説明

各輪の駆動障害に対処した個別駆動式自動車

【課題】少なくとも左右一対の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する個別の駆動力発生手段を備えた自動車に於いて、左右の個別の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたとき、それに適切に対処する自動車を提供する。
【解決手段】前記障害が検出されたとき、障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により要求駆動力を賄えるときには、障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせ、賄えないときには障害を生じた駆動力発生装置のみを休止させ、操舵性能を自動修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも左右一対の車輪または4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する駆動力発生手段を備えた自動車に係り、特にその各輪を駆動する駆動力発生手段の一つに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれに対処する構成を備えた自動車に係る。尚、少なくとも左右一対の車輪または4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する駆動力発生手段を備えた自動車であるとの限定は、例えば6輪車を除外する如く、自動車を4輪車に限定するものではない。
【背景技術】
【0002】
一対の前輪をエンジンにより駆動し、一対の後輪のそれぞれを個別の電動機により駆動する如く複数の原動機により4輪が駆動される自動車に於いて、何れかの原動機の故障により駆動力に不足が生じたとき、他の原動機の出力を増大させることによりそれを補う制御を行うことが下記の特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特許第3013991号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
左右一対の車輪がそれぞれ個別の駆動力発生手段により駆動されるようになっている車輌に於いて、その一方の駆動力発生手段に駆動力を正常に発生しない障害、特に駆動力発生手段が正常ならば発生すべき駆動力を発生しない状態が生ずると、所望の車輌駆動性能や操舵特性が得られなくなる虞れがある。
【0004】
本発明は、少なくとも左右一対の車輪または4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する駆動力発生手段を備えた自動車に於いて、車輪を個別に駆動する駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害、特に駆動力発生手段が正常ならば発生すべき駆動力を発生しない状態が生じたとき、それに適切に対処する自動車を提供すること課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する4個の駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車にして、前記4個の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えるとき前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと前記左右反対側の一つの駆動力発生手段を休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とを有していることを特徴とする自動車を提案するものである。
【0006】
この場合、前記左右反対側の一つの駆動力発生手段は、特に前記障害を生じた駆動力発生手段と左右一対をなす駆動力発生手段とされるのが好ましい。
【0007】
また、前記駆動制御手段は、前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の前記一つの駆動力発生手段を休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせるとき、該残る駆動力発生手段に左右にて前記要求駆動力を等分して分担させるようになってよい。
【0008】
また、同様に上記の課題を解決するものとして、本発明は、4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する4個の駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段と、操舵特性を自動的に修正する手段とを有する自動車にして、前記4個の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えないとき、前記障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、前記操舵特性自動修正手段により操舵特性を自動的に修正しつつ残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とを有していることを特徴とする自動車を提案するものである。
【0009】
この場合、前記駆動制御手段は、前記障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせるとき、該残る駆動力発生手段のうち前記障害を生じた駆動力発生手段と左右の対をなす駆動力発生手段を除く左右一対の駆動力発生手段を全力運転とするようになっていてよい。
【0010】
前記駆動制御手段は、前記要求駆動力が、前記障害が生じた駆動力発生手段とこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段にて得られる駆動力の和より小さい時に、前記障害が生じた駆動力発生手段とこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えると判断するようになっていてよい。
【0011】
或はまた、上記の課題を解決するものとして、本発明は、左右一対の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する2個の駆動力発生手段と、他の車輪を駆動する駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車にして、前記左右一対の車輪の各々を駆動する2個の前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記2個の駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右一対をなす駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えるとき前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと前記左右一対をなす駆動力発生手段を休止させ、前記他の車輪を駆動する駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とを有していることを特徴とする自動車を提案するものである。
【0012】
更にまた、同様に上記の課題を解決するものとして、本発明は、左右一対の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する2個の駆動力発生手段と、他の車輪を駆動する駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車にして、前記左右一対の車輪の各々を駆動する2個の前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記2個の駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右一対をなす駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えないとき、前記障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、前記操舵特性自動修正手段により操舵特性を自動的に修正しつつ残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とを有していることを特徴とする自動車を提案するものである。
【0013】
前記駆動制御手段は、前記要求駆動力が、前記障害が生じた駆動力発生手段とこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段にて得られる駆動力の和より小さい時に、前記障害が生じた駆動力発生手段とこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えると判断するようになっていてよい。
【0014】
上記いずれの場合にも、前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段は、前記駆動力発生手段のいずれかが正常ならば発生すべき駆動力を発生しない状態を検出するようになっていてよい。
【発明の効果】
【0015】
上記の如く4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する4個の駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車に於いて、前記4個の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えるとき前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とが設けられていれば、4個の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときにも、障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により要求駆動力を賄える限り、障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせることができるので、自動車の駆動力低下を抑制し、また左右の駆動力に差が生ずることを抑え、所望の駆動性能や操舵性能を得ることができる。
【0016】
この場合、障害を生じた駆動力発生手段と共に休止される駆動力発生手段は、例えば左前輪の駆動力発生手段に障害を生じたとき、左前輪の駆動力発生手段と共に右後輪の駆動力発生手段が休止される如く、障害を生じた駆動力発生手段に対し必ずしも左右一対の反対側ではなく、障害を生じた駆動力発生手段に対し左右で反対側の一つの駆動力発生手段であればよいが、特に左右反対側の前記一つの駆動力発生手段が障害を生じた駆動力発生手段と左右一対をなす駆動力発生手段とされれば、障害の発生により左右の駆動力に差が生ずることをよりよく抑えることができ、更に障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせるとき、該残る駆動力発生手段に左右にて要求駆動力を等分して分担させることが行われれば、障害の発生により左右の駆動力に差が生ずることを回避することができる。
【0017】
また、4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する4個の駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段と、操舵特性を自動的に修正する手段とを有する自動車に於いて、前記4個の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、障害が検出されたとき駆動力発生手段のうちの障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えないとき、障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、操舵特性自動修正手段により操舵特性を自動的に修正しつつ残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とが設けられていれば、4個の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じ、障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段を除く駆動力発生手段によっては要求駆動力を賄えないときにも、障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、操舵特性自動修正手段により操舵特性を自動的に修正しつつ残る駆動力発生手段により駆動を行わせることにより、自動車の操舵性能を維持しつつ、駆動力要求に応える駆動力を確保することができる。
【0018】
この場合にも、障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせるとき、該残る駆動力発生手段のうち障害を生じた駆動力発生手段と左右の対をなす駆動力発生手段を除く左右一対の駆動力発生手段を全力運転とするようになっていれば、左右の駆動力の差を最小限に抑え、その最小限の左右駆動力の差を操舵特性自動修正手段により修正し、自動車の操舵性能を高度に維持しつつ、駆動力要求に応える駆動力を確保することができる。
【0019】
また、左右一対の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する2個の駆動力発生手段と、他の車輪を駆動する駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車に於いて、前記左右一対の車輪の各々を駆動する2個の前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記2個の駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右一対をなす駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えるとき前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと前記左右一対をなす駆動力発生手段を休止させ、前記他の車輪を駆動する駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とが設けられていれば、左右一対の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときにも、障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右一対の他方の駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により要求駆動力を賄える限り、障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右一対の他方の駆動力発生手段とを休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせることができるので、自動車の駆動力に何ら実害を生ぜず、また左右の駆動力に差が生ずることを抑え、自動車の操舵性能が損なわれることを抑えることができる。
【0020】
また、左右一対の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する2個の駆動力発生手段と、他の車輪を駆動する駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車に於いて、前記左右一対の車輪の各々を駆動する2個の前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記2個の駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右一対をなす駆動力発生手段を除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えないとき、前記障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、前記操舵特性自動修正手段により操舵特性を自動的に修正しつつ残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とが設けられていれば、左右一対の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じ、障害を生じた駆動力発生手段およびこれと左右一対の他方の駆動力発生手段を除く駆動力発生手段によっては要求駆動力を賄えないときにも、障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、操舵特性自動修正手段により操舵特性を自動的に修正しつつ残る駆動力発生手段により駆動を行わせることにより、自動車の操舵性能を維持しつつ、駆動力要求に応える駆動力を確保することができる。
【0021】
駆動力発生手段に生ずる駆動力を正常に発生しない障害としては、駆動力発生手段が正常ならば発生すべき駆動力を発生しない状態が第一に想定されるので、前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段が、一先ず前記駆動力発生手段のいずれかが正常ならば発生すべき駆動力を発生しない状態を検出するようになっていれば、駆動力発生手段に生ずる障害に対し十分に対処することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明を4輪個別駆動式自動車に適用した構成の要部を一つの実施の形態について解図的に示す概略図である。
【0023】
図に於いて、10FL,10FR,10RL,10RRは一台の4輪自動車の左前輪、右前輪、左後輪、右後輪である。車体は省略されている。左前輪、右前輪、左後輪、右後輪はそれぞれ電動機12FL,12FR,12RL,12RRにより個別に駆動されるようになっている。一対の前輪10FL,10FRは操舵輪であり、ステアリングホイール(ハンドル)14を含む操舵装置16により、ステアリングホイール14の回動操作に応じて操舵されるが、その操舵作動は、操舵装置16内に組み込まれた自動操舵修正装置の作動により、後程説明される要領にて修正されるようになっている。
【0024】
18はバッテリであり、電流制御装置20を経て電動機12FL,12FR,12RL,12RRの各々へ個別に制御された電流を供給するようになっている。電流制御装置20はマイクロコンピュータを備えた電子式車輌運転制御装置(ECU)22によりその作動が制御されるようになっている。
【0025】
電子式車輌運転制御装置22には左前輪、右前輪、左後輪、右後輪に対する電動機12FL,12FR,12RL,12RRの各々に組み込まれた図には示されていないトルクセンサおよび回転速度センサより各電動機が発生するトルクの大きさを示す信号および各車輪の回転速度を示す信号が供給されている。電子式車輌運転制御装置22には、更に操舵装置16に組み込まれた図には示されていない操舵角センサより操舵角を示す信号、アクセルセンサ24よりアクセルペダルの踏込み量を示す信号、ブレーキセンサ26よりブレーキペダルの踏込み量を示す信号が供給される他、図には示されていない自動車の運転に係る種々の情報を示す信号が供給されている。電子式車輌運転制御装置22は、これらの信号に基づき、そこに組み込まれた制御プログラムに基づいて種々の制御演算を行い、運転者によりなされるアクセルペダルおよびブレーキペダルの踏込み操作並びにステアリングホイールの回動操作に応じて、上記各電動機への駆動電流の供給を制御して各車輪が発生する駆動力を制御し、図には示されていない油圧ブレーキおよび各電動機を流れる回生電流の大きさを制御して各車輪が発生する制動力および制動力を制御し、更に操舵装置16に作用してステアリングホイールによるその操舵制御を自動修正する。
【0026】
図2は、電子式車輌運転制御装置22により行われる各種制御のうち、本発明により行われる各輪の駆動障害に対処する制御の一例を示すフローチャートである。
【0027】
制御が開始されると、ステップ1(S1)に於いて、左前輪(FL輪)に駆動力発生に関する異常があるか否かが判断される。図1に示す自動車の場合には、電動機12FLに出力異常があるか否かであり、これは電流制御装置20を経て電動機12FLへ供給されている電流の値と電動機12FLが発生している駆動トルクの値と左前輪10FLの回転速度との対比より判断できる。以下、他の車輪に於ける駆動力の判断についても同様である。答がイエス(Y)であれば、制御はステップ2へ進む。駆動力発生手段が電動機の場合の駆動力発生の異常は、殆どの場合、駆動力の異常低下である。
【0028】
ステップ2に於いては、アクセルセンサ24からのアクセルペダルの踏込み量に関する信号および各車輪の回転速度に関する信号から得られる車速に基づいて演算される要求駆動トルクTreqがその時の車速にて左後輪電動機にて得られる最大駆動トルクTRLmaxと右後輪電動機にて得られる最大駆動トルクTRRmaxの和より小さいか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ3へ進む。
【0029】
ステップ3に於いては、駆動力発生異常を起こした左前輪電動機12FLおよびこれと左右反対側の電動機、特に図示の例では、これと左右一対をなす右前輪電動機12FRの運転が休止され、即ち、TFL=0、TFR=0とされ、要求駆動トルクTreqを残る左後輪電動機12RLおよび右後輪電動機12RRにより半分ずつ均等に賄うようにする制御が行われる。
【0030】
一方、ステップ2の答がノー(N)の場合には、制御はステップ4へ進み、要求駆動トルクTreqと左後輪電動機12RLおよび右後輪輪電動機12RRにて得られる最大駆動トルクの和TRLmax+TRRmaxとの差の値ΔTが算出され、制御は更にステップ5へ進み、駆動力発生異常を起こした左前輪電動機12FLのみが休止され、即ち、TFL=0とされ、上記の差ΔTを駆動力発生異常が生じた左前輪電動機12FLと左右一対をなす右前輪電動機12FRにて賄い、即ち、TFR=ΔTとし、一対の左後輪電動機12RLおよび右後輪電動機12RRをそれぞれ最大駆動トルクTRLmaxおよびTRRmaxにて作動させる制御が行われる。尚、最大駆動トルクTRLmaxおよびTRRmaxは、必ずしも左後輪電動機12RLおよび右後輪電動機12RRにて発生可能なトルクの最大値ではなく、これら電動機の所謂全力運転に当るトルクとされてよい。前輪の電動機についても同様である。この場合、制御は更にステップ6へ進み、上記の差ΔTとその時の操舵角αsおよび車速Vとを変数とする関数f1(ΔT,αs,V)として算出されたΔαsにより操舵角αsを自動修正する制御が行われる。Δαsは、一対の前輪間にて右側の車輪の駆動トルクがΔTだけ大きくなることにより車輌の操舵に歪みが生ずることを打ち消すに適した操舵角の修正値であり、ΔT、αs、Vに対応する値として予め準備され、電子式車輌運転制御装置22内に記憶されたマップ等に基づいて求められてよい。
【0031】
ステップ1の答がノーのときには、制御はステップ7へ進み、右前輪(FR輪)に駆動力発生に関する異常があるか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ8へ進み、要求駆動トルクTreqがその時の車速にて左後輪電動機にて得られる最大駆動トルクTRLmaxと右後輪電動機にて得られる最大駆動トルクTRRmaxの和より小さいか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ9へ進み、駆動力発生異常を起こした左前輪電動機12FRLおよびこれと左右反対側の電動機、特に図示の例では、これと左右一対をなす右前輪電動機12FLの運転が休止され、即ち、TFL=0、TFR=0とされ、要求駆動トルクTreqを残る左後輪電動機12RLおよび右後輪電動機12RRにより半分ずつ均等に賄うようにする制御が行われる。
【0032】
一方、ステップ8の答がノーの場合には、制御はステップ10へ進み、要求駆動トルクTreqと左後輪電動機12RLおよび右後輪電動機12RRにて得られる最大駆動トルクの和TRLmax+TRRmaxとの差の値ΔTが算出され、制御は更にステップ11へ進み、駆動力発生異常を起こした右前輪電動機12FRのみが休止され、即ち、TFR=0とされ、上記の差ΔTを駆動力発生異常が生じた右前輪電動機12FRと左右一対をなす左前輪電動機12FLにて賄い、即ち、TFL=ΔTとし、一対の左後輪電動機12RLおよび右後輪電動機12RRをそれぞれ最大駆動トルクTRLmaxおよびTRRmaxにて作動させる制御が行われる。この場合、制御は更にステップ12へ進み、上記の差ΔTとその時の操舵角αsおよび車速Vとを変数とする関数f2(ΔT,αs,V)として算出されたΔαsにより操舵角αsを自動修正する制御が行われる。Δαsは、一対の前輪間にて左側の車輪の駆動トルクがΔTだけ大きくなることにより車輌の操舵に歪みが生ずることを打ち消すに適した操舵角の修正値であり、ΔT、αs、Vに対応する値として予め準備され、電子式車輌運転制御装置22内に記憶されたマップ等に基づいて求められてよい。
【0033】
ステップ7の答がノーのときには、制御はステップ13へ進み、左後輪(RL輪)に駆動力発生に関する異常があるか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ14へ進み、要求駆動トルクTreqがその時の車速にて左前輪電動機にて得られる最大駆動トルクTFLmaxと右前輪電動機にて得られる最大駆動トルクTFRmaxの和より小さいか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ15へ進み、駆動力発生異常を起こした左後輪電動機12RLおよびこれと左右反対側の電動機、特に図示の例では、これと左右一対をなす右後輪電動機12RRの運転が休止され、即ち、TRL=0、TRR=0とされ、要求駆動トルクTreqを残る左前輪電動機12FLおよび右前輪電動機12FRにより半分ずつ均等に賄うようにする制御が行われる。
【0034】
一方、ステップ14の答がノーの場合には、制御はステップ16へ進み、要求駆動トルクTreqと左前輪電動機12FLおよび右前輪電動機12FRにて得られる最大駆動トルクの和TFLmax+TFRmaxとの差の値ΔTが算出され、制御は更にステップ17へ進み、駆動力発生異常を起こした左後輪電動機12RLのみが休止され、即ち、TRL=0とされ、上記の差ΔTを駆動力発生異常が生じた左後輪電動機12RLと左右一対をなす右後輪電動機12RRにて賄い、即ち、TRR=ΔTとし、一対の左前輪電動機12FLおよび右前輪電動機12FRをそれぞれ最大駆動トルクTFLmaxおよびTFRmaxにて作動させる制御が行われる。この場合、制御は更にステップ18へ進み、上記の差ΔTとその時の操舵角αsおよび車速Vとを変数とする関数f3(ΔT,αs,V)として算出されたΔαsにより操舵角αsを自動修正する制御が行われる。Δαsは、一対の後輪間にて右側の車輪の駆動トルクがΔTだけ大きくなることにより車輌の操舵に歪みが生ずることを打ち消すに適した操舵角の修正値であり、ΔT、αs、Vに対応する値として予め準備され、電子式車輌運転制御装置22内に記憶されたマップ等に基づいて求められてよい。
【0035】
ステップ13の答がノーのときには、制御はステップ19へ進み、右後輪(RR輪)に駆動力発生に関する異常があるか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ20へ進み、要求駆動トルクTreqがその時の車速にて左前輪電動機にて得られる最大駆動トルクTFLmaxと右前輪電動機にて得られる最大駆動トルクTFRmaxの和より小さいか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ21へ進み、駆動力発生異常を起こした右後輪電動機12RRおよびこれと左右反対側の電動機、特に図示の例では、これと左右一対をなす左後輪電動機12RLの運転が休止され、即ち、TRL=0、TRR=0とされ、要求駆動トルクTreqを残る左前輪電動機12FLおよび右前輪電動機12FRにより半分ずつ均等に賄うようにする制御が行われる。
【0036】
一方、ステップ20の答がノーの場合には、制御はステップ22へ進み、要求駆動トルクTreqと左前輪電動機12FLおよび右前輪電動機12FRにて得られる最大駆動トルクの和TFLmax+TFRmaxとの差の値ΔTが算出され、制御は更にステップ23へ進み、駆動力発生異常を起こした右後輪電動機12RRのみが休止され、即ち、TRR=0とされ、上記の差ΔTを駆動力発生異常が生じた右後輪電動機12RRと左右一対をなす左後輪電動機12RLにて賄い、即ち、TRL=ΔTとし、一対の左前輪電動機12FLおよび右前輪電動機12FRをそれぞれ最大駆動トルクTFLmaxおよびTFRmaxにて作動させる制御が行われる。この場合、制御は更にステップ24へ進み、上記の差ΔTとその時の操舵角αsおよび車速Vとを変数とする関数f4(ΔT,αs,V)として算出されたΔαsにより操舵角αsを自動修正する制御が行われる。Δαsは、一対の後輪間にて左側の車輪の駆動トルクがΔTだけ大きくなることにより車輌の操舵に歪みが生ずることを打ち消すに適した操舵角の修正値であり、ΔT、αs、Vに対応する値として予め準備され、電子式車輌運転制御装置22内に記憶されたマップ等に基づいて求められてよい。
【0037】
ステップ19の答がノーであるとき、即ち左右の前輪および後輪のいずれの電動機にも出力異常がないときには、制御はステップ25へ進み、左右前後輪電動機の駆動トルクが正規の制御値Tfl,Tfr,Trl,Trrとされる。正規の駆動トルク制御値は、左右前後で均一、或いは左右均一で前後間に所定の差を付された値、或いは車輌の旋回性能およびスリップに対する安定性を向上するよう操舵角、車速、路面状態等に応じて左右前後間にて適当な差を付された値等に、任意に制御されてよい。
【0038】
以上の如くして左右前後輪の駆動トルクの値が設定された後、制御はステップを26へ進み、該制御値にて電動機を作動させる出力制御が行われる。
【0039】
図3は、本発明を2輪個別駆動式4輪自動車に適用した構成の要部を一つの実施の形態について解図的に示す概略図である。この例では、操舵される左前輪10FLおよび右前輪10FRの2輪がそれぞれ電動機12FLおよび12FRにより個別に駆動されるようになっており、左後輪10RLおよび右後輪10RRはエンジン28というそれらに共通の駆動源により差動歯車装置30と左右の車軸32Lおよぶ32Rを経て同時に駆動されるようになっている。エンジン28の作動はアクセルセンサ24により検出される運転者のアクセルペダル踏込み操作に応じて電子式車輌運転制御装置22による自動制御を加味されて制御され、またエンジン28の作動状態は電子式車輌運転制御装置22へ入力されるようになっている。図3に示す自動車に於けるその他の構造であって図1に示す構造に対応する部分は、図1に於けると同じ符号により示されている。尚、図3に示す自動車に於いては、後輪の制動は次は示されていない油圧ブレーキのみにより行われるようになっている。
【0040】
このように左右一対の前輪の各々が2個の電動機により個別に駆動力され、左右一対の後輪の如き他の車輪がそれらに共通のエンジンにより駆動される場合にも、図2に例示したフローチャートによる制御のうちステップ13〜24を除くその他のステップによる制御が行われることにより、前輪駆動用電動機のいずれかに障害、特に正常な駆動力を発生しない状態が生じたときにも、自動車の駆動性能および操舵性能を維持する上でより好ましい制御が得られることは明らかであろう。
【0041】
以上に於いては本発明を二つの好ましい実施の形態について詳細に説明したが、これらの実施の形態について本発明の範囲内にて種々の修正が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明を4輪個別駆動式自動車に適用した構成の要部を一つの実施の形態について解図的に示す概略図。
【図2】本発明により行われる各輪の駆動障害に対処する制御の一例を示すフローチャート。
【図3】本発明を2輪個別駆動式4輪自動車に適用した構成の要部を一つの実施の形態について解図的に示す概略図。
【符号の説明】
【0043】
10FL,10FR,10RL,10RR…車輪、12FL,12FR,12RL,12RR…電動機、14…ステアリングホイール、16…操舵装置、18…バッテリ、20…電流制御装置、22…電子式車輌運転制御装置、24…アクセルセンサ、26…ブレーキセンサ、28…エンジン、30…差動歯車装置、32L,32R…車軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する4個の駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車にして、前記4個の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段とこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えるとき前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと前記左右反対側の一つの駆動力発生手段を休止させ、残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とを有していることを特徴とする自動車。
【請求項2】
前記左右反対側の一つの駆動力発生手段は前記障害を生じた駆動力発生手段と左右一対をなす駆動力発生手段とされることを特徴とする請求項1に記載の自動車。
【請求項3】
前記駆動制御手段は、前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと前記左右反対側の一つの駆動力発生手段を休止させ、前記残る駆動力発生手段により駆動を行わせるとき、該残る駆動力発生手段に左右にて前記要求駆動力を等分して分担させることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車。
【請求項4】
4個の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する4個の駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段と、操舵特性を自動的に修正する手段とを有する自動車にして、前記4個の駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段とこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えないとき、前記障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、前記操舵特性自動修正手段により操舵特性を自動的に修正しつつ残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とを有していることを特徴とする自動車。
【請求項5】
前記駆動制御手段は、前記障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、前記残る駆動力発生手段により駆動を行わせるとき、該残る駆動力発生手段のうち前記障害を生じた駆動力発生手段と左右の対をなす駆動力発生手段を除く左右一対の駆動力発生手段を全力運転とするようになっていることを特徴とする請求項4に記載の自動車。
【請求項6】
前記駆動制御手段は、前記要求駆動力が、前記障害が生じた駆動力発生手段とこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段にて得られる駆動力の和より小さい時に、前記障害が生じた駆動力発生手段とこれと左右反対側の一つの駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えると判断することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の自動車。
【請求項7】
左右一対の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する2個の駆動力発生手段と、他の車輪を駆動する駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車にして、前記左右一対の車輪の各々を駆動する2個の前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記2個の駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段とこれと左右一対をなす駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えるとき前記障害を生じた駆動力発生手段およびこれと前記左右一対をなす駆動力発生手段を休止させ、前記他の車輪を駆動する駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とを有していることを特徴とする自動車。
【請求項8】
左右一対の車輪の各々のために個別に駆動力を発生する2個の駆動力発生手段と、他の車輪を駆動する駆動力発生手段と、運転操作に応じて要求駆動力を決定する駆動力決定手段とを有する自動車にして、前記左右一対の車輪の各々を駆動する2個の前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段と、前記障害が検出されたとき前記2個の駆動力発生手段のうちの前記障害を生じた駆動力発生手段とこれと左右一対をなす駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えるか否かを判断し、賄えないとき、前記障害を生じた駆動力発生手段を休止させ、前記操舵特性自動修正手段により操舵特性を自動的に修正しつつ残る駆動力発生手段により駆動を行わせる駆動制御手段とを有していることを特徴とする自動車。
【請求項9】
前記駆動制御手段は、前記要求駆動力が、前記障害が生じた駆動力発生手段とこれと左右一対をなす駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段にて得られる駆動力の和より小さい時に、前記障害が生じた駆動力発生手段とこれと左右一対をなす駆動力発生手段とを除く駆動力発生手段により前記要求駆動力を賄えると判断することを特徴とする請求項7または8に記載の自動車。
【請求項10】
前記駆動力発生手段のいずれかに駆動力を正常に発生しない障害が生じたときそれを検出する手段は、前記駆動力発生手段のいずれかが正常ならば発生すべき駆動力を発生しない状態を検出するようになっていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−240417(P2006−240417A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57113(P2005−57113)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】