030】
このような化合物導電体の膜をゲートとするトランジスタを作製したところ、図9に示すようにゲート電圧が0ボルトであっても、ソースドレイン間の単位チャネルあたりの電流が1×10−14A/□以下という特性が得られた。
【0031】
図9にはトランジスタ(チャネル長2.9μm、チャネル幅10.1μm、ゲート絶縁膜(比誘電率4.1)30nm)のゲート電圧(Vg)とソースドレイン間電流(Id)の関係を示すものであるが、上記の化合物導電体(仕事関数5電子ボルト)をゲート電極に用いたトランジスタの特性(「A」と表記されている曲線)は、通常の窒化タンタル(仕事関数4.6電子ボルト)をゲート電極に用いたトランジスタの特性(「B」と表記されている曲線)よりも0.3ボルト程度プラス側にあり、ゲート電圧が0ボルトのときのソースドレイン間の電流は測定下限(1×10−14A)以下となっている。
【0032】
以上は、トランジスタの特性に関するものであったが、トランジスタに限らず、半導体膜と絶縁膜と導電膜の積層構造を有する半導体装置(ダイオード等)では、同様な効果が得られる。このように本発明の一態様により、優れた電気特性を有するトランジスタやダイオード等の半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一態様である半導体装置の一例を示す上面図及び断面図。
【図2】本発明の一態様である半導体装置の一例を示す断面図。
【図3】本発明の一態様である半導体装置の作製工程の一例を示す断面図。
【図4】本発明の一態様である半導体装置の作製工程の一例を示す断面図。
【図5】本発明の一態様である半導体装置の作製工程の一例を示す断面図。
【図6】本発明の一態様である半導体装置の作製工程の一例を示す断面図。
【図7】本発明の一態様である半導体装置の作製工程の一例を示す断面図。
【図8】本発明の一態様の効果を説明する図。
【図9】本発明の一態様の効果を説明する図。
【図10】本発明の応用例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、図面を用いて発明の構成を説明するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる。なお、同様のものを指す際にはハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0035】
なお、第1、第2として付される序数詞は便宜上用いるものであり、工程順または積層順を示すものではない。また、本明細書において発明を特定するための事項として固有の名称を示すものではない。
【0036】
さらに、本明細書で酸化物というのは、その物質(化合物を含む)に含まれる窒素、酸素、フッ素、硫黄、セレン、塩素、臭素、テルル、ヨウ素の占める割合(モル比)が全体の25%以上で、かつ、以上の元素に対する酸素の割合(モル比)が70%以上のものをいう。
【0037】
また、本明細書で金属元素とは、希ガス元素、水素、ホウ素、炭素、窒素、16族元素(酸素等)、17族元素(フッ素等)、シリコン、燐、ゲルマニウム、砒素、アンチモン以外の全ての元素のことである。
【0038】
さらに、本明細書において、ある(1つの)金属元素を主たる金属成分とする、とはその物質中に金属元素が複数ある中で、当該金属元素が金属元素全体の50%以上を占める場合を言う。また、n種の金属元素M、M、・・、Mを主たる金属成分とするとは、金属元素M、M、・・、Mのそれぞれの占める比率の総和が金属元素全体の{(1−2−n)×100}[%]以上を占める場合を言う。
【0039】
なお、本明細書において記載されている膜中の主たる成分でない元素の濃度は、特に断らない限り、二次イオン質量分析法により検出される濃度の最低値である。一般に、二次イオン質量分析法により、単層あるいは多層の膜の深さ方向の元素の濃度の分析をおこなうと、特に微量元素の場合、基板と膜あるいは膜と膜の界面では元素濃度が異常に高くなる傾向があるが、このような部分の濃度は正確な値ではない上、測定ごとのばらつきも大きい。
【0040】
このように信頼性の低い界面付近の濃度を採用することを避け、その他の濃度の安定した部分を膜の正確な濃度の指標とするため、本明細書では上記のように定義するものである。
【0041】
また、以下の実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0042】
(実施の形態1)
本実施の形態では、半導体装置及び半導体装置の作製方法の一形態を、図1乃至図3を用いて説明する。
【0043】
図1には、本発明の一態様の半導体装置の例として、トップゲートトップコンタクト型であるトランジスタ151の上面図及び断面図を示す。ここで、図1(A)は上面図であり、図1(B)及び図1(C)はそれぞれ、図1(A)におけるA−B断面及びC−D断面における断面図である。なお、図1(A)では、煩雑になることを避けるため、トランジスタ151の構成要素の一部(例えば、ゲート絶縁膜112など)を省略している。
【0044】
図1に示すトランジスタ151は、基板100上の、絶縁膜102、酸化物半導体膜106、ソース電極108a、ドレイン電極108b、ゲート絶縁膜112、第1のゲート膜114および第2のゲート膜115を含む。第1のゲート膜114および第2のゲート膜115の双方あるいは一方はゲート電極として機能する。
【0045】
第1のゲート膜114はゲート絶縁膜112と接し、インジウムと窒素を含むバンドギャップが2.8電子ボルト未満、好ましくは、2.3電子ボルト未満である化合物導電体よりなり、その厚さは5nm以上200nm以下とする。
【0046】
上記化合物導電体は金属に比べると導電性が劣るため、第1のゲート膜114の上に、導電性の良好な金属あるいは金属窒化物等により第2のゲート膜115を設けるとよい。もちろん、第1のゲート膜114で十分な導電性が得られるのであれば、第2のゲート膜115を設けなくてもよい。
【0047】
なお、第1のゲート膜114の厚さを5nm未満とすると、トランジスタの特性が上記化合物導電体の仕事関数ではなく、第2のゲート膜115の仕事関数の影響を受けるため、第1のゲート膜114の厚さを5nm未満とすることは好ましくない。
【0048】
絶縁膜102の材料には、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウムまたはこれらの混合材料などを用いればよい。また、絶縁膜102には、前述の材料と酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムまたはこれらの混合材料などを積層して用いてもよい。
【0049】
例えば、絶縁膜102を窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層構造とすると、基板100などからトランジスタ151への水分や水素の混入を防ぐことができる。絶縁膜102を積層構造で形成する場合、酸化物半導体膜106と接する側を酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、これらの混合材料などの酸化物膜とするとよい。
【0050】
なお、絶縁膜102はトランジスタ151の下地膜として機能する。絶縁膜102は加熱により酸素放出可能であることが好ましい。「加熱により酸素放出可能」とは、Oの放出量が1×1018atoms/cm以上、好ましくは3×1020atoms/cm以上であることを指す。
【0051】
酸化物半導体膜106に用いる材料としては、そのバンドギャップは2.8電子ボルト以上であることが好ましい。さらに、その電子親和力が3.9電子ボルト以上4.9電子ボルト以下であることが好ましい。
【0052】
上述のようにゲートの仕事関数と半導体膜の電子親和力が大きいほど、しきい値は大きくなり、ゲート電圧0Vでのソースドレイン間の電流を低減できる。一方で、半導体膜の電子親和力が小さくなると、半導体膜とのオーミック接合を形成するためには半導体膜の電子親和力よりも仕事関数の小さな材料が望まれるので、ソースやドレインでのオーミック接合を形成することのできる材料が限られる。したがって、実用的には半導体膜の電子親和力は上記の範囲にあることが好ましい。
【0053】
なお、酸化物半導体膜106に用いる材料としては、少なくともインジウム(In)あるいは亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。特にInとZnを含むことが好ましい。また、該酸化物を用いたトランジスタの電気特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてハフニウム(Hf)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてアルミニウム(Al)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてチタン(Ti)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてジルコニウム(Zr)を有することが好ましい。
【0054】
また、他のスタビライザーとして、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれか一種あるいは複数種を有してもよい。
【0055】
例えば、酸化物半導体として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、二元系金属の酸化物であるIn−Zn系酸化物、Sn−Zn系酸化物、Al−Zn系酸化物、Zn−Mg系酸化物、Sn−Mg系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn系酸化物(IGZOとも表記する)、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、In−Ti−Zn系酸化物、In−Zr−Zn系酸化物、Sn−Ga−Zn系酸化物、Al−Ga−Zn系酸化物、Sn−Al−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物を用いることができる。
【0056】
なお、ここで、例えば、In−Ga−Zn系酸化物とは、InとGaとZnを主たる金属成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
【0057】
また、酸化物半導体として、InMO(ZnO)(m>0、且つ、mは整数でない)で表記される材料を用いてもよい。なお、Mは、Ga、Fe、Mn及びCoから選ばれた一の金属元素または複数の金属元素を示す。また、酸化物半導体として、InSnO(ZnO)(n>0、且つ、nは整数)で表記される材料を用いてもよい。
【0058】
例えば、In:Ga:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)あるいはIn:Ga:Zn=2:2:1(=2/5:2/5:1/5)の原子数比のIn−Ga−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いることができる。あるいは、In:Sn:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)、In:Sn:Zn=2:1:3(=1/3:1/6:1/2)あるいはIn:Sn:Zn=2:1:5(=1/4:1/8:5/8)の原子数比のIn−Sn−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いるとよい。
【0059】
しかし、これらに限られず、必要とする半導体特性(移動度、しきい値、ばらつき等)に応じて適切な組成のものを用いればよい。また、必要とする半導体特性を得るために、キャリア濃度や不純物濃度、欠陥密度、金属元素と酸素の原子数比、原子間結合距離、密度等を適切なものとすることが好ましい。
【0060】
例えば、In−Sn−Zn系酸化物では比較的容易に高い移動度が得られる。しかしながら、In−Ga−Zn系酸化物でも、バルク内欠陥密度を下げることにより移動度を上げることができる。
【0061】
なお、例えば、In、Ga、Znの原子数比がIn:Ga:Zn=a:b:c(a+b+c=1)である酸化物の組成が、原子数比がIn:Ga:Zn=A:B:C(A+B+C=1)の酸化物の組成の近傍であるとは、a、b、cが、
(a―A)+(b―B)+(c―C)≦r
を満たすことをいい、rは、例えば、0.05とすればよい。他の酸化物でも同様である。
【0062】
酸化物半導体は単結晶でも、非単結晶でもよい。後者の場合、アモルファスでも、多結晶でもよい。また、アモルファス中に結晶性を有する部分を含む構造でも、非アモルファスでもよい。
【0063】
アモルファス状態の酸化物半導体は、比較的容易に平坦な表面を得ることができるため、これを用いてトランジスタを作製した際の界面散乱を低減でき、比較的容易に、比較的高い移動度を得ることができる。
【0064】
また、結晶性を有する酸化物半導体では、よりバルク内欠陥を低減することができ、表面の平坦性を高めればアモルファス状態の酸化物半導体以上の移動度を得ることができる。表面の平坦性を高めるためには、平坦な表面上に酸化物半導体を形成することが好ましく、具体的には、平均面粗さ(Ra)が1nm以下、好ましくは0.3nm以下、より好ましくは0.1nm以下の表面上に形成するとよい。
【0065】
なお、Raは、JIS B0601で定義されている中心線平均粗さを面に対して適用できるよう三次元に拡張したものであり、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」と表現でき、以下の式にて定義される。
【0066】
【数1】

【0067】
なお、上記において、Sは、測定面(座標(x,y)(x,y)(x,y)(x,y)で表される4点によって囲まれる長方形の領域)の面積を指し、Zは測定面の平均高さを指す。Raは原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて評価可能である。
【0068】
本実施の形態では、酸化物半導体として、In−Ga−Zn系酸化物を採用する。すなわち、In−Ga−Zn系酸化物をターゲットとしてスパッタリング法により形成する。
【0069】
酸化物半導体膜106と下地である絶縁膜102とが接することで、絶縁膜102と酸化物半導体膜106との界面準位及び酸化物半導体膜106中の酸素欠損を低減することができる。上記界面準位の低減により、ゲート電極に高い電圧を印加した際のしきい値変動を小さくすることができる。
【0070】
ゲート絶縁膜112は、絶縁膜102と同様の構成とすることができ、加熱により酸素放出可能な絶縁膜であることが好ましい。このとき、トランジスタのゲート絶縁膜として機能することを考慮して、酸化ハフニウムや酸化アルミニウムなどの比誘電率が高い材料を採用してもよい。また、ゲート耐圧や酸化物半導体とゲート絶縁膜112の間の界面状態などを考慮し、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコンに酸化ハフニウムや酸化アルミニウムなどの比誘電率の高い材料を積層してもよい。
【0071】
トランジスタ151上には、さらに保護絶縁膜が設けられていてもよい。保護絶縁膜は、絶縁膜102と同様の構成とすることができる。また、ソース電極108aやドレイン電極108bと配線とを電気的に接続させるために、絶縁膜102、ゲート絶縁膜112などには開口部が形成されていてもよい。また、酸化物半導体膜106の下方に、さらに、第2のゲート電極を有していてもよい。なお、酸化物半導体膜106は島状に加工されていることが好ましいが、島状に加工されていなくてもよい。
【0072】
図2(A)及び図2(B)には、トランジスタ151とは異なる構成のトランジスタの断面構造を示す。図2(A)に示すトランジスタ152は、絶縁膜102、酸化物半導体膜106、ソース電極108a、ドレイン電極108b、ゲート絶縁膜112、第1のゲート膜114、第2のゲート膜115を含む点で、トランジスタ151と共通している。
【0073】
トランジスタ152とトランジスタ151との相違は、酸化物半導体膜106と、ソース電極108aやドレイン電極108bが接続する位置である。即ち、トランジスタ152では、酸化物半導体膜106の下部において、酸化物半導体膜106と、ソース電極108aやドレイン電極108bとが接している。その他の構成要素については、図1のトランジスタ151と同様である。
【0074】
図2(B)に示すトランジスタ153は、絶縁膜102、ゲート絶縁膜112、第1のゲート膜114、第2のゲート膜115、ソース電極108a、ドレイン電極108bを含む点で、トランジスタ151及びトランジスタ152と共通している。
【0075】
トランジスタ153は、同一平面上の酸化物半導体膜中にチャネル領域126、ソース領域122a、ドレイン領域122bを形成する点でトランジスタ151及びトランジスタ152との相違がある。ソース領域122a及びドレイン領域122bには、保護絶縁膜124を介して、それぞれソース電極108a及びドレイン電極108bが接続される。
【0076】
下地である絶縁膜102は、トランジスタ151と同様の構成とすることができる。酸化物半導体膜が形成された後、ゲート絶縁膜112及び第1のゲート膜114、第2のゲート膜115を形成する。第1のゲート膜114、第2のゲート膜115とゲート絶縁膜112は同一のマスクを使用して加工することができる。あるいは、第1のゲート膜114と第2のゲート膜115を加工した後、第1のゲート膜114と第2のゲート膜115をマスクに用いてゲート絶縁膜112を加工してもよい。
【0077】
また、ソース領域122a及びドレイン領域122bは第1のゲート膜114、第2のゲート膜115をマスクに用い、酸化物半導体膜を低抵抗化して形成する。第1のゲート膜114下の領域はチャネル領域126となる。
【0078】
以下、図3(A)乃至図3(E)を用いて、図1に示すトランジスタ151の作製工程の一例について説明する。
【0079】
まず、基板100上に絶縁膜102を形成する(図3(A)参照)。絶縁膜102は、加熱により酸素放出可能であることが好ましい。
【0080】
基板100の材質などに大きな制限はないが、少なくとも、後の熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有している必要がある。例えば、ガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などを、基板100として用いることができる。また、シリコンや炭化シリコンなどの単結晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウムなどの化合物半導体基板、SOI基板などを適用することも可能であり、これらの基板上に半導体素子が設けられたものを、基板100として用いてもよい。
【0081】
また、基板にトランジスタにとって好ましくない不純物が含まれている場合には、それらをブロッキングする機能を有する絶縁性の材料(例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化シリコン等)の膜を基板100との界面や表面に設けることが望ましい。
【0082】
絶縁膜102の形成方法は、例えば、プラズマCVD法やスパッタリング法などを用いることができる。絶縁膜102の材料には、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウムまたはこれらの混合材料などを用いればよい。また、絶縁膜102には、前述の材料と酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムまたはこれらの混合材料などを積層して用いてもよい。
【0083】
絶縁膜102を積層構造で形成する場合、酸化物半導体膜106と接する側を酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、これらの混合材料などのような酸化物膜とするとよい。絶縁膜102の合計の厚さは、好ましくは10nm以上とする。
【0084】
例えば、石英(好ましくは合成石英)をターゲットに用い、基板温度30℃以上450℃以下(好ましくは70℃以上200℃以下)、基板とターゲットの間の距離を20mm以上400mm以下(好ましくは40mm以上200mm以下)、圧力を0.1Pa以上4Pa以下(好ましくは0.2Pa以上1.2Pa以下)、高周波電源を0.5kW以上12kW以下(好ましくは1kW以上5kW以下)、成膜ガス中のO/(O+Ar)割合を1%以上100%以下(好ましくは6%以上100%以下)として、RFスパッタリング法により酸化シリコン膜を形成する。
【0085】
次に、絶縁膜102上に酸化物半導体膜を形成し、当該酸化物半導体膜を加工して島状の酸化物半導体膜106を形成する(図3(B)参照)。なお、絶縁膜102及び酸化物半導体膜106は、大気に触れさせることなく連続して形成することが好ましい。酸化物半導体膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、パルスレーザ堆積法、CVD法などを用いて形成することができる。本実施の形態では、酸化物半導体膜を、In−Ga−Zn系酸化物のターゲットを用いたスパッタリング法により形成する。また、酸化物半導体膜の厚さは、3nm以上50nm以下とすることが好ましい。
【0086】
In−Ga−Zn系酸化物のターゲットとしては、例えば、組成比として、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]の酸化物のターゲットを用いることができる。なお、ターゲットの材料及び組成を上述したものに限定する必要はない。例えば、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比の酸化物のターゲットを用いることもできる。
【0087】
酸化物のターゲットの相対密度は、90%以上100%以下、好ましくは95%以上99.9%以下とする。相対密度の高い酸化物のターゲットを用いることにより、成膜した酸化物半導体膜を緻密な膜とすることができるためである。
【0088】
成膜の雰囲気は、希ガス(代表的にはアルゴン)雰囲気下、酸素雰囲気下または希ガスと酸素の混合雰囲気下などとすればよい。また、酸化物半導体膜への水素、水、水酸基、水素化物などの混入を防ぐために、水素、水、水酸基、水素化物などの不純物が十分に除去された高純度ガスを用いた雰囲気とすることが好ましい。
【0089】
例えば、成膜条件の一例として、基板とターゲットの間との距離を60mm、圧力を0.4Pa、直流(DC)電源を0.5kW、成膜雰囲気をアルゴンと酸素の混合雰囲気(酸素流量比率33%)とすることができる。なお、パルスDCスパッタリング法を用いると、成膜時に発生する粉状物質(パーティクル、ごみともいう)が軽減でき、厚さの分布も均一となるため好ましい。
【0090】
なお、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属も酸化物半導体をトランジスタに用いる場合においては好ましくない元素であるので、トランジスタを構成する材料には可能な限り含まれないようにすることが好ましい。
【0091】
特にアルカリ金属のうち、ナトリウムは酸化物半導体に接する絶縁性酸化物中に拡散し、ナトリウムイオンとなる。あるいは酸化物半導体内において、金属元素と酸素の結合を分断し、あるいは結合中に割り込む。その結果、トランジスタ特性の劣化(例えば、ノーマリオン化(しきい値の負へのシフト)、移動度の低下等)をもたらす。また、特性のばらつきの原因ともなる。
【0092】
このような問題は、特に酸化物半導体中の水素の濃度が十分に低い場合において顕著となる。したがって、酸化物半導体中の水素の濃度が5×1019cm−3以下、特に5×1018cm−3以下である場合には、アルカリ金属の濃度を十分に低くすることが強く求められる。
【0093】
例えば、酸化物半導体膜106におけるナトリウムの濃度は、5×1016cm−3以下、好ましくは1×1016cm−3以下、さらに好ましくは1×1015cm−3以下とするとよい。同じく、リチウムの濃度は5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下、カリウムの濃度は5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下とするとよい。
【0094】
酸化物半導体膜の形成の際、基板温度を100℃以上450℃以下、好ましくは150℃以上350℃以下とすることで絶縁膜102から酸素が放出され、酸化物半導体膜中の酸素欠損及び絶縁膜102と酸化物半導体膜との界面準位を低減することができる。
【0095】
なお、酸化物半導体膜をスパッタリング法により形成する前には、アルゴンガスを導入してプラズマを発生させる逆スパッタをおこない、形成表面(例えば絶縁膜102の表面)の付着物を除去してもよい。
【0096】
ここで、逆スパッタとは、通常のスパッタリングにおいては、スパッタターゲットにイオンを衝突させるところを、逆に、処理表面にイオンを衝突させることによってその表面を改質する方法のことをいう。処理表面にイオンを衝突させる方法としては、アルゴン雰囲気下で処理表面側に高周波電圧を印加して、被処理物付近にプラズマを生成する方法などがある。なお、アルゴン雰囲気に代えて窒素、ヘリウム、酸素などによる雰囲気を適用してもよい。
【0097】
酸化物半導体膜106は、所望の形状のマスクを酸化物半導体膜上に形成した後、当該酸化物半導体膜をエッチングすることによって形成することができる。上述のマスクは、フォトリソグラフィなどの方法を用いて形成することができる。または、インクジェット法などの方法を用いてマスクを形成してもよい。
【0098】
なお、酸化物半導体膜のエッチングは、ドライエッチングでもウェットエッチングでもよい。もちろん、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0099】
その後、酸化物半導体膜106に対して、熱処理(第1の熱処理)をおこなうことが好ましい。この第1の熱処理によって酸化物半導体膜106中の、過剰な水素(水や水酸基を含む)を除去し、かつ酸化物半導体の構造を整えることができる。第1の熱処理の温度は、100℃以上650℃以下または基板の歪み点未満、好ましくは250℃以上600℃以下とする。第1の熱処理の雰囲気は、酸化性ガス雰囲気下、もしくは不活性ガス雰囲気下とする。
【0100】
なお、不活性ガスとは、窒素または希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴンなど)を主成分とする雰囲気であって、水、水素などが含まれないことが好ましい。例えば、熱処理装置に導入する窒素や、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(即ち、不純物濃度が1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とする。不活性ガス雰囲気とは、不活性ガスを主成分とする雰囲気で、反応性ガスが10ppm未満である雰囲気のことである。
【0101】
なお、酸化性ガス雰囲気とは、酸素、オゾンまたは二酸化窒素、亜酸化窒素などであって、水、水素などが含まれないことが好ましい。例えば、熱処理装置に導入する酸素、オゾン、二酸化窒素、亜酸化窒素の純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(即ち、不純物濃度が1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とする。酸化性ガス雰囲気には、酸化性ガスを不活性ガスと混合して用いてもよく、酸化性ガスが少なくとも10ppm以上含まれるものとする。
【0102】
この第1の熱処理によって、絶縁膜102から酸素が放出され、絶縁膜102と酸化物半導体膜106との界面準位及び酸化物半導体膜106中の酸素欠損を低減することができる。上記界面準位の低減により、ゲートに高い電圧が印加された際のしきい値電圧変動を小さくし、信頼性の高いトランジスタが得られる。
【0103】
また、一般に、酸化物半導体中の酸素欠損はドナーとなり、キャリアである電子の発生源となることが知られている。酸化物半導体膜106中の酸素欠損が埋められることで、ドナー濃度を低減できる。
【0104】
熱処理は、例えば、抵抗発熱体などを用いた電気炉に被処理物を導入し、窒素雰囲気下で、350℃、1時間の条件でおこなうことができる。この間、被処理物は大気に触れさせず、水や水素の混入が生じないようにする。
【0105】
熱処理装置は電気炉に限られず、加熱されたガスなどの媒体からの熱伝導または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を用いてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置などのRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。
【0106】
LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて熱処理をおこなう装置である。ガスとしては、アルゴンなどの希ガスまたは窒素のような、熱処理によって被処理物と反応しない不活性ガスが用いられる。
【0107】
例えば、第1の熱処理として、熱せられた不活性ガス雰囲気中に被処理物を投入し、数分間熱した後、当該不活性ガス雰囲気から被処理物を取り出すGRTA処理をおこなってもよい。GRTA処理を用いると短時間での高温熱処理が可能となる。また、被処理物の耐熱温度を超える温度条件であっても適用が可能となる。なお、処理中に、不活性ガス雰囲気を、酸化性ガスを含む雰囲気に切り替えてもよい。
【0108】
酸化性ガスを含む雰囲気において第1の熱処理をおこなうことで、酸化物半導体膜106中の酸素欠損を埋めることができるとともに、酸素欠損に起因するエネルギーギャップ中の欠陥準位を低減することができるためである。このような熱処理は、一回に限らず複数回おこなってもよい。
【0109】
なお、ここでは、酸化物半導体膜106に加工した後に、第1の熱処理をおこなう構成について説明したが、これに限定されず、酸化物半導体膜に第1の熱処理をおこなった後に、これをエッチングして、酸化物半導体膜106を形成してもよい。
【0110】
次いで、絶縁膜102及び酸化物半導体膜106上に、導電膜を形成し、当該導電膜を加工して、ソース電極108a及びドレイン電極108b、その他の配線を形成する(図3(C)参照)。なお、ここで形成されるソース電極108aの端部とドレイン電極108bの端部との間隔によって、トランジスタのチャネル長Lが決定されることになる。
【0111】
ソース電極108a及びドレイン電極108bに用いる導電膜としては、例えば、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステンから選ばれた元素を含む金属膜または上述した元素を成分とする金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)などを用いることができる。また、アルミニウム、銅などの金属膜の下側または上側の一方または双方にチタン、モリブデン、タングステンなどの高融点金属膜またはこれらの金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)を積層させた構成を用いてもよい。
【0112】
また、ソース電極108a及びドレイン電極108bに用いる導電膜は、導電性の酸化物で形成してもよい。導電性の酸化物としては酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、In−Sn系酸化物(In―SnO、ITOと略記する)、In−Zn系酸化物(In―ZnO)またはこれらの酸化物材料に酸化シリコンを含ませたものを用いることができる。
【0113】
なお、導電膜のエッチングの際に、酸化物半導体膜106の一部がエッチングされ、溝部(凹部)が形成されることもある。
【0114】
その後、酸素、オゾン、二酸化窒素、亜酸化窒素などのガスを用いたプラズマ処理をおこない、露出している酸化物半導体膜106の表面を酸化し、酸素欠損を埋めてもよい。プラズマ処理をおこなった場合、当該プラズマ処理に続けて大気に触れさせることなく、酸化物半導体膜106の一部に接するゲート絶縁膜112を形成することが好ましい。
【0115】
次に、ソース電極108a及びドレイン電極108bを覆い、かつ、酸化物半導体膜106の一部と接するように、ゲート絶縁膜112を形成する(図3(D)参照)。
【0116】
ゲート絶縁膜112は、絶縁膜102と同様の構成とすることができる。ただし、トランジスタのゲート絶縁膜として機能することを考慮して、酸化ハフニウムや酸化アルミニウムなどの比誘電率が高い材料を採用してもよい。また、ゲート耐圧や酸化物半導体とゲート絶縁膜112の間の界面状態などを考慮し、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコンに酸化ハフニウムや酸化アルミニウムなどの比誘電率の高い材料を積層してもよい。
【0117】
ゲート絶縁膜112の合計の膜厚は、好ましくは1nm以上300nm以下、より好ましくは5nm以上50nm以下とする。ゲート絶縁膜が厚いほどゲートに高い電圧を印加できるが、一方で短チャネル効果が顕著となり、しきい値電圧がマイナス側へシフトしやすい傾向となる。また、ゲート絶縁膜が5nm以下となるとトンネル電流によるリークが増大することがわかっている。
【0118】
ゲート絶縁膜112の形成後には、第2の熱処理をおこなうことが好ましい。第2の熱処理の温度は、250℃以上700℃以下、好ましくは350℃以上600℃以下とする。もちろん、温度は基板や成膜された材料の特性を考慮して変更してもよい。
【0119】
第2の熱処理は、酸化性ガス雰囲気下または不活性ガス雰囲気下でおこなえばよいが、雰囲気中に水、水素などが含まれないことが好ましい。また、熱処理装置に導入するガスの純度を、6N(99.9999%)以上好ましくは7N(99.99999%)以上(即ち不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0120】
第2の熱処理においては、酸化物半導体膜106と、ゲート絶縁膜112が接した状態で加熱される。したがって、酸化物半導体を構成する主成分材料の一つである酸素を、酸素を含むゲート絶縁膜112より酸化物半導体膜106へ供給することができる。これによって、酸化物半導体膜106の酸素欠損及び酸化物半導体膜106とゲート絶縁膜112との界面準位を低減することができる。また、同時にゲート絶縁膜112中の欠陥も低減することができる。
【0121】
なお、第2の熱処理のタイミングは、ゲート絶縁膜112の形成後であれば特に限定されない。例えば、第2のゲート膜115の形成後に第2の熱処理をおこなってもよい。
【0122】
その後、第1のゲート膜114および第2のゲート膜115を形成する(図3(E)参照)。第1のゲート膜114の材料としては、In−Ga−Zn系酸化物をターゲットとし、窒素を含む雰囲気中でスパッタリングすることにより得られる化合物導電体膜を用いる。なお、スパッタリング法に限らず、真空蒸着法、パルスレーザ堆積法、CVD法などを用いて形成することができる。
【0123】
化合物導電体膜の厚さは、10nm以上50nm以下とすることが好ましい。In−Ga−Zn系酸化物のターゲットとしては、例えば、組成比として、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]の酸化物のターゲットを用いることができる。なお、ターゲットの材料及び組成を上述したものに限定する必要はない。例えば、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比の酸化物のターゲットを用いることもできる。
【0124】
なお、製造設備のコストを低減する上では、化合物導電体膜を、酸化物半導体膜106を作製するのに用いた装置およびターゲットを用い、成膜時の雰囲気のみを変更して作製してもよい。
【0125】
酸化物のターゲットの相対密度は、90%以上100%以下、好ましくは95%以上99.9%以下とする。相対密度の高い酸化物のターゲットを用いることにより、成膜した化合物導電体膜を緻密な膜とすることができるためである。
【0126】
成膜の雰囲気は、希ガス(代表的にはアルゴン)と窒素の混合雰囲気あるいは99%以上の濃度の窒素雰囲気とするとよい。より仕事関数の大きな化合物導電体を得るには、雰囲気中の酸素の濃度は5%以下とすることが好ましい。
【0127】
例えば、成膜条件の一例として、基板とターゲットの間との距離を60mm、圧力を0.4Pa、直流(DC)電源を0.5kW、成膜雰囲気をアルゴンと窒素の混合雰囲気(窒素流量比率12.5%)とすることができる。
【0128】
第2のゲート膜115は、モリブデン、チタン、タンタル、タングステン、アルミニウム、銅、ネオジム、スカンジウムなどの金属材料、これらの窒化物、またはこれらを主成分とする合金材料を用いて形成することができる。なお、第2のゲート膜115は、単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。これらの金属を化合物導電体上にスパッタリング法等の方法で堆積する。そして、所望の形状にエッチングして、第1のゲート膜114および第2のゲート膜115を形成する。以上の工程でトランジスタ151が作製される。
【0129】
(実施の形態2)
本実施の形態では、図4(A)乃至図4(E)を用いて、図2(A)に示すトランジスタ152の作製工程の一例について説明する。
【0130】
まず、基板100上に絶縁膜102を形成する(図4(A)参照)。次に、絶縁膜102上に導電膜を形成し、当該導電膜を加工して、ソース電極108a及びドレイン電極108b、その他の配線を形成する(図4(B)参照)。
【0131】
次に、絶縁膜102上に、ソース電極108a及びドレイン電極108bと接する酸化物半導体膜を形成し、当該酸化物半導体膜を加工して島状の酸化物半導体膜106を形成する(図4(C)参照)。その後、トランジスタ151と同様に第1の熱処理をおこなってもよい。
【0132】
次に、ソース電極108a及びドレイン電極108bを覆い、かつ、酸化物半導体膜106の一部と接するように、ゲート絶縁膜112を形成する(図4(D)参照)。
【0133】
その後、第1のゲート膜114および第2のゲート膜115を形成する(図4(E)参照)。第1のゲート膜114としては、実施の形態1に示したIn−Ga−Zn系酸化物のターゲットを用いて窒素を含む雰囲気中でスパッタリング法により形成されたものを用いればよい。以上の工程でトランジスタ152が形成される。
【0134】
(実施の形態3)
本実施の形態では、図5(A)乃至図5(E)を用いて、図2(B)に示すトランジスタ153の作製工程の一例について説明する。
【0135】
まず、基板100上に絶縁膜102を形成する(図5(A)参照)。次に、絶縁膜102上に、酸化物半導体膜を形成し、当該酸化物半導体膜を加工して島状の酸化物半導体膜106を形成する(図5(B)参照)。
【0136】
次に、ゲート絶縁膜112となるべき絶縁膜および第1のゲート膜114となるべき化合物導電体膜と第2のゲート膜115となるべき導電体膜を形成し、フォトリソグラフィにより同様のパターンに加工して、ゲート絶縁膜112、第1のゲート膜114、第2のゲート膜115を得る(図5(C)参照)。化合物導電体膜は、実施の形態1に示したIn−Ga−Zn系酸化物のターゲットを用いて窒素を含む雰囲気中でスパッタリング法により形成すればよい。
【0137】
次に、第1のゲート膜114と第2のゲート膜115をマスクに用いて酸化物半導体膜106を低抵抗化し、ソース領域122a及びドレイン領域122bを形成する。低抵抗化されない第1のゲート膜114と第2のゲート膜115下の領域はチャネル領域126となる(図5(D)参照)。低抵抗化の方法としては、アルゴンプラズマ処理、水素プラズマ処理またはアンモニアプラズマ処理、燐イオンあるいは硼素イオンのイオン注入等などが挙げられる。
【0138】
このとき、第1のゲート膜114と第2のゲート膜115の幅によってトランジスタのチャネル長Lが決定されることになる。このように、第1のゲート膜114と第2のゲート膜115をマスクに用いてパターニングすることで、第1のゲート膜114と第2のゲート膜115とソース領域122a、ドレイン領域122bの重なりが生じず、この領域における寄生容量が生じないため、トランジスタ動作を速くすることができる。
【0139】
次に、保護絶縁膜124を形成し、ソース領域122a及びドレイン領域122bと重畳する部分の保護絶縁膜124に開口部を設ける。導電膜を形成し、当該導電膜を加工して、ソース電極108a及びドレイン電極108b、その他の配線を形成する(図5(E)参照)。以上の工程でトランジスタ153が作製される。
【0140】
(実施の形態4)
図6(A)乃至図6(E)に本実施の形態の表示装置の作製工程断面を示す。本実施の形態に示すトランジスタは、ゲート電極が基板側に位置するボトムゲート型で、かつ、ソース電極とドレイン電極がともに半導体膜の上面にコンタクトするトップコンタクト型である。
【0141】
以下、作製工程の概略を説明する。図6(A)に示すように、絶縁表面を有する基板200上に、第2のゲート膜215となるべき導電膜215aと第1のゲート膜214となるべき化合物導電体膜214aを形成する。導電膜215aの厚さは100nm乃至400nmとし、その材料は、実施の形態1で示した第2のゲート膜115に用いる材料を参照すればよい。また、化合物導電体膜214aの厚さは10nm以上50nm以下とし、その材料や作製方法等は実施の形態1の第1のゲート膜114に用いる材料や作製方法等を参照すればよい。
【0142】
次に、導電膜215aと化合物導電体膜214aをエッチングして、第2のゲート膜215と第1のゲート膜214を形成し、さらに、ゲート絶縁膜212を形成する。ゲート絶縁膜212の厚さや材料、作製方法等については実施の形態1のゲート絶縁膜112を参照すればよい(図6(B)参照)。
【0143】
その後、図6(C)に示すように、酸化物半導体膜206aを形成する。酸化物半導体膜206aに用いる材料や厚さは実施の形態1を参照すればよい。そして、図6(D)に示すように、酸化物半導体膜206aをエッチングすることで、所望の形状(例えば、島状)を有する酸化物半導体膜206を得る。なお、ここでのエッチングに際しては、ゲート絶縁膜212をエッチングストッパーとして用いてもよい。その後、酸化物半導体膜206に対して、熱処理(第1の熱処理)をおこなうことが望ましい。詳細は実施の形態1を参照すればよい。
【0144】
その後、N型の導電性を示す酸化物半導体膜と金属等の導電膜を堆積する。これらの成膜にはスパッタリング法を用いればよい。N型の酸化物半導体膜としては、酸化インジウム、酸化インジウム錫、酸化亜鉛、酸化亜鉛アルミニウム等を用いればよい。なお、N型の酸化物半導体膜は、ソース電極やドレイン電極と酸化物半導体膜206との接触抵抗を低減する目的で設けるが、ソース電極やドレイン電極に用いる金属の種類によっては設けなくてもよい。
【0145】
導電膜としては、例えば、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステン等から選ばれた元素を含む金属膜、または上述した元素を主たる金属成分とする金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)等を用いることができる。
【0146】
また、Al、Cuなどの金属膜の下又は上の一方または双方にチタン、モリブデン、タングステンなどの高融点金属膜またはそれらの金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)を積層させた構成としても良い。
【0147】
そして、これらを所望の形状に加工し、N型酸化物半導体膜207aおよび207bと、ソース電極208aとドレイン電極208bを形成する。以上でトランジスタの基本的な構造が完成する。なお、導電膜のエッチングの際に、酸化物半導体膜206の一部もエッチングされ、酸化物半導体膜206に溝部(凹部)が形成されることもある。
【0148】
上記エッチング後に、アルゴンなどのガスを用いたプラズマ処理をおこない、露出している酸化物半導体膜206の表面に付着した吸着水などを除去してもよい。
【0149】
さらに、スパッタ法あるいはCVD法等で第1の絶縁物209を形成する。なお、上記のプラズマ処理をおこなった場合、当該プラズマ処理後に、基板200を大気雰囲気に取り出さずに、連続して第1の絶縁物209の成膜をおこなうと、酸化物半導体膜206の表面に大気成分(特に水)が吸着されないので望ましい。
【0150】
第1の絶縁物209は、代表的には酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、または酸化窒化アルミニウムなどの無機絶縁物を用いて形成することができる。特に、後述する理由から酸化物であることが好ましく、化学量論比以上の酸素を含有していることが好ましい。
【0151】
第1の絶縁物209の形成後、第2の熱処理をおこなうのが望ましい。第2の熱処理の温度は、150℃以上600℃以下、好ましくは250℃以上450℃以下とする。
【0152】
第2の熱処理は、窒素、酸素、超乾燥空気(水の含有量が20ppm以下、好ましくは1ppm以下、好ましくは10ppb以下の空気)、または希ガス(アルゴン、ヘリウムなど)の雰囲気下でおこなえばよい。また、熱処理装置に導入する窒素、酸素、または希ガスの純度を、6N以上好ましくは7N以上(即ち不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0153】
第2の熱処理においては、酸化物半導体膜206と第1の絶縁物209とが接した状態で加熱される。したがって、第1の熱処理等の脱水化熱処理あるいは脱水素化熱処理によって減少してしまう可能性のある酸化物半導体膜206の酸素を、第1の絶縁物209より供給することができる。これによって、酸化物半導体膜206の電荷捕獲中心を低減することができる。
【0154】
第1の熱処理と第2の熱処理の少なくとも一方を適用することで、酸化物半導体膜206を、その主成分以外の不純物が極力含まれないように高純度化することができる。高純度化された酸化物半導体膜206にはドナーに由来するキャリアが極めて少なくなる。キャリア濃度は1×1014/cm未満、好ましくは1×1012/cm未満、さらに好ましくは1×1011/cm未満とすることができる。
【0155】
次に、表面が平坦な第2の絶縁物210を形成する。第2の絶縁物210は各種有機材料を用いて形成すればよい。そして、第1の絶縁物209と第2の絶縁物210を選択的にエッチングして、ドレイン電極208bに達するコンタクトホールを形成する。このコンタクトホールを介して、ドレイン電極208bと接触する表示用電極211を形成する(図6(E)参照)。
【0156】
表示用電極211には、透光性のものや反射性のものを用いることができる。前者としては、In−Sn系酸化物やZn−Al系酸化物等のバンドギャップが3電子ボルト以上の導電性半導体を用いることができる。また、金属ナノワイヤ−や厚さ3nm以下の炭素膜(グラフェン等)を用いることもできる。後者としては、各種金属材料(アルミニウム、銀等)の膜を用いることができる。反射性の表示用電極においては白色を表示するには、その表面に不規則な凹凸を設けるとよい。
【0157】
本実施の形態では、トランジスタを用いた表示装置の作製工程を示したが、本実施で開示された方法は表示装置に限らず他の形態の電子機器(例えば、集積回路)でも実施できることは明らかである。
【0158】
(実施の形態5)
図7(A)乃至図7(C)に本実施の形態の表示装置の作製工程断面を示す。本実施の形態に示すトランジスタは、ボトムゲート型である。また、ソース電極とドレイン電極はともに半導体膜の下面にコンタクトするボトムコンタクト型である。
【0159】
以下、作製工程の概略を説明する。ただし、実施の形態4と同じ符号で示される構造物に関しては、用いる材料や使用する手段、条件等は、特に断らない限りは、実施の形態4で示したものを用いればよい。図7(A)に示すように、絶縁表面を有する基板200上に、第1のゲート膜214、第2のゲート膜215、ゲート絶縁膜212を形成する。
【0160】
その後、金属等の導電膜を堆積し、これを所望の形状に加工し、図7(B)に示すように、ソース電極208aとドレイン電極208bを形成する。さらに、これらの上に酸化物半導体膜206を形成する。
【0161】
そして、図7(C)に示すように、第1の絶縁物209、表面が平坦な第2の絶縁物210を形成する。そして、第1の絶縁物209と第2の絶縁物210を選択的にエッチングして、ドレイン電極208bに達するコンタクトホールを形成する。このコンタクトホールを介して、ドレイン電極208bと接触する表示用電極211を形成する。
【0162】
本実施の形態で示すトランジスタが、実施の形態4で示すものと異なる点は、酸化物半導体膜206とソース電極208aとドレイン電極208bとの上下関係のみである。
【0163】
(実施の形態6)
本発明の一態様である半導体装置は、さまざまな電子機器(遊技機も含む)に適用することができる。電子機器としては、例えば、テレビジョン装置(テレビまたはテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラなどのカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。上記実施の形態で説明した半導体装置を具備する電子機器の例について説明する。
【0164】
図10(A)は、ノート型のパーソナルコンピュータであり、本体301、筐体302、表示部303、キーボード304などによって構成されている。実施の形態1乃至5で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高いノート型のパーソナルコンピュータとすることができる。
【0165】
図10(B)は、携帯情報端末(PDA)であり、本体311には表示部313と、外部インターフェイス315と、操作ボタン314などが設けられている。また操作用の付属品としてスタイラス312がある。実施の形態1乃至5で示した半導体装置を適用することにより、より信頼性の高い携帯情報端末(PDA)とすることができる。
【0166】
図10(C)は、電子書籍の一例を示している。例えば、電子書籍320は、筐体321及び筐体322の2つの筐体で構成されている。筐体321及び筐体322は、軸部325により一体とされており、該軸部325を軸として開閉動作をおこなうことができる。このような構成により、紙の書籍のような動作をおこなうことが可能となる。
【0167】
筐体321には表示部323が組み込まれ、筐体322には表示部324が組み込まれている。表示部323及び表示部324は、続き画面を表示する構成としてもよいし、異なる画面を表示する構成としてもよい。異なる画面を表示する構成とすることで、例えば右側の表示部(図10(C)では表示部323)に文章を表示し、左側の表示部(図10(C)では表示部324)に画像を表示することができる。実施の形態1乃至5で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高い電子書籍とすることができる。
【0168】
また、図10(C)では、筐体321に操作部などを備えた例を示している。例えば、筐体321において、電源326、操作キー327、スピーカー328などを備えている。操作キー327により、頁を送ることができる。なお、筐体の表示部と同一面にキーボードやポインティングデバイスなどを備える構成としてもよい。また、筐体の裏面や側面に、外部接続用端子(イヤホン端子、USB端子など)、記録媒体挿入部などを備える構成としてもよい。さらに、電子書籍320は、電子辞書としての機能を持たせた構成としてもよい。
【0169】
また、電子書籍320は、無線で情報を送受信できる構成としてもよい。無線により、電子書籍サーバから、所望の書籍データなどを購入し、ダウンロードする構成とすることも可能である。
【0170】
図10(D)は、携帯電話であり、筐体330及び筐体331の二つの筐体で構成されている。筐体331には、表示パネル332、スピーカー333、マイクロフォン334、ポインティングデバイス336、カメラ用レンズ337、外部接続端子338などを備えている。また、筐体330には、携帯型情報端末の充電をおこなう太陽電池セル340、外部メモリスロット341などを備えている。また、アンテナは筐体331内部に内蔵されている。実施の形態1乃至5で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高い携帯電話とすることができる。
【0171】
また、表示パネル332はタッチパネルを備えており、図10(D)には映像表示されている複数の操作キー335を点線で示している。なお、太陽電池セル340で出力される電圧を各回路に必要な電圧に昇圧するための昇圧回路も実装している。
【0172】
表示パネル332は、使用形態に応じて表示の方向が適宜変化する。また、表示パネル332と同一面上にカメラ用レンズ337を備えているため、テレビ電話が可能である。スピーカー333及びマイクロフォン334は音声通話に限らず、テレビ電話、録音、再生などが可能である。さらに、筐体330と筐体331は、スライドし、図10(D)のように展開している状態から重なり合った状態とすることができ、携帯に適した小型化が可能である。
【0173】
外部接続端子338はACアダプタ及びUSBケーブルなどの各種ケーブルと接続可能であり、充電及びパーソナルコンピュータなどとのデータ通信が可能である。また、外部メモリスロット341に記録媒体を挿入し、より大量のデータ保存及び移動に対応できる。
【0174】
また、上記機能に加えて、赤外線通信機能、テレビ受信機能などを備えたものであってもよい。
【0175】
図10(E)は、デジタルビデオカメラであり、本体351、表示部(A)357、接眼部353、操作スイッチ354、表示部(B)355、バッテリー356などによって構成されている。実施の形態1乃至5で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高いデジタルビデオカメラとすることができる。
【0176】
図10(F)は、テレビジョン装置の一例を示している。テレビジョン装置360は、筐体361に表示部363が組み込まれている。表示部363により、映像を表示することが可能である。また、ここでは、スタンド365により筐体361を支持した構成を示している。実施の形態1乃至5で示した半導体装置を適用することにより、信頼性の高いテレビジョン装置360とすることができる。
【0177】
テレビジョン装置360の操作は、筐体361が備える操作スイッチや、別体のリモコン操作機によりおこなうことができる。また、リモコン操作機に、当該リモコン操作機から出力する情報を表示する表示部を設ける構成としてもよい。
【0178】
なお、テレビジョン装置360は、受信機やモデムなどを備えた構成とする。受信機により一般のテレビ放送の受信をおこなうことができ、さらにモデムを介して有線または無線による通信ネットワークに接続することにより、一方向(送信者から受信者)または双方向(送信者と受信者間、あるいは受信者間同士など)の情報通信をおこなうことも可能である。
【0179】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0180】
100 基板
102 絶縁膜
106 酸化物半導体膜
108a ソース電極
108b ドレイン電極
112 ゲート絶縁膜
114 第1のゲート膜
115 第2のゲート膜
122a ソース領域
122b ドレイン領域
124 保護絶縁膜
126 チャネル領域
151 トランジスタ
152 トランジスタ
153 トランジスタ
200 基板
206 酸化物半導体膜
206a 酸化物半導体膜
207a N型酸化物半導体膜
207b N型酸化物半導体膜
208a ソース電極
208b ドレイン電極
209 第1の絶縁物
210 第2の絶縁物
211 表示用電極
212 ゲート絶縁膜
214 第1のゲート膜
214a 化合物導電体膜
215 第2のゲート膜
215a 導電膜
301 本体
302 筐体
303 表示部
304 キーボード
311 本体
312 スタイラス
313 表示部
314 操作ボタン
315 外部インターフェイス
320 電子書籍
321 筐体
322 筐体
323 表示部
324 表示部
325 軸部
326 電源
327 操作キー
328 スピーカー
330 筐体
331 筐体
332 表示パネル
333 スピーカー
334 マイクロフォン
335 操作キー
336 ポインティングデバイス
337 カメラ用レンズ
338 外部接続端子
340 太陽電池セル
341 外部メモリスロット
351 本体
353 接眼部
354 操作スイッチ
355 表示部(B)
356 バッテリー
357 表示部(A)
360 テレビジョン装置
361 筐体
363 表示部
365 スタンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムを有する酸化物半導体膜と、インジウムと窒素を有し、バンドギャップが2.8電子ボルト未満である化合物導電体の膜と、その間に設けられた絶縁膜を有する半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、前記化合物導電体の仕事関数が5電子ボルト以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1あるいは2のいずれか一において、前記化合物導電体のイオン化ポテンシャルが7電子ボルト以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、前記化合物導電体は全構成元素における窒素の比率が10原子%以上50原子%以下、インジウムの比率が10原子%以上50原子%以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、前記酸化物半導体膜のドナーあるいはアクセプタの濃度が1×1012cm−3以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
インジウムと窒素を有し、バンドギャップが2.8電子ボルト未満である化合物導電体の膜に接して絶縁膜を設ける工程と、前記絶縁膜上にインジウムを有する酸化物半導体膜を設ける工程を有する半導体装置の作製方法。
【請求項7】
インジウムを有する酸化物半導体膜上に絶縁膜を設ける工程と、前記絶縁膜に接してインジウムと窒素を有し、バンドギャップが2.8電子ボルト未満である化合物導電体の膜を設ける工程を有する半導体装置の作製方法。
【請求項8】
請求項6あるいは7のいずれか一において、前記化合物導電体の膜は、窒素を含む雰囲気でスパッタリング法により形成されることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一において、前記化合物導電体の膜は、酸素濃度が5%以下の雰囲気でスパッタリング法により形成されることを特徴とする半導体装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−109550(P2012−109550A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230247(P2011−230247)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】