説明

多層回路基板

【課題】発熱量の大きい電子部品を表層(第1層)面に載置することなく、当該電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を向上させた多層回路基板を提供する。
【解決手段】本多層回路基板は、導体層と樹脂製の絶縁層とを交互に積層してなる板状の積層回路部120と、6つのMOSFET15,16を実装した金属基板部110とを備え、積層回路部120の下面の開口部以外の部分が金属基板部110の上面と接するよう接着剤やネジ止めなどで固定され、MOSFETの上部は開口部を通して積層回路部120の配線導体12にワイヤボンディングされている。このように電子部品を積層回路部120上ではなく、金属の単層回路基板部110上に直接実装することにより、当該電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層回路基板に関し、典型的にはこれを用いた電動パワーステアリング装置に使用されるモータ駆動回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の電動パワーステアリング装置は、運転者がハンドルに与えた操舵トルクや車両の速度などに応じて、好適な操舵補助力が得られるように操舵補助用モータを駆動する。操舵補助用モータは、電子制御ユニット(Electronic Control Unit :以下、ECUという)に内蔵されたモータ駆動回路によって駆動される。モータ駆動回路は、操舵補助用モータを駆動するときに500W〜2000W程度の大電力を制御する。
【0003】
このときモータ駆動回路は発熱するが、この発熱によるECUの誤動作や故障を防止するために、モータ駆動回路は熱伝導性の良い回路基板に実装される。モータ駆動回路は、例えば図13(a)に示すように、アルミ製の金属基板93(ヒートシンク)の上に銅製の導体層91と樹脂製の絶縁層92とを1層ずつ形成した金属製の回路基板に実装される。
【0004】
図13(a)に示す回路基板には電子部品を片面(具体的には、導体層91の上)にしか実装できないので、ECU内でこの回路基板の占有面積が大きくなる。そこで基板面積を縮小する1つの方法として、図13(b)に示すように回路基板を多層化する方法が考えられる。図13(b)に示すセラミック多層基板は、銅製の導体層91とセラミック製の絶縁層94とを多層に積層し、それとアルミ製の金属基板93(ヒートシンク)との間に接着用絶縁樹脂95を挟んで熱圧着することにより互いを貼り付けたものである。このように多層化することにより回路導体の長さ(配線長)を短くすることができるので、そのインダクタンスを小さく抑えることができ、そのことによりスイッチングノイズの発生を抑制することができる。
【0005】
なお、本願発明に関連して、以下のような先行技術が知られている。特許文献1には、内面に銅メッキなどで導体層を形成し内部に樹脂を充填した放熱ビアを設けた低コストで熱伝導性が良い多層回路基板の構成が開示されている。また、特許文献2には、ベアチップの状態のパワー素子が搭載された単層基板と他の素子が搭載された多層基板とがそれぞれヒートシンクに取り付けられる構成が開示されている。さらに特許文献3には、ベアチップ部品をヒートスプレッダ上に固定する構成が開示されている。さらにまた特許文献4には、テーパ付きヒートシンクの構成が開示されている。さらに特許文献5には、プリント基板を打ち抜き加工するとき、打ち抜き箇所にスリットを形成する構成が開示されている。さらにまた特許文献6には、モータ各相に対応して設けられる複数のバスバーが絶縁ホルダで間隔を空けて保持されている構成が開示されている。
【特許文献1】国際公開第2008/078739号パンフレット
【特許文献2】特開2006−158152号公報
【特許文献3】特開平3−204996号公報
【特許文献4】特開2000−155164号公報
【特許文献5】特開平9−83106号公報
【特許文献6】特開2003−134753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、多層回路基板は金属単層の回路基板よりも熱伝導率が悪いため、その放熱には上記公報に記載の手法を始めとして様々な工夫がなされている。特に多層回路基板にパワーMOSFETなどの発熱量の大きい電子部品が搭載される場合、当該電子部品自体にヒートシンクを取り付けたり、当該電子部品の裏面から垂直に延びる放熱ビアを多層回路基板に形成するなどの工夫がなされている。しかし、これら従来の手法では、当該電子部品を多層回路基板の表層(第1層)面に(はんだ付けなどにより固定して)載置することが前提となっているので、これらの電子部品から多層回路基板の最下層にある金属ベースまでの熱伝導に着目するとき、その放熱効率を向上させることは極めて困難である。
【0007】
そこで本発明は、発熱量の大きい電子部品を表層(第1層)面に載置することなく、当該電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を向上させた多層回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、導体層と樹脂製の絶縁層とを交互に積層してなる板状の積層回路部と、
電子部品を実装した金属基板部とを備え、
前記積層回路部の下面の少なくとも一部が前記金属基板部の上面の少なくとも一部と接するよう固定されていることを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記積層回路部は、前記金属基板部に実装される前記電子部品のうちの少なくとも一部の上面と接しないよう、対応する部分が開口されていることを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記積層回路部は、前記金属基板部とネジ止めされまたは接着剤により接着されていることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、導体層と樹脂製の絶縁層とを交互に積層してなる板状の積層回路部と、
電子部品を実装しており、前記導体層のうちの最上層の導体層から前記絶縁層のうちの最下層の絶縁層の直上または前記導体層のうちの最下層の導体層の直上までの深さに形成される前記積層回路部の凹部に嵌め入れられたヒートスプレッダと、
前記最下層の絶縁層に固着されている金属基板部とを備えることを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、第4の発明において、
前記積層回路部は、前記金属基板部と熱圧着されることにより固着されており、
前記ヒートスプレッダは、前記熱圧着後における前記最上層の導体層から前記最下層の絶縁層の直上または前記最下層の導体層の直上までの深さ以下となる前記深さ方向の長さを有しており、前記電子部品における前記深さ方向の長さより大きい深さのざぐり部内に前記電子部品を実装することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記第1の発明によれば、典型的には発熱量の大きい電子部品を積層回路部ではなく、金属基板部に実装することにより、当該電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を向上させることができる。また、このような簡易な構成により、積層回路部に放熱ビアを形成したり、高価な高熱伝導樹脂を使用する必要がなくなるので製造コストを下げることができる。
【0014】
上記第2の発明によれば、金属基板部に実装される電子部品に対応する位置の積層回路部が開口されるので、例えば当該開口部を通して電子部品から積層回路部へワイヤボンディングなどを容易に施すことができ、またこのような開口部は簡単に形成することができるので製造コストを下げることができる。また、このような構成により基板を小型化することができる。
【0015】
上記第3の発明によれば、積層回路部と金属基板部とはネジ止めされまたは接着剤により接着されているので、積層回路部に熱容量の異なる金属基板部を熱圧着により固着させる必要がなくなり、簡単に製造することができる。またこのような構成では、熱圧着後の冷却時に基板が反ることより多層回路基板に取り付けられたヒートシンクへの熱伝導が妨げられるようなことがなくなり、(ヒートシンクから)十分に放熱を行うことができる。
【0016】
上記第4の発明によれば、典型的には発熱量の大きい電子部品を積層回路部の表層ではなく、金属基板部の直上の絶縁層(すなわち、最下層の絶縁層)または導体層のうちの最下層の導体層に接する深さに形成される積層回路部の凹部に嵌め入れられたヒートスプレッダ上に実装する。このことにより、当該電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を(例えば従来の放熱ビアなどに比べて)大きく向上させることができる。また、このような簡易な構成により、多層回路基板に微細な構造の放熱ビア等を形成する必要がなくなるので製造コストを下げることができる。
【0017】
上記第5の発明によれば、積層回路部を金属基板部と熱圧着する際に、電子部品を実装した状態のヒートスプレッダが熱圧着の邪魔にならず、また電子部品が熱圧着により破壊されることがなく、かつ当該ヒートスプレッダを適切に熱圧着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<1. 第1の実施形態>
<1.1 多層回路基板の構成>
本実施形態に係る多層回路基板は、電動パワーステアリング装置用のモータ駆動回路基板であって、このモータ駆動回路基板は、電動パワーステアリング装置用ECU(電子制御ユニット)に内蔵して使用される。
【0019】
このECUには、操舵補助用モータに供給する駆動電流の量を算出するモータ制御回路と、大電流を制御して操舵補助用モータを駆動するモータ駆動回路とが含まれる。モータ制御回路はその動作時の発熱量が少なく流れる電流も小さいが、モータ駆動回路はその動作時の発熱量が多く流れる電流も大きい。このようなモータ駆動回路はモータ駆動回路基板に実装されており、モータ制御回路はこれとは別の回路基板に実装されている。これら2枚の回路基板は、ECUの内部に並べてあるいは2段に積み重ねられるよう配置される。以下、モータ駆動回路基板である多層回路基板の構造について図1から図4までを参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板における各層の構造を示す分解斜視図であり、図2は、この多層回路基板の外観斜視図であり、図3はこの多層回路基板の一部の断面図である。また、図4は、この回路基板の回路図である。
【0021】
これらの図に示される多層回路基板100は、単層回路基板部110と積層回路部120とを(例えばエポキシ樹脂からなる)接着剤で接着することにより形成される。なお、これらをネジ止めなどの周知の方法で固定することにより形成してもよい。単層回路基板部110はアルミなどの金属からなる単層の回路基板であって、例えばFETなどの半導体やシャント抵抗などの発熱量の大きい電子部品が実装される。なお単層回路基板部110表面には、これらの電子部品を電気的に接続する所定の配線も設けられている。
【0022】
また積層回路部120は3つの導体層とこれらの間に設けられる絶縁層とを熱圧着した3層構造を有している。この導体層は導電性の高い銅などの金属からなり、絶縁層はガラス繊維に絶縁樹脂材を含浸させた合成物(いわゆる、プリプレグ)からなる。
【0023】
さらに具体的に説明すると、この多層回路基板100の単層回路基板部110表面には、図4に図示されている抵抗体17と、6つのMOSFET15u、15v、15w、16u、16v、16wとが載置されている。そして、これら6つのMOSFETの表層(上面)が外部に露出し、かつ6つのMOSFETの基板面からの突出部分(立体構造部分)が収まるよう、積層回路部120の対応する位置が開口されている。この開口部を通して上記MOSFETにおける上部の接続端子と、積層回路部120の第1層(表層)の所定位置に設けられる配線導体12とが3本のアルミ線11でワイヤボンディングされている。このような構造により、積層回路部120において生じる熱は熱伝導率のよい単層回路基板部110を経て、この単層回路基板部110の裏面に接着されている図示されないヒートシンクなどから放熱される。また、MOSFETなどの発熱量の大きい電子部品は単層回路基板部110に(直に)実装されているので、積層回路部120の表層に実装される場合よりも効率よく放熱されることになる。
【0024】
また、積層回路部120は電源配線や接地配線、その他の配線などが3層に渡って設けられている。これらの配線は、図4に示されるように、モータ駆動回路に含まれるMOSFET15u、15v、15wのドレイン端子を図示されない電源部のプラス極に接続し、そのソース端子を対応するモータ各相の入力端に接続する。また、MOSFET16u、16v、16wのソース端子を抵抗体17を介して図示されない電源部のマイナス極(接地極)に接続し、そのドレイン端子を対応するモータ各相の入力端に接続する。
【0025】
なお、モータ駆動回路基板である多層回路基板100における単層回路基板部110の表層には電流検出用センサなどが実装されていてもよいし、積層回路部120の表層には発熱量の小さい電子部品、例えばノイズ除去用コイル、電源遮断用リレー、モータ相電流遮断用のリレーなどが実装されていてもよい。
【0026】
また、積層回路部120には開口部が設けられているが、積層回路部120の裏面が単層回路基板部110の表面と接することにより積層回路部120の放熱が図られる構成であれば必ずしも開口部が設けられる必要はなく、例えばMOSFETの立体構造部分が収まる程度の大きさの凹部が設けられる構成であってもよい。もっとも、前述のように開口部を設ける構成では、この開口部を通して積層回路部120の回路導体へワイヤボンディングを容易に行うことができ、また開口部自体も簡単に形成することができるので、より好適である。
【0027】
さらに、単層回路基板部110の方がMOSFETの立体構造部分を収める凹部を備えていてもよいし、MOSFETの表層(最上面)まで単層回路基板部110の表面に熱伝導樹脂などの熱伝導素材を載置または塗布することにより積層回路部120の裏面が単層回路基板部110の表面と接する構成であってもよい。これらの場合には上記ワイヤボンディングに代えて、例えばMOSFETに接触する積層回路部120の裏面位置に電極パッドを設けこれとMOSFETの上面とをはんだ付けするなどして電気的に接続する必要が生じる。
【0028】
さらにまた、単層回路基板部110を省略し、発熱量の大きい電子部品であるMOSFETなどを絶縁層などを挟んで(配線層を有しない)ヒートシンクに直接取り付け、単層回路基板部110に含まれていた配線に代えて、ワイヤボンディングや積層回路部120の回路導体により配線を行う構成であってもよい。
【0029】
<1.2 第1の実施形態の効果>
以上のように、配線や発熱量の小さい電子部品を積層回路部120に設け、発熱量の大きい電子部品を積層回路部120上ではなく、金属の単層回路基板部110上に直接実装することにより、当該電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を向上させることができる。
【0030】
また、このような簡易な構成により、積層回路部120に放熱ビアを形成したり、高価な高熱伝導樹脂を使用する必要がなくなるので製造コストを下げることができる。さらに、単層回路基板部110と積層回路部120とは接着剤やネジ止めなどで固定することができるので、簡単に製造することができるとともに、積層回路部120に熱容量の異なる金属基板である単層回路基板部110を熱圧着により固着させる必要がなくなる。そのため熱圧着後の冷却時に基板が反ることよりヒートシンクへの熱伝導が妨げられるようなことがなくなり、ヒートシンクから十分に放熱を行うことができる。
【0031】
<2. 第2の実施形態>
<2.1 多層回路基板の構成>
本実施形態に係る多層回路基板も第1の実施形態の場合と同様、電動パワーステアリング装置用のモータ駆動回路基板であって、このモータ駆動回路基板は、電動パワーステアリング装置用ECU(電子制御ユニット)に内蔵して使用される。以下、モータ駆動回路基板である多層回路基板の構造について図5から図7までを参照して説明する。
【0032】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る多層回路基板における各層の断面構造を示す斜視図であり、図6は、この多層回路基板に含まれるヒートスプレッダおよび半導体素子の外観斜視図であり、図7は、従来の多層回路基板における各層の断面構造を示す斜視図である。
【0033】
図5に示す多層回路基板は、第1の導体層21から第4の導体層24までの各導体層の間に絶縁層25を挟むことにより、導体層と絶縁層とを交互に積層してなる積層回路部と、放熱のためにその下に取り付けられる金属基板20とを備えている。
【0034】
金属基板(金属ベース)20は、アルミなど熱伝導性の良い金属で形成され、ヒートシンクとして機能する。金属基板20は、絶縁層25のうち最下層の絶縁層に接するように設けられ、当該絶縁層と熱圧着されている。
【0035】
また上記積層回路部を構成する第1から第4までの導体層21〜24は、銅などで形成される回路パターンを含み、絶縁層25はガラス繊維に絶縁樹脂材を含浸させた合成物(いわゆる、プリプレグ)で形成される。なお、第1から第4までの導体層21〜24は、銅の代わりにアルミ、ニッケル、銀、チタン、金等の金属、またはこれら金属の合金、あるいはそれらの表面にニッケルメッキまたはニッケル/金メッキがされたもので形成されていてもよい。また、これらの金属、合金、積層膜は、加圧接着法、スパッタ法、化学蒸着法、真空蒸着法、厚膜印刷法のいずれかまたはそれらの組み合わせによって形成してもよい。
【0036】
この積層回路部は、図5に示されるように第1から第4までの導体層21〜24と複数の絶縁層25とを交互に重ねて熱圧着することにより形成されており、最上層である導体層21には、第1および第2の回路パターン210a,210bが含まれており、同様に第2層22から第4層24までにはそれぞれ対応する回路パターン220〜240が含まれている。なお、これらの回路パターンの形成はエッチングレジストの形成やエッチングなどの周知の処理によって行われる。
【0037】
また、この積層回路部には第1の導体層21から最下層の絶縁層25の直上までの深さzを有する凹部が形成されており、この凹部内に本実施形態の特徴的な形状を有する銅製(またはその他の熱伝導率が大きい金属製の)ヒートスプレッダ200が圧入されている。このヒートスプレッダ200には、熱を発する電子部品、ここでは半導体素子であるMOSFET211が載置されており、高温はんだ202によりヒートスプレッダ200にはんだ付けされている。この高温はんだ202は、通常のはんだよりも融点の高いはんだであって、他の電子部品を通常のはんだで第1の導体層21の回路パターン上にはんだ付けするときにも融解しないため、MOSFET211をヒートスプレッダ200に固着させるのに好適である。
【0038】
すなわち、本実施形態の多層回路基板は、(1)上述の手法により多層回路基板を形成した後、(2)上記凹部が形成されるよう多層回路基板にざぐり加工を施し、(3)高温はんだ202によりMOSFET211をはんだ付けしたヒートスプレッダ200を上記凹部に圧入した後、(4)その積層回路部の最下層の絶縁層(接着層)を金属基板20に熱圧着させ、(5)最後にその他の電子部品をはんだ付けし、ヒートスプレッダ200の上部および第1の回路パターン210aと、MOSFET211の上部および第2の回路パターン210bとをそれぞれ3本のアルミ線201a,201bでワイヤボンディングすることにより形成される。
【0039】
なお、ヒートスプレッダ200の上部と第1の回路パターン210aとのワイヤボンディングを省略し、ヒートスプレッダ200の底面を第4の導体層24の回路パターンに圧接またははんだ付けするなど、電気的な接続には周知の様々な手法を用いることができる。また、積層回路部の最下層の絶縁層は接着層として機能するよう説明したが、さらに別に接着層を挟んで金属基板20を接着する場合には、この接着層が積層回路部の最下層の絶縁層となる。
【0040】
このように、ヒートスプレッダ200はMOSFET211をはんだ付けした後で圧入されるので、例えば直方体のヒートスプレッダ200上にMOSFET211を載置すれば圧力によりMOSFET211が破壊される可能性がある。そこで、図6に示すようにヒートスプレッダ200にはこのMOSFET211が収まるよう(圧入加工による圧力の影響を受けないよう)ざぐり加工が施されて、凹部であるざぐり部が形成されている。したがって、このざぐり部の深さa2は、MOSFET211の深さ方向の長さ(厚さ)bに高温はんだの厚さを加えた長さよりも或る程度(例えば200μm以上)大きい値となっている。すなわち、a2>bの関係となっている。また、ヒートスプレッダ200自体の厚さa1は金属基板20を熱圧着した後の多層回路基板の第1の導体層21から最下層の絶縁層25の直上までの深さzと同一かそれよりやや小さい値が望ましい。もしこの深さzより大きければ金属基板20を熱圧着する際の妨げとなるからである。また、この深さzより相当小さければヒートスプレッダ200自体を絶縁層25を介して金属基板20に熱圧着することが困難になるからである。このように、a1≦zの関係となる。
【0041】
以上のように上記ヒートスプレッダ200の形状は従来と大きく異なる。そこで、図7に示される従来の多層回路基板の構成と比較しつつヒートスプレッダ200の機能等について説明する。なお、図7に示される多層回路基板について、図6に示される構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。なお、積層回路部の凹部の深さは、最上層の導体層から、最下層の導体層の直上までの深さに形成してもよい。
【0042】
図7に示されるスルーホール26は、図6に示される多層回路基板から省略されている構成要素であって、第1から第4までの導体層21〜24と複数の絶縁層25との厚さ方向に周知の手法で形成された層間接続孔であって孔の内面に銅メッキなどの金属メッキの導体層を形成し、内部に樹脂を充填したものである。なお、このような貫通構造により、スルーホール26は、第1の導体層21に含まれる回路パターン210c上に(従来の)ヒートスプレッダ212を挟んで載置されるMOSFET211において発生した熱を金属基板20の直上の絶縁層(すなわち、最下層の絶縁層)まで熱伝導性良く伝える放熱機能を有している。
【0043】
しかし図7に示す従来の多層回路基板に形成されるスルーホール26による放熱効果は、本実施形態の多層回路基板に備えられるヒートスプレッダ200による放熱効果よりも相当程度低いものとなっている。すなわち、図5および図6に示されるように、ヒートスプレッダ200はMOSFET211において発生した熱を金属基板20の直上の絶縁層(すなわち、最下層の絶縁層)まで直接伝えるので、スルーホールのように細い孔によって伝える場合よりもはるかに高い放熱機能を有している。
【0044】
<2.2 第2の実施形態の効果>
以上のように、MOSFET211などの発熱量の大きい電子部品を多層回路基板の表層ではなく、金属基板20の直上の絶縁層(すなわち、最下層の絶縁層)に圧接される深さを有するヒートスプレッダ200上に実装することにより、当該電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を(典型的には放熱ビアによる場合よりも)大きく向上させることができる。また、このような簡易な構成により、多層回路基板に微細な構造の放熱ビアを形成する必要がなくなるので製造コストを下げることができる。
【0045】
<3. 変形例>
<3.1 第1の実施形態の変形例>
前述した第1の実施形態では、配線や発熱量の小さい電子部品を積層回路部120に設け、発熱量の大きい電子部品を金属の単層回路基板部110に実装し、積層回路部120と単層回路基板部110とをネジ止めなどで固定する構成である。しかし、この積層回路部は1つである必要はなく、図8に示されるように複数の積層回路部が1つの単層回路基板部に固定される構成の多層回路基板であってもよい。このような構成であっても、第1の実施形態の場合と同様、電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を向上させることができる。以下、図8を参照して詳しく説明する。
【0046】
図8は、このような第1の実施形態の変形例に係る多層回路基板の断面図である。この図8に示されるように、この多層回路基板は、第1の実施形態の場合と同様、電動パワーステアリング装置用のモータ駆動回路基板であって、アルミ等の金属からなる単層回路基板部310と、第1の実施形態の場合と同様の積層構造を有する積層回路部320とを例えばはんだ等で接着することにより形成される。すなわち積層回路部320の底面には電極パッドが設けられており、単層回路基板部310とはんだにより接続される。なお、単層回路基板部310と積層回路部320とを接着剤で接着し、これらをワイヤボンディングなどにより電気的に接続する構成であってもよい。
【0047】
また、単層回路基板部310には、第1の実施形態の場合と同様、発熱量の大きい電子部品、具体的には抵抗体17と、6つのMOSFET15u、15v、15w、16u、16v、16wとが載置される(なお図8ではMOSFET15uのみが示されている)。なお、図示されていないが、これらのMOSFETは積層回路部320の第1層(表層)の所定位置に設けられる配線導体とアルミ線等でワイヤボンディングされている。さらに、積層回路部320には、電源配線や接地配線、その他の配線などの他、発熱量の小さい電子部品、ここではチップ抵抗18やチップコンデンサ19などが載置されている。
【0048】
このような構造により、積層回路部120において生じる熱は熱伝導率のよい単層回路基板部310を経て、この単層回路基板部310の裏面に接着されている熱容量の大きいヒートシンク330から放熱される。また、MOSFETなどの発熱量の大きい電子部品は単層回路基板部310に(直に)実装されているので、積層回路部320の表層に実装される場合よりも効率よく放熱されることになる。
【0049】
以上のように、上記構成によれば当該電子部品から金属基板への熱伝導による放熱効率を向上させることができる。また第1の実施形態の場合と同様、積層回路部320に放熱ビアを形成する必要がないので製造コストを下げることができる。さらに、単層回路基板部310と積層回路部320とを熱圧着により固着させる必要がなくなるので、冷却時に基板がそることなくヒートシンク330から十分に放熱を行うことができる。
【0050】
<3.2 その他の変形例>
<3.2.1 ヒートシンクについて>
前述した第1および第2の実施形態では、MOSFETのような発熱量の大きい電子部品を金属基板に直接実装することにより放熱効果を高める構成であるが、この金属基板に伝わる熱を周囲に放出するヒートシンクの形状については詳しく説明していない。ここでは、図9および図10を参照して、電動パワーステアリング装置用のモータ駆動回路基板ではコンパクトに配置することが難しい電解コンデンサの配置がしやすくなり、かつ放熱効果をさらに高めることができる形状を有するヒートシンクについて説明する。
【0051】
図9は、従来のモータ駆動回路基板におけるヒートシンクと電解コンデンサの配置位置とを説明するための断面図である。図9に示されるように、電解コンデンサ14はバスバー40により多層回路基板410に接続されており、この多層回路基板410の裏面はヒートシンク439に固定されている。また、多層回路基板410には発熱量の大きいMOSFET15uが載置されている。なお図示されていないが他の発熱量の大きい素子もその近傍に配置されているものとする。
【0052】
ここで、電解コンデンサ14は、電源部にできるだけ近い位置に配置することが好ましい。モータ駆動回路に与えられるPWM信号の周波数は数十キロヘルツであるので、この周波数で電流変動が生じる結果、電流経路上のインピーダンスにより不要な電圧変動が生じる。電解コンデンサ14はこのインピーダンスを減らすことにより電圧変動を抑制する作用を有している。したがって、電源部付近に配置することが好ましいが、その縦長の円筒形状により多層回路基板410の表面に(立てて)載置すると全体の大きさ(高さ)が大きくなり小型化が図れなくなる。そこで、モータケースなどに取り付けられるヒートシンク439の底面にその側面位置を合わせるように、電解コンデンサ14は、バスバー40を介して例えば図9に示すような位置に取り付けられることが多い。
【0053】
しかし、電解コンデンサ14をバスバー40を介して多層回路基板410に接続すると、電源までの経路が長くなるためインピーダンスが大きくなり電圧変動を抑制する効果を十分に発揮することができなくなる場合もある。そこで、図10に示されるように、ヒートシンクを従来とは異なる特徴的な形状とすることにより、電解コンデンサ14を多層回路基板410に直接接続する。
【0054】
図10は、従来とは異なる特徴的な形状を有するヒートシンクと電解コンデンサの取り付け位置とを説明するための断面図である。図10に示されるように、従来とは異なる特徴的な形状を有するヒートシンク430は、電解コンデンサ14と接続される部分が薄くなり、発熱量の大きいMOSFET15uなどの電子部品が載置されている直下では厚くなるような形状を有している。すなわち、ヒートシンク430の一端部分は、その裏面と電解コンデンサ14の側面とが同じ高さとなり、かつ電解コンデンサ14から出ている端子をヒートシンク430上に取り付けられた多層回路基板410上の配線導体に対してそのままはんだ付けできるような高さとなる形状を有している。
【0055】
このような構成により、バスバーを使用することなく電解コンデンサ14を多層回路基板410に直接接続することができるので、接続経路を短くして電圧変動の抑制効果を高めることができる。また、薄くなった部分によりヒートシンクの熱容量が小さくならないよう、発熱量の大きいMOSFET15uなどの電子部品が載置されている直下で厚くなる形状を有しているので、これらの電子部品から伝わる熱を従来のヒートシンク439よりもさらに効率的に拡散し放出することができる。なお、このようなヒートシンク430に取り付けられる回路基板の構造は上記各実施形態と同様の多層回路基板である必要はなく、周知の回路基板、例えば単層の回路基板であってもよい。
【0056】
<3.2.2 その他の多層回路基板の構成>
次に、前述した第1の実施形態の変形例のように電圧変動の抑制効果を有する多層回路基板であって、上記各実施形態における積層回路部の構造が異なる多層回路基板の構成例について図11を参照して説明する。
【0057】
図11は、各実施形態とは異なる構造の多層回路基板を示す断面図である。この図11に示されるように、この多層回路基板500は、上記各実施形態とは異なる特徴的な構造を有する積層回路部510と、アルミ製の金属基板520とからなり、この金属基板520の裏面(下面)にヒートシンク530の表面(上面)が接するよう取り付けられている。
【0058】
この積層回路部510は、絶縁樹脂層と導体層との積層構造を有する点では上記各実施形態の場合と同様であるが、電源線を構成する広い面積を有する(ベタの)回路導体(以下電源パターンという)52aと、接地線を構成する広い面積を有する(ベタの)回路導体(以下GNDパターンという)52bとが厚みのある(例えば1ミリ程度の)バスバーにより構成されており、樹脂インサート成形品となっている特徴的な構造を有する。
【0059】
すなわち、図11に示す電源パターン52aおよびGNDパターン52bの間には、絶縁樹脂である成形樹脂53が充填されており、通常の積層回路部の製造工程では形成することが困難な厚みのあるバスバーで電源パターン52aおよびGNDパターン52bを形成することができる。
【0060】
このような電源パターン52aおよびGNDパターン52bの間に成形樹脂53が充填されることにより樹脂インサート成形された成形品の両面には絶縁層(接着層)が接着されている。この成形品の両面の絶縁層(接着層)上にはそれぞれ銅箔が貼り付けられ、所定の形状になるようエッチング処理をすることにより回路パターン51が形成されている。
【0061】
以上のように厚みのある電源パターン52aおよびGNDパターン52bを形成することにより、電源線および接地線のインピーダンスを減少させることができるので、モータ駆動回路に与えられるPWM信号の周波数に応じて生じる前述した不要な電圧変動を抑制することができる。
【0062】
<3.2.3 多層回路基板の製造について>
また、上記各実施形態における多層回路基板を製造する場合、一般的には同一の(回路)内容である複数個の多層回路基板を1つの元基板に形成し、最終工程においてこの元基板を各多層回路基板毎に切断、具体的には金型で型抜きすることにより複数個の多層回路基板を製造するのが一般的である。
【0063】
ここで、型抜きする時に多層回路基板の回路部分が欠損するなどの異常が生じないように、切断位置から各多層回路基板の(最も端の)回路導体までは十分なクリアランス距離をとらなければならない。しかしこのようにクリアランスを大きく取ると、各多層回路基板のサイズも大きくなってしまい、また無駄な部分が増えるため製造コストが増加する。そこで、このクリアランスを小さくすることができる元基板の構成を図12を参照して以下に説明する。
【0064】
図12は、複数の多層回路基板を含む元基板の概略的な平面図および断面図である。なお、図中の回路導体位置やスルーホール位置は概略的なものであり実際の位置とは異なる。この図12に示されるように、元基板600は複数の多層回路基板を含んでおり、この多層回路基板は上記各実施形態の場合と同様の積層回路部610と金属基板(金属ベース)630とからなり、金属基板630の切断予定位置にはスリット631が形成されている。
【0065】
このような元基板600は、(1)上記各実施形態の場合と同様に複数の積層回路部610を形成するとともに、(2)金属基板630の切断予定位置にフライス、ルータ、マイクロカッタなどで図12に示すようなスリットを形成する。(3)その後、スリットが形成された金属基板630の上面(表面)に積層回路部610の下面(裏面)を熱圧着する。(4)このように形成された元基板600を最終的に金型で型抜きする。この型抜きの工程ではスリット631が形成されている位置に切断のための力が集中的に加わるので、金属基板630に対して比較的弱い力を加えても正確に切断予定位置で切断することができる。したがって、多層回路基板に強い力が加える必要がないので、多層回路基板の回路部分が欠損するなどの異常を生じないようにすることができる。
【0066】
このように、元基板600に上記スリットを形成することにより、図12に示すクリアランス距離dをより小さくすることができるので、各多層回路基板のサイズをより小さくすることができ、また無駄な部分が少なくなるため製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板における各層の構造を示す分解斜視図である。
【図2】上記実施形態における多層回路基板の外観斜視図である。
【図3】上記実施形態における多層回路基板の一部の断面図である。
【図4】上記実施形態における多層回路基板の回路図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る多層回路基板における各層の断面構造を示す斜視図である。
【図6】上記実施形態における多層回路基板に含まれるヒートスプレッダおよび半導体素子の外観斜視図である。
【図7】従来の多層回路基板における各層の断面構造を示す斜視図である。
【図8】上記第1の実施形態の変形例に係る多層回路基板の断面図である。
【図9】従来のモータ駆動回路基板におけるヒートシンクと電解コンデンサの配置位置とを説明するための断面図である。
【図10】従来とは異なる特徴的な形状を有するヒートシンクと電解コンデンサの取り付け位置とを説明するための断面図である。
【図11】上記各実施形態とは異なる構造の多層回路基板を示す断面図である。
【図12】複数の多層回路基板を含む元基板の概略的な平面図および断面図である。
【図13】従来の多層回路基板の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
11,201…アルミ線、12…配線導体、14…電解コンデンサ、15u,15v,15w,16u,16v,16w…MOSFET、17…抵抗体、18…チップ抵抗、19…チップコンデンサ、20,520,630…金属基板、21〜24…第1〜第4の導体層、25…絶縁層、26…スルーホール、40…バスバー、51,210a,210b,220〜240…回路パターン、52a…電源パターン、52b…GNDパターン、53…成形樹脂、100,410,500…多層回路基板、110,310…単層回路基板部、120,320,510,610…積層回路部、200…ヒートスプレッダ、330,430,530…ヒートシンク、600…元基板、d…クリアランス距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体層と樹脂製の絶縁層とを交互に積層してなる板状の積層回路部と、
電子部品を実装した金属基板部とを備え、
前記積層回路部の下面の少なくとも一部が前記金属基板部の上面の少なくとも一部と接するよう固定されていることを特徴とする、多層回路基板。
【請求項2】
前記積層回路部は、前記金属基板部に実装される前記電子部品のうちの少なくとも一部の上面と接しないよう、対応する部分が開口されていることを特徴とする、請求項1に記載の多層回路基板。
【請求項3】
前記積層回路部は、前記金属基板部とネジ止めされまたは接着剤により接着されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の多層回路基板。
【請求項4】
導体層と樹脂製の絶縁層とを交互に積層してなる板状の積層回路部と、
電子部品を実装しており、前記導体層のうちの最上層の導体層から前記絶縁層のうちの最下層の絶縁層の直上または前記導体層のうちの最下層の導体層の直上までの深さに形成される前記積層回路部の凹部に嵌め入れられたヒートスプレッダと、
前記最下層の絶縁層に固着されている金属基板部とを備えることを特徴とする、多層回路基板。
【請求項5】
前記積層回路部は、前記金属基板部と熱圧着されることにより固着されており、
前記ヒートスプレッダは、前記熱圧着後における前記最上層の導体層から前記最下層の絶縁層の直上または前記最下層の導体層の直上までの深さ以下となる前記深さ方向の長さを有しており、前記電子部品における前記深さ方向の長さより大きい深さのざぐり部内に前記電子部品を実装することを特徴とする、請求項4に記載の多層回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−73767(P2010−73767A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237471(P2008−237471)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】