説明

成膜方法

【課題】プラズマCVD法において、結晶性が高く欠陥密度の低いシリコン膜を得ることができ、また成膜速度が高い成膜方法を提供する。
【解決手段】処理容器1の上面にコイル状のアンテナ52を設け、このアンテナ52に高周波電力を印加することにより、処理容器1内上部にプラズマ生成空間を形成する。そしてこのプラズマ生成空間に第1のガス供給部からヘリウムガスを供給することによりヘリウムの活性種を生成する。一方この第1のガス供給部よりも下方にて、第2のガス供給部4からモノシランガスを上方へ向けて吐出する。こうしてヘリウムの活性種とモノシランガスとが混合され、モノシランがプラズマ化される。このプラズマ化されたモノシランを含む混合ガスを基板Sに供給することにより成膜処理を行う。この成膜処理において水素ガスは用いない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランガスをプラズマ化して、シリコン膜を成膜する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜シリコン太陽電池は、バルク型の結晶シリコン太陽電池と比較してシリコンの消費量が少なく、大面積化が比較的容易であり、また製造コストも低いため近年盛んに研究がなされている。例えばタンデム型の薄膜シリコン太陽電池(以下、単に太陽電池という)は、微結晶シリコン膜の上面にアモルファスシリコン膜を積層して、各層で異なる波長域の光を吸収することにより光エネルギーの変換効率を高めたものである。
【0003】
薄膜シリコン太陽電池における発電層となる微結晶シリコン薄膜(μc−Si膜)の成膜方法としては、例えばモノシラン(SH)ガスと水素(H)ガスとを用いて基板上にシリコンを堆積させるプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などが採用されている。この場合のプラズマ源としては、一般的に高周波電源(RF電源)を用いた容量結合プラズマ(CCP;Capacitively Coupled Plasma)が使用されている。
【0004】
このプラズマCVD法において、SiHやH由来の多様な活性種が生成されるが、その中でμc−Si膜を成長させる支配的な活性種はSiHである。一方で、例えばSiやSiH、SiHといったSiH以外の活性種は、未結合手(ダングリングボンド)を持ったまま膜中に取り込まれて、μc−Si膜の欠陥密度の増加を引き起こす。またこれらの活性種が重合してSi2n+2(n=2,3,4・・・)といった高次シランを生成し、これらが膜中へと取り込まれたり、またこの高次シランがさらに成長して微粒子化した状態で取り込まれたりした場合にもμc−Si膜の欠陥密度の増加の要因となる。このためプラズマCVD法において成膜速度を上げていくと、プラズマ中における上述のSiH以外の活性種の割合が増加し、μc−Si膜の結晶性が低下すると共に、欠陥密度が増加するという問題があった。
【0005】
このようにRF電源を用いるプラズマCVD法では、要求されているμc−Si膜の結晶性及び低い欠陥密度を維持したまま成膜速度を上げることが困難であるため、その対策としてCCP電源周波数の超短波(VHF;Very High Frequency)化が提案されているが、大面積基板に対応するためには更なる検討が必要である。
【0006】
特許文献1には、Hガスを活性化させてそのプラズマを生成させると共に、SiHガスをそのプラズマ生成空間よりも基板側に供給して、プラズマとの接触によるSiHの分解を抑えながらHの活性種と反応させることで、活性種中のSiHの割合を高めて成膜することで膜質を向上させる技術が記載されているが、本発明とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−86912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような背景の下になされたものであり、その目的はプラズマCVD法において、結晶性が高く欠陥密度が低いシリコン膜を得ることができ、また成膜速度が高い成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の成膜方法は、
処理容器内に載置された基板に対してプラズマにより成膜を行う方法であって、
前記処理容器内にシラン系のガス及び希釈ガスであるヘリウムガスを供給する工程と、
前記処理容器内に誘導結合プラズマまたはマイクロ波プラズマを生成し、シラン系のガスを活性化させる工程と、
プラズマ化されたシラン系のガスにより前記基板上にシリコン膜を成膜する工程と、を含み、
前記処理容器内には水素ガスが供給されないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、シラン系のガスを分解してシリコン膜を成膜するにあたり、通常使用されている水素ガスを供給せずにヘリウム(He)ガスを希釈ガスとして用い、誘導結合プラズマまたはマイクロ波プラズマによりガスをプラズマ化している。このため後述のようにその作用を推測し、実験例にて裏づけられているように、結晶性が高く欠陥密度が低いシリコン膜を速やかに成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る成膜装置の縦断側面図である。
【図2】前記成膜装置に設けられた第2のガス供給部を示す平面図である。
【図3】前記成膜装置に設けられたプラズマ生成機構を模式的に示す平面図である。
【図4】前記実施形態に係わる作用を模式的に説明する縦断側面図である。
【図5】前記実施形態に係わる作用を模式的に説明する縦断側面図である。
【図6】本発明の実施例に係わる実験結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例に係わる実験結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例に係わる実験結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例に係わる実験結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例に係わる実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)成膜装置を例に説明する。図1中1は、例えば全体が筒状体に構成された処理容器(真空チャンバ)であり、処理容器1のほぼ中央には、例えばフラットパネルディスプレイ用のガラス基板である基板Sを載置するための載置台2が絶縁材21を介して設けられている。この載置台2は、例えば窒化アルミニウム(AlN)もしくはAlにより構成され、内部には冷却媒体を通流させる冷却ジャケット22が設けられている。また、この載置台2内には、冷却ジャケット22と共に温調機構を構成する加熱手段であるヒータ23が設けられている。載置台2の載置面には図示しない静電チャックが設けられており、基板Sを保持することができるように構成されている。
【0013】
処理容器1の上部の側壁には、ヘリウムガスを処理容器1内に供給するための第1のガス供給部3が設けられている。この第1のガス供給部3は、処理容器1の側壁に全周に亘って略均等に穿設された複数のガス供給孔31と、処理容器1の側壁内に全周に亘って設けられ、ガス供給孔31と接続されているバッファ室32とからなる。このバッファ室32は、ガス流路33により、バルブ34及び流量調整部(MFC)35を介して、ヘリウムガスを供給するための第1のガス供給源36に接続されている。
【0014】
処理容器1内には、前記上部空間よりも下方で、かつ載置台2と第1のガス供給部3の高さレベルとの間に、例えば平面形状が略円形状に構成された第2のガス供給部4が設けられている。この第2のガス供給部4は、誘電体により構成されている。この第2のガス供給部4の内部には、図2に示すように、ガス流路網41が格子状に形成されており、そのガス流路網41からは多数のガス供給孔42が第2のガス供給部4の上面(載置台2と反対側の面)に向けて穿設されている。このガス流路網41にはガス供給路43により、バルブ44及び流量調整部(MFC)45を介して、シラン系のガス例えばモノシラン(SiH)ガスを供給するための第2のガス供給源46が接続されている。
【0015】
また第2のガス供給部4には、多数の開口部47が反応ガス流路網41の間隙を縫うように当該第2のガス供給部4を上下に貫通して形成されている。この開口部47は、第2のガス供給部4の上方側領域から下方側領域にガスを通過させるためのものである。
【0016】
処理容器1の天井部は解放されており、この部分にはOリング等のシール部材(図示せず)を介して、活性化手段であるプラズマ生成機構5が設けられている。プラズマ生成機構5は、図1に示すように、第2のガス供給部4に対向するように設けられた誘電体からなるカバープレート51と、カバープレート51の上方(処理容器1の外側)に設けられた導電体例えば渦巻き状のコイルであるアンテナ52、そのアンテナ52の両端間に接続されており、例えば13.56Hzの高周波を発生させる高周波(例えばRF)電源53などからなる。このプラズマ発生機構5は、高周波電源53によりアンテナ52に高周波電流を流すことで高周波磁界を発生させ、その高周波磁界による電磁誘導で発生する誘導電界により、処理容器1の上方空間において高周波放電を起こしてプラズマを生成させる。
【0017】
処理容器1の底部には、排気ポート11が設けられており、この排気ポート11に排気管12が接続されている。この排気管12は、圧力調整部13を介して真空ポンプ14に接続され、処理容器1内を所定の圧力まで真空引きできるようになっている。
処理容器1の下部の側壁には、成膜処理の対象である基板Sの搬入出用の開口部である搬入出口15が設けられており、この搬入出口15はシャッター16により開閉自在に構成されている。
【0018】
本実施形態におけるプラズマ成膜装置には制御部6が設けられており、この制御部6は、高周波電源53の起動及び停止、バルブ34、44の開閉、流量調整部35、45によるガス流量の調整、圧力調整部13による処理容器1内の圧力調整をコントロールする。
【0019】
続いて本実施形態の作用について、基板S上に微結晶シリコン薄膜(μc−Si膜)を成膜する例を挙げて説明する。先ず基板Sが図示しない搬送機構により処理容器1内に搬入され、図示しない昇降ピンと搬送機構との協働作用により、載置台2上に載置され、載置台2の図示しない静電チャックにより保持される。このとき載置台2は、基板Sが例えば200℃に加熱されるように、冷却ジャケット22及びヒータ23により温度調整されている。シャッター16により搬入出口15が閉じられた後、処理容器1は、真空ポンプ14により減圧され、圧力調節部13により例えば0.6Pa〜20Paに圧力調整される。
【0020】
そして処理容器1内の上部空間に第1のガス供給部3からヘリウムガスが例えば200sccmの流量で供給されると共に、第2のガス供給部4からモノシランガスが例えば20sccmの流量で調整され、更に高周波電源53によりアンテナ52に例えば13.56MHz、2000Wの高周波電力が印加される
図4には、処理容器1内に供給されたガスがプラズマ化されて基板S上にシリコン膜が成膜される様子が模式的に示されている。即ち処理容器1の上部空間に供給されたヘリウムガスは、アンテナ52に印加された高周波電力に基づいて処理容器1の上部空間に誘導された高周波電界により、プラズマ化されてヘリウムの活性種が生成される。処理容器1内の雰囲気は処理容器1の下部にて真空排気されていることから、活性化されたヘリウムガスは下方側に向かって流れる。一方第2のガス供給部4から上向きに吐出されたモノシランガスについては、前記高周波電界により一部が活性化されるが、大部分はヘリウムガスの活性種と接触して活性化(プラズマ化)されると考えられる。なおこの場合、モノシランガスは結果として誘導結合プラズマにより活性化されたと言うことができる。
【0021】
そしてモノシランガスはプラズマ化されたヘリウムガスと混合され、活性化されながら第2のガス供給部4の開口部47を通って基板S上に供給される。ここでモノシランガスの活性化の推定メカニズムを下記のa〜cに記載する。
a. SiHが高周波電界により直接プラズマ化されて活性種であるSiH(x=0,1,2,3)が生成される。
b. このとき生成された水素の活性種とSiHとが反応して以下のように活性種であるSiHが生成され、更にこの反応時に生成された水素の活性種ととSiHとが反応してSiHが生成され、といった具合に下記のように連鎖的な反応が起こる。
c. SiHとヘリウムの活性種とが反応してSiH(x=0,1,2,3)が生成される。
【0022】
微結晶シリコン膜の結晶性を高めるためには、活性種であるSiHに対して十分大量な水素ラジカルが必要であることが知られている。同時に微結晶シリコン膜中の欠陥密度を減らすためには、活性種であるSiHの濃度を高くし、SiHから更に分解が進んだ活性種(例えば、SiH、SiH、Siなど)の濃度を抑えることが必要であることが知られている。SiHが更に分解した活性種は、未結合手(ダングリングボンド)を持ったまま膜中に取り込まれて微結晶シリコン膜の欠陥密度の増加を引き起こす。またこれらの活性種が重合してSi2n+2(n=2,3,4・・・)といった高次シランを生成し、これらが膜中へと取り込まれたり、またこの高次シランがさらに成長して微粒子化した状態で取り込まれたりした場合にも微結晶シリコン膜の欠陥密度増加の要因となる。
【0023】
従ってプラズマ中の水素ラジカルの量を維持したままSiHの濃度を高めることが重要であり、このため本発明では水素ガスを用いずにヘリウムガスを希釈ガスとして用いている。記述のようにモノシランガスのプラズマ化は、主としてプラズマ化されたヘリウムガスによりプラズマ化されることからヘリウムガスはプラズマ生成用のガスということもできる。一般にモノシランガスを成膜ガスとして用いてシリコン膜を成膜する場合には、結晶性を高めるために水素ガスをモノシランガスに対して例えば数十倍以上の流量で基板に供給している。このような手法は、たとえば容量結合プラズマを用いたプラズマCVDプロセスにおいて高い結晶性を維持しつつ、シリコンダングリングボンドの水素化を促進できるため、生産効率の高い成膜方法である。
【0024】
しかしながら、誘導結合プラズマまたはマイクロ波プラズマに同様の水素ガス添加を用いると、水素ラジカルが過剰に発生してしまい、そうすると水素ラジカルとSiHとの接触確率が高まるので、SiHから更に分解が進んだ活性種が多く生成されてしまう。これに対して、ヘリウムガスを用いる場合には、ヘリウムラジカルは、水素ラジカルに比べて電子温度が高いため、ラジカル密度を低く抑えてもSiHをSiHに素早く活性化させることができ成膜速度を上げることができると共に、ラジカル密度を低く抑えることによりヘリウムラジカルとSiHとの接触確率を少なくすることができるため、SiHの分解が抑制されて、成膜する微結晶シリコン膜中の欠陥密度を減少させることができると考えられる。また、シリコン薄膜の結晶化に必要な水素ラジカルはSiHからSiHへの分解の過程において十分に生成されるため、高い結晶性と低い欠陥密度を維持したまま成膜速度を増加させることができると考えられる。
【0025】
こうして高濃度のSiHを含み、SiHの分解が抑えられた活性種群が基板Sに供給され、結晶性が高く欠陥密度の低い微結晶シリコン膜が基板Sの表面に成膜される。図5はSiHが基板S上に降り積もるイメージを示しており、図中において斜線で示す活性種はSiHが更に分解して生成されたものである。そして予め設定した時間が経過した後、高周波電力の印加を停止し、次いでガスの供給を停止する。
【0026】
本実施形態によれば、水素ガスを用いずにモノシランガスとヘリウムガスとの混合ガスを高周波電力の印加により誘導される高周波電界によりプラズマ化しているため、すでに詳述したように高濃度のSiHを含み、SiHの分解が抑えられた活性種群が基板S上に供給される。このため、速い成膜速度で、結晶性が高く欠陥密度が低い微結晶シリコンを得ることができる。
【0027】
上述の実施形態では、シラン系のガスとしてモノシランガスを用いているが、例えばジシラン(Si)ガスやトリクロロシラン(SiHCl)ガスなどの他のシラン系ガスでもよい。この場合においてもヘリウムの活性種を生成することにより、シラン系ガスの分子がいわば細切れになるのが抑えられ、同様の効果が得られる。ここで言うシラン系ガスとは、SiHガス、ポリシラン(Si2n+2(n=2,3,4・・・))のガス、シラン化合物のガスなどのことを言う。また上述の実施形態では、誘導結合プラズマを生成しているが、アンテナ52に代えて例えば円形状の導体板に十字型の開口を渦巻き状に形成したアンテナを用い、このアンテナの中心部に導波管を接合してこの導波管から前記アンテナを介してマイクロ波を放射し、このマイクロ波によりガスをプラズマ化してもよい。
【0028】
ここで本発明は、水素ガスを用いないことを要件としており、水素ガスを加えることによりモノシランガスの分解を促進させるという悪影響が現れる。しかし水素ガスの影響は、モノシランガスの何倍もの量を供給した場合に問題となり、モノシランガスと同量程度の水素ガスを供給した場合にはほとんどその影響は出てこない。このような少量の水素ガスの添加はそもそも技術的意味がなく、このした手法は、本発明を実施しながら、特許請求の範囲の記載の表現の限界を潜ろうとする不当な実施である。従って特許請求の範囲でいう「水素ガスを用いない」とは、このような技術的意味のない少量の水素ガスの添加までをも排除するものではない。
【実施例】
【0029】
本発明における実施例について説明する。
[実験1]
以下で述べるように各実施例においてほぼ同様の成膜条件となるように、プロセス圧力を0.4Pa〜1.0Pa、SiHガス供給量を5sccm〜6sccmの範囲で夫々固定し、モノシラン(SiH)ガスに対して約10倍の各種希釈ガスを添加しながらICP−CVDにより微結晶シリコン(μc−Si)膜を成膜し、その微結晶シリコン膜に対してラマン分光による測定及び成膜速度の測定を行った。なお、以下で述べる希釈ガスとは、成膜処理時において反応ガスに添加するガスのことである。
【0030】
(実施例1)
高周波電力: 2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、5sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給量: ヘリウム(He)、49sccm
プロセス圧力: 0.6Pa
(参考例1)
高周波電力: 2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、5sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給量: Ar、50sccm
プロセス圧力: 0.9Pa
(比較例1−1)
高周波電力: 2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、6sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給量: 希釈ガスは供給しない。
プロセス圧力: 1.0Pa
(比較例1−2)
高周波電力: 2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、5sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給量: H、50sccm
プロセス圧力: 0.4Pa
【0031】
本実験におけるラマン分光測定結果を図6に示し、またラマン分光測定結果から算出した後述の強度比Xcの算出値及び成膜速度を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
図6の強度パターンa、b、c、dは夫々、実施例1、参考例1、比較例1−1、比較例1−2に対応する。
ラマン分光における波数が480cm−1における強度Iaはアモルファスシリコン(a−Si)の物質量に対応し、同じく520cm−1における強度Icは微結晶シリコン(μc−Si)の物質量に対応している。そしてこれらの強度比Xc(Xc=Ic/(Ia+Ic))は、測定したシリコン膜の結晶性を表す指標として知られている。本実施例では、この結晶化度に相当する強度比Xcを用いてシリコン膜の結晶性を評価した。
【0034】
図6から分かるように、実施例1では強度パターンのピーク位置の波数がμc−Siに対応する波数である520cm−1(理想波数)にかなり近づいているが、参考例1ではピーク位置の波数が約515cm−1であり、理想波数から少しシフトしている。そして比較例1−1のピーク位置の波数は理想波数から更にシフトし、比較例1−2ではピーク位置の波数が510cm−1を下回っている。一方成膜速度については、実施例1は比較例1−1及び比較例1−2よりも遅いが、次の実験2の結果から分かるように、モノシランガス及びヘリウムガスの流量を増やすことにより成膜速度を向上させることができる。
実施例1及び参考例1は、強度比Xcが80%以上であり、結晶性が良好であることが分かる。
【0035】
[実験2]
上述の実験1の結果を受けて、Heガスを添加して成膜する場合にSiHガス供給量を増やすことで成膜速度の向上を図った場合に、シリコン膜の結晶性がどのような挙動を示すかを検証するために、Heガスを添加した場合(実施例2)としない場合(比較例2)夫々について、SiHガス供給量とXc及び成膜速度との関係を実験にて調べた。本実験における成膜条件を以下に示す。
【0036】
(実施例2)
高周波電力: 2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、5、10、15、20sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給量: He、反応ガス供給量の10倍
プロセス圧力: 0.6Pa〜1.9Pa
(比較例2)
高周波電力: 2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、6、8、12sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給量: 希釈ガスは供給しない。
プロセス圧力: 1.0Pa
【0037】
本実験における結果を図7及び図8に示す。
先ず図7は、Heガスを添加していない場合の実験結果である。SiHガス供給量が6sccmの場合には60%以上のXcを得ることができたが、SiHガス供給量を8sccm以上とすると、成膜速度がSiHガス供給量に比例して上昇するのに対して、Xcは著しく減少した。図示していないが、Hガスを添加した場合についても同様の傾向が見られた。
一方Heガスを添加した場合には、図8に示すように、SiHガス供給量を増やしていくと、それにほぼ比例して成膜速度は上昇し、XcはHeガス無添加の場合(比較例2)のように低下することなくほぼ80%付近という高い値を維持し続けた。例えばシリコン膜の成膜速度が0.55nm/sec以上であり、前記ピーク強度比(結晶化度)Xcが70%以上であれば、生産性及びシリコン膜の結晶性の点で好ましい製法ということができる。
【0038】
[実験3]
本発明者は、上述の実施形態において述べたように、電子温度の高いHeラジカルにより、ラジカル密度を抑えた条件でSiHを活性化しているため、その活性種であるSiHについて更なる分解が抑えられた状態で成膜を行うことができると考えている。そこで本実験では、SiHからSiHへと分解される度合を、ヘリウムガスを用いた場合(実施例3)と水素ガスを用いた場合(比較例3)との各々について調査した。具体的にはSiHの更なる分解生成活性種であるSiH及びSi夫々の処理雰囲気中の濃度を発光分光法(OES)により同定し、それらの濃度比即ちそれらのピーク強度比SiH/SiがSiHとSiHとの濃度比と等しいと仮定することで、SiHからSiHへと分解される度合を評価した。なお、以下に記載する「SiHガス流量比」とは、SiHガス及び希釈ガスの合計ガス供給量に対するSiHガス供給量の割合のことである。
【0039】
(実施例3)
高周波電力: 2000W
SiHガス及び希釈ガスの合計ガス供給量: 100sccm
希釈ガス種: He
SiHガス流量比: 5、10、15、20、25、30%
プロセス圧力: 1.0Pa
(比較例3)
高周波電力: 2000W
SiHガス及び希釈ガスの合計ガス供給量: 10sccm
希釈ガス種: H
SiHガス流量比: 15、40、50、60、80、100%
プロセス圧力: 1.0Pa
【0040】
本実験の結果を図9に示す。SiHガス流量比が100%とは、希釈ガスを添加せずSiHガスのみ供給した場合を示している。図9に示すように、希釈ガスが水素ガスの場合、SiHガス流量比を低下させるに従って、発光強度比SiH/Siが低下する傾向にある。即ち混合ガス中の水素ガス供給量の割合を増やすに従って、SiHがSiHに分解される度合いが増していく傾向にある。これに対して希釈ガスがヘリウムガスの場合には、SiHガス流量比を5%から増やす(ヘリウムガスの流量比を95%から減らす)につれて発光強度比SiH/Siが上昇している。更にSiHガス流量比を増やす(ヘリウムガスの流量比を減らす)と発光強度比SiH/Siが低下していくと推測されるが、ヘリウムガスの供給量を調整することにより、水素ガスを用いる場合に比べて発光強度比SiH/Siについてかなり高い値が得られることが分かる。
【0041】
[実験4]
本実験では、成膜したシリコン膜の結晶配向性についてX線回折(XRD)により検証した。測定試料の膜厚は1000nmとし、Si(220)に対応するピーク強度I(220)とSi(111)に対応するピーク強度I(111)との比I(220)/I(111)を結晶配向性の指標とした。一般的にピーク強度比I(220)/I(111)が大きいほど、太陽電池として望ましい特性を示すとされている。また本実験では、参考例としてHガスを添加してCCP−CVDにより成膜したシリコン膜についてもX線回折による測定を行った。なお、以下に記載の希釈ガス供給比とは、SiHガス供給量に対する希釈ガス供給量の比である。
【0042】
(実施例4)
プラズマ源: ICP、高周波電力2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、5sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: He、10/1
プロセス圧力: 0.6Pa
(比較例4−1)
プラズマ源: ICP、高周波電力2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、6sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: 希釈ガスは供給しない。
プロセス圧力: 0.9Pa
(比較例4−2)
プラズマ源: ICP、高周波電力1600W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、2sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: H、7/1
プロセス圧力: 1.0Pa
(参考例4−1)
プラズマ源: CCP、高周波電力100W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、10sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: H、50/1
プロセス圧力: 800Pa
(参考例4−2)
プラズマ源: CCP、高周波電力100W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、5sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: H、100/1
プロセス圧力: 800Pa
【0043】
本実験における測定結果を図10に示す。
先ずICP−CVDによる実施例である実施例4、比較例4−1及び比較例4−2の3つの比較を行うと、ピーク強度比I(220)/I(111)の大きい順に、実施例4、比較例4−1、比較例4−2という結果となった。即ち、He希釈、SiHのみ供給、H希釈の順に結晶配向性が良好であった。次に実施例4とCCP−CVDによる実施例である参考例4−1及び参考例4−2との比較を行うと、実施例4は、結晶配向性において参考例4−1には及ばなかったが、参考例4−2よりは良好であった。
【0044】
[実験5]
本実験では、電子スピン共鳴(ESR)分析により成膜したシリコン膜のスピン密度を測定して、そのシリコン膜における未結合手(ダングリングボンド)の密度について測定を行った。またそのとき、結晶化度Xc及び成膜速度についても測定したのでその結果も後述の表2に併記する。
【0045】
(実施例5)
プラズマ源: ICP、高周波電力2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、15sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: He、6/1
プロセス圧力: 1.0Pa
(比較例5−1)
プラズマ源: ICP、高周波電力2000W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、6sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: 希釈ガスは供給しない。
プロセス圧力: 1.0Pa
(比較例5−2)
プラズマ源: ICP、高周波電力1600W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、2sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: H、7/1
プロセス圧力: 1.0Pa
(参考例5)
プラズマ源: CCP、高周波電力100〜700W
反応ガス種及び反応ガス供給量: SiH、5〜40sccm
希釈ガス種及び希釈ガス供給比: H、50/1〜100/1
プロセス圧力: 800〜1200Pa
【0046】
表2に本実験における測定結果を示す。
実施例5は、表2に示すように、比較例5−1及び比較例5−2に比べてESR分析の検出値が小さいことから、Heガスを添加することによりダングリングボンドが少なくなり成膜したシリコン膜の欠陥が少なくなることが推測される。結晶化度Xc及び成膜速度についても、実施例5は比較例5−1及び比較例5−2に比較して良好な結果であった。実施例5は、CCP−CVDによるシリコン膜である参考例5と比較するとダングリングボンドが多い結果であった。
【0047】
【表2】

【符号の説明】
【0048】
S ガラス基板
1 処理容器
13 圧力調整部
14 真空ポンプ
2 載置台
3 第1のガス供給部
4 第2のガス供給部
5 プラズマ発生機構
52 アンテナ
53 高周波電源
6 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に載置された基板に対してプラズマにより成膜を行う方法であって、
前記処理容器内にシラン系のガス及び希釈ガスであるヘリウムガスを供給する工程と、
前記処理容器内に誘導結合プラズマまたはマイクロ波プラズマを生成し、シラン系のガスを活性化させる工程と、
プラズマ化されたシラン系のガスにより前記基板上にシリコン膜を成膜する工程と、を含み、
前記処理容器内には水素ガスが供給されないことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
シリコン膜を成膜する速度が0.55nm/sec以上であり、
シリコン膜についてラマン分光による結晶シリコンのピーク強度及びアモルファスシリコンのピーク強度を夫々Ic及びIaとすると、Ic/(Ia+Ic)が70%以上であることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
基板、シラン系のガスの供給口、ヘリウムガスの供給口及びプラズマ生成部が下からこの順に配置され、
ヘリウムガスがプラズマ化され、プラズマ化されたヘリウムガスによりシラン系のガスがプラズマ化されることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−33828(P2013−33828A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168766(P2011−168766)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】