説明

旋回円運動装置における回転駆動軸間距離の自動調整装置

【課題】 回転駆動軸間距離の変動を吸収でき、高速回転時にも安定した運転が行え、とくに本出願人の特許出願に係る上記の高圧水噴射洗浄装置に適用するのに最適な、旋回円運動装置における回転駆動軸間距離の自動調整装置を提供する。
【解決手段】 同期してそれぞれサーボモータにて回転する左右一対の偏心回転機構10・10により、両偏心回転機構間に跨って配置される洗浄装置本体5を旋回円運動する高圧水噴射洗浄装置1において、一方の偏心回転機構10Lを支持体4に固定するとともに、他方の偏心回転機構10Rを、一方の偏心回転機構10Lにより洗浄装置本体5を介して他方の偏心回転機構10Rに対し作用する反力による水平方向への変位を板バネ9の付勢力に抗して許容できるように支持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期してそれぞれ駆動装置にて回転する左右一対の偏心回転機構により、両偏心回転機構間に跨って配置される連結部分を旋回円運動する装置において、偏心回転機構の回転駆動軸間距離を自動的に調整するための回転駆動軸間距離の自動調整装置に関する。この自動調整装置は、とくに、液晶パネル、プラズマパネル、有機EL(エレクトリックルミナンス)パネルなどのFPD(フラットパネルディスプレイ)やガラスや半導体ウエハーなどの平坦な板状物を高圧洗浄液を噴射して洗浄する高圧水噴射洗浄装置(ウォータジェット洗浄機ともいう)において、高圧水噴射ノズルを取り付けるホルダーとしての、左右一対の偏心回転機構間に跨って配置される連結部分を、旋回円運動させるための各偏心回転機構が同期してそれぞれ駆動装置にて円滑に回転するようにした回転軸間距離の自動調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の高圧水噴射洗浄装置として、複数の高圧水噴射ノズルを並べて装着したホルダーを旋回(円運動)させながら若しくは円錐状に揺動させながら、その洗浄装置から噴射する高圧水を洗浄対象物に対し垂直に当てながら直交方向に移動させることで、噴射ノズルから噴射する高圧水にて洗浄対象物の一面を緻密に洗浄する装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この装置は1本の直線状に高圧水が噴射する収束型ノズルを備えているため、従来の一般的な洗浄装置のようにノズルから噴射される洗浄水が円錐状に広がるコーン型や扇状に広がるファン型ではなく、洗浄水が拡散しない。したがって、噴射される洗浄水のエネルギー密度が、コーン型やファン型に比べて100倍〜1000倍と非常に高いため、洗浄面での剥離・洗浄効果は非常に優れている。しかしその一方で、洗浄対象物に対し洗浄水が当たる領域(面積)が極めて狭く、局所部分しか洗浄できない。
【0003】
そこで、本出願人は、洗浄対象物を洗浄装置本体に対し一定速度で移動させながら、前記洗浄装置本体の高圧水噴射ノズルから高圧水を前記洗浄対象物に噴射させて洗浄する高圧水噴射洗浄装置で、前記洗浄対象物を横切る長さ以上の長さを有する共通のホルダーの一面に、複数の高圧水噴射ノズルを前記洗浄対象物に向けかつ相互に間隔をあけて配列し、前記ホルダーの両側延長端部を、それぞれ同ホルダーの前記一面またはその延長面に直交する偏心回転軸および軸受部を介して偏心回転可能に支持するとともに、前記偏心回転軸を駆動装置にて回転させることにより前記洗浄装置本体が旋回し円運動するように構成し、前記各高圧水噴射ノズルに高圧水を供給し、定速移動する前記洗浄対象物に対し旋回円運動する各高圧水噴射ノズルから高圧水を噴射させるようにした高圧水噴射装置を開発し、特許出願している(特許文献2参照)。
【特許文献1】特許2705719号公報
【特許文献2】特願2007−281322号
【特許文献3】特開平07−075424号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した高圧水噴射ノズルを備えた洗浄装置本体を旋回円運動させる際の回転速度を上げれば上げるほど、洗浄密度が高まるが、一方で洗浄装置本体を含む洗浄装置全体の振動が増大する。
【0005】
こうした振動が発生する理由は、上記の洗浄装置本体を旋回円運動させるための左右一対の偏心回転駆動機構には、両側の回転駆動軸間の距離を調整するための手段が設けられていないことにある。そのために、運転中に回転駆動軸間の距離が変動するからであるが、この発生要因として以下のことが考えられる。
【0006】
1) 円柱体状の回転軸偏心部14の中心軸線に対し回転駆動軸15の中心軸線を偏心量eだけ偏心させて偏心シャフトを製作しているが、図9(a)に示すように左右の偏心シャフトは、加工誤差により偏心量e1と偏心量e2とが一致しなくなる(e1≠e2)。
【0007】
2) 図9(b)に示すように、円柱体状の回転軸偏心部14に対する回転駆動軸15の偏心方向についても、加工誤差により加工角度がθずれる。
【0008】
3) 図9(c)に示すように、円柱体状の回転軸偏心部14の上面と下面に対しそれぞれ回転駆動軸15を偏心量eだけ偏心させて偏心シャフトを製作する場合に、加工誤差により上部回転駆動軸15と下部回転駆動軸15との同心度に差異が生じる。
【0009】
4) 図8(a)に示すように、同期して共通の駆動装置にて回転する左右一対の偏心回転機構10・10の回転偏心部14・14間に跨って配置される洗浄装置本体5の両端(回転偏心部に対する)の位相(回転角)に角度差θが生じる。
【0010】
以上の要因により回転駆動軸間距離Lが変動すると、この変動は回転駆動軸のトルク変動をもたらすとともに、回転駆動軸を回転可能に支持している軸受に対して変動ラジアル荷重として作用する。トルク変動は高速回転(たとえば200rpm以上)時に駆動装置であるモーターに高負荷を及ぼすので、モーターが過負荷状態となって運転が困難になることがある。また、軸受に変動ラジアル荷重が作用すると、振動が発生する上に、軸受寿命の低下にもつながる。
【0011】
ところで、回転駆動軸間距離の変動が要因で振動が発生するのを防止するための先行技術として、モーア(芝刈り機)において、ブレード軸の各軸受とモーアデッキの間にそれぞれ防振用弾性体を介装し、複数の軸受をそれらの軸間距離が一定に維持される状態で剛性連結部材により連結した構造のものが出願公開されている(たとえば、特許文献3参照)。
【0012】
この装置の場合、複数の軸受をそれらの軸間距離を剛性連結部材により連結して、ブレード軸の軸間距離を一定に維持するようにしているから、本発明の対象とする旋回円運動装置に適用することができても、左右一対の偏心回転機構の回転駆動軸間距離を調整できない。いいかえれば、上記の先行技術に係る装置を本発明の対象とする旋回円運動装置に適用しても上記のような問題点は解決できない。
【0013】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、回転駆動軸間距離の変動を吸収でき、高速回転時にも安定した運転が行え、とくに本出願人の特許出願に係る上記の高圧水噴射洗浄装置に適用するのに最適な、旋回円運動装置における回転駆動軸間距離の自動調整装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために本発明に係る旋回円運動装置における回転駆動軸間距離の自動調整装置は、同期してそれぞれ駆動装置にて回転する左右一対の偏心回転機構により、両偏心回転機構間に跨って配置される装置本体を旋回円運動する旋回円運動装置において、前記偏心回転機構のうち一方の偏心回転機構を定位置に固定するとともに、他方の偏心回転機構を、前記一方の偏心回転機構により前記装置本体を介して他方の前記偏心回転機構に対し作用する反力による水平方向への変位を許容できるように支持したことを特徴とする。
【0015】
上記の構成を有する本発明に係る回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えていない場合には、両側の偏心回転機構の回転駆動軸が同期して駆動装置(モーター)により回転する際に、回転速度が速くなると、偏心回転機構の回転駆動軸間の距離が変動し、図10のグラフに示すように、回転駆動軸15の回転数がたとえば600〜700rpmを超えると、加速度が増大していき、偏心回転機構の振動が激しくなり、最終的に装置全体が激しく振動する。加えて、図9(b)に示すように、回転駆動軸15の回転で偏心回転する左右の円柱体状回転軸偏心部14の外周縁部間を連結部材5で連結する場合に、回転偏心部14の回転角で装置本体5の両端の回転偏心部14に対する連結点間の距離Lが変動する(L1≠L2)。また、図9(a)に示すように、回転偏心部14の回転角により左右の回転偏心部14に対する装置本体(連結部材)5の連結点5Lと連結点5Rの位相が変化し、たとえば装置本体5の一方(右側)の連結点5Rが中心軸線s−s上にくると、右側の回転偏心部14がいずれの方向にも回転可能な状態となって連結部材5を圧縮する方向の力が作用し、回転偏心部14の回転が停止する。いいかえれば、回転偏心部14の回転が困難になって、装置本体5の旋回円運動(運転)が困難になる。
【0016】
一方、上記の構成を有する本発明に係る回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えることにより、たとえば回転駆動軸15の回転数が800rpmを超えても、図10のグラフに示すように、加速度は0.5G程度に抑えられる。また、図9(b)に示すように、回転偏心部14の回転角で装置本体5の両端の回転偏心部14に対する連結点間の距離Lが変動(L1≠L2)しようとしたり、あるいは図9(a)に示すように、回転偏心部14の回転角により左右の回転偏心部14に対する装置本体5の連結点5Lと連結点5Rの位相が変化しようとしたりしても、定位置に固定された一方の不動の偏心回転機構に対し他方の偏心回転機構が装置本体5を介して引き寄せられたり押し出されたりして水平方向への変位を許容することにより、偏心回転機構の回転駆動軸間距離の変動が吸収される。したがって、偏心回転機構あるいは装置全体が振動したりせず、また回転駆動軸15の回転数が上がっても運転が停止したりしない。
【0017】
請求項2に記載のように、前記他方の偏心回転機構を、複数の車輪、コロ、ローラあるいはボールベアリング(いわゆる、転動機構)を介して水平方向に移動可能に配置するか、またはそれらの転動機構を介さずに水平方向に移動可能に配置するとともに、前記偏心回転機構の周囲を略方形のハウジングで同偏心回転機構と一体的に移動可能に囲繞し、前記ハウジングの両側面を少なくとも一対の板バネの一端部間で挟持し、前記各板バネの他端部をそれぞれ定位置に固定した支持体に連結することができる。
【0018】
このように構成すれば、水平方向の移動が許容された偏心回転機構が、回転駆動軸間距離の変動に応じ、その変動を吸収する(打ち消す)方向に板バネの付勢力に抗して、前記板バネの変形に伴い空中上で板バネとともに移動(変位)するか、または車輪、コロ、ローラあるいはボールベアリングを介して移動(変位)するので、回転駆動軸間距離は常に一定に保持される。
【0019】
請求項3に記載のように、前記旋回円運動装置が、洗浄対象物を洗浄装置本体に対し一定速度で移動させながら、前記洗浄装置本体の高圧水噴射ノズルから高圧水を前記洗浄対象物に噴射させて洗浄する高圧水噴射洗浄装置に配備され、前記洗浄装置本体が洗浄対象物を横切る長さ以上の長さを有するホルダーを備え、そのホルダーの一面に複数の高圧水噴射ノズルを前記洗浄対象物に向けかつ相互に間隔をあけて配列し、前記ホルダーの両側端部を、それぞれ前記偏心回転機構により偏心回転可能に支持するとともに、前記回転駆動軸を駆動装置にて回転させることにより前記洗浄装置本体が旋回円運動するように構成し、前記各高圧水噴射ノズルに高圧水を供給し、前記洗浄装置本体に対し一定速度で移動する前記洗浄対象物に対し旋回円運動する各高圧水噴射ノズルから高圧水を噴射させるようにすることができる。
【0020】
このように請求項1または2に記載の回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えた高圧水噴射洗浄装置によれば、両側の回転駆動軸を高速回転させても、回転駆動軸間の距離の変動をその変動に応じ水平方向の移動が許容された偏心回転機構が移動することにより吸収するから、高圧水噴射ノズルを備えたホルダーがスムーズに旋回円運動を継続し、各噴射ノズルから高圧水を一直線状(ストレート)に噴射させることによって、洗浄対象物に対し洗浄強さを一定にして均一な洗浄が可能になる。また、洗浄作業の高速化を図るために、噴射ノズル(ホルダー)の旋回円運動の速度を増大することにより、高い洗浄密度が得られるとともに、無用な振動の発生を防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る旋回円運動装置における回転駆動軸間距離の自動調整装置は上記の構成を有するから、下記のような優れた効果を奏する。すなわち、回転駆動軸間距離の変動を吸収でき、高速回転時にも安定した運転が行え、とくに本出願人の特許出願に係る上記の高圧水噴射洗浄装置に適用するのに最適である。また、洗浄の高速化を図るために高圧水噴射ノズルを備えた洗浄装置本体の旋回(回転)速度を大幅に増大させて高い洗浄密度でかつ強い洗浄力で均一に洗浄でき、洗浄装置本体あるいは洗浄装置本体を含む装置の振動加速度が増大せず振動が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明に係る旋回円運動装置における回転駆動軸間距離の自動調整装置の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0023】
本発明の回転駆動軸間距離の自動調整装置を旋回円運動装置としての高圧水噴射洗浄装置に適用した実施例について図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明の回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えた高圧水噴射洗浄装置の実施例を示す、一部を断面で表した正面図、図2は同平面図、図3は同左側面図、図4(a)は図1の向かって左側の偏心回転機構とその近傍を拡大して示す正面図、図4(b)は同左側面図である。図5(a)は図1の向かって右側の偏心回転機構とその近傍を拡大して示す正面図、図5(b)は同平面図、図5(c)は回転軸偏心部と上下の回転軸とを取り出して概略的に示す説明図、図5(d)は図5(c)の平面図である。
【0025】
これらの図に示すように、高圧水噴射洗浄装置1は、機枠2上の両側部にそれぞれ支柱3を備え、両側の支柱3の上端部間が支持体としての横桁4で連結されている。また各支柱3に対応する位置に、左右一対の偏心回転機構10が配置されている。各偏心回転機構10は、上方より見て略方形のハウジング10aを一体的に備えている。そして、一方(本例では左側)の偏心回転機構10Lは、図2・図3に示すように、ハウジング10aが横桁4に対しブラケット3bおよび支持板3cを介してボルト3d・3eにより堅固に固定されている。
【0026】
他方(右側)の偏心回転機構10Rは、図5(a)に示すように支柱3の前方で支柱3には支持されない状態で、横桁4に対し長手方向への移動を許容するように配置されている。すなわち、図5(b)に示すように偏心回転機構10Rのハウジング10aの両側面を挟むように、4枚の板バネ9が上下に間隔をあけて配置され、各板バネ9の先端部がそれぞれハウジング10aに対しボルト10bで固定されている。各板バネ9の基端部側は、横桁4にボルト3eで固定された支持板3cの両端部にボルト10cで固定されている。この構成により、左右一対の偏心回転機構10のうちの一方の偏心回転機構10Lだけが横桁4に堅固に支持され,他方の偏心回転機構10Rは横桁4から前方に延設された上下一対の4枚の板バネ9で挟持され,横桁4の長手方向への移動を許容するように支持されている。
【0027】
この状態で、図6に概略構成を示すように、右側の偏心回転機構10Rは運転中に左側の偏心回転機構10Lとの軸間距離Lが変動することにより、たとえば後述の洗浄装置本体5を介して外力が作用したときに、その外力を打ち消す(吸収する)方向に板バネ9の付勢力に抗してわずかに(ΔLほど)移動(微動)する。この外力は右側の偏心回転機構10Rを左側の偏心回転機構10Lと逆の方向に押し出す力であったり、偏心回転機構10Lの方向に引き寄せる力であったりする。なお、図1〜図5中の符号10dは各偏心回転機構10の周囲を取り囲むカバーである。
【0028】
左右の偏心回転機構10R・10L間には、洗浄装置本体5が回転可能に跨って支持されている。洗浄装置本体5は、図1〜図3に示すように中空でフラットバー状のホルダー6を備えており、このホルダー6の下面にノズル取付部8を介して多数の高圧水噴射ノズル7が千鳥状に等間隔に2列配設されている。各噴射ノズル7の向きは、洗浄対象物(図示せず)に対し垂直(直角)になるように揃えられている。ノズル取付部8には、長手方向に沿って高圧水供給路が穿設され、高圧水タンク(図示せず)から可撓性を有する螺旋状の金属製配管(図示せず)を介してノズル取付部8の高圧水供給路(図示せず)の一端に接続され、その高圧水供給路から各高圧水噴射ノズル7へ高圧水が供給され、各高圧水噴射ノズル7から一直線状に高圧水が噴射される。たとえば洗浄対象物がガラス板の場合に、このガラス板は搬送装置によって一定速度で洗浄装置本体5の下方を搬送される。このため、洗浄装置本体5およびホルダー6の長さをガラス板の幅方向の長さよりもやや長くして洗浄されない箇所が生じないようにしてある。
【0029】
ホルダー6の両端には連結板11がそれぞれ一体に連結されている。そして、ホルダー6は連結板11・11を介し、両側の偏心回転機構10L・10R間に跨って配設されている。つまり、各連結板11の一端(外端)側には円筒状の軸受ハウジング(軸受部)12が一体に形成され、各軸受ハウジング12内には軸受13を介して円柱体状の回転軸偏心部14が回転可能に配装されている。また、回転軸偏心部14の上下に回転駆動軸15が軸受16によりそれぞれ回転可能に支持されており、これらの上下の各回転駆動軸15は回転軸偏心部14の中心軸線S’から一方(本例では左側)に偏心した位置に一体回転可能に連結されている。また、左右の各偏心回転機構10の上方には、サーボモータ17が装備されており、このサーボモータ17の駆動軸17aに一体回転可能に回転駆動軸15の上端が連結されている。この構成により、左右のサーボモータ17をほぼ同期して(一方が他方に追随するように)回転させることができ、図6(c)(d)に示すように回転駆動軸15はその中心軸線Sが回転軸偏心部14の中心軸線S’に対し偏心して回転するので、ホルダー6を含む洗浄装置本体5の両端部が偏心回転運動すると同時に、洗浄装置本体5全体は旋回円運動(揺動回転)する。なお、図7(b)に示すように一台の共通のサーボモータ17により、たとえば傘歯車を用いたギヤ機構24および回転伝達軸23を介して同時に駆動力を左右の回転駆動軸15に伝達するようにしてもよい。本実施例では、回転駆動軸15の回転で円柱体状の回転軸偏心部14が偏心回転し、軸受ハウジング部(軸受13を含む)12を介してホルダー6を含む洗浄装置本体5を旋回円運動させるが、この関係はあたかもクランク機構に近いものである。このため、本例のように左右にサーボモータ17を備えてほぼ同時に駆動力を回転駆動軸15に伝達しない場合(あるいは共通のサーボモータ17によりギヤ機構を介して同時に駆動力を回転駆動軸15に伝達しない場合)には、いいかえれば、駆動装置としてのサーボモータ17を一方にだけ設けて、一方の回転駆動軸15を回転させると、洗浄装置本体5の停止状態によっては、回転駆動軸15の回転を開始しようとしても、洗浄装置本体5を旋回円運動させられないことがある。
【0030】
また、回転軸偏心部14を挟んで上下の回転駆動軸15に対し、図1〜図3に示すよう洗浄装置本体5の旋回円運動時に生じるモーメントを打ち消すように半円板体状のカウンタウエイト25をそれぞれ一体回転可能に取り付けている。つまり、回転駆動軸15の中心軸線Sを挟んで洗浄装置本体5の揺動回転方向と対称的な位置に、カウンタウエイト25を取り付けている。この結果、回転駆動軸15の回転時に、中心軸線Sを挟んで洗浄装置本体5の旋回方向と相対称位置にカウンタウエイト25が変位し、洗浄装置本体5の旋回円運動時に発生しようとするモーメントの発生を打ち消す。したがって、両側の偏心回転機構10L・10Rを含め高圧水噴射洗浄装置1全体には無用なモーメントが発生しにくく、振動も生じにくい。しかし、その高圧水噴射洗浄装置1が回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えていなければ、両側の偏心回転機構10L・10Rの回転駆動軸15の回転数が大幅に上昇し加速度が増大していくと、偏心回転機構10L・10Rの振動が激しくなり、装置全体が激しく振動するのは上述のとおりである。
【0031】
以上のようにして本発明の実施例に係る回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えた高圧水噴射洗浄装置が構成されるが、以下にその洗浄作業における動作の態様を説明する。
【0032】
まず、図1〜図3に示すように、洗浄対象物がたとえばローラコンベヤ上に載置され、洗浄装置本体5の下方へ一定の速度で搬送される。左右のサーボモータ17の駆動が開始され、回転駆動軸15が回転し、この回転駆動軸15の回転で円柱体状の回転軸偏心部14が偏心回転し、軸受ハウジング部12を介して洗浄装置本体5が旋回し円運動する。続いて、高圧水タンク(図示せず)から高圧の洗浄液が各噴射ノズル7へ供給される。各噴射ノズル7は洗浄装置本体5とともに真円形を描くように旋回しながら、直線状に高圧の洗浄液を噴射する。一方、洗浄対象物が洗浄装置本体5の下方へ一定速度で搬送されてくる。この状態で、洗浄対象物の一面に対し高圧の洗浄液が一斉に噴射され、均一な洗浄作業が遂行される。
【0033】
そして、上記の洗浄作業において洗浄密度を向上するために、サーボモータ17による回転駆動軸15の回転速度を大幅に上げ、洗浄装置本体5を高速回転で旋回円運動させる。この状態で、図6に示すように両側の偏心回転機構10L・10Rの回転軸偏心部14・14間を洗浄装置本体5で連結する距離Lが、上記した要因(図8および図9参照)により変動する。しかし、本例の高圧水噴射洗浄装置1によれば、回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えており、図6に示すように軸間距離Lの変動量(±ΔL)に応じて、一方の偏心回転機構10Lに対し他方の偏心回転機構10Rがその変動量(ΔL)を吸収するように、板バネ9の付勢力に抗して移動する。したがって、回転駆動軸15(回転軸偏心部14)の回転数(回転速度)が上昇し(たとえば600〜700rpm以上の)高速になっても、図10のグラフに示すように加速度は0.5G程度に抑えられるから、偏心回転機構10ひいては洗浄装置1の振動が最小限に抑えられ、洗浄装置本体5はスムーズに旋回円運動する。
【0034】
以上に、本発明に係る高圧水噴射洗浄装置に適用した回転駆動軸間距離の自動調整装置について一実施例を示したが、これらに限定されるものではなく、たとえば、下記のように実施することができる。
【0035】
・図7(a)に示すように、一方の偏心回転機構10Lを支持体21に固定し、他方の偏心回転機構10Rはその上下両面を支持体22に対し複数のローラ18・19を介して移動可能とし、偏心回転機構10Rの移動に抵抗するようにスプリング9を取り付けてもよい。
【0036】
・上記実施例の装置のように2台のサーボモータ17を備える代わりに、図7(b)に示すように、サーボモータ17を一方にだけ備えて、他方の回転駆動軸15に伝動ベルトなどで駆動力を伝達させて駆動する構造にすることができる。
【0037】
・上記実施例では、一方の偏心回転機構10Rを板バネ9で挟持して移動可能に構成するか、あるいはコロやローラを使用して移動可能に構成したが、車輪やボールベアリングなどの他の転動機構を介して移動可能に構成してもよい。なお、転動機構には、偏心回転機構10Rが微小距離ずつ繰り返し移動(微振動)した際にも摩耗しないものを使用するのが望ましい。
【0038】
・上記実施例では、偏心回転機構10Rの移動を板バネ9の付勢力に抗して許容するようにしたが、板バネ9に限らずコイルスプリングなどの他のバネ機構、あるいは流体圧シリンダを使用することができる。
【0039】
・上記洗浄装置1では、洗浄対象物を水平に移動させながら高圧水を噴射させて洗浄するようにしたが、洗浄対象物の配置は水平状態から垂直(鉛直)状態まで対応可能である。
【0040】
・上記実施例では本発明に係る回転駆動軸間距離の自動調整装置を、高圧水噴射洗浄装置に適用した場合について説明したが、高圧水噴射洗浄装置へ適用する場合だけに限定されるものではないことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えた高圧水噴射洗浄装置の実施例を示す、一部を断面で表した正面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の左側面図である。
【図4】図4(a)は図1の向かって左側の偏心回転機構とその近傍を拡大して示す正面図、図4(b)は同左側面図である。
【図5】図5(a)は図1の向かって右側の偏心回転機構とその近傍を拡大して示す正面図、図5(b)は同平面図、図5(c)は回転軸偏心部と上下の回転軸とを取り出して概略的に示す説明図、図5(d)は図5(c)の平面図である。
【図6】本発明に係る回転駆動軸間距離の自動調整装置を概略的に表した平面視説明図である。
【図7】図7(a)は本発明に係る回転駆動軸間距離の自動調整装置の別の実施例を示す正面図、図7(b)は本発明に係る回転駆動軸間距離の自動調整装置のさらに別の実施例を示す平面図である。
【図8】図8(a)・(b)はそれぞれ回転駆動軸間距離の変動が発生する要因を概念的に示す平面視説明図である。
【図9】図9(a)〜(c)は運転中に回転駆動軸間の距離が変動する発生要因を表す説明図で、図9(a)・(b)は平面図、図9(c)は正面図である。
【図10】本発明に係る回転駆動軸間距離の自動調整装置の有無による、装置に発生する加速度(振動)の大きさの差異を加速度と回転数との関係で表すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 高圧水噴射洗浄装置
2 機枠
3 支柱
3c支持板
3d・3eボルト
4 横桁(支持体)
5 洗浄装置本体(装置本体)
6 ホルダー
7 高圧水噴射ノズル
8 取付ブラケット
9 板バネ(スプリング)
10 偏心回転機構
10L左側の偏心回転機構
10R右側の偏心回転機構
10aハウジング
10b・10cボルト
10dカバー
12 軸受ハウジング(軸受ハウジング部・軸受部)
13 軸受
14 回転軸偏心部
15 回転軸(偏心回転軸)
16 軸受
17 サーボモータ
17a回転駆動軸
18 コロ(ローラ)
19 ローラ
25 カウンタウエイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期してそれぞれ駆動装置にて回転する左右一対の偏心回転機構により、両偏心回転機構間に跨って配置される装置本体を旋回円運動する旋回円運動装置において、
前記偏心回転機構のうち一方の偏心回転機構を定位置に固定するとともに、
他方の偏心回転機構を、前記一方の偏心回転機構により前記装置本体を介して他方の前記偏心回転機構に対し作用する反力による水平方向への変位を許容できるように支持したことを特徴とする回転駆動軸間距離の自動調整装置。
【請求項2】
前記他方の偏心回転機構を、水平方向に移動可能に配置するか、あるいは複数の車輪、コロ、ローラあるいはボールベアリングを介して水平方向に移動可能に配置するかするとともに、前記偏心回転機構の周囲を略方形のハウジングで同偏心回転機構と一体的に移動可能に囲繞し、
前記ハウジングの両側面を少なくとも一対の板バネの一端部間で挟持し、前記各板バネの他端部をそれぞれ定位置に固定した支持体に連結した請求項1に記載の回転駆動軸間距離の自動調整装置。
【請求項3】
前記旋回円運動装置が、洗浄対象物を洗浄装置本体に対し一定速度で移動させながら、前記洗浄装置本体の高圧水噴射ノズルから高圧水を前記洗浄対象物に噴射させて洗浄する高圧水噴射洗浄装置に配備され、
前記洗浄装置本体が洗浄対象物を横切る長さ以上の長さを有するホルダーを備え、そのホルダーの一面に複数の高圧水噴射ノズルを前記洗浄対象物に向けかつ相互に間隔をあけて配列し、前記ホルダーの両側端部を、それぞれ前記偏心回転機構により偏心回転可能に支持するとともに、前記回転駆動軸を駆動装置にて回転させることにより前記洗浄装置本体が旋回円運動するように構成し、
前記各高圧水噴射ノズルに高圧水を供給し、前記洗浄装置本体に対し一定速度で移動する前記洗浄対象物に対し旋回円運動する各高圧水噴射ノズルから高圧水を噴射させるようにした請求項1または2に記載の回転駆動軸間距離の自動調整装置を備えた高圧水噴射洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−133522(P2010−133522A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311337(P2008−311337)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(308007505)カワサキプラントシステムズ株式会社 (51)
【Fターム(参考)】