説明

心血管疾患の治療としての5−HT2受容体の調節方法

本発明は、5-HT2受容体と呼ばれるセロトニン受容体ファミリーに関連した筋萎縮、心肥大、心不全および/または原発性肺高血圧症を治療および予防するための方法を提供する。本発明は、5-HT2受容体の調節因子が筋萎縮、心不全、心肥大および/または原発性肺高血圧症を阻害または治療できることをさらに実証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1. 発明の分野
本発明は、一般に発生生物学および分子生物学の分野に関する。さらに詳細には、本発明は哺乳動物での心臓の遺伝子調節および細胞生理に関する。具体的には、本発明は哺乳動物での筋疾患を治療するための5-HT2セロトニン受容体の調節因子に関する。さらに具体的には、本発明はヒトにおける筋萎縮、心肥大、心不全、および原発性肺高血圧症の治療ならびに5-HT2受容体の調節因子を見出すためのスクリーニング法に関する。
【0002】
本出願は、2003年12月23日出願の米国特許仮出願第60/532,074号の優先権の恩典を主張し、同仮出願の全内容は、本明細書により参照として組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
Gタンパク質共役受容体を介して作用する多様な作動薬は、細胞内カルシウムを動員し、その結果としてカルシウム依存性シグナル伝達経路を活性化することによって筋の成長および遺伝子発現を制御する。心筋細胞は、筋細胞のサイズおよびタンパク質合成の増加、サルコメアの集合、ならびに胎児遺伝子プログラムの活性化を特徴とする肥大成長によってそのようなシグナルに応答する。病的シグナル伝達に応答した心肥大は、心不全および致死的心不整脈を招くことが多く、ヒトの罹患および死亡の主な予測因子である。
【0004】
カルシウム、カルモジュリン依存性プロテインホスファターゼであるカルシニューリンは、筋の成長およびリモデリングを制御するカルシウムシグナルを伝達する。カルシニューリンの活性化は、心肥大に十分かつほとんどの場合で必要である。カルシニューリンは、培養骨格筋細胞の肥大を刺激し、細胞内カルシウムの持続性上昇に依存する緩徐線維の表現型を調節するとも報告されている。このように、横紋筋細胞でのカルシニューリンシグナル伝達を治療的に調節可能な新規な低分子を同定することに強い関心が起こっている。
【0005】
カルシニューリンは、転写因子NFAT(nuclear factor of activated T-cell)(活性化T細胞核因子)を脱リン酸化することによって一部作用し、その脱リン酸化は、細胞質から核へのNFATの移行およびカルシウム依存性標的遺伝子の活性化を誘発する。本発明者らは、MEF2共抑制因子として働くクラスIIヒストンデアセチラーゼ(HDAC)をリン酸化するキナーゼを活性化することによって、カルシニューリン経路がMEF2転写因子の活性を刺激できることを以前に示した(米国特許出願第10/256,221号を参照、以後参照により組み入れられる)。シグナルに依存したクラスII HDACのリン酸化は、核から細胞質へのそれらの運び出しとMEF2標的遺伝子の活性化とを誘発する。クラスII HDACでのシグナル応答性リン酸化部位の突然変異は、カルシウムシグナル伝達に対してHDACを不応性にして、心筋細胞の肥大を予防する。逆に、クラスII HDACを欠如したマウスは、カルシニューリンの成長促進活性に対して過敏である。
【0006】
カルシニューリンの活性は、調節性カルシニューリン相互作用タンパク質(MCIP、カルシプレシン(calcipressin)、DSCR1、ZAKI-4とも呼ばれる)として公知である補因子に影響される。酵母および哺乳動物細胞での最近の研究は、カルシニューリン活性の制御にこれらのタンパク質が果たす正および負の役割の両方を明らかにした。例えば、MCIP1の過剰発現は、哺乳動物細胞でのカルシニューリンのシグナル伝達を抑制できる。対照的に、MCIP1ノックアウトマウスの心臓におけるカルシニューリンのシグナル伝達の減少によって実証されるように、MCIP1はカルシニューリンの活性も増強する。興味深いことに、MCIP1遺伝子はNFATの標的であって、カルシニューリンのシグナル伝達に応答して上方制御される。MCIP1遺伝子は、心臓の異常な成長に至る潜在的に病的なカルシニューリンのシグナル伝達を減衰させる、負のフィードバックループを実行すると提案されている。NFAT-MCIP経路に介在する薬剤を同定することは、心臓遺伝子の発現および肥大を調節することに有益であることが分かりうるであろう。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
このように、本発明により、以下を含む、哺乳動物での筋萎縮および/または心血管疾患を治療する方法を提供する:(a)筋萎縮または心血管疾患を有する対象を同定する段階;および(b)対象に5-HT2受容体の調節因子を投与する段階。多様な態様では、調節因子によって標的にされる5-HT2受容体は、5-HT2a、5-HT2b、もしくは5-HT2c受容体サブタイプ、または3つの受容体すべてを調節することを含めた、それら受容体の任意の組み合わせでありうる。ある態様では、その心血管疾患は、心不全、心肥大、または原発性肺高血圧症(PPH)でありうる。一態様では、その対象はヒトである。
【0008】
本発明のさらなる態様では、調節因子は、抗体、RNAi分子、リボザイム、ペプチド、低分子、アンチセンス分子、3-メチル-2-フェニル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ベンゾ[4,5]チエノ[2,3-b]ピリジン-4-イルアミンおよび2-フェニル-キノリン-4-イルアミンからなる群より選択されうる。さらなる態様では、選択される抗体は、モノクローナル、ポリクローナル、ヒト化、一本鎖またはFabフラグメントでありうる。投与は、静脈内、経口、経皮、徐放、坐剤、または舌下投与を含みうる。方法は、さらにベータ遮断薬、イオントロープ(iontrope)、利尿薬、ACE-I、AIIアンタゴニスト、ヒストンデアセチラーゼ阻害薬、Ca(++)遮断薬、またはTRPチャネル阻害薬のような第二の治療方式を投与する段階をさらに含みうる。第二の治療方式は、調節因子と同時に、または調節因子の前もしくは後のいずれかに投与されうる。
【0009】
治療は、筋力低下、筋肉の疼痛、筋けいれん、筋肉痛、麻痺、けい縮、発作または協調性の問題を改善または改良する段階;あるいは増加した運動耐容能、増加した血液駆出量、左室拡張末期圧、肺毛細管楔入圧、心拍出量、心係数、肺動脈圧、左室収縮末期径および拡張末期径、左室および右室の壁応力(wall stress)、壁張力(wall tension)および壁厚、生活の質、疾患に関連する罹患率および死亡率、進行性のリモデリングの逆転、心室拡張の改善、心拍出量の増加、ポンプ性能障害の緩和、不整脈、線維症、壊死、エネルギー枯渇もしくはアポトーシスの改善、息切れの緩和、減少した右心室収縮期圧、減少した呼吸困難、失神、浮腫、チアノーゼもしくはアンギナ、または減少した肺動脈収縮期圧を提供する段階のように、筋萎縮、心肥大、心不全またはPPHの1つまたは複数の症状を改善しうる。
【0010】
本発明の別の態様では、以下を含む、筋萎縮、心肥大、PPH、または心不全を予防する方法:(a)筋萎縮、心肥大、PPH、または心不全の危険性がある患者を同定する段階;および(b)該患者に5-HT2受容体の調節因子を投与する段階を提供する。調節される5-HT2受容体は、5-HT2a、5-HT2b受容体もしくは5-HT2c受容体または3つの受容体すべてを調節することを含めたそれら受容体の任意の組み合わせでありうる。投与は、静脈内、経口、経皮、徐放、坐剤、または舌下投与を含みうる。患者は、長年の制御不良の高血圧、矯正されていない弁疾患、慢性アンギナのうち1つもしくは複数を示す場合があるし、または、最近に心筋梗塞を経験した場合もある。本発明のある態様では、その調節因子は、抗体、RNAi分子、リボザイム、ペプチド、低分子、アンチセンス分子、3-メチル-2-フェニル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ベンゾ[4,5]チエノ[2,3-b]ピリジン-4-イルアミン,および2-フェニル-キノリン-4-イルアミンからなる群より選択されうる。
【0011】
本発明のなお別の態様では、以下を含む、筋萎縮、心不全、原発性肺高血圧症または心肥大の阻害薬を同定するための方法を提供する:(a)5-HT2受容体調節因子を提供する段階;(b)該5-HT2受容体調節因子で筋細胞を処理する段階;および(c)筋萎縮、心肥大、PPH、または心不全の1つまたは複数のパラメータの発現を測定する段階であって、ここで、未処理の筋細胞における筋萎縮、心肥大、PPHまたは心不全の1つまたは複数のパラメータと比較した、筋萎縮、心肥大、PPH、または心不全の該1つまたは複数のパラメータにおける変化により、該5-HT2受容体の調節因子が、筋萎縮、心不全、PPHまたは心肥大の阻害薬として同定される、段階。さらに、導入遺伝子の発現または化学薬剤を用いた処理のように、1つまたは複数の心肥大パラメータに肥大応答を誘発する刺激に、筋細胞を供することができる。
【0012】
1つまたは複数の心肥大パラメータは、筋細胞での1つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルを含むことができ、ここで、1つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルは心肥大を表示する。1つまたは複数の標的遺伝子は、ANF、α-MyHC、β-MyHC、骨格筋型αアクチン、SERCA、チトクロームオキシダーゼサブユニットVIII、マウスT複合体タンパク質、インスリン成長因子結合タンパク質、タウ(Tau)微小管関連タンパク質、ユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼ、Thy-1細胞表面糖タンパク質またはMyHCクラスI抗原からなる群より選択されうる。発現レベルは、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼまたは緑色蛍光タンパク質のような、標的遺伝子プロモーターに作動可能に連結しているレポータータンパク質コード領域を使用して測定されうる。発現レベルは、標的mRNAまたは増幅した核酸産物に対する核酸プローブのハイブリダイゼーションを使用して測定されうる。
【0013】
1つまたは複数の心肥大パラメータは、サルコメアの集合、細胞サイズ、または細胞の収縮性のような細胞の形態の1つまたは複数の局面も含みうる。筋細胞は、単離された筋細胞でありうるし、また、単離された無傷組織に含まれうる。筋細胞は心筋細胞でもある可能性があり、1つもしくは複数の心肥大パラメータにおいて、心不全または肥大応答を誘発する刺激に供された機能している無傷心筋のような、機能している無傷心筋においてインビボで位置しうる。心筋細胞は、新生ラット心室筋細胞(NRVM)でありうる。刺激は、大動脈絞扼、迅速心臓ペーシング、誘導性心筋梗塞、浸透圧ミニポンプ、PTU治療、誘導性糖尿病または導入遺伝子の発現でありうる。1つまたは複数の心肥大パラメータは、右室駆出分画、左室駆出分画、心室壁厚、心重量/体重比または心重量の標準化測定を含む。その1つまたは複数の心肥大パラメータは、総タンパク質合成も含みうる。
【0014】
さらになお別の態様では、以下を含む、哺乳動物での筋萎縮、心不全、原発性肺高血圧症、または心肥大の阻害薬を同定する方法を提供する:(a)5-HT2受容体を発現する細胞を提供する段階;(b)該5-HT2受容体阻害薬を阻害薬の候補物質と接触させる段階;および(c)該5-HT2受容体の活性または発現に及ぼすその阻害薬の候補物質の効果を測定する段階であって、ここで、該阻害薬の候補物質の非存在下での5-HT2活性と比較した5-HT2活性における減少により、該阻害薬の候補物質が筋萎縮、心不全、心肥大または原発性肺高血圧症の阻害薬として同定される、段階。細胞は、機能している無傷筋肉に、または、さらに無傷心筋にインビボで位置しうる、心筋細胞のような筋細胞でありうる。5HT-2 mRNAもしくは増幅された核酸に対する核酸プローブのハイブリダイゼーションを使用して、または5HT-2に対する抗体を使用して、発現を測定できる。発現が5-HT2受容体の活性化によって刺激される1つまたは複数の標的遺伝子の発現を評価することによって、活性を測定できる。
【0015】
本明細書で使用する「a」または「an」は、1つまたは複数を意味しうる。本請求項に使用する「含む」という語と共に使用する場合、「a」または「an」という語は、1つまたは1つより多い数を意味しうる。本明細書で使用する「別の」は、少なくとも二番目以上を意味しうる。
【0016】
本発明の他の目的、特性および利点は、下記の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい態様を示すものの、本発明の精神および範囲内の多様な変形および修正がこの詳細な説明から当業者に明らかとなるであろうことから、例示としてのみ与えられることが理解される。
【0017】
例示的態様の説明
心血管疾患、特に心不全は、世界中での罹患および死亡の主要原因である。米国単独では、300万人が心筋症を有して現在生活し、その他の400,000人が年ベースで診断を受けているという推計が示されている。「うっ血性心筋症」とも呼ばれる拡張型心筋症(DCM)は、最もよくみられる形の心筋症であり、個体100,000人あたりほぼ40人という推定有病率を有する(Durand et al., 1995)。DCMの他の原因が存在するが、家族性拡張型心筋症は「特発性」DCMの約20%に相当することが示されている。DCMの症例のうちほぼ半数が特発性であり、その残りは公知の疾患過程に関連している。例えば、重度心筋損傷は癌化学療法に使用されるある種の薬物(例えば、ドキソルビシンおよびダウノルビシン)、または慢性のアルコールの乱用に起因しうる。産褥性心筋症は、感染続発症に関連する疾患と同様に、別の特発性型のDCMである。要約すると、DCMを含めた心筋症は公衆衛生上の重大な問題である。
【0018】
冠状動脈疾患、心筋梗塞、うっ血性心不全、PPH、および心肥大を含めた心臓病およびその症状発現は、今日の米国における主要な健康リスクをはっきりと表している。これらの疾患を患う患者を診断、治療および援助するコストは、数十億ドルに十分達する。心臓病の特に重い症状発現の2つは、心筋梗塞および心肥大である。心筋梗塞に関して、概して血小板による急性冠状動脈閉塞は、アテローム性動脈硬化症の結果として冠状動脈で生じ、心筋細胞死を引き起こす。心臓の筋肉細胞である心筋細胞は終末分化しており、一般に細胞分裂できないことから、それらの細胞が急性心筋梗塞の経過中に死滅すると、瘢痕組織に一般に置き換わる。瘢痕組織は収縮せず、心機能に貢献せず、心収縮中に拡大することによって、また、心室のサイズおよび有効径を増加させること、例えば肥大になることによって心機能に有害な役割を果たすことが多い。
【0019】
心肥大に関して、ある理論は、異所性発生に類似する疾患としてこれをみなし、そのこと自体は心臓での発生シグナルが肥大性疾患に寄与しうるかという問題を提起している。心肥大は、高血圧、機械的負荷、心筋梗塞、心臓不整脈、内分泌障害、および心臓の収縮タンパク質遺伝子の遺伝子突然変異から生じるものを含めた事実上すべての形の心疾患に対する心臓の適応反応である。肥大応答は初期には心拍出量を増大させる代償メカニズムであるが、持続性の肥大は、DCM、心不全、および突然死に至りうる。米国では毎年約50万人の個体が心不全を有すると診断され、死亡率は50%に近づいている。
【0020】
心肥大の原因および作用が広く記録されているが、その原因となる分子メカニズムは解明されていない。これらのメカニズムを理解することは心疾患の予防および治療における主要な関心事であり、心肥大および心不全を特異的に標的とする新薬の設計での治療様式として決定的であろう。病的な心肥大は、心損傷が心不全を生じるに足るほど重症になるまで概して全く症状を生じず、心筋症の症状は心不全に関連する症状である。これらの症状には、息切れ、労作に伴う疲労、仰臥による息切れ(起座呼吸)、発作性夜間呼吸困難、心臓径の拡大および/または下肢の腫脹がある。患者は血圧の増加、過剰心音、心雑音、肺および全身性塞栓、胸痛、肺うっ血ならびに動悸を伴って現れることも多い。さらに、DCMは駆出分画(すなわち内因性収縮機能とリモデリングとの両方の尺度)の減少を引き起こす。この疾患は、心筋の収縮性の減少が原因の心室拡張および収縮機能の著しい損傷をさらに特徴とし、それにより多くの患者では拡張性心不全がもたらされる。冒された心臓は、筋細胞/心筋の機能障害の結果として細胞/腔のリモデリングも受け、それが「DCM表現型」に寄与している。疾患が進行するにつれ、症状も進行する。DCMを有する患者では、心室性頻脈および心室細動を含めた致命的な不整脈の発生率も大きく増加している。これらの患者では、失神(めまい)のエピソードは突然死の前兆とみなされる。
【0021】
拡張型心筋症の診断は、拡大した心腔、特に拡大した心室の実証に概して依存する。拡大は、胸部X線で通例観察可能であるが、心エコーを使用するとさらに正確に評価される。DCMは、急性心筋炎、弁膜性心疾患、冠状動脈疾患および高血圧性心疾患と区別するのが困難であることが多い。いったん拡張型心筋症の診断がなされると、潜在的に改善可能な原因を同定および治療してさらなる心臓の損傷を予防するためにあらゆる努力がなされる。例えば冠状動脈疾患および弁膜性心疾患を除外しなければならない。貧血、異常頻脈、栄養欠乏、アルコール中毒、甲状腺疾患および/または他の問題に取り組み、制御する必要がある。
【0022】
上に言及したとおり、薬理学的薬剤を用いた治療は、心不全の症状発現を低減または排除するための主なメカニズムを依然として代表する。利尿薬は、軽症から中程度の心不全の第一線の治療を構成している。不幸にも通例使用されている利尿薬(例えばチアジド類)の多くは、多数の有害作用を有する。例えば、ある種の利尿薬は血清コレステロールおよびトリグリセリドを増加させる場合がある。さらに、利尿薬は重症心不全を患う患者には一般に無効である。
【0023】
利尿薬が無効ならば、血管拡張薬を使用できる。アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(例えばエナラプリルおよびリジノプリル)は症状の軽減を提供するだけでなく死亡率も低下させると報告されている(Young et al., 1989)。またしかし、ACE阻害薬は有害作用に関連し、その結果として、ある種の疾病状態(例えば腎動脈狭窄)を有する患者に禁忌となっている。同様に強心薬(すなわち心筋の収縮力を増加することにより心拍出量を改善する薬物)による療法は、胃腸障害および中枢神経系の機能障害を含めた有害反応の数々と関連している。
【0024】
このように、今日使用されている薬理学的薬剤は、特定の患者集団に大きな欠点を有する。新規で安全で有効な薬剤が利用できることは、現在利用可能な薬理学的様式を利用できないか、またはそれらの様式から十分な軽減を受けていないかのいずれかである患者にとって確実に有益であろう。DCMを有する患者の予後は多様であり、心室機能障害の程度に依存し、大多数の死亡は診断の5年以内に起こる。
【0025】
心臓Gタンパク質共役受容体のシグナル伝達経路は、多様なメカニズムによりカルシウム依存性肥大シグナル伝達モジュールに流れ込みうる。様々な種類の細胞において、Gタンパク質共役受容体の重要な一クラスである5-HT2受容体を介したシグナル伝達は、ホスホリパーゼCを活性化する。活性化したホスホリパーゼCは、細胞内カルシウム濃度を上昇させるセカンドメッセンジャーであるIP3およびジアシルグリセロールを産生する。このように、5-HT2受容体の刺激はカルシニューリンシグナル伝達モジュールを活性化する(Day et al., 2002)。この観察と一致して、MCIPファミリーの内因性カルシニューリン阻害タンパク質はセロトニン作動性シグナル伝達を減衰させることが示されている(Lee et al., 2003)。心臓セロトニン作動性シグナル伝達は、他の肥大促進性のシグナル伝達モジュールも妨害しうる。セロトニンは、筋細胞肥大の間の主要な翻訳調節因子であるS6キナーゼを活性化することが示されている(Khan et al., 2001)。
【0026】
本発明者らは、以前に当技術分野においてセロトニン受容体として記載された一組の膜結合型Gタンパク質共役受容体を見出した。それらの受容体は、心損傷と、その後の心不全と、肥大と、PPHとに至る細胞カスケードに関与している。本発明者らは、抗肥大化合物のハイスループットスクリーニングを使用して、心保護的であるだけでなく、これらの受容体に結合し、それらの受容体によって誘導されるシグナル伝達を調節することも見出された一組の分子群をさらに同定した。これらの受容体、すなわち5-HT2セロトニン受容体は、肥大に至る細胞カスケードに重要であることがすでに公知である多数の重要なシグナル伝達経路に関する出発点である。このように、本発明により、本発明者らは、5-HT2受容体の発現および機能を調節する段階を構成する、心肥大、PPHおよび心不全を治療するための新規な治療法を本明細書に記載する。
【0027】
I. Gタンパク質共役受容体(GPCR)
GPCRは、共通の構造モチーフを有する。これらすべての受容体は、7個のアルファヘリックスを形成する22から24個の間の疎水性アミノ酸の配列7個を有し、その各々は膜を貫通している。膜貫通ヘリックスは、膜の細胞外側に第4および第5膜貫通ヘリックスの間の大きなループを有するアミノ酸のストランドによって連結している。主に親水性アミノ酸から構成される別の大きなループは、膜の細胞内側で第5および第6膜貫通ヘリックスを連結している。受容体のカルボキシ末端は細胞内側に、アミノ末端は細胞外空間に存在する。第5および第6ヘリックスを連結しているループならびにカルボキシ末端は、Gタンパク質と相互作用すると考えられている。現在、Gq、Gs、GiおよびGoが、同定されているGタンパク質である。
【0028】
生理条件下では、Gタンパク質共役受容体は「不活性」状態と「活性」状態という2つの異なる状態またはコンホメーションの間で平衡となって細胞膜に存在する。不活性状態の受容体は、細胞内伝達経路に連結して生物学的応答を産生できない。活性状態への受容体のコンホメーションの変化は、伝達経路との連結を可能にし、生物学的応答を産生する。
【0029】
A. セロトニン受容体
混ざり合った複雑な薬理学的性質を有する神経伝達物質であるセロトニンは、1948年に最初に発見され、それからは実質的な研究の主題である。5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)とも呼ばれるセロトニンは、別個の5-HT受容体に中枢性および末梢性の両方で作用する。現在はセロトニン受容体の14個のサブタイプが認知され、5-HT(1)から5-HT(7)の7つのファミリーで表される。5-HT受容体の命名および分類は最近総説されている(Martin and Humphrey, 1994; Hoyer et al., 1994)。これらの7つの受容体ファミリーは、別個のセカンドメッセンジャー経路を介してシグナル伝達する。5-HT(1)、(4)、(5)、(6)および(7)ファミリーのメンバーは、Gi/oまたはGsを介してアデニリルシクラーゼに共役することによってcAMPレベルを調節する。対照的に、5-HT(3)受容体はNa+/K+/Ca++選択的陽イオンチャネルとして機能する。最後に、5-HT(2)受容体ファミリーのメンバーはGq/11を介してホスホリパーゼCを活性化する。
【0030】
5-HT(2)ファミリーの中に5-HT(2A)、5-HT(2B)および5-HT(2C)サブタイプが存在することは公知である。これらのサブタイプは配列相同性を共有し、広範囲のリガンドに対する特異性において類似性を表す。最初5-HT(2F)と名付けられた5-HT(2B)受容体、言い換えるとセロトニン様受容体は、ラットの単離された胃底で初めて特徴づけされ(Clineschmidt et al., 1985; Cohen and Wittenauer, 1987)、当初ラットからクローニングされ(Foguet et al, 1992)、それからヒト5-HT(2B)受容体がクローニングされた(Schmuck et al., 1994; Kursar et al., 1994)。ヒト脳に広く分布する5-HT(2C)受容体は、最初5-HT(1C)サブタイプとして特徴づけされ(Pazos et al., 1984)、5-HT(2)受容体ファミリーに属するとその後認知された(Pritchett et al., 1988)。
【0031】
5-HT(2B)および5-HT(2C)受容体でのリガンド相互作用の薬理における類似性が原因で、5-HT(2C)受容体アンタゴニストに関して提案された治療上の標的の多くは、5-HT(2B)受容体アンタゴニストに関する標的でもある。現在の根拠は、不安(例えば全般性不安障害、パニック障害および強迫性障害)、アルコール中毒および他の乱用薬物に対する嗜癖、うつ病、片頭痛、睡眠障害、摂食障害(例えば神経性食欲不振)ならびに持続勃起症の治療に果たす5-HT(2B/2C)受容体アンタゴニストの治療上の役割を強く支持している。さらに、現在の根拠は、有効性、作用発現の迅速さおよび副作用の不在において別個の治療上の利点をまとめて供するであろう選択的5-HT(2B)受容体アンタゴニストの治療上の役割を強く支持している。そのような薬剤は、高血圧、消化管障害(例えば過敏性腸症候群、下部食道括約筋の過緊張、運動障害)、再狭窄、喘息および閉塞性気道疾患ならびに前立腺肥大(例えば良性前立腺肥大)の治療に有用であると期待される。
【0032】
近年の研究は、特に上昇した5-HT(セロトニン)レベルに関係した心血管疾患でのこれらの受容体の潜在的重要性を強調したが、5-HT受容体が多様であることおよび5-HT受容体のアイソタイプに特異的な薬理学的薬剤が欠如していることが、これらの領域で何らかの重要な臨床的進歩を遂げる試みを困難にしている(Nebigil et al., 2003)。Nebigilらは、セロトニンが心臓において重要な役割を果たすこと、5-HT2b受容体のノックアウトはアポトーシスを阻害して心臓病を調節できること、およびこの調節がPI3キナーゼ経路を介して生じうることを発見した(Negibil et a1., 2003b)。Negibilらは、心臓の適正な発達に5-HT2b受容体が必要であるが、同受容体の過剰発現はミトコンドリアの異常機能および心肥大に至りうること、およびPPHを患う患者の肺動脈では5-HT2b受容体が上方制御されていることも示している(Negibil et al., 2000; Negibil et al., 2003c; Launay et al., 2002)。これらの結果は、多様な心血管疾患を治療するためにこの受容体サブタイプの調節因子を発見する必要性を強調している。そのようなものとして、本発明により、本発明者らは5-HT2受容体の調節が心保護的であり、肥大、PPHおよび心不全と拮抗するために使用できるだけでなく、それらが肥大および心不全に関与する従来から記載されている経路に連鎖したメカニズムを介して間接的にも働くことを本明細書に示す。
【0033】
(表1)公知の5-HT2受容体のアクセッション番号の一覧

【0034】
II. 心血管疾患および筋骨格疾患
A. 心不全および肥大
冠状動脈疾患、心筋梗塞、うっ血性心不全および心肥大を含む心臓病およびその症状発現は、今日の米国における主要な健康リスクをはっきりと表している。これらの疾患を患う患者を診断、治療および援助するコストは、数十億ドルに十分達する。心臓病の特に重い症状発現の1つは心肥大である。肥大に関して、ある理論は異所性発生に類似する疾患としてこれをみなし、そのこと自体は心臓での発生シグナルが肥大性疾患に寄与しうるかという問題を提起している。心肥大は、高血圧、機械的負荷、心筋梗塞、心臓不整脈、内分泌障害および心臓の収縮タンパク質遺伝子の遺伝子突然変異から生じるものを含めた事実上すべての形態の心疾患に対する心臓の適応反応である。肥大応答は初期には心拍出量を増大させる代償メカニズムであるが、持続性の肥大はDCM、心不全および突然死に至りうる。米国では毎年約50万人の個体が心不全を有すると診断され、死亡率は50%に近づいている。
【0035】
心肥大の原因および作用が広く記録されているが、その原因となる分子メカニズムは完全には解明されていない。これらのメカニズムを理解することは心疾患の予防および治療における主要な関心事であり、心肥大および心不全を特異的に標的とする新薬の設計での治療様式として決定的であろう。心肥大の症状は、最初は心不全の症状によく似るが、息切れ、労作に伴う疲労、仰臥による息切れ(起座呼吸)、発作性夜間呼吸困難、心臓径の拡大および/または下肢の腫脹がありうる。患者は血圧の増加、過剰心音、心雑音、肺および全身性塞栓、胸痛、肺うっ血ならびに動悸を伴って現れることも多い。さらに、DCMは駆出分画(すなわち内因性収縮機能とリモデリングとの両方の尺度)の減少を引き起こす。この疾患は、心筋の収縮性の減少が原因の心室拡張および収縮機能の著しい損傷をさらに特徴とし、それにより多くの患者では拡張性心不全がもたらされる。冒された心臓は、筋細胞/心筋の機能障害の結果として細胞/腔のリモデリングも受け、それが「DCM表現型」に寄与している。疾患が進行するにつれ、症状も進行する。DCMを有する患者では、心室性頻脈および心室細動を含めた致命的な不整脈の発生率も大きく増加している。これらの患者では、失神(めまい)のエピソードは突然死の前兆とみなされる。
【0036】
肥大の診断は、拡大した心腔、特に拡大した心室の実証に概して依存する。拡大は、胸部X線で通例、観察可能であるが、心エコーを使用するとさらに正確に評価される。DCMは、急性心筋炎、弁膜性心疾患、冠状動脈疾患および高血圧性心疾患と区別するのが困難であることが多い。いったん拡張型心筋症の診断がなされると、潜在的に改善可能な原因を同定および治療してさらなる心臓の損傷を予防するためにあらゆる努力がなされる。例えば冠状動脈疾患および弁膜性心疾患を除外しなければならない。貧血、異常頻脈、栄養欠乏、アルコール中毒、甲状腺疾患および/または他の問題に取り組み、制御する必要がある。
【0037】
上に言及したとおり、薬理学的薬剤を用いた治療は、心不全の症状発現を低減または排除するための主なメカニズムを依然として代表する。利尿薬は、軽症から中程度の心不全の第一線の治療を構成している。不幸にも通例使用されている利尿薬(例えばチアジド類)の多くは、多数の有害作用を有する。例えば、ある種の利尿薬は血清コレステロールおよびトリグリセリドを増加させる場合がある。さらに、利尿薬は重症心不全を患う患者には一般に無効である。
【0038】
利尿薬が無効ならば血管拡張薬を使用できる。アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(例えばエナロプリルおよびリジノプリル)は症状の軽減を提供するだけでなく死亡率も低下させると報告された(Young et al.; 1989)。またしかし、ACE阻害薬は有害作用に関連し、その結果として、ある種の疾病状態(例えば腎動脈狭窄)を有する患者に禁忌となっている。同様に、強心薬(すなわち心筋の収縮力を増加することにより心拍出量を改善する薬物)による療法は、胃腸障害および中枢神経系の機能障害を含めた有害反応の数々と関連している。
【0039】
このように、今日使用されている薬理学的薬剤は特定の患者集団に大きな欠点を有する。新規で安全で有効な薬剤が利用できることは、現在利用可能な薬理学的様式を利用できないか、またはそれらの様式から十分な軽減を受ていないかのいずれかである患者にとって確実に有益であろう。DCMを有する患者の予後は多様であり、心室機能障害の程度に依存し、大多数の死亡は診断の5年以内に起こる。
【0040】
MEF-2、MCIP、カルシニューリン、NF-AT3およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、すべて、心臓病、心不全および肥大の発生および進行に密接に関与していると最近みなされているタンパク質および遺伝子である。任意の、またはすべてのこれらの遺伝子および/またはタンパク質の操作、調節および/または阻害は、心不全および肥大の治療に大いに有望である。これらの遺伝子は、心不全および肥大の両方に結局は至る様々なカスケードにすべて関与している。そこで、これらの遺伝子を阻害してまず第一にこれらの遺伝子の活性化を予防しうる方法があるならば、その方法は心疾患の治療においてかなりの躍進となるであろう。5-HT2サブタイプのセロトニン受容体はそのような潜在的標的である。それは、それらのサブタイプがこれらのカスケードのすべてと間接的に関連し、よって心不全および肥大に関連した転写翻訳経路を阻害するための治療上のボトルネックとなりうるからである。
【0041】
B. 原発性肺高血圧症
肺高血圧症は、増加した肺動脈圧および肺血管抵抗ならびに血管腔の狭窄に至る血管リモデリングを特徴とする疾患である。肺高血圧症は、原発性、すなわち未知または同定不能の原因である場合があり、また、酸素欠乏症もしくは先天性の心臓シャントのような公知の原因に対して二次的でありうる。用語「原発性肺高血圧症」(PPH)は、肺小動脈に動脈圧の上昇が存在する状態を一般に指す。肺高血圧症は、全身性高血圧とは独立して、かつ無関係に一般に生じる。インビトロ研究は、Ca(++)濃度における変化が肺高血圧症に関連する肺組織の損傷に関与している場合があると結論している(Farruck et al., 1992)。本明細書で使用する肺高血圧症を有する対象は、休息時に少なくとも20mmHgの右室収縮期圧または肺動脈収縮期圧を有する対象である。肺高血圧症は当業者に周知の通常の手順を使用して測定される。
【0042】
肺高血圧症は、急性または慢性のいずれかでありうる。急性肺高血圧症は、肺血管の平滑筋の収縮に一般に原因があるとできる潜在的に改善可能な現象であることが多く、その収縮は、酸素欠乏症(高空病におけるような)、アシドーシス、炎症または肺塞栓症のような状態によって誘発されうる。慢性肺高血圧症は、肺血管系の主要な構造変化を特徴とし、その変化は肺血管の断面積の減少を招く。これは、例えば慢性酸素欠乏症、血栓塞栓症または未知の原因(特発性または原発性肺高血圧症)によって起こりうる。
【0043】
多様な病因の可能性にかかわらず、原発性肺高血圧症の症例は認識可能な実体を有する傾向にある。約65%が女性であり、若い成人が苦しむことが最も多いが、小児および50歳を超える患者にも原発性肺高血圧症は起こる。診断時からの余命は短く、約3〜5年であるが、診断過程の性質を考えると、自然寛解およびより長期の生存が時に報告されることを期待できる。しかし、一般に進行は失神および右心不全を介して不変であり、死亡は突然死であることが極めて多い。PPHを有すると診断された個体の少なくとも6%は、本障害の既知の家族歴を有する。本疾患を家族性(1人より多い罹患した血縁者が症例の少なくとも6%で同定されている(家族性PPH;MIM 178600)または散発性のいずれかとして分類できる。
【0044】
C. 筋萎縮
筋萎縮は、疾患または使用の欠如に起因した筋肉組織の消耗または喪失を指す。一般集団における筋萎縮の大部分は、不使用(disuse)に起因する。座業者および活動性の減少した高齢者は、筋緊張を失い、かなりの萎縮を発現しうる。この種の萎縮は、活発な運動で改善可能である。寝たきりの者はかなりの筋肉の消耗を経験しうる。地球の重力を受けない宇宙飛行士は、無重力のわずか数日後に筋緊張の減少と骨からのカルシウムの喪失を発現しうる。
【0045】
不使用よりもむしろ疾患に起因する筋萎縮は、筋肉を供給する神経に対する損傷と、筋肉自体の疾患とに起因する2つの種類のうち一般に一方である。筋肉を制御する神経を冒す疾患の例は、ポリオ、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリック病)およびギランバレー症候群であろう。主に筋肉を冒す疾患の例には、筋ジストロフィー、筋緊張症および筋緊張性ジストロフィーならびに他の先天性、炎症性または代謝性ミオパシー(筋肉疾患)があるであろう。
【0046】
筋萎縮の一般的な原因には、加齢性筋肉消耗、脳血管発作(脳卒中)、脊髄損傷、末梢神経損傷(末梢ニューロパシー)、他の損傷、長期運動抑制、骨関節炎、慢性関節リウマチ、長期コルチコステロイド療法、糖尿病(糖尿病性ニューロパシー)、熱傷、ポリオ、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリック病)、ギランバレー症候群、筋ジストロフィー、先天性筋強直症、筋緊張性ジストロフィー、ミオパシー、癌に関連した悪液質、AIDSに関連した悪液質がある。
【0047】
ホスファターゼであるカルシニューリンは、骨格筋の分化、成長および遺伝子発現を支配しているシグナル伝達メカニズムの重要な構成要素に関係があるとされている(Chin et al., 1998; Dunn et al., 1999; Semsarian et al., 1999; Naya et al., 2000; Wu et al., 2000; Wu et al., 2001)。決定的には、カルシニューリンシグナル伝達経路の活性化は、筋ジストロフィーのマウスモデルにおいて骨格筋の萎縮を救うのに必要かつ十分である(Stupka et al., 2004; Chakkalakal et al., 2004)。さらに、グルココルチコイド療法(デュシェーヌ筋ジストロフィー患者での筋萎縮の治療に関するケアの現在の標準)の作用機序はカルシニューリン経路の活性化を必要とすることが最近実証された(St-Pierre et al., 2004)。
【0048】
III. 心不全または心肥大に関する転写経路
Ca(++)の活性化は多様な形態の心不全および心臓病に関与していることが公知である。細胞でのCa(++)貯蔵の枯渇または細胞質Ca(++)レベルの上昇は、心肥大に関するカルシニューリン依存性経路を刺激することが示された。本発明者らは、TRPチャネルがこれらの細胞内Ca(++)レベルの上昇の原因と考えられるチャネルであり、その上昇が次に細胞内の多数の異なる経路を活性化することを以前に示している。今回、本発明者らは、5-HT2受容体がTRPチャネルに誘導されるものと同じ経路に連結していることを示す。これらの経路の個々の構成要素は心血管疾患に関係することから、それらの構成要素を本明細書の下記にさらに詳細に論じる。
【0049】
A. TRPチャネル
細胞内コンパートメントは、細胞外環境(1mM)または内部(筋小胞体)の貯蔵に比べて低濃度(100nM)のカルシウムを通常は維持する。細胞内カルシウム濃度の一過性の増加(心臓の興奮収縮周期に関連した増加のような)は、カルシニューリンを活性化するには不十分であり、むしろカルシニューリンは細胞内カルシウムの持続的上昇に反応する。肥大心筋細胞は、慢性的に上昇した細胞内カルシウムレベルを明らかに有するが、この持続性のカルシウムシグナルの原因となる特異的メカニズムは理解しにくいままである。潜在的なメカニズムには、細胞外カルシウムの流入増加、内部貯蔵からのカルシウム放出増加またはSERCAポンプを介したカルシウムの再取り込みの障害がありうる。細胞外カルシウムの流入は、主に心臓L型電位依存性チャネルによって、より少ない程度には様々な電位非依存性カルシウムチャネルによって調節されている。リアノジン受容体は、興奮収縮周期の間に筋小胞体から放出されるカルシウムの大部分を媒介し、もう1つのカルシウム放出チャネルであるIP3受容体よりも心臓に50〜100倍豊富に存在する。IP3受容体は、その存在量が低いにもかかわらず、心臓カルシニューリン-NFAT経路の促進に欠かせない役割を果たしうると最近の根拠は示唆している(Jayaraman & Marks, 2000)。さらに、心不全を有するヒト患者でIP3受容体の発現増加が観察された(Go et al., 1995)。
【0050】
肥大性カルシウムシグナルの、可能性のある起源への追加的な洞察は、免疫系におけるカルシニューリン-NFAT経路の研究から生じた(Crabtree & Olson, 2002)。リンパ球が活性化する間に、T細胞受容体に結合するリガンドはPLCの活性化およびIP3の産生を刺激し、IP3は、IP3受容体を介して細胞内貯蔵からのカルシウムの一過性放出を誘導する(リンパ球での主なカルシウム放出チャネルである)。しかし、このカルシウムの一過性放出は、カルシニューリンおよびその後のNFAT依存性応答を活性化するには不十分である。むしろ細胞内貯蔵からの初発のカルシウム放出は、専門のカルシウム放出活性化カルシウム(CRAC)チャネルを介した細胞外カルシウムの二次的な内向きフラックスを誘発する。カルシニューリン経路を活性化することができる持続性カルシウムシグナルを産生するのは、細胞外カルシウムのこの内向きのフラックスである。様々な種類の細胞でカルシニューリン-NFATシグナル伝達モジュールが利用される程度を考えると、類似したメカニズム(例えば心臓CRACチャネル)が心臓でのこの肥大促進経路の活性化の原因でありうると予測するのが妥当である。
【0051】
CRACチャネルの電気生理学的性質は広く研究されているが、これらのチャネルをコードする特異的遺伝子をさらに完全に同定しなければならない。このように、心臓CRACチャネルの性質の原因となる遺伝子(群)は肥大に至るカスケードの出発点となり、心不全および肥大の両方についての潜在的な治療標的であるが、それらの遺伝的同一性は理解しにくいままである。チャネルタンパク質CaT1がCRACチャネルの予想された電気生理学的特性を有することが最近になって実証された(Yue et al., 2001)。CaT1は、一過性受容体電位(TRP)ファミリーとして、集合的に公知である大きな群(遺伝子約20個)の電位非依存性原形質膜陽イオンチャネルのメンバーである(Venneken et al., 2002)。配列相同性に基づいてTRPファミリーを3つのサブファミリー、すなわちTRPC(カノニカル)サブファミリー、TRPV(バニロイド)サブファミリーおよびTRPM(メラスタチン)サブファミリーに分けることができる。TRPファミリーのメンバーは、様々な組織でカルシウム内向きフラックスチャネルとして明らかに機能するが、この新興のイオンチャネルファミリーの特異的な生理学的役割および調節モードについては現在のところ比較的わずかしか分かっていない。
【0052】
TRPCサブファミリーのメンバーは、Gタンパク質共役受容体の公知のエフェクターであり、ジアシルグリセロールによって直接活性化し、GPCRに依存したPLCの活性化の結果としてIP3が産生される。TRPCサブファミリーのメンバーは、CRACチャネルとしても機能する。それらは細胞内カルシウムの貯蔵の枯渇に応答して活性化する。貯蔵の枯渇をカルシウムの内向きフラックスと共役させる特異的メカニズムは未知であるが、TRPC3の場合は、チャネルはIP3受容体と直接相互作用すると考えられる。TRPC3チャネルの発現レベルは、興味深いことにそのチャネルがいかに調節されるかに影響することが示された。高レベルのチャネル発現ではPLCの活性化が主要な調節様式であり、一方で低い発現レベルは貯蔵の枯渇に好都合である(Vasquez et al., 2003)。決定的には、TRPCチャネルは筋肉の病的カルシウムシグナル伝達に寄与することが最近になって実証された(Vandebrouck et al., 2002)。デュシェーヌ筋ジストロフィーを患う患者の骨格筋線維は、異常に増加したカルシウムの内向きフラックスを示し、それはカルシウム依存性プロテアーゼの活性化を介してジストロフィー表現型に寄与する。アンチセンスによるジストロフィー筋線維でのTRPC発現の抑制は、異常なカルシウムの内向きフラックスを減少させ、これは、疾患過程に果たすこのチャネルの役割を確認している。
【0053】
他のTRPサブファミリーのメンバーはあまり十分には研究されていないが、種々の刺激に応答すると考えられる。貯蔵の枯渇による調節以外に、TRPVチャネルは機械的伸長、熱およびトウガラシ化合物であるカプサイシンによっても活性化する。対照的に、TRPMチャネルは低温およびメントールのような化合物によって活性化する。これらのチャネルは筋肉に発現するが、これらのチャネルが果たしうる機能的役割をさらに説明しなければならない。上記のように、これらのチャネルは心肥大の発現に決定的に重大であるカルシニューリン依存性経路を活性化できることから、それら自体で独自に重要である。
【0054】
B. カルシニューリン
カルシニューリンは、59kDのカルモジュリン結合性触媒Aサブユニットおよび19kDのCa(++)結合性調節Bサブユニットからなるヘテロダイマーとして存在する、遍在性に発現するセリン/トレオニンホスファターゼである(Stemmer and Klee, 1994; Su et al., 1995)。カルシニューリンは、持続性のCa(++)プラトーによって活性化され、心筋細胞の収縮に応答して起こるような一過性のCa(++)フラックスに非感受性であることから、Ca(++)のシグナル伝達に対する心筋細胞の長期肥大応答を媒介するのに独自に適合している(Dolmetsch et al., 1997)。
【0055】
カルシニューリンの活性化は、Ca(++)およびカルモジュリンがそれぞれ調節サブユニットおよび触媒サブユニットに結合することによって媒介される。以前の研究は、心臓におけるカルモジュリンの過剰発現も肥大をもたらすことを示したが、それに関与するメカニズムは決定されなかった(Gruver et al., 1993)。カルモジュリンはカルシニューリン経路を介して作用して肥大応答を誘導することが今や明らかとなっている。本発明者らによって、カルシニューリンはNF-AT3をリン酸化することが以前に示され、NF-AT3はその後に転写因子MEF-2に作用する(Olson et al, 2000)。このイベントがいったん起こると、MEF-2は胎児遺伝子として知られる様々な遺伝子を活性化し、その活性化は必然的に肥大をもたらす。
【0056】
CsAおよびFK-506は、イムノフィリンであるシクロフィリンおよびFK-506結合タンパク質(FKBP12)のそれぞれと結合して、カルシニューリンの触媒サブユニットと結合する複合体を形成してその活性を阻害する。CsAおよびFK-506は、培養心筋細胞がAngIIおよびPEに反応して肥大を受ける能力を遮断する。これらの両方の肥大性作動薬は、細胞内Ca(++)を上昇させて、その結果、PKCおよびMAPキナーゼシグナル伝達経路の活性化をもたらすことによって作用することが示されている(Sadoshima et al., 1993; Sadoshima and Izumo, 1993; Kudoh et al., 1997; Yamazaki et al., 1997, Zou et al., 1996)。CsAは、PIのターンオーバー、Ca(++)の動員またはPKCの活性化のような細胞膜での初期のシグナル伝達イベントを妨害しない(Emmel et al., 1989)。このように、AngIIおよびPEの肥大応答を阻止するCsAの能力は、カルシニューリンの活性化がAngIIおよびPEのシグナル伝達経路での必須の段階であることを示唆している。
【0057】
C. NF-AT3
NF-AT3は、4つのメンバーNF-ATc、NF-ATp、NF-AT3およびNF-AT4を含む多重遺伝子族のメンバーである(McCaffery et al., 1993; Northrup et al., 1994; Hoey et al., 1995; Masuda et al., 1995; Park et al., 1996; Ho et al., 1995)。これらの因子は、Rel相同ドメイン(RHD)を介してモノマーまたはダイマーとしてコンセンサスDNA配列GGAAAATと結合する(Rooney et al., 1994; Hoey et al., 1995)。NF-AT遺伝子のうち3つはT細胞および骨格筋にその発現が限定されるが、NF-AT3は心臓を含めた様々な組織に発現する(Hoey et al., 1995)。NF-ATタンパク質に関するさらなる開示について、当業者は、具体的に参照として本明細書に組み入れられる米国特許第5,708,158号を参照されたい。
【0058】
NF-AT3は、核への移行を媒介する調節ドメインをアミノ末端に有し、DNAとの結合を媒介するRel相同ドメインをカルボキシル末端近くに有する902個のアミノ酸である。NF-ATタンパク質の活性化に関与する3つの異なる段階、すなわち脱リン酸化、核局在およびDNAに対する親和性の増加が存在する。休止細胞では、NFATタンパク質はリン酸化されており、細胞質に位置する。これらの細胞質NF-ATタンパク質は、DNAとの親和性をほとんどまたは全く示さない。カルシウムの動員を誘発する刺激は、NF-ATタンパク質の迅速な脱リン酸化および核へのそれらの移行をもたらす。脱リン酸化したNF-ATタンパク質は、DNAに対する親和性の増加を示す。活性化経路の各段階をCsAまたはFK506によって遮断できる。これは、カルシニューリンがNF-ATの活性化の原因となるタンパク質であることを暗示し、本発明者らの以前の研究はそのことを示している。
【0059】
このようにT細胞では、カルシニューリンの活性化に応答した遺伝子発現の変化の多くは、NF-ATファミリーの転写因子のメンバーによって媒介され、それらのメンバーはカルシニューリンによる脱リン酸化の後に核に移行する。NF-ATはカルシニューリンの活性化に応答した心肥大の重要な伝達物質でもあるという結論を、多くの観察が支持している。NF-AT活性は、AngIIおよびPEで心筋細胞を処理することによって誘導される。この誘導はCsAおよびFK-506によって遮断され、これはその誘導がカルシニューリン依存性であることを示している。NF-AT3はGATA4と相乗的に作用して心筋細胞での心臓特異的BNPプロモーターを活性化する。また、心臓での活性化NF-AT3の発現は、肥大性シグナル伝達経路でのすべての上流のエレメントを回避して肥大性反応を誘発するのに十分である。
【0060】
本発明者らの以前の研究は、NF-AT3のRel-相同ドメインのC末端部分がGATA4の第二ジンクフィンガーならびに同じく心臓に発現するGATA5およびGATA6と相互作用することを実証している。NF-ATcのDNA結合領域の結晶構造は、Rel相同ドメインのC末端部分がDNA結合部位から突出して、免疫細胞でのAP-1との相互作用も媒介することを明らかにしている(Wolfe et al., 1997)。
【0061】
本発明者らによって以前に提案されたモデルによれば、AngIIおよびPEのように細胞内Ca(++)の上昇に至る肥大刺激は、カルシニューリンの活性化をもたらす。細胞質内部のNF-AT3はカルシニューリンによって脱リン酸化されて、核への移行が可能となり、核ではNF-AT3はGATA4と相互作用でき、その後、クラスII HDACと密接に関連することによって通常は抑制されている転写因子ファミリーである転写因子MEF-2を活性化する。
【0062】
本発明者らによる以前の研究結果は、カルシニューリンによるNF-AT3の活性化が様々な病的刺激に応答して肥大を調節することを示し、サルコメアの機能の改変に関する感知メカニズムを示唆している。注目すべきことに、収縮タンパク質の遺伝子の突然変異によって起こる重症家族性肥大型心筋症(FHC)が存在し、その突然変異はサルコメアの微結晶様構造のわずかな解体をもたらす(Watkins et al, 1995; Vikstrom and Leinwand, 1996)。どのようにサルコメアの解体が心筋細胞によって感知されるかは未知であるが、これがCa(++)の運用の改変に至ることが明らかである(Palmiter and Solaro, 1997; Botinelli et al., 1997; Lin et al., 1996)。上に論じたように、カルシニューリンはFHCに関連するCa(++)の運用の改変と心肥大および心不全とを結びつける感知分子の1つである。
【0063】
D. MEF2
上記のように、カルシニューリンによるNF-AT3の活性化は、別のファミリーの転写因子である単球エンハンサー因子2ファミリー(MEF2)を活性化し、MEF2は、骨格筋細胞、心筋細胞、および平滑筋細胞の形態形成および筋形成に重要な役割を果たすことが公知である(Olson et al., 1995)。MEF2因子はすべての種類の発生中の筋肉細胞に発現し、大多数の筋特異的遺伝子の制御領域における保存されたDNA配列と結合する。4つの哺乳類MEF2遺伝子のうち、かなりの機能的な差異を有する3つ(MEF2A、MEF2BおよびMEF2C)が選択的スプライシングを受けることができる(Brand, 1997; Olson et al., 1995)。これらの転写因子は、N末端MADSボックスおよびMEF2ドメインとして公知である隣接モチーフに相同性を共有している。総合すると、MEF2のこれらの領域は、DNAの結合、ホモおよびヘテロダイマー化、ならびに骨格筋での筋形成性bHLHタンパク質のような様々な補因子との相互作用を媒介する。さらに、脊椎動物および無脊椎動物での生化学および遺伝研究より、MEF2因子が他の転写因子との組み合わせの相互作用を介して筋形成を調節することが実証されている。
【0064】
機能喪失(Loss-of-function)研究は、MEF2因子が胚形成時の筋遺伝子の発現の活性化に必須であることを示している。MEF2タンパク質の発現および機能は、MEF2因子が参加する多様な転写回路を微調整するように働いている多様の形の正の調節および負の調節に供される。健康な心臓ではMEF-2は不活性型となってクラスII HDACS(上記参照)によって結合され、MEF-2が活性化されるとHDACから放出され、心臓に非常に有害である胎児遺伝子プログラムを活性化する。
【0065】
E. ヒストンデアセチラーゼ
クロマチンの折り畳みの一次的足場であるヌクレオソームは、溶液状態のクロマチンのコンホメーションに影響する動的高分子構造である(Workman and Kingston, 1998)。ヌクレオソームのコアは、ヒストンタンパク質であるH2A、HB、H3およびH4で構成されている。ヒストンのアセチル化は、ヌクレオソームおよびヌクレオソームの配列を、改変した生物物理学的特性を伴って挙動させる。ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)とヒストンデアセチラーゼ(HDAC)との間の活性のバランスが、ヒストンのアセチル化レベルを決定している。アセチル化されたヒストンはクロマチンの弛緩および遺伝子転写の活性化を引き起こし、一方で脱アセチル化されたクロマチンは一般に転写的に不活性である。
【0066】
異なる11個のHDACが脊椎動物からクローニングされている。同定された最初の3つのヒトHDACは、HDAC1、HDAC2およびHDAC3(クラスIヒトHDACと命名)であり、HDAC8(Van den Wyngaert et al., 2000)がこのリストに加わった。最近、クラスIIヒトHDAC、すなわちHDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC9およびHDAC10(Kao et al., 2000)がクローニングされ同定されている(Grozinger et al., 1999; Zhou et al. 2001; Tong et al., 2002)。さらに、HDAC11が同定されたが、クラスIまたはクラスIIのいずれであるか、まだ分類されていない(Gao et al., 2002)。すべては触媒領域に相同性を共有する。しかし、HDAC4、HDAC5、HDAC7、HDAC9およびHDAC10は他のHDACにみられない独特なアミノ末端伸長部を有する。このアミノ末端領域はMEF2結合ドメインを含む。HDAC4、HDAC5およびHDAC7は心臓遺伝子の発現調節に関与し、特定の態様では、MEF2の転写活性を抑制することが示された。クラスII HDACがMEF2活性を抑制する正確なメカニズムは完全には理解されていない。1つの可能性は、HDACとMEF2との結合が競合的に、または天然の転写活性型MEF2のコンホメーションを不安定化することにより、いずれかで、MEF2の転写活性を阻害することである。脱アセチル化が進行するためには、クラスII HDACがMEF2とダイマーを形成して、ヒストン近辺にHDACを局在または配置する必要がある可能性もある。
【0067】
ヒストンデアセチラーゼに対する多様な阻害薬が同定されている。提案された使用は広範囲であるが、主に癌療法に主眼をおいている。Saundersら(1999);Jungら(1997);Jungら(1999);Vigushinら(1999);Kimら(1999);Kitazomoら(2001);Vigusinら(2001);Hoffmannら(2001);Kramerら(2001);Massaら(2001);Komatsuら(2001);Hanら(2001)を参照。そのような療法は、固形腫瘍および血液腫瘍に関する、NIHが後援する臨床治験の対象である。HDACは導入遺伝子の転写も増加させ、よって遺伝子療法に対する可能性のある補助剤を構成している。(Yamano et al., 2000; Su et al., 2000)
【0068】
多様な異なるメカニズム、すなわちタンパク質、ペプチドおよび(アンチセンス、RNAi分子およびリボザイムを含めた)核酸によってHDACを阻害できる。ウイルスおよび非ウイルスベクターならびにリポソームを含む、遺伝子構築物のクローニング、導入および発現のための方法は、当業者に広く公知である。ウイルスベクターにはアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルスおよびヘルペスウイルスがある。
【0069】
低分子阻害薬も企図される。最も広く公知であるHDAC機能の低分子阻害薬は、おそらく、ヒドロキサム酸であるトリコスタチン(Trichostatin)Aである。この阻害薬は、過アセチル化を誘導してras形質転換細胞の正常形態への復帰を引き起こし(Taunton et al., 1996)、マウスモデルにおいて免疫抑制を誘導することが示された(Takahashi et al.,1996)。この阻害薬は、BIOMOL Research Labs, Inc., Plymouth, Meeting, PAを含めた様々な供給業者から商業的に入手できる。
【0070】
参照として本明細書に組み入れられる以下の参照文献は、すべて本発明に用途を見出しうるHDAC阻害薬を記載している:豪州特許第9,013,101号;豪州特許第9,013,201号;豪州特許第9,013,401号;豪州特許第6,794,700号;欧州特許第1,233,958号;欧州特許第1,208,086号;欧州特許第1,174,438号;欧州特許第1,173,562号;欧州特許第1,170,008号;欧州特許第1,123,111号;日本国特許出願第2001/348340号;米国特許出願第2002/256221号;米国特許出願第2002/103192号;米国特許出願第2002/65282号;米国特許出願第2002/61860号;国際公開公報第02/51842号;国際公開公報第02/50285号;国際公開公報第02/46144号;国際公開公報第02/46129号;国際公開公報第02/30879号;国際公開公報第02/26703号;国際公開公報第02/26696号;国際公開公報第01/70675号;国際公開公報第01/42437号;国際公開公報第01/38322号;国際公開公報第01/18045号;国際公開公報第01/14581号;Furumaiら(2002);Hinnebuschら(2002);Maiら(2002);Vigushinら(2002);Gottlicherら(2001);Jung (2001);Komatsuら(2001);Suら(2000)。
【0071】
F. MCIP
カルシニューリンとの緊密な関連およびそれによる調節を主な原因とする心不全および肥大に関連する別の遺伝子は、MCIP1をコードするヒト遺伝子(DSCR1)であり、それは第21番染色体の決定的な領域に存在する50〜100個の遺伝子の1つである(Fuentes et al., 1997; Fuentes et al., 1995)。第21番染色体のトリソミーは、際だった特徴として心臓の異常および骨格筋緊張低下を含むダウン症候群という複合発育異常を生じる(Epstein, 1995)。ZAKI-4は、甲状腺ホルモンに応答して転写活性化する遺伝子に関する選別の際に、ヒト線維芽細胞系から同定された(Miyazaki et al., 1996)。
【0072】
MCIP1は、カルシニューリンと直接結合してそれを阻害し、カルシニューリン活性の内因性フィードバック阻害因子として機能する。トランスジェニック動物の心臓でのMCIP1の過剰発現は抗肥大性であり、MCIP1のインビボモデルは、カルシニューリン依存性肥大(Rothermel et al., 2001)および過剰な圧負荷が誘導する肥大(Hill et al., 2002)の両方を軽減する。MCIP1は、MAPKおよびGSK-3によるリン酸化ならびにカルシニューリンのホスファターゼ活性に対する基質としても作用する。MCIP1の残基81〜177はカルシニューリン阻害作用を保持する。
【0073】
カルシニューリンに対するMCIP1の結合は、カルモジュリンを必要とせず、MCIPはカルシニューリンに対するカルモジュリンの結合も妨害しない。これは、MCIP1が結合するカルシニューリンの表面がカルモジュリン結合ドメインを含まないことを示唆している。対照的に、MCIP1とカルシニューリンとの相互作用はFK506:FKBPまたはシクロスポリン:シクロフィリンによって妨げられ、これはMCIP1が結合するカルシニューリンの表面が免疫抑制薬の活性に必要とされる表面と重複することを示す。
【0074】
MCIPおよび上記の遺伝子のすべては、それぞれ、それ自体が独自に心不全および肥大に対する魅力的な治療標的を提示している。5-HT2受容体への本発明者らの興味の主な理由は、これらの受容体が、これらの上記遺伝子のすべてに関与するか、それらを動員する経路およびメカニズムに関係していると潜在的にみなされることである。このように、5-HT2受容体の調節による心不全または肥大の治療は、これらの疾患を患う患者を治療するために利用可能な現行の方法を大きく躍進させるものとなるであろう。
【0075】
IV. 心血管疾患の治療方法
A. 心不全および肥大の治療方式
いくつかの形態の心不全は治癒可能の場合があり、これらは貧血または甲状腺中毒症のような原疾患を治療することによって対処される。心臓弁欠損のような解剖学的問題に引き起こされる形態も治癒可能である。これらの欠損を外科的に修正できる。しかし、損傷した心筋が原因である、大部分のよくみられる形態の心不全には、公知の治癒法は存在しない。これらの疾患の症状の治療は助けになり、その疾患の一部の治療は成功している。それらの治療は、患者の生活の質および生存期間を生活様式の変化および薬物療法によって改善することを試みている。
【0076】
患者は、心臓病に対するリスク因子を制御することによって心不全の作用を最小にすることができるが、生活様式の変化を伴ってさえも、大部分の心不全の患者は投薬を受けねばならず、その多くが2つ以上の薬物を投与されている。
【0077】
数種の薬物が心不全の治療に有用であることが証明されている。利尿薬は、体液量を減らすのを助け、体液貯留および高血圧を有する患者に有用である。ジギタリスは心臓の収縮力を増加させて循環の改善を助けるために使用されうる。最近の研究結果は、ACE阻害薬の使用にさらに重点を置いた(Manoria and Manoria, 2003)。数回の大規模研究は、ACE阻害薬が心不全患者の生存を改善し、心臓のポンプ活動の喪失を遅らせ、またおそらく予防さえできることを示した(総説として、De Feo et al., 2003; DiBianco, 2003を参照)。
【0078】
ACE阻害薬を投与できない患者には、それぞれ血管の緊張緩和を助けて血流を改善する硝酸エステルおよび/またはヒドララジンと呼ばれる薬物を与えることができる(Ahmed, 2003)。
【0079】
心不全はほぼ常に致命的である。薬物療法および生活様式の変化がその症状を制御できないとき、心移植が唯一の治療上の選択肢でありうる。しかし、移植志願者は適切なドナー心臓が見つかるまで数か月または数年さえも待たなければならないことが多い。最近の研究は、一部の移植志願者が薬物治療および他の療法によってこの待機期間中に改善し、その志願者を移植リストからはずせることを示した(Conte et al., 1998)。
【0080】
改善しない移植志願者は、心臓に取り付ける機械ポンプを時に必要とする。左心補助装置(LVAD)と呼ばれるこの機械は、心臓の血液送出活動の一部または事実上すべてを引き受ける。しかし、現行のLVADは心不全の永続的な解決ではなく、移植へのつなぎとみなされている。
【0081】
最終的な選択肢として、心筋形成術と呼ばれる重症心不全に対して利用できる実験的外科手技がある(Dumcius et al., 2003)。この手技は、背筋の一端を分離すること、それで心臓を包むこと、および次にその筋肉を心臓に縫合することを伴う。植込んだ電気刺激装置が背筋を収縮させ、心臓から血液を送出する。現在までのところ、これらのどの治療も心不全を治癒することが示されていないが、これらの治療は、この疾患を患う者に関する生活の質を少なくとも改善して寿命を延長できる。
【0082】
心不全と同様に、肥大に公知の治癒法はない。心血管障害の状況での心肥大の現行の医学的管理には、少なくとも2種類の薬物、すなわちレニン-アンギオテンシン系の阻害薬およびβアドレナリン遮断薬の使用がある(Bristow, 1999)。心不全の状況での病的肥大を治療するための治療薬には、アンギオテンシンII変換酵素(ACE)阻害薬およびβアドレナリン受容体遮断薬がある(Eichhorn & Bristow, 1996)。心肥大の治療に開示されている他の医薬には、アンギオテンシンII受容体アンタゴニスト(米国特許第5,604,251号)および神経ペプチドYアンタゴニスト(PCT出願、第WO98/33791号)がある。
【0083】
非薬理学的治療は、薬理学的治療の補助として主に使用される。非薬理学的治療の一手段は、食物中のナトリウムを減らすことを伴う。さらに、非薬理学的治療は負の変力作用薬(例えばある種のカルシウムチャネル遮断薬およびジソピラミドのような抗不整脈薬)、心臓毒(例えばアンフェタミン)および血漿増量剤(例えば非ステロイド系抗炎症薬およびグルココルチコイド)を含めたある種の増悪薬の除去も必要とする。
【0084】
上記の論考から分かるように、心不全および肥大に対して成功する治療アプローチへの大きな必要性が存在する。本発明の一態様では、5-HT2受容体の調節因子を利用した、心肥大、PPH、または心不全の治療のための方法を提供する。本出願の目的ために、治療は、運動耐容能の減少、血液駆出量の減少、左室拡張末期圧の増加、肺毛細管楔入圧の増加、心拍出量の減少、心係数、肺動脈圧の増加、左室収縮末期径および拡張末期径の増加、左室の壁応力、壁張力および壁厚の増加、右室収期圧の上昇、ならびに肺動脈収縮期圧の上昇のような、心不全、PPHまたは心肥大の1つまたは複数の症状を低減することを含む。さらに、5-HT2受容体の調節因子の使用は、心肥大、心不全またはPPHと、それらに関連する症状とが発生するのを予防できる。
【0085】
B. PPHに関する治療
プロスタサイクリン(フローラン(flolan)としても公知である)のようなあるプロスタグランジンエンドペルオキシドの非経口投与による肺高血圧症の治療も公知であり、米国特許第4,883,812号の対象である。プロスタサイクリンは吸入によって投与されており、吸入により肺高血圧症を治療するために使用されている(Siobal et al., 2003)。肺高血圧症を発現する危険性がある対象を予防的に治療して、肺高血圧症の危険性を減らすことができる。肺高血圧症の異常に高い危険性を有する対象は、酸素欠乏状態に対する長期曝露を有する対象、持続性の血管収縮を有する対象、多発性肺塞栓を有する対象、巨心を有する対象および/または肺高血圧症の家族歴を有する対象である。これらの治療は、心不全および肥大に関する治療と同様に十分ではなく、したがって、心損傷に至る転写翻訳カスケードを停止させる、これらの疾患を治療する方法を見出す必要性が存在する。
【0086】
C. アンチセンス構築物
5-HT2受容体を阻害する代替アプローチは、アンチセンス分子の使用である。アンチセンス法は、核酸が「相補性」配列と対を形成する傾向にあるという事実を利用している。相補性によって、ポリヌクレオチドが標準的なワトソン-クリックの相補性の規則に従って塩基対を形成することが可能なポリヌクレオチドであることが意味される。すなわち、大型のプリンは小型のピリミジンと塩基対を形成して、グアニンとシトシンとの対形成(G:C)、および、DNAの場合はアデニンとチミンとの対形成(A:T)、またはRNAの場合はアデニンとウラシルとの対形成(A:U)との組み合わせを形成するであろう。ハイブリダイゼーションする配列にイノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチンなどのようなより一般的でない塩基を含むことによっても対形成は妨害されない。
【0087】
ポリヌクレオチドによる二本鎖(ds)DNAのターゲッティングは、三重ヘリックスの形成に至り、RNAのターゲッティングは二重ヘリックスの形成に至るであろう。アンチセンスポリヌクレオチドを標的細胞に導入すると、そのポリヌクレオチドは標的ポリヌクレオチドに特異的に結合し、転写、RNAプロセシング、輸送、翻訳および/または安定性を妨害する。アンチセンスRNA構築物またはそのようなアンチセンスRNAをコードするDNAを採用して、インビトロまたはインビボのいずれかで、例えばヒト対象を含む宿主動物内において、宿主細胞内の遺伝子の転写もしくは翻訳、またはそれら両方を阻害できる。
【0088】
遺伝子のプロモーターなどの制御領域、エキソン、イントロンまたはエキソン-イントロンの境界にさえも結合するように、アンチセンス構築物を設計できる。大部分の有効なアンチセンス構築物は、イントロン/エキソンのスプライスジャンクション(splice junction)に相補的な領域を含むであろうと企図される。したがって、好ましい態様には、イントロン-エキソンのスプライスジャンクションの50〜200塩基以内の領域と相補性を有するアンチセンス構築を含むことが提案されている。一部のエキソン配列がその構築物の標的選択性に大きく影響せずにその構築物に含まれうることが観察されている。含まれるエキソン物の量は、使用する特定のエキソンおよびイントロン配列に応じて変動するであろう。インビトロで構築物を単に検査して、正常な細胞機能が影響されるかどうか、また相補性配列を有する関連遺伝子の発現が影響されるかどうかを決定することによって、過剰のエキソンDNAが含まれるかどうかを容易に検査できる。
【0089】
上に述べたように、「相補性」または「アンチセンス」は、全長にわたり実質的に相補性であり、ほとんど塩基のミスマッチを有さないポリヌクレオチド配列を意味する。例えば、長さ15塩基の配列が13個または14個の位置で相補性ヌクレオチドを有する場合、その配列を相補性と称することができる。もちろん、完全に相補性である配列は全長にわたり全く相補性であって、塩基のミスマッチを有さない配列であろう。低い程度の相同性を有する他の配列も企図される。例えば、相同性の高い限られた領域を有するが、非相同領域も含むアンチセンス構築物(例えばリボザイム、下記参照)を設計できる。これらの分子は、50%未満の相同性を有するが、適切な条件で標的配列と結合するであろう。
【0090】
ゲノムDNAの部分をcDNAまたは合成配列と組み合わせて、特異的構築物を生成させることは有利でありうる。例えば、最終的な構築物でイントロンが所望される場合、ゲノムクローンを使用する必要があろう。cDNAまたは合成ポリヌクレオチドは、構築物の残りの部分に関してより便利な制限部位を提供でき、よって残りの配列に使用されるであろう。
【0091】
D. リボザイム
別の一般的なクラスの阻害因子は、リボザイムである。タンパク質がもともと核酸の触媒反応のために使用されてきたが、別のクラスの高分子がこの試みに有用であるとして浮上している。リボザイムは、部位特異的に核酸を開裂させるRNA-タンパク質複合体である。リボザイムは、エンドヌクレアーゼ活性を保持する特異的触媒ドメインを有する(Kim and Cook, 1987; Gerlach et al., 1987; Forster and Symons, 1987)。例えば、多数のリボザイムが、オリゴヌクレオチド基質の数個のホスホエステルのうち1つのみをしばしば開裂させて、高度の特異性でホスホエステル転移反応を促進する(Cook et al., 1981; Michel and Westhof, 1990; Reinhold-Hurek and Shub, 1992)。この特異性は、化学反応の前に基質がリボザイムの内部ガイド配列(「IGS」)との特異的塩基対形成相互作用を介して結合する必要があるためであるとされている。
【0092】
リボザイムによる触媒は、核酸を伴う配列特異的開裂/連結反応の一部として主に観察されてきた(Joyce, 1989; Cook et al., 1981)。例えば米国特許第5,354,855号は、あるリボザイムが公知のリボヌクレアーゼよりも大きく、DNA制限酵素に近い配列特異性でエンドヌクレアーゼとして作用できることを報告している。このように、リボザイムが介在する遺伝子発現の配列特異的な阻害は、治療応用に特に適している場合がある(Scanlon et al., 1991; Sarver et al., 1990)。リボザイムが適用された一部の細胞系に、リボザイムが遺伝子変化を誘発できることも示された。改変された遺伝子には、癌遺伝子、H-ras、c-fosおよびHIVの遺伝子がある。この研究の大部分は、特異的リボザイムによって開裂された特異的突然変異コドンに基づく標的mRNAの修飾を伴う。
【0093】
E. RNAi
RNA干渉(「RNA介在性干渉」またはRNAiとも称される)は、5-HT2受容体の発現を減少または排除できる別のメカニズムである。二本鎖RNA(dsRNA)が多段階過程であるその減少を媒介することが観察された。dsRNAは、細胞をウイルス感染およびトランスポゾン活性から防御するように機能すると考えられる転写後遺伝子発現サーベイランスメカニズムを活性化する(Fire et al, 1998; Grishok et al., 2000; Ketting et al., 1999; Lin et al., 1999; Montgomery et al., 1998; Sharp et al., 2000; Tabara et al., 1999)。これらのメカニズムの活性化は、成熟したdsRNA相補的mRNAを破壊するために標的にする。RNAiは遺伝子機能の研究において実験上の大きな利点を供する。これらの利点には、非常に高い特異性、細胞膜を通過した移動の容易さ、および標的遺伝子の長時間の下方制御がある(Fire et al., 1998; Grishok et al., 2000; Ketting et al., 1999; Lin et al., 1999; Montgomery et al., 1998; Sharp, 1999; Sharp et al., 2000; Tabara et al., 1999)。さらに、dsRNAは、植物、原生動物、真菌、C.エレガンス(C. elegans)、トリパノソーマ(Trypanasoma)、キイロショウジョウバエ(Drosophila)および哺乳動物を含めた広範囲の系で遺伝子をサイレンシングすることが示された(Grishok et al., 2000; Sharp, 1999; Sharp et al., 2000; Elbashir et al., 2001)。RNAiは、RNA転写物を分解するために標的として転写後に作用すると一般に受け入れられている。核RNAおよび細胞質RNAの両方を標的にできると考えられる(Bosher et al., 2000)。
【0094】
siRNAは、対象となる遺伝子の発現の抑制に特異的かつ有効であるように設計しなければならない。標的配列、すなわちsiRNAが分解装置を案内するための対象となる遺伝子(群)に存在する配列を選択する方法は、siRNAの案内機能を妨害しうる配列を避ける一方で、その遺伝子(群)に特異的な配列を含むことに向けられる。概して、長さ約21から23個のヌクレオチドのsiRNA標的配列が最も有効である。この長さは、上記のようにかなり長いRNAのプロセシングに起因する消化産物の長さを反映する(Montgomery et al., 1998)。
【0095】
siRNAの製造は、主に直接化学合成、キイロショウジョウバエ胚溶解物の曝露による長鎖二本鎖RNAのプロセシング、またはS2細胞から得られたインビトロ系によるものであった。細胞溶解物またはインビトロプロセシングの使用は、溶解物からの短鎖のヌクレオチド21〜23個のsiRNAのさらに続く単離などを伴い、この過程をいくぶん面倒で高価にしている。化学合成は、2つの一本鎖RNAオリゴマーの製造の後に、その2つの一本鎖オリゴマーから二本鎖RNAへのアニーリングによって進行する。化学合成の方法は多様である。非限定的な例は、米国特許第5,889,136号、第4,415,732号および第4,458,066号に提供されており、かつWincottら(1995)の文献が参照として本明細書に明示的に組み入れられている。
【0096】
siRNA配列の安定性を改変し、またはその有効性を改善するために、siRNA配列のいくつかのさらなる修飾が示唆されている。ジヌクレオチドの突出を有する合成相補性21塩基長RNA(すなわち19個の相補性ヌクレオチド+3'非相補性ダイマー)は最大レベルの抑制を提供しうると示唆されている。これらのプロトコルは、ジヌクレオチドの突出として2つの(2'-デオキシ)チミジンヌクレオチドの配列を主に使用している。これらのジヌクレオチドの突出は、RNAに組み入れられる典型的なヌクレオチドと区別するためにdTdTと書かれることが多い。文献は、dT突出を使用する最初の動機が、化学合成されたRNAのコストを削減する必要性であると示している。dTdT突出はUU突出よりも安定でありうることも示唆されているが、しかし入手可能なデータは、UU突出を有するsiRNAと比較してdTdT突出がわずかな(<20%)改善しか示していない。
【0097】
化学合成されたsiRNAは、濃度25〜100nMで細胞培養物中に存在する場合に最適に働くことが分かっている。これは、約100nMの濃度が哺乳動物細胞での発現の効果的な抑制を実現したElbashirら(2001)によって実証された。siRNAは、約100nMで哺乳動物細胞培養において最も有効であった。しかし、いくつかの場合で、より低濃度の化学合成siRNAが使用されている(Caplen et al., 2000; Elbashir et al., 2001)。
【0098】
国際公開公報第99/32619号および国際公開公報第01/68836号は、siRNAに使用するためのRNAが化学または酵素的に合成されうることを示唆している。これらの文献の両方は、参照としてその全体が本明細書に組み入れられている。これらの参照中で考察されている酵素合成は、当技術分野で公知であるような発現構築物の使用および産生を介した細胞RNAポリメラーゼまたはバクテリオファージRNAポリメラーゼ(例えばT3、T7、SP6)による。例えば米国特許第5,795,715号を参照されたい。考察されている構築物は、標的遺伝子の部分と等しいヌクレオチド配列を含むRNAを産生するテンプレートを提供する。これらの参照によって提供される等しい配列の長さは、少なくとも25塩基であり、長さ400塩基以上でありうる。この参照の重要な局面は、その著者らが長鎖dsRNAをインビボでsiRNAに変換する内因性ヌクレアーゼ複合体を用いて、長鎖dsRNAを長さ21〜25塩基長に消化することを企図することである。彼らは、インビトロで転写された21〜25塩基長dsRNAを合成および使用するためのデータの記載も提示もしていない。RNA干渉におけるdsRNAの使用において、化学合成されたdsRNAと酵素合成されたdsRNAとの間で予想される性質の区別はされていない。
【0099】
同様に、参照として本明細書に組み入れられている国際公開公報第00/44914号は、RNAの一本鎖を酵素的にまたは有機部分/全合成により産生できることを示唆している。好ましくは、一本鎖RNAはDNAテンプレート、好ましくはクローニングされたcDNAテンプレートのPCR産物から酵素的に合成され、RNA産物は、数百のヌクレオチドを含みうるcDNAの完全な転写物である。参照として本明細書に組み入れられる国際公開公報第01/36646号は、siRNAが合成された様式に限定を置かず、RNAがインビトロまたはインビボで、手動および/または自動の手順を使用して合成されうることを提供している。この参照は、インビトロ合成が、例えば内因性DNA(またはcDNA)テンプレートの転写のためにクローニングされたRNAポリメラーゼ(例えばT3、T7、SP6)を使用した化学的もしくは酵素的、または両者の混合でありうることも提供している。また、RNA干渉に使用するための望ましい性質における、化学的または酵素的に合成されたsiRNAの間の区別はなされていない。
【0100】
米国特許第5,795,715号は、単一の反応混合物中で2つの相補性DNA配列ストランドの同時転写を報告しており、ここで、その2つの転写物は直ちにハイブリダイズする。使用するテンプレートは、好ましくは40から100塩基対の間であり、各末端にプロモーター配列を備えている。そのテンプレートは、好ましくは固体表面に付着している。RNAポリメラーゼで転写後に、結果として生じたdsRNAフラグメントを、核酸標的配列の検出および/またはアッセイのために使用できる。
【0101】
治療方式は、臨床的症状に応じて変動するであろう。しかし、長期の維持が大部分の状況で適切と考えられよう。疾患が進行する間の短い時間枠内のように、5-HT2受容体の調節因子を断続的に用いて肥大を治療することも理想的でありうる。
【0102】
F. 抗体
本発明のある局面では、抗体は5-HT2受容体の阻害薬、遮断薬、調節因子または作動薬としてさえ使用を見出しうる。本明細書で使用する用語「抗体」は、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEのような任意の適切な免疫結合作用物質を広く指すことを意図する。生理学的状況で最も通常の抗体であり、実験室の環境で最も容易に作製されることから、一般にIgGおよび/またはIgMが好ましい。
【0103】
用語「抗体」は、抗原結合部を有する任意の抗体様分子も指し、Fab'、Fab、F(ab')2、単一ドメイン抗体(DAB)、Fv、scFv(一本鎖Fv)などのような抗体フラグメントを含む。様々な抗体に基づく構築物およびフラグメントを調製および使用するための技法は当技術分野で周知である。
【0104】
モノクローナル抗体(MAb)は、ある利点、例えば再現性および大規模生産性を有すると認識されており、それらの使用が一般に好ましい。このように本発明はヒト、マウス、サル、ラット、ハムスター、ウサギおよびニワトリ起源でさえあるモノクローナル抗体を提供する。試薬の調製が容易であること、および入手しやすいことが要因で、マウスモノクローナル抗体が好ましいことが多いであろう。
【0105】
一本鎖抗体は、それぞれ参照として本明細書により組み入れられる米国特許第4,946,778号および第5,888,773号に記載されている。
【0106】
ヒト定常部および/または可変部ドメインを保有するマウス、ラットまたは他の種由来のキメラ抗体、二重特異性抗体、組換え抗体および操作された抗体、ならびにそれらのフラグメントのような「ヒト化」抗体も企図される。患者の歯科疾患に対する「特注の」抗体の開発のための方法は同じく公知であり、そのような特注の抗体も企図される。
【0107】
G. 併用療法
別の態様では、他の治療様式と組み合わせた5-HT2受容体の調節因子の使用が予想されている。このように、上記の療法に追加して、より「標準的な」心臓薬物療法を患者に提供することもできる。他の療法の例には、いわゆる「ベータ遮断薬」、降圧薬、強心薬、抗血栓薬、血管拡張薬、ホルモンアンタゴニスト、変力作用薬、利尿薬、エンドセリンアンタゴニスト、カルシウムチャンネル遮断薬、ホスホジエステラーゼ阻害薬、ACE阻害薬、アンギオテンシン2型アンタゴニストおよびサイトカイン遮断薬/阻害薬、HDAC阻害薬またはTRPチャネル阻害薬があるが、それらに限定されるわけではない。
【0108】
心臓細胞と、両方の薬剤を含む単一組成物もしくは薬学的製剤とを接触させることによって、またはその細胞と、一方の組成物が発現構築物を含み、他方が薬剤を含む、2つの別個の組成物もしくは製剤とを同時に接触させることによって、組み合わせを実現できる。または、5-HT2受容体の調節因子を使用した療法は、数分から数週間の範囲の間隔でもう一方の薬剤の投与の前または後になりうる。他方の薬剤および発現構築物が別々に細胞に適用される態様では、各送達時点の間で重大な期限切れとなっていないため、その薬剤および発現構築物が細胞に依然として有利な組み合わせ効果を発揮できるであろうと一般に保証されるであろう。そのような場合、細胞を両方の様式と相互に約12〜24時間以内、さらに好ましくは相互に約6〜12時間以内で概して接触させることが企図され、約12時間のみの時間差が最も好ましい。しかし、いくつかの情況では、それぞれの投与の間に数日(2、3、4、5、6または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)が経過するように治療期間をかなり延長することが理想的でありうる。
【0109】
5-HT2受容体の調節因子または他の薬剤のいずれかの、1回より多い投与が望まれことも考えられる。この点で、様々な組み合わせを採用できる。例として、5-HT2受容体の調節因子が「A」であり、もう一方の薬剤が「B」である場合に、合計投与数3および4回に基づき以下の順列が例示的である:

他の組み合わせも同様に企図される。
【0110】
H. 補助治療薬
薬理学的治療薬および投与、投薬などの方法は、当業者に周知であり(例えば関連部分における参照として本明細書に組み入れられている"Physicians Desk Reference", Goodman & Gilman's "The Pharmacological Basis of Therapeutics", "Remington's Pharmaceutical Sciences" および "The Merck Index, Thirteenth Edition" を参照されたい)、本明細書における開示に照らして本発明と組み合わされうる。投薬におけるいくらかの変形は、治療される対象の状態に応じて必然的に生じるであろう。投与の責任者は、任意の事象で個別の対象に適切な用量を決定し、そのような個別の決定は当業者の技術の範囲内である。
【0111】
本発明に使用されうる薬理学的治療薬の非限定的な例には、抗高リポタンパク質血症薬、抗動脈硬化薬、抗血栓/線維素溶解薬、血液凝固薬、抗不整脈薬、抗高血圧薬、昇圧薬、うっ血性心不全のための治療薬、抗アンギナ薬、抗細菌薬またはそれらの組み合わせがある。
【0112】
さらに、本実施例(下記参照)にβ遮断薬が使用されたことから、以下のいずれかを使用して心臓療法の標的遺伝子の新しい組が開発されうることに留意すべきである。これらの遺伝子の多くが重複しうることが予想されるが、新しい遺伝子標的を開発できる見込みがある。
【0113】
1. 抗高リポタンパク質血症薬
ある態様では、本明細書において「抗高リポタンパク質血症薬」として公知である、1つまたは複数の血液脂質および/またはリポタンパク質の濃度を低下させる薬剤の投与を、特にアテローム性動脈硬化症と血管組織の肥厚または遮断との治療での、本発明による心血管療法と組み合わせることができる。ある局面では、抗高リポタンパク質血症薬はアリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体、樹脂酸/胆汁酸封鎖剤、HMG CoAレダクターゼ阻害薬、ニコチン酸誘導体、甲状腺ホルモンもしくは甲状腺ホルモンアナログ、その他の薬剤またはそれらの組み合わせを含みうる。
【0114】
a. アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体
アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体の非限定的な例には、ベクロブラート、エンザフィブラート(enzafibrate)、ビニフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート(atromide-S)、クロフィブル酸、エトフィブラート、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル(lobid)、ニコフィブラート、ピリフィブラート、ロニフィブラート、シンフィブラートおよびテオフィブラート(theofibrate)がある。
【0115】
b. 樹脂酸/胆汁酸封鎖剤
樹脂酸/胆汁酸封鎖剤の非限定的な例には、コレスチラミン(cholybar、questran)、コレスチポール(colestid)およびポリデキシドがある。
【0116】
c. HMG CoAレダクターゼ阻害薬
HMG CoAレダクターゼ阻害薬の非限定的な例には、ロバスタチン(mevacor)、プラバスタチン(pravochol)またはシンバスタチン(zocor)がある。
【0117】
d. ニコチン酸誘導体
ニコチン酸誘導体の非限定的な例には、ニコチナート、アセピモクス(acepimox)、ニセリトロール、ニコクロナート、ニコモールおよびオキシニアク酸がある。
【0118】
e. 甲状腺ホルモンおよびアナログ
甲状腺ホルモンおよびそのアナログの非限定的な例には、エトロキサートチロプロプ酸およびチロキシンがある。
【0119】
f. その他の抗高リポタンパク質血症薬
その他の抗高リポタンパク質血症薬の非限定的な例には、アシフラン、アザコステロール、ベンフルオレクス、b-ベンザルブチルアミド、カルニチン、コンドロイチン硫酸、クロメストロン、デタキストラン、デキストラン硫酸ナトリウム、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸、エリタデニン、フラザボール、メグルトール、メリナミド、ミタトリエンジオール、オルニチン、g-オリザノール、パンテチン、ペンタエリスリトールテトラアセテート、a-フェニルブチルアミド、ピロザジル、プロブコール(lorelco)、b-シトステロール、スルトシル酸ピペラジン塩、チアデノール、トリパラノールおよびキセンブシンがある。
【0120】
2. 抗動脈硬化薬
抗動脈硬化薬の非限定的な例には、ピリジノールカルバメートがある。
【0121】
3. 抗血栓/線維素溶解薬
ある態様では、凝血の除去または予防を助ける薬剤の投与を、特にアテローム性動脈硬化症および脈管系(例えば動脈)の閉塞の治療において調節因子の投与と組み合わせることができる。抗血栓および/または線維素溶解薬の非限定的な例には、抗凝固薬、抗凝固薬アンタゴニスト、抗血小板薬、血栓溶解薬、血栓溶解薬アンタゴニストまたはそれらの組み合わせがある。
【0122】
ある局面では、経口投与できる例えばアスピリンおよびワルファリン(クマジン)のような抗血栓薬が好ましい。
【0123】
a. 抗凝固薬
抗凝固薬の非限定的な例には、アセノクマロール、アンクロド、アニシンジオン、ブロムインジオン、クロリンジオン、クメタロール、シクロクマロール、デキストラン硫酸ナトリウム、ジクマロール、ジフェナジオン、ビスクマ酢酸エチル、エチリデンジクマロール、フルインジオン、ヘパリン、ヒルジン、リアポレートナトリウム、オキサジジオン、ペントサンポリ硫酸、フェニンジオン、フェンプロクモン、ホスビチン、ピコタミド、チオクロマロールおよびワルファリンがある。
【0124】
b. 抗血小板薬
抗血小板薬の非限定的な例には、アスピリン、デキストラン、ジピリダモール(persantin)、ヘパリン、スルフィンピラノン(anturane)およびチクロピジン(ticlid)がある。
【0125】
c. 血栓溶解薬
血栓溶解薬の非限定的な例には、組織型プラスミノーゲン活性化因子(activase)、プラスミン、プロウロキナーゼ、ウロキナーゼ(abbokinase)、ストレプトキナーゼ(streptase)、アニストレプラーゼ/APSAC(eminase)がある。
【0126】
4. 血液凝固薬
患者が出血または出血の見込みの増加を被っているある態様では、血液凝固を増大できる薬剤が使用されうる。血液凝固促進薬の非限定的な例には、血栓溶解薬アンタゴニストおよび抗凝固薬アンタゴニストがある。
【0127】
a. 抗凝固薬アンタゴニスト
抗凝固薬アンタゴニストの非限定的な例には、プロタミンおよびビタミンK1がある。
【0128】
b. 血栓溶解薬アンタゴニストおよび抗血栓薬
血栓溶解薬アンタゴニストの非限定的な例には、アミノカプロン酸(amicar)およびトラネキサム酸(amstat)がある。抗血栓薬の非限定的な例には、アナグレリド、アルガトロバン、シルスタゾール、ダルトロバン、デフィブロチド、エノキサパリン、フラキシパリン、インドブフェン、ラモパラン(lamoparan)、オザグレル、ピコタミド、プラフィブリド、テデルパリン、チクロピジンおよびトリフルサールがある。
【0129】
5. 抗不整脈薬
抗不整脈薬の非限定的な例には、クラスI抗不整脈薬(ナトリウムチャネル遮断薬)、クラスII抗不整脈薬(ベータアドレナリン遮断薬)、クラスII抗不整脈薬(再分極遅延薬)、クラスIV抗不整脈薬(カルシウムチャネル遮断薬)およびその他の抗不整脈薬がある。
【0130】
a. ナトリウムチャネル遮断薬
ナトリウムチャネル遮断薬の非限定的な例には、クラスIA、クラスIBおよびクラスIC抗不整脈薬がある。クラスIA抗不整脈薬の非限定的な例には、ジソピラミド(norpace)、プロカインアミド(pronestyl)およびキニジン(quinidex)がある。クラスIB抗不整脈薬の非限定的な例には、リドカイン(xylocaine)、トカイニド(tonocard)およびメキシレチン(mexitil)がある。クラスIC抗不整脈薬の非限定的な例には、エンカイニド(enkaid)およびフレカイニド(tambocor)がある。
【0131】
b. ベータ遮断薬
ベータ遮断薬、さもなければb-アドレナリン遮断薬、b-アドレナリンアンタゴニストまたはクラスII抗不整脈薬として公知である非限定的な例には、アセブトロール(sectral)、アルプレノロール、アモスラロール、アロチノロール、アテノロール、ベフノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、ブクモロール、ブフェトロール、ブフラロール、ブニトロロール、ブプラノロール、ブチドリン(butidrine)塩酸塩、ブトフィロロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、セタモロール、クロラノロール、ジレバロール、エパノロール、エスモロール(brevibloc)、インデノロール、ラベタロール、レボブノロール、メピンドロール、メチプラノロール、メトプロロール、モプロロール、ナドロール、ナドキソロール、ニフェナロール、ニプラジロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プラクトロール、プロネタロール、プロプラノロール(inderal)、ソタロール(betapace)、スルフィナロール、タリノロール、テルタトロール、チモロール、トリプロロールおよびキシビノロール(xibinolol)がある。ある局面では、ベータ遮断薬は、アリールオキシプロパノールアミン誘導体を含む。アリールオキシプロパノールアミン誘導体の非限定的な例には、アセブトロール、アルプレノロール、アロチノロール、アテノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、ブニトロロール、ブトフィロロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、セタモロール、エパノロール、インデノロール、メピンドロール、メチプラノロール、メトプロロール、モプロロール、ナドロール、ニプラジロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール、タリノロール、テルタトロール、チモロールおよびトリプロロールがある。
【0132】
c. 再分極遅延薬
クラスIII抗不整脈薬としても公知である、再分極を遅延させる薬剤の非限定的な例には、アミオダロン(cordarone)およびソタロール(betapace)がある。
【0133】
d. カルシウムチャネル遮断薬/アンタゴニスト
カルシウムチャネル遮断薬、さもなければクラスIV抗不整脈薬として公知である非限定的な例には、アリールアルキルアミン(例えば、ベプリジム、ジルチアゼム、フェンジリン、ガロパミル、プレニルアミン、テロジリン、ベラパミル)、ジヒドロピリジン誘導体(フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン)ピペラジン誘導体(例えばシンナリジン、フルナリジン、リドフラジン)またはベンシクラン、エタフェノン、マグネシウム、ミベフラジルもしくはペルヘキシリンのようなその他のカルシウムチャネル遮断薬がある。ある態様では、カルシウムチャネル遮断薬は長時間作用型ジヒドロピリジン(amlodipine)カルシウムアンタゴニストを含む。
【0134】
e. その他の抗不整脈薬
その他の抗不整脈薬の非限定的な例には、アデノシン(adenocard)、ジゴキシン(lanoxin)、アセカイニド、アジュマリン、アモプロキサン、アプリンジン、ブレチリウムトシラート、ブナフチン、ブトベンジン、カポベン酸、シフェンリン、ジソピラニド(disopyranide)、ヒドロキニジン、インデカイニド、イパトロピウムブロマイド(ipatropium bromide)、リドカイン、ロラジュミン(lorajmine)、ロルカイニド、メオベンチン、モリシジン、ピルメノール、プラジマリン、プロパフェノン、ピリノリン、ポリガラクツロン酸キニジン、硫酸キニジンおよびビキジル(viquidil)がある。
【0135】
6. 抗高血圧薬
抗高血圧薬の非限定的な例には、交感神経抑制薬、アルファ/ベータ遮断薬、アルファ遮断薬、抗アンギオテンシンII薬、ベータ遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、血管拡張薬およびその他の抗高血圧薬がある。
【0136】
a. アルファ遮断薬
aアドレナリン遮断薬またはaアドレナリンアンタゴニストとしても公知であるアルファ遮断薬の非限定的な例には、アモスラロール、アロチノロール、ダピプラゾール、ドキサゾシン、エルゴロイドメシラート、フェンスピリド、インドラミン、ラベタロール、ニセルゴリン、プラゾシン、テラゾシン、トラゾリン、トリマゾシンおよびヨヒンビンがある。ある態様では、アルファ遮断薬はキナゾリン誘導体を含みうる。キナゾリン誘導体の非限定的な例には、アルフゾシン、ブナゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、テラゾシンおよびトリマゾシンがある。
【0137】
b. アルファ/ベータ遮断薬
ある態様では、抗高血圧薬はアルファおよびベータアドレナリンアンタゴニストの両方である。アルファ/ベータ遮断薬の非限定的な例は、ラベタロール(normodyne、trandate)を含む。
【0138】
c. 抗アンギオテンシンII薬
抗アンギオテンシンII薬の非限定的な例には、アンギオテンシン変換酵素阻害薬およびアンギオテンシンII受容体アンタゴニストがある。アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の非限定的な例には、アラセプリル、エナラプリル(vasotec)、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリラート、ホシノプリル、リジノプリル、モベルトプリル、ペリンドプリル、キナプリルおよびラミプリルがある。アンギオテンシンII受容体アンタゴニスト、ANG受容体遮断薬またはANG-II 1型受容体遮断薬(ARBS)としても公知であるアンギオテンシンII受容体遮断薬の非限定的な例には、アンギオカンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタンおよびバルサルタンがある。
【0139】
d. 交感神経抑制薬
交感神経抑制薬の非限定的な例には、中枢性交感神経抑制薬または末梢性交感神経抑制薬がある。中枢神経系(CNS)交感神経抑制薬としても公知である中枢性交感神経抑制薬の非限定的な例には、クロニジン(catapres)、グアナベンズ(wytensin)、グアンファシン(tenex)およびメチルドーパ(aldomet)がある。末梢性交感神経抑制薬の非限定的な例には、神経節遮断薬、アドレナリン作動性ニューロン遮断薬、βアドレナリン遮断薬またはα1アドレナリン遮断薬がある。神経節遮断薬の非限定的な例には、メカミルアミン(inversine)およびトリメタファン(arfonad)がある。アドレナリン作動性ニューロン遮断薬の非限定的な例には、グアネチジン(ismelin)およびレセルピン(serpasil)がある。βアドレナリン遮断薬の非限定的な例には、アセニトロール(sectral)、アテノロール(tenormin)、ベタキソロール(kerlone)、カルテオロール(cartrol)、ラベタロール(normodyne、trandate)、メトプロロール(lopressor)、ナダノール(corgard)、ペンブトロール(levatol)、ピンドロール(visken)、プロプラノロール(inderal)およびチモロール(blocadren)がある。α1アドレナリン遮断薬の非限定的な例には、プラゾシン(minipress)、ドキサゾシン(cardura)およびテラゾシン(hytrin)がある。
【0140】
e. 血管拡張薬
ある態様では、心血管治療薬は血管拡張薬(例えば脳血管拡張薬、冠血管拡張薬または末梢血管拡張薬)を含みうる。ある好ましい態様では、血管拡張薬は冠血管拡張薬を含む。冠血管拡張薬の非限定的な例には、アモトリフェン、ベンダゾール、ベンフロジルヘミスクシナート、ベンズヨーダロン、クロラシジン、クロモナール、クロベンフロール、クロニトラート、ジラゼプ、ジピリダモール、ドロプレニラミン、エフロキサート、四硝酸エリスリチル、エタフェノン、フェンジリン、フロレジル、ガングレフェン、ヘレストロール、ビス(b-ジエチルアミノエチルエーテル)、ヘキソベンジン、イトラミントシレート、ケリン、リドフラニン、六硝酸マンニトール、メジバジン、ニコルグリセリン、四硝酸ペンタエリトリトール、ペントリニトロール、ペルヘキシリン、ピメフィリン、トラピジル、トリクロミル、トリメタジジン、リン酸トロルニトレートおよびビスナジンがある。
【0141】
ある局面では、血管拡張薬は長期療法血管拡張薬または高血圧緊急症血管拡張薬を含みうる。長期療法血管拡張薬の非限定的な例には、ヒドララジン(apresoline)およびミノキシジル(loniten)がある。高血圧緊急症血管拡張薬の非限定的な例には、ニトロプルシド(nipride)、ジアゾキシド(hyperstat IV)、ヒドララジン(apresoline)、ミノキシジル(loniten)およびベラパミルがある。
【0142】
f. その他の抗高血圧薬
その他の抗高血圧薬の非限定的な例には、アジマリン、g-アミノ酪酸、ブフェニオド、シクレタイニン、シクロシドミン、タンニン酸クリプテナミン、フェノルドパム、フロセキナン、ケタンセリン、メブタメート、メカミルアミン、メチルドーパ、メチル4-ピリジルケトンチオセミカルバゾン、ムゾリミン、パルギリン、ペンピジン、ピナシジル、ピペロキサン、プリマペロン、プロトベラトリン、ラウバシン、レシメトール、リルメニデン、サララシン、ニトロプルシドナトリウム、チクリナフェン、カンシル酸トリメタファン、チロシナーゼおよびウラピジルがある。
【0143】
ある局面では、抗高血圧薬はアリールエタノールアミン誘導体、ベンゾチアジアジン誘導体、N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体、ジヒドロピリジン誘導体、グアニジン誘導体、ヒドラジン/フタラジン、イミダゾール誘導体、第4級アンモニウム化合物、レセルピン誘導体またはスフロンアミド誘導体を含みうる。
【0144】
アリールエタノールアミン誘導体
アリールエタノールアミン誘導体の非限定的な例には、アモスラロール、ブフラロール、ジレバロール、ラベタロール、プロネタロール、ソタロールおよびスルフィナロールがある。
【0145】
ベンゾチアジアジン誘導体
ベンゾチアジアジン誘導体の非限定的な例には、アルチジド、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、ブチアジド、クロロチアジド、クロルサリドン、シクロペンチアジド、シクロチアジド、ジアゾキシド、エピチアジド、エチアジド、フェンキゾン、ヒドロクロロチジド、ヒドロフルメチジド、メチクロチアジド、メチクラン、メトラゾン、パラフルチジド、ポリチジド、テトラクロルメチアジドおよびトリクロルメチアジドがある。
【0146】
N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体
N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体の非限定的な例には、アラセプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラート、ホシノプリル、リジノプリル、モベルチプリル、ペリンドプリル、キナプリルおよびラミプリルがある。
【0147】
ジヒドロピリジン誘導体
ジヒドロピリジン誘導体の非限定的な例には、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニソルジピンおよびニトレンジピンがある。
【0148】
グアニジン誘導体
グアニジン誘導体の非限定的な例には、ベタニジン、デブリソキン、グアナベンズ、グアナクリン、グアナドレル、グアナゾジン、グアネチジン、グアンファシン、グアノクロル、グアノキサベンズおよびグアノキサンがある。
【0149】
ヒドラジン/フタラジン
ヒドラジン/フタラジンの非限定的な例には、ブドララジン、カドララジン、ジヒドララジン、エンドララジン、ヒドラカルバジン、ヒドララジン、フェニプラジン、ピルドララジンおよびトドララジンがある。
【0150】
イミダゾール誘導体
イミダゾール誘導体の非限定的な例には、クロニジン、ロフェキシジン、フェントラミン、チアメニジンおよびトロニジンがある。
【0151】
第4級アンモニウム化合物
第4級アンモニウム化合物の非限定的な例には、臭化アザメトニウム、塩化クロリソンダミン(chlorisondamine chloride)、ヘキサメトニウム、ペンタシニウムビス(メチルスルファート)、臭化ペンタメトニウム、酒石酸ペントリニウム、塩化フェナクトロピニウムおよびトリメチジニウムメトスルファート がある。
【0152】
レセルピン誘導体
レセルピン誘導体の非限定的な例には、ビエタセルピン、デセルピジン、レシンナミン、レセルピンおよびシロシンゴピンがある。
【0153】
スルホンアミド誘導体
スルホンアミド誘導体の非限定的な例には、アンブシド、クロパミド、フロセミド、インダパミド、キネサゾン、トリパミドおよびキシパミドがある。
【0154】
7. 昇圧薬
昇圧薬は、ショックの場合に血圧を増加させるために一般に使用され、ショックは外科的手技の際に生じうる。抗低血圧薬としても公知である昇圧薬の非限定的な例には、アメジニウムメチルサルファート、アンギオテンシンアミド、ジメトフリン、ドーパミン、エチフェルミン、エチレフリン、ゲペフリン、メタラミノール、ミドドリン、ノルエピネフリン、フォレドリンおよびシネフリンがある。
【0155】
8. うっ血性心不全のための治療薬
うっ血性心不全の治療のための薬剤の非限定的な例には、抗アンギオテンシンII薬、後負荷-前負荷の低減治療、利尿薬および強心薬がある。
【0156】
a. 後負荷-前負荷の軽減
ある態様では、アンギオテンシンアンタゴニストに耐えることのできない罹患動物を併用療法で治療できる。そのような治療法は、ヒドララジン(apresoline)と二硝酸イソソルビド(isordil、sorbitrate)との投与を組み合わせることができる。
【0157】
b. 利尿薬
利尿薬の非限定的な例には、チアジドまたはベンゾチアジアジン誘導体(例えばアルチアジド、ベンドロフロメタジド、ベンズチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、ブチアジド、クロロチアジド、クロロチアジド、クロルタリドン、シクロペンチアジド、エピチアジド、エチアジド、エチアジド、フェンキゾン、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、メチクラン、メトラゾン、パラフルチジド、ポリチジド、テトラクロロメチアジド、トリクロルメチアジド)、有機水銀化合物(例えばクロルメロドリン、メラルリド、メルカンファミド、メルカプトメリンナトリウム、メルクマリル酸、メルクマチリンナトリウム、塩化第一水銀、マーサリル)、プテリジン(例えばフルテレン、トリアムテレン)、プリン(例えばアセフィリン、7-モルホリノメチルテオフィリン、パモブロム、プロテオブロミン、テオブロミン)、アルドステロンアンタゴニストを含めたステロイド(例えばカンレノン、オレアンドリン、スピロノラクトン)、スルホンアミド誘導体(例えばアセタゾラミド、アンブシド、アゾセミド、ブメタニド、ブタゾラミド、クロラミノフェナミド、クロフェナミド、クロパミド、クロレキソロン、ジフェニルメタン-4,4'-ジスルホンアミド、ジスルファミド、エトキシゾラミド、フロセミド、インダパミド、メフルシド、メタゾラミド、ピレタニド、キネタゾン、トラセミド、トリパミド、キシパミド)、ウラシル(例えばアミノメトラジン、アミソメトラジン)、カリウム保持性アンタゴニスト(例えばアミロリド、トリアムテレン)またはアミノジン、アルブチン、クロラザニル、エタクリン酸、エトゾリン、ヒドラカルバジン、イソソルビド、マンニトール、メトカルコン、ムゾリミン、ペルヘキシリン、チクルナフェンおよび尿素のようなその他の利尿薬がある。
【0158】
c. 変力作用薬
強心薬としても公知である正の変力作用薬の非限定的な例には、アセフィリン、アセチルジギトキシン、2-アミノ-4-ピコリン、アムリノン、ベンフロジルヘミスクシナート、ブクラデシン、セルベロシン、カンホタミド、コンバラトキシン、シマリン、デノパミン、デスラノシド、ジギタリン、ジギタリス、ジギトキシン、ジゴキシン、ドブタミン、ドーパミン、ドペキサミン、エノキシモン、エリトロフレイン、フェナルコミン、ギタリン、ギトキシン、グリコシアミン、ヘプタミノール、ヒドラスチニン、イボパミン、ラナトシド、メタミバム、ミルリノン、ネリフォリン、オレアンドリン、ウアバイン、オキシフェドリン、プレナルテロール、プロスシラリジン、レシブホゲニン、シラレン、シラレニン、ストルファンチン、スルマゾール、テオブロミンおよびキサモテロールがある。
【0159】
特定の局面では、変力作用薬は強心配糖体、ベータアドレナリン作動薬またはホスホジエステラーゼ阻害薬である。強心配糖体の非限定的な例には、ジゴキシン(lanoxin)およびジギトキシン(crystodigin)がある。βアドレナリン作用薬の非限定的な例には、アルブテロール、バンブテロール、ビトルテロール、カルブテロール、クレンブテロール、クロルプレナリン、デノパミン、ジオキセテドリン、ドブタミン(dobutrex)、ドーパミン(intropin)、ドペキサミン、エフェドリン、エタフェドリン、エチルノルエピネフリン、フェノテロール、フォルモテロール、ヘキソプレナリン、イボパミン、イソエタリン、イソプロテレノール、マブテロール、メタプロテレノール、メトキシフェナミン、オキシフェドリン、ピルブテロール、プロカテロール、プロトキロール、レプロテロール、リミテロール、リトドリン、ソテレノール、テルブタリン、トレトキノール、ツロブテロールおよびキサモテロールがある。ホスホジエステラーゼ阻害薬の非限定的な例にはアムリノン(inocor)がある。
【0160】
d. 抗アンギナ薬
抗アンギナ薬は、有機硝酸塩、カルシウムチャネル遮断薬、ベータ遮断薬およびそれらの組み合わせを含みうる。ニトロ血管拡張薬としても公知である有機硝酸塩の非限定的な例には、ニトログリセリン(nitro-bid、nitrostat)、二硝酸イソソルビド(isordil、sorbitrate)および硝酸アミル(aspirol、vaporole)がある。
【0161】
I. 外科治療薬
ある局面では、二次治療薬は例えば予防手術、診断または病期分類用の手術、治癒手術および姑息手術を含めたある種の外科手術を含みうる。外科手術、特に治癒手術を、本発明および1つまたは複数の他の薬剤のような他の治療法と共に使用することができる。
【0162】
血管および心血管の疾患および障害のためのそのような外科治療薬は、当業者に周知であり、生物に外科手術を施行すること、心血管の機械的人工器官、血管形成、冠動脈再潅流、カテーテルの抜去を提供すること、対象に植込み型電気除細動器、機械的循環補助またはそれらの組み合わせを提供することを含みうるが、それに限定されるわけではない。本発明に使用されうる機械的循環補助の非限定的な例は、動脈内バルーンカウンターパルセーション(balloon counterpulsation)、左心補助循環装置、またはそれらの組み合わせを含む。
【0163】
J. 薬物の製剤および患者への投与経路
製剤および治療方法の考察にあたり、任意の化合物に対する参照は、薬学的に許容される塩および薬学的組成物も含めることを意味するものとする。臨床適用が企図されている場合、薬学的組成物は意図された適用に適した剤形で調製されるであろう。一般に、これは発熱物質も、ヒトまたは動物に有害でありうる他の不純物も本質的に有さない組成物を調製することを伴うであろう。
【0164】
送達するベクターを安定にして標的細胞による取り込みを可能にするための適切な塩および緩衝剤を採用することが一般に望まれるであろう。組換え細胞が患者に導入される場合には、緩衝剤も採用されるであろう。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒質に溶解または分散した有効量のベクターまたは細胞を含む。プロモーター「薬学的または薬理学的に許容される」とは、動物またはヒトに投与した場合に、副反応、アレルギー反応または他の有害反応を生じない分子実体および組成物を指す。本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」には、ヒトへの投与に適した医薬品のような医薬品の処方への使用に許容される溶媒、緩衝剤、溶液、分散媒、被覆剤、抗細菌薬および抗真菌薬、等張薬および吸収遅延薬などがある。薬学的に活性な物質のためにそのような媒質および薬剤を使用することは、当技術分野において周知である。任意の従来の媒質または薬剤が本発明の有効成分と不適合性である限りを除き、治療用組成物へのその使用が考えられている。補充の有効成分がその組成物のベクターまたは細胞を不活性化しないならば、それらもその組成物に組み入れることができる。
【0165】
本発明の特定の態様では、迅速放出による送達のために薬学的製剤が処方されるであろう。考えられる他の態様には、持続放出、遅延放出、および徐放があるが、それらに限定されるわけではない。製剤は、固体または液状のいずれかの経口懸濁剤でありうる。さらなる態様では、製剤を非経口送達を介した送達用に調製できるか、坐剤として使用できるか、または皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、舌下、経皮、もしくは鼻咽腔送達用に処方できることが考えられている。
【0166】
有効成分を含有する薬学的組成物は、例えば錠剤、トローチ剤、口中錠剤、水性もしくは油性懸濁剤、分散可能な散剤もしくは顆粒剤、乳剤、硬カプセル剤もしくは軟カプセル剤、またはシロップ剤もしくはエリキシル剤として経口使用に適した形でありうる。経口使用を意図した組成物を、薬学的組成物の製造のための当技術分野で公知の任意の方法により調製でき、そのような組成物は、薬学的に洗練された口に合う調製物を提供するために甘味料、着香料、着色料および保存料からなる群より選択される1つまたは複数の薬剤を含有しうる。錠剤は、錠剤の製造に適した無毒の薬学的に許容される賦形剤と混合された有効成分を含有する。これらの賦形剤は、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤;造粒剤および崩壊剤、例えばトウモロコシデンプンまたはアルギン酸;結合剤、例えばデンプン、ゼラチンまたはアラビアゴム;および滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクでありうる。錠剤は被覆されていない場合があり、また消化管での崩壊および吸収を遅らせることによって長時間にわたり持続作用を提供するために公知の技法によって被覆されている場合がある。例えばグリセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレートのような遅延物質を採用できる。米国特許第4,256,108号:4,166,452号;および第4,265,874号に記載されている技法によってそれらを被覆して制御放出用の浸透性治療錠剤(osmotic therapeutic tablet)を形成させることもできる(以下に参照として組み入れられる)。
【0167】
有効成分が不活性固形希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリン(kaolin)と混合されている硬ゼラチンカプセル剤、または、有効成分が水または油性媒質、例えばピーナッツ油、流動パラフィンもしくはオリーブ油と混合されている軟ゼラチンカプセル剤としても、経口使用のための製剤を提示することができる。
【0168】
水性懸濁剤は、水性懸濁剤の製造に適した賦形剤と混合された活性物質を含有する。そのような賦形剤は、懸濁化剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴムであり、分散剤または湿潤剤は天然ホスファチド、例えばレシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合産物、例えばポリオキシエチレンステアレート、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合産物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートのようなエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから得られた部分エステルとの縮合産物、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトールから得られた部分エステルとの縮合産物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートでありうる。水性懸濁剤は、1つまたは複数の保存料、例えばp-ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル、1つまたは複数の着色料、1つまたは複数の着香料、およびショ糖、サッカリンまたはアスパルテームのような1つまたは複数の甘味料も含有しうる。
【0169】
油性懸濁剤を、植物油、例えばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油、または流動パラフィンのような鉱物油の中に有効成分を懸濁することによって処方できる。油性懸濁物は、粘稠化剤、例えばミツロウ、硬パラフィンまたはセチルアルコールを含有しうる。上に示したような甘味料および着香量を添加して口に合う経口調製物を提供できる。アスコルビン酸のような抗酸化剤を添加することによってこれらの組成物を保存できる。
【0170】
水の添加によって水性懸濁剤を調製するために適した分散可能な散剤および顆粒剤は、分散剤または湿潤剤と、懸濁化剤と、1つまたは複数の保存料と混合された有効成分を提供する。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤はすでに上記に言及したものに例示される。追加の賦形剤、例えば甘味料、着香料および着色料も存在しうる。
【0171】
薬学的組成物は、水中油型乳剤の形でもありうる。油相は植物油、例えばオリーブ油もしくはラッカセイ油、または鉱物油、例えば流動パラフィン、またはこれらの混合物でありうる。適切な乳化剤は天然ホスファチド、例えばダイズ、レシチンならびに脂肪酸および無水ヘキシトールから得られたエステルまたは部分エステル、例えばソルビタンモノオレエート、ならびに該部分エステルとエチレンオキシドとの縮合産物、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートでありうる。乳剤は甘味料および着香料も含有しうる。
【0172】
シロップ剤およびエリキシル剤を、甘味料、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロースを用いて処方できる。そのような製剤は、粘滑薬、保存料、着香料、および着色料も含有しうる。薬学的組成物は、水性または油脂性の注射可能な滅菌懸濁剤の形でありうる。それらの適切な分散剤または湿潤剤と上記の懸濁化剤とを使用して公知の技術に従って懸濁剤を処方できる。注射可能な滅菌調製物は、無毒の非経口的に許容される希釈剤または溶媒に入った注射可能な滅菌液剤または懸濁剤、例えば1,3-ブタンジオール溶液としてでもありうる。採用できる許容される媒体および溶媒の中には水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、滅菌固定油が溶媒または懸濁化媒質として慣例的に採用される。この目的ために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含めた任意の無刺激性の固定油を採用できる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸は注射可能剤の調製に用途を見出す。
【0173】
薬物の直腸投与のための坐剤の形でも化合物を投与できる。治療薬を、常温で固体であるが直腸温では液体であり、よって直腸内で融解して薬物を放出する適切な刺激性のない賦形剤と混合することによって、これらの組成物を調製できる。そのような物質はカカオ脂およびポリエチレングレコールである。
【0174】
局所使用のために、治療化合物を含有するクリーム剤、軟膏剤、ゼリー剤、ゲル剤、上皮用液剤または懸濁剤などが採用される。この適用のために、局所適用に洗口剤および含嗽剤を含めるものとする。
【0175】
ナノ粒子、リポソーム、顆粒剤、吸入剤、鼻用液剤または静脈用混合剤としても製剤を投与できる。
【0176】
心不全または肥大を患う患者を治療するために、先に言及した製剤すべてが企図される。
【0177】
特定の治療および投与様式に依存するであろう投薬剤形を作るために、任意の製剤中の有効成分の量は変動しうる。患者に特異的な用量設定は、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物併用および治療法を受けている特定の疾患の重症度を含めた様々な因子に依存するであろうことはさらに言うまでもない。
【0178】
V. スクリーニング法
本発明は、5-HT2受容体の調節因子を同定するための方法を利用する。これらのアッセイは、候補物質の大きなライブラリーのランダムなスクリーニングを含みうるか、または、これらのアッセイは、5-HT2受容体の機能を調節する公算がより高くなると考えられる構造の属性を狙って選択された特定クラスの化合物に焦点を当てるために使用されうる。
【0179】
A. 調節因子
本明細書で使用する用語「候補物質」は、5-HT2受容体の活性または細胞機能を潜在的に改変しうる任意の分子を指す。候補物質は、タンパク質もしくはそのフラグメント、低分子、または核酸でさえありうる。改良された化合物の開発を助ける先導化合物を使用することは、「合理的薬物設計」として公知であり、それは、公知の阻害薬および活性化剤との比較だけでなく、標的分子の構造に関する予測も含む。
【0180】
合理的薬物設計の目標は、生物学的に活性なポリペプチドまたは標的化合物の構造アナログを産生することである。そのようなアナログを創出することにより、天然分子よりも活性または安定であるか、改変に対して異なる感受性を有するか、または様々な他の分子の機能に影響しうる薬物を作ることが可能である。ある取り組み方では、標的分子またはそのフラグメントに関する三次元構造が生成されるであろう。これは、X線結晶学、コンピュータモデル作成によって、または両方のアプローチの組み合わせによって実現できるであろう。
【0181】
抗体を使用して標的化合物、活性化物質、または阻害薬の構造を確認することも可能である。原理上は、この取り組み方により薬理作用団が得られ、その後の薬物設計はその薬理作用団に基づくことができる。機能的で薬理学的に活性な抗体に対する抗イディオタイプ抗体を生成させることによりタンパク質結晶学を全く回避することが可能である。鏡像の鏡像として、抗イディオタイプの結合部位は本来の抗原のアナログであると予想されるであろう。次に、抗イディオタイプを使用して化学的または生物学的に産生されたペプチドのバンクからペプチドを同定および単離することができるであろう。次に、選択されたペプチドは薬理作用団として働くであろう。抗体を抗原として使用して、抗体を産生させるための本明細書に記載した方法を使用して抗イディオタイプを生成させることができる。
【0182】
他方で、有用化合物の同定を「力ずくで」行おうと、様々な市販の供給源から有用薬物の基本的な基準に合致すると思われる低分子ライブラリーを単に獲得できる。組み合わせ的に発生したライブラリー(例えばペプチドライブラリー)を含めたそのようなライブラリーのスクリーニングは、活性について多数の近縁(および非近縁)化合物を選別する、迅速かつ効率的な方法である。コンビナトリアル法は、活性であるがその他では望ましくない化合物に基づいてモデル化された第二、第三および第四世代化合物の創出により、潜在的薬物の迅速な進化ももたらす。
【0183】
候補化合物は、天然化合物のフラグメントもしくは部分を含む場合があり、またその他では不活性である公知の化合物の活性な組み合わせとして見出されうる。動物、細菌、真菌、葉および樹皮を含めた植物起源、ならび海洋試料のような天然起源から単離された化合物を、潜在的に有用な薬剤の存在に関する候補としてアッセイできることが提案されている。スクリーニングを行う医薬は、化学組成物または人工化合物からも誘導または合成されうることは理解されるであろう。このように、本発明によって同定された候補物質が、公知の阻害薬または刺激物質から合理的薬物設計により設計されうるペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、低分子阻害薬または他の任意の化合物でありうることは理解されるであろう。
【0184】
他の適切な調節因子には、アンチセンス分子、リボザイムおよび抗体(一本鎖抗体を含めた)があり、これらのそれぞれは標的分子に特異的であろう。そのような化合物は、本明細書中のいずれかの箇所において、より詳細に記載されている。例えば、翻訳もしくは転写開始部位またはスプライシング接合部に結合したアンチセンス分子は、理想的な候補阻害薬であろう。
【0185】
最初に同定された調節性化合物に追加して、本発明者らは、立体的に類似した他の化合物を処方して、その調節因子の構造の主要部分を模倣できることも企図する。ペプチド調節因子のペプチドミメティック(peptidomimetics)を含みうるそのような化合物を、最初の調節因子と同様に使用できる。
【0186】
B. インビトロアッセイ
迅速、低価格で、かつ実施が容易なアッセイは、インビトロアッセイである。そのようなアッセイは、単離された分子を一般に使用し、迅速に多数で実施でき、よって短時間で入手可能な情報量を増やすことができる。アッセイの実施には、試験管、プレート、ディッシュ、ディップスティックまたはビーズのような他の表面を含めた多様な容器を使用できる。
【0187】
化合物のハイスループットスクリーニングのための技法は、国際公開公報第84/03564号に記載されている。多数の小型ペプチドの被験化合物を、プラスチック製ピンまたは他の表面のような固体基板上に合成する。そのようなペプチドは、TRPチャネルに結合して阻害する能力について速やかにスクリーニングされうるであろう。
【0188】
C. インサイト(in cyto)アッセイ
本発明は、細胞での5-HT2受容体の発現および活性を調節する能力について化合物をスクリーニングすることも考えている。この目的のために特異的に操作された細胞を含めた様々な細胞系を、そのようなスクリーニングアッセイに利用できる。
【0189】
D. インビボアッセイ
インビボアッセイは、特異的欠損を有するように操作されたか、または候補物質が到達して生物内の種々の細胞に影響する能力を測定するために使用できるマーカーを保有するトランスジェニック動物を含めた、心臓病の様々な動物モデルの使用を含む。それらの動物の大きさ、取り扱いの容易さ、およびそれらの生理的および遺伝的構成に関する情報が原因で、特にトランスジェニック動物にはマウスが好ましい態様である。しかし、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、スナネズミ、ウッドチャック、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマおよびサル(チンパンジー、テナガザルおよびヒヒを含めた)を含めた他の動物も同様に適している。阻害薬のアッセイは、これらの種のいずれかから得られた動物モデルを使用して実行されうる。
【0190】
被験化合物を用いた動物の治療は、適当な形の化合物を動物に投与することを伴うであろう。投与は、臨床目的に利用できる任意の経路によるであろう。化合物のインビボでの有効性の決定は、含まれるがそれに限定されるわけではない様々な異なる基準に関しうる。また、毒性および用量反応の測定は、インビトロまたはインサイトアッセイよりもより有意義な様式で、動物で実施されうる。
【0191】
VI. クローニング、遺伝子移入および発現のためのベクター
ある態様内では、5-HT2受容体、アンチセンス分子、リボザイムまたは干渉性RNAを含めた多様な産物を発現させるために発現ベクターが採用される。発現は、適切なシグナルがベクターに提供されることを必要とし、それらのシグナルには、宿主細胞での対象となる遺伝子の発現を推進する、ウイルスおよび哺乳動物両方の起源由来のエンハンサー/プロモーターのような多様な調節エレメントがある。宿主細胞でのメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適にするために設計されたエレメントも規定されている。薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現と連結させるエレメントと同様に、その産物を発現する永続的で安定な細胞クローンを樹立するために多数の主要な薬物選択マーカーを使用するための条件も提供される。
【0192】
A. 調節性エレメント
本出願にわたり、用語「発現構築物」は、配列をコードする核酸の一部またはすべてが転写されることができる、遺伝子産物をコードする核酸を含有する任意の種類の遺伝子構築物を含むことを意味する。その転写物はタンパク質に翻訳されうるが、その必要はない。ある態様では、発現は遺伝子の転写と遺伝子産物へのmRNAの翻訳との両方を含む。他の態様では、発現は、対象となる遺伝子をコードする核酸の転写だけを含む。
【0193】
ある態様では、遺伝子産物をコードする核酸はプロモーターの転写制御下にある。「プロモーター」とは、遺伝子の特異的転写の開始に必要とされる、細胞の合成機械または導入された合成機械によって認識されるDNA配列を指す。句「転写制御下」は、RNAポリメラーゼの開始および遺伝子の発現を調節するために、プロモーターが核酸に関して正確な位置および方向にあることを意味する。
【0194】
プロモーターという用語は、本明細書においてRNAポリメラーゼIIのための開始部位周囲にクラスターを形成した一群の転写制御モジュールを指すために使用されるであろう。どのようにプロモーターが編成されるかについての考えの大半は、HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写ユニットに対するプロモーターを含めた数個のウイルスプロモーターの分析から得られる。さらに最近の成果によって増進したこれらの研究は、プロモーターが別個の機能的モジュールから構成され、それぞれのプロモーターは約7〜20bpのDNAからなり、転写活性化因子またはリプレッサータンパク質に対する1つまたは複数の認識部位を含むことを示している。
【0195】
各プロモーターでの少なくとも1つのモジュールは、RNA合成のための開始部位に位置するように機能する。これの最もよく知られている例は、TATAボックスであるが、哺乳動物末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターのようなTATAボックスを欠く一部のプロモーターでは、開始部位自体に重なる別個のエレメントが開始の場所を定めるのを助ける。
【0196】
追加のプロモーターエレメントは転写開始の頻度を調節する。概して、これらは開始部位の30〜110bp上流の領域に局在する。とはいえ、多数のプロモーターが開始部位下流の機能的エレメントも同様に含有することが最近示されている。プロモーターエレメントの間の間隔は柔軟であることが多いため、エレメントが逆位になったり相互に関して移動したときもプロモーターの機能は保たれる。tkプロモーターでは、プロモーターエレメント間の間隔を50bpまで増加させることができ、それから活性が減少し始める。プロモーターに依存して、個別のエレメントは協同または独立して機能して転写を活性化できると考えられる。
【0197】
ある態様では、天然5-HT2受容体プロモーターが採用されて、対応する5-HT2受容体遺伝子、異種5-HT2受容体遺伝子、スクリーニング可能なもしくは選択可能なマーカー遺伝子または対象となる他の任意の遺伝子のいずれかの発現が推進されるであろう。
【0198】
他の態様では、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスロングターミナルリピート、ラットインスリンプロモーターおよびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼを使用して、対象となるコード配列の高レベル発現を得ることができる。発現レベルが所与の目的に十分であるならば、対象となるコード配列の発現を実現するために、当技術分野で周知である他のウイルスもしくは哺乳動物細胞の、またはバクテリオファージのプロモーターの使用も同様に企図される。
【0199】
周知の性質を有するプロモーターを採用することにより、トランスフェクションまたは形質転換の後に、対象となるタンパク質の発現レベルおよび発現パターンを最適にできる。さらに、特異的生理学的シグナルに応答して調節されるプロモーターの選択は、遺伝子産物の誘導性発現を可能にできる。表1および2に、本発明に関連して対象となる遺伝子の発現を調節するために採用できる数個の調節エレメントを挙げる。この一覧は、遺伝子発現の促進に関与する可能性のあるすべてのエレメントを網羅することではなく、単にその例示を意図する。
【0200】
エンハンサーは、同一のDNA分子上の離れた位置に局在するプロモーターからの転写を増加させる遺伝子エレメントである。エンハンサーはプロモーターと酷似して編成されている。すなわち、それらは多くの個別のエレメントから構成され、それらのエレメントのそれぞれは1つまたは複数の転写タンパク質に結合する。
【0201】
エンハンサーとプロモーターとの間の基本的な差異は、作動性である。総じてエンハンサー領域は少し離れた転写を刺激できなければならず、これはプロモーター領域にも、その構成エレメントにもあてはまる必要はない。他方で、プロモーターは特定の部位で特定の方向でRNA合成の開始を指令する1つまたは複数のエレメントを有さなければならないが、エンハンサーはこれらの特異性を欠如している。プロモーターおよびエンハンサーは、重複および連続することが多く、非常に類似したモジュールの編成を有すると思われることが多い。
【0202】
以下に、発現構築物において対象となる遺伝子をコードする核酸と組み合わせて使用されうる、ウイルスプロモーター、細胞プロモーター/エンハンサーおよび誘導性プロモーター/エンハンサーの一覧を示す(表2および表3)。追加的に、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(真核生物プロモーターデータベース(EPDB)による)を使用して、遺伝子の発現を推進することもできるであろう。送達複合体の一部または追加の遺伝子発現構築物のいずれかとして、もし適切な細菌ポリメラーゼが提供されるならば、真核細胞はある種の細菌プロモーターからの細胞質での転写を支援できる。
【0203】
(表2)プロモーターおよび/またはエンハンサー



【0204】
(表3)誘導性エレメント

【0205】
筋特異的プロモーター、さらに詳細には心特異的プロモーターが特に関心対象である。これらには、ミオシン軽鎖2プロモーター(Franz et al., 1994; Kelly et al., 1995)、αアクチンプロモーター(Moss et al., 1996)、トロポニン1プロモーター(Bhavsar et al., 1996)、Na+/Ca2+交換体プロモーター(Barnes et al., 1997)、ジストロフィンプロモーター(Kimura et al., 1997)、アルファ7インテグリンプロモーター(Ziober & Kramer, 1996)、脳ナトリウム利尿ペプチドプロモーター(LaPointe et al., 1996)およびアルファBクリスタリン/低分子量熱ショックタンパク質プロモーター(Gopal-Srivastava, R., 1995)、αミオシン重鎖プロモーター(Yamauchi- Takihara et al., 1989)およびANFプロモーター(LaPointe et al., 1988)がある。
【0206】
cDNAの挿入が採用される場合、遺伝子転写物の適切なポリアデニル化を果たすためにポリアデニル化シグナルを含めることが概して所望されるであろう。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施の成功に重大であるとは考えられず、ヒト成長ホルモンおよびSV40ポリアデニル化シグナルのような任意のそのような配列を採用できる。発現カセットのエレメントとしてターミネータも考えられる。これらのエレメントは、メッセージのレベルを増加させてカセットから他の配列への読み通しを最少にするように働くことができる。
【0207】
B. 選択マーカー
本発明のある態様では、細胞は本発明の核酸構築物を含有し、発現構築物にマーカーを含めることによりインビトロまたはインビボで細胞を同定できる。そのようなマーカーは、細胞に同定可能な変化を付与して、発現構築物を含有する細胞の容易な同定を可能にするであろう。通常は薬物選択マーカーの包含はクローニングおよび形質転換体の選択を援助し、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ヒグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに耐性を付与する遺伝子は、有用な選択マーカーである。または、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)のような酵素を採用できる。免疫マーカーも採用できる。採用された選択マーカーは、それが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現可能である限り重大とは考えられない。選択マーカーのさらなる例は当業者に周知である。
【0208】
C. 多重遺伝子構築物およびIRES
本発明のある態様では、内部リボソーム結合部位(IRES)の使用が多重遺伝子またはポリシストロン性メッセージの創出に使用される。IRESエレメントは、5'側のメチル化Capに依存する翻訳のリボソームスキャンモデルを回避して、内部部位での翻訳を開始できる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピカノウイルスファミリーの2つのメンバー(ポリオウイルスおよび脳心筋炎ウイルス)由来のIRESエレメント(Pelletier and Sonenberg, 1988)および哺乳動物メッセージ由来のIRES(Macejak and Sarnow, 1991)が記載されている。IRESエレメントを異種オープンリーディングフレームに連結できる。それぞれIRESで引き離されている多重オープンリーディングフレームは共に転写され、ポリシストロン性メッセージを創出することができる。IRESエレメントのおかげで、各オープンリーディングフレームは効率的な翻訳を行うためにリボソームに接近することができる。単一のプロモーター/エンハンサーを使用して、多重遺伝子を効率的に発現させて単一のメッセージを転写することができる。
【0209】
任意の異種オープンリーディングフレームをIRESエレメントに連結できる。これには、分泌タンパク質に関する遺伝子、独立した遺伝子にコードされる多サブユニットタンパク質、細胞内または膜結合型タンパク質および選択マーカーがある。このように、単一の構築物と単一の選択マーカーとを用いて、細胞に数個のタンパク質の発現を同時に操作できる。
【0210】
D. 発現ベクターの送達
発現ベクターを細胞に導入できる多数の方法がある。本発明のある態様では、発現構築物は、ウイルスまたはウイルスゲノムから得られた操作された構築物を含む。あるウイルスが受容体介在性エンドサイトーシスを介して細胞に侵入して、宿主細胞ゲノムに組み入れられ、安定的かつ効率的にウイルス遺伝子を発現できることは、それらのウイルスを、哺乳動物細胞に外来遺伝子を導入するための魅力的な候補にした(Ridgeway, 1988; Nicolas and Rubenstein, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Temin, 1986)。遺伝子ベクターとして使用された最初のウイルスは、パポーバウイルス(シミアンウイルス40、ウシ乳頭腫ウイルスおよびポリオーマ)(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986)およびアデノウイルス(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986)を含めたDNAウイルスであった。これらは外来DNA配列に関して比較的低い能力を有し、限られた宿主スペクトルしか有さない。さらに、許容細胞におけるそれらの腫瘍形成潜在性および細胞変性効果は安全性への懸念を引き起こしている。それらは外来遺伝物質8kBまでだけを収容できるが、様々な細胞系および実験動物に容易に導入されうる(Nicolas and Rubenstein, 1988; Temin, 1986)。
【0211】
インビボ送達のための好ましい方法の1つは、アデノウイルス発現ベクターの使用を伴う。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築物のパッケージングを支援し、および(b)その中にクローニングされたアンチセンスポリヌクレオチドを発現させるのに、十分なアデノウイルス配列を含有する構築物を含むことを意味する。これに関連して、発現はその遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0212】
発現ベクターは、遺伝子操作された形態のアデノウイルスを含む。アデノウイルス、すなわち36kBの線状二本鎖DNAウイルス遺伝子の編成の知見により、アデノウイルスDNAの大きな一片を7kBまでの外来配列に置き換えることが可能になる(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスへの宿主細胞の感染は、染色体への組み込みを生じない。なぜなら、アデノウイルスDNAは潜在的な遺伝子毒性を有さずにエピソーム型で複製できるからである。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、広範囲の増幅後にゲノムの再配列はまったく検出されていない。アデノウイルスは、細胞周期の段階とは無関係に事実上すべての上皮細胞に感染できる。今までのところ、アデノウイルス感染はヒトでの急性呼吸器疾患のような軽度の疾患にのみ連結していると考えられる。
【0213】
アデノウイルスは、中サイズのゲノム、操作の容易さ、高力価、広い標的細胞の範囲および高い感染性が原因で、遺伝子移入ベクターとしての使用に特に適する。ウイルスゲノムの両端は、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシスエレメントである100〜200塩基対の逆方向反復(ITR)を含む。ゲノムの初期(E)および後期(L)領域は異なる転写ユニットを含み、それらはウイルスDNAの複製開始によって分割される。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび少数の細胞遺伝子の転写調節を担うタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNAの複製のためのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質はDNAの複製、後期遺伝子の発現および宿主細胞の停止に関与する(Renan, 1990)。大部分のウイルスキャプシドタンパク質を含めた後期遺伝子の産物は、主後期プロモーター(MLP)によって供給される単一の一次転写物がかなりプロセシングされて初めて発現される。MLP(16.8 m.u.に位置する)は、感染後期に特に効率的であり、このプロモーターから供給されるすべてのmRNAは、翻訳に好ましいmRNAにする5'三連リーダ(TPL)配列を保持する。
【0214】
現行の系では、組換えアデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの間の相同組換えから発生する。2つのプロウイルスベクターの間の可能性のある組換えが原因で、野生型アデノウイルスがこの過程から発生しうる。したがって、個別のプラークから単一クローンのウイルスを単離してそのゲノム構造を調べることが決定的である。
【0215】
複製を欠損している現行のアデノウイルスベクターの発生および繁殖は、293と称する独特のヘルパー細胞系に依存する。293細胞は、Ad5 DNAフラグメントを用いてヒト胚腎臓細胞から形質転換されたものであり、E1タンパク質を構成的に発現する(Graham et al., 1977)。E3領域はアデノウイルスゲノムに必須ではなく(Jones and Shenk, 1978)、293細胞の助けにより、現行のアデノウイルスベクターは、E1、D3または両方の領域のいずれかに外来DNAを保有する(Graham and Prevec, 1991)。自然界では、アデノウイルスは野生型ゲノムの約105%をパッケージングして(Ghosh-Choudhury et al., 1987)、約2kb過剰のDNAに関する能力を提供できる。E1およびE3領域に置換可能な約5.5kbのDNAと組み合わせて、現行のアデノウイルスベクターの最大能力は7.5kbまたはベクターの合計長の約15%を下回る。アデノウイルスのウイルスゲノムの80%超がベクターの主鎖に残り、ベクターによって生じる細胞毒性の起源である。また、E1欠失ウイルスの複製欠損は不完全である。
【0216】
ヘルパー細胞系は、ヒト胚腎細胞、筋肉細胞、造血細胞または他のヒト胚間葉もしくは上皮細胞のようなヒト細胞から得られうる。または、ヘルパー細胞はヒトアデノウイルスに許容性の他の哺乳動物種の細胞から得られうる。そのような細胞には、例えばベロ細胞または他のサル胚間葉または上皮細胞がある。上記のように、好ましいヘルパー細胞系は293である。
【0217】
Racherら(1995)は、293細胞を培養してアデノウイルスを繁殖させるための改良法を開示した。一形式では、培地100〜200mlが入ったシリコーン処理した1リットル容スピナーフラスコ(Techne, Cambridge, UK)に個別の細胞を接種することにより、天然細胞の凝集物を成長させる。40rpmで撹拌した後で、トリパンブルーを用いて細胞の生存率を推定する。別の形式では、Fibra-Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin, Stone, UK)(5g/l)を以下のように採用する。培地5mlに再懸濁した接種用細胞を、250ml容Erlenmeyerフラスコに入れたキャリア(50ml)に加え、時々かき混ぜながら1〜4時間静置する。次に、培地を新鮮培地50mlと交換し、振盪を開始する。ウイルスの産生のために、細胞を約80%集密まで成長させ、その後培地を交換(終容積の25%まで)して、0.05のMOIのアデノウイルスを加える。培養物を一晩静置し、その後容積を100%に増やし、さらに72時間の振盪を始める。
【0218】
アデノウイルスベクターが複製を欠損または少なくとも条件付きで欠損しているという必要性以外に、アデノウイルスベクターの性質は本発明の実施の成功に決定的ではないと考えられる。アデノウイルスは、42個の異なる公知の血清型または亜群A〜Fのいずれかでありうる。C亜群のアデノウイルス5型は、本発明に使用するための条件付き複製欠損アデノウイルスベクターを得るための好ましい出発物質である。これは、アデノウイルス5型が多量の生化学情報および遺伝情報が公知であるヒトでのウイルスであることが原因であり、アデノウイルス5型はベクターとしてアデノウイルスを採用している大部分の構築物のために従来から使用されてきている。
【0219】
上述のように、本発明による典型的なベクターは複製を欠損しており、アデノウイルスE1領域を有さないであろう。このように、E1コード配列が除去された位置に、対象となる遺伝子をコードするポリヌクレオチドを導入するのが最も便利であろう。しかし、アデノウイルス配列への構築物の挿入位置は、本発明に決定的ではない。Karlssonら(1986)が記載したように、対象となる遺伝子をコードするポリヌクレオチドを、E3置換ベクターでの欠失したE3領域の代わりに、またはヘルパー細胞系またはヘルパーウイルスがE4欠損を補完するE4領域に挿入することもできる。
【0220】
アデノウイルスは成長および操作が容易であり、インビトロおよびインビボで広い宿主の範囲を示す。この群のウイルスは高力価、例えば1mlあたり109〜1012プラーク形成単位で得ることができ、高度に感染性である。アデノウイルスの生活環は宿主細胞ゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達された外来遺伝子はエピソームに存在し、したがって宿主細胞に対する遺伝毒性が低い。野生型アデノウイルスを用いたワクチン接種の研究では、副作用は報告されておらず(Couch et al., 1963; Top et al., 1971)、それらの安全性およびインビボの遺伝子移入ベクターと同様の治療上の潜在性を実証している。
【0221】
アデノウイルスベクターは、真核生物の遺伝子発現(Levrero et al., 1991; Gomez-Foix et al., 1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz, 1992; Graham and Prevec, 1991)に使用されている。最近、動物実験から、組換えアデノウイルスを遺伝子療法に使用できることが示唆された(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991; Stratford-Perricaudet et al., 1990; Rich et al., 1993)。種々の組織への組換えアデノウイルスの投与に関する研究には、気管注入(Rosenfeld et al., 1991; Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈注射(Herz and Gerard, 1993)および脳への定位接(Le Gal La Salle et al., 1993)がある。
【0222】
レトロウイルスは、逆転写の過程により感染細胞中で自己のRNAを二本鎖DNAに変換する能力を特徴とする一本鎖RNAウイルスの群である(Coffin, 1990)。次に、結果として生じたDNAはプロウイルスとして細胞の染色体に安定に組み入れられ、ウイルスタンパク質の合成を指令する。組み込みは、レシピエント細胞およびその子孫でのウイルス遺伝子配列の保持をもたらす。レトロウイルスのゲノムは、3つの遺伝子、すなわちキャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素およびエンベロープ構成要素をそれぞれコードするgag、polおよびenvを含有する。gag遺伝子上流に見られる配列は、ビリオン(virion)へのゲノムのパッケージングのためのシグナルを含む。2つの末端反復(LTR)配列は、ウイルスゲノムの5'および3'末端に存在する。これらは、宿主細胞ゲノムへの組み込みにも必要な強力なプロモーターおよびエンハンサー配列を含む(Coffin, 1990)。
【0223】
レトロウイルスベクターを構築するために、対象となる遺伝子をコードする核酸を、あるウイルス配列の代わりにウイルスゲノムに挿入して、複製を欠損したウイルスを生み出す。ビリオンを生み出すために、gag、polおよびenv遺伝子を含むがLTRおよびパッケージング構成要素を有さないパッケージング細胞系を構築する(Mann et al., 1983)。cDNAを含む組換えプラスミドをレトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共にこの細胞系に導入すると(例えばリン酸カルシウム沈殿により)、パッケージング配列は組み換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子にパッケージングされるのを可能にし、それは次に培地に分泌される(Nicolas and Rubenstein, 1988; Temin, 1986; Mann et al., 1983)。組換えレトロウイルスを含有する培地を次に収集し、場合によっては濃縮して、遺伝子移入に使用する。レトロウイルスベクターは広く多様な種類の細胞に感染可能である。しかし、組み込みおよび安定発現は宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al., 1975)。
【0224】
レトロウイルスベクターの特異的ターゲッティングを可能にするように企画された新規なアプローチが、ウイルスエンベロープへの乳糖残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づいて最近開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を可能としうる。
【0225】
レトロウイルスエンベロープタンパク質および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用した、組換えレトロウイルスのターゲッティングへの別のアプローチが企画された。ストレプトアビジンを使用することによって、抗体をビオチン構成要素を介して連結した(Roux et al., 1989)。主要組織適合遺伝子複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使用して、それらの表面抗原を有する様々なヒト細胞が異所性のウイルスにインビトロで感染することが実証された(Roux et al., 1989)。
【0226】
本発明のすべての局面では、レトロウイルスベクターの使用にある限定が存在する。例えば、レトロウイルスベクターは、通常は細胞のゲノムのランダムな部位に組み入れられている。これは、宿主遺伝子の中断または隣接遺伝子の機能を妨害できるウイルス調節配列の挿入を介して挿入突然変異誘発に至りうる(Varmus et al., 1981)。欠損レトロウイルスベクターの使用に関する別の懸念は、パッケージング細胞での野生型複製コンピテントウイルスの潜在的な出現である。これは、組換えウイルスからの無傷配列が、宿主細胞ゲノムに組み入れられたgag、pol、env配列の上流に挿入される組換えイベントに起因しうる。しかし、組換えの起こりやすさを著しく減少させるはずである新しいパッケージング細胞系が、現在入手できる(Markowitz et al., 1988; Hersdorffer et al., 1990)。
【0227】
本発明では他のウイルスベクターを発現構築物として採用できる。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Coupar et al., 1988)、アデノ随伴ウイルス(AAV)(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Hermonat and Muzycska, 1984)およびヘルペスウイルスのようなウイルスから得られたベクターを採用できる。それらは、多様な哺乳動物細胞に数々の魅力的な特性を供する(Friedmann, 1989; Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Coupar et al., 1988; Horwich et al., 1990)。
【0228】
欠損B型肝炎ウイルスの認識に伴い、種々のウイルス配列の構造機能関係に新たな洞察が得られた。インビトロ研究は、そのウイルスが自己のゲノムの80%までを欠失しているにもかかわらず、ヘルパー依存性パッケージングおよび逆転写の能力を保持できることを示した(Horwich et al., 1990)。これは、大部分のゲノムを外来遺伝物質と置き換えられることを示唆した。肝臓特異的遺伝子移入には、肝向性(hepatotropism)および残存(組み込み)は特に魅力的な性質であった。Changらは、アヒルB型肝炎ウイルスゲノムに、ポリメラーゼ、表面およびプレ表面コード配列の代わりにクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を導入した。その遺伝子は野生型ウイルスと共にトリ肝癌細胞系に同時トランスフェクトされた。高力価の組換えウイルスを含有する培地を使用して、アヒル雛の初代肝臓細胞に感染させた。トランスフェクションの後に、安定なCAT遺伝子の発現を少なくとも24日間検出した(Chang et al., 1991)。
【0229】
センスまたはアンチセンス遺伝子構築物の発現を達成するためには、発現構築物を細胞に送達しなければならない。この送達は、細胞系を形質転換するための実験室手技におけるようにインビトロで、または、ある疾患状態の治療におけるようにインビボもしくはエクスビボで実現されうる。送達のための一つのメカニズムは、発現構築物が感染性ウイルス粒子のキャプシドに封入されているウイルス感染を介する。
【0230】
培養哺乳動物細胞に発現構築物を送達するための数個の非ウイルス法も本発明により企図される。これらには、リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973; Chen and Okayama, 1987; Rippe et al., 1990)、DEAE-デキストラン(Gopal, 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., 1986; Potter et al., 1984)、直接マイクロインジェクション(Harland and Weintraub, 1985)、DNA封入リポソーム(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979)およびリポフェクタミン-DNA複合体、細胞の超音波処理(Fechheimer et al., 1987)、高速投射物体を使用した遺伝子銃(Yang et al., 1990)、ならびに受容体介在性トランスフェクション(Wu and Wu, 1987; Wu and Wu, 1988)がある。これらの技法の一部は、インビボまたはエクスビボの使用に成功裡に適合しうる。
【0231】
発現構築物がいったん細胞に送達されると、対象となる遺伝子をコードする核酸を定位置にして種々の部位で発現させることができる。ある態様では、遺伝子をコードする核酸は細胞のゲノムに安定に組み入れられうる。この組み込みは、相同組換えを介した同種の配置および方向でありうるし(遺伝子置換)、また、それはランダムに非特異的な配置に組み入れられうる(遺伝子増強)。なおさらなる態様では、核酸はDNAの別々のエピソーム(episome)セグメントとして細胞中に安定に維持されうる。そのような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主の細胞周期とは独立して、またはそれに同調して維持および複製できるに足る配列をコードする。発現構築物が細胞にどのように送達され、核酸が細胞のどこに残るかは、採用する発現構築物の種類に依存する。
【0232】
本発明のなお別の態様では、発現構築物は単に、裸の組換えDNAまたはプラスミドからなりうる。構築物の導入を、物理的または化学的に細胞膜を透過する上記の任意の方法で実施することができる。これは、インビトロ導入に特に適用可能であるが、同様にインビボ使用にも適用することもできる。Dubenskyら(1984)は、成体および新生マウスの肝臓および脾臓にリン酸カルシウム沈殿の形態でポリオーマウイルスDNAを注入することに成功し、活性なウイルスの複製および急性感染を実証した。BenvenistyおよびNeshif(1986)も、リン酸カルシウム沈殿したプラスミドの直接的な腹腔内注射がトランスフェクトされた遺伝子の発現をもたらすことを実証した。対象となる遺伝子をコードするDNAをインビトロで同様に導入でき、そのDNAはその遺伝子産物を発現することが想定されている。
【0233】
本発明のなお別の態様では、裸のDNA発現構築物を細胞に導入するために微粒子銃が必要とされうる。この方法は、DNAを被覆した微小投射物体を高速に加速すると、その物体が細胞膜を貫通して、細胞を死滅させることなくその細胞に侵入できるという能力に依存する(Klein et al., 1987)。小さな微粒子を加速するための装置がいくつか開発されている。そのような装置の1つは、電流を発生する高電圧放電を頼りにして、その電流が次には動力を提供する(Yang et al., 1990)。使用される微小投射物体は、タングステンビーズまたは金ビーズのような生物学的に不活性な物質からなっている。
【0234】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚および筋組織を含めた選択された器官がインビボで撃たれた(Yang et al., 1990; Zelenin et al., 1991)。これは組織または細胞を外科的に露出させて、銃と標的器官との間のいかなる介在組織も除去すること、すなわちエクスビボ治療を必要としうる。また、特定の遺伝子をコードするDNAをこの方法により送達させることができ、これもなお本発明により組み入れられている。
【0235】
本発明のさらなる態様では、発現構築物をリポソームに封入することができる。リポソームは、リン脂質二層膜および内部の水性媒質を特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒質で分離された脂質多重層を有する。多重膜リポソームは、過剰の水溶液にリン脂質を懸濁すると自然に形成される。脂質構成要素は、閉鎖構造を形成する前に自己再編成を受けて、水を封入し、脂質二重層の間に溶質を溶解させる(Ghosh and Bachhawat, 1991)。リポフェクタミン-DNA複合体も企図される。
【0236】
リポソーム介在性核酸送達および外来DNAのインビトロ発現は大きく成功した。Wongら、(1980)は、培養ニワトリ胚、HeLaおよび肝癌細胞でのリポソーム介在性送達および外来DNAの発現の実行可能性を実証した。Nicolauら(1987)は、ラットへの静脈内注射後にリポソーム介在性遺伝子移入の成功を実現した。
【0237】
本発明のある態様では、リポソームをセンダイウイルス(HVJ)と複合させることができる。このウイルスは細胞膜との融合を容易にして、リポソームに封入されたDNAが細胞に侵入するのを促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様では、リポソームを非ヒストン性核染色体タンパク質(HMG-1)と共に複合させるか、または採用することができる(Kato et al., 1991)。なおさらなる態様では、リポソームをHVJおよびHMG-1の両方と共に複合させるか、または採用することができる。そのような発現構築物がインビトロおよびインビボでの核酸の導入および発現に成功裡に採用されているという点で、それらの発現構築物を本発明に適用できる。細菌プロモーターがDNA構築物に採用される場合、リポソームに適切な細菌ポリメラーゼを含めることも理想的であろう。
【0238】
特定の遺伝子をコードする核酸を細胞に送達させるために採用できる他の発現構築物は、受容体介在性送達用の媒体である。これらは、ほぼすべての真核細胞での受容体介在性エンドサイトーシスによる高分子の選択的取り込みを利用する。様々な受容体が細胞の種類に特異的に分布していることから、その送達は高度に特異性でありうる(Wu and Wu, 1993)。
【0239】
受容体介在性遺伝子ターゲッティング用の媒体は、一般に2つの構成要素、すなわち細胞受容体特異的リガンドとDNA結合剤とからなる。受容体介在性遺伝子移入のためにいくつかのリガンドが使用されてきた。最も広く特徴づけされたリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)(Wu and Wu, 1987)およびトランスフェリン(Wagner et al, 1990)である。近年、ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達用の媒体として使用されており(Ferkol et al., 1993; Perales et al., 1994)、上皮増殖因子(EGF)も扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達させるために使用されている(Myers, EPO 0273085)。
【0240】
他の態様では、送達用の媒体はリガンドおよびリポソームを有しうる。例えば、Nicolauら、(1987)はガラクトース末端アシアロガングリオシドであるラクトシルセラミドを採用し、リポソームに組み込み、肝細胞によるインスリン遺伝子取り込みの増加を観察した。このように、特定の遺伝子をコードする核酸を、リポソーム存在下または非存在下で、任意の数の受容体-リガンド系により、ある種の細胞に特異的に送達できることも実行可能である。例えば、EGF受容体の上方制御を示す細胞への核酸の介在性送達のための受容体として、上皮増殖因子(EGF)を使用できる。肝臓細胞上のマンノース受容体を標的にするためにマンノースを使用できる。また、CD5(CLL)、CD22(リンパ腫)、CD25(T細胞白血病)およびMAA(黒色腫)に対する抗体もターゲッティングのための部分として同様に使用できる。
【0241】
ある態様では、遺伝子移入をエクスビボ条件でより容易に行える。エクスビボ遺伝子療法は、動物からの細胞の単離、インビトロで細胞への核酸の送達、およびその後の動物への修飾した細胞の返還を指す。これは、動物からの組織/器官の外科的除去または細胞および組織の初代培養を伴いうる。
【0242】
VII. 5-HT2受容体と反応するか、またはそれを阻害する抗体の調製
なお別の局面では、本発明は、本発明の5-HT2受容体またはその任意の部分と免疫応答性であるか、またはそれを阻害する抗体を企図する。抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体である場合があり、ヒト化、一本鎖、またはFabフラグメントでありうる。好ましい態様では、抗体はモノクローナル抗体である。抗体を調製および特徴づけする手段は当技術分野で周知である(例えばHarlow and Lane, 1988を参照)。
【0243】
簡潔には、ポリクローナル抗体は、本発明のポリペプチドを有する免疫原を動物に免疫して、免疫された動物から抗血清を収集することによって調製される。抗血清の産生に広範囲の動物種を使用できる。概して抗血清の産生に使用される動物は、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、ブタまたはウマを含めた非ヒト動物である。ウサギの血液容積が比較的大きいことから、ウサギはポリクローナル抗体の産生のための好ましい選択候補である。
【0244】
抗原のアイソフォームに特異的な、ポリクローナルおよびモノクローナル両方の抗体は、当業者に一般に公知であるような通常の免疫技法を使用して調製されうる。本発明の化合物の抗原エピトープを含有する組成物を使用して、ウサギまたはマウスのような1つまたは複数の実験動物を免疫できる。次に、それらの動物は本発明の化合物に対する特異的抗体を産生し始める。抗体発生のための時間の余裕をおいた後で、単にその動物を出血させて全血から血清試料を調製することによって、ポリクローナル抗血清を得ることができる。
【0245】
本発明のモノクローナル抗体は、ELISAおよびウエスタンブロット法のような標準的な免疫化学法、ならびに組織染色のような免疫組織化学法、ならびに5-HT2受容体関連抗原エピトープに特異的な抗体を利用しうる他の方法に有用な適用を見出すであろうと提案されている。
【0246】
一般に、5-HT2受容体に対するポリクローナル、モノクローナルおよび一本鎖抗体のすべてを多様な態様で使用できる。そのような抗体の特に有用な適用は、例えば抗体アフィニティカラムを使用して天然または組換え型5-HT2受容体を精製する場合である。すべての許容された免疫学的技法の作業は、本開示に照らして当業者に公知であろう。
【0247】
抗体を調製および特徴づけするための手段は、当技術分野で周知である(例えば、参照として本明細書に組み入れられるHarlow and Lane, 1988を参照)。モノクローナル抗体の調製のさらに具体的な例を、下記の実施例に示す。
【0248】
当技術分野で周知であるように、所与の組成物はその免疫原性が多様でありうる。したがって、担体にペプチドまたはポリペプチド性免疫原を連結することで実現されうるように、宿主免疫系を高めることがしばしば必要となる。例示的かつ好ましい担体は、スカシガイ(keyhole limpet)ヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。卵アルブミン、マウス血清アルブミンまたはウサギ血清アルブミンのような他のアルブミンも担体として使用できる。担体タンパク質にポリペプチドを複合させるための手段は当技術分野で周知であり、それらにはグルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびビス-ビアゾチゼドベンジジンがある。
【0249】
当技術分野で同じく周知であるように、アジュバントとして公知である、免疫応答の非特異的刺激物質の使用により、特定の免疫原組成物の免疫原性を増大できる。例示的かつ好ましいアジュバントには、フロイント(Freund)の完全アジュバント(結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の死菌を含有する免疫応答の非特異的刺激物質)、フロイントの不完全アジュバントおよび水酸化アルミニウムアジュバントがある。
【0250】
ポリクローナル抗体の産生に使用される免疫原組成物の量は、その免疫原の性質および免疫に使用される動物に応じて変動する。免疫原の投与には様々な経路(皮下、筋肉内、皮内、静脈内および腹腔内)を使用できる。免疫後の様々な時点で免疫した動物の血液を採取することによって、ポリクローナル抗体の産生を監視できる。二回目の追加注射も行うことができる。適切な力価が実現されるまで、追加免疫および力価測定の過程を繰り返す。所望のレベルの免疫原性が得られたときに、免疫した動物を出血させて血清を単離して保存することができ、かつ/またはその動物を使用してmAbを生成させることができる。
【0251】
参照として本明細書に組み入れられている米国特許第4,196,265号に例示されるような周知の技法の使用により、MAbを容易に調製できる。概して、本技法は、適切な動物に選択された免疫原組成物、例えば精製もしくは部分精製されたタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチド、または高レベルのタンパク質(または受容体)を発現している細胞を免疫することを伴う。免疫組成物は、抗体産生細胞を刺激するために有効な方法で投与される。マウスおよびラットのようなげっ歯類は好ましい動物であるが、ウサギ、ヒツジ、カエル細胞の使用も可能である。ラットの使用はある種の利点を提供しうるが(Goding, 1986)、マウスが好ましく、BALB/cマウスが最も日常的に使用され、一般に高率で安定な融合が得られることから最も好ましい。
【0252】
免疫の後で、mAbを発生させるプロトコルに使用するために、抗体を産生する潜在性を有する体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)を選択する。これらの細胞を、生検を行った脾臓、扁桃もしくはリンパ節、または末梢血試料から得ることができる。脾臓細胞および末梢血細胞が好ましく、前者は分裂中の形質芽球(plasmablast)段階である抗体産生細胞の豊富な供給源であるからで、後者は末梢血を容易に入手できるからである。しばしば、一連の動物を免疫して、最高の抗体価を有する動物の脾臓を取り出して、注射筒で脾臓をホモジナイズすることによって脾臓リンパ球が得られるであろう。概して、免疫したマウスの脾臓は約5×107から2×108個のリンパ球を含む。
【0253】
免疫した動物の抗体産生Bリンパ球を、次に不死化骨髄腫細胞、一般には免疫した動物と同じ種の不死化骨髄腫細胞の細胞と融合させる。ハイブリドーマ産生性融合法に使用するために適した骨髄腫細胞系は、好ましくは非抗体産生性であり、高い融合効率および酵素欠損を有する。その酵素欠損は、ある選択培地中でその骨髄腫細胞を成長不可能にして、その選択培地は所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの成長を支援する。
【0254】
当業者に公知であるように、多数の骨髄腫細胞のうち任意の1つを使用できる(Goding,1986; Campbell, 1984)。例えば、免疫された動物がマウスである場合は、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/l.Ag 4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG 1.7およびS194/5XXO Bulを使用でき;ラットについてはR210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3、IR983Fおよび4B210を使用でき;かつU-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2およびUC729-6は細胞融合に関連してすべて有用である。
【0255】
抗体を産生する脾臓またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞とのハイブリッドを生成させるための方法は、細胞膜の融合を促進する薬剤(群)(化学的または電気的)の存在下で、体細胞と骨髄腫細胞とを2:1の比で混合することを通常は含むが、その比はそれぞれ約 20:1から約1:1まで変動しうる。センダイウイルスを使用した融合法(Kohler and Milstein, 1975; 1976)、およびGefterら、(1977)により37%(v/v)ポリエチレングリコール(PEG)のようなPEGを使用した融合法が記載されている。電気的に誘導した融合法の使用も適切である(Goding, 1986)。
【0256】
融合法は、通常生存可能なハイブリッドを約1×10-6から1×10-8の低頻度で生み出す。しかし、選択培地中で培養することによって、生存可能な融合したハイブリッドが親の未融合細胞(特に普通は無限に分裂し続けるであろう未融合の骨髄腫細胞)から分化することから、このことは問題を提起しない。選択培地は、一般に組織培養培地中でヌクレオチドのデノボ合成を遮断する薬剤を含有する培地である。例示的かつ好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキサートおよびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキサートは、プリンおよびピリミジン両方のデノボ合成を遮断するが、一方アザセリンはプリンの合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキサートが使用される場合、培地にはヌクレオチドの供給源としてヒポキサンチンおよびチミジンが補充される(HAT培地)。アザセリンが使用される場合、培地にはヒポキサンチンが補充される。
【0257】
好ましい選択培地はHATである。ヌクレオチドのサルベージ経路を作動可能な細胞だけがHAT培地中で生存できる。骨髄腫細胞はサルベージ経路の主要な酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を欠損しており、生存することができない。B細胞はこの経路を作動できるが、培養状態で限られた寿命しか有さず、一般に約2週間以内に死滅する。したがって、選択培地中で生存できる唯一の細胞は、骨髄腫細胞とB細胞とから形成されたハイブリッドである。
【0258】
この培養は、ハイブリドーマ集団を提供し、そこから特異的ハイブリドーマが選択される。概して、マイクロタイタープレートで単一クローンまで希釈して細胞を培養し、それから所望の反応性について個別のクローンの上清を(約2、3週間後に)検査することによってハイブリドーマの選択が行われる。アッセイは、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドットイッムノバインディング(immunobinding)アッセイなどのように高感度、簡便および迅速であるべきである。
【0259】
選択されたハイブリドーマは、次に系列希釈され、個別の抗体産生細胞系にクローニングされるであろう。次に、そのクローンを無限に増殖させてmAbを提供することができる。2つの基本的な方法でmAb産生のために細胞系を活用できる。体細胞および骨髄腫細胞に本来の融合を提供するために使用された種類の組織適合性動物に、ハイブリドーマの試料を注射(しばしば腹腔内に)できる。注射された動物は、融合した細胞ハイブリッドにより産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発現する。血清または腹水のような、その動物の体液を次に採取して高濃度でmAbを提供することができる。個別の細胞系をインビトロでも培養でき、そこからmAbは自然に培地に分泌され、その培地からmAbを高濃度で容易に得ることができる。所望であれば、いずれかの手段で産生されたmAbを、濾過、遠心分離およびHPLCまたはアフィニティクロマトグラフィーのような様々なクロマトグラフィー法を使用してさらに精製することができる。
【0260】
VIII. 定義
本明細書で使用する用語「心不全」は、心臓が血液を送出する能力を低下させる任意の状態を意味するために広く使用される。結果として、うっ血および浮腫が組織に発現する。最も頻繁には、心不全は冠血流の低下に起因する心筋の収縮性の減少に引き起こされるが、心臓弁への損傷、ビタミン欠乏および原発性心筋疾患を含めた他の多くの要因も心不全をもたらしうる。心不全の正確な生理学的メカニズムが完全に理解されているわけではないが、心不全は交感神経、副交感神経および圧受容体応答を含めたいくつかの心臓自律神経の特性での障害を伴うと一般に考えられている。句「心不全の症状発現」は、心不全に関連した検査所見を含めた息切れ、圧痕浮腫、肥大して圧痛を認める肝臓、頚静脈うっ血(engorged neck veins)、肺ラ音などのような心不全に関連する続発症のすべてを包含するために広く使用される。
【0261】
用語「治療」または文法的に同等な語は、心不全の症状(すなわち心臓が血液を送出する能力)の改善および/または回復を包含する。心臓の「生理学的機能の改善」は、本明細書に記載する任意の測定(例えば駆出分画、左室内径短縮率、左室内径、心拍など)および動物の生存に及ぼす任意の作用を使用して評価することができる。動物モデルの使用では、治療されたトランスジェニック動物および未治療のトランスジェニック動物の応答とを、本明細書に記載する任意のアッセイを使用して比較する(追加的に、治療および未治療の非トランスジェニック動物も対照として含めることができる)。本発明のスクリーニング法に使用した、心不全に関連した任意のパラメータでの改善を引き起こす化合物を、これによって治療化合物として同定することができる。
【0262】
用語「化合物」および「化学薬剤」は、疾患、疾病、病気、または身体機能の障害を治療または予防するために使用できる任意の化学実体、医薬品、薬物などを指す。化合物および化学薬剤は、公知の治療化合物および潜在的な治療化合物の両方を含む。本発明のスクリーニング法を使用したスクリーニングによって、化合物または化学薬剤を治療的であると決定することができる。「公知の治療化合物」は、そのような治療で(例えば動物治験または以前にヒトに投与した経験により)有効であると示された治療化合物を指す。言い換えると、公知の治療化合物は心不全の治療に効能を有する化合物に限定されない。
【0263】
本明細書で使用する用語「心肥大」は、成体の心筋細胞が肥大成長によるストレスに応答する過程を指す。そのような成長は、細胞分裂を伴わない細胞サイズの増加、細胞内で追加のサルコメアが集合して力の発生を最大にすること、および胎児心臓遺伝子プログラムの活性化を特徴とする。心肥大は、罹患率および死亡率の危険性の増加と関連することが多く、よって、心肥大の分子メカニズムを理解することを目的とした研究は、ヒトの健康に重要な影響を与えうる。
【0264】
本明細書で使用する用語「調節因子」は、作動薬または阻害薬のいずれかを指す場合があり、上記のような生物学的活性を変化または改変することが可能である任意の分子または化合物を指す。調節因子は、「作動薬」または「アンタゴニスト」である可能性があり、これらの用語は、心不全、PPHまたは心肥大に関与しうる細胞性因子の作用を阻害または改変または修飾する分子、化合物または核酸をさらに指しうる。調節因子は、コンホメーション、電荷または他の性質に関して天然化合物と相同である場合もあるし、または、そうでない場合もある。このように、調節因子は作動薬またはアンタゴニストに認識される同一または異なる受容体によって認識されうる。アンタゴニストは作動薬の作用を防止するアロステリック効果を有しうる。または、アンタゴニストは作動薬の機能を防止しうる。作動薬とは対照的に、拮抗化合物は細胞内に病理学的および/または生化学的変化をもたらさないため、その細胞は細胞性因子が存在するかのようにアンタゴニストの存在に対して反応する。アンタゴニストおよび阻害薬には、受容体、分子および/または対象となる経路と結合または相互作用するタンパク質、核酸、糖質または他の任意の分子がある。
【0265】
本明細書で使用する用語「調節する」は、生物学的活性の変化または改変を指す。調節は、タンパク質の活性の増加または減少、キナーゼ活性の変化、結合特性の変化であるか、または対象となるタンパク質もしくは他の構造の活性に関連する、生物学的、機能的もしくは免疫学的性質における他の任意の変化でありうる。
【0266】
本明細書で使用する用語「遺伝子型」は、生物の実際の遺伝子構成を指し、一方で、「表現型」は個体に表出される物理的形質を指す。さらに、「表現型」はゲノムの選択的発現(すなわち細胞の履歴の発現および細胞外環境に対するその応答)の結果である。実際に、ヒトゲノムは推定30,000〜35,000個の遺伝子を含む。それぞれの細胞の種類で、これらの遺伝子のうちわずかな割合(すなわち10〜15%)だけが発現する。
【0267】
本明細書で使用される「化合物18264」は、3-メチル-2-フェニル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ベンゾ[4,5]チエノ[2,3-b]ピリジン-4-イルアミンを指す。
【0268】
本明細書で使用される「化合物20068」は、2-フェニル-キノリン-4-イルアミンを指す。
【0269】
IX. 実施例
下記の実施例は、本発明の様々な局面をさらに例証するために含まれる。以下の実施例に開示された技法は本発明者によって発見された技法および/または組成物が本発明の実施にうまく機能することを表し、よって、その実施に関して好ましい様式を構成すると見なせることを、当業者は認識すべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、開示された特定の態様に多くの変化が加えられうるが、本発明の精神および範囲から逸脱することなしに同様または類似の結果が依然得られることを認識すべきである。
【0270】
A. 実施例1-材料および方法
NRVMの培養
新生ラット心室筋細胞(NRVM)を調製するために、新生(1〜2日齢)Sprague-Dawleyラット10〜20匹から心臓を取り出した。単離した心筋をプールし、細かく刻み、II型コラゲナーゼ(65ユニット/ml、Worthington)およびパンクレアチン(0.6mg/ml、GibcoBRL)を含有するAds緩衝液(116mM NaCl、20mM HEPES、10mM NaH2PO4、5.5mMグルコース、5mM KCl、0.8mM MgSO4、pH7.4)に入れ、37℃で20分間3回のインキュベーションにより分散させた。分散した細胞を40.5%および58.5%(v/v)Percoll(Amersham Biosciences)の不連続勾配に適用し、遠心分離して、界面層から筋細胞を収集した。筋細胞調製物を、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS、HyClone)、4mM L-グルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Cellgro)中で37℃で1時間、プレートで前培養して線維芽細胞の混入を減らしてから、0.2%(w/v)ゼラチン溶液を被覆した6ウェル組織培養プレートでウェル1個あたり細胞2.5×105個の密度で(または96ウェル組織培養プレートで細胞10,000個/ウェルで)培養した。24時間培養した後、筋細胞調製物を無血清維持培地(0.1%(v/v)Nutridoma(Roche)、L-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM)に移した。特に述べた場合は、NRVMを被験化合物で48時間処理した。免疫蛍光の適用のために、NRVM培養物を固定して、骨格筋型αアクチンおよび心房ナトリウム利尿因子に対する一次抗体と共にインキュベートし、次にローダミンまたはフルオレセインと複合させた二次抗体と共にインキュベートした。HDAC局在アッセイのために、NRVMを底の透明な96ウェルプレートで培養して、緑色蛍光タンパク質と融合したHDAC5をコードする組換えアデノウイルスを一晩感染させた(感染多重度=50)。翌日、培地を無血清維持培地に4時間交換し、被験化合物を添加した。2時間後にNRVMを固定して蛍光顕微鏡により撮像した。
【0271】
細胞ブロットによるβミオシン重鎖タンパク質の定量
96ウェルプレートでNRVMを一晩培養した。翌日、培地を無血清維持培地に4時間交換して、被験化合物を添加した。48時間後にウェルを100ml/ウェルのPBSで2回洗浄し、洗浄と洗浄との間に吸引を行った。100ml/ウェルのメタノールを30分間添加することで細胞を固定した。メタノールを吸引して、100ml/ウェルのPBSでウェルを2回洗浄した。次に、100ml/ウェルのブロッキング溶液(PBS+1%BSA)を室温で1時間添加した。ブロッキング溶液を吸引して50ml/ウェルの一次抗体溶液を室温で1時間添加した(βミオシン重鎖ハイブリドーマの上清+1%BSA)。一次抗体溶液を除き、ウェルを100ml/ウェルのPBS+1%BSAで3回洗浄した。洗浄液を吸引して、50ml/ウェルの二次抗体溶液(ヤギ抗ウサギHRP結合体をPBS+1%BSAで1:500希釈;Southern Biotech #4050-05)を室温で1時間添加した。二次抗体溶液を除き、ウェルを100ml/ウェルのPBSで3回洗浄した。洗浄液を吸引して、50ml/ウェルのルミノール溶液を添加した(Pierce #34080)。96ウェル用ルミノメータ(Packard Fusion)でプレートを読み込んだ。
【0272】
Affymetrixによるスクリーニング
未刺激のNRVM、および化合物18264(1mM)(Trizol Reagent、GibcoBRL)に曝露した肥大NRVMからRNAを抽出した。RNA試料をビオチン標識cRNAに変換して、ラット発現アレイ(Affymetrix GeneChip)とハイブリダイズさせた。次にアレイを洗浄し、スキャンして製造業者の使用説明書に従って定量した。
【0273】
ウエスタンブロット
タンパク質試料の調製のために、プロテアーゼ阻害薬(1mM AEBSF、10mg/mlアプロチニン、0.1mMロイペプチン、2mM EDTA)を補充した抽出緩衝液(50mMトリス(pH7.5)、150mM NaCl、1%Triton X-100、0.5%デオキシコール酸、0.1%SDS)に培養細胞を溶解させた。左室試料を液体窒素下で摩砕し、プロテアーゼ阻害薬を含有する抽出緩衝液に溶解させた。ホモジネートを4℃で16,000×gで10分間遠心分離して、上清を回収した。ビシンコニン酸法(BCA Protein Assay, Pierce)で、標準としてウシ血清アルブミンを用いてタンパク質濃度を決定した。等量のタンパク質試料(10mg/レーン)をLaemmli緩衝液中で変性させて、トリス-グリシンSDS-PAGEゲル(アクリルアミド4〜20%の勾配、Invitrogen)で分割した。分割後のタンパク質をニトロセルロース膜に移し、5%脱脂粉乳でブロッキングして、5%脱脂粉乳を補充したウサギポリクローナルMCIP1一次抗体(TBST; 50mMトリス(pH7.5)、150mM NaCl、0.1%Tween-20で希釈)で探査した。膜を洗浄し、ヤギ抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Southern Biotechnology Associates)で探査し、増強化学ルミネセンス(SuperSignal試薬、Pierce)用に加工した。免疫応答性バンド像のデンシトメトリー分析をChemiImager(Alpha Innotech)を使用して行った。
【0274】
肥大および毒性のアッセイ
NRVMに関する肥大の一次評価項目には、ANFの分泌、細胞の総タンパク質および細胞容積の定量がある。培地上清中のANFを、モノクローナル抗ANF抗体(Biodesign)およびビオチン化ANFペプチド(Phoenix Peptide)を使用した競合ELISAにより定量した。細胞の総タンパク質を、標準的なクマシー色素結合アッセイにより定量した。タンパク質アッセイ試薬(BioRad)で細胞を溶解させ、A595での吸光度を1時間後に測定した。細胞容積の測定について、6ウェルのディッシュに培養したNRVMをトリプシン(Cellgro)を用いた処理により採集した。遠心分離による回収後に、細胞のペレットをPBSで洗浄し、IsoFlow電解質溶液(Beckman-Coulter)10mlに再懸濁して、Z2 Coulter Particle CounterおよびSize Analyzer(Beckman-Coulter)で分析した。培地への培養NRVMからのアデニル酸キナーゼ(AK)の放出を測定することにより細胞毒性を定量した(ToxiLight Kit, Cambrex)。
【0275】
受容体結合アッセイ
MDS Pharmaのサービスにより受容体結合アッセイを実施した。アッセイは以下を含んだ:アデノシンA1(カタログ番号200510)、アデノシンA2A(カタログ番号200610)、アデノシンA3(カタログ番号200720)、α1アドレナリン(カタログ番号203500)、イミダゾリンI2中枢(カタログ番号241000)、イミダゾリンI2末梢(カタログ番号241100)、イノシトール三リン酸(カタログ番号242500)、ホルボールエステル(カタログ番号264500)、5-HT 2B(カタログ番号271700)、および5-HT 4(カタログ番号272000)。
【0276】
B. 実施例2-結果
心筋細胞でのMCIP1の発現を増加させる低分子に関するハイスループットスクリーニング
本発明者らは、培養H9c2筋細胞でのMCIP1の発現を増加可能な化合物に関する低分子コンビナトリアルライブラリーのハイスループットスクリーニングを実施した。その目的に向けて、本発明者らはヒトMCIP1遺伝子のエキソン4の上流領域(-874〜+30)により制御されるルシフェラーゼレポーター遺伝子を使用した。このゲノム領域は、15個のNFAT結合部位を含み、MCIP1にカルシニューリン応答性を付与する。エキソン4から開始する転写物は、Mr=28kDのMCIP1タンパク質をコードする。
【0277】
20,000個の個別の化合物の選別では、化合物18264は、MCIP1-ルシフェラーゼの発現を約2倍刺激した。MCIP1エキソン4プロモーターを刺激する能力と一致して、18264は心筋細胞における28kDの短鎖型MCIP1の発現の特異的増加を誘導したが、代替エキソン1から開始する長鎖型MICP1にはほとんど作用を及ぼさなかった(図1)。
【0278】
18264による心筋肥大の刺激
本発明者らは、初代新生ラット心筋細胞に及ぼす化合物18264の作用を検査した。図2に示すように、18264は心筋肥大の並はずれた強力な誘導物質である。それを心筋細胞に添加してから数分以内に、迅速な収縮が始まり、12時間以内に心筋細胞は顕著な拡大およびサルコメアの集合を示した。18264は、心筋細胞肥大の高感度マーカーであるANFの発現も上方制御した(図3)。18264は心筋細胞肥大の他の2つの主要な指標である、細胞の総タンパク質(図4)、および細胞容積(図5)を増加させた。さらに、化合物18264は、心肥大に関連した遺伝子発現の変化である胎児型ミオシン重鎖βアイソフォームの発現を有意に上方制御した(図6)。
【0279】
心筋細胞に及ぼす18264の作用をさらに検討するために、本発明者らは、その化合物で、およびαアドレナリン受容体を介して作用する強力な肥大作動薬であるフェニレフリンで処理した細胞での遺伝子発現パターンを比較した。2つの作動薬の存在下での遺伝子発現パターンは極めて類似していた。これら2つの作動薬に対する遺伝子応答性の順序も極めて類似していた。MCIP1はPEおよび18264で約3倍上方制御され、これはレポーター遺伝子およびウエスタンブロットアッセイの結果と一致している。18264およびPEは、同遺伝子の下方制御もほぼ同程度誘導した。18264およびフェニレフリンに依存した肥大の際に誘導されることが観察された一部の遺伝子のまとめを以下の表4に挙げる。
【0280】
(表4)

【0281】
18264経路とクラスII HDACとの交差
クラスII HDACは心肥大を抑制し、N末端調節領域での2つの決定的なセリン残基のリン酸化を介した肥大シグナルにより不活性化される。カルシウム依存性タンパク質キナーゼによるこれらの部位のリン酸化は、核からのHDACの運び出しおよび肥大遺伝子プログラムの活性化に至る。18264が筋細胞の肥大を誘導するメカニズムをさらに探索するために、本発明者らは18264が核からのHDACの運び出しを引き起こすかどうかを調べた。18264のシグナル伝達経路がクラスII HDACのリン酸化を伴って最高に達するという結論と一致して、HDAC5-GFP融合タンパク質は、18264に応答して核から細胞質に運ばれた(図7)。これらの知見は、18264に応答した肥大がHDAC5標的遺伝子の転写活性化を必要とすること、およびクラスII HDACでの調節部位をリン酸化するキナーゼ(またはキナーゼ群)を刺激することによって18264が作用することを示唆している。
【0282】
18264の標的の同定
本発明者らは、18264の細胞標的を同定する目的で、18264の活性に及ぼす様々な低分子阻害薬および活性化物質の作用を調べた。シクロスポリンAは、18264が心臓MCIP1の発現を誘導する能力を弱めるが(図8)、これは、18264が筋細胞の肥大を誘導する経路において、カルシニューリンが必須の下流のエフェクターであることを示唆している。セロトニンアンタゴニストも評価した。5-HT2受容体選択的アンタゴニストであるケタンセリンは、心臓MCIP1タンパク質の18264依存性増加を弱めた(図9)。これは、非選択的5-HT受容体アンタゴニストであるシプロヘプタジンと同様であった(図10)。さらに、ケタンセリンおよびシプロヘプタジンは、ANFの分泌の減少により測定されるように、18264に依存した心筋細胞の肥大を遮断できた(図11および図12)。これらの知見は、18264が5-HT2受容体に対する作動薬として作用することを示唆しており、5-HT2受容体は、ホスホリパーゼCと共役して細胞内カルシウムシグナル伝達の活性化をもたらすことが示されている。
【0283】
どの特異的受容体に18264が結合できるのか、さらに正確に確定するために、多様な哺乳動物受容体に関して放射性リガンド結合アッセイを実施した。下記表5に示すように、化合物18264は5-HT2クラスの受容体に選択的に結合した。5-HT1または5-HT4受容体に関して有意な結合は観察されなかった。
【0284】
(表5)5-HT2受容体に対する化合物18264の結合

11個の受容体に関する放射性リガンド結合アッセイの一覧。データは10μM 18264の存在下でのリガンド結合の阻害率(%)を表す(n=2)。
【0285】
化合物18264の作用に拮抗する構造アナログである20068の同定
18264の数個の構造アナログの性質を検討する過程で、本発明者らは化合物20068が18264のアンタゴニストとして機能できると確定した。化合物20068は、特定の作業範囲で心筋細胞に対して無毒であることが立証された。すなわち3マイクロモル濃度までの濃度で肥大刺激の存在下または非存在下で有意な細胞毒性はまったく観察されなかった(図13)。20068は心筋細胞での18264の活性に拮抗し、18264に依存したMCIP1タンパク質の増加を用量依存的に遮断した(図14)。ANFの分泌(図15)、または核からのHDAC5の運び出し(図16)により測定されたように、20068は18264に依存した心筋細胞の肥大を遮断することにも有効であった。細胞の総タンパク質(図17)、または細胞容積(図18)により測定されるように、20068はフェニレフリンが誘導する心筋細胞肥大も軽減した。18264と同様に、化合物20068は5-HT2受容体に選択的に結合することが見出された。
【0286】
(表6)化合物20068は5-HT2受容体に選択的に結合する

3種の受容体に関する放射性リガンド結合アッセイのまとめ。データは10μM 20068の存在下でのリガンド結合の阻害率(%)を表す(n=2)。
【0287】
これらのデータは、18264および20068が特定のサブセットのセロトニン受容体、すなわち5-HT2受容体に選択的に作用することによって作用を発揮することを示している。この仮説と一致して、非選択的作動薬であるセロトニンを用いたすべての5-HT受容体群の刺激は、MCIP1の発現を誘導しなかった(図19)。これは、化合物18264の肥大促進作用がセロトニン受容体の一サブセットを介して媒介されることを示唆している。まとめると、本データは、5HT-2Rのシグナル伝達の選択的阻害が一般に心肥大を抑制し、治療上の有益性を有しうることを示唆している。
【0288】
治療上の潜在的重要性
18264および20068の生物学的活性は、カルシニューリンの活性化およびMCIPの発現に至るシグナル伝達経路の解明を助けるだけでなく、筋肉細胞の成長の、薬理学的な刺激および阻害に関する興味深い可能性も提起する。例えば18264のような5-HT2R作動薬は、心不全または骨格筋消耗障害の背景での筋細胞の代償性肥大を促進しうると想像できる。逆に、20068のような5-HT2Rアンタゴニストは、肥大性心筋症または肺高血圧症に関連した病型の心肥大を遮断するのに効能を有することが立証されうる。
【0289】
本明細書に開示および請求された組成物および方法のすべては、本開示に照らして過度の実験を行わずに作成および実行されうる。本発明の組成物および方法を好ましい態様により記載したが、それらの組成物および方法に、ならびに本明細書に記載した方法の段階または連続した段階に、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく変形が適用されうることは、当業者に明白であろう。さらに具体的には、化学的および生理学的の両方で関係するある薬剤を、本明細書に記載した薬剤と置き換えうるが、同様または類似の結果が実現されるであろうことは明白であろう。当業者に明白なそのようなすべての類似した置換および変更は、添付の特許請求の範囲に定義されるように本発明の精神、範囲および概念の内部にあるとみなされる。
【0290】
X. 参考文献
下記の参考文献は、本明細書に示される詳細を補足する例示的な手順などの詳細を提供する程度に、参照として本明細書に具体的に組み入れられる。


欧州特許出願第0273085号
欧州特許第1,123,111号
欧州特許第1,170,008号
欧州特許第1,173,562号
欧州特許第1,174,438号
欧州特許第1,208,086号
欧州特許第1,233,958号





PCT出願第WO84/03564号
PCT出願第WO98/33791号
PCT出願第WO99/32619号
PCT出願第WO00/44914号
PCT出願第WO01/14581号
PCT出願第WO01/18045号
PCT出願第WO01/36646号
PCT出願第WO01/38322号
PCT出願第WO01/42437号
PCT出願第WO01/68836号
PCT出願第WO01/70675号
PCT出願第WO02/26696号
PCT出願第WO02/26703号
PCT出願第WO02/30879号
PCT出願第WO02/46129号
PCT出願第WO02/46144号
PCT出願第WO02/50285号
PCT出願第WO02/51842号


米国特許出願第2002/61860号
米国特許出願第2002/65282号
米国特許出願第2002/103192号
米国特許出願第2002/256221号
米国特許第6,372,957号
米国特許第5,889,136号
米国特許第5,795,715号
米国特許第5,708,158号
米国特許第5,604,251号
米国特許第5,354,855号
米国特許第4,883,812号
米国特許第4,458,066号
米国特許第4,415,732号
米国特許第4,256,108号
米国特許第4,166,452号
米国特許第4,265,874号


【図面の簡単な説明】
【0291】
下記の図面は本明細書の部分を形成し、本発明のある局面をさらに実証するために含まれる。本明細書に表示した特定の態様の詳細な説明と組み合わせて、1つまたは複数のこれらの図面を参照することによって、本発明をよりよく理解することができる。
【図1】化合物18264は、28kDaのカルシニューリン調節性MCIP1タンパク質の心臓での発現を誘導することを示す。未刺激の新生ラット心室筋細胞(NRVM)および化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMから単離したタンパク質に対する、抗MCIP1一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。ブロットを、負荷量対照(loading control)として抗カルネキシン(ハウスキーピング遺伝子)抗体と共にインキュベートした。
【図2】化合物18264は、心筋細胞の肥大、細胞骨格の編成および心房ナトリウム利尿因子の発現を誘導することを示す。未刺激NRVMおよび化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMの免疫蛍光顕微鏡写真。赤色=骨格筋型αアクチン;緑色=心房ナトリウム利尿因子。
【図3】化合物18264は、心房ナトリウム利尿因子の分泌によって測定されるように、心筋細胞の肥大を誘導することを示す。未刺激および18264で刺激したNRVMにおけるANFの分泌の定量。ANF(ng/ml)(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図4】化合物18264は、細胞の総タンパク質の増加によって測定されるように心筋細胞の肥大を誘導することを示す。未刺激NRVMおよび18264で刺激したNRVMにおける細胞の総タンパク質の定量。A595(±S.E.)での総タンパク質の吸光度としてプロットしたデータ。
【図5】化合物18264は、細胞容積の増加によって測定されるように、心筋細胞の肥大を誘導することを示す。未刺激NRVMおよび18264で刺激したNRVMの細胞容積の測定。PE(20μM)を陽性対照として含めた。フェムトリットル単位(±S.E.)の細胞容積としてプロットしたデータ。
【図6】化合物18264は、ミオシン重鎖の胎児型アイソフォーム(βミオシン)の発現を誘導することを示す。未刺激NRVMおよびフェニレフリン(PE, 20μM、陽性対照)または18264(1μM)で刺激したNRVMにおける細胞ブロットによるβミオシン重鎖タンパク質の相対発現の定量。未刺激対照に対するβミオシンタンパク質の発現の変化倍率(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図7】化合物18264は、核からのHDACの運び出しを誘導することを示す。GFP-HDAC5を発現しているNRVMの蛍光顕微鏡観察。HDACは未刺激NRVM(左上の欄)の核に局在しているが、PE(20μM、陽性対照)または18264(1μM)で2時間刺激したNRVMでは細胞質に移動する。
【図8】18264に依存した心臓MCIP1タンパク質の発現誘導は、カルシニューリン阻害薬であるシクロスポリンA(CsA)により軽減することを示す。未刺激NRVMと、CsA(500nM)の存在下または非存在下で化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMとから単離したタンパク質に対する、抗MCIP1一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。
【図9】18264に依存した心臓MCIP1タンパク質の発現誘導は、セロトニンアンタゴニストケタンセリンにより軽減することを示す。未刺激NRVMと、ケタンセリン(0、0.3および3μM)の存在下で化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMとから単離したタンパク質に対する、抗MCIP1一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。
【図10】18264に依存した心臓MCIP1タンパク質の発現誘導は、セロトニンアンタゴニストシプロヘプタジンにより軽減することを示す。未刺激NRVMと、シプロヘプタジン(0、0.3および3μM)の存在下で化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMとから単離したタンパク質に対する、抗MCIP1一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。
【図11】18264に依存した心臓ANFの分泌は、セロトニンアンタゴニストケタンセリンにより軽減することを示す。未刺激NRVMおよびケタンセリン(0、0.3および3μM)の存在下で化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMにおけるANF分泌の定量。ANF(ng/ml)(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図12】18264に依存した心臓ANFの分泌は、セロトニンアンタゴニストシプロヘプタジンにより軽減することを示す。未刺激NRVMおよびシプロヘプタジン(0、0.3および3μM)の存在下で化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMにおけるANF分泌の定量。ANF(ng/ml)(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図13】化合物20068は、培養心筋細胞に有意な細胞毒性を生じないことを示す。漸増する濃度の化合物20068(0、0.1、0.3、1および3μM)と共に48時間培養した、PE(20μM)で刺激したNRVMにおけるアデニル酸キナーゼ(AK)の放出による細胞毒性の定量。NRVMを0.1%Triton X-100で処理することによって提供される細胞毒性に関する陽性対照(点線、約6.5倍の増加)。未刺激の化合物20068を加えない対照に対するAK放出の変化倍率(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図14】18264に依存した心臓MCIP1タンパク質の発現誘導は、18264の構造アナログである化合物20068により軽減することを示す。未刺激NRVMと、化合物20068(0、1および3μM)の存在下で化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMとから単離したタンパク質に対する、抗MCIP1一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。
【図15】18264に依存した心臓ANFの分泌は、化合物20068により軽減することを示す。化合物20068(0、0.1、0.3、1および3μM)の存在下で化合物18264(1μM)で48時間刺激したNRVMにおけるANF分泌の定量。ANF(ng/ml)(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図16】18264に依存した核からのHDACの運び出しは、化合物20068によって遮断されることを示す。GFP-HDAC5を発現するNRVMの蛍光顕微鏡観察。未刺激NRVMではHDACは核に局在する(左欄)が、18264(1μM)で2時間刺激したNRVMでは細胞質に移動する(中央の欄)。18264に曝露する前に、20068(2μM)で1時間前処理したNRVMでは、HDACは核に残る。
【図17】化合物20068は、PEに依存した細胞の総タンパク質の増加を軽減することを示す。未刺激NRVMおよび漸増する濃度の化合物20068(0、0.1、0.3、1および3μM)に48時間曝露したPE(20μM)で刺激したNRVMにおける細胞の総タンパク質の定量。A595での総タンパク質の吸光度(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図18】化合物20068は、PEに依存した心筋細胞の容積増加を軽減することを示す。未刺激NRVMおよび漸増する濃度の化合物20068(0、0.1、0.3、1および3μM)に48時間曝露したPE(20μM)で刺激したNRVMの細胞容積の測定。20068 3μMを用いた処理は、PEに依存した心筋細胞の細胞容積の増加を49%低下させた。フェムトリットル単位の細胞容積(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図19】セロトニンは心臓MCIP1タンパク質の発現を誘導しないが、一方化合物20068はカルシニューリン応答性の28kDaのMCIP1タンパク質の発現を選択的に軽減することを示す。未刺激のNRVM、および、化合物18264(1μM)、化合物20068(3μM)、または漸増する濃度のセロトニン(0、0.1、1および10μM)で48時間刺激したNRVMから単離されたタンパク質に対する、抗MCIP1一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。セロトニン単独では、心肥大もMCIP1の発現も誘導せず、これは、化合物18264の肥大促進効果がセロトニン受容体の一サブセットを介して媒介されることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、哺乳動物における心血管疾患または筋萎縮を治療する方法:
(a)心血管疾患または筋萎縮を有する対象を同定する段階;および
(b)該対象に5-HT2受容体の調節因子を投与する段階。
【請求項2】
調節因子が5-HT2a受容体に作用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
調節因子が5-HT2b受容体に作用する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
調節因子が5-HT2c受容体に作用する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
調節因子が1つより多い5-HT2受容体に作用する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
1つより多い5-HT2受容体が、5-HT2aおよび5-HT2b受容体からなる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
1つより多い5-HT2受容体が、5-HT2aおよび5-HT2c受容体からなる、請求項5記載の方法。
【請求項8】
1つより多い5-HT2受容体が、5-HT2bおよび5-HT2c受容体からなる、請求項5記載の方法。
【請求項9】
心血管疾患が、心不全、心肥大または原発性肺高血圧症からなる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
調節因子が、抗体、RNAi、リボザイム、ペプチド、低分子、アンチセンス分子、3-メチル-2-フェニル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ベンゾ[4,5]チエノ[2,3-b]ピリジン-4-イルアミンおよび2-フェニル-キノリン-4-イルアミンからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
抗体が、モノクローナル、ポリクローナルもしくはヒト化抗体、Fabフラグメントまたは一本鎖抗体である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
投与が調節因子の静脈内投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
投与が、調節因子の経口、経皮、徐放、坐剤または舌下投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
対象に第二の治療方式を投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
第二の治療方式が、ベータ遮断薬、イオントロプ(iontrope)、利尿薬、ACE-I、AIIアンタゴニスト、ヒストンデアセチラーゼ阻害薬、Ca(++)遮断薬およびTRPチャネル阻害薬からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
第二の治療方式が調節因子と同時に投与される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
第二の治療方式が調節因子の前または後のいずれかに投与される、請求項15記載の方法。
【請求項19】
治療が心肥大の1つまたは複数の症状を改善する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
1つまたは複数の症状が、増加した運動耐容能、増加した血液駆出量、左室拡張末期圧、肺毛細管楔入圧、心拍出量、心係数、肺動脈圧、左室収縮末期径および拡張末期径、左室および右室の壁応力(wall stress)、または壁張力(wall tension)、生活の質(quality of life)、疾患関連罹患率および死亡率を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
治療が心不全の1つまたは複数の症状を改善する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
1つまたは複数の症状が、進行性のリモデリング(remodeling)、心室拡張、減少した心拍出量、ポンプ性能障害、不整脈、線維症、壊死、エネルギー枯渇およびアポトーシスを含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
治療が原発性肺高血圧症の1つまたは複数の症状を改善する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
1つまたは複数の症状が、息切れ、右心室不全、減少した運動耐容能、上昇した右心室収縮期圧、上昇した肺動脈収縮期圧、呼吸困難、失神、浮腫、チアノーゼおよびアンギナを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
治療が筋萎縮の1つまたは複数の症状を改善する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項26】
1つまたは複数の症状が、筋力低下、筋肉の疼痛、筋けいれん、筋肉痛、麻痺、けい縮、発作または協調性の問題を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
以下を含む、筋萎縮、心肥大、原発性肺高血圧症または心不全を予防する方法:
(a)筋萎縮、心肥大、原発性肺高血圧症または心不全の危険性がある患者を同定する段階;および
(b)該患者に5-HT2受容体の調節因子を投与する段階。
【請求項28】
5-HT2受容体が、5-HT2a、5-HT2bまたは5-HT2c受容体を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
5-HT2受容体が1つより多い5-HT2受容体を含む、請求項27記載の方法。
【請求項30】
1つより多い5-HT2受容体が5-HT2aおよび5-HT2b受容体を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
1つより多い5-HT2受容体が5-HT2aおよび5-HT2c受容体を含む、請求項29記載の方法。
【請求項32】
1つより多い5-HT2受容体が5-HT2bおよび5-HT2c受容体を含む、請求項29記載の方法。
【請求項33】
投与が5-HT2受容体調節因子の静脈内投与を含む、請求項27記載の方法。
【請求項34】
投与が、経口、経皮、徐放、坐剤または舌下投与を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
危険性がある患者が、長年の制御不良の高血圧、矯正されていない弁疾患、慢性アンギナおよび/または最近の心筋梗塞のうち1つまたは複数を示しうる、請求項26記載の方法。
【請求項36】
5-HT2受容体の調節因子が、抗体、RNAi、リボザイム、ペプチド、低分子、アンチセンス分子、3-メチル-2-フェニル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ベンゾ[4,5]チエノ[2,3-b]ピリジン-4-イルアミンおよび2-フェニル-キノリン-4-イルアミンからなる、請求項27記載の方法。
【請求項37】
抗体が、モノクローナル、ポリクローナルもしくはヒト化抗体、Fabフラグメントまたは一本鎖抗体である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
以下の段階を含む、哺乳動物における筋萎縮、心不全、原発性肺高血圧症または肥大の阻害薬を同定する方法:
(a)5-HT2受容体調節因子を提供する段階;
(b)該5-HT2受容体阻害薬で哺乳動物の筋細胞を治療する段階;および
(c)筋萎縮、心肥大、心不全または原発性肺高血圧症の1つまたは複数のパラメータの発現を測定する段階
であって、該5-HT2受容体調節因子で処理されていない筋細胞における筋萎縮、心肥大、心不全または原発性肺高血圧症の1つまたは複数のパラメータと比較した、該1つまたは複数のパラメータにおける変化により、該5-HT2受容体調節因子が、筋萎縮、心不全、心肥大または原発性肺高血圧症の阻害薬として同定される、段階。
【請求項39】
筋細胞が1つまたは複数の心肥大パラメータに肥大応答を誘発する刺激に供される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
刺激が導入遺伝子の発現である、請求項39記載の方法。
【請求項41】
刺激が化学薬剤を用いた処理である、請求項39記載の方法。
【請求項42】
1つまたは複数の心肥大パラメータが、筋細胞における1つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルを含み、1つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルが心肥大を表示する、請求項38記載の方法。
【請求項43】
1つまたは複数の標的遺伝子が、ANF、a-MyHC、b-MyHC、骨格筋aアクチン、SERCA、チトクロームオキシダーゼサブユニットVIII、マウスT複合体タンパク質(T-complex protein)、インスリン成長因子結合タンパク質、タウ(Tau)微小管関連タンパク質、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼ、Thy-1細胞表面糖タンパク質またはMyHCクラスI抗原からなる群より選択される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
発現レベルが標的遺伝子プロモーターに作動可能に連結しているレポータータンパク質のコード領域を使用して測定される、請求項42記載の方法。
【請求項45】
レポータータンパク質が、ルシフェラーゼ、b-galまたは緑色蛍光タンパク質である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
発現レベルが標的mRNAまたは増幅した核酸産物に対する核酸プローブのハイブリダイゼーションを使用して測定される、請求項38記載の方法。
【請求項47】
筋萎縮または心肥大の1つまたは複数のパラメータが、細胞形態の1つまたは複数の局面を含む、請求項39記載の方法。
【請求項48】
細胞形態の1つまたは複数の局面が、サルコメアの集合、細胞サイズ、細胞融合または細胞の収縮性を含む、請求項46記載の方法。
【請求項49】
筋細胞が単離された無傷組織に含まれる、請求項38記載の方法。
【請求項50】
筋細胞が心筋細胞である、請求項38記載の方法。
【請求項51】
心筋細胞が新生ラットの心室筋細胞である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
心筋細胞が、機能する無傷心筋にインビボで位置する、請求項50記載の方法。
【請求項53】
機能する無傷心筋が、心不全、心肥大または原発性肺高血圧症の1つまたは複数のパラメータにおいて、心不全または肥大応答または原発性肺高血圧症を誘発する刺激に供される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
刺激が、大動脈絞扼、迅速心臓ペーシング、誘導された心筋梗塞、浸透圧ミニポンプまたは導入遺伝子の発現である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
1つまたは複数の心肥大パラメータが、右室駆出分画、左室駆出分画、心室壁厚、心重量/体重の比または心重量標準化測定を含む、請求項54記載の方法。
【請求項56】
筋萎縮または心肥大の1つまたは複数のパラメータが総タンパク質合成を含む、請求項38記載の方法。
【請求項57】
以下の段階を含む、哺乳動物における筋萎縮、心不全、原発性肺高血圧症または肥大の阻害薬を同定する方法:
(a)5-HT2受容体を発現する細胞を提供する段階;
(b)該5-HT2受容体阻害薬を、阻害薬候補物質と接触させる段階;および
(c)該5-HT2受容体の活性または発現に及ぼす阻害薬候補物質の効果を測定する段階
であって、該阻害薬候補物質の非存在下での5-HT2活性と比較した、5-HT2活性における減少により、該阻害薬候補物質が、筋萎縮、心不全、心肥大または原発性肺高血圧症の阻害薬として同定される、段階。
【請求項58】
細胞が筋細胞である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
筋細胞が機能する筋肉細胞にインビボで位置する、請求項58記載の方法。
【請求項60】
筋細胞が心筋細胞である、請求項58記載の方法。
【請求項61】
心筋細胞が機能する無傷心筋にインビボで位置する、請求項60記載の方法。
【請求項62】
発現が5HT-2のmRNAまたは増幅した核酸に対する核酸プローブのハイブリダイゼーションを使用して測定される、請求項57記載の方法。
【請求項63】
発現が5HT-2に対する抗体を使用して測定される、請求項57記載の方法。
【請求項64】
活性が1つまたは複数の標的遺伝子の発現を評価することによって測定され、標的遺伝子の発現が5HT-2受容体の活性化によって刺激される、請求項57記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2007−522107(P2007−522107A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547260(P2006−547260)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/042922
【国際公開番号】WO2005/063220
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【出願人】(506163526)ミオゲン インコーポレイティッド (5)
【Fターム(参考)】