説明

描画表示処理装置

【課題】動的な法線マップの生成を時系列に分散させ、計算負荷を大幅に低減しながら高精度な3次元表示を行う。
【解決手段】データ取得部14は、GPS部2から現在地情報、速度センサ4から車速データ、情報センタCからの波を表示する地点の天気情報を取得する。車両移動時間計算処理部15は、データ取得部14が取得した現在地情報、および車速データから、車両が波を表示する地点までの移動時間(時間M)を算出する。天候情報更新時間計算処理部16は、情報センタCが更新する天気情報の更新周期から、次回の更新時間(時間N)を算出する。分散判定部17は、時間M<時間Nの場合、分散処理部18が、取得した天気情報から得られた風速に基づいて、波動シミュレーションの計算し、法線マップを生成する。また、時間M>=時間Nの場合、計算が無駄になるため処理を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、描画処理技術に関し、特に、カーナビゲーションシステムなどにおける法線マップを用いた3次元(3D)描画に有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに搭載されるカーナビゲーションシステムなどに用いられる描画表示処理装置では、3次元表示を行う場合、高精度の3次元(3D)表示を行うとリアルタイム性が確保できないために、簡易な3次元による表現が一般的に用いられている。
【0003】
しかしながら、近年、自動車などに搭載されるカーナビゲーションシステムなどの描画表示処理装置では、主な機能である地図表示において、たとえば、3次元表示のように、より見やすくリアルな地図表示など高度で多彩な表示を行う傾向にある。
【0004】
たとえば、海面や川などの波をよりリアルに表示する技術として、インタラクティブ3Dによる表現では、法線マップを使ったバンプマッピングがよく使用されている。これは波動をシミュレートし、波の高さ情報などを法線マップに落とし込み、これを用いたアニメーションを行う技法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のような描画表示処理装置による3次元表示技術では、次のような問題点があることが本発明者により見い出された。
【0006】
上述した法線マップを使ったバンプマッピングによる技法で動く波を表現するためには、1枚の法線マップだけでなく、複数の法線マップを生成する必要がある。そのために、表示中は法線マップを生成し続ける必要があり、これがカーナビゲーションシステムなどの描画表示処理装置では、高い負荷となってしまい、リアルタイム性を損ねてしまうという問題が発生してしまうことになる。
【0007】
また、この計算は、波の高さ、周波数、風速などの多くのパラメータが必要になり、組み合わせ数が膨大になるため、事前計算ですべての計算結果を法線マップとして持つことは非現実的であるという問題もある。
【0008】
本発明の目的は、動的な法線マップの生成を時系列に分散させ、計算負荷を大幅に低減しながら高精度な3次元表示を行うことのできる技術を提供することにある。
【0009】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本発明は、車両の速度を検出する速度センサと、車両の現在位置を算出する位置検出部と、天気情報を取得する天気情報取得部と、速度センサが検出した車両の速度、および位置検出部が検出した車両の現在地情報データから算出した車両が表示対称となる3Dオブジェクトを表示する地点に到達するまでの移動時間と天気情報取得部が取得する次回に更新される更新時間とを比較し、車両が表示対称となる3Dオブジェクトに到達するまでの移動時間が、次回に更新される更新時間より短い場合に、天気情報に基づいて、波動シミュレーションを計算し、法線マップを生成する3Dオブジェクト描画部と、該3Dオブジェクト描画部が生成した法線マップに基づいて、3Dオブジェクトの描画処理を行う描画部とを備えたものである。
【0012】
また、本願のその他の発明の概要を簡単に示す。
【0013】
本発明は、前記3Dオブジェクト描画部が、速度センサが検出した車両の速度、および位置検出部が検出した車両の現在地情報データから、車両が表示対称となる3Dオブジェクトを表示する地点に到達するまでの移動時間を算出する車両移動時間計算処理部と、天気情報取得部が取得した天気情報の更新周期を算出し、更新される次回の更新時間を算出する天候情報更新時間計算処理部と、車両移動時間計算処理部が算出した時間が、天候情報更新時間計算処理部が算出した時間よりも短いか否かを比較する分散判定部と、該分散判定部が、車両移動時間計算処理部が算出した時間が、天候情報更新時間計算処理部が算出した時間よりも短いと判定した際に、天気情報に基づいて、波動シミュレーションを計算し、法線マップを生成する分散処理部とを備えたものである。
【0014】
また、本発明は、前記3Dオブジェクト描画部が生成する法線マップが、海、川、あるいは池などの水面における波の表示に用いられるものである。
【0015】
さらに、本発明は、前記天気情報取得部が取得する天気情報が、表示対称となる3Dオブジェクトの地点の風速、または波の高さ情報よりなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
(1)動的な法線マップ生成を時系列に分散させることにより、動的法線マップを利用した高品質な3D表現を低負荷で実現することができる。
【0018】
(2)また、上記(1)により、高精度でリアリティのある波をリアルタイム性を損なうことなく、表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態によるナビゲーションシステムの構成例を示すブロック図、図2は、図1のナビゲーションシステムによる波の描画処理のフローチャート、図3は、図2の描画処理における説明図である。
【0021】
本実施の形態において、たとえば、自動車などに用いられるナビゲーションシステム1は、図1に示すように、GPS(Global Positioning System)部2、ハードディスクドライブ3、速度センサ4、ディスプレイ5、フレームバッファ6、GPU(Graphics Processing Unit)7、CPU(Central Processing Unit)8、ディスプレイ制御部9、および描画処理部10から構成されている。
【0022】
また、これらフレームバッファ6、GPU7、CPU8、ディスプレイ制御部9、ならびに描画処理部10は、バスBを介して相互に接続されている。
【0023】
この描画表示処理装置となるナビゲーションシステム1には、たとえば、携帯電話などの通信端末機HFが接続されており、無線通信によってネットワークNTを介して情報センタCと通信が行われ、天気情報などが取得される。ここで、通信端末機HFは、携帯電話以外でもよく、たとえば、道路交通情報などをリアルタイムに送信する情報通信システムであるVICS(Vehicle Information and Communication System)の情報を受信する受信ユニットなどであってもよい。また、ナビゲーションシステム1、および通信端末機HFは、たとえば、自動車などの車両に搭載されている。
【0024】
位置検出部であるGPS部2は、GPU衛星からの電波を受信し、自車の現在位置などを算出する。ハードディスクドライブ3は、ナビゲーションシステム1において使用される地図情報からなる地図データベース、情報センタCから取得した天気情報、および描画処理部10が処理した中間データなどの様々なデータを格納する。
【0025】
速度センサ4は、自動車の車速を検出する。ディスプレイ5は、たとえば、LCD(Liquid Crystal Display)などのモニタからなり、ディスプレイ制御部9の制御に基づいて、画像データを映像として表示する。
【0026】
フレームバッファ6は、描画演算処理された描画結果を一時的に格納する。GPU(Graphics Processing Unit)7は、CPU8の命令に基づいて3次元の描画処理を実行する。
【0027】
CPU8は、アプリケーションに基づいて、ナビゲーションシステム1における全体の制御を司る。ディスプレイ制御部9は、GPU7、または後述する描画部13によって描画される内容を実際にディスプレイ5に表示する処理を行う。
【0028】
描画処理部10は、ディスプレイ制御部9の命令に基づいて地図などのディスプレイに表示される描画処理を実行する。この描画処理部10は、テレマティクス部11、波描画処理部12、ならびに描画部13から構成されている。
【0029】
テレマティクス部11は、通信端末機HFが接続され、情報センタCから天候情報を取得する。3Dオブジェクト描写部となる波描画処理部12は、海面や川などの波の描画を、実際の天候などの条件に合わせて高精度に3次元表示する処理を行う。
【0030】
描画部13は、ハードディスクドライブ3に格納されている地図データベースに基づいて、2次元の地図の表示処理などを行うとともに、ハードディスクドライブ3に格納された中間データを適宜読み取り、動的法線マップを使ったバンプマッピング法で、波を描画する処理を行う。
【0031】
また、波描画処理部12は、データ取得部14、車両移動時間計算処理部15、天候情報更新時間計算処理部16、分散判定部17、ならびに分散処理部18から構成されている。
【0032】
データ取得部14は、速度センサ4からの情報の取得やハードディスクドライブ3から分散処理部18が必要な情報の取得などを行う。車両移動時間計算処理部15は、データ取得部14が取得した情報に基づいて、表示対処となる波である3Dオブジェクト周辺への移動時間を算出する処理を行う。
【0033】
天候情報更新時間計算処理部16は、天候情報更新時間計算処理を行う。分散判定部17は、車両が表示対称となる波の周辺へ移動する時間と、次回の天候情報を取得する時間とを比較し、分散処理を行う効果の有無を判定する。
【0034】
分散処理部18は、車両の移動時間の間に波動のシミュレート計算を行い、法線マップに落とし込み、結果を中間データとしてハードディスクドライブ3へ格納する。
【0035】
次に、本実施の形態におけるナビゲーションシステム1における波の描画処理について説明する。
【0036】
図2は、ナビゲーションシステム1による波の描画処理時のフローチャートであり、図3は、図2の描画処理時における説明図である。
【0037】
この図2では、車両の3Dオブジェクト周辺への移動時間を求めるため、ナビゲーションシステム1での目的地の設定を前提としている。本処理中に自車がルートから外れた場合は直ちにこれを中断するものとする。
【0038】
まず、ナビゲーションシステム1に目的地が設定されて経路探索が終了すると、CPU8は、設定された経路上に、海面や川などの波をディスプレイ5に表示する地点が含まれているかを判断する(たとえば、図3では、川RV)。そして、波を表示する地点が含まれている判断すると、CPU8は、データ取得部14にデータを取得するコマンドを出力する。
【0039】
これを受けて、データ取得部14は、GPS部2が取得した現在地情報、速度センサ4が取得した車速などのデータ、ならびに情報センタCからの波を表示する地点の天気情報を取得する。
【0040】
続いて、車両移動時間計算処理部15は、データ取得部14が現在地情報(図3、時間t1)、および車速データから、車両が波を表示する地点(図3、時間t2)周辺に到達までの移動時間を算出する(ステップS101)。この時間をMとする。
【0041】
そして、天候情報更新時間計算処理部16は、情報センタCが更新する天気情報の更新周期や天候情報の有効時間から、次回の更新時間を算出する(ステップS102)。この時間をNとする。
【0042】
続いて、分散判定部17は、ステップS101の処理、およびステップS102の処理で算出された2つの時間を比較する(ステップS103,S104)。
【0043】
ステップS101で算出された時間MがステップS102の処理で算出された時間Nよりも小さい(M<N)場合には、分散処理部18が、車両の3Dオブジェクトまでの移動時間を利用して、取得した天気情報から得られた風速(または波の高さ)などに基づいて、波動シミュレーションの計算を法線マップに落とし込み、中間データとしてハードディスクドライブ3へ格納し(ステップS105)、処理を終了する。
【0044】
そして、車両が、ディスプレイ5に表示する橋BGや川RVの地点に近づいてくると、ハードディスクドライブ3の中間データを取り出して、現実の波の高さに近い波の高さを3D表示した川RVをディスプレイ5に表示する処理を行う。
【0045】
また、ステップS101で算出された時間MがステップS102の処理で算出された時間N以上(M>=N)の場合には、ステップS105の処理の途中で、天候情報が更新(図3、更新時間tb)されることになり、計算が無駄になるため処理を終了し、再び、ステップS101からの処理を時間Mが時間Nよりも小さくなるまで繰り返し実行する。
【0046】
そして、時間Mが時間Nよりも小さい(M<N)となると、分散処理部18は、ステップS105の処理を実行する。ここで、分散処理部18は、時間Mの時間が余りに短く、ステップS105の計算終了までに表示対象の波を描画しなければ間に合わないと判断した場合には、計算を中止し、ハードディスクドライブ3の地図データベースから該当する川や海などの簡易3Dを表示させる処理を行う。
【0047】
このように、天候情報の更新周期から定まる次回の天候情報の取得時間Nと車両の3Dオブジェクト周辺への移動時間Mを比較し、移動が先に終了する場合に分散処理を開始することにより、動的な法線マップ生成を時系列に分散させることができるので、高品質な3Dの波を軽負荷で表現することができる。
【0048】
それにより、本実施の形態によれば、動的な法線マップ生成を時系列に分散させて生成することにより、リアルタイム性を損なうことなく、高精度でリアリティのある波を、ナビゲーションシステム1に大きな負荷をかけることなく表示することができる。
【0049】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0050】
たとえば、前記実施の形態では、ナビゲーションシステム1にルート探索が設定されている場合について記載したが、ナビゲーションシステム1にルート検索が設定されていない場合は、自車進行方向に限定して、動的な法線マップ技法を使用する対象の3Dオブジェクト(海面や川などの波を表示する地点)を検索するようにしてもよい。見つかった3Dオブジェクト(波の3D表示)に対して、図2の処理を行う。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、高精度でリアリティのある3次元の波の表示をリアルタイム性を損なうことなく、地図上に表示する技術に適している。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態によるナビゲーションシステムの構成例を示すブロック図である。
【図2】図1のナビゲーションシステムによる波の描画処理のフローチャートである。
【図3】図2の描画処理における説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ナビゲーションシステム
2 GPS部
3 ハードディスクドライブ
4 速度センサ
5 ディスプレイ
6 フレームバッファ
7 GPU
8 CPU
9 ディスプレイ制御部
10 描画処理部
11 テレマティクス部
12 波描画処理部
13 描画部
14 データ取得部
15 車両移動時間計算処理部
16 天候情報更新時間計算処理部
17 分散判定部
18 分散処理部
B バス
HF 通信端末機
NT ネットワーク
C 情報センタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の速度を検出する速度センサと、
車両の現在位置を算出する位置検出部と、
天気情報を取得する天気情報取得部と、
前記速度センサが検出した車両の速度、および前記位置検出部が検出した車両の現在地情報データから算出した車両が表示対称となる3Dオブジェクトを表示する地点に到達するまでの移動時間と、前記天気情報取得部が取得する次回に更新される更新時間とを比較し、車両が表示対称となる3Dオブジェクトに到達するまでの移動時間が、次回に更新される更新時間より短い場合に、前記天気情報に基づいて、波動シミュレーションを計算し、法線マップを生成する3Dオブジェクト描画部と、
前記3Dオブジェクト描画部が生成した法線マップに基づいて、前記3Dオブジェクトの描画処理を行う描画部とを備えたことを特徴とする描画表示処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の描画表示処理装置において、
前記3Dオブジェクト描画部は、
前記速度センサが検出した車両の速度、および前記位置検出部が検出した車両の現在地情報データから、車両が表示対称となる3Dオブジェクトを表示する地点に到達するまでの移動時間を算出する車両移動時間計算処理部と、
前記天気情報取得部が取得した天気情報の更新周期を算出し、更新される次回の更新時間を算出する天候情報更新時間計算処理部と、
前記車両移動時間計算処理部が算出した時間が、前記天候情報更新時間計算処理部が算出した時間よりも短いか否かを比較する分散判定部と、
前記分散判定部が、前記車両移動時間計算処理部が算出した時間が、前記天候情報更新時間計算処理部が算出した時間よりも短いと判定した際に、前記天気情報に基づいて、波動シミュレーションを計算し、法線マップを生成する分散処理部とを備えたことを特徴とする描画表示処理装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の描画表示処理装置において、
前記3Dオブジェクト描画部が生成する法線マップは、
海、川、あるいは池などの水面における波の表示に用いられることを特徴とする描画表示処理装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の描画表示処理装置において、
前記天気情報取得部が取得する天気情報は、
表示対称となる3Dオブジェクトの地点の風速、または波の高さ情報であることを特徴とする描画表示処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−252059(P2009−252059A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100944(P2008−100944)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】