説明

射出成形金型、射出成形品の製造方法、および射出成形品

【課題】薄肉で高い精度を必要とする射出成形品であっても、転写精度の高い射出成形をすることができる射出成形金型、射出成形品の製造方法、および射出成形品を提供する。
【解決手段】第1の金型と、前記第1の金型と協働してキャビティを形成する第2の金型と、前記キャビティ内に溶融樹脂を充填する流路であるランナと、前記ランナの前記キャビティが形成される側に設けられ、前記ランナよりも流路断面積の小さい狭隘部と、前記狭隘部の温度を調整可能とする温度調整手段と、前記狭隘部の前記キャビティが形成される側に設けられ、前記溶融樹脂の流速を減速させる流速調整部と、を備えたこと、を特徴とする射出成形金型が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形金型、射出成形品の製造方法、および射出成形品に関し、特に薄肉で高い精度を必要とする成形品の射出成形に適した射出成形金型、射出成形品の製造方法、および射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融樹脂の成形法の一種として知られる射出成形法では、溶融混練された溶融樹脂を、射出成形金型内のスプル、ランナを介して成形品の外形形状をなすキャビティ(空間部分)に圧力をかけて充填し、充填された溶融樹脂をキャビティ内で時間経過とともに冷却している。
【0003】
ここで、近年においては、電子機器の構成部材などとして用いられている樹脂成形品の薄肉軽量化、高精度化が要求されるようになってきている。特に、光ピックアップ装置や携帯電話などに用いられる光学素子のレンズなどのような精密部品においては、成形品表面の微細形状や平滑面の面精度を正確に転写する必要がある。このような場合、キャビティに充填される溶融樹脂の流動性が悪いと、溶融流れの均一性などが悪化して、成形品表面の微細形状や平滑面の面精度(転写性の低下)が低下するおそれがある。
【0004】
そのため、溶融樹脂の供給路を加熱冷却するための手段を備えた射出成形金型が提案されている(特許文献1を参照)。
しかしながら、特許文献1に開示されている技術においては、溶融樹脂の供給路の広い範囲を加熱冷却するようにしている。そのため、射出成形金型の大型化を招くとともに、加熱冷却に多くのエネルギーが必要となり、環境負荷の観点からも課題を有していた。
【0005】
また、射出成形機のノズルの内部に流路断面積の小さい部分を設けて、ここを通過する溶融樹脂の温度を剪断発熱により上昇させる技術が提案されている(特許文献2を参照)。 しかしながら、特許文献2に開示されている技術においては、流路断面積の小さい部分を通過させることで速くなった溶融樹脂の流速についての考慮がされておらず、キャビティ内の空気などを巻き込み、ボイド(空洞)やフラッシュ(銀条)を発生させるおそれがあった。
【特許文献1】特開2002−210795号公報
【特許文献2】特開平7−9487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、薄肉で高い精度を必要とする射出成形品であっても、転写精度の高い射出成形をすることができる射出成形金型、射出成形品の製造方法、および射出成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、第1の金型と、前記第1の金型と協働してキャビティを形成する第2の金型と、前記キャビティ内に溶融樹脂を充填する流路であるランナと、前記ランナの前記キャビティが形成される側に設けられ、前記ランナよりも流路断面積の小さい狭隘部と、前記狭隘部の温度を調整可能とする温度調整手段と、前記狭隘部の前記キャビティが形成される側に設けられ、前記溶融樹脂の流速を減速させる流速調整部と、を備えたこと、を特徴とする射出成形金型が提供される。
【0008】
また、本発明の他の一態様によれば、第1の金型と、前記第1の金型と協働してキャビティを形成する第2の金型と、前記キャビティ内に溶融樹脂を充填する流路であるランナと、前記ランナの前記キャビティが形成される側に設けられ、前記ランナよりも流路断面積の小さい狭隘部と、前記狭隘部の温度を調整可能とする第1の温度調整手段と、前記狭隘部の前記キャビティが形成される側に設けられ、前記溶融樹脂の流速を減速させる流速調整部と、を有する射出成型金型を用いて、第1の金型と第2の金型とを型締めすることで前記キャビティを形成し、前記温度調整手段による前記狭隘部の温度調整と、前記狭隘部において生ずる剪断発熱と、により溶融樹脂の温度を変化させつつ溶融樹脂を前記キャビティに向けて供給し、前記狭隘部を通過させることで速くなった前記溶融樹脂の流速を流速調整分において減速させて、前記溶融樹脂を前記キャビティ内に充填すること、を特徴とする射出成形品の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明の他の一態様によれば、上記の射出成形金型を用いて射出成形されたこと、を特徴とする射出成形品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄肉で高い精度を必要とする射出成形品であっても、転写精度の高い射出成形をすることができる射出成形金型、射出成形品の製造方法、および射出成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について例示をする。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
また、図2は、図1におけるA−A矢視模式断面図である。
図1に示すように、射出成形金型1には、固定側金型2、可動側金型3が備えられている。固定側金型2は固定側取り付け板13に、可動側金型3はブロック14を介して可動側取り付け板15に、それぞれ取り付けられている。
【0012】
可動側金型3のパーティング面(金型の分割面)16には、キャビティ形成面8aが設けられ、このキャビティ形成面8aと固定側金型2のパーティング面(金型の分割面)16とで形成される空間がキャビティ8となる。すなわち、固定側金型2と、可動側金型3とが協働してキャビティ8を形成する。
【0013】
また、可動側金型3のパーティング面(金型の分割面)16には、キャビティ8内に溶融樹脂を充填する流路であるランナ5が設けられており、ランナ5は、狭隘部6、流速調整部7を介してキャビティ8と連通されている。また、固定側金型2にはスプル4が設けられている。そして、スプル4の一端は固定側金型2の固定側取り付け板13を取り付ける側の面に開口され、他端はランナ5と連通されている。そのため、スプル4の開口部から導入された溶融樹脂が、スプル4、ランナ5、狭隘部6、流速調整部7を経由してキャビティ8内へ充填可能とされている。
【0014】
図1、図2に示すように、狭隘部6の流路断面積(流れ方向に垂直な方向の断面積)は、ランナ5の流路断面積(流れ方向に垂直な方向の断面積)よりも小さいものとされている。そして、流路断面積を小さくすることで流路抵抗を増加させて溶融樹脂に剪断力を与え、溶融樹脂を自己発熱(剪断発熱)させることで温度を上昇させることができるようになっている。尚、狭隘部6の流路断面積は、射出成形される樹脂材料の材質や成形品の精度などによる射出成形条件(例えば、温度や圧力など)、後述する加熱部9の加熱容量との関係などを考慮して適宜決定される。
【0015】
また、狭隘部6の外周の近傍には、狭隘部6の温度調整を可能とする温度調整手段20が備えられ、温度調整手段20には狭隘部6の加熱を可能とする加熱部9と、狭隘部6の冷却を可能とする冷却部10とが設けられている。
温度調整手段20に設けられる加熱部9としては、例えば、通電によるジュール熱を利用した電熱線や加熱媒体を閉循環させるようなものを例示することができる。加熱媒体としては、例えば、加熱温度が室温〜100℃以下の場合は水を、100℃程度〜200℃程度の場合は水蒸気を、室温〜300℃程度の場合はシリコーン油などの加熱媒体油を例示することができる。ただし、これらのものに限定されるわけではなく、射出成形される樹脂材料のガラス転移温度などにより適宜選択することができる。
【0016】
温度調整手段20に設けられる冷却部10としては、例えば、冷却媒体を閉循環させるようなものを例示することができる。冷却媒体としては、例えば、窒素ガス、水、シリコーン油のような油などを例示することができる。ただし、これらに限定されるわけではなく、適宜変更することができる。
【0017】
図1、図2に例示をした加熱部9は、断面が略円形をした柱状形状を呈している。そして、例えば、通電によるジュール熱を利用したものの場合は内部に電熱線が設けられている。また、加熱媒体を閉循環させるようなものの場合は、内部が中空のパイプ状とされており、その内部を水、水蒸気、加熱媒体油などの加熱媒体が流れるようになっている。
【0018】
図1、図2に例示をした冷却部10は、断面が略円形をした柱状形状を呈しており、その内部が中空のパイプ状とされている。そして、その内部を窒素ガス、水、油などの冷却媒体が流れるようになっている。
尚、加熱部9、冷却部10の制御は、狭隘部6の近傍に設けられた図示しない温度測定手段の測定値に基づいて行うようにすることができる。
【0019】
また、図1、図2に例示をした加熱部9、冷却部10の断面形状は略円形であるが、これに限定されるわけではなく、例えば、矩形、台形、その他の多角形などとすることもできる。また、加熱部9、冷却部10の数も図示したものに限定されるわけではなく、狭隘部6の長さなどに合わせて適宜変更することができる。
【0020】
また、射出成形金型1には、射出成形金型1全体を加熱するための、例えば、図示しない加熱エアーの循環路などを別途設けるようにすることができる。ただし、これに限定されるわけではなく、加熱媒体油や水蒸気などを循環させるものであってもよいし、電熱線を用いたものであってもよい。尚、これらや前述した加熱部9、冷却部10の温度制御を行うための図示しない温度制御手段も設けられている。
【0021】
本実施の形態においては、狭隘部6による剪断発熱と加熱部9による加熱とにより溶融樹脂の温度を上昇させることができる。そのため、加熱部9の出力を小さくすることができ加熱部9の小型化を図ることができる。
また、流路断面積の小さな部分において加熱をしているため、溶融樹脂の流れの断面方向における温度分布を均一化させることができる。
また、キャビティ8への充填の直前に溶融樹脂の温度を調整することができるため、温度の調整後、キャビティ8に充填されるまでの間に生じる温度低下を抑制することができる。そのため、流動性の低下を抑制することができるので、転写性に優れた射出成形を行うことができる。尚、溶融樹脂の温度が高すぎる場合には、冷却部10によりキャビティ8への充填の直前に温度を調整することもできる。
【0022】
また、流路断面積が小さい狭隘部6の近傍に加熱部9、冷却部10を設けるようにしているので、例えば、ランナ5の外形よりも内側に加熱部9、冷却部10を設けるようにすることができ、射出成形金型1の大型化を抑制することができる。
【0023】
その結果、特許文献1に開示されている技術と比べて射出成形金型1の小型化が図れ、また、加熱のために外部から加えるエネルギーも少なくて済むので環境負荷を低減させることもできる。
【0024】
ここで、特許文献2に開示されている技術においては、流路断面積の小さい部分を通過させることで速くなった溶融樹脂の流速についての考慮がされておらず、キャビティ8内の空気などを巻き込み、ボイド(空洞)やフラッシュ(銀条)を発生させる原因となるおそれがあった。
【0025】
本発明者は検討の結果、狭隘部6とキャビティ8との間に流速調整部7を設け、狭隘部6を通過させることで速くなった溶融樹脂の流速を調整するようにすれば、転写性に優れ、かつ、ボイド(空洞)やフラッシュ(銀条)の発生を抑制した射出成形品を得ることができるとの知見を得た。
【0026】
ここで、流速調整部7は、キャビティ8に近づくにつれてその流路断面積が漸増するようになっている。すなわち、図2に示すように、キャビティ8に近づくにつれて流速調整部7の側壁間の距離が徐々に拡がるようになっている。
【0027】
そのため、狭隘部6を通過させることで速くなった溶融樹脂の流速を、キャビティ8内の空気などを巻き込まない程度の流速にまで徐々に減速させることができる。
また、キャビティ8に近づくにつれて流路の断面寸法が大きくなるので、キャビティ8との接続部分であるゲート部7aの寸法を大きくすることができる。そのため、広い範囲からキャビティ8内に溶融樹脂を充填させることができるので、キャビティ8内における溶融樹脂の流速を均一にすることができる。その結果、フローマークと呼ばれる外観不良をも抑制することができる。
【0028】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
尚、図1、図2において説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0029】
本実施の形態においては、可動側金型30に設けられた流速調整部7とキャビティ8との間に整流部70を設けるようにしている。
図3に示すように、整流部70の側壁は、キャビティ8への充填方向と略平行となるような向きにされている。そして、整流部70の一端(上流側)が流速調整部7と連通され、他端(下流側)がキャビティ8と連通されている。
【0030】
本実施の形態においては、前述したものと同様に流速調整部7において流速が調整された後に、整流部70において溶融樹脂の流れ方向がキャビティ8への充填方向と略平行となるように矯正されることになる。そのため、キャビティ8内における溶融樹脂の流速をさらに均一とすることができる。
【0031】
図4は、本発明の第3の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
尚、図1、図2において説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0032】
図4に示すように、射出成形金型11の狭隘部6の外周の近傍には、狭隘部6の温度調整を可能とする温度調整手段21が備えられ、温度調整手段21には狭隘部6の加熱及び冷却を可能とする加熱冷却部90が設けられている。
温度調整手段21に設けられる加熱冷却部90としては、例えば、媒体を閉循環させるようなものを例示することができる。そして、閉循環させる媒体を切り替えたり、温度を変えたりすることで加熱と冷却の切替を行うようにすることができる。
【0033】
この場合、加熱を行うための加熱媒体としては、例えば、加熱温度が室温〜100℃以下の場合は水を、100℃程度〜200℃程度の場合は水蒸気を、室温〜300℃程度の場合はシリコーン油などの加熱媒体油を例示することができる。ただし、これらのものに限定されるわけではなく、射出成形される樹脂材料のガラス転移温度などにより適宜選択することができる。また、冷却を行うための冷却媒体としては、例えば、窒素ガス、水、シリコーン油のような油などを例示することができる。ただし、これらに限定されるわけではなく、適宜変更することができる。
【0034】
図4に例示をした加熱冷却部90は、断面が略円形をした柱状形状を呈している。そして、例えば、媒体を閉循環させるようなものの場合は、内部が中空のパイプ状とされており、その内部を窒素ガス、水、水蒸気、油などの媒体が流れるようになっている。
【0035】
尚、加熱冷却部90の制御は、狭隘部6の近傍に設けられた図示しない温度測定手段の測定値に基づいて行うようにすることができる。
【0036】
また、図4に例示をした加熱冷却部90の断面形状は略円形であるが、これに限定されるわけではなく、例えば、矩形、台形、その他の多角形などとすることもできる。また、加熱冷却部90の数も図示したものに限定されるわけではなく、狭隘部6の長さなどに合わせて適宜変更することができる。
【0037】
本実施の形態においては、加熱及び冷却を行うことのできる加熱冷却部90を設けて、加熱と冷却とを切り替えるようにしている。そのため、単位面積あたりに設けることができる加熱手段または冷却手段の数を増加させることができる。例えば、図4に例示をしたものの場合においては、2つの加熱冷却部90を加熱手段(または、冷却手段)とすることができ、加熱範囲(または、冷却範囲)を拡げたり、加熱容量(または、冷却容量)を増加させたりすることができる。その結果、温度分布の均一化や昇温時間(または、冷却時間)の短縮化を図ることができる。
【0038】
図5は、本発明の第4の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
尚、図1、図2において説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0039】
図5に示すように、射出成形金型12の狭隘部6の外周の近傍には、狭隘部6の温度調整を可能とする温度調整手段21が備えられ、温度調整手段21には狭隘部6の加熱及び冷却を可能とする加熱冷却部90が設けられている。また、加熱冷却部90と流速調整部7とを覆うようにして熱の伝導を抑制する断熱手段91が設けられている。
断熱手段91は、断熱性が高く耐熱性を有する材料により形成させるようにすることが好ましい。そのような材料としては、例えば、ガラスフィラーを混入した樹脂や各種セラミックスなどの無機材料を例示することができる。ただし、これらに限定されるわけではなく、適宜変更することができる。
【0040】
本実施の形態においては、加熱冷却部90と流速調整部7とが断熱手段91により覆われているので、外部への伝熱による損失や外部への熱放射が抑制される。そのため、加熱冷却部90による温度制御性が向上し、また、省エネルギーともなるので環境負荷が低減されることになる。
【0041】
尚、断熱手段91が配設される位置やその形状は図5に例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
すなわち、狭隘部6の近傍であって、外部への放熱が抑制できるような断熱手段を備えるようにすればよい。
【0042】
図6は、本発明の第5の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
尚、図1〜図5において説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0043】
図6に示すように、可動側金型3aのパーティング面(金型の分割面)16には、キャビティ形成面8aが設けられ、このキャビティ形成面8aと固定側金型2aのパーティング面(金型の分割面)16とで形成される空間がキャビティ8となる。
また、固定側金型2aには、スプル4aとランナ5aとが設けられている。そして、スプル4aの一端は固定側金型2aの固定側取り付け板13を取り付ける側の面に開口され、他端はランナ5aと連通されている。
【0044】
また、ランナ5aのスプル4aが連通している面と対向する側の面には、2つのスプル4bが連通されており、各スプル4bは、狭隘部6、流速調整部7を介してキャビティ8とそれぞれ連通されている。そのため、スプル4aの開口部から導入された溶融樹脂が、スプル4a、ランナ5a、狭隘部6、流速調整部7を経由して、2箇所からキャビティ8内へ充填可能とされている。また、それぞれの狭隘部6の外周の近傍には、狭隘部6の温度調整を可能とする温度調整手段21が備えられ、温度調整手段21には狭隘部6の加熱及び冷却を可能とする加熱冷却部90が設けられている。また、加熱冷却部90と流速調整部7とを覆うようにして断熱手段91がそれぞれ設けられている。
【0045】
尚、図6に例示をしたものでは、スプル4b、狭隘部6、流速調整部7、加熱冷却部90、断熱手段91を2組設けるものとしているが、これに限定されるわけではない。例えば、キャビティ8の面積や体積などに応じてこれらの組数を適宜変更することができる。
【0046】
本実施の形態においては、複数の箇所からキャビティ8内へ溶融樹脂を充填することができるので、キャビティ8の面積や体積などが大きい場合においても転写性に優れた射出成形を行うことができる。
【0047】
次に、本実施の形態に係る射出成形金型1を用いた射出成形品の製造方法について説明をする。
【0048】
図7は、本発明の実施の形態に係る射出成形品の製造方法について例示をするためのフローチャートである。
まず、図示しない加熱供給手段により加熱された加熱媒体が射出成形金型1の図示しない循環路に供給されて、射出成形金型全体が所定の温度まで加熱される。この際、狭隘部6の外周の近傍に設けられた加熱部9により狭隘部6を加熱するようにしてもよい。
尚、加熱媒体としては、例えば、水、水蒸気、油など種々のものを用いることができる。また、加熱の手段も加熱媒体を循環させるものに限定されるわけではなく、電熱線を用いたものなどであってもよい。
【0049】
そして、成形開始信号により加熱された射出成形金型1の型締め動作が行われる(ステップS1)。すなわち、可動側金型3(可動側取り付け板15)を移動させて、可動側金型3と固定側金型2とをパーティング面16で接合させる。
【0050】
次に、図示しない射出成形装置から、加熱、溶融された溶融樹脂が射出成形金型1へ射出充填される(ステップS2)。
射出充填された溶融樹脂は、スプル4、ランナ5、狭隘部6、流速調整部7を経由してキャビティ8へ供給(充填)される。尚、この際の射出条件を例示するものとすれば、例えば、アクリル樹脂の場合においては、射出成形装置のシリンダ温度を200℃〜260℃程度、射出圧力を60MPa〜120MPa程度とすることができる。
この際、狭隘部6の外周の近傍に設けられた温度調整手段20による狭隘部6の温度調整と狭隘部6において生ずる剪断発熱とで溶融樹脂の温度が調整される。そのため、例えば、射出成形金型1への導入からキャビティ8に充填されるまでの間に生じた温度低下分を昇温させることができるので、流動性が高く、転写性に優れた射出成形を行うことができる。また、溶融樹脂の温度が高すぎる場合には、温度調整手段20に設けられた冷却部10により、溶融樹脂の温度が適正な温度となるように調整することもできる。
【0051】
また、狭隘部6を通過させることで速くなった溶融樹脂の流速を流速調整部7によりキャビティ8内の空気などを巻き込まない程度の流速まで徐々に減速させることができる。そのため、ボイド(空洞)やフラッシュ(銀条)が抑制された射出成形を行うことができる。
【0052】
また、流速調整部7を設けることで広い範囲からキャビティ8内に溶融樹脂を充填することができるので、キャビティ8内における溶融樹脂の流速を均一にすることができる。その結果、フローマークと呼ばれる外観不良をも抑制することができる。
【0053】
また、図3で例示をした整流部70を設けるものとすれば、溶融樹脂の流れ方向がキャビティ8への充填方向と略平行となる向きに矯正されるので、キャビティ8内における溶融樹脂の流速をさらに均一とすることができる。
【0054】
また、図5で例示をした断熱手段91を設けるものとすれば、外部への伝熱による損失や外部への熱放射を抑制することができるので、温度制御性が向上し、また、省エネルギーともなるので環境負荷を低減させることができる。
【0055】
また、図6で例示をしたように複数の箇所からキャビティ8内へ溶融樹脂を充填するものとすれば、キャビティ8の面積や体積などが大きい場合においても転写性に優れた射出成形を行うことができる。
【0056】
次に、冷却部10によりゲート部7a付近の溶融樹脂を冷却して、キャビティ8を閉鎖する(ステップS3)。
この時、加熱部9による加熱を停止しておけば、ゲート部7a付近の樹脂の冷却がより容易となる。
【0057】
次に、図示しない冷却手段により窒素ガスや水などの冷却媒体が射出成形金型1の図示しない循環路に供給されて、射出成形金型全体が所定の温度まで冷却される。その後、可動側金型3(可動側取り付け板15)を移動させて、射出成形品を取り出す(ステップS4)。
その後、所望の数に達するまで、前述の手順を繰り返すことにより射出成形品を製造する。
【0058】
尚、本実施の形態に係る射出成形金型装置1が備えられる図示しない射出成形装置に関しては、既知の射出成形装置の技術を適用することができるのでその説明は省略する。
【0059】
また、前述のアクリル樹脂とその射出条件などは、例示であり、これに限定されるわけではない。溶融樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を例示することができ、より具体的には、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン 、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc) 、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂 、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテルm-PPE、変性PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレート・ガラス樹脂入り(PET-G)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET)、環状ポリオレフィン (COP)、あるいはこれらのアロイ材などを例示することができる。
【0060】
ここで、本発明者の得た知見によれば、例えば、厚みが1mm以下の薄肉の精密部品(例えば、光学素子のレンズなど)であっても、高い流動性を維持したまま溶融樹脂をキャビティ8に充填することができるので、射出成形品表面の微細形状や平滑面の面精度の高い(転写性の高い)射出成形品を得ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明をした。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。
【0062】
前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【0063】
例えば、射出成形金型1、射出成形金型11、射出成形金型12、射出成形金型17などが備える各構成要素の形状、寸法、材質、配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
【図2】図1におけるA−A矢視模式断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態に係る射出成形金型を例示するための模式断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る射出成形品の製造方法について例示をするためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 射出成形金型、2 固定側金型、2a 固定側金型、3 可動側金型、3a 可動側金型、4 スプル、4a スプル、4b スプル、5 ランナ、5a ランナ、6 狭隘部、7 流速調整部、7a ゲート部、8 キャビティ、9 加熱部、10 冷却部、11 射出成形金型、12 射出成形金型、16 パーティング面、17 射出成形金型、20 温度調整手段、21 温度調整手段、30 可動側金型、70 整流部、90 加熱冷却部、91 断熱手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金型と、
前記第1の金型と協働してキャビティを形成する第2の金型と、
前記キャビティ内に溶融樹脂を充填する流路であるランナと、
前記ランナの前記キャビティが形成される側に設けられ、前記ランナよりも流路断面積の小さい狭隘部と、
前記狭隘部の温度を調整可能とする温度調整手段と、
前記狭隘部の前記キャビティが形成される側に設けられ、前記溶融樹脂の流速を減速させる流速調整部と、
を備えたこと、を特徴とする射出成形金型。
【請求項2】
前記温度調整手段は、前記狭隘部の加熱を可能とする加熱部と、前記狭隘部の冷却を可能とする冷却部と、を有すること、を特徴とする請求項1記載の射出成形金型。
【請求項3】
前記温度調整手段は、前記狭隘部の加熱及び冷却を可能とする加熱冷却部を有すること、を特徴とする請求項1記載の射出成形金型。
【請求項4】
前記流速調整部の前記キャビティが形成される側に設けられ、前記溶融樹脂の流れ方向と前記キャビティへの充填方向とが略平行となるように矯正する整流部をさらに備えたこと、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の射出成形金型。
【請求項5】
前記狭隘部の周囲に設けられ、熱の伝導を抑制する断熱手段をさらに備えたこと、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の射出成形金型。
【請求項6】
第1の金型と、前記第1の金型と協働してキャビティを形成する第2の金型と、前記キャビティ内に溶融樹脂を充填する流路であるランナと、前記ランナの前記キャビティが形成される側に設けられ、前記ランナよりも流路断面積の小さい狭隘部と、前記狭隘部の温度を調整可能とする第1の温度調整手段と、前記狭隘部の前記キャビティが形成される側に設けられ、前記溶融樹脂の流速を減速させる流速調整部と、を有する射出成型金型を用いて、
第1の金型と第2の金型とを型締めすることで前記キャビティを形成し、
前記温度調整手段による前記狭隘部の温度調整と、前記狭隘部において生ずる剪断発熱と、により溶融樹脂の温度を変化させつつ溶融樹脂を前記キャビティに向けて供給し、
前記狭隘部を通過させることで速くなった前記溶融樹脂の流速を流速調整分において減速させて、前記溶融樹脂を前記キャビティ内に充填すること、を特徴とする射出成形品の製造方法。
【請求項7】
前記流速調整部により流速が減速された前記溶融樹脂の流れ方向は、前記整流部によって前記キャビティへの充填方向と略平行となる向きに矯正されること、を特徴とする請求項6記載の射出成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の射出成形金型を用いて射出成形されたこと、を特徴とする射出成形品。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−90558(P2009−90558A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263675(P2007−263675)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】