導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法
【課題】所望の比抵抗を有する導電性III族窒化物単結晶基板を低コストで製造することができる導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法は、GaClガス、NH3ガス、及びN2又はArにより所定の濃度に希釈されたSiH2Cl2ガスをGaN単結晶基板に供給し、450μm/hourより大きく2mm/hour以下の範囲の成長速度でGaN単結晶基板上にGaN単結晶を成長させると共に、SiH2Cl2ガスが所定の濃度に希釈されたことによるNH3ガスとの反応の抑制により、GaN単結晶の比抵抗が1×10−3Ωcm以上1×10−2Ωcm以下となるようにSiH2Cl2ガスに含まれるSiがGaN単結晶にドーピングされることを含む。
【解決手段】導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法は、GaClガス、NH3ガス、及びN2又はArにより所定の濃度に希釈されたSiH2Cl2ガスをGaN単結晶基板に供給し、450μm/hourより大きく2mm/hour以下の範囲の成長速度でGaN単結晶基板上にGaN単結晶を成長させると共に、SiH2Cl2ガスが所定の濃度に希釈されたことによるNH3ガスとの反応の抑制により、GaN単結晶の比抵抗が1×10−3Ωcm以上1×10−2Ωcm以下となるようにSiH2Cl2ガスに含まれるSiがGaN単結晶にドーピングされることを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GaN単結晶基板は、そのほとんどがハロゲン化気相エピタキシー法(Halide Vapor Phase Epitaxy:HVPE)によって製造されている。HVPE法によって導電性を有するGaN単結晶基板を製造する方法として、異種基板(Al2O3、SiCなど)の表面に、SiHxCl4−x(x=1〜3)をドーピングガスとして供給する方法(特許文献1、非特許文献1参照)、O2、H2O、H2S、SiCl4、GeCl4、Se2Cl2、Te2Cl2などをドーピングガスとして供給する方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
また、従来のGaN単結晶基板の製造方法として、異種基板(Al2O3、GaAsなど)の表面に、異種基板自体を保護したり、GaN単結晶の欠陥を低減したり、GaN単結晶を異種基板から剥離したりする目的で様々な構造を異種基板に形成する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0004】
さらに、従来のGaN単結晶基板の製造方法として、GaN単結晶基板を種結晶に用い、この種結晶上にGaN単結晶を成長させることでインゴットを形成し、得られたインゴットをスライスして複数のGaN単結晶基板を製造する方法が知られている(特許文献4及び5参照)。
【0005】
しかし、上記の特許文献1、2及び3は、1枚のGaN基板を得るのに異種基板を1枚消費しなければならないため、高コストとなる。また、上記の特許文献4及び5は、内周刃スライサによって、GaNのインゴットをスライスすることにより、GaN単結晶基板を得ることができるが、切断のための切代で数mm、また、切断によるダメージ層を研磨加工するのに、さらに片面で数百μm必要であるので、高コストとなる。さらに、上記の非特許文献1、特許文献1及び5は、GaN単結晶の成長速度が、100μm/hour程度であり、厚さ数百μmのGaN単結晶基板を得るためと、切代の数mmを得るために、長い時間をかけて結晶を成長させなければならず、高コストであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−91234号公報
【特許文献2】特開2006−193348号公報
【特許文献3】特許第3985839号公報
【特許文献4】特開2006−273716号公報
【特許文献5】特開2003−17420号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kenji Fujito, Shuichi Kubo, Hirobumi Nagaoka, Tae Mochizuki, Hideo Namita, Satoru Nagao, Journal of Crystal Growth 311 (2009) 3011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、所望の比抵抗を有する導電性III族窒化物単結晶基板を低コストで製造することができる導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明は、上記目的を達成するため、III族原料ガス、V族原料ガス、及びN2又はArにより所定の濃度に希釈されたドーピング原料ガスを種結晶に供給し、450μm/hourより大きく2mm/hour以下の範囲の成長速度で前記種結晶上にIII族窒化物単結晶を成長させると共に、前記ドーピング原料ガスが前記所定の濃度に希釈されたことによる前記V族原料ガスとの反応の抑制により、前記III族窒化物単結晶の比抵抗が1×10−3Ωcm以上1×10−2Ωcm以下となるように前記ドーピング原料ガスに含まれる不純物が前記III族窒化物単結晶にドーピングされることを含む導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0010】
[2]本発明は、上記目的を達成するため、前記ドーピング原料ガスは、0.5×10−6atm以上の供給分圧で前記種結晶に供給される前記[1]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0011】
[3]本発明は、上記目的を達成するため、前記ドーピング原料ガスは、SiH2Cl2を含む前記[2]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0012】
[4]本発明は、上記目的を達成するため、前記III族原料ガスは、500乃至900℃に加熱したIn、Al又はGaのうち1つのIII族原料に塩化物ガスを供給することにより生成される前記[3]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0013】
[5]本発明は、上記目的を達成するため、前記V族原料ガスは、NH3である前記[4]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0014】
[6]本発明は、上記目的を達成するため、前記種結晶は、Al2O3、GaAs、Si、GaN、AlNのいずれか、又は、これらの前記種結晶上にマスクパターンを形成したものである前記[5]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0015】
[7]本発明は、上記目的を達成するため、前記III族窒化物単結晶は、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)である前記[6]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0016】
[8]本発明は、上記目的を達成するため、前記III族窒化物単結晶を任意の結晶面でスライスし、スライスして得られた基板の厚さが100μm以上600μm以下となるように、前記基板の両面を研磨することを含む前記[7]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所望の比抵抗を有する導電性III族窒化物単結晶基板を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、SiH2Cl2ガスの供給分圧とGaNのインゴットの比抵抗の関係を示すグラフである。
【図2】図2は、GaN単結晶の成長速度とインゴットの比抵抗の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、HVPE装置の概略図である。
【図4】図4は、インゴットのスライスに関する模式図である。
【図5】図5は、実施例1に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例2に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例3に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例4に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例7に係るGaN基板のスライスに関する概略図である。
【図10】図10は、実施例8に係るNH3ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、比較例2に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態]
図1は、SiH2Cl2の供給分圧とGaNのインゴットの比抵抗の関係を示すグラフである。図1において、成長速度は1mm/hourで一定である。
【0020】
HVPE法により、種結晶としてのAl2O3基板に、III族原料ガスと、V族原料ガスとしてのNH3ガスと、ドーピング原料ガスとしてのSiH2Cl2ガスを供給し、不純物としてSiをドーピングしたGaN単結晶を成長させ、このGaN単結晶からなるインゴットを作製した。このときの成長速度は、1mm/hourである。また、ドーピング原料ガスの供給分圧を変えてインゴットを作製し、それぞれのインゴットの比抵抗を測定した。なお、III族原料ガスは、H2又はN2といったキャリアガスと共に供給されるHClガスとGaの反応により生成されるGaClを含んで構成される。
【0021】
測定した結果、図1に示すように、ドーピング原料ガスの供給分圧の変化による、インゴットの比抵抗の変化はほぼ見られなかった。
【0022】
図2は、GaN単結晶の成長速度とインゴットの比抵抗の関係を示すグラフである。図2において、ドーピング原料ガスの供給分圧は一定である。
【0023】
次に、ドーピング原料ガスであるSiH2Cl2ガスの供給分圧を一定にし、GaN単結晶の成長速度を変えてGaNのインゴットを作製した。SiH2Cl2ガスの供給分圧は、2×10−6atmとした。
【0024】
測定した結果、図2に示すように、成長速度が450μm/hourを超えると急激に比抵抗が高くなることが分かった。
【0025】
次に、比抵抗が高かったインゴットと比抵抗が低かったインゴットをそれぞれ二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)により調べ比較した。その結果、比抵抗が高かったインゴットは比抵抗が低かったインゴットに比べSi濃度が1桁ほど低いことが分かった。
【0026】
半導体装置の製造コストを下げるため、GaNのインゴットをスライスしてGaN単結晶基板としてのGaN基板を得る場合、GaN単結晶を高速に成長させることが必要不可欠であるが、上記の方法では、得られたGaN基板に十分な導電性を付与させることができない。
【0027】
そこで本発明者らは、何故成長速度が大きくなると、得られるインゴットの比抵抗が高くなる(インゴット中のSi濃度が低くなる)のか鋭意検討した。
【0028】
検討の結果、インゴットを成長させる際のNH3ガスの供給分圧とインゴット中のSi濃度に相関があり、成長中のNH3ガスの供給分圧が高いほど、得られたインゴット中のSi濃度が低くなることが分かった。
【0029】
つまり、成長速度が大きい条件ほど、III族原料ガス、V族原料ガス共に供給分圧を高くする必要があるので、得られたインゴット中のSi濃度が低くなるのである。
【0030】
NH3ガスの供給分圧が高いほど、Siがドーピングされにくくなる理由として、ドーピング原料として用いたSiH2Cl2とV族原料として用いたNH3が種結晶上に到達する前に、気相中で反応してしまっていることが考えられる。
【0031】
従って、本発明者らは、SiH2Cl2とNH3の気相反応を抑制することができれば、高速成長条件においてもSi濃度を高くすることが可能になるのではないかと考えた。
【0032】
また、本発明者らは、SiH2Cl2とNH3の気相反応を抑制する方法として、SiH2Cl2の希釈ガスに、比較的拡散係数が小さく、かつ不活性であるガスを用いることに考え至った。当該希釈ガスを用いることにより、SiH2Cl2とNH3が混ざりにくくなり、気相反応が抑制できると考えた。
【0033】
さらに、導電性を有するGaN基板に要求される比抵抗は、例えば、1×10−3Ωcm以上、1×10−2Ωcm以下の範囲である。この範囲の比抵抗を実現するための不純物ドーピング濃度は、GaNに対し数百〜数千ppm程度である。
【0034】
従って、導電性を有するGaN基板を得るために、数百〜数千ppmの所定の濃度に希釈したSiH2Cl2ガスを用いる。従来、純度の観点から、希釈ガスには、専らH2が用いられてきた。
【0035】
そこで本発明者らは、SiH2Cl2の希釈ガスに、H2に替えてN2又はArを用いることを考えるに至った。次に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法について説明する。まず、導電性III族窒化物単結晶基板の製造に用いるHVPE装置の構成から説明する。
【0036】
(HVPE装置の構成)
図3は、HVPE装置の概略図である。このHVPE装置1は、反応管10と、ヒータ12と、供給管14、16、18と、排気管20と、を備えて概略構成されている。
【0037】
反応管10は、例えば、石英からなる。
【0038】
供給管14は、例えば、反応管10に接続され、反応管10の内部にドーピング原料ガス3を供給する。このドーピング原料ガス3は、例えば、N2又はArで希釈されたSiH2Cl2ガスである。なお、ドーピング原料ガスは、SiH2Cl2を希釈して得られるが、これに限定されず、SiHCl3、SiH3Cl、SiCl4、又はそれらの混合物を希釈して生成しても良い。
【0039】
供給管16は、例えば、反応管10に接続され、反応管10の内部にV族原料ガス4を供給する。このV族原料ガス4は、例えば、NH3ガスである。
【0040】
供給管18は、例えば、反応管10に接続され、反応管10の内部に塩化物ガス5を供給する。この塩化物ガス5は、例えば、HClガスである。また、塩化物ガス5は、反応管10の内部に設置された容器24付近に供給される。この容器24には、III族原料6が入れられており、さらに、ヒータ12により加熱されている。加熱されたIII族原料6と塩化物ガス5により、III族原料ガス50が生成される。このIII族原料6は、例えば、In、Al又はGaである。
【0041】
排気管20は、例えば、反応管10に接続され、反応管10の内部のガスを排気ガス7として排出する。
【0042】
また、反応管10は、回転軸22が、反応管10に対して回転可能に接続され、この回転軸22の端部には、種結晶8が固定されている。
【0043】
この種結晶8は、例えば、Al2O3、GaAs、Si、GaN、AlNのいずれか、又は、これらの種結晶8上にマスクパターンを形成したものである。
【0044】
(導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法)
まず、種結晶8を回転軸22に固定する。次に、種結晶8を回転させながら、所定の濃度に希釈されたドーピング原料ガス3、V族原料ガス4、及び塩化物ガス5とIII族原料6から生成したIII族原料ガス50を種結晶8に供給する。なお、所定の濃度は、例えば、300ppmである。
【0045】
ドーピング原料ガス3、V族原料ガス4及びIII族原料ガス50の供給モル比を調整して導電性III族窒化物単結晶を種結晶8の表面に成長させ、所望の比抵抗を有し、また、所望の組成となるインゴットを作製する。なお、III族原料6の加熱温度は、例えば、500〜900℃である。また、導電性III族窒化物単結晶が成長する種結晶8の表面付近の温度は、例えば、成長させる結晶に合わせて500〜1100℃の範囲で調整される。なお、所望の比抵抗とは、1×10−3Ωcm以上、1×10−2Ωcm以下の範囲の比抵抗である。
【0046】
図4は、インゴットのスライスに関する模式図である。このインゴット9は、内周刃スライサを用いて、図4に示すように、厚さaの基板90、92、94にスライスされる。切代91、93として厚さbの部分を失うとすると、基板をx枚得るために最も無駄の無いインゴット9の厚さcは、次式から求められる。
【数1】
【0047】
従って、インゴットから切り出す基板の厚さaや枚数x、及び切代の厚さbを考慮にいれ、成長させるインゴットの厚さcを[数1]で求め、求めた厚さcを有するインゴットを成長させることが好ましい。
【0048】
ここでインゴットの成長速度をr、HVPE法でインゴットを成長させる際に必要となる段取りの時間や昇温及び降温時間の合計時間をTとすると、基板1枚当たりの成長時間dxは次式から求められる。
【数2】
【0049】
低コスト化のためには、基板1枚当たりの成長時間dxを短くすればよい。合計時間Tは、いくら効率化を図ったところで短縮には限界がある。そこで合計時間Tの影響を小さくするためには、インゴットの厚さcを大きくし(インゴットを長尺化し)、切り出し枚数xを多くすればよいことが、[数2]の式から分かる。
【0050】
しかし、[数2]に[数1]を代入し、枚数がx枚の時の方がx−1枚の時よりも基板1枚当たりの成長時間が短い(dx<dx−1)として整理すると、次式が得られる。
【数3】
従って、[数3]を満たさなければ、基板1枚当たりの成長時間dが短縮されないことが分かる。
【0051】
ここで、内周刃スライサを用いてインゴットをスライスする場合、切代の厚さbは、約1mmである。また、合計時間Tは、例えば、約2時間半程度である。よって、この切代の厚さb及び合計時間Tを[数3]に代入すると、インゴット成長には400μm/hourよりも大きい成長速度が必要であることが分かる。
【0052】
成長速度rが400μm/hourよりも大きければ大きいほど、基板1枚当たりの成長時間dをインゴットの長尺化により低減しやすい。しかし、実際にインゴットを問題なく正常に成長させるためには、成長速度rの上限は、約2mm/hourである。よって、成長速度rは、450μm/hour<r≦2mm/hourの範囲であることが好ましい。
【0053】
厚さaでスライスされた基板は、スライスにより形成されたダメージ層が除去され、かつ表面を平坦にするために、両面に研磨加工が実施される。基板は、研磨加工により、それぞれ100μm程度が除去される。
【0054】
こうして得られた基板(III族窒化物基板)の厚さは、100μm以上600μm以下であることが好ましい。何故なら、基板を割らずにハンドリングするためには、基板の厚さとして少なくとも100μmの厚さが必要であるからである。また、600μmよりも基板が厚くなると、半導体装置を作成する際に実施するへき開が困難となったり、バックラップを実施する際に、その除去量が増えたりして、生産性に悪影響を及ぼす。よって基板の厚さは、100μm以上600μm以下であることが好ましい。
【0055】
(効果)
本実施の形態に係る導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法によれば、N2又はArでSiH2Cl2を希釈することで、SiH2Cl2とNH3の気相反応を抑制するので、H2で希釈してIII族窒化物単結晶を成長させた場合と比べて、高速でIII族窒化物単結晶を成長させると共にIII族窒化物単結晶に所望の比抵抗を付与することができる。
【0056】
また、上記の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法によれば、450μm/hourより大きく2mm/hour以下の範囲の成長速度でIII族窒化物単結晶を成長させ、所望の比抵抗が付与されたIII族窒化物単結晶からなる長尺のインゴットを短時間で作製することができるので、インゴットから低コストで導電性III族窒化物基板を作製することができる。
【実施例1】
【0057】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例1を説明する。種結晶に直径56mmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法により、III族窒化物単結晶としてのGaN単結晶のインゴットを作製した。なお、以下のIII族窒化物単結晶は、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)であり、一例としてGaN単結晶について説明する。
【0058】
各ガスの供給分圧は、III族原料ガスとしてのGaClガスの供給分圧を3×10−2atm、V族原料ガスとしてのNH3ガスの供給分圧を20×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるように、N2で希釈したSiH2Cl2ガスをドーピング原料ガスとして用い、SiH2Cl2ガスの供給分圧が、0atm、0.14×10−6atm、0.29×10−6atm、0.57×10−6atm、1.14×10−6atm、2.86×10−6atmのいずれかになるように流量を調整した。
【0059】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、600μm/hourであった。インゴットの厚さは3mmとした。
【0060】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0061】
図5は、実施例1に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所は、GaN基板の中心とした。
【0062】
測定の結果、図5に示すように、ドーピング原料ガスとして、300ppmの濃度にN2で希釈したSiH2Cl2ガスを用いれば、600μm/hourという高速成長条件下においても、得られるGaN単結晶のインゴットの比抵抗をSiH2Cl2ガスの供給分圧で制御できることが分かった。
【実施例2】
【0063】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例2を説明する。種結晶に直径56mmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0064】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を6×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を35×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるようにN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、0atm、0.14×10−6atm、0.29×10−6atm、0.57×10−6atm、1.14×10−6atm、2.86×10−6atmのいずれかになるように流量を調整した。
【0065】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、2mm/hourであった。インゴットの厚さは3mmとした。
【0066】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0067】
図6は、実施例2に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所はGaN基板の中心とした。
【0068】
測定の結果、図6に示すように、ドーピング原料ガスとして、300ppmの濃度にN2で希釈したSiH2Cl2ガスを用いれば、2mm/hourという高速成長条件下においても、得られるGaN単結晶のインゴットの比抵抗をSiH2Cl2ガスの供給分圧で制御できることが分かった。
【実施例3】
【0069】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例3を説明する。種結晶に直径56mmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0070】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を2×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を13×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるようにN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、0atm、0.14×10−6atm、0.29×10−6atm、0.57×10−6atm、1.14×10−6atm、2.86×10−6atmのいずれかになるように流量を調整した。
【0071】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、455μm/hourであった。インゴットの厚さは3mmとした。
【0072】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0073】
図7は、実施例3に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所は、GaN基板の中心とした。
【0074】
測定の結果、図7に示すように、ドーピング原料ガスとして、300ppmの濃度にN2で希釈したSiH2Cl2ガスを用いれば、600μm/hourという高速成長条件下においても、得られるGaN単結晶のインゴットの比抵抗をSiH2Cl2ガスの供給分圧で制御できることが分かった。
【実施例4】
【0075】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例4を説明する。上記の実施例1〜3において、SiH2Cl2の希釈ガスのみをN2からArに変更してGaN単結晶のインゴットを作製した。また、同様にGaN基板を作製した。
【0076】
図8は、実施例4に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗の測定方法は、上記の各実施例と同様である。測定の結果、図5に示すように、希釈ガスがN2の場合よりもArの方が導電性の良いGaN基板が得られた。
【実施例5】
【0077】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例5を説明する。種結晶に直径56mmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0078】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を6.3×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を36×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、2.1mm/hourであった。
【0079】
この条件下では、インゴットに微小クラックの発生が見られた。従ってGaN基板の製造方法として適切でないことが分かった。
【実施例6】
【0080】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例6を説明する。種結晶に直径56mm、厚さ400μmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0081】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を3×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を20×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるようにN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、0.57×10−6atmとなるよう、流量を調整した。
【0082】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、600μm/hourであった。内周刃スライサを用い(切代1mm)、厚さ600μmのGaN基板を10枚取得できるよう、成長させるインゴットの厚さを15mmとした。
【0083】
15mmのインゴットから、内周刃スライサを用いて、厚さが600μmで主面が(0001)であるGaN基板を10枚得た。これらの全ての表裏面に対し鏡面研磨加工を行った。これによって、厚さが400μmで主面が(0001)であるGaN基板を10枚得た。
【0084】
得られた全てのGaN基板の比抵抗を測定した。測定方法は、四探針法であり、測定箇所は、GaN基板の中心とした。測定の結果、全てのGaN基板の比抵抗は、9.4×10−3Ωcmであった。
【0085】
本実施例において、種結晶の導入と成長後の取り出しに要した時間は30分、室温から成長温度までの昇温に1時間、成長温度から室温までの降温に1時間を要した。また、成長時間は24時間20分であった。従って、基板1枚当たりの成長に要する時間は、2時間41分であった。
【実施例7】
【0086】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例7を説明する。種結晶に直径56mm、厚さ400μmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0087】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を3×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を20×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるようにN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、0.57×10−6atmとなるよう、流量を調整した。
【0088】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、600μm/hourであった。インゴットの厚さは20mmとした。
【0089】
図9は、実施例7に係るGaN基板のスライスに関する概略図である。図9に示す厚さ20mmのインゴット100から、内周刃スライサを用いて、20mm角の大きさで、厚さが600μm、主面が(10−10)であるGaN基板101を50枚得た。スライスは、図9に示すように、インゴット100の中央から40枚、インゴット100の縁辺付近から10枚のGaN基板101が得られるように行った。また、得られたGaN基板101の全ての表裏面に対し鏡面研磨加工を行った。
【0090】
上記の製造方法により、20mm角の大きさで、厚さが400μm、主面が(10−10)であるGaN基板101を50枚得た。得られた全てのGaN基板の比抵抗を測定した。測定方法は、四探針法であり、測定箇所は、GaN基板の中心とした。測定の結果、全てのGaN基板の比抵抗は、8.2×10−3Ωcmであった。
【実施例8】
【0091】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例8を説明する。種結晶に直径56mm、厚さ400μmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0092】
所定の濃度として300ppmとなるようにAr又はN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、8.6×10−8atmとなるように流量を調整した。また、H2の供給分圧を25×10−2atmとし、NH3ガスの供給分圧を4.8×10−2atm、9.5×10−2atm、14.3×10−2atm、17atmのいずれかとしてそれぞれの条件でインゴットを作製した。
【0093】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度が100μm/hourとなるように、GaClガスの供給分圧を5×10−3〜8×10−3atmの範囲で調整した。このようにして厚さ3mmのGaN単結晶のインゴットを得た。
【0094】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0095】
図10は、実施例8に係るNH3ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所は、GaN基板の中心とした。
【0096】
測定の結果、図10に示すように、Ar又はN2で希釈したSiH2Cl2ガスをドーピング原料ガスとして用いた場合、NH3ガスの供給分圧を変化させても得られるインゴットの比抵抗が変化しないことが分かった。
【0097】
このことから、Ar又はN2で所定の濃度に希釈したSiH2Cl2ガスをドーピング原料ガスとして用いることにより、高速成長条件で作製したインゴットにも良好な導電性を付与できる。
【0098】
本発明者らは、上記の特徴が、NH3原料を用いて成長する全てのIII族窒化物半導体について共通であることも確認した。この確認の際、III族の原料としては、所望の組成のIII族窒化物インゴットが得られるように、AlCl3、InCl3、GaCl3の供給分圧を適切に調整して供給した。InNのインゴットの成長には、種結晶としてGaN単結晶基板を、AlNやAlInGaN単結晶のインゴットを成長する場合には、AlN単結晶基板を用いた。
【実施例9】
【0099】
実施例1と同様の実験を、種結晶にAl2O3、GaAs、Si及びこれらの種結晶上にマスクパターンを形成したものを種結晶として実施した。実施例1と同様の結果を得た。
【0100】
(比較例1)
比較例1では、種結晶にGaAs(111)基板を用い、その上にHVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0101】
まずGaClガスの供給分圧を2×10−3atm、NH3ガスの供給分圧を4.8×10−2atm、H2ガスの供給分圧を0.1atmとして500℃で1時間成長させた後、GaAs基板の温度を1050℃に上昇させ、その後1時間同条件で成長させた。
【0102】
さらにGaClガスの供給分圧を8×10−3atmに増やして1時間成長させた後、ドーピング原料ガスとして、H2で希釈したSiH2Cl2ガスを用い、SiH2Cl2ガスの供給分圧が2×10−6atmとなるように流量を設定し、さらに5時間成長させた。
【0103】
成長後、GaAs基板のダメージ層を除去し、厚さ600μmのGaN基板を得た。この後、表裏面の鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。得られたGaN基板の比抵抗を、各実施例と同様の四探針法で測定したところ、3.3×10−3Ωcmであった。
【0104】
なお、種結晶の投入や成長後の結晶の取り出しに要した段取り時間は30分であった。昇温に1時間、降温に1時間を要した。以上から、本比較例での製造方法によれば、GaN基板1枚当たりの成長に要した時間は、10時間30分であった。
【0105】
実施例6では、本比較例に比べて1枚当たりの成長時間を短縮できており、低コストで導電性GaN基板を得ることができる。
【0106】
(比較例2)
比較例2では、種結晶に直径56mm、厚さ400μmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0107】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を3×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を20×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。300ppmの濃度となるように、Heで希釈したSiH2Cl2ガスを用い、SiH2Cl2ガスの供給分圧が、0atm、0.14×10−6atm、0.29×10−6atm、0.57×10−6atm、1.14×10−6atm、2.86×10−6atmのいずれかになるように流量を調整した。
【0108】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、600μm/hourであった。インゴットの厚さは3mmとした。
【0109】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0110】
図11は、比較例2に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所は、GaN基板の中心とした。
【0111】
測定の結果、図11に示すように、ドーピング原料ガスとして、300ppmの濃度にHeで希釈したSiH2Cl2ガスを用いた場合、600μm/hourという高速成長条件下においては、得られるインゴットの比抵抗をSiH2Cl2ガスの供給分圧で制御できないことが分かった。Heの拡散係数はN2やArに比べ非常に大きいために、NH3とSiH2Cl2の気相反応が抑制できなかったことが原因と考えられる。
【0112】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0113】
1…HVPE装置、3…ドーピング原料ガス、4…V族原料ガス、5…塩化物ガス、6…III族原料、7…排気ガス、8…種結晶、9…インゴット、10…反応管、12…ヒータ、14、16、18…供給管、20…排気管、22…回転軸、24…容器、50…III族原料ガス、90、92、94…基板、91、93…切代、100…インゴット、101…GaN基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GaN単結晶基板は、そのほとんどがハロゲン化気相エピタキシー法(Halide Vapor Phase Epitaxy:HVPE)によって製造されている。HVPE法によって導電性を有するGaN単結晶基板を製造する方法として、異種基板(Al2O3、SiCなど)の表面に、SiHxCl4−x(x=1〜3)をドーピングガスとして供給する方法(特許文献1、非特許文献1参照)、O2、H2O、H2S、SiCl4、GeCl4、Se2Cl2、Te2Cl2などをドーピングガスとして供給する方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
また、従来のGaN単結晶基板の製造方法として、異種基板(Al2O3、GaAsなど)の表面に、異種基板自体を保護したり、GaN単結晶の欠陥を低減したり、GaN単結晶を異種基板から剥離したりする目的で様々な構造を異種基板に形成する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0004】
さらに、従来のGaN単結晶基板の製造方法として、GaN単結晶基板を種結晶に用い、この種結晶上にGaN単結晶を成長させることでインゴットを形成し、得られたインゴットをスライスして複数のGaN単結晶基板を製造する方法が知られている(特許文献4及び5参照)。
【0005】
しかし、上記の特許文献1、2及び3は、1枚のGaN基板を得るのに異種基板を1枚消費しなければならないため、高コストとなる。また、上記の特許文献4及び5は、内周刃スライサによって、GaNのインゴットをスライスすることにより、GaN単結晶基板を得ることができるが、切断のための切代で数mm、また、切断によるダメージ層を研磨加工するのに、さらに片面で数百μm必要であるので、高コストとなる。さらに、上記の非特許文献1、特許文献1及び5は、GaN単結晶の成長速度が、100μm/hour程度であり、厚さ数百μmのGaN単結晶基板を得るためと、切代の数mmを得るために、長い時間をかけて結晶を成長させなければならず、高コストであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−91234号公報
【特許文献2】特開2006−193348号公報
【特許文献3】特許第3985839号公報
【特許文献4】特開2006−273716号公報
【特許文献5】特開2003−17420号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kenji Fujito, Shuichi Kubo, Hirobumi Nagaoka, Tae Mochizuki, Hideo Namita, Satoru Nagao, Journal of Crystal Growth 311 (2009) 3011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、所望の比抵抗を有する導電性III族窒化物単結晶基板を低コストで製造することができる導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明は、上記目的を達成するため、III族原料ガス、V族原料ガス、及びN2又はArにより所定の濃度に希釈されたドーピング原料ガスを種結晶に供給し、450μm/hourより大きく2mm/hour以下の範囲の成長速度で前記種結晶上にIII族窒化物単結晶を成長させると共に、前記ドーピング原料ガスが前記所定の濃度に希釈されたことによる前記V族原料ガスとの反応の抑制により、前記III族窒化物単結晶の比抵抗が1×10−3Ωcm以上1×10−2Ωcm以下となるように前記ドーピング原料ガスに含まれる不純物が前記III族窒化物単結晶にドーピングされることを含む導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0010】
[2]本発明は、上記目的を達成するため、前記ドーピング原料ガスは、0.5×10−6atm以上の供給分圧で前記種結晶に供給される前記[1]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0011】
[3]本発明は、上記目的を達成するため、前記ドーピング原料ガスは、SiH2Cl2を含む前記[2]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0012】
[4]本発明は、上記目的を達成するため、前記III族原料ガスは、500乃至900℃に加熱したIn、Al又はGaのうち1つのIII族原料に塩化物ガスを供給することにより生成される前記[3]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0013】
[5]本発明は、上記目的を達成するため、前記V族原料ガスは、NH3である前記[4]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0014】
[6]本発明は、上記目的を達成するため、前記種結晶は、Al2O3、GaAs、Si、GaN、AlNのいずれか、又は、これらの前記種結晶上にマスクパターンを形成したものである前記[5]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0015】
[7]本発明は、上記目的を達成するため、前記III族窒化物単結晶は、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)である前記[6]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【0016】
[8]本発明は、上記目的を達成するため、前記III族窒化物単結晶を任意の結晶面でスライスし、スライスして得られた基板の厚さが100μm以上600μm以下となるように、前記基板の両面を研磨することを含む前記[7]に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所望の比抵抗を有する導電性III族窒化物単結晶基板を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、SiH2Cl2ガスの供給分圧とGaNのインゴットの比抵抗の関係を示すグラフである。
【図2】図2は、GaN単結晶の成長速度とインゴットの比抵抗の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、HVPE装置の概略図である。
【図4】図4は、インゴットのスライスに関する模式図である。
【図5】図5は、実施例1に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例2に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例3に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例4に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例7に係るGaN基板のスライスに関する概略図である。
【図10】図10は、実施例8に係るNH3ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、比較例2に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態]
図1は、SiH2Cl2の供給分圧とGaNのインゴットの比抵抗の関係を示すグラフである。図1において、成長速度は1mm/hourで一定である。
【0020】
HVPE法により、種結晶としてのAl2O3基板に、III族原料ガスと、V族原料ガスとしてのNH3ガスと、ドーピング原料ガスとしてのSiH2Cl2ガスを供給し、不純物としてSiをドーピングしたGaN単結晶を成長させ、このGaN単結晶からなるインゴットを作製した。このときの成長速度は、1mm/hourである。また、ドーピング原料ガスの供給分圧を変えてインゴットを作製し、それぞれのインゴットの比抵抗を測定した。なお、III族原料ガスは、H2又はN2といったキャリアガスと共に供給されるHClガスとGaの反応により生成されるGaClを含んで構成される。
【0021】
測定した結果、図1に示すように、ドーピング原料ガスの供給分圧の変化による、インゴットの比抵抗の変化はほぼ見られなかった。
【0022】
図2は、GaN単結晶の成長速度とインゴットの比抵抗の関係を示すグラフである。図2において、ドーピング原料ガスの供給分圧は一定である。
【0023】
次に、ドーピング原料ガスであるSiH2Cl2ガスの供給分圧を一定にし、GaN単結晶の成長速度を変えてGaNのインゴットを作製した。SiH2Cl2ガスの供給分圧は、2×10−6atmとした。
【0024】
測定した結果、図2に示すように、成長速度が450μm/hourを超えると急激に比抵抗が高くなることが分かった。
【0025】
次に、比抵抗が高かったインゴットと比抵抗が低かったインゴットをそれぞれ二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)により調べ比較した。その結果、比抵抗が高かったインゴットは比抵抗が低かったインゴットに比べSi濃度が1桁ほど低いことが分かった。
【0026】
半導体装置の製造コストを下げるため、GaNのインゴットをスライスしてGaN単結晶基板としてのGaN基板を得る場合、GaN単結晶を高速に成長させることが必要不可欠であるが、上記の方法では、得られたGaN基板に十分な導電性を付与させることができない。
【0027】
そこで本発明者らは、何故成長速度が大きくなると、得られるインゴットの比抵抗が高くなる(インゴット中のSi濃度が低くなる)のか鋭意検討した。
【0028】
検討の結果、インゴットを成長させる際のNH3ガスの供給分圧とインゴット中のSi濃度に相関があり、成長中のNH3ガスの供給分圧が高いほど、得られたインゴット中のSi濃度が低くなることが分かった。
【0029】
つまり、成長速度が大きい条件ほど、III族原料ガス、V族原料ガス共に供給分圧を高くする必要があるので、得られたインゴット中のSi濃度が低くなるのである。
【0030】
NH3ガスの供給分圧が高いほど、Siがドーピングされにくくなる理由として、ドーピング原料として用いたSiH2Cl2とV族原料として用いたNH3が種結晶上に到達する前に、気相中で反応してしまっていることが考えられる。
【0031】
従って、本発明者らは、SiH2Cl2とNH3の気相反応を抑制することができれば、高速成長条件においてもSi濃度を高くすることが可能になるのではないかと考えた。
【0032】
また、本発明者らは、SiH2Cl2とNH3の気相反応を抑制する方法として、SiH2Cl2の希釈ガスに、比較的拡散係数が小さく、かつ不活性であるガスを用いることに考え至った。当該希釈ガスを用いることにより、SiH2Cl2とNH3が混ざりにくくなり、気相反応が抑制できると考えた。
【0033】
さらに、導電性を有するGaN基板に要求される比抵抗は、例えば、1×10−3Ωcm以上、1×10−2Ωcm以下の範囲である。この範囲の比抵抗を実現するための不純物ドーピング濃度は、GaNに対し数百〜数千ppm程度である。
【0034】
従って、導電性を有するGaN基板を得るために、数百〜数千ppmの所定の濃度に希釈したSiH2Cl2ガスを用いる。従来、純度の観点から、希釈ガスには、専らH2が用いられてきた。
【0035】
そこで本発明者らは、SiH2Cl2の希釈ガスに、H2に替えてN2又はArを用いることを考えるに至った。次に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法について説明する。まず、導電性III族窒化物単結晶基板の製造に用いるHVPE装置の構成から説明する。
【0036】
(HVPE装置の構成)
図3は、HVPE装置の概略図である。このHVPE装置1は、反応管10と、ヒータ12と、供給管14、16、18と、排気管20と、を備えて概略構成されている。
【0037】
反応管10は、例えば、石英からなる。
【0038】
供給管14は、例えば、反応管10に接続され、反応管10の内部にドーピング原料ガス3を供給する。このドーピング原料ガス3は、例えば、N2又はArで希釈されたSiH2Cl2ガスである。なお、ドーピング原料ガスは、SiH2Cl2を希釈して得られるが、これに限定されず、SiHCl3、SiH3Cl、SiCl4、又はそれらの混合物を希釈して生成しても良い。
【0039】
供給管16は、例えば、反応管10に接続され、反応管10の内部にV族原料ガス4を供給する。このV族原料ガス4は、例えば、NH3ガスである。
【0040】
供給管18は、例えば、反応管10に接続され、反応管10の内部に塩化物ガス5を供給する。この塩化物ガス5は、例えば、HClガスである。また、塩化物ガス5は、反応管10の内部に設置された容器24付近に供給される。この容器24には、III族原料6が入れられており、さらに、ヒータ12により加熱されている。加熱されたIII族原料6と塩化物ガス5により、III族原料ガス50が生成される。このIII族原料6は、例えば、In、Al又はGaである。
【0041】
排気管20は、例えば、反応管10に接続され、反応管10の内部のガスを排気ガス7として排出する。
【0042】
また、反応管10は、回転軸22が、反応管10に対して回転可能に接続され、この回転軸22の端部には、種結晶8が固定されている。
【0043】
この種結晶8は、例えば、Al2O3、GaAs、Si、GaN、AlNのいずれか、又は、これらの種結晶8上にマスクパターンを形成したものである。
【0044】
(導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法)
まず、種結晶8を回転軸22に固定する。次に、種結晶8を回転させながら、所定の濃度に希釈されたドーピング原料ガス3、V族原料ガス4、及び塩化物ガス5とIII族原料6から生成したIII族原料ガス50を種結晶8に供給する。なお、所定の濃度は、例えば、300ppmである。
【0045】
ドーピング原料ガス3、V族原料ガス4及びIII族原料ガス50の供給モル比を調整して導電性III族窒化物単結晶を種結晶8の表面に成長させ、所望の比抵抗を有し、また、所望の組成となるインゴットを作製する。なお、III族原料6の加熱温度は、例えば、500〜900℃である。また、導電性III族窒化物単結晶が成長する種結晶8の表面付近の温度は、例えば、成長させる結晶に合わせて500〜1100℃の範囲で調整される。なお、所望の比抵抗とは、1×10−3Ωcm以上、1×10−2Ωcm以下の範囲の比抵抗である。
【0046】
図4は、インゴットのスライスに関する模式図である。このインゴット9は、内周刃スライサを用いて、図4に示すように、厚さaの基板90、92、94にスライスされる。切代91、93として厚さbの部分を失うとすると、基板をx枚得るために最も無駄の無いインゴット9の厚さcは、次式から求められる。
【数1】
【0047】
従って、インゴットから切り出す基板の厚さaや枚数x、及び切代の厚さbを考慮にいれ、成長させるインゴットの厚さcを[数1]で求め、求めた厚さcを有するインゴットを成長させることが好ましい。
【0048】
ここでインゴットの成長速度をr、HVPE法でインゴットを成長させる際に必要となる段取りの時間や昇温及び降温時間の合計時間をTとすると、基板1枚当たりの成長時間dxは次式から求められる。
【数2】
【0049】
低コスト化のためには、基板1枚当たりの成長時間dxを短くすればよい。合計時間Tは、いくら効率化を図ったところで短縮には限界がある。そこで合計時間Tの影響を小さくするためには、インゴットの厚さcを大きくし(インゴットを長尺化し)、切り出し枚数xを多くすればよいことが、[数2]の式から分かる。
【0050】
しかし、[数2]に[数1]を代入し、枚数がx枚の時の方がx−1枚の時よりも基板1枚当たりの成長時間が短い(dx<dx−1)として整理すると、次式が得られる。
【数3】
従って、[数3]を満たさなければ、基板1枚当たりの成長時間dが短縮されないことが分かる。
【0051】
ここで、内周刃スライサを用いてインゴットをスライスする場合、切代の厚さbは、約1mmである。また、合計時間Tは、例えば、約2時間半程度である。よって、この切代の厚さb及び合計時間Tを[数3]に代入すると、インゴット成長には400μm/hourよりも大きい成長速度が必要であることが分かる。
【0052】
成長速度rが400μm/hourよりも大きければ大きいほど、基板1枚当たりの成長時間dをインゴットの長尺化により低減しやすい。しかし、実際にインゴットを問題なく正常に成長させるためには、成長速度rの上限は、約2mm/hourである。よって、成長速度rは、450μm/hour<r≦2mm/hourの範囲であることが好ましい。
【0053】
厚さaでスライスされた基板は、スライスにより形成されたダメージ層が除去され、かつ表面を平坦にするために、両面に研磨加工が実施される。基板は、研磨加工により、それぞれ100μm程度が除去される。
【0054】
こうして得られた基板(III族窒化物基板)の厚さは、100μm以上600μm以下であることが好ましい。何故なら、基板を割らずにハンドリングするためには、基板の厚さとして少なくとも100μmの厚さが必要であるからである。また、600μmよりも基板が厚くなると、半導体装置を作成する際に実施するへき開が困難となったり、バックラップを実施する際に、その除去量が増えたりして、生産性に悪影響を及ぼす。よって基板の厚さは、100μm以上600μm以下であることが好ましい。
【0055】
(効果)
本実施の形態に係る導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法によれば、N2又はArでSiH2Cl2を希釈することで、SiH2Cl2とNH3の気相反応を抑制するので、H2で希釈してIII族窒化物単結晶を成長させた場合と比べて、高速でIII族窒化物単結晶を成長させると共にIII族窒化物単結晶に所望の比抵抗を付与することができる。
【0056】
また、上記の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法によれば、450μm/hourより大きく2mm/hour以下の範囲の成長速度でIII族窒化物単結晶を成長させ、所望の比抵抗が付与されたIII族窒化物単結晶からなる長尺のインゴットを短時間で作製することができるので、インゴットから低コストで導電性III族窒化物基板を作製することができる。
【実施例1】
【0057】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例1を説明する。種結晶に直径56mmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法により、III族窒化物単結晶としてのGaN単結晶のインゴットを作製した。なお、以下のIII族窒化物単結晶は、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)であり、一例としてGaN単結晶について説明する。
【0058】
各ガスの供給分圧は、III族原料ガスとしてのGaClガスの供給分圧を3×10−2atm、V族原料ガスとしてのNH3ガスの供給分圧を20×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるように、N2で希釈したSiH2Cl2ガスをドーピング原料ガスとして用い、SiH2Cl2ガスの供給分圧が、0atm、0.14×10−6atm、0.29×10−6atm、0.57×10−6atm、1.14×10−6atm、2.86×10−6atmのいずれかになるように流量を調整した。
【0059】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、600μm/hourであった。インゴットの厚さは3mmとした。
【0060】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0061】
図5は、実施例1に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所は、GaN基板の中心とした。
【0062】
測定の結果、図5に示すように、ドーピング原料ガスとして、300ppmの濃度にN2で希釈したSiH2Cl2ガスを用いれば、600μm/hourという高速成長条件下においても、得られるGaN単結晶のインゴットの比抵抗をSiH2Cl2ガスの供給分圧で制御できることが分かった。
【実施例2】
【0063】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例2を説明する。種結晶に直径56mmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0064】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を6×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を35×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるようにN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、0atm、0.14×10−6atm、0.29×10−6atm、0.57×10−6atm、1.14×10−6atm、2.86×10−6atmのいずれかになるように流量を調整した。
【0065】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、2mm/hourであった。インゴットの厚さは3mmとした。
【0066】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0067】
図6は、実施例2に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所はGaN基板の中心とした。
【0068】
測定の結果、図6に示すように、ドーピング原料ガスとして、300ppmの濃度にN2で希釈したSiH2Cl2ガスを用いれば、2mm/hourという高速成長条件下においても、得られるGaN単結晶のインゴットの比抵抗をSiH2Cl2ガスの供給分圧で制御できることが分かった。
【実施例3】
【0069】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例3を説明する。種結晶に直径56mmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0070】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を2×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を13×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるようにN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、0atm、0.14×10−6atm、0.29×10−6atm、0.57×10−6atm、1.14×10−6atm、2.86×10−6atmのいずれかになるように流量を調整した。
【0071】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、455μm/hourであった。インゴットの厚さは3mmとした。
【0072】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0073】
図7は、実施例3に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所は、GaN基板の中心とした。
【0074】
測定の結果、図7に示すように、ドーピング原料ガスとして、300ppmの濃度にN2で希釈したSiH2Cl2ガスを用いれば、600μm/hourという高速成長条件下においても、得られるGaN単結晶のインゴットの比抵抗をSiH2Cl2ガスの供給分圧で制御できることが分かった。
【実施例4】
【0075】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例4を説明する。上記の実施例1〜3において、SiH2Cl2の希釈ガスのみをN2からArに変更してGaN単結晶のインゴットを作製した。また、同様にGaN基板を作製した。
【0076】
図8は、実施例4に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗の測定方法は、上記の各実施例と同様である。測定の結果、図5に示すように、希釈ガスがN2の場合よりもArの方が導電性の良いGaN基板が得られた。
【実施例5】
【0077】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例5を説明する。種結晶に直径56mmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0078】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を6.3×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を36×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、2.1mm/hourであった。
【0079】
この条件下では、インゴットに微小クラックの発生が見られた。従ってGaN基板の製造方法として適切でないことが分かった。
【実施例6】
【0080】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例6を説明する。種結晶に直径56mm、厚さ400μmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0081】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を3×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を20×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるようにN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、0.57×10−6atmとなるよう、流量を調整した。
【0082】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、600μm/hourであった。内周刃スライサを用い(切代1mm)、厚さ600μmのGaN基板を10枚取得できるよう、成長させるインゴットの厚さを15mmとした。
【0083】
15mmのインゴットから、内周刃スライサを用いて、厚さが600μmで主面が(0001)であるGaN基板を10枚得た。これらの全ての表裏面に対し鏡面研磨加工を行った。これによって、厚さが400μmで主面が(0001)であるGaN基板を10枚得た。
【0084】
得られた全てのGaN基板の比抵抗を測定した。測定方法は、四探針法であり、測定箇所は、GaN基板の中心とした。測定の結果、全てのGaN基板の比抵抗は、9.4×10−3Ωcmであった。
【0085】
本実施例において、種結晶の導入と成長後の取り出しに要した時間は30分、室温から成長温度までの昇温に1時間、成長温度から室温までの降温に1時間を要した。また、成長時間は24時間20分であった。従って、基板1枚当たりの成長に要する時間は、2時間41分であった。
【実施例7】
【0086】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例7を説明する。種結晶に直径56mm、厚さ400μmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0087】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を3×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を20×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。また、所定の濃度として300ppmとなるようにN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、0.57×10−6atmとなるよう、流量を調整した。
【0088】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、600μm/hourであった。インゴットの厚さは20mmとした。
【0089】
図9は、実施例7に係るGaN基板のスライスに関する概略図である。図9に示す厚さ20mmのインゴット100から、内周刃スライサを用いて、20mm角の大きさで、厚さが600μm、主面が(10−10)であるGaN基板101を50枚得た。スライスは、図9に示すように、インゴット100の中央から40枚、インゴット100の縁辺付近から10枚のGaN基板101が得られるように行った。また、得られたGaN基板101の全ての表裏面に対し鏡面研磨加工を行った。
【0090】
上記の製造方法により、20mm角の大きさで、厚さが400μm、主面が(10−10)であるGaN基板101を50枚得た。得られた全てのGaN基板の比抵抗を測定した。測定方法は、四探針法であり、測定箇所は、GaN基板の中心とした。測定の結果、全てのGaN基板の比抵抗は、8.2×10−3Ωcmであった。
【実施例8】
【0091】
以下に、導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法の実施例8を説明する。種結晶に直径56mm、厚さ400μmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0092】
所定の濃度として300ppmとなるようにAr又はN2で希釈したSiH2Cl2ガスの供給分圧が、8.6×10−8atmとなるように流量を調整した。また、H2の供給分圧を25×10−2atmとし、NH3ガスの供給分圧を4.8×10−2atm、9.5×10−2atm、14.3×10−2atm、17atmのいずれかとしてそれぞれの条件でインゴットを作製した。
【0093】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度が100μm/hourとなるように、GaClガスの供給分圧を5×10−3〜8×10−3atmの範囲で調整した。このようにして厚さ3mmのGaN単結晶のインゴットを得た。
【0094】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0095】
図10は、実施例8に係るNH3ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所は、GaN基板の中心とした。
【0096】
測定の結果、図10に示すように、Ar又はN2で希釈したSiH2Cl2ガスをドーピング原料ガスとして用いた場合、NH3ガスの供給分圧を変化させても得られるインゴットの比抵抗が変化しないことが分かった。
【0097】
このことから、Ar又はN2で所定の濃度に希釈したSiH2Cl2ガスをドーピング原料ガスとして用いることにより、高速成長条件で作製したインゴットにも良好な導電性を付与できる。
【0098】
本発明者らは、上記の特徴が、NH3原料を用いて成長する全てのIII族窒化物半導体について共通であることも確認した。この確認の際、III族の原料としては、所望の組成のIII族窒化物インゴットが得られるように、AlCl3、InCl3、GaCl3の供給分圧を適切に調整して供給した。InNのインゴットの成長には、種結晶としてGaN単結晶基板を、AlNやAlInGaN単結晶のインゴットを成長する場合には、AlN単結晶基板を用いた。
【実施例9】
【0099】
実施例1と同様の実験を、種結晶にAl2O3、GaAs、Si及びこれらの種結晶上にマスクパターンを形成したものを種結晶として実施した。実施例1と同様の結果を得た。
【0100】
(比較例1)
比較例1では、種結晶にGaAs(111)基板を用い、その上にHVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0101】
まずGaClガスの供給分圧を2×10−3atm、NH3ガスの供給分圧を4.8×10−2atm、H2ガスの供給分圧を0.1atmとして500℃で1時間成長させた後、GaAs基板の温度を1050℃に上昇させ、その後1時間同条件で成長させた。
【0102】
さらにGaClガスの供給分圧を8×10−3atmに増やして1時間成長させた後、ドーピング原料ガスとして、H2で希釈したSiH2Cl2ガスを用い、SiH2Cl2ガスの供給分圧が2×10−6atmとなるように流量を設定し、さらに5時間成長させた。
【0103】
成長後、GaAs基板のダメージ層を除去し、厚さ600μmのGaN基板を得た。この後、表裏面の鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。得られたGaN基板の比抵抗を、各実施例と同様の四探針法で測定したところ、3.3×10−3Ωcmであった。
【0104】
なお、種結晶の投入や成長後の結晶の取り出しに要した段取り時間は30分であった。昇温に1時間、降温に1時間を要した。以上から、本比較例での製造方法によれば、GaN基板1枚当たりの成長に要した時間は、10時間30分であった。
【0105】
実施例6では、本比較例に比べて1枚当たりの成長時間を短縮できており、低コストで導電性GaN基板を得ることができる。
【0106】
(比較例2)
比較例2では、種結晶に直径56mm、厚さ400μmのGaN単結晶(0001)基板を用い、HVPE法でGaN単結晶のインゴットを作製した。
【0107】
各ガスの供給分圧は、GaClガスの供給分圧を3×10−2atm、NH3ガスの供給分圧を20×10−2atm、H2ガスの供給分圧を25×10−2atmとした。300ppmの濃度となるように、Heで希釈したSiH2Cl2ガスを用い、SiH2Cl2ガスの供給分圧が、0atm、0.14×10−6atm、0.29×10−6atm、0.57×10−6atm、1.14×10−6atm、2.86×10−6atmのいずれかになるように流量を調整した。
【0108】
また、成長領域は、直径52mmの範囲とした。成長速度は、600μm/hourであった。インゴットの厚さは3mmとした。
【0109】
得られた全てのインゴットの最先端部分から、内周刃スライサを用いて厚さ600μmの主面の面方位が(0001)であるGaN基板を切出した。このGaN基板の表裏面に鏡面研磨加工を行い、400μmのGaN基板を得た。
【0110】
図11は、比較例2に係るSiH2Cl2ガスの供給分圧とGaN基板の比抵抗の関係を示すグラフである。GaN基板の比抵抗は、四探針法で測定した。また、測定箇所は、GaN基板の中心とした。
【0111】
測定の結果、図11に示すように、ドーピング原料ガスとして、300ppmの濃度にHeで希釈したSiH2Cl2ガスを用いた場合、600μm/hourという高速成長条件下においては、得られるインゴットの比抵抗をSiH2Cl2ガスの供給分圧で制御できないことが分かった。Heの拡散係数はN2やArに比べ非常に大きいために、NH3とSiH2Cl2の気相反応が抑制できなかったことが原因と考えられる。
【0112】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0113】
1…HVPE装置、3…ドーピング原料ガス、4…V族原料ガス、5…塩化物ガス、6…III族原料、7…排気ガス、8…種結晶、9…インゴット、10…反応管、12…ヒータ、14、16、18…供給管、20…排気管、22…回転軸、24…容器、50…III族原料ガス、90、92、94…基板、91、93…切代、100…インゴット、101…GaN基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族原料ガス、V族原料ガス、及びN2又はArにより所定の濃度に希釈されたドーピング原料ガスを種結晶に供給し、
450μm/hourより大きく2mm/hour以下の範囲の成長速度で前記種結晶上にIII族窒化物単結晶を成長させると共に、前記ドーピング原料ガスが前記所定の濃度に希釈されたことによる前記V族原料ガスとの反応の抑制により、前記III族窒化物単結晶の比抵抗が1×10−3Ωcm以上1×10−2Ωcm以下となるように前記ドーピング原料ガスに含まれる不純物が前記III族窒化物単結晶にドーピングされることを含む導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記ドーピング原料ガスは、0.5×10−6atm以上の供給分圧で前記種結晶に供給される請求項1に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記ドーピング原料ガスは、SiH2Cl2を含む請求項2に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記III族原料ガスは、500乃至900℃に加熱したIn、Al又はGaのうち1つのIII族原料に塩化物ガスを供給することにより生成される請求項3に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
前記V族原料ガスは、NH3である請求項4に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
前記種結晶は、Al2O3、GaAs、Si、GaN、AlNのいずれか、又は、これらの前記種結晶上にマスクパターンを形成したものである請求項5に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記III族窒化物単結晶は、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)である請求項6に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項8】
前記III族窒化物単結晶を任意の結晶面でスライスし、スライスして得られた基板の厚さが100μm以上600μm以下となるように、前記基板の両面を研磨することを含む請求項7に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項1】
III族原料ガス、V族原料ガス、及びN2又はArにより所定の濃度に希釈されたドーピング原料ガスを種結晶に供給し、
450μm/hourより大きく2mm/hour以下の範囲の成長速度で前記種結晶上にIII族窒化物単結晶を成長させると共に、前記ドーピング原料ガスが前記所定の濃度に希釈されたことによる前記V族原料ガスとの反応の抑制により、前記III族窒化物単結晶の比抵抗が1×10−3Ωcm以上1×10−2Ωcm以下となるように前記ドーピング原料ガスに含まれる不純物が前記III族窒化物単結晶にドーピングされることを含む導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記ドーピング原料ガスは、0.5×10−6atm以上の供給分圧で前記種結晶に供給される請求項1に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記ドーピング原料ガスは、SiH2Cl2を含む請求項2に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記III族原料ガスは、500乃至900℃に加熱したIn、Al又はGaのうち1つのIII族原料に塩化物ガスを供給することにより生成される請求項3に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
前記V族原料ガスは、NH3である請求項4に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
前記種結晶は、Al2O3、GaAs、Si、GaN、AlNのいずれか、又は、これらの前記種結晶上にマスクパターンを形成したものである請求項5に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記III族窒化物単結晶は、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)である請求項6に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項8】
前記III族窒化物単結晶を任意の結晶面でスライスし、スライスして得られた基板の厚さが100μm以上600μm以下となるように、前記基板の両面を研磨することを含む請求項7に記載の導電性III族窒化物単結晶基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−213557(P2011−213557A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84816(P2010−84816)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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