説明

排ガス処理装置および排ガス処理方法

【課題】太陽電池に用いられる薄膜シリコンを成膜するためのプラズマCVD装置から排出される排ガスを処理する装置を小型化する技術を提供する。
【解決手段】半導体製造装置20から排出された混合ガスをポンプ12を用いてフィルタ部30に送出し、フィルタ部30で高次シランを除去した後、深冷分離を利用した分離部40を用いて混合ガスを水素とモノシランとに分離する。分離されたモノシランは、シランガス除害部50により除害される。また、分離された水素は、水素ガス排気部60により大気に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置から排出される水素およびシランガスを含有する排ガスを処理する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造用ガス、特に薄膜製造用ガスとして有用なジシランをモノシランから製造する方法が開発されている。例えば、放電法によりモノシランからジシランを製造する際に、反応ガスを吸着剤を充填した吸着塔に送り、ジシランを吸着分離した後、未反応モノシランを反応器に循環させる方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−186212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、半導体製造装置、例えば、太陽電池に用いられる薄膜シリコンを成膜するためのプラズマCVD装置から排出される排ガスには、除害の必要がある少量のモノシラン、除害が不要な大量の水素が混在している場合がある。このように少量のモノシランに対して大量の水素を含んでいる混合ガスを除害装置を用いて処理しようとすると、モノシランの除害に必要な設備、ひいては排ガス処理装置の大規模化を招くおそれがある。また、モノシランを燃焼により除害する場合には、燃焼用のLPGガスの消費量が多くなり、システム全体のエネルギー効率が低下するおそれもある。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、半導体製造装置から排出される排ガスを処理する装置や工程を簡略化する技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、排ガス処理装置である。当該排ガス処理装置は、半導体製造装置から排出される混合ガスを処理する排ガス処理装置であって、前記混合ガスを通過させ、前記混合ガスに含まれている複数種のガスのうち除害の必要な第1のガスと、除害の必要のない第2のガスとを深冷分離により分離する分離部と、前記分離部によって分離された第1のガスを処理する第1のガス処理部と、前記分離部によって分離された第2のガスを処理する第2のガス処理部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この態様によれば、半導体製造装置から排出される、除害が必要な第1のガスと、除害の必要のない第2のガスを含む混合ガスを深冷分離により分離し、第1のガスと第2のガスとをそれぞれ処理することにより、処理設備の規模を小さくでき、ひいては排ガス処理装置をコンパクトにすることができる。
【0008】
上記態様の排ガス処理装置において、前記第1のガス処理部は、前記第1のガスを除害してもよい。また、水前記第1のガス処理部は、前記第1のガスを精製してもよい。また、分離部は、前記第1のガスとしてモノシランを分離してもよい。また、前記第2のガス処理部は、前記第2のガスとして水素を希釈して外部へ排出してもよい。また、第2のガス処理部は、前記第2のガスとして水素を精製してもよい。
【0009】
本発明の他の態様は、排ガス処理方法である。当該排ガス処理方法は、半導体製造装置から排出される混合ガスを処理する排ガス処理方法であって、前記混合ガスに含まれている複数種のガスのうち除害の必要な第1のガスと、除害の必要のない第2のガスとを深冷分離する分離工程と、前記混合ガスから分離された前記第1のガスを除害する除害工程と、 前記混合ガスから分離された前記第2のガスを外部に排出する排出工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体製造装置から排出される排ガスを処理する装置や工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1に係る排ガス処理装置の概略を示す系統図である。
【図2】分離部の具体的な構成を示す概略図である。
【図3】深冷分離装置を用いて、モノシランおよび水素を含有する混合ガスを深冷分離したときの、水素中のモノシラン濃度(ppm)を示すグラフである。
【図4】実施の形態2に係る排ガス処理装置の概略を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。以下では、除害の必要なガスとしてモノシラン、除害の必要のないガスとして水素を含む混合ガスに適した排ガス処理装置について説明するが、混合ガスの種類はこれに限られるものではない。例えば、除害の必要なガスとしてPFC(perfluorocarbon),CHF,SF,NFなどを含む混合ガスや、除害の必要のないガスとして窒素を含む混合ガスに対しても、吸着剤や処理条件を適宜選択することで本願の排ガス処理装置を適用できることはいうまでもない。なお、PFCとして代表的なものとしてはCF,C,C,Cが挙げられる。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る排ガス処理装置の概略を示す系統図である。
【0014】
半導体製造装置20は、太陽電池に用いられる薄膜シリコンを成膜するためのプラズマCVD装置である。半導体製造装置20によって製造される太陽電池は、より具体的には、少なくともアモルファスシリコン(a−Si:H)と微結晶シリコン(μc−Si:H)とポリシリコン(poly−Si)などの珪素を含む化合物の組み合わせで構成される。
【0015】
半導体製造装置20から排出される混合ガス(排ガス)は、除害が必要なモノシラン、除害が不要な水素および微量不純物を含む。微量不純物として、ジシラン、トリシランなどのSiを複数含む高次シラン、PH、B(それぞれ0.01〜1%)、窒素(5%以下)が挙げられる。本実施の形態では、水素とモノシランの比(水素/モノシラン)は、2〜100である。
【0016】
排ガス処理装置10は、半導体製造装置20から排出された混合ガスを処理する。排ガス処理装置10は、ポンプ12、フィルタ部30、分離部40、シランガス除害部50、および水素ガス排気部60を備える。
【0017】
ポンプ12は、半導体製造装置20から排出された混合ガスを吸引し、窒素とともにフィルタ部30に送出する。ポンプ12にて添加される窒素は5%以下である。
【0018】
フィルタ部30は、高次シランを選択的に除去する微粒子捕捉フィルタである。半導体製造装置20から排出された混合ガスはフィルタ部30を通過する。これにより、混合ガスから高次シランが除去される。
【0019】
分離部40は、混合ガスを低温に冷却して液化させ、混合ガスに含まれるモノシランおよび水素のそれぞれが凝縮する際の温度の違いを利用して蒸留あるいは部分凝縮によってモノシランと水素とを深冷分離する。
【0020】
図2は、分離部40の具体的な構成を示す概略図である。図2に示すように、分離部40は、熱交換部42、44および深冷分離装置46を有する。
【0021】
分離部40に導入された混合ガスは、まず熱交換部42に供給される。熱交換部42において、混合ガスは液化天然ガスなどの熱媒体と熱交換することにより−100℃〜−130℃に冷却される。一方、熱媒体は、混合ガスと熱交換することにより加温される。加温された熱媒体は、半導体製造装置を含む製造設備で利用される。
【0022】
次に、熱交換部42により冷却された混合ガスは、熱交換部44に供給される。熱交換部44において、混合ガスは後述する深冷分離装置46で分離されたモノシラン(温度−160℃)と熱交換することにより、−130℃〜−160℃にさらに冷却される。
【0023】
熱交換部44を通過し、さらに冷却された混合ガスは、深冷分離装置46に供給される。深冷分離装置46では、導入された混合ガスが液体窒素、液化天然ガスなどの冷熱源により冷却され、圧縮機等を用いて圧縮される(温度−50〜−200℃、圧力0.5〜30気圧)。混合ガスのうち、モノシランは全量が凝縮される。一方、水素は凝縮せずに分離ガスとして取り出される。液化したモノシランは、気化器に導入され、吸熱、またはスチームなどの熱媒体による加熱により気化される。深冷分離装置46により分離され、冷却されたモノシランは熱交換部44に供給され、混合ガスを冷却する冷熱媒体として用いられる。これにより、分離部40の熱効率を高めることができる。
【0024】
図3は、深冷分離装置46を用いて、モノシランおよび水素を含有する混合ガスを深冷分離したときの、水素中のモノシラン濃度(ppm)を示すグラフである。以下に示す各実験例について、冷却温度を70K(−200℃)〜120K(−150℃)まで条件を振って分離された水素について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて分析した。
【0025】
(実験例1)
混合ガス:水素99モル%、モノシラン1モル%
圧力:1気圧
(実験例2)
混合ガス:水素99モル%、モノシラン1モル%
圧力:2気圧
(実験例3)
混合ガス:水素98モル%、モノシラン2モル%
圧力:1気圧
(実験例4)
混合ガス:水素99モル%、モノシラン1モル%
圧力:10気圧
図3に示すように、各条件において深冷分離により分離された水素に含まれるモノシランの濃度は多くても20000ppm程度であり、高純度の水素が得られることが確認された。水素の純度は、冷却温度が低いほど良く、また圧力を下げるほど良いことがわかる。
【0026】
シランガス除害部50には、除害化に先立ち必要に応じてモノシランガスを希釈するための窒素を導入する導入管が設けられている。シランガス除害部50は、分離部40によって分離され、窒素で希釈されたモノシラン(モノシラン2%以下、窒素98%以上)を除害する。シランガス除害部50によるモノシランの除外の方式としては、燃焼による除害(燃焼除害)、吸着剤による除害(乾式除害)などが挙げられる。燃焼除害の場合には、除害装置内でLPGガスなどの可燃ガスをバーナーで燃焼させ、モノシランが燃焼処理される。燃焼ガスは、フィルタにより粉塵等が除去された後、排気される。乾式除害の場合には、たとえば、酸化銅を主成分とする処理剤を用いることによりモノシランが除害される。
【0027】
水素ガス排気部60には、外部への排出に先立ち必要に応じて水素ガスを希釈するための窒素を導入する導入管が設けられている。水素ガス排気部60は、分離部40によって分離され、窒素で希釈された水素(水素4%以下、窒素96%以上)を外部(大気)に放出する。
【0028】
以上説明した排ガス処理装置10によれば、微粒子(高次シラン)を取り除いた後の混合ガス(モノシランおよび水素を含有)を深冷分離を用いて分離することにより、除害の必要なモノシランと除害の不必要な水素とが分離される。水素は窒素希釈後、大気に放出される。また、モノシランは窒素希釈後、モノシラン除害部にて除害される。モノシランのみをモノシラン除害部で処理することにより、除害設備の規模を小さくでき、ひいては排ガス処理装置をコンパクトにすることができる。また、モノシランを燃焼により除害する場合、燃料用のLPGガスの消費量を少なくすることができる。
【0029】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る排ガス処理装置の概略を示す系統図である。実施の形態2に係る排ガス処理装置は、以下の点で実施の形態1と共通する。すなわち、半導体製造装置20から排出された混合ガスをポンプ12を用いてフィルタ部30に送出し、フィルタ部30で高次シランを除去した後、分離部40を用いて混合ガスを水素とモノシランとに分離する。
【0030】
本実施の形態では、シランガス精製部70および水素ガス精製部80を備える点で、実施の形態1と相違する。
【0031】
シランガス精製部70は、吸着剤を用いて分離部40により分離されたモノシランを精製する。吸着剤としては、ゼオライトが挙げられる。シランガス精製部70により精製されたモノシランは、原料として再利用が可能である。
【0032】
水素ガス精製部80は、吸着剤を用いて分離部40により分離された水素を精製する。吸着剤としては、酸化銅が挙げられる。水素ガス精製部80により精製された水素は、原料として再利用が可能である。
【0033】
水素を再利用する場合、精製された水素の純度により下記のように用途を分けることができる。
【0034】
純度99.99%以上の場合・・・水素ステーション、燃料電池用の燃料ガス、精製水素
純度99.999%以上の場合・・・成膜原料
本実施の形態によれば、排ガス処理装置をコンパクトに保ちつつ、排ガスに含まれるモノシランおよび水素を再利用することができる。
【0035】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0036】
たとえば、実施の形態1に係る排ガス処理装置と実施の形態2に係る排ガス処理装置とを組み合わせ、モノシランおよび水素のいずれか一方を精製する構成としてもよい。
【0037】
また、分離されたモノシランおよび水素の少なくとも一方を、弁切り換えなどにより、必要に応じて精製できるような構成としてもよい。
【符号の説明】
【0038】
10 排ガス処理装置、12 ポンプ、20 半導体製造装置、30 フィルタ部、40 分離部、50 シランガス除害部、60 水素ガス排気部、70 シランガス精製部、80 水素ガス精製部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置から排出される混合ガスを処理する排ガス処理装置であって、
前記混合ガスを通過させ、前記混合ガスに含まれている複数種のガスのうち除害の必要な第1のガスと、除害の必要のない第2のガスとを深冷分離により分離する分離部と、
前記分離部によって分離された第1のガスを処理する第1のガス処理部と、
前記分離部によって分離された第2のガスを処理する第2のガス処理部と、
を備えることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項2】
前記第1のガス処理部は、前記第1のガスを除害する請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項3】
前記第1のガス処理部は、前記第1のガスを精製する請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項4】
前記分離部は、前記第1のガスとしてモノシランを分離する請求項1乃至3のいずれかに記載の排ガス処理装置。
【請求項5】
前記第2のガス処理部は、前記第2のガスとして水素を希釈して外部へ排出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の排ガス処理装置。
【請求項6】
前記第2のガス処理部は、前記第2のガスとして水素を精製することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の排ガス処理装置。
【請求項7】
半導体製造装置から排出される混合ガスを処理する排ガス処理方法であって、
前記混合ガスに含まれている複数種のガスのうち除害の必要な第1のガスと、除害の必要のない第2のガスとを深冷分離する分離工程と、
前記混合ガスから分離された前記第1のガスを除害する除害工程と、
前記混合ガスから分離された前記第2のガスを外部に排出する排出工程と、
を備えることを特徴とする排ガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−106146(P2012−106146A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59500(P2009−59500)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】