説明

成膜装置および複合成膜装置

【課題】基板を反応室内に精度よくセットして成膜を行うことができる成膜装置及び複合成膜装置を提供する。
【解決手段】基板Sを装着した基板アダプタ2を反応室1に搬送する搬送手段と、搬送手段により搬送された基板アダプタ2を、位置決め機構2b,20aにより位置決めして保持する保持手段20と、保持手段20により保持された基板アダプタ2を反応室1内に固定する固定手段1a,20bと、固定手段1a,20bにより基板アダプタ2を固定した状態で、基板2の被成膜面Pに成膜を行う成膜手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置やCVD装置等における成膜装置および複合成膜装置に関する。
【0002】
従来、成膜装置内において、基板の装着された基板アダプタを被成膜面が略鉛直下向きとなった状態で保持するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この装置では、基板の被成膜面を鉛直下方に向けた状態で、基板アダプタを搬送ロボット上に載置して成膜装置内に搬送し、基板アダプタの上部ヘッド部を成膜装置内の吊り治具に引っ掛ける。そして、吊り治具により基板アダプタを引き上げ、基板アダプタの上面を成膜装置の上部壁面に当接させて基板アダプタの位置を固定し、その状態で成膜を行う。
【0003】
【特許文献1】特許第3582425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の装置では、搬送ロボットにより搬送された基板アダプタを吊り治具によりそのまま引き上げて固定する。そのため、成膜装置内において基板アダプタを精度よくセットするには搬送ロボットの精度(加工精度など)を高める必要があり、コスト高となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による成膜装置は、基板を装着した基板アダプタを反応室に搬送する搬送手段と、搬送手段により搬送された基板アダプタを、位置決め機構により位置決めして保持する保持手段と、保持手段により保持された基板アダプタを反応室内に固定する固定手段と、固定手段により基板アダプタを固定した状態で、基板の被成膜面に成膜を行う成膜手段とを備えることを特徴とする。
搬送手段により搬送された基板アダプタを、位置決め機構が設けられた受け取り部で受け取り、基板の被成膜面を略鉛直下向きにした状態で吊り下げることにより位置決めして保持することが好ましい。
また、本発明による複合成膜装置は、上述の成膜装置を複数備え、これら複数の成膜装置の各反応室に基板アダプタを順次搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、反応室内に搬送された基板アダプタを、位置決め機構により位置決めして保持するので、搬送の精度を高める必要がなく、コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1〜図7を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明による成膜装置の一実施の形態を示す図であり、ECR−CVD装置の概略構成を示す図である。ECR−CVD装置の反応室1内には、基板アダプタ2に固定された状態の基板Sが、被成膜面Pを下向きにして装着されている。なお、基板アダプタ2およびそれを装置へ装着するための機構の詳細は後述する。ECRプラズマ発生部3は、磁場内にマイクロ波電力を供給して電子サイクロトロン共鳴プラズマを発生し、反応室1内にプラズマ流を導入するものである。
【0008】
マイクロ波源4で発生した2.45GHzのマイクロ波を導波管5を介してプラズマ室6に導入すると、プラズマ室6においてマイクロ波放電が発生する。さらに、コイル7,8による磁場によってECR条件の磁束密度875Gを形成すると、電子サイクロトロン共鳴が生じて活性なECRプラズマが発生する。プラズマ室6内に発生したECRプラズマは、プラズマ窓9から発散磁界に沿って上方の反応室1内に移動する。
【0009】
バイアス電源部10においては、バイアス電源11がマッチングユニット12を介して反応室1内の基板アダプタ2に接続されており、反応室1内に配置された基板Sに負のバイアス電圧が印加される。このバイアス電圧は電圧モニタ13により測定される。反応ガス導入部14から反応室1内に導入された反応ガスはECRによる高密度プラズマ内でイオン化され、上記負バイアス電圧によって基板Sの被成膜面P上に成膜される。例えば、DLC膜を成膜する場合には、エチレン(C2H4)、メタン(CH4)、プロパン(C3H8)等が成膜ガスとして反応ガス導入部14から供給される。15は反応室1内の排気を行う排気ポンプであり、16は反応室1内の圧力を測定する圧力計である。なお、装置全体のコントロールや成膜条件の制御は制御部17によって行われる。
【0010】
図2は、基板Sが装着された基板アダプタ2の斜視図である。なお、図2では図の上方を鉛直下方として図示した。基板アダプタ2の下面2aには、基板Sが爪2cおよびボルトBを用いて固定される。基板アダプタ2の上面(基板sが装着される面2aとは反対側の面)にはロッド2dが突設され、ロッド2dの先端には略円柱状のヘッド部2bが設けられている。ヘッド部2bのロッド側角部は全周にわたって面取りされ、テーパ面2eが形成されている。
【0011】
基板Sが装着された基板アダプタ2は、図3に示すように基板Sを下側にして搬送ロボット21の支持台211上に載置される。支持台211にはガイド部212が設けられており、基板アダプタ2の周囲はガイド部212によりガイドされる。なお、ガイド部212は支持台211上における基板アダプタ2の位置を規制するだけであり、反応室1内における基板アダプタ2の位置決めをする訳ではないので、高度の加工精度は不要である。
【0012】
図4は反応室1に装填された基板Sを示す図である。チャッキング機構20は略コ字状の吊り治具20aを有し、基板アダプタ2のヘッド部2bは吊り治具20aの内側に掛けるようにして吊り下げられる。すなわち図3に示すように基板アダプタ2が載置された搬送ロボット21を矢印R方向に移動し、吊り治具20aに形成された長孔部201にロッド2dを挿入する。吊り治具20aは後述するように反応室1内において基板アダプタ2を位置決めするものであり、反応室1内で基板Sの被成膜面Pに精度よく成膜するために、吊り金具20aは精度よく設けられている。次いで、吊り治具20aを図4のアクチュエータ20b(エアシリンダ等が用いられる)により上方に引き上げると、ヘッド部2bのロッド側底面が吊り治具20aの内側の座面202に当接する。これによりヘッド部2bが吊り治具20aに掛かって基板アダプタ2が吊り治具20aに吊り下げられる。この点を図5により詳述する。
【0013】
図5(a)は吊り治具20aの座面202の形状を示す図3のa-a線断面図であり、図5(b)は図3のb-b線断面図である。なお、図中、基板アダプタ2が吊り下げられた状態を2点鎖線で示す。座面202は、ヘッド部2bのテーパ面2eに対応して円形かつテーパ状に形成されている。これにより長孔部201にロッド2dを挿入した状態で吊り治具20aを引き上げるとテーパ面2eが座面202に当接し、ヘッド部2bは座面202に案内されて所定位置に吊り下げられる。その結果、吊り治具20aに対してヘッド部2b、すなわち基板アダプタ2が位置決めされる。
【0014】
基板アダプタ2が吊り治具20aに吊り下げられると、その後、図4に示すように吊り治具20aをアクチュエータ20bによりさらに上方に引き上げ、基板アダプタ2の上面を反応室1の上壁1aに当接させる。この場合、ヘッド部2bは吊り治具の座面202で位置決めされているため、吊り治具20aに対する基板アダプタ2の位置ずれを防止できる。このようにして、基板Sが装着された基板アダプタ2を反応室1内に固定した後、成膜プロセスが行われる。
【0015】
以上のように本実施の形態では、基板アダプタ2を吊り治具20aにより位置決めするので、反応室1内に基板Sを精度よくセットすることができる。すなわち基板アダプタ2を支持台211上に載置して位置決めする場合には、基板アダプタ2を吊り治具20aに受け渡して反応室1内にセットするまでの間に基板アダプタ2が位置ずれするおそれがあるが、本実施の形態のように基板アダプタ2を吊り治具20aで位置決めして保持する場合にはそのような位置ずれのおそれがない。この場合、ヘッド部2bのテーパ面2eが吊り治具20aの座面202に当接するので、基板アダプタ2の取付位置が修正され、基板アダプタ2を搬送ロボット21の支持台211上に精度よく載置する必要がない。そのため、搬送ロボット21や基板アダプタ2の加工精度を高める必要がなく、コストを低減することができる。そして、基板Sが固定された基板アダプタ2をアクチュエータ20bにより上方に引き上げて反応室1の上壁1aに当接させるので、振動などにより基板Sがずれたりせず確実に固定することができる。
【0016】
次に、上述したECR−CVD装置を用いて複合成膜装置を構成する場合について説明する。図6は複数の成膜装置を一体とした複合成膜装置50の一例を示す図である。図6の複合成膜装置50は例えば磁気ヘッドに保護膜を形成する装置であり、搬送ロボット21が設けられている搬送室51に対して、ロードロック室52,スパッタ装置53、エッチング装置54および図1に示したECR−CVD装置55がゲートバルブ56a〜56dを介して一体に設けられている。ロードロック室52には、基板アダプタ2に装着された状態の基板Sを複数収納した基板カセット57が装填される。図6では、複数の基板Sが紙面に垂直方向に並べて収納されている。また、基板カセット57内では、基板Sの被成膜面P(図1参照)が鉛直下方を向くように収納される。
【0017】
図7は磁気ヘッド基板60上に形成された保護膜61を示す図であり、保護膜61は保護層であるDLC(Diamondlike Carbon)層61bと密着層であるSi層61aとから成る。成膜手順は以下のようになる。まず、ロードロック室52を大気開放して、基板カセット57をロードロック室52に装填する。このとき、ゲートバルブ56b〜56dは閉じており、搬送室51,スパッタ装置53、エッチング装置54およびECR−CVD装置55はそれぞれ真空排気されている。
【0018】
次に、ロードロック室52を真空排気した後、ゲートバルブ56aを開いて搬送ロボット21により基板カセット57から磁気ヘッド基板60が装着された基板ホルダ2を一つ取り出し、ゲートバルブ56aを閉じた後にゲートバルブ56cを開いてエッチング装置54に装填する。エッチング装置54内でも、基板アダプタ2は上述したのと同様、図4に示したチャッキング機構20により所定位置にセットされる。すなわちヘッド部2bのテーパ面2eが吊り治具20aの座面202に当接して位置決めされる。なお、以下の説明では、磁気ヘッド基板60と称したときには基板アダプタ2に装着された状態の磁気ヘッド基板60を指す。
【0019】
その後、ゲートバルブ56cを閉じてエッチングにより磁気ヘッド基板60の表面を洗浄して酸化膜等を除去する。このエッチングも磁気ヘッド基板60の表面を下に向けて行う。エッチングが終了したならば、ゲートバルブ56cを開いて磁気ヘッド基板60をエッチング装置54より取り出し、ゲートバルブ56cを閉じた後にゲートバルブ56bを開いて磁気ヘッド基板60をスパッタ装置53に装填する。スパッタ装置53でも基板アダプタ2は図4に示したチャッキング機構20により所定位置にセットされ、磁気ヘッド基板60を下向きにした状態でスパッタが行われる。スパッタ装置53では、スパッタ法によりSi層61aを磁気ヘッド基板60上に所定厚さだけ成膜する。
【0020】
次いで、スパッタが終了したならば、ゲートバルブ56bを開いてスパッタ装置53から磁気ヘッド基板60を取り出し、ゲートバルブ56bを閉じた後にゲートバルブ56dを開いて磁気ヘッド基板60をECR−CVD装置55に装填する。上述したように、基板アダプタ2は図4に示すチャッキング機構20によりセットされ、磁気ヘッド基板60を下向きにした状態で下方からECR成膜が行われる。ECR−CVD装置55では、ECR−CVD法によりDLC層61bをSi層61a上に所定厚さだけ成膜する。DLC層61bの成膜が終了したならば、ゲートバルブ56dを開いて磁気ヘッド基板60をECR−CVD装置55から取り出し、ゲートバルブ56dを閉じた後にゲートバルブ56aを開いて磁気ヘッド基板60をロードロック室52の基板カセット57に収納する。
【0021】
このようにして一つの磁気ヘッド基板60について保護膜61の成膜が終了したならば、基板カセット57にセットされた二つ目以降の磁気ヘッド基板60について同様の成膜を行った後、ロードロック室52を大気開放して基板カセット57,58を取り出す。なお、上述した一連の成膜,エッチングおよび搬送工程においては、磁気ヘッド基板60の被成膜面は常に下向きの状態で同一の基板アダプタ2にセットされている。
【0022】
なお、図6では3つの成膜装置53,55,エッチング装置54を共通の搬送室51を介して一体に接続したが、各装置53〜55を共通の搬送室51を介することなく、独立して配置しても良い。この場合も各装置間で基板アダプタ2により基板の被成膜面を下に向けて搬送することが好ましい。また、搬送室51にはスパッタ装置53およびECR−CVD装置55のような成膜装置の他に、一連の成膜プロセスにおいて必要となるエッチング装置54も設けられているが、本発明では、このような一連の成膜プロセスに必要な装置も成膜装置とみなして扱う。さらに、搬送室51に接続される装置は3つに限定されない。また、成膜装置53,55で成膜する膜は磁気ヘッド用保護膜以外でも良い。本発明は、搬送された基板アダプタ2を反応室1内に位置決めして保持することを特徴とする。そのため基板Sの被成膜面Pを鉛直下方に向けた状態で基板Sの搬送および成膜を行ったが、必ずしも被成膜面Pを鉛直下方に向けなくてもよい。
【0023】
上記実施の形態では、ヘッド部2bのテーパ面2eを吊り治具20aの座面202に当接させて基板アダプタ2を位置決めした。すなわち基板アダプタ2のヘッド部2bを受け取り部としての吊り金具20aで受け取り、基板Sの被成膜面Pを略鉛直下向きにした状態で吊り下げることにより位置決めして保持したが、位置決め機構はこれに限らず、他の保持手段を用いてもよい。搬送ロボット21により基板アダプタ2を反応室1に搬送したが、搬送手段はいかなるものでもよい。アクチュエータ20bにより基板アダプタ2の上面を反応室1の上壁1aに当接して固定したが、固定手段はこれに限らない。成膜手段としてECRプラズマ発生部3,マイクロ波源4,コイル7,8,バイアス電源,および反応ガス導入部14等を用いたが、成膜手段はこれに限定されない。すなわち本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の成膜装置に限定されない。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する際、上記実施形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係になんら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による成膜装置の一実施の形態を示す図であり、ECR−CVD装置の概略構成を示す図である。
【図2】基板Sが装着された基板アダプタ2の斜視図である。
【図3】搬送ロボット21による基板アダプタ2の吊り治具20aへの装着を説明する図。
【図4】反応室1に装填された基板Sを示す図である。
【図5】(a)は図3のa-a線断面図であり、(b)は図3のb-b線断面図。
【図6】複数の成膜装置を一体とした複合成膜装置50を示す図である。
【図7】磁気ヘッド基板60上に形成された保護膜61の示す断面図。
【符号の説明】
【0025】
1 反応室
2 基板アダプタ
2b ヘッド部
20 チャッキング機構
20a 吊り治具
20b アクチュエータ
21 搬送ロボット
60 磁気ヘッド基板
P 被成膜面
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を装着した基板アダプタを反応室に搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送された基板アダプタを、位置決め機構により位置決めして保持する保持手段と、
前記保持手段により保持された基板アダプタを前記反応室内に固定する固定手段と、
前記固定手段により基板アダプタを固定した状態で、前記基板の被成膜面に成膜を行う成膜手段とを備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置において、
前記保持手段は、前記搬送手段により搬送された基板アダプタを、前記位置決め機構が設けられた受け取り部で受け取り、前記基板の被成膜面を略鉛直下向きにした状態で吊り下げることにより位置決めして保持することを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成膜装置を複数備え、
前記搬送手段は、これら複数の成膜装置の各反応室に前記基板アダプタを順次搬送することを特徴とする複合成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−190754(P2006−190754A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517(P2005−517)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】