説明

多層管の界面状態検出装置および界面状態検出方法

【課題】非接触、非破壊で鋼管に対する樹脂ライニングの接着状況や樹脂ライニングにおけるピンホールの有無などの物理的(界面状態)欠陥を高精度かつ効率的に検出可能にする。
【解決手段】レーザ発振器1からレーザビームを受けて鋼管14aの表面に励起された超音波を鋼管14aおよび樹脂ライニング14b内に進行させて、これらの界面Pと樹脂ライニング14b内面とから反射される各超音波対応の反射光をそれぞれレーザ干渉計8により検出し、検出した前記各反射光の情報に基づいて、演算処理部11が鋼管14aと樹脂ライニング14bとの界面Pにおける欠陥情報を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層管の製造工程において、該多層管を構成する鋼管と該鋼管内面に被覆される樹脂ライニングとの界面に発生する欠陥を検出する多層管の界面状態検出装置および界面状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配水管、特に鋼管では長年の通水により内面の腐食が進み、赤水や濁水の発生あるいはスケールの付着等さまざまの問題が発生している。このため、今日では、耐久性、耐蝕性に優れた多層管の普及が図られるようになった。前記多層管は、例えば鋼管の内面に硬質塩化ビニールやポリエチレンを被覆した樹脂ライニング構成を持つ。
【0003】
前記樹脂ライニングは、多層管の生産ラインにおいて、鋼管の内面に前記硬質塩化ビニール等を加熱融着することによって行われ、長期間に亘って初期の耐食性や耐久性を維持するためには、前記加熱融着後の密着力や膜厚の品質管理が重要になってくる。これまでは多層管の生産ラインで多層管を任意数分抜き取って、鋼管に対する樹脂ライニングの接着性の試験を種々の方法を用いて実施している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記のような多層管の抜き取りによって鋼管に対する樹脂ライニングの良否判定をする場合には、生産ラインを一時停止させて、電磁微厚計により樹脂ライニングの膜厚を測定しなければならない。
【0005】
また、かかる測定を多層管の全長に亘って実施する必要があるところから、測定時間および測定工数が多くなり、結果として多層管の製造効率が低下するという不都合があった。
【0006】
本発明は前記のような従来の問題点に着目してなされたものであり、生産ラインを止めることなく、非接触、非破壊で鋼管に対する樹脂ライニングの接着状況や樹脂ライニングにおけるピンホールの有無などの物理的(界面状態)欠陥を高精度かつ効率的に検出することができる多層管の界面状態検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的達成のために、本発明に係る多層管の界面状態検出装置は、内面に樹脂ライニングを施した鋼管の表面にレーザビームを照射するレーザ発振器と、前記レーザビームを受けて前記鋼管の表面に励起された超音波が前記鋼管および樹脂ライニング内に進行することによって、前記鋼管および樹脂ライニングの界面と、樹脂ライニング内面とから反射される超音波対応の反射光をそれぞれ光学的に検出するレーザ干渉計と、を有し、該レーザ干渉計で得られた前記各反射光の情報に基づいて、演算処理部が前記鋼管と樹脂ライニングとの界面に発生した物理的欠陥情報を演算によって検出する構成としたものである。
【0008】
前記構成により、多層管を構成する鋼管の表面に集光されたレーザビームが、該集光部付近を局所的に温度上昇させて、体積膨張を惹起させる。このため、前記鋼管の表面に超音波が励起され、該超音波は内部に拡散するように伝播して、鋼管と樹脂ライニングとの界面および樹脂ライニング内面で反射され、その各反射波が、レーザ干渉計を用いて観測される。
【0009】
前記の観測情報は、反射波の遅延時間、検出振幅、波形の正常等を含む情報であり、これらの情報が得られないときまたは所定のスレッショルドレベル以下のときには、前記鋼管と樹脂ライニングとの界面に空隙が発生していること、あるいは樹脂ライニングにピンホールが発生していることを検出することができる。また、欠陥判定時には、警報を発生するようにすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多層管から超音波の反射波が検出されないか所定レベル以下のときには、鋼管と樹脂ライニングとの界面に発生した空隙や樹脂ライニングに発生したピンホールなどの物理的欠陥が存在することを、生産ラインを止めることなく高精度に、かつ速やかに自動測定できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態による多層管の界面状態検出装置を、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
本発明の実施形態による多層管の界面状態検出装置は、基本的に、内面に樹脂樹脂ライニングを施した鋼管の表面にレーザ発振機からレーザビームを照射して、前記鋼管の表面に励起された超音波が前記鋼管および樹脂ライニング内に進行することによって、前記鋼管および樹脂ライニングの界面と樹脂ライニング内面とから反射される超音波対応の反射光を、レーザ干渉計によりそれぞれ光学的に検出し、検出した各反射光の情報に基づいて、演算処理部が前記鋼管と樹脂ライニングとの界面における欠陥情報を演算するという構成を持つ。
【0013】
前記構成により、多層管の生産ラインを止めることなく、非接触、非破壊で鋼管に対する樹脂ライニングの接着状況や樹脂ライニングにおけるピンホールの有無などの物理状態を高精度かつ効率的に検出可能にしている。
【0014】
図1は、本実施形態による多層管の界面状態検出装置を示すブロック図、図2は、本実施形態で測定される超音波の進行状況を示す説明図、図3は、本実施形態で測定される反射波の測定波形図、図4は、本実施形態における反射波の異常判定で利用する論理構成図、図5は信号判定のフロー図である。
【0015】
本実施形態による多層管の界面状態検出装置は、図1に示すように、レーザ発振器と、投光側集光レンズ2と、投光用の反射プリズム3と、受光用の反射プリズム4と、受光側集光レンズ5と、反射鏡6、7と、レーザ干渉計8と、アンプ9と、波形描画部10と、演算処理部(CPU)11と、ハーフミラー12と、ホトダイオード13と、からなる。
【0016】
これらのうち、前記レーザ発振器1は、パルスレーザーとしてレーザ光を発生する。前記集光レンズ2は、レーザ発振器1からのレーザ光を集光することにより、光のエネルギー密度を高めるように機能する。前記反射プリズム又はミラー3(以下単に「反射プリズム3」という。)は、集光したレーザ光を被検体としての、多層管、具体的には内面に樹脂ライニングを施した鋼管の表面に照射するように機能する。
【0017】
また、前記反射プリズム又はミラー4(以下単に「反射プリズム4」という。)は多層管の表面に発生した超音波情報を光情報として受ける。前記集光レンズ5は前記反射プリズム4で反射されたレーザビームを集光し、前記反射鏡6、7を介して前記レーザ干渉器8へ入力するように機能する。
【0018】
前記レーザ干渉計8は、前記反射プリズム4、集光レンズ5、反射鏡6、7を介して入射した前記反射波に基づく反射光と、これらを介して前記多層管14の表面に照射される照射光とを混合することにより、反射光と回折光との干渉信号を得る。なお、鋼管14の表面におけるレーザ干渉計のレーザ出力は100mW以下で、スポット径は約2mmとする。
【0019】
前記波形描画部10はレーザ干渉計で計測される前記反射波や干渉信号波形等を描画表示するように機能する。演算処理部としての前記マイクロコンピュータ11は、前記レーザ干渉器8に入力された前記反射波形の変化を検出し、鋼管14aとこの鋼管14aの内面に施した樹脂ライニングである硬質塩化ビニール管14bとの界面に発生する空隙Pや硬質塩化ビニール管14b自体に発生したピンホールなどの物理状態の異常(欠陥)検出を行う。
【0020】
前記空隙やピンホールが存在する場合には、超音波は空気抵抗を受けて伝播しなくなりまたは伝播し難くなり、従って硬質塩化ビニール管14bの内壁からの反射波形レベルは極端に小さくなるか、殆ど現れなくなる。
【0021】
そこで、前記マイクロコンピュータ11は、前記反射波形の情報等について、例えば反射波が正常である場合には信号「1」を、異常である(欠陥がある)場合には信号「0」を出力するものとする。なお、前記反射波が予め設定したスレッシュホルドレベル以上である場合には略正常と判定し、信号「1」を出力させることで、正常の許容限界を拡張することができる。
【0022】
従って、前記スレッシュホルドレベルを上げるほど正常な反射波の検査精度を厳しくすることができ、その分検出データの信頼性を高めることができる。
【0023】
次に動作を説明する。まず、前記多層管14の製造ラインにおける所定部所に本実施形態の界面状態検出装置を設置する。次に、前記レーザ発振器1からのレーザビームを、前記集光レンズ2および反射プリズム3を介して前記多層管14の表面に照射する。前記多層管14は、この実施形態では、図2に示すように、前記鋼管14aの内周面に、硬質塩化ビニール管14bを樹脂ライニングした2層構造を持つものとする。
【0024】
前記反射プリズム3を通過したレーザビームは、前記多層管14の表面に垂直に照射される。該レーザビームの照射部分では前記鋼管14a表面のエネルギー密度が高まり、局所的に急激な温度上昇が惹起される。このため、前記レーザビームの照射部位付近では前記鋼管14a内部に爆発的な体積膨張が発生する。
【0025】
該体積膨張に伴いエネルギーが光から圧力(音波)へ変換され、レーザビームによって鋼管14aの表面と内部に超音波が励起されることとなる。
【0026】
前記超音波は、鋼管14aの表面からさらに内部に拡散するように進行する。つまり、所定の入射角を以って進行し、さらに前記多層管14の内部に伝播していく。また、Snellの屈折法則に従って音速の異なる前記鋼管14aと硬質塩化ビニール管14bとの界面(境界面)P(以下単に「界面P」という。)に斜入した超音波が屈折して、進行方向を変える。この超音波の進行状況は、図2に示す通りである。
【0027】
図2は、超音波A、B、Cが、それぞれ異なった角度で鋼管14aおよび硬質塩化ビニール管14b内を進行する様子を示す。
【0028】
各超音波A、Bはそれぞれ鋼管14aと硬質塩化ビニール14bとの界面Pにて反射し、界面第1反射波および界面第2反射波として鋼管14aの表面に向けて進行する。また、超音波Cは、前記界面Pを通過し、硬質塩化ビニール14bの裏面(内面)で反射し、鋼管14aの表面に向かって進行する。
【0029】
従って、前記鋼管14aと硬質塩化ビニール管14bとが密着していれば前記多層管14の構造に欠陥はなく正常であり、これらの3つの反射波が前記鋼管14aの表面に達する時間に一定の時間的ずれが発生することになる。図3は、このずれを伴う3つの反射波を含む超音波信号のタイミングチャートである。
【0030】
一方、前記3つの反射波は、前記鋼管14aの表面に前記レーザ干渉計8から照射されたレーザビームの変化に変換され(反射波によってレーザビームが変調され)、前記反射プリズム4、集光レンズ5、反射鏡6、7を介して前記レーザ干渉計8に入射される。該レーザ干渉計8として、例えば二光波混合型干渉計が用いられる。該レーザ干渉計8では、前記超音波A、B、Cのそれぞれに対応の反射光と照射光の干渉信号を得ることができる。
【0031】
次に、前記演算処理部11では、前記各反射波対応の反射光が、反射波形の遅延時間、検出振幅、波形の情報について、正常の「1」か、異常の「0」か、を判定する。例えば、反射波A、B、Cの全てに対応する反射光がそれぞれ「1」である場合には、前記空隙やピンホール等の欠陥がないと判定する。なお、反射波数が複数ある場合に、正常「1」と異常「0」の割合を調整することで、異常判定を厳しくしたり、緩めたりすることができる。
【0032】
前記反射波A、B、C、‥‥はアナログ出力波であり、iをビート信号と定義すると、時間軸から反射波Aは界面第1反射波であることから、反射波Aをi、反射波Bをi、反射波Cをi、‥‥反射波Nをiと、それぞれ対応させる。
【0033】
このとき、反射波Cに対応する反射波が「0」であるときは、欠陥があるとして異常判定を行う。この場合の論理構成図は、図4に示すようになる。
【0034】
いま、反射波A、B、C、‥‥に対応したアナログ信号をβ、反射波A、B、C‥‥に対応したビット信号全体をαとそれぞれ定義すると、信号判定のフロー図は図5に示すようになる。
【0035】
ここで、各反射波A、B、C、‥‥というアナログ出力波からビット信号に変換したビット総数を閾値として設定する。1つでも「0」信号があった場合には、鋼管14aに欠陥ありとして、異常判定をする。
【0036】
また、論理構成図(図4)の演算処理を行うことで、より厳しい品質管理を実施することが可能になる。前記異常判定を行った場合には、図示しない警報手段を用いて警報を音声または画像、文字等にて発生する。音声ではブザーを用いることができる。
【0037】
このように本実施形態では、内面に樹脂ライニングを施した前記鋼管14aの表面に前記レーザ発振器1からレーザビームを照射して、前記鋼管14aの表面に励起された超音波が該鋼管14aおよび樹脂ライニング14b内に進行することによって、該鋼管14aおよび樹脂ライニング14bの界面Pと樹脂ライニング14b内面とから反射される超音波対応の反射光を、前記レーザ干渉計8によりそれぞれ光学的に検出し、検出した各反射光の情報に基づいて、前記演算処理部6が前記鋼管14aと樹脂ライニング14bとの界面Pにおける欠陥情報を演算するという構成を採る。
【0038】
これにより、前記多層管14を構成する前記金属管14a表面に集光されたレーザビームが、該集光部付近を局所的に温度上昇させて、体積膨張を惹起させることができる。このため、前記金属管14aの表面と内部に超音波が励起され、この超音波は内部に拡散するように伝播して、前記鋼管14aと樹脂ライニング14bとの界面Pおよび樹脂ライニング14b内面からの各反射波を、前記レーザ干渉計8を用いて正確かつ迅速に観測可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、生産ラインを止めることなく、非接触、非破壊で鋼管に対する樹脂ライニングの接着状況や樹脂ライニングにおけるピンホールの有無などの物理的(界面状態)欠陥を高精度かつ効率的に検出できるという効果を有し、多層管を構成する鋼管とこの鋼管内面に被覆される樹脂ライニングとの界面等に発生する欠陥等を検出する多層管の界面状態検出装置等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態による多層管の界面状態検出装置を示すブロック図である。
【図2】本実施形態で測定される超音波の進行状況並びに二層管構造を示す説明図である。
【図3】本実施形態で測定される反射波の測定波形図である。
【図4】本実施形態における反射波の異常判定で利用する論理構成図である。
【図5】本実施形態における信号判定のフロー図である。
【符号の説明】
【0041】
1 レーザ発振器
2、5 集光レンズ
3、4 反射プリズム又はミラー
6、7 反射鏡
8 レーザ干渉器
9 アンプ
10 波形描画部
11 演算処理部(マイクロコンピュータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に樹脂ライニングを施した鋼管の表面にレーザビームを照射するレーザ発振器と、前記レーザビームを受けて前記鋼管の表面に励起された超音波が前記鋼管および樹脂ライニング内に進行することによって、前記鋼管および樹脂ライニングの界面と樹脂ライニング内面とから反射される超音波対応の反射光をそれぞれ光学的に検出するレーザ干渉計と、該レーザ干渉計で得られた前記各反射光の情報に基づいて、前記鋼管と樹脂ライニングとの界面に発生した物理的な欠陥情報を演算によって検知する演算処理部と、を備えることを特徴とする多層管の界面状態検出装置。
【請求項2】
レーザ発振器が出力するレーザビームを、内面に樹脂ライニングを施した鋼管の表面に照射し、前記レーザビームによって前記鋼管の表面に励起されて、該鋼管および樹脂ライニング内に進行する超音波の前記鋼管および樹脂ライニングの界面と樹脂ライニング内面とで反射される反射波を、該反射波対応の反射光としてレーザ干渉計を用いて検出し、該レーザ干渉計で検出した前記各反射光の情報に基づいて、演算処理部が前記鋼管と樹脂ライニングとの界面に発生した物理的な欠陥情報を演算によって検出することを特徴とする多層管の界面状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−98031(P2009−98031A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270606(P2007−270606)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(507343822)
【Fターム(参考)】