説明

大気圧プラズマ処理装置および大気圧プラズマ処理方法

【課題】コスト増加や装置の複雑化を避けながら、処理特性分布がなく、しかも処理速度の速い大気圧プラズマ処理装置と大気圧プラズマ処理方法を提供する。
【解決手段】電圧印加電極2、対向配置された接地電極3および両電極の間に配置された絶縁体4から構成される電極ユニット1と、被処理物8を搬送する被処理物搬送装置7と、絶縁体4とそれに対向する被処理物8との間に反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、電圧を印加する電源9とを具備し、両電極2,3の間に局所的に強い電界を形成させてプラズマを発生させ、被処理物8に所望の処理を施す大気圧プラズマ処理装置であって、絶縁体4の電圧印加電極側部分および接地電極側部分に、強い電界を特定の位置に形成させ、前記強い電界の方向を、被処理物8の搬送方向15に対して傾斜させる突起部13を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマ処理装置および大気圧プラズマ処理方法に関し、さらに詳しくは、反応ガスの大気圧またはその近傍の圧力下において、電界を形成させてプラズマを発生させ、このプラズマにおいて生成した活性種による化学反応を用いて各種被処理物、例えば、シリコン基板への薄膜形成、加工、表面処理等の処理を行う大気圧プラズマ処理装置および大気圧プラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種の大気圧プラズマ処理装置、大気圧プラズマ処理方法が種々提案されている。特に、大気圧、またはその近傍の圧力下において処理を行うことで、反応容器内を高真空に排気する必要がなく、装置構成を簡略化できるため、プラズマ処理装置の製造コストを大幅に削減できるという利点がある。
【0003】
前記大気圧プラズマ処理装置および大気圧プラズマ処理方法に関しては、例えば、特許第3014111号公報(特許文献1)、等に内容が詳細に開示されている。前記公報では、対向する電極間に電圧を印加することによって前記電極間に大気圧プラズマを発生させ、前記電極間に発生した大気圧プラズマ中に被処理物を配置することで所望の処理を行う。このような処理方法を、ここではダイレクトプラズマ方式と称する。このダイレクトプラズマ方式では、被処理物表面の極めて近傍で活性種が生成され、前記活性種は失活するよりも早く前記被処理物表面に到達できるため、高速処理が可能であるという利点がある。しかしその一方で、プラズマを生成するための電界に直接被処理物がさらされるため、前記電極間でアーク状の放電が発生した場合、前記被処理物はダメージを被るという問題がある。
【0004】
前記ダイレクトプラズマ方式に対し、プラズマを生成するための電界が直接被処理物と接触せずに所望の処理を行うことのできる方法が、例えば特許第2537304号公報(特許文献2)等に開示されている。前記公報では、対向した電極間に電圧を印加することによってプラズマを発生させ、前記プラズマによって生成した活性種を前記電極間に流したガス流によって放電領域外に配置された被処理物に向けて噴出させることで所望の処理を行う。このような処理方式をここではリモートプラズマ方式と称する。このリモートプラズマ方式では、プラズマ生成位置が被処理物から離れた位置にあり、プラズマ中に生成した活性種を、前記電極間のガス流によって前記被処理物表面に輸送することにより処理が行われる。このことより、ダイレクトプラズマ方式ほどプラズマによる被処理物へのダメージが大きくないという利点を有する。しかしその一方で、前記プラズマ生成位置から前記被処理物に到達するまでに失活する活性種が多いために処理速度が遅く、所望の処理速度を確保するために、電極の組数を増加させねばならない。このため、装置コストが上昇すること、対向した電極間にガス流路を形成するために、電極の組数を増加させた場合に、一度放電に用いた反応ガスを再度放電に利用することが難しいため、反応ガスの利用効率が低いことなどの問題が挙げられる。
【0005】
これらの大気圧プラズマ処理に対して、処理速度が速く、かつ被処理物にダメージを与えない処理を実現する方法が、特開2000−306848号公報(特許文献3)で開示されている。
【0006】
図8は、この公報に開示される大気圧プラズマ処理装置の概略構造を横断面図で示す概略構造説明図である。
図8において、大気圧プラズマ処理装置は、電圧印加電極103と接地電極104が絶縁体105を挟んで設置されて電極ユニットH1を形成し、前記電極ユニットH1と対向して試料108を設置することにより、絶縁体105と試料108の間にガス流路を形成する構造を有する。
なお、101は高圧力反応ガス供給口、102は反応ガス排気口、106は電力伝送路開放端、107は試料台、109は大気圧プラズマ、110は反応ガス流方向である。
【0007】
前記ガス流路に反応ガスを供給すると共に、前記電圧印加電極103と前記接地電極104の間に電圧を印加することで大気圧プラズマ109を発生させ、前記大気圧プラズマ109中に発生した活性種によって処理を行うというものである。このような処理方式を、ここではセミリモートプラズマ方式と称する。このセミリモートプラズマ方式によれば、リモートプラズマ方式と同様、プラズマを生成するための電界が、直接被処理物にさらされることがないため、ダイレクトプラズマ方式と比べて被処理物に対してのダメージが少ない。また、前記セミリモートプラズマ方式によれば、前記絶縁体105と前記試料108の間の前記ガス流路において放電が起こるため、リモートプラズマ方式よりもプラズマと被処理物の距離が近いために、失活しないで基板に到達する活性種が多いため、処理が高速になると共に、さらなる処理速度向上のために電極を複数組並べた構造にし、プラズマ本数を増加させた場合、ガス流方向に対して上流の位置でのプラズマ放電に使用した反応ガスを下流位置でのプラズマ放電にも使用できるため、反応ガス利用効率が非常に高くなり、リモートプラズマ方式よりもガスコストを削減できるという特徴を持っている。
以上のような背景でセミリモートプラズマ方式に関する研究・開発が進められている。
【特許文献1】特許第3014111号公報
【特許文献2】特許第2537304号公報
【特許文献3】特開2000−306848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、上記に述べた方式によらず、大気圧またはその近傍の圧力下におけるプラズマは不均一になりやすく、そのような大気圧プラズマを利用した大気圧プラズマ処理では、プラズマの分布を反映した処理特性分布が生じるという課題を抱えている。
ここで、放電が発達する様子を述べる。まず始めに印加電圧を増加させ、電界強度がある閾値以上になるとグロー放電と呼ばれる状態のプラズマが生成される。この閾値は、電極の構造や使用する処理ガスなどの条件で異なる。このグロー放電は、空間的に均一な放電ではあるが、プラズマ密度が低いために、活性種密度も低く、そのために処理速度が遅い。そこで、さらに印加電圧を増加させていくと、電極ユニット長手方向(長尺方向)にプラズマに濃淡ができる。その状態から、さらに印加電圧を増加させると、放電領域のごく一部に非常に輝度の高い放電部分が生じる。ここでは、これをフィラメント放電と呼ぶ。
【0009】
フィラメント放電では、放電領域のうち、ある一部のみが強く発光した放電となる。このフィラメント放電はさらに印加電圧を増加させると、電極ユニット長手方向に、ガスや電極形状、印加電力に依存した概ね等しいピッチで生成される。そのようなフィラメント放電の領域は、それ以外のグロー放電の領域に比べてプラズマ密度が高いため、活性種密度も非常に高くなる。したがって、前記フィラメント放電の領域で処理が可能であれば大きな処理速度を得ることができる。
【0010】
しかしながら、前述したように一部の電極ユニット長手方向に概ね等しいピッチで並んだフィラメント放電が発生している場合、フィラメント放電の発生している領域は、先に説明したように局所的にプラズマ密度が高くなる。そのため、被処理物のうち、フィラメント放電の直下に位置する部分は処理速度が速く、フィラメント放電が発生していない部分の処理速度は遅い。この結果、被処理物には電極ユニット長手方向に概ね等しいピッチで並んだフィラメント放電の影響で、被処理物の搬送により、電極ユニット長手方向に垂直な縞状の処理特性分布が生じるということになる。さらに、フィラメント放電は所望の位置に制御することが不可能なため、フィラメント放電によって現れる処理特性分布の制御も困難である。また、さらに印加電圧を増加させると、フィラメント放電の幅を広げることができる。そのため、処理速度は全体的に上がり、均一性も増すので望ましいが、印加電圧を増加させすぎると、電極と被処理物間にアーク状の放電が起こり被処理物にダメージを与えてしまう。
【0011】
したがって、フィラメント放電を用いての処理は敬遠され、フィラメント放電は抑制し、グロー放電で処理を行うことが多いのが現状である。しかし、グロー放電による処理の場合は前述したように処理速度が遅い。そこで電極本数の増加や印加電圧の増加などで低い処理速度を補い、その結果、装置コストの増加や装置の複雑化を伴っていた。特に被処理物が大型化すればこの問題は顕著になる。
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、電圧印加電極と接地電極との間の特定の位置に局所的に強い電界、特に、フィラメント放電を生じさせ、それをプラズマ処理に適用することにより、コスト増加や装置の複雑化を避けながら処理特性分布がなく、しかも処理速度の速いプラズマ処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電圧印加電極、この電圧印加電極に対向して配置された接地電極およびこれら両電極の間に配置された絶縁体から構成される少なくとも一つの電極ユニットと、この電極ユニットの絶縁体に対向させるべく被処理物を搬送する被処理物搬送手段と、絶縁体とそれに対向する被処理物との間に反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、電極ユニットに電圧を印加する電圧印加手段とを具備し、反応ガスの大気圧またはその近傍の圧力下、両電極の間に局所的に強い電界を形成させてプラズマを発生させ、該プラズマによって生成する活性種を被処理物に照射することにより被処理物に所望の処理を施す大気圧プラズマ処理装置において、
【0013】
絶縁体が、その電圧印加電極側部分および/または接地電極側部分に、前記強い電界を特定の位置に形成させ、それによって該強い電界の方向を被処理物の搬送方向に対して傾斜させる少なくとも1つの突起部を備えたことを特徴とする大気圧プラズマ処理装置を提供する。
【0014】
本発明は、別の観点によれば、絶縁体を介し対向して配設された電圧印加電極と接地電極とに電圧を印加することによって、両電極の間に、大気圧またはその近傍圧力の反応ガス存在下、電界を形成させてプラズマを発生させ、このプラズマによって生成する活性種を、搬送される被処理物に照射することにより被処理物に所望の処理を施す大気圧プラズマ処理方法において、
【0015】
絶縁体の電圧印加電極側部分および/または接地電極側部分に形成する突起部により、電圧印加電極と接地電極との間の特定の位置に局所的に強い電界を形成させ、かつこの強い電界の方向を被処理物の搬送方向に対して傾斜させることを特徴とする大気圧プラズマ処理方法を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被処理物に対向する絶縁体の電圧印加電極側部分および/または接地電極側部分に、電圧印加電極と接地電極との間の特定の位置に局所的に強い電界を形成させ、かつその強い電界の方向(電気力線の方向)を被処理物の搬送方向に対して傾斜させる突起部を備えているので、強い電界によって発生するプラズマによる被処理物の処理速度の速い処理範囲、特にフィラメント放電による被処理物の処理速度の非常に速い処理範囲が、電極ユニット長手方向に広がり、コスト増加や装置の複雑化を伴うことなく処理特性分布が小さく、処理速度の速いプラズマ処理を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る大気圧プラズマ処理装置は、電極ユニットの絶縁体が、その電圧印加電極側部分および/または接地電極側部分に、強い電界を特定の位置に形成させ、それによって該強い電界の方向を被処理物の搬送方向に対して傾斜させる少なくとも1つの突起部を備えたことを特徴とする。
ここで、突起部としては、具体的には、角柱状突起部(先端部分の角度は、20〜120度が好ましく、40〜90度がより好ましい)、円柱状突起部または半球状突起部が好ましいものとして挙げられる。
【0018】
そして、これらの突起部が、絶縁体の電圧印加電極側部分と接地電極側部分とに一対で設けられる場合は、一方の突起部を横に偏らせることによって、強い電界を発生させる位置を特定できる(突起部の先端部分が電界の放電端となる)と共に、強い電界の方向(電気力線の方向)を、両電極ユニットの対向方向に対して傾斜させることができ、それによって両電極ユニットの長手方向を、被処理物の搬送方向に対して垂直に配置できる。
一方、上記突起部が、被処理物に対向する絶縁体の電圧印加電極側部分と接地電極側部分のいずれか一方に設けられる場合は、強い電界を発生させる位置を特定できるが、その強い電界の方向は、両電極ユニットの対向方向と同じ方向になるのが普通であり、従って両電極ユニットの長手方向を、被処理物の搬送方向に対して相対的に垂直ではなく、その垂直に対して傾斜させるのが好ましい。
【0019】
ここで、強い電界の方向を、被処理物の搬送方向に対して相対的に傾斜させる程度(角度:θ、図3参照)は、特に限定されないが、0°<θ≦90°、好ましくは20°≦θ≦60°である。
さらに、絶縁体は、電圧印加電極側部分と接地電極側部分とに対向する突起部を複数組備え、かつそれら各組の対向する突起部の先端間の電極ユニット長手方向距離をX、電極ユニット長手方向に隣り合う突起部の先端間の距離をY、各突起部の電極ユニット長手方向に垂直な方向の長さをZ、絶縁体の電圧印加電極側部分の下端と接地電極側部分の下端との間の距離をWとすれば、
Y>2X、W-Z>[(W-2Z)2+X2]1/2
の関係を満たし、かつ各突起部が、電極ユニット長手方向に等間隔に配置されるのが好ましい。
【0020】
本発明において、強い電界によって発生するプラズマは、フィラメント放電によるプラズマが好ましい。
本発明においては、電極ユニットを複数個重ねて備え、各電極ユニットの絶縁体が、それらの電圧印加電極側と接地電極側とに突起部を備え、それらの突起部が、被処理物の電極ユニット長手方向のすべての位置において、フィラメント放電による処理が同じ回数施されるように分配して配置されると、被処理物に対する処理の均一性が保たれ、高品質の処理物が得られるので望ましい。
以下、本発明の大気圧プラズマ処理装置の実施の形態1について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0021】
[実施の形態1]
図1は本発明にかかる大気圧プラズマ処理装置の実施の形態1の概略構造を、横断面図により示す概略構造説明図、図2は実施の形態1の電極ユニットのうち、絶縁体の概略構造を、下面図と横断面図を用いて示す概略構造説明図である。
図1において、本実施の形態1の大気圧プラズマ処理装置は、電圧印加電極2、接地電極3および絶縁体4からなる電極ユニット1と、被処理物8を搬送するための搬送装置7と、前記電極ユニット1と前記搬送装置7の間に形成されるガス流路6と、電源9とから主として構成されている。
【0022】
前記電圧印加電極2は、前記電源9に接続されており、前記接地電極3は接地されている。前記電圧印加電極2と前記接地電極3との間には絶縁体4が挟まれている。前記絶縁体4の前記ガス流路6側の面には、種プラズマ生成領域11と、プラズマ制限領域12となるくぼみが、前記電圧印加電極2と前記接地電極3との対向面間、または対向面間下方に設けられている。 なお、前記電極ユニット1と、前記搬送装置7と、前記ガス流路6とは、電極ユニット長手方向10 (紙面に垂直な向き、図2参照)に前記被処理物8の処理に十分なだけ連続していて、末端はどのような形態をとっていてもよい。
【0023】
前記電圧印加電極2および前記接地電極3の材質としては、金属材料から適宜選ばれ、例えば、Al、Cu、真鍮などを用いることができる。前記絶縁体4の材質としては、例えば、Al23、MgO、TiO2、AlNなどを用いることができる。前記電源9には必要であれば前記電圧印加電極2に効率よく電圧を印加するために、電極、プラズマを含んだ共振回路を形成するようにインピーダンスを制御する装置を挿入しても良い。
また、前記ガス流路6に反応ガスを導入することで、前記電極ユニット1と前記搬送装置7との間の前記ガス流路6に前記反応ガスが流れる。前記反応ガスには、放電を容易に維持できるよう、He、Ne、Arなどの希ガスが含まれることが望ましく、前記希ガスに所望の処理に応じて添加ガスを加える。前記添加ガスとしては、例えば、被処理物表面の有機物のクリーニング、レジストの除去、有機材料フィルムの加工などの処理を行うのであれば、O2、空気、水蒸気、などの酸化性ガスを用いればよく、Si、SiO2、SiNなどのシリコン材料にエッチングを行うのであれば、CF4、CHF3、SF6などのハロゲンガスを用いればよい。
【0024】
前記ガス流路6に前記反応ガスを導入し、前記電圧印加電極2と前記接地電極3との間に電圧を印加すると、前記絶縁体4に囲まれた前記種プラズマ生成領域11に最も強い電界が形成される。さらに、印加電圧を増加していき、前記種プラズマ生成領域11の電界強度がある閾値を超えると、前記種プラズマ生成領域11付近にプラズマが発生する。ここでは、前記種プラズマ生成領域11内に生成されたプラズマを種プラズマと呼ぶ。前記種プラズマが生成された状態からさらに印加電圧を増加させていくことで、プラズマは前記プラズマ制限領域12の中で拡大していく。ここで、前記プラズマ制限領域12とは、前記ガス流路6で、前記電圧印加電極2側の前記絶縁体4と、前記接地電極3側の前記絶縁体4で囲まれた領域で、前記種プラズマ生成領域11を除いた部分を示す。
【0025】
さらに印加電圧を増加させると、突起部13を放電端とするフィラメント放電と呼ばれる放電が放電領域の一部に現れる。そこからさらに印加電圧を増加させることで、突起部13を放電端とする前記フィラメント放電は電極ユニット長手方向に周期的に並ぶ(電極ユニット1に横に等間隔に並ぶ)。
【0026】
前記プラズマを生成し、前記添加ガスがプラズマ中に添加されると、前記添加ガスが励起されて活性種が生成される。この際に印加する電圧は、大きいほど処理速度を向上することができるので望ましいが、大きくしすぎると前記電圧印加電極2と、前記被処理物8の間の電界がプラズマを生成するための閾値を超えるため、前記電圧印加電極2と前記被処理物8との間で放電が発生し、前記被処理物8に甚大なダメージを与えることがある。印加電圧の値は、前記反応ガスの種類、前記反応ガスの組成、前記反応ガスの流量、前記電極ユニット1と前記被処理物8との距離L、前記電圧印加電極2と前記接地電極3との距離D、必要な処理能力などに応じて適宜決定される。
【0027】
また、前記電極ユニット1と前記被処理物8との距離も小さくするほど処理能力が向上するので望ましい。しかしながら、これも小さくしすぎると前記電圧印加電極2と前記被処理物8との間で放電が発生してしまう。前記電極ユニット1と前記被処理物8との距離の値は、電極構造や印加電圧、前記電極ユニット1の寸法などで決まる前記プラズマ制限領域12の電界強度や、前記被処理物8の材質などに応じて適宜変更される。
ここで、本実施の形態1において、装置の複雑化やコスト上昇を避け、処理能力を向上させる原理を説明する。
【0028】
図2に示したように、突起部13を前記電圧印加電極2側と前記接地電極3側に設けることで、それぞれの前記突起部13を終端点とする電気力線が形成される。
図3は本実施の形態1の電極ユニットのうち、絶縁体の要部の構造を示す要部構造説明図、図4は本実施の形態1の絶縁体構造で、電磁界解析を行った結果の一例を示す、写真による説明図、図5は本実施の形態1の電極ユニットのうち、絶縁体の詳細基本構造を説明する詳細基本構造説明図である。
【0029】
本実施の形態1では、図3に示すように、相対する電極上にある前記突起部13の頂点を結ぶ直線と前記電極ユニット長手方向10の角度をθとすれば、0°<θ<180°かつθ≠90°を満たすように配置している。これによって、主要な電気力線の方向が、従来のθ=90°を満たすものから、0°<θ<180°かつθ≠90°を満たす方向へと変化する。このため、この主要な電気力線に拘束される前記フィラメント放電も図2の矢印14のように0°<θ<180°かつθ≠90°を満たし、前記電圧印加電極2側の前記突起部13から前記接地電極3側の前記突起部13を結ぶように発生する。
【0030】
従来のフィラメント放電は、特に電界分布を故意に作るような仕組みが設けられない限り、電極のどの位置に発生するかは未知であり、またそれを制御することも不可能であったが、本発明では、前記電圧印加電極2側と前記接地電極3側の前記突起部13の間に主要な電気力線が生成されるため、前記フィラメント放電をある特定の位置に固定して発生させることができる。
また、従来のフィラメント放電による処理では、グロー放電による処理速度の遅い領域と、フィラメント放電による処理速度の速い領域で処理特性分布が顕著に現れる。本実施の形態では、0°<θ<180°かつθ≠90°を満たす角度を持ったフィラメント放電での処理を行う。
【0031】
そこに、フィラメント放電の方向には平行にならないような被処理物の搬送を行うことで、電極ユニット長手方向10の方向のフィラメント放電による処理範囲が広がり、処理特性分布を従来よりも均一化した処理が可能である。また、さらに前記電圧印加電極2と前記接地電極3を2組以上並べ、プラズマの本数を2本以上とすることで電極ユニット1に平行な方向に全面の均一な処理が可能となる。
ここで、電磁界シミュレーションで、本発明のような形状の電極絶縁体を用いた場合に電界強度分布がどのように変化するのかを調べた結果を図4に示しているわけである。
【0032】
解析は、実施の形態1にある電極ユニットで行った。これより、従来ではほぼ電極絶縁体に沿った均一な電界が生じるのに対し、突起部13を設けることで電極ユニット長手方向10に電界のコントラストが得られており、また、前記電圧印加電極2側の突起部13と前記接地電極3側の突起部13を結ぶ直線状の電界が強いことが分かる。つまり、この電界の主要な電気力線に拘束されるように発生するフィラメント放電は、突起部13を設けることによって電極ユニット1の長手方向に対して0°<θ<180°かつθ≠90°を満たす角度を持って特定の位置に発生する。
【0033】
また、この突起部13は、図5のように相対する電極上にある突起部13の電極ユニット長手方向10に対して平行な距離をX、同じ電極上に隣接する突起部13の距離をY、突起部13の高さをZ、プラズマ制限領域12の幅をWとすると、
Y>2X、W-Z>{(W-2Z)2+X21/2
の関係を満たし、かつ電極ユニット長手方向に等間隔に配置されることが望ましい。
【0034】
Y=2Xとなると電圧印加電極2側の突起部13から見たときに、接地電極3側の近接する2つの突起部13が等距離になることになり、フィラメント放電位置を確実に制御するための電界のコントラストが得られないからである。また、W-Z<{(W-2Z)2+X21/2となれば、突起部13同士よりも突起部13と対向する突起部13のない部分の距離が短くなるために、主要な電界が被処理物搬送方向15に対して角度を持たず、従来どおり、電極ユニット長手方向10に垂直な電界となるからである。図5に示すような、実際の寸法はガス組成や電源周波数、印加電圧や投入電力など、様々な条件によって適宜変更すればよい。
【0035】
本発明によれば、従来よりも均一な処理が可能となり、さらに、フィラメント放電による処理が可能とするため、電力効率、処理速度共に向上し、その結果、装置コスト・電力コストの増加、装置の複雑化などを避けることができる。
ここで、図5における各寸法をX=1mm、Y=4mm、Z=2mm、W=6mmとし、エッチング処理を行った。このとき、sinθ=2/51/2である(θ:約63.4度)。使用ガスはHe1SLM、CF43%、O21%。印加電圧は4.8kVを用いた。電源は、13.56MHzの高周波電源である。また、被処理物の搬送は電極ユニット長手方向に対して垂直に行われた。従来のフィラメント放電時の処理では、70nm±40%程度ばらつきのある処理が得られる。本実施の形態1での処理では、70nm±20%ほどの従来例よりも均一な加工を得ることができた。
図6は本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の電極ユニットのうち、絶縁体の他の構造例を示す説明図である。
【0036】
本実施の形態1においては、図2のような突起部の形状を用いたが、図6に示すような突起部13の形状でも同様の効果が得られる。図6-aは、突起部13のエッジを無くすために円柱状の突起部13に変えたもの、図6-bは半球状の突起部13をつけたものである。エッジが存在すると電界が集中しすぎ、絶縁体が破壊してしまう可能性がある。大電圧を印加する場合は、エッジのない形状にすることで絶縁体の破損を防止することができる。ただし、電界強度が集中する効果が弱くなるので、印加電圧やガス条件などで適宜変更するとよい。
【0037】
本実施の形態1においては、電極ユニットとして図1に示したような構造を説明したが、このような構造に限るものではない。例えば、種プラズマ生成領域とプラズマ制限領域を図1に示すような形状としたが、どのような形状であってもかまわないし、電圧印加電極と接地電極を1組並べているが、必要に応じて何組並べてもかまわない。また、ガス流路は放電空間に均一なガスを供給できるのであれば、どのような形状でもかまわない。電源の周波数としては、13.56MHzを用いたが、特に制限はなく、どのような周波数でもかまわない。さらに、本実施の形態1においては、被処理物の移動方向とガス流方向が同じである場合を説明したが、これはどの方向でもよく、フィラメント放電の方向に対して平行でなければ搬送方向の角度を適宜変更することで均一性を増すことができる。
【0038】
[実施の形態2]
図7は、本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の電極ユニットのうち、絶縁体のさらに他の構造例を実施の形態2として示す説明図である。
図7においては、図1に示したような電極ユニットをN組用いた例を示す。本実施の形態2では、電圧印加電極2と接地電極3を交互に並べており、電圧印加電極2と接地電極3の間に形成されるプラズマ制限領域がN個存在することを特徴としている。その他、電源9や、搬送装置7などの構成は、図1に示したものと同様である。
【0039】
図7のように、電圧印加電極2と接地電極3の組がN組できるような電極ユニット1の構成がある。このとき、相対する電極上にある突起部13の電極ユニット長手方向10に対して平行な距離Xと、同じ電極側にある突起部13の距離Yに、Y=NXの関係を持たせ、各組ごとに突起部13の配置を前記電極ユニット長手方向10にXだけずらすことで、被処理物8のどの箇所も必ず1回フィラメント放電による処理が行われるような処理が可能となる。このような構造を持つ電極ユニットを用い、使用ガスHe1SLM、CF43%、O21%、印加電圧4.8kV、高周波電源周波数13.56MHzの条件で実験を行った。この結果、70nm±5%程度の処理結果を得ることができた。
【0040】
本実施の形態2においては、各組の突起物13の配置を図7のようなものとしたが、被処理物の搬送を行ったときに、被処理物のどの箇所もフィラメント放電による処理を同じ回数だけ経験するような各組の突起部の配置であれば、本実施の形態2に示したような配置ではなくてもかまわず、その条件は、処理条件によって適宜変更されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の実施の形態1の概略構造を示す概略構造説明図である。
【図2】図1に示す実施の形態1の電極ユニットのうち、絶縁体の概略構造を示す概略構造説明図である。
【図3】本実施の形態1の電極ユニットのうち、絶縁体の要部の構造を示す要部構造説明図である。
【図4】本実施の形態1の絶縁体構造で、電磁界解析を行った結果の一例を示す、写真による説明図である。
【図5】本実施の形態1の電極ユニットのうち、絶縁体の詳細基本構造を説明する詳細基本構造説明図である。
【図6】本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の電極ユニットのうち、絶縁体の他の構造例を示す説明図である。
【図7】本発明に係る大気圧プラズマ処理装置の電極ユニットのうち、絶縁体のさらに他の構造例を示す説明図である。
【図8】従来技術に係る大気圧プラズマ処理装置の概略構造を示す概略構造説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 電極ユニット
2 電圧印加電極
3 接地電極
4 絶縁体
5 絶縁体のガス流路側の面
6 ガス流路
7 被処理物搬送装置
8 被処理物
9 電源
10 電極ユニット長手方向(図1では、紙面に垂直な向き)
11 種プラズマ放電領域
12 プラズマ制限領域
13 突起部
14 電界方向
15 搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧印加電極、この電圧印加電極に対向して配置された接地電極およびこれら両電極の間に配置された絶縁体から構成される少なくとも一つの電極ユニットと、この電極ユニットの絶縁体に対向させるべく被処理物を搬送する被処理物搬送手段と、絶縁体とそれに対向する被処理物との間に反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、電極ユニットに電圧を印加する電圧印加手段とを具備し、反応ガスの大気圧またはその近傍の圧力下、両電極の間に局所的に強い電界を形成させてプラズマを発生させ、該プラズマによって生成する活性種を被処理物に照射することにより被処理物に所望の処理を施す大気圧プラズマ処理装置において、
絶縁体が、その電圧印加電極側部分および/または接地電極側部分に、前記強い電界を特定の位置に形成させ、それによって該強い電界の方向を被処理物の搬送方向に対して傾斜させる少なくとも1つの突起部を備えたことを特徴とする大気圧プラズマ処理装置。
【請求項2】
突起部が、角柱状突起部である請求項1に記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項3】
突起部が、円柱状突起部または半球状突起部である請求項1に記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項4】
絶縁体が、電圧印加電極側部分と接地電極側部分とに対向する突起部を複数組備え、かつそれら各組の対向する突起部の先端間の電極ユニット長手方向距離をX、電極ユニット長手方向に隣り合う突起部の先端間の距離をY、各突起部の電極ユニット長手方向に垂直な方向の長さをZ、絶縁体の電圧印加電極側部分の下端と接地電極側部分の下端との間の距離をWとすれば、
Y>2X、W-Z>[(W-2Z)2+X2]1/2
の関係を満たし、かつ各突起部が、電極ユニット長手方向に等間隔に配置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項5】
強い電界によって発生するプラズマが、フィラメント放電によるプラズマであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項6】
電極ユニットを複数個重ねて備え、各電極ユニットの絶縁体が、それらの電圧印加電極側と接地電極側とに突起部を備え、それらの突起部が、被処理物の電極ユニット長手方向のすべての位置において、フィラメント放電による処理が同じ回数施されるように分配して配置されたことを特徴とする請求項5に記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項7】
絶縁体を介し対向して配設された電圧印加電極と接地電極とに電圧を印加することによって、両電極の間に、大気圧またはその近傍圧力の反応ガス存在下、電界を形成させてプラズマを発生させ、このプラズマによって生成する活性種を、搬送される被処理物に照射することにより被処理物に所望の処理を施す大気圧プラズマ処理方法において、
絶縁体の電圧印加電極側部分および/または接地電極側部分に形成する突起部により、電圧印加電極と接地電極との間の特定の位置に局所的に強い電界を形成させ、かつこの強い電界の方向を被処理物の搬送方向に対して傾斜させることを特徴とする大気圧プラズマ処理方法。
【請求項8】
突起部が、角柱状突起部である請求項7に記載の大気圧プラズマ処理方法。
【請求項9】
突起部が、円柱状突起部または半球状突起部である請求項7に記載の大気圧プラズマ処理方法。
【請求項10】
強い電界によって発生するプラズマが、フィラメント放電によるプラズマであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一つに記載の大気圧プラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−42503(P2007−42503A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226785(P2005−226785)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】