説明

基板処理装置

【課題】基板の主面の周縁部におけるエッチング液の滞留を防止または抑制して、基板の主面に対して均一なエッチング処理を施すことができる基板処理装置を提供すること。
【解決手段】ウエハWの周縁部上の処理位置に刷毛部材7が配置される。カーボンファイバにより形成された弾性線状体16が、ウエハW上のフッ硝酸の液膜に接触する。可撓性を有する弾性線状体16は、フッ硝酸の液膜に接触すると、その先端部がウエハWの回転半径方向外方側に向く湾曲線状に弾性変形する。弾性変形後の弾性線状体16が、そのフッ硝酸をウエハW外に向けて案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板などの基板の主面に対し、エッチング液を用いたエッチング処理を施すための基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)に対して処理液を用いた液処理が行われる。このような液処理の一つは、エッチング液をウエハの主面に供給して行うエッチング処理である。ここでいうエッチング処理には、ウエハの主面(ウエハ自体またはウエハ上に形成された薄膜)にパターンを形成するためのエッチング処理、ウエハの主面の表層領域を均一に除去するためのエッチング処理のほか、エッチング作用を利用してウエハの主面の異物を除去する洗浄処理が含まれる。
【0003】
ウエハの主面に対し処理液による処理を施すための基板処理装置には、複数枚のウエハに対して一括して処理を施すバッチ式のものと、ウエハを一枚ずつ処理する枚葉式のものとがある。枚葉式の基板処理装置は、たとえば、ウエハをほぼ水平姿勢に保持しつつ回転させるスピンチャックと、このスピンチャックに保持されているウエハの主面に向けて処理液を供給する処理液ノズルと、この処理液ノズルをウエハ上で移動させるノズル移動機構とを備えている。
【0004】
たとえば、ウエハにおいてデバイスが形成されるデバイス形成面に対してエッチング処理を施したい場合には、ウエハはデバイス形成面を上向きにしてスピンチャックに保持される。そして、スピンチャックによって回転されるウエハの上面に処理液ノズルからエッチング液が吐出されるとともに、ノズル移動機構によって処理液ノズルが移動される。処理液ノズルの移動にともなって、ウエハの上面におけるエッチング液の着液点が移動する。この着液点を、ウエハの上面の回転中心と周縁部との間でスキャンさせることにより、ウエハの上面の全域にエッチング液を行き渡らせることができる。
【特許文献1】特開2007−88381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ウエハの上面の中央部に供給されたエッチング液は、ウエハの回転による遠心力を受けて、ウエハの上面の回転半径方向外方に向けて移動する。そのため、処理液ノズルからのエッチング液に加えて、上面の中央部から移動するエッチング液が与えられるウエハの上面の周縁部には、過剰な量のエッチング液が供給される。このため、エッチングレートは、ウエハの上面の周縁部の方が中央部よりも高くなり、ウエハの上面内に処理の不均一が生じるという問題がある。
【0006】
本願発明者らは、枚葉式の基板処理装置を用いたエッチング処理によってウエハを薄型化(シンニング)する処理を検討してきた。より具体的には、ウエハの裏面(デバイスが形成されていない非デバイス形成面)を上方に向けるとともに、エッチング力の高いフッ硝酸が、エッチング液として、ウエハ裏面(上面)に供給される。フッ硝酸によってウエハ裏面の表層部のウエハ材料がエッチング除去され、これにより、ウエハが薄型化される。
【0007】
本願発明者らは、エッチング処理時におけるウエハの回転速度が高ければ高いほど、ウエハの上面の周縁部と中央部とのエッチングレートの差が大きくなることを見出した。そして、ウエハを所定の低回転速度(40〜60rpm)で回転させれば、周縁部と中央部との間のエッチングレートの差が小さくなり、エッチング処理の面内均一性が比較的良好になることを見出した。
【0008】
ところが、かかる低回転速度でウエハを回転させると、ウエハの上面上のエッチング液に作用する遠心力が小さく、ウエハの周縁部に移動したエッチング液が、ウエハの上面の周縁部からウエハの側方に排除され難い。そのため、ウエハの上面の周縁部にエッチング液が滞留し、かかる領域にエッチング液の厚い液膜(液溜まり)が形成される。この厚い液膜は、失活したエッチング液を高い比率で含んでおり、エッチング力が低いばかりでなく、ウエハの周縁部から熱を奪い、ウエハの上面の周縁部に温度低下を生じさせる。その結果、ウエハの上面の周縁部でエッチングレートが低下するという問題があった。そのため、ウエハの周縁部においてもエッチングレートを向上させ、エッチング処理の面内均一性をさらに高める必要がある。
【0009】
とくに、シリコンウエハなどエッチング液に対する疎液性が高いウエハに対してエッチング処理が施される場合に、ウエハの上面の周縁部上に形成される液膜(液溜まり)の膜厚が大きくなり、ウエハの上面の周縁部におけるエッチングレートの低下が顕著になるという問題があった。
そこで、この発明の目的は、基板の主面の周縁部におけるエッチング液の滞留を防止または抑制して、基板の主面に対して均一なエッチング処理を施すことができる基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、基板(W)を保持しつつ回転させる基板回転手段(4)と、前記基板回転手段によって回転される基板の前記主面上にエッチング液を供給するエッチング液供給手段(5)と、可撓性を有する複数の弾性線状体(16,16A)を有し、前記主面の周縁部で、前記主面上のエッチング液の液膜と接触して、このエッチング液を基板の外方に向けて案内する刷毛部材(7)とを含む、基板処理装置(1,1A)である。
【0011】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
この構成によれば、基板主面の周縁部上の液膜に接触するように刷毛部材が設けられている。刷毛部材は可撓性を有する複数の弾性線状体を備えており、これらの弾性線状体は基板上のエッチング液の液膜に接触して弾性変形(たとえば湾曲線状に変形)し、エッチング液を基板外に向けて案内する。こうして、基板の主面の周縁部におけるエッチング液を、基板外にスムーズに排出させることができる。特にこれらの弾性線状体は基板の主面にも接触可能であるので、基板の主面に付着しているエッチング液をも基板外に吐き出すことが可能である。これにより、基板の主面の周縁部におけるエッチング液の滞留を防止または抑制することができる。したがって、基板の主面の周縁部でのエッチングレートの低下を抑制または防止でき、基板の主面に対して均一なエッチング処理を施すことができる。
【0012】
また、弾性線状体が基板上のエッチング液の液膜に接触して弾性変形するので、刷毛部材が基板の主面に対し、当該主面に直交する方向にずれていても、その位置ずれが弾性線状体により吸収されている。そのため、刷毛部材の基板の主面に直交する方向の位置調整を、厳密に行う必要がない。
たとえば、エッチング液によって基板の薄型化を図るエッチング処理では、基板の主面の基板材料がエッチング除去されるため、エッチング処理の進行にともなって、基板の主面が刷毛部材から遠ざかる。この場合、弾性変形している弾性線状体は、基板の主面位置の変化に追従してその形状を変化させる。したがって、エッチング処理の全期間を通じて、弾性線状体とエッチング液の液膜との接触状態を維持することができる。
【0013】
請求項2に記載したように、前記刷毛部材を冷却する冷却手段(26,27,28)をさらに含むことが好ましい。
基板に対するエッチング処理では、エッチング液と基板の主面との反応により発熱が生じ、基板の主面が高温になることがある。このとき、刷毛部材によるエッチング液の排出によって、基板の周縁部におけるエッチング液の液膜が薄くなっていると、基板の周縁部でエッチング液に奪われる熱量が減少する。その結果、基板の周縁部がその中央部よりも高温になり、基板の主面の周縁部におけるエッチングレートが、基板の主面の中央部におけるエッチングレートに比べて高くなるおそれがある。
【0014】
そこで、冷却手段により刷毛部材を冷却することにより、刷毛部材およびエッチング液の液膜を介して、基板の周縁部を間接的に冷却することができる。これにより、基板の主面の周縁部における過剰な昇温を抑制することができ、エッチング処理における面内均一性を高めることができる。
たとえば、前記の刷毛部材が前記複数の弾性線状体を支持するための支持部(15)を備えている場合には、前記冷却手段は、前記支持部に設けられていてもよい。この場合、冷却手段は、支持部の内部に冷却液を流通させる機構(26,27,28)有していてもよいし、支持部に内蔵される冷却源(冷却用のペルチェ素子や、エッチング液よりも低い温度の冷却水を循環させる冷却配管など)を有していてもよい。
【0015】
前記弾性線状体は、エッチング液に対する耐薬液性を有し、かつ、可撓性を有する材料により形成されていることが好ましい。このような材料で形成された弾性線状体は、基板の周縁部上で、弾性変形した状態でエッチング液に接触する。この弾性線状体は、請求項3に記載したようにカーボンファイバにより形成されていてもよいし、請求項4に記載したようにフッ素樹脂により形成されていてもよい。
【0016】
とくに、基板処理装置が前記冷却手段を含む場合には、前記弾性線状体がカーボンファイバにより形成されていることが好ましい。この場合、弾性線状体が、熱伝達率が優れたカーボンファイバにより形成されているので、基板の周縁部がより効率的に冷却されるようになる。これにより、基板の周縁部における過剰な昇温を効果的に抑制することができる。
【0017】
前記エッチング液供給手段が、所定のスキャン経路(たとえば、円弧状あるいは直線状の経路)に沿って当該基板の主面上にエッチング液を走査させるものである場合には、請求項5に記載したように、前記刷毛部材が、前記主面の前記スキャン経路の延長線上で前記液膜に接触するように設けられていることが好ましい。
かかるエッチング液供給手段から基板の主面上に供給されたエッチング液は、基板の周縁部の所定領域に集まるようになる。とくに、基板を低回転速度(40〜60rpm)で回転させる場合には、スキャン経路の延長線上の基板周縁部にエッチング液が集まるようになる。そのため、刷毛部材を、基板の主面におけるスキャン経路の延長線上に位置するように配置することで、基板の主面上の周縁部におけるエッチング液の滞留をより一層効果的に防止または抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る基板処理装置1の構成を模式的に示す断面図である。
この基板処理装置1は、たとえばシリコンウエハからなる円形のウエハWにおけるデバイス形成領域側の表面とは反対側の裏面(非デバイス形成面)に対して、ウエハWのシンニング(薄型化)のためのエッチング処理を施すための枚葉式の装置である。この実施形態では、エッチング液として、たとえばフッ硝酸(フッ酸と硝酸との混合液)が用いられる。
【0019】
この基板処理装置1は、隔壁(図示せず)により区画された処理室2内に、ウエハWをその裏面を上面としてほぼ水平姿勢に保持しつつ、ウエハWを鉛直軸線まわりに回転させる基板回転手段としてのスピンチャック4と、スピンチャック4に保持されたウエハWの上面にフッ硝酸を供給するためのフッ硝酸ノズル(エッチング液供給手段)5と、スピンチャック4に保持されたウエハWの上面に向けてリンス液としてのDIW(deionized water:脱イオン化された水)を供給するためのDIWノズル6と、ウエハWの上面の周縁部でフッ硝酸の液膜に接触し、ウエハWの周縁部からフッ硝酸を排除するための刷毛部材7とを備えている。ウエハWの周縁部とは、たとえば、ウエハWの回転中心C(図2参照)を中心とし、ウエハWの半径の2/3程度の径を有する円(直径200mmのウエハWで、ウエハWの回転中心Cを中心とする半径70mm程度の円)の外側の環状領域をいう。
【0020】
スピンチャック4は、真空吸着式チャックである。このスピンチャック4は、ほぼ鉛直な方向に延びたスピン軸9と、このスピン軸9の上端に取り付けられて、ウエハWをほぼ水平な姿勢でその裏面(下面)を吸着して保持する吸着ベース10と、スピン軸9と同軸に結合された回転軸を有するスピンモータ11とを備えている。これにより、ウエハWの裏面が吸着ベース10に吸着保持された状態で、スピンモータ11が駆動されると、ウエハWがスピン軸9の中心軸線まわりに回転する。
【0021】
フッ硝酸ノズル5は、たとえば連続流の状態でフッ硝酸を吐出するストレートノズルであり、スピンチャック4の上方でほぼ水平に延びる第1アーム12の先端に取り付けられている。この第1アーム12は、スピンチャック4の側方でほぼ鉛直に延びた第1アーム支持軸13に支持されている。第1アーム支持軸13には、フッ硝酸ノズル駆動機構14が結合されており、このフッ硝酸ノズル駆動機構14の駆動力によって、第1アーム支持軸13を回転させて、第1アーム12を揺動させることができるようになっている。
【0022】
フッ硝酸ノズル5には、フッ硝酸供給管17が接続されている。フッ硝酸供給管17には、フッ硝酸供給源からのフッ硝酸が供給されるようになっており、その途中部には、フッ硝酸ノズル5へのフッ硝酸の供給および供給停止を切り換えるためのフッ硝酸バルブ18が介装されている。
DIWノズル6は、たとえば連続流の状態でDIWを吐出するストレートノズルであり、スピンチャック4の上方で、その吐出口をウエハWの中央部に向けて配置されている。このDIWノズル6には、DIW供給管19が接続されており、DIW供給源からのDIWがDIW供給管19を通して供給されるようになっている。DIW供給管19の途中部には、DIWノズル6へのDIWの供給および供給停止を切り換えるためのDIWバルブ20が介装されている。
【0023】
刷毛部材7は、ほぼ直方体状のブロック(支持部)15と、このブロック15に植設され、当該ブロック15の底部から鉛直下向きに延びる多数の弾性線状体16とを備えている。ブロック15は、スピンチャック4の上方でほぼ水平に延びる第2アーム22の先端部に保持されている。この第2アーム22は、スピンチャック4の側方でほぼ鉛直に延びた第2アーム支持軸23に支持されている。第2アーム支持軸23には、刷毛部材駆動機構24が結合されており、この刷毛部材駆動機構24の駆動力によって、第2アーム支持軸23を回転させて、第2アーム22を揺動させることができるようになっている。これにより、刷毛部材7をウエハW上方の処理位置と、ウエハW上方から側方に退避した退避位置との間で移動させることができる。また、ウエハW上方における処理位置の変更も可能である。
【0024】
ブロック15の内部(後述する冷却水流通路28(図3参照))には、冷却水供給管26が接続されている。冷却水供給管26には、冷却水供給源からの冷却水が供給されるようになっており、その途中部には、ブロック15への冷却水の供給および供給停止を切り換えるための冷却水バルブ27が介装されている。この冷却水供給管26には、基板処理装置1の室温よりも低温(たとえば、18℃)に温度調節された冷却水が供給されるようになっている。なお、ウエハWの周縁部温度は、エッチング液の種類(比熱)やウエハWの材質、ウエハWの回転速度、エッチング液の吐出流量などに依存するので、これらに応じて、この冷却水の温度や流量を適切に設定するとよい。
【0025】
図2は、エッチング処理時における基板処理装置1の図解的な平面図である。
エッチング処理時には、フッ硝酸ノズル5からフッ硝酸が吐出されつつ、フッ硝酸ノズル5が、ウエハWの回転半径に沿って、近接位置T1と基板周端位置T2との間を往復移動(スキャン)される。近接位置T1は、ウエハWの回転中心Cに近接し、着液したフッ硝酸がウエハW上で拡がって回転中心Cを通過することができるように定めた位置であり、回転中心Cから間隔L2だけ隔てられている。外径200mmのウエハWを用いる場合には、間隔L2としてたとえば22.5mm程度を例示することができる。このとき、フッ硝酸のウエハWの上面における着液点Pは、ウエハWの回転中心Cを通る円弧形状の軌道のうち、近接位置T1から基板周端位置T2に至る範囲を円弧状の経路(スキャン経路T)を描きつつ移動する。なお、スキャン経路Tは、円弧状でなく、直線状の経路であってもよい。
【0026】
エッチング処理時には、刷毛部材7は、刷毛部材駆動機構24が駆動されることによって、ウエハWの周縁部上の処理位置(図2参照)に配置される。この刷毛部材7の処理位置では、ブロック15が、その長手方向がスキャン経路Tに沿う回転半径の延長線に対してほぼ直交する直線状に沿うように配置される。つまり、ブロック15は、処理位置に配置されたときに、スキャン経路Tに沿う回転半径の延長線に対してほぼ直交する方向に延びる長尺形状に形成されている。このブロック15の底面において、複数本の弾性線状体16が、当該ブロック15の長手方向に延びた長方形領域に植設されている。
【0027】
刷毛部材7が処理位置にあるとき、弾性線状体16は、その先端部がウエハWの主面に向けて押し付けられ、これにより、ウエハWの回転半径方向外方側に向く湾曲線状に弾性変形する(図3参照)。複数の弾性線状体16は、全体として、ブロック15の長手方向に平行な長尺形状の接液領域において、ウエハW主面上のフッ硝酸液膜に接する。この接液領域は、スキャン経路Tに沿う回転半径の延長線に対してほぼ直交する方向に延在することになる。特にこれらの弾性線状体16はウエハW主面にも接触可能であるので、ウエハ主面に付着している(密着している)フッ硝酸をもウエハW外に吐き出すことが可能である。
【0028】
図3は、図2の切断面線D−Dから見た図解的な断面図である。
ブロック15は、フッ硝酸に対する耐薬液性を有する材料(樹脂材料)、たとえば、塩化ビニル(polyvinyl chloride)によって形成されている。ブロック15の内部には、冷却水が流通するための冷却水流通路28が形成されている。冷却水流通路28の一端には冷却水供給管26が接続されており、この冷却水供給路26を通して冷却水が冷却水流通路28に供給されるようになっている。また、冷却水流通路28の他端には、図示しない冷却水回収管が接続されており、冷却水流通路28を流通した冷却水が冷却水回収管を通して回収されるようになっている。
【0029】
ブロック15の底面には、複数の弾性線状体16が植設されている。弾性線状体16は、カーボンファイバによって形成されている。そのため、弾性線状体16は、高い可撓性および高い伝熱性を有し、しかも、フッ硝酸に対する耐薬性も優れている。弾性線状体16の自由状態の長さL1はたとえば50mmである。
エッチング処理時には、刷毛部材7が、ウエハWの上方の処理位置(図2参照)に配置される。この処理位置におけるブロック15の底面とウエハWの上面との距離L(図3参照)は、弾性線状体16の長さL1よりも短い。そのため、刷毛部材7が処理位置にあるときには、弾性線状体16は、ウエハWの主面に押し付けられるので、湾曲線状に弾性変形するようになる。
【0030】
ブロック15に形成された冷却水流通路28を冷却水が流通することにより、ブロック15が冷却され、それに応じて弾性線状体16も冷却される。そして、弾性線状体16が高い伝熱性を有するので、刷毛部材7が処理位置(図2参照)にあり、弾性線状体16がウエハWの上面のフッ硝酸に接触しているときには、ウエハWの周縁部が、冷却水流通路28を流通する冷却水によって、弾性線状体16およびウエハW上のフッ硝酸を介して、冷却されるようになる。
【0031】
図4は、基板処理装置1の電気的構成を示すブロック図である。
この基板処理装置1は、マイクロコンピュータを含む構成の制御装置50を備えている。
この制御装置50には、スピンモータ11、フッ硝酸ノズル駆動機構14、フッ硝酸バルブ18、DIWバルブ20、刷毛部材駆動機構24および冷却水バルブ27などが、制御対象として接続されている。
【0032】
図5は、基板処理装置1におけるウエハWの処理の一例を示すフローチャートである。
未処理のウエハWが、図示しない搬送ロボットによって処理室2内に搬入されて、スピンチャック4に受け渡される(ステップS1)。このとき、フッ硝酸ノズル5および刷毛部材7は、スピンチャック4の側方の退避位置に退避させられている。また、フッ硝酸バルブ18、DIWバルブ20および冷却水バルブ27は、いずれも閉状態に制御されている。
【0033】
ウエハWがスピンチャック4へ受け渡された後、制御装置50は、スピンモータ11を駆動して、スピンチャック4を低回転速度(たとえば50rpm)で等速回転させる。また、制御装置50は、フッ硝酸ノズル駆動機構14を駆動して、フッ硝酸ノズル5をウエハWの上方へと導く。さらに、フッ硝酸ノズル5がウエハWの上方に到達すると、制御装置50は、フッ硝酸バルブ18を開き、フッ硝酸ノズル5からフッ硝酸を吐出させる。
【0034】
また、制御装置50は、刷毛部材駆動機構24を駆動して、ウエハWの外方で刷毛部材7の高さ位置を制御する。その後、制御装置50は、刷毛部材駆動機構24を駆動して、刷毛部材7をウエハWの面内に進入させる。これにより、刷毛部材7をウエハW上面の周縁部上の処理位置(図2参照)へと導く。そのため、弾性線状体16は、ウエハWの上面に接触して、その先端部がウエハWの回転半径方向外方側に向く湾曲線状に弾性変形する。
【0035】
また、制御装置50は、フッ硝酸ノズル駆動機構14を駆動して、フッ硝酸ノズル5を近接位置T1と、基板周端位置T2の上方位置との間を等速で往復スキャンさせる(ステップS2)。さらに、制御装置50は、冷却水バルブ27を開き、冷却水供給管26からの冷却水を、ブロック15の冷却水流通路28に供給させる。これにより、ブロック15の冷却水流通路28に冷却水が流通するようになる。なお、冷却水バルブ27は常時開いておき、ブロック15の冷却水流通路28に常時冷却水が流通するようになっていてもよい。
【0036】
ウエハWの上面における着液点Pは、スキャン経路T(図2参照)に沿って往復スキャンする。フッ硝酸の着液点PがウエハW上を、近接位置T1から基板周端位置T2を経由して再び近接位置T1まで戻るのにたとえば約1.5秒間要する。その後、予め定める処理時間が経過するまで、フッ硝酸の着液点Pの往復スキャンが繰り返し行われる。なお、この往復スキャン中において、フッ硝酸ノズル5から吐出されるフッ硝酸の吐出流量は一定(たとえば0.85L/min)に保たれている。
【0037】
この往復スキャン中に、ウエハWの上面に供給されたフッ硝酸は、図2に示すように、ウエハW上を、回転中心Cを中心とする大きな渦を描きながらウエハWの外方へ向けて移動する。ウエハWの回転速度が前記の低回転速度であるので、スキャン経路Tに沿って吐出されたフッ硝酸は、主として、基板周端位置T2よりもウエハWの回転方向下流側に90〜270°の角度領域のウエハW周縁部に供給されるようになる。とくに、基板周端位置T2よりもウエハWの回転方向下流側に180°の位置の周辺領域付近に多量のフッ硝酸が到達するようになる。
【0038】
刷毛部材7が処理位置(図2参照)にあるとき、弾性線状体16が、ウエハW上のフッ硝酸の液膜に接触する。このとき、ウエハW上にはフッ硝酸の液流が形成されているので、弾性線状体16は、ウエハWの上面には接触せずに、フッ硝酸の液膜に漂っている。可撓性を有する弾性線状体16は、フッ硝酸の液膜に接触すると、その先端部がウエハWの回転半径方向外方側に向く湾曲線状に弾性変形する。そして、その弾性変形後の弾性線状体16は、そのフッ硝酸をウエハW外に向けて案内するようになる。
【0039】
エッチング処理の進行にともなって、ウエハW上面のウエハ材料がエッチング除去されて、ウエハWの上面位置が微小距離だけ下降する。このとき、湾曲線状に弾性変形しつつ液膜に接触している弾性線状体16が、ウエハWの上面位置の下降に追従してその形状を変化させる。したがって、エッチング処理の全期間を通じて、弾性線状体16とフッ硝酸との接触状態が維持される。
【0040】
シリコンウエハからなるウエハWに対するフッ硝酸を用いたシンニング(エッチング処理)では、フッ硝酸とウエハWの上面との反応により発熱が生じ、ウエハWの上面が高温(50〜70℃)に昇温している。そして、刷毛部材7によるフッ硝酸の排出により、ウエハWの周縁部におけるフッ硝酸の液膜が薄くなると、ウエハWの周縁部からフッ硝酸に奪われる熱量が減少する。一方、フッ硝酸の着液点がウエハWの中央部にある場合でもウエハWの周縁部にフッ硝酸が到達するから、結果として、ウエハW周縁部におけるエッチングレートが過剰になるおそれがある。そこで、この実施形態では、ウエハWの周縁部上のフッ硝酸の液膜に接触している弾性線状体16が、ブロック15内の冷却水流通路28を流通する冷却水によって冷却されるようになっている。これにより、ブロック15、弾性線状体16およびウエハW上のフッ硝酸の液膜を介して、ウエハWの周縁部が冷却される。このため、ウエハWの周縁部における過剰な昇温が抑制され、ウエハW周縁部におけるエッチングレートを抑制することができる。
【0041】
エッチング処理を所定時間(たとえば300秒間)だけ行った後、制御装置50は、刷毛部材駆動機構24を駆動して、刷毛部材7をスピンチャック4の側方の退避位置に退避させる。また、制御装置50は、フッ硝酸バルブ18を閉じ、フッ硝酸ノズル5からのフッ硝酸の吐出を停止する。さらに、制御装置50は、フッ硝酸ノズル駆動機構14を駆動して、フッ硝酸ノズル5をスピンチャック4の側方の退避位置に退避させる。さらにまた、制御装置50は、冷却水バルブ27を閉じ、ブロック15の冷却水流通路28への冷却水の供給を停止させる。なお、上述したように、冷却水を常時流通させる場合には、冷却水バルブ27は開いたままとし、冷却水流通路28への冷却水の供給を停止させなくてもよい。
【0042】
次に、制御装置50は、スピンモータ11を制御して、スピンチャック4の回転速度を所定のリンス処理回転速度(100rpm程度)に加速するとともに、DIWバルブ20を開いて、DIWノズル6から、回転状態のウエハWの上面の回転中心に向けてDIWを供給する(ステップS3)。これにより、ウエハW上のフッ硝酸が洗い流されて、ウエハWにリンス処理が施される。このリンス処理におけるDIWノズル6からのDIWの吐出流量は、たとえば2.0L/minである。
【0043】
このリンス処理を所定時間(たとえば60秒間)行った後に、制御装置50は、DIWバルブ20を閉じてリンス処理を終了させる。制御装置50は、さらにスピンモータ11を制御して、スピンチャック4の回転速度を所定の乾燥回転速度(1000〜2000rpm程度)に加速する。これによって、ウエハWの上面のDIWが遠心力によって振り切られ、ウエハWがスピンドライされる(ステップS4)。
【0044】
スピンドライを所定時間(たとえば30秒間)行った後、制御装置50は、スピンモータ11を制御して、スピンチャック4の回転を停止させる。その後、処理済みのウエハWが、搬送ロボットによって処理室2から搬出される(ステップS5)。
以上のとおり、この実施形態では、ウエハWの主面にフッ硝酸を供給してエッチング処理を行う際に、ウエハWの周縁部上の処理位置に、刷毛部材7が配置される。この刷毛部材7に備えられた可撓性を有する弾性線状体16は、ウエハW上のフッ硝酸の液膜に接触して湾曲線状に変形し、そのフッ硝酸をウエハW外に向けて案内する。こうして、ウエハWの上面の周縁部におけるフッ硝酸、特にウエハWの上面に付着しているフッ硝酸をも、ウエハW外にスムーズに排出させることができる。これにより、ウエハWの周縁部におけるフッ硝酸の滞留を防止または抑制することができる。したがって、ウエハWの上面の周縁部でのエッチングレートの低下を抑制または防止でき、ウエハWの上面に対して均一なエッチング処理を施すことができる。
【0045】
また、弾性線状体16がウエハW上のフッ硝酸の液膜に接触することにより、ブロック15の内部を流通する冷却水によって、ブロック15、弾性線状体16およびウエハW上のフッ硝酸を介して、ウエハWの周縁部が冷却されるようになる。これにより、ウエハWの周縁部における過剰な昇温を抑制することができ、ウエハW周縁部におけるエッチングレートが過剰になることを抑制または防止できるので、エッチング処理における面内均一性を高めることができる。
【0046】
図6Aは、本発明の他の実施形態(第2の実施形態)に係る基板処理装置の構成を図解的に示す平面図である。図6Bは、図6Aに示す基板処理装置の刷毛部材の構成を示す斜視図である。この第2の実施形態において、図1〜図5に示す実施形態(第1の実施形態)に示された各部に対応する部分には、図1〜図5の実施形態と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
【0047】
この第2の実施形態に係る基板処理装置1Aでは、図3の刷毛部材7に代えて、刷毛部材7Aが採用されている。この刷毛部材7Aは、ブロック15と、フロック15の底面に植設された多数の弾性線状体16Aを備えている。複数の弾性線状体16Aは、1列または複数列に配列されており、各弾性線状体16Aの先端部には、塑性変形されたU字状の湾曲線部30が設けられている。刷毛部材7Aの処理位置(図6A参照)では、ブロック15が、その長手方向がスキャン経路Tに沿う回転半径の延長線に対してほぼ直交する直線状に沿うように、かつ、複数の弾性線状体16Aの上流側端部が、当該延長線上に位置するように配置される。この状態で、湾曲線部30の先端31は、ウエハWの外方で鉛直上方に向けて延びる。
【0048】
ブロック15の底面と自由状態における弾性線状体16Aの下端との距離L2は、処理位置におけるブロック15の底面とウエハWの上面との距離Lより長い。そのため、刷毛部材7Aが処理位置にあるときには、弾性線状体16Aは、ウエハWの主面に押し付けられるので弾性変形するようになる。弾性線状体16Aは、その途中部である下端部31で、ウエハW上面のフッ硝酸の液膜と接触する。そして、同じ向きに湾曲する複数の湾曲線部30により、ウエハW外へとフッ硝酸を案内方向Eに向けて案内する半筒状の案内路32が形成される。
【0049】
弾性線状体16Aの途中部である下端部31が、ウエハW上面のフッ硝酸の液膜と接触するので、ウエハWの上面を弾性線状体16Aにより傷付けてしまうことを防止することができる。
また、ウエハWの周縁部上のフッ硝酸の液流が案内路32によってウエハW外へと案内される。このため、ウエハW上の周縁部でフッ硝酸をより円滑にウエハW外に排出させることができる。
【0050】
以上、本発明の2つの実施形態について説明したが、本発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
前述の各実施形態では、弾性線状体16がカーボンファイバにより形成されているとして説明したが、他の材料で形成されていてもよい。この場合、弾性線状体16をフッ硝酸に対する耐薬性を有するフッ素系樹脂(たとえば、PFA(perfluoro−alkylvinyl−ether−tetrafluoro−ethlene−copolymer)樹脂)によって形成することもできる。
【0051】
また、弾性線状体16を、ブロック15の底面のケーシングを貫通して、その根元側の端部が冷却水流通路28内に達するように設けることもできる。この場合、弾性線状体16が冷却水によって直接的に冷却されるので、ウエハWの上面の周縁部をより効果的に冷却することができる。なお、この場合には、冷却水が弾性線状体16を伝って水漏れしないように、複数の弾性線状体16の根元部分を封止手段によりシールしつつ、ブロック15の底面に植設しておくこともできる。
【0052】
また、ブロック15の内部に冷却水以外の冷却液を流通させて、ブロック15を冷却させてもよいし、ブロック15に温度調節用のペルチェ素子などを埋設し、このペルチェ素子によりブロック15を冷却させてもよい。
また、前述の各実施形態では、ウエハWの面内範囲内でスキャンさせているが、フッ硝酸ノズル5からのフッ硝酸の着液点PをウエハWの周端を超えて、その外方までスキャンさせてもよい。
【0053】
また、前述の各実施形態では、フッ硝酸ノズル5を往復スキャンさせる場合を例にとって説明したが、フッ硝酸ノズル5を一方向スキャンさせるものであってもよい。一方向スキャンとは、この場合、一方向へのノズル移動時にのみフッ硝酸をノズル5から吐出し、他方向へのノズル移動時にはノズル5からのフッ硝酸の吐出を停止することをいう。
また、前述の各実施形態では、ウエハWに対し、ウエハWのシンニングのためのエッチング処理を施す基板処理装置1を例にとって説明したが、たとえば酸化膜シリコンウエハからなる円板状のウエハWにおけるデバイス形成領域側の上面(下面)に対して、酸化膜の除去のためのエッチング処理を施す構成であってもよい。かかる場合、エッチング液としてたとえばフッ酸が用いられることが望ましい。また、ウエハWの窒化膜の除去のためのエッチング処理を施す場合には、エッチング液として燐酸を用いることもできる。
【0054】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る基板処理装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】エッチング処理時における基板処理装置の図解的な平面図である。
【図3】図2の切断面線D−Dから見た図解的な断面図である。
【図4】基板処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】図1に示す基板処理装置におけるウエハ処理の一例を示すフローチャートである。
【図6A】本発明の他の実施形態に係る基板処理装置の構成を図解的に示す平面図である。
【図6B】図6Aに示す基板処理装置の刷毛部材の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1,1A 基板処理装置
4 スピンチャック(基板回転手段)
5 フッ硝酸ノズル(エッチング液供給手段)
7 刷毛部材
15 ブロック(支持部)
16,16A 弾性線状体
26 冷却水供給管(冷却手段)
27 冷却水バルブ(冷却手段)
28 冷却水流通管(冷却手段)
T スキャン経路
W ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持しつつ回転させる基板回転手段と、
前記基板回転手段によって回転される基板の前記主面上にエッチング液を供給するエッチング液供給手段と、
可撓性を有する複数の弾性線状体を有し、前記主面の周縁部で、前記主面上のエッチング液の液膜と接触して、このエッチング液を基板の外方に向けて案内する刷毛部材とを含む、基板処理装置。
【請求項2】
前記刷毛部材を冷却する冷却手段をさらに含む、請求項1記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記弾性線状体が、カーボンファイバにより形成されている、請求項1または2記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記弾性線状体が、フッ素樹脂により形成されている、請求項1または2記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記エッチング液供給手段が、所定のスキャン経路に沿って当該基板の主面上にエッチング液を走査させるものであり、
前記刷毛部材が、前記主面の前記スキャン経路の延長線上で前記液膜に接触するように設けられている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2009−194089(P2009−194089A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32044(P2008−32044)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】