説明

変速制御装置及び変速比制御方法

【課題】偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における変速比を適正に制御可能な変速制御装置を提供する。
【解決手段】四節リンク機構式の無段変速機における変速比を制御する変速制御装置は、動力源への要求出力及び動力源の回転数に応じた、無段変速機への目標入力トルクを導出する目標入力トルク導出部と、動力源への要求出力に応じた、無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部と、目標入力トルク、目標入力回転数、並びに、無段変速機における実際の入力回転数及び出力回転数に基づいて、偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御部とを備える。偏心量制御部は、目標変速比、目標入力トルク及び目標入力回転数に基づいて、偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出するFF制御部と、実変速比と目標変速比の差に応じて、偏心量制御項を構成するフィードバック制御項を導出するFB制御部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における変速比を適正に制御する変速制御装置及び変速比制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力軸の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換して変速機の出力軸から出力する方式のIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機が知られている。当該方式の変速機では、クラッチを使用せずに変速比を無段階に変更できると共に、変速比の最大値を無限大に設定することができる。なお、当該変速機において、変速比が無限大に設定されたときの出力回転数はゼロである。
【0003】
図6は、IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図である。図6に示す無段変速機は、内燃機関等の動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線O1の周りを回転する入力軸101と、入力軸101と一体回転する偏心ディスク104と、入力側と出力側を結ぶ連結部材130と、出力側に設けられたワンウェイクラッチ120とを備える。
【0004】
偏心ディスク104は、第1支点O3を中心とした円形形状に形成されている。第1支点O3は、入力中心軸線O1に対して変更可能な偏心量r1を保ちつつ、入力中心軸線O1の周りに入力軸101と共に回転するように設定されている。したがって、偏心ディスク104は、偏心量r1を保った状態で、入力中心軸線O1の周りを入力軸101が回転するに伴って偏心回転するように設けられている。
【0005】
偏心ディスク104は、図6に示すように、外周側円板105と、入力軸101に一体形成された内周側円板108とで構成されている。内周側円板108は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1に対して一定の偏心距離だけ中心を偏倚させた肉厚円板として形成されている。外周側円板105は、第1支点O3を中心にした肉厚円板として形成されており、その中心(第1支点O3)を外れた位置に中心を持つ第1円形孔106を有している。そして、この第1円形孔106の内周に回転可能に内周側円板108の外周が嵌っている。
【0006】
また、内周側円板108には、入力中心軸線O1を中心とすると共に周方向の一部が内周側円板108の外周に開口した第2円形孔109が設けられており、その第2円形孔109の内部にピニオン110が回転自在に収容されている。ピニオン110の歯は、第2円形孔109の外周の開口を通して、外周側円板105の第1円形孔106の内周に形成した内歯歯車107に噛み合っている。
【0007】
このピニオン110は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1と同軸に回転するように設けられている。即ち、ピニオン110の回転中心と入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1とが一致している。ピニオン110は、アクチュエータにより、第2円形孔109の内部で回転させられる。通常時は、入力軸101の回転と同期させてピニオン110を回転させ、同期する回転数を基準として、ピニオン110に入力軸101の回転数を上回るか下回るかする回転数を与えることにより、ピニオン110を入力軸101に対して相対回転させる。例えば、ピニオン110およびアクチュエータ180の出力軸が互いに連結されるように配置し、アクチュエータ180の回転が入力軸101の回転に対して回転差が生じる場合には、その回転差に減速比をかけた分だけ入力軸101とピニオン110の相対角度が変化する減速機構(例えば遊星歯車)を用いることで実現できる。この際、アクチュエータ180と入力軸101の回転差がなく同期している場合には偏心量r1は変化しない。
【0008】
従って、ピニオン110を回すことにより、ピニオン110の歯が噛合している内歯歯車107つまり外周側円板105が内周側円板108に対して相対回転し、それにより、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)と外周側円板105の中心(第1支点O3)との間の距離(つまり偏心ディスク104の偏心量r1)が変化する。
【0009】
この場合、ピニオン110の回転によって、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)に外周側円板105の中心(第1支点O3)を一致させることができるように設定されており、両中心を一致させることにより、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」に設定できる。
【0010】
また、ワンウェイクラッチ120は、入力中心軸線O1から離れた出力中心軸線O2の周りを回転する出力部材(クラッチインナー)121と、外部から回転方向の動力を受けることで出力中心軸線O2の周りを揺動するリング状の入力部材(クラッチアウター)122と、入力部材122および出力部材121を互いにロック状態または非ロック状態にするために入力部材122と出力部材121の間に挿入された複数のローラ(係合部材)123とを有する。なお、ワンウェイクラッチ120には、出力部材121の断面における辺数と同数のローラ123が設けられている。
【0011】
ワンウェイクラッチ120の入力部材122から出力部材121への動力(トルク)の伝達は、入力部材122の正方向(図6中矢印RD1方向)の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ行われる。つまり、ワンウェイクラッチ120では、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より高くなったときに初めてローラ123を介しての噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。
【0012】
入力部材122の周方向の1箇所には張り出し部124が設けられており、その張り出し部124に、出力中心軸線O2から離間した第2支点O4が設けられている。そして、入力部材122の第2支点O4上にピン125が配置され、このピン125によって、連結部材130の先端(他端部)132が入力部材122に回転自在に連結されている。
【0013】
連結部材130は、一端側にリング部131を有し、そのリング部131の円形開口133の内周が、ベアリング140を介して、偏心ディスク104の外周に回転自在に嵌合されている。従って、このように連結部材130の一端が偏心ディスク104の外周に回転自在に連結されると共に、連結部材130の他端が、ワンウェイクラッチ120の入力部材122上に設けられた第2支点O4に回動自在に連結されることにより、図7に示すように、入力中心軸線O1、第1支点O3、出力中心軸線O2、第2支点O4の4つの節を回動点とする四節リンク機構が構成される。
【0014】
図7は、四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図である。この四節リンク機構では、入力軸101から偏心ディスク104に与えられる回転運動が、連結部材130を介して、ワンウェイクラッチ120の入力部材122に対して該入力部材122の揺動運動として伝えられ、その入力部材122の揺動運動が出力部材121の回転運動に変換される。偏心ディスク104を回転させる入力軸101が1回転すると、ワンウェイクラッチ120の入力部材122は1往復揺動する。図7に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1の値に関係なく、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動周期は常に一定である。入力部材122の角速度ω2は、偏心ディスク104(入力軸101)の回転角速度ω1と偏心量r1によって決まる。
【0015】
その際、ピニオン110、ピニオン110を収容する第2円形孔109を備えた内周側円板108、内周側円板108を回転可能に収容する第1円形孔106を備えた外周側円板105、アクチュエータ180などにより構成された変速比可変機構112の前記ピニオン110をアクチュエータ180で動かすことにより、偏心ディスク104の偏心量r1を変化させることができる。そして、偏心量r1を変更することで、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を変更することができ、それにより、入力軸101の回転数に対する出力部材121の回転数の比(変速比:レシオi)を変えることができる。即ち、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量r1を調節することで、偏心ディスク104からワンウェイクラッチ120の入力部材122に伝えられる揺動運動の揺動角度θ2を変更し、それにより、入力軸101に入力される回転動力が、偏心ディスク104および連結部材130を介してワンウェイクラッチ120の出力部材121に回転動力として伝達される際の変速比を変更することができる。
【0016】
図8(a)〜(d)及び図9(a)〜(c)は、図6に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図である。図8及び図9に示すように、変速比可変機構112のピニオン110を回転させて、内周側円板108に対して外周側円板105を回転させることにより、偏心ディスク104の入力中心軸線O1(ピニオン110の回転中心)に対する偏心量r1を調節することができる。
【0017】
例えば、図8(a)及び図9(a)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「大」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を大きくすることができるので、小さな変速比iを実現することができる。また、図8(b)及び図9(b)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「中」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「中」にすることができるので、中くらいの変速比iを実現することができる。また、図8(c)及び図9(c)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「小」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を小さくすることができるので、大きな変速比iを実現することができる。また、図8(d)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「ゼロ」にすることができるので、変速比iを「無限大(∞)」にすることができる。
【0018】
図10は、ワンウェイクラッチ120の断面図及びその一部拡大図である。また、図11(a)〜(c)は、ワンウェイクラッチ120の各状態における一部拡大図である。図10及び図11(a)〜(c)に示すように、出力部材121のローラ123と接する面は、入力部材122の揺動運動に応じてその揺動方向にローラ123が移動可能な窪みを有する。但し、当該窪みの深さは、入力部材122が図10に示す空転方向の位置とトルク伝達方向の位置とで異なり、空転方向の位置の深さはトルク伝達方向の位置の深さよりも深い。
【0019】
入力部材122が相対的に出力部材121よりも空転方向に振れると、ローラ123も空転方向に移動する。空転方向の位置における入力部材122から出力部材121までの空間はローラ123の大きさよりも若干広い。このため、当該位置に移動したローラ123は空転する。一方、入力部材122が相対的に出力部材121よりもトルク伝達方向に振れると、ローラ123もトルク伝達方向に移動する。トルク伝達方向の位置における入力部材122から出力部材121までの空間はローラ123の大きさよりも若干狭い。このため、当該位置に移動したローラ123は、図11(a)に示すように、入力部材122と出力部材121とによって挟まれ、それぞれから対向する方向に圧力を受ける。このとき、ローラ123を介した入力部材122と出力部材121の噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。この後、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より低下して、入力部材122が相対的に出力部材121よりも空転方向に振れると、ローラ123を介したロックが解除されて、図11(c)に示したように、ワンウェイクラッチ120はフリーな状態(空転状態)に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【特許文献2】独国特許第102009039993号明細書
【特許文献3】特開昭61−105353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
特許文献3で説明されているように、無段変速機の変速比を制御する変速制御装置は、車速とスロットル開度に応じて変速比を制御する。すなわち、当該変速制御装置は、車速とスロットル開度に応じた変速比又は間接的に変速比を表す物理量を算出して、この算出結果を目標値に設定し、実際の変速比又は上記物理量が目標値に追従するようフィードバック制御する。
【0022】
上記説明した無段変速機のワンウェイクラッチ120を構成するローラ123は、一般的には高い剛性を有する金属等の物質によって形成されてはいるが、トーション(ねじれ)特性を有する。なお、このトーション特性は、入力部材122及び出力部材121に対するローラ123の滑りによる特性と、入力部材122及び出力部材121からの圧力による弾性変形による特性とを合わせた特性である。
【0023】
このようなトーション特性を有するローラ123を備えた無段変速機は四節リンクを用いた機構であるが、当該機構においては、偏心量r1に対する変速比の特性が幾何学的に非線形である。図12は、図6に示した無段変速機における偏心量r1に対する変速比の特性を異なる入力トルク毎に示したグラフである。図12に示すように、偏心量r1に対する変速比の特性は入力トルクに応じて異なる。
【0024】
したがって、動力源から無段変速機に入力されるトルクが増加すると、偏心量r1を一定に保っていても変速比が上がる。このように変速比が意図せずして上がると動力源の回転数が上がってしまい、運転性が悪化する。また、このようにして動力源の回転数が上がると目標回転数との相異が生じるため、上記説明した変速制御装置が変速比のフィードバック制御を行っても、動力源を運転効率の良い状態に過渡的に追従させることができない。その結果、燃費性能等が低下する。
【0025】
本発明の目的は、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における変速比を適正に制御可能な変速制御装置及び変速比制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明の変速制御装置は、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関)からの回転動力を受けることで入力中心軸線(例えば、実施の形態での入力中心軸線O1)の周りを回転する入力軸(例えば、実施の形態での入力軸101)と、前記入力中心軸線に対する偏心量(例えば、実施の形態での偏心量r1)を変更可能な第1支点(例えば、実施の形態での第1支点O3)をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスク(例えば、実施の形態での偏心ディスク104)と、前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線(例えば、実施の形態での出力中心軸線O2)の周りを回転する出力部材(例えば、実施の形態での出力部材121)と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材(例えば、実施の形態での入力部材122)と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材(例えば、実施の形態でのローラ123)と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点(例えば、実施の形態での第2支点O4)に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材(例えば、実施の形態での連結部材130)と、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータ(例えば、実施の形態でのアクチュエータ180)を有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構(例えば、実施の形態での変速比可変機構112)と、を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速制御装置であって、前記動力源への要求出力及び前記動力源の回転数に応じた、前記無段変速機への目標入力トルクを導出する目標入力トルク導出部(例えば、実施の形態での目標BD入力トルク算出部203)と、前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部(例えば、実施の形態での目標BD入力回転数導出部207)と、前記目標入力トルク、前記目標入力回転数、並びに、前記無段変速機における実際の入力回転数及び出力回転数に基づいて、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御部(例えば、実施の形態での偏心量制御部209)と、を備え、前記偏心量制御部は、前記目標入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出するフィードフォワード制御部(例えば、実施の形態でのフィードフォワード制御部(FF制御部)219)と、前記実際の入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である実変速比と前記目標変速比の差に応じて、前記偏心量制御項を構成するフィードバック制御項を導出するフィードバック制御部(例えば、実施の形態でのフィードバック制御部(FB制御部)217)と、を有することを特徴としている。
【0027】
さらに、請求項2に記載の発明の変速制御装置では、前記フィードフォワード制御部は、前記目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記無段変速機における動力の伝達効率の予測値を導出する効率予測部(例えば、実施の形態でのBD効率予測部231)と、前記伝達効率の予測値、前記目標入力トルク及び前記目標変速比に基づいて、前記無段変速機における予測出力トルクを導出する予測出力トルク導出部(例えば、実施の形態での予測BD出力トルク算出部233)と、前記目標変速比及び前記予測出力トルクに基づいて、前記フィードフォワード制御項を導出するフィードフォワード制御項導出部(例えば、実施の形態でのFF制御項導出部235)と、を有することを特徴としている。
【0028】
さらに、請求項3に記載の発明の変速制御装置では、前記フィードフォワード制御部又は前記フィードフォワード制御項導出部は、前記無段変速機が有する前記ワンウェイクラッチのトーション特性、及び前記無段変速機が四節リンク機構式であることに起因した、前記偏心量に対する前記変速比の幾何学的非線形特性を考慮して、前記フィードフォワード制御項を導出することを特徴としている。
【0029】
さらに、請求項4に記載の発明の変速制御装置では、前記実変速比と前記偏心量から想定される想定変速比との差に基づく学習値を導出し、当該学習値を前記目標変速比に反映する学習値反映部を備え、前記フィードフォワード制御部は、前記学習値が反映された目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出することを特徴としている。
【0030】
さらに、請求項5に記載の発明の変速比制御方法では、動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比の制御方法であって、前記動力源への要求出力及び前記動力源の回転数に応じた、前記無段変速機への目標入力トルクを導出する目標入力トルク導出ステップと、前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出ステップと、前記目標入力トルク、前記目標入力回転数、並びに、前記無段変速機における実際の入力回転数及び出力回転数に基づいて、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御ステップと、を有し、前記偏心量制御ステップは、前記目標入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出するフィードフォワード制御ステップと、前記実際の入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である実変速比と前記目標変速比の差に応じて、前記偏心量制御項を構成するフィードバック制御項を導出するフィードバック制御ステップと、を含むことを特徴としている。
【0031】
さらに、請求項6に記載の発明の変速比制御方法では、前記フィードフォワード制御ステップは、前記目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記無段変速機における動力の伝達効率の予測値を導出する効率予測ステップと、前記伝達効率の予測値、前記目標入力トルク及び前記目標変速比に基づいて、前記無段変速機における予測出力トルクを導出する予測出力トルク導出ステップと、前記目標変速比及び前記予測出力トルクに基づいて、前記フィードフォワード制御項を導出するフィードフォワード制御項導出ステップと、を含むことを特徴としている。
【0032】
さらに、請求項7に記載の発明の変速比制御方法では、前記フィードフォワード制御ステップ又は前記フィードフォワード制御項導出ステップでは、前記無段変速機が有する前記ワンウェイクラッチのトーション特性、及び前記無段変速機が四節リンク機構式であることに起因した、前記偏心量に対する前記変速比の幾何学的非線形特性を考慮して、前記フィードフォワード制御項を導出することを特徴としている。
【0033】
さらに、請求項8に記載の発明の変速比制御方法では、前記実変速比と前記偏心量から想定される想定変速比との差に基づく学習値を導出し、当該学習値を前記目標変速比に反映する学習値反映ステップを有し、前記フィードフォワード制御ステップでは、前記学習値が反映された目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
請求項1〜4に記載の発明の変速制御装置及び請求項5〜8に記載の変速比制御方法によれば、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における変速比を適正に制御できる。
また、請求項4に記載の発明の変速制御装置及び請求項8に記載の変速比制御方法によれば、実変速比と想定変速比との差に基づく学習値によって目標変速比を適正に制御することができるため、動力源の目標回転数への追従性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一実施形態の変速制御装置の内部構成を示すブロック図
【図2】内燃機関の熱効率に関する特性を示すグラフ
【図3】偏心量制御部209の内部構成を示すブロック図
【図4】FF制御部219の内部構成を示すブロック図
【図5】(a)FB制御項だけから成る偏心量制御項に応じた無段変速機の変速比の時間変化と、(b)FB制御項及びFF制御項から成る偏心量制御項に応じた無段変速機の変速比の時間変化と、(c)無段変速機の入力トルクが変化する場合における内燃機関の回転数の制御性を比較した結果であり、(a)の場合と(b)の場合の内燃機関の回転数の各時間変化とを示すグラフの一例
【図6】IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図
【図7】四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図
【図8】(a)〜(d)は、図6に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図9】(a)〜(c)は、図6に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図10】ワンウェイクラッチ120の断面図及びその一部拡大図
【図11】(a)〜(c)は、ワンウェイクラッチ120の各状態における一部拡大図
【図12】図6に示した無段変速機における偏心量r1に対する変速比の特性を異なる入力トルク毎に示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明に係る変速制御装置は、上記説明したIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機(以下「BD」とも表記する)における変速比が適正値となるよう偏心量r1を制御する。また、以下の説明では、IVTの入力側の動力源を、車両の駆動源である内燃機関として説明する。本実施形態では、内燃機関のクランク軸が無段変速機の入力軸に直結されている。したがって、内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。
【0037】
図1は、一実施形態の変速制御装置の内部構成を示すブロック図である。図1に示す変速制御装置は、内燃機関要求出力導出部201と、目標BD入力トルク算出部203と、FI制御部205と、目標BD入力回転数導出部207と、偏心量制御部209とを備え、本発明に係る変速比制御方法に基づき動作する。
【0038】
内燃機関要求出力導出部201は、車両の走行速度(車速)及びアクセルペダル開度(AP開度)に基づいて、図示しない内燃機関に要求する出力(内燃機関要求出力)を導出する。
【0039】
目標BD入力トルク算出部203は、内燃機関要求出力導出部201が導出した内燃機関要求出力及び内燃機関の回転数(内燃機関回転数)に基づいて、無段変速機(BD)における目標入力トルク(目標BD入力トルク)を算出する。上述したように、本実施形態では内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。したがって、目標BD入力トルク算出部203は、内燃機関要求出力を内燃機関回転数で除算して得られる内燃機関に要求するトルクを目標BD入力トルクとして出力する。
【0040】
FI制御部205は、目標BD入力トルク算出部203が算出した目標BD入力トルクに基づいて、内燃機関における燃料噴射、点火時期及び吸気の制御等を行う。
【0041】
目標BD入力回転数導出部207は、内燃機関要求出力に応じた無段変速機(BD)における目標入力回転数(目標BD入力回転数)を導出する。上述したように、本実施形態では内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。したがって、目標BD入力回転数導出部207は、内燃機関の効率を優先させる場合において、内燃機関の燃料消費率が最も良い運転点に対応する内燃機関の回転数を目標BD入力回転数として出力する。
【0042】
図2は、内燃機関の熱効率に関する特性を示すグラフである。当該グラフの縦軸は内燃機関のトルクを示し、横軸は内燃機関の回転数を示す。図2中の太い実線は、燃料消費率が最も良い内燃機関の運転点を結んだ線(BSFCボトムライン)であり、一点鎖線は等出力ラインである。目標BD入力回転数導出部207は、入力された内燃機関要求出力に対応する等出力ラインがBSFCボトムラインと交差する運転点に対応した回転数を目標BD入力回転数として導出する。
【0043】
偏心量制御部209は、(1)目標BD入力トルクと、(2)目標BD入力回転数と、(3)無段変速機(BD)における実際の入力回転数(実BD入力回転数)に等しい内燃機関回転数と、(4)無段変速機(BD)における実際の出力回転数(実BD出力回転数)とに基づいて、当該無段変速機における偏心量r1を制御するための偏心量制御項を導出する。なお、偏心量r1とは、図6に示した偏心ディスク104の中心である第1支点O3とピニオン110の中心である入力中心軸線O1の間の距離である。また、偏心量制御部209が導出した偏心量制御項を示す信号は、上記説明した無段変速機(BD)のピニオン110を回転させるアクチュエータ180に駆動信号として入力される。アクチュエータ180によってピニオン110が回転すると、偏心量r1が変化する。
【0044】
偏心量制御部209の動作及び内部構成の詳細について説明する。図3は、偏心量制御部209の内部構成を示すブロック図である。図3に示すように、偏心量制御部209は、目標レシオ算出部211と、実レシオ算出部213と、レシオ差分算出部215と、フィードバック制御部(FB制御部)217と、学習値反映部218と、学習実行判定スイッチ220と、フィードフォワード制御部(FF制御部)219と、偏心量制御項生成部221と、学習判定スイッチ223とを有する。
【0045】
目標レシオ算出部211は、(2)目標BD入力回転数と(4)実BD出力回転数とに基づいて、無段変速機(BD)における変速比の目標値(目標レシオRcmd_nor)を算出する。すなわち、目標レシオ算出部211は、(4)実BD出力回転数に対する(2)目標BD入力回転数の比(=目標BD入力回転数/実BD出力回転数)を算出する。
【0046】
実レシオ算出部213は、(3)実BD入力回転数と(4)実BD出力回転数とに基づいて、無段変速機(BD)における変速比の実値(実レシオRact)を算出する。すなわち、実レシオ算出部213は、(3)実BD入力回転数に対する(4)実BD出力回転数の比(=実BD出力回転数/実BD入力回転数)を算出する。
【0047】
レシオ差分算出部215は、目標レシオ算出部211が算出した目標レシオRcmd_norと実レシオ算出部213が算出した実レシオRactの差(レシオ差Δi)を算出する。
【0048】
フィードバック制御部(FB制御部)217は、レシオ差分算出部215が算出したレシオ差Δiに応じたPI制御又はPID制御を行うことによって、偏心量制御項のフィードバック制御項(FB制御項)を導出する。
【0049】
学習値反映部218は、(3)実BD入力回転数に対する(4)実BD出力回転数の比(=実BD出力回転数/実BD入力回転数)である実レシオRactと、図12に示した関係のマップに実偏心量r1r及び(1)目標BD入力トルクを代入して得られる想定レシオとの差に基づく学習値を導出する。なお、実偏心量r1rは、変速比可変機構112においてピニオン110を回転させるアクチュエータの回転数を検出するエンコーダが検出した回転数と実BD入力回転数の差に応じた偏心量r1である。さらに、学習値反映部218は、目標レシオ算出部211が算出した目標レシオRcmd_norに学習値を反映した目標レシオRcmd_corを導出する。
【0050】
学習実行判定スイッチ220は、フィードフォワード制御部(FF制御部)219に入力する目標レシオとして、目標レシオ算出部211が算出した目標レシオRcmd_nor及び学習値反映部218によって学習値が反映された目標レシオRcmd_corのいずれかを入力するよう切り替える。学習実行判定スイッチ220は、例えば、内燃機関の回転数の変動が所定値未満になったときから、又は、内燃機関要求出力に応じた要求トルクの変動が所定値未満になったときから一定時間が経過すれば、FF制御部219に入力する目標レシオをRcmd_norからRcmd_corに切り替える。
【0051】
フィードフォワード制御部(FF制御部)219は、(5)目標レシオ算出部211が算出した目標レシオRcmd_nor又は学習値反映部218によって学習値が反映された目標レシオRcmd_corと、(1)目標BD入力トルクと、(2)目標BD入力回転数とに基づいて、偏心量制御項のフィードフォワード制御項(FF制御項)を導出する。
【0052】
偏心量制御項生成部221は、FB制御部217が導出したFB制御項とFF制御部219が導出したFF制御項とを合わせて偏心量制御項として出力する。
【0053】
学習判定スイッチ223は、FF制御部219に目標レシオRcmd_norが入力されるときには、偏心量制御項生成部221が出力する偏心量制御項にFB制御項を含めないよう、FB制御部217が導出したFB制御項の偏心量制御項生成部221への入力を切り替える。なお、学習判定スイッチ223の切り替えは、学習実行判定スイッチ220の切り替えに連動する。
【0054】
FF制御部219の動作及び内部構成の詳細について説明する。図4は、FF制御部219の内部構成を示すブロック図である。図4に示すように、FF制御部219は、BD効率予測部231と、予測BD出力トルク算出部233と、FF制御項導出部235とを有する。
【0055】
BD効率予測部231は、(5)目標レシオRcmd(Rcmd_nor又はRcmd_cor)、(1)目標BD入力トルクTin_cmd及び(2)目標BD入力回転数Nin_cmdから、無段変速機(BD)における動力の伝達効率を予測する。すなわち、BD効率予測部231は、以下に示す関数から無段変速機(BD)の予測伝達効率ηを算出する。
予測伝達効率η=f(Rcmd, Tin_cmd, Nin_cmd)
【0056】
予測BD出力トルク算出部233は、BD効率予測部231が算出した予測伝達効率ηと(1)目標BD入力トルクTin_cmdの乗算値に(5)目標レシオRcmdを乗算して、無段変速機(BD)における出力トルクの予測値(予測BD出力トルク)を算出する。すなわち、予測BD出力トルク算出部233は、以下に示す式から予測BD出力トルク)を算出する。
予測BD出力トルク=η×Tin_cmd×Rcmd
【0057】
FF制御項導出部235は、(5)目標レシオRcmdと、予測BD出力トルクと、無段変速機(BD)における変速比(レシオ)、偏心量r1及び出力トルクの関係とに基づいて、FF制御項を導出する。なお、無段変速機(BD)における変速比(レシオ)、偏心量r1及び出力トルクの関係は、当該無段変速機のワンウェイクラッチ120のトーション特性と、当該無段変速機が四節リンクを用いた機構であることに起因した、偏心量r1に対する変速比の幾何学的非線形特性とを考慮した関係である。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の変速制御装置及び当該変速制御装置による変速比制御方法は、無段変速機(BD)における変速比が適正値となるよう偏心量制御項に、フィードバック制御項(FB制御項)だけでなくフィードフォワード制御項(FF制御項)も含める。FF制御項は、当該無段変速機の目標レシオ及び予測BD出力トルクに応じた、上記説明したワンウェイクラッチ120のトーション特性及び偏心量r1に対する変速比の幾何学的非線形特性を考慮した関係に基づく制御項である。このため、変速制御装置は、偏心量制御項に応じて偏心量r1を制御することで、当該無段変速機の変速比を適正に制御することができる。
【0059】
図5は、(a)FB制御項だけから成る偏心量制御項に応じた無段変速機の変速比の時間変化と、(b)FB制御項及びFF制御項から成る偏心量制御項に応じた無段変速機の変速比の時間変化と、(c)無段変速機の入力トルクが変化する場合における内燃機関の回転数の制御性を比較した結果であり、(a)の場合と(b)の場合の内燃機関の回転数の各時間変化とを示すグラフの一例である。図5(a)に示した場合と図5(b)に示した場合を比較すると、偏心量制御項がFB制御項及びFF制御項から成る偏心量r1の制御に応じた変速比は、偏心量制御項がFB制御項だけから成る場合よりも短い時間で安定して所望値に到達する。このため、内燃機関を運転効率の良い状態に短い時間で安定して追従させることができる。また、図5(c)に示すように、内燃機関の回転数の変化は、図5(a)の場合よりも図5(b)の場合の方が小さい。このため、内燃機関の回転数が上がることによる運転性の悪化を低減することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、実レシオと想定レシオとの差に基づく学習値によって目標レシオを適正に制御することができる。したがって、内燃機関の目標回転数への追従性を向上できる。
【符号の説明】
【0061】
101 入力軸
104 偏心ディスク
110 ピニオン
112 変速比可変機構
120 ワンウェイクラッチ
121 出力部材
122 入力部材
123 ローラ(係合部材)
130 連結部材
131 一端部(リング部)
132 他端部
133 円形開口
140 ベアリング
180 アクチュエータ
201 内燃機関要求出力導出部
203 目標BD入力トルク算出部
205 FI制御部
207 目標BD入力回転数導出部
209 偏心量制御部
211 目標レシオ算出部
213 実レシオ算出部
215 レシオ差分算出部
217 フィードバック制御部(FB制御部)
218 学習値反映部
220 学習実行判定スイッチ
219 フィードフォワード制御部(FF制御部)
221 偏心量制御項生成部
223 学習判定スイッチ
231 BD効率予測部
233 予測BD出力トルク算出部
235 FF制御項導出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、
一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、
前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、
を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速制御装置であって、
前記動力源への要求出力及び前記動力源の回転数に応じた、前記無段変速機への目標入力トルクを導出する目標入力トルク導出部と、
前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部と、
前記目標入力トルク、前記目標入力回転数、並びに、前記無段変速機における実際の入力回転数及び出力回転数に基づいて、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御部と、を備え、
前記偏心量制御部は、
前記目標入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出するフィードフォワード制御部と、
前記実際の入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である実変速比と前記目標変速比の差に応じて、前記偏心量制御項を構成するフィードバック制御項を導出するフィードバック制御部と、
を有することを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置であって、
前記フィードフォワード制御部は、
前記目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記無段変速機における動力の伝達効率の予測値を導出する効率予測部と、
前記伝達効率の予測値、前記目標入力トルク及び前記目標変速比に基づいて、前記無段変速機における予測出力トルクを導出する予測出力トルク導出部と、
前記目標変速比及び前記予測出力トルクに基づいて、前記フィードフォワード制御項を導出するフィードフォワード制御項導出部と、
を有することを特徴とする変速制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変速制御装置であって、
前記フィードフォワード制御部又は前記フィードフォワード制御項導出部は、前記無段変速機が有する前記ワンウェイクラッチのトーション特性、及び前記無段変速機が四節リンク機構式であることに起因した、前記偏心量に対する前記変速比の幾何学的非線形特性を考慮して、前記フィードフォワード制御項を導出することを特徴とする変速制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の変速制御装置であって、
前記実変速比と前記偏心量から想定される想定変速比との差に基づく学習値を導出し、当該学習値を前記目標変速比に反映する学習値反映部を備え、
前記フィードフォワード制御部は、前記学習値が反映された目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出することを特徴とする変速制御装置。
【請求項5】
動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、
一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、
前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、
を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比の制御方法であって、
前記動力源への要求出力及び前記動力源の回転数に応じた、前記無段変速機への目標入力トルクを導出する目標入力トルク導出ステップと、
前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出ステップと、
前記目標入力トルク、前記目標入力回転数、並びに、前記無段変速機における実際の入力回転数及び出力回転数に基づいて、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御ステップと、を有し、
前記偏心量制御ステップは、
前記目標入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出するフィードフォワード制御ステップと、
前記実際の入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である実変速比と前記目標変速比の差に応じて、前記偏心量制御項を構成するフィードバック制御項を導出するフィードバック制御ステップと、
を含むことを特徴とする変速比制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の変速比制御方法であって、
前記フィードフォワード制御ステップは、
前記目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記無段変速機における動力の伝達効率の予測値を導出する効率予測ステップと、
前記伝達効率の予測値、前記目標入力トルク及び前記目標変速比に基づいて、前記無段変速機における予測出力トルクを導出する予測出力トルク導出ステップと、
前記目標変速比及び前記予測出力トルクに基づいて、前記フィードフォワード制御項を導出するフィードフォワード制御項導出ステップと、
を含むことを特徴とする変速比制御方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の変速比制御方法であって、
前記フィードフォワード制御ステップ又は前記フィードフォワード制御項導出ステップでは、前記無段変速機が有する前記ワンウェイクラッチのトーション特性、及び前記無段変速機が四節リンク機構式であることに起因した、前記偏心量に対する前記変速比の幾何学的非線形特性を考慮して、前記フィードフォワード制御項を導出することを特徴とする変速比制御方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の変速比制御方法であって、
前記実変速比と前記偏心量から想定される想定変速比との差に基づく学習値を導出し、当該学習値を前記目標変速比に反映する学習値反映ステップを有し、
前記フィードフォワード制御ステップでは、前記学習値が反映された目標変速比、前記目標入力トルク及び前記目標入力回転数に基づいて、前記偏心量制御項を構成するフィードフォワード制御項を導出することを特徴とする変速比制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−47562(P2013−47562A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219466(P2011−219466)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】