説明

変速装置用油圧回路装置

【課題】オイルポンプの負荷の増大を抑制しつつ、クラッチと変速機のそれぞれの作動に適切となるライン圧を確保できるようにした変速装置用油圧回路装置を提供する。
【解決手段】変速装置の油圧回路装置42では、オイルポンプ50によって供給される作動油の圧力が油圧調整部44によってライン圧に調圧された後、ライン圧供給油路56を介して変速機2とクラッチ6a,6bとに供給される。供給された作動油は、変速機2における変速段の選択操作及びクラッチ6a,6bの断接作動に用いられる。ECU76は、変速段の選択操作を行う際に、クラッチ2の断接作動に用いられる作動油のライン圧より高いライン圧となるように油圧調整部44を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機における変速段の選択操作と、変速機への動力伝達の断接を行うクラッチの作動とを、共通の油路を介して供給される作動油によって行うようにした変速装置用油圧回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両に用いられる自動変速装置などでは、動力源と変速機との間にクラッチやトルクコンバータなどが設けられる。特にバスやトラックなどの大型車両の場合には、変速機に伝達する動力が比較的大きいことから、動力源と変速機との間にはクラッチが用いられる場合がある。
また近年では、2つの変速機構を動力源に対して並列に設け、動力源とそれぞれの変速機構との間にクラッチを設けて、使用されていない方の変速機構で予め変速段の選択操作を行うようにした、いわゆるダブルクラッチ式変速装置が開発されている。
【0003】
動力源と変速機との間にクラッチを設け、自動変速装置などのように変速機及びクラッチのそれぞれを、油圧で作動するアクチュエータを用いて制御しようとする場合、変速機及びクラッチのそれぞれに所定ライン圧に加圧された作動油を供給する必要がある。
このように、動力源と変速機との間にクラッチを設け、変速機及びクラッチのそれぞれを油圧アクチュエータで制御するようにした自動変速装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1の自動変速装置はダブルクラッチ式変速装置であって、奇数変速段を構成する変速機構の入力軸に設けられた第1クラッチと、偶数変速段を構成する変速機構の入力軸に設けられた第2クラッチとを有している。この自動変速装置では、オイルポンプから供給された作動油が、ライン圧ソレノイド弁によって所定ライン圧に調圧された後、第1及び第2クラッチを制御するための制御弁、並びに変速機構のアクチュエータを制御するための制御弁にそれぞれ供給される。また、ライン圧ソレノイド弁で余剰となった作動油は、潤滑油として第1及び第2クラッチや変速機の各所に供給されるようになっている。
【特許文献1】特開2007−263359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の自動変速装置のように、クラッチに供給される作動油のライン圧と、変速機構に供給される作動油のライン圧とを共通とした場合、変速段の選択操作時における応答性を向上させるために、常時ライン圧を比較的高めに設定すると、作動油を供給するオイルポンプの負荷が増大すると共に、オイルポンプを駆動する駆動源の負荷が増大し、駆動源がエンジンである場合には燃費が悪化するという問題が生じる。
【0006】
一方、このような問題を解消するために、作動油のライン圧を常時比較的低めに設定すると、変速機構における変速段切換時の応答性が低下するという問題が生じる。また、このように作動油のライン圧が低めに設定された場合、変速機構において変速段の選択操作に用いられるアクチュエータにおいて、変速段の選択操作で必要となる駆動力を確保するため、このアクチュエータが大型化するという問題も生じる。
【0007】
特に、特許文献1の自動変速装置のようなダブルクラッチ式自動変速装置においては、使用中の変速機構において選択されている変速段に対応したアクチュエータに作動油を供給しながら、使用されていない方の変速機構において予め選択しておく変速段に対応するアクチュエータにも作動油を供給する必要がある。このため、2つの変速段の選択に伴って発生する作動油のライン圧の変動が大きく、ライン圧が過度に低下した場合には、クラッチの応答性が低下するといった問題も生じる。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、オイルポンプの負荷の増大を抑制しつつ、クラッチと変速機のそれぞれの作動に適切となるライン圧を確保できるようにした変速装置用油圧回路装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の変速装置用油圧回路装置は、貯油部材に貯留された作動油を供給するオイルポンプと、上記オイルポンプによって供給される作動油の圧力をライン圧に調圧する油圧調整手段と、複数の変速段を有し、上記油圧調整手段からライン圧供給油路を介して供給される作動油を用いて上記変速段の選択操作を行う変速機と、上記油圧調整手段から上記ライン圧供給油路を介して供給される作動油を用いて断接作動し、接続状態にあるときに上記変速機に動力を伝達する一方、切断状態にあるときに上記変速機への動力の伝達を遮断するクラッチと、上記変速機の変速段の選択操作を行う際には、上記クラッチの断接作動に用いられる上記作動油のライン圧より高いライン圧となるように上記油圧調整手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする(請求項1)。
【0010】
このように構成された変速装置用油圧回路装置によれば、オイルポンプによって供給される作動油は、その圧力が油圧調整手段によってライン圧に調圧された後、ライン圧供給油路を介して変速機とクラッチとに供給される。こうして変速機に供給された作動油は、変速段の選択操作を行う際に使用され、クラッチに供給された作動油は、クラッチの断接作動に用いられる。そして、変速機の変速段の選択操作を行う際に制御手段は、クラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧より高いライン圧となるように油圧調整手段を制御する。
【0011】
従って、変速機の変速段の選択操作は、クラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧より高いライン圧のもとで行われる。これにより、変速機における変速段の選択操作に高い応答性を確保することができる。また、変速段の選択操作に作動油が用いられることによって作動油のライン圧が低下するようなことがあっても、変速段の選択操作の際にライン圧が上昇されるので、クラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧が適正な範囲を超えて低下するのを防止することができる。
【0012】
また、上記変速装置用油圧回路装置において、上記油圧調整手段は、開弁したときに、上記オイルポンプから供給される作動油を上記オイルポンプより上流側に戻すリリーフ弁を備え、上記リリーフ弁は、開弁位置と閉弁位置との間で移動可能なスプールと、上記スプールを閉弁方向に付勢する付勢スプリングと、上記スプールに設けられ、上記ライン圧供給油路の作動油の圧力が常時印加されて、上記スプールを開弁方向に押圧する第1受圧部と、上記スプールに設けられ、上記ライン圧供給油路の作動油の圧力が印加されたときに、第1受圧部による上記スプールの押圧に加えて上記スプールを開弁方向に押圧する第2受圧部とを備え、上記制御手段は、上記リリーフ弁の上記第2受圧部への作動油の印加の有無を切り換えることにより、上記ライン圧の変更を行うことを特徴とする(請求項2)。
【0013】
このように構成された変速装置用油圧回路装置によれば、第2受圧部にライン圧供給油路の作動油の圧力を印加しない場合には、ライン圧供給油路の作動油の圧力が常時印加される第1受圧部のみにより、付勢スプリングの付勢力に抗してスプールが開弁方向へ押圧される。一方、第2受圧部にライン圧供給油路の作動油の圧力を印加する場合には、第1受圧部に加えて第2受圧部も、付勢スプリングの付勢力に抗してスプールを開弁方向へ押圧する。このため、第2受圧部にライン圧供給油路の作動油の圧力を印加する場合に比べて、第2受圧部にライン圧供給油路の作動油の圧力を印加しない場合の方が、作動油のライン圧を高くすることができる。
【0014】
従って第1受圧部については、第2受圧部にライン圧供給油路の作動油の圧力を印加しない状態で、変速機における変速段の選択操作に適したライン圧まで作動油の圧力が上昇したときに、付勢スプリングの付勢力に打ち勝ってスプールが開弁位置に移動するように形成されればよい。また、第2受圧部については、このようにして第1受圧部を形成した上で、第2受圧部にライン圧供給油路の作動油の圧力を印加した状態で、クラッチの作動に適したライン圧まで作動油の圧力が上昇したときに、付勢スプリングの付勢力に打ち勝ってスプールが開弁位置に移動するように形成されればよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の変速装置用油圧回路装置によれば、変速機の変速段の選択操作を行う際には、クラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧より高いライン圧の作動油が用いられるので、変速機における変速段の選択操作に高い応答性を確保することができる。
また、変速段の選択操作に作動油が用いられることによって、作動油のライン圧が低下するようなことがあっても、変速段の選択操作の際にはクラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧より高いライン圧となるので、クラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧が適正な範囲を超えて低下するのを防止することができる。
【0016】
更に、作動油のライン圧を常時高めに設定するのではなく、変速機の変速段の選択操作を行う際に上昇させるようにしているので、作動油のライン圧を常時高めに設定した場合に比べ、オイルポンプの負荷及びオイルポンプを駆動する駆動源の負荷を軽減することができる。従って、オイルポンプの駆動源として、例えばエンジンが用いられる場合には、エンジンの燃費を改善することが可能となる。
【0017】
また、変速段の選択操作の際にはクラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧より高いライン圧となるので、クラッチの断接作動に用いられる作動油と同じライン圧の作動油を用いる場合に比べ、変速機において変速段の選択操作のために用いられるアクチュエータを小型化することができる。
また、請求項2の変速装置用油圧回路装置によれば、第2受圧部にライン圧供給油路の作動油の圧力を印加する状態とすることにより、クラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧を得ることができる。一方、第2受圧部にライン圧供給油路の作動油の圧力を印加しない状態とすることにより、クラッチの断接作動に用いられる作動油のライン圧よりも高い、変速機の変速段の選択操作を行う際に用いられる作動油のライン圧を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る油圧回路装置が適用された変速装置1の全体構成を示すスケルトン図である。変速装置1は車両に搭載されており、ダブルクラッチ式自動変速装置として構成されている。図1に示されるように、変速装置1は変速機2と、車両の動力源であるエンジン4から変速機2への動力の伝達及び遮断を行うためのクラッチ6とを有している。
【0019】
クラッチ6は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの2つの湿式クラッチを備えている。第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの入力側は、共通のクラッチ入力軸8を介してエンジン4の出力軸に連結されている。また、第1クラッチ6aの出力側は変速機2の第1入力軸10に連結される一方、第2クラッチ6bの出力側は変速機2の第2入力軸12に連結されている。第1入力軸10は第2入力軸12の外側に同軸的に配設され、第1入力軸10と第2入力軸12とは互いに独立して回転可能になっている。
【0020】
また、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bは、後述するライン圧に調圧された作動油の供給を受けて作動するクラッチアクチュエータ(図示せず)により、それぞれの接続及び切断が独立して行われるようになっている。更に、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの各クラッチフェーシングは、同じく後述する冷却用に供給される作動油によって冷却されるようになっている。
【0021】
第1入力軸10には、第1クラッチ6aの側から順に、後退ドライブギヤ14a、第1速ドライブギヤ16a、第5速ドライブギヤ18a、及び第3速ドライブギヤ20aが第1入力軸10に対して相対回転可能に配設されている。
第1入力軸10及び第2入力軸12と平行に配設されたアイドラ軸22には、後退ドライブギヤ14aと常時噛み合う後退アイドラギヤ14bが固定されている。この後退アイドラギヤ14bは、第1入力軸10及び第2入力軸12と平行に配設されたカウンタ軸24に固定されている後退ドリブンギヤ14cと常時噛み合っている。
【0022】
また、カウンタ軸24には、第1速ドライブギヤ16aと常時噛み合う第1速ドリブンギヤ16b、第5速ドライブギヤ18aと常時噛み合う第5速ドリブンギヤ18b、及び第3速ドライブギヤ20aと常時噛み合う第3速ドリブンギヤ20bが固定されている。そして、これら3対のドライブギヤ16a,18a,20aとドリブンギヤ16b,18b,20bとにより第1歯車機構26が構成される。
【0023】
一方、第2入力軸12には、第2クラッチ6bの側から順に、第4速ドライブギヤ28a、第2速ドライブギヤ30a、及び第6速ドライブギヤ32aが第2入力軸12に対して相対回転可能に配設されている。またカウンタ軸24には、第4速ドライブギヤ28aと常時噛み合う第4速ドリブンギヤ28b、第2速ドライブギヤ30aと常時噛み合う第2速ドリブンギヤ30b、及び第6速ドライブギヤ32aと常時噛み合う第6速ドリブンギヤ32bが固定されている。そして、これら3対のドライブギヤ28a,30a,32aとドリブンギヤ28b,30b,32bとにより第2歯車機構34が構成される。
【0024】
カウンタ軸24の第6速ドリブンギヤ32b側の端部には、カウンタギヤ36が固定されている。このカウンタギヤ36が変速機2の出力軸38に固定された出力ギヤ40と常時噛み合うことにより、カウンタ軸24の駆動力が出力軸38に伝達される。そして、出力軸38から出力された駆動力は図示しない駆動輪に伝達され、車両が走行するようになっている。
【0025】
第1歯車機構26において、後退ドライブギヤ14aと第1速ドライブギヤ16aとの間には、第1入力軸10と一体的に回転する第1同期装置S1が配設されている。第1同期装置S1により、後退変速段が選択された状態、第1速変速段が選択された状態、並びに後退変速段及び第1速変速段のいずれも選択されない状態のいずれかに選択的に切り換えることができるようになっている。このような第1同期装置S1による変速段の選択については、従来の変速機でも採用されているものであるので、ここでは詳細についての説明を省略する。
【0026】
後退変速段が選択された場合には、第1同期装置S1により後退ドライブギヤ14aが第1入力軸10に連結される。この場合、第1クラッチ6aが接続され、エンジン4の駆動力がクラッチ入力軸8から第1クラッチ6aを介して第1入力軸10に伝達されると、第1入力軸10に伝達された駆動力は、後退ドライブギヤ14aから後退アイドラギヤ14bを経て後退ドリブンギヤ14cに伝達される。後退ドリブンギヤ14cに伝達された駆動力は、更にカウンタギヤ36から出力ギヤ40を経て出力軸38に伝達され、こうして出力軸38に伝達された駆動力により車両が後退する。
【0027】
一方、第1速変速段が選択された場合には、第1同期装置S1により第1速ドライブギヤ16aが第1入力軸10に連結される。この場合、第1クラッチ6aが接続され、エンジン4の駆動力がクラッチ入力軸8から第1クラッチ6aを介して第1入力軸10に伝達されると、第1入力軸10に伝達された駆動力は、第1速ドライブギヤ16aから第1速ドリブンギヤ16bに伝達される。第1速ドリブンギヤ16bに伝達された駆動力は、更にカウンタギヤ36から出力ギヤ40を経て出力軸38に伝達され、こうして出力軸38に伝達された駆動力により車両が前進する。
【0028】
なお、後退変速段及び第1速変速段のいずれも選択されない場合には、後退ドライブギヤ14a及び第1速ドライブギヤ16aのいずれも第1入力軸10に連結されない状態となる。
また第1歯車機構26において、第5速ドライブギヤ18aと第3速ドライブギヤ20aとの間には、第1入力軸10と一体的に回転する第2同期装置S2が配設されている。第2同期装置S2により、第5速変速段が選択された状態、第3速変速段が選択された状態、並びに第5速変速段及び第3速変速段のいずれも選択されない状態のいずれかに選択的に切り換えることができるようになっている。このような第2同期装置S2による変速段の選択についても、従来の変速機で採用されているものであるので、ここでは詳細についての説明を省略する。
【0029】
第5速変速段が選択された場合には、第2同期装置S2により第5速ドライブギヤ18aが第1入力軸10に連結される。この場合、第1クラッチ6aが接続され、エンジン4の駆動力がクラッチ入力軸8から第1クラッチ6aを介して第1入力軸10に伝達されると、第1入力軸10に伝達された駆動力は、第5速ドライブギヤ18aから第5速ドリブンギヤ18bに伝達される。第5速ドリブンギヤ18bに伝達された駆動力は、更にカウンタギヤ36から出力ギヤ40を経て出力軸38に伝達され、こうして出力軸38に伝達された駆動力により車両が前進する。
【0030】
一方、第3速変速段が選択された場合には、第2同期装置S2により第3速ドライブギヤ20aが第1入力軸10に連結される。この場合、第1クラッチ6aが接続され、エンジン4の駆動力がクラッチ入力軸8から第1クラッチ6aを介して第1入力軸10に伝達されると、第1入力軸10に伝達された駆動力は、第3速ドライブギヤ20aから第3速ドリブンギヤ20bに伝達される。第3速ドリブンギヤ20bに伝達された駆動力は、更にカウンタギヤ36から出力ギヤ40を経て出力軸38に伝達され、こうして出力軸38に伝達された駆動力により車両が前進する。
【0031】
なお、第5速変速段及び第3速変速段のいずれも選択されない場合には、第5速ドライブギヤ18a及び第3速ドライブギヤ20aのいずれも第1入力軸10に連結されない状態となる。
第2歯車機構34には、第4速ドライブギヤ28aと第2速ドライブギヤ30aとの間に、第2入力軸12と一体的に回転する第3同期装置S3が配設されている。第3同期装置S3により、第4速変速段が選択された状態、第2速変速段が選択された状態、並びに第4速変速段及び第2速変速段のいずれも選択されない状態のいずれかに選択的に切り換えることができるようになっている。このような第3同期装置S3による変速段の選択についても、従来の変速機で採用されているものであるので、ここでは詳細についての説明を省略する。
【0032】
第4速変速段が選択された場合には、第3同期装置S3により第4速ドライブギヤ28aが第2入力軸12に連結される。この場合、第2クラッチ6bが接続され、エンジン4の駆動力がクラッチ入力軸8から第2クラッチ6bを介して第2入力軸12に伝達されると、第2入力軸12に伝達された駆動力は、第4速ドライブギヤ28aから第4速ドリブンギヤ28bに伝達される。第4速ドリブンギヤ28bに伝達された駆動力は、更にカウンタギヤ36から出力ギヤ40を経て出力軸38に伝達され、こうして出力軸38に伝達された駆動力により車両が前進する。
【0033】
一方、第2速変速段が選択された場合には、第3同期装置S3により第2速ドライブギヤ30aが第2入力軸12に連結される。この場合、第2クラッチ6bが接続され、エンジン4の駆動力がクラッチ入力軸8から第2クラッチ6bを介して第2入力軸12に伝達されると、第2入力軸12に伝達された駆動力は、第2速ドライブギヤ30aから第2速ドリブンギヤ30bに伝達される。第2速ドリブンギヤ30bに伝達された駆動力は、更にカウンタギヤ36から出力ギヤ40を経て出力軸38に伝達され、こうして出力軸38に伝達された駆動力により車両が前進する。
【0034】
また第2歯車機構34において、第2速ドライブギヤ30aと第6速ドライブギヤ32aとの間には、第2入力軸12と一体的に回転する第4同期装置S4が配設されている。第4同期装置S4により、第6速変速段が選択された状態、及び第6速変速段が選択されない状態のいずれかに選択的に切り換えることができるようになっている。このような第4同期装置S4による変速段の選択についても、従来の変速機で採用されているものであるので、ここでは詳細についての説明を省略する。
【0035】
第6速変速段が選択された場合、第4同期装置S4により第6速ドライブギヤ32aが第2入力軸12に連結される。この場合、第2クラッチ6bが接続され、エンジン4の駆動力がクラッチ入力軸8から第2クラッチ6bを介して第2入力軸12に伝達されると、第2入力軸12に伝達された駆動力は、第6速ドライブギヤ32aから第6速ドリブンギヤ32bに伝達される。第6速ドリブンギヤ32bに伝達された駆動力は、更にカウンタギヤ36から出力ギヤ40を経て出力軸38に伝達され、こうして出力軸38に伝達された駆動力により車両が前進する。
【0036】
このようにして、第1歯車機構26及び第2歯車機構34において、同期装置S1,S2,S3,S4により変速段の選択が行われる。上述したように、第1歯車機構26には第1クラッチ6aを介してエンジン4の駆動力が伝達され、第2歯車機構34には第2クラッチ6bを介してエンジン4の駆動力が伝達されるので、例えば第1クラッチ6aを接続状態とすると共に第2クラッチ6bを切断状態とすることにより、第1歯車機構26で選択されたいずれかの変速段を介して出力軸38に駆動力を出力しながら、第2歯車機構34でいずれかの変速段を選択することが可能となる。また、第1クラッチ6aを切断状態とすると共に第2クラッチ6bを接続状態とすることにより、第2歯車機構34で選択されたいずれかの変速段を介して出力軸38に駆動力を出力しながら、第1歯車機構26でいずれかの変速段を選択することが可能となる。
【0037】
従って、変速段の切り換えを行う際には、第1歯車機構26及び第2歯車機構34のうち、その時点でエンジン4の駆動力が伝達されていない方の歯車機構において次に予測される変速段を予め選択しておき、変速段の切換要求があったときに第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのうちの接続状態にある方を切断しながら切断状態にある方を接続していくことにより、変速段の切り換えの際にも連続的に出力軸32から駆動力を出力することが可能となる。この結果、変速段切換時の運転フィーリングを向上させることが可能となる。
【0038】
このようなクラッチ6における第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの作動、並びに第1歯車機構26及び第2歯車機構34における変速段の選択は、ライン圧に加圧された作動油を用いて行われる。即ち、前述したように第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bにはそれぞれクラッチアクチュエータが設けられており、このクラッチアクチュエータへの作動油の供給を調整することにより、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bがそれぞれ独立して接続、切断、及び半クラッチのいずれかの状態となる。また、第1歯車機構26及び第2歯車機構34には、同期装置S1,S2,S3,S4に対してそれぞれ変速アクチュエータが設けられており、このクラッチアクチュエータへの作動油の供給を調整することにより、選択すべき変速段に対応した同期装置を駆動して変速段の選択が行われるようになっている。
【0039】
変速装置1には、これらのアクチュエータに対して適正なライン圧に調圧された作動油を供給するのに加え、作動油を用いて、湿式クラッチである第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングを冷却すると共に、変速装置1内の各所を潤滑するための油圧回路装置を備えている。
図2は、変速装置1に設けられた油圧回路装置42の全体構成図である。油圧回路装置42は、作動油の圧力を所定のライン圧に調圧するための油圧調整部(油圧調整手段)44と、油圧調整部44から供給された作動油の一部を受け取り、受け取った作動油の温度を調整する温度調整部46とを有する。なお、温度調整部46で温度が調整された作動油は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却、並びに変速装置1内各所の潤滑のための冷却潤滑機構48に供給される。
【0040】
油圧調整部44は、エンジン4によって駆動されるオイルポンプ50を有する。このオイルポンプ50は、オイルフィルタ52を介し、オイルパン(貯油部材)54から作動油を取り込んでライン圧供給油路56に供給する。ライン圧供給油路56には、オイルポンプ50からの作動油の供給によって上昇する作動油の圧力を蓄えるためのアキュムレータ58が設けられている。
【0041】
オイルポンプ50から供給されたライン圧供給油路56内の作動油の圧力を、アキュムレータ58と協働して所定のライン圧に調整するため、油圧調整部44にはリリーフ弁60が設けられている。
リリーフ弁60はスプール弁であって、円筒状のバルブボディ62内を摺動するスプール64を有している。このスプール64は、バルブボディ62内に設けられた付勢スプリング66の付勢力を受け、付勢スプリング66の伸張方向、即ち図2における右方に向けて付勢されている。
【0042】
スプール64には、付勢スプリング66の側に設けられた第1ランド64aと、第1ランド64aと同じ径を有した第2ランド(第1受圧部)64bとが形成されており、第1ランド64aと第2ランド64bとの間には、環状の油溝68が形成されている。また第2ランド64bには、第1ランド64aとは反対方向に向け、第2ランド64bと同一軸線上に第3ランド(第2受圧部)64cが一体的に設けられている。第3ランド64cの径は第2ランド64bの径より小さくなっており、これに対応してリリーフ弁60のバルブボディ62も、第3ランド64c側において第3ランド64cが内部を摺動するように段状に縮径されている。
【0043】
スプール64の第3ランド64c側の端部にはストッパ64dが、スプール64の軸線方向に向けて突設されており、付勢スプリング66の付勢力によってストッパ64dがバルブボディ62の軸線方向端部に当接するまでスプール64が移動したときにおいても、図2に示されるように、第2ランド64bとバルブボディ62との間に環状の第1油室70が形成されると共に、第3ランド64cとバルブボディ62との間に環状の第2油室72が形成されるようになっている。
【0044】
第1油室70は、図2に示されるようにライン圧供給油路56に接続されており、オイルポンプ50から吐出された作動油が常時供給されるようになっている。また第2油室72は、図2に示されるようにライン圧制御弁74を介してライン圧供給油路56に接続されている。
ライン圧制御弁74は、第2油室72とライン圧供給油路56とを連通してオイルポンプ50から吐出された作動油を第2油室72内に供給する第1位置と、第2油室72内の作動油をオイルパン54に排出させる第2位置とのいずれかに選択的に切り換え可能な電磁弁である。
【0045】
従って、ライン圧制御弁74が第1位置にある場合には、オイルポンプ50によって供給されて圧力の上昇した作動油が第1油室70及び第2油室72の双方に供給される。これにより、第2ランド64b及び第3ランド64cが作動油の圧力を受け、付勢スプリング66の付勢力に抗して押圧されることになる。そして、第2ランド64b及び第3ランド64cに作用する作動油の押圧力が付勢スプリング66の付勢力を上回ると、スプール64が図2における左方に移動する。図3は、このような状態にあるときのリリーフ弁60及びライン圧制御弁74の状態を示している。
【0046】
図3に示されるように、スプール64に形成された環状の油溝68は、スプール64が作動油の圧力により上述のようにして図2及び図3における左方に移動した状態にあるとき、ライン圧供給油路56とオイルポンプ50の上流側の作動油流路とを連通するようになっている。即ち、このときリリーフ弁60は開弁状態となり、ライン圧供給油路56内の作動油が、環状の油溝68を介してオイルポンプ50の上流側に戻される。以下では、スプール64がこのような位置にあるときに、スプール64が開弁位置にあるという。
【0047】
一方、図2に示されるように、付勢スプリング66の付勢力によってスプール64のストッパ64dがバルブボディ62に当接している状態にあるとき、ライン圧供給油路56とオイルポンプ50の上流側の作動油流路との連通は、第1ランド64aによって遮断されるようになっている。即ち、このときリリーフ弁60は閉弁状態となり、ライン圧供給油路56内の作動油はオイルポンプ50の上流側に戻されなくなる。以下では、スプール64がこのような位置にあるときに、スプール64が閉弁位置にあるという。
【0048】
ライン圧制御弁74が第2位置にある場合には、ライン圧供給油路56から第2油室72への作動油の供給が遮断され、第2油室72内の作動油がライン圧制御弁74を介してオイルパン54に排出されるので、第3ランド64cにはライン圧供給油路56から供給される作動油の圧力が作用しなくなる。従って、第2ランド64bのみが作動油の圧力により付勢スプリング66の付勢力に抗して押圧されることになる。そして、第2ランド64bに作用する作動油の押圧力が付勢スプリング66の付勢力を上回ると、スプール64が開弁位置に移動する。このため、ライン圧制御弁74が第1位置にあって第2油室72にもライン圧供給油路56から作動油が供給される場合に比べ、スプール64を開弁位置に移動させるためには、より高い作動油の圧力が必要となる。なお、図4はライン圧制御弁74が第2位置にあるときに、作動油の圧力によってスプール64が開弁位置に移動した状態を示している。
【0049】
ライン圧制御弁74が第1位置及び第2位置のいずれにある場合においても、ライン圧供給油路56における作動油の圧力が上昇してスプール64に作用する作動油の押圧力が付勢スプリング66の付勢力を上回ると、スプール64が閉弁位置から開弁位置に移動する。こうしてスプール64が開弁位置に移動すると、ライン圧供給油路56の作動油をオイルポンプ50の上流側に戻すので、ライン圧供給油路56における作動油の圧力が低下する。作動油の圧力がある程度低下すると、スプール64は付勢スプリング66の付勢力によって再び閉弁位置に戻る。従って、ライン圧供給油路56における作動油のライン圧は所定の圧力に維持されることになる。
【0050】
上述したように、ライン圧制御弁74が第2位置にある場合には、ライン圧制御弁74が第1位置にある場合に比べ、ライン圧供給油路56における作動油の圧力が高くならないと、スプール64が付勢スプリング66の付勢力に抗して開弁位置に移動しない。このため、ライン圧供給油路56の作動油は、ライン圧制御弁74が第1位置にある場合より第2位置にある場合の方が、高いライン圧に調整されることになる。
【0051】
ここで、本実施形態においては、ライン圧制御弁74が第1位置にある場合に得られる作動油のライン圧が、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの半クラッチ状態を含む断接作動を適切に行う上で可能な限り低い値である第1基準値(例えば0.8MPa)となるように、第2ランド64b及び第3ランド64cの受圧面積と、付勢スプリング66の付勢力とが関連付けられて設定されている。
【0052】
また、ライン圧制御弁74が第2位置にある場合に得られる作動油のライン圧は、変速機2において変速段の選択を行う際に十分な応答性を確保するため、第1基準値よりも高い第2基準値(例えば1.6MPa)となるよう、第2ランド64bの受圧面積と、付勢スプリング66の付勢力とが関連付けられて設定されている。
即ち、第2ランド64bの受圧面積は、ライン圧制御弁74を第2位置として第2油室72にライン圧供給油路56の作動油を供給しない状態で、第2基準値のライン圧まで作動油の圧力が上昇したときに、付勢スプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が開弁位置に移動するように設定すればよい。そして第3ランド64cの受圧面積は、このようにして第2ランド64bの受圧面積を設定した上で、ライン圧制御弁74を第1位置として第2油室72にライン圧供給油路56の作動油を供給した状態で、第1基準値のライン圧まで作動油の圧力が上昇したときに、付勢スプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が開弁位置に移動するように設定すればよい。
【0053】
油圧回路装置42には、変速機2における変速段の選択や選択中の変速段の選択解除、即ち変速段の選択操作の際などに、ライン圧制御弁74を制御して作動油のライン圧を適正に調整するため、ECU(制御手段)76が設けられている。即ちECU76は、ライン圧を適正に調整するためのライン圧制御を実行することにより、ライン圧制御弁74を制御して作動油のライン圧を第1基準値と第2基準値とのいずれかに切り換える。
【0054】
図5は、ECU76によって実行されるライン圧制御のフローチャートである。ECU76は、エンジン4の運転中に図5のフローチャートに従い、所定の制御周期で繰り返しライン圧制御を実行する。
ライン圧制御を開始すると、ECU76はステップS1において、フラグF1の値が0であるか否かを判定する。フラグF1は、変速機2において変速段の選択の指示や選択中の変速段の選択解除の指示、即ち変速指示がなされたか否かを示すために用いられ、フラグF1の値が1である場合、変速指示がなされたことを示す。フラグF1の初期値は0となっており、ここではフラグF1の値が0であると判定し、ECU76は処理をステップS2に進める。
【0055】
ステップS2においてECU76は、変速指示がなされたか否かを判定する。ECU76は、変速機2における変速アクチュエータの信号をモニターしており、変速アクチュエータの信号に基づき、変速指示がなされたか否かを判定している。まず、ステップS2において変速指示がなされていないと判定した場合には、ECU76が処理をステップS7に進め、ライン圧制御弁74を第1位置として、その制御周期を終了する。
【0056】
次の制御周期においても、ECU76はステップS1から処理を開始して、フラグF1の値が0であるか否かを判定する。フラグF1の値は依然として0のままであるので、ECU76は処理をステップS1からステップS2に進め、変速指示がなされたか否かを再び判定する。そして、変速指示がなされていなければ、ECU76は処理をステップS7に進め、ライン圧制御弁74を第1位置とする。従って、変速指示がなされない限り、ECU76はライン圧制御弁74を第1位置に保持する。
【0057】
ライン圧制御弁74を第1位置とした場合には、図3に示されるように、ライン圧供給油路56の作動油がライン圧制御弁74を介してリリーフ弁60の第2油室72に供給される。このため、前述したとおり、ライン圧供給油路56における作動油のライン圧が第1基準値まで上昇したときに、図3に示されるようにリリーフ弁60のスプール64が開弁位置に移動し、ライン圧供給油路56内の作動油が、リリーフ弁60を介してオイルポンプ50の上流側に戻される。これに伴い、ライン圧供給油路56における作動油のライン圧が低下してくると、リリーフ弁60のスプール64が閉弁位置に移動し、ライン圧供給油路56内の作動油は、オイルポンプ50の上流側に戻されなくなる。従って、ライン圧供給油路56における作動油のライン圧は、実質的に第1基準値に維持されることになる。
【0058】
一方、変速機2において変速指示がなされると、ECU76はステップS2の判定によりステップS3に処理を進めてフラグF1の値を1とし、更にステップS4でライン圧制御弁74を第2位置とする。
次にECU76は、ステップS5において、変速機2における変速アクチュエータの信号に基づき、指示された変速段の選択や選択中の変速段の選択解除、即ち変速段の選択操作が完了したか否かを判定する。ここでは変速指示がなされてから間もないため変速段の選択操作が完了していないとすると、ECU76はステップS5において変速段の選択操作が完了していないと判定することにより、その制御周期を終了する。
【0059】
次の制御周期のステップS1において、ECU76は再びフラグF1の値が0であるか否かを判定するが、このときにはフラグF1の値が1に変更されているので、ECU76は処理をステップS1からステップS4に進め、ライン圧制御弁74を第2位置とする。そして、ステップS5においてECU76は、変速段の選択操作が完了したか否かを判定するが、依然として変速段の選択操作が完了していなければ、その制御周期を終了する。従って、一旦変速指示がなされると、指示された変速段の選択操作が完了しない限りライン圧制御弁74が第2位置に保持されることになる。
【0060】
ライン圧制御弁74を第2位置とした場合には、図4に示されるように、ライン圧供給油路56の作動油が第2油室72に供給されず、第2油室72内の作動油がオイルパン54に排出される。このため、前述したように、ライン圧供給油路56における作動油のライン圧が第2基準値に上昇するまではリリーフ弁60のスプール64が開弁位置に移動ししない。そして、作動油のライン圧が第2基準値まで上昇すると、図4に示されるようにリリーフ弁60のスプール64が開弁位置に移動し、ライン圧供給油路56の作動油がオイルポンプ50の上流側に戻される。これに伴い、ライン圧供給油路56における作動油のライン圧が低下してくると、リリーフ弁60のスプール64が閉弁位置に移動し、ライン圧供給油路56内の作動油は、オイルポンプ50の上流側に戻されなくなる。従って、ライン圧供給油路56における作動油のライン圧は、第1基準値より高い第2基準値に実質的に維持されることになる。
【0061】
変速指示がなされた後、変速指示に対応した変速段の選択操作が完了すると、ECU76はステップS5において変速段の選択操作が完了したと判定し、処理をステップS6に進めてフラグF1の値を0にリセットする。更にECU76は、次のステップS7でライン圧制御弁74を第1位置とし、その制御周期を終了する。
次の制御周期においても、ECU76はステップS1から処理を開始してフラグF1の値が0であるか否かを判定する。フラグF1の値は0にリセットされたので、ECU76は処理をステップS1からステップS2に進め、変速指示がなされたか否かを判定する。そして、変速指示がなされていなければ、ECU76は処理をステップS7に進め、ライン圧制御弁74を第1位置とする。従って、再び変速指示がなされない限り、ECU76はライン圧制御弁74を第1位置に保持する。この結果、上述したようにライン圧供給油路56における作動油のライン圧は、第2基準値より低い第1基準値に実質的に維持されることになる。
【0062】
以上のようにしてECU76がライン圧制御を行うことにより、変速機2において変速段の選択や選択中の変速段の選択解除といった変速段の選択操作が行われる場合に限り、作動油のライン圧が第1基準値より高い第2基準値に維持されることになる。従って、変速機2において、このような変速段の選択操作が行われる際には、比較的高い第2基準値のライン圧を有した作動圧が用いられるので、変速機2における変速段の選択操作に高い応答性を確保することができる。
【0063】
また、このように変速段の選択操作の際には第1クラッチ6a或いは第2クラッチ6bの断接作動に用いられる第1基準値のライン圧より高い第2基準値のライン圧となっているので、変速段の選択操作に作動油が用いられることにより作動油のライン圧が低下するようなことがあっても、第1クラッチ6a或いは第2クラッチ6bの断接作動に用いられる作動油のライン圧が、適正範囲を超えて低下するのを防止することができる。
【0064】
特に、本実施形態では変速装置1がダブルクラッチ式自動変速機であるため、第1変速機構26及び第2変速機構34のそれぞれにおいて変速段の選択操作が行われる。即ち、第1変速機構26及び第2変速機構34のうち、使用されている方の変速機構において選択中の変速段に対応した変速アクチュエータに作動油を供給しながら、使用されていない方の変速機構において予め選択しておく変速段に対応するアクチュエータにも作動油を供給する必要がある。このため、両変速機構のいずれでも変速段が選択されていない状態に対し、2つの変速段の選択に伴って発生する作動油のライン圧の変動が大きい。作動油のライン圧が過度に低下した場合には、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチの応答性が低下するという問題が生じるおそれがある。従って、このように変速段の選択操作の際に作動油のライン圧を上昇させることは、変速段の選択操作が及ぼす作動油のライン圧への悪影響を解消する上で極めて有効である。
【0065】
更に、作動油のライン圧は常時高めに設定されるわけではなく、変速機2における変速段の選択操作の際に第2基準値まで上昇させるようにしているので、作動油のライン圧を常時高めに設定した場合に比べ、オイルポンプ50の負荷及びオイルポンプ50を駆動するエンジン4の負荷を軽減することができる。従って、エンジン4の燃費も向上させることができる。
【0066】
また、変速段の選択操作の際には第1クラッチ6a或いは第2クラッチ6bの断接作動に用いられる第1基準値のライン圧より高い第2基準値のライン圧となるので、第1基準値のライン圧に調圧された作動油を使い続ける場合に比べ、変速機2の変速アクチュエータを小型化することができる。これに伴い変速機2自体も小型化することが可能となる。
ところで、前述したように、オイルポンプ50によって供給される作動油の一部は、ライン圧供給油路56から分岐する冷却潤滑用油路(冷却用油路)78を介して温度調整部46に供給される。温度調整部46に供給された作動油は、温度調整部46で温度を調整された後、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却、並びに変速装置1内各所の潤滑のための冷却潤滑機構48に供給される。
【0067】
従って、変速機2における変速段の選択操作、並びに第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの作動に用いられる前の作動油が、湿式クラッチである第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却に用いられるので、変速機2や第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの作動に用いられて温度が上昇する前の作動油により、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングを効果的に冷却することができる。
【0068】
温度調整部46には、冷却潤滑機構48への作動油の供給を適切に行うための供給開始弁80と、オイルクーラ82への作動油の供給状態を切り換えて作動油の温度を適正な範囲に調整するための流路切換弁84とを備えている。
オイルポンプ50による作動油の供給を開始して直ちに冷却潤滑機構48への作動油の供給を開始すると、冷却潤滑機構48への作動油の供給によって作動油に圧力の一時的な低下、或いは圧力上昇率の低下が生じるので、作動油の圧力を迅速にライン圧まで立ち上げることができない。そこで、本実施形態では温度調整部46に供給開始弁80が設けられている。
【0069】
この供給開始弁80はスプール弁であって、円筒状のバルブボディ86内を摺動するスプール88を有している。このスプール88は、バルブボディ86内に設けられた付勢スプリング90の付勢力を受け、付勢スプリング90の伸張方向、即ち図2における右方に向けて付勢されている。
スプール88には、付勢スプリング90の側に設けられた第1ランド88aと、第1ランド88aと同じ径を有した第2ランド88bとが形成されており、第1ランド88aと第2ランド88bとの間には、環状の油溝92が形成されている。
【0070】
スプール88の第2ランド88b側の端部にはストッパ88cが、スプール88の軸線方向に向けて突設されており、付勢スプリング90の付勢力によってストッパ88cがバルブボディ86の軸線方向端部に当接するまでスプール88が移動したときにおいても、図2に示されるように、第2ランド88bとバルブボディ86との間に環状の油室94が形成されるようになっている。
【0071】
油室94は、図2に示されるように冷却潤滑用油路78に接続されており、オイルポンプ50から吐出された作動油が常時供給されるようになっている。従って、オイルポンプ50が作動油の供給を開始し、ライン圧供給油路56及び冷却潤滑用油路78を介して油室94に供給される作動油の圧力が上昇することにより、第2ランド88bに作用する作動油の押圧力が付勢スプリング90の付勢力を上回ると、スプール88が図2における左方に移動する。図6及び図7には、このようにして第2ランド88bに作用する作動油の押圧力により、スプール88が図2における左方に移動した状態が示されている。
【0072】
図6及び図7に示されるように、スプール88に形成された環状の油溝92は、スプール88が図2、図6及び図7における左方に移動した状態にあるとき、冷却潤滑用油路78と流路切換弁84とを連通するようになっている。即ち、このとき供給開始弁80は開弁状態となり、冷却潤滑用油路78内の作動油が、環状の油溝92を介して流路切換弁84に供給される。以下では、スプール88がこのような位置にあるときに、スプール88が開弁位置にあるという。
【0073】
一方、図2に示されるように、付勢スプリング90の付勢力によりスプール88のストッパ88cがバルブボディ86に当接している状態にあるとき、冷却潤滑用油路78と流路切換弁84との連通は第1ランド88aによって遮断されるようになっている。即ち、供給開始弁80は閉弁状態となり、冷却潤滑用油路78から流路切換弁84への作動油の供給は行われなくなる。以下では、スプール88がこのような位置にあるときに、スプール88が閉弁位置にあるという。
【0074】
上述したように、オイルポンプ50が作動油の供給を開始し、油室94に供給される作動油の圧力が上昇することにより、第2ランド88bに作用する作動油の押圧力が付勢スプリング90の付勢力を上回ると、スプール88が開弁位置に移動するので、オイルポンプ50から供給される作動油の圧力が十分に上昇していない場合に限り、スプール88が閉弁位置にあって、冷却潤滑用油路78から流路切換弁84への作動油の供給は行われなくなる。以下では、特に断らない限りスプール88が開弁位置にあるものとして説明を行う。
【0075】
なお、スプール88において第2ランド88bに作用する作動油の押圧力と付勢スプリング90の付勢力とは、オイルポンプ50から供給される作動油の圧力が第1基準値のライン圧に達する前に、スプール88が開弁位置に移動するように設定されており、これに対応するように第2ランド88bの受圧面積及び付勢スプリング90の付勢力が設定されている。
【0076】
流路切換弁84はスプール弁であって、円筒状のバルブボディ96内を摺動するスプール98を有している。このスプール98は、バルブボディ96内に設けられた付勢スプリング100の付勢力を受け、付勢スプリング100の伸張方向、即ち図2における左方に向けて付勢されている。
スプール98には、付勢スプリング100の側から第1ランド98a、第2ランド98b及び第3ランド98cが形成されており、これらはいずれも同じ径を有している。第1ランド98aと第2ランド98bとの間には、環状の第1油溝102が形成され、第2ランド98bと第3ランド98cとの間には、環状の第2油溝104が形成されている。
【0077】
スプール98の第3ランド98c側の端部には、ストッパ98dがスプール98の軸線方向に向けて突設されており、付勢スプリング100の付勢力によりストッパ98dがバルブボディ96の軸線方向端部に当接するまでスプール98が移動したときにおいても、第3ランド98cとバルブボディ96との間に環状の油室106が形成されるようになっている。
【0078】
油室106は、図2に示されるように温度制御弁108を介して冷却潤滑用油路78に接続されている。温度制御弁108は、油室106と冷却潤滑用油路78とを連通して、オイルポンプ50から供給された冷却潤滑用油路78内の作動油を油室106に供給する第1位置と、冷却潤滑用油路78から油室106への作動油の供給を遮断し、油室106内の作動油をオイルパン54に排出させる第2位置とのいずれかに選択的に切り換え可能な電磁弁である。
【0079】
従って、温度制御弁108が第1位置にある場合には、オイルポンプ50によって供給されて圧力の上昇した作動油が油室106に供給され、第3ランド98cが付勢スプリング100の付勢力に抗して押圧されることになる。そして、第3ランド98cに作用する作動油の押圧力が付勢スプリング100の付勢力を上回ると、スプール98が図2における右方に移動する。
【0080】
第3ランド98cに作用する作動油の押圧力と付勢スプリング100の付勢力との関係は、上述した供給開始弁80と同様に、オイルポンプ50から冷却潤滑用油路78及び温度制御弁108を介して供給された油室106内の作動油の圧力が第1基準値のライン圧に達する前に、スプール98が図2における右方に移動するように設定されており、これに対応して第3ランド98cの受圧面積と付勢スプリング100の付勢力とが設定されている。
【0081】
従って、オイルポンプ50による作動油の供給開始直後を除き、作動油の圧力が十分に上昇した状態では、温度制御弁108が第1位置にあると、油室106に作動油が供給されることにより、スプール98が図2における右方に移動した状態となる。図6は、このように温度制御弁108が第1位置にあって、スプール98が図2における右方に移動したときの流路切換弁84の状態を示している。以下では、流路切換弁84のスプール98が図6に示されるような位置にあるときに、スプール98が第1位置にあるという。
【0082】
一方、温度制御弁108が第2位置にあると、冷却潤滑用油路78からの作動油の供給は行われず、油室106内の作動油がオイルパン54に排出されるので、流路切換弁84のスプール98は付勢スプリング100の付勢力によって図2における左方に戻り、ストッパ98dがバルブボディ96の軸線方向端部に当接した状態となる。図7は、このように温度制御弁108が第2位置にあって、スプール98がバルブボディ96の軸線方向端部に当接しているときの、流路切換弁84の状態を示している。以下では、流路切換弁84のスプール98が図7に示されるような位置にあるときに、スプール98が第2位置にあるという。
【0083】
温度制御弁108が第2位置にあってスプール98が第2位置にある場合、図7に示されるように、冷却潤滑用油路78から供給開始弁80を介して供給される作動油は、スプール98に形成された環状の第2油溝104を介して冷却潤滑機構48に供給されるようになっている。このとき、冷却潤滑用油路78とオイルクーラ82との間には、図7に示されるように第1ランド98aが介在しており、オイルクーラ82には作動油が供給されないようになっている。なお、オイルクーラ82から流出しようとする作動油があったとしても、第2ランド98bによって遮断されるようになっている。
【0084】
従って、温度制御弁108が第2位置にある場合には、冷却潤滑機構48にはオイルクーラ82を介さずに作動油が供給され、供給された作動油は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却、並びに変速装置1内各所の潤滑のために使用される。
一方、温度制御弁108が第1位置にあってスプール98が第1位置にある場合、上述したような冷却潤滑用油路78から供給開始弁80を介した冷却潤滑機構48への作動油の供給は、図6に示されるように、第3ランド98cによって遮断されるようになっている。このとき、冷却潤滑用油路78とオイルクーラ82との間は、図7に示されるようにスプール98に形成された環状の第1油溝102を介して連通され、冷却潤滑用油路78内の作動油が供給開始弁80を介さずに第1油溝102を介してオイルクーラ82に供給されるようになっている。更に、オイルクーラ82で冷却されてオイルクーラ82から流出する作動油は、第2油溝104を介して冷却潤滑機構48に供給されるようになっている。
【0085】
従って、温度制御弁108が第1位置にある場合には、オイルクーラ82で冷却された作動油が冷却潤滑機構48に供給され、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却、並びに変速装置1内各所の潤滑のために使用される。
なお、このように供給開始弁80を介さずに作動油をオイルクーラ82に供給している場合には、温度制御弁108を介して油室106に供給された作動油の圧力によってスプール98が第2位置に移動した状態にあるので、オイルポンプ50の作動停止など、何らかの理由によって作動油の圧力が低下した場合にはスプール98が第1位置に戻る。このため、供給開始弁80を介さずに行われるオイルクーラ82への作動油の供給は、第1ランド98aによって遮断されることになる。このとき、供給開始弁80も作動油の圧力低下によって閉弁状態となるので、冷却潤滑用油路78の作動油は冷却潤滑機構48に供給されなくなる。
【0086】
通常、オイルポンプ50が作動を開始した当初は、まだ作動油の温度が上昇していないので、後述する油温制御によってオイルクーラ82に作動油を供給する必要は生じない。このため、上述したように温度制御弁108を第2位置とし、供給開始弁80を介して冷却潤滑機構48への作動油の供給を行うようになるので、前述したように、作動油の圧力の上昇に伴って供給開始弁80が開弁状態となると、冷却潤滑機構48に作動油が供給され始める。
【0087】
しかし、既に作動油の温度が十分に上昇していて、オイルポンプ50による作動油の供給が開始されたときに温度制御弁108が第1位置にあったとしても、供給開始弁80の場合と同様に流路切換弁84のスプール98は、油室106に供給された作動油の圧力が上昇しないと第1位置に移動しないので、作動油の圧力が上昇十分しない限り冷却潤滑機構48への作動油の供給は行われないことになる。
【0088】
上述したように、温度調整部46では温度制御弁108を第1位置と第2位置との間で切り換えることにより、オイルクーラ82を経由した冷却潤滑機構48への作動油の供給と、オイルクーラ82を経由しない冷却潤滑機構48への作動油の供給とを切り換えることが可能となっている。従って、作動油の温度に応じて温度制御弁108を第1位置と第2位置との間で切り換えれば、冷却潤滑機構48に供給される作動油の温度を適正に調整することが可能となる。
【0089】
そこで、図2に示されるように油圧回路装置42には、温度調整部46で作動油の温度を適正に調整するため、作動油の温度を検出する温度センサ(温度検出手段)110がオイルポンプ50の上流側に設けられている。ECU76は、この温度センサ110によって検出された作動油の温度に基づき、温度制御弁108を制御して作動油の温度を調整するための油温制御を実行する。
【0090】
図8は、ECU76が実行する油温制御のフローチャートである。ECU76は、エンジン4の運転中に図8のフローチャートに従い、所定の制御周期で繰り返し油温制御を実行する。
ECU76は油温制御を開始すると、ステップS11において、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの少なくとも一方が半クラッチ状態にあるか否かを判定する。ECU76は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bにそれぞれ設けられたクラッチアクチュエータの信号をモニターしており、クラッチアクチュエータからの信号に基づき、半クラッチ状態を判定する。
【0091】
ここでは第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのいずれも半クラッチ状態にないとすると、ECU76はステップS11での判定により処理をステップS12に進め、フラグF2の値が0であるか否かを判定する。フラグF2は、温度センサ110によって検出された作動油の温度Tが、所定の第1温度T1(例えば100℃)以上となったか否かを示すために用いられ、作動油の温度Tが第1温度T1以上になったときにフラグF2の値が1とされる。フラグF2の初期値は0となっているので、ここではフラグF2の値が0であるとして、ECU76は処理をステップS12からステップS13に進める。
【0092】
ステップS13においてECU76は、温度センサ110によって検出された作動油の温度Tが第1温度T1以上となったか否かを判定する。通常、油温制御を開始した当初は作動油の温度がさほど上昇していないので、ここでは作動油の温度Tが第1温度T1以上ではないと判定し、ECU76は処理をステップS18に進める。ステップS18においてECU76は、温度制御弁108を第2位置として、その制御周期を終了する。
【0093】
次の制御周期でECU76は、再びステップS11から処理を開始し、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの少なくとも一方が半クラッチ状態にあるか否かを判定する。このときも、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの双方が半クラッチ状態にないとすると、ECU76はステップS11での判定により処理をステップS12に進め、フラグF2の値が0であるか否かを判定する。
【0094】
フラグF2の値は依然として0のままであるので、ECU76は処理をステップS12からステップS13に進め、作動油の温度Tが第1温度T1以上となったか否かを再び判定する。そして、依然として作動油の温度Tが第1温度T1以上ではなければ、ECU76は処理をステップS18に進め、温度制御弁108を第2位置とする。
従って、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが共に半クラッチ状態になく、且つ作動油の温度Tが第1温度T1以上になっていなければ、温度制御弁108が第2位置に保持されることになる。
【0095】
温度制御弁108が第2位置にある場合、図7に示されるように、冷却潤滑用油路78内の作動油は流路切換弁84の油室106に供給されず、スプール98は付勢スプリング100の付勢力により第2位置にある。従って、前述したように冷却潤滑用油路78内の作動油は、オイルクーラ82に供給されることなく、供給開始弁80から、スプール98に形成された環状の第2油溝104を介して冷却潤滑機構48に供給される。こうして冷却潤滑機構48に供給された作動油は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却、並びに変速装置1内各所の潤滑のために使用される。
【0096】
クラッチフェーシングの冷却や変速装置1内での潤滑に使用されることにより、作動油の温度は徐々に上昇していく。そして、油温制御のステップS13において、温度センサ110によって検出された作動油の温度Tが第1温度T1以上となったと判定すると、ECU76は処理をステップS14に進め、フラグF2の値を1とする。更に、次のステップS15においてECU76は、温度制御弁108を第1位置とし、その制御周期を終了する。
【0097】
次の制御周期でECU76は再びステップS11から処理を開始し、依然として第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが共に半クラッチ状態になければ、処理をステップS12に進める。ステップS12においてECU76はフラグF2の値が0であるか否かを判定するが、このときのフラグF2の値は1となっているので、ECU76はステップS12の判定により処理をステップS16に進める。
【0098】
ステップS16においてECU76は、温度センサ110によって検出された作動油の温度Tが第1温度T1より低く設定された第2温度T2(例えば80℃)以下となったか否かを判定する。そして、作動油の温度Tが第2温度T2以下になっていなければ、ECU76は処理をステップS19に進め、温度制御弁108を第1位置とし、その制御周期を終了する。
【0099】
次の制御周期でも、フラグF2の値は依然として1のままであるので、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが共に半クラッチ状態になく、且つ温度センサ110によって検出された作動油の温度Tが第2温度T2以下になっていなければ、ECU76は処理をステップS19に進めて、温度制御弁108を第1位置とする。
従って、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが共に半クラッチ状態になく、且つ温度センサ110によって検出された作動油の温度Tが第2温度T2以下になっていない場合には、温度制御弁108が第1位置に保持されることになる。
【0100】
温度制御弁108が第1位置にある場合、図6に示されるように、冷却潤滑用油路78内の作動油が温度制御弁108を介して流路切換弁84の油室106に供給されるので、スプール98は第1位置にある。従って、前述したように冷却潤滑用油路78内の作動油は、スプール98に形成された環状の第1油溝102を介してオイルクーラ82に供給される。そして、オイルクーラ82で冷却された作動油は、スプール98に形成された環状の第2油溝104を介して冷却潤滑機構48に供給される。こうして冷却潤滑機構48に供給された作動油は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却、並びに変速装置1内各所の潤滑のために使用される。
【0101】
このようにしてオイルクーラ82を経由して作動油が冷却潤滑機構48に供給されることにより、作動油の温度は徐々に低下していく。そして、油温制御のステップS16において、温度センサ110によって検出された作動油の温度Tが第2温度T2以下となったと判定すると、ECU76は処理をステップS17に進め、フラグF2の値を0とする。更に、次のステップS18においてECU76は、温度制御弁108を第2位置とし、その制御周期を終了する。
【0102】
次の制御周期でECU76は再びステップS11から処理を開始し、依然として第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが共に半クラッチ状態になければ、処理をステップS12に進める。ステップS12においてECU76はフラグF2の値が0であるか否かを判定するが、このときのフラグF2の値は0となっているので、ECU76はステップS12の判定により処理をステップS13に進める。
【0103】
ステップS13においてECU76は、温度センサ110によって検出された作動油の温度Tが第1温度T1以上となったか否かを判定する。そして、前述したように、作動油の温度Tが第1温度T1以上となっていなければ、ECU76は処理をステップS18に進める。ステップS18においてECU76は、温度制御弁108を第2位置として、その制御周期を終了する。
【0104】
従って、依然として第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが共に半クラッチ状態にない場合には、作動油の温度Tが再び上昇して第1温度T1以上にならない限り、温度制御弁108が第2位置に保持されることになる。
このようにしてECU76が油温制御を行うことにより、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが共に半クラッチ状態にない場合に、オイルクーラ82を経由せずに作動油を冷却潤滑機構48に供給しているとき、作動油の温度Tが第1温度T1以上になると、オイルクーラ82を経由して作動油が冷却潤滑機構48に供給される。一方、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが共に半クラッチ状態にない場合に、オイルクーラ82を経由して作動油を冷却潤滑機構48に供給しているとき、作動油の温度Tが第2温度T2以下になると、オイルクーラ82を経由せずに作動油が冷却潤滑機構48に供給される。従って、冷却潤滑機構48に供給される作動油の温度は、第1温度T1及び第2温度T2に基づく、特定の温度範囲内に調整されることになる。
【0105】
第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却に用いられる作動油の温度が低すぎる場合、作動油の粘度が高くなりすぎて、湿式クラッチである第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bが作動する際の抵抗となってしまう。そこで、クラッチフェーシングの冷却に用いられる作動油の温度を、このようにして第1及び第2温度に基づく特定の温度範囲内に調整することにより、クラッチフェーシングの冷却をより一層効果的に行うことができるばかりではなく、作動油の粘度を適正な範囲に維持することができる。
【0106】
また、ECU76が油温制御を実行しているときに、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの少なくとも一方が半クラッチ状態となった場合には、ステップS11の判定により、ECU76が処理をステップS19に進め、温度制御弁108を第1位置として、その制御周期を終了する。
次の制御周期においても、ECU76はステップS11において第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの少なくとも一方が半クラッチ状態となったか否かを判定するので、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの少なくとも一方が半クラッチ状態となっている限りは、温度制御弁108が第1位置に保持されることになる。
【0107】
温度制御弁108が第1位置にある場合には、上述したように冷却潤滑用油路78内の作動油は、オイルクーラ82を介して冷却潤滑機構48に供給され、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bのクラッチフェーシングの冷却、並びに変速装置1内各所の潤滑のために使用される。
第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの少なくとも一方が半クラッチ状態となっている場合には、クラッチ6における発熱量が増大するため、作動油の温度が急激に上昇する可能性がある。しかしながら、油温制御では、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの少なくとも一方が半クラッチ状態にある場合には、作動油の温度にかかわらず、オイルクーラ82を介して冷却潤滑機構48に作動油が供給されるので、クラッチ6における発熱量の増大に伴い作動油の温度が過剰に上昇するのを確実に防止することができる。
【0108】
以上で本発明の一実施形態に係る変速装置用油圧回路装置についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、変速装置1が第1変速機構26及び第2変速機構34を有するダブルクラッチ式自動変速機として構成されたが、変速装置の形式はこれに限定されるものではない。即ち、本発明が適用される変速装置は、単一の変速機構を有した一般的な自動変速装置であってもよいし、運転者の操作に応じ、油圧式の変速アクチュエータ及びクラッチアクチュエータを用いて、変速段の選択操作及びクラッチ作動を行う変速装置であってもよい。いずれの変速装置においても、変速機における変速段の選択操作とクラッチの作動とが、作動油の油圧を用いて行われるものであれば、本発明を適用して同様の効果を得ることができる。
【0109】
また、上記実施形態では、リリーフ弁60と、このリリーフ弁60の作動を制御するためのライン圧制御弁74とを用いて作動油のライン圧を変更するようにしたが、ライン圧の変更方法はこれに限定されるものではなく、様々な方法を適用することが可能である。
また、上記実施形態では、流路切換弁84と、この流路切換弁84の作動を制御するための温度制御弁108とを用いて、冷却潤滑機構48に供給される作動油の温度を調整するようにしたが、作動油の温度の調整方法もこれに限定されるものではなく、様々な方法を適用することが可能である。
【0110】
また、上記実施形態では供給開始弁80を用い、オイルポンプ50が作動開始した直後で作動油の圧力が十分上昇していないときには、冷却潤滑機構48への作動油の供給を行わないようにしたが、供給開始弁80を設けるか否かは任意である。早急に作動油の圧力を立ち上げる必要がない場合や、冷却潤滑機構48への作動油の供給を行っても直ちに作動油の圧力を立ち上げられるような場合などでは、供給開始弁80を省略することもできる。
【0111】
また、上記実施形態では、作動油の温度を検出する温度センサ110をオイルポンプ50の上流側に設けたが、温度センサ110の配設位置はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の一実施形態に係る油圧回路装置が適用された変速装置の全体構成を示すスケルトン図である。
【図2】図1の変速装置に適用された油圧回路装置の全体構成図である。
【図3】図2の油圧回路装置において、ライン圧制御弁が第1位置にあるときに、開弁した状態にあるリリーフ弁とその周辺の構成図である。
【図4】図2の油圧回路装置において、ライン圧制御弁が第2位置にあるときに、開弁した状態にあるリリーフ弁とその周辺の構成図である。
【図5】ECUが実行するライン圧制御のフローチャートである。
【図6】図2の油圧回路装置において、温度制御弁が第1位置にあるときの、流路切換弁とその周辺の構成図である。
【図7】図2の油圧回路装置において、温度制御弁が第2位置にあるときの、流路切換弁とその周辺の構成図である。
【図8】ECUが実行する油温制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0113】
1 変速装置
2 変速機
6 クラッチ
44 油圧調整部(油圧調整手段)
50 オイルポンプ
54 オイルパン(貯油部材)
56 ライン圧供給油路
60 リリーフ弁
64 スプール
66 付勢スプリング
64b 第2ランド(第1受圧部)
64c 第3ランド(第2受圧部)
76 ECU(制御手段)
78 冷却用油路
82 オイルクーラ
110 温度センサ(温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯油部材に貯留された作動油を供給するオイルポンプと、
上記オイルポンプによって供給される作動油の圧力をライン圧に調圧してライン圧供給油路に供給する油圧調整手段と、
複数の変速段を有し、上記油圧調整手段から上記ライン圧供給油路を介して供給される作動油を用いて上記変速段の選択操作を行う変速機と、
上記油圧調整手段から上記ライン圧供給油路を介して供給される作動油を用いて断接作動し、接続状態にあるときに上記変速機に動力を伝達する一方、切断状態にあるときに上記変速機への動力の伝達を遮断するクラッチと、
上記変速機の変速段の選択操作を行う際には、上記クラッチの断接作動に用いられる上記作動油のライン圧より高いライン圧となるように上記油圧調整手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする変速装置用油圧回路装置。
【請求項2】
上記油圧調整手段は、開弁したときに、上記オイルポンプから供給される作動油を上記オイルポンプより上流側に戻すリリーフ弁を備え、
上記リリーフ弁は、
開弁位置と閉弁位置との間で移動可能なスプールと、
上記スプールを閉弁方向に付勢する付勢スプリングと、
上記スプールに設けられ、上記ライン圧供給油路の作動油の圧力が常時印加されて、上記スプールを開弁方向に押圧する第1受圧部と、
上記スプールに設けられ、上記ライン圧供給油路の作動油の圧力が印加されたときに、第1受圧部による上記スプールの押圧に加えて上記スプールを開弁方向に押圧する第2受圧部とを備え、
上記制御手段は、上記リリーフ弁の上記第2受圧部への作動油の印加の有無を切り換えることにより、上記ライン圧の変更を行うことを特徴とする請求項1に記載の変速装置用油圧回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−121699(P2010−121699A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295513(P2008−295513)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】