説明

回転検出装置付転がり軸受ユニット

【課題】外部空間に存在する異物がエンコーダ18に付着せず、このエンコーダ18の被検出面とセンサ19の検出部との距離を短くでき、飛び石等によりこのセンサ19が損傷を受けにくい構造を実現する。
【解決手段】回転する内輪13aの内端部に固定された支持環20の円輪部22のうち、転動体14を設けた内部空間23に対向する面に上記エンコーダ18を設ける。上記センサ19は、回転しない外輪12に支持されたホルダ24に保持された状態で、上記エンコーダ18の被検出面に、上記内部空間23の側から対向する。更に、上記円輪部22の外周縁部に添着したシールリップ34、34の先端縁を上記ホルダ24の一部に、全周に亙って摺接させる。この構成により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る回転検出装置付転がり軸受ユニットは、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、この車輪の回転速度或いは回転角度を検出する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するのに、転がり軸受ユニットを使用する。又、アンチロックブレーキシステム(ABS)或はトラクションコントロールシステム(TCS)を制御する為には、車輪の回転速度を検出する必要がある。この為、上記転がり軸受ユニットに回転速度検出装置を組み込んだ回転検出装置付転がり軸受ユニットにより、上記車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、この車輪の回転速度を検出する事が、近年広く行なわれる様になっている。
【0003】
この様な目的で使用される回転検出装置付転がり軸受ユニットは、車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側、静止側両軌道輪のうち、使用時に回転する回転側軌道輪に円環状のエンコーダを、使用時にも回転しない静止側軌道輪にセンサを、それぞれ支持して構成する。このエンコーダのうちで、上記回転側軌道輪の回転中心と同心に設けられた被検出面の特性は、円周方向に亙り交互に(一般的には等間隔に)変化させている。又、上記センサは、その検出部を上記エンコーダの被検出面に近接対向させており、この被検出面の特性変化に対応して、その出力信号を変化させる。この出力信号が変化する周期は、上記回転側軌道輪の回転速度が速くなる程短くなる(周波数が高くなる)ので、上記出力信号の周期或いは周波数によって、上記回転側軌道輪の回転速度を求め、上記ABSやTCSを適切に制御できる。
【0004】
従来は、上述の様な回転検出装置付転がり軸受ユニットを構成する為に、エンコーダとして永久磁石製のものを、センサとしてホール素子、磁気抵抗素子等の磁気検出素子を、それぞれ使用する事が考えられ、一部で実施されている。この様なエンコーダ及びセンサにより回転検出装置を構成すれば、センサを小型化でき、しかも、このセンサの出力信号の大きさ(振幅)を低速時から高速時迄ほぼ一定にできて、回転速度検出の信頼性向上を図れる。
【0005】
但し、上述の様に永久磁石製のエンコーダを使用した回転検出装置を構成する場合には、外部空間に存在する塵芥等の異物がこのエンコーダに付着するのを防止する為の考慮が必要になる。この理由の第一は、このエンコーダの被検出面に磁性粉末等が付着した場合には、この被検出面の特性変化の状態が所期の状態から変化し、上記センサによる回転速度検出の精度が悪化する為である。又、上記理由の第二は、上記エンコーダの摩耗を防止する為である。即ち、永久磁石製のエンコーダは、ゴム、合成樹脂等の高分子材料中に、フェライト等の磁性粉末を混入したものであり、全体として軟らかく、摩耗し易い。この為、上記被検出面に硬い異物が付着し、この異物がこの被検出面と上記センサの検出部との間に噛み込まれたりすると、上記エンコーダが摩耗する可能性がある。そして、摩耗に伴ってこのエンコーダの体積が減少すると、上記被検出面から上記センサの検出部に達する磁束の密度が低下し、このセンサによる回転速度検出の精度が悪化する。
【0006】
この様な問題が生じる事を防止する為には、上記エンコーダ及びセンサを設置した部分を、上記塵芥等の異物が存在する外部空間から遮蔽する事が考えられる。この様な事情で考えられた回転検出装置付転がり軸受ユニットとして従来から、例えば特許文献1、2に記載されたものが知られている。先ず、図6は、特許文献1に記載された、従来構造の第1例を示している。この従来構造の第1例の場合には、回転する内輪1に外嵌固定した永久磁石製のエンコーダ2の被検出面と、回転しない外輪3に支持したセンサ4の検出部とを、シールリング5を構成する芯金6を介して対向させている。この芯金6は非磁性金属板製である。又、図7は、特許文献2に記載された、従来構造の第2例を示している。この従来構造の第2例の場合には、センサ4aを回転しない外輪3に支持する為の支持環7の一部に透孔8を形成し、この支持環7に支持したセンサ4aの検出部を、この透孔8部分に配置して、この検出部とエンコーダ2aの被検出面とを直接対向させている。
【0007】
上記第1例の構造の場合には、上記センサ4の検出部と上記エンコーダ2の被検出面との間に上記芯金6が存在する分、これら検出部と被検出面との距離が離れる。この結果、この被検出面から出てこの検出部に達する磁束の密度が低くなり、上記センサ4による上記エンコーダ2の回転速度検出の信頼性確保が難しくなる。これに対して上記第2例の構造の場合には、上記センサ4aの検出部と上記エンコーダ2aの被検出面との距離を短くして、このセンサ4aによるこのエンコーダ2aの回転速度検出の信頼性を確保し易い。但し、上記第2例の構造の場合も、上記第1例の構造と同様に、センサ4aが外部空間に露出している。これら第1、2例の構造は何れも、センサ4、4aをホルダ9、9aに包埋保持しているが、このホルダ9、9aは、合成樹脂製で必ずしも十分な強度を有しない為、車輪が跳ねた小石等が衝突した場合に、損傷を受ける可能性がある。
【0008】
【特許文献1】特開平10−160744号公報
【特許文献2】特開2003−254985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、次の(1) 〜(3) の条件を同時に満たす構造を実現すべく発明したものである。
(1) 外部空間に存在する異物がエンコーダに付着しない。
(2) このエンコーダの被検出面とセンサの検出部との距離を短くして、このエンコーダを支持した内輪相当部材の回転検出の信頼性を確保する。
(3) 飛び石等により上記センサが損傷を受けにくくする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットは、従来から知られている回転検出装置付転がり軸受ユニットと同様に、外輪と、内輪相当部材と、複数個の転動体と、エンコーダと、センサとを備える。
このうちの外輪は、外周面に懸架装置に取り付ける為の取付フランジを、内周面に外輪軌道を、それぞれ有し、使用時にも回転しない。
又、上記内輪相当部材は、外周面に上記外輪軌道と対向する内輪軌道を有し、使用時に回転する。
又、上記各転動体は、上記外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられている。
又、上記エンコーダは、上記内輪相当部材の軸方向内端部に支持されて、この内輪相当部材と同心である被検出面の特性を、円周方向に関して交互に変化させている。
更に、上記センサは、その検出部を上記被検出面に対向させた状態で上記外輪の軸方向内端部に支持されており、この被検出面の特性変化に対応して出力信号を変化させる。
【0011】
特に、本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットに於いては、上記エンコーダは、上記各転動体を設置した内部空間に対向する面の特性を円周方向に関して交互に変化させた円輪状である。そして、上記内輪相当部材の内端部外周面で上記内輪軌道から外れた部分に固定された支持環を構成する、径方向に拡がる円輪部の軸方向両側面のうち、上記内部空間に対向する面に全周に亙って添設されている。
又、上記センサは上記外輪に支持された環状のホルダに保持された状態で、上記エンコーダの被検出面に、上記内部空間の側から対向している。
更に、上記円輪部のうちで上記エンコーダよりも径方向外寄り部分にその基端部を全周に亙って添着した弾性材製のシールリップの先端縁を上記ホルダの一部に、全周に亙って摺接させている。
【0012】
又、好ましくは、請求項2に記載した様に、上記ホルダを、金属板製の外ケースと合成樹脂製の内ケースとから構成する。
このうちの外ケースは、上記外輪の内端部に締り嵌めで外嵌固定される円筒部を有する。又、上記内ケースは、一部に上記センサを保持する。更に、上記外ケースを構成する金属板の軸方向内端寄り部分は、径方向内側に押し曲げられて、上記内ケースの軸方向内側面のうちの少なくとも一部を、全周に亙り覆っている。そして、上記シールリップの先端縁を、上記金属板の一部で上記内ケースの軸方向内側面を全周に亙り覆っている部分に摺接させる。
この様な請求項2に記載した構造を実施する場合に、更に好ましくは、請求項3に記載した様に、上記ホルダを、内輪相当部材の軸方向内端部の周囲に存在させる。そして、このホルダの軸方向内端部を、この内輪相当部材の軸方向内端面よりも軸方向内方に突出させない。
【0013】
又、本発明を実施する場合に、例えば請求項4に記載した様に、上記外輪として、内周面に複列の外輪軌道が形成されたものを使用する。そして、内輪相当部材を、外周面の軸方向外端寄り部分に車輪を結合固定する為の結合フランジを、同じく中間部乃至内端寄り部分に複列の内輪軌道を、それぞれ有するハブとする。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットによれば、次の(1) 〜(3) の条件を同時に満たす事ができる。
(1) 外部空間に存在する異物がエンコーダに付着しない。
(2) このエンコーダの被検出面とセンサの検出部との距離を短くして、このエンコーダを支持した内輪相当部材の回転検出の信頼性を確保する。
(3) 飛び石等により上記センサが損傷を受けにくくする。
【0015】
先ず第一に、上記エンコーダは、内輪相当部材に固定された支持環を構成する円輪部のうちで内部空間に対向する面に添設されており、又、この円輪部の外周縁と、外輪に固定されたホルダとの間の隙間は、全周に亙ってシールリップにより塞がれている。従って、上記エンコーダを設置した空間は外部空間と遮断された状態となり、この外部空間に存在する異物が上記エンコーダに付着する事を防止できる{上記(1) の条件を満たせる}。
【0016】
第二に、このエンコーダは、上記円輪部のうちで内部空間に対向する側面に添設されており、上記センサの検出部は上記エンコーダの被検出面に、上記内部空間の側から対向している。従って、このエンコーダに異物が付着しない様にする事を考慮しても、上記センサの検出部と上記エンコーダの被検出面との間に遮蔽物を設ける必要がない。この為、これら検出部と被検出面とを十分に近接させて、上記エンコーダの回転に伴って上記センサの出力信号を確実に変化させ、このエンコーダを支持した、上記内輪相当部材の回転検出に関する信頼性を確保できる{上記(2) の条件を満たせる}。
【0017】
第三に、ホルダのうちで、少なくとも上記センサを保持した部分を、上記支持環により覆う事ができる。この為、飛び石等が、上記ホルダのうちで上記センサを保持した部分にぶつかる事がなくなり、飛び石等によりこのセンサが損傷を受けにくくできる{上記(3) の条件を満たせる}。そして、長期間に亙り厳しい条件下で使用された場合でも、回転検出に関する信頼性確保を図れる。
【0018】
又、請求項2に記載した様に、上記ホルダを、金属板製の外ケースと合成樹脂製の内ケースとから構成すれば、センサを保持した合成樹脂製の内ケース全体に関して、飛び石等により損傷を受ける事を防止できる。この為、回転検出に関する信頼性確保を、より十分に図れる。
又、前記シールリップの先端縁を、上記外ケースを構成する金属板の一部で上記内ケースの軸方向内側面を全周に亙り覆っている部分に摺接させる事により、この摺接部のシール性及び耐久性の向上を図れる。即ち、上記金属板の耐摩耗性は上記合成樹脂の耐摩耗性よりも優れている為、長期間に亙る使用に拘らず、上記シールリップの先端縁が摺接する部分の摩耗を抑えて、上記耐久性を十分に確保できる。
【0019】
又、請求項3に記載した様に、上記ホルダを、内輪相当部材の軸方向内端部の周囲に存在させて、このホルダの軸方向内端部を、この内輪相当部材の軸方向内端面よりも軸方向内方に突出させない構成を採用すれば、回転検出装置付転がり軸受ユニットの軸方向寸法を短く抑えて、この回転検出装置付転がり軸受ユニットの小型・軽量化を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
図1〜2は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、トラック等の商用車の後輪の如く、半浮動式の懸架装置に支持された駆動輪を回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットに、本発明を適用した場合に就いて示している。本例の回転検出装置付転がり軸受ユニットは、背面組み合わせ型の接触角を付与した複列アンギュラ型の車輪支持用転がり軸受ユニット10と、回転検出装置11とを組み合わせて成る。
【0021】
このうちの車輪支持用転がり軸受ユニット10は、1個の外輪12と、1対の内輪13a、13bと、複数個の転動体14、14とを備える。このうちの外輪12は、外周面に懸架装置に取り付ける為の取付フランジ15を、内周面に複列の外輪軌道16、16を、それぞれ有する。この様な外輪12は、使用時に上記取付フランジ15により上記懸架装置に結合固定され、回転しない。又、上記両内輪13a、13bは、それぞれの外周面に上記両外輪軌道16、16と対向する内輪軌道17、17を有する。又、上記各転動体14、14は、上記両外輪軌道16、16と上記両内輪軌道17、17との間に転動自在に設けられて、上記外輪12の内径側での上記両内輪13a、13bの回転を自在としている。使用時にこれら両内輪13a、13bは、図示しないアクスル軸に外嵌固定する。従ってこれら両内輪13a、13bは、使用時に回転する。
【0022】
又、上記回転検出装置11は、エンコーダ18とセンサ19とを備える。このうちのエンコーダ18は、上記両内輪13a、13bのうちの軸方向内側の内輪13aの軸方向内端部(軸方向に関して内とは、車両への組み付け状態で、この車両の幅方向中央寄りとなる側を言い、各図の右側を言う。反対に、この車両の幅方向外寄りとなる各図の左側を、軸方向に関して外と言う。本明細書及び特許請求の範囲で同じ。)に、支持環20を介して支持している。この支持環20は、軟鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板の様な磁性金属板により、断面L字形で全体を円環状に造られたもので、円筒部21と、この円筒部21の軸方向内端部から径方向外方に向け直角に折れ曲がった円輪部22とを備える。この様な支持環20は、上記円筒部21を上記内輪13aの軸方向内端部に締り嵌めで外嵌する事により、この内輪13aに対し、この内輪13aと同心に支持固定している。この状態で上記円輪部22の軸方向内側面は、上記内輪13aの軸方向内端面と同一平面上に位置するか、この軸方向内端面よりも軸方向外方に位置する(軸方向内端面よりも突出しない)。
【0023】
上記エンコーダ18は、上述の様な支持環20の円輪部22の軸方向両側面のうち、上記各転動体14、14を設置した内部空間23に対向する面(軸方向外側面)に、上記支持環20と同心に添設されている。上記エンコーダ18は、ゴム、合成樹脂等の高分子材料中に、フェライト等の強磁性粉末を混入した永久磁石(ゴム磁石或いはプラスチック磁石)であって、軸方向(図1〜2の左右方向)に着磁されている。着磁方向は、円周方向に亙り交互に且つ等間隔で変化させている。従って、上記エンコーダ18の被検出面である、軸方向外側面には、S極とN極とが、交互に、且つ、等間隔で配置されている。尚、上記円筒部21の軸方向寸法L21、及び、上記エンコーダ18の厚さ寸法T18は、適正値に規制している。又、上記円輪部22の外周縁部には、シールリップ34、34の基端部を、全周に亙って支持している。
【0024】
一方、前記センサ19は、前記外輪12に対し、環状のホルダ24を介して支持されている。このホルダ24は、外ケース25と、内ケース26とから成る。このうちの外ケース25は、ステンレス鋼板、メッキ鋼板等の、十分な耐蝕性を有する金属板に曲げ加工を施す事により、或いは、鋼板に曲げ加工を施したものにカチオン塗装等の防錆処理を施す事により、断面大略L字形で全体を環状に形成している。この様な外ケース25の外周縁部には、円筒部27を設けている。この円筒部27の自由状態での内径は、前記外輪12の軸方向内端部の外径よりも僅かに小さくして、上記円筒部27をこの外輪12の軸方向内端部に、締り嵌めで外嵌固定している。又、この円筒部27の軸方向内端部は、直径方向内方に向け直角に折り曲げて、外径側円輪部28としている。又、この外径側円輪部28の内周縁部を軸方向外方に向け直角に折り曲げて内径側円筒部29とし、更にこの内径側円筒部29の軸方向外端部を径方向内方に向けて直角に折り曲げて、内径側円輪部30としている。上記外径側円輪部28の円周方向の一部には、次述するハーネス31を取り出す為の通孔32を形成しているが、他の部分(円筒部27、内径側円筒部29、内径側円輪部30)は、全周に亙って連続している。
【0025】
一方、上記内ケース26は、ポリアミド樹脂等の合成樹脂を射出成形する事により全体を円環状に形成されたもので、一部に上記センサ19を保持している。このセンサ19は、上記内ケース26を射出成形する際に、この内ケース26を構成する合成樹脂中に、その検出部を軸方向内方に向けた状態で包埋支持される。上記センサ19の出力信号を上記ホルダ24外に取り出す為に、上記内ケース26の軸方向内端面の一部に凸部33を突設し、この凸部33を、上記通孔32に挿通している。上記センサ19の出力信号を取り出す為のハーネス31の基端部は、上記凸部33を通じて、このセンサ19に接続している。尚、上記内ケース26と上記外ケース25との結合方法に就いては特に問わない。別々に形成したこれら内ケース26と外ケース25とを、後から接着或いは嵌合により組み合わせても良いし、内ケース26加工用金型のキャビティ内に上記外ケース25をセットした状態で、この内ケース26を射出成形しても良い。
【0026】
何れにしても、図1〜2に示す様に外ケース25と内ケース26とを組み合わせて成る上記ホルダ24は、前記支持環20を前記内輪13aの内端部に外嵌固定するのに先立って、前記外輪12の軸方向内端部に外嵌固定する。この際、上記内ケース26の軸方向外端面がこの外輪12の軸方向内端面に当接するまで、前記円筒部27をこの外輪12の軸方向内端部に押し込む。そして、上記内ケース26を、上記外輪12の軸方向内端面と上記外ケース25の外径側、内径側両円輪部28、30との間で軸方向両側から挟持して、走行時の振動に拘らず、上記内ケース26が変位しない様にする。この内ケース26及び上記外輪12の軸方向寸法は、予め適正値に規制されており、この内ケース26に対する上記センサ19の取付位置も適正に規制されているので、この内ケース26に保持されたこのセンサ19の軸方向位置は、予め設定された適正位置に規制される。又、上記円筒部27の軸方向外端部は上記外輪12の軸方向内端部に、締り嵌めで外嵌する為、これら円筒部27の軸方向外端部内周面と外輪12の軸方向内端部外周面とは、全周に亙って隙間なく当接する。従って、この外輪12に対する上記ホルダ24の取付部(嵌合部)のシール性は十分に確保される。
【0027】
上述の様に外輪12に対しホルダ24を取り付けたならば、次いで、上記支持環20を上記内輪13aの内端部に、締り嵌めで外嵌固定する。この際、この支持環20を構成する前記円筒部21の先端縁(軸方向外端縁)が、上記内輪13aの中間部外周面に形成された段差面35に突き当たるまで、上記円筒部21をこの内輪13aの軸方向内端部に押し込む。この段差面35の軸方向位置は適正に規制されており、上記円筒部21の軸方向長さL21及び前記エンコーダ18の厚さT18は前述の様に適正に規制されているので、上記円筒部21の先端縁を上記段差面35に突き当てた状態で、上記エンコーダ18の被検出面(軸方向外側面)の軸方向位置は適正位置となる。具体的には、この被検出面と上記センサ19の検出部とが、回転速度検出の為に適正な(例えば厚さが0.5〜2mm程度の)微小隙間を介して対向する。又、上述の様に、外輪12に対しホルダ24を取り付けると共に、上記支持環20を上記内輪13aの内端部に外嵌固定した状態で、前記各シールリップ34、34の先端縁が、前記外ケース25のうちの、内径側円筒部29の内周面と内径側円輪部30の軸方向内側面とに、それぞれ全周に亙り覆って摺接する。
【0028】
上述の様に構成する本例の回転検出装置付転がり軸受ユニットの使用時に、上記内輪13aと共に上記エンコーダ18が回転すると、このエンコーダ18の被検出面に存在するS極とN極とが、前記センサ19の検出部の直前部分を交互に通過する。この結果、このセンサ19の出力信号が、上記内輪13a及び上記エンコーダ18の回転速度に反比例した周期(比例した周波数)で変化する。そこで、上記出力信号を、前記ハーネス31によりABSやTCSの制御器に送り、このABSやTCSの制御に利用する。
【0029】
上述の様な本例の構造は、上記エンコーダ18は、支持環20と上記各シールリップ34、34とにより、外部空間から遮断されている。従って、この外部空間に存在する異物が上記エンコーダ18に付着する事を防止できる。又、上記センサ19の検出部はこのエンコーダ18の被検出面に、直接対向している。この為、これら検出部と被検出面とを十分に近接させて、上記エンコーダ18の回転に伴って上記センサ19の出力信号を確実に変化させ、上記内輪13aの回転検出に関する信頼性を確保できる。更に、上記ホルダ24を構成する合成樹脂製の内ケース26全体を、それぞれが金属製である外ケース25及び上記支持環20により覆っている為、飛び石等が、上記内ケース26にぶつかる事がなくなり、飛び石等により、この内ケース26に保持したセンサが損傷を受けにくくできる。そして、長期間に亙り厳しい条件下で使用された場合でも、回転検出に関する信頼性確保を図れる。
【0030】
又、上記各シールリップ34、34の先端縁を、上記外ケース25を構成する金属板のうちで、前記内径側円筒部29の内周面と前記内径側円輪部30の軸方向内側面とに摺接させている為、この摺接部のシール性及び耐久性の向上を図れる。
更に、本例の場合には、前記ホルダ24を、上記内輪13aの軸方向内端部の周囲に存在させて、このホルダ24の軸方向内端部を、この内輪13aの軸方向内端面よりも軸方向内方に突出させていない。この為、回転検出装置付転がり軸受ユニットの軸方向寸法を短く抑えて、この回転検出装置付転がり軸受ユニットの小型・軽量化を図れる。
【0031】
[実施の形態の第2例]
図3〜4は、総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例は、乗用車の前輪(FF車、4WD車の場合)或いは後輪(FR車、MR車、4WD車の場合)の如く、独立懸架式の懸架装置に支持された駆動輪を回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットに、本発明を適用した場合に就いて示している。本例の場合も、外輪12aの内周面に複列の外輪軌道16、16が形成されている。特に本例の場合には、内輪相当部材が、ハブ本体36と内輪37とを組み合わせて成るハブ38である。このうちのハブ本体36の外周面の軸方向外端寄り部分には、車輪を結合固定する為の結合フランジ39を、同じく中間部には内輪軌道40aを、同じく内端部に小径段部41を、それぞれ形成している。そして、この小径段部41に、その外周面に内輪軌道40bを形成した、上記内輪37を、締り嵌めで外嵌している。この内輪37の軸方向内端部は、上記ハブ本体36の軸方向内端面よりも少し軸方向内方に突出している。車両への組み付け状態で上記内輪37の軸方向内端面は、等速ジョイントを構成するハウジングの軸方向外端面により抑えられて、上記ハブ本体36からの抜け止めを図られる。その他の部分の構成及び作用は、上述した第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略する。
【0032】
[実施の形態の第3例]
図5も、総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例は、内ケース26の凸部33の外周面と外ケース25の小径円筒部42の内周面との間の隙間を、Oリング、パッキング等のシールリング43により塞いでいる。そして、上記両ケース25、26を別々に造って後から組み合わせた場合でも、外部空間に存在する泥水等の異物が、上記凸部33の外周面と上記小径円筒部42の内周面との間の隙間を通じて、転がり軸受ユニット内部に浸入しない様にしている。その他の部分の構成及び作用は、前述した第1例或いは上述した第2例の場合と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
図示の実施の形態は、本発明を駆動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニットに適用した場合に就いて示したが、本発明は、外輪が静止側軌道輪で内輪相当部材が回転側軌道輪であれば、従動輪(FR車、MR車の前輪、FF車の後輪)用の車輪支持用転がり軸受ユニットに適用する事もできる。又、回転側軌道輪がハブである場合に、駆動輪用であるか従動輪用であるかに拘らず、ハブ本体と内輪とを結合固定する構造は、特に問わない。例えば、ハブ本体に螺合したナットにより、内輪をこのハブ本体に抑え付ける構造や、ハブ本体の一部を径方向外方に塑性変形させて成るかしめ部により内輪をこのハブ本体に抑え付ける構造を採用できる。更に、転動体も、図示の様な玉に限らず、円すいころであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】図1のA部拡大図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す断面図。
【図4】図3のB部拡大図。
【図5】本発明の実施の形態の第3例を示す部分断面図。
【図6】従来構造の第1例を示す部分断面図。
【図7】同第2例を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0035】
1 内輪
2、2a エンコーダ
3 外輪
4、4a センサ
5 シールリング
6 芯金
7 支持環
8 透孔
9、9a ホルダ
10 車輪支持用転がり軸受ユニット
11 回転検出装置
12、12a 外輪
13a、13b 内輪
14 転動体
15 取付フランジ
16 外輪軌道
17 内輪軌道
18 エンコーダ
19 センサ
20 支持環
21 円筒部
22 円輪部
23 内部空間
24 ホルダ
25 外ケース
26 内ケース
27 円筒部
28 外径側円輪部
29 内径側円筒部
30 内径側円輪部
31 ヘーネス
32 通孔
33 凸部
34 シールリップ
35 段差面
36 ハブ本体
37 内輪
38 ハブ
39 結合フランジ
40a、40b 内輪軌道
41 小径段部
42 小径円筒部
43 シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に懸架装置に取り付ける為の取付フランジを、内周面に外輪軌道を、それぞれ有し、使用時にも回転しない外輪と、外周面にこの外輪軌道と対向する内輪軌道を有し、使用時に回転する内輪相当部材と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、この内輪相当部材の軸方向内端部に支持されて、この内輪相当部材と同心である被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させたエンコーダと、その検出部をこの被検出面に対向させた状態で上記外輪の軸方向内端部に支持された、この被検出面の特性変化に対応して出力信号を変化させるセンサとを備えた回転検出装置付転がり軸受ユニットに於いて、上記エンコーダは、上記各転動体を設置した内部空間に対向する面の特性を円周方向に関して交互に変化させた円輪状であって、上記内輪相当部材の内端部外周面で上記内輪軌道から外れた部分に固定された支持環を構成する、径方向に拡がる円輪部の軸方向両側面のうち、上記内部空間に対向する面に全周に亙って添設されており、上記センサは上記外輪に支持された環状のホルダに保持された状態で、上記エンコーダの被検出面に、上記内部空間の側から対向しており、上記円輪部のうちでこのエンコーダよりも径方向外寄り部分にその基端部を全周に亙って添着した弾性材製のシールリップの先端縁を上記ホルダの一部に、全周に亙って摺接させている事を特徴とする回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項2】
ホルダが、外輪の内端部に締り嵌めで外嵌固定される円筒部を有する金属板製の外ケースと、一部にセンサを保持する合成樹脂製の内ケースとから成り、この外ケースを構成する上記金属板の軸方向内端寄り部分は径方向内側に押し曲げられて上記内ケースの軸方向内側面のうちの少なくとも一部を全周に亙り覆っており、シールリップの先端縁は、上記金属板の一部で上記内ケースの軸方向内側面を全周に亙り覆っている部分に摺接している、請求項1に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項3】
ホルダが内輪相当部材の軸方向内端部の周囲に存在し、このホルダの軸方向内端部がこの内輪相当部材の軸方向内端面よりも軸方向内方に突出していない、請求項2に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項4】
外輪の内周面に複列の外輪軌道が形成されており、内輪相当部材が、外周面の軸方向外端寄り部分に車輪を結合固定する為の結合フランジを、同じく中間部乃至内端寄り部分に複列の内輪軌道を、それぞれ有するハブである、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−101352(P2007−101352A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291252(P2005−291252)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】